説明

水溶性クーラント光浄化装置

【課題】 光触媒の耐久性および浄化効率が高く、しかも安価に製造し得る水溶性クーラント光浄化装置を提供する。
【解決手段】 光浄化槽32において、表面に光触媒が担持された多孔質セラミックス粒42が浸漬状態で配設されているので、水溶性クーラント16がその光浄化槽32内を通過させられるとき、その水溶性クーラント16の上方から紫外線放射ランプ34から多孔質セラミックス粒42に向かって紫外線が照射され、その多孔質セラミックス粒42に担持された光触媒により水溶性クーラント16が浄化される。このため、多孔質セラミックス粒42に担持された光触媒がその塵に触れて磨滅することが好適に防止されて高い耐久性が得られる。また、紫外線が水溶性クーラント16を通して光触媒に対して照射され、従来の背面照射に比較して、光触媒の高い浄化効率が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工や研削加工などに用いられる水溶性クーラントを浄化するための水溶性クーラント浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋盤、フライス盤、研削盤などに際して切削点或いは研削点を冷却し且つ潤滑することにより研削能率を高め或いは品質を高めるために用いられる水溶性クーラントが知られている。このような水溶性クーラントは、油性クーラントに比較して、取り扱いが比較的容易であるという特徴があるが、使用の継続によって細菌が繁殖し、フィルタの目詰まりを発生させて早期の交換を必要としたり、悪臭を発生させて作業環境を悪化させるという問題があった。
【0003】
これに対し、複数本の流体流通路を形成する透明な担体と、この担体の流体流通路内周面に担持された光触媒と、その担体の外側から紫外線を照射する紫外線照射装置とを備え、担体を通して光触媒の背面から紫外線を照射することによりその内側を通過する流体を浄化する流体浄化装置が提案されている。たとえば特許文献1に記載された装置がそれである。この流体浄化装置によれば、触媒全体に紫外線を照射することが可能であり、また、紫外線照射装置は流体中の汚れに遮られることなく安定的に光触媒を照射できるなどの利点がある。
【特許文献1】特開平11−180044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記流体浄化装置では、流体中に含まれる微小な切粉などの塵によって流体に触れる光触媒が磨滅するとともに、光触媒に対して担体を通した背面照射であるためにその光触媒による浄化作用の効率が十分に得られないという欠点があった。また、複数本の流体流通路を有する透明な担体は複雑な製造工程を必要とし、紫外線を透過させ得る材料を必要とするために流体浄化装置が高価となる欠点もあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、光触媒の耐久性および浄化効率が高く、しかも安価に製造し得る水溶性クーラント光浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、循環路を循環させられる水溶性研削液を浄化するための水溶性クーラント光浄化装置であって、(a) 前記循環路に設けられて前記水溶性クーラントが通過させられる光浄化槽と、(b) 表面に光触媒が担持され、前記水溶性クーラント内に浸漬された状態で前記光浄化槽内に配設された多孔質の光触媒固定部材と、(c) 前記水溶性クーラントの上方からその水溶性クーラントを通して該光触媒固定部材に向かって紫外線を照射する紫外線放射ランプとを、含むことにある。
【0007】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、前記請求項1に係る発明の光触媒固定部材は、連通気孔を有する多孔質セラミックス体である。
【0008】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、前記請求項2に係る発明の多孔質セラミックス体は、無機粒子がガラス質結合剤又は樹脂結合剤により相互に固着された粒状体である。
【0009】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、前記請求項1乃至3のいずれかのに係る発明において、前記光浄化槽は、前記光触媒固定部材が所定の厚みに配設された光触媒固定部材層を有し、前記水溶性クーラントを該光触媒固定部材層の上流側部位の下側から上側へ通過させた後、該光触媒固定部材層の下流側部位の上側を通過させるものである。
