説明

水素吸蔵材料およびそのような材料を調製する方法

本発明は、水素と反応して水素化物を形成することができる金属間化合物を含む水素吸蔵材料に関する。また本発明は、そのような水素吸蔵材料を含む、電気化学的に活性な材料に関する。また本発明は、正極と負極を有する電気化学セルであって、前記負極が、本発明による水素吸蔵材料を含む電気化学セルに関する。また本発明は、本発明による少なくとも一つの電気化学セルによって給電される電子機器に関する。さらに、本発明は、本発明による水素吸蔵材料を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と反応して水素化物を形成することができる金属間化合物を含む水素吸蔵材料に関する。また本発明は、そのような水素吸蔵材料を含む、電気化学的に活性な材料に関する。また本発明は、正極と負極を有する電気化学セルであって、前記負極が、本発明による水素吸蔵材料を含む電気化学セルに関する。また本発明は、本発明による少なくとも一つの電気化学セルによって給電される電子機器に関する。さらに、本発明は、本発明による水素吸蔵材料を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素駆動経済は、将来の化石燃料の枯渇に対する実行可能な対策になり得ると期待されているが、多量の水素の効率的な貯蔵のためには、技術開発が必要である。しかしながら、水素を貯蔵するための最適な方法については、未だ大きな論争の的となっている。現時点では、水素は、いくつかの異なる方法で貯蔵することができ、液体状態での圧縮ガスとして、侵入型のまたは化学的な金属水素化物(MH)として、および高多孔質材料への物理吸着によって、貯蔵することができる。金属水素化物化合物を利用することの大きな利点は、液体水素および物理吸着のような低温貯蔵技術に比べて、この方法では、中間域の温度で、水素を貯蔵し、放出することができることである。また多くの水素化物は、圧縮水素ガスとは異なり、大がかりな安全予防措置を講じずに取り扱うことができるため、安全な貯蔵方法で提供することができる。この点を考慮すると、特に、ハイブリッド電気自動車(HEV)のような移動用途を想定した場合、金属水素化物は、圧縮または液体水素に代わる重要な代替貯蔵法になる可能性がある。また水素化物形成材料は、他の用途にも適用することができることは明らかである。形態用電子機器の使用は、過去10年間で著しく増大しており、改良型の高エネルギー密度の再充電式バッテリに向けての研究が、必要不可欠となっている。現在、携帯電話、ラップトップ、シェーバ、動力工具等のような小型の電子機器は、Liイオンまたはニッケル金属ハイブリッド(NiMH)バッテリのいずれかによって給電されている。現在、携帯機器のエネルギー消費は、着実に増加しており、重量の増加を生じさせずに、多量のエネルギーを貯蔵することが可能な、将来型NiMHバッテリが必要となっている。金属合金の多くのグループは、水素と可逆的に反応することができ、金属水素化物を形成する。しかしながら、これらのうち水素吸蔵に適したものは、僅かしかない。合金は、中間的な圧力および温度域で、容易に水素と反応して、水素を放出する必要があるとともに、多サイクルにわたって安定で、その反応性および収容力を維持できる必要がある。水素吸蔵材料として機能するように適合される既知のグループは、化学式AB5で表される。ここでAおよびBは、金属元素である。AB5型の水素吸蔵合金の例は、MmNi3.5Co0.7Al0.7Mn0.1、MmNi3.6Co0.7Mn0.4Al0.3、SrTiO3-LaNi3.76Al1.24Hn、La0.8Ce0.2Ni4.25Co0.5Sn0.25、MmNi3.6Co0.7Al0.6Mn0.1、およびLaNi5である。AB5型合金を用いた金属水素化物(MH)電極の容量は、現在のところ約300mAh/gであり、材料容量を高めるための改良の繰り返しによって、既に、合金の固有容量として極めて高い利用域に達していると認識されており、限界に近づきつつある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、水素吸蔵能を高めた改良型の水素吸蔵材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題は、本発明の水素吸蔵材料であって、金属間化合物は、スカンジウム、バナジウム、チタニウムおよびクロムの群から選定された少なくとも一つの金属Xと、マグネシウムとの少なくとも一つの合金を有することを特徴とする水素吸蔵材料を提供することにより、得ることができる。