説明

水溶性重合体分散液、紙力増強剤、製紙用濾水性向上剤および製紙用歩留向上剤

【課題】保存安定性が良好な水溶性重合体分散液、および紙の地合いを乱さずに紙に高い紙力を付与することができる紙力増強剤、製紙用濾水性向上剤および製紙用歩留向上剤を提供する。
【解決手段】塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中に、水溶性重合体(A)を、カチオン性ラジカル重合性単量体(b1)10〜99.979モル%、(メタ)アリル基を有するモノマー(b2)0.01〜1モル%、架橋性単量体(b3)0.001〜0.1モル%、および一般式CH=C(R)−CONR(R)(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、を表す)で表わされるN−置換(メタ)アクリルアミド類(b4)0.01〜1モル%含有する高分子分散剤(B)を用いて、平均粒子径が0.1〜100μmとなるように分散させ、水溶性重合体(A)の含有量が10〜40重量%、分散液の粘度が3000〜20000mPa・sの分散液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性重合体分散液、紙力増強剤、製紙用濾水性向上剤および製紙用歩留向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は、リサイクル可能な資源として注目されている。リサイクルにより強度の低下した紙、板紙原料に対する強度の補強を目的として紙力増強剤が多用されている。
【0003】
紙力増強剤としては、アクリルアミド系高分子が広く用いられており、通常アクリルアミド系高分子は水溶液中でアクリルアミド等を他の重合性単量体と共重合させることにより得られ、本出願人も様々な紙力増強剤を提案している。(例えば、特許文献1および2など参照)しかし、紙をリサイクルして繰り返し使用することで紙の原料であるパルプの短繊維化及び劣化が進み、また、紙製造系内の無機物や夾雑物の濃度が上昇し、強度・濾水性・歩留り性を向上させるのが困難になるなどの問題があった。
【0004】
上述の問題のうち、濾水性、歩留り性の低下に対する解決策として、塩水溶液中で分散重合させた水溶性高分子の分散体を歩留り向上剤、濾水向上剤として用いることも提案されている。(特許文献3および4など)当該方法によれば、濾水性、歩留性を向上させることができる分散液が得られるものの、当該方法で得られる分散液を用いた場合には、紙の強度向上が十分でなく、また均一な分散液が得られないために得られる紙の地合いが不十分となる、さらに当該方法で得られる分散液は、保存中に沈降物が生じ、性能が劣化するといった保存安定性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3109194号公報
【特許文献2】特許第3487059号公報
【特許文献3】特公平3−74682号公報
【特許文献4】特公平6−72170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粒子径が均一で保存安定性に優れる水溶性重合体分散液、および保存安定性に優れ、得られる紙の地合いを乱さず、かつ、紙に高い紙力効果を付与することができる紙力増強剤、製紙用濾水性向上剤および製紙用歩留向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、重合成分としてカチオン性ラジカル重合性単量体(b1)、(メタ)アリル基を有する単量体(b2)、架橋性単量体(b3)、および特定N−置換(メタ)アクリルアミド類を特定モル比率で含有する重合成分を共重合させて得られる共重合体を高分子分散剤として用い、水溶性重合体を高濃度の塩水溶液中に特定の粒子径となるように分散させ得られた高粘度の水溶性重合体分散液は、ゲル化や分子量分布の増大を伴うことなく、保存安定性が良好となることを見出し、特に、分散重合法を用いることにより容易に粒子径が均一で、安定な水溶性重合体分散液が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中に、水溶性重合体(A)を、カチオン性ラジカル重合性単量体(b1)10〜99.979モル%、(メタ)アリル基を有する単量体(b2)0.01〜1モル%、架橋性単量体(b3)0.001〜0.1モル%、および一般式CH=C(R)−CONR(R)(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、を表す)で表わされるN−置換(メタ)アクリルアミド類(b4)0.01〜1モル%含有する重合成分を共重合させて得られる高分子分散剤(B)を用いて、平均粒子径が0.1〜100μmとなるように分散させた分散液であって、水溶性重合体(A)の含有量が10〜40重量%、25℃における分散液の粘度が3000〜20000mPa・sである水溶性重合体分散液;当該水溶性重合体分散液を含有する紙力増強剤;当該水溶性重合体分散液を含有する製紙用濾水性向上剤;当該水溶性重合体分散液を含有する製紙用歩留向上剤、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水溶性重合体分散液は、地合いを乱すことなく紙に紙力を付与する紙力増強剤や、抄紙前原料に添加することにより、無機填料や紙の原料であるパルプ繊維の歩留を向上させる製紙用歩留向上剤として、また、抄紙の際の濾水性を向上させる製紙用濾水性向上剤などとして紙の製造に用いることができ、保存中に分散体の沈降が生じず保存安定性に優れ、長期にわたって既述の性能を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水溶性重合体分散液は、
塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中に、水溶性重合体(A)(以下、(A)成分という)を、カチオン性ラジカル重合性単量体(b1)10〜99.979モル%、(メタ)アリル基を有する単量体(b2)0.01〜1モル%、架橋性単量体(b3)0.001〜0.1モル%、および一般式CH=C(R)−CONR(R)(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、を表す)で表わされるN−置換(メタ)アクリルアミド類(b4)0.01〜1モル%含有する重合成分を共重合させて得られる高分子分散剤(B)を用いて平均粒子径が0.1〜100μmとなるように分散させた分散液であって、水溶性重合体(A)の含有量が10〜40重量%、25℃における分散液の粘度が3000〜20000mPa・sであることを特徴とする。
