説明

水晶振動子

【課題】等価直列容量C1が大きく、等価直列抵抗ESRが小さいGTカットの水晶振動子を得る。
【解決手段】GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成され、同一の共振周波数を有する複数の水晶板21a,21bと、各水晶板ごとに、その水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続し、その水晶板を枠体に支持する支持部22と、一方の水晶板21aの外周と他方の水晶板21bの外周とを接続してこれらを機械的に結合する接続部材28とを形成する。一方の水晶板21aが第1の方向に伸長しているときに他方の水晶板21bが第1の方向に直交する方向で伸長するように、各水晶板に設けられる励振電極を相互に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GTカットの水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数や時間の基準源として用いられる水晶振動子は、水晶振動子を構成する振動板すなわち水晶板を水晶の単結晶から切り出すときの結晶学的な方位にしたがって、何種類かの“カット”に分類される。水晶振動子を構成する水晶板は水晶片とも呼ばれる。カットが異なれば、水晶板の振動モードも異なってくる。そのようなカットとしては、従来から、例えば、ATカット、SCカットなどが広く知られている。中でもGTカットの水晶板を用いた水晶振動子すなわちGTカットの水晶振動子は、優れた周波数温度特性を有し、周囲温度が変化した場合における共振周波数の変化が非常に小さいので、高精度高安定の水晶発振器への適用などが期待されている。またGTカットの水晶振動子は、その共振周波数が低い場合であっても小型に構成できる、という利点も有する。
【0003】
水晶においては、周知なように、結晶学的にX軸、Y軸及びZ軸の3本の結晶軸が定められている。Y軸に直交する面(すなわち、X軸とZ軸に平行な面)に沿って切り出される水晶板をY板と呼ぶが、Y板をX軸の周りに+51.5°回転させ(すなわちφ=+51.5°)、さらにその板の面内で板を+45°回転させる(すなわちθ=+45°)ことによって形成される水晶板からなるカットがGTカットである。φ及びθは、水晶におけるカット方位を特定するために一般的に用いられるパラメータである。図1は、水晶の単結晶(原石11)からGTカットの水晶板を切り出す際の切断方位12を示している。参考のため、図1には、GTカット以外の代表的なカットの切断方位も示されている。GTカットの水晶板内での方位を指定するために、X軸、Y軸及びZ軸をX軸の周りで上記の+51.5°回転させて得られる軸をそれぞれX’軸、Y’軸及びZ’軸とする。X軸周りの回転であるので、当然のことながらX’軸はX軸に一致する。そして、X’軸及びZ’軸をY’軸の周りでZ’軸からX’軸に向かう方向に45°回転させて得られる軸をそれぞれX”軸及びZ”軸とする。
【0004】
ここでGTカットの水晶板における振動モードを説明する。GTカットの水晶板における振動モードは、X”軸方向の縦振動(伸縮振動)モードとZ”軸方向の縦振動モードとが結合した振動モード(幅・長さ縦結合振動モードともいう)である。2つの縦振動モードが結合した振動モードであるため、従来、GTカットの水晶板は、1対の辺がX”軸に平行となりもう1対の辺がZ”軸に平行になるような長方形あるいは角型の形状にして、水晶振動子における振動板すなわち水晶板として用いられていた。振動板としての水晶板を励振するための励振電極は、水晶板の両方の主面にそれぞれ設けられる。
【0005】
水晶振動子を構成する振動板としてGTカットの水晶板を使用する場合には、水晶振動子の容器の壁面などと接触しないように水晶板を容器内に保持する必要がある。そこで、特許文献1に示されるように、フォトリソグラフィ技術を用いることにより、振動板の本体部分(振動部)とそれに対する支持部とを水晶の板状部材から一体的に形成してしまうことが提案されている。
【0006】
GTカットの水晶板の場合、その振動モードが幅・長さ縦結合振動モードであって幅や長さなどの平面形状やサイズに応じて共振周波数が変化し、かつ、相互に結合する2つの振動モードの振動が両方とも確実に起きるようにしなければならないから、平面形状を任意に設定したり、任意の位置に支持部を配置したりすることはできない。この点で、GTカットの水晶板は、振動モードが厚み滑り振動モードであってその厚さのみによって共振周波数が決定するATカットの水晶板とは異なっている。ATカットの水晶板では、平面形状を任意に設定することができ、平面形状を円形あるいは楕円形とすることができたり、厚み滑り振動での不動点となる位置で水晶板を支持する構成とすることができる。これに対し、長方形状のGTカットの水晶板の場合、その外周部には、一般には、振動変位における不動点は存在しない。振動変位における不動点以外の位置に支持部を設けて水晶板を支持した場合、支持部を設けることによって水晶板の振動が妨げられるおそれがあり、また、支持部の寸法ばらつきが水晶板の振動特性に大きな影響を及ぼす、という課題がある。
