説明

水晶体及びその製造方法

【課題】 紫外線光によって透過率の低下しない水晶体が求められていた。
【解決手段】 本発明は、Al(アルミニウム)とOH基を含む水晶体であって、前記Alの濃度値と前記OH基の濃度値とが、(OH基濃度/Al濃度値)=2となる直線と、Al濃度値が1ppm以下となるAl濃度許容範囲とOH基濃度値が60ppm以下となるOH基濃度許容範囲とで囲まれた領域にあり、この状態で前記Alと前記とが結合している水晶体により、紫外線光により透過率低下しない水晶体を実現している。またその製造方法を提供している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光線のもとで使用するのに適した水晶体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や電子部品の製造に用いられる微細加工や医療機器において紫外線光を使用するものが多くなってきている。真空紫外光と呼ばれる波長200nm以下のArFエキシマレーザ光(193nm)やF2エキシマレーザ光を使用して微細加工に使用されてきている。波長が短いため従来の光に比べ微細なものの加工に適している。紫外線光を使用する際のレンズなどでは、ガラスや石英ガラスが使用されているが、物理的、化学的に安定した特性を持つ水晶結晶体が適している。水晶結晶は人工的に成長されたものを利用するが、不純物を含むものを使用しないと紫外線光の透過率が悪く、また紫外光によって劣化する。
そこで純度の高い水晶を使用するが、アルミニウム(Al)とOH基を取り除くのは困難であるため、これを少なくすることが求められていた。
【0003】
しかし、全くアルミニウムやOH基をなくすことは困難である。アルミニウムやOH基があっても耐紫外線に強い水晶体を提供することを目的としている。
【0004】
従来は、水熱合成法による人工水晶を使用するため、AlとOH基は少なくできるものの、特にOH基は水の中で合成するため、取り除くことは困難である。
そこでAlやOH基があっても紫外光による劣化透過率が低下しない水晶体が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】D.M.Dodd D.B.Fraser:The American Mineralogist Vol.52 pp149-(1967)
【非特許文献2】Ann.Chem.SciMat,2001,26,pp11-17 なお出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に代表例として波長140〜300nmで測定した真空紫外透過率測定の結果を示す。水晶体はγ(ガンマ)線などの放射線を照射すると150nm付近の透過率が劣化する。図2の実線が放射線照射(γ線、X線、中性子線等)前であり、点線は水晶体に放射線を照射した後に測定した真空紫外透過率測定結果を示す。この水晶体はγ線を照射した後に150nm付近の透過率が低下している。
図3の水晶体は、Al濃度1.83ppmでOH濃度が2.9ppmであり、Al濃度とOH濃度のモル比が2.6であり、この水晶体ではγ線照射後に150nm付近の透過率が低下している。
また図4に示す水晶体では、Al濃度が5.3ppm、OH濃度が6.4ppmであり、Al濃度とOH濃度のモル比が1.9であり、γ線照射後に150nm付近の透過率はさらに低下している。
本発明が解決しようとする課題は、AlやOH基が含まれていても一定の条件下で作られた水晶体は紫外線光によって照射されても透過率が低下しない水晶体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Al(アルミニウム)とOH基を含む水晶体であって、前記Alの濃度値と前記OH基の濃度値とが、(OH基濃度/Al濃度値)=2となる直線と、Al濃度値が1ppm以下となるAl濃度許容範囲とOH基濃度値が60ppm以下となるOH基濃度許容範囲とで囲まれた領域にあり、この状態で前記Alと前記とが結合している水晶体である。
また上記水晶体の製造方法として、スウェプト処理または放射線を照射している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、半導体製造プロセス等で使用される紫外線光による劣化により透過率低下のない水晶体を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。
本発明で説明する水晶体は人工水晶であり、水熱合成法によって作られるものである。
図2は、水晶体に含まれるAl濃度が0.03ppmでOH濃度が2.2ppmで、Al濃度とOH濃度のモル比が約100のときの透過率のグラフを示している。これによればγ線の照射なしに比べ照射がある方が透過率は良くなっている。
これは水晶体に含まれるOH基がγ線照射によって結合が切断され、OH基またはH(水素)が150nm付近の透過率低下させる欠陥の修復に使われたためと考えられる。この水晶体のようにOH濃度がAl濃度に対して少ないとγ線により結合が切断されたOH基自身またはHは、そのほとんどがAlとの結合に使われてしまい、150nm付近で透過率を低下させる欠陥の修復に使われない。
【0010】
ここで水晶体中のAlはSiの置換型不純物で、電荷補償としてNa,Liなどのアルカリ金属を引き込んで入る。Al付近のアルカリ金属はγ線により容易に結合が切れ、Alは、Al−OHとAl−holeになることが知られている。
この関係を下記に示す。
c(Al−M) → x(Al−OH) + y(Al−hole)
c=x+y
M=Na,Li,K
このとき、Al−OHのHは、as−grownOHから供給されている。as−grownOHとAl−OHは、赤外吸収において確認することが出来る。また、Al−holeは、ESR(電子スピン共鳴装置)で確認することが出来る。
