説明

水素分離方法及び装置

【課題】水素透過速度が大きく、耐水素脆性にも優れた水素分離膜を用いた水素分離方法及び装置を提供する。
【解決手段】W及びMoを含有するV合金よりなる水素分離膜を用いた水素分離方法及び装置。水素分離膜は、好ましくはW30モル%以下、Mo30モル%以下、残部Vよりなる。特に好ましくはW0.1〜30モル%、Mo0.1〜30モル%、残部Vよりなる。さらに好ましくはW0.1〜15モル%、Mo0.1〜15モル%、残部Vよりなる。この方法及び装置によれば、各種の水素含有ガスから、高効率にて水素を分離することが可能である。ガスから、高効率にて水素を分離することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜を用いた水素分離方法及び装置に係り、特にV(バナジウム)合金よりなる水素分離膜を用いた水素分離方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスから水素を選択的に透過して分離する水素分離膜としてPd系合金膜がある。しかし、Pd系合金の水素分離膜では、Y、Gdなどの性能向上効果の大きい希土類系元素を添加した場合でも水素分離性能は2〜3倍しか向上せず、またPd自体が貴金属であるためコスト高になるという欠点がある。
【0003】
Pd系合金膜に代わるものとして、Nb、Vや、その合金よりなる膜が知られている。Nb、Vなどの5A族金属は、Pd系水素透過合金と比べて、高い水素透過能を有していると共に、安価である。このNb、V又はその合金は、その高い水素固溶量のために水素脆化が起こり易いので、高い水素透過速度と耐水素脆性の両立が可能な水素分離膜について種々の研究がなされている。
【0004】
特開2006−722には、Nb、Ta及びVの少なくとも1種とCu40〜60at%とからなる水素分離膜が記載されており、その実施例5には、V−54at%Cuよりなる5.2μm厚の膜本体と、該膜本体の表面に形成された厚さ0.05μmのPd層とを備え、透過水素流量が3.5sccmである水素分離膜が記載されている(第0046段落の表1)。
【0005】
特開2008−55295には、Vに対しCr、Fe、Ni又はCoを添加し、また必要に応じさらにAl、Sc、Ti、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuを添加したV合金よりなる水素分離膜が記載されている。同号公報の図2には、Al、Sc、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo又はTaを6〜25at%添加することが記載されている。
【0006】
しかしながら、同号公報には、この合金膜の水素透過特性については一切記載がない。
【0007】
特開2006−35063及び特開2007−44593にも、V合金よりなる水素分離膜が記載されているが、具体的な合金組成については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−722
【特許文献2】特開2008−55295
【特許文献3】特開2006−35063
【特許文献4】特開2007−44593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水素透過速度が大きく、耐水素脆性にも優れた水素分離膜を用い、大気圧以上の水素分圧を有した水素含有ガスからも水素を分離することができる水素分離方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の水素分離膜装置は、1次室に水素含有ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離装置において、該水素分離膜がW及びMoを含有するV合金よりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の水素分離膜装置は、請求項1において、該V合金がW30モル%以下、Mo30モル%以下、残部Vよりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の水素分離膜装置は、請求項2において、該V合金のW含有率が0.1〜30モル%であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