【0007】
そこで本発明者らは、特願2011−037086において、GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成された水晶板と、それら2つの縦振動モードが結合したときに水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続して水晶板を支持する支持部と、を有するGTカットの水晶振動子を提案した。
【0008】
図2は、楕円形のGTカットの水晶板を説明する図である。楕円形の水晶板31は、その板面がGTカットにおけるY’軸に直交しており、楕円としての長軸がGTカットにおけるX”軸に一致し、短軸がZ”軸に一致する。その結果、水晶板31は、その振動モードとして、X”軸方向の縦振動モードとZ”軸方向の縦振動モードとが結合し、X”軸方向とZ”軸方向とに交互に伸縮する幅・長さ縦結合振動モードを有することになる。図2においては、伸縮振動の方向が矢印で示されており、振動によって変位した輪郭が破線によって示されている。ただし、説明のために、変位した輪郭は、水晶板31における実際の変位量よりもはるかな大きな変位をしたものとして描かれている。
【0009】
水晶板31の外周部に注目すると、外周の各点において振動変位の大きさが一定しているわけではない。図においてP1〜P4に示す各点において振動変位の大きさが極小となっている。楕円形の水晶板31が、長軸であるX”軸方向と短軸であるZ”軸方向とに交互に伸縮するので、振動変位の大きさが極小となる点が水晶板31の外周すなわち楕円上に必ず4つ生じる。水晶板31の大きさに比べて各縦振動モードによる振動の振幅が十分に小さいとすると、点P1〜P4は、幅・長さ縦結合振動モードの振動変位に関して事実上の不動点となる。楕円に形成されている水晶板31の外周のどの位置が不動点になるかは、水晶板31における長軸の長さaと短軸の長さbとの比、すなわち、縦横比(b/a)によって異なる。例えば、縦横比が0.855である場合には、各不動点は、水晶板31の中心すなわち楕円の中心から見て、長軸から短軸方向に向けて57.5°の角度をなす方向に位置する。
【0010】
このような水晶振動子では、水晶板31における不動点P1〜P4の1つまたは複数に対して支持部を接続することにより、水晶板31の振動特性に影響を及ぼすことなく、水晶板31を支持することができる。言い換えれば、良好な振動特性が維持された水晶振動子が得られる。支持部としては、例えば、水晶板31の外周に接続する単純な棒状部材あるいは梁部材を用いることができる。
【0011】
図3及び図4は、上述したGTカットの水晶板31を用いて構成された水晶振動子の具体的な一例を示している。この水晶振動子は、略長方形に形成されたフレーム(枠体)33を備え、フレーム33の開口部内に、上述の図2に示した楕円形のGTカットの水晶板31が保持されたものである。水晶板31は、フレーム33の内壁から延びる棒状の2本の支持部32によって支持されている。2本の支持部32は、楕円形の水晶板31の外周にある上述した4つの不動点P1〜P4のうちの2つにおいて、それぞれ、水晶板31に機械的に接続している。ここでは、水晶板31の中心(楕円の中心)を挟む一対の不動点P2,P4(図2参照)に対して支持部32が接続している。フレーム33の厚さは、水晶板31の厚さよりも十分に厚くなっている。これにより、例えばフレーム33の上面と下面とに蓋部材をそれぞれ配してフレーム33と蓋部材とによって囲まれた空間内に水晶板31が格納されるようにした場合に、水晶板31の蓋部材への接触が防止される。
【0012】
水晶板31の一方の主面のほぼ全面には励振電極34が形成され、この励振電極34に対する電気的接続を実現するための引出電極36が、一方の支持部32の表面に形成されて、フレーム33の上面に形成されている電極パット37にまで延びている。同様に、水晶板32の他方の主面のほぼ全面にも励振電極35が形成され、この励振電極35は、フレーム33の下面に形成されている電極パッド(不図示)に対し、他方の支持部の表面に形成された引出電極(不図示)を介して電気的に接続している。電極パッド37は、この水晶振動子を外部回路の接続するために用いられるものである。
【0013】