25℃における分散液の粘度が、3000mPa・s未満の場合には、粒子が沈降しやすくなるなど保存安定性に問題が生じるため好ましくなく、20000mPa・sを超える場合には、流動性がなくなるなどハンドリング上の問題が生じるため好ましくない。また、水溶性重合体分散液中における水溶性重合体(A)の平均粒子径は、0.1〜100μmとなるように分散されていることが、保存安定性の面において好ましい。
【0011】
本発明で用いられる(A)成分は、例えば、ラジカル重合成分(a)(以下、(a)成分という)を公知の方法で重合させることにより得られる。(a)成分としては、特に限定されないが、例えば、カチオン性ラジカル重合性単量体(a1)(以下、(a1)成分という)、アニオン性ラジカル重合性単量体(a2)(以下、(a2)成分という)、架橋性単量体(a3)(以下、(a3)成分という)および(メタ)アクリルアミド(a4)(以下、(a4)成分という)などが挙げられる。
【0012】
(a1)成分としては、アミノ基や第4級アンモニウム基のようなカチオン性官能基を少なくとも1つ有し、ラジカル重合性官能基を1つ有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマー、当該第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーの塩、当該第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーと四級化剤を反応させて得られる第4級アンモニウム塩含有(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。塩は、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩であっても、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。また、4級化剤としては、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等が挙げられる。これら(a1)成分は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級化物が重合体とした際、疎水性が高く塩水溶液に溶解しにくくなる点で好ましい。
【0013】
(a2)成分としては、アニオン性官能基を少なくとも1つ有し、ラジカル重合性官能基を1つ有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等のカルボキシル基含有単量体、(メタ)アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ビニルホスホン酸、などのリン酸基含有単量体などが挙げられる。なお、これらはアルカリ金属類やアミン等の塩になっていてもよい。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、イタコン酸が、水溶性重合体分散液の凝集性、脱水性能を向上させることができるため好ましい。
【0014】
(a3)成分としては、ラジカル重合性官能基を少なくとも2つ有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、メチレンビスアクリルアミド等の多官能(メタ)アクリルアミド類、ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヘキサエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート等のジアクリレート類、3つ以上のビニル基を有する多官能ビニルモノマーとしてはトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等、ジビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、メチレンビスアクリルアミドや1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジンが(a1)〜(a4)成分などとの共重合性が高い点で好ましい。
【0015】
なお、(a)成分には、(a1)成分〜(a4)成分以外のラジカル重合性官能基を1つ有するラジカル重合性単量体(a5)(以下、(a5)成分)を用いてもよい。(a5)成分としては、具体的には、例えば、N−置換アクリルアミド類、芳香族ビニルモノマー、アルキル(メタ)アクリレート類、カルボン酸ビニルエステル類、アクリロニトリル、ビニルアルコールなどが挙げられる。N−置換アクリルアミド類としては、(a1)成分以外のものであれば、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミドなどの単官能N−置換アクリルアミド類が挙げられる。芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの分子中に芳香環を有する単官能モノマー類が挙げられる。また、アルキル(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの単官能モノマー類が挙げられる。カルボン酸ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、N,N−ジメチルアクリルアミドが水溶性重合体分散液を得る上で用いる(メタ)アクリルアミドとの共重合性が高く好ましい。
【0016】
(a)成分としては、(a1)成分および(a4)成分を必須使用し、必要に応じて、(a2)成分、(a3)成分を用いることが好ましい。また、各成分の使用量は、通常、(a1)成分を3〜40モル%程度、(a2)成分を0〜40モル%程度、(a3)成分を0〜1モル%程度、(a4)成分を20〜97モル%程度用い、好ましくは、(a1)成分を6〜20モル%、(a2)成分を3〜20モル%、(a3)成分を0.001〜0.01モル%、(a4)成分を20〜94モル%用いる。なお、(a5)成分を用いる場合には、その使用量は、通常1モル%程度以下、好ましくは、0.5モル%以下である。
【0017】
