説明

水晶振動子の製造方法

【課題】本発明は、高精細で高精度のアライメントマークを形成し、そのアライメントマークを利用して寸法精度が良好な水晶振動子を製造することで、発振周波数のばらつきが少なく安定した振動特性を有する信頼性の高い水晶振動子を提供することが目的である。
【解決手段】水晶基板の表裏両面にフォトリソグラフィー法によって所定のパターンを形成する工程と、所定のパターンを位置合わせするために用いるアライメントマークを形成する工程とを有する水晶振動子の製造方法において、アライメントマークは、水晶基板の一方の平面から水晶基板の内部を通って対向する他方の平面に向かう光路で照射されるレーザー光を用いた加工によって形成され、さらにそのレーザー光は、水晶基板の平面に対してほぼ垂直な角度をなす光路で照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振器やジャイロセンサ等に利用され、発振周波数のばらつきが少なく安定した振動特性を有する信頼性の高い水晶振動子を製造するための製造方法に関する。

【背景技術】
【0002】
水晶発振器やジャイロセンサに利用される水晶振動子は、一般的に以下に示すような工程を経て製造される。図6は一般的な水晶振動子の製造方法を示した図である。図6に示すように一般に水晶振動子は、水晶基板100に所望の形状の水晶片10を形成する水晶片形成工程(図6(a))、水晶基板100から切り出した水晶片10上に、水晶片10を発振させるための電極20を形成する電極形成工程(図6(b))、電極20が形成された水晶片10をパッケージ30に実装し、さらに蓋部材40によって水晶片10を密閉するパッケージング工程(図6(c))によって製造される。こうした製造工程の中で、特に図6(a)に示す水晶片形成工程は、水晶振動子の振動特性に大きな影響を及ぼす水晶片10の外形形状を形成する工程であり、非常に重要な工程である。すなわち逆に言えば、水晶片10を微細に且つ高精度に形成することができれば、振動特性に優れ且つ安定した振動特性を有する水晶振動子を製造することが可能になる。
【0003】
従来、水晶基板100に水晶片10を形成する工程には、切削加工法、サンドブラスト法、エッチング法等が用いられてきた。中でも水晶基板100を化学的に溶解させて加工するエッチング法は、微細で高精度な加工が可能であることから、小型で高性能な水晶振動子を製造するのに適しており、近年ではエッチング法を用いて水晶片10を形成する場合が多い。
【0004】
以下に従来のエッチング法による水晶片形成工程の一例を説明する。図7は従来のエッチング法による水晶片形成工程の前半を示した図である。図8は従来のエッチング法による水晶片形成工程の後半を示した図である。
【0005】
最初に、図7(a)に示すように、水晶基板110の両面にマスク層211及び212をそれぞれ成膜し、さらにマスク層211の上には感光性材料であるレジスト層311を形成し、マスク層212の上には感光性材料であるレジスト層312を形成する。
【0006】
マスク層211、212は、後の工程で行われる水晶基板110のエッチング工程に用いられるエッチング液に対して、耐食性を有する材料でなくてはならず、一般には金(Au)や白金(Pt)等の金属材料をマスク層211、212として用いることが多い。
【0007】
次に、図7(b)に示すように、水晶基板110に平行に、露光マスク410及び420を配置して両方向から露光を行い、紫外光(UV60)によってレジスト層311及び312の所定部分のみを感光させる。
【0008】
なお、この露光工程において、露光マスク410に描画されているアライメントマークm1と露光マスク420に描画されているアライメントマークm2が同じ位置になるように合わせることによって、水晶基板110の一方の平面に露光されるパターンと他方の平面に露光されるパターンを位置合わせすることができる。
【0009】
しかしながら、図7(b)に示すように、露光マスク410のアライメントマークm1と露光マスク420のアライメントマークm2の間には、Au等からなるマスク層211
、212で覆われた水晶基板110がお互いを遮るようにして配置されるため、直接、アライメントマークm1とアライメントマークm2を視認しながら位置合わせすることはできない。よって、従来は水晶基板110の両方の面上にそれぞれカメラ70を配置して、カメラ70で撮影したアライメントマークm1とアライメントマークm2の画像を視認して位置合わせを行っていた。
【0010】
このようにして露光した後、専用の現像液を用いてレジスト層311及び312を現像し、さらにエッチング液を用いてマスク層211及び212をエッチングすることによって、図8(a)に示すようなパターン化されたレジスト層301、302及びマスク層201、202が形成される。
