説明

水素化/脱水素化反応用担持触媒、その製造方法、およびその触媒を用いた水素貯蔵/供給方法

【課題】水素化または脱水素化の反応速度を高め、触媒を長時間使用すること。
【解決手段】白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとが、担体の表面の一部または全部を覆う担持触媒を用いて、芳香族化合物への水素化反応または当該芳香族化合物の水素化誘導体の脱水素化反応を行う水素貯蔵/供給方法を採用している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物への水素付加反応または芳香族化合物の水素誘導体の脱水素化反応に触媒活性を示す水素化/脱水素化反応用担持触媒、その製造方法、およびその触媒を用いた水素貯蔵/供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化が問題視されており、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として燃料電池システムが注目されている。燃料電池システムの燃料の一つとして、水素燃料が注目されている。これは、水素燃料を燃料とした燃料電池システムでは、電力発生時に水のみが排出されるので、最も環境負荷が小さいエネルギー源として注目されているためである。しかし、水素は常温で気体かつ可燃性物質でもあるため、貯蔵や運搬が難しいという問題がある。
【0003】
したがって、現在、水素を安全に貯蔵し、かつ必要に応じてレスポンスよく水素を供給できる水素貯蔵・供給システムが検討されており、現在実用可能な水素の供給形態として、A.水素をボンベ等に圧入して各家庭に配送する方法、B.既存インフラである都市ガス、プロパンガスから水蒸気改質等の方法により水素を得る方法、C.夜間電力により水を電気分解して水素を得る方法、D.太陽電池等で得た電気エネルギーにより水を電気分解して水素を得る方法、E.光触媒反応により光エネルギーと水から直接水素を得る方法、およびF.光合成細菌や嫌気性水素発生細菌等を用いて水素を得る方法等が検討されている。
【0004】
これらの中で、A.は、水素供給システムとしては容易に実現可能であるが、水素ガスは可燃性であるため、安全性に問題があり、実用性は低いと考えられる。一方、B.は、既に供給配管が整備されているガス配管を利用できるという点では現実的であるが、改質器のレスポンス性が十分ではないという問題がある。また、C.〜F.でも、供給側と需要側にタイムラグが生じるため、電力需要の変動に起因する負荷変動に追従できないという問題がある。
【0005】
従って、実用化の可能性のある上記B.〜F.の方法を実現させるために、発生させた水素を一旦貯蔵し、必要に応じてレスポンスよく水素を燃料電池システムに供給する水素貯蔵・供給システムが検討されている。そのようなシステムの具体例として、水素吸蔵合金を用いたシステムまたは、カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバー等のカーボン材料を用いたシステムが開示されている。(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)
【特許文献1】特開平7−192746号公報
【特許文献2】特開平5−270801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した水素吸蔵合金を用いたシステムでは、熱によって水素の出し入れを制御できる簡便なシステムを構築できるが、合金単位重量当たりの水素貯蔵量が低く、代表的なLaNi合金の場合でも、水素の吸蔵量は3重量%程度に留まっている。また、合金を用いるため、重量が大きく、かつ価格が高いという欠点がある。
【0007】
また、カーボン材料を用いたシステムでは、水素の高吸蔵が可能な材料が開発されつつあるものの、未だ十分ではなく、これらの材料は、工業的な規模での合成が難しく、価格の問題や、得られるカーボン材料の質の問題から、いずれも実用に供するまでには至っていない。
【0008】
かかる状況下、本発明者は、低コストで、安全性、運搬性、貯蔵能力にも優れた水素貯蔵・供給システムとして、ベンゼン/シクロヘキサン系やナフタレン/デカリン・テトラリン系の炭化水素に着目し、芳香族化合物からなる水素貯蔵体の水素付加反応と、該芳香族化合物の水素化誘導体からなる水素供給体の脱水素化反応との少なくとも一方を利用して水素の貯蔵および/または供給を行う水素貯蔵・供給システムを提案した。ここにおいて使用する触媒は、白金やパラジウム等であるが、これらの金属触媒を用いたシステムよりも、さらに反応速度を向上させる必要がある。
【0009】
