説明

水系塗材組成物およびその水系塗材組成物を塗布してなる建材、並びに水系塗材組成物の製造方法

【課題】マイナスイオンや低線量放射線を放出する透明な水系塗材組成物、その水系塗材組成物を塗布してなる建材、及び水系塗材組成物の製造方法の提供。
【解決手段】筒状容器内にミクロンサイズのビーズ状粉砕媒体と該容器内で回転する攪拌部材とを有する粉砕機に、マイナスイオン発生鉱石と分散剤、バインダー樹脂、水を通してナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含む水系塗材組成物とした。そのため、無色透明の水系塗材組成物とすることができ、被着体の表面色を生かすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含む水系塗材組成物と、その水系塗材組成物を塗布してなる建材、並びに水系塗材組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイナスイオン(Eマイナス電子)が身体に好影響を与えるものとして注目されている。空気の悪い室内では、身体に変調をきたすプラスイオンが増大しており、快適な室内では、身体に好影響を与えるマイナスイオンが存在しているというのである。空気中には、正または負に帯電している微粒子が存在するが、プラスイオンとは正に帯電しているものであり、マイナスイオンは負に帯電しているものであるので、身体に好適な環境を得るには、空気中の負に帯電している微粒子を増加させる必要がある。こうした方法には、水を破砕する方法、放電を行う方法、紫外線を用いる方法などがあるが、特殊な機器を用いずに常時マイナスイオンを得る方法としてマイナスイオン発生物質を利用する方法がある。
【0003】
マイナスイオンはトルマリンや竹炭などの物質から発散されることが知られているので、こうした物質を住環境の一部に取り込めば、生活の中で自然にマイナスイオン雰囲気を享受できる環境を作り出すことが可能である。例えば、住居に使われる壁紙などの建材にマイナスイオンを発生するトルマリンなどの物質を混入する技術が、特開2002−12827号公報(特許文献1)に開示されている。
【特許文献1】特開2002−12827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トルマリンや竹炭から発生するマイナスイオン量は少なく、所望量のマイナスイオンを得ようとすれば大量のトルマリン等が必要になる。あるいは、トルマリン等からのマイナスイオンの発生量が少ないため、いくら大量にトルマリンを準備してもマイナスイオン量が不足する場合も生じる。また、トルマリンなどの鉱石は塗材に含まれるバインダーや溶剤に対する分散性が悪いため、所望のマイナスイオン発生量を担保する程度の鉱石を混入すると、塗材中の鉱石分が多くなりすぎて、安定的な塗材は得られなかった。
【0005】
加えて、マイナスイオンを発生する原料鉱石は色のついた物質であり、こうした物質を含有させるとその物質の有する色が塗材に付いてしまい、所望の色調を有する塗材を得ることができないという問題があった。
【0006】
さらに、身体の健康良化を実現する製品であれば、シックハウス症候群などで問題となっている有機溶剤を含むことは避けられるべきであり、また、廃棄物として処理される場合であっても環境負荷の少ない材質とすることが好ましいことから水系の塗材であることが望まれる。
【0007】
こうした背景技術の下に本発明はなされたものであって、本発明はマイナスイオンを発生させる原料物質の探索と、そうした原料物質の加工方法、用途などを研究することで、マイナスイオンの発生とともに、マイナスイオン発生に限定されない身体に好ましい影響を与える放射線の発生も検討し、好適な住環境を得るための水系塗材組成物と、その水系塗材組成物を塗布して得られる建材、並びにそうした水系塗材組成物の製造方法を提供しようとするものである。
【0008】
また、着色剤を加えなければ透明であって加えれば所望の色調が得られることで、多様なデザインに対応可能な水系塗材組成物と、その水系組成物を塗布して得られる建材、並びに水系塗材組成物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち本発明は、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を含む水系塗材組成物を提供するものである。ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を含む水系塗材組成物としたため、この水系塗材組成物を建材に塗布することで、建材からマイナスイオンを放出させることができ、身体に好影響を及ぼす住環境を構築することができる。