【0011】
さらに一般的には、図8(b)に示すようにレジスト層301、302を剥離して、水晶基板110の両面にマスク層201、202が形成されている状態にするが、必ずしもこの工程は必須というわけではない。工程を簡略化するために、この工程を経ずに次の図8(c)の工程に進める場合もある。
【0012】
その後、図8(c)に示すように、マスク層201及びマスク層202をマスクとして利用しながらエッチングを行い、マスク層201、202のパターンを転写した水晶基板100を形成する。
【0013】
最後に、図8(d)に示すように、マスク層201及びマスク層202を除去して、所定の外形形状の水晶片10を備える水晶基板100が完成する。なおこの時、アライメントマークm1、m2を転写した部分は、アライメントマーク痕100aとして水晶基板100上に残る。図8(d)は図6(a)におけるA−A断面を示している。
【0014】
水晶片形成工程としては、この他に、水晶基板の一方の平面にパターン化したマスク層と他方の平面側に配置した露光マスクを位置合わせするパターニング方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0015】
図9は従来の一方の平面のマスク層と他方の平面の露光マスクを位置合わせするパターニング方法の前半を示した図である。図10は従来の一方の平面のマスク層と他方の平面の露光マスクを位置合わせするパターニング方法の後半を示した図である。
【0016】
このパターニング方法によれば、まず図9(a)に示すように、水晶基板110の一方の平面の全面にマスク層211を形成し、水晶基板110の他方の平面には部分的にマスク層213を形成する。さらに、マスク層211上にはレジスト層311を形成する。
【0017】
次に、図9(b)に示すように、露光マスク410を介してレジスト層311に紫外光(UV60)を照射し、レジスト層311の露光を行う。なおマスク410にはアライメントマークm1が描画されており、本工程によって、アライメントマークm1のパターンも他のパターンと一緒に露光される。
【0018】
次に、図9(c)に示すように、レジスト311を現像して、露光マスク410を転写した形状でパターン化されたレジスト層301を形成する。
【0019】
その後、レジスト層301をマスクとして使用し、マスク層211をエッチングして、
所定の形状でパターン化されたマスク層201を形成する。さらに、レジスト層301を剥離することによって、図9(d)に示すような、水晶基板110の一方の平面にパターン化されたマスク層201が形成され、他方の平面にまだパターニングされていないマスク層213が形成された状態に至る。なお本工程で、マスク層201には、露光マスク
410に描画されたアライメントマークm1を転写したアライメントマークM1が形成されることとなる。
【0020】
さらにその後、図10に示すように、マスク層213が形成されている面側にレジスト層312を形成し、そのレジスト層312に露光マスク420を介して紫外光(UV60)を照射し、レジスト層312の露光を行う。
【0021】
従来のこの方法では、本工程において、マスク層201に形成されるアライメントマークM1と露光マスク420に描画されるアライメントマークm2を、一方の面側に配置したカメラ70を通して視認しながら位置合わせして露光するのが特徴である。カメラ70を一台しか使用しないので、簡略で安価な装置構成にすることができると言う利点がある。なお、レジスト層312は透明材料もしくは半透明材料であるので、レジスト層312を介してアライメントマークm2を視認することは可能である。
【0022】
さらに、露光マスクのアライメントマークの位置を、水晶基板の外形よりも外側に配置させて、2枚の露光マスクを位置合わせするパターニング方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0023】
図11は従来の露光マスクのアライメントマークの位置を水晶基板の外形よりも外側に配置させて位置合わせするパターニング方法を示した図である。
【0024】
このパターニング方法では、図11に示すように、水晶基板110はマスクよりも小さく形成されており、そのため、露光マスク410に描画されているアライメントマークm1、露光マスク420に描画されているアライメントマークm2は、水晶基板110の外形よりも外側に位置している。
【0025】
