説明

水素感応性複合材料、水素ガスセンサ、並びに改善された基準抵抗で水素および他のガスを検出するためのセンサ

水素に対する感度を高め、干渉ガスに対する交差感度を減少させ、またはセンサの動作温度を低下させるために、添加物を含有したまたはしていない、酸化セリウムをベースにした水素感応性複合検出材料、並びに、支持体、該支持体に付された電極、および電極表面に付された水素感応性複合材料のコーティングを含む、これらの水素感応性複合材料を組み込んだデバイス。該センサは一体型ヒータを有してもよい。該センサは、ヒータが管内に挿入された、管形状を有してもよい。ガスセンサデバイスは、支持体と、該支持体に付された電極と、基準抵抗に及ぼす望ましくない作用、例えば雰囲気温度変化によるものを排除するためのデュアルセンサ素子とを含んでよい。水素感応性複合材料または他のガス感応性材料がデュアル素子ガスセンサデバイスに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
水素燃料インフラが発展すると、燃料電池が車および家に電力を供給するために用いられて、分散型水素生産システム(すなわち、水素充填ステーション)が普及するようになるであろう。将来の我々の燃料として水素の安全な実用化は、燃料電池技術の商業的受け入れにとって重要であろう。水素安全センサは今日製造されているプロトタイプ燃料電池システムの重要な要素であり、明日の燃料電池システムの重要な要素であり続けるであろう。半導体製造、化学品製造、および石油精製を含めた産業で用いられている従来の水素センサは燃料電池アプリケーションのコストおよび機能要件を満たさず、従来のセンサは感度、一酸化炭素、炭化水素、および揮発性有機化合物のような他の混入物に対する低い交差感度、応答および回復時間、長期安定性、またはそれらの組合せに通常欠陥がある。
【0002】
燃料電池アプリケーション用の水素センサは、目標アプリケーションで許容できるコストで、重要な性能要件のすべてを満たさねばならない。化学抵抗型水素センサの場合、重要な性能要件として通常以下のものがある。
・H検出範囲:1000ppm〜1%(1%Hは水素の燃焼下限の25%である)
・H感度:(空気中)1%Hで>50%抵抗変化
・広い周辺温度範囲:−40〜200℃
・応答時間(t90):<30秒(t90はH濃度の変化に応答して抵抗の90%変化に達するまでの時間である)
・周辺湿度範囲:0〜100%RH
・交差感度:CO、CH、NH、湿度、VOC’s、または空気中に存在しうる他のガスに対してなし
・再較正の必要性なし(安定な基準抵抗および感度を要する)
・電力要件:1ワット未満、好ましくはそれ以下
・低コスト電子回路(例えば、0〜5ボルトシグナル)とインターフェースされたパッケージングおよび電子機器
【発明の概要】
【0003】
本発明の一つの目的は、水素に対して極端に感応性である材料を提供することにある。本発明の他の目的は、上記の水素感応性材料を含む水素センサデバイス、特に空気中でHに感応性であり、1000ppm〜1%Hの望ましい範囲内で定量可能な抵抗応答を呈し、COおよびCHのような干渉ガスに対して交差感度を示さず、速い応答および回復時間を示し、広い温度範囲で動作でき、長期間にわたり安定な性能を示し、低い電力要件を有し、低コストで製造しやすい水素センサデバイスを提供することにある。本発明の他の目的は、化学抵抗型ガスセンサ材料に有用な管状センサデバイスを提供することにある。該センサデバイスは、相対湿度の変動に対するセンサの感度を最小化するために、ヒータ形態を含んでもよい。該センサデバイスは、基準抵抗に及ぼす望ましくない作用、例えば雰囲気温度変化に起因するものを排除するために、新規デュアルセンサも含んでよい。
【0004】
本発明の一態様は、酸化セリウム組成物を含んでなる水素感応性複合材料である。酸化セリウム組成物は、酸化セリウム、ジルコニウムドープドセリア、ガドリニウムドープドセリア、サマリウムドープドセリア、ランタンドープドセリア、イットリウムドープドセリア、カルシウムドープドセリア、ストロンチウムドープドセリア、およびそれらの混合物から選択される。
【0005】
水素感応性複合材料は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化銅、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化バナジウム、遷移金属酸化物、遷移金属酸化物の混合物、少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する固溶体、少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する化合物、および各々が少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する少なくとも2種の化合物の混合物から選択される改質剤(modifier)も含んでよい。加えて、水素感応性複合材料は、パラジウム、ルテニウム、白金、金、ロジウム、イリジウム、およびそれらの組合せから選択される貴金属促進剤(promoter)を含んでもよい。水素感応性複合材料は改質剤および促進剤を双方とも含んでよい。請求項5に記載の水素感応性複合材料は1〜100質量%の酸化セリウム組成物、0〜99質量%の改質剤、および0〜99質量%の貴金属促進剤を含んでなる。
【0006】
本発明の他の態様は、支持体(support)と、該支持体の表面に付された電極と、該支持体の電極表面に付されたセンサコーティングとを含んでなる水素ガスセンサデバイスであり、該センサコーティングは上記の水素感応性複合材料を含んでなる。該支持体は、酸化アルミニウム、イットリア安定化ジルコニア、酸化セリウム、ガドリニウムドープドセリア、アルミン酸マグネシウム、および酸化マグネシウムから選択される材料から形成される。
【0007】
水素ガスセンサデバイスは、一体型抵抗ヒータも含んでよい。動作温度は、水素以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択される。ヒータの抵抗は、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される。支持体は微小管状支持体でもよく、抵抗ヒータは支持体の内部へ挿入されて、管端部に接合されてもよい。一方、支持体は平面状でもよく、抵抗ヒータは電極表面と反対側の支持体表面へ付されてもよい。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、支持体と、該支持体の表面に付された電極と、該電極と電気的に連通したデュアルセンサ素子とを含んでなるガスセンサデバイスである。デュアルセンサ素子は、標的ガスに比較的非感応性の非促進(promoted)複合材料を含有した第一センサと、標的ガスに感応性の促進複合材料を含有した第二センサと、第一センサ素子から得られる測定値と第二センサ素子から得られる測定値を比較し、この比較を用いてガスセンサデバイスの基準抵抗に及ぼす環境条件の有害作用を補償するための装置とを含んでなる。第一および第二センサ素子は同一支持体に置いてもよい。該支持体は微小管状支持体でもよく、抵抗ヒータは支持体内へ挿入されて、管端部に接合されてもよい。抵抗ヒータを含むガスセンサデバイスの動作温度は、標的ガス以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択される。ヒータの抵抗は、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される。デュアルセンサ素子は、ガスセンサデバイスの基準抵抗に及ぼす相対湿度以外の環境条件の有害作用を補償するように選択される。ガス感応性複合材料は、水素感応性複合材料、さらに詳しくは酸化セリウム組成物である。