【0010】
水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜35重量部の前記マイナスイオン発生鉱石を含有し、該マイナスイオン発生鉱石100重量部に対して0.5重量部〜5.0重量部の分散剤を含有するものとすることができる。水分を除去した後の固形分100重量部中にナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を5重量部〜35重量部含有するものとし、該マイナスイオン発生鉱石100重量部に対して0.5重量部〜5.0重量部の分散剤を含有するものとしたため、マイナスイオン発生量が多い水系塗材組成物となる。また、この水系塗材組成物は、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有し、所定量の分散剤で分散させているため水系塗材組成物自体を無色透明とすることができる。
【0011】
マイナスイオン発生鉱石がラジウム含有鉱石であり、分散剤がポリカルボン酸系分散剤であり、バインダー樹脂がアクリル系またはウレタン系の水系高分子であることが好ましい。マイナスイオン発生鉱石がラジウム含有鉱石であれば、発生する微量放射線により多量のマイナスイオンを生成することができ、また放射線自体が身体に好影響を与えるからである。また、分散剤がポリカルボン酸系分散剤であるため、水系塗材組成物中にナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を分散させることができる。そして、バインダー樹脂がアクリル系またはウレタン系の水系高分子であるので、水を媒質にしてナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を分散させることができ、有機溶剤を含有しないことが可能となる。
【0012】
固形分の重量割合は50重量部〜90重量部とすることができる。固形分の重量割合を50重量部〜90重量部としたため、塗布形態や温度に応じて残部の水分を増減調整し適度な粘度の組成物を得ることができる。
【0013】
この水系塗材組成物では、水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜20重量部の着色剤を含有するものとすることもできる。水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜20重量部の着色剤を含有させれば、所望の色調に調製された水系塗材組成物を得ることができ、被塗布物のデザインの多様化に対応することができる。
【0014】
そして、こうした水系塗材組成物をクロスなどの壁紙や、ブロック、石材、木材、コンクリート、鉄部などの材質でなり居住空間に表出する建材に塗布することができる。そして、こうして得られた建材は、マイナスイオンを発生するため優れた住環境を提供する建材である。
【0015】
また、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有する水系塗材組成物の製造方法であって、砂状に粉砕したマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を分散機にて分散処理してスラリー状混合物とし、筒状容器内にミクロンサイズのビーズ状粉砕媒体と該容器内で回転する攪拌部材とを有する粉砕機に、該スラリー状混合物を通過させ、マイナスイオン発生鉱石を微粉砕しナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有させる水系塗材組成物の製造方法を提供する。
【0016】
砂状に粉砕したマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を分散機にて分散処理してスラリー状混合物としたため、マイナスイオン発生鉱石をナノサイズに微粉砕する後工程を効率的に行うことができる。また、筒状容器内にミクロンサイズのビーズ状粉砕媒体と該容器内で回転する攪拌部材とを有する粉砕機に、該スラリー状混合物を通過させるため、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有した水系塗材組成物を得ることができる。
【0017】
そして、スラリー状混合物を粉砕機に通過させて微粉砕する前記工程の後、着色剤を添加してさらに混合、分散させる工程を含むものとすることができる。着色剤を添加してさらに混合、分散させる工程を含むものとしたので、所望の色調を有する水系塗材組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水系塗材組成物及びその水系塗材組成物を塗布した建材によれば、無色透明にも所望の色調にも調整できるため、素材の色調を生かし、マイナスイオンを発生する身体に好適な建材を得ることができる。
