説明

水田作業機

【課題】水田作業機において、畦際での旋回終了を適切に検出する。
【解決手段】右の車輪2に動力を伝達する右のサイドクラッチ40と、左の車輪2に動力を伝達する左のサイドクラッチ40とを備える。操向操作自在な車輪1が直進位置A1側から右又は左の操向限度A3側に操向操作されると、右又は左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作され、操向操作自在な車輪1が右又は左の操向限度A3側から直進位置A1側に操作されると、遮断状態に操作された右又は左のサイドクラッチ40が伝動状態に操作されるように構成する。車輪2の回転数に基づいて機体の前進及び後進の走行距離を検出する走行距離検出手段を備える。遮断状態に操作された右又は左のサイドクラッチ40が伝動状態に操作されたことと、走行距離検出手段で検出された機体の前進の走行距離と機体の後進の走行距離との差、とに基づいて旋回終了を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田作業機においてマーカーの操作制御に関する。
【背景技術】
【0002】
水田作業機の一例である乗用型田植機では、特許文献1に開示されているように、機体の後部に苗植付装置(対地作業装置に相当)(特許文献1の図1の4)を昇降自在に連結し、右及び左のマーカー(特許文献1の図1及び図3の17)を、苗植付装置の右及び左側部に備え、右及び左のマーカーを田面に接地して作業行程の指標を形成する作用姿勢、及び田面から上方に離れた格納姿勢に操作自在に構成して、オートマーカー機能を備えたものがある。
【0003】
オートマーカー機能とは、例えば右のマーカーが作用姿勢に操作され、左のマーカーが格納姿勢に操作された状態で、苗植付装置が上昇されると、右のマーカーが格納姿勢に操作され、次に苗植付装置が下降されると、左のマーカーが自動的に作用姿勢に操作されると言うように、苗植付装置の上昇及び下降が行われる度に、右及び左のマーカーが交互に作用及び格納姿勢に操作される機能のことを言う。
【0004】
これにより、例えば右のマーカーが作用姿勢に操作され、左のマーカーが格納姿勢に操作された状態で、1回の植付行程を終了して機体が畦際に達すると、苗植付装置を上昇させて畦際での旋回を行う。この場合、苗植付装置の上昇に伴って右のマーカーが格納姿勢に操作され、畦際での旋回を終了して、次の植付行程に入る際に苗植付装置を下降させると、自動的に左のマーカーが作用姿勢に操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−187637号公報
【特許文献2】特開2001−86816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乗用型田植機では、1回の植付行程を終了して機体が畦際に達して、苗植付装置を上昇させて畦際での旋回を開始した後、畦際での旋回が終了する前に苗植付装置を下降させ、苗植付装置のフロートを田面に接地させた状態で畦際での旋回の後半を行って、苗植付装置のフロートにより畦際を均すことがある(スライディングターン)。
【0007】
これにより、特許文献1のように苗植付装置の上昇及び下降だけに基づいてオートマーカー機能を作動させると、前述のように、苗植付装置を上昇させて畦際での旋回を開始した後、畦際での旋回が終了する前に苗植付装置を下降させる場合、苗植付装置を畦の近傍で下降させれば、これに伴って作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーが作用姿勢に操作され、このマーカーが畦に接触して破損するおそれがある。
本発明は、右及び左のマーカーを備えた水田作業機において、オートマーカー機能を備えた場合に、マーカーが畦に接触して破損するような状態を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、水田作業機において次のように構成することにある。
機体の後部に対地作業装置を昇降自在に連結し、田面に接地して作業行程の指標を形成する作用姿勢及び田面から上方に離れた格納姿勢に操作自在な右及び左のマーカーを対地作業装置又は機体の右及び左側部に備える。旋回が開始されたことを検出する旋回検出手段と、車輪の回転数に基づいて機体の走行距離を検出する走行距離検出手段とを備えて、旋回検出手段で検出された旋回開始と走行距離検出手段で検出された機体の走行距離とに基づいて、旋回終了を検出するように構成する。対地作業装置が上昇すると、作用姿勢のマーカーを格納姿勢に操作し、旋回終了の検出に基づいて、作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーを作用姿勢に操作するマーカー制御手段を備える。
【0009】
(作用)
本発明の第1特徴によると、旋回開始(例えば対地作業装置の上昇や車輪の設定角度以上の操向操作)に加えて、機体の走行距離に基づいて、マーカー制御手段が作動する。
車輪を旋回開始から旋回終了まで同じ旋回方向の操向角度に維持して、一つの半円を描くように旋回する状態である場合、機体の走行距離がそのまま旋回の進行となるので、旋回開始から機体の走行距離を検出することにより、旋回がどの程度進行したのか(機体の向きがどの程度変化したのか)を認識することができる。
【0010】
例えば右のマーカーが作用姿勢に操作され、左のマーカーが格納姿勢に操作された状態で、1回の作業行程を終了して機体が畦際に達し、対地作業装置を上昇させて畦際での旋回を開始すると、対地作業装置の上昇に伴って右のマーカーが格納姿勢に操作される。この後に、旋回検出手段で検出された旋回開始と走行距離検出手段で検出された機体の走行距離とに基づいて、畦際での旋回終了が検出されるまで、左のマーカーは作用姿勢に操作されないのであり、対地作業装置が下降されても畦際での旋回終了が検出されなければ、左のマーカーは作用姿勢に操作されず、畦際での旋回終了が検出されてから、左のマーカーが作用姿勢に操作される。
これにより、[発明が解決しようとする課題]に記載のように、畦際での旋回終了前に対地作業装置を畦の近傍で下降させても、これに伴って作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーが作用姿勢に操作されることはなく、このマーカーが畦に接触して破損するような状態は生じない。
【0011】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、右及び左のマーカーを備えた水田作業機において、オートマーカー機能を備えた場合、旋回検出手段で検出された旋回開始と走行距離検出手段で検出された機体の走行距離とに基づいて、畦際での旋回終了を検出するように構成することにより、マーカーが畦に接触して破損するような状態を防止することができて、水田作業機の作業性を高めることができた。
【0012】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の水田作業機において次のように構成することにある。
操向操作自在な車輪の操向角度を検出する操向角度検出手段により、旋回検出手段を構成する。操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度と、走行距離検出手段で検出された機体の走行距離とに基づいて、旋回終了を検出するように構成する。
【0013】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
車輪を旋回開始から旋回終了まで同じ旋回方向の操向角度に維持して、一つの半円を描くように旋回する状態である場合、機体の走行距離がそのまま旋回の進行となる。