の水素分離膜装置は、請求項2において、該V合金のW含有率が0.1〜15モル%であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の水素分離膜装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該V合金のMo含有率が0.1〜30モル%であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の水素分離膜装置は、請求項1ないし4のいずれか1項において、該V合金のMo含有率が0.1〜15モル%であることを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項7)の水素分離方法は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水素分離装置を用いて水素含有ガスから水素を分離するものである。
【0017】
請求項8の水素分離方法は、請求項7において、水素分圧が1気圧以上の水素含有ガスを1次室に供給することを特徴とするものである。
【0018】
請求項9の水素分離方法は、請求項8において、2次室を1気圧未満に減圧することを特徴とするものである。
【0019】
請求項10の水素分離方法は、請求項7ないし9のいずれか1項において、400〜550℃の温度で水素分離を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水素分離方法及び装置で用いる水素分離膜は、水素透過速度が大きく、また、耐水素脆性にも優れる。本発明方法及び装置では、1次室に水素分圧が1気圧以上の水素含有ガスを供給することにより、高効率にて水素を分離することができる。本発明で用いる水素分離膜は、非Pd系合金よりなるものであり、素材コストが低いので、水素分離コストを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】V−W−Mo系水素分離膜のPCT曲線を示すグラフである。
【図2】V−W系水素分離膜のPCT曲線を示すグラフである。
【図3】水素透過試験用モジュールの断面図である。
【図4】水素透過試験用モジュールを電気炉にセットした形態を示す断面図である。
【図5】スモールパンチ試験装置の断面図である。
【図6】図5の一部の拡大図である。
【図7】スモールパンチ試験結果を示すグラフである。
【図8】水素分離装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明で用いる水素分離膜は、W及びMoを含有するV合金よりなるものであり、好ましくはW30モル%以下、特に0.1〜30モル%とりわけ0.1〜15モル%、Mo30モル%以下、特に0.1〜30モル%とりわけ0.1〜15モル%、残部Vよりなるものである。
【0023】
前述の通り、Vよりなる水素分離膜は、広く用いられているPd又はPd合金よりなる水素分離膜に比べて水素透過速度が大きいが、耐水素脆性が低い。VにW及びMoを添加することにより、高い水素透過速度を保ちつつ、耐水素脆性が改善される。
【0024】
本発明で用いる水素分離膜は、上記組成の合金を溶製して得、これを好ましくは厚さ1〜500μm特に好ましくは10〜50μmに圧延して製造することができる。なお、圧延以外の手段を採用してもよい。また、本発明の水素分離膜は、スパッタリング、CVD、めっきなどの成膜方法によって通気性の支持材料の表面に厚さ1〜500μm、特に1〜20μm程度に形成されたものであってもよい。
【0025】
なお、VやV合金それ自体には、水素分子の乖離、結合反応に対する触媒活性が無いため、V合金膜の両面(プロセス側、透過側の両面)にPd又はPd合金よりなる表面触媒層(被覆金属層)を形成する必要がある。被覆金属層としては、純Pd又はPd合金が好適である。Pd合金としては、Ag、Cu、Auの少なくとも1種を50wt%以下例えば20〜40wt%程度含むものが好適であり、特にAg含有量が30wt%以下(とりわけ10〜30wt%)のPd−Ag合金又は純Pdが好適である。被覆金属層の厚さは0.01〜3μm特に0.1〜1μm程度が好適である。この被覆金属層は、スパッタリング、CVD、クラッド法などによって形成することができる。
【0026】
