説明

水硬性組成物

【課題】優れた水中不分離性を有し、且つ、可使時間として適切な時間範囲で良好な流動性を維持し、その後、流動性を消失して高い自立性が発現する水硬性組成物を提供する。
【解決手段】水と、水硬性粉体と、カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(A)と、アニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(B)と、ポリオールとを含有し、前記化合物(A)の水溶液と前記化合物(B)の水溶液とが特定の粘度挙動を示す水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントなどの水硬性粉体を使用したスラリー、モルタルおよびコンクリートの流動性の制御方法として、高い流動保持性を確保する場合にはセメント分散剤や遅延剤の使用が挙げられる。逆に流動性を速やかに低下させ、高い早期強度を得る方法としては、セメントの初期の水和を早めて水和生成物を形成、凝結・硬化を促進させたりする物質を添加する方法がある。後者の場合、多くは無機電解質であり、CaCl2、Na2CO3、K2SO4、Al(OH)3、NaAlO2、アルミン酸カルシウム・ナトリウム類、か焼ミョウバン石、水ガラス(コンクリート総覧:技術書院出版、1988年発行)などがある。特許文献1等には、急結剤としてカルシウムアルミネートやアルカリアルミン酸塩、硫酸アルミニウムなどを使用した材料を使用した施工方法が開示されている。
【0003】
しかし、これらの化合物は、アルカリを多量に含む強アルカリ性であるため工事作業者の人体、特に目や皮膚、呼吸器への悪影響が指摘されているほか、強アルカリによる周囲の環境への汚染の危険性もある。また、アルカリ金属イオンはモルタルやコンクリート中のシリカ系の骨材とアルカリ骨材反応を起こすことも懸念されるため、長期の耐久性に悪影響を起こす危険性がある。さらに、鉄筋の腐食を招いたり、温度によって性能が大きく影響される、また、長期強度の確保が難しい物質もある。
【0004】
一方、アルカリや塩素を含まない有機系の混和剤として、アルカノールアミン、グリセリン、ショ糖などが挙げられる(新・コンクリート用混和材料:シーエムシー出版、1988年発行)。これらは、塩素を含まないが、急結効果の出る添加量で製造すると、わずか1〜2分で急結してしまうため、製造から施工までの管理が難しく、実際の使用には適さずに、実用化には至っていない。また、特許文献2には、セメント、多価アルコールおよびイソシアネートを含有する急結材が提案されているが、多価アルコールとイソシアネートによる反応物では十分な水中分離抵抗性性を付与する事はできず、またイソシアネートには強い毒性があるため、水の存在する施工箇所には十分な管理が必要とされる。
【0005】
一方、特許文献3には、特定2種の水溶性低分子化合物を使用することで、高い水中不分離性を発現させることが提案されている。
【特許文献1】特開平11−302057号公報
【特許文献2】特開平9−53013号公報
【特許文献3】特開2003−313536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた水中不分離性を有し、且つ、可使時間として適切な時間範囲で良好な流動性を維持し、その後、流動性を消失して高い自立性が発現する、主に、建築、土木、補修分野において使用される水硬性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(以下、化合物(A)という)と、アニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(以下、化合物(B)という)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせである水硬性組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、上記化合物(A)と、上記化合物(B)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物の製造方法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
化合物(A)および化合物(B)を、水と水硬性粉体に添加した後、ポリオールを添加する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、上記化合物(A)と、上記化合物(B)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物の製造方法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
化合物(A)および化合物(B)のいずれかの一方とポリオールとを、水と水硬性粉体に添加した後、化合物(A)および化合物(B)の他方を添加する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた水中不分離性を有し、且つ、可使時間として適切な時間範囲で良好な流動性を維持し、その後、流動性を消失して高い自立性が発現する、主に、建築、土木、補修分野において使用される水硬性組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、化合物(A)と化合物(B)との組み合わせと、ポリオールとを併用する事で、上述の課題を解決できる。すなわち、化合物(A)と化合物(B)が形成する高次構造体(ネットワーク構造)は、有機系の急結剤の反応を制御する事が出来るため、流動性の管理が容易となり、実際の施工への使用が可能となった。更に、高い水中不分離性も付与できる。ポリオールは、このような化合物(A)及び化合物(B)が形成する高次構造体への影響が少なく、こうした高次構造体が十分に機能してポリオール分子のセメント粉体への吸着を抑制でき、水和初期の間隙質との水和反応が抑制されるため、水中不分離性が向上し、且つ、短時間で流動性を消失して高い自立性を発現する水硬性組成物が得られるものと推察される。
【0012】
