説明

水素吸蔵合金の表面処理方法、表面処理された水素吸蔵合金及びこれを用いたニッケル−水素二次電池

【課題】 水素吸蔵合金の表面処理方法、表面処理された水素吸蔵合金及びこれを用いたニッケル−水素二次電池を提供する。
【解決手段】 水素吸蔵合金粒子の表面に耐久性ニッケル被覆膜を形成し、かつ、その被覆量を特定範囲内に制御することによって、電気化学的特性、特にサイクル初期の活性と高率放電特性を向上させ、同時にサイクル寿命特性を向上させることを特徴とする、水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極に水素吸蔵合金、正極に水酸化ニッケル、電解液に高濃度アルカリ水溶液を用いてなるニッケル−水素二次電池に関する。更に、本発明は、負極活物質である水素吸蔵合金の電気化学的特性、特にサイクル初期の活性と高率放電特性を向上させると同時にサイクル寿命特性を向上させるための表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されているアルカリ蓄電池の一種であるニッケル−カドミウム二次電池は、負極にカドミウム、正極に水酸化ニッケル、電解液に高濃度アルカリ水溶液を用いてなり、低コストで耐久性が高く、又、大電流放電が容易に行えることから、電動工具やコードレス式の掃除機等、パワーを必要とする用途における電源として重宝されている。しかし、有害物質であるカドミウムを用いていることから、次第にその使用が制限されつつある。
【0003】
一方、新しいタイプのアルカリ蓄電池として1990年に実用化されたニッケル−水素二次電池は、負極に水素吸蔵合金電極を用いている以外はニッケル−カドミウム電池と同様の構成であり、又、起電力も同一であること、ニッケル−カドミウム二次電池よりも容量が大きいこと、そして環境負荷の高い材料を用いていないこと等からニッケル−カドミウム二次電池の代替として、あるいは高容量であることからデジタルスチールカメラ用の電源として、又、最近ではハイブリッド自動車や電気自動車等の大型バッテリーとして、近年急速に普及している。
【0004】
ところで、水素吸蔵合金は空気中の酸素の作用による表面酸化を受けやすい。特に市販されている水素吸蔵合金粉末は、合金塊を粉砕する過程や、又、それを保管している間に表面が酸化されて導電性の低い酸化被膜が形成されており、サイクル初期の活性が低い。
従って、かかる水素吸蔵合金粉末を用いて作製したニッケル−水素二次電池は、あらかじめ充放電を何度か繰り返し、活性化を行わなければならないという問題がある。又、このように導電性の低い水素吸蔵合金を用いると、電極内部における合金同士の接触抵抗が高くなり、放電時に発生する電流を高効率で採取することができない。従って、特に高率放電時における合金利用率が低下することが、ニッケル−水素二次電池の欠点とされている。
【0005】
更に、電動工具等の機器は、様々な環境下で使用できることが前提とされ、例えば高温での耐久性も電池には必要となる。しかし、ニッケル−水素二次電池は、負極活物質である水素吸蔵合金が脆弱であるため、特に高温下では合金構成物質の電解液中への溶出が顕著となる等、耐久性に問題を抱えている。従って、電動工具やコードレス式掃除機等、パワーを必要とし、かつ耐久性も求められるような用途では、未だに環境負荷の高いニッケル−カドミウム二次電池を使わざるを得ないのが現状である。
【0006】
これらの課題を解決させる為の方法として、還元剤を用いる自己触媒型の湿式無電解めっき法により水素吸蔵合金粒子の表面を導電性のニッケルや銅の薄膜で被覆した、いわゆるマイクロカプセル化した水素吸蔵合金を用いる方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)が、その効果は十分ではなく、実用化にも至っていない。
【0007】
特に、特許文献2、特許文献3は、純ニッケルめっきを被覆した水素吸蔵合金粒子を開示している。特許文献2に開示された水素吸蔵合金粒子では、ニッケルめっきの被覆厚は0.5〜2μmとされ、0.5μmより薄いと導電性向上の点で効果が小さく、均一なめっき膜になっていないので合金粉末の脱落、剥離現象が生ずるようになり、又、2μmより厚いと均一被覆の膜にはならず、過剰のニッケル又はニッケル合金の粒子の凝集が認められ、全体として水素吸蔵能が劣化するとしている。この特許出願では、均一なめっき被膜であることを前提としている。特許文献3は、めっき厚さによる差については言及されず、めっき析出速度を0.7μm/h以下にするとのみ言及されている。この特許出願は、特殊なチタンニッケル系合金(実用化されていない)を使用しており、この導電性及び耐久性改良を主目的としているため、やや目的が異なる。尚、これらの特許出願におけるめっきの被膜厚は、合金粒子にめっきしたものから直接測定したのではなくて、平板上にめっき処理を行なったものから推算している。