このような被覆金属層を有した水素分離膜では、V合金よりなるベース金属層と被覆金属層との間の相互拡散や、被覆金属層を透過してくる酸素によるベース金属層の合金成分(以下、母体合金成分ということがある。)の酸化は、水素分離膜の水素透過性能及び耐久性を低下させる。また、母体合金成分やその酸化物が被覆金属層内を拡散してその表面に到達し、水素分子の乖離、結合反応を阻害することも考えられる。このようなことから、金属の相互拡散防止、酸素の拡散防止のための中間層をベース金属層と被覆金属層との間に設けてもよい。
【0027】
水素分離膜を備えた水素製造装置としては、水素分離膜がハウジング、ケーシング又はベッセル等と称される容器内に設置され、水素分離膜で隔てられた1次室と2次室とを有し、必要に応じさらに加熱手段を有するものであれば、特にその構成は限定されない。膜の形態としても、平膜型、円筒型などのいずれの形態であってもよい。水素分離膜は、多孔質の支持体や表面に溝を設けた支持板の上に重ね合わされてもよく、多孔質体の表面に成膜されたものであってもよい。多孔質体としては、金属材、セラミック材などのいずれでもよい。
【0028】
本発明において採用することができる水素製造装置の構成例を第8図(a),(b),(c)に示すが、本発明装置はこれらに限定されない。
【0029】
第8図(a)では、炭化水素等の原料ガスを圧縮機61で圧縮して水素分離型改質器62に供給する。この水素分離型改質器62は、水素改質触媒と水素分離膜とを備えている。この水素分離型改質器62には、ボイラ64からスチームが供給されると共に、燃焼器63によって熱が与えられ、改質と水素分離とが行われる。水素分離型改質器62からの水素は熱交換器65を介して取り出される。オフガスは、熱交換器66で熱回収された後、圧力調整弁69を介して燃焼器63へ供給される。燃焼器63及びボイラ64の燃焼排ガスからもそれぞれ熱が熱交換器67,68で回収される。熱交換器65〜68で回収された熱により、ボイラ64への給水や燃焼用空気、燃料などの加熱が行われる。
【0030】
第8図(b)では、水素ガスを含んだ水素含有ガスが水素分離器71に供給され、この水素分離器71が燃焼器72によって加熱される。分離された水素は熱交換器73を介して取り出される。オフガスは熱交換器74を介して取り出され、必要に応じ、その一部又は全量が圧力調整弁76を介して燃焼器72に供給される。燃焼排ガスの熱は熱交換器75で回収される。回収された熱により、燃焼器72への燃料ガスや空気が加熱される。
【0031】
第8図(b)では燃焼器72を用いているが、高温廃熱を発生させる熱源が存在する場合には、第8図(c)のように、この高温廃熱を加熱器77に導き、水素分離器71を加熱するようにしてもよい。
【0032】
本発明の水素製造装置の1次室に供給される原料ガス(水素含有ガス)としては、水素を含むものであればよく、炭化水素の水蒸気改質ガス、燃料電池の燃料オフガス、水素を含むバイオガス、バイオマスガス化炉からの発生ガスなどが例示されるが、これに限定されない。
【0033】
装置の運転温度(具体的には1次側のガス温度)は、膜の組成にもよるが、通常は300〜600℃特に400〜550℃程度とされる。
【0034】
本発明では、後述の実施例でも確認されている通り、1次室における水素分圧が1気圧以上例えば500℃で1〜6気圧、450℃で1〜3気圧となるように原料ガスを1次室に供給し、高効率にて水素分離を行うことができる。2次室の圧力は1気圧以下特に0.1気圧以下であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0036】
〔実施例1〕
V90モル%、W5モル%及びMo5モル%なる組成の合金溶湯からインゴットを得、これを圧延して厚さ500μm、直径12mmのV−5W−5Mo水素分離膜を製造した。
次いでスパッタリングによりPdよりなる厚さ200nmの被覆金属層を両面に形成して水素分離膜とした。この水素分離膜を第3図に示す試験用モジュール41にセットして水素透過速度を測定した。
【0037】
この水素透過試験用モジュール41は、ガス導入管42の後端面とガス取出管46の前端面との間にガスケット43,45を介して水素分離膜44を配置したものである。導入管42にはナット47が外嵌しており、取出管46の先端のフランジ部46aにはキャップナット48が係合している。
【0038】
