説明

水発電用合金、前記合金を用いる水発電装置、及び水発電方法

【課題】 水と接触することによって長時間の発電が可能な小型の発電装置を提供する。
【解決手段】 負極端子と蓋部材とから構成される蓋と;負極部材を含有する充填材と;前記充填材を充填する非導電性の外筒部材と;前記充填材において発生した電荷を集める集電体と;充填された前記充填材の上に載置された底面形成部材と;前記底面形成部材と、前記外筒部材の壁面と、開口部を有し、正極端子と前記充填材とを導通させる導通部材とから構成されている、発電用の水を適宜注入するための水室と;正極端子を形成する環状部材と、を備える水発電装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水発電装置、及び前記水発電装置の製造方法に関する。より詳細には、特定の処理を行った充填材を水と接触させることによって電力を発生させるための水発電装置、及び前記装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾電池としては、トランジスタラジオの普及に伴い、ポータブルラジオ用に使用されてきたマンガン電池の放電性能、耐漏液性能等の高性能化が求められ、高性能マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池等が開発された。また、クォーツ腕時計やゲーム関連商品に使用されていた酸化銀電池についても改良が進められ、アルカリボタン電池やリチウム一次電池が開発された。
【0003】
一方、丈夫で長時間放置しても性能低下が少なく、負荷特性に優れるニカド電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の二次電池が開発され、電動工具やコードレス電話に使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの電池は、小電力でラジオ、腕時計、電卓その他の小型電子機器等の用途で使用する上では、優れたものである。
しかし、これらの放電電圧は最も高いリチウムイオン電池で3.7Vであり、使用できる機械・器具はある程度限定されている。また、充電して繰り返し使用できるとはいえ、全く送電設備のない僻地や送電設備が破壊された被災地等では、必要とされる機器類を稼動させるには不十分である。
【0005】
さらに、使用済となると重金属が含有されているために他のごみとは別に回収することが必要であり、十分な回収体制がないと環境面で問題が生じるといわれている。
また、電子機器の高機能化と小型化とが進み、これに伴って使用できる範囲が広がると、電池を始めとする電池、言い換えれば、小型の発電装置に対する強い要請がある。
【0006】
また、近年、発生が続いている大地震、これに伴う津波等の被災地では、送電設備が破壊されていることが多く、被災者が被害情報や救援情報を入手することが難しい。ポータブルラジオが手元にあったとしても、電池の寿命を考えると常時つけておくことはできず、また、充電式のものであっても、送電設備が破壊されていれば、充電することができないため、状況は変わらない。
こうした場合に、長時間使用することができる発電装置があれば、被災者が適宜、被害情報や救援情報を入手することができ、二次災害を防ぐことができる。
したがって、防災の面からも、小型の発電装置に対する要請は強い。
【0007】
また、携帯電話についても、機種によっては電源をオフにしていても電池残量が減少するため、しばしば充電しなければならず、より容量の大きな電池の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、以上のような状況の下で鋭意研究を進め、特定の処理を行った正極充填材を水と接触させることによって電力を発生させることによって高い放電電圧が得られることを見出し、本発明を完成したものである。本発明は、水と接触することによって電力を発生させる、特定の処理を行った充填材を充填した水発電装置、その装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
すなわち、本発明は、負極端子と蓋部材とから構成される蓋と;負極部材を含有する充填材と;前記充填材を充填する非導電性の外筒部材と;前記充填材において発生した電荷を集める集電体と;充填された前記充填材の上に載置された底面形成部材と;前記底面形成部材と、前記外筒部材の壁面と、開口部を有し、正極端子と前記充填材とを導通させる導通部材とから構成されている、発電用の水を適宜注入するための水室と;正極端子を形成する環状部材と、を備える水発電装置である。
【0010】
