説明

水素ラジカル発生装置

【課題】汚染や紫外線の影響を極力低減させた、低温プラズマを用いた水素ラジカル発生装置を提供する。
【解決手段】低温プラズマを用いて水素ラジカルRを生成し、この水素ラジカルを被処理物Mに照射するダウンフロー型の水素ラジカル発生装置20において、低温プラズマを生成するプラズマ生成室21と、被処理物Mとプラズマ生成室21との間に設けられた少なくとも一つの紫外線遮蔽板1とを備え、紫外線遮蔽板1には、プラズマに含まれる紫外線UVは直接照射されるとともに、プラズマに含まれる水素ラジカルRは通過して前記プラズマ生成室21から被処理物Mに供給される流路が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ラジカル発生装置に関する。さらに詳しくは、低温プラズマを用いて発生した水素ラジカルを被処理物に供給するダウンフロー型水素ラジカル発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一つのチップ内における半導体素子の素子数増大に伴い、半導体素子の製造において、ますます微細化された加工が要求されている。微細加工の要求に応えるために、重要な製造工程であるレジストマスクを除去するアッシング処理や、加工パターンを実現するエッチング処理についても、より処理の精度を向上させることが求められている。
【0003】
これまで、アッシング処理やエッチング処理は、一般的に熱プラズマを使用して行われていた。しかし、熱プラズマの高温環境は、取り扱いにくいという問題があった。そこで、熱プラズマと比べて取り扱いやすく、反応性が良く、プラズマ密度が高い等の利点を有する、特許文献1に示すような低温プラズマ(誘導結合プラズマ)が多く利用されてきている。
【特許文献1】特開2003−158099号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、現在、微細加工はナノオーダーまで要求されており、イオン注入及びエッチング、CVD、スパッタなどのプラズマプロセスによるチャージング・ダメージの影響が増大し、これを抑制する必要が生じてきた。なお、チャージング・ダメージは、これまでのミクロオーダーの製造工程において、触媒型や低温プラズマでは問題とはなっていなかった。
【0005】
現在のところ、チャージング・ダメージの発生機構やダメージ評価方法等の理論等の統一は未だなされていない。しかし、汚染や紫外線の影響によるチャージング・ダメージは、微細加工に伴い、既にアッシング処理やエッチング処理で顕在化した問題となっている。
【0006】
本発明は、汚染や紫外線の影響を極力低減させた、低温プラズマを用いた水素ラジカル発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、低温プラズマを用いて水素ラジカルを生成し、この水素ラジカルを被処理物に照射するダウンフロー型の水素ラジカル発生装置において、低温プラズマを生成するプラズマ生成室と、被処理物と前記プラズマ生成室との間に設けられた少なくとも一つの紫外線遮蔽板と、を備え、紫外線遮蔽板には、プラズマに含まれる紫外線は直接照射されるとともに、プラズマに含まれる水素ラジカルは通過してプラズマ生成室から被処理物に供給される流路が設けられた、ことを特徴としている。
【0008】
前記構成によれば、触媒を使用しない低温プラズマ発生装置において、紫外線遮蔽板を備えることによって直進する性質の紫外線は遮断され、ガス状の水素ラジカルは通過させることができ、紫外線の影響を極力低減することができる。そして、プラズマ生成室と被処理物との距離を短くすることによって、寿命の短い水素ラジカルをより効率的に利用することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、所定の距離をあけて対向して配設された2枚の紫外線遮蔽板を備え、紫外線遮蔽板には、複数の穴が形成されており、一方の紫外線遮蔽板に形成された穴と他方の紫外線遮蔽板に形成された穴とが、相互に一致しない位置であることを特徴としている。
【0010】
前記構成によれば、相互に一致しない位置の複数の穴を有する2枚の遮蔽板を配設することで、被処理物に紫外線光が直接照射されることを容易に防止することができる。そして、複数の穴を設けることで、水素ラジカルが被処理物に均一に照射されるため、処理の品質を向上させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、形成された穴の縁が、2枚の紫外線遮蔽板が対向する方向に嵩上げされていることを特徴としている。
【0012】