【0009】
本発明のこれらのおよび別の目的が、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】平面状センサ製作および試験に用いられるインターデジタル電極(IDE)基板の概略図である。
【図2】実施例1のCeOベースセンサの水素感度のグラフであり、400℃で1%Hに反復応答を示しているグラフである。
【図3】空気中400℃で1%Hに対する実施例1のCeOベースセンサの応答のグラフである。
【図4】各々、実施例1および2のCeOおよびGDCセンサにおける、水素感度vs 温度のグラフである。
【図5】水素、一酸化炭素、およびメタンに対する実施例7のGDC(2.5%SnO)センサの抵抗応答のグラフであり、350℃でゼロの交差感度を示しているグラフである。
【図6】250℃で実施例8および15のGDC(5%SnO)センサの水素感度に及ぼす1%パラジウム添加の効果のグラフである。
【図7】250〜500℃の温度で実施例8および15のGDC(5%SnO)センサの水素感度に及ぼす1質量%パラジウム添加の効果のグラフである。
【図8】実施例19で記載されているような例示組立てプロトタイプ平面状水素センサの画像である。
【図9】実施例19の平面状プロトタイプ水素センサの水素検出性能のグラフである。
【図10】実施例19の平面状センサの長期基準抵抗ドリフトのグラフである。
【図11】実施例19の平面状センサの水素感度の長期ドリフトのグラフである。
【図12】実施例20の微小管状センサを生産するために用いられる製造ステップを示した概略図である。
【図13】実施例20のGDC(5%SnO)組成物の例示焼結多孔質セラミック微小管の画像である。
【図14】175℃における実施例20の管状センサ素子の水素感度のグラフである。
【図15】実施例20で記載されているような内部ヒータ装備の例示組立て微小管状水素センサプロトタイプの画像である。
【図16】実施例20の微小管状センサの水素検出性能のグラフである。
【図17】実施例20のプロトタイプ管状センサの定量的応答のグラフである。
【図18】実施例20の微小管状センサの応答時間に及ぼすヒータ電力(動作温度)の作用のグラフである。
【図19】実施例20の微小管状水素センサの干渉抵抗のグラフである。
【図20】実施例20の微小管状水素センサにおける、基準抵抗 vs 時間のグラフである。
【図21】実施例20の微小管状水素センサにおける、1%Hに対する感度 vs 時間のグラフである。
【図22】酸化アルミニウムおよびイットリア安定化ジルコニア微小管状基板センサの双方に関する、ヒータ抵抗の関数として0%〜100%で相対湿度の変化時におけるセンサ性能の変化のグラフである。
【図23】酸化アルミニウム微小管状基板センサに関する、0%〜100%で相対湿度の変化時における、1%Hに対するセンサ基準抵抗および感度の変化のグラフである。
【図24】0%〜100%で相対湿度の変化時における、39.7Ωおよび49.1Ωヒータ装備の酸化アルミニウム微小管状基板センサの応答特性のグラフである。
【図25】実施例20の微小管状センサを用いた、水素中酸素の定量的検出のグラフである。
【図26】1%H、200ppmCOおよび0.5%に対する比較例のセンサの標準化応答のグラフである。
【図27】実施例20の微小管状水素センサおよび比較例の市販センサにおける、回復時間のグラフである。
【図28】水素センサの基準抵抗に及ぼす周辺温度の作用のグラフである。
【図29】水素センサの基準抵抗に及ぼす促進剤の効果のグラフである。
【図30】175℃における実施例20の水素センサのゼロおよびスパンドリフトのグラフである。
【図31】本発明による他の態様の微小管状センサを生産するために用いられる製造ステップを示した概略図である。
【図32】本発明に従い、図31で示された製造ステップを用いて作製された微小管状水素センサの感度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸化セリウムをベースにした水素感応性複合材料を提供する。水素感度は、加熱基板上、または加熱基板の必要性を避けた動作条件下における、酸化セリウム厚膜の電気抵抗に関する大きな可逆的変化に基づいている。酸化セリウム組成物は、水素に対する感度を高め、干渉ガスに対する交差感度を減少させ、動作温度を低下させる添加物を含有してもよい。水素感応性複合材料は、空気中で約500ppmから1%水素までおよびそれを超える水素レベルを検出可能である。それは、水素に対して速い応答および回復時間と、一酸化炭素およびメタンのような干渉ガスに対して最小の交差感度とを示す。
【0012】
水素感応性複合材料は、酸化セリウム、ジルコニウムドープドセリア、ガドリニウムドープドセリア、サマリウムドープドセリア、ランタンドープドセリア、イットリウムドープドセリア、カルシウムドープドセリア、ストロンチウムドープドセリア、およびそれらの混合物を包含する(但しこれらに限定されない)、酸化セリウムベース組成物を含んでなる。酸化セリウムベース組成物の前駆体は、所望であれば複合材料の多孔度を増すために、離脱材料(fugitive material)を含有してもよい。ここで用いられている“酸化セリウムベース組成物”という用語は、水素の存在に対して望ましい応答を達成するために十分な量のセリアがあるという条件で、酸化セリウムベース組成物と不活性材料(例えば、酸化アルミニウム)との混合物を含む。
【0013】
水素感応性複合材料は、第二相改質剤、貴金属促進剤、またはこれらの組合せも含んでよい。改質剤は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化銅、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化バナジウム、遷移金属酸化物、遷移金属酸化物の混合物、1種以上の遷移金属酸化物を含有する固溶体、または各々が少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する1種以上の化合物を含んでもよい。促進剤は、パラジウム、ルテニウム、白金、金、ロジウム、イリジウム、または2種以上の貴金属の組合せを含んでもよい。水素を検出するために有用な組成物は広範囲の処方に及び、そのためセリア含有相の量は1〜100質量%であってよく、改質剤相の量は0〜99%であってよく、貴金属促進剤の量は0〜99質量%であってよい。
【0014】