前記充填材は、正極充填材と負極部材とを、所定の割合で含有することが好ましい。ここで、前記正極充填材は、アンモニウムイオンとフッ素イオンとを含有するpH8〜11の35〜50℃の処理液で浸漬処理し、乾燥した活性炭であるか、所定量のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる1種類の酸と、所定量の塩化カルシウム又は塩化ナトリウムとを含有する活性炭であることが好ましい。また、前記所定量は、正極充填材の総重量に対して、約0.03〜約0.20重量%であることが好ましい。
【0011】
前記負極部材と前記正極充填材とを所定の割合で混合して、充填材を調製する、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉であることが好ましい。
【0012】
前記外筒部材は、円柱状又は多角柱状であることが好ましく、大きさは特に限定されない。このため、機器類の大きさや必要な電力に応じて自由に変更することができる。
【0013】
また、前記外筒部材は、木、ガラス、セラミックス、プラスチック、炭素素材及び繊維強化プラスチックからなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0014】
さらに、前記木は、杉、松、竹、檜、桜、楓、及び椎からなる群から選ばれるものであり;前記セラミックスは、ジルコニウム、チタン酸バリウム、ジルコニア、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素及びステアタイトからなる群から選ばれるものであり;前記プラスチックは、ポリ塩化ビニル系、ポリエチレン、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、及びエンジニアリングプラスチックからなる群から選ばれるものであり;前記繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチック、ポリイミド繊維強化プラスチック、及び炭素繊維強化プラスチックからなる群から選ばれるものであり;前記炭素素材は、炭素自体及び炭素コンパウンドからなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、前記蓋の断面と同じ形状と大きさとを有し、かつ、充填された前記充填材料の底面を形成し、前記底面と開口部を有する正極端子形成用環状部材との間に水室を形成する、保湿性の底面形成部材をさらに備えるものであることが好ましい。ここで、前記底面形成部材は、2〜10μmの厚みを有する、吸水性のシート状部材であることが好ましい。前記底面形成部材を、その乾燥重量の100〜200倍の吸水能を有する紙、布帛及びこれらを積層して形成されるシート状素材とする構成をとると、発電に必要な水が長期間にわたって保持され、発電を続けることが可能となる。
【0016】
前記導通部材は、鉄、アルミニウム、銅、及びステンレスからなる群から選ばれる環状部と棒状の導通部とで構成されていることが好ましい。また、前記導通部材は、鉄、銅、アルミニウム、及びステンレスからなる群から選ばれる金属を含有する導電性樹脂で表面がコーティングされた環状部と棒状の導通部とで構成されていることが好ましい。開口部を有する環状部材と棒状部材とを備える導通部材を、プラスチックで一体成形し、これを市販の導電性樹脂でコーティングすると、錆が発生しにくいという利点がある。
【0017】
本発明はさらにまた、活性炭を酸又アルカリで処理して正極充填材を調製する、正極充填材調製工程と;前記正極充填材に負極部材である、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉を、所定の割合で混合して、充填材を製造する充填材調製工程と;負極部材と集電材とで構成される蓋と、外筒部材とで構成される有底容器に充填材を充填する充填材充填工程と;蓋と同じ大きさの断面積を有する底面形成部材を充填した充填材上に載置する底面形成工程と;前記正極端子と前記充填材とを導通させる導通部材を前記充填材と接触するように配置し、前記外筒の壁面と前記導通部材との間に、前記充填材を水と持続的に接触させるための水室を形成する水室形成工程と;正極端子を形成する正極端子形成工程と、を備える水発電装置の製造方法である。
【0018】
ここで、前記正極充填材調製工程は、(1)アンモニウムイオンを含有するpH8〜11の35〜50℃の処理液で浸漬処理し、乾燥した後、フッ素水素酸で処理し、乾燥するか;又は(2)活性炭を、所定量のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類の酸と混合し、さらに所定量の塩化カルシウム又は塩化ナトリウムと混合する工程であることが好ましい。
【0019】
上記の酸処理の場合には、上記酸の量は、活性炭重量の約1/60〜約1/10重量%とすることが好ましい。また、上記アルカリ処理の場合には、上記のように処理した活性炭は自然乾燥することが好ましい。
【0020】
また、塩化カルシウム又は塩化ナトリウムも約1/1,500〜約1/1,000重量%で添加することが好ましい。
【0021】