(A)成分は、(a)成分をラジカル重合させることにより得られる。このようにして得られた(A)成分の重量平均分子量は、通常、100万〜2000万程度、好ましくは300万〜1000万程度である。
【0018】
なお、ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレンオキシド換算値で得られた重量平均分子量から測定した値である。
ゲルパーメーションクロマトグラフィーは以下の測定条件にて測定した。
GPC本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムPWXL1本およびGMPWXL2本(温度40℃)
溶離液:0.5mol/l酢酸緩衝液(0.5mol/l酢酸(和光純薬工業(株)製)+0.5mol/l酢酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)水溶液、pH約4.2)
流速:0.8ml/分
検出器:東ソー(株)製濃度検出器(RI−8010)および光散乱検出器(LS−8000)(室温)LALLS法
ビスコテック社製TDA MODEL301(濃度検出器および90°光散乱検出器および粘度検出器(温度40℃))RALLS法
測定サンプル:0.5重量%に調整後pH10〜12になるまで苛性ソーダを添加し、80℃以上の湯浴に4時間浸した後、溶離液で0.0125重量%に希釈して測定した。
【0019】
本発明に用いられる(B)成分は、カチオン性ラジカル重合性単量体(b1)(以下、(b1)成分という)10〜99.979モル%、(メタ)アリル基を有する単量体(b2)(以下、(b2)成分という)0.01〜1モル%、架橋性単量体(b3)(以下、(b3)成分という)0.001〜0.1モル%、および一般式CH=C(R)−CONR(R)(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、を表す)で表わされるN−置換(メタ)アクリルアミド類(b4)(以下、(b4)成分という)0.01〜1モル%を含有する重合成分を共重合させて得られるものである。
【0020】
(b1)成分を10〜99.979モル%、(b2)成分を0.01〜1モル%、(b3)成分を0.001〜0.1モル%および(b4)成分を0.01〜1モル%、とすることにより、ゲル化を伴うことなく高分子分散剤(B)の粘度を所望の値に調整するこができ、重合体の分散性を向上させることができる点で好ましい。
【0021】
(b1)成分としては、(A)成分の調製時に用いることができる(a1)と同様の単量体を用いることができる。なお、(b1)成分としては、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩を用いることが、重合体を形成した際のカチオン量を所望の値に調整しやすく、重合体の塩水溶液に対する溶解性を保ち分散性能を向上する点で好ましい。
【0022】
本発明に用いられる(b2)成分としては、分子中に(メタ)アリル基を一つのみ有し、(メタ)アリル基のほかには炭素―炭素二重結合を有しない単量体をいう。(メタ)アリル基は、一般的に連鎖移動性を有する官能基であり、本発明においては連鎖移動剤と架橋剤の両方の機能を併せ持つと考えられる。(b2)成分としては、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルカルボン酸及びこれらの塩ならびに(メタ)アリルアルコールから選ばれる少なくとも1種を使用できる。(メタ)アリルスルホン酸及びその塩としては、例えば、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸塩アンモニウムなどが挙げられる。(メタ)アリルカルボン酸及びその塩としては、例えば、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。(メタ)アリルアルコールとしては、例えば、アリルアルコールなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウムを用いると、(メタ)アクリルアミドとの共重合性が高く、ラジカルの移動(連鎖移動)が生じやすくなり、分子量と架橋構造の調整が容易になる点で好ましい。(b2)成分の使用量が1モル%を超えると、連鎖移動効果の影響が強くなり、高分子量体が得られにくくなるため、(b2)成分の使用量は好ましくは1モル%以下の範囲とすることが望ましい。
【0023】
本発明に用いられる(b3)成分としては、(A)成分の調製時に用いることができる(a3)成分と同様の単量体を用いることができる。(b3)成分としては、メチレンビスアクリルアミドや1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジンが(メタ)アクリルアミドとの共重合性が高い点で好ましい。(b3)成分の使用量が1モル%を超えると架橋が過剰に進行し得られる高分子電解質がゲル状となる傾向があるため、(b3)成分の使用量は、1モル%以下、好ましくは0.1モル%以下の範囲とすることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる(b4)成分としては、N,N−ジメチルアクリルアミドが水溶性重合体分散液を得る上で用いる(メタ)アクリルアミドとの共重合性が高く好ましい。(b4)成分の使用量が1モル%を超えると、(B)におけるその他成分との共重合性が低下するため、(b4)成分の使用量は好ましくは1モル%以下の範囲とする。
【0025】
本発明に用いられる(B)成分は、重合成分として、更に、89.979モル%以下の(メタ)アクリルアミド(b5)を含有させることができる。(b5)成分が、重合成分に対して89.979モル%以下の割合で用いることにより、(b1)〜(b4)成分による分散剤(B)の特性を失うことなく、粘度を所望の値に調整し易い利点がある。
【0026】
なお、(B)成分の重合成分としては、上記(b1)成分から(b5)成分が上記の使用量の範囲で含有する限りにおいて、必要に応じて(b1)〜(b5)成分以外のラジカル重合性単量体(b6)(以下、(b6)成分という)を含有させてもよい。(b6)成分としては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等のカルボキシル基含有単量体、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ビニルホスホン酸、などのリン酸基含有単量体などが挙げられる。なお、これらはアルカリ金属類やアミン等の塩になっていてもよい。また、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの分子中に芳香環を有する単官能モノマー類や(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどのアルキル(メタ)アクリレート類、さらに酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
