説明

水溶性ポリアミド水溶液の製造法

【課題】回分式反応器を用いて、(加熱開始〜重合〜冷却〜水溶液化まで)のプロセスを経て、水溶性ポリアミドの水溶液を製造するに際して、総所要時間を短縮して、生産効率の向上を図り、更に品質管理の点でも安定した生産を可能にする新規な水溶性ポリアミドの水溶液の製造法を提供すること。
【解決手段】回分式反応器で水溶性ポリアミドの水溶液を製造する方法であって、下記の(イ)から(ハ)の工程を有している水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(イ)回分式反応器で水溶性ポリアミドを加熱重合法により得る工程、
(ロ)回分式反応器内の前記(イ)工程で得られた水溶性ポリアミドに水を添加して、該水の蒸発潜熱によって該水溶性ポリアミドを170℃以下まで冷却する冷却工程、
(ハ)該(ロ)工程で冷却された水溶性ポリアミドに水を添加して該水溶性ポリアミドを水溶液化する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料や防曇、防滴処理剤や繊維集束剤などに使用される水溶性ポリアミド水溶液の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖または側鎖に第3級アミンをもつポリアミドや、主鎖にポリアルキレングリコール成分をもつ水溶性ポリアミドは、その水に溶けるという特質を活かして各種の塗料や各種処理剤に使用されている。
【0003】
例えば、水溶性ポリアミドの水溶液を、ビニルハウスやエアーコンディショナーの熱交換機の防曇、防滴処理剤に使用されることが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
このような水溶性ポリアミドの製造に際して、従来は、重合反応が完了したポリアミドを重合缶からストランド状態やシート状態に押し出し、ペレタイザーでペレット状態にカッティングしたペレットと水を混合し、加熱、攪拌などにより、ポリアミドを水に溶解し、水溶液とする方法が行われていた。しかし、該方法では、水溶性ポリアミドは親水性が極めて大きいために、水中での加熱時にペレット表面が粘着性を帯びペレット同士が粘着し塊状態になる。そのため、重量あたりの表面積は小さくなり、水に対する溶解速度が極めて小さくなったり、粘着性を帯びたポリアミドが溶解装置の壁や底部や攪拌装置などに粘着し、攪拌効果が小さくなり、溶解が不可能になり水溶性ポリアミド水溶液の製造が困難となる場合があった。
【0005】
また、溶解に長時間を要するときは、その溶解中にポリアミドが加水分解してしまい、処理剤としての効果が低下したり、ポリアミドが酸化分解し色調が悪くなったりすることがあり、処理剤としての性能・品質が低下するという不都合があった。
【0006】
このような不都合を招くことがなく、品質の優れた水溶性ポリアミドの水溶液を効率良く製造する方法として、回分式反応器で加熱重合させて得られた水溶性ポリアミドに、該ポリアミドの軟化点以上の温度で、反応器に水を添加して攪拌することにより、ポリアミドの水溶液を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかし、該方法は、加熱開始から、重合工程、冷却、水溶液化工程までの全体工程でみれば、まだ該全体工程にかかる時間が長く、生産性の改善と生産プロセスの改善と製品品質の改善が望まれるものであった。特に、特許文献2に記載の方法では、加熱重合後の水溶性ポリアミドの冷却は、通常は回分式反応器での自然放冷によるものであったが、この自然冷却による場合は、全体所要時間も長く外気に影響され時間のバラツキが発生しやすい。また、放冷中であっても、余熱で重合反応が進行するため放冷時間バラツキに起因するポリマ品質の変動などの不都合を招くことも多かった。
【特許文献1】特開昭60−219285号公報
【特許文献2】特開平11−166121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、回分式反応器を用いて、(加熱開始〜重合〜冷却〜水溶液化まで)のプロセスを経て、水溶性ポリアミドの水溶液を製造するに際して、総所要時間を短縮して、生産効率の向上を図り、更に品質管理の点でも安定した生産を可能にする新規な水溶性ポリアミドの水溶液の製造法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の水溶性ポリアミド水溶液の製造法は、以下の(1)の構成からなるものである。
