説明

水素化ビニルポリブタジエンをベースにした層構造加硫物

本発明は層構造加硫物に関する。層の少なくとも1つが、水素化ビニルポリブタジエンからなり、他の層が、好ましくは二重結合を含んでいるゴムからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層の少なくとも1つが水素化ビニルポリブタジエン(hydrogenated vinylpolybutadiene)からなり、他の層が好ましくは二重結合を含んでいるゴムからなる、層構造加硫物に関する。本発明の加硫物は、硫黄含有加硫系を用いて複数の層からなる構造物を共加硫することによって製造される。
【背景技術】
【0002】
多くの貼り合せの分野で加硫物の層構造物を使用するが、これは第一に、異なる材料から構成される個別の層には満たすべき非常に特殊な機能的要求条件があるため、第二に、層の相互の良好な接着力は構造物全体の機能にとって決定的に重要であるためである。層構造加硫物の例には、タイヤ、ホース、駆動ベルトおよびコンベヤベルトがある。
【0003】
層構造共加硫物を製造する場合、未加硫状態の個別の層が十分に大きな粘着性を有すること、また加硫後に層の接着力が十分にあることが必要である。
【0004】
この目的は、例えば、個別の層の製造に異なるゴムの混合物を使用することにより達成される。この方法では、2つの隣接したゴム混合物のそれぞれが、同じゴムを一部含む場合に特にこの目的が達成される。その結果、未加硫状態の層の粘着性が良好であるだけでなく、加硫後の層の接着力も良好である。共加硫物の層に課せられる要求は非常に異なっていることが多いので、異質ゴム(foreign rubbers)の混和により、加硫されたゴム混合物の特定の全体的特性(property profile)が変化し、その結果、層構造加硫物は所望の目的を全体的に見て達成できない。さらに、異質ゴムの理想的な量を決めるのに多大なコストがかかりかねない。それは第一に、異質ゴムの量を最小限に抑える必要があるが、第二に未加硫状態における十分な粘着性および加硫後の十分な接着力を達成するには、ある一定の最小量の異質ゴムが必要であるためである。
【0005】
2つの隣接したゴム層が全体として適合性がなく、層と層の間の最低レベルの粘着性および最低限の共加硫性(co−vulcanizability)のどちらも欠いており、しかも上述の異質ゴムの混和物では目的が達成されない場合、中間層を利用することによって層構造加硫物を製造できる。(特許文献1)の教示によると、エポキシ化天然ゴムが中間層として使用される。極性ゴムか(例えば、ポリクロロプレンおよびニトリルゴムからなる層加硫物か)、または極性ゴムおよび非極性ゴムからなる層複合物のいずれかの場合に、エポキシ化天然ゴムからなる中間層を使用して層構造加硫物を製造できる。極性ゴムの例として、ポリクロロプレンおよびニトリルゴムがある。非極性ゴムの例として、天然ゴム、ポリブタジエンゴムおよびスチレン−ブタジエンコポリマーがある。しかし、この方法は、付加的なゴム層を製造して利用しなければならないため、非常に面倒である。
【0006】
完全水素化ビニルポリブタジエンおよび部分水素化ビニルポリブタジエン、ならびに重要な性質を提供する未架橋(uncrosslinked)製造物が知られている((特許文献2))。層構造加硫物の製造に水素化ビニルポリブタジエンを使用することに関する記載も、また特に未加硫層で十分に高い粘着性を達成する方法および加硫後に十分に大きな接着力を層に与える方法に関する記載もこれまでにない。(特許文献2)は加硫の方法も教示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE 3836251−A1
【特許文献2】DE 10324304 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、層の少なくとも1つが水素化ビニルポリブタジエンを含む層構造加硫物を提供することである。
【0009】
このほど、水素化の前のビニル含量が30〜70%であり、水素化度が70〜98%である水素化ビニルポリブタジエンをベースにした未加硫ゴム混合物は、異質ゴムを一切加えなくても十分な粘着性を有し、こうして加硫後に層と層との間の十分な接着力を有する層構造物を、さまざまな層の共加硫に硫黄をベースにした加硫系を用いて製造できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、層の少なくとも1つが、水素化する前のビニル含量が30〜70%であり、かつ水素化度が70〜98%であり、かつムーニー値が40〜140ムーニー単位(ML 1+4/125℃)である水素化ビニルポリブタジエンゴムからなり、他の層が二重結合を含んでいるゴムからなることを特徴とする、層構造加硫物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
選択される水素化ビニルポリブタジエンは、好ましくは、水素化度が80〜95%であり、水素化の前のビニル含量が40〜60%であり、ムーニー値が60〜135ムーニー単位の範囲内にあるものを含む。
【0012】