前記構成によれば、プラズマ生成室で発生したプラズマに伴う紫外線が被処理物に直接照射されることを確実に防止することができるため、2枚の遮蔽板の間隔を狭め、発生した水素ラジカルの通過経路長を短くすることができ、寿命の短い水素ラジカルをより効率的に利用することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明に加えて、紫外線遮蔽板には、酸化マグネシウムがコーティングされていることを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、紫外線遮蔽板に酸化マグネシウムをコーティングすることにより、2次電子を誘発させ、プラズマ状態を高効率に保持することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明に加えて、紫外線遮蔽板の近傍には、プラズマ生成室に向かう表面に、所定の間隔をおいて配置された複数の永久磁石が載置されていることを特徴としている。
【0016】
前記構成によれば、紫外線遮蔽板の近傍に所定の間隔で複数の永久磁石を載置することにより(ラインカスプ磁場ユニット)、発生したプラズマを閉じ込めるプラズマ閉じ込め空間が形成され、非常に寿命の短い水素ラジカルの失活を低減する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、汚染や紫外線の影響を極力低減させた、低温プラズマを用いた水素ラジカル発生装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る水素ラジカル発生装置を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)について図面を参照して詳細に説明する。以下では、水素ラジカル発生装置と紫外線遮蔽板について順次説明を行う。
【0019】
<水素ラジカル発生装置>
最初に、図1及び図2を参照して水素ラジカル発生装置について説明する。図1は、水素ラジカル発生装置の構成図である。図2は、図1に示した反応チャンバにおける紫外線遮蔽板1の配置の一例を示す説明図である。
水素ラジカル発生装置20は、図1に示すように、反応チャンバ(水素ラジカル生成室)21と、高周波コイル22と、高周波電源ユニット23と、変換アダプタ24とを主たる構成要素として備えている。
【0020】
反応チャンバ21は、円筒状で外周に高周波コイル22が巻き付けられたセラミックス製の反応管である。本実施形態では、反応チャンバ21をアルミナ(Al23)セラミックチューブで構成した。
【0021】
高周波コイル22は、当該高周波コイル22に高周波電流を流すことで電磁誘導によって生じる磁場により、反応チャンバ21内にプラズマ(水素ラジカルR)を生成させる。この高周波コイル22は、反応チャンバ21の外周面から所定距離離間した位置に、反応チャンバ21の上流から下流に向かって反応チャンバ21の外周面上に沿って螺旋状に巻き付けられている。この高周波コイル22は例えば銅製の管であり、管の内部には、冷却水を挿通させる冷却路25(図2参照)が形成されている。
【0022】
高周波電源ユニット23は、図示しない高周波電源とマッチングボックスとを備え、この図示しない高周波電源からマッチングボックスを介して高周波コイル22と接続され、高周波コイル22に流される電流の制御を行うものである。変換アダプタ24は、交流電源を直流電源に変換し、高周波電源ユニット23に供給するものである。
【0023】
図2は、図1に示した反応チャンバ21を略90°右転した状態で図2のB−B線断面図を示している。反応チャンバ21の両端には、反応チャンバ21を水素ラジカル発生装置20内に固定するために、それぞれ2つのエンドプレート(固定部材)26が配設されている。ここで、エンドプレート26は、例えば、アルミニウム(Al)から構成される。そして、反応チャンバ21とエンドプレート26との隙間には、Oリング27が配設される。
【0024】
反応チャンバ21の前段には配管121が接続され、そして後段には処理室40が接続され、処理室40の後段には配管132が接続される。
反応チャンバ21と配管121とは、センターリング(第1センターリング)30と、センターリング用Oリング28とによって、真空を保持して接続される。
反応チャンバ21と処理室40とは、センターリング(第2センターリング)30と、センターリング用Oリング28とによって、真空を保持して接続される。
処理室40と配管132とは、センターリング(第2センターリング)30と、センターリング用Oリング28とによって、真空を保持して接続される。