負極部材である、所定量の銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉は、約1/1,500〜約1/300重量%の量で混合することが好ましい。活性炭を上記のように処理した後に、負極部材となる上記の金属粉を、少なくとも1種以上、上述した割合で混合することによって、前記充填材が水と接触した時に、高い電位差を得ることが可能となる。
【0022】
また、前記底面形成部材は、その乾燥重量の100〜200倍の吸水能を有する紙、布帛、不織布及びこれらを積層して形成されるシート状素材からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。こうした素材を使用することによって、所望の電位差を長時間にわたって得ることが可能となる。さらに、前記導通部材に設けられている導電性部材は、上述したような材料で製造されたものであることが好ましい。
【0023】
なお、前記正極充填材中には、前記一方の負極端子と同じ断面積を有し、かつ保湿性を備える隔壁用部材がさらに設けられていることが好ましい。充填材中における水の分散を均等化することによって、より高い所望の電位差を長時間にわたって得られるようになるからである。前記導通部材は、上述したような構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水発電装置によれば、容器として金属を使用しなくとも、充填材を水と接触させるだけで電位差を発生させることができるという効果を奏する。また、長時間にわたって大きな電位差を安定して発生させることができ、電子機器等を稼動させることができる。
さらに、本発明の水発電方法によれば、長時間にわたって大きな電位差を安定して発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の水発電装置の実施形態を、図1〜図7を参照しつつ説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る発電装置10の構成がXZ断面図にて示されている。図1に記載の発電装置は、(1)負極端子2aと蓋部材2bと、後述する集電体とから構成される蓋2と;(2)充填材12と;(3)前記蓋2とともに有底筒を形成する外筒部材8と;(4)前記充填材において発生した電荷を集める集電体4と;(5)充填された前記充填材12の上に載置された底面形成部材6と;(6)前記底面形成部材6と、導通部材14とで構成されている発電用の水を適宜注入するための水室20と;(7)正極端子形成形用環状部材で構成される正極端子16と、を備えている。
ここで、前記正極端子形成用環状部材16に逆止弁を設けておくと、水室内へ注入した水が容器外へこぼれるのを防止することができる。
【0026】
上記正極充填材としては活性炭を使用する。活性炭は、市販されている200〜300メッシュのものを、以下のような処理を行って調製することができる。
【0027】
活性炭をアルカリで処理する場合について説明する。まず、アンモニウムイオンとフッ素イオンとを含有するpH8〜11の溶液を調製する。この溶液を35〜50℃の加温し、その中に活性炭を15〜60分間浸漬処理し、自然乾燥し、正極充填材とする。
【0028】
また、酸で処理をする場合には、所定量のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類の酸を使用する。これらは、市販品を購入して使用することができる。
【0029】
具体的には、まず、活性炭の1/60〜1/10量(v/v)のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類の酸と、活性炭とを混合して均一になるように攪拌する。ついで、この混合物に、1/50〜1/10量(w/w)の塩化カルシウム又は塩化ナトリウムを加えて、再度、均一になるように攪拌し、これを正極充填材とする。なお、竹炭から製造した活性炭を使用すると、発電効果が高い。
【0030】
また、活性炭に代えて、フラーレンやカーボンナノチューブ等からなるカーボンナノ粒子を使用することもできる。カーボンナノ粒子は、粒子が細かいために飛散に注意する必要はあるが、活性炭の場合と同様に酸又はアルカリで処理を行うことができる。
【0031】
以上のような処理を行って正極充填材を調製した後に、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉を、正極充填材の1/1,500〜1/300量(w/w)添加して、均一になるように攪拌混合し、充填材とすることができる。
【0032】
2種以上の金属粉を混合する場合には、例えば、銅を約1/1,000〜約1/300重量%、二酸化マンガンを約1/1,500〜約1/1,000重量%というように、金属によって添加量を変えることもできる。
【0033】