本発明の水素感応性複合材料は、水素が存在しうるあらゆる居住または工業アプリケーションでの使用向けに、水素センサデバイス中へ組み込める。これらのセンサデバイスは、空気中で水素の危険レベルの連続エリアモニタリングを含めた、様々なアプリケーションで使用に適している。このようなモニタリングは、燃料電池スタック、改質装置、または開発試験スタンド用のハウジング内で、あるいは研究所、燃料補給ステーション、またはガレージのようなさらに開かれた場所で行われる。センサデバイスが長期モニタリングに用いられるこれらのようなアプリケーションは、制御環境下インドアで用いられるセンサであっても、温度および湿度の広い変動に遭遇しやすいことから、誤った警報を発することなく広範囲の環境条件下でセンサデバイスが動作することを要する。
【0015】
温度および湿度のような環境条件の変化に影響されないセンサを作るには、2つのアプローチが通常利用される。第一に、外部フィードバックに基づき、温度または湿度で影響されるセンサ素子からシグナルを調整するために、補償が施される。例えばセンサが組み込まれた電子機器でプログラムド・ロジックを介して、これが行われる。しかしながら、このアプローチは面倒であり、センサシグナルに及ぼす環境インパクトの較正を要し、センサ寿命に係わるドリフトに付されることがある。第二の好ましいアプローチは、環境条件の変化に影響されず、したがって補償を要しないシグナルを有した、センサ素子を提供することである。
【0016】
本発明による水素センサデバイスは、支持体と、該支持体の表面に付された電極と、電極支持体に付された水素感応性材料のセンサコーティングとを含んでなる。該センサデバイスは管状または平面形状を有してよい。
【0017】
センサデバイスは一体型抵抗ヒータを有してもよいし、あるいは、例えばセンサ材料が室温で機能するかもしくは検出されるべきガスが高温であるような、一体型ヒータの必要性を避けた条件下で用いられてもよい。このようなヒータが用いられるならば、相対湿度の変動に対する水素感応性材料の感度を最小化するヒータ抵抗が選択される。動作温度も、水素以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択されてよい。さらに、このヒータの抵抗および派生電流も、相対湿度の変動に対するセンサの望ましくない感度を最小化するように選択されてよい。当該ガス用のセンサ材料が周辺温度で適切に機能し、解析されるべきガス流が高温であり、またはセンサデバイスが管オーブンもしくは類似環境で用いられるならば、ヒータが存在しない場合であっても、センサデバイスはある他のガスも効果的に検出できる。
【0018】
支持体は、酸化アルミニウム、イットリア安定化ジルコニア、酸化セリウム、ガドリニウムドープドセリア、アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、またはセンサプリケーションにとって十分低い電気伝導率を有するあらゆる他のセラミック材料から作製されてよい。ガス検出アプリケーション、センサコーティング材料、および動作温度に応じて、他の支持体材料組成物も可能である。支持体およびセンサコーティングは、熱膨張率不一致を解消するために本質的に同様の材料から形成されてよいが、これはすべてのアプリケーションに必要なわけではない。例えば、本発明の水素センサ用の支持体は、高い機械強度および熱伝導率という利点を有する酸化アルミニウム(Al)または酸化マグネシウム(MgO)から作製されてよい。
【0019】
支持体に付される電極は、金、銀、白金、またはあらゆる適切な金属でよい。インターデジタル電極パターンが以下で記載されているが、このようなパターンは本発明の微小管状センサの良い動作にとって必須でない。センサ材料コーティングの抵抗がその動作温度範囲内で望ましい範囲にあるかぎり、いかなる電極形状でも機能する。
【0020】
水素センサデバイスの一態様は、平面状セラミック支持体と、該支持体の表面に付された電極と、電極表面に付された上記水素感応性複合材料のコーティングとを含んでよい。抵抗ヒータは支持体の反対側にプリントまたは接合してもよく、あるいは支持体自体の内部に収容してもよい。
【0021】
水素センサデバイスの他の態様は、セラミック微小管状支持体と、該支持体の外表面に付された電極と、支持体の電極外表面上に付された上記水素感応性複合材料のコーティングとを含んでよい。管状支持体は高い表面対体積比を呈する。支持体管は0.5〜5mmの外径および100〜1000ミクロンの壁厚を有してよい。抵抗ヒータが用いられる場合は、電流がヒータワイヤへ流れたときに、本質的に全部の熱が環境に失われるよりもむしろ管状センサへ加わるように、ヒータワイヤ(さらに以下で記載される)がセラミック微小管の内部へ挿入されて管端部に接合されるのであるが、その際は平面状支持体と比較して加熱電力要件を著しく下げられる。
【0022】
本発明は、環境条件の有害作用に対して改善された基準抵抗を有するガスセンサデバイスも含む。該ガスセンサデバイスは、支持体と、該支持体に付された電極と、デュアルセンサ素子とを含んでよい。デュアルセンサは、周辺温度変動のような望ましくない環境作用を排除できるように選択される、2種の異なるセンサコーティング材料を含んでいる。該センサの各々は(必要であれば別のヒータと共に)それ自体の支持体に置かれてもよいし、あるいは双方のセンサが単一の支持体に置かれてもよい。デュアルセンサ素子も上記の水素センサデバイスに含められる。
【0023】
本発明で有用な水素感応性複合センサ材料が、図1で示された従来の平面状デバイスプラットフォームを用いて、開発および検証された。平面状デバイスは、インターデジタル電極(IDE)装備のセラミック基板(酸化アルミニウム)上にセンサ材料のコーティングを被着している。センサ材料の電気抵抗率と比例した抵抗の測定を可能にするために、リードワイヤが取り付けられる。異なる温度で対象の水素または他のガスに対するセンサ材料コーティングの抵抗応答を調べるために、平面状デバイスは管炉に置かれてよい。一方、炉なしで望ましい動作温度へ基板を加熱するために、ヒータは平面状デバイスの反対面にプリントまたは接合されてよい。
【0024】
電極が管状支持体の外表面へ付され、センサ材料のコーティングが電極表面に施された。センサデバイスは、図12で示されているように、管状支持体の外表面へ電極をパターン状に適用し、次いで電極表面にセンサ材料のコーティングを施すことにより製造できる。一方、図31で示されているように、支持体の第二端部付近の部分を覆わずに支持体の第一端部付近の管状支持体の部分へ電極材料を適用し、第一端部に最も近い電極層の部分が露出したままで、電極層の残部と第二端部付近の未被覆管状支持体の部分がセンサ材料コーティングで覆われるように、電極層からずらしてセンサ材料のコーティングを施し、第一端部に最も近いセンサ材料コーティングの部分が露出したままで、センサ材料コーティングの残部と管状支持体の未被覆部分が第二電極層で覆われるように、センサ材料コーティングからずらして電極材料の第二層を施すことにより、センサを生産してもよい。この方式で製作されたデバイスで得られたデータが図32で示されている。
【0025】