【0019】
また、本発明の水系塗材組成物の製造方法によれば、水系塗材組成物中にナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有させることができ、無色透明とすることが可能であって、マイナスイオンを発生する身体に好適な水系塗材組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の水系塗材組成物は、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含み、この鉱石を保持するバインダー樹脂、そしてこれらの固形分を媒質である水に分散させる分散剤を含有してなる組成物である。水系としたのは、媒質に水を使うことで有機溶剤を用いないこととし、可能な限り水だけを媒質に使うことで、環境負荷を少なくし、職人の作業環境を改善し、さらには居住者の健康を害する有機溶剤の放散を無くそうとしたためである。
【0021】
水系塗材組成物中の成分について説明する。まず、マイナスイオン発生鉱石は、加熱や加圧することでマイナスイオンを発生する電気石等の磁性体鉱石に限られず、外的作用を施さずに恒常的にマイナスイオンを発生する鉱石なども含まれる。マイナスイオンは、水粉砕や放電で発生するが、放射線物質から放出された微量放射線が空気中の分子を分解してマイナスイオンを発生させると考えられるため、本発明では、微量放射線を放出する鉱石を含むことができる。こうした鉱石としては、トルマリンや、天寿石、角閃石、天照石、安山岩、花崗斑岩、石英斑岩、ホルミック(登録商標)鉱石やバドガシュタイン鉱石などのラジウム鉱石などが挙げられる。オーストリアのバドガスタイン付近で採掘されたハイルシュトレンストーンは好ましいバドガシュタイン鉱石である。
【0022】
放射線は大量に浴びると身体に害毒を及ぼすことは明らかであるが、微量であると逆に身体に好影響を及ぼすことが明らかになってきている。放射線の安全基準は、年間で1000μSV(マイクロシーベルト)以下であり、これを1時間にすると約2.5μSV/hであるのに対し、ラジウム鉱石の放射線量は一般的には0.085μSV/h程度であるから安全基準より大幅に少なく、ラジウム鉱石を安心して用いることができる。鉱石から発せられる微量な放射線が直接身体に好影響を与えるのか、放射線によってマイナスイオンが発生することで好影響を与えるのかについては定かではないが、何れにしても放射線の放出が原因となり、また、マイナスイオンも発生することでなんらかの刺激を身体が受けるものと考えられる。マイナスイオンの発生量については、トルマリンを30個/ccとすると、天寿石で85個/cc、角閃石で96個/cc、天照石で600個/cc、安山岩で780個/cc、ホルミック鉱石やバドガシュタイン鉱石で300個/cc〜1800個/ccである。マイナスイオン発生量が多い点で天照石や安山岩、ホルミック鉱石やバドガシュタイン鉱石を用いることが好ましい。ホルミック鉱石やバドガシュタイン鉱石などのラジウム鉱石は、得られる微量放射線量が身体にとって適当量であり、放射線源の偏りが少なく品質の安定した鉱石である点で好ましい。
【0023】
こうしたマイナスイオン発生鉱石は、水系塗材組成物中では、ナノサイズの大きさで含まれている。本発明における「ナノサイズ」はnmで規定される大きさをいい、好ましくは平均粒径が800nm以下、より好ましくは500nm以下の大きさである。そして、粒度のばらつきは好ましくは平均粒径に対して±5%〜10%の大きさの範囲内に80%が含まれるものである。ミクロンサイズの粒子は全粒子中多くても重量相当で10重量部以下、好ましくは5重量部以下としている。
【0024】
バインダー樹脂は、マイナスイオン発生鉱石を保持する機能を有するものである。バインダー樹脂として用いられる物質は水に溶解、分散する性質を有する水系高分子であり、合成高分子の他、天然高分子も含まれるものである。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体やポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム(低分子タイプ、高分子タイプ、部分中和物)や架橋ポリアクリル酸樹脂などのアクリル系樹脂、デンプン、カゼイン、デキストリンなどの他、各種高分子が水中で乳化されているエマルジョン類、例えば、アクリル系、ウレタン系、スチレン/アクリル酸系、酢酸ビニル系、エチレン酢酸ビニル系、スチレン/ブタジエン系、オレフィン系、アルキッド系、塩化ビニリデン系等の樹脂エマルジョン、分散形フッ素樹脂といった特殊エマルジョンなどが挙げられる。こうした水系の材料を用いることとしたのは、媒質として水を用い、環境や人体に悪影響を及ぼす有機溶剤の利用を避けるためである。