該キャップナット48を導入管42側に延出させ、その内周面の雌ねじに対しナット47の外周面の雄ねじを螺合させる。ナット47の先端が導入管42の後端のフランジ部42aに当接することにより、キャップナット48を介して取出管46が導入管42側に引き付けられ、導入管42の後端面と取出管46の前端面との間でガスケット43,45を介して水素分離膜44が挟圧される。
【0039】
ガスケット43,45は、同一大きさの円環状であり、その内孔の面積が水素分離膜44の膜透過面積Aとなる。キャップナット48には、ガスのリークテスト用の小孔48aが設けられている。
【0040】
ガスケットの内孔は5.6mmであるが、VCRで締め付けられた場合のガスケットと膜試料との接触部の直径は7.1mmであり、有効膜透過面積Aは39.6mm(3.96×10−5)である。
【0041】
この水素透過試験用モジュール41を第4図の通り電気炉50内に設置し、導入管42に原料ガスを供給し、取出管46から水素ガスが取り出す。
【0042】
導入管42のガス圧Pを0.6MPa又は0.3MPaとし、取出管46内のガス圧Pを0.01MPa又は0.1MPaとした。
【0043】
原料ガスとしては、純度99.99999%以上の高純度水素を用いた。水素分離膜44を透過した水素ガスは回収容器(図示略)に回収した。
【0044】
電気炉50の温度を500℃として運転を行った。水素透過速度Jと厚さdとの積J・dを表1に示す。ここで、J・d値は、1秒間(単位時間)に、1m(単位面積)×1m(単位厚さ)の膜を透過する水素原子のモル数である。
【0045】
なお、後述の通り、このV−W−Mo合金の母材である純V膜について水素脆化評価のための強度試験を行ったところ、固溶水素量H/M(合金元素の金属原子1個当りに固溶する水素原子の数)が0.22までは延性(または靭性)を有していることが認められた。
【0046】
〔比較例1〕
水素分離膜を表1に示す組成のV−5W合金膜としたこと以外は実施例1と同様にして、水素透過速度を測定した。結果(J・d値)を表1に示す。
【0047】
〔比較例2〕
水素分離膜をPd−26Ag膜とし、P=0.26MPa,P=0.06MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして、水素透過速度を測定した。その結果、J・d値は11×10−6molH・m−1・s−1であった。
【0048】
【表1】

【0049】
[PCT特性の測定]
V−5W−5Mo合金よりなる水素分離膜と、V−5W合金膜よりなる水素分離膜と、純V金属よりなる水素分離膜とについてPCT曲線を求めた。
【0050】
即ち、温度Tを673K(400℃)、723K(450℃)又は773K(500℃)とし、水素ガス圧力を10−3MPa〜6MPaの間で種々変えたときの上記合金又は純V金属への水素固溶量(水素吸蔵量)CをPCT測定装置で測定した。なお、純VについてはT=673Kのみにて測定した。結果を第1,2図に示す。
【0051】
ここで、PCT測定装置は、JIS H 7201(2007)に従ったものであり、ある温度Tにおいて、物質が水素を吸蔵、放出するときの特性(圧力P、水素吸蔵量C)を測定する装置である。第1,2図における固溶水素量Cは水素吸蔵量Cに相当している。
【0052】
水素固溶量の単位H/Mは、金属原子1個当たりの固溶(吸蔵)水素原子の数を示している。
【0053】
[耐水素脆性の測定]
水素分離膜がどのような耐水素脆性をもつのかを確かめるには、その前提として、水素分離膜としての使用温度範囲における、一次側と二次側が同じ水素圧力である水素雰囲気中において、また水素透過中、すなわち一次側の水素圧力が二次側の水素圧力より大きい水素雰囲気中において、水素分離膜の水素脆性等の機械的性質をその場で定量的に測定、評価できる試験装置が必要である。
【0054】
そこで、本発明者らは、水素透過用合金膜の水素脆性等の機械的性質をその場で測定できる、第5,6図に示すスモールパンチ試験装置を開発し、当該スモールパンチ試験装置を用いて水素分離膜の水素脆性とその他の特性を定量的に測定し、評価した。
【0055】
このスモールパンチ試験装置を使用することにより、V−W−Mo合金の母材である純Vなどの材料について、その使用温度範囲において、対応するPCT(圧力−固溶水素量−温度)曲線に基づいた固溶水素量と変形、破壊形態との関係を求め、耐水素脆性についての限界固溶水素量を評価することができる。
【0056】