【0010】
(1)回分式反応器で水溶性ポリアミドの水溶液を製造する方法であって、下記の(イ)から(ハ)の工程を有していることを特徴とする水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(イ)回分式反応器で水溶性ポリアミドを加熱重合法により得る工程、
(ロ)回分式反応器内の前記(イ)工程で得られた水溶性ポリアミドに水を添加して、該水の蒸発潜熱によって該水溶性ポリアミドを170℃以下まで冷却する冷却工程、
(ハ)該(ロ)工程で冷却された水溶性ポリアミドに水を添加して該水溶性ポリアミドを水溶液化する工程。
【0011】
また、かかる本発明の水溶性ポリアミド水溶液の製造方法において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(5)のいずれかの構成からなるものである。
【0012】
(2)前記(ロ)の冷却工程を、該冷却工程における系内重量変化量が10%以内であるように水の添加量と添加速度を制御して冷却を行うことを特徴とする上記(1)記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
ここで、冷却工程における系内重量変化量(%)
={(水添加により170℃まで冷却された時点での系内総重量−水添加直前の系内総重量)/水添加直前の系内総重量}×100
なお、系内総重量とは、回分式反応器内の水溶性ポリアミドと水の総合計重量である。
【0013】
(3)前記(ロ)の冷却工程で使用する水が、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量において、それぞれ以下を満足するものであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(a)ナトリウム≦1.0ppm、
(b)マグネシウム≦0.5ppm、
(c)珪素≦2.0ppm、
(d)カルシウム≦1.0ppm、
【0014】
(4)前記(ハ)の水溶性ポリアミドの水溶液化工程で使用する水が、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量において、それぞれ以下を満足するものであることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(a′)ナトリウム≦1.0ppm、
(b′)マグネシウム≦0.5ppm、
(c′)珪素≦2.0ppm、
(d′)カルシウム≦1.0ppm、
【0015】
(5)水溶性ポリアミドが、アミノエチルピペラジンおよび/またはビスアミノプロピルポリエチレングリコールとアジピン酸の単位を有する重合体であることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の水溶性ポリアミドの水溶液の製造法。
【発明の効果】
【0016】
請求項1にかかる本発明の水溶性ポリアミド水溶液の製造方法によれば、水溶性ポリアミドの水溶液を、回分式反応器を用いて、(加熱開始〜重合〜冷却〜水溶液化まで)のプロセスを経て製造するに際して、従来、一般的な冷却方法として採用されてきた自然放冷による冷却を行って、(加熱開始〜重合〜冷却〜水溶液化まで)を行う場合のトータル重合時間と比較して、約15〜30%程度短縮することができるものである。
【0017】
この結果、従来の自然放冷により冷却を行っていた場合に比べて生産性は向上し、また、積極冷却を行うことにより品質管理面でも安定した生産が可能となる。
【0018】
特に、請求項2、3、4または5にかかる本発明によれば、品質面でより優れた水溶性ポリアミド水溶液を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、更に詳しく本発明の水溶性ポリアミドの製造法について説明する。なお、本発明において「重量」とは「質量」を意味するものである。
【0020】
本発明の水溶性ポリアミドを製造する方法は、回分式反応器で水溶性ポリアミドの水溶液を製造する方法であって、下記の(イ)から(ハ)の工程を有していることを特徴とする。
【0021】