もちろん、意図した目的に応じて、層構造加硫物は水素化ビニルポリブタジエンからなる層を所望の数だけ含むことができる。水素化ビニルポリブタジエンからなる層の場所は、層構造加硫物の外側領域、あるいは他のゴムからなる層の間であってよい。したがって、例として、外的環境の影響から遮断するために、溶液(または前もって作られたシート)を吹き付けることにより、水素化ビニルポリブタジエンからなる非常に薄い層を施すことが可能である。あるいはまた、耐力、付着または他の機能を有する要素とすることを意図している場合、層の場所は構造物の内部であってよい。したがって、水素化ビニルポリブタジエンの層の厚さ、および他のゴムの層の厚さは、約1μmから数センチメートルまで大きく異なりうる。ここで、組み合わせる前の層は未加硫または部分加硫された層にすることができる。
【0013】
二重結合を含んでいる他のゴムの混合物と一緒に水素化ビニルポリブタジエンを含むゴム混合物を、連続製造し(例えば、好適なダイによる同時押出で)、その後で未加硫の層状構造物を加硫することによって層構造加硫物を製造することも可能である。
【0014】
二重結合を含みかつ本発明の加硫物の層の構造物に使用できるゴムとして、特に以下のものが挙げられる:合成または天然起源のポリイソプレン(IRおよびNR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ブロモブチルゴム(BIIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、ポリクロロプレンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ポリノルボルネンゴム、およびエチレン−プロピレンポリマー系ゴム(EPDM)。SBRゴム、BRゴムおよびNRゴムが好ましい。もちろん、個別のゴムを互いに混合物中で使用することも可能であり、本発明の層構造加硫物を後で使用する際にそのことが必要である場合に、そのようにできる。本発明のゴムの少なくとも1つの層は、二重結合を含んでいるゴムを含む。それらは好ましくは、SBRゴム、ポリブタジエンゴムまたは天然ゴムあるいはそれらの混合物からなる。
【0015】
本発明の加硫物の層構造物に用いられる水素化ビニルポリブタジエンは、DE103 24 304 A1の教示にしたがって製造できる。層構造加硫物を製造するために、他の混合成分を水素化ビニルポリブタジエンと混和させることもでき、また後で加硫を行うために硫黄を含有する加硫系を混和させることもできる。
【0016】
水素化ビニルポリブタジエン用の通常の混合成分には、充填剤、充填剤活性化剤(filler activators)、可塑剤、酸化防止剤および離型剤、ならびに硫黄加硫に必要な既知の成分がある。既知の補強材を加えることもできる。
【0017】
使用できる充填剤には、とりわけカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、けいそう土、コルク粉および/またはシリケートがある。充填剤の選択は、実現しようとする加硫物の全体的特性に左右される。例えば、加硫物の難燃性を改善することを意図する場合、適切な水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、または水酸化カルシウムなど)を使用すること、あるいは含水塩(hydrous salts)、特に結晶水の形態で水を含む塩を使用することが望ましい。
【0018】
一般に使用する充填剤の量は、約0.1〜150phrである。もちろん、非常にさまざまな充填剤を互いに混合物中で用いることもできる。
【0019】
特定の製造物および/または加硫の特性を実現するために、充填剤活性化剤を充填剤と一緒に加えることもできる。充填剤活性化剤は、混合物の製造時に加えることができるが、充填剤をゴム混合物に加える前に充填剤を充填剤活性化剤で処理することも可能である。有機シランをこの目的で使用することができ、その例として、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ポリスルファン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、および(オクタデシル)メチルジメトキシシランがある。更なる充填剤活性化剤の例として、トリエタノールアミンおよびエチレングリコールなどの界面活性剤物質があり、そのモル質量は74〜10000g/molである。活性化剤の量は、ゴム含量の量を基準にして普通は約0.1〜5phrである。
【0020】
使用される可塑剤またはプロセスオイルは、好ましくは重質石油留分または合成可塑剤を含み、これは脂肪族炭化水素、ナフテン系炭化水素および芳香族炭化水素をさまざまな量的割合で含みうる。使用される可塑剤またはプロセスオイルの概要は、Ullmann’s Encyklopaedie der technischen Chemie [Ullmann’s encyclopaedia of industrial chemistry],4th Edn.,Volume 24,pp.349−380(1977)に示されている。これらの可塑剤の使用量は、約0.1〜約100phrである。
【0021】
水素化ビニルポリブタジエンからなる硫黄加硫物は、酸化防止剤を加えることにより、常法で、熱、紫外線、オゾンまたは動的疲労にさらされるなどのさまざまな環境の影響から保護することができる。
【0022】