又、これらの特許出願に開示された技術では、水素吸蔵合金を活性化させるために、予め水素吸蔵合金を水素化(水素を物理的に吸蔵・放出させること)を行なうことが必須であり、もしこのような活性化を行なわないと、性能が低下することが言及されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−64069号公報
【特許文献2】特開昭61−163569号公報
【特許文献3】特開2003−309327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ニッケル−水素二次電池において、その電気化学的特性を向上させ、同時に耐久性を向上させることのできる水素吸蔵合金の表面処理方法は、今のところ見出されていないのが現状である。本発明は、この問題を解決するためのものであり、ニッケル−水素二次電池の負極活物質である水素吸蔵合金において、その電気化学的特性、特に初期活性と高率放電特性を向上させると同時に耐久性を得ることが可能な表面処理方法、並びにこれを用いたニッケル−水素二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、発明者等は鋭意検討した結果、無電解純ニッケルめっき法を用い、めっき被覆膜の析出量を特定範囲内に制御することにより、水素吸蔵合金粒子の電気化学的特性を向上させると同時に耐久性を向上させることが可能であることを見出した。
つまり、純ニッケルめっきによる被覆膜の作用によって水素吸蔵合金からの構成成分の溶出が抑制されるため、サイクル寿命特性が向上し、同時に、純ニッケルの被覆膜の作用によって導電性が向上し、しかも、該被覆膜の量が水素の透過を妨げない様に厳密に制御されているために電気化学的特性も向上する。
【0011】
従って、本発明の主題は、水素吸蔵合金粒子の表面に耐久性ニッケル被覆膜を形成し、かつ、その被覆量を特定範囲内に制御することを特徴とする、水素吸蔵合金粒子の表面処理方法にある。
好ましい具体例によれば、前記耐久性ニッケル被覆膜は無電解ニッケルめっき法によって形成される。又、この無電解ニッケルめっき法が、リン及びホウ素を含まない無電解ニッケルめっきであることを特徴とする。
【0012】
本発明の更に好ましい具体例によれば、前記無電解ニッケルめっき法は3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっき法である。更に好ましくは、この3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっき法はめっき浴の電解還元再生を併用するめっき法である。
【0013】
特に、本発明の特定の主題は、形成される耐久性ニッケル被覆膜が、水素吸蔵合金粉末1gあたりニッケル換算で、0.005g〜0.02g形成されていることを特徴とする、上記の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法にある。
【0014】
本発明の他の主題は、前記の表面処理方法が施されてなる水素吸蔵合金粒子にある。
【0015】
本発明の更に他の主題は、前記の表面処理が施されてなる水素吸蔵合金粒子を用いてなる二次電池並びにこのような水素吸蔵合金粒子を用いてなるニッケル−水素二次電池にある。
【0016】
