説明

水素欠履歴検出装置および燃料電池システム

【課題】燃料電池において、過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を検出する。
【解決手段】水素欠履歴検出装置は、燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、燃料電池に接続される負荷を備え、上記発電する際とは逆向きに燃料電池から電流を出力させる出力制御部と、第1の電極に対して酸素含有ガスを供給しつつ、第2の電極に対して水素含有ガスを供給すると共に、出力制御部により燃料電池から電流を出力させる際の、燃料電池における電流−電圧特性を、水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池において、過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を検出する水素欠履歴検出装置および燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電を継続すると、種々の要因により、燃料電池の発電性能が次第に低下する現象が起こることが知られている。このような燃料電池の性能低下が進行すると、例えば、所望の電力を発電させるための制御を行なう上で支障を来たす場合がある。そのため、燃料電池の発電を良好に継続するためには、燃料電池の性能低下の程度を検出することや、検出した性能低下状態から燃料電池を回復させること、あるいは、検出した性能低下の程度に応じて発電制御を修正することが必要になる場合がある。
【0003】
性能が低下した状態から燃料電池を回復させる方法の一つとして、従来、燃料電池の発電を停止した状態で、燃料電池のカソードに水素含有ガスを供給すると共にアノードに不活性ガスを供給し、アノードから電源を介してカソードへと電流を流す再活性化処理が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような処理により、カソードに滞留する水を除去し、電池性能の低下の防止あるいは電池性能の回復を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−272686号公報
【特許文献2】特開2009−054387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の性能低下の要因の一つとして、電極に対する供給ガス量の不足が挙げられる。特に、アノードに対する供給水素量の不足については、従来、充分な対策が行なわれていなかった。アノードに対する供給水素量が不足した状態で、ある程度以上、燃料電池の発電を行なうと、燃料電池の性能を回復し難い程度にアノードの形態変化が進行する場合があり得る。そのため、燃料電池において、アノードの形態変化を引き起こしうる水素不足状態での発電が、どの程度行なわれてきたかを、正確に判定することが望まれていた。また、水素不足状態での発電の履歴が検出されたときに、水素不足状態での発電に起因する性能低下状態から燃料電池を回復させること、あるいは、性能低下の程度に応じて発電制御を修正することが望まれていた。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池において、過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記燃料電池に接続される負荷を備え、前記発電する際とは逆向きに前記燃料電池から電流を出力させる出力制御部と、
前記酸素含有ガス供給部により前記第1の電極に対して前記酸素含有ガスを供給しつつ、前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給すると共に、前記出力制御部により前記燃料電池から電流を出力させる際の、前記燃料電池における電流−電圧特性を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【0009】
適用例1に記載の水素欠履歴検出装置によれば、アノードとカソードを入れ替えて発電を行なわせ、アノードを、触媒の変化が電池性能に影響する感度がより高いカソードとして用いて電流−電圧特性を取得することにより、燃料電池の水素欠履歴を精度良く検出することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の水素欠履歴検出装置であって、前記水素欠履歴取得部は、特定の電流密度に対応する出力電圧の値を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴検出装置。適用例2に記載の水素欠履歴検出装置によれば、電流−電圧特性として、特定の電流密度に対応する出力電圧を取得すればよいため、簡便な測定により、燃料電池の水素欠履歴を検出することができる。
【0011】
[適用例3]
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記不活性ガス供給部により前記第1の電極に対して前記不活性ガスを供給しつつ、前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給すると共に、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、水素イオン吸着の還元電流の積算電荷、あるいは、水素イオン脱着の酸化電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【0012】
適用例3に記載の水素欠履歴検出装置によれば、第1の電極に対して不活性ガスを供給しつつ、第2の電極に対して水素含有ガスを供給して、サイクリックボルタンメトリ−測定を行なうことにより、燃料電池の水素欠履歴を精度良く検出することができる。
【0013】
[適用例4]
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給しつつ、前記酸素含有ガス供給部からの前記酸素含有ガスが前記第1の電極に供給された状態にすると共に、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、酸素種脱離の還元電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【0014】
適用例4に記載の水素欠履歴検出装置によれば、第1の電極に対して酸素含有ガスを供給しつつ、第2の電極に対して水素含有ガスを供給して、サイクリックボルタンメトリ−測定を行なうことにより、燃料電池の水素欠履歴を精度良く検出することができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし4いずれか記載の水素欠履歴検出装置であって、前記第1の電極は、触媒金属を担持する担体としてカーボン担体を備え、前記水素欠履歴検出装置は、さらに、前記水素欠履歴と、前記燃料電池が水素欠乏状態で発電する際の電流密度および前記燃料電池の温度をパラメータとする水素欠可能時間であって、前記燃料電池が、前記第1の電極の触媒金属を担持するカーボンの酸化反応を進行することなく水素欠乏状態で発電することが可能な時間である水素欠可能時間との関係を記憶する記憶部と、前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記記憶部を参照して、所定の電流密度および所定の燃料電池温度における前記水素欠可能時間を取得する水素欠可能時間取得部とを備える水素欠履歴検出装置。適用例5に記載の水素欠履歴検出装置によれば、検出した水素欠履歴に基づいて、水素欠可能時間を求めることができる。
【0016】
[適用例6]
複数の単セルを積層して成る燃料電池を備える燃料電池システムであって、各々の前記単セルの電圧を検出するセル電圧検出部と、前記セル電圧検出部が検出した電圧の最低値である最低セル電圧が、予め定めた下限電圧値以下であるときには、前記燃料電池に供給する水素量の不足を解消するための処理を実行する水素不足解消制御部と、前記最低セル電圧を上昇させるためのセル電圧上昇制御を実行する下限電圧制御部と、適用例1ないし5いずれか記載の水素欠履歴検出装置から、前記燃料電池に係る水素欠履歴を取得する水素欠履歴取得部とを備え、前記水素不足解消制御部は、前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記水素欠乏状態で発電を行なった程度が基準値を越えたときには、前記下限電圧値をより高く補正する下限電圧補正部を備える燃料電池システム。適用例6に記載の燃料電池システムによれば、水素欠履歴の程度が基準値を超えたときには、下限電圧値をより高く補正して、水素不足解消制御を実行するため、それ以上水素欠乏状態で発電が行なわれることを抑制することができる。