使用できる特定の酸化防止剤として、p−フェニレンジアミン類(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンおよびN,N’−ジ(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミンなど)、第二芳香族アミン(オリゴマー化された(oligomerized)2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(TMQ)、スチレン化ジフェニルアミン(DDA)、オクチル化(octylated)ジフェニルアミン(OCD)およびフェニル−α−ナフチルアミン(PAN)など)、メルカプト化合物(2−メルカプトベンゾイミダゾール、および4−および5−メチルメルカプトベンズイミダゾール(MB2)またはそれらの亜鉛塩(ZMB2)など)がある。
【0023】
上記のほかに、立体障害型フェノール類などの周知のフェノール系酸化防止剤を使用することもできる。既述の酸化防止剤を組み合わせたものを使用することもできる。
【0024】
既述の酸化防止剤に加えて、周知の量の光安定剤ワックスおよびオゾン劣化防止剤ワックスを使用して、光および/またはオゾンにさらされた時の加硫物の耐性を向上させることもできる。特にいろいろな鎖長を有するパラフィンをこの目的のために使用できる。
【0025】
オゾン劣化防止剤の通常の使用量は、ポリマーの総量を基準にして約0.1〜8phr、好ましくは0.3〜5phrである。
【0026】
使用できる離型剤の例として、飽和または部分不飽和の脂肪酸およびオレイン酸ならびにそれらの誘導体(脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪酸アミド)、また金型表面に塗布できる製品、例えば、低分子量シリコーン化合物をベースにした製品、フルオロポリマーをベースにした製品、およびフェノール樹脂をベースにした製品がある。
【0027】
混合成分としての離型剤の使用量は、ポリマーの総量を基準にして約0.2〜10phr、好ましくは0.5〜5phrである。
【0028】
二重結合を含んでいるゴムの、硫黄および促進剤による架橋は、当業者に知られており、例として一般的な形で、W.Hofmann,Vulkanisation & Vulkanisationsmittel,publ.Bayer AG Leverkusen(1965),Th.Kempermann,in:Bayer−Mitteilungen fuer die Gummi−Industrie[Bayer communications for the rubber industry]50,29−38(1978),51,17−33(1979),52,13−23(1980),LH.Davis,A.B.Sullivan,A.Y.Coran,Rubber Chemistry and Technology 60,125(1987),R.Casper,J.Witte and G.Kuth in Ullmann’s Encyklopaedie der technischen Chemie[Ullmann’s encyclopaedia of industrial chemistry],4th Edn.,Volume 13,pp.640−644(1977)に記載されている。既述の学術論文も、水素化ビニルポリブタジエンの硫黄加硫用の好適な架橋剤および促進剤について比較的詳細に記述している。
【0029】
硫黄は、架橋反応に可溶性または不溶性の元素形態で、あるいは硫黄供与体の形態で使用できる。
【0030】
使用できる硫黄供与体の例として、ジモルホリルジスルフィド(dimorpholyldisulphide)、2−モルホリノジチオベンゾチアゾール(2−morpholinodithiobenzothiazole)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(dipentamethylenethiuram tetrasulphide)またはテトラメチルチウラムジスルフィドがある。
【0031】
硫黄加硫を実施する場合、工業的に有用な加硫性能、あるいは工業的に十分な物理的性質の加硫物を得るためには、硫黄または硫黄供与体だけでなく好適な促進剤を加えることが望ましい。しかし、基本的には硫黄または硫黄供与体を単独で用いて架橋を実施することもできる。有用な全体的特性が得られる場合には、元素硫黄または硫黄供与体を一切加えずに、幾種類かの促進剤または促進剤の組合わせのみを用いて水素化ビニルポリブタジエンの架橋を実施することもできる。
【0032】
さらに、水素化ビニルポリブタジエンの促進硫黄架橋に使用する促進剤および架橋剤は、ジチオカルバメートをベースにしたもの、チウラムをベースにしたもの、チアゾール類をベースにしたもの、スルフェンアミドをベースにしたもの、キサントゲン酸塩をベースにしたもの、グアニジン促進剤をベースにしたもの、ジチオリン酸塩をベースにしたものおよびカプロラクタム類をベースにしたものである。
【0033】
使用できるジチオカルバミド酸塩の例として、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケルまたはジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛(zinc diisononyldithiocarbamate)がある。