本発明に従って、水素吸蔵合金粒子の表面に耐久性ニッケル被覆膜が形成されたことにより、ニッケル−水素二次電池の負極活物質である水素吸蔵合金の電気化学的特性、特にサイクル初期の活性と高率放電特性が向上されると同時にサイクル寿命特性が向上される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る表面処理方法によれば、前記耐久性ニッケル被覆膜を、水素吸蔵合金粒子の表面に、直接、温和な条件で、簡便なプロセスで形成することができる。又、かかる被覆水素吸蔵合金粒子は、その表面のニッケル被覆膜によって導電性が付与されるため、これを負極に用いたニッケル−水素二次電池は、電池性能、特にサイクル初期の活性や高率放電特性を向上させることができる。又、かかるニッケル被覆膜は耐アルカリ性を有しており、それゆえ水素吸蔵合金からの構成成分の溶出を抑制する作用がある。従って、サイクル寿命特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において表面処理される水素吸蔵合金粒子は特に限定されるものではなく、合金自体としてはニッケル−水素二次電池負極用に用いられる公知のものの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えばLaやCe等の希土類元素の混合物からなるミッシュメタル(Mm)とNi、Mn、Co、Al等を主成分とするAB5型や、Ni、Mg、Ti等を主成分とするAB2型のものが合金として好適であるが、サイクル寿命特性を得るという観点からAB5型のものが望ましい。又、該粒子のサイズは特に限定されないが、電極に加工する際の加工性や、電極にした場合の電池性能の点から、平均粒子径が1〜125μm程度、好ましくは1〜50μm程度であるものがよい。
本発明の方法によれば、市販の合金粒子に対して水素化等の処理を行わず、直接めっき処理を行うことができる。これにより、製造工程が簡略化できる特徴がある。
【0019】
水素吸蔵合金表面にニッケルめっきする方法は電気めっきと無電解めっきに大別されるが、前述のとおり、水素吸蔵合金粒子径が小さいため、めっき装置の点から、無電解めっきを行う方が現実的である。これまで工業的に利用されている無電解ニッケルめっきは、還元剤に、次亜リン酸ナトリウムや水素化ホウ素ナトリウム等を使用するものが主流である。しかしながらこれらの無電解ニッケルめっきの場合、ニッケルめっき被覆膜中にリンやホウ素が数パーセント〜十数パーセントと多量に取り込まれ、これらがニッケルめっき被覆膜の電気的、機械的あるいは化学的特性に影響を及ぼす。又、理由は明らかにされていないが、水素吸蔵合金表面にこのようなリンやホウ素を含むニッケルめっきを被覆し、それをニッケル−水素二次電池の負極に用いると、電池の耐久性が低くなることも知られている。又、めっき速度も比較的速く、本発明の主題である、ある特定範囲にめっき被膜の析出量を制御することは非常に困難である。
これに対し、本発明では、3価のチタンイオンを還元剤とするめっき液を用いることで、上記問題を解決した。即ち、このめっきプロセスでは、リンやホウ素を含まない純ニッケルめっきが析出するため、リンやホウ素が被覆膜の特性に悪影響を与えることがない。又、めっきの析出速度も比較的遅いため、めっき被覆膜の量が水素の透過を妨げない、つまり、めっき被覆膜が非常に薄い範囲に、膜厚を厳密に制御することが可能である。
【0020】
通常、非金属若しくは触媒活性のない(又は低い)金属上に無電解めっきを施すための前処理である触媒付与には、スズを含む溶液で感応性を付与したのちパラジウムを含む溶液で触媒活性を付与する方法が採用されている。又、パラジウムとスズを一液にした溶液で処理する方法も広く行われている。本発明における水素吸蔵合金への無電解ニッケルめっきについても、これらのめっきの前処理を行った方が、スムーズにめっきが進行する。前処理方法は特に限定はされず、通常の前処理方法を採用すればよい。例えば、次工程の触媒付与を効率よく行うため、界面活性剤を主成分とする表面調整剤で、被めっき物を処理した後、パラジウムとスズを一液にした触媒化液に被めっき物を投入することにより、触媒付与を行う。この時、触媒となるパラジウムに加え、スズも一緒に被めっき物に一部吸着するが、このスズはめっき被膜の密着性を下げる等の悪影響を及ぼすため、除去する必要ある。そこでアクセレータ液で処理し、このスズを除去したのち、3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっき液に被めっき物を投入し、ニッケルめっきを行う。
【0021】
3価のチタンイオンを還元剤とするニッケルめっきの浴温は、20〜90℃が好ましく、20〜70℃が更に好ましい。20℃未満では、ニッケルめっき速度が非常に遅く、作業効率が悪くなり、90℃以上では、めっき浴が不安定になり、分解しやすくなる。めっき浴のpHは4〜11が好ましく、5〜10が更に好ましい。pHが4未満の場合、ニッケルめっきの析出が起こらず、pHが11以上の場合は、めっき浴が分解しやすくなる。