次に、外筒部材について説明する。この外筒部材は、上述したように、非導電性の部材で構成することができ、具体的には、各種の木、ガラス、セラミックス、プラスチック、炭素素材及び繊維強化プラスチックからなる群から選ばれる素材を適宜加工して使用することができる。本実施形態では、容器部材8を単4の乾電池と同じ外径及び長さの円筒(肉厚約0.6〜約1.6mmの管状部材)として構成する場合を例にとって説明する。
【0034】
例えば、木を外筒部材として使用する場合には、杉、松、竹、檜、桜、楓、及び椎からなる群から選ばれるものを使用することが、製造コストの面から好ましく、特に、杉や竹を使用すると、間伐材等を利用できるので資源の有効利用という点でも好ましい。
【0035】
ガラスを使用する場合には、ソーダガラス等の軟質ガラス、強化ガラス、ホウ珪酸ガラス等の耐熱ガラスその他のガラスを使用することができる。
【0036】
また、セラミックスで構成する場合には、ジルコニア、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素及びステアタイトからなる群から選ばれるものとすることが、強度、重量及びコストの面から好ましい。
【0037】
さらに、プラスチックを使用する場合には、ポリ塩化ビニル系、ポリエチレン、ポリプロピレン系、ポリスチレン系等の汎用プラスチックを使用すると、コスト面で有利であり、エンジニアリングプラスチックを使用すると、耐熱性が要求される用途への利用も可能となるという利点がある。特に、ポリアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアセタール系、ポリブタジエン系等のものを使用すると、耐熱性に優れた水発電装置を製造することが可能となる。
【0038】
こうした汎用プラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、高分子ポリプロピレン、ポリスチレン等を挙げることができる。また、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニルニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、といった五大エンジニアリングプラスチックの他、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)等を挙げることができる。
【0039】
前記繊維強化プラスチックで構成する場合には、ガラス繊維強化プラスチック、ポリイミド繊維強化プラスチック、及び炭素繊維強化プラスチックからなる群から選ばれるものを使用することが好ましく、これらの中でも、ポリイミド繊維強化プラスチックや炭素繊維強化プラスチックを使用すると、形成する外筒の寸法安定性と耐熱性に優れるという利点がある。
【0040】
上述したような材料のうち、プラスチック又は繊維強化プラスチック等を使用する場合を例に挙げて説明する。液状としたこれらの材料を、常法に従って、押し出し成型等を行い、内径約7〜11mm、外径約10〜14mm、肉厚約0.8〜約1.4mmの管状部材とする。ついで、この管を所望の長さに切断して、例えば、単4電池と同様の大きさの円筒状の外筒(φ10.3mm×44.1mm)を製造し、負極部材とする。
【0041】
なお、このようにして製造した外筒は、上記のように管状部材としてもよく、肉厚約0.8〜約1.4mmの多角形の部材としてもよい。また、用途に応じて容器の大きさ及び形状を自由に変えることもできる。さらに、こうしたプラスチック素材で容器部材を製造しておくと、上述した充填材のカートリッジとして使用することも可能になる。
【0042】
また、集電体4としては、例えば、直径が1.2〜1.5mmの市販の炭素棒を使用することができる。具体的には、第一カーボン(製)の乾電池用炭素棒等を使用することができる。なお、集電体としては、炭素棒の他、ステンレス棒、エボナイト棒等も使用することができる。
【0043】
また、底面形成部材6は、上述のようにして製造される外筒の内径と同じ径と断面積とを有し、上述した充填剤を充填した後にその上に載置され、後述する水室20を形成するものである。この底面形成部材6は、約2〜10μmの厚みを有する吸水性のシート状部材であることが好ましく、約4μmの厚みを有するものであることが、さらに好ましい。
【0044】
また、上記の底面形成部材6は、その乾燥重量の100〜200倍の吸水能を有する紙、布帛、不織布及びこれらを積層して形成されるシート状素材からなる群から選ばれるいずれかのものであることが好ましい。上記の紙、布帛及び不織布は、和紙その他の天然素材を用いて製造されたものであってもよく、ポリエステルその他の合成高分子を用いて製造されたものであってもよい。
【0045】
これらを積層して形成されるシート状素材は、和紙その他の天然素材を用いて製造されたもの同士、又は成高分子を用いて製造されたもの同士を積層したものであってもよく、天然素材を用いて製造されたものと合成高分子を用いて製造されたものとを積層して形成されたものであってもよい。