【0017】
[適用例7]
燃料電池を備える燃料電池システムであって、前記燃料電池のアノードに、水素を含有する燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、前記燃料ガス供給部による前記燃料電池に対する前記燃料ガスの供給を制御する燃料ガス供給制御部と、適用例1ないし5いずれか記載の水素欠履歴検出装置から、前記燃料電池に係る水素欠履歴を取得する水素欠履歴取得部とを備え、前記燃料ガス供給制御部は、前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記水素欠乏状態で発電を行なった程度が基準値を越えたときには、前記燃料電池が水素欠乏状態で発電する水素欠発電を抑制するように、前記燃料電池に対する前記燃料ガスの供給制御を変更する燃料電池システム。適用例7に記載の燃料電池システムによれば、水素欠履歴の程度が基準値を超えたときには、燃料電池に対する燃料ガスの供給制御を変更することによって、水素欠発電を抑制することができる。
【0018】
[適用例8]
適用例7記載の燃料電池システムであって、前記燃料ガス供給制御部は、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの量を増加させる制御変更、および、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの圧力を増加させる制御変更から選択される制御変更によって、前記水素欠発電を抑制する燃料電池システム。適用例8に記載の燃料電池システムによれば、燃料電池に供給する燃料ガスの量の増加、あるいは、燃料電池に供給する燃料ガスの圧力の増加によって、それ以上水素欠発電が行なわれることを抑制することができる。
【0019】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、燃料電池における水素欠履歴検出方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】燃料電池システム10の概略構成を示すブロック図である。
【図2】電気自動車90の概略構成を表わすブロック図である。
【図3】水素欠履歴検出装置80の概略構成を示すブロック図である。
【図4】電流−電圧特性と水素欠履歴との関係を表わす説明図である。
【図5】水素欠運転抑制制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図6】水素欠運転判断制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図7】水素欠運転判断制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図8】燃料ガス流量制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図9】報知信号発生制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。
【図10】水素欠履歴検出装置85の概略構成を示すブロック図である。
【図11】サイクリックボルタモグラムの一例を表わす説明図である。
【図12】サイクリックボルタモグラムが水素欠履歴によって変化する様子を示す説明図である。
【図13】アノード触媒表面積が水素欠履歴の蓄積と共に小さくなる様子を表わす説明図である。
【図14】水素欠履歴検出装置87の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.燃料電池システムの構成:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池システム10の概略構成を示すブロック図である。燃料電池システム10は、燃料電池15と、水素タンク20と、コンプレッサ30と、水素遮断弁40と、可変調圧弁42と、水素循環ポンプ44と、パージ弁46と、電流センサ51と、電圧センサ52,53と、冷媒循環ポンプ60と、ラジエータ61と、冷媒温度センサ63と、制御部50と、を備えている。
【0022】
燃料電池15は、固体高分子型の燃料電池であり、発電体としての単セル70を複数積層したスタック構造を有している。各単セル70は、MEA(膜−電極接合体、Membrane Electrode Assembly)と、ガス拡散層と、ガスセパレータと、を備えている。ここで、MEAは、電解質膜と、電解質膜の各々の面に形成された電極であるアノードおよびカソードによって構成される。このMEAは、一対のガス拡散層によって挟持されており、MEAおよびガス拡散層から成るサンドイッチ構造は、さらに両側から一対のガスセパレータによって挟持されている。
【0023】
MEAを構成する電解質膜は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電子伝導性を示す。カソードおよびアノードは、電解質膜上に形成された層であり、電気化学反応を進行する触媒金属(本実施例では白金)を担持するカーボン粒子と、プロトン伝導性を有する高分子電解質と、を備えている。ガス拡散層は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材(例えば、発泡金属や金属メッシュなどの金属製部材や、カーボンクロスやカーボンペーパなどのカーボン製部材)によって構成されている。ガスセパレータは、ガス不透過な導電性部材(例えば、カーボンを圧縮した緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属製部材)により形成されている。ガスセパレータとMEAとの間には、反応ガス(水素を含有する燃料ガスあるいは酸素を含有する酸化ガス)の流路が形成される。すなわち、一方のセパレータとアノードとの間には、セル内燃料ガス流路が形成され、他方のセパレータとカソードとの間には、セル内酸化ガス流路が形成される。
【0024】
また、燃料電池15において、隣り合う単セル70間には、冷媒の流路であるセル間冷媒流路が形成されている。さらに、燃料電池15内には、単セル70の積層方向に燃料電池15を貫通する複数の流路が形成されている。すなわち、各セル内酸化ガス流路に酸化ガスを分配する酸化ガス供給マニホールドと、各セル内酸化ガス流路から酸化ガスが集合する酸化ガス排出マニホールドと、が形成されている。また、各セル内燃料ガス流路に燃料ガスを分配する燃料ガス供給マニホールドと、各セル内燃料ガス流路から燃料ガスが集合する燃料ガス排出マニホールドと、が形成されている。また、各セル間冷媒流路に冷媒を分配する冷媒供給マニホールドと、各セル間冷媒流路から冷媒が集合する冷媒排出マニホールドと、が形成されている。
【0025】
燃料電池システム10が備える水素タンク20は、燃料ガスとしての水素ガスが貯蔵される貯蔵装置であり、水素供給流路22を介して燃料電池15の水素供給マニホールドに接続されている。水素供給流路22上において、水素タンク20から近い順に、水素遮断弁40と、可変調圧弁42とが設けられている。可変調圧弁42は、水素タンク20から燃料電池15へ供給される水素圧(水素量)を調整可能な調圧弁である。なお、水素タンク20は、高圧の水素ガスを貯蔵する水素ボンベとする他、水素吸蔵合金を備えて水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることによって水素を蓄えるタンクとすることもできる。
【0026】
燃料電池15の水素排出マニホールドには、水素排出流路24が接続されている。この水素排出流路24には、パージ弁46が設けられている。また、水素供給流路22と水素排出流路24とを接続して、接続流路25が設けられている。接続流路25は、可変調圧弁42よりも下流側で水素供給流路22に接続し、パージ弁46よりも上流側で水素排出流路24に接続している。
【0027】