【0010】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、前記請求項1乃至4のいずれかに係る発明において、前記光浄化槽は、前記紫外線放射ランプにより紫外線が照射される部分において、前記水溶性クーラントの水面から前記光触媒固定部材層までの平均深さが2mm以下となるように前記光触媒固定部材が配設されたものである。
【0011】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、前記請求項1乃至5のいずれかに係る発明において、前記水溶性クーラントを受けるために前記光浄化槽の上流側に設けられ、該受けた水溶性クーラントのうち深さ方向の中間に位置する水溶性クーラントを前記光浄化槽に供給する受槽を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の水溶性クーラント光浄化装置では、前記循環路の一部である光浄化槽において、表面に光触媒が担持された多孔質の光触媒固定部材が浸漬状態で配設されているので、水溶性クーラントがその光浄化槽内を通過させられるとき、その水溶性クーラントの上方からその水溶性クーラントを通して紫外線放射ランプから光触媒固定部材に向かって紫外線が照射され、光触媒固定部材に担持された光触媒により水溶性クーラントが浄化される。このため、微小な切粉などの塵が流体中に含まれていたとしても、多孔質の光触媒固定部材に担持された光触媒がその塵に触れて磨滅することが好適に防止されて高い耐久性が得られる。また、紫外線が水溶性クーラントを通して光触媒に対して照射されるため、担体を通した背面照射に比較して、光触媒の高い浄化効率が得られる。さらに、多孔質光触媒固定部材は、焼結により得られる通常のセラミックス材料から構成され得るため、紫外線に透明な材料で多数本の流体流通路を有する場合に比較して製造工程が簡単となり、光浄化装置が安価となる。
【0013】
また、請求項2に係る発明の水溶性クーラント浄化装置では、前記光触媒固定部材は、連通気孔を有する多孔質セラミックス体である。これにより、光触媒固定部材は焼結により得られる通常のセラミックス材料から構成され得るので、安価に製造される。この光触媒固定部材は、たとえば、粉砕し且つ整粒された陶磁器片或いは砥石片の表面に光触媒が固定されたものでもよい。
【0014】
また、請求項3に係る発明の水溶性クーラント浄化装置では、前記多孔質セラミックス体は、無機粒子がガラス質結合剤又は樹脂結合剤により相互に固着された粒状体である。無機粒子は、アルミナなどのセラミックス粒子或いは炭化珪素粒子がガラス質の無機結合剤によって結合されたものであってもよいので、安価に製造される。
【0015】
また、請求項4に係る発明の水溶性クーラント浄化装置では、前記光浄化槽は、前記光触媒固定部材が所定の厚みに配設された光触媒固定部材層を有し、前記水溶性クーラントをその光触媒固定部材層の上流側部位の下側から上側へ通過させた後、その光触媒固定部材層の下流側部位の上側を通過させるものである。このようにすれば、水溶性クーラントが光触媒固定部材層の上流側部位の下側から上側へ通過させられることにより、微小な切粉などの水溶性クーラント中に含まれる塵がある程度除去されて、光触媒固定部材層の下流側部位の上側を通過させられるので、紫外線の照射を受ける工程では、塵の堆積によって光触媒に対する紫外線の照射が損なわれることが好適に防止される。
【0016】
また、請求項5に係る発明の水溶性クーラント浄化装置では、前記光浄化槽は、前記紫外線放射ランプにより紫外線が照射される部分において、前記水溶性クーラントの水面から前記光触媒固定部材層までの平均深さが2mm以下となるように前記光触媒固定部材が配設されたものである。このようにすれば、紫外線が2mm以下の平均深さの水溶性クーラントを通して光触媒固定部材に照射されることにより、高い浄化効率が得られる。
【0017】