(B)成分は、上記の重合成分を公知の方法でラジカル重合させることにより得られる。ラジカル重合法としては特に限定されない。このようにして得られた(B)成分は、通常、重量平均分子量が1万〜300万程度であり、不揮発分を20重量%に調整した場合の25℃における水溶液粘度は3000〜20000mPa・sであることが好ましい。
(B)成分の水溶液粘度をかかる範囲とすることにより、水溶性重合体分散液の分散性を高め、製品粘度を所望の値に調整し、製品の保存安定性向上の点においてより優れたものとすることができる。同様の観点から、前記水溶液粘度の範囲は好ましくは5000〜15000mPa・sの範囲である。
【0028】
(A)成分と(B)成分の使用量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部に対し、(B)成分が1〜20重量部程度用いることが好ましい。1重量部未満では重合生成物が分散液として得られず、20重量部を超える量では得られる分散液の性能に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0029】
(A)成分を、(B)成分を用いて塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中に、分散させる方法としては、例えば、(A)成分と(B)成分を混合して、機械分散等の公知の分散方法を採用することができる。なお、塩水溶液を調製する際に用いられる塩としては、特に限定されないが、通常は無機塩を用い、硫酸塩、リン酸塩などを用いることができる。具体的には、たとえば、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等を用いることができる。
【0030】
なお、分散方法としては、塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中で、(B)成分の存在下、(a)成分を分散重合させる方法が、本発明の水溶性重合体分散液の25℃における粘度が3000〜20000mPa・sに調整し易い点で特に好ましい。分散重合における高分子分散剤の作用は充分理解されていないが、重合生成物の析出時に作用し生成する粒子の付着・凝集を防止するためと考えられる。本発明における(B)成分は重合生成物の付着・凝集を防止する性能に優れると考えられる。なお、分散重合は、公知の方法を採用すればよいが、通常、(B)成分、塩、(a)成分の存在下でラジカル重合開始剤を投入し、ラジカル重合すればよい。重合温度は重合開始剤の種類により異なり重合開始剤が機能する温度であればよい。用いる塩は重合途中に添加する、重合後に混合するなど分割して添加してもよい。塩濃度が10重量%未満であると反応液の粘度が高くなるため好ましくない。
【0031】
なお、(A)成分および(B)成分の混合物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を1.0〜2.8程度とすることで、紙力増強効果を高く維持したまま、地合いの乱れをさらに低減することができるため好ましい。なお、(A)成分および(B)成分の混合物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を1.0〜2.0とすることが、紙力増強効果が著しく向上するため、特に好ましい。なお、Mw/Mnの算出に用いる(A)成分および(B)成分の混合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、前記した(A)成分の重量平均分子量の測定方法と同様の条件で測定した値である。
【0032】
なお、25℃における粘度が3000〜20000mPa・sとなるよう水溶性重合体分散液の水溶性重合体(A)の含有量を10〜40重量%に希釈・調整することも有効である。
【0033】
本発明の水溶性重合体分散液を紙力増強剤として用いるためには、通常、(A)成分と(B)成分の混合物の重量平均分子量は300万以上とすることが好ましく、また、固形分((A)+(B))濃度を0.01%〜1%程度まで水等で希釈することが好ましい。
【0034】
本発明の水溶性重合体分散液を濾水性向上剤として用いるためには、通常、(A)成分と(B)成分の混合物の重量平均分子量は300万以上とすることが好ましく、また、固形分((A)+(B))濃度を0.01%〜1%程度まで水等で希釈することが好ましい。
【0035】
本発明の水溶性重合体分散液を歩留向上剤として用いるためには、通常、(A)成分と(B)成分の混合物の重量平均分子量は300万以上とすることが好ましく、また、固形分((A)+(B))濃度を0.01%〜1%程度まで水等で希釈することが好ましい。
【0036】
本発明の水溶性重合体分散液は洋紙・板紙を問わず使用することが可能であり、また他の製紙用添加剤(サイズ剤や公知の紙力剤、有機、無機の水不溶性微粒子凝集助剤)も同時に用いてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(製造例1)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液228.48g(純分182.784g;79.73モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.09g(0.05モル%)、N,N−ジメチルアクリルアミド0.23g(0.2モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.059g(0.02モル%)、アクリルアミド16.83g(20モル%)イオン交換水533.9gを仕込み、60℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有する高分子分散剤を得た。
【0039】