【0034】
使用されるチウラム類(thiurams)の例として、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドまたはテトラエチルチウラムジスルフィドがある。使用されるチアゾールの例として、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド(dibenzothiazyl disulphide)、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、ベンゾチアジルジシクロヘキシルスルフェンアミド(benzothiazyldicyclohexylsulphenamide)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンイミドまたは2−メルカプトベンゾチアゾール銅がある。使用されるスルフェンアミド促進剤の例として、N−シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、ベンゾチアジル−2−スルフェン酸モルホリド(sulphenic morpholide)、N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、2−モルホリノベンゾチアジルスルフェンアミド、2−モルホリノジチオベンゾチアゾール、N−オキシジエチレンチオカルバミル−N−tert−ブチルスルフェンアミドまたはオキシジエチレンチオカルバミル−N−オキシジエチレンスルフェンアミドがある。使用されるキサントゲン酸塩促進剤の例として、ジブチルキサントゲン酸ナトリウム(sodium dibutyl xanthogenate)、イソプロピルジブチルキサントゲン酸亜鉛(zinc isopropyl dibutyl xanthogenate)またはジブチルキサントゲン酸亜鉛がある。使用されるグアニジン促進剤の例として、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、o−トリルビグアニドがある。使用されるジチオリン酸塩の例として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基の鎖長C〜C16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキル基の鎖長C〜C16)またはジチオホスホリルポリスルフィド(dithiophoshoryl polysulphide)がある。使用されるカプロラクタムの例として、ジチオビスカプロラクタム(dithiobiscaprolactam)がある。使用できる更なる促進剤の例として、亜鉛ジアミンジイソシアネート(zinc diaminediisocyanate)、ヘキサメチレンテトラミン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、および環状ジスルファン(cyclic disulphanes)がある。
【0035】
上記の促進剤および架橋剤は、個別に、あるいは混合物として使用できる。好ましくは、以下の物質が水素化ビニルポリブタジエンの架橋に使用される:硫黄、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジモルホリルジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオビスカプロラクタムおよび/またはN−シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアミド。
【0036】
架橋剤および促進剤の使用可能量は、(それぞれの場合に活性物質を基準にして、個別の添加で)約0.05〜10phr、好ましくは0.1〜8phr、特に0.5〜5phrである。
【0037】
水素化ビニルポリブタジエンの硫黄架橋では、ほとんどの場合、加硫促進剤または架橋剤のほかに、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム、飽和または不飽和の有機脂肪酸およびそれらの亜鉛塩、多価アルコール、アミノアルコール(例えば、トリエタノールアミン)、およびアミン(ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルエチルアミンまたはポリエーテルアミン(polyetheramines)など)などの無機または有機活性化剤を併用する必要がある。
【0038】
水素化ビニルポリブタジエンの本発明の硫黄架橋における加硫の挙動は、(技術的に必要とされるか、または望ましい場合)好適な加硫遅延剤によって影響を及ぼすこともできる。これに使用する物質の例として、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、無水フタル酸、N−フェニル−N−(トリクロロメチルスルフェニル)ベンジルスルフェンアミド、安息香酸およびサリチル酸がある。
【0039】
活性化剤および加硫遅延剤の使用可能量は、約0.1〜12phr、好ましくは0.2〜8phr、特に好ましくは0.5〜5phrである。