スモールパンチ試験装置の構造と、その操作法について、第5,6図を参照して説明する。第5,6図はスモールパンチ試験装置の構造を説明する図であり、第5図は縦断面図、第6図は第5図中のコア部分を拡大して示した図である。このスモールパンチ試験装置は全体としては円筒状である。
【0057】
第5図において、1は支持部材である。支持部材1は支持台とも言えるが、本明細書では支持部材と称している。支持部材1は縦断面が2段の凸状(2個のフランジを有する)を備えて構成され、その中央部に円筒状の空隙を有している。2は支持部材1に設けた導入水素貯留部、3は導入水素貯留部2から後述一次側水素雰囲気Yに連通する導管、5は支持部材1に設けた導出水素貯留部、4は後述二次側水素雰囲気Zから導出水素貯留部5に連通する導管である。
【0058】
導入水素貯留部2は、弁Vを備える導入水素貯留部2への水素供給用の導管に連通し、導出水素貯留部5は、弁Vを備える当該導出水素貯留部5からの水素排出用の導管に連通している。
【0059】
支持部材1における2段の凸状(2個のフランジを有する)のうち、1段目(図中、下の方)の凸状の外周には蛇腹(bellows)9の下端部を固定するフランジ部材(以下、固定部材と略称する。)6が配置されている。固定部材6はボルト7により支持部材1のフランジに固定され、固定部材6とフランジとの間はガスケット(銅製)8により気密シールされている。
【0060】
12は支持部材1と相対する上部位置に置かれた上下動可能な上蓋部材である。上蓋部材12は縦断面が2段の逆凸状(2個のフランジを有する)に構成されている。上蓋部材12における2段の逆凸状のうち、1段目(図中、上の方)の逆凸状の外周には蛇腹9の上端部を固定するフランジ部材10が配置されている。固定部材10はボルト(図示は省略している。)により上蓋部材12のフランジに固定され、固定部材10と上蓋部材12のフランジとの間はガスケット(銅製)11により気密シールされている。
【0061】
13は上蓋部材12を上下に移動させるスライディングシャフト(滑動軸)であり、その下端が支持部材1に固定されている。16はロードセルに接続された、上部から圧力を加える圧縮ロッドである。後述膜試料20をセットした後、上蓋部材12をスライディングシャフト13を介して下方に移動することにより、後述パンチャー24も下方へ移動し、後述膜試料20に所定の荷重(押圧力)を加えることができる。なお、14は閉空間Y内の圧力上昇時に上蓋部材12の脱落を防ぐためのロックナット(袋ナット)であり、13のスライディングシャフトに沿って15のスライドブッシュを介して上蓋部材12が下方に移動できる。
【0062】
支持部材1、固定部材6、ガスケット8、蛇腹9、固定部材10、上蓋部材12、ガスケット11、導入水素貯留部5、後述膜試料20の上面及び後述固定部材21で囲まれた閉空間Yが、後述膜試料20に対する一次側の水素雰囲気Yとなり、後述膜試料20の下面、導管4及び導出水素貯留部5で囲まれた空間が二次側水素雰囲気Zとなる。
【0063】
〈膜試料に対する水素圧力の負荷〉
導入水素貯留部2、導管3を経て供給する水素量を弁Vで調節することにより一次側の水素圧力を調節し、導管4、導出水素貯留部5を経て導出する水素量を弁Vで調節することにより二次側の水素雰囲気の水素圧力を調節する。これにより、後述膜試料20の一次側と二次側との水素雰囲気を同一の水素圧力に制御したり、また異なる水素圧力に制御することができる。
【0064】
〈膜試料に対する荷重の付与、計測〉
20は膜試料、19は膜試料20を支持するガスケット(ステンレス鋼製)である。21は膜試料20の固定部材、24はパンチャー、25は鋼球もしくは窒化珪素(Si)製の球である。固定部材21の下部は逆凹状に形成され、下端面から上端面に至る4箇所の貫通細孔22を有している。当該逆凹状の底部面は膜試料の上面との間にスペースを保ち、貫通細孔22は水素雰囲気Yと連通している。
【0065】
固定部材21の中央部に上下貫通する円筒状の空隙と、その同心円上に4箇所の細孔を有している。固定部材21の中央部の円筒状空隙に内壁23に沿ってパンチャー24が嵌挿され、鋼もしくは窒化珪素(Si)製の球25は膜試料20の上面に当接、配置される。パンチャー24により球25を押し下げ、球25を膜試料20に押し付けることにより、所定の荷重に対応する膜試料の形状変化の有無、また形状変化有りのときの、その変化の程度を観察することができる。所定の荷重値はロードセルに接続された圧縮ロッド16により計測される。