水素タンク20から水素供給流路22を介して供給される水素は、燃料電池15で電気化学反応に供され、水素排出流路24に排出される。水素排出流路24に排出された水素は、接続流路25を経由して、再び水素供給流路22に導かれる。このように、燃料電池システム10において水素は、水素排出流路24の一部、接続流路25、水素供給流路22の一部、および、燃料電池15内に形成される燃料ガスの流路(これらの流路を併せて、水素循環流路と呼ぶ)を循環する。接続流路25には、流路内を水素が循環する際の駆動力を発生する水素循環ポンプ44が設けられている。すなわち、水素循環ポンプ44によって、燃料電池15に供給される燃料ガスの流量が制御される。なお、燃料電池15の発電時には、通常はパージ弁46は閉弁されているが、循環する水素中の不純物(窒素や水蒸気等)が増加したときにはパージ弁46は適宜開弁され、これによって、不純物濃度が増加した水素ガスの一部がシステムの外部に排出される。また、電気化学反応の進行による水素の消費や、パージ弁46の開弁によって、水素循環流路内の水素量が不足するときには、可変調圧弁42を介して水素タンク20から水素循環流路へと水素が補われる。
【0028】
コンプレッサ30は、外部から空気を取り込んで圧縮し、酸化ガスとして燃料電池15に供給するための装置であり、空気供給流路32を介して、燃料電池15の酸化ガス供給マニホールドに接続されている。また、燃料電池15の酸化ガス排出マニホールドには、空気排出流路34が接続されている。コンプレッサ30から空気供給流路32を介して供給される空気は、燃料電池15で電気化学反応に供され、空気排出流路34を介して燃料電池15の外部に排出される。
【0029】
上記したように、燃料電池15の発電時には、水素タンク20、可変調圧弁42、および水素循環ポンプ44が、燃料電池15のアノードに対して燃料ガスを供給する。そのため、これらの各部は、燃料ガス供給部として機能する。
【0030】
電流センサ51は、燃料電池15の出力電流を検出するセンサである。また、電圧センサ52は、燃料電池15の出力電圧を検出するセンサである。また、電圧センサ53は、燃料電池15を構成する個々の単セル70の電圧を検出するセンサである。
【0031】
ラジエータ61は、冷媒流路62に設けられ、冷媒流路62内を流れる冷媒を冷却する。冷媒流路62は、燃料電池15の既述した冷媒供給マニホールドおよび冷媒排出マニホールドに接続されている。また、冷媒流路には冷媒循環ポンプ60が設けられており、冷媒循環ポンプ60を駆動することにより、ラジエータ61と燃料電池15との間で冷媒を循環させて、燃料電池15の内部温度を調節可能となっている。冷媒流路62において、燃料電池15の冷媒排出マニホールドとの接続部近傍には、冷媒の温度を検出するための冷媒温度センサ63が設けられている。
【0032】
制御部50は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、詳しくは、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行するCPUと、CPUで各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データ等が予め格納されたROMと、同じくCPUで各種演算処理をするのに必要な各種データが一時的に読み書きされるRAMと、各種信号を入出力する入出力ポート等を備える。制御部50は、コンプレッサ30、水素遮断弁40、可変調圧弁42、水素循環ポンプ44、パージ弁46、冷媒循環ポンプ60等に対して駆動信号を出力する。また、電流センサ51、電圧センサ52,53、あるいは冷媒温度センサ63等から、検出信号を取得する。
【0033】
図2は、燃料電池システム10を搭載する電気自動車90の概略構成を表わすブロック図である。電気自動車90は、駆動用電源として、燃料電池15と共に、2次電池91を備えている。なお、図2では、燃料電池15以外の燃料電池システム10の構成要素については記載を省略している。電気自動車90には、燃料電池15および2次電池91から電力供給を受ける負荷として、補機94と、駆動モータ95に接続される駆動インバータ93とを備えている。駆動モータ95の出力軸98に出力される動力は、車両駆動軸99に伝えられる。補機94は、コンプレッサ30、水素循環ポンプ44、冷媒循環ポンプ60等の燃料電池補機や、空調装置(エアコン)等の車両補機を含む。燃料電池15および2次電池91と、上記各負荷とは、配線56を介して互いに並列に接続されている。また、2次電池91は、DC/DCコンバータ92を介して配線56に接続されている。本実施例では、制御部50によってDC/DCコンバータ92の出力側の目標電圧値を設定することによって、配線56の電圧を調節し、燃料電池15の発電量および2次電池91の充放電状態を制御可能となっている。また、DC/DCコンバータ92は、2次電池91と配線56との接続状態を制御するスイッチとしての役割も果たしており、2次電池91において充放電を行なう必要のないときには、2次電池91と配線56との接続を切断する。
【0034】
B.水素欠運転について:
既述したように、燃料電池15では、燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールドからセル内燃料ガス流路へと流入して、電気化学反応に供される。しかしながら、いずれかの単セルのセル内燃料ガス流路内において、例えば凝縮水が滞留する場合等には、当該単セルにおいて、アノードに供給される水素量が不足する場合があり得る。このように、燃料ガスの分配が不均等になって、一部の単セル70で水素供給不足により発電反応が抑制される場合であっても、他の単セル70では発電反応が継続される。そのため、水素供給の不良が生じている当該一部の単セル70は、燃料電池15において抵抗として働き、負電圧を発生する。
【0035】
水素不足により負電圧を生じた単セル(以下、負電圧セルとも呼ぶ)では、アノード電位がカソード電位よりも高くなる。そして、上記負電圧セルのアノードでは、以下に示す(1)式の水分解反応(水の酸化反応)が進行して、プロトンが生成されると考えられる。
2H2O → O2 + 4H+ + e- …(1)
【0036】
また、負電圧セルのアノードでは、既述したアノードの電位上昇により、(1)式と共に触媒金属である白金の表面が酸化される反応が進行する。このような反応の進行により、触媒活性が低下すると共に、プロトンが生成される。
【0037】
負電圧セルにおいて上記(1)式の反応および白金の酸化反応が進行することによって、燃料電池15は、水素が不足する単セルが存在するにもかかわらず、発電を継続することができる。しかしながら、負電圧セルにおいて水素が不足する状態が継続すると、負電圧セルのアノードでは、やがて、以下に示す(2)式の反応が進行し始めて、アノードが備えるカーボン(例えば、触媒金属を担持するカーボンや、ガス拡散層が備えるカーボン)が酸化されると共にプロトンが生成されるようになる。
C + 2H2O → CO2 + 4H+ + 4e- …(2)
【0038】
負電圧セルにおいて(1)式の反応が進行したとしても、単セルの内部構造が変化することはない。しかしながら、負電圧セルにおいて、水素不足の状態が継続して(2)式の反応が進行するようになると、アノードが形態変化を起こすため、当該単セルの発電性能が低下すると共に、発電性能を回復させることが極めて困難となる。したがって、燃料電池15の発電性能を維持して耐久性を確保するためには、(2)式の反応が進行しないように、燃料電池システムの運転制御を行なうことが望ましい。(2)式の反応が開始される時期は、負電圧で反応を行なったときの電流密度と時間によって定まる値としての、水素欠状態で進行した反応の総量によって定まると考えられる。したがって、(2)式の反応を抑制するためには、燃料電池が過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度(以下、水素欠履歴という)を正確に検出することが重要であるといえる。
【0039】
なお、単セルが負電圧セルとなるときにアノードで生じる形態変化の他の要因としては、アノードの電位が上昇することに起因するアノード触媒金属の溶出を挙げることができる。触媒金属の溶出によってアノードが形態変化することによっても、アノードにおける触媒活性の低下や、アノードにおける触媒表面積の低下が起こる。以下の説明では、(2)式の反応によるアノードが備えるカーボンの消失の他、アノード触媒金属上の酸化被膜の形成や、アノード触媒金属の溶出を含めて、水素不足による負電圧状態(水素欠運転)に起因するアノードの変化を、アノード形態変化と呼ぶ。
【0040】
C.水素欠履歴検出装置の構成:
図3は、水素欠履歴検出装置80を用いて、燃料電池15における水素欠履歴を検出する構成の概略を示すブロック図である。水素欠履歴検出装置80は、燃料電池15のアノードに対して酸素を含有する酸素含有ガスを供給するための酸素含有ガス供給部と、燃料電池15のカソードに対して水素を含有する水素含有ガスを供給するための水素含有ガス供給部と、を備えている。また、水素欠履歴検出装置80は、燃料電池15の出力端子に接続される負荷58を有して通常の発電時とは逆向きに燃料電池15から電流を出力させる出力制御部81を、備えている。