Xをスカンジウム、バナジウム、チタンおよび/またはクロムとしたとき、化学式がMgXで表される(準安定な)金属合金を用いた場合、比較的耐久性があり、信頼性があり、安定な方法で、相当量の水素さらには単位重量当たりのエネルギーを可逆的に貯蔵するように適合された、有意な改良型水素吸蔵材料が提供され、この場合、(検知できるほどの)材料重量の増大を生じさせることもないことが認められている。本発明による水素吸蔵材料は、比較的高いエネルギー密度を示し、すなわち、約1200乃至1800mAh/gの比較的高水素吸蔵能を示し、これは、一般に、従来のAB5型水素吸蔵合金の最大6倍に相当する。スカンジウム、バナジウム、チタンおよびクロムは、同等の重量の元素である。マグネシウムとスカンジウムの合金(MgSc)の場合、優れた水素輸送特性は、この合金のfcc構造(ホタル石構造)によるものであることが見出されている。ほとんどの場合、MgSc水素化物のfcc構造が好ましいのは、たとえスカンジウムが部分的にマグネシウムで置換されても、ScH2のfcc構造が残存することに由来している。このスカンジウム系合金は、比較的多くの水素を可逆的に保管することができるものの、スカンジウムは、比較的高コストであるという大きな問題がある。従って、スカンジウムの少なくとも一部を、より安価な(コストが約1/10倍の)バナジウム、チタンおよび/またはクロムのような元素で置換することが好ましい。
【0005】
有意な実施例では、合金は、50乃至99at%のマグネシウムおよび1乃至50at%の金属Xを含み、70乃至90at%のマグネシウムおよび10乃至30at%の金属Xを含むことが好ましく、75乃至85at%のマグネシウムおよび15乃至25at%の金属Xを含むことがより好ましい。合金中の別の成分の特定の量は、水素吸着速度と水素貯蔵容量が相互にバランスするように定められる。本発明による水素吸蔵材料の基本元素としてのマグネシウムは、比較的高貯蔵能を示し、この材料の充電および放電の速度は、金属Xの添加によって改善することができる。Mg0.8X0.2を含む合金は、水素吸蔵能と速度の間で、極めて良好なバランスを示すことが認められている。この化学式の合金の重量貯蔵能は、Mg0.8Sc0.2の場合、1790mAh/gであり、Mg0.8Ti0.2の場合、1750mAh/gであり、Mg0.8V0.2の場合、1625mAh/gであり、Mg0.8Cr0.2の場合、1270mAh/gであり、それぞれ、6.67、6.53、6.06、および4.74wt%のHに相当する。
【0006】
本発明による水素吸蔵材料の一部を構成する金属間化合物は、マグネシウムと金属Xの二元系合金に限定されないことは明らかである。金属間化合物は、スカンジウム、バナジウム、チタンおよびクロムの群から選定された少なくとも2または3以上の金属と、マグネシウムとを含む合金を有することが有意である。このため、合金は、例えば、一般式Mg(1-(a+b))X(1)aX(2)bで表されても良い。ここで、X(1)、X(2)は、スカンジウム、バナジウム、チタンおよびクロムからなる群から選定された異なる金属で構成される。実質的に他の種類の元素を金属間化合物の構造に組み込んでも良い。
【0007】
さらに、水素吸蔵材料は、特に、合金および金属水素化物の安定性を改善する、少なくとも一つの添加物を含むことが好ましい。合金およびこの合金をベースとする金属水素化物の熱力学的特性を改善するため、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、およびノベリウムのような元素を添加しても良い。特に好適な実施例では、本発明による水素吸蔵材料は、ある量の触媒活性材料を含む。そのような触媒活性材料は、水素吸蔵材料の水素の取り込み速度を高める。触媒活性材料は、パラジウム、白金、コバルト、ニッケル、ロジウム、もしくはイリジウムからなる群から選定された少なくとも一つの金属、および/または化学式DE3の組成物を含むことが有意である。ここで、Dは、モリブデンおよびウォルフラムからなる群から選定された少なくとも一つの元素であり、Eは、ニッケルおよびコバルトからなる群から選定された少なくとも一つの元素である。触媒活性材料は、パラジウム、白金またはロジウムを含むことが好ましい。例えば、合金への僅か0.6at%のパラジウムの添加により、水素の取り込み速度が数桁増大することが認められている。パラジウムの1.2at%の添加により、さらに水素の取り込み速度が向上する結果が得られる。好適実施例では、合金MgXは、単相である。また、合金MgXは、実質的に(多)結晶質構造を有し、結晶合金中での水素の拡散が助長されることが好ましく、これにより、改良された水素インターカレーション過程が得られる。合金は、実質的に均一な層を構成することが好ましく、これにより、いわゆる「薄膜」が形成される。