また、本発明者は、水素貯蔵・供給システムに好適な触媒として、少なくとも2種の金属元素からなる合金を担持した担持触媒を用いた。この担持触媒は、一種類の金属のみで構成された触媒を用いるよりも、合金を構成する金属のもつ特徴を活かせるものの、合金化による結晶構造の弊害が生じる、合金触媒の付着性が低い、あるいは合金触媒の不活性化が生じる、長期間の使用に耐えないという問題を有している。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題を解決すべく、水素化または脱水素化の反応速度を高め、触媒を長時間使用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明は、白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとが、担体の表面の一部または全部を覆う担持触媒を用いて、芳香族化合物への水素化反応または当該芳香族化合物の水素化誘導体の脱水素化反応を行う水素貯蔵/供給方法としている。
【0012】
このような水素貯蔵/供給方法を用いると、長時間安定でかつ高速にて水素貯蔵/供給を行うことができる。なぜなら、この水素貯蔵/供給方法にて用いられる白金と、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドとを含む触媒は、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドの有する活性点が、水素化および脱水素化反応を高活性化させるためである。加えて、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイド上に、白金が担持されることにより、白金の担持力が増加する。そのため、白金を高分散化させることができる。さらに、触媒として合金を用いないため、2種類以上の金属元素を含む合金を触媒として用いる場合に問題となる結晶構造の不安定化および不活性化を生じない。したがって、水素化および脱水素化反応の高活性化かつ長時間の安定駆動を実現させることができる。
【0013】
また、別の発明では、担体の表面の一部または全部は、白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとにより覆われている水素化/脱水素化反応用担持触媒としている。
【0014】
このような水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いると、上記の理由により長時間安定でかつ高速にて水素貯蔵/供給を行うことができる。
【0015】
また、別の発明では、担体は、微細孔を有する多孔質体をである水素化/脱水素化反応用担持触媒としている。
【0016】
このような水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いると、さらに高い触媒能を発揮させることができる。それは、担体である多孔質体は、高い比表面積を有するので、白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとを含む触媒を担持できる面積が大きくなるためである。
【0017】
また、別の発明では、多孔質体は、活性炭、メソ細孔シリケート、アルミナ、またはアルマイトである水素化/脱水素化反応用担持触媒としている。
【0018】
このような水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いると、さらに高い触媒能を発揮させることができる。それは、活性炭、メソ細孔シリケート、ポーラスアルミナは、高い比表面積および特異なミクロ空間構造を有するので、白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとを含む触媒を担持できる面積が大きくなりかつ、微細孔内の触媒が欠落し難くなるからである。
【0019】
また、別の発明では、担体は、微細孔を有するアルミナを反応面に有し、反応面の逆側の面に、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウムを含む鉄合金、または表面にアルミニウムを緊密に張り合わせた耐熱合金のいずれか一つの金属が、緊密に前記アルミナを保持している水素化/脱水素化反応用担持触媒としている。
【0020】
このような水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いると、高温での触媒耐久性を向上させることができる。それは、アルミナと緊密に張り合わせられるアルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウムを含む鉄合金、または、表面にアルミニウムを緊密に張り合わせた耐熱合金を反応面の逆側の面に張り合わせることにより、高温での耐久性が向上するためである。
