説明

水溶性樹脂および該樹脂を用いた組成物

【課題】 水溶液としたときに安定性があり、低粘度で取扱いやすく、かつ重合したときに十分な硬度を有する塗膜を形成できる水溶性樹脂およびこれを用いる水溶性硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して水溶性樹脂を得、これに重合開始剤を配合して水溶性硬化性樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子線あるいは紫外線等の活性エネルギー線照射により、または常温あるいは加熱によって硬化可能な水溶性樹脂、特に、酸無水物変性エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、およびこの水溶性樹脂を含有する水溶性硬化性樹脂組成物、特に水溶性光硬化性樹脂組成物に関する。
【0002】なお、本明細書においては、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを表す。
【0003】
【従来の技術】近年、各種産業分野で使用する有機溶剤や有機洗浄剤が大気中に放出されることにより、地球規模の環境汚染、特に大気汚染が進み、生物への影響が懸念されている。そのため、有機溶剤の使用を極力さける試みがなされている。例えば、塗料、インキまたは接着剤等の各種の用途に使用する化合物または樹脂に、水溶性ないし水分散性を与える試み、すなわち水性化の試みがなされている。
【0004】水に難溶または不溶性の化合物あるいは樹脂(以下、単に「水不溶性樹脂等」という)の水性化手段として、水不溶性樹脂等を、乳化剤を用いて乳化する方法あるいは水不溶性樹脂等に親水性基を導入する方法がある。
【0005】しかし、乳化方法は、乳化液の安定性が不十分であるため、保管中に樹脂が沈降する、塗膜にした際に乳化剤のブリードが起こる等の、種々の問題を有している。
【0006】他方、特開平5−140251号公報、特開平8−3275号公報あるいは特開平6−16751号公報には、水不溶性樹脂等に親水性基を導入することにより、水溶性樹脂とする試みが記載されている。例えば、特開平5−140251号公報には、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂に飽和または不飽和多塩基酸無水物を反応させて親水性基を導入し、得られる酸ペンダント型エポキシ(メタ)アクリレート樹脂のカルボキシル基の一部を有機アミンまたはアンモニア水で中和することにより、水溶性のエポキシ(メタ)アクリレート化合物を製造することが記載されている。
【0007】しかし、この方法では、実施例として示されている芳香族系エポキシアクリレート樹脂を酸無水物で変性させる方法では、水溶液中でのこの樹脂の安定性に問題があるばかりではなく、得られる水溶性樹脂溶液が高粘度となるため取扱いにくいという問題がある。従って、得られる水溶性樹脂は、その用途が限定される場合が多く、例えば、ソルダーレジストのような用途では使用可能であっても、水性塗料、インクのような用途に対しては実質上、使用できないという問題がある。さらに、この方法では、芳香族以外のポリエポキシ化合物を原料として用いた場合には、架橋点間距離が長くなるために塗膜の硬度が上がらないという問題がある。
【0008】特開平8−3275号公報は、親水性基を導入する別の方法として、多価カルボン酸、特定の構造を有するエポキシ樹脂および(メタ)アクリル酸を特定の割合で反応させる方法を記載している。この方法は、得られる水溶性樹脂を有機アミンなどで中和する必要がないため乾燥時に臭気が発生することもないという利点はある。しかし、この方法では、使用できるエポキシ化合物の構造が限定されているために汎用性がない。また、この方法は、イオン性を付与せずに水溶性を発現させようとしているため、オキシエチレン鎖の導入が不可欠となるが、このオキシエチレン基導入により樹脂の性能が劣化するという問題がある。
【0009】また、特開平6−16751号公報には、多価アルカンアルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテルなどの、一分子中にエポキシ基を2個以上有する分子量が300以上の脂肪族ポリエポキシエーテエル化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して、水溶性光硬化性樹脂を得る方法が記載されている。しかし、この方法で得られる樹脂は、安定性が悪い、粘度が高い、取り扱いにくい等の問題がある。さらに、このポリオキシエーテル化合物を用いて得られる樹脂は、架橋点間距離が長くなるために塗膜にしたとき塗膜の硬度が上がらないという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】そこで、水溶液としたときに安定性があり、低粘度で取扱いやすく、かつ重合したときに十分な硬度を有する塗膜を形成できる水溶性樹脂が望まれている。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、低粘度で水溶液中の安定性に優れ、さらに塗膜にした時の密着性、硬度に優れる水溶性樹脂を製造すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0012】すなわち、本発明は、1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂に関する。