また、請求項6に係る発明の水溶性クーラント浄化装置では、前記水溶性クーラントを受けるために前記光浄化槽の上流側に設けられ、その受けられた水溶性クーラントのうち深さ方向の中間に位置する水溶性クーラントを前記光浄化槽に供給する受槽を有するものである。このようにすれば、水溶性クーラントを受ける受槽において、浮遊する比較的細かな塵と沈殿する比較的大きな塵とが含まれない深さ方向の中間に位置する水溶性クーラントが前記光浄化槽に供給される利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ここで、好適には、前記水溶性クーラント浄化装置の光浄化槽は、その表層部の水溶性クーラントを受けて下流側へ送出するための貯留槽を有するものである。このようにすれば、塵と菌が除去されてきれいに浄化された光浄化槽内の表層部の水溶性クーラントが下流側へ送出される。
【0019】
また、好適には、前記水溶性クーラント浄化装置の光浄化槽では、その水深よりも所定値たとえば数mm程度低い堰板により槽内が複数に分割される。このようにすれば、光浄化槽内において水溶性クーラントの表層部が専ら流される利点がある。好適には、上記光浄化槽内のうち堰板により分割された部分に、前記光触媒固定部材が収容されたバスケットが着脱可能に嵌め入れられる。このようにすれば、光触媒固定部材の清掃や交換が極めて容易となる。
【0020】
また、好適には、前記水溶性クーラント浄化装置の光浄化槽において、前記光触媒は酸化チタンから構成されたものである。このようにすれば、化学的に安定した光触媒が用いられる利点がある。
【0021】
また、好適には、前記光触媒固定部材は、プレート状のセラミックス製濾過材、粒状濾過材、陶磁器片、砥石片、アルミナ片、それらの粒子が無機結合材の溶融により固着されたものなどから構成される。要するに、多孔質に構成されたものであればよい。光触媒固定部材は、連通気孔であればなおよく、たとえば20〜60体積%程度の気孔率を備えるのがよい。
【0022】
また、好適には、前記光触媒固定部材は、破砕された陶磁器片や砥石片が篩などによって整粒されたものでもよいが、短角柱状、円板状、チップ状、円錐状、角錐状、球状などに成形された多孔体であってもよい。
【0023】
また、好適には、前記光触媒としては、酸化チタン(TiO2 )、硫化カドミウム(CdS)、五酸化二バナジウム(V2 5 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銅(CuO、Cu2 O)、酸化鉄(Fe2 3 )、酸化錫(SnO2 )などが用いられ得るが、優れた光触媒機能を有する酸化チタンが特に好適に用いられる。酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が結晶型として知られているが、高い光触媒活性機能を有するアナターゼ型が好ましい。
【0024】
また、好適には、前記光触媒は、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、銀、銅、鉄、亜鉛などの触媒作用を有する金属を光触媒粒子の表面に備えたものがよい。
【0025】
また、好適には、前記光触媒は、光触媒固定部材の表面を全部覆っている状態でもよいが、一部を覆っている状態でも差し支えない。
【0026】
また、好適には、前記紫外線放射ランプは、前記光触媒の光触媒活性に寄与する波長たとえば350nm〜400nmの波長を含む光(紫外線)を放射するものであればよく、ブラックライトとして市販されているランプの他に、水銀ランプ、キセノンランプ、蛍光灯などからでも構成され得る。
【0027】
また、好適には、前記水溶性クーラントは、エマルジョン型、ソリュブル型、ケミカル型、シンセティック型のいずれでもよい。防錆剤、界面活性剤、および防腐剤が水に溶解或いは懸濁させられることにより構成される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、発明の具体例を説明する目的の範囲で、図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0029】
図1は、本発明の一実施例の水溶性クーラント光浄化装置(以下、光浄化装置という)10を含む水溶性クーラント浄化システム12の要部を概略示している。図1において、切削加工機或いは研削加工機として例示される研削盤14から還流した水溶性クーラント16は、防錆剤、界面活性剤、防腐剤が水に溶解されたシンセティック型であり、マグネットセパレータ18において主な切粉が80%程度除去された後、第1タンク20内に貯留される。この第1タンク20に設けられた第1ポンプ22は、還流された第1タンク20内の水溶性クーラント16を第2タンク24へたとえば90%程度の割合で連続的に送るとともに、光浄化装置10の受槽26へはたとえば10%程度の割合で連続的に送る。