【0022】
還元剤である3価のチタンイオン濃度は、0.001〜0.1モル/リットル程度であるのが好ましく、0.005〜0.05モル/リットル程度であるのが更に好ましい。チタンイオン及びニッケルイオンをめっき液中に安定に存在させるための錯化剤、安定剤としては、例えば、エチレンジアミン、クエン酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸等のカルボン酸や、そのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の誘導体が挙げられ、これらを単独もしくは2種以上を併用してもよい。更に、ニッケルイオンを安定化する安定剤を添加してもよく、鉛等の金属イオン(例えばPb、Sn、As、Tl、Mo、In、Ga、Cu等)、KIO3等のヨウ化物、あるいはチオ尿素、チオジグリコール等の硫黄含有化合物の1種又は2種以上組み合わせが挙げられる。
又、これら錯化剤及び安定剤の濃度は、めっき液中に含有させるチタンイオン及びニッケルイオンの濃度に応じ、適宜設定すればよいが、通常は0.001〜2モル/リットル程度、特に0.01〜1モル/リットル程度であるのが好ましい。又、めっき液中には、そのpHを前述した好適な範囲に調整するため、ホウ酸等のpH緩衝剤を添加してもよく、その濃度は、0.001〜0.2モル/リットル程度であるのが好ましい。0.001モル/リットル未満では液のpHを安定化させる効果が充分ではなく、逆に、0.2モル/リットルより多い場合は、液温が室温以下に低下した際にpH緩衝剤が析出して、液の再生、活性化が困難となることがある。
【0023】
3価のチタンイオンを還元剤とする純ニッケルめっきは、通常の無電解めっき法と同様に行えばよい。即ち、めっき液を前述の範囲内で、一定温度、一定pHに維持しつつ、適当な前処理を行った被めっき物である水素吸蔵合金をめっき液に投入、攪拌すると、当該被めっき物の表面にニッケルイオンが還元、析出してめっき被覆膜が得られる。
【0024】
本発明における、3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっきの場合、ニッケルイオンの還元に費やされた3価のチタンイオンは4価のチタンイオンになる。この反応は電子が一つ奪われるだけという単純なメカニズムのため、反応の可逆性が非常に高い。つまり、ニッケルイオンの還元に費やされて酸化された4価のチタンイオンを逆に、電気化学的に還元し、3価のチタンイオンに戻すことが非常に容易な系である。そのような観点で、ニッケルめっきの進行に伴い増加する4価チタンイオンを含むめっき液を、めっき槽とは別に設けた電解槽に移し、そこで電気分解で還元することにより、3価のチタンイオンに戻すプロセスを行うことが好ましい。このようなプロセスにより、還元剤の再生利用、即ち、めっき液の活性化が可能となり一度めっき液を建浴すれば、理論上、還元剤を追加投入する必要がなくなる。めっき液の廃棄については、最近、環境問題の点から非常に問題になっており、環境に優しいめっき液の開発やめっき液の再生システムの開発が重要になっている。このめっき液の活性化のプロセスを用いることで、使用後のめっき液廃液を大幅に減らすことが可能となる。又、このめっき液の活性化はめっき工程の任意の時点で行うことができるが、例えば、めっき工程と並行して行うことにより、めっき液を長期間にわたって連続使用することができ、作業性という点でも非常に効果があるプロセスといえる。
【0025】
該被覆粒子表面に形成されたニッケル被覆膜の重量割合、即ち、被覆水素吸蔵合金粒子1g当たりのニッケル被覆膜の析出量は、当該被覆水素吸蔵合金粒子を希硝酸に溶解し、そのニッケル量を原子吸光分析法にて定量することによってニッケル換算値として算出した。なお、測定装置としては「偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−5710」(日立ハイテクノロジーズ(株)製)を用いた。又、該被覆水素吸蔵合金粒子表面のめっき状態は、「電界放射型走査電子顕微鏡S−800」(日立製作所(株)製)を用いて観察した。