制御データ収集用にコンピューターへシリアルポートを介して接続されたデジタルマルチメーターを用いてセンサデバイスが試験された。該センサ試験スタンドは、LabVIEWTMソフトウェアの組込みにより、完全自動データ収集およびプロセス制御を有していた。電気測定用にワイヤフィードスルーでリークタイト(leak-tight)石英管に収納されたプログラム可能管炉が、センサの温度を制御するために用いられた。
【0026】
第一が窒素中2%Hを含有し、第二が純粋窒素を含有し、第三が酸素および窒素の混合物を含有した3つの標準圧縮ガスシリンダーから、シミュレートガス混合物が放出された。センサチャンバー内のガス組成を制御するためにデジタルマスフローコントローラーが用いられた。
【実施例】
【0027】
下記実施例は、酸化セリウムをベースにした水素感応性材料処方の開発について記載している。
【0028】
実施例1:酸化セリウム単独ベースのHセンサ
乳鉢および乳棒を用いて2:1比の粉末対ビヒクルで14m/g表面積CeO粉末をJohnson Matthey 63/2 Mediumビヒクルと混合することにより、インキを調製した。インターデジタル電極装備の5mm×5mm酸化アルミニウム基板の表面に該インキをペイントし、次いで800℃で1時間アニールした。センサを様々な温度で前記のように試験した。最大水素感度を400℃の温度で得た。図2で示されているように、CeO単独ベースのセンサコーティング材料を付した平面状デバイスは、1%水素に対して大きな反復応答を呈する。1%Hが導入されると、デバイス抵抗は約75MΩから約18MΩへ減少し、これは約75%の感度に相当する。Hが除去されると、デバイス抵抗はその元のレベルへ戻る。図3で示されているように、水素に対するこのセンサの応答は極めて速く、1%Hが導入されてからその抵抗変化の90%に達するまで約10秒未満で済む。CeO単独ベースのセンサ材料が水素に対して非常に高い感度を示したが、おそらく低い温度では抵抗が極めて高かったことから、最大感度に達するには高い動作温度を要した。センサの動作は、このように高い温度のとき、センサ向けに比較的高いヒータ電力を要するであろう。
【0029】
実施例2:ガドリニウムドープドセリアベースのHセンサ
動作温度を下げるために、20mol%のガドリニウムをCeOの結晶構造に代え、構造中に酸素空孔を設けて、低温時のイオン伝導率を高めた。このセリアベース電解質組成物(GDC)はソリッドステートイオニクスの分野で良く知られているが、燃料電池アプリケーションに存在する水素レベルに対する組成物の感度は未知であった。GDCセンサを実施例1で記載されているように作製した。乳鉢および乳棒を用いて2:1比の粉末対ビヒクルで12m/g表面積GDC粉末をJohnson Matthey 63/2 Mediumビヒクルと混合することにより、インキを調製した。インターデジタル電極装備の5mm×5mm酸化アルミニウム基板の表面に該インキをペイントし、次いで800℃で1時間アニールした。センサを様々な温度で前記のように試験した。水素感度を広範囲の温度にわたって得た。図4のデータは、実施例1のCeOセンサの水素感度(1%Hへの暴露後における抵抗の変化率)を実施例2のGDCセンサと比較しており、GDCセンサが275℃の低い温度でも水素に対する感度を留めていることを証明している。しかしながら、水素感度の程度はCeOセンサの場合よりGDCセンサでかなり低かった。
【0030】
実施例3、4、5、および6:SnOまたはInの第二相添加したCeOベースセンサ
CeOベースセンサの水素感度に及ぼすInまたはSnOの第二相添加の効果を評価した。実施例1および2で前記された方法を用いてマルチ複合インキを調製した。高表面積SnOおよびIn粉末を2.5および5質量%レベルでCeO粉末へ加えた。これも既に記載された方法を用いて、平面状センサを製作および試験した。水素感度を異なる温度で測定し、データを表1に掲載した。
【表1】

【0031】
各センサに関する干渉抵抗または交差感度も、200ppmCOおよび0.5体積%CHに対するセンサの応答を試験することにより評価した。200ppmCOレベルを工業施設の排出レベルとみなしたことから、これを選択した。0.5体積%CHレベルがメタンの爆発下限の10%に相当することから、これを選択した。下記式を用いて水素に対する“相対感度”を調べることにより、比較を行った:
相対感度=(1%Hに対する感度)−(交差感度)
センサがCOに交差感度を有しなければ、相対感度がそのセンサに関する感度に等しい。マイナスの相対感度は、センサが水素に対するよりも干渉ガスにより感応性であることを意味している。CeOベースセンサの相対感度が表2および3に掲載されている。
【表2】

【表3】

【0032】
実施例7、8、9、および10:SnOまたはInの第二相添加したGDCベースセンサ
GDCベースセンサの水素感度に及ぼすInまたはSnOの第二相添加の効果も評価した。前記方法を用いてマルチ複合インキを調製した。高表面積SnOおよびIn粉末を2.5および5質量%レベルでGDC粉末へ加えた。これも既に記載された方法を用いて、平面状センサを製作および試験した。水素感度および相対感度を異なる温度で測定し、データを表4および5に各々掲載した。
【表4】

【表5】

【0033】
上記試験に際して、センサの動作温度がCOおよびCHに対する交差感度を排除するために用いうることがわかった。幾つかのサンプルでは、COおよびCHの双方に対する交差感度がある温度でn型応答(抵抗減少)からp型応答(抵抗増加)へ変化したことが注目された。この現象は、干渉ガスに影響されないようセンサを扱うことを可能にする。実施例7のGDC(2.5%SnO)センサは、図5で示されているように、350℃でCOまたはCHに応答を示さなかった。
【0034】
実施例11、12、13、および14:PdおよびRu促進剤含有の複合CeOセンサ
SnOまたはInの5質量%第二相添加したCeOベース複合センサ処方を、貴金属促進剤の添加で感度を最良化する目的の研究に付した。ルテニウムおよびパラジウムを各々1質量%レベルで評価した。パラジウム(II)2,4‐ペンタンジオネートおよびルテニウム(III)2,4‐ペンタンジオネートをJohnson Mattheyビヒクルに溶解し、既に記載されたものと同様の手順を用いてセンサインキを調製した。これも既に記載された方法を用いて、平面状センサを製作し、異なる温度で試験した。これらのCeOベースセンサに関する水素感度データが表6に掲載され、相対感度データが表7および8に掲載されている。パラジウム添加はCeOベースセンサで水素に対する感度を増加させた。しかしながら、パラジウム添加はCeO(5%SnO)センサでCOおよびCHに対する交差感度を増加させ、相対感度の低下に至った。パラジウムはCeO(5%In)センサの相対感度にわずかにポジティブな効果を有した。ルテニウム添加はCeOベースセンサの水素感度および相対感度にほとんど効果を有しなかった。
【表6】

【表7】

【表8】

【0035】
実施例15、16、17、および18:PdおよびRu促進剤含有の複合GDCセンサ