(実質的に)均一な層では、この層内に、実質的にポアまたはキャビティは含まれず、これにより、例えば、電子機器のハウジングと統合され得る、電気化学セル(バッテリー)への適用に適したMgX合金を製作することができる。この実質的に均一な層は、湾曲した平面形状であっても良いことに留意する必要がある。別の好適実施例では、合金は、実質的に粒子によって構成される。粒子の寸法および形状は、任意である。しかしながら、粒子は、相互にバルクを構成する、ナノ粒子またはミクロ粒子であることが好ましく、特に粉末が好ましい。粒子は、相互に溶融することも可能であるが、好ましくは、前記粒子は、個々の別個の粒子によって形成されることが好ましい。前記粒子は、相互にポアまたはキャビティを取り囲み、NiMHバッテリのような(非統合式)電気化学的装置内の設置に適した粉末が形成される。
【0008】
また本発明は、電気化学的に活性な材料に関し、当該材料は、本発明による水素吸蔵材料を含む。電気化学的に活性な材料は、比較的多量の水素の一時的な保管に適用され、例えば燃料電池車両のような(非)移動用途への適用の際に、大がかりな安全予防措置が不要となる。
【0009】
また本発明は、正極および負極を有する電気化学的セルであって、前記負極は、本発明による水素吸蔵材料を有する電気化学的セルに関する。電気化学的セルは、各種用途に使用することができる。両方の電極を分離する電解質は、良好なイオン伝導体である必要があるとともに、装置の自己放電を抑制するため、この電解質は、電子絶縁体である必要がある。電解質液体として、KOH水溶液のような電解質を使用することができる。そのような溶液は、良好なイオン伝導体であり、この中で、金属水素化物は安定である。また電解質は、ゲルまたは固体状で存在しても良い。装置の簡略化のためには、透明固体電解質を使用することが最も好ましい。これらの電解質では、シール性の問題が解消され、装置の取り扱いが容易になるからである。固体無機および有機化合物のいずれも使用することができる。良好なプロトン(H+)伝導体である無機電解質の一例は、Ta2O5・nH2O、Nb2O5・nH2O、CeO2・nH2O、Sb2O5・nH2O、Zr(HPO4)2・nH2O、およびV2O5・nH2O、H3PO4(WO3)12・29H2O、H3PO4(MoO3)12・29H2O、[Mg2Gd(OH)6]OH・2H2Oのような水和酸化物、およびKH2PO4、KH2AsO4、CeHSO4、CeHSeO4、Mg(OH)2のような無水化合物、およびMCeO3型(M=Mg、BA、Ca、Sr)の化合物であり、Ceの一部は、Yb、Gd、またはNdで置換されても良い。また、アルカリフリージルコニウムリン酸ガラスのようなガラスを使用しても良い。良好なイオン(H3O+)伝導体の一例は、HUO2PO4・4H2O、およびオキソニウムβ-アルミナである。良好なH+イオン伝導体の一例は、CaCl2/CaH2、Ba2NH、およびSrLiH3である。固体有機電解質の一例は、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-プロパン-スルホン酸)である。
【0010】
また、本発明は、本発明による少なくとも一つの電気化学的セルによって給電される電子機器に関する。前述のように、一部が水素吸蔵材料で構成された負極は、前記電子機器のハウジングに統合することができる。
【0011】
さらに、本発明は、前述の背景技術の欄で示した方法に関し、当該方法は、A)スカンジウム、バナジウム、チタンおよびクロムの群から選定された、少なくとも一つの金属Xと、マグネシウムとからなる少なくとも一つの合金を有する金属間化合物を構成するステップを有する。本発明による方法で構成される合金は、実質的に結晶質であり、単相であることが好ましい。ステップA)の間、金属間化合物は、マグネシウム原子と金属X原子との混合原子から形成されることが好ましい。この場合、合金MgXは、マグネシウムと金属Xの原子から、冶金学的な方法で構成される。従って、この形成の間、水素は不要であり、これにより、合金の調製は、比較的単純で、安価で、安全なものになる。原子混合物は、(一部が)気体、液体または固体であっても良く、これは、使用される調製技術に依存する。合金形成の間の顕著な温度上昇を避けるため、合金は、冷却手段で冷却されることが好ましい。好適実施例では、ステップA)の間、金属間化合物の形成は、該金属間化合物が上部に形成される基板を用いて行われる。前記基板は、石英、金属またはシリコンで構成されることが好ましく、この基板は、過熱状態となることを防ぐため、冷却されることが好ましい。有意な実施例では、ステップA)は、0から40℃の温度で実施され、好ましくは10℃から30℃の間で実施され、より好ましくは、ほぼ室温(約20℃)で実施される。