(イ)回分式反応器で水溶性ポリアミドを加熱重合法により得る工程、
(ロ)回分式反応器内の前記(イ)工程で得られた水溶性ポリアミドに水を添加して、該水の蒸発潜熱によって該水溶性ポリアミドを170℃以下まで冷却する冷却工程、
(ハ)該(ロ)工程で冷却された水溶性ポリアミドに水を添加して該水溶性ポリアミドを水溶液化する工程。
【0022】
まず、上述(イ)の工程から説明すると、本発明において、水溶性ポリアミドとは、常温で水に溶解するポリアミドのことをいい、このような水溶性ポリアミドは、主鎖または側鎖に第3級アミンを持たせたり、主鎖にポリアルキレングリコール成分を持たせることにより達成できる。第3級アミンを主鎖に含むモノマとしては、アミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジンなどが、また、側鎖に第3級アミンを含むモノマとしてはα−ジメチルアミノε−カプロラクタムなどがある。
【0023】
主鎖にポリアルキレングリコールを持たせる成分としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどがあるが、水溶性の点ではポリエチレングリコールが好ましい。ポリアミドの主鎖にポリアルキレン成分を含有させるためには、ポリアルキレングリコールの両末端をジアミンやジカルボン酸に変性したものが用いられる。ジアミンに変性したものの例としては、ビスアミノプロピルポリエチレングリコール、ジカルボン酸に変性したものの例としてはビスカルボキシポリエチレングリコールが挙げられる。この場合ポリエチレングリコールの分子量は、特に限定されないが、良好な水溶性を実現する点から分子量は約4000以下のものを用いるのが好ましい。
【0024】
水溶性成分としてジアミンに変性したものを使用する場合は、それと実質上当モルのジカルボン酸を使用することが好ましい。ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などがある。水溶性成分として、ジカルボン酸に変性したものを使用する場合は、それと実質上当モルのジアミンを使用することが好ましい。ジアミンの例としては、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンやパラアミノシクロヘキシルメタンなどの脂環族ジアミンやメタキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどがある。
【0025】
ジアミンとジカルボン酸を使用する場合は、一般的には、両成分を実質上当モルで反応させた塩として使用するのが好都合である。なお、「実質上当モル」とは、ジアミンとジカルボン酸のモル数の比率が1からはずれるに従い、重合速度が遅くなり、かつ、到達重合度も低下する傾向にある。したがって、ここでいう「実質上当モル」とは、これらの影響が実質的に認められない範囲であって、通常、そのずれ程度は10%以下のことを言う。
【0026】
これらの水溶性付与モノマは、まず、単独で重合されてもよいが、多くの場合、水溶性や他の物性とのバランスをとるために、共重合する場合が多い。共重合成分としてはε−カプロラクタムなどのラクタム類、アミノカプロン酸などのアミノ酸類、前述のジカルボン酸類やジアミン類が使用される。
【0027】
重合は、回分式反応器を使用して行う。内圧は常圧でもよく加圧でもよいが、一般的にはモノマの系外への留出を防止し、かつ反応速度を大きくするために、加圧下で行うのが好ましい。重合温度はモノマの種類により異なるが、通常は220℃〜280℃の範囲内が好ましい。
【0028】
さらに、本発明において、前記(ロ)の冷却工程は、系内の水溶性ポリアミド液中に水を添加し、該水の蒸発潜熱により冷却させることにより行うものである。
【0029】
水の添加は、特に限定されるものではないが、通常は、適度な攪拌を行いながら、水を連続的もしくは不連続的に滴下していくことや、連続した水流(水柱流)として注ぐことにより行うものである。
【0030】
本発明では、該添加された水の蒸発潜熱により冷却を行うものなので、水溶性ポリアミド液の全体中に該水が行きわたるように攪拌することが重要である。
【0031】