しかしながら、水田作業機の一例である乗用型田植機では、畦際での旋回において、車輪を旋回開始から旋回終了まで同じ旋回方向の操向角度に維持して、一つの半円を描くように旋回する状態ばかりではなく、例えば特許文献2に開示されているように、8条植型式のような横幅の大きな苗植付装置を備えた乗用型田植機では、畦際での旋回において前半の旋回(特許文献2の図8のL1)を行った後、少し直進走行(特許文献2の図8のL2)を行い、後半の旋回(特許文献2の図8のL3)を行う場合がある(前半の旋回、直進走行及び後半の旋回により、一つの畦際での旋回とする場合がある)。
【0014】
これにより、特許文献2の図8に示すように、前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行う場合、前項[I]に記載のように、機体の走行距離の検出を行うだけであると、前半及び後半の旋回の間の直進走行でも機体の走行距離の検出が行われるので、前半及び後半の旋回の間の直進走行が長くなれば、まだ畦際での旋回が終了していないのに、直進走行の途中において、畦際での旋回終了が検出されてしまう可能性がある。
【0015】
本発明の第2特徴によると、機体の走行距離に加えて、車輪の操向角度に基づいて、畦際での旋回終了を検出するように構成している。
この場合、例えば車輪が旋回方向に操向操作された状態で、機体の走行距離が検出されると、機体の走行距離の分だけ機体の旋回角度は大きくなったと判断できる(旋回が進行したと判断できる)。逆に例えば車輪が直進位置に操向操作された状態で、機体の走行距離が検出されても、機体は直進しただけで機体の旋回角度は変化していないと判断できる(旋回が進行しなかったと判断できる)。
これにより、前述のように前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行っても、畦際での旋回中に機体の旋回角度が大きくなっているのか、変化していないのかを認識することができ(前半及び後半の旋回の間の直進走行では、機体の旋回角度が変化していないことを認識することができ)、畦際での旋回終了を適切に認識することができるようになる。
【0016】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、機体の走行距離に加えて車輪の操向角度を考慮することにより、畦際での旋回時に前半の旋回、直進走行及び後半の旋回を行っても、畦際での旋回終了を適切に認識することができるようになり、マーカーが畦に接触して破損するような状態を防止することができて、水田作業機の作業性を高めることができた。
【0017】
[III]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第1又は第2特徴の水田作業機において次のように構成することにある。
水田に対する車輪のスリップ率を検出するスリップ率検出手段を備える。スリップ率検出手段で検出された車輪のスリップ率を加味して旋回終了を検出するように構成する。
【0018】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
水田作業機が走行する水田は一般に滑り易いので、車輪にスリップが多く発生すると、車輪は多く回転しているのに、実際には機体はあまり走行していないと言うような状態となる。前項[I][II]に記載のように、車輪の回転数に基づいて機体を走行距離を検出する場合、車輪にスリップが多く発生すると、実際には機体はあまり走行していないのに、機体の走行距離が大きな値になってしまうことがある。
【0019】
本発明の第3特徴によると、車輪のスリップ率を加味して畦際での旋回終了を検出するように構成している。
これにより滑り易い水田において、車輪は多く回転しているのに、実際には機体はあまり走行していないと言うような状態になっても、車輪のスリップ率を加味することによって、実際の機体の走行距離に近い値を得ることができる(例えば、機体の走行距離に、車輪のスリップ率に基づく補正値を加えることによって、実際の機体の走行距離に近い値を得ることができる)。
【0020】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第1又は第2特徴と同様に前項[I][II]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、車輪のスリップ率を加味して畦際での旋回終了を検出するように構成することにより、滑り易い水田であっても実際の機体の走行距離に近い値を得ることができるようになって、マーカーが畦に接触して破損するような状態をさらによく防止することができるようになった。
【0021】
[IV]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第1〜第3特徴の水田作業機のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
旋回検出手段で検出された旋回開始から、走行距離検出手段で検出された機体の走行距離が設定距離を越えても旋回終了が検出されないと、マーカー制御手段の作動を初期化する初期化手段を備える。
【0022】
本発明の第5特徴は、本発明の第1〜第3特徴の水田作業機のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
旋回検出手段で検出された旋回開始から、設定時間を経過しても旋回終了が検出されないと、マーカー制御手段の作動を初期化する初期化手段を備える。
【0023】
(作用)
本発明の第4特徴(第5特徴)によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
水田作業機の一例である乗用型田植機では、機体の向きを約180度変える畦際での旋回以外に、例えば畦から水田に入る際や、水田から畦に出る際、水田の中央ではなく畦に沿って植付走行する際等では、機体の向きを約90度変える旋回を行うことがある。このような旋回では、機体の向きを約90度変えた後は、そのまま直進するような状態になることが多い。
このような旋回であると、旋回を開始してから機体の向きが約90度変わった後、直進状態に移行して実際の旋回を終了しているのに、旋回終了が検出されない状態となってしまい、マーカー制御手段は、作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーを作用姿勢に操作しようとする待機状態をそのまま維持することになる。
【0024】
本発明の第4特徴(第5特徴)によると、旋回開始から機体の走行距離が設定距離を越えても旋回終了が検出されないと、マーカー制御手段の作動を初期化されるのであり(旋回開始から設定時間を経過しても旋回終了が検出されないと、マーカー制御手段の作動が初期化されるのであり)、マーカー制御手段において、作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーを作用姿勢に操作しようとする待機状態が解除される。
【0025】
(発明の効果)
本発明の第4特徴(第5特徴)によると、本発明の第1〜第3特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4特徴(第5特徴)によると、機体の向きを約180度変える畦際での旋回以外の旋回において、作用姿勢に操作されていたマーカーとは反対側のマーカーを作用姿勢に操作しようとする待機状態を解除することにより、マーカー制御手段が待機状態に維持されることによる不具合を防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】右及び左の前輪の操向操作系、右及び左の前輪、右及び左の後輪への伝動系を示す平面図