上述した厚みと吸水能を有する紙、布帛及び不織布並びにこれらを積層して形成されるシート状素材を使用すると、急激な水の蒸発を防止しつつ、充填材と水との接触を維持する上で好ましい。
【0046】
こうした紙、布帛、不織布及びこれらを積層して形成されるシート状素材としては、例えば、コウゾやミツマタを原料とする和紙、炭素繊維、シルク等の他、三菱製紙(株)製のダイヤスパンレース、東洋紡(株)のランシール(登録商標)F、ワットマン株式会社製の厚手のろ紙等を使用することができる。
【0047】
前記負極端子と外筒部材とを組み合わせて有底外筒を構成し、この中に、前記充填材を充填する。このときに、例えば、充填すべき充填材の1/2量を充填し、その上に容器の断面と同じ形状と大きさとを有し、かつ保湿性を備えるシート状部材を隔壁用部材として載置する。その後さらに、残りの充填材を充填してその上に底面形成部材を載置するといった構成とすることもできる。
こうした隔壁用部材としては、例えば、洋紙、和紙その他の紙、天然又は合成の高分子樹脂からなる不織布、上述した底面形成部材として使用されるシート状の素材等を使用することができる。保湿性の高さ及び製造コストの面から、前記底面形成部材と同じ素材を好適に使用することができ、1枚だけとしてもよく、2枚以上を使用してもよい。
【0048】
そして、このような構成とすることによって、前記充填材中に注入された水は隔壁用部材に一旦保持され、その後、充填材中に拡散する。これによって、充填材中における水の拡散がより均一となり、高い電位差を得ることができるようになる。
【0049】
水室20は、外筒部材8の内壁面と、充填材12の上に載置された後述する底面形成用部材6の表面と、後述する導通部材14とで構成されている。この水室20には、後述する開口部から注入された水が溜められるようになっている。なお、前記導通部材14を所望の位置に精度良く固定するために、絶縁性の環状部材Pをセットし、その後、導通部材14をセットするようにすることもできる。また、前記正極端子形成用環状部材16には、逆止弁を設けることもできる。
【0050】
前記発電装置は、さらに、(f)負極端子2aと、蓋部材2bと、前述した集電体とから構成される蓋2と、(g)正極端子と前記正極充填材とを導通させる導通部材14と、(h)開口部を有する正極端子形成用環状部材16とを備えている。
【0051】
ここで、導通部材14は、棒状の導通部14aと環状部14bとから構成されており、正極端子と前記充填材とを導通させる。導通部14aの形成には、例えば、適当な長さの鉄製又は銅製の釘を使用してもよく、所望の太さの市販品の鉄線又は銅線等を適当な長さに切断して使用してもよい。環状部14bとしては、外筒部材の内径と同一の直径を有する市販の導電性の環状部材を使用することができる。また、導通部材14をプラスチックで一体成型し、導電性樹脂でコーティングして使用することもできる。
【0052】
正極端子形成用環状部材16は開口部を有し、この開口部からシリンジ等を用いて水を注入すると、注入された水はこの水室20に入り、底面形成部材6によって吸水されて底面形成部材6の全面から前記充填材12と接触し、電荷を発生させる。
ここで発生した電荷は、集電体4で集電され、負極端子2を経由して取り出されることになる。
【0053】
この発電装置10を製造するに際しては、まず、図2に示すように、負極端子2aの凹部に集電体4を取り付け、ここに絶縁性の蓋部材2bをセットする。ついで、これを外筒部材8の一方の端にはめ込み、有底外筒を形成する(図3参照)。
【0054】
引き続き、上述のように処理し、調製した充填材12を、上記の状態となっている外筒中に所定量入れ(図4参照)、底面形成部材6を充填された充填材の上に載置する(図5参照)。次いで、正極端子と前記充填材とを導通させる導通部材14と、正極端子形成用環状部材16とをセットし、本実施形態の発電装置10とする。なお、必要に応じて、導通部材14をセットする前に、絶縁部材P(パッキング)をセットすることもでき、外筒8の外側をさらに絶縁材料で絶縁することもできる(図6及び図7参照)。
【0055】
なお、本実施形態では、負極部材を単4電池と同じ大きさの円筒形としたが、市販の各種一次電池や二次電池と同じ大きさとしてもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の発電装置について、実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0057】
(実施例1)充填材の調製
(1)正極充填材の調製
(1−1)正極充填材Aの調製
水酸化アンモニウムを含有する浸漬液(約3L、pH9〜10)を調製し、マントルヒーターを用いて36〜44℃に加温した。水酸化アンモニウム及びフッ化水素酸は、ナカライテスク(株)より購入した。