(製造例2)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液228.19g(純分182.552g;79.63モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.37g(0.2モル%)、N,N−ジメチルアクリルアミド0.12g(0.1モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.1277g(0.07モル%)、アクリルアミド16.83g(20モル%)イオン交換水533.96gを仕込み、60℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有する高分子分散剤を得た。
【0040】
(比較製造例1)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液57.72g(純分46.176g;10モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム2.26g(0.6モル%)、アクリルアミド151.56g(89.4モル%)、イオン交換水568.06gを仕込み、50℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有しない高分子分散剤を得た。
得られた高分子分散剤の粘度は、不揮発分20%に調整した後、25℃に調整しビスメトロン粘度計(芝浦システム(株)製)を用いて測定した。(以下、粘度は同様の方法で測定した値である。)
【0041】
(比較製造例2)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液215.72g(純分172.576g、69.87モル%)、N,N−ジメチルアクリルアミド0.13g(0.1モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.0954g(0.03モル%)、アクリルアミド27.2g(30モル%)、イオン交換水536.46gを仕込み、60℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有する高分子分散剤を得た。
【0042】
(比較製造例3)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液240.11g(純分192.088g;89.97モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.02g(0.01モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.055g(0.02モル%)、アクリルアミド7.84g(10モル%)、イオン交換水531.58gを仕込み、60℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の4%水溶液20gを加え、攪拌下で重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有する高分子分散剤を得た。
【0043】
(比較製造例4)高分子分散剤の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液228.8g(純分183.04g;79.89モル%)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.02g(0.01モル%)、N,N−ジメチルアクリルアミド0.1g(0.1モル%)、アクリルアミド16.82g(20モル%)イオン交換水533.84gを仕込み、50℃に加温しながら窒素置換した。これに、重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で重合を開始させた。2時間反応を行い、分岐構造を有しない高分子分散剤を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
表中、(b1)〜(b5)の各化合物(単量体)の略号は、下記のとおりであり、数字はモル%である。
DMAEA−Q:N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩
TAF:1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
AM:アクリルアミド
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
表中、不揮発分20%における粘度(mPa・s)は、B型粘度を使用してJIS
K7117-1に従い、25℃における粘度を測定した値である。
【0046】
(実施例1)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1030.3gに溶解した。これに、アクリルアミド216.38g(74.995モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液196.48g(純分157.184g;20モル%)、イタコン酸26.4g(5モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0313g(0.005モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0047】
(実施例2)水溶性重合体分散液の製造
実施例1で用いた高分子分散剤の種類を、製造例2に変更したこと以外は、実施例1と同様に製造して分散液を得た。
【0048】
(実施例3)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1004.71gに溶解した。これに、アクリルアミド205.25g(79.99モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液259.55g(純分194.663g;20モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.09g(0.01モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0049】
(実施例4)水溶性重合体分散液の製造
実施例3で用いた高分子分散剤の種類を、製造例2に変更したこと以外は、実施例3と同様に製造して分散液を得た。