【0030】
光浄化装置10において浄化された水溶性クーラント16は上記第2タンク24に還流させられるとともに、光浄化装置10の受槽26において分離された切粉を含む水溶性クーラント16はマグネットセパレータ18に還流させられる。
【0031】
上記第2タンク24には、水溶性クーラント16を冷却するためのクーラー28と、第2タンク24の水溶性クーラント16を前記研削盤14へ圧送するための第2ポンプ30が設けられている。第2ポンプ30からは、たとえば100リットル/分程度の流量で水溶性クーラント16が研削盤14へ連続的に圧送され、略同容積の水溶性クーラント16が研削盤14から第1タンク20へ還流させられる。上記水溶性クーラント浄化システム12における水溶性クーラント16の総量は約1000リットルであるため、光浄化装置10を通した量により100分程度で入れ替わることになる。
【0032】
したがって、第2タンク24から研削盤14、マグネットセパレータ18、および第1タンク20を経て第2タンク24へ戻る流通路が、水溶性クーラント16の主循環路に対応し、第1タンク20から光浄化装置10を経て第2タンク24或いはマグネットセパレータ18へ戻る流通路が副循環路に対応している。
【0033】
光浄化装置10は、上記副循環路に設けられて水溶性クーラント16が通過させられる上記受槽26、光浄化槽32、紫外線放射ランプ34、および貯留槽36を備えている。図2に詳しく示すように、第1タンク20内の水溶性クーラント16が供給される受槽26は、その深さ方向の中間位置において光浄化槽32と接続されている。受槽26内では、水溶性クーラント16に含まれる微細な浮上切粉(スカム)が泡を伴って浮上し、同時に比較的大きな切粉が沈殿することにより分離されるので、受槽26内の水溶性クーラント16のうちの上記微細な浮上切粉および沈殿切粉を含まない深さ方向の中間位置の水溶性クーラント16が矢印に示すように光浄化槽32へ供給される。
【0034】
光浄化槽32は、その上流部から下流部に向かうに従って深さが次第に浅くなりその後に一定の深さとなるように構成されており、パンチングメタル或いは金網により構成される一定深さの3つのバスケット40a、40b、40cが、水深よりも数mm程度たとえば1〜5mm程度僅かに低い高さを備えた堰板41の間に着脱可能に嵌め入れられている。それらバスケット40a、40b、40c内には、5乃至6mmφ程度の多孔質セラミックス粒42が敷き詰められることにより形成された、略一定厚みの光触媒固定部材層44が配設されている。多孔質セラミックス粒42は、たとえば砥粒がビトリファイドボンドにより結合された連通気孔を有し且つ40%程度の気孔率を有するビトリファイド砥石組織を備え、光触媒として機能する酸化チタンがその表面に担持されている。この多孔質セラミックス粒42は、好適には、廃棄されたビトリファイド砥石を粉砕することにより得られたものである。
【0035】
上記多孔質セラミクッス粒42は、たとえば、酸化チタンの微粉末をエタノール、水、およびSi系の結着剤であるオルガノシロキサンとpH1.5程度の酸性度において混合することにより調整された酸化チタンが分散したゾル溶液に繰り返し浸漬することにより適切な厚みにコーティングされた後、室温において2時間程度乾燥することにより、酸化チタンがその凹凸表面および気孔の内面に固着されている。
【0036】
光浄化槽32は、矢印に示すように、上記のようにして多孔質セラミックス粒42がバスケット40a、40b、40c内に敷き詰められて光触媒固定部材層44が配設されることにより、受槽26からの水溶性クーラント16がその光触媒固定部材層44の上流側部位の下側から上側へ通過させられた後、その光触媒固定部材層44の下流側部位の上側を通過させられるように構成されている。紫外線放射ランプ34は、光浄化槽32の水溶性クーラント16の水面と平行となるように、カバー46の内側において複数本が並列的に配設されており、光浄化槽32の下流側部位において光触媒固定部材層44の下流側部位の上側を通過させられる水溶性クーラント16およびその光触媒固定部材層44が紫外線(破線の矢印に示す)にて照射されるようになっている。