【0041】
図3に示す本実施例の水素欠履歴検出装置80では、水素欠履歴検出装置80の一部として、燃料電池システム10の構成要素を用いている。具体的には、燃料電池15に接続される配管のつなぎ替えを行なうと共に配管を適宜引き回すことによって、コンプレッサ30を、水素供給流路22を介して燃料電池15の燃料ガス供給マニホールドに接続している。これにより、コンプレッサ30を、水素欠履歴検出装置80を構成する酸素含有ガス供給部として用いている。また、水素タンク20を、空気供給流路32を介して燃料電池15の酸化ガス供給マニホールドに接続している。これにより、水素タンク20を、水素欠履歴検出装置80を構成する水素含有ガス供給部として用いている。このような構成は、例えば、図1に示すように、空気供給流路32と水素供給流路22の各々に、配管のつなぎ換えを可能にする流路切り替え部35、47を設けておき、水素欠履歴の検出時に配管をつなぎ代えることとすれば良い。
【0042】
既述した出力制御部81は、燃料電池15の出力端子に接続される負荷58と、燃料電池15の出力電流を検出する電流センサ51と、を備えている。すなわち、出力制御部81は、その一部として、燃料電池システム10の構成要素である電流センサ51を備えている。また、出力制御部81における負荷58の大きさを設定する機能を、燃料電池システム10が備える制御部50に持たせることとしても良い。さらに、本実施例では、燃料電池システム10が備える制御部50を、水素欠履歴検出装置80の水素欠履歴取得部として用いている。すなわち、制御部50によって、酸素含有ガス供給部および水素含有ガス供給部の駆動制御を行なうと共に、燃料電池から電流を出力させる際の燃料電池における電流−電圧特性を水素欠履歴として取得している。
【0043】
上記のように、本実施例では、車載された燃料電池システム10の構成要素によって、水素欠履歴検出装置80の一部を構成しているが、異なる構成としても良い。例えば、水素欠履歴検出装置80の構成要素を、燃料電池システム10と共に予め全て車載することとしても良い。この場合には、例えば、コンプレッサ30および水素タンク20について、燃料電池15のアノード側ともカソード側とも接続可能となるように配管を設けておき、通常発電時および水素欠履歴検出時には、配管の接続部で流路の切り替えを行なうこととすれば良い。あるいは、水素欠履歴検出装置80の構成要素として、燃料電池システム10の構成要素を用いないこととしても良い。この場合には、酸素含有ガス供給部、水素含有ガス供給部、出力制御部81、あるいは水素欠履歴取得部を備える水素欠履歴検出装置80を別途用意し、燃料電池システム10が備える燃料電池15を車両から取り外して、水素欠履歴検出装置80に取り付ければ良い。水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出は、上記のように配管の接続状態の変更が必要である。そのため、燃料電池15の水素欠履歴の検出は、燃料電池15による通常の発電を行なわないとき、例えば、車両の点検時等に行なうこととすれば良い。
【0044】
水素欠履歴検出装置80を用いて燃料電池15の水素欠履歴を検出する際には、既述したように、酸素含有ガス供給部によってアノードに酸素含有ガスを供給すると共に、水素含有ガス供給部によりカソードに水素含有ガスを供給し、出力制御部81によって通常の発電時とは逆向きに電流を出力させる。すなわち、燃料電池15のアノードとカソードとを入れ替えて用いて、燃料電池15の発電を行なわせる。このとき、水素欠履歴取得部である制御部50は、電流センサ51から個々の単セル70の出力電流を取得すると共に、電圧センサ53から個々の単セル70の出力電圧を取得する。これにより、制御部50は、水素欠履歴として、このようなアノードとカソードとを入れ替えて発電を行なったときの電流−電圧特性を取得する。
【0045】
図4は、水素欠履歴検出装置80の水素欠履歴取得部である制御部50が取得した電流−電圧特性と水素欠履歴との関係を表わす説明図である。図4では、過去に水素欠乏状態で発電を行なったことのない燃料電池(水素欠履歴なし)と、種々の程度で水素欠乏状態の発電を行なった燃料電池(水素欠履歴あり)についての、電流−電圧特性を示している。図4では、横軸は、電流密度を対数目盛で表わしており、縦軸は、セル電圧を表わしている。
【0046】
燃料電池が水素欠乏状態で発電を行なうと、既述したように、アノード触媒が形態変化することにより、触媒としての性能が低下する。しかしながら、アノードは、通常は過剰量の触媒金属を備えている。また、燃料電池の発電時にアノードで進行する反応は、カソードで進行する反応よりも反応速度が速く、通常は、カソードで進行する反応が律速段階となる。そのため、アノード触媒が形態変化を起こしても、このようなアノード触媒の変化が電池性能に与える影響は小さく、電池性能の低下によってアノード触媒の変化を検知することは困難である。そこで、本実施例では、アノードとカソードを入れ替えて発電を行なわせ、評価対象のアノードを、触媒の変化が電池性能に影響する感度がより高いカソードとして用いることにより、アノード触媒の形態変化の程度を、電池性能の低下の程度として評価している。
【0047】
図4に示すように、水素欠乏状態で進行した反応の総量が多い(水素欠履歴が多い)燃料電池ほど、電流−電圧特性が低下する。すなわち、所定の電流密度に対応する出力電圧値が、より低くなる。ここで、アノード触媒の形態変化が電池性能に与える影響は、低負荷運転時ほど大きくなる傾向がある。そのため、図4では、横軸に示す電流密度を対数目盛とすることによって、低負荷運転時における電池性能の違いをわかり易くしている。
【0048】
上記のように、電流−電圧特性と水素欠履歴との関係を、例えば実験により予め調べておけば、検出対象である単セルの電流−電圧特性を調べることにより、当該単セルにおける水素欠履歴の有無や、水素欠履歴が有る場合には、水素欠履歴がどの程度であるかを知ることができる。水素欠履歴の程度に基づいて、例えば、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に既に到達しているか否かを判断することができる。あるいは、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に到達していない場合には、(2)式のカーボン酸化反応が進行するようになるまでに、今後行なうことができる水素欠運転量(水素欠運転可能時間)を求めることができる。
【0049】
なお、図4では、水素欠履歴としての電流−電圧特性として、出力電流を広い範囲にわたって掃引してセル電圧を検出した結果を示しているが、電流−電圧特性としては、例えば、特定の出力電流値に対応するセル電圧のみを検出しても良い。図4に示すように、電流密度がIxであるときのセル電圧として、水素欠履歴が無いときのセル電圧や、水素欠履歴があるときには水素欠履歴の程度に応じたセル電圧を、例えばマップとして予め定めておくことができる。そして、検出対象の単セルについて、電流密度がIxであるときのセル電圧を測定して上記マップを参照することにより、当該単セルに水素欠履歴があるか否か、水素欠履歴が有る場合には、どの程度であるかを知ることができる。
【0050】
水素欠履歴としての電流−電圧特性を取得する際には、電圧センサ52が検出する燃料電池15全体の電圧を用いることも可能である。しかしながら、燃料電池15を構成するいずれかの単セル70において水素欠乏状態での発電が行なわれ、当該単セルにおける発電性能が低下している場合には、燃料電池15全体の電圧に基づいて、このような電池性能の低下を精度良く検出することは困難となる場合がある。そのため、水素欠履歴としての電流−電圧特性は、電圧センサ53の検出信号を用いて、個々の単セルごとに取得することが望ましい。本実施例では、水素欠履歴として、電流密度がIxであるときのセル電圧を、全ての単セルについて取得している。なお、単セルごとではなく、燃料電池15を、連続して配置された複数の単セルから成るブロックに分割して、ブロックごとに電圧を測定し、水素欠履歴をブロックごとに評価することとしても良い。
【0051】
上記のように燃料電池15の水素欠履歴を取得すると、制御部50は、取得した水素欠履歴を記憶する。このように、水素欠履歴を制御部50内に記憶することにより、燃料電池15を燃料電池システム10内で用いて通常の発電を次回以降に行なう際に、記憶した水素欠履歴を用いて、燃料電池15の運転制御を、後述するように変更することが可能になる。なお、水素欠履歴検出装置80の水素欠履歴取得部として制御部50を用いるのではなく、燃料電池システム10とは別体で水素欠履歴取得部を設ける場合には、水素欠履歴取得部が取得した水素欠履歴を、制御部50に対して別途入力すれば良い。