【0021】
また、別の発明では、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドを担体の表面に担持させる担持ステップと、担体を、白金塩に含浸することにより、白金前駆体を担体へ担持する白金前駆体担持ステップと、白金前駆体が担持された担体を還元剤で還元処理する還元ステップと、を含む水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法としている。
【0022】
このような水素化/脱水素化触媒の製造方法を採用すると、高い触媒能を有する水素化/脱水素化反応用担持触媒を製造することができる。
【0023】
また、別の発明では、担持ステップは、含浸担持法により、モリブデンあるいはタングステンの前駆体を担体へ担持する前駆体担持ステップと、前駆体が担持された担体を、炭化水素、若しくは炭化水素と水素の混合ガス雰囲気下にて加熱処理することにより、前駆体をカーバイド化するカーバイド化ステップと、を含む水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法としている。
【0024】
このような水素化/脱水素化触媒の製造方法を採用すると、高い触媒能を有する水素化/脱水素化反応用担持触媒を、大きな設備などを必要とせずかつ安価に製造することができる。
【0025】
また、別の発明では、前記白金前駆体担持ステップは、前記担持ステップと同時に行う、あるいは担持ステップの後に行う水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法としている。
【0026】
このような水素化/脱水素化触媒の製造方法を採用すると、さらに高い触媒能を有する水素化/脱水素化触媒を製造することができる。なぜなら、モリブデン前駆体あるいはタングステン前駆体もしくはモリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドが担体表面を覆うステップあるいはそのステップの後に白金を担持することにより、モリブデン前駆体あるいはタングステン前駆体もしくはモリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイド上に白金が担持することができる。また、担体に直接白金を担持させるよりも、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイド上に白金を担持することにより、白金の担持力が向上し、白金を高分散させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、水素化または脱水素化の反応速度を高め、触媒を長時間使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る水素化/脱水素化反応用担持触媒、その製造方法、および該触媒を用いた水素貯蔵/供給方法の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、下記の実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いた水素貯蔵/水素供給システムの概略構成図である。
【0030】
図1に示す水素貯蔵/水素供給システム1は、芳香族化合物に外部からの水素を付加して水素化誘導体である有機ハイドライドとして水素を貯蔵すると共に、有機ハイドライドの脱水素により、芳香族化合物と水素に分解して水素を生成して外部に供給することができる装置である。
【0031】
水素貯蔵/水素供給システム1に用いられる芳香族化合物としては、例えば、ベンゼンあるいはトルエン等が好適に用いられる。また、水素化誘導体である有機ハイドライドとしては、例えば、シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサン等が好適に用いられる。
【0032】
水素貯蔵/水素供給システム1は、反応器2と、芳香族化合物を入れたタンク3と、有機ハイドライドを入れたタンク4と、反応器2で生成された反応生成物を貯蔵するためのタンク5とを主に備えている。
【0033】
反応器2は、加熱手段(例えば、ヒータ)6と、その加熱手段6によって加熱される水素化/脱水素化反応用担持触媒(以下、単に、「白金担持触媒」という。)7とを備えている。反応器2の上方には、液体原料供給用の配管8が貫通して配置されている。反応器2の内部における配管8の先端には、噴霧ノズル9が設けられ、反応器2の外部における配管8の途中には、バルブ10が設けられている。また、配管8の噴霧ノズル9と反対側には、三方バルブ12が設けられている。
【0034】