【0037】
すなわち、図3に詳しく示すように、光浄化槽32は、紫外線放射ランプ34により紫外線が照射される部分において、水溶性クーラント16の水面から光触媒固定部材層44までの平均深さが2mm以下となるように多孔質セラミックス粒42が配設されている。この平均深さは、たとえば水溶性クーラント16の単位時間当たりの流量を流速および光浄化槽32の幅寸法で割ることによって算出される。
【0038】
上記光浄化槽32における水溶性クーラント16の平均深さは重要であり、2mmを超えると光触媒の触媒活性が十分に得られず、浄化能率が得られない。多孔質セラミックス粒42に担持された酸化チタンに到達する紫外線の強度が低下するためと考えられる。反対に、光浄化槽32における水溶性クーラント16の平均深さが浅くなるほど光触媒の触媒活性が高められるけれども、水溶性クーラント16の処理流量が低下して十分な浄化処理能率が得られ難くなる。このため、0.5〜2mmの平均深さが望ましい。
【0039】
上記光浄化槽32内における表層部の水溶性クーラントすなわち光浄化された水溶性クーラント16は、貯留層36に貯留された後、第2タンク24へ自重により供給される。また、前記受層26内の水溶性クーラント16のうち、上層部における微細な浮上切粉(スカム)を含む水溶性クーラント16はオーバーフローにより分離槽48に受けられる。また、受層26内の水溶性クーラント16のうち沈殿した比較的大きな切粉を含む水溶性クーラント16は開閉弁50が所定周期で開かれることによりその分離槽48に供給される。分離槽48水溶性クーラント16は開閉弁52が所定周期で開かれることによりマグネットセパレータ18へ戻される。
【0040】
図4および図5は、以上のように構成された光浄化槽32を用いた水溶性クーラント浄化システム12を用いて、本発明者が行った好気性菌および嫌気性菌の数の増加試験の結果を示している。図4および図5は、光浄化槽32を用いた水溶性クーラント浄化システム12における好気性菌の数N1 および嫌気性菌の数N2 の変化を、光浄化槽32を用いない点のみが異なる従来の水溶性クーラント浄化システムの場合と比較して、それぞれ示す図であり、光浄化槽32を用いたときの菌数は丸印の測定点を結ぶ実線により示され、光浄化槽32を用いないときの菌数は□印の測定点を結ぶ1点鎖線により示されている。図4および図5に示すように、光浄化槽32を用いたときには菌数は極めて低いまま変化しないが、光浄化槽32を用いないときには所定日数が経過すると菌数の増加が開始する。すなわち、光浄化槽32による光浄化作用により水溶性クーラント16に発生しやすいバクテリア等の菌の発生が抑制されて浄化されることを示している。上記の菌は、所謂イグロスと称される汚泥状態をなし、フィルタの目図まりの原因となっていた。
【0041】
図6は、前記光浄化槽32を用いた水溶性クーラント浄化システム12を用いて、本発明者が行った臭気の発生試験の結果を示している。図6の縦軸は、オドセンサによる測定結果を示している。図6において、光浄化槽32のカバー46内の臭気は丸印の測定点を結ぶ実線により示され、外気の臭気は◇印の測定点を結ぶ1点鎖線により示されている。新たな水溶性クーラントを用いても、その臭気は存在するが、日数の経過に伴ったその臭気が零に向かって減少する。上記の臭気は、バクテリア等の菌の存在が原因と考えられる。外気の臭気は当初から低く、日数の経過に伴って変化しない。
【0042】
図7は、前記光浄化槽32を用いた水溶性クーラント浄化システム12を用いて、本発明者が行った油分の増加試験の結果を示している。図7の縦軸は、水溶性クーラントに研削盤14等から混入する油分に対応するN−ヘキサン濃度を示している。図7において、光浄化槽32を用いたときのN−ヘキサン濃度は丸印の測定点を結ぶ実線により示され、光浄化槽32を用いないときのN−ヘキサン濃度は□印の測定点を結ぶ1点鎖線により示されている。図7に示すように、光浄化槽32を用いたときにはN−ヘキサン濃度は低いまま変化しないが、光浄化槽32を用いないときには所定日数が経過するとN−ヘキサン濃度が増加する。すなわち、光浄化槽32による光浄化作用により研削盤14等から混入する油分が浄化されることを示している。
【0043】