【0025】
上記バインダー樹脂は、架橋ポリアクリル酸樹脂としては住友精化社製「アクペック(商品名)」を、ポリアクリル酸ナトリウム部分中和物として住友精化社製「アクパーナ(商品名)」を、ポリエチレンオキサイドとして住友精化社製「ペオ(商品名)」を、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体として住友精化社製「EPC(商品名)」を、ヒドロキシエチルセルロースとして住友精化社製「HEC(商品名)」を、一例として挙げることができる。
【0026】
分散剤は、バインダー樹脂や媒質である水との混合系でナノ化したマイナスイオン発生鉱石を分散させるために、そして、たとえ時間経過とともに沈降したとしても微粒子が凝集、固化しないよう容易に再分散させるために添加するものである。一般的な分散剤は種々あるが、本発明ではポリカルボン酸アンモニウム塩などのポリカルボン酸系分散剤や、ナフタレンスルフォン酸、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリイタコン酸系ナトリウム、マレイン酸系ポリマー、スチレンメタアクリル酸を用いることが好ましい。この中でも分散性能やコスト面に優れたポリカルボン酸系の分散剤を用いることがより好ましい。
【0027】
上記分散剤は、ポリカルボン酸アンモニウム塩としては、中京油脂社製「セルナ(商品名)」やサンノプコ社製「SNディスパー(商品名)」を、ナフタレンスルフォン酸としては花王社製「ベレックス(商品名)」を、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては阪本薬品工業社製「SYグリスター(商品名)」や三菱化学フーズ社製「リョートーポリグリエステル(商品名)」、日光ケミカルズ社製「“NIKKOL”シリーズ(商品名)」を、ソルビタン脂肪酸エステルとしては理研ビタミン社製「“ポエム”シリーズ(商品名)」や花王社製「レオドール(商品名)」を、ポリイタコン酸系ナトリウムとしては日本純薬社製「ジュリマーAC-70N」(商品名)を、一例として挙げることができる。
【0028】
上記成分の混合物として透明な水系塗材組成物を得ることができるが、染料や顔料などの着色剤を溶解、分散させて所望の色調にした水系塗材組成物として調製することもできる。こうした着色剤として、カーボンブラック、黄色酸化鉄や酸化チタンなどの金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物、ビスマスバナジウム等の無機顔料や、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料、ベンズイミダゾロン顔料等の有機顔料、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料が挙げられる。これらの染料や顔料の中でも既に液体として市販されている液体顔料を用いることは好ましい。
【0029】
なお、必要に応じて、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、硬化触媒、湿潤剤、酸化防止剤、防黴剤、防腐剤、増粘剤、レベリング剤、沈降防止剤、艶消し剤、艶出し剤、紫外線吸収剤等の種々の添加剤を適宜添加してもよい。
【0030】
本発明では媒質として溶剤を用いず水を用いる。水には飲料用水道水の他、工業用水、地下水、湧き水なども用いることができるが、予期せぬ成分の混入を防ぐため、蒸留水などの不純物を除去した水を用いることが好ましい。
【0031】
水系塗材組成物の成分比は、水分を除去した後の固形分100重量部中にマイナスイオン発生鉱石が5重量部〜35重量部であり、好ましくは8重量部〜20重量部である。5重量部より少ないとマイナスイオンや放射線量の発生が少なく、35重量部を超えると分散が困難となりまた透明性が悪くなる。そして、8重量部〜15重量部では分散性、透明性ともに優れている。
【0032】