【0013】好ましい実施態様においては、前記水溶性樹脂が下記一般式(1)で示される酸無水物変性エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂である:
【0014】
【化2】


【0015】(式中、R、Rは、水素またはメチル基を示し、Xはナトリウム、カリウム、有機アミンまたはアンモニウムを示し、Zは酸無水物残基を示す。)。
【0016】また、本発明は、前記水溶性樹脂および重合開始剤を含有する、水溶性硬化性樹脂組成物に関する。
【0017】さらに、本発明は、(A)前記水溶性樹脂、(B)水および/または水溶性溶剤、(C)光重合性モノマー、および(D)光重合開始剤を含有する、水溶性光硬化性樹脂組成物に関する。
【0018】また、本発明は(A)前記水溶性樹脂、(B)水および/または水溶性溶剤、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、および(E)着色剤を含有する、水性光硬化性塗料組成物または水性光硬化性インク組成物に関する。
【0019】さらに、本発明は、1分子中にエポキシ基および光重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させてエステル化合物を得る工程、および該得られたエステル化合物と無水多価カルボン酸とを反応させる工程を含む、水溶性樹脂の製造方法に関する。
【0020】本発明により得られる水溶性樹脂およびこの樹脂を含有する樹脂組成物は、紙用コーティング剤、金属あるいは木工用塗料、印刷インキ、接着剤またはレジスト等の各種産業分野において有用である。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の水溶性樹脂は、1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物(以下、「原料化合物」ということがある)と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる。
【0022】原料化合物としては、特に制限はないが、樹脂の溶解性、安定性、粘度、得られる膜の硬度に関連する架橋点間距離などを考慮すると分子量は小さいほど好ましい。原料化合物の好ましい分子量は300未満であり、分子量200以下がより好ましく、分子量150以下がさらに好ましい。このような化合物の中でも、1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個有する化合物を用いることが好ましい。例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、2−グリシジルオキシエチルメタクリレート、4−グリシジルオキシブチルアクリレートなどが挙げられる。中でもグリシジルメタクリレートが、生じる樹脂の溶解性、安定性、硬度の点から好ましい。
【0023】この原料化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させ、エステル化合物を生成させる。原料化合物と(メタ)アクリル酸とは、原料化合物のエポキシ基1モルに対して(メタ)アクリル酸のカルボキシル基が0.9〜1.1モルとなるように反応させることが好ましい。(メタ)アクリル酸のカルボキシル基がエポキシ基1モルに対して0.9モル未満の場合には、最終製品である水溶性樹脂中に未反応のエポキシ基が多く残存し、製品の安定性が悪くなる傾向にある。また、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基がエポキシ基に対して1.1モルを超える場合には、最終製品である水溶性樹脂中に未反応の(メタ)アクリル酸が多く残存し、塗膜にしたときの諸物性が悪くなる傾向にある。
【0024】得られたエステル化合物は、そのまま、次の無水多価カルボン酸との反応に使用してもよく、必要に応じて、エステル化合物を単離してから、無水多価カルボン酸との反応に用いてもよい。
【0025】得られたエステル化合物中には、エポキシ基に由来する水酸基が生成しており、この水酸基と無水多価カルボン酸(以下、「酸無水物」ということがある)とを反応させる。反応系における水酸基と酸無水物とは水酸基1モルに対して、酸無水物が0.1〜1モルであることが好ましい。酸無水物が0.1モル未満の場合には、水溶性が低下し水溶液の安定性が低下する傾向にある。酸無水物が1モルを超えると、未反応の酸無水物が多く残存し、塗膜にしたときの諸物性が悪くなる傾向にある。
【0026】無水多価カルボン酸としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。中でも、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0027】得られた酸無水物が付加したエステル化合物を中和することにより、最終製品である水溶性樹脂が得られる。
【0028】中和は、当業者が通常用いる方法で行われる。例えば、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどの有機アミン、アンモニウムなどを、酸無水物が付加したエステル化合物のカルボキシル基と当モルとなるように添加して(加熱)攪拌することにより行われる。この中和により水溶性樹脂が得られる。
【0029】得られる水溶性樹脂の中でも好適な樹脂は、グリシジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸を反応させて得られる、以下の一般式(1)で示される酸無水物変性エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂である。