SnOまたはInの5質量%第二相添加したGDCベース複合センサ処方を、貴金属促進剤の添加で感度を最良化するために研究した。ルテニウムおよびパラジウムを各々1質量%レベルで評価した。パラジウム(II)2,4‐ペンタンジオネートおよびルテニウム(III)2,4‐ペンタンジオネートをJohnson Mattheyビヒクルに溶解し、既に記載されたものと同様の手順を用いてセンサインキを調製した。これも既に記載された方法を用いて、平面状センサを製作し、異なる温度で試験した。これらのGDCベースセンサに関する水素感度データが表9に掲載され、相対感度データが表10および11に掲載されている。
【表9】

【表10】

【表11】

【0036】
GDCベースセンターの場合、パラジウムまたはルテニウム促進剤の存在は水素感度を増加させた。実施例15のPdドープドGDC(5%SnO)センサに関して図6で示されているように、最大の改善がパラジウム添加で観察された。GDC(5%SnO)センサへのPd添加は1%Hに対する感度を約4倍高めた。この増強は広範囲の動作温度で観察された(図7参照)。上記結果に基づき、実施例15の94%GDC/5%SnO/1%Pdセンサ処方が、プロトタイプセンサ素子を検証する目的で作業に選択された。
【0037】
プロトタイプセンサ素子を検証する作業は、2タイプのセンサ素子に集約された。第一タイプとして、コーティング材料がインターデジタル電極に被着され、抵抗ヒータが基板の背側に付された平面状アルミナ基板(前記)を用いた。第二タイプとして、電極およびセンサコーティングがセラミック微小管の外表面へ付され、抵抗ワイヤヒータが管の内側へ挿入された新規管状基板を用いた。
【0038】
以下の実施例19で記載されているように、平面状デバイスの性能は内部ヒータの非効率さにより制限され、ヒータは平面状デバイスに制御された温度を効果的にもたらしたが、その周囲に熱を失った。“ホットゾーン”で施される平面状素子へのヒータの構造的接合は、該接合の長期弱化に関連した性能制限も生じるかもしれない。平面状デバイスは、始動および停止に際して欠陥を生じることがある、酸化アルミニウム基板(〜8ppm/℃)とセリアベースセンサコーティング(〜13ppm/℃)との熱膨張係数の差異に関連した潜在的制限も有する。
【0039】
実施例20でさらに詳しく記載されている新規管状センサデバイスは、以下で列挙されているように、これらの制限を克服している:
・センサの支持体部品は、センサコーティング材料(94%GDC/5%SnO/1%Pd)と本質的に同組成(95%GDC/5%SnO)の多孔質セラミック管である。コストを最小化するために支持体材料からPdが省かれた。
・管状センサの熱は、管の内部に置かれたワイヤヒータにより供される。ヒータにより供された本質的に全部の熱が素子を加熱することになり、熱は周囲環境へほとんど失われない。
・管状センサ素子へのヒータワイヤの接合は管端部で行うが、そこはセンサ素子より低温である。これは非構造的接合であり、熱膨張率不一致に起因する欠陥をうけにくいはずである。
・微小管状素子は高い表面対体積比を呈し、平面状デバイスと比較して改善された感度をもたらす。示されるように、この改善された感度は動作温度の低下(ひいては基準抵抗およびH感度の良い長期安定化)につながる。
・示されるように、微小管状素子におけるヒータの抵抗は相対湿度の変動に対するセンサデバイスの感度を最小化するように選択できる。
・熱膨張率一致は高いが、酸化アルミニウムおよびYSZのような他の支持体管材料も用いられ、コスト、強度、および絶縁性のような利点を発揮する。
【0040】
下記実施例では管状センサ構造の利点を検証している:
実施例19:平面状水素センサ素子
選択されたセンサ材料のコーティング(94%GDC/5%SnO/1%Pd)をIDE基板(5mm平方)上へ被着し、800℃で1時間アニールした。8.1Ω抵抗ヒータを34AWGニッケル‐クロム60抵抗ヒーティングワイヤから製作した。セラミックセメント(Ceramabond 552-VFG高温セラミック接着剤)を用いて、このヒータをIDE基板の背側に接合させた。平面状センサ素子が図8で示されている。該センサ素子の性能(基準抵抗およびH感度)を最初に管炉において(付属ヒータを稼働させずに)外部供給熱で300℃(既に記載された結果に基づき最良の動作温度)にて試験した。サンプルを次いで管炉から取出し、ヒータおよびセンサ電極リードへ電気接続するためにTO8ヘッダーに載せた。センサリードおよびヒータ双方の接触のためにフィードスルーを備えた他のエンクロージャーでこのスタンドアロン型プロトタイプを試験した。電力をIDE基板の背側で抵抗ヒータへ加え、管炉から熱を外部供給して測定したときとセンサの基準抵抗が同様になるまで増加させた。センサ素子をその目標基準抵抗(19MΩ)へ加熱するために約2.8ワットの電力を要した。内部ヒータで動作させたセンサの性能を、次いで外部加熱で得られた場合と比較した。これらのデータが図9に掲載されている。
【0041】
内部加熱によるセンサの性能は外部加熱による性能と類似していたが、センサが外部加熱で試験されたときは、1%水素に対する応答がわずかに大きく、応答がわずかに遅かった。外部加熱で試験時に観察された遅い応答は、センサがヘッダーに載せられてオンボードヒータで試験されると用いられる試験設備と比較して、かなり大きな石英管中デッドスペースのせいであった。感度の損失は、加熱ガスの検出 vs 周辺温度ガスの検出に際する動的差異で説明できる。管炉はセンサと該センサ周囲のガスの双方へ熱を供し、一方抵抗ヒータはセンサのみへ熱を供して、周囲のガスへは供しなかった。
【0042】
空気中0〜1%Hでサイクリング時(12時間サイクル時間)における基準抵抗および感度の安定性を評価するために、長期試験を平面状センサで行った。これらの試験は、前記方法に従い作製された、管炉で外部熱が供される平面状素子で行った。長期安定性データが図10および11に掲載されている。この500時間試験の過程で、基準抵抗は約25%増加し、感度はこの平面状センサで60から48%へ減少した。
【0043】
実施例20:管状水素センサ素子
NiCrヒータを搭載したプロトタイプ微小管状センサを製作し、水素感度について試験した。微小管状センサ素子の製造ステップを示した概略図が図12で示されている。表面積14m/gのGDC(5%SnO)粉末の50gバッチを支持体管の押出用に調製した。常用結合材および可塑材の添加でこの複合材料を用いて熱可塑性ドウを混合し、Bohlin-Instruments RH2000キャピラリーレオメーターを用いて押し出した。管を乾燥させ、次いで1100℃で焼結した。焼結された微小管は65%理論値の近似密度を有していた。この密度は、センサに理想的な範囲にある‐機械的頑健性を供するために十分な密度だが、後で被着されるコーティングの最良付着のために粗い表面を供する上で十分に多孔質であると考えられた。焼結後、微小管は1.5mmの外径および0.5mmの壁厚を有していた。焼結管が図13で示されている。
【0044】
管状センサを次のように焼結された5%SnO‐GDC管から製作した:(1)銀インキを用いて銀リードワイヤを管の外部へ取り付けた;(2)金電極を管にペイントし、銀リードへ接続し、450℃で30分間硬化させた;および(3)センサ材料を管の外部にペイントし、800℃で1時間アニールした。上記と同様の試験条件を用いて、管状センサ素子(内部ヒータなし)の性能を管炉で評価した。センサにとって最良の動作温度は(1%Hに対する最大感度に基づくと)300から200℃へ低下した。175℃の低い温度におけるセンサの試験では、図14で示されているように、1%水素に対して強い応答をなお示した。