センターリング30は、エンドプレート26のグランドと同電位にあり、活性なラジカル種やイオン種を捕獲可能に構成されている。なお、Oリング27は、センターリング用Oリング28よりも耐プラズマ性の強度の大きいものを使用することが好ましい。
【0025】
被処理物Mは、処理室40内に固定された保持部50に載置される。保持部50は、できるだけ均等に水素ラジカルが被処理物Mに供給されること、及び、プラズマの流路を確保することができれば、その形状や固定方法は限定されない。
【0026】
紫外線遮蔽板1は、反応チャンバ21と処理室40の間に設けられ、紫外線遮蔽板1を構成する遮蔽板1aと1bとは、所定の距離Lをあけて対面している。
【0027】
以上の構成を有する水素ラジカル発生装置20は、ガスが吸引されることにより、反応チャンバ21内に導かれると、反応チャンバ21の外周面に巡らせた高周波コイル22への通電で生じる電磁誘導により、反応チャンバ21内にプラズマ(水素ラジカルR(図4参照))を発生させる。
そして、後記するように発生した水素ラジカルRは、紫外線遮蔽板1を通過し、保持部50に載置された被処理物Mに供給される。
【0028】
<紫外線遮蔽板>
次に、図3を参照して、水素ラジカル発生装置に設けられた紫外線遮蔽板について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る紫外線遮蔽板の構成を表す斜視図である。
本実施形態において、紫外線遮蔽板1は、互いに位相の異なる複数の丸穴Hが明けられた2枚の遮蔽板1a,1bから構成されており、各々の遮蔽板1a,1bは、所定の距離Lを挟んで対面している。なお、相互の位置関係等については、後記し、ここでは紫外線遮蔽板1の基本構造について説明する。
【0029】
遮蔽板1は、耐熱性を向上させるため、単体の金属ではなく、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)から選択される少なくとも1つの金属を含む合金から構成されている。
丸穴Hの直径は、遮蔽板1aとの1bとの距離L、遮蔽板1a,1bの板厚T、遮蔽板1a,1bの相互の丸穴Hの位置関係等に基づいて決定される。
【0030】
なお、複数の丸穴Hの配置は、発生される水素ラジカルが、被処理物により均一に供給されるように、遮蔽板1a,1bの面に一様に分布して形成されていることが好ましい。
本実施形態では、丸穴Hとしているが、穴の形状は円形に限定されることはなく、例えば、楕円形、矩形や多角形の穴とすることもできる。さらに、本実施形態では、穴は遮蔽板1a、1bの面と直角方向に明けられているが、斜めとなるように角度をつけることもできる。こうすることによって、遮蔽板1aの面に垂直もしくは垂直に近い角度を持って直接照射される紫外線光の大部分は、遮蔽板1aのみによって、遮蔽することが可能となる。
【0031】
<紫外線遮蔽板の作用>
次に図4を参照して紫外線遮蔽板1の作用等について説明する。図4は、反応チャンバ21内で発生した水素ラジカルRおよび、プラズマに含まれる紫外線UVの行路を示す説明図である。
【0032】
水素ラジカルRは、電離した気体であり、通常の気体を構成する中性分子が電離し、正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子とに分かれて自由に飛び回っている状態にあり、気体に近い物理的な性質を有し、流路に沿って移動できる。一方、紫外線UVは電磁波であり、発生源から直進し、遮るものがあれば、反射、吸収もしくは透過される。
【0033】
前記した水素ラジカルRと紫外線UVとの物理的性質の違いから、遮蔽板1aの丸穴Haから侵入した水素ラジカルRは、遮蔽板1aと遮蔽板1bとの隙間を通り、遮蔽板1bの丸穴Hbから紫外線遮蔽板1を抜けて、被処理物Mに供給される。一方、紫外線UVは、反応チャンバ21から被処理物Mを直接照射できないように紫外線遮蔽板1(遮蔽板1a,1b)が配設されているため、紫外線遮蔽板1によって、反射もしくは吸収されて、直接被処理物Mには到達できない。
【0034】
このように、紫外線UVの照射方向に基づき,遮蔽板1a,1bに形成される丸穴Hの直径、遮蔽板1aとの遮蔽板1bとの距離L、遮蔽板1a,1bの板厚T、遮蔽板1a,1bの相互の丸穴Hの位置関係等が決定される。
【0035】
遮蔽板1aの反応室12側の面には、酸化マグネシウムをコーティングすることが好ましい。酸化マグネシウムのコーティングCOによって、2次電子を誘発し、発生したプラズマは、失活の少ない高効率の状態で維持されるからである。
【0036】
また、図5(a)に示すように、遮蔽板1aの反応室12側の周縁近傍に、周方向に等間隔で複数の永久磁石60が配設されたラインカスプ磁場ユニット61を配することができる。なお、隣り合う永久磁石60の極性は、交互に反転している。ラインカスプ磁場ユニット61の材質としては、例えばアルミニウム材などを用いることが出来る。