上述のように、本実施例の水溶性クーラント光浄化装置10によれば、水溶性クーラントの循環路の一部である光浄化槽32において、表面に光触媒が担持された多孔質セラミックス粒(光触媒固定部材)42が浸漬状態で配設されているので、水溶性クーラント16がその光浄化槽32内を通過させられるとき、その水溶性クーラント16の上方からその水溶性クーラント16を通して紫外線放射ランプ34から多孔質セラミックス粒42に向かって紫外線が照射され、その多孔質セラミックス粒42に担持された光触媒により水溶性クーラント16が浄化される。このため、微小な切粉などの塵が流体中に含まれていたとしても、多孔質セラミックス粒42に担持された光触媒がその塵に触れて磨滅することが好適に防止されて高い耐久性が得られる。また、紫外線が水溶性クーラント16を通して光触媒に対して照射されるため、従来の担体を通した背面照射に比較して、光触媒の高い浄化効率が得られ、水溶性クーラント16の寿命がながくなる。さらに、多孔質セラミックス粒42は、焼結により得られる通常のセラミックス材料から構成され得るため、紫外線に透明な材料で多数本の流体流通路を有する場合に比較して製造工程が簡単となり、光浄化装置が安価となる。
【0044】
また、本実施例によれば、多孔質セラミックス粒(光触媒固定部材)42は、連通気孔を有する多孔質セラミックス体であることから、多孔質セラミックス粒42は焼結により得られる通常のセラミックス材料から構成され得るので、安価に製造される。この多孔質セラミックス粒42は、たとえば、粉砕し且つ整粒された陶磁器片、ビトリファイド砥石片、或いはレジノイド砥石片の表面に光触媒が固定されたものでも利用され得るので、廃棄陶磁器や廃棄砥石が再利用される利点がある。
【0045】
また、本実施例によれば、多孔質セラミックス粒42は、無機粒子がガラス質結合剤により相互に固着された粒状体である。無機粒子は、アルミナなどのセラミックス粒子或いは炭化珪素粒子がガラス質の無機結合剤によって結合されたものであってもよいので、安価に製造される。
【0046】
また、本実施例によれば、光浄化槽32は、多孔質セラミックス粒42が所定の厚みに配設された光触媒固定部材層44を有し、水溶性クーラント16をその光触媒固定部材層44の上流側部位の下側から上側へ通過させた後、その光触媒固定部材層44の下流側部位の上側を通過させるものである。このため、水溶性クーラント16が光触媒固定部材層44の上流側部位の下側から上側へ通過させられることにより、微小な切粉などの水溶性クーラント16中に含まれる塵がある程度除去されて、光触媒固定部材層44の下流側部位の上側を通過させられるので、紫外線の照射を受ける工程では、塵の堆積によって光触媒に対する紫外線の照射が損なわれることが好適に防止される。
【0047】
また、本実施例によれば、光浄化槽32は、紫外線放射ランプ34により紫外線が照射される部分において、水溶性クーラント16の水面から光触媒固定部材層44までの平均深さが2mm以下となるように多孔質セラミックス粒42が配設されたものであるので、紫外線が2mm以下の平均深さの水溶性クーラントを通して多孔質セラミックス粒42に担持された光触媒に照射されることにより、高い浄化効率が得られる。
【0048】
また、本実施例によれば、水溶性クーラント16を受けるために光浄化槽32の上流側に設けられ、その受けられた水溶性クーラント16のうち深さ方向の中間に位置する水溶性クーラント16を光浄化槽32に供給する受槽26を有するものであることから、水溶性クーラント16を受ける受槽26において、浮遊する比較的細かな塵と沈殿する比較的大きな塵とが含まれない深さ方向の中間に位置する水溶性クーラント16が光浄化槽32に供給される利点がある。
【0049】
また、本実施例によれば、光浄化槽32内の表層部の水溶性クーラント16を受けて下流側へ送出するための貯留槽36を有するものであるので、塵と菌が除去されてきれいに浄化された光浄化槽36内の表層部の水溶性クーラント16がその下流側の第2タンク24へ送出される。
【0050】
また、本実施例によれば、水溶性クーラント光浄化装置10において、光触媒は酸化チタンから構成されたものである。このようにすれば、化学的に安定した光触媒が用いられる利点がある。
【0051】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例の水溶性クーラント光浄化装置を含む水溶性クーラント浄化システムが研削盤に設けられた場合の構成を示す図である。