【0045】
マルチプロトタイプ管状センサを製作および試験した。ワイヤをしっかり巻き付けることにより、内部ヒータを5Ω長のヒータワイヤ(34AWGニクロム‐60)から作製した。コイルの外径でヒータを押出微小管の内側と合わせられるように、コイルヒータを設計した。管状センサ素子が図15で示されている。様々な量の電力を内部ヒータへ加え、前記方法を用いて基準抵抗、H感度、および交差感度を評価することにより、管状プロトタイプセンサの性能を評価した。20MΩの基準抵抗(200℃の推定動作温度に対応する)へ達するためにわずか750mWのヒータ電力で済み、80MΩの基準抵抗(175℃の推定動作温度に対応する)へ達するためにわずか615mWのヒータ電力で済んだ。ヒータ電力のこの範囲内におけるセンサ性能は、実施例19の平面状センサの場合より勝っていた。このように、管状構造は電力消費を70%以上も減少させた。
【0046】
実施例21:アルミナおよびYSZ基板の管状水素センサ素子
購入した酸化アルミニウムおよびイットリア(8mol%)安定化ジルコニア管を8mm長に切断した。アルミナ管は1mmの外径および0.5mmの壁厚を有していた。YSZ管は4.4mmの外径および0.4mmの壁厚を有していた。実施例20で記載された方法を用いて、センサをこれらの基板から製作した。約40Ωヒータ長をアルミナ基板センサに用い、約10Ω長をYSZ基板センサに用いた。管状センサの性能は、実施例19の平面状センサプロトタイプの場合より有意な改善を示した。センサが乾燥シミュレート空気バックグラウンド中1%水素へ曝されたときに、60%超の平均応答が証明された。これは平面状プロトタイプよりも50%の改善であった。3回の水素サイクルから収集されたデータが図16で示されている。センサは、図17で示された250〜10,000ppmの水素濃度範囲で、定量的応答を示した。
【0047】
管状センサの見掛け応答時間も、実施例19の平面状プロトタイプセンサの場合より改善された。応答時間(またはt90)は、センサのシグナルが完全応答の90%に達するために要する時間として定義される。実施例19の平面状プロトタイプセンサの1%水素に対する応答時間は2.3分であり、一方管状プロトタイプセンサの応答時間はわずか20〜30秒であった。管状センサの他の重要な特徴はその速い回復時間である。センサの回復に関するt90は、50秒未満であった。
【0048】
図18は、異なるヒータ電力で動作させた管状センサの応答時間を示している。表面反応の動特性は電力または熱が多くセンサへ加えられるほど増加し、これはセンサの応答時間も減らすと予想された。高いヒータ電力でセンサを動作させたときに、センサ応答時間の相当な減少があった。7秒間のデッドタイムを差し引いた後、1200mWで動作されたセンサのt90は、870mWでの23秒と比較して、20秒であった。
【0049】
管状プロトタイプセンサも、先に記載されたのと同様の干渉抵抗を、COおよびCHの双方に対して示した。センサはCHに対して応答を示さず、200ppm COへ曝されたときに基準ラインにおいて最少の動きを示しただけである。センサシグナルの生データのプロットが図19でみられる。COとの交差感度による干渉は基準ラインにおけるノイズよりさほど大きくなく、センサ回路設計で容易に排除できた。
【0050】
長期試験を管状センサで行い、結果が図20および21に掲載されている。これらの試験を管炉中200℃の制御温度で行った。管状センサの基準抵抗および感度は600時間の試験中ずっと著しく安定であり、本質的に基準抵抗の増加または感度の損失がなかった。平面状センサと比較して安定性の増加は、管状センサの低い動作温度のせいである(平面状センサの約300℃と比較して管状センサでは約200℃)。これは、典型的には熱活性化焼結メカニズムで生じる老化(aging)作用を減少させることになる。焼結は、センサの主要な活性部位である結晶粒界へのガスアクセス減少につながる。
【0051】
ヒータ抵抗を変えてプロトタイプ管状センサを製作し、センサ基準抵抗および水素に対する感度に及ぼす相対湿度変動の作用について試験した。センサを乾燥(0%相対湿度)および湿潤(100%相対湿度)双方の環境中で1%水素に対する感度について試験した。ワイヤをしっかり巻き付けることにより、内部ヒータをある長さのヒータワイヤ(40AWGニクロム‐60)から作製した。30〜50Ωのヒータを酸化アルミニウム管状基板装備のセンサへ挿入した。9〜35Ωのヒータをイットリア安定化ジルコニア(YSZ)管状基板装備のセンサへ挿入した。コイルの外径でヒータを押出微小管の内側と合わせられるように、コイルヒータを設計した。図22は、酸化アルミニウムおよびYSZ基板双方で基準抵抗および1%水素に対する感度の双方に及ぼすヒータ抵抗の作用について示している。酸化アルミニウム基板センサでは、30Ω付近のヒータ抵抗が湿度変動の影響を最少化し、YSZ基板センサでは、かなり低い抵抗ヒータが同様の湿度非感応性のために要された。ヒータ抵抗と湿度感度との相関が、15Ωもの低いヒータ装備のアルミナ基板センサを試験することで、さらに調べられた(図23)。非線形相関が観察され、センサは約40Ω未満のヒータ抵抗のとき湿度変動に対してごくわずかな感度を有するだけであった。それ以上の抵抗ヒータのとき、湿度はセンサ性能に著しい影響を与えた。この作用が図24でさらに示され、49.1Ωセンサの大きな湿度感度と比較して39.7Ω抵抗ヒータセンサに及ぼす湿度のごくわずかな影響を示している。
【0052】
この実施例の微小管状センサは、水素周囲中少量の酸素の存在を定量的に検出する上でも有用なことがわかった(図25参照)。これらのデータは、水素リッチバックグラウンドガス環境中の様々な酸素濃度に高感度でセンサが応答することを示している。
【0053】
比較例:市販化学抵抗型水素センサ
微小管状水素センサの性能を市販化学抵抗型水素センサの場合と比較した。Figaro TGS821を比較のために選択した。TGS821は酸化スズ(SnO)ベースセラミック検出素子を有し、小型抵抗ヒータで加熱される。酸化スズベースセンサは清浄空気中で比較的高い抵抗を有するが、その抵抗は検出可能ガスの存在下において減少する。TGS821を入手し、センサに添付された説明書に従い試験した。センサ搭載のヒータは約650mWで動作し、これは実施例21の微小管状センサと類似している。
【0054】
1%水素に対するTGS821センサの感度は該製品説明書で報告された値と合致した。該センサは1%水素に対して非常に高感度(99%超の応答)であったが、それはCOおよびCHに対しても非常に大きな応答を生じた(図26参照)。200ppm COおよび0.5%CHに対して各々69%および76%の応答率は、該製品説明書で報告された値と一致した。比較として、実施例21のセンサはこれら濃度のCOおよびCHに対してごくわずかな交差感度を示した(図19)。
【0055】