両面にマスク層211、212及びレジスト層311、312が形成された水晶基板110を挟み込むようにして露光マスク410、420を配置すると、通常の場合、不透明なマスク層211、212があるため、露光マスク410側からは露光マスク420は視認できず、同様に露光マスク420側からは露光マスク410は視認できない。
【0026】
しかしながら、図11の場合、アライメントマークm1とm2の間には何も存在しないので、カメラ70で露光マスク410側から覗けば、露光マスク410の奥にある露光マスク420のアライメントマークm2を視認することが可能である。これにより本露光方法では、一台のカメラ70でアライメントマークm1とm2を位置合わせしながら、且つ水晶基板110の両面をUV60で同時に露光することが可能となる。
【0027】
【特許文献1】特開平9−43860号公報(第2頁、図2)
【特許文献2】特開2004−7198号公報(第8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従来の二台のカメラ70の画像を通して位置合わせを行う露光方法(図7(b))の場合、各々のカメラ70の倍率、光量、レンズ収差の違いや光軸のズレが、位置合わせ精度に悪影響を及ぼし、安定して高い精度で位置合わせすることは難しかった。その位置合わせ精度は、最大の場合、数μmの位置ずれを生じさせることもあった。
【0029】
そのため、図8(b)に示すように水晶基板110の一方の平面に形成されたマスク層
201と他方の平面に形成されたマスク層202は位置ずれを起こした状態で形成されることが多く、その結果エッチングされてできた水晶基板100は、図8(d)に示すように、断面が上下非対称のいびつな形状にできあがってしまう。
【0030】
このようないびつな断面形状を有する水晶基板100から切り出された水晶片10は、設計通りには振動しない。よって、この水晶片10を用いて製造された水晶振動子も、当然のごとく設計通りの発振周波数にはならない。その結果、従来の水晶振動子は振動特性の信頼性が低かった。
【0031】
水晶基板の一方の平面にパターン化したマスク層201と他方の平面側に配置した露光マスク420を位置合わせする露光方法(図10)や、露光マスクのアライメントマークの位置を水晶基板の外形よりも外側に配置させて位置合わせする露光方法(図11)の場合、カメラ70は一台だけしか使用しないので、上述のようなカメラ70の倍率、光量、レンズ収差の違いや光軸のズレによる悪影響を無くすことができる。
【0032】
但し、図10に示すマスク層201に形成されたアライメントマークM1と露光マスク420上のアライメントマークm2の間隔、さらに図11に示す露光マスク410上のアライメントマークm1と露光マスク420上のアライメントマークm2の間隔は、少なくとも水晶基板110の厚み以上の距離で離れているので、それぞれのアライメントマークを位置合わせするには、同時に2つのアライメントマークを視認することが可能な焦点深度の深いカメラ70を使用する必要がある。
【0033】
しかしながら、通常、焦点深度が深くなればなるほど、カメラ70の倍率を高くすることは難く、そのため従来は、水晶基板110の厚みが厚くなればなるほど、低倍率のカメラ70を用いらざるを得なかった。よって、これら露光方法を用いても高い精度で位置合わせを行うことは難しかった。
【0034】
その結果、図10、図11に示すこれら露光方法を用いても、図8(d)に示すような断面がいびつな形状の水晶片10ができあがってしまうことは多々あり、高い信頼性を有する水晶振動子を製造するには至らなかった。
【0035】
本発明の目的は、発振周波数のばらつきが少なく安定した振動特性を有する信頼性の高い水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記課題を解決するために、本発明の水晶振動子の製造方法は、水晶基板の表裏両面にフォトリソグラフィー法によって所定のパターンを形成する工程と、前記所定のパターンを位置合わせするために用いるアライメントマークを形成する工程とを有する水晶振動子の製造方法において、このアライメントマークは、水晶基板の一方の平面から水晶基板の内部を通って対向する他方の平面に向かう光路で照射されるレーザー光を用いた加工によって形成されることを特徴としている。
【0037】
さらに、レーザー光は、水晶基板の平面に対してほぼ垂直な角度をなす光路で照射されるのが望ましい。
【0038】
さらに、水晶基板の表裏両面に、レーザー光を吸収する材料で且つ水晶基板のエッチングに耐性を有する材料からなるからなるマスク層を形成し、このマスク層が加工されてアライメントマークが形成されるのが望ましい。
【0039】
さらには、レーザー光がフェムト秒レーザーであるのが望ましい。
【0040】
