説明

水晶振動子

【課題】 生産性が高く、歩留まりも良い中心部分にエネルギーを集中させ、高いQ値を有する水晶振動子を提供しようとするものである。特にエッチングの工程の数が少なく、これによって生産性を高くすることのできる水晶振動子を提供する。
【解決手段】 水晶素板の母材に特定の高さの凸部を形成し、この凸部に特定の深さの溝を多数形成し、その溝の幅を水晶素板の外周部から中心に向かって次第に小さくなるようにすることによって、水晶素板の外周から中心に向かってディユーティが大きくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子に関し、特にATカット水晶振動子に適するものである。詳細には、水晶の結晶の電気軸をX軸とし、機械軸をY軸とし、光軸をZ軸とした場合に、Z軸から35度15分の角度で切り出した振動子をATカット振動子と呼ぶ。水晶振動子は温度によって周波数が変化するがATカット水晶振動子は、BTカット振動子と比較して、この温度依存性が低く多方面で採用されている。
【背景技術】
【0002】
このような水晶振動子は厚みによって固有振動が決定される。そして、水晶振動子は結晶の質量の大きな部分に振動エネルギーが集中する。つまり水晶振動子の結晶に電極を構成した場合、その電極の部分の質量が大きいため、この部分にエネルギーが集中する。さらに厚み滑り振動の共振周波数は、水晶の厚さに反比例することが知られている。例えば、ATカット水晶振動子の場合は、1670程度の値を持った定数を水晶厚さで除した値が共振周波数となる。
【0003】
つまり、水晶振動子の中心部分に電極を形成する事によって、中心部分にエネルギーを集中させ、エネルギーの無駄を防止する手段がある。これによって高いQ値を有する水晶振動子を得ることができる。
【0004】
或いは、さらに積極的に水晶振動子の中心部分の厚さを厚くし、さらに中心部分にエネルギーを集中させる手段がある。しかしこのような手段を採るには、水晶振動子を凸レンズのような形状にするために専用の研磨剤と治具を用いた研磨加工、あるいは凸レンズ状に加工したレジストを用いたドライエッチング加工などによる加工方法をするため、加工精度や歩留まりといった課題を抱えている。
【0005】
このため、特許文献1に開示されたように電極の厚みを水晶振動子の中心に向かって厚くする手段が開発された。このようにする事により、水晶振動子の厚みを変化させるよりも、製造が容易となった。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−308645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記のような特許文献1に開示された従来の水晶振動子は、電極の厚みを外周部分から中心部に向かって厚く形成する必要がある。このため、特許文献1の段落0007に記載のように、水晶素板の母材(大型ウェハー)の表裏両面上に開口径の異なるマスクを順次使用して面積の異なる複数の電極層(アルミニウムなど)を順次積層して蒸着形成するようにしている。
【0008】
この場合には、蒸着工程を複数回繰り返す必要がある。蒸着は、真空のチャンバー内に加工品を入れて行うものであり、バッチ処理であるため、このような工程を複数回行うと、生産性が低くなる。
【0009】
本発明は以上の点に着目し、生産性が高く、歩留まりも良い中心部分にエネルギーを集中させ、高いQ値を有する水晶振動子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水晶素板の母材に特定の高さの凸部を形成し、この凸部に特定の深さの溝を形成し、その溝の幅によって、水晶素板の外周から中心に向かってディユーティが大きくなるようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水晶振動子は上記の如く構成したので、水晶素板の厚さを特定の部分で一定とし、水晶振動子の中心に向かってエネルギーを集中させることができ、よって高いQ値を有する水晶振動子を得ることができる。
【0012】
そして、上記のとおり水晶素板の厚さは特定部分で一定であるので、加工が容易であり、生産性を高くすることができる。
【0013】
さらに水晶素板の特定部分に溝を形成して、ディユーティを中心に向かって大きくしているため、エッチングの工程を一度だけ行うことによって製造することができ、生産性が高く、さらに歩留まりも高い。
【0014】
特にエッチングのパターンを適切に工夫することで、水晶振動子として所望の特性を得ることができる。
【0015】
また、本発明の技術は水晶振動子の外周から中心に向かって2次元的にディユーティを大きくするだけでなく、水晶振動子の外周から中心に向かって1次元的にディユーティを大きくすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】 本発明の水晶振動子の実施例1を示す断面図である。
【図2】 本発明の水晶振動子の原理を示す断面図である。
【図3】 本発明の水晶振動子の実施例2を示す上面図である。
【図4】 本発明の水晶振動子の実施例3を示す上面図である。
【図5】 本発明の水晶振動子の実施例4を示す上面図である。
【図6】 本発明の水晶振動子の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の請求項1に記載の発明は、水晶素板の母材に特定の高さの凸部が形成され、この凸部に特定の深さの溝が形成され、その溝の幅によって、水晶素板の外周から中心に向かってディユーティが大きくなるようにしたため、水晶素板の中心に向かってエネルギーが大きくなり、Q値が大きくなる。
【実施例1】
【0017】
以下本発明の水晶振動子の実施例について図に沿って詳細に説明する。図1は本発明の水晶振動子の断面図である。水晶素板1の表面には一定の高さの凸部2が形成され、この凸部2に凸部2の厚さに等しい深さの溝3が形成されている。これによって所定高さの複数の突起が形成される。
【0018】