三方バルブ12とタンク3の底部との間は、配管11にて接続されており、その配管11の途中には、送液ポンプ13が接続されている。また、三方バルブ12とタンク4の底部との間は、配管14にて接続されており、その配管14の途中には、送液ポンプ15が接続されている。三方バルブ12は、タンク3と反応器2との間のみを開通し、タンク4と反応器2との間のみを開通し、あるいは反応器2とタンク3,4との間を閉鎖するように切り替え可能なバルブである。
【0035】
反応器2の上方には、水素供給用の配管16が貫通している。配管16の途中には、バルブ17が接続されている。また、反応器2の外部における配管16の先には、水素供給手段(図に示さず)が接続されている。反応器2の底部近傍とタンク5の上部との間は、配管18で接続されている。配管18の途中には、ポンプ19と、冷却器20が接続されている。また、タンク5の上方には、水素などの気体を排気するための配管21が接続されている。
【0036】
水素を有機ハイドライドの形態にて貯蔵する場合には、次のような手順にて操作を行う。まず、加熱手段6を用いて白金担持触媒7を加熱する。次に、バルブ17を開いて、配管16を経由して水素を反応器2内に入れる。このとき、ポンプ19をオンとして、配管21を通じて水素を反応器2から外部に流しておくのが好ましい。次に、三方バルブ12を調整して、タンク3と反応器2との間の経路のみを開通し、送液ポンプ13をオンにして、タンク3内の芳香族化合物を反応器2に向けて送る。バルブ10を一定時間毎に開き、噴霧ノズル9から芳香族化合物を一定時間毎に噴霧する。すると、白金担持触媒7の表面にて、噴霧された芳香族化合物と水素との水素付加反応が起きて、有機ハイドライドが生成する。有機ハイドライドは、ポンプ19を通じてタンク5内に入る。配管18を通る気体状の生成物は、冷却器20により冷却され、タンク5内に液体として貯蔵される。水素は冷却器20にて冷却されても液化しないので、配管21を通って外部に排気される。
【0037】
一方、有機ハイドライドの脱水素化反応により水素を生成する場合には、次のような手順にて操作を行う。まず、加熱手段6を用いて白金担持触媒7を加熱する。次に、ポンプ19をオンとする。三方バルブ12をタンク4と反応器2との間の経路のみを開通し、送液ポンプ15をオンとして、タンク4内の有機ハイドライドを反応器2に向けて送る。バルブ10を一定時間毎に開き、噴霧ノズル9から有機ハイドライドを一定時間毎に噴霧する。白金担持触媒7の表面にて、噴霧された有機ハイドライドの脱水素化反応が生じることにより、水素と芳香族化合物とが生成する。芳香族化合物は、ポンプ19を通じてタンク5内に入る。配管18を通る気体状の芳香族化合物は、冷却器20により冷却され、タンク5内に液体として貯蔵される。水素は、配管21を通って外部へ排出される。
【0038】
本実施の形態に係る白金担持触媒7に用いられる触媒担体としては、例えば、活性炭、モレキュラーシーブ、ゼオライト、多孔質シリカ若しくはアルミナ等の公知の担体を好適に用いることができる。その中でも特に、多孔質材料は、表面積が大きいことから、好適に用いられる。
【0039】
多孔質材料としては、活性炭、多孔質シリカあるいは酸化アルミニウム(アルミナ担体)のようにそれ自体が多孔質である材料以外に、アルミニウムの表面を酸化することによって多孔質化させたアルマイト担体やアルミニウムで被覆された異種金属、たとえば鉄やステンレス鋼とのクラッド材等が好適に用いられる。
【0040】
以下、表面に多孔質アルミナを被覆したアルミニウム(以下、アルミニウムで被覆された異種金属とのクラッド材を含む)から成るアルマイト担体を例に、白金とモリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとを担持する担持触媒の作製方法について説明する。
【0041】
本実施の形態においては、以下のステップにてアルミニウム板の表面に多孔質アルミナ層を作製する。まず、アルミニウム板に陽極酸化処理を施して、その表面に陽極酸化皮膜を形成する(陽極酸化工程)。次に、該陽極酸化皮膜を酸性またはアルカリ性水溶液中に浸漬し、該皮膜の微細孔を拡孔する(拡孔工程)。次に、多孔質アルミナ層に付着した酸溶液を水洗処理し(洗浄工程)、最後に焼成する(焼成工程)。
【0042】
アルミニウム板の陽極酸化工程では、アルミニウム板の表面部分に酸化皮膜が作製される。陽極には、アルミニウム板を用いる。陰極には、電解液に溶解しない材質であり、かつ電子授受能力に優れた材料からなる電極であれば、公知の材料を好適に用いることができる。例えば、かかる陰極の材料として、カーボン、あるいは白金等が挙げられる。また、電子授受能力を高めるために、電極形状をコイル状、あるいは網状にする。そして、該陽極と該陰極とを平行に向かい合うように設置する。各電極には、AC、DC、AC/DC、パルス高電圧、低電圧、デューティ比の異なる電圧、若しくは傾斜電圧等の電圧を印加することができる。また、その電圧値は、周囲温度あるいは所望の細孔径に応じて、1〜150Vの電圧を印加する。