かかる(ロ)の冷却工程は、水の添加量・添加速度を、水の蒸発量(冷却効果)と冷却されつつある水溶性ポリアミドの温度との関係で適度なものとすることが重要であり、具体的には、本発明者等の知見によれば、該冷却工程における系内重量変化量が10%以内であるように水の添加量と添加速度を制御して冷却を行うことが好ましい。ここで、冷却工程における系内重量変化量(%)とは、以下の式で算出される値である。
冷却工程における系内重量変化量(%)
={(水添加により170℃まで冷却された時点での系内総重量−水添加直前の系内総重量)/水添加直前の系内総重量}×100
【0032】
本発明では、上記式において、冷却工程の開始前の系内総重量と、冷却工程完了時点での系内総重量の関係を制御するものであり、冷却工程の完了時点は、水添加により170℃まで冷却された時点をもって冷却が完了したものとしている。
【0033】
本発明において、系内総重量とは、回分式反応器内の水溶性ポリアミドと水の総合計重量のことである。なお、系内重量変化量が10%を超える場合には、水の添加が、大量すぎるか早すぎる場合であり、反応器内の位置の相違に基づく品質のムラ(局所的な急速な冷却等)などを招くことがあり好ましくない。
【0034】
次いで、上述(ロ)工程で冷却された水溶性ポリアミドに水を添加して該水溶性ポリアミドを水溶液化する工程を実施すれば良く、この工程は前述した特許文献2において提案されている方法などにより行えばよい。
【0035】
本発明において、(ロ)の冷却工程で使用する水は、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量において、それぞれ以下を満足するものであることが好ましい。
(a)ナトリウム≦1.0ppm、
(b)マグネシウム≦0.5ppm、
(c)珪素≦2.0ppm、
(d)カルシウム≦1.0ppm、
【0036】
また、(ハ)の水溶性ポリアミドの水溶液化工程で使用する水も同様であり、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量はそれぞれ以下を満足するものであることが好ましい。
(a′)ナトリウム≦1.0ppm、
(b′)マグネシウム≦0.5ppm、
(c′)珪素≦2.0ppm、
(d′)カルシウム≦1.0ppm、
【0037】
ナトリウム等の含有量が上記した範囲よりも多いときには、配管系内などでスケールが発生することで、製品混入による外観の悪化や後工程(被処理体であるフィルムや成型体への塗布処理工程等)での操業性や生産性が悪化することがあるので注意を要する。
【0038】
本発明において、水溶性ポリアミドが、アミノエチルピペラジンおよび/またはビスアミノプロピルポリエチレングリコールとアジピン酸の単位を有する重合体であることが、安定的に高品質の水溶性ポリアミドを製造することを実現する上で好ましい。
【0039】
本発明方法で、(ロ)の冷却工程で用いられる水の温度は、特に限定されるものではなく、冷却効果が認められるものであればよく、上限は60〜70℃以下程度から、下限は室温から15℃乃至20℃程度まで使用することが可能である。
【0040】
本発明者らの各種知見によれば、本発明方法を実施するに際し、全体工程の所要時間を約2割ほど減少できるが、冷却工程の所要時間だけでみれば1/2〜1/4程度まで減少させることも可能である。そのように冷却時間を、従来の自然放冷による場合と比較して1/2〜1/4程度の短時間で行う場合には、工程(イ)に要する時間(常圧重合時間)を長めに設定することが好ましい。通常、長めにすることにより、ポリマ特性値は、自然放冷によって冷却させていた従来処方と同様のレベルのものを得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の効果を実施例をもって説明する。
なお、下記の実施例と比較例中のポリマ水溶液の色調は、JIS K8001−1998の「液体試料の外観 5.1(2)項」に記載されている方法で測定したものである。
【0042】
また、相対粘度とは、70%抱水クロラール溶液25mlに、減圧乾燥して固化させたポリマ0.25gを溶解し、キャピラリー式ガラス粘度計で25℃恒温での落下時間を求めブランク溶液との時間比で求めたものである。本発明により得られる水溶性ポリアミドはかかる測定法により得られる相対粘度値が、概して1.50〜5.00の範囲内にあるものであり、使用目的に応じた耐久性を付与し得る点で良好なものであって、さらに、より良好に製造されたものでは、2.00〜3.00の範囲内にあるものである。