【0030】
【化3】


【0031】式中、R、Rは水素またはメチル基であり、Xはナトリウム、カリウム、有機アミンまたはアンモニウムであり、Zは酸無水物残基であるが、Zは無水コハク酸の残基であるものが好ましい。
【0032】本発明の好ましい製造方法の一例を、上記一般式(1)で示される化合物の合成を例に説明する。
【0033】攪拌機、温度計を備えた反応器に、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、および反応を円滑に行うための触媒を仕込み、または必要に応じて反応溶媒および/あるいは(メタ)アクロイル基のラジカル重合を抑制するための重合防止剤を仕込み、所定時間加熱する。反応終了後、所定量の酸無水物を添加し、所定時間加熱攪拌することにより、目的樹脂を得ることができる。
【0034】反応溶媒としては、水、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン類、並びにトルエンおよびキシレン等の芳香族化合物等があげられる。
【0035】触媒としては、トリエチルアミンおよびN,N−ジメチルベンジルアミン等の3級アミン、ジメチルアミン塩酸塩等の1,2級アミン、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の各種4級アンモニウム塩、並びにトリフェニルホスフィン等の各種含リン化合物等があげられる。
【0036】重合防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルおよびフェノチアジン等があげられる。
【0037】反応温度としては、60〜140℃が好ましい。反応温度が60℃に満たない場合は反応が遅くなり、140℃を超える場合は反応系が不安定になることがあったり、不純物が生成したり、ゲル化する場合がある。
【0038】得られた水溶性樹脂に重合開始剤を配合することにより、水溶性硬化性樹脂組成物が得られる。本発明の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物あるいは光硬化性樹脂組成物として用いられ、それぞれに適した重合開始剤が用いられる。
【0039】重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、クロロアセトフェノン類、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン等のプロピオフェノン類;2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等のキサントン類;クロロアントラキノン、エチルアントラキノン等のアントラキノン類;ジメチルベンジルケタール等のケタール類などが挙げられる。
【0040】さらに、(A)水溶性樹脂に、(B)水および/または水溶性溶剤、(C)光重合性モノマー、および(D)光重合開始剤を配合すると水溶性光硬化性樹脂組成物が得られる。(D)光重合開始剤は、上記の通りである。(B)の水および/または水溶性溶剤としては、水;メタノール、エタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。これらは単独で、または2種以上組合せて用いられる。
【0041】(C)の光重合性モノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸との反応から得られる(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート、グリセロールポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。
【0042】水溶性光硬化性樹脂は、(A)水溶性樹脂100重量部に対して、(B)水および/または水溶性溶剤は、10〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部、(C)光重合性モノマーは、0〜100重量部、好ましくは30〜60重量部、(D)光重合開始剤は、1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部がそれぞれ配合されて、得られる。
【0043】さらに、上記水溶性光硬化性樹脂組成物に(E)着色剤を含有させることにより、水性光硬化性塗料組成物または水性光硬化性インク組成物が得られる。(E)着色剤は、上記水溶性光硬化性樹脂組成物の水溶性樹脂100重量部に対して10〜200重量部、好ましくは20〜100重量部配合される
【0044】着色剤としては、顔料および染料のいずれもが用いられる。顔料あるいは染料は分散体として用いてもよい。
【0045】
【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0046】実施例1:樹脂1の調製攪拌機、温度計を備えた反応器にグリシジルメタクリレート142.0g、アクリル酸72.0g、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)0.6g、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.4gを仕込み、70〜80℃で酸価が2mgKOH/g以下になるまで攪拌を続けた。目的酸価に達するのに10時間を要した。反応終了後無水コハク酸100.0gを仕込み70〜80℃で5時間反応を行った後、常温まで冷却して40重量%NaOH溶液を100g加えて中和し、水溶液とすることにより、目的樹脂(樹脂1)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルで確認した。