【0040】
もちろん、本発明による架橋水素化ビニルポリブタジエンの全体的特性を調整するために、更なる従来の添加剤および助剤をゴム混合物に加えることが必要ならば、そうすることもできる。
【0041】
加硫物は、ガラス繊維、脂肪族アミドと芳香族ポリアミドとからなる繊維(例えば、アラミド(Aramid(登録商標)))、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、セルロース繊維、天然繊維(綿または木繊維など)、あるいは綿、ポリエステル、ポリアミド、ガラスコードおよびスチールコードからなる織物などの補強材を加えることによってさらに補強できる。適切な場合、こうした補強材または短繊維は、エラストマーにしっかり結合できるように、使用前に(例えば、RFL含浸液によって)接着性に関して改善しなければならない。本発明の共加硫物を、スチールと一緒に、熱可塑性樹脂と一緒に、および熱硬化性樹脂と一緒に用いて複合物品を製造することもできる。複合物は、(適切な場合、好適なカップリング剤系を使用して)加硫プロセスの間かまたは基材の事前活性化(例えば、エッチング、プラズマ活性化)の後に、あるいは加硫後の接着結合によって製造される。
【0042】
本発明にしたがって使用される水素化ビニルポリブタジエンは、加硫プロセスの前に、普通の装置(密閉式混合機または押出機など)またはロールで上述の添加剤と混合する。複合物での使用を意図した既述の他のゴムと水素化ビニルポリブタジエンとの混合は、先行技術にしたがって同一または類似の方法で行う。
【0043】
混合物は、公知の方法で、例えば、カレンダ加工、トランスファー成形、押出または射出成形で加工できる。加硫が早く起こらないような加工温度を選択する。そうするために適切な予備実験を実施することができる。
【0044】
複合製造物の加硫を実施するための理想温度は、当然ながら使用する架橋系の反応性によって異なり、この場合は、好ましくは高圧において室温(約20℃)〜約220℃でありうる。これは、ほとんどの場合に接着を達成するのに有利であることが実証されているからである。架橋時間は一般に、20秒間〜60分間、好ましくは30秒間〜30分間である。
【0045】
加硫反応自体は一般に、加硫プレスまたはオートクレーブで、あるいは熱風、マイクロ波または他の高エネルギー放射(例えば、紫外線照射または赤外線照射)の存在下で、あるいは塩浴で実施できる。
【0046】
特定の製造物特性を実現するため、または加硫プロセスを完了するために、後の熱調整が必要なことがある。そのような場合、後の熱調整に用いる温度は、60℃〜220℃の範囲であり、(適切な場合、減圧して)約2分間〜24時間におよぶ。
【0047】
本発明の層構造加硫物は、任意のゴム成形品の製造に使用することができ、特定の例としては層状構造を有する工業ゴム製品およびタイヤ構成材がある。挙げることのできる層状構造を有するゴム成形品の例として、タイヤ、タイヤ構成材、タイヤ側壁、駆動ベルト、ゴムボート、コンベヤベルト、異形材、ホース、シート、カバー、被覆、靴底、ガスケット、ケーブルシース、ふいご、プーフ、ならびにゴム/金属、ゴム/プラスチックおよびゴム/織物からなる複合製造物、好ましくはタイヤ、駆動ベルト、コンベヤベルト、異形材、ホース、ならびにゴム/金属、ゴム/プラスチックおよびゴム/織物からなる複合製造物がある。
【実施例】
【0048】
1.ゴム混合物の製造
表1のゴム混合物の製造では、「かみ合いロータージオメトリ(intermeshing rotor geometry」を有する容量1.5リットルの密閉式混合機(ヴェルナー&プフライデラー(Werner & Pfleiderer)のGK1.5E)を使用した。密閉式混合機を予熱して50℃の温度にした。最初に、それぞれの場合にゴムを混合機に加えた。30秒後に、硫黄および促進剤以外の他の成分すべてを加え、50rpmの一定のローター回転速度で混合した。4分の混合時間の後、混合物を取り出し、空気中で冷やして室温にした。その後、40℃においてロールで混合することにより硫黄および促進剤を混ぜた。
【0049】
本発明の効果を実証するために、以下の組成の4種類のゴム混合物を製造した。
【0050】
【表1A】

【表1B】

【0051】
2.未加硫混合物の粘着性の測定
粘着性を測定するため、未加硫混合物からなる厚さ1.2〜1.5mmのシートのプレフォームを実験用ロール装置から得た。シートのプレフォームの両側をテフロン(登録商標)フィルムで覆い、実験用コールドプレスでプレス(150バールで、プレス時間は30分間)することによって、厚さ1mmの平らなシートをプレフォームから製造した。大きさが48×6×1mmの試験片をそれらのシートから打ち抜いて作った。
【0052】
試験する前に、フィルムを取り除き、90°の角度で交差するような形状で試験片を互いに押し付けた(6.67Nの圧力による力で、接触時間10秒)。試験片の幾何学的形状では、接触面積が36mmとなる。
【0053】
次いで、1インチ/分の移動速度を用いて試験片をモンサント(Monsanto)のTel粘着性装置(Tel Tack device)で引き離し、これに必要な力を測定する。それぞれの混合の組合わせについて、6個の試験片を製造して試験した。
【0054】