本発明による表面処理方法によれば、被覆量は水素吸蔵合金粉末1gあたり0.005g〜0.02gであるのが好ましい。被覆量が0.005g未満では十分な効果が得られず、0.02gを超えると水素透過が阻害され、電気化学的特性が損なわれる。又、合金表面が均一に被覆されている必要はなく、被覆されている部分と被覆されていない部分があっても良い。
本発明では、表面処理した合金を酸に溶解させ、原子吸光分光法を用いることにより被覆量を正確に定量できることを見出し、工程の管理方法とした。この方法を用いてめっき処理条件を調整することで、めっき被覆状態、電池性能を管理することができる。
【0026】
次に、本発明に係るニッケル−水素二次電池用負極について説明する。当該負極は、本発明に係る被覆水素吸蔵合金粒子を活物質に用いたものであり、各種公知の手段により作製することができる。具体的には、該被覆水素吸蔵合金粒子と公知のバインダーとを混合してペースト状にしたものを、例えば発泡ニッケル基板といった三次元多孔基板やパンチングメタル基板等の二次元基板等に塗布し、乾燥した後に加圧成型することにより得ることができる。バインダーとしては特に限定されるものではなく、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフッ化エチレン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独あるいは二種以上併用して用いることができる。又、バインダーは被覆水素吸蔵合金粒子に対して0.1〜20重量%程度(固形分)用いればよい。又、負極にはNi、Co、Cu粉、アセチレンブラック、カーボンブラック、酸化イットリウム等の導電助剤を、該被覆水素吸蔵合金粒子に対して0.1〜10重量%用いてもよい。
【0027】
最後に、本発明に係るニッケル−水素二次電池を説明する。当該電池は、前記負極と、例えば焼結式水酸化ニッケル極といった公知の正極と、ポリプロピレン製やアクリル製の不織布のような公知セパレータと、公知のアルカリ電解液と、公知の収納容器とを用いて、電池に組み立てたものである。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を更に詳述するが、本発明はこれによって何等制限を受けるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものとする。又、以下の本文中、「%」は特に説明がない場合は「重量%」を、「部」は「重量部」を示す。
【0029】
実施例1
水素吸蔵合金粉末としては、ニッケル−水素二次電池用として一般的に流通しているAB5型のもの(平均粒子径35μm)を用いた。
水素吸蔵合金を、純ニッケルめっきに先立ち、予め定法に従って、表面調整、触媒化、アクセレータ処理を行った。即ち、まず、20gの水素吸蔵合金を表面調整剤 (大和化成、ダインクリーナー PB-810) 1Lに投入し、60℃、3分間攪拌処理した。次に、一般的な無電解めっき用パラジウム−スズコロイド触媒液 1Lに投入し、25℃、3分間攪拌処理した。更に、アクセレータ液(2%硫酸)1Lに投入し、25℃、3分間攪拌処理した。以上のようなめっき前処理工程を経た後、3価のチタンイオンを還元剤とする無電解純ニッケルめっき液 (大和化成、ダインニッケルSD)1Lを50℃、pH8.5に調整し、そこに前記前処理を行った水素吸蔵合金粉末を投入し、攪拌しながら90分間めっきを行った。めっき終了後、水洗、真空乾燥させ、純ニッケル被覆サンプルを作製した。なお、めっき期間中、イオン交換膜で仕切った陰極室にめっき液を連続的に流入させ、3価のチタンイオンの電解再生を行いながらめっきを行った。
無電解純ニッケルめっき処理した水素吸蔵合金表面へのニッケル被覆膜の析出量は、めっき前後の水素吸蔵合金粉末を所定量秤量し、これを希硫酸に完全に溶解させ、含有されたニッケル量を原子吸光法により測定、定量することにより算出した。
実施例1で得られた、無電解純ニッケルめっき処理水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)を図1に示す。
【0030】
実施例2
無電解純ニッケルめっきにおけるめっき時間を60分間にした以外は、実施例1と同様に処理を行い、純ニッケル被覆サンプルを作製した。
実施例2で得られた、無電解純ニッケルめっき処理した水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)を図2に示す。
【0031】
比較例1