図3及び図4に示したものでは、水晶板31を2点で支持しているが、上述した不動点P1〜P4において支持するものである限り、何か所で支持するか、どの不動点で支持するかは、任意に定めることができる。
【0014】
図5は、楕円形のGTカットの水晶板31における各軸の方位を示したものである。
【0015】
GTカットの水晶板の場合、X”軸方向の弾性係数C'11とZ”軸方向の弾性係数C'33とが等しいので、X”軸方向の寸法とZ”軸方向の寸法とを入れ替えても同じ振動特性を示す。すなわち、GTカットの楕円形の水晶板において、長軸をZ”軸方向とし短軸をX”軸方向としても、上述と同様に水晶板の外周の4か所に不動点が現れ、この不動点で水晶板を支持することによって良好な振動特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平9−246898号公報
【特許文献2】特開2007−158486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
GTカットの水晶振動子は、共振周波数が低い場合であっても小型化できるという利点を有する。しかしながら、GTカットの水晶振動子は、水晶板の板面に対して励振電極をできるだけ広く形成したとしても、等価直列容量C1が小さくなり、等価直列抵抗ESRが例えば1kΩ程度と大きくなる、という課題を有する。これは、GTカットの水晶振動子の場合、共振周波数は水晶板の外形で決まるため、等価直列抵抗を小さくするために水晶板の平面サイズを大きくするという手法を採用できないからである。ATカットの水晶振動子と比べた場合、GTカットの水晶振動子では、例えば、C1が約3分の1になり、ESRが約3倍となる。その結果、GTカットの水晶振動子が接続された発振回路を設計する場合に、安定した発振を達成するための回路構成が複雑になる。特に、水晶振動子の等価直列抵抗が大きいと、発振回路の発振余裕度が低下する。
【0018】
本発明の目的は、等価直列容量を大きくし等価直列抵抗を小さくしたGTカットの水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のGTカットの水晶振動子は、枠体と、GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成され、同一の共振周波数を有する複数の水晶板と、各水晶板の両方の主面にそれぞれ形成された一対の励振電極と、各水晶板ごとに、2つの縦振動モードが結合したときにその水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続し、その水晶板を枠体に支持する支持部と、を有し、複数の水晶板は2つの縦振動モードの振動方向を含む同一の平面内に配置し、隣接する2つの水晶板のうちの一方の水晶板の外周と他方の水晶板の外周とが機械的に結合し、一方の水晶板が第1の方向に伸長しているときに他方の水晶板が第1の方向に直交する第2の方向で伸長するように、励振電極間の電気的配線が形成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明のGTカットの水晶振動子では、共振周波数が同じである複数のGTカットの水晶板を配置し、隣接する2つの水晶板間において、それら2つの水晶板の外周間を機械的に結合させるとともに、一方の水晶板が第1の方向に伸長しているときに他方の水晶板が第1の方向に直交する第2の方向で伸長するように、各水晶板間で励振電極の電気的配線が形成されている。その結果、複数のGTカットの水晶板は、電気的には並列に接続されていることになるので、全体として見たとき、単一の水晶板を用いる場合に比べて等価直列容量が増大し等価直列抵抗が減少し、例えば、ATカットの水晶振動子と同等の等価直列抵抗を示すようになる。その際、水晶板間を機械的に結合するとともに、上記のように励振電極間を電気的に接続することにより、複数の水晶板をまたがって全体として1つの振動モードに結合することとなる。その結果、不要な副振動が生じたりすることがなく、水晶振動子として極めて高い安定度を示すようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】GTカットの水晶板の切断方位を説明する図である。
【図2】GTカットの水晶板の振動モードを説明する平面図である。
【図3】楕円型の水晶板を有するGTカット水晶振動子の構成の一例を示す平面図である。
【図4】図3のA−A’線での断面図である。