【0052】
D.水素欠履歴に基づく水素欠運転の可否に係る制御変更:
燃料電池システム10では、水素欠履歴検出装置80によって検出した水素欠履歴に基づいて、発電時に実行する制御を変更し、水素欠運転の進行を抑制することが可能である。例えば、本実施例の燃料電池システム10では、一部の単セルにおいて若干負電圧になる場合が生じることを許容しつつ、許容できる下限閾値として設定した下限電圧値よりもセル電圧が下回ることがないように、電圧制御を行なっている。下限電圧値を設けることにより、一部の単セルにおいて若干負電圧になることを許容しながら、水素欠履歴の過度の蓄積を抑制している。このような構成において、本実施例では、水素欠履歴がある程度以上蓄積されると、いずれの単セルにおいても負電圧になることを許容しないように制御を変更し、下限電圧値を0以上の値に修正している。これにより、水素欠運転に起因する更なる電池性能の低下を抑制することができる。
【0053】
D−1.下限電圧値に基づく水素欠運転抑制制御:
以下に、まず、若干の負電圧を許容しながら水素欠履歴の過度の蓄積を抑制する制御として行なわれる、下限電圧値に基づく制御について説明する。図5は、水素欠運転抑制制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10の制御部50のCPUにおいて、燃料電池15の発電中に、繰り返し実行される。
【0054】
本ルーチンが起動されると、制御部50のCPUは、電圧センサ53から、燃料電池15を構成する個々の単セル70の電圧を取得する(ステップS100)。そして、各単セル70の中に、電圧が下限電圧値Vth1を下回る単セルが存在するか否かを判断する(ステップS110)。下限電圧値Vth1とは、単セルの電圧がこれ以上低下すると、水素欠乏状態が許容できない程度に進行すると判断するための基準値として、予め設定した負の値である。
【0055】
ステップS110において、電圧が下限電圧値Vth1を下回る単セルが存在すると判断すると、制御部50のCPUは、水素不足解消処理を実行して(ステップS120)、本ルーチンを終了する。ステップS120で実行する水素不足解消処理としては、例えば、燃料ガス流量を増加させる処理を挙げることができる。燃料ガス流量を増加させる処理とは、具体的には、例えば燃料電池システム10において、水素循環ポンプ44の駆動量を増加させる処理を行なえば良い。あるいは、パージ弁46の開弁1回当たりの開弁時間を長くする、あるいは、開弁間隔を短くする、等により、パージ面46の単位時間当たりの開弁時間を長くする処理を行なえばよい。このような処理を行なって、燃料ガス流量を増加させることにより、セル内燃料ガス流路に滞留する液水を吹き飛ばして除去し、電圧低下セルにおける水素欠乏状態を解消することが可能になる。
【0056】
ステップS110において、電圧が下限電圧値Vth1を下回る単セルが存在しない場合には、制御部50のCPUは、解消すべき水素欠乏状態が生じていないと判断して、本ルーチンを終了する。
【0057】
このような水素欠運転抑制制御を行なうことにより、燃料電池において水素欠乏に起因する電圧低下(転極)が起こっても、直ちに水素欠乏を解消する処理を実行するため、水素欠履歴の過度の蓄積を抑制することができる。なお、ステップS110において下限電圧値Vth1を下回る電圧の単セルが存在するときに、電圧低下の原因が酸素欠乏である可能性がある場合には、ステップS120に先だって、酸素不足を解消するための処理を実行しても良い。すなわち、例えばコンプレッサ30の駆動量を増加させて、酸化ガス流量を増加させる制御を行なっても良い。そして、このような酸素不足を解消するための処理を行なっても、電圧が下限電圧値Vth1を下回る単セルが存在する場合に、ステップS120の水素不足解消処理を実行することとしても良い。
【0058】
D−2.水素欠履歴に基づく下限電圧値の補正:
本実施例の燃料電池システム10では、上記水素欠運転抑制制御処理を行ないつつ、水素欠履歴検出装置80が検出した水素欠履歴があるレベルを超えると、下限電圧値の補正を行なって、負電圧を許容しないように制御の変更を行なう。図6は、水素欠運転判断制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10の制御部50のCPUにおいて、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が行なわれた後に、燃料電池システム10を初めて起動する際に実行される。
【0059】
本ルーチンが起動されると、制御部50のCPUは、水素欠履歴を取得する(ステップS200)。既述したように、制御部50内には、水素欠履歴検出装置80によって検出された燃料電池15の水素欠履歴として、電流密度がIxであるときのセル電圧が全ての単セルについて記憶されている。ステップS200では、上記記憶しておいた水素欠履歴を読み込む。
【0060】
水素欠履歴を取得すると、制御部50のCPUは、取得した水素欠履歴に基づいて、今後、燃料電池15において水素欠運転を行なうことが可能か否かを判断する(ステップS210)。本実施例では、これ以上水素欠運転が行なわれると(2)式に示したカーボン酸化反応が進行する可能性が高まるため、水素欠運転を許容すべきではない、と判断するための基準値である基準セル電圧が、電流密度Ixであるときのセル電圧として定められている。ステップS210では、水素欠履歴として記憶した、電流密度がIxであるときのセル電圧と、上記基準セル電圧とを比較し、セル電圧が基準セル電圧以下である単セルが存在するときには、水素欠運転不能(許容しない)と判断する。このステップS210では、例えば、電流密度がIxであるときのセル電圧の最低値と、上記基準セル電圧とを比較すれば良い。
【0061】
ステップS210で水素欠運転不能と判断すると、制御部50のCPUは、図5のステップS110で用いる下限電圧値を、Vth1よりも大きな0以上の値である下限電圧値Vth2へと変更する(ステップS220)。ステップS110で用いる下限電圧を、0以上の値である下限電圧Vth2に変更することにより、それ以降、燃料電池システム10では、燃料電池15の最低セル電圧が負電圧とならないように、発電制御が行なわれる。
【0062】
ステップS220で下限電圧値の変更を行なった後、あるいは、ステップS210で水素欠運転可能と判断した後には、制御部50のCPUは、水素欠履歴の最新値の記憶を更新して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。このステップS230では、今回実行した水素欠運転判断制御処理のステップS200で取得した水素欠履歴(全ての単セルについての電流密度がIxであるときのセル電圧)を、「最新の水素欠履歴」として制御部50内に記憶する。上記したように、ステップS220において0以上の値であるVth2へと下限電圧値が変更された場合には、それ以降の燃料電池システム10では、発電時に図5の水素欠運転抑制制御処理を実行する際に、最低セル電圧が下限電圧値Vth2以上になるように制御が行なわれる。すなわち、燃料電池システム10では、燃料電池15の最低セル電圧が負電圧とならないように発電制御が行なわれるようになる。
【0063】
なお、ステップS210で水素欠運転の可否を判断する際には、ステップS100で取得した水素欠履歴と基準セル電圧とを単に比較するのではなく、図6の水素欠運転判断制御処理を前回実行した時にステップS230において制御部50内に記憶した「最新の水素欠履歴」をさらに考慮しても良い。このような前回のステップS230で記憶した「最新の水素欠履歴」と、今回のステップS200で取得した水素欠履歴とを比較すると、次回に水素欠履歴検出装置を用いた水素欠履歴の検出を行なうまでの間に、水素欠履歴が、基準セル電圧以下になることが予想される場合がある。すなわち、次回に水素欠履歴検出装置を用いた水素欠履歴の検出を行なうまでの間に、いずれかの単セルにおいて、(2)式に示したカーボン酸化反応が進行する可能性が高いと予想される場合がある。このような場合には、現在の水素欠履歴としてのセル電圧の最低値(電流密度がIxであるとき)が、基準セル電圧よりも大きい場合であっても、ステップS210において、水素欠運転不能と判断しても良い。
【0064】