このように永久磁石60を配設することによって、ラインカスプ磁場を発生させ、発生したプラズマを閉じ込めることができ、非常に寿命の短い水素ラジカルの失活を低減することができるからである。
図5(a)に示す実施形態では、反応室12側にラインカスプ磁場ユニット61を配したが、図5(b)のように遮蔽板1a,1bの中間にラインカスプ磁場ユニット62を配することも出来るし、また磁石60を反応チャンバ21や遮蔽板1a,1bに直接貼付することも可能である。
【0037】
[第2の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、図6に第2の実施形態を示す。
紫外線UVの入射角が大きい場合に、遮蔽板1a、1bに単に穴を形成するだけでは、紫外線UVが被処理物Mを直接照射する場合が起こりうる。
そのため、図6に示すように、遮蔽板1a’、1b’が対向する側の丸穴Ha’、Hb’の縁を嵩上げすることによって、入射角が大きい紫外線UVをも遮蔽することができる。
また、不規則な反射によって紫外線光UVが、被処理物Mに照射されることも極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態における水素ラジカル発生装置の構成図である。
【図2】図1に示した反応チャンバにおける紫外線遮蔽板の配置の一例を示す説明図である。
【図3】第1の実施形態における紫外線遮蔽板の構成を表す斜視図である。
【図4】反応チャンバ内で発生した水素ラジカルおよびプラズマに含まれる紫外線UVの行路を示す説明図である。
【図5】水素ラジカル発生装置にラインカスプ磁場ユニットを付加した場合の説明図である。
【図6】第2の実施形態における紫外線遮蔽板を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 紫外線遮蔽板
1a 遮蔽板
1b 遮蔽板
20 水素ラジカル発生装置
21 反応チャンバ(水素ラジカル生成室)
22 高周波コイル
23 高周波電源ユニット
24 変換アダプタ
25 冷却路
26 エンドプレート
27 Oリング
28 Oリング
30 センターリング
40 処理室
50 保持部
60 永久磁石
H 丸穴
R 水素ラジカル
M 被処理物
T 板厚
L 距離
UV 紫外線
CO コーティング
121 配管
132 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温プラズマを用いて水素ラジカルを生成し、この水素ラジカルを被処理物に照射するダウンフロー型の水素ラジカル発生装置において、
低温プラズマを生成するプラズマ生成室と、
前記被処理物と前記プラズマ生成室との間に設けられた少なくとも一つの紫外線遮蔽板と、を備え、
前記紫外線遮蔽板には、
プラズマに含まれる紫外線は直接照射されるとともに、プラズマに含まれる前記水素ラジカルは通過して前記プラズマ生成室から被処理物に供給される流路が設けられたことを特徴とする水素ラジカル発生装置。
【請求項2】
所定の距離をあけて対向して配設された2枚の前記紫外線遮蔽板を備え、
前記紫外線遮蔽板には、複数の穴が形成されており、
一方の前記紫外線遮蔽板に形成された穴と他方の前記紫外線遮蔽板に形成された穴とが、相互に一致しない位置であることを特徴とする請求項1に記載の水素ラジカル発生装置。
【請求項3】
前記形成された穴の縁が、2枚の前記紫外線遮蔽板が対向する方向に嵩上げされていることを特徴とする請求項2に記載の水素ラジカル発生装置。
【請求項4】
前記紫外線遮蔽板には、酸化マグネシウムがコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水素ラジカル発生装置。
【請求項5】
前記プラズマ生成室側に配設された前記紫外線遮蔽板の近傍には、前記プラズマ生成室に向かう表面に、所定の間隔をおいて配置された複数の永久磁石が載置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水素ラジカル発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−305813(P2008−305813A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148734(P2007−148734)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(595054523)株式会社ランドマークテクノロジー (7)
【Fターム(参考)】