また、水晶基板が加工されてアライメントマークが形成されるのが望ましい。
【0041】
(作用)
本発明の水晶振動子の製造方法は、水晶基板の表裏両面にフォトリソグラフィー法によって所定のパターン、例えば水晶片の外形パターン、水晶振動子に形成される溝パターン、水晶振動子の電極パターン等、を形成する工程を有する水晶振動子の製造方法に関している。
【0042】
これらパターンによって、水晶片の外形形状、水晶振動子に形成される溝形状と位置、水晶振動子の電極形状と位置等が決定される。特に水晶片の外形パターンは、水晶振動子の振動特性に大きく影響することが一般に知られている。以上の理由から、これらパターンの加工精度は、水晶振動子の特性を安定化させる上で、非常に重要である。
【0043】
通常、例えば水晶基板の表裏両面に外形パターンを形成する場合、一方の平面(表面)の外形パターンと他方の平面(裏面)の外形パターンを、基準となるアライメントマークを用いて位置合わせする。よってこの基準となるアライメントマークをいかに精度良く形成するかが非常に重要となる。
【0044】
本発明では、この基準となるアライメントマークを、レーザー光を用いた加工によって形成する。レーザー光を用いた加工は、一般にレーザーアブレーション加工法と呼ばれ、非常に小さいビーム径で絞られたレーザー光で素材を加工する方法である。よってこの加工法によれば、非常に微細な形状で加工することができるため、高精細で精度の良いアライメントマークを形成することが可能である。
【0045】
また本発明では、レーザー光は水晶基板の一方の平面から水晶基板内を通って対向する他方の平面に向かう光路で照射される。アライメントマークはこの光路上でレーザー加工が行われることで形成される。よってレーザー光の光路の位置や角度が明確にわかれば、水晶基板の表裏面に形成されるアライメントマークの位置を正確に特定することができるのである。
【0046】
特に、この光路が水晶基板の平面に対してほぼ垂直な角度になるようにしてレーザー光を照射すれば、表裏両面の同じ位置にアライメントマークを形成することが可能となる。
【0047】
なお、レーザー光にフェムト秒レーザーを用いることで、ナノメートルレベルの加工が可能となり、より高精細で、且つより精度の高いアライメントマークを形成することができる。
【0048】
また本発明では、水晶基板の表裏両面に、レーザー光を吸収する材料で且つ水晶基板のエッチングに耐性を有する材料からなるマスク層を形成する。一般にレーザー光を吸収する材料はレーザー加工が可能とされているので、マスク層にレーザー光でアライメントマークを形成することが可能である。また、このアライメントマークが形成されたマスク層は、水晶基板のエッチングに耐性を有しているので、このマスク層をマスクとして利用し、水晶基板をエッチングすることも可能である。このように本発明のマスク層は、位置合わせ工程にも水晶基板のエッチング工程にも利用できると言う利点を有する。
【0049】
また、レーザー光にフェムト秒レーザーを用いることで、通常、レーザー光では加工することができない水晶基板自体を加工することができる。よって水晶基板にアライメントマークを形成することも可能である。水晶基板自体にアライメントマークが形成されていれば、水晶振動子の外形加工以外にも、溝形成工程や電極形成工程などすべての工程に同
一のアライメントマークを利用でき、水晶振動子の加工精度がより向上する。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、高精細で高精度のアライメントマークを形成し、そのアライメントマークを基準に水晶振動子の加工を行うため、寸法精度が良好な水晶振動子を製造することができ、その結果、発振周波数のばらつきが少なく安定した振動特性を有する信頼性の高い水晶振動子を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
(第1の実施形態)
水晶発振器やジャイロセンサに利用される水晶振動子は、図6に示すように、水晶基板100に所望の形状の水晶片10を形成する水晶片形成工程(図6(a))、水晶基板100から切り出した水晶片10上に、水晶片10を発振させるための電極20を形成する電極形成工程(図6(b))、電極20が形成された水晶片10をパッケージ30に実装し、さらに蓋部材40によって水晶片10を密閉するパッケージング工程(図6(c))によって製造される。
【0052】
こうした製造工程の中で、特に図6(a)に示す水晶片形成工程は、水晶振動子の振動特性に大きな影響を及ぼす水晶片10の外形形状を形成する工程であり、非常に重要な工程である。
【0053】
本発明による水晶振動子の製造方法は、この水晶片形成工程において、水晶片10を微細に且つ高精度に形成することを特徴としている。