本発明では、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせは、化合物(A)の粘度100mPa・s以下の水溶液と化合物(B)の粘度100mPa・s以下の水溶液とを50/50の重量比で混合した混合水溶液の粘度を、高次構造体を形成することにより混合前のいずれの水溶液の粘度よりも少なくとも2倍高くすることができる化合物の組み合わせである。より好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、更に好ましくは少なくとも100倍、特に好ましくは少なくとも500倍高くすることができるものを用いる。ここで、粘度は、20℃の条件でB型粘度計(No.3ローター、1.5r/minから12r/min)で測定されたものをいう。この場合、前記の粘度挙動は、1.5r/minから12r/minの回転数の何れかで発現されればよい。更に、本発明に係る化合物(A)と化合物(B)を、水と水硬性粉体と混合するときの操作性の観点から、混合前の化合物(A)の水溶液と、化合物(B)の水溶液のそれぞれの20℃における粘度が、それぞれ好ましくは50mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下で、両液を混合したときに同様の増粘効果を発現することが望ましい。
【0013】
化合物(A)としては、4級塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、4級塩型のカチオン性界面活性剤としては、分子構造中に、10から26個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を、少なくとも1つ有しているものが好ましい。例えば、アルキル(炭素数10〜26)トリメチルアンモニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ピリジニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)イミダゾリニウム塩、アルキル(炭素数10〜26)ジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、タロートリメチルアンモニウムクロライド、タロートリメチルアンモニウムブロマイド、水素化タロートリメチルアンモニウムクロライド、水素化タロートリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルエチルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルプロピルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。水溶性と増粘効果の観点から、具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルピリジニウムクロライド等が好ましい。また、増粘効果の温度安定性の観点から、化合物(A)として、上記のアルキル基の炭素数の異なるカチオン性界面活性剤を2種類以上併用することが好ましい。
【0014】
特に、塩害による鉄筋の腐食やコンクリート劣化を防止する観点から、塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0015】
塩素等のハロゲンを含まない4級塩として、アンモニウム塩やイミダゾリニウム塩等が挙げられ、具体的にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、タロートリメチルアンモニウムメトサルフェート、タロージメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、1,1−ジメチル−2−ヘキサデシルイミダゾリニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、ヘキサデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、オクタデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムアセテート、タロージメチルヒドロキシエチルアンモニウムプロピオネート、等が挙げられる。水溶性と増粘効果の観点から、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルトリメチルアンモニウムメトサルフェート及びオクタデシルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等が好ましい。塩素等のハロゲンを含まない4級アンモニウム塩は、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、炭酸ジメチルで3級アミンを4級化することで得ることができる。
【0016】
化合物(B)として、芳香環を有するカルボン酸及びその塩、芳香環を有するホスホン酸及びその塩、芳香環を有するスルホン酸及びその塩が挙げられ、具体的には、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m−スルホ安息香酸、p−スルホ安息香酸、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、p−フェノールスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸等であり、これらは塩を形成していていも良く、これらを2種以上併用してもよい。ただし、重合体である場合は、重量平均分子量(例えば、ゲルーパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキシド換算)500未満であることが好ましい。増粘効果の観点から、p−トルエンスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、スチレンスルホン酸及びそれらの塩が好ましい。
【0017】
本発明の水硬性組成物は、化合物(A)と化合物(B)の合計の有効分含有量が水100重量部に対して0.01〜20重量部、更に0.1〜15重量部、特に0.3〜10重量部の範囲であることが、ブリージング水等の材料分離を抑制する点で好ましい。
【0018】