【0047】実施例2:樹脂2の調製攪拌機、温度計を備えた反応器にグリシジルメタクリレート142.0g、メタクリル酸156.0g、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)0.6g、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.4gを仕込み、70〜80℃で酸価が2mgKOH/g以下になるまで攪拌を続けた。目的酸価に達するのに10時間を要した。反応終了後無水コハク酸100.0gを仕込み70〜80℃で5時間反応を行った後、常温まで冷却して40重量%NaOH溶液を100g加えて中和し、水溶液とすることにより、目的樹脂(樹脂2)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルで確認した。
【0048】実施例3:樹脂3の調製攪拌機、温度計を備えた反応器にグリシジルアクリレート128.0g、アクリル酸72.0g、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)0.6g、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.4gを仕込み、70〜80℃で酸価が2mgKOH/g以下になるまで攪拌を続けた。目的酸価に達するのに10時間を要した。反応終了後無水コハク酸100.0gを仕込み70〜80℃で5時間反応を行った後、常温まで冷却して40重量%NaOH溶液を100g加えて中和し、水溶液とすることにより、目的樹脂(樹脂3)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルで確認した。
【0049】比較例1:樹脂4の調製攪拌機、温度計を備えた反応器に多価エポキシ化合物としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811 ナガセ化成工業製、エポキシ当量132WPE)132.0g、アクリル酸72.0g、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)0.6g、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.4gを仕込み、70〜80℃で酸価が2mgKOH/g以下になるまで攪拌を続けた。目的酸価に達するのに10時間を要した。反応終了後無水コハク酸100.0gを仕込み70〜80℃で5時間反応を行った後、常温まで冷却して40重量%NaOH溶液を100g加えて中和し、水溶液とすることにより、目的樹脂(樹脂4)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルで確認した。
【0050】比較例2:樹脂5の調製攪拌機、温度計を備えた反応器にグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業製、デナコールEX−314、エポキシ当量145WPE)145.0g、アクリル酸72.0g、触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)0.6g、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)0.4gを仕込み、70〜80℃で酸価が2mgKOH/g以下になるまで攪拌を続けた。目的酸価に達するのに10時間を要した。反応終了後無水コハク酸100.0gを仕込み70〜80℃で5時間反応を行った後、常温まで冷却して40重量%NaOH溶液を100g加えて中和し、水溶液とすることにより、目的樹脂(樹脂5)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルで確認した。
【0051】実施例4実施例として樹脂1〜3、および比較例として樹脂4〜5の、それぞれの樹脂について、水溶性、粘度、安定性を評価した。評価は以下のように行った。表1に結果を示す。
(1)水溶性水溶性樹脂と蒸留水を10:90、50:50、90:10(重量比)の割合で室温において攪拌混合した後静置し、目視で溶解性を観察し、以下の基準で、表1に示した。
○:任意の割合で溶解した。
△:濁った。
×:二層に分離した。
【0052】(2)粘度粘度は、樹脂/水=50/50の樹脂濃度の水溶液を、25℃にて、B型粘度計を用いて測定した。
【0053】(3)安定性(1)で得られた水溶性樹脂の水溶液を40℃で2週間静置し、液の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:透明を維持している。
△:濁った。
×:二層に分離した。
【0054】
【表1】


【0055】表1の結果は、本発明の水溶性樹脂は、水溶性に富み、水溶液にしたときの粘度が低く、安定性があることを示している。これに対して、脂肪族ポリグリシジルエーテルを原料として合成した水溶性樹脂は、非常に粘度が高く、取扱いにくいことが示された。
【0056】実施例5実施例として樹脂1〜3、および比較例として樹脂4〜5の、それぞれの樹脂から得られる塗膜の密着性と硬度について以下のように評価した。結果を表2に示す。