【0012】
本発明による方法の好適実施例では、ステップA)は、電子ビーム成膜法、溶融スプレー法、溶融回転法、スプラット冷却法、蒸気クエンチ法、ガスアトマイズ法、プラズマスプレー法、鋳造法(due casting)、ボールミル法、および水素誘起粉末形成法:の群から選定された少なくとも一つによって実施される。これらの技術は、当業者には良く知られた一般的なものである。これらの技術のほとんどは、気体または液体の原子混合物を急激に冷却して、マグネシウムと金属Xの合金を形成する方式に基づくものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による水素吸蔵材料の調製は、以降に、非限定的な一例として示されている。
(実験)
電子ビーム成膜法(ベース圧力10-7から2×10-7mbar)により、Mg0.8X0.2(X=Sc、Ti、V、Cr)薄膜を製作した。成膜の間、基板は、室温に保持した。薄膜は、公称厚さが200nmであり、石英基板(φ20mm)の上に成膜した。インハウス(in-house)処理を用いて、基板を清浄化した。Mg0.8X0.2薄膜上に、10nmの厚さのPd触媒層を成膜した。ラザフォード後方散乱分光測定法(RBS)を用いて、膜組成を評価した。これらの測定結果に基づいて、Mg0.8X0.2組成物が、膜全体に均一に形成されていることを確認した。水素吸蔵容量に関する計算は、RBS測定結果のみに基づいて行った。Mg0.8X0.2化合物の水素吸蔵容量の最大偏差は、3%以内であり、Pdキャップ層についての較正は、行っていない。X線回折法(XRD)を用いて、新たに調製したサンプルの結晶学的相を同定した。
【0014】
詳細は他に示すが、3電極構成装置を用いて、電気化学的に薄膜の特徴を特定した。測定装置は、25℃に保持し、6MのKOH電解質で充填した。薄膜電極の電位は、6MのKOH溶液を満たしたHg/HgO参照電極(コスロー(Koslow Scientific)社)に対して測定した。薄膜電極の表面の位置ずれを防ぐため、特別な注意を払った。この位置ずれは、電気化学的応答に大きな影響を及ぼすからである。
【0015】
オートラボ(Autolab PGSTAT30)(エコケミー(EcochemieB. V.)社、オランダ、ユトレヒト)を用いて、定電流測定および定電流遮断滴定(GITT)を実施した。特に記載のない限り、定電流測定の全期間を通して、印加したカットオフ電圧は、0V(対Hg/HgO参照電極)に設定した。なお全ての電位値は、Hg/HgO参照電極(6MKOH)で示されている。
【0016】
MgX薄膜の水素化は、水溶液電解質中での電気化学的な手段により行った。膜を腐食および水素の加速的吸着から保護するため、10nmのPdトップコートで、膜を被覆した。この実験では、薄膜を使用した。これは、これらの膜は、2Dのモデルシステムとして利用することができ、材料の速度論、熱力学、および水素の輸送現象について、正確な判断が可能となるためである。
【0017】
薄膜の電気化学的な水素化/脱水素化は、2段階ステップの機構によって表される。第1のステップは、Pd/KOH界面での電荷移動反応であり、以下の式で表される:
【0018】
【数1】

一度吸着水素原子(Had)が電極表面に形成されると、これらは、
【0019】
【数2】

の反応により、Pdトップコートによって吸収され、その後下側のMHによって吸収される(Habs)。
【0020】
反応式1に示すように、各水素原子が水素化物形成化合物に組み込まれ、あるいはこの化合物から放出される際に、一つの電子が移動するため、クーロン計を用いて、水素量を測定することができる。従って、電気化学的な水素充填法を用いることにより、MgX薄膜電極中の水素量を正確に制御することができる。
【0021】
図1には、電子ビーム成膜法により新規に調製した、Mg0.8X0.2薄膜のXRDスペクトルを示す(曲線(a)Mg0.8Sc0.2;曲線(b)Mg0.8Ti0.2;曲線(c)Mg0.8V0.2;曲線(d)Mg0.8Cr0.2;)。4種類の全ての薄膜において、薄膜であることを特徴付ける、強い好適な配向が認められた。強い反射は、hcpMgの[002]配向に属する。Sc、Ti、VまたはCrのホスト原子がMg構造に取り込まれるため、4種類の全ての化合物において、このピークは、純粋なMg(2θは34.5゜)に対してシフトした。Mg0.8Ti0.2薄膜(図1の曲線(b))を例にすると、メインピークは、より高角度側にシフトしていることが認められる。このシフトは、Mgよりも小さなモル体積であるTiの部分置換によって、格子の縮小およびピークのシフトが生じたことによりもたらされたものである。
【0022】