【図5】水晶板における軸方向を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の水晶振動子を示す図であって、(a)が平面図、(b)は励振電極間の配線を説明する図、(c)は振動状態を説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の水晶振動子を示す平面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態の水晶振動子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
図6(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態におけるGTカットの水晶振動子を示している。この水晶振動子は、図2を用いて説明したものと同様の楕円形状のGTカットの水晶板を2個備え、フレーム(枠体)23の開口部内にこれらの水晶板21a,21bが保持された構造を有する。各水晶板21a,21bの短軸及び長軸の方向は、GTカットの水晶結晶における直交する2つの縦振動モードの振動方向にそれぞれ一致している。水晶板21a,21bの外形形状は同一とされ、これにより、両方の水晶板21a,21bはGTカットの振動モードでの同一の共振周波数を有している。水晶板21a,21bの各々は、いずれも、フレーム23の内壁からの延びる棒状の2本の支持部22によって支持されている。水晶板ごとの2本の支持部22は、楕円形の水晶板の外周にある上述した4つの不動点P1〜P4のうちの2つにおいて、それぞれ、その水晶板に機械的に接続している。フレーム23の厚さは、水晶板21a,21bの厚さよりも十分に厚くなっている。
【0024】
水晶板21a,21bは、それらの短軸が一直線上に沿うように配置しており、棒状の接続部材28によって相互に機械的に結合している。具体的には、接続部材28は、水晶板21aの外周上の1点と水晶板21bの外周上の1点とに接続している。図示したものでは、楕円形の水晶板21a,21bの各々の短軸の一端が、接続部材28によって相互に機械的に接続している。ここでは水晶片21a,21bの短軸の端部同士を接続したが、長軸が一直線上に沿うように水晶片21a,21bを配置した上で、水晶片21a,21bの長軸の端部同士を接続する構成とすることもできる。接続部材28を接続する位置は、必ずしも水晶板における長軸や短軸の端部とする必要はないが、水晶板の外周にある上述の不動点とすると、接続部材を設けた意義が失われ、両方の水晶板21a,21bが機械的に結合しなくなる。
【0025】
水晶板21a,21b、支持部22、フレーム23及び接続部材28は、水晶によって一体的に形成されている。例えば、GTカットの水晶ウェハを用意し、その水晶ウェハに対してフォトリソグラフィ技術を用いたエッチング処理を行うことによって、水晶板21a,21b、支持部22、フレーム23及び接続部材28を同時に一体的に形成することができる。その結果、2つの水晶板21a,21bは、GTカット水晶における上述した2つの縦振動モードの振動方向によって張られる平面内に配置し、支持部22及び接続部材28もこの平面内に配置することになる。
【0026】
以下、説明のため、水晶板の2つの主面に関し、水晶振動子の平面図において紙面に示される方の主面を水晶板の表面と呼び、平面時において紙背側に位置することになる方の主面を水晶板の裏面と呼ぶことにする。
【0027】
図6(b)に示すように、各水晶板21a,21bの両方の主面のほぼ全面には励振電極25が形成されている。ここで、水晶板21aの表面に形成された励振電極25と水晶板21bの裏面に形成された励振電極とが、支持部22の表面及びフレーム23に設けられた導電路25aを介して電気的に接続し、この導電路25aには、この水晶振動子を外部回路に接続するために用いられる電極パッド27aも設けられている。同様に、水晶板21aの裏面に形成された励振電極と水晶板21bの表面に形成された励振電極とが、支持部22及びフレーム23に設けられた導電路25bを介して電気的に接続し、この導電路25bには、外部回路との接続のための電極パッド27bも設けられている。電極パッド27a,27bは、フレーム23の表面に形成されている。表面側の励振電極と裏面側の励振電極とを電気的に接続する必要から、導電路25a,25bには、フレーム23を貫通するスルーホールが設けられている。
【0028】