【0054】
図1は本発明の水晶振動子の製造方法におけるマスク層へのアライメントマークの形成工程を示した図である。図2は本発明の水晶振動子の製造方法における露光工程を示した図である。図3は本発明の水晶振動子の製造方法におけるマスク層の現像工程以降の工程を示した図である。
【0055】
以下に本発明の水晶振動子の製造方法を説明する。まず、水晶基板110の両面にレーザー光を吸収する材料で且つ水晶基板110のエッチングに耐性を有する材料からなるマスク層211、212を形成する。本実施形態では、表面がポリッシング加工された板厚が160μmの水晶基板110の両面に、スパッタリング法によって、下層が厚さ0.03μmのクロム(Cr)膜、上層が厚さ0.1μmの金(Au)膜からなる積層構造のマスク層211、212を成膜した。
【0056】
次に図1(a)に示すように、マスク層211、212が形成された水晶基板110の一方の平面側からマスク層211に向けて、水晶基板110の平面に対してほぼ垂直な角度で、レーザー光50を照射する。なお、本実施形態ではレーザー光50として炭酸ガス(CO2)レーザーを使った。
【0057】
すると、レーザー光50を吸収するAuとCrからなるマスク層211は、レーザー光50によって加工され、その結果、貫通穴を有するマスク層221が形成されることとなる(図1(b))。
【0058】
さらに、レーザー光50を照射し続けると、図1(b)に示すように、レーザー光50は、マスク層221にあけられた貫通穴を通過して、反対側の平面にあるマスク層212に届く。その結果、レーザー光50を吸収するAuとCrからなるマスク層212は、レーザー光50によって加工され、水晶基板110の反対側の平面にも、貫通穴を有するマスク層222が形成されることとなる(図1(c))。
【0059】
本実施形態に示す本発明の水晶振動子の製造方法では、このマスク層221、222にあけられた貫通穴をアライメントマークM1、M2として利用するのが特徴である。このようにレーザー光50によって加工されてできたマスク層221、222の貫通穴は、いずれも数ミクロン程度の大きさで、非常に微細なパターンであるので、アライメントマークM1、M2として利用するのに非常に適している。
【0060】
このアライメントマークM1、M2はレーザー光50によって加工されてできるため、どちらもレーザー光50の光路上に必ず存在するものである。よって、このアライメントマークM1とM2の位置関係は、レーザー光の光路の位置や角度がわかれば、正確に特定することが可能である。アライメントマークM1とM2の位置関係を正確に特定できていれば、その位置関係を考慮して位置合わせすればよく、精度の高い位置合わせが可能である。
【0061】
なお本実施形態では、上述のように、本実施形態ではレーザー光50を水晶基板110の平面に対してほぼ垂直な角度で照射している。よってレーザー光50の光路は水晶基板110の平面に対して垂直な角度をなしている。
【0062】
よって水晶基板110の平面に対して垂直な角度をなす光路上にある本実施形態のアライメントマークM1、M2は、水晶基板110の表裏両面の同じ位置に形成されていることとなる。よって、このアライメントマークM1、M2を基準にして位置合わせを行えば、表裏のパターンを正確に合わせることができる。
【0063】
なお、本実施形態ではレーザー光50の光路を水晶基板110に対してほぼ垂直な角度に設定したと上述したが、ほぼ垂直な角度とは、水晶基板110に対して90°±1°程度の角度である。本実施形態の水晶基板の板厚が160μmであることを考慮すると、これ以上の角度で光路が傾いてしまうと、アライメントM1、M2の位置ずれが数μm以上になってしまい、従来行われていた製造方法における位置ずれと同等もしくはそれ以上になってしまうからである。
【0064】
よって本発明の効果、すなわちアライメントマークM1、M2の位置ずれが少ないという効果を得るには、レーザー光50の光路を水晶基板110に対して90°±1°程度の角度にするのが望ましい。
【0065】
次に、このようにして形成されたアライメントマークM1、M2を用いて、フォトリソグラフィー工程を行う。まず、図2(a)に示すように、マスク層221、222が形成された水晶基板110の両面に感光性材料からなるレジスト層311、312を形成し、アライメントマークM1が形成されたマスク層221に対向するようにして露光マスク410を配置し、紫外線(UV60)でレジスト層311を露光する。なお本実施形態では、露光された部分が除去されるポジ型レジストを、レジスト層311、312として使用した。また本実施形態では、マスク層221、222にUV60を透過しないAuとCrの積層膜を用いているので、反対側の平面に形成されているレジスト層312を露光してしまう危険性はまったくない。