(1)密着性水溶性樹脂100重量部に対して、2重量部の割合で光重合開始剤のイルガキュア(チバガイギー製)を添加混合した。得られた組成物を、鋼板上に膜厚10μmで塗布し、80W/cm集光型高圧水銀灯を使用して、コンベアスピード10m/minの条件で、水銀灯を繰り返し通過させることにより硬化させ、1mm間隔で碁盤目状の切り込みを入れ、JISK−5400に従いクロスカットセロテープ(登録商標)剥離試験を行った。100個のピースについて剥離の有無を観察し、以下の基準で評価し、表2に示した。
○:100個とも剥離せず残った。
△:20〜99個が剥離せず残った。
×:0〜19個が剥離せず残った。
【0057】(2)硬度水溶性樹脂100重量部に対して、2重量部の割合で光重合開始剤のイルガキュア(チバガイギー製)を添加混合した。得られた組成物を、鋼板上に膜厚10μmで塗布し、80W/cm集光型高圧水銀灯を使用して、コンベアスピード10m/minの条件で、水銀灯を繰り返し通過させることにより硬化させ、鉛筆硬度計で表面硬度を測定した。
【0058】
【表2】


【0059】表2の結果は、本発明の水溶性樹脂から、密着性に優れた、硬度に優れた塗膜が得られることを示している。これに対して、脂肪族ポリグリシジルエーテルを原料として合成した水溶性樹脂から得られる塗膜は、密着性はあるものの、膜自体の硬度が低いことが示された。
【0060】実施例6実施例として樹脂1〜3、および比較例として樹脂4〜5の、それぞれの樹脂を用いて、以下の組成の水溶性光硬化性樹脂組成物を調製し、密着性と硬度について以下のように評価した。結果を表3に示す。組成(A)水溶性樹脂 50部(B)水 30部(C)エチレングリコールジアクリレート 20部(D)イルガキュア 2部
【0061】評価(1)密着性得られた水溶性光硬化性樹脂組成物を、鋼板上に膜厚10μmで塗布し、80W/cm集光型高圧水銀灯を使用して、コンベアスピード10m/minの条件で、水銀灯を繰り返し通過させることにより硬化させ、1mm間隔で碁盤目状の切り込みを入れ、JISK−5400に従いクロスカットセロテープ剥離試験を行った。100個のピースについて剥離の有無を観察し、以下の基準で評価し、表3に示した。
○:100個とも剥離せず残った。
△:20〜99個が剥離せず残った。
×:0〜19個が剥離せず残った。
【0062】(2)表面硬度得られた水溶性光硬化性樹脂組成物を、鋼板上に膜厚10μmで塗布し、80W/cm集光型高圧水銀灯を使用して、コンベアスピード10m/minの条件で、水銀灯を繰り返し通過させることにより硬化させた。この塗膜の表面硬度を鉛筆硬度計にて測定した。
【0063】
【表3】


【0064】この表3の結果は、本発明で得られる水溶性樹脂を用いる水溶性光硬化性樹脂組成物は、密着性および硬度に優れることを示している。これに対して、脂肪族ポリグリシジルエーテルを原料として合成した水溶性樹脂を用いる水溶性光硬化性樹脂組成物は、得られる塗膜の密着性、硬度ともに低いことが示された。
【0065】
【発明の効果】1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂は、脂肪族ポリグリシジルエーテルを原料として合成した水溶性樹脂と比べて、水溶液としたときに安定性があり、低粘度で取扱いやすく、かつ重合したときに十分な硬度を有する塗膜を形成できる。本発明の水溶性樹脂を用いて得られる光硬化性樹脂構成物も従来の樹脂と比べて、密着性および硬度に優れた膜を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂。
【請求項2】 前記水溶性樹脂が下記一般式(1)で示される酸無水物変性エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂である、請求項1に記載の水溶性樹脂:
【化1】


(式中、R、Rは水素またはメチル基を示し、Xはナトリウム、カリウム、有機アミンまたはアンモニウムを示し、Zは酸無水物残基を示す。)。
【請求項3】 請求項1または2に記載の水溶性樹脂および重合開始剤を含有する、水溶性硬化性樹脂組成物。
【請求項4】 (A)請求項1または2に記載の水溶性樹脂、(B)水および/または水溶性溶剤、(C)光重合性モノマー、および(D)光重合開始剤を含有する、水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】 (A)請求項1または2に記載の水溶性樹脂、(B)水および/または水溶性溶剤、(C)光重合性モノマー、(D)光重合開始剤、および(E)着色剤を含有する、水性光硬化性塗料組成物または水性光硬化性インク組成物。
【請求項6】 1分子中にエポキシ基および重合性基をそれぞれ1個またはそれ以上有する化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させてエステル化合物を得る工程、および該得られたエステル化合物と無水多価カルボン酸とを反応させる工程を含む、水溶性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2002−179732(P2002−179732A)
【公開日】平成14年6月26日(2002.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−375128(P2000−375128)
【出願日】平成12年12月8日(2000.12.8)
【出願人】(000110491)ナガセ化成工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】