無電解純ニッケルめっきにおけるめっき時間を300分間にした以外は、実施例1と同様に処理を行い、純ニッケル被覆サンプルを作製した。
比較例1で得られた、無電解純ニッケルめっき処理した水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)を図3に示す。
【0032】
比較例2
又、比較のために、めっき処理を行っていない水素吸蔵合金粉末を準備した。この水素吸蔵合金粒子の表面のSEM像(50,000倍)を図4に示す。
【0033】
電極の作製
前記無電解純ニッケルめっき処理(実施例1、実施例2及び比較例1)を施した水素吸蔵合金粉末を所定量秤量し、2%ポリビニルアルコール水溶液と混合して、水素吸蔵合金98部と、ポリビニルアルコール固形分2部とからなるペーストを調製した。これを発泡ニッケル基板(ニッケル目付け575g/m3、2×4cm)に塗布し、減圧加熱乾燥を行った。次いで、この基板をプレスし、リード線としてニッケルリボンを電気溶接することにより、水素吸蔵合金負電極を作製した。又、めっき処理を行っていない水素吸蔵合金粉末(比較例2)を用いて同様に電極を作製した。
【0034】
ニッケル−水素二次電池オープンモデルセルを組み立て
前記水素吸蔵合金負電極1枚を、正極として焼結式水酸化ニッケル極2枚と、セパレータとしてアクリル系不織布をそれぞれの電極間に介して挟み込んだ。
更にこれら3枚の電極板を、2枚のアクリル板で挟み込み、ボルトで固定することによって、負極規制のニッケル−水素二次電池モデルセルを組み立てた。作製したモデルセルを用い、電解液として6M水酸化カリウム水溶液を使用して、ニッケル−水素二次電池オープンモデルセルを組み立てた。
【0035】
定電流充放電試験
このオープンモデルセルに定電流充放電試験装置を接続し、電流密度200mA/gで2時間充電し、10分間休止後、200mA/gで正負極間電位差が0.9Vになるまで放電し、放電終了後10分間休止するという充放電サイクル試験を実施した。この充放電サイクル試験は20サイクル繰り返して行い、20サイクル目の放電容量を以って、その水素吸蔵合金の放電容量とみなした。なお、この充放電サイクル試験は、恒温器中30℃条件下で実施した。得られた結果を表1に示す。
【0036】
高率放電特性試験
前記充放電サイクル試験終了後、引き続き高率放電特性試験を実施した。
即ち、200mA/gで2時間充電し、10分間休止後、1回目の放電として1000mA/gで正負極間電位差が0.9Vになるまで放電した。次いで、10分間休止後、2回目の放電として40mA/gで正負極間電位差が0.9Vになるまで放電した。高率放電特性は、1回目の放電容量をC1、2回目の放電容量をC2とし、次式によって算出した。
高率放電特性(%)=C1/(C1+C2)×100
得られた結果を表1に示す。又、実施例1と比較例2につき、電流密度200mA/g及び1000mA/gで放電した際の放電曲線を、図5に示す。
【0037】
耐久性の評価
次いで、前記ニッケル−水素二次電池オープンモデルセルを、45℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿器内に設置し、電流密度200mA/gで2時間充電し、10分間休止後、200mA/gで正負極間電位差が0.9Vになるまで放電し、放電終了後10分間休止するという充放電サイクル寿命試験を実施した。この試験は200サイクル繰り返して行い、200サイクル後の放電容量を測定し、充放電容量の保持率を比較することにより耐久性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より、無電解純ニッケルめっき処理を施した実施例1では、めっき処理をしていない水素吸蔵合金と比べて放電容量が大きく向上し、又、高率放電特性も向上していることがわかる。又、被覆量を減らした実施例2では、放電容量及び45℃200サイクル後容量保持率が実施例1よりやや低下しているものの、高率放電特性は向上していることがわかる。析出量を増やした比較例1では、45℃200サイクル後容量保持率は向上しているが、放電容量と高率放電特性は低下していることがわかる。このことから、めっき被膜の被覆量を制御することにより、電池性能と耐久性を両立した表面処理が可能であることがわかり、本発明の効果が実証されたといえる。