分散剤の含量は、マイナスイオン発生鉱石100重量部に対して0.5重量部〜5.0重量部である。0.5重量部より少なくても、5.0重量部より多くてもマイナスイオン発生鉱石の粒径をナノサイズにし、またナノサイズで安定させることが困難になるからである。また、分散剤の種類でみると、マイナスイオン発生鉱石の100重量部に対して、ポリカルボン酸系分散剤で0.5重量部〜3.0重量部、ナフタレンスルフォン酸で1.0重量部〜3.0重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステルで3.0重量部〜5.0重量部、ソルビタン脂肪酸エステルで3.0重量部〜5.0重量部、ポリイタコン酸系ナトリウムで1.0重量部〜5.0重量部、マレイン酸系ポリマーで2.0重量部〜5.0重量部、スチレンメタアクリル酸で0.5重量部〜3.0重量部であることが好ましい。
【0033】
着色剤を加えない場合は無色透明の水系塗材組成物であるが、着色剤を加えて所望の色調に調製することができる。着色剤を含む場合の着色剤含量は、水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜20重量部とする。5重量部より少ないと所望の色調が得られず、20重量部を超えると分散が困難になるからである。
【0034】
水系塗材組成物の全体に対する固形分の重量割合は50重量部〜90重量部である。塗布対象によりまた塗布方式により粘度が異なることや、外気によって水系塗材組成物自体の粘度が異なることから、固形分を50重量部〜90重量部の範囲となるように水分を調整することで適度な粘度とすることができるからである。そして水系塗材組成物の粘度は5℃〜35℃において、50cP〜1000cPの範囲内の粘度とすることが好ましい。水系塗材組成物中のマイナスイオン発生鉱石の沈降を抑え、ナノサイズにある状態を保つためである。また、刷毛塗りなどによる塗布方法の場合は200cP〜300cPとすることが好適である。200cPより低いと液だれを起こすからであり、300cPを超えると刷毛での塗布が困難となるからである。
【0035】
物質をナノサイズに微細化するには種々の方法があり、例えば、レーザー照射法、熱分解法、放電法、高速旋回法やジェットミル法などの気流式同体摩擦法、改良ボールミル法などがある。また、分類上、粉砕する雰囲気から乾式法と湿式法とに区別することができる。
【0036】
こうしたナノ化方法のうち、乾式法である気流式同体摩擦法はナノ化すべきマイナスイオン発生鉱石同士を衝突させて粉砕する方法であり、微粒子が丸みを帯びたものとなることや、異物が混入しないこと、熱の発生を抑制できることなどの特徴を有している点で好ましい。ジェットミル法は、ノズルから高圧ガスや蒸気を超高速で噴射して粒子どうしを衝突させてその衝撃で粉砕する方法であり、高速旋回法は、ミル内部で同心円の旋回流を形成して粉砕するものである。このような同体摩擦法を利用した粉砕機には、例えば、アイシンナノテクノロジーズ社製の「ナノジェットマイザー(商品名)」がある。
【0037】
乾式法は気相中で粉砕するものであるのに対し、湿式法は液相中で粉砕するものである。湿式法としてはミル内でボールの回転、摩擦によって粒子を粉砕するボールミル形式の粉砕機を用いることができる。但し、従来型のボールミルでは長時間動作させてもミリオーダーからミクロンオーダーレベルまでしか粉砕できないので、ここでは特殊な改良ボールミルを用いる必要がある。例えば、ボールの粒径を数十ミクロンオーダーに微細化したビーズ状(ビーズ状粉砕媒体)とし、ミル(容器)自体を回転させるのではなく、ミル内に設けた攪拌部材を数m/sec程度で高速回転させて粉砕する方法が挙げられる。こうした粉砕機には、例えばアシザワ・ファインテック社製「スターミルZRS(商品名)」がある。
【0038】
乾式法の粉砕機を用いる場合は、マイナスイオン発生鉱石のナノサイズへの加工後、バインダー樹脂に分散させる必要がある。そのため、マイナスイオン発生鉱石とバインダー樹脂との混合時にナノ化したマイナスイオン発生鉱石が凝集してしまう危険性がある。そのため、バインダー樹脂への分散と同時にマイナスイオン発生鉱石のナノ化が可能な湿式法を用いることが好ましい。
【0039】
次に水系塗材組成物の製造方法について説明する。マイナスイオン発生鉱石を乾式法でナノ化するか、湿式法でナノ化するかにより大きく2種類に分けられる。
【0040】
まず第1の製造方法は乾式法によるものである。この方法は、上述したようなマイナスイオン発生鉱石のナノ化により予めナノサイズに微粉砕したマイナスイオン発生鉱石を製造しておく。分散剤は予め水に混合するとともに樹脂バインダー、場合により種々の添加剤も水と混合して十分に攪拌した混合物を準備しておく。そして、ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石とこの混合物を混合、攪拌する。マイナスイオン発生鉱石が分散しにくいバインダー樹脂を用いる場合には、最後にアトライターやボールミルなどの分散機で十分に混合、攪拌する。こうして水系塗材組成物が得られる。