純粋なScもしくはTiのhcp構造、またはVもしくはCrのいずれかのbcc構造に関連する反射は、観察されておらず、Mg中にSc、Ti、VまたはCrの単相の固溶体が形成されていることが予想される。Mg0.8X0.2層の応答に加えて、Pdトップコートに関連する反射が観測されている。Pdの配向は、下地のMg0.8X0.2層の配向の度合いに強く依存するものと思われる。Mg0.8Ti0.2薄膜の場合の強い反射は、[111]配向のfcc構造Pdの存在によるものである。Mg0.8Sc0.2、Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2の場合も、Pdトップコートは、[111]配向に配向されているが、反射はより弱く、従ってXRDデータで識別することは難しい。RBS測定(ここでは示されていない)では、全てのPdが別個の層として、Mg0.8X0.2層の上部に存在しており、Mg構造内に溶解していないことを示していることに留意する必要がある。
【0023】
定電流水素組み込み(充電)および水素放出(放電)の間の、Mg0.8X0.2薄膜の電気化学的応答を比較した。図2乃至図5には、4種類の化合物の各々について、充電、放電および深放電曲線が示されている。使用電流は、それぞれ、−0.6mA、+0.12mA,および+0.012mAであった。これらの実験では、層は、最初に完全に水素化され(曲線(a))、開回路条件下で平衡に至ることに留意する必要がある。次に、カットオフ電圧に至るまで、層が放電され(曲線(b))、その後、電極が1時間で平衡化される。その後、深放電が実施される(曲線(c))。最後に電極は、再度充電され、完全に充填された状態となる(曲線(d))。
【0024】
Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物の最初の充電に着目すると、曲線全体が2つの傾斜平坦部(プラトー部)(図2、3の曲線(a)参照)で構成されることがわかる。各層に含まれる材料の総量に基づけば、第1の平坦部は、おおまかに、それぞれ、ScおよびTiのScH2およびTiH2への水素化に対応する。同様に、第2の平坦部は、MgからMg H2への水素化で説明することができる。Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2化合物の最初の充電は、より複雑な応答を示し、特に、充電の初期段階の間(図4および5の曲線(a)参照)、複雑な応答を示す。特に、水素のインターカレーションに関連する主要平坦部は、MgScおよびMgTi化合物(-0.8V乃至-1.1V)に比べて、より平坦であり、より卑な電位(-1.00V乃至-1.15V)で出現していることがわかる。
【0025】
全てのMg0.8X0.2化合物の放電曲線(図2乃至5の曲線(b)に示されている)から、膜が水素リッチな状態にある場合、傾斜応答を示すことがわかる。この応答は、固溶体挙動に関係し、明らかに金属Xに依存する。また、Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物の場合、約-0.72Vに、極めて平坦な平坦部が認められ、これは、2つの相が共存していることを示している(図2および3の曲線(b)参照)。しかしながら、Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2化合物は、同じ電流を用いても、これを効率的に放電することはできず、平坦部は、観測されない(図4および5の曲線(b)参照)。後続の深放電処理によって、4種類の全ての化合物は、完全に放電される。Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物の場合、水素の大部分が既に高電流で放出されており、水素欠乏状態での効果的な第2の固溶体挙動が認められるに過ぎない(図2および3の曲線(c))。深放電処理の間、使用される低い電流によって、Mg0.8V0.2およびMg0.8Ti0.2化合物からの残りの水素の放出が可能になる(図4および5の曲線(c))。ここでは、これらの材料の場合も、Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物の場合と同様、電位応答は、2相の共存状態を示している。Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2材料の容量速度は、Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物よりも実質的に低いことは明らかである。
【0026】