ついで、この中に市販の活性炭500g(フタムラ化学(株)製、200〜300メッシュ)を加えて、上記の浸漬液に約20〜45分間浸漬し、その後引き上げて自然乾燥させた。これをとフッ化水素酸を含有する浸漬液(約3L)に浸漬して自然乾燥させ、正極充填材Aを調整した。
【0058】
(1−2)正極充填材Bの調製
600gの活性炭に、活性炭重量の1/20量のリンゴ酸の粉末を加えて混合し、正極充填材Bを調製した。ここで、リンゴ酸に代えてレモン酸又はクエン酸をリンゴ酸と同量で使用し、正極充填材C及びDを製造した。リンゴ酸、レモン酸、クエン酸は、藤井薬品工業(株)又は関東化学(株)製のものを購入し、使用した。また、塩化ナトリウム又は二酸化マンガンは、ナカライテスク(株)製のものを購入し、乳鉢で摺りつぶして使用した。銅粉末は、三津和化学薬品(株)製の200〜400メッシュのものを使用した。
【0059】
(2)充填剤の調製
上記(1)で製造した正極充填材A銅粉を1g、二酸化マンガンを0.5g、それぞれ混合して均一になるように攪拌し、充填材αを製造した。また、正極充填材Bに銅粉1gを加えてβ1を、Bに銅粉1gと二酸化マンガン0.5gとを加えてβ2を、さらにBに銅粉1g、二酸化マンガン0.5g及び塩化ナトリウム0.5gを加えてβ3を、それぞれ製造した。
【0060】
(実施例2)水発電装置の製造
(1)隔壁用部材なしの水発電装置の製造
充填材として実施例1(2)のように処理した充填材α又はβ1〜β3を使用した。また、正極端子用絶縁部材には、市販のアルミニウムキャップを購入して使用した。集電体として、第一カーボン(株)製の乾電池用炭素棒を購入して使用した。セパレータとしては、厚手のろ紙(ワットマン(株)製)を購入し、約25mm×約36mmの大きさに切断して使用した。
【0061】
開口部を有する絶縁部材(パッキング)、導通部材、正極端子形成用環状部材及び開口部を有する外筒部材は、市販品を購入して使用した。なお、導通部材を構成する環状部には、正極端子と前記充填材とを導通させる棒状の導通部として、長さ約15mm、直径約1.5mmの鉄釘を打ち込み、上述した充填材との間の導通を確保した。
【0062】
上記の負極部材、負極端子用絶縁部材、集電体を、上記の管状部材の一端に図2に示すようにはめ込み、有底円筒とした。この有底円筒内に、実施例1のように処理した充填材を約18〜20g充填し、その後、底面形成部材を載置して、充填材がこぼれないようにした。
【0063】
次に、上記のパッキングを、底面形成部材から約5mm離れた位置にセットし、上記の環状部材をその上に嵌め込み、本発明の水発電装置を製造した。
【0064】
(2)隔壁用部材を設けた水発電装置の製造
隔壁用部材として、上記のセパレータと同じ素材を、外筒部材の断面と同じ形状及び大きさに切断して隔壁用部材とし、上記の通りに充填材を充填する以外は上記(1)と同様にして、隔壁用部材を設けた水発電装置を製造した。
次いで、前記の外筒部材中に充填する充填材を、概ね1/3に分け、まず、最初の1/3を上記(1)と同様に充填した。ここに上記のようにした隔壁用部材を1枚載せ、この上に、充填材の次の1/3を充填した。その後、残りの充填材を充填した。
【0065】
(実施例3)発電装置の評価
(1)電位差の測定
実施例1で製造した充填材α又はβ1を用いて、実施例2に示す手順に従い、単4電池サイズの水発電装置をそれぞれ5個ずつ製造した。電流計(秋月電子(株)製)を用いて、測定した。なお、電流は、電流計と水発電装置との間に1KΩの抵抗をつないで測定を行った。結果を表1に示す
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、充填材αを使用した場合には、約70±2mA、充填材β1を使用した場合には約253±8.5mA、β2を使用した場合には約322±5.5mA、さらに、β3を使用した場合には約397.5±7.2mAの電流値を有することが示された。
【0068】
(2)発電時間の測定
実施例1で製造した充填材α(本発明例1)及びβ1(本発明例2)を用いて、実施例2に示す手順に従って製造した本発明の水発電装置の発電時間を測定した。この測定は、市販のLEDランプが何時間でつかなくなるかを指標として、対照と比較をしながら行った。対照には、市販のマンガン電池(単4)2本を使用した。
【0069】
本発明の発電装置では、LEDの点灯時間が次第に短くなり、一旦、点灯しなくなった後に、注水口から水を数滴注入すると、再度点灯するようになった。このため、LEDが完全に点灯しなくなるまで、上記の実験を繰り返した。結果の一部を表3に示す。なお、本発明の発電装置で発生する電流量は、いずれも180mAとした。表2中、−はLEDが点灯しないことを表す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示すように、マンガン電池では、23時間でLEDが点灯しなくなり、翌日、2回目の実験を行うと、LEDは一瞬点灯し、すぐに消灯した。