【0041】
第2の製造方法は湿式法によるものである。この方法では、マイナスイオン発生鉱石を公知の方法でミリオーダーからミクロンオーダーの大きさに予め粉砕しておく。それから、このマイナスイオン発生鉱石と樹脂バインダー、分散剤、場合により種々の添加剤、そして水とを混合した混合物を作成する。最後にこの混合物を湿式法による上述の改良ボールミルに通じて微粉砕を行う。こうして水系塗材組成物が得られる。なお、改良ボールミルに通じる前に、全ての原料を含んでなる混合物に対して一般的な分散機で予備分散を施しスラリーを作成しておくことが好ましい。ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石粒子を効率的に得るためである。
【0042】
水系塗材組成物に着色剤を含む場合は、第1の製造方法においては、最後に分散機に原料を投入する際に加える。また、第2の製造方法においては、改良ボールミルに通じる前に加えることも可能であるが、改良ボールミルを通じた後、得られた水系塗材組成物に着色剤を加え、アトライターやボールミルなどの一般的な分散機でさらに分散、混合することが好ましい。着色剤によっては、改良ボールミルを通じることで着色剤の発色性が変わる場合があるからである。
【0043】
水系塗材組成物は所望の用途により水分を調整して粘度調整を行うことができる。スプレー等で塗布する場合は粘度は低くなるように調製し、鏝塗り等を行う場合は粘度が高くなるように調製する。また、刷毛塗り用の塗料とする場合は、液だれ等が起きない程度の粘度に調製する。このように、用途により粘度調整できるが、クロスなどの壁紙などに刷毛塗りで塗布する場合には、一度の塗布で作業が完了するように塗布雰囲気で200cP〜300cPとすることが好ましい。また、浴室の壁や浴槽、玄関の石材などに鏝塗りで塗布する場合には5,000cP〜30,000cPに厚塗りすることができる。水系塗材組成物の塗布厚は被着体によって調整することができる。例えば、居間や寝室などの居室、台所など、その場にいる時間が長い場所に使う建材に塗布する場合には、1日を通じたマイナスイオン量あるいは放射線量を考慮して30μm〜50μm、好ましくは40μm程度に塗布することが好ましい。その一方で、風呂などの一時的にその場にいる場所では、居室の2倍〜数倍程度の厚みとすることもできる。さらに、玄関などの人が通過するにすぎない場所では、さらに層厚を厚くすることが可能である。なお、トイレや浴室、洗面所の表面に水系塗材組成物を塗布することでマイナスイオンの持つ消臭効果も期待できる。
【0044】
このように水系塗材組成物は、既存の建材、即ち、クロスなどの壁紙や、ブロック、石材、木材、コンクリート、鉄部などの材質でなり居住空間に表出する建材などの既に居住している建物に塗布することができる。また、建物の建築前にこうした建材に塗布しておき、これを用いて新たな建物を構築することも可能である。
【0045】
次に実施例、比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【0046】
(実施例1): ホルミック鉱石を、平均粒径1mm〜3mm程度の砂状に粉砕した。蒸留水5kgにはポリカルボン酸アンモニウム塩36gとポリエチレンオキサイド(住友精化社製「ペオ(商品名)」)3.5kgを混合し、攪拌して混合液を得た。この混合液6kgに、先の粉砕したホルミック鉱石1.2kgを添加した。そしてアトライターを用いて分散処理を行った。こうして得られたスラリーを粉砕機(アシザワ・ファインテック社製「スターミルZRS(商品名)」;直径100μmのジルコニアビーズ使用)を用いて粉砕、分散した。そして試料1の水系塗材組成物を得た。
【0047】
(実施例2): ホルミック鉱石を粉砕機(アイシンナノテクノロジーズ社製「ナノジェットマイザー(商品名)」)を用いて微粉砕し、平均粒径500nmのホルミック鉱石微粒子を得た。そして、実施例1の混合液6kgに、微粉砕したホルミック鉱石1.2kgを添加してアトライターにて混合攪拌した。こうして試料2の水系塗材組成物を得た。
【0048】
(実施例3): 実施例1において、アトライターにはさらに1kgの着色剤(東洋インキ社製「LIOFASTカラーSF621エロー(商品名)」)を添加し、それ以降は実施例1と同様にして試料3の水系塗材組成物を得た。
【0049】
(実施例4): 実施例1において得られた試料1の水系塗材組成物6kgに、着色剤(東洋インキ社製「LIOFASTカラーSF621エロー(商品名)」)700gを添加しアトライターにて混合攪拌した。こうして試料4の水系塗材組成物を得た。
【0050】