【0066】
なお本実施形態で用いる露光マスク410には、位置合わせをするためのアライメントマークm1と水晶片10の片面側の外形形状が描画されており、本工程では、カメラ70で視認しながら、この露光マスク410に描画されたアライメントマークm1を、水晶基板110上に形成されたアライメントマークM1と位置合わせして露光を行う。
【0067】
なおこの時、アライメントマークm1とアライメントマークM1の間隔は近ければ近い
ほど、焦点深度が浅く高倍率のカメラ70を使用することができ、その結果、精度の高い位置合わせが可能となる。特に、露光マスク410をレジスト層311と密着させて露光する方式(一般にコンタクト露光方式と称する。)を用いれば、非常に高い精度でアライメントマークm1とアライメントマークM1を位置合わせすることも可能である。本発明では、このように位置合わせ精度の高いコンタクト露光方式を利用できる点も利点の一つである。
【0068】
次に、図2(b)に示すように、アライメントマークM2が形成されたマスク層222に対向するようにして露光マスク420を配置し、紫外線(UV60)でレジスト層312を露光する。本工程においても、UV60はAuとCrの積層膜からなるマスク層221、222によって遮光されるため、反対側の平面に形成されているレジスト層311を露光してしまう危険性はまったくない。
【0069】
なお本実施形態で用いる露光マスク420には、位置合わせをするためのアライメントマークm2と、水晶片10の片面側の外形形状が描画されている。そこで本工程では、カメラ70で視認しながら、この露光マスク420に描画されたアライメントマークm2を、水晶基板110上に形成されたアライメントマークM2と位置合わせして露光を行う。
【0070】
この時、図2(a)に示す工程と同様に、アライメントマークm2とアライメントマークM2の間隔は近ければ近いほど精度の高い位置合わせが可能である。よって露光マスク420をレジスト層312と密着させて露光する方式(コンタクト露光方式)を用いれば、非常に高い精度でアライメントマークm2とアライメントマークM2を位置合わせすることが可能である。
【0071】
以上のようにして、本発明では、露光マスク410のアライメントマークm1と水晶基板110上のアライメントマークM1、さらに露光マスク420のアライメントマークm2と水晶基板110上のアライメントマークM2を非常に高い精度で位置合わせしている。さらに本発明では、基準となるアライメントマークM1とアライメントマークM2が、図1に示す工程によって、位置ずれなく形成されているので、結果として本実施形態では、露光マスク410のアライメントマークm1と露光マスク420のアライメントマークm2が非常に高い精度で位置合わせされることとなる。
【0072】
なお本実施形態では、図2(a)に示す露光マスク410による一方の平面の露光と、図2(b)に示す露光マスク420による他方の平面の露光を、別々の工程として行ったが、2台のカメラ70を用いて、同時に両面の位置合わせを行い、同時に両面を露光してもかまわない。同時に両面を位置合わせする場合であっても、位置合わせは、アライメントマークm1とアライメントマークM1の組み合わせ、アライメントマークm2とアライメントマークM2の組み合わせでそれぞれ行われるので、位置合わせ精度は良好なままである。
【0073】
次に本実施形態では、図3(a)に示すように、露光されたレジスト層311、312を現像し、水晶片10の外形形状がパターン化されたレジスト層301、302を形成する。なお、後述する図3(e)は図6(a)におけるA−A断面を示している。
【0074】
さらに、図3(b)に示すように、レジスト層301、302をマスクとして利用してマスク層221、222をエッチングし、水晶片10の外形形状がパターン化されたマスク層201、202を形成する。
【0075】
さらに、図3(c)に示すように、レジスト層301、302を剥離液等によって除去すると、水晶基板110の両面にパターン化されたマスク層201、202が形成された
状態に至る。
【0076】
その後、図3(d)に示すように、マスク層201、202をマスクとして利用し、水晶基板110をフッ酸等のエッチング液でエッチングし、マスク層201、202のパターンで貫通した水晶基板100を形成する。なお本実施形態では、マスク層201、202としてエッチング液であるフッ酸に対して耐食性を有するAu膜を利用しているので、水晶基板110のエッチング工程中にマスク層201、202のパターンが崩れることはなかった。