ステップS210において水素欠運転不能と判断し、負電圧を許容しないように制御変更した後は、次回以降、燃料電池15の水素欠履歴の検出を行なった後に燃料電池システム10を起動する際に、図6の水素欠運転判断制御処理は行なわないこととすれば良い。これにより、処理の重複を避けつつ、水素欠運転を抑制する制御を継続することができる。
【0065】
また、図6では、ステップS210で水素欠運転不能と判断した場合のみ、下限電圧値の変更を行なっているが、異なる構成としても良い。例えば、水素欠運転を許容すると判断する場合(電流密度がIxであるときのセル電圧最低値が基準セル電圧を越える場合)であっても、水素欠履歴の蓄積の程度(電流密度がIxであるときのセル電圧最低値の低下の程度)に応じて、下限電圧値を、より大きな負の値へと変更する制御を行なっても良い。
【0066】
D−3.負電圧を許容しない制御を行なう変形例:
上記した実施例では、ステップS220で下限電圧値をVth1からVth2に変更すると、各セルが負電圧となることが抑えられる。また、本実施例では、燃料電池15において水素欠履歴がある程度蓄積されるまでは、セル電圧がある程度負電圧になることを許容しているが、当初から負電圧を許容しない制御を行なうシステムとすることも可能である。しかしながら、これらの場合であっても、何らかの要因により水素欠になる場合があり得る。このようなシステムにおいて、最低セル電圧の下限電圧を0以上に設定して制御を行なうにもかかわらず水素欠が生じて負電圧セルが生じた場合には、最低セル電圧の下限電圧を、より大きな正の値に変更することで、更なる負電圧を避けることが可能になる。以下に、本実施例と同様の燃料電池システム10において、ステップS210において水素欠運転不能と判断して負電圧を許容しないように制御変更した場合、あるいは、当初から負電圧を許容しない制御を行なう場合に、水素欠履歴に基づいて、最低セル電圧の下限電圧をさらに修正する構成を、第1実施例の変形例として以下に説明する。
【0067】
図7は、第1実施例の変形例としての水素欠運転判断制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10の制御部50のCPUにおいて、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が行なわれた後に、燃料電池システム10を初めて起動する際に、図6に示す水素欠運転判断制御処理ルーチンに代えて実行される。
【0068】
本ルーチンが起動されると、制御部50のCPUは、水素欠履歴を取得する(ステップS300)。このステップS300は、ステップS200と同様の処理である。
【0069】
水素欠履歴を取得すると、制御部50のCPUは、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が前回行なわれた後に、燃料電池15において水素欠履歴が蓄積されたか否かを判断する(ステップS310)。具体的には、図7の水素欠運転判断制御処理を前回実行した時に、後述するステップS340において制御部50内に記憶した「最新の水素欠履歴」と、今回のステップS300で取得した水素欠履歴とを比較する。すなわち、前回水素欠履歴を検出したときの電流密度Ixにおけるセル電圧と、今回水素欠履歴を検出したときの電流密度Ixにおけるセル電圧とを比較する。そして、いずれかの単セルで、電流密度Ixにおけるセル電圧が低下しているときには、水素欠履歴を前回検出した後に水素欠履歴が蓄積されたと判断する。
【0070】
ステップS310において、水素欠履歴を前回検出した後に水素欠履歴が蓄積されたと判断すると、制御部50のCPUは、図5のステップS110で用いる下限電圧値を、それまでに設定されていた0以上の値から、より大きな正の値へと変更する(ステップS330)。
【0071】
ステップS330において下限電圧値を変更すると、制御部50のCPUは、水素欠履歴の最新値の記憶を更新して(ステップS340)、本ルーチンを終了する。このステップS340は、図6のステップS230における処理と同様の処理である。なお、ステップS310において、水素欠履歴を前回検出した後に水素欠履歴が蓄積されていないと判断すると、制御部50のCPUは、そのまま本ルーチンを終了する。
【0072】
上記したように、ステップS330において、より大きな正の値へと下限電圧値が変更された場合には、それ以降の燃料電池システム10では、発電時に図5の水素欠運転抑制制御処理を実行する際に、最低セル電圧が、上記した変更後の下限電圧値以上になるように制御が行なわれる。これにより、それ以降の燃料電池システム10では、発電制御を行なう際に、燃料電池15の最低セル電圧を負電圧としない信頼性が高まる。
【0073】
なお、本実施例では、ステップS210、S220において、電流密度がIxであるときのセル電圧の最低値に基づいて、燃料電池15全体の下限電圧値の変更を行なって、水素不足解消処理(ステップS120)の要否を判断しているが、異なる構成としても良い。例えば、単セルごとに、検出した水素欠履歴に基づいて下限電圧値を設定・変更し、各々の単セルに設定された下限電圧値と、各々の単セルにおける通常発電時のセル電圧とを比較して、水素不足解消処理の要否を判断しても良い。
【0074】
E.水素欠履歴に基づく水素流量の制御変更:
水素欠履歴検出装置80によって検出した水素欠履歴に基づいて、燃料電池システム10の発電時に実行する制御変更の他の例として、例えば、水素流量(燃料ガス流量)の制御変更を挙げることができる。燃料電池15に供給する燃料ガスの流量は、多くするほど水素欠乏状態となる可能性を抑制できるが、燃料ガス流量を過剰にすると、燃料電池システム10全体のエネルギ効率の低下が引き起こされる。そのため、燃料電池システム10では、発電量に対して理論的に必要となる水素量に対してある程度の余裕を持たせつつ、水素の余剰量に起因するエネルギ効率の低下の程度が許容範囲となるように、通常発電時における燃料ガス流量が設定されている。具体的には、本実施例では、可変調圧弁42を制御することによって、燃料電池15へ供給される水素圧(燃料ガス圧)を一定値に調整すると共に、水素循環ポンプ44を制御することによって、燃料ガス流量を設定された値に調整している。
【0075】
本実施例では、燃料電池15において水素欠履歴有りと検出されたときに、上記燃料ガス流量の設定値を、より多く変更することにより、以後の通常発電時における水素欠乏状態を抑制している。図8は、燃料ガス流量制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10の制御部50のCPUにおいて、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が行なわれた後に、燃料電池システム10を初めて起動する際に実行される。
【0076】
本ルーチンが起動されると、制御部50のCPUは、水素欠履歴を取得する(ステップS400)。このステップS400は、ステップS200,S300と同様の処理である。
【0077】
水素欠履歴を取得すると、制御部50のCPUは、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が前回行なわれた後に、燃料電池15において水素欠履歴が蓄積されたか否かを判断する(ステップS410)。このステップS410は、ステップS310と同様の処理である。
【0078】
ステップS410において、水素欠履歴を前回検出した後に水素欠履歴が蓄積されたと判断すると、制御部50のCPUは、通常発電時における燃料ガス流量の設定値を、それまでに設定されていた値から、より大きな値へと変更する(ステップS420)。例えば、水素循環ポンプ44の駆動量を、負荷要求にかかわらず一定値に制御する場合には、当該一定値を、より大きな値へと変更すれば良い。あるいは、水素循環ポンプ44の駆動量を、負荷要求に応じて変更する場合には、負荷要求に応じて設定される水素循環ポンプ44の駆動量を、より大きな値へと変更すれば良い。
【0079】
ステップS420において、燃料ガス流量の設定値を増加させると、制御部50のCPUは、水素欠履歴の最新値の記憶を更新して(ステップS430)、本ルーチンを終了する。このステップS430は、ステップS230,S340と同様の処理である。なお、ステップS410において、前回に水素欠履歴を検出した後に水素欠履歴が蓄積されていないと判断すると、制御部50のCPUは、そのまま本ルーチンを終了する。
【0080】