本願で使用した4種類の化合物の水素吸蔵容量は、第1の放電と、第1の深放電とでの、測定された放電容量(図2乃至5の曲線(b)および(c)参照)を加えることにより算定される。得られた結果は、表1に示されており、この表には、[mAh/g]と[wt%H]の両方での定電流貯蔵容量が記載されている。
【0027】
【表1】

測定されたMg0.8X0.2化合物の水素吸蔵容量は、しばしば、商業的に使用されているAB5型の材料の6倍に近い。
【0028】
第1および第2の時間における薄膜の充電の際に測定された応答を比較すると、他の興味深い事実が認められる(図2乃至5の曲線(a)および(d)参照)。第2の時間の際に、材料中に貯蔵される電荷(水素)の量は、第1の時間の間のものよりも少ないことがわかる。これは、第1の充電ステップの間、被貯蔵水素の一部が不可逆的に組み込まれ、使用実験条件下では、これを放出することができなくなることを示している。Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2化合物が充電される第2の時間に対応する曲線には、単一の大きな平坦部のみが認められ、これは、水素が、初期にScおよびTiに不可逆的に結合されることを示唆しているものと予想される(図2および3の曲線(a)、(d)参照)。この予想は、従来技術で知られているように、ScH2およびTi H2の生成熱は、それぞれ、-100kJ/mol Hおよび-70kJ/mol Hであると報告されていることからも妥当である。Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2膜が充電される第2の時間に対応する曲線は、同様の傾向で、より少ない水素が組み込まれることを示している(図4および5の曲線(a)、(b))。しかしながら、化合物が充電される第1および第2の時間の間の最も顕著な差異は、過電圧(η)の顕著な低下である。ηは、
【0029】
【数3】

で表され、ここで、IRは、オーム低下(無視できると仮定する)であり、ηkinは、速度過電圧であり、ηdifは、拡散過電圧である。インピーダンス測定(本願では、示されていない)では、過電圧の低下がηkinの減少によるものであることが示されており、このηkinの減少は、表面速度の向上によってもたらされる。これらの速度は、電荷移動(反応式1)が生じる界面の性質に直接関連するため、この変化は、Pd/KOH界面で生じていると結論づけることができる。
【0030】
Mg0.8X0.2化合物の等温線を、GITT測定により電気化学的に定めた。最初に薄膜を、完全に水素化された状態になるまで、-0.6mAの電流を用いて定電流で充電した。その後、電極を1時間、平衡化させた。その後、GITTによって、第1の15パルスの間は、+0.12mAの電流を用い、最後の数パルスの間は、+0.012mAの電流を用いて、Mg0.8Sc0.2およびMg0.8Ti0.2電極を放電した。ただし、Mg0.8V0.2およびMg0.8Cr0.2薄膜は、+0.012mAの電流のみを用いて放電した。各電流パルスの後、全ての電極を、1時間平衡化した。図6には、得られた平衡化曲線を、各電流パルスの間のMg0.8Sc0.2化合物の電位応答とともに示す。ηは、放電過程の全体にわたって、ほぼ一定に維持されており、放電過程の最後の当たりで、僅かに増加するだけであることは明らかである。この挙動から、薄膜は、水素欠乏状態に到達しているものと予想される。電極が完全に放電された後、前述の手順を反転させ、GITTを用いて、電極を完全に水素化された状態となるまで充電した。使用電流が、それぞれ、-0.12mAおよび-0.012mAであることを除き、同じパラメータを適用した。
【0031】
全てのMg0.8X0.2化合物の平衡放電曲線は、図7に示されている。前述の定電流応答で予測したように(図2乃至5参照)、等温線は、全てのMg0.8X0.2化合物において、同様の挙動を示している。初期の固溶体による約400mAh/gまでの放電容量が、MgX中のXに依存することは、明らかである。Mg0.8Sc0.2およびMg0.8V0.2化合物の場合、この固溶体は、最も卑な平衡電位を有し、これは、平衡電位(Eeq)と生成熱(ΔHf)の間の関係を用いることにより、理解することができる。ΔHfは、水素分圧(PH2)と直接関係し、
【0032】
【数4】

ここでRは、ガス定数であり、Tは、温度であり、
【0033】
【数5】

は、素ガスの標準モルエントロピーである(130.8J/K mol H2)。また、PH2は、Eeqとして表すことができ、
【0034】
【数6】

であり、ここで、Fは、ファラデー定数であり、Prefは、1barの参照圧力である。式4と式5とを組み合わせると、
【0035】
【数7】