【0050】
(実施例5)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1027.57gに溶解した。これに、アクリルアミド227.56g(78.998モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液109.27g(純分81.953g;7.5モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液73.56g(純分58.848g;7.5モル%)、イタコン酸31.63g(6モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0125g(0.002モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(水溶性重合体の含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0051】
(実施例6)水溶性重合体分散液の製造
実施例5で用いた高分子分散剤の種類を、製造例2に変更したこと以外は、実施例1と同様に製造して分散液を得た。
【0052】
(実施例7)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1027.57gに溶解した。これに、アクリルアミド227.57g(79モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液109.27g(純分81.953g;7.5モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液73.56g(純分58.848g;7.5モル%)、イタコン酸31.63g(6モル%)、を加えた後45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0053】
(実施例8)水溶性重合体分散液の製造
実施例7で用いた高分子分散剤の種類を、製造例2に変更したこと以外は、実施例7と同様に製造して分散液を得た。
【0054】
(実施例9)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水939.82gに溶解した。これに、アクリルアミド182.93g(74.99モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレートのベンジルクロライド4級化物の60%水溶液324.45g(純分194.67g;20モル%)、イタコン酸22.32g(5モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.0855g(0.01モル%)を加えた後45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0055】
(実施例10)水溶性重合体分散液の製造
実施例9で用いた高分子分散剤の種類を、製造例2に変更したこと以外は、実施例9と同様に製造して分散液を得た。
【0056】
(実施例11)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を300g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し15重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水840.3gに溶解した。これに、アクリルアミド216.38g(74.995モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液196.48g(純分157.184g;20モル%)、イタコン酸26.4g(5モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0313g(0.005モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0057】
(実施例12)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を400g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し20重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水740.3gに溶解した。これに、アクリルアミド216.38g(74.995モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液196.48g(純分157.184g;20モル%)、イタコン酸26.4g(5モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0313(0.005モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0058】
(実施例13)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、製造例1で得られた分岐構造を有する高分子分散剤を500g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し25重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水640.3gに溶解した。これに、アクリルアミド216.38g(74.995モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液196.48g(純分157.184g;20モル%)、イタコン酸26.4g(5モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0313g(0.005モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0059】