ここの例で示す水晶体のようにAl濃度に対してOH濃度が極めて多いと、ガンマ線によって切断されたas−grownOHのHと十分結合して、
c(Al−M) → x(Al−OH) c=x
となり、残ったHは、150nm付近で透過率低下させる欠陥の修復に使われる。水晶中のHは、Oと極めて結合しやすいことがわかっており、その証拠として水晶体中には様々な形でOHが存在する。
真空紫外光を照射しても150nm付近で透過率を低下させないようにするには、γ線照射によってas−grownOHを切り離し真空紫外光で切断された箇所を修復させればよい。
【0011】
そこで本発明では、真空紫外光で切断された箇所を修復させるためにはH(水素)を空気中またはH2中でスウェプト(SWEPT)処理によって水晶体にドープして効果が得られる。
なお本発明のOH基濃度は非特許文献1で提示したDoddの式
wt% H−bonded OH=0.01α (α=3500cm−1の赤外吸収係数)によって求めている。
現状、水晶体中のHを測定する妥当な方法がないために、Doddの式によってOH濃度を決定した。
なお非特許文献2にあるように、OH濃度の求め方があり、国際電気規格(IEC)では吸収係数(α値)でグレード分けを行っている。
本発明においてOH濃度が60ppm以下と規定しているが、これは国際電気規格(IEC60758−1993)で定められているCグレードに相当するものである。これ以上のOH濃度のものは、特性としていい結果は得られない。
また図には示さないが、Al濃度0.8ppm、OH濃度2.2ppmで、Al濃度とOH濃度のモル比で2.7のときも図2のときと同様にγ線照射前よりも照射後の方が150nm付近における透過率を上げることができた。
なお本発明における不純物濃度は、ICP及びICP−MSにより行い、OH濃度は日本分光株式会社製のIR−700を用いて鏡面加工したYカット水晶の10.0mmのサンプルで赤外吸収係数を測定している。またγ線照射は、60Coで5×2.58×102C/Kg(5MR)照射している。
【0012】
上記前提によって、本発明では、図1に本発明の水晶体のAl濃度とOH濃度との関係を示す使用範囲を示している。
図1において縦軸をOH濃度、横軸をAl濃度としAl濃度1ppm以下の領域とOH濃度6ppm以下の領域と、OH濃度/Al濃度が2となる直線より上の領域において、本願発明の目的を果たすことが出来る。
本発明ではAl濃度とOH濃度との関係を明らかにし、不純物であるAl濃度とOH濃度を適正化して処理することによって、耐紫外線特性を向上させることが出来た。水晶の製法として水熱合成法でOH基を皆無にすることは不可能であり、「OH基が水晶体の機械的損失と関連がある」(JISC6704)ことからAlとOHを結合させることによって、実現している。
【0013】
本発明の水晶体の製造方法では、AlとOHの結合させる手段として、対象となる水晶体を空気中または水素中において、スウェプト処理をしている。スウェブト処理は、公知な方法によって高温下において直流高圧電圧をかけることによる。
また他の方法としてAlとOHを結合させるため、対象の水晶体に放射線であるγ線、X線、中性子線等を照射することにより実現している。
このようにAlとOHとを結合させるために一定の外部エネルギーを必要としている。AlとOHを結合するための外部エネルギーは他のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、紫外線を使用するレンズやフィルタに使用する際に、紫外線によって劣化することなく使用できる。また物理的にも安定した特性となっており、他の用途の水晶体として使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の水晶体の透過率の使用範囲を示す図である。
【図2】図2は、Al濃度とOH濃度を適正化したときにγ線を照射した前後の透過率を示すグラフである。
【図3】図3は、従来の水晶体のγ線照射前後の透過率を示すグラフである。
【図4】図4は、従来の水晶体のγ線照射前後の透過率を示すグラフである。
【図5】図5は、一般的な水晶体の波長を変えたときの透過率の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al(アルミニウム)とOH基を含む水晶体であって、前記Alの濃度値と前記OH基の濃度値とが、(OH基濃度/Al濃度値)=2となる直線と、Al濃度値が1ppm以下となるAl濃度許容範囲とOH基濃度値が60ppm以下となるOH基濃度許容範囲とで囲まれた領域にあり、この状態で前記Alと前記とが結合していることを特徴とする水晶体。
【請求項2】
Al(アルミニウム)とOH基を含む水晶体の製造方法において、前記Alの濃度値と前記OH基の濃度値とが、(OH基濃度/Al濃度値)=2となる直線と、Al濃度値が1ppm以下となるAl濃度許容範囲とOH基濃度値が60ppm以下となるOH基濃度許容範囲とで囲まれた領域にある水晶体に、空気中または水素雰囲気中でスウェプト処理することを特徴とする水晶体の製造方法。
【請求項3】
Al(アルミニウム)とOH基を含む水晶体の製造方法において、前記Alの濃度値と前記OH基の濃度値とが、(OH基濃度/Al濃度値)=2となる直線と、Al濃度値が1ppm以下となるAl濃度許容範囲とOH基濃度値が60ppm以下となるOH基濃度許容範囲とで囲まれた領域にある水晶体に、放射線(γ線、X線、中性子線等)を照射することを特徴とする水晶体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−126337(P2007−126337A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321598(P2005−321598)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】