粘着性の測定は以下の層の組合わせに関して実施し、以下の分離力(separation force)の最大値が得られた(6つの試験の中央値)。
混合物1/混合物2:4N(本発明の実施例)
混合物1/混合物3:3.3N(比較例)
混合物1/混合物4:5N(比較例)
【0055】
これらの実験によると、水素化ビニルポリブタジエンをベースにした本発明の未加硫混合物の粘着性は、異質ゴムを加えなくても比較の混合物のレベルにあることが示された。
【0056】
3.加硫後の接着力の測定
混合物の加硫は、アルファ・テクノロジー(Alpha Technology)のMDR2000移動ダイ(moving die)レオメーターを用い、180℃において試験時間30分間でASTM D 5289に従って測定した。特性バルカメーター(Characteristic vulcameter)値は、F、Fmax、Fmax−F、t10、t50、t90およびt95である。
【0057】
【表2】

【0058】
加硫後の接着力を測定するために、未加硫混合物からなる厚さ2mmのシートのプレフォームを実験用ロール装置から得た。大きさ150×20×2mmのストリップをこれらのシートから打ち抜いて作った。異なる混合物の組合わせのストリップの組合わせをぴったり合うように重ね合わせ、その際に引張試験機のグリップを後でそこに取り付けられるように、テフロン(登録商標)フィルムを60mmの面積の上側部分に挿入した。こうして作製した試験片を、好適な金型中において160℃の温度および150バールの圧力で加硫した(加硫時間:15分間)。試験開始の前に、加硫された複合製造物を室温で24時間、中間貯蔵した。
【0059】
分離試験を実施するために、複合製造物の非粘着末端を引張試験機の横行部材(traversing element)のグリップでつかんで固定し、引き離した。使用した移動速度は100mm/分であった。
【0060】
加硫後の層の接着力に関する以下の値をここで測定した(6回の試験の中央値):
混合物1/混合物2:120N(本発明の実施例)
混合物1/混合物3:125N(比較例)
混合物1/混合物4:140N(比較例)
【0061】
本発明の実施例によると、加硫後の水素化ビニルポリブタジエンからなる層の接着強度は、比較例の場合と同じオーダーの大きさであることが分かった。比較例と対比して、水素化ビニルポリブタジエンからなる本発明の層には異質ゴムは加えられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層の少なくとも1つが、水素化の前のビニル含量が30〜70%であり、かつ水素化度が70〜98%であり、かつムーニー値が40〜140ムーニー単位(ML 1+4/125℃)である水素化ビニルポリブタジエンゴムを含み、他の層が二重結合を含んでいるゴムを含むことを特徴とする、層構造加硫物。
【請求項2】
少なくとも1つの他の層が、二重結合を含んでいるゴムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の層構造加硫物。
【請求項3】
少なくとも1つの他の層が、SBRゴム、ポリブタジエンゴムまたは天然ゴム(NRゴム)あるいはこれらのゴムの混合物を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の層構造加硫物。
【請求項4】
前記加硫物の基礎をなす層状構造物が硫黄加硫によって加硫されることを特徴とする、請求項1に記載の加硫物の製造方法。
【請求項5】
前記加硫物の基礎をなす層状構造物が、未加硫または部分加硫されたシートのプレフォームを貼り合わせ、その後で硫黄加硫を行うことによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の加硫物の製造方法。
【請求項6】
前記加硫物の基礎をなす層状構造物が、同時押出およびその後の硫黄加硫によって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の加硫物の製造方法。
【請求項7】
前記加硫物の基礎をなす層状構造物が、前記水素化ビニルポリブタジエンを含む溶液を、二重結合を含んでいる前記ゴムを含む別の層へ塗布し、その後で硫黄加硫を行うことによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の加硫物の製造方法。
【請求項8】
層構造ゴム成形品の製造に対する請求項1に記載の層構造加硫物の使用。
【請求項9】
層構造工業ゴム製品の製造に対する請求項1に記載の層構造加硫物の使用。
【請求項10】
請求項1に記載の層構造タイヤ構成材の製造に対する前記水素化ビニルポリブタジエンの使用。
【請求項11】
請求項1に記載の層構造タイヤ側壁の製造に対する前記水素化ビニルポリブタジエンの使用。

【公表番号】特表2009−541098(P2009−541098A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516961(P2009−516961)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005578
【国際公開番号】WO2008/003411
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】