上記したように、ステップS420において、燃料ガス流量の設定値が増加される場合には、それ以降の燃料電池システム10では、燃料電池15全体で水素欠乏状態が生じにくくなる。これにより、水素欠運転に起因する電池性能の低下の進行を、抑制することができる。また、水素欠履歴の蓄積が無い場合には、水素欠乏状態になる可能性が低い状態であると判断されるため、それまでに設定されている燃料ガス流量の設定値を維持して、燃料ガス流量を増加させることに起因するエネルギ効率の低下を抑制する。
【0081】
なお、燃料電池システム10において、既述した水素欠乏運転判断制御処理と燃料ガス流量制御処理の両方の処理を実行する場合には、同時に実行する処理において、ステップS200あるいはS300と、ステップS400とでは、同じ水素欠履歴を取得すればよい。また、ステップS230あるいはS340と、ステップS430とでは、同じ水素欠履歴を最新値として記憶すればよい。双方の処理を行なうことにより、燃料ガスの流量を増加させて水素欠乏状態になることを抑制しつつ、下限電圧値を高めて水素欠に起因する負電圧になることを抑えることができる。
【0082】
また、実施例の燃料電池システム10では、燃料電池15に対して純度の高い水素を循環供給しているが、異なる構成としても良い。例えば、燃料ガスを循環させることなく、電気化学反応に供された後の燃料ガスを燃料電池システム外に排出する場合であっても、負荷要求に応じて設定する燃料ガス流量を、より大きな値へと変更することで、同様の制御を行なうことができる。また、水素欠履歴を前回検出した後に水素欠履歴が蓄積されたと判断した時のように、水素欠乏状態で発電を行なった程度が基準値を超えた時に行なう燃料ガスの供給の制御変更は、燃料ガス量を増加させる制御変更以外の制御変更であってもよい。例えば、燃料ガス量の増加に代えて、あるいは燃料ガス量の増加に加えて、燃料ガスの圧力を増加させる制御変更を行なっても良い。あるいは、燃料電池に供給する燃料ガス中の不純物濃度を低減する制御変更を行なっても良い。具体的には、バージ弁46における開弁頻度を高めたり、1回当たりの開弁時間を長くすることにより、単位時間当たりの平均開弁時間を長くする制御変更を行なえばよい。いずれの制御変更を行なう場合であっても、同様に水素欠発電を抑制することができる。
【0083】
F.第1実施例のその他の構成:
F−1.報知信号の発生:
水素欠履歴検出装置80によって検出した水素欠履歴に基づいて行なう燃料電池システム10における制御変更の他の例として、例えば、燃料電池システム10において、燃料電池15の交換等を促すための報知信号を発生させる構成を挙げることができる。このような構成について以下に説明する。
【0084】
図9は、報知信号発生制御処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、燃料電池システム10の制御部50のCPUにおいて、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が行なわれた後に、燃料電池システム10を初めて起動する際に実行される。
【0085】
本ルーチンが起動されると、制御部50のCPUは、水素欠履歴を取得する(ステップS500)。このステップS500は、ステップS200,S300,S400と同様の処理である。
【0086】
水素欠履歴を取得すると、制御部50のCPUは、取得した水素欠履歴が、基準値以上であるか否かを判断する(ステップS510)。具体的には、本実施例のように水素欠履歴として電流密度がIxであるときのセル電圧を取得している場合には、当該セル電圧の最低値が、予め設定した基準電圧値以下であるか否かに基づいて判断する。基準電圧値とは、水素欠運転に起因する燃料電池15の性能低下が許容できない程度に進行していることを判断可能であれば良く、例えば、(2)式のカーボン酸化反応が進行する可能性が高い状態であることを判断可能な値として定めることができる。
【0087】
ステップS510において、水素欠履歴が基準値以上であると判断したとき、すなわち、電流密度がIxであるときのセル電圧の最低値が、既述した基準電圧値以下であるときには、制御部50のCPUは、報知部を駆動して(ステップS520)、本ルーチンを終了する。
【0088】
ここで、報知部とは、水素欠運転に起因する燃料電池15の性能低下が許容できない程度に進行していることを、燃料電池システム10の使用者(電気自動車90の使用者)に知らしめるための装置である。報知部は、例えば、電気自動車90の運転席近傍に設けた表示装置において、水素欠運転に起因する燃料電池15の性能低下が進行していることを視認可能に表示する装置とすることができる。あるいは、水素欠運転に起因する燃料電池15の性能低下が進行していることを音声により知らせる装置としても良い。なお、ステップS520における報知部の駆動の動作は、燃料電池システム10の起動時に1度だけ行なうのではなく、表示装置による表示を常に行なったり、燃料電池システム10を起動する度に音声による報知を行なうこととしても良い。ステップS520により、予め設定された所定のタイミングでの報知の動作が開始されればよい。
【0089】
ステップS510において、水素欠履歴が基準値未満であると判断したとき、すなわち、電流密度がIxであるときのセル電圧の最低値が、既述した基準電圧値を越えるときには、制御部50のCPUは、そのまま本ルーチンを終了する。
【0090】
F−2.水素欠運転可能時間の更新:
既述したように、電流−電圧特性と水素欠履歴との関係を予め調べておけば、電流−電圧特性を取得することにより、水素欠履歴の蓄積の程度として、(2)式のカーボン酸化反応が進行するようになるまでに、今後行なうことができる水素欠運転量(水素欠運転可能時間)を求めることができる。水素欠運転可能時間とは、水素欠履歴と、燃料電池15が水素欠乏状態で発電する際の電流密度と、燃料電池15の温度と、をパラメータとする、燃料電池15が水素欠乏状態で発電することが可能な時間である。燃料電池システム10の制御部50のCPUは、水素欠履歴と、水素欠運転時の電流密度と、燃料電池温度と、水素欠運転可能時間と、の関係を表わすマップを予め記憶しておけばよい。このような構成とすれば、水素欠履歴として電流密度がIxであるときのセル電圧を取得して、上記マップを参照することにより、燃料電池15が発電する際の電流密度が所定値であって、燃料電池温度が所定値であるときの、水素欠運転可能時間を導出することができる。
【0091】
水素欠運転可能時間は、例えば、水素欠履歴検出装置80による燃料電池15の水素欠履歴の検出が行なわれた後に、燃料電池システム10を初めて起動する際に、制御部50のCPUが導出すればよい。そして、新たに水素欠運転可能時間を導出したときには、制御部50内に記憶している水素欠運転可能時間を更新すればよい。
【0092】
本実施例では、燃料電池システム10を、電気自動車90の駆動用電源として用いているが、燃料電池が発電する際の電流密度や燃料電池温度が一定となる燃料電池システムでは、上記のような水素欠運転可能時間の導出が、より有用となる。すなわち、上記のように導出した水素欠運転可能時間から、その後の発電積算時間を減算することにより、常に、現在の水素欠運転可能時間を知ることが可能になる。
【0093】
G.第2実施例の水素欠履歴検出装置の構成:
第1実施例では、水素欠履歴として、アノードとカソードとを入れ替えて発電を行なったときの電流−電圧特性、具体的には、電流密度がIxであるときのセル電圧を取得しているが、異なる構成としても良い。以下に、カソードに対して水素含有ガスを供給する(あるいは、カソード側の流路に水素含有ガスを封入する)と共にアノードに対して不活性ガスを供給し、カソードを基準としてアノードの電位を掃引して、水素イオン脱着の酸化電流の積算値、あるいは、水素イオン吸着の還元電流の積算値を、水素欠履歴として取得する構成を、第2実施例として示す。
【0094】
図10は、第2実施例の水素欠履歴検出装置85を用いて、燃料電池15における水素欠履歴を検出する構成の概略を示すブロック図である。第2実施例では、第1実施例と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明を省略する。
【0095】
水素欠履歴検出装置85は、燃料電池15のカソードに対して水素を含有する水素含有ガスを供給するための水素含有ガス供給部と、燃料電池15のアノードに対して不活性ガスを供給するための不活性ガス供給部と、を備えている。不活性ガス供給部は、不活性ガス(例えば、窒素ガスやヘリウムガス)を充填した不活性ガスタンク31とすることができる。また、水素欠履歴検出装置85は、燃料電池15についてサイクリックボルタンメトリーの測定を行なうための電気化学測定部82を備えている。
【0096】