(比較例1)水溶性重合体分散液の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、比較製造例1で得られた分岐構造を有しない高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1030.3gに溶解した。これに、アクリルアミド216.38g(74.995モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液196.48g(純分157.184g;20モル%)、イタコン酸26.4g(5モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0313g(0.005モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0060】
(比較例2〜4)水溶性重合体分散液の製造
比較例1で用いた高分子分散剤の種類を、比較製造例2〜4に変更したこと以外は、比較例1と同様に製造して、それぞれ比較例2〜4の分散液を得た。
【0061】
(比較例5)水溶性重合体分散液の製造法
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、比較製造例1で得られた分岐構造を有しない高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1004.71gに溶解した。これに、アクリルアミド205.25g(79.99モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液259.55g(純分194.663g;20モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.09g(0.01モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0062】
(比較例6〜8)水溶性重合体分散液の製造
比較例5で用いた高分子分散剤の種類を、比較製造例2〜4に変更したこと以外は、比較例5と同様に製造して、それぞれ比較例6〜8の分散液を得た。
【0063】
(比較例9)水溶性重合体分散液の製造法
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、比較製造例1で得られた分岐構造を有しない高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1027.57gに溶解した。これに、アクリルアミド227.56g(78.998モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液109.27g(純分81.953g;7.5モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液73.56g(純分58.848g;7.5モル%)、イタコン酸31.63g(6モル%)、メチレンビスアクリルアミド0.0125g(0.002モル%)を加え45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0064】
(比較例10〜12)水溶性重合体分散液の製造
比較例9で用いた高分子分散剤の種類を、比較製造例2〜4に変更したこと以外は、比較例9と同様に製造して、それぞれ比較例9〜12の分散液を得た。
【0065】
(比較例13)水溶性重合体分散液の製造法
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、比較製造例1で得られた分岐構造を有しない高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水1027.57gに溶解した。これに、アクリルアミド227.57g(79モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物の75%水溶液109.27g(純分81.953g;7.5モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩の80%水溶液73.56g(純分58.848g;7.5モル%)、イタコン酸31.63g(6モル%)、を加えた後45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0066】
(比較例14〜16)水溶性重合体分散液の製造
比較例13で用いた高分子分散剤の種類を、比較製造例2〜4に変更したこと以外は、比較例13と同様に製造して、それぞれ比較例14〜16の分散液を得た。
【0067】
(比較例17)水溶性重合体分散液の製造法
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管を備えた2リットルの五つ口のセパラブルフラスコ中に、比較製造例1で得られた分岐構造を有しない高分子分散剤を110g(不揮発分20%;得られる(A)成分100重量部に対し5.5重量部となる)、硫酸アンモニウム400gをイオン交換水939.82gに溶解した。これに、アクリルアミド182.93g(74.99モル%)、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレートのベンジルクロライド4級化物の60%水溶液324.45g(純分194.67g;20モル%)、イタコン酸22.32g(5モル%)、1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン0.0855g(0.01モル%)を加えた後45℃に加温しながら窒素置換した。これに重合開始剤として2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩の2%水溶液20gを加え、攪拌下で24時間重合を行い、塩水溶液に分散した水溶性重合体(含有量20重量%)の分散液が得られた。
【0068】
(比較例18〜20)水溶性重合体分散液の製造
比較例17で用いた高分子分散剤の種類を、比較製造例2〜4に変更したこと以外は、比較例17と同様に製造して、それぞれ比較例18〜20の分散液を得た。
【0069】
実施例および比較例で得られた水溶性重合体分散液について、平均粒径、粘度、Mw/Mnを測定した結果を表2および表3に示す。なお、各測定方法は、以下のとおりである。
(平均粒径)
光学顕微鏡で観察(顕微鏡視野中の分散粒子を、任意に100個測定した平均値)することにより行った。
(粘度)
B型粘度を使用してJIS K7117-1に従い、25℃における粘度を測定した。
(Mw/Mn)