TGS821センサおよび実施例21の微小管状センサ双方に関する応答時間は、30秒の用途別目標より少なかった(TGS821センサで10秒および微小管状センサで20秒)。しかしながら、微小管状センサの回復時間は図27で示されているようにかなり速かった。微小管状センサは水素除去後48秒間でその元の基準ラインへ回復したが、TGS821センサは3時間後もその元の基準抵抗の70%へ回復しなかった。微小管状センサの他の利点は速い始動時間(5分未満)である。TGS821センサの始動は遅い‐製品説明書では標準試験条件がセンサを試験する前に7日予熱期間を含むと述べている。
【0056】
水素検出のために開示された微小管状センサ設計の使用は、開示されたセリアベースセンサコーティング材料の使用に限定されない。開示された微小管状センサ素子設計は、あらゆる公知の水素感応性酸化物(例えば酸化スズ)、水素感応性金属(例えばパラジウム)、酸化物および金属の水素感応性組合せ、または水素に対して測定可能な応答(抵抗および/または容量)を示すあらゆる材料を用いて、化学抵抗型水素センサに用いられる。所要の管状部品が製造されるかぎり、センサ用管状支持体の形状は広範囲で変えられる。
【0057】
上記のソリッドステートセラミックセンサは、水素に対して速い応答と、干渉ガスに対して最小の交差感度とを示すが、該センサが誤警報の可能性なく広範囲の雰囲気条件で動作するには、センサの商品化前に改善が要されることもある。センサプロトタイプを試験していると、NiCrヒータを用いて175℃〜225℃の温度へのヒータの加熱にもかかわらず、図28で示されているように、室温がセンサの基準抵抗に有意な影響を有することがわかった。エアコンディショナーサイクリングオンおよびオフによる室温の変動は、基準抵抗の動きと直接相関することがある。43時間目における抵抗の大きな降下が1.0%水素に対するセンサの応答である。温度のシフトが水素の存在として検出されうることを意味することから、この観察は問題である。さらに悪いことに、雰囲気温度の降下はセンサの基準抵抗を増し、水素の存在を検出できなくさせる。
【0058】
この温度感応問題は、センサ制御およびアラーム回路に温度センサを入れることで解決された。この場合に、基準センサ抵抗に及ぼす温度影響について補正するために較正または参照表が要されることもある。
【0059】
一方、促進剤添加の有無によるセンサ材料間の感度差も温度変動について補償するために用いられ、こうすればセンサ制御回路で別の温度センサの必要性を省ける。この場合に、2つのセンサクティブ(促進)水素センサおよび非アクティブ(非促進)水素センサを有するデュアルセンサ素子が用いられる。図29で示されているように、促進および非促進センサはある範囲の温度で同様の基準抵抗を有し、そのため雰囲気温度の変化で同様に影響される。非促進センサは、しかしながら、促進センサより有意に低い水素感度を有し(図6)、このためその応答は促進センサシグナルの温度補償に用いられる。この補償は、例えばWheatstoneブリッジ回路、ハーフブリッジWheatstoneブリッジ回路、コンパレータ回路、またはマイクロプロセッサーを含めた、アナログまたはデジタル法によるセンサ制御回路で実施できた。
【0060】
基準に及ぼす雰囲気温度の影響にビルトイン補償を施すことに加えて、デュアルセンサ素子は交差感度を排除することでセンサの全体安定性に寄与できる。上記のように、センサへのパラジウムの添加は、様々な交差感度と比較して水素に対する感度を選択的に高めた。COおよびCHに対する交差感度のほぼすべてが動作温度を調整することで排除されても、センサはこれらガスの存在下において抵抗の小さな変化をなお示す。パラジウムはそれらの応答に大きな影響を有しないため、促進センサおよび非促進センサは双方とも干渉ガスの存在下において抵抗の類似変化を受けると予想され、そのためこれらの変化が電子制御回路で排除されることになる。
【0061】
デュアルセンサ素子は、ゼロドリフトを排除することでも、センサの全体安定性に寄与できる。例えば、センサが低い電力レベル(低い温度)で動作されたとき、限定量の基準抵抗ドリフトが観察された。図30は長期試験の最終700時間を示している。3月間の試験後、基準ラインにおけるドリフトは5×10−3MΩ/hr未満であった。観察されたゼロドリフトはセラミックセンサの人為産物であり、パラジウム促進剤によるものではない、と思われる。そうであれば、非促進センサは促進センサのゼロドリフトと合致し、センサシグナルをさらに安定化するように働く。
【0062】
このアプローチの1つの潜在的欠点は、第二非促進センサを加えた結果として、全体アセンブリーのバルクおよびコスト増加である。促進および非促進センサは双方とも、NiCrヒータの温度上昇のせいで火炎防止器(flame arrestor)内に収納されねばならないであろう。この問題で可能な解決法は、製造能力の改善によりセンサ素子のサイズを小さくすること、あるいは中間に共通電極を有した同一の管支持体に両促進および非促進センサを入れることである。
【0063】
デュアルセンサ概念のさらに他の潜在的欠点は、2つのNiCrヒータに要される追加電力である。両センサとも加熱されることを要し、電力要求を倍加する。しかしながら、センサ素子のサイズを小さくすること、および/または同一管に促進および非促進センサを入れることで、要求電力を減らせるであろう。
【0064】
デュアルセンサ概念のさらに他の潜在的欠点は、センサ毎における基準抵抗の一貫性の必要性である。部分毎の一貫性が製造プロセスの最良化で達成できなければ、促進および非促進センサの基準抵抗の初期較正が必要かもしれない。
【0065】
デュアルセンサ素子装備の管状センサデバイスは、本発明の水素感応性複合材料との組合せで高度に満足しうる結果を生じる。しかしながら、各素子は、独立してまたはこれら素子の全部ではない準組合せで用いられたときに、満足しうる結果を生じると予想される。例えば、水素感応性複合材料は管状以外の形態を有するデバイスで有用かもしれない。
【0066】
加えて、デュアルセンサ素子装備の管状センサデバイスは、一酸化炭素、メタン、硫化水素、酸化イオウ、酸化窒素、湿度、およびアンモニアを包含する(但し、これらに限定されない)、他のガスを検出するためのセンサコーティングを施すと有用かもしれない。ガスセンサ材料が環境作用に影響されやすいならば、このようなデバイスは改善された基準抵抗を有すると予想される。
【0067】
本発明の好ましい態様は、当業者に知られている多くの技術および方法で実現できる。本発明が属する業界で技術および知識を有する者には、本発明の意義および範囲から逸脱せずに多くの広く異なる態様が前記のものから示唆されるであろう。ここの記載および開示は単に例示の目的であり、下記請求項で記載された本発明の範囲を制限するものとして解釈するべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム組成物を含んでなる水素感応性複合材料。
【請求項2】
前記酸化セリウム組成物が、酸化セリウム、ジルコニウムドープドセリア、ガドリニウムドープドセリア、サマリウムドープドセリア、ランタンドープドセリア、イットリウムドープドセリア、カルシウムドープドセリア、ストロンチウムドープドセリア、およびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の水素感応性複合材料。