【図3】走行距離検出手段、スリップ率検出手段、自動下降手段、作業クラッチ操作手段、旋回角度検出手段、マーカー制御手段及び初期化手段の制御系を示す図
【図4】畦際での旋回時の操作制御の流れを示す図
【図5】畦際での旋回時の操作制御の流れを示す図
【図6】畦際での旋回時の操作制御の流れを示す図
【図7】畦際での旋回時の状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1(車輪に相当)、右及び左の後輪2(車輪に相当)で支持された機体の後部に、リンク機構3が昇降自在に支持されて、リンク機構3を昇降駆動する単動型の油圧シリンダ4が備えられており、リンク機構3の後部に苗植付装置5(対地作業装置に相当)が支持されて、水田作業機の一例である乗用型田植機が構成されている。水田は一般に下方の硬い耕盤G1の上に泥や水の層が形成されて、泥や水の層の最上面が田面G2となっており、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2は耕盤G1に接地して走行する。
【0028】
図1に示すように、苗植付装置5は、4個の植付伝動ケース6、植付伝動ケース6の後部の左右に回転駆動自在に支持された回転ケース7、回転ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、複数の接地フロート9、苗のせ台10等を備えて、8条植型式に構成されている。運転座席13の後側に、肥料を貯留するホッパー14及び2条単位の4個の繰り出し部15が備えられて、運転座席13の下側にブロア16が備えられている。接地フロート9に作溝器17が備えられて、繰り出し部15と作溝器17とに亘ってホース18が接続されている。
【0029】
図1及び図3に示すように、右及び左のマーカー19が苗植付装置5の右及び左側部に備えられており、田面G2に接地して植付行程(作業行程)の指標を形成する作用姿勢(図1参照)、及び田面G2から上方に離れた格納姿勢(図3参照)に変更自在に構成されている。右及び左のマーカー19は上下に揺動自在に苗植付装置5に支持されたアーム部19aと、アーム部19aの先端部に自由回転自在に支持された回転体19bとを備えて構成されており、右及び左のマーカー19を作用姿勢及び格納姿勢に操作する電動モータ21が備えられて、制御装置23により電動モータ21が操作される。
【0030】
[2]
次に、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2への伝動系について説明する。
図1及び図2に示すように、エンジン31の動力が伝動ベルト32を介して静油圧式無段変速装置33及びミッションケース34に伝達され、ミッションケース34の内部の副変速装置(図示せず)から、前輪デフ機構(図示せず)及び前車軸ケース35を介して、右及び左の前輪1に伝達される。副変速装置の動力が伝動軸36、後車軸ケース37の入力軸38、入力軸38に固定されたベベルギヤ38a、ベベルギヤ38aに咬合するベベルギヤ39a、ベベルギヤ39aが固定された伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ40を介して、右及び左の後輪2に伝達される。静油圧式無段変速装置33は中立位置Nから前進側F及び後進側Rに無段階に変速自在に構成されており、操縦ハンドル20の左横側に備えられた変速レバー45により静油圧式無段変速装置33を操作する。
【0031】
図2に示すように、ミッションケース34の下部の縦軸芯P2周りに、平面視台形状の操向部材41が揺動自在に支持され、操縦ハンドル20により操向部材41が揺動操作されるように構成されており、操向部材41と右及び左の前輪1とに亘ってタイロッド42が接続されている。操縦ハンドル20を操作することによって、右及び左の前輪1を直進位置A1から、右及び左の操向限度A3に亘って操向操作することができる。
【0032】
図2に示すように、右及び左のサイドクラッチ40は摩擦多板式に構成されており、バネ(図示せず)により伝動状態に付勢されている。右及び左のサイドクラッチ40をバネに抗して遮断状態に操作する右及び左の操作軸43が、後車軸ケース37に下向きに支持されて、操向部材41と右及び左の操作軸43とに亘り、前車軸ケース35の下側を通って右及び左の操作ロッド44が接続されている。右及び左の操作ロッド44において右及び左の操作軸43との接続部分に、融通としての長孔44aが備えられている。
【0033】
図2に示すように、右及び左の前輪1が直進位置A1、右及び左の設定角度A2の範囲で操向操作されていると、右及び左の操作ロッド44の長孔44aの融通によって、右及び左のサイドクラッチ40は伝動状態に操作されている。これにより右及び左の前輪1、右及び左の後輪2(右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達された状態で、機体は前進(後進)する。
【0034】
図2に示すように、右及び左の前輪1が右の設定角度A2を越えて右の操向限度A3側に操向操作されると、右の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて右の操作ロッド44が引き操作されることになり、右の操作軸43により右のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、左の後輪2(旋回外側)(左のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、右の後輪2(旋回中心側)(右のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は右に旋回する。
【0035】
図2に示すように、右及び左の前輪1が左の設定角度A2を越えて左の操向限度A3側に操向操作されると、左の操作ロッド44の長孔44aの範囲を越えて左の操作ロッド44が引き操作されることになり、左の操作軸43により左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。これにより、右及び左の前輪1、右の後輪2(旋回外側)(右のサイドクラッチ40の伝動状態)に動力が伝達され、左の後輪2(旋回中心側)(左のサイドクラッチ40の遮断状態)が自由回転する状態で、機体は左に旋回する。
【0036】
[3]
次に、苗植付装置5及び繰り出し部15への伝動系について説明する。
図1及び図3に示すように、ミッションケース34において、副変速装置の直前から分岐した動力が、植付クラッチ26及びPTO軸25を介して苗植付装置5に伝達され、副変速装置の直前から分岐した動力が、施肥クラッチ27及び駆動ロッド30介して繰り出し部15に伝達されており、植付及び施肥クラッチ26,27を伝動及び遮断状態に操作する電動モータ28が備えられている。
【0037】
図1及び図3に示すように、植付クラッチ26が伝動状態に操作されると、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、回転ケース7が図1の紙面反時計方向に回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G2に植え付ける。植付クラッチ26が遮断状態に操作されると、苗のせ台10の往復横送り駆動及び回転ケース7の回転駆動が停止する。
【0038】