【0043】
実施例1
アミノエチルピペラジンとアジピン酸からなる塩の50%水溶液200kgを、ダブルヘリカル攪拌機付きの容量400Lの回分式重合缶に仕込み、内部を窒素置換後、250℃で1MPaの加熱・加圧下、攪拌しながら重合した。その後、系内を常圧まで放圧した後、さらに下記の時間、常圧で重合し反応を完結させた。
【0044】
このとき、加熱開始から常圧重合終了までの(イ)工程の所要時間は11.9時間であった。その内わけは、加圧重合に要した時間が5.4時間、常圧重合時間6.5時間であった。
【0045】
次に、加熱を停止し、缶内に上記(a)〜(d)を満足するイオン交換水を投入して170℃まで冷却させる(ロ)の冷却工程を行った。該イオン交換水の添加は、定量ポンプ(ローラーチューブポンプ)を用いて連続的に80g/分の速度で滴下させて行い、攪拌は、ダブルヘリカル攪拌機を用いて、常時、10rpmで継続運転しながら行った。この(ロ)の冷却工程のイオン交換水の投入直前と170℃到達時点(冷却完了時点)での系内重量変化率は2.3%であった。また、該(ロ)の冷却工程に要した時間は、3.2時間であった。
【0046】
次に、10rpmで攪拌しながら上記(a′)〜(d′)を満足する88kgの水を0.5時間かけて添加した。該添加終了後も、ポリマ水溶液の濃度ムラ発生を抑制するため攪拌を3.5時間続行して、水溶性ポリアミド水溶液を製造した。
【0047】
その後、攪拌を停止し、重合缶下部から得られた水溶性ポリアミド水溶液を取り出した。得られた水溶液の濃度は50%であり、未溶解ポリアミドは存在せず、均一な良好な溶液であった。また、前記した方法で測定した相対粘度は2.22であった。また、水を加えてポリアミド濃度を10%に希釈した溶液の色調は20であり、品質面でも良好であった。
この製造に要した時間は全部で19.1時間であった。
【0048】
比較例1
実施例1と同じ原料と同じ方法で加熱・加圧下、重合を行った。加熱開始から常圧重合終了までの(イ)工程の所要時間は8.9時間であった。その内わけは、加圧重合に要した時間は実施例1と同様に5.4時間、常圧重合時間は3.5時間であった。
【0049】
次に、加熱を停止し、自然放冷で170℃まで冷却させる冷却工程を行った。この冷却工程に要した時間は、12.9時間であった。
【0050】
次に、10rpmで攪拌しながら上記(a′)〜(d′)を満足する88kgの水を0.5時間かけて添加し、該添加した後も実施例1と同様に、攪拌を3.5時間続行して水溶性ポリアミド水溶液を製造した。
【0051】
その後、攪拌を停止し、重合缶下部から得られた水溶性ポリアミド水溶液を取り出した。得られた水溶液の濃度は50%であり、未溶解ポリアミドは存在せず、均一な良好な溶液であった。また、前記した方法で測定した相対粘度は2.21であった。また、水を加えてポリアミド濃度を10%に希釈した溶液の色調は20であり、品質面でも良好であった。
この製造に要した時間は全部で全部で25.8時間であった。
【0052】
実施例2
アミノエチルピペラジンとアジピン酸からなる塩の50%水溶液160kgとビスアミノプロピルポリエチレングリコールとアジピン酸からなる塩の50%水溶液40kgを、実施例1と同じ方法で加熱・加圧下重合を行った。加熱開始から常圧重合終了までの(イ)工程の所要時間は13.6時間であった。その内わけは、加圧重合に要した時間が6.6時間、常圧重合時間7.0時間であった。
【0053】
次に、加熱を停止し、実施例1と同じ方法で170℃まで冷却させる(ロ)の冷却工程を行った。この(ロ)の冷却工程のイオン交換水の投入直前と170℃到達時点(冷却完了時点)での系内重量変化率は1.2%であった。また、該(ロ)の冷却工程に要した時間は3.0時間であった。
【0054】
次に、10rpmで攪拌しながら上記(a′)〜(d′)を満足する88kgの水を0.5時間かけて添加し、該添加完了した後も、実施例1と同様に攪拌を3.5時間続行して水溶性ポリアミド水溶液を製造した。
【0055】
その後、攪拌を停止し、重合缶下部から得られた水溶性ポリアミド水溶液を取り出した。また、前記した方法で測定した相対粘度は2.35であった。また、水を加えてポリアミド濃度を10%に希釈した溶液の色調は20であり品質面でも良好であった。
この製造に要した時間は全部で20.6時間であった。
【0056】