【0043】
その酸化皮膜中の微細孔を拡孔する拡孔工程において、シュウ酸あるいは硫酸等の酸溶液中に、陽極酸化を施したアルミニウム板を浸漬する。すると、酸化皮膜における細孔の孔壁が溶出し、孔径が拡大する。また、酸溶液への浸漬時間、酸溶液の酸化力および酸溶液の濃度等を調節することで、所定の孔径に拡孔できる。その浸漬時間は通常10時間以下であり、酸溶液は2〜30wt%の水溶液を5〜35℃に保ち、拡孔処理を行うことが出来る。また、拡孔を必要としない場合には、必ずしも拡孔工程を行わなくてもよい。その後、酸溶液を十分な水で洗浄し、必要に応じて空気、アルゴン、窒素あるはCOなどの雰囲気下にて、350〜500℃で水素還元処理を行い、これにより多孔質化されたアルミニウム板(アルマイト担体)が得られる。
【0044】
次に、図2に示すように、上述の多孔質アルミナ層の表面をモリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドで被覆する(ステップS101)。多孔質アルミナ層の表面を、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドで被覆するための方法としては、モリブデンあるいはタングステンをターゲットとするRF反応性スパッタリングが好適に用いられる。また、モリブデンあるいはタングステンを含有する前駆体溶液にて前駆体を担体に担持した後に、炭化水素と水素の混合ガス雰囲気下または、炭化水素と水素と一酸化炭素の混合ガス雰囲気下(以後、「少なくとも炭化水素を含むガス雰囲気下」という。)にて加熱することにより、モリブデンあるいはタングステンカーバイドを担持する方法も採用できる。
【0045】
RF反応性スパッタリング法に用いられるスパッタリング用ガスとしては、アルゴンが好ましいが、その他にもヘリウム、ネオン若しくはクリプトン等の不活性ガスを用いることができる。特に、アルゴンガス中に少量のヘリウムガスを用いると、プラズマ内のガスの電離を促進することが出来る。さらに、本発明においては、スパッタリング用ガスに炭化水素化合物、たとえばメタン、エタン、プロパン、ブタンなどを加えることで、モリブデンカーバイド中の炭素含有量を調整することができる。
【0046】
また、モリブデンあるいはタングステンを含有する前駆体溶液を塗布あるいは噴霧して、担体に前駆体を担持させた後に、少なくとも炭化水素を含むガス雰囲気下にて加熱することにより、モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドを担体に担持する方法は、次の手順で行われる。ここではモリブデンカーバイドを担体に担持する例にて説明する。まず、モリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸塩を含有する溶液を多孔質アルミナ層の表面に塗布し、前駆体としての酸化モリブデンで多孔質アルミナ層の表面を覆う。その後、酸化モリブデンで覆われた担体を、少なくとも炭化水素を含むガス雰囲気下において、約0.5〜20℃/分の速度で、300〜850℃に加熱する。すると、モリブデン酸塩が還元され、その後、モリブデンカーバイドに炭化する。モリブデン酸塩としては、対イオンが金属でないどのようなモリブデン酸塩であってもよい。通常、前記対イオンは有機化合物、アンモニウムあるいはその他のイオンであり、入手可能性の高いものが好ましい。さらに、酸化モリブデンのような他のモリブデン化合物も用いることができる。
【0047】
酸化モリブデンあるいは酸化タングステンを用いる場合には、当該金属酸化物を担持した担持触媒を、たとえばメタン、エタン、プロパン、若しくはブタンなどの炭化水素または炭化水素と水素ガスとの混合ガス雰囲気下で250℃〜500℃の温度域において段階的に昇温することにより、酸化モリブデンあるいは酸化タングステンを、それぞれ高分散化したモリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドに変換できる。
【0048】
次に、白金を含む白金溶液を、多孔質アルミナ層の表面に塗布することにより、白金前駆体を多孔質アルミナ層の表面に担持する(ステップS102)。この工程で用いられる白金溶液としては、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和液、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液、ヘキサアンミン白金(IV)クロライド溶液若しくはテトラアンミン白金(II)水酸塩溶液(0)等が好適に用いられる。また、白金溶液は、浸漬、滴下、塗布若しくは噴霧等の方法で多孔質アルミナ層の表面に塗布することができる。