図1及び図3に示すように、施肥クラッチ27が伝動状態に操作されると、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給されるのであり、作溝器17を介して肥料が田面G2に供給される。施肥クラッチ27が遮断状態に操作されると、繰り出し部15が停止して、田面G2への肥料の供給が停止する。
【0039】
[4]
次に、苗植付装置5の自動昇降制御について説明する。
図3に示すように、苗植付装置5の横軸芯P1周りに中央の接地フロート9の後部が上下に揺動自在に支持されて、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出するポテンショメータ22が備えられており、ポテンショメータ22の検出値が制御装置23に入力されている。機体の進行に伴って中央の接地フロート9が田面G2に接地追従するのであり、ポテンショメータ22の検出値により苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さを検出することによって、田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さを検出することができる。
【0040】
図3に示すように、油圧シリンダ4に作動油を給排操作する制御弁24が備えられており、制御装置23により制御弁24が操作される。制御弁24により油圧シリンダ4に作動油が供給されると、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇し、制御弁24により油圧シリンダ4から作動油が排出されると、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降する。
【0041】
図3に示すように、苗植付装置5に対する中央の接地フロート9の高さ(田面G2(中央の接地フロート9)から苗植付装置5までの高さ)に基づいて、苗植付装置5が田面G2から設定高さに維持されるように(ポテンショメータ22の検出値(ポテンショメータ22と中央の接地フロート9との上下間隔)が設定値に維持されるように)、制御装置23により制御弁24が操作され、油圧シリンダ4が伸縮作動して、苗植付装置5が自動的に昇降する(自動昇降制御)。
【0042】
[5]
次に、昇降レバー11について説明する。
図1及び図3に示すように、運転座席13の右横側に昇降レバー11が備えられ、昇降レバー11は自動位置、上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作自在に構成されており、昇降レバー11の操作位置が制御装置23に入力されている。機体に対するリンク機構3の上下角度を検出するポテンショメータ29が備えられており、ポテンショメータ29の検出値が制御装置23に入力されている。
【0043】
図3に示すように、昇降レバー11を上昇位置、中立位置、下降位置及び植付位置に操作した場合(昇降レバー11を自動位置に操作していない場合)、後述の[6]に記載の操作レバー12の第1及び第2上昇位置U1,U2の機能、第1及び第2下降位置D1,D2の機能は作動せず、操作レバー12の右及び左マーカー位置R,Lの機能だけが作動する。
【0044】
図3に示すように、昇降レバー11を上昇位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作されて、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。昇降レバー11を上昇位置に操作した状態で、苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0045】
図3に示すように、昇降レバー11を下降位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降するのであり、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。
【0046】
図3に示すように、昇降レバー11を中立位置に操作すると、自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が停止する。このように、昇降レバー11を上昇位置、中立位置及び下降位置に操作することにより、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させて停止させることができる。
【0047】
図3に示すように、昇降レバー11を植付位置に操作すると、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態で、自動昇降制御が作動し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される。これによって、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って回転ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面G2に植え付けるのであり、ホッパー14から肥料が所定量ずつ繰り出し部15によって繰り出され、ブロア16の送風により肥料がホース18を通って作溝器17に供給され、作溝器17を介して田面G2に供給される。
【0048】
[6]
次に、操作レバー12について説明する。
図1及び図3に示すように、操縦ハンドル20の下側の右横側に操作レバー12が備えられ、操作レバー12が右の横外方に延出されている。操作レバー12は中立位置Nから上方の第1上昇位置U1、第2上昇位置U2,下方の第1下降位置D1、第2下降位置D2、後方の右マーカー位置R及び前方の左マーカー位置Lの十字方向に操作自在に構成されて、中立位置Nに付勢されており、操作レバー12の操作位置が制御装置23に入力されている。
【0049】
図3に示すように、昇降レバー11を自動位置に操作した状態で、以下のように操作レバー12の機能が作動する。
操作レバー12を第2上昇位置U2に操作すると(第2上昇位置U2に操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作されて、自動昇降制御が停止し、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作されて、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。苗植付装置5が上限位置に達したことがポテンショメータ29により検出されると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、油圧シリンダ4が自動的に停止する。
【0050】
図3に示すように、操作レバー12を第2下降位置D2に操作すると(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作すると)、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して苗植付装置5が下降するのであり、中央の接地フロート9が田面G2に接地すると、自動昇降制御が作動して、苗植付装置5が田面G2に接地して停止した状態となる。操作レバー12を第2下降位置D2に操作した後(第2下降位置D2に操作して中立位置Nに操作した後)、操作レバー12を再び第2下降位置D2に操作すると、自動昇降制御が作動した状態で、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される。