図5の放電曲線を比較すると、無電解純ニッケルめっき処理を施した実施例1を用いて作製した電池は、めっき処理をしていない水素吸蔵合金を用いて作製した電池と比べて放電時の電圧が高い。特に、1000mA/gの高率放電時には、その効果が顕著に現れている。このことは、大電流を必要とするパワー用途においても、高い電圧を維持しながら効率よく電流を採ることが可能であることを意味しており、本発明の効果が現れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によって作製したニッケル−水素二次電池は、高い放電容量及び良好な高率放電特性を有し、大電流を必要とするパワー用途、特に1000mA/gレベルの高率放電時にその効果が顕著であることから、ニッケル−水素二次電池の通常の用途はもとより、電動工具やコードレス式掃除機等、パワーを必要とし、かつ耐久性も求められるような用途にも用いることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1で得られた、無電解純ニッケルめっき処理水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)である。
【図2】実施例2で得られた、無電解純ニッケルめっき処理水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)。
【図3】比較例1で得られた、無電解純ニッケルめっき処理水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)である。
【図4】めっき処理を行っていない水素吸蔵合金表面のSEM像(50,000倍)である。
【図5】実施例1及び比較例2における放電曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金粒子の表面に耐久性ニッケル被覆膜を形成することからなり、しかもその被覆量を特定範囲内に制御することを特徴とする、水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項2】
前記耐久性ニッケル被覆膜を無電解ニッケルめっき法によって形成することを特徴とする、請求項1記載の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項3】
前記無電解ニッケルめっき法がリン及びホウ素を含まない無電解ニッケルめっきであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項4】
前記無電解ニッケルめっき法が3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっき法であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項5】
前記3価のチタンイオンを還元剤とする無電解ニッケルめっき法がめっき浴の電解還元再生を併用するめっき法である、請求項1〜4のいずれかに記載の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項6】
形成される耐久性ニッケル被覆膜が、水素吸蔵合金粉末1gあたりニッケル換算で0.005g〜0.02g形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵合金粒子の表面処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理方法が施されてなる水素吸蔵合金粒子。
【請求項8】
請求項7に記載の水素吸蔵合金粒子を用いてなる二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載の水素吸蔵合金粒子を用いてなるニッケル−水素二次電池。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−286345(P2006−286345A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103386(P2005−103386)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593002540)株式会社大和化成研究所 (29)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】