本発明の水硬性組成物においては、化合物(A)と化合物(B)のモル比(有効分モル比)は、化合物(A)と化合物(B)の組み合わせによって増粘効果の高い領域が異なり、目的とする増粘の程度に応じて適宜決めればよいが、得られる粘度と高次構造体の形状の観点から、化合物(A)/化合物(B)=1/20〜20/1、好ましくは1/20〜4/1、より好ましくは1/3〜2/1、特に好ましくは1/1〜2/3が適している。
【0019】
本発明において、ポリオールは水硬性粉体の初期水和を促進し、スラリー、モルタル、コンクリートなどの流動性を低下させることに寄与する成分である。ポリオールとは分子内に2個以上の水酸基を持つ物質であり、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエタノールアミン、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。中でも流動性低減効果の観点から、分子内に3個以上の水酸基を持つ物質が好ましく、グリセリン類がより好ましい。具体的にはグリセリン、ジグリセリン、重量平均分子量(Mw)が1000以下のポリグリセリンが挙げられる。強度発現性の観点からグリセリン、ジグリセリンが特に好ましい。
【0020】
ポリオールの添加量(有効分)は、水硬性粉体に対し、0.01〜10重量%、更に0.05〜5重量%、特に0.1〜3重量%であることが好ましい。
【0021】
また、化合物(A)と化合物(B)の合計有効分(X)と、ポリオールの有効分(Y)との重量比が、(X)/(Y)=2/98〜98/2、更に10/90〜90/10、特に15/85〜85/15であることが好ましい。
【0022】
本発明の水硬性組成物は、化合物(A)と、化合物(B)と、ポリオールと、水と、水硬性粉体とを混合することにより得られる。その際、ポリオールの添加順序を変えることで、流動性低下を制御する事が出来る。ポリオールを化合物(A)、(B)のどちらか一方と同時に水と水硬性粉体に混合し、その後他方を混合すると早い自立性が得られる。また、(A)、(B)を水と水硬性粉体に混合した後にポリオールを混合すると穏やかな流動性低下が得られる。適宜、用途や施工条件に応じて決めればよい。
【0023】
すなわち、本発明の水硬性組成物の製造方法として、化合物(A)および化合物(B)を、水と水硬性粉体に混合した後、ポリオールを混合する方法、並びに、化合物(A)および化合物(B)のいずれかの一方とポリオールとを、水と水硬性粉体に混合した後、化合物(A)および化合物(B)の他方を混合する方法が挙げられる。
【0024】
より具体的には、
(1)水、水硬性粉体に、化合物(A)と化合物(B)を混合し、次いでポリオールを混合する方法
(2)水、水硬性粉体に、化合物(A)とポリオールとを混合し、次いで化合物(B)を混合する方法
(3)水、水硬性粉体に、化合物(B)とポリオールとを混合し、次いで化合物(A)を混合する方法
が挙げられる。(1)では、化合物(B)を先に混合してから化合物(A)を混合することが好ましい。また、これらを組み合わせることや、全成分を一括混合することもできる。
【0025】
また、本発明の水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔水硬性組成物中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、以下、W/Pと表記する。〕が200%以下、更に20〜100%、特に30〜50%であることが好ましい。
【0026】
本発明の水硬性組成物は分散剤を含有しても良い。分散剤は、減水剤としてリグニンスルホン酸塩及びその誘導体、オキシカルボン酸塩、高性能減水剤及び高性能AE減水剤として、ナフタレン系(花王(株)製:マイテイ150)、メラミン系(花王(株)製:マイテイ150V−2)、ポリカルボン酸系(花王(株)製:マイテイ3000、NMB社製:レオビルドSP、日本触媒社製:アクアロックFC600、アクアロックFC900)等が挙げられる。その中でも、ポリカルボン酸系高性能減水剤が水硬性組成物の流動性と粘性を両立出来るという意味で、好適である。
【0027】
本発明の水硬性組成物に含有される水硬性粉体としては、水和反応により硬化する物性を有する水硬性粉体を用いる。例えば普通ポルトランドセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、高ビーライト含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカフュームセメントなどの水硬性粉体セメントや石膏が挙げられる。また、フィラーも水硬性粉体を含有する組成物が硬化する範囲で水硬性粉体と併用して用いることができ、例えば炭酸カルシウム、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。また、土と併用することもできる。
【0028】
本発明の水硬性組成物には骨材を混合することができ、骨材には細骨材や粗骨材が使用でき、特に限定されるものではないが、吸水率が低くて骨材強度が高いものが好ましい。粗骨材としては、川、陸、山、海、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材としては、川、陸、山、海、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。
【0029】
本発明の水硬性組成物には、公知の無機系急結剤(材)や瞬結剤(材)を使用することができる。急結剤としては、無機塩系のものとして、炭酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム類、カルシウムサルホアルミネート、か焼ミョウバン石等の急結剤が挙げられる。
【0030】
本発明の水硬性組成物は、注入材と共に使用することが好適である。特に地盤に空けた穴やトンネルの壁面等から水が噴出するような部位への注入の際には、注入材を使用することが好ましい。本発明の水硬性組成物は、硬化が速く水で流失されにくいことから、水が噴出するような部分の補修用が特に好適である。
【0031】