一方、本発明例1の発電装置では、初回は、27時間でLEDが点灯しなくなったが、点灯しなくなった時点で数滴の水を注入すると、再度、点灯するようになった。点灯持続時間は、2回目で22時間、3回目で18時間、というように次第に短縮されてゆき、5回目までの合計は91時間であった。また、本発明例2の発電装置では、全体的に消灯までの時間が長くなり、5回目までの合計時間は112時間であった。
このことから、アルカリ菓子処理した正極充填材よりも、酸処理した正極充填材の方がLEDの点灯時間が長くなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明の水発電装置は、水と接触すれば長時間にわたって発電を行うことができるため、各種家電製品において乾電池に代えて使用できるだけでなく、被災地における電気を必要とする設備や機器の稼動、又はライフジャケットや発信機に装備することにより山岳事故もしくは海難事故の捜索においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の発電装置の断面図を示す図である。
【図2】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その1)である。
【図3】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その2)である。
【図4】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その3)である。
【図5】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その4)である。
【図6】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その5)である。
【図7】本発明の発電装置の製造工程を示す図(その6)である。
【符号の説明】
【0074】
10…発電装置,2…負極端子,4…集電体,6…底面形成部材,8…外筒部材,12…充填材,14…導通部材,16…正極端子形成用環状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極端子と蓋部材とから構成される蓋と;負極部材を含有する充填材と;前記充填材を充填する非導電性の外筒部材と;前記充填材において発生した電荷を集める集電体と;充填された前記充填材の上に載置された底面形成部材と;前記底面形成部材と、前記外筒部材の壁面と、開口部を有し、正極端子と前記充填材とを導通させる導通部材とから構成されている、発電用の水を適宜注入するための水室と;正極端子を形成する環状部材と、を備える水発電装置。
【請求項2】
前記充填材は、正極充填材と負極部材とを、所定の割合で含有することを特徴とする、請求項1に記載の水発電装置。
【請求項3】
前記正極充填材は、アンモニウムイオンとフッ素イオンとを含有するpH8〜11の35〜50℃の処理液で浸漬処理し、乾燥した活性炭であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水発電装置。
【請求項4】
前記正極充填材は、所定量のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる1種類の酸と、所定量の塩化カルシウム又は塩化ナトリウムとを含有する活性炭であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水発電装置。
【請求項5】
前記負極部材は、前記正極充填材に所定の割合で混合して充填材を調製する、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水発電装置。
【請求項6】
前記外筒部材は、円柱状又は多角柱状の外筒である、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項7】
前記外筒部材は、木、ガラス、セラミックス、プラスチック、炭素素材及び繊維強化プラスチックからなる群から選ばれるものである、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項8】
前記木は、杉、松、竹、檜、桜、楓、及び椎からなる群から選ばれるものであり;前記セラミックスは、ジルコニア、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素及びステアタイトからなる群から選ばれるものであり;前記プラスチックは、ポリ塩化ビニル系、ポリエチレン、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、及びエンジニアリングプラスチックからなる群から選ばれるものであり;前記繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチック、ポリイミド繊維強化プラスチック、及び炭素繊維強化プラスチックからなる群から選ばれるものであり;前記炭素素材は、炭素自体及び炭素コンパウンドからなる群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項7に記載の水発電装置。