ゲルパーメーションクロマトグラフィー法によるポリエチレンオキシド換算値で得られた各分子量から算出した値である。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表2および表3における各化合物(単量体等)略号は下記の化合物を表し、数字はモル%である。
DML:N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリレートのベンジルクロライド4級化物
DMAEA−BQ:N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートのベンジルクロライド4級化物
DMAEA−Q:N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
MBAA:メチレンビスアクリルアミド
TAF:1,3,5−トリアクロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン
AM:アクリルアミド
【0073】
評価方法:
(評価例1〜13及び比較評価例1〜20)
段ボ−ル古紙をナイアガラ式ビーターにて叩解し、カナディアン・スタンダ−ド・フリ−ネス(C.S.F)320mlに調整し、固形分濃度1.0重量%の紙料を得た。つぎに、紙料の固形分量に対し1.0重量%の硫酸バンドを添加してpH7.0のパルプスラリーを調製した。そして、実施例1から13および比較例1から20で得られた水溶性重合体分散液を水道水で固形分((A)+(B))濃度0.05重量%に希釈して、水溶性重合体分散液の希釈液を調製した。つぎに、パルプスラリーに水溶性重合体分散液の希釈液を、パルプスラリー中の紙料の固形分量に対し0.05重量%添加し、タッピ・シートマシンにて脱水し、5kg/cmで2分間プレスして、坪量150g/m2の紙を得た。次いで、各水溶性重合体分散液を用いて得られた紙を、それぞれ、回転型乾燥機で105℃において4分間乾燥し、23℃、50%R.H.の条件下に24時間調湿したのち、比破裂強度および地合変動係数を測定した。同時に、上記の薬品添加後のパルプスラリー500mlをブリットジャー(40メッシュ)に入れタービン羽根を備えた撹拌機を用いて撹拌しながら(2000rpm)下穴から濾水100mlを採取し、No2濾紙により吸引濾過後、110℃で60分間乾燥し、乾燥後の質量を測定することにより、全歩留り(OPR)を求めた。また、別途、上記薬品添加後の各パルプスラリーの濾水量も測定した。
【0074】
なお、濾水量は、JIS P8121に準拠して測定し、比破裂強度は、JIS P8131に準拠して測定し、地合変動係数は、得られた紙を通過する光(輝度)をパーソナル画像処理システムHyper−700(OBS製)に取り込み、輝度分布を統計解析することにより測定した。なお、地合変動係数は、数値が小さいほど地合が良好であることを示す。
【0075】
各評価例における水溶性高分子分散体固形分の紙料固形分に対する添加率と各項目の測定結果を表4に示す。
【0076】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中に、水溶性重合体(A)を、カチオン性ラジカル重合性単量体(b1)10〜99.979モル%、(メタ)アリル基を有する単量体(b2)0.01〜1モル%、架橋性単量体(b3)0.001〜0.1モル%、および一般式CH=C(R)−CONR(R)(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、を表す)で表わされるN−置換(メタ)アクリルアミド類(b4)0.01〜1モル%含有する重合成分を共重合させて得られる高分子分散剤(B)を用いて、平均粒子径が0.1〜100μmとなるように分散させた分散液であって、水溶性重合体(A)の含有量が10〜40重量%、25℃における分散液の粘度が3000〜20000mPa・sである水溶性重合体分散液。
【請求項2】
塩濃度が10重量%以上飽和濃度以下の塩水溶液中で、高分子分散剤(B)の存在下、ラジカル重合成分(a)を分散重合させることにより得られる請求項1記載の水溶性重合体分散液。
【請求項3】
水溶性重合体(A)および高分子分散剤(B)の混合物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0〜2.8である請求項1または2に記載の水溶性重合体分散液。
【請求項4】
高分子分散剤(B)を、水溶性重合体(A)100重量部に対し、1〜20重量部用いる請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項5】
高分子分散剤(B)が、重合成分として更に、89.979モル%以下の(メタ)アクリルアミド(b5)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項6】
水溶性重合体(A)が、カチオン性ラジカル重合性単量体(a1)および(メタ)アクリルアミド(a4)ならびに必要に応じてアニオン性ラジカル重合性単量体(a2)および架橋性単量体(a3)を共重合して得られる共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項7】
水溶性重合体(A)が、3〜40モル%のカチオン性ラジカル重合性単量体(a1)、0〜40モル%のアニオン性ラジカル重合性単量体(a2)、0〜1モル%の架橋性単量体(a3)および20〜97モル%の(メタ)アクリルアミド(a4)を共重合して得られる共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載の水溶性重合体分散液。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性重合体分散液を含有する紙力増強剤。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性重合体分散液を含有する製紙用濾水性向上剤。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の水溶性重合体分散液を含有する製紙用歩留向上剤。

【公開番号】特開2011−168948(P2011−168948A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8512(P2011−8512)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】