【0049】
白金前駆体を担体に担持した後には、350℃〜500℃で焼成する方法、水素ガス雰囲気下で100℃〜400℃の温度域で段階的に昇温する方法、あるいはヒドラジンあるいはボロンハイドライドなどの水素化物の溶液と反応させる方法により、白金前駆体は、還元処理される(ステップS103)。このようにして、白金とモリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとが担体に担持された担持触媒を調製できる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は、該実施の形態に限定されることなく、種々変形を施して実施可能である。
【0051】
例えば、上記実施の形態では、芳香族炭化水素の水素化反応/水素化誘導体の脱水素化反応用白金担持触媒を採用しているが、芳香族炭化水素の水素化反応のみを行うために用いることもできるし、逆に、水素化誘導体(有機ハイドライド)の脱水素化反応のみを行うために用いてもよい。
【0052】
さらに、本実施の形態では、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドは、担体の表面を完全に覆っているが、担体の表面の一部分のみがモリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドにより覆われても良い。さらに、担体の表面に、モリブデンカーバイドあるはタングステンカーバイドの各粒子が分散していても良い。
【0053】
また、モリブデンカーバイドを被覆するために用いる方法は、RF反応性スパッタリング法および前駆体溶液を用いる方法に限られない。たとえば、少なくとも炭化水素を含むガス雰囲気下で250℃から500℃の温度域において段階的に昇温する方法、化学気相蒸着法(CVD)、反応性イオンプレーティング法、反応性蒸着法および反応性レーザアブレーション法なども用いることができる。
【0054】
さらに、アルミニウム板の陽極酸化工程では、アルミニウム板の表面に酸化皮膜を作製する方法の一例を挙げたが、酸化皮膜を作製する方法であればどのような方法を用いても良い。
【0055】
また、本実施の形態では、まず、担体にモリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドを担持させた後に、白金を担持させたが、白金を先に担持させ、その後にモリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドを担持させてもよい。しかし、白金とモリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとを効率的に複合化するためには、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドを担体へ担持させた後に、白金を担持させることが好ましい。なぜなら、微細なモリブデンカーバイド等が白金の分散に寄与するため、モリブデンカーバイド等の上に白金前駆体を塗布することにより、白金がより高分散化するためである。白金が高分散化し、かつ、モリブデンカーバイド等との担持力が高められるため、触媒活性の向上および触媒の長寿命化が達成される。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の各実施例について説明する。但し、本発明は、当該各実施例に限定されるものではない。
【0057】
試験方法
図1に示す水素化および脱水素化反応装置において、後述の各実施例および比較例の試料を用いて、シクロヘキサンあるいはメチルシクロヘキサンの脱水素化反応を行った。反応条件としては、設定温度320℃、反応圧力0.1MPaG、触媒層体積4.3ml、原料投入速度0.15ml/min、液空間速度2.0h−1、および水素添加量10ml/min(水素/oil比0.3mol/1mol)に設定した。また、水素発生速度とシクロヘキサンの転化率は、ガスクロマトグラフィーにより分析することにより求めた。シクロヘキサンの脱水素化反応を行った際の、水素発生速度、シクロヘキサン転化率、およびベンゼン選択率を表1に示した。また、メチルシクロヘキサンの脱水素化反応を行った際の、水素発生速度、メチルシクロヘキサン転化率、およびトルエン選択率を表2に示した。さらに、シクロヘキサンの脱水素化反応を行った際の、反応速度の時間変化を表3に示した。
【0058】
なお、実施例および比較例で用いるシクロヘキサン(メチルシクロヘキサン)転化率、ベンゼン(トルエン)選択率、水素生成速度は、以下のように定義した。