【0051】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、図3に示すように、操作レバー12を第1上昇位置U1に操作すると、制御装置23により制御弁24が供給位置に操作され、油圧シリンダ4が収縮作動して、苗植付装置5が上昇する。操作レバー12を中立位置Nに操作すると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の上昇が停止する。
【0052】
例えば自動昇降制御が停止し、電動モータ28により植付及び施肥クラッチ26,27が遮断状態に操作され、電動モータ21により右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態において、図3に示すように、操作レバー12を第1下降位置D1に操作すると、制御装置23により制御弁24が排出位置に操作され、油圧シリンダ4が伸長作動して、苗植付装置5が下降する。操作レバー12を中立位置Nに操作すると、制御装置23により制御弁24が中立位置に操作されて、苗植付装置5の下降が停止する。
このように操作レバー12を第1上昇及び第1下降位置U1,D1に操作している間だけ、苗植付装置5を上昇及び下降させることができるのであり、苗植付装置5を任意の高さに上昇及び下降させて停止させることができる。
【0053】
図3に示すように、操作レバー12を右マーカー位置Rに操作すると(右マーカー位置Rに操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ21により右のマーカー19が作用姿勢に操作される。操作レバー12を左マーカー位置Lに操作すると(左マーカー位置Lに操作して中立位置Nに操作すると)、電動モータ21により左のマーカー19が作用姿勢に操作される。
【0054】
[7]
次に、畦際での旋回時の操作制御に関する構造について説明する。
図3に示すように、変速レバー45の操作位置が制御装置23に入力されている。図2及び図3に示すように、ミッションケース34の右の横側面に、ブラケット46が固定され、ブラケット46にポテンショメータ47(旋回検出手段及び操向角度検出手段に相当)が固定されて、操向部材41とポテンショメータ47の検出アーム(図示せず)とに亘って、連係ロッド48が前車軸ケース35の下側を通って接続されている。ポテンショメータ47により操向部材41を介して、右及び左の前輪1の操向角度(直進位置A1と右及び左の操向限度A3の範囲)を検出することができるのであり、ポテンショメータ47の検出値が制御装置23に入力されている。
【0055】
図2及び図3に示すように、外周部に小さな凹凸が多数形成されたリング部材49が、右及び左のサイドクラッチ40のクラッチケースに外嵌されており、近接センサー型式の右及び左の回転数センサー50が、リング部材49に対向するように後車軸ケース37の上部に固定され、右及び左の回転数センサー50の検出値が制御装置23に入力されている。これにより、リング部材49の各々の凹凸に対応するように右及び左の回転数センサー50からパルスが発信されるのであり、右及び左の回転数センサー50のパルスによって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。この場合、右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態に操作されていても遮断状態に操作されていても、右及び左の回転数センサー50によって、右及び左の後輪2の回転数を検出することができる。
【0056】
図3に示すように、右及び左の回転数センサー50のパルスの第1積算値C1を検出(積算)して機体の走行距離とする走行距離検出手段51、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するスリップ率検出手段52、自動下降手段53、作業クラッチ操作手段54、右及び左の回転数センサー50のパルスの第2積算値C2を検出(積算)し、ポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)に基づいて、機体の旋回角度F1を検出する旋回角度検出手段55、マーカー制御手段56及び初期化手段57が、制御装置23に備えられている。
これにより、制御装置23において、後述の[8][9][10][11]に記載のような畦際での旋回時の操作制御(前半、中半及び後半)が行われる。
【0057】
[8]
次に、畦際での旋回時の操作制御の前半(後進行程L1及び前半の前進行程L2)、について、図4,5,7に基づいて説明する。
8条植型式の苗植付装置5を備えた乗用型田植機では、畦際において、図7に示すように、後進行程L1、前半の前進行程L2、前半の旋回行程L3、直進行程L4、後半の旋回行程L5、後半の前進行程L6を行って(以上、畦際での旋回)、1回の植付行程L01から次の植付行程L02に入る場合がある。
【0058】
この1回の植付行程L01において、例えば右のマーカー19が作用姿勢に操作され、左のマーカー19が格納姿勢に操作されていたとする(後述するマーカー19の作用姿勢方向MFが右に設定されている状態)(ステップS0)。この状態で運転者は、前回の植付行程(図示せず)の際に左のマーカー19で田面G2に形成された指標H1に沿って、植え付けを行いながら(苗植付装置5の下降状態、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態、右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)、機体を前進させるのであり、右のマーカー19により田面G2に次の植付行程L02の指標H2が形成される。
【0059】
前述のような1回の植付行程L01が終了する場合、運転者は植え付けを行いながら(苗植付装置5の下降状態、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態、右及び左のサイドクラッチ40の伝動状態)、機体を畦Bに向って前進させて、機体の前端が畦Bに到達すると(ステップS1)、変速レバー45を中立位置Nに操作して、機体を停止させる(ステップS2)(植付行程L01)。
【0060】
運転者は、昇降レバー11又は操作レバー12により苗植付装置5を停止させて上昇させ(植付及び施肥クラッチ26,27の遮断状態、苗植付装置5の上昇状態)(ステップS3,S4)(植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1)。苗植付装置5の上昇に伴って右のマーカー19が格納姿勢に操作されて、右及び左のマーカー19が格納姿勢に操作された状態となる(ステップS5)。変速レバー45を後進側Rに操作して、機体を後進させ(ステップS9)、所望の走行距離だけ機体が後進すると、変速レバー45を中立位置Nに操作して、機体を停止させる(ステップS10)(後進行程L1)。
【0061】
この場合、右のマーカー19が作用姿勢に操作されていたこと(マーカー19の作用姿勢方向MFが「右」に設定されていたこと)に基づいて、マーカー19の作用姿勢方向MFが「左」に設定される(ステップS6,S7)。逆に左のマーカー19が作用姿勢に操作されていたならば(マーカー19の作用姿勢方向MFが「左」に設定されていたならば)、マーカー19の作用姿勢方向MFが「右」に設定される(ステップS6,S8)。
【0062】
運転者は、変速レバー45を前進側Fに操作して、機体を前進させる(ステップS11)。所望の走行距離だけ機体が前進すると、操縦ハンドル20を操作して右及び左の前輪1を旋回方向に操向操作するのであり、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて右(左)の操向限度A3側に操向操作されると、前項[2]に記載のように、旋回外側のサイドクラッチ40が伝動状態に維持された状態で、旋回中心側のサイドクラッチ40が遮断状態に操作される。ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて右(左)の操向限度A3側に操向操作されたことが検出される(ステップS12)(前半の前進行程L2)。