【図2】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の構成を拡大して説明するための断面図である。
【図3】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の要部を拡大して説明する要部断面図である。
【図4】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の浄化能力を示すために、その水溶性クーラント光浄化装置を備えた水溶性クーラント浄化システムにおける好気性菌の数の変化を、水溶性クーラント光浄化装置を備えない水溶性クーラント浄化システムの場合と対比して示す図である。
【図5】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の浄化能力を示すために、その水溶性クーラント光浄化装置を備えた水溶性クーラント浄化システムにおける嫌気性菌の数の変化を、水溶性クーラント光浄化装置を備えない水溶性クーラント浄化システムの場合と対比して示す図である。
【図6】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の浄化能力を示すために、その水溶性クーラント光浄化装置を備えた水溶性クーラント浄化システムにおける臭気の変化を、外気の臭気と対比して示す図である。
【図7】図1の実施例の水溶性クーラント光浄化装置の浄化能力を示すために、その水溶性クーラント光浄化装置を備えた水溶性クーラント浄化システムにおける水溶性クーラント中のN−ヘキサンの濃度の変化を、水溶性クーラント光浄化装置を備えない水溶性クーラント浄化システムの場合と対比して示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10:水溶性クーラント光浄化装置(光浄化装置)
16:水溶性クーラント
26:受槽
32:光浄化槽
34:紫外線放射ランプ
36:貯留槽
42:多孔質セラミックス粒(光触媒固定部材)
44:光触媒固定部材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環路を循環させられる水溶性研削液を浄化するための水溶性クーラント光浄化装置であって、
前記循環路に設けられて前記水溶性クーラントが通過させられる光浄化槽と、
表面に光触媒が担持され、前記水溶性クーラント内に浸漬された状態で前記光浄化槽内に配設された多孔質の光触媒固定部材と、
前記水溶性クーラントの上方から該水溶性クーラントを通して該光触媒固定部材に向かって紫外線を照射する紫外線放射ランプと
を、含むことを特徴とする水溶性クーラント光浄化装置。
【請求項2】
前記光触媒固定部材は、連通気孔を有する多孔質セラミックス体である請求項1の水溶性クーラント光浄化装置。
【請求項3】
前記多孔質セラミックス体は、無機粒子がガラス質結合剤又は樹脂結合剤により相互に固着された粒状体である請求項2の水溶性クーラント光浄化装置。
【請求項4】
前記光浄化槽は、前記光触媒固定部材が所定の厚みに配設された光触媒固定部材層を有し、前記水溶性クーラントを該光触媒固定部材層の上流側部位の下側から上側へ通過させた後、該光触媒固定部材層の下流側部位の上側を通過させるものである請求項1乃至3のいずれかの水溶性クーラント光浄化装置。
【請求項5】
前記光浄化槽は、前記紫外線放射ランプにより紫外線が照射される部分において、前記水溶性クーラントの水面から前記光触媒固定部材層までの平均深さが2mm以下となるように前記光触媒固定部材が配設されたものである請求項1乃至4のいずれかの水溶性クーラント光浄化装置。
【請求項6】
前記水溶性クーラントを受けるために前記光浄化槽の上流側に設けられ、該受けた水溶性クーラントのうち深さ方向の中間に位置する水溶性クーラントを前記光浄化槽に供給する受槽を有するものである請求項1乃至5のいずれかの水溶性クーラント光浄化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−231444(P2006−231444A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47964(P2005−47964)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】