このように水晶板21a,21b間で励振電極を電気的に接続することにより、水晶板21a,21bでは励振の際の電気的極性が相互に逆極性となる。その結果、図6(c)に示すように、水晶板21aが短軸方向に延びて長軸方向に縮むとき(図示実線で示す場合)には、水晶板21bは長軸方向に延びて短軸方向に縮み、逆に、水晶板21aが短軸方向に縮んで長軸方向に延びるとき(図示破線で示す場合)には、水晶板21bは長軸方向に縮んで短軸方向に延びることになる。このように2つの水晶板21a,21bが振動したとすると、接続部材28の位置での両方の水晶板21a,21bの間隔はほとんど変化せず、したがって、接続部材28は両方の水晶板21a,21bを機械的に結合させるものの、それらの水晶板での振動を阻害することはない。本実施形態では、接続部材28を設けていることにより、水晶板21a,21bのそれぞれ単独での共振周波数が相互に多少ずれている場合であっても、両方の水晶板21a,21bが一体となって同一の周波数で共振するようになり、水晶振動子として高いQ値を得ることができるようになる。これに対し、接続部材28を設けていないとすると、共振周波数がわずかにずれている2つの水晶振動子を並列に接続したことと電気的に等価になり、全体として見たときのQ値が低下することになる。
【0029】
第1の実施形態の水晶振動子では、各水晶板21a,21bは、その外周における振動変位が極小となる点において支持部22により支持されるので、支持部22が水晶板21a,21bの振動特性に影響を及ぼすことはない。また、接続部材28は2つの水晶板21a,21bを機械的に結合するものの、それらの水晶板21a,21bの振動を阻害しない。水晶板21a,21bは同一の共振周波数を有するので、これらの水晶板21a,21bはこの共通の共振周波数で振動するとともに、水晶振動子全体として見ても、水晶板21a,21bをまたがって結合した1つの振動モードで安定して振動することになる。その結果、この水晶振動子は、副振動を生じたりすることなく、極めて安定して振動することになる。また、図2に示した水晶振動子と比べ、この水晶振動子では、共振周波数は同じでありながら励振電極の面積は2倍になっているので、等価直列容量も2倍になり、等価直列抵抗は2分の1になることになる。本実施形態のGTカットの水晶振動子を発振回路に適用した場合には、等価直列抵抗が小さいので、簡単な回路構成で大きな発振余裕度を達成でき、高安定な発振回得を構成することができる。
【0030】
上記の例では、水晶板21aの短軸の一端と水晶板21bの短軸の一端とを機械的に結合させたが、GTカットの水晶板の場合、X”軸方向の弾性係数C'11とZ”軸方向の弾性係数C'33とが等しいので、一方の水晶板の長軸の一端と他方の水晶板の長軸の一端とを機械的に結合した場合であっても、上述と同様の効果が得られる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態の水晶振動子を説明する。
【0032】
第1の実施形態では、2つの水晶板21a,21bから水晶振動子を構成したが、本発明では、3個以上のGTカットの水晶板を用い、隣接する2個の水晶板を相互に機械的に結合することを繰り返して、全ての水晶板を1つの振動モードに結合させることも可能である。図7は第2の実施形態の水晶振動子を示している。
【0033】
図7に示す第2の実施形態の水晶振動子は、図6(a)〜(c)に示すものと同様のものであるが、3個の水晶板21a〜21cを備えている点で、図6(a)〜(c)に示すものと異なっている。水晶板21a〜21cの各々は、水晶板ごとに棒状の2本の支持部22によってフレーム23に接続されている。支持部22は、水晶板の外周において振動変位が極小となる位置において、水晶板に接続している。また、水晶板21aの短軸の一端と水晶板21bの短軸の一端とが棒状の接続部材28aによって接続され、水晶板21bの短軸の他端と水晶板2cの短軸の一端とが棒状の接続部材28bによって接続されており、これによって、水晶板21a,21bが相互に機械的に結合し、水晶板21b,21cも相互に機械的に結合している。
【0034】
各水晶板21a〜21cの両方の主面には励振電極24が形成されている。ここでは、水晶板21a,21cの各々の表面と水晶板21bの裏面に形成された励振電極が導電路25aを介して電気的に接続し、導電路25aには電極パット27aも設けられている。また、水晶板21a,21cの各々の裏面と水晶板21bの表面に形成された励振電極が導電路25bを介して電気的に接続し、導電路25bには電極パット27bも設けられている。その結果、水晶板21a,21bでは励振の際の電気的極性が相互に逆極性となり、水晶板21b,21cでも逆極性となる。水晶板21a,21cでは相互に同極性である。第1の実施形態の場合と同様に、接続部材28a,28bは水晶板21a〜21cを機械的に結合するが、それらの振動を阻害しない。この水晶振動子では、各水晶板21a〜21cは共通の共振周波数で振動するとともに、水晶振動子全体として見ても、水晶板21a〜21cをまたがって結合した1つの振動モードで安定して振動することになる。また、図2に示した水晶振動子と比べ、この水晶振動子では、共振周波数は同じでありながら励振電極の面積は3倍になっているので、等価直列容量も3倍になり、等価直列抵抗は3分の1になることになる。本実施形態の水晶振動子を用いることにより、簡単な回路構成で大きな発振余裕度を達成でき、高安定な発振回得を構成することができる。