シクロヘキサン(メチルシクロヘキサン)転化率(%)=(生成したベンゼン(トルエン)のモル数/原料のシクロヘキサン(メチルシクロヘキサン)のモル数)×100
ベンゼン(トルエン)選択率(%)=(生成したベンゼン(トルエン)のモル数/原料のシクロヘキサン(メチルシクロヘキサン)のモル数)×100
水素生成速度(mL/min)=毎分あたりの生成した水素の容量
水素生成活性(mL/min/g)=白金1gあたりの毎分あたりの生成した水素の容量
【0059】
実施例1
白金18mgを含む塩化白金酸HPtCl水溶液を、モリブデンカーバイドへ噴霧した後、窒素ガス雰囲気下350℃で3時間の焼成を行った。その後、窒素ガスで希釈した10%水素雰囲気下で室温から350℃まで段階的に昇温して調製して、0.5%白金担持モリブデンカーバイド(Pt/MoC)触媒を作製した。
【0060】
実施例2〜5
担体として、活性炭、メソ多孔質シリケート(FSM−16)、シリカおよびアルミナをそれぞれ用いて、モリブデン酸アンモニウムを含む溶液を担体に塗布した後、空気雰囲気下350℃で加熱した。そして酸化モリブデンを担持した活性炭、メソ多孔質シリケート、シリカおよびアルミナを、体積比にて、メタン(あるいはブタン):水素=1:10の混合ガス雰囲気下にて350〜500℃で段階的に5時間の加熱反応を行うことにより、酸化モリブデンをモリブデンカーバイドに変換した。
【0061】
その後、白金18mgを含む塩化白金酸HPtCl溶液に、モリブデンカーバイドで覆われている各担持触媒を含浸した後、乾燥した。その後、水素ガス雰囲気下において、100〜350℃で3時間かけて段階的に水素還元を行い各担持触媒を調製した(実施例2〜5)。
【0062】
比較例1
白金18mgを含む塩化白金酸HPtCl水溶液を、担体である活性炭に噴霧した後、窒素ガス下350℃で3時間の焼成を行った。その後、窒素ガスで希釈した10%水素雰囲気下において、室温〜350℃まで段階的に昇温して、0.5%白金担持活性炭(Pt/AC)触媒を調製した(比較例1)。
【0063】
【表1】

【0064】
窒素雰囲気中でシクロヘキサンの脱水素化反応を行った結果、モリブデンカーバイドが担持されている実施例1〜5の触媒は、モリブデンカーバイドが担持されていない従来の触媒(比較例1)よりも、6〜12倍以上高い水素発生速度を示した。
【0065】
実施例6
縦40mm、横40mmおよび厚さ5mmの形状を有するアルミニウム板を、温度20℃の環境下で、4wt%シュウ酸溶液を電解質溶液として用いて、0.5A/dmNの電流密度で7時間陽極酸化を行い、50ミクロンの厚さの陽極酸化皮膜を得た。その後20℃に加熱した4wt%シュウ酸溶液に5分間浸漬することで拡孔処理を行った。
【0066】
酸溶液の洗浄を行った後に、空気雰囲気中において、350℃で3時間の熱処理を行うことにより、多孔質アルミニウムを得た。
【0067】
次に、モリブデン酸アンモニウムを含む溶液を、多孔質アルマイト担体の多孔質アルミナ面に塗布した後、ブタンと水素の混合ガス(ブタン:水素=体積比にて1:10)雰囲気下において、350℃で5時間の加熱反応をおこない、担体にモリブデンカーバイドを被覆した。
【0068】
次に、白金18mgを含む塩化白金酸HPtCl水溶液を、モリブデンカーバイドが担持された多孔質アルマイト担体に噴霧した後、窒素ガス雰囲気下において350℃で3時間の焼成を行った。その後、窒素ガスで希釈した10%水素雰囲気下において、室温〜350℃まで段階的に昇温することにより、多孔質アルマイトの表面積1mあたりに白金3gを担持している白金/モリブデンカーバイド担持アルマイト触媒(3g/m Pt/MoC/Al/Al)を調製した(実施例6)。
【0069】
比較例2
また、白金18mgを含む塩化白金酸HPtCl水溶液を、多孔質アルマイト担体の多孔質アルミナ面に噴霧した後、空気気流下350〜500℃で3時間焼成を行った。その後、窒素で希釈した10%水素雰囲気下において、室温〜350℃まで段階的に昇温することにより、多孔質アルマイトの表面積1mあたりに白金3gを担持している白金担持アルマイト触媒(3g/m Pt/Al/Al)を調製した(比較例2)。
【0070】
比較例2と実施例6を用いて、メチルシクロヘキサンの脱水素化反応を320℃で行った際の各水素発生速度、脱水素化反応の反応活性および選択性を比較した結果を表2に示した。実施例6の白金・モリブデンカーバイド担持アルマイト触媒は、比較例2の白金担持アルマイト触媒を使用した場合に比べて、約1.5倍高い水素発生速度と反応活性を示した。なお、水素以外の生成物としては、微量のメタンの存在が、出口ガスのガスクロマトグラフィー分析により確認された。
【0071】
【表2】

【0072】