凸部2と溝3の形成は、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング装置によって実現することが可能である。つまり1回のエッチングによって凸部2と溝3とを形成することができる。水晶表面にフォトリソグラフィによって、金やクロム,ニッケル等の金属マスクをパターニングし、その後,ドライエッチングすることで任意の高さの凸形状を作ることができる。凸部2の高さは模擬するコンベックスの高さと同じであり、一般的に水晶厚さの5%程度が良いとされている。ドライエッチングによって加工できるため、水晶ウェハ内に多数配置された水晶振動子を同時に均一に加工できるため、大量生産に対して有利である。水晶振動子として使用するためには凸部2に対して電極をパターニングする必要がある。凸部2に対する電極パターニングには、スプレーコータなどを用いてフォトレジストを塗布することが望ましいが、凸部2よりも厚い厚膜フォトレジストをスピンコートする方法でも解決できる
【0019】
つまり全ての突起は同一の高さを有し、所定の幅とピッチを有している。この実施例1では、全ての突起の幅が等しく、ピッチも等しい。この実施例1のものは、水晶素板1の両端に対して、中心部分のディユーティが大きくなっている。凸部2のピッチを固定して、デューティ比のみを0%から100%の全範囲で変化させても同様に、1ピッチ間を平均した高さに相当する共振周波数で振動する。
【実施例2】
【0020】
図2は本発明の実施例2における水晶振動子の断面図である。この図2では、従来の凸レンズ状に中央を円滑に膨らませて形成した水晶振動子と、中央に向かって段階的に厚さを増加させた水晶振動子も併せて示している。
【0021】
図2の一番下に本発明の実施例2をしめしている。この実施例2では、凸部2のピッチは等しく、凸部2の幅が中央に向かって大きくなっている。つまりこの構成によって、水晶素板1の両端に対して、中心部分のディユーティが大きくなっている。
【0022】
プラノ−コンベックス形状の水晶振動子は,水晶片の中央に凸レンズ状の出っ張りを持った構造である。これを模擬するために、始めにコンベックス部を一定のピッチに合わせて領域を区切る。次に、各領域の平均高さを求め。階段状に変形する。最後に,各領域の平均高さに相当するデューティ比を持った凸部2を設計する。以上の単純な作業により、振動論的にプラノ−コンベックス形状を模擬した形状が得られる。
【実施例3】
【0023】
図3に本発明の実施例3の平面図を示す。この実施例3では、水晶素板1の両端から中央に向かって一次元的にディユーティが大きくなっている。つまり水晶素板1は長方形をしており、その上面に複数の凸部2が等ピッチで形成されている。各凸部2は直線状である。また、各凸部2の幅が水晶素板1の中央に向かって、次第に大きくなっている。
【0024】
以上の構成の本発明の実施例3の水晶振動子は、水晶素板1の両端から中央に向かって、凸部2の幅が大きくなるため、両端から中央に向かって一次元的にディユーティが大きくなる。
【実施例4】
【0025】
図4に本発明の実施例4の平面図を示す。この実施例4では、実施例3と同様、水晶素板1の両端から中央に向かって一次元的にディユーティが大きくなっている。つまり水晶素板1は長方形をしており、その上面に複数の凸部2が等ピッチで形成されている。各凸部2は直線状である。また、各凸部2の幅が水晶素板1の中央に向かって、次第に大きくなっている。
【0026】
この実施例4は実施例3と比較して、各凸部2が水晶素板1の中心線に対して斜めになっている。このように斜めにすることによって、水晶素板1の両端から中心に向かうディユーティの変化が緩やかになり、加工精度の要求レベルが緩くなる。
【実施例5】
【0027】
図5に実施例5の平面図を示す。この実施例5のものは、水晶素板1が円盤状であり、その表面に同心円状に凸部2と溝3とが形成されている。凸部2のピッチが細かいほど、正確に振動論的にプラノ−コンベックス形状を模擬した形状が得られる。
【0028】
しかしながら、実際にものづくりをする上では露光装置の分解能や金属マスクのパターニング精度などから、最小凸部2の幅は数ミクロンに制限される。また、プラノ−コンベックス形状の再現性の観点から、凸部2の幅は最低でも10パターン以上が望ましい。この状況から、ピッチは数10ミクロンになってしまう。
【0029】
この実施例5は、以上の問題を解消するものである。これら問題は、図5のように凸部2に幅の広い部分と狭い部分とを形成し、その幅の異なる部分の位相を僅かにずらしたパターンを並べることで解決することができる。図5では10グループ程度に分割してあるが、できる限り多く分割することで、よりプラノ−コンベックス形状に近い形状が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の水晶振動子は、研磨装置や凸レンズ状のレジスト形状に依存することなくコンベックスを再現できるため、曲面の形状を任意に選択することができる。よって量産性が高く、安価でかつ歩留まりの良い水晶振動子を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 水晶素板
2 凸部
3 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶素板の母材に特定の高さの凸部が形成され、この凸部に特定の深さの溝が形成され、その溝の幅によって、前記水晶素板の外周から中心に向かってディユーティが大きくなるようにした水晶振動子。
【請求項2】
水晶素板の中央に向かって段階的に厚さを増加させた請求項1記載の水晶振動子。
【請求項3】
水晶素板の両端から中央に向かって一次元的に複数の溝を並列に形成し、その溝の幅によってディユーティを大きくした請求項1記載の水晶振動子。
【請求項4】
各溝を水晶素板の中心線に対して斜めに形成した請求項3記載の水晶振動子。
【請求項5】
水晶素板が円盤状であり、その表面に同心円状に凸部と溝とを複数形成し、凸部に幅の広い部分と狭い部分とを形成し、その幅の異なる部分の位相をずらしたパターンを並べることでプラノ−コンベックス形状に近似した形状とした請求項1記載の水晶振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70351(P2013−70351A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225327(P2011−225327)
【出願日】平成23年9月24日(2011.9.24)
【出願人】(591153477)株式会社坂本電機製作所 (8)
【Fターム(参考)】