【請求項9】
前記蓋の断面と同じ形状と大きさとを有し、かつ、充填された前記充填材料の底面を形成し、前記底面と開口部を有する導通部材とともに水室を形成する、保湿性の底面形成部材をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項10】
前記底面形成部材は、その乾燥重量の100〜200倍の吸水能を有する紙、布帛、不織布及びこれらを積層して形成されるシート状素材からなる群から選ばれるいずれかのものである、ことを特徴とする請求項9に記載の水発電装置。
【請求項11】
前記集電体は炭素棒である、ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項12】
前記導通部材は、鉄、アルミニウム、銅、及びステンレスからなる群から選ばれる環状部と棒状の導通部とで構成されている、ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項13】
前記導通部材は、鉄、銅、アルミニウム、及びステンレスからなる群から選ばれる金属を含有する導電性樹脂で表面がコーティングされた環状部と棒状の導通部とで構成されている、ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の水発電装置。
【請求項14】
活性炭を酸又アルカリで処理して正極充填材を調製する、正極充填材調製工程と;前記正極充填材に負極部材である、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びこれらの合金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属粉を、所定の割合で混合して、充填材を製造する充填材調製工程と;負極部材と集電材とで構成される蓋と、外筒部材とで構成される有底容器に充填材を充填する充填材充填工程と;蓋と同じ大きさの断面積を有する底面形成部材を充填した充填材上に載置する底面形成工程と;前記正極端子と前記充填材とを導通させる、開口部を有する導通部材を前記充填材と接触するように配置し、前記外筒の壁面と前記導通部材との間に、前記充填材を水と持続的に接触させるための水室を形成する水室形成工程と;正極端子を形成する正極端子形成工程と、を備える水発電装置の製造方法。
【請求項15】
前記活性炭酸処理工程は、(1)活性炭を、所定量のリンゴ酸、レモン酸及びクエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種類の酸と混合した後に、所定量の塩化カルシウム又は塩化ナトリウムと混合するか;又は(2)アンモニウムイオンを含有するpH8〜11の35〜50℃の処理液で浸漬処理し、乾燥した後、フッ素水素酸で処理し、乾燥する工程であることを特徴とする、請求項14に記載の水発電装置の製造方法。
【請求項16】
前記底面形成部材は、その乾燥重量の100〜200倍の吸水能を有する紙、布帛、不織布及びこれらを積層して形成されるシート状素材からなる群から選ばれるいずれかのものである、ことを特徴とする請求項14又は15に記載の水発電装置の製造方法。
【請求項17】
前記正極充填材中には、前記蓋と同じ断面積を有し、かつ保湿性を備える隔壁用部材がさらに設けられていることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の水発電装置の製造方法。
【請求項18】
前記導通部材は、鉄、アルミニウム、銅、及びステンレスからなる群から選ばれる環状部と棒状の導通部とで構成されている、ことを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の水発電装置の製造方法。
【請求項19】
前記導通部材は、鉄、銅、アルミニウム、及びステンレスからなる群から選ばれる金属を含有する導電性樹脂で表面がコーティングされた環状部と棒状の導通部とで構成されている、ことを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の水発電装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−204653(P2008−204653A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36646(P2007−36646)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(506113026)株式会社TSC (1)
【Fターム(参考)】