【請求項3】
酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化銅、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化バナジウム、遷移金属酸化物、遷移金属酸化物の混合物、少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する固溶体、少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する化合物、および各々が少なくとも1種の遷移金属酸化物を含有する少なくとも2種の化合物の混合物から選択される改質剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の水素感応性複合材料。
【請求項4】
貴金属促進剤をさらに含んでなる、請求項3に記載の水素感応性複合材料。
【請求項5】
前記貴金属促進剤が、パラジウム、ルテニウム、白金、金、ロジウム、イリジウム、およびそれらの組合せから選択される、請求項3に記載の水素感応性複合材料。
【請求項6】
貴金属促進剤をさらに含んでなる、請求項1に記載の水素感応性複合材料。
【請求項7】
前記貴金属促進剤が、パラジウム、ルテニウム、白金、金、ロジウム、イリジウム、およびそれらの組合せから選択される、請求項6に記載の水素感応性複合材料。
【請求項8】
下記:
質量%
酸化セリウム組成物 1〜100
改質剤 0〜99
貴金属促進剤 0〜99
を含んでなる、請求項5に記載の水素感応性複合材料。
【請求項9】
支持体と、
該支持体の表面に付された電極と、
該支持体の電極表面に付されたセンサコーティングと
を含んでなる水素ガスセンサデバイスであって、
該センサコーティングが請求項1に記載の水素感応性複合材料を含んでなる、水素ガスセンサデバイス。
【請求項10】
前記支持体が、酸化アルミニウム、イットリア安定化ジルコニア、酸化セリウム、ガドリニウムドープドセリア、アルミン酸マグネシウム、および酸化マグネシウムから選択される材料から形成される、請求項9に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項11】
一体型抵抗ヒータをさらに含んでなる、請求項9に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項12】
動作温度が、水素以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択される、請求項11に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項13】
前記ヒータの抵抗が、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される、請求項11に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項14】
前記支持体が微小管状支持体であり、前記抵抗ヒータが前記支持体の内部へ挿入され、管端部で接合されている、請求項11に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項15】
前記ヒータの抵抗が、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御しうるように選択される、請求項14に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項16】
前記支持体が平面状であり、前記抵抗ヒータが前記電極表面と反対側の支持体表面へ付されている、請求項10に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項17】
前記ヒータの抵抗が、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される、請求項16に記載の水素ガスセンサデバイス。
【請求項18】
支持体と、
該支持体の表面に付された電極と、
該電極と電気的に連通したデュアルセンサ素子と
を含んでなるガスセンサデバイスであって、
該デュアルセンサ素子が、標的ガスに比較的非感応性の非促進複合材料を含有した第一センサと、標的ガスに感応性の促進複合材料を含有した第二センサと、第一センサ素子から得られる測定値と第二センサ素子から得られる測定値を比較し、この比較を用いてガスセンサデバイスの基準抵抗に及ぼす環境条件の有害作用を補償するための装置とを含んでなる、ガスセンサデバイス。
【請求項19】
第一および第二センサ素子が同一支持体に置かれている、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項20】
前記支持体が微小管状支持体であり、前記抵抗ヒータが前記支持体内へ挿入されて、管端部で接合されている、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項21】
動作温度が、標的ガス以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択される、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項22】
前記ヒータの抵抗が、相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項23】
動作温度が標的ガス以外のガスに対するセンサデバイスの交差感度を制御するように選択され、前記ヒータの抵抗が相対湿度に対するセンサデバイスの感度を制御するように選択される、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項24】
前記ガス感応性複合材料が水素感応性複合材料である、請求項18に記載のガスセンサデバイス。
【請求項25】
前記水素感応性複合材料が酸化セリウム組成物を含んでなる、請求項24に記載のガスセンサデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公表番号】特表2010−507073(P2010−507073A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532454(P2009−532454)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/021928
【国際公開番号】WO2008/045568
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507347967)ネクステック、マテリアルズ、リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】NEXTECH MATERIALS, LTD.
【Fターム(参考)】