【0035】
次に、本発明の第3の実施形態の水晶振動子を説明する。
【0036】
第1の実施形態では、隣接する水晶板21a,21b間に接続部材28を設けてこれらの水晶板21a,21bを機械的に結合させていたが、水晶板間の機械的結合の態様はこれに限定されるものではない。図8に示す第3の実施形態の水晶振動子では、第1の実施形態の水晶振動子と同様のものであるが、接続部材を設けることなく水晶片21aの短軸の一端と水晶片21bの短軸の一端とを直に接合することによって、水晶片21a,21b間の機械的結合を実現している。上述したように、水晶板21a,21bは電気的には逆極性で励振されるので、水晶片21a,21b同士を直に接合した場合、この接合位置において応力などが発生することはない。したがって、この水晶振動子も第1の実施形態の水晶振動子と同様の効果を有する。
【0037】
次に、楕円形状の水晶板21a〜21cにおける縦横比(b/a)(図5参照)について説明する。
【0038】
楕円形状のGTカットの水晶板に関し、その縦横比と水晶板における共振周波数の温度依存性との関係、特に、縦横比と共振周波数の一次温度係数αとの関係を調べたところ、縦横比が0.75〜0.90の範囲にあれば、良好な温度特性(一次温度係数が概ね±10ppm/℃の範囲内)が得られることが分かった。したがって、上述の各実施形態の水晶振動子でも、水晶板21a〜21cの縦横比を0.75〜0.90の範囲内とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0039】
11 原石;12 GTカットの切断方位;21a〜21c,31 GTカットの水晶板;22,32 支持部;23,33 フレーム(枠体);24,34,35 励振電極;25a,25b 導電路;26 スルーホール;27a,27b,37 電極パッド;28,28a,28b 接続部材;36 引出電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GTカットの水晶振動子であって、
枠体と、
GTカットにおける直交する2つの縦振動モードの振動方向をそれぞれ長軸と短軸とする楕円形に形成され、同一の共振周波数を有する複数の水晶板と、
前記各水晶板の両方の主面にそれぞれ形成された一対の励振電極と、
前記各水晶板ごとに、前記2つの縦振動モードが結合したときに当該水晶板の外周において振動変位が極小となる位置に対して接続し、当該水晶板を前記枠体に支持する支持部と、を有し、
前記複数の水晶板は前記2つの縦振動モードの振動方向を含む同一の平面内に配置し、隣接する2つの前記水晶板のうちの一方の水晶板の外周と他方の水晶板の外周とが機械的に結合し、前記一方の水晶板が第1の方向に伸長しているときに前記他方の水晶板が前記第1の方向に直交する第2の方向で伸長するように、前記励振電極間の電気的配線が形成されている、水晶振動子。
【請求項2】
前記一方の水晶板の外周と前記他方の水晶板の外周との機械的な結合は、前記一方の水晶板の長軸または短軸の一端と前記他方の水晶板の長軸または短軸の一端との間で形成される、請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記一方の水晶板の外周と前記他方の水晶板の外周とを接続する接続部材によって、前記一方の水晶板と前記他方の水晶板が機械的に結合する、請求項1または2に記載の水晶振動子。
【請求項4】
前記枠体、前記支持部及び前記接続部材は水晶からなり、前記水晶板と一体的に形成されている、請求項3に記載の水晶振動子。
【請求項5】
前記一方の水晶板の外周の1点と前記他方の水晶板の外周の1点とが直に接合することによって、前記一方の水晶板と前記他方の水晶板が機械的に結合する、請求項1または2に記載の水晶振動子。
【請求項6】
前記枠体及び前記支持部は水晶からなり、前記水晶板と一体的に形成されている、請求項5に記載の水晶振動子。
【請求項7】
前記各水晶板において前記長軸の長さに対する前記短軸の長さが0.75以上0.90以下の範囲内にある、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水晶振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−102346(P2013−102346A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244672(P2011−244672)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】