【0066】
支持部材1の中央部の円筒状空隙の近傍にはセラミックヒータ17が内蔵されており、膜試料20の近くまで熱電対18が挿入されている。セラミックヒータ17と熱電対18により膜試料の温度を測定、制御する。
【0067】
本スモールパンチ試験装置は、試料に対して真空〜0.3MPaの水素圧力を負荷することができ、室温〜600℃の範囲で温度制御が可能であり、それらの条件下における延性−脆性遷移を評価することが可能である。
【0068】
このスモールパンチ試験装置を使用して、純V膜について試験した。試験片は、アーク溶解法により金属塊を溶製し、次いでこの金属塊に切削加工及び研磨加工を施して製造した縦横の長さ10mm、厚さ0.5mm(体積:10mm×10mm×0.5mm=50mm3)の薄板状である。
【0069】
この試験片について、400℃、450℃又は500℃の温度において、PCT(圧力−固溶水素量−温度)測定装置により、0.001〜0.30(1×10−3〜3×10−1)MPaを超える範囲まで各水素圧力Pと固溶水素量C〔H/M(水素原子と金属原子の原子比、以下、同種の記載について同じ。)〕との間の関係を把握した上でスモールパンチ試験を行い、“荷重−変位”を測定して評価した。
【0070】
一次側水素雰囲気Yと二次側水素雰囲気Zは同一の水素圧力とした。
【0071】
スモールパンチ試験による水素脆性の定量評価は、以下のi)〜iii)のようにして行った。
【0072】
i)この純V膜の試験片について、温度及び水素圧力を500℃及び0.01MPaとし、この雰囲気に1時間保持した後、当該試験片に鋼球もしくは窒化珪素(Si)製の球25による荷重により押圧力をかけながら試験片を変形させ、そのときの荷重とクロスヘッド(又は鋼球25)の移動量を試験片が破壊するまで記録を続け、“荷重−変位”曲線を作成する。
【0073】
ii)当該試験片の固溶水素量〔H/M(H/Mは水素原子と金属原子の原子比)〕は、当該試験の温度500℃(≒773K)におけるPCT曲線に基づいて、当該試験で加えた水素圧力から見積もった。
【0074】
iii)“荷重−変位”曲線から、膜試料が破壊に至るまでのスモールパンチ吸収エネルギーを求めた。ここで、スモールパンチ吸収エネルギーとは、試験片の変形開始から破壊に至るまでに要した仕事量に対応(相当)している。パンチャー24により鋼球もしくは窒化珪素(Si)製の球25を押し下げた圧力、つまり荷重(MPa)を変位量に対して積分する(=荷重−変位曲線の下の面積を計算する)ことでスモールパンチ吸収エネルギーを算出する。
【0075】
第7図は温度400〜500℃におけるSP吸収エネルギーと固溶水素量の関係を示している。横軸は、純V膜中の固溶水素量C〔H/M〕、縦軸は純V膜試料の固溶水素量に対する延性あるいは脆性破壊時の吸収エネルギーである。
【0076】
金属に対する水素の固溶量は、ある所定温度における金属の原子数に対する固溶した水素の原子数で表される。例えば、固溶水素量C(H/M)=0.22とは、金属の原子数100に対して固溶している水素の原子数が22であることを示している。
【0077】
第7図のとおり、純Vの吸収エネルギーは、H/M=0.22を境に固溶水素量が増えるに伴い大きく減少している。すなわち、H/M=0.22を境に固溶水素量が増えるに伴い、膜の破壊形態が延性から脆性へと移行(遷移)することを示している。このことから、純V膜は、H/M≦0.22の条件であれば水素分離膜として利用できることが分かった。母材であるVの延性−脆性遷移がH/M≦0.22であることが明らかになったため、V合金はH/M≦0.22の条件で水素分離膜として使用できると考えられる。
【0078】
[考察]
V−W−Mo合金よりなる水素分離膜は、Pd−Ag合金膜、V−W膜及び純V膜に比べて水素透過速度が大きい。
【0079】
表1及び第1図の通り、本発明のV−W−Mo系合金よりなる水素分離膜は、V−W系合金膜以上の性能を有しており、実用的な条件である、500℃において水素分圧=0.6MPa(約6気圧)、450℃において水素分圧=0.3MPa(約3気圧)、400℃において水素分圧=0.1MPa(約1気圧)までのガスから、高効率な水素分離が可能になる。また、500℃における見掛けの水素透過能φは、P/P=0.6MPa/0.01MPaの場合、Pg−26Ag合金が2.3×10−8[mol−1−1−1Pa−1/2]であるのに対し、V−W−Mo系合金は1.0×10−7[mol−1−1−1Pa−1/2]と4.3倍であり、同じ面積、同じ厚さの分離膜であれば、同じ圧力条件において4.3倍の水素透過量が得られる。