【0077】
最後に、図3(e)に示すように、マスク層201、202を除去し、水晶片10が形成された水晶基板100が完成する。このようにしてできあがった水晶基板100に形成される水晶片10は、非常に精度良く位置合わせされたマスク層201、202によって形成されたものであるので、従来の図8(d)に示すような、断面が上下非対称のいびつな形状にはならず、上下対称で設計通りの断面形状になっている。
【0078】
なお、この時できあがった水晶基板100の元々アライメントマークM1、M2があった場所には、エッチングによって形成されたアライメントマーク痕100aが痕跡として残るが、水晶片10とは異なる場所にあるので、水晶片10を使って製造される水晶振動子の特性に悪影響を及ぼすことはない。
【0079】
以上のようにして、形成された水晶基板100は、図6に示す通常の工程、すなわち、水晶基板100から切り出した水晶片10上に水晶片10を発振させるための電極20を形成する電極形成工程(図6(b))、電極20が形成された水晶片10をパッケージ30に実装し、さらに蓋部材40によって水晶片10を密閉するパッケージング工程(図6(c))を経て、水晶振動子として完成に至る。
【0080】
このようにして製造された本発明の水晶振動子は、上下対称な設計通りの断面形状を有する水晶片10を用いているので、設計通りの良好な振動特性を得ることができる。
【0081】
さらに本発明の製造方法によれば、高い寸法精度で且つ寸法ばらつきの少ない水晶片10を形成できるので、発振周波数が安定した信頼性の高い水晶振動子を得ることができる。
【0082】
(第2の実施形態)
図4は本発明の水晶振動子の製造方法における水晶基板へのアライメントマークの形成工程を示した図である。第2の実施形態では、水晶基板110自身に微細で高精度のアライメントマークM1a、M1bを形成した。以下にその方法を示す。
【0083】
まず図4(a)に示すように、両面をポリッシング加工した水晶基板110を用意し、水晶基板110の表面Fから裏面Bに向けて、水晶基板110の平面に対してほぼ垂直な角度で、フェムト秒レーザー光55を照射する。
【0084】
フェムト秒レーザー55は長短パルスのレーザーで、単位時間あたりのエネルギーが非常に高いため、集光させることによって、通常のレーザーでは加工することができない水晶基板110であっても加工することができることが一般に知られている。
【0085】
本実施形態では、図4(a)に示すように、フェムト秒レーザー55を集光レンズ80によって水晶基板110の裏面B上に集光させた。すると、図4(b)に示すように、水晶基板111の裏面B上が加工され、アライメントマークM2aが形成される。なお、水晶基板111の表面F及び基板内部は、フェムト秒レーザー55が集光していないので加
工されることはない。
【0086】
次に、図4(b)に示すように、集光レンズ80を調整し、水晶基板110の表面F上にフェムト秒レーザー55を集光させた。すると今度は、表面F上が加工され、図4(c)に示すように水晶基板112の表面F上にアライメントマークM1aが形成される。
【0087】
以上のようにして形成されるアライメントマークM1aとM2aはどちらもフェムト秒レーザー55の光路上に形成されるものである。また本第2の実施形態では、フェムト秒レーザー光55を水晶基板110の平面に対してほぼ垂直な角度で照射しており、当然のごとく、その光路は水晶基板110の平面に対してほぼ垂直な角度をなしている。これらのことから鑑みると、アライメントマークM1a、M2aは、水晶基板110の表裏両面の同じ位置に形成されていることとなる。よって、このアライメントマークM1a、M2aを基準にして位置合わせを行えば、表裏のパターンを正確に合わせることができる。
【0088】
水晶振動子を製造するためのこれ以降の工程は、第1の実施形態に示した工程とほぼ同じ工程を進めればよい。
【0089】
すなわち、基準となるアライメントマークM1a、M2aに露光マスク410上のアライメントマークm1と露光マスク420上のアライメントマークm2を位置合わせして露光する工程(図2)、さらに現像、エッチングによって水晶片10が形成された水晶基板100を形成する工程(図3、図6(a))、さらに水晶片10上に水晶片10を発振させるための電極20を形成する電極形成工程(図6(b))、さらに電極20が形成された水晶片10をパッケージ30に実装し、蓋部材40によって水晶片10を密閉するパッケージング工程(図6(c))である。
【0090】
本第2の実施形態によっても、得られる水晶片10は上下対称な設計通りの断面形状を有するので、これを用いて製造される水晶振動子も設計通りの良好な振動特性になる。