【0063】
この場合、運転者が変速レバー45を後進側Rに操作してから(ステップS9)、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値が、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)され始めており、ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2に達したことが検出されるまで(ステップS6〜S9)、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値が、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)される(ステップS101)(走行距離検出手段51)。
【0064】
パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)のうち、後進行程L1でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)と、前半の前進行程L2でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)との差を見ることにより、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2を検出することができるのであり、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することができる(ステップS13)。
【0065】
右及び左のサイドクラッチ40が伝動状態であれば、右及び左の後輪2の回転数に差は発生しないのであるが、後進行程L1において、右又は左のサイドクラッチ40が遮断状態に操作されるまで、操縦ハンドル20が操作される可能性があることを想定している。これにより、右及び左の回転数センサー50のパルス(右及び左の後輪2の回転数)の平均値を、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)している(ステップS101)。
【0066】
[9]
次に、畦際での旋回時の操作制御の中半(前半の旋回行程L3、直進行程L4及び後半の旋回行程L5)について、図5及び図7に基づいて説明する。
植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係が検出されると(ステップS13)、畦際での旋回が開始されたと判断されて(前半の旋回行程L3に入ったと判断されて)(旋回検出手段により旋回が開始されたことが検出された状態に相当)、第1設定値CA1及び第2設定値CA2が設定される(ステップS14)。
【0067】
植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することにより(ステップS13)、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、どれだけのパルスが発信された後(どれだけの機体の走行距離に達した後)、植付及び施肥クラッチ26,27を伝動状態に操作すると、植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と植付及び施肥クラッチ26,27の伝動位置E5とが一致するのかが検出されて、この検出値が第1設定値CA1として設定される(ステップS14)。
【0068】
植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1と、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2との位置関係を検出することにより(ステップS13)、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、どれだけのパルスが発信された後(どれだけの機体の走行距離に達した後)、苗植付装置5を下降させると、畦Bに接触させずに適切なタイミングで苗植付装置5を下降させることができるのかが検出されて、この検出値が第2設定値CA2として設定される(ステップS14)。
【0069】
運転者は、操縦ハンドル20を操作することにより、機体を走行させる(前半の旋回行程L3、直進行程L4及び後半の旋回行程L5)。
旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、旋回中心側の回転数センサー50のパルス(旋回中心側の後輪2の回転数)が、制御装置23においてパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)として検出(積算)され、後進行程L1及び前半の前進行程L2でのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)に加算される(ステップS102)(走行距離検出手段51)。
旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2から、新たに旋回外側の回転数センサー50のパルス(旋回外側の後輪2の回転数)が、制御装置23においてパルスの第2積算値C2として検出(積算)される(ステップS103)。
【0070】
パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1が検出(積算)される(ステップS104)(旋回角度検出手段55)。
この場合、旋回中心側のサイドクラッチ40の遮断位置E2での機体の向きに対して、現在の機体の向きがどれだけ変化したのかが、パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて検出され、この検出値が機体の旋回角度F1として検出(積算)される。機体の旋回角度F1が90度であれば、機体の向きが真横に向いた状態であり、機体の旋回角度F1が180度であれば、機体の向きが反対に向いた状態である。右及び左の前輪1が旋回方向に操向操作された状態で、パルスの第2積算値C2が大きくなると(積算されると)、パルスの第2積算値C2の増加分だけ機体の旋回角度F1は大きくなったと検出される。逆に右及び左の前輪1が直進位置A1に操向操作された状態で、パルスの第2積算値C2が大きくなっても(積算されても)、機体は直進しただけで機体の旋回角度F1は変化していないと検出される。
【0071】
前半及び後半の旋回行程L3,L5での耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される(ステップS105)(スリップ率検出手段52)。
この場合、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2の駆動力と、耕盤G1の摩擦係数との関係によって、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2にスリップが発生したり発生しなかったりすると考えられる。旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2に動力が伝達されず、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2が自由回転する状態であれば、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2を回転させるのは、耕盤G1の摩擦係数に基づく耕盤G1からの抵抗であるので、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2にスリップは殆ど発生しないと考えられる。