図3は、水素雰囲気中にて、従来の担持触媒(モリブデンカーバイドの被覆なし)および本実施例に係る担持触媒(モリブデンカーバイドの被覆あり)を用いて、300℃でのシクロヘキサンの脱水素化反応を長時間(120分)行い、各水素発生速度の時間変化を比較したグラフである。
【0073】
図3のグラフに示すように、比較例1の担持触媒を用いた場合も、実施例1の担持触媒を用いた場合も共に、120分間の試験時間において、水素発生速度は低下することなく安定していた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、水素を燃料として利用する産業に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態に係る水素化/脱水素化反応用担持触媒を用いた水素貯蔵/供給システムの概略構成図である。
【図2】図1に示す水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の実施例において、実施例1および比較例1の各触媒を用いたシクロヘキサンの脱水素化反応を長時間行い、各水素発生速度の時間変化を比較して示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとが、担体の表面の一部または全部を覆う担持触媒を用いて、芳香族化合物への水素化反応または当該芳香族化合物の水素化誘導体の脱水素化反応を行うことを特徴とする、水素貯蔵/供給方法。
【請求項2】
担体の表面の一部または全部は、
白金と、モリブデンカーバイド若しくはタングステンカーバイドとにより覆われていることを特徴とする、水素化/脱水素化反応用担持触媒。
【請求項3】
前記担体は、微細孔を有する多孔質体であることを特徴とする請求項2に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒。
【請求項4】
前記多孔質体は、活性炭、メソ細孔シリケート、アルミナ、またはアルマイトであることを特徴とする請求項3に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒。
【請求項5】
前記担体は、前記微細孔を有するアルミナを反応面に有し、
当該反応面の逆側の面に、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウムを含む鉄合金、または表面にアルミニウムを緊密に張り合わせた耐熱合金のいずれか一つの金属が、緊密に上記アルミナを保持していることを特徴とする、請求項3に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒。
【請求項6】
前記アルミナは、前記反応面側にあるアルミニウムを、陽極酸化により微細孔を有するアルミナに転化させたものであることを特徴とする請求項5に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒。
【請求項7】
モリブデンカーバイドあるいはタングステンカーバイドを担体の表面に担持させる担持ステップと、
上記担体を、白金塩に含浸することにより、白金前駆体を上記担体へ担持する白金前駆体担持ステップと、
上記白金前駆体が担持された上記担体を還元剤で還元処理する還元ステップと、を含むことを特徴とする、水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法。
【請求項8】
前記担持ステップは、
含浸担持法により、モリブデンあるいはタングステンの前駆体を担体へ担持する前駆体担持ステップと、
上記前駆体が担持された上記担体を、炭化水素若しくは炭化水素と水素の混合ガス雰囲気下にて加熱処理することにより、上記前駆体をカーバイド化するカーバイド化ステップとを含むことを特徴とする、請求項7に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法。
【請求項9】
前記白金前駆体担持ステップは、前記担持ステップと同時、あるいは前記担持ステップの後に行うことを特徴とする、請求項7または8に記載の水素化/脱水素化反応用担持触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−273778(P2008−273778A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118578(P2007−118578)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(597039939)
【出願人】(301035851)株式会社フレイン・エナジー (11)
【出願人】(500477551)株式会社アルミ表面技術研究所 (3)
【Fターム(参考)】