【0091】
さらに本第2の実施形態でも、高い寸法精度で且つ寸法ばらつきの少ない水晶片10を形成できるので、発振周波数が安定した信頼性の高い水晶振動子を得ることができる。
【0092】
なお、本実施形態で得られるアライメントマークM1a、M2aは直接水晶基板100に刻まれているので、水晶片10を水晶基板100から折り取らない限り、他の工程に何度でも使用可能である。例えば、アライメントマークM1a、M2aを以下に示すような工程に利用することも可能である。
【0093】
図5は、本発明のアライメントマーク付き水晶基板の利用例を示した図である。図5(a)に示すように、アライメントマークM1aを基準にして電極20を位置合わせすれば、水晶片10に対して非常に精度良く電極20を配線することが可能となり、その結果、振動特性等を安定化させることができる。
【0094】
また図5(b)に示すように、アライメントマークM1aを基準にして所定の部分に精度良く溝90を形成することも可能である。このように精度良く溝90を形成することで振動特性を向上させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の水晶振動子の製造方法におけるマスク層へのアライメントマークの形成工程を示した図である。
【図2】本発明の水晶振動子の製造方法における露光工程を示した図である。
【図3】本発明の水晶振動子の製造方法におけるマスク層の現像工程以降の工程を示した図である。
【図4】本発明の水晶振動子の製造方法における水晶基板へのアライメントマークの形成工程を示した図である。
【図5】本発明のアライメントマーク付き水晶基板の利用例を示した図である。
【図6】一般的な水晶振動子の製造方法を示した図である。
【図7】従来のエッチング法による水晶片形成工程の前半を示した図である。
【図8】従来のエッチング法による水晶片形成工程の後半を示した図である。
【図9】従来の一方の平面のマスク層と他方の平面の露光マスクを位置合わせするパターニング方法の前半を示した図である。
【図10】従来の一方の平面のマスク層と他方の平面の露光マスクを位置合わせするパターニング方法の後半を示した図である。
【図11】従来の露光マスクのアライメントマークの位置を水晶基板の外形よりも外側に配置させて位置合わせするパターニング方法を示した図である。
【符号の説明】
【0096】
10 水晶片
20 電極
30 パッケージ
40 蓋部材
50 レーザー
55 フェムト秒レーザー
60 UV
70 カメラ
80 集光レンズ
90 溝
100、110、111、112 水晶基板
100a アライメントマーク痕
201、202、211、212、213、221、222 マスク層
301、302、311、312、313 レジスト層
410,420 露光マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶基板の表裏両面にフォトリソグラフィー法によって所定のパターンを形成する工程と、前記所定のパターンを位置合わせするために用いるアライメントマークを形成する工程とを有する水晶振動子の製造方法において、
前記アライメントマークは、前記水晶基板の一方の平面から前記水晶基板の内部を通って対向する他方の平面に向かう光路で照射されるレーザー光を用いた加工によって形成されることを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光は、前記水晶基板の平面に対して垂直な角度をなす光路で照射されることを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項3】
前記水晶基板の表裏両面に、前記レーザー光を吸収する材料で且つ前記水晶基板のエッチングに耐性を有する材料からなるからなるマスク層を形成し、このマスク層が加工されて前記アライメントマークが形成されることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光がフェムト秒レーザーであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項5】
前記水晶基板が加工されて前記アライメントマークが形成されることを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−27318(P2009−27318A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186737(P2007−186737)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】