比較例2
実施例2と同じ原料を用いて実施例1と同じ方法で加熱・加圧重合を行った。加熱開始から常圧重合終了までの(イ)工程の所要時間は10.1時間であった。その内わけは、加圧重合に要した時間は6.6時間、常圧重合時間は3.5時間であった。
【0057】
次に、加熱を停止し、自然放冷で170℃まで冷却させる冷却工程を行った。この冷却工程に要した時間は12.3時間であった。
【0058】
次に、10rpmで攪拌しながら上記(a′)〜(d′)を満足する88kgの水を0.5時間かけて添加し、該添加した後も実施例1と同様に、攪拌を3.5時間続行して水溶性ポリアミド水溶液を製造した。
【0059】
その後、攪拌を停止し、重合缶下部から得られた水溶性ポリアミド水溶液を取り出した。また、前記した方法で測定した相対粘度は2.36であった。また、水を加えてポリアミド濃度を10%に希釈した溶液の色調は20であり、品質面で良好であった。
この製造に要した時間は全部で26.4時間であった。
【0060】
以上の実施例1と比較例1および実施例2と比較例2を比較すると、本発明法による場合、従来用いられている自然放冷により冷却を行うプロセスによる場合と比較して、品質面では遜色のない優れた水溶性ポリアミド水溶液を、従来手法よりもより短時間で生産することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回分式反応器で水溶性ポリアミドの水溶液を製造する方法であって、下記の(イ)から(ハ)の工程を有していることを特徴とする水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(イ)回分式反応器で水溶性ポリアミドを加熱重合法により得る工程、
(ロ)回分式反応器内の前記(イ)工程で得られた水溶性ポリアミドに水を添加して、該水の蒸発潜熱によって該水溶性ポリアミドを170℃以下まで冷却する冷却工程、
(ハ)該(ロ)工程で冷却された水溶性ポリアミドに水を添加して該水溶性ポリアミドを水溶液化する工程。
【請求項2】
前記(ロ)の冷却工程を、該冷却工程における系内重量変化量が10%以内であるように水の添加量と添加速度を制御して冷却を行うことを特徴とする請求項1記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
ここで、冷却工程における系内重量変化量(%)
={(水添加により170℃まで冷却された時点での系内総重量−水添加直前の系内総重量)/水添加直前の系内総重量}×100
なお、系内総重量とは、回分式反応器内の水溶性ポリアミドと水の総合計重量である。
【請求項3】
(ロ)の冷却工程で使用する水が、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量において、それぞれ以下を満足するものであることを特徴とする請求項1または2記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(a)ナトリウム≦1.0ppm、
(b)マグネシウム≦0.5ppm、
(c)珪素≦2.0ppm、
(d)カルシウム≦1.0ppm、
【請求項4】
(ハ)の水溶性ポリアミドの水溶液化工程で使用する水が、ナトリウム、マグネシウム、珪素、カルシウムの含有量において、それぞれ以下を満足するものであることを特徴とする請求項1、2または3記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。
(a′)ナトリウム≦1.0ppm、
(b′)マグネシウム≦0.5ppm、
(c′)珪素≦2.0ppm、
(d′)カルシウム≦1.0ppm、
【請求項5】
水溶性ポリアミドが、アミノエチルピペラジンおよび/またはビスアミノプロピルポリエチレングリコールとアジピン酸の単位を有する重合体であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の水溶性ポリアミド水溶液の製造法。

【公開番号】特開2007−231087(P2007−231087A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52588(P2006−52588)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】