【0072】
これにより、前半及び後半の旋回行程L3,L5での旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の後輪2は、機体の走行に伴い殆どスリップを発生させずに耕盤G1に従って回転すると考えられるので、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)と、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)との比に基づいて、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される。
【0073】
例えば旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)に対して、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)が、旋回外側及び旋回中心側の後輪2の内外輪差を考慮した所定のパルス数(回転数)の範囲であれば、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の後輪2にスリップは発生していないと判断できる。
逆に旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)に対して、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)が、前述の所定のパルス数(回転数)を越えていれば、旋回外側(サイドクラッチ40の伝動状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)と、旋回中心側(サイドクラッチ40の遮断状態)の回転数センサー50のパルス(回転数)との比に基づいて、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率が検出される。
【0074】
[10]
次に、畦際での旋回時の操作制御の後半(後半の旋回行程L5及び後半の前進行程L6)について、図5,6,7に基づいて説明する。
運転者が操縦ハンドル20を操作して機体を走行させて、パルスの第2積算値C2が第2設定値CA2に達すると(ステップS15)(例えば後半の旋回行程L5の途中等)、検出(積算)された機体の旋回角度F1がスリップ率に基づいて補正される(ステップS16)。例えばスリップ率が大きいと、パルスの第2積算値C2が大きいのに、機体の旋回角度F1はあまり変化していないと判断できるので、検出(積算)された機体の旋回角度F1からスリップ率に基づく補正値が差し引かれる。
【0075】
これにより、パルスの第2積算値C2が第2設定値CA2に達し(ステップS15)、且つ、補正後の機体の旋回角度F1が第1設定角度FA1(例えば150度)に達していると(ステップS17)、畦際での旋回が通常どおりに行われていると判断されて、上昇状態の苗植付装置5が植付及び施肥クラッチ26,27の遮断状態を維持して自動的に下降する(ステップS18)(自動下降手段53)。
【0076】
機体が後半の旋回行程L5の終端位置E4に達すると、運転者が操縦ハンドル20を操作し、右及び左の前輪1を直進位置A1側に操向操作するのであり、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されると、前項[2]に記載のように、旋回外側のサイドクラッチ40が伝動状態に維持された状態で、旋回中心側のサイドクラッチ40が伝動状態に操作される。ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されたことが検出される(ステップS19)(後半の前進行程L5)。
【0077】
ポテンショメータ47により、右及び左の前輪1が右(左)の設定角度A2を越えて直進位置A1側に操向操作されことが検出されると(ステップS19)、畦際での旋回が終了したと判断される(後半の前進行程L6に入ったと判断される)。これにより、後半の前進行程L6において、旋回中心側の回転数センサー50のパルス(旋回中心側の後輪2の回転数)がスリップ率に基づいて補正されながら(ステップS20)、補正後の値が、後進行程L1から後半の旋回行程L5までのパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)に加算されて、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)とされる(ステップS106)(走行距離検出手段51)。
【0078】
この場合、例えばスリップ率が大きいと、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)が大きいのに、機体はあまり進行していないと判断できるので、検出(積算)されたパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)からスリップ率に基づく補正値が差し引かれて、加算される(又は検出(積算)されたパルスの第1積算値C1(機体の走行距離)にスリップ率が乗されて、加算される)(スリップ率検出手段52で検出された車輪のスリップ率を加味して、旋回終了を検出する状態に相当)。
【0079】
パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)が第1設定値CA1に達すると(ステップS21)、検出(積算)された機体の旋回角度F1がスリップ率に基づいて補正される(ステップS22)(ステップS104)。例えばスリップ率が大きいと、パルスの第2積算値C2が大きいのに、機体の旋回角度F1はあまり変化していないと判断できるので、検出(積算)された機体の旋回角度F1からスリップ率に基づく補正値が差し引かれる(スリップ率検出手段52で検出された車輪のスリップ率を加味して、旋回終了を検出する状態に相当)。
【0080】
これにより、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)が第1設定値CA1に達し(ステップS21)、且つ、補正後の機体の旋回角度F1が第2設定角度FA2(例えば180度)に達していると(ステップS23)、畦際での旋回が通常どおりに行われていると判断される(旋回検出手段で検出された旋回開始と、走行距離検出手段51で検出された機体の走行距離とに基づいて、旋回終了を検出する状態に相当)(操向角度検出手段で検出された車輪の操向角度と、走行距離検出手段51で検出された機体の走行距離とに基づいて、旋回終了を検出する状態に相当)。
【0081】
従って、苗植付装置5が植付及び施肥クラッチ26,27の遮断位置E1の横隣の位置E5に達したと判断されて、植付及び施肥クラッチ26,27が伝動状態に操作される(作業クラッチ操作手段54)(ステップS24)。
この場合、マーカー19の作用姿勢方向MFが「左」に設定されていることにより(ステップS25)、左のマーカー19が作用姿勢に操作され(ステップS27)(右のマーカー19は格納姿勢に保持される)(マーカー操作手段56に相当)、次の植付行程の指標H3が田面G2に形成される。逆にマーカー19の作用姿勢方向MFが「右」に設定されていれば(ステップS25)、右のマーカー19が作用姿勢に操作される(ステップS26)(左のマーカー19は格納姿勢に保持される)(マーカー操作手段56に相当)。この後に次の植付行程L02に入る。