(実施例5): 蒸留水5kgにはポリカルボン酸アンモニウム塩36gとポリエチレンオキサイド(住友精化社製「ペオ(商品名)」)3.5kg、さらに着色剤(東洋インキ社製「LIOFASTカラーSF621エロー(商品名)」)1kgを混合し、攪拌して混合液を得た。この混合液6kgに、微粉砕した実施例2のホルミック鉱石1.2kgを添加してアトライターにて混合攪拌した。こうして試料5の水系塗材組成物を得た。
【0051】
(比較例1): 実施例1の途中工程まで実行することで得られた実施例1のスラリーを試料6の水系塗材組成物とした。
【0052】
(比較例2): 実施例1において加えた分散剤を加えずに、それ以外は実施例1と同様にして試料7の水系塗材組成物を得た。
【0053】
(比較例3): 実施例2と同様にして平均粒径500nmに微粉砕したホルミック鉱石を得た。一方、実施例1と同じ水、バインダー樹脂からなり、実施例1で用いた分散剤を添加しない混合液を準備した。そして、この混合液6kgに微粉砕したホルミック鉱石1.2kgを添加してアトライターにて混合攪拌した。こうして試料8の水系塗材組成物を得た。
【0054】
(比較例4): 実施例1のホルミック鉱石に代えてトルマリンを用いた。そして実施例1の途中工程までと同様にして得たスラリーを試料9の水系塗材組成物とした。即ち、試料9はホルミック鉱石の代わりにトルマリンを用いて試料6と同様に製造したものである。
【0055】
上記実施例、比較例で得られた試料1〜試料9の水系塗材組成物は、紙製クロスの表面に40μmの塗布厚となるように塗布した。
【0056】
上記実施例、比較例で得られた試料1〜試料9の水系塗材組成物についてその外観を観察すると、試料1と試料2は無色透明であるのに対し、試料6〜試料9ではグレーに濁った色であった。また、試料3〜試料5ではグレー色の混入が感じられない黄色であったが、試料3は試料4よりやや発色の程度が劣っていた。また、試料1〜試料8の水系塗材組成物を塗布した紙製クロスのうち、試料1〜試料8を用いた紙製クロスは何れも1×10/mレベル程度(JISB9929にて測定)のマイナスイオンを発生するのに対し、試料9を用いた紙製クロスのマイナスイオン発生量はそのオーダーが異なるほど少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有する水系塗材組成物の製造方法であって、
砂状に粉砕したマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を分散機にて分散処理してスラリー状混合物とし、
筒状容器内にミクロンサイズのビーズ状粉砕媒体と該容器内で回転する攪拌部材とを有する粉砕機に、該スラリー状混合物を通過させ、マイナスイオン発生鉱石を微粉砕しナノサイズのマイナスイオン発生鉱石を含有させる水系塗材組成物の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー状混合物を前記粉砕機に通過させて微粉砕した後、着色剤を添加してさらに混合、分散させる工程を含む請求項1記載の水系塗材組成物の製造方法。
【請求項3】
ナノサイズのマイナスイオン発生鉱石と、分散剤と、バインダー樹脂と、水と、を含む水系塗材組成物。
【請求項4】
水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜35重量部の前記マイナスイオン発生鉱石を含有し、該マイナスイオン発生鉱石100重量部に対して0.5重量部〜5.0重量部の分散剤を含有する請求項3記載の水系塗材組成物。
【請求項5】
無色透明である請求項3または請求項4記載の水系塗材組成物。
【請求項6】
マイナスイオン発生鉱石がラジウム含有鉱石であり、分散剤がポリカルボン酸系分散剤であり、バインダー樹脂がアクリル系またはウレタン系の水系高分子である請求項3〜請求項5何れか1項記載の水系塗材組成物。
【請求項7】
固形分の重量割合が50重量部〜90重量部である請求項3〜請求項6何れか1項記載の水系塗材組成物。
【請求項8】
水分を除去した後の固形分100重量部中に5重量部〜20重量部の着色剤を含有する請求項3〜請求項7何れか1項記載の水系塗材組成物。
【請求項9】
請求項3〜請求項8何れか1項記載の水系塗材組成物を塗布してなる建材。

【公開番号】特開2008−255304(P2008−255304A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102015(P2007−102015)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(307011440)全邦環境株式会社 (1)
【Fターム(参考)】