【0080】
本発明の水素分離膜は、500℃において0.6MPa(約6気圧)まで水素脆化が起きない画期的な分離膜であり、透過側を動力によって減圧する必要なく、十分な水素透過量が得られることから、より効率的な水素製造が可能になる。
【0081】
本発明のV−W−Mo系合金よりなる水素分離膜は、400〜450℃においても0.1〜0.3MPa(約1〜3気圧)で使用可能であり、大気圧以上の水素分圧を持った水素含有ガスからの水素分離が可能になる。
【0082】
本発明の水素分離膜は、非Pd系であるため、素材コストが著しく低い。
【符号の説明】
【0083】
1 支持部材
2 支持部材1に設けた導入水素貯留部
3 水素貯留部2から一次側水素雰囲気Yに連通する導管
4 二次側水素雰囲気Zから導出水素貯留部5に連通する導管
5 支持部材1に設けた導出水素貯留部
6 蛇腹9の下端部を固定するフランジ部材
7 ボルト
8 ガスケット
9 蛇腹
10 蛇腹9の上端部を固定するフランジ部材
11 ガスケット
12 支持部材1と相対する上部位置に置かれた上下動可能な上蓋部材
13 スライディングシャフト
14 袋ナット
15 スライドブッシュ
16 ロードセルに接続された圧縮ロッド
17 セラミックヒータ
18 熱電対
19 膜試料20の支持ガスケット
20 膜試料
21 膜試料20の固定部材
22 貫通細孔
23 固定部材21の中央部の円筒状空隙の内壁
24 パンチャー
25 鋼もしくはSi製の球
26 支持部材1の凸部
41 水素透過試験用モジュール
42 ガス導入管
43,45 ガスケット
44 水素分離膜
46 ガス取出管
47 ナット
48 キャップナット
50 電気炉
61 圧縮機
62 水素分離型改質器
65〜68,73〜75 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次室に水素含有ガスを供給し、水素分離膜を透過した水素を2次室から取り出す水素分離装置において、該水素分離膜がW及びMoを含有するV合金よりなることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項2】
請求項1において、該V合金がW30モル%以下、Mo30モル%以下、残部Vよりなることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項3】
請求項2において、該V合金のW含有率が0.1〜30モル%であることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項4】
請求項2において、該V合金のW含有率が0.1〜15モル%であることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該V合金のMo含有率が0.1〜30モル%であることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該V合金のMo含有率が0.1〜15モル%であることを特徴とする水素分離膜装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水素分離装置を用いて水素含有ガスから水素を分離する水素分離方法。
【請求項8】
請求項7において、水素分圧が1気圧以上の水素含有ガスを1次室に供給することを特徴とする水素分離方法。
【請求項9】
請求項8において、2次室を1気圧未満に減圧することを特徴とする水素分離方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、400〜550℃の温度で水素分離を行うことを特徴とする水素分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66199(P2012−66199A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213773(P2010−213773)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】