【0082】
[11]
図5のステップS17において、補正後の機体の旋回角度F1が第1設定角度FA1(例えば150度)に達していなければ、畦際での旋回が通常どおりに行われていないか、又は機体の向きを約90度変えた後に、そのまま直進した状態であると判断されて、これ以後のステップS18〜S27の操作が行われず、マーカー19の作用姿勢方向MFがリセットされる(「右」又は「左」の設定が消去される)(初期化手段57に相当)。
【0083】
図5のステップS23において、補正後の機体の旋回角度F1が第2設定角度FA2(例えば180度)に達していなければ、畦際での旋回が通常どおりに行われていないか、又は機体の向きを約90度変えた後に、そのまま直進した状態であると判断されて、これ以後のステップS24〜S27の操作が行われず、マーカー19の作用姿勢方向MFがリセットされる(「右」又は「左」の設定が消去される)(初期化手段57に相当)。
【0084】
これにより、この後は運転者が昇降レバー11又は操作レバー12を操作して、苗植付装置5の下降、植付及び施肥クラッチ26,27の伝動状態への操作を行う。操作レバー12を右マーカー位置Rに操作して(右マーカー位置Rに操作して中立位置Nに操作して)、右のマーカー19を作用姿勢に操作すると、マーカー19の作用姿勢方向MFが「右」に設定される。操作レバー12を左マーカー位置Lに操作して(左マーカー位置Lに操作して中立位置Nに操作して)、左のマーカー19を作用姿勢に操作すると、マーカー19の作用姿勢方向MFが「左」に設定される。
【0085】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]において、図5のステップS17を廃止して、ステップS1(又はステップS11,S13)から第1設定時間が経過しても、パルスの第2積算値C2が第2設定値CA2に達していなければ(ステップS15)、畦際での旋回が通常どおりに行われていないか、又は機体の向きを約90度変えた後に、そのまま直進した状態であると判断されて、これ以後のステップS16〜S27の操作が行われず、マーカー19の作用姿勢方向MFがリセットされるように構成してもよい(「右」又は「左」の設定が消去される)(初期化手段57に相当)。
【0086】
前述の[発明を実施するための最良の形態]において、図5のステップS23を廃止して、ステップS1(又はステップS11,S13)から第2設定時間が経過しても、パルスの第1積算値C1(機体の走行距離)が第1設定値CA1に達していなければ(ステップS21)、畦際での旋回が通常どおりに行われていないか、又は機体の向きを約90度変えた後に、そのまま直進した状態であると判断されて、これ以後のステップS22〜S27の操作が行われず、マーカー19の作用姿勢方向MFがリセットされるように構成してもよい(「右」又は「左」の設定が消去される)(初期化手段57に相当)。
【0087】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]の旋回角度検出手段55(図5のステップS104)において、パルスの第2積算値C2とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1を検出(積算)するのではなく、パルスの第1積算値C1とポテンショメータ47の検出値(右及び左の前輪1の操向角度)とに基づいて、機体の旋回角度F1を検出(積算)するように構成してもよい。
【0088】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態][発明の実施の第2別形態]のスリップ率検出手段52(図5のステップS105)において、以下のように構成してもよい。
【0089】
(1)
図3に示す右及び左のマーカー19のアーム部19aに回転体19bの回転数を検出する回転数センサー(図示せず)を備えて、右及び左の後輪2の回転数センサー50のパルス(回転数)と、右及び左のマーカー19の回転数センサーの回転数とを比較することによって、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するように構成する。これにより、右又は左のマーカー19を作用姿勢に操作する植付行程L01,L02において、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出することができる。
【0090】
(2)
図7に示す植付行程L01,L02において、GPSにより実際の機体の走行距離を検出し、右及び左の後輪2の回転数センサー50のパルス(回転数)と比較することによって、耕盤G1に対する右及び左の後輪2のスリップ率を検出するように構成する。
【0091】
(3)
前項(1)(2)及び[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]において、回転数センサー50を右及び左の前輪1に備える。
【0092】
[発明の実施の第4別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態][発明の実施の第1別形態]〜[発明の実施の第3別形態]において、右及び左のマーカー19を苗植付装置5の右及び左側部に備えるのではなく、右及び左のマーカー19を機体の前部の右及び左側部に備えるように構成してもよい。
図7に示すように、後進行程L1、前半の前進行程L2、前半の旋回行程L3、直進行程L4、後半の旋回行程L5及び後半の前進行程L6を行う場合(畦際での旋回)ばかりではなく、前半の前進行程L2、前半の旋回行程L3、後半の旋回行程L5及び後半の前進行程L6のみを行う場合(畦際での旋回)や、前半の旋回行程L3及び後半の旋回行程L5のみを行う場合(畦際での旋回)にも適用できる。
【符号の説明】
【0093】
5 対地作業装置
19 マーカー
47 旋回検出手段、操向角度検出手段
51 走行距離検出手段
52 スリップ率検出手段
56 マーカー制御手段
57 初期化手段
G2 田面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右の車輪に動力を伝達する右のサイドクラッチと、左の車輪に動力を伝達する左のサイドクラッチとを備え、
操向操作自在な車輪が直進位置側から右又は左の操向限度側に操向操作されると、右又は左の前記サイドクラッチが遮断状態に操作され、操向操作自在な車輪が右又は左の操向限度側から直進位置側に操作されると、遮断状態に操作された右又は左の前記サイドクラッチが伝動状態に操作されるように構成し、
車輪の回転数に基づいて機体の前進及び後進の走行距離を検出する走行距離検出手段を備えて、
遮断状態に操作された右又は左の前記サイドクラッチが伝動状態に操作されたことと、前記走行距離検出手段で検出された機体の前進の走行距離と機体の後進の走行距離との差、とに基づいて旋回終了を検出するように構成している水田作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−5807(P2013−5807A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−192074(P2012−192074)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2007−166421(P2007−166421)の分割
【原出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】