のより卑な値が、ΔHfのより負の値に対応することがわかる。実際、これは、ScH3のScH2への可逆変化についての既知の実験データに基づくΔHfの予想値と一致する。ここで、MgSc中のScの量を意図的に増大させると、初期の固溶体が広がることが示されている。
【0036】
VHxの場合、状況はより複雑である。VH2(γ相)は、室温で不安定であることが知られているが、低圧水素化物は、VH(αおよびβ相)までの組成を有する。これらは、約-20kJ/mol HのΔHf値を有し、この値は、Mg0.8V0.2化合物の初期固溶体の、実験的に観測された平衡圧力に相当する。
【0037】
Mg0.8Sc0.2を除く全ての化合物において、等温線の主要平坦部は、-0.75Vで生じている。Mg0.8Sc0.2の場合は、約-0.74乃至-0.72Vの幾分より貴な電位を有する。これらの平坦部に対応するΔHfは、Mg0.8X0.2(X=Ti、V、Cr)およびMg0.8Sc0.2の場合、それぞれ、-37kJ/mol Hおよび-40kJ/mol Hである(式4および式5を使用)。Mg0.8Sc0.2を除き、ΔHfが、MgX中のXに影響を受けないことは、注目すべき事実である。また、ΔHfは、MgからMg H2への変化について報告されている値とほぼ等しくなっている。
【0038】
図8には、充電の際のMg0.8X0.2化合物の平衡曲線が示されている。Mg0.8Sc0.2の充電等温線は、放電等温線と同様に(図7の曲線(a)参照)、最も貴な平衡電位を有する(図8の曲線(a))参照。徐々に傾斜する平坦部は、-0.76V乃至-0.79Vの電位値の位置にあり、これらは、それぞれ、-36kJ/mol H乃至-33kJ/mol Hに相当する。放電および充電の間の、測定平衡電位のこの差異は、ヒステリシスを示し、このヒステリシスは、薄膜およびバルクの水素吸蔵材料の両方において、しばしば観測される。このヒステリシスの起源は、充電と放電の間の格子の(一軸の)膨脹によって生じた、応力状態の差によるものである可能性がある。放電の間の(図7の曲線(b)乃至(d)参照)、実質的に重なり合う平衡平坦部とは異なり、充電の間のMg0.8X0.2化合物(X=Ti、V、Cr)の平坦部の値は、僅かに相違している(図8の曲線(b)乃至(d))。Mg0.8V0.2薄膜は、約-0.805Vの最も卑な平坦部を示し、これは-31kJ/mol Hに相当する。図7および8を比較すると、Mg0.8X0.2化合物は、放電と充電の間で同様のヒステリシスを示すことがわかり、興味深い。全ての場合において、平坦部の値の差異は、約50mVであり、あるいは式5に従えば、平坦部の圧力は、50倍となる。
【0039】
前述の実施例および実験は、本発明を限定するものではなく、当業者は、特許請求の範囲から逸脱せずに、多くの代替実施例を構成することができることに留意する必要がある。特許請求の範囲において、括弧で示されたいかなる参照符号も、請求項を限定するものと解してはならない。「有する」という用語およびその変化形は、請求項に記載された素子またはステップ以外の存在を排斥するものではない。素子の前の「一つの」という用語は、そのような素子が複数あることを否定するものではない。ある手段が複数の異なる従属項に記載されているという事実のみから、これらの手段の組み合わせ使用が有意ではないと解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】Mg0.8X0.2薄膜のXRDスペクトルである(曲線(a)Mg0.8Sc0.2、曲線(b)Mg0.8Ti0.2、曲線(c)Mg0.8V0.2、曲線(d)Mg0.8Cr0.2)。
【図2】Mg0.8Sc0.2化合物の充電、放電および深放電曲線を示す図である。
【図3】Mg0.8Ti0.2化合物の充電、放電および深放電曲線を示す図である。
【図4】Mg0.8V0.2化合物の充電、放電および深放電曲線を示す図である。
【図5】Mg0.8Cr0.2化合物の充電、放電および深放電曲線を示す図である。
【図6】GITT測定により得られたMg0.8X0.2化合物の平衡放電曲線を、各電流パルスの間のMg0.8Sc0.2化合物の電位応答とともに示した図である。
【図7】Mg0.8X0.2化合物の平衡放電曲線を示す図である。
【図8】充電の際のMg0.8X0.2化合物の平衡曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と反応して水素化物を形成することが可能な金属間化合物を含む水素吸蔵材料であって、