本発明の水硬性組成物を補修材として使用する場合には、限定注入性や緊急の止水性を材料に付与でき、橋脚・橋梁・橋台の補修、河川・貯水池の補修工事、水封トンネルの補修工事に使用される。また、土木分野に使用する場合は、地盤の崩落防止や掘削後の地山や岩盤を安定にする水硬性組成物として使用できる。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、補修用注入材の用途、特に緊急の止水や補修を要する用途に供する場合、初期スランプフロー値(JIS R 5201)が230〜280mmであり、60分後のスランプフロー値が60〜190mmであることが好ましい。このような物性の水硬性組成物は、初期スランプフロー値を分散剤等で調整し、前記した(1)〜(3)の方法により得ることができる。
【実施例】
【0033】
〔1〕水硬性組成物の調製
表1に配合に対して、表2の化合物(A)及び化合物(B)、表3のポリオール等(P6も便宜上ポリオールの欄に記した)を用い、以下の調製方法1又は2により水硬性組成物(モルタル)を調製した。尚、何れの場合も、化合物(A)と化合物(B)のモル比(有効分モル比)は(A)/(B)=1/1であり、化合物(A)と化合物(B)の合計添加量(有効分換算)は水に対して0.5重量%であり、高性能減水剤(商品名:マイテイ3000(ポリカルボン酸系、花王(株)製)の量を調整し、スランプフローが250±15mmの水硬性組成物を調製した。
【0034】
<調製方法1>
表1の配合に従い、水、セメント、細骨材と所定量の化合物(B)と所定量のポリオールをモルタルミキサーで低速63r/min、60秒間攪拌した後、化合物(A)を所定量添加し60秒間攪拌して水硬性組成物を調製した。
【0035】
<調製方法2>
表1の配合に従い、水、セメント、細骨材と所定量の化合物(B)をモルタルミキサーで低速63r/min、60秒間攪拌した後、化合物(A)を所定量添加し60秒間攪拌した後、所定量のポリオールを添加し、さらに60秒間攪拌して水硬性組成物を調製した。
【0036】
〔2〕評価
上記で得られた水硬性組成物について以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0037】
<流動性と流動保持性>
製造直後の水硬性組成物について、直径50mm×高さ100mmのコーンを使用し、コーンを引き上げてから5分後のスランプフロー値を測定した。流動保持性は、更に製造15分後、30分後、60分後のフロー値を同様に測定し評価した。尚、評価の基準は、作業性や自立性の観点から、練り直後15分から60分で、60mm以上190mm以下のフローを合格とした。
【0038】
<水中分離抵抗性>
上記の方法で調製したモルタル10gを計り取り、20℃の水道水400mLが入った500mLビーカーに静かに沈殿させる。スラリーが水中に舞い上がった状態を目視(肉眼)にて観察し、以下の基準で評価した。
◎:水相が完全に透明であり、沈降したモルタルの全体が確認できる。
○:底に沈降したモルタルの全体が確認できる。
×:水相が濁り、ビーカーの底が見えない。
【0039】
【表1】

【0040】
(注)表1中の成分は以下のものである。
・水(W):水道水
・セメント(C):普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.16g/cm3
・細骨材(S):硅砂(4、5、6号混合)、表乾密度2.59g/cm3
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
(注)
高性能減水剤とポリオールの添加量は、セメントに対する有効分重量%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(以下、化合物(A)という)と、アニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(以下、化合物(B)という)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせである水硬性組成物。
【請求項2】
ポリオールが、グリセリン類である請求項1記載の水硬性組成物。
【請求項3】
化合物(A)と化合物(B)の合計有効分とポリオールの有効分の重量比が、2/98〜98/2である請求項1又は2記載の水硬性組成物。
【請求項4】
さらに、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を含有する請求項1〜3いずれか記載の水硬性組成物。
【請求項5】
補修用注入材として用いられる請求項1〜4いずれか記載の水硬性組成物。
【請求項6】
カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(以下、化合物(A)という)と、アニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(以下、化合物(B)という)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物の製造方法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
化合物(A)および化合物(B)を、水と水硬性粉体に混合した後、ポリオールを混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項7】
カチオン性界面活性剤の1種以上の化合物(以下、化合物(A)という)と、アニオン性芳香族化合物の1種以上の化合物(以下、化合物(B)という)と、水と、水硬性粉体と、ポリオールとを含有する水硬性組成物の製造方法であって、
化合物(A)と化合物(B)の組み合わせが、化合物(A)の水溶液SA(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)と化合物(B)の水溶液SB(20℃での粘度が100mPa・s以下のもの)とを50/50の重量比で混合した水溶液の20℃における粘度が、混合前のいずれの水溶液(20℃)の粘度よりも少なくとも2倍高くなる組み合わせであり、
化合物(A)および化合物(B)のいずれかの一方とポリオールとを、水と水硬性粉体に混合した後、化合物(A)および化合物(B)の他方を混合する、水硬性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−106641(P2007−106641A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300625(P2005−300625)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】