前記金属間化合物は、スカンジウム、バナジウム、チタニウムおよびクロムの群から選定された少なくとも一つの金属Xと、マグネシウムとの少なくとも一つの合金を有することを特徴とする水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記合金は、50乃至99原子%のマグネシウムと、1乃至50at%の金属Xとを含むことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記合金は、70乃至90原子%のマグネシウムと、10乃至30at%の金属Xとを含むことを特徴とする請求項2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記合金は、75乃至85原子%のマグネシウムと、15乃至25at%の金属Xとを含むことを特徴とする請求項3に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
前記合金は、Mg0.8X0.2を含むことを特徴とする請求項4に記載の水素吸蔵材料。
【請求項6】
前記金属間化合物は、スカンジウム、バナジウム、チタニウムおよびクロムの群から選定された少なくとも2つの金属と、マグネシウムとの合金を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項7】
さらに、少なくとも一つの添加物を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項8】
前記添加物は、触媒活性材料により形成されることを特徴とする請求項7に記載の水素吸蔵材料。
【請求項9】
前記触媒活性材料は、パラジウム、白金またはロジウムの群から選定されることを特徴とする請求項8に記載の水素吸蔵材料。
【請求項10】
前記合金は、実質的に多結晶構造を有することを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項11】
前記合金は、実質的に均一な層を形成することを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項12】
前記合金は、相互に粉末を形成する粒子によって、実質的に構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料を含む、電気化学的に活性な材料。
【請求項14】
正極および負極を有する電気化学セルであって、
前記負極は、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料を含むことを特徴とする電気化学セル。
【請求項15】
少なくとも一つの電気化学セルによって給電される電子機器であって、
前記少なくとも一つの電気化学セルは、請求項14に記載の電気化学セルであることを特徴路する電子機器。
【請求項16】
前記請求項1乃至12のいずれか一つに記載の水素吸蔵材料を調製する方法であって、
スカンジウム、バナジウム、チタニウムおよびクロムの群から選定された少なくとも一つの金属Xと、マグネシウムとの少なくとも一つの合金を有する金属間化合物を形成するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項17】
ステップA)の間、前記金属間化合物は、金属X原子とマグネシウム原子の原子混合物から形成されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップA)の間、前記金属間化合物の形成は、前記金属間化合物が上部に形成される基板を用いて行われることを特徴とする請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
ステップA)は、0から40℃の温度で実施されることを特徴とする請求項16乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
ステップA)は、電子ビーム成膜法、溶融スプレー法、溶融回転法、スプラット冷却法、蒸気クエンチ法、ガスアトマイズ法、プラズマスプレー法、鋳造法(due casting)、ボールミル法、水素誘起粉末形成法の群から選定された、少なくとも一つの技術を用いて実施されることを特徴とする請求項16乃至19のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−538798(P2008−538798A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508361(P2008−508361)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/IB2006/051215
【国際公開番号】WO2006/114728
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】