図10に示す本実施例の水素欠履歴検出装置85では、第1実施例と同様に、水素欠履歴検出装置85の一部として、燃料電池システム10の構成要素を用いている。具体的には、燃料電池15に接続される配管のつなぎ替えを行なうと共に配管を適宜引き回すことによって、水素含有ガス供給部として水素タンク20を用いている。また、水素供給流路22に対して不活性ガスタンク31を接続している。なお、水素欠履歴検出装置85の一部を、車載された燃料電池システム10の構成要素によって構成するのではなく、例えば、水素欠履歴検出装置85の構成要素を、燃料電池システム10と共に予め全て車載することとしても良い。あるいは、水素欠履歴検出装置85の構成要素として、燃料電池システム10の構成要素を用いないこととしても良い。
【0097】
電気化学測定部82は、ファンクションジェネレーターおよびポテンショスタットを含む、サイクリックボルタンメトリーの測定のための周知の装置である。
【0098】
水素欠履歴検出装置85を用いて燃料電池15の水素欠履歴を検出する際には、水素含有ガス供給部によってカソードに水素含有ガスを供給すると共に、不活性ガス供給部によってアノードに不活性ガスを供給し、電気化学測定部82を用いて、カソードを基準としてアノードの電位を掃引し、サイクリックボルタンメトリーの測定を行なう。制御部50は、サイクリックボルタンメトリーの測定結果に基づいて、水素イオン脱着の酸化電流の積算値、あるいは、水素イオン吸着の還元電流の積算値を、水素欠履歴として取得する。
【0099】
なお、燃料電池の発電中における水素欠乏状態は、個々の単セルごとにバラバラに起こり得るものであるため、既述したように、水素欠履歴は、単セルごとに求めることが望ましい。そのため、図10では燃料電池スタック全体に対して電気化学測定部82を接続する様子を示しているが、水素欠履歴を取得するためにサイクリックボルタンメトリーの測定を行なう際には、個々の単セルごとに電圧の掃引を行なうと共に、電流を測定することが望ましい。あるいは、燃料電池スタック全体に対して電圧の掃引を行なうと共に、個々の単セルごとに、電圧および電流の測定を行なっても良い。
【0100】
図11は、燃料電池15のカソードに水素含有ガスを供給すると共に、アノードに不活性ガスを供給し、カソードを基準としてアノードの電位を掃引して測定したサイクリックボルタモグラムの一例を表わす説明図である。サイクリックボルタンメトリーの測定を行なう際には、掃引する電圧に応じて特定の反応が進行するため、サイクリックボルタモグラムには、進行する反応に対応して流れる電流を表わす特徴的なパターンが表われる。すなわち、図11中に示すように、水素イオンの脱離波I1と、水素イオンの吸着波I4と、酸素種吸着波I2と、酸素種脱離波I3と、が表われる。
【0101】
具体的には、低電圧から電圧を上昇させると、燃料電池15では酸化電流が流れ、所定の範囲で電圧を上昇させるときには、アノードが備える触媒金属(白金)において、以下の(3)式の反応が進行し、水素イオンの脱離波I1が観測される。
Pt・H→Pt+H+e …(3)
そして、さらに電圧を上昇させると、アノードが備える触媒金属において、水の電気分解による反応である以下の(4)式の反応が進行し、酸素種吸着波I2が観測される。
Pt+HO→Pt・OH+2H+2e …(4)
【0102】
その後、電圧を低下させると、燃料電池15では還元電流が流れ、所定の範囲で電圧を低下させるときには、アノードが備える触媒金属において、以下の(5)式の反応が進行し、酸素種脱離波I3が観測される。
Pt・OH+2H+2e→Pt+HO …(5)
そして、さらに電圧を低下させると、アノードが備える触媒金属において、以下の(6)式の反応が進行し、水素イオンの吸着波I4が観測される。
Pt+H+e→Pt・H …(6)
【0103】
上記のようなサイクリックボルタモグラムのパターンは、燃料電池15における水素欠履歴の蓄積と共に変化する。図12は、カソードに水素含有ガスを供給すると共に、アノード不活性ガスを供給し、カソードを基準としてアノードの電位を掃引して測定したサイクリックボルタモグラムが、水素欠履歴の蓄積の程度によって変化する様子を示す説明図である。燃料電池15において水素欠履歴の蓄積の程度が大きくなるにつれて、サイクリックボルタモグラムは(a)から(b)、さらに(c)へと変化する。すなわち、水素欠履歴の蓄積の程度が大きくなるほど、各反応に対応するピーク波形が小さくなる。このような変化は、既述した(3)−(6)に示す反応が、実質的に反応に寄与し得るアノード触媒金属の表面積の大きさに応じて進行することによる。
【0104】
(3)−(6)の各々の反応の総量は、水素イオンの脱離波I1、酸素種吸着波I2、酸素種脱離波I3、水素イオンの吸着波I4の、いずれかの積算電荷として求めることができる。水素イオンの脱離波I1、酸素種吸着波I2、酸素種脱離波I3、水素イオンの吸着波I4、の各々の積算電荷は、それぞれ、水素イオンの脱離波I1、酸素種吸着波I2、酸素種脱離波I3、水素イオンの吸着波I4、の各々の面積として表わすことができる。例えば、図11では、水素イオン脱離波I1の面積をS1、酸素種脱離波I3の面積をS3として表わしている。したがって、サイクリックボルタモグラムにおける各々のピーク波形の面積は、実質的に反応に寄与し得るアノード触媒表面積、すなわち、水素欠履歴の蓄積の程度を表わしていると考えることができる。
【0105】
そのため、(3)−(6)のいずれかの反応の積算電荷(いずれかのピーク波形の面積)と水素欠履歴との関係を予め調べておけば、サイクリックボルタンメトリー特性に基づいて対応する反応の積算電荷(対応するピーク波形の面積)を求めることにより、第1実施例と同様に、燃料電池15における水素欠履歴の有無や、水素欠履歴が有る場合には、水素欠履歴がどの程度であるかを知ることができる。水素欠履歴の程度に基づいて、例えば、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に既に到達しているか否かを判断することができる。あるいは、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に到達していない場合には、(2)式のカーボン酸化反応が進行するようになるまでに、今後行なうことができる水素欠運転量(水素欠運転可能時間)を求めることができる。
【0106】
また、(3)−(6)のいずれかの反応の積算電荷とアノード触媒の表面積との関係を予め調べておけば、求めたサイクリックボルタンメトリー特性に基づいて対応する積算電荷を求めることにより、アノード触媒の表面積を求めることもできる。したがって、水素欠履歴として、いずれかの反応の積算電荷(ピーク波形の面積)を取得する他に、アノード触媒の表面積を取得することとしても良い。
【0107】
図13は、上記のように(3)−(6)のいずれかの反応に基づいて求めたアノード触媒表面積が、水素欠履歴の蓄積と共に小さくなる様子を表わす説明図である。図13中、横軸は、水素欠履歴検出装置85を用いたアノード触媒表面積の導出が、何回目であるかを表わす。既述したように、水素欠履歴の検出を車両の点検時に行なう場合には、車両点検の回数となる。縦軸は、アノード触媒表面積を示す。図13では、アノード触媒表面積の導出の2回目以降において、水素欠履歴の蓄積により表面積が次第に低下する様子が表わされている。
【0108】
上記のように、(3)−(6)のいずれの反応に基づいても、水素欠履歴を求めることは可能であるが、特に、水素イオン脱着の酸化電流、あるいは、水素イオン吸着の還元電流に基づいて、水素欠履歴を導出することが望ましい。(4)式および(5)式に示した酸素種の吸着・脱離に係る反応は、アノード触媒の近傍に、不純物等の他の物質が存在する場合には影響を受けやすいが、(3)式および(6)式に示した水素イオンの脱離・吸着に係る反応が、そのような影響が少ない。そのため、水素イオンの脱離波I1あるいは水素イオンの吸着波I4に基づくことにより、精度良く水素欠履歴を求めることが可能になるためである。したがって、本実施例では、水素イオン脱着の酸化電流の積算値、あるいは、水素イオン吸着の還元電流の積算値を、水素欠履歴として取得している。
【0109】
上記のように燃料電池15の水素欠履歴を取得すると、制御部50は、取得した水素欠履歴を記憶する。このように、水素欠履歴を制御部50内に記憶することにより、燃料電池15を用いて通常の発電を次回以降に行なう際に、記憶した水素欠履歴に基づいて、燃料電池15の運転制御を変更することが可能になる。具体的には、例えば、用いる水素欠履歴に応じた基準値を適宜設定することにより、図6あるいは図7に示したように下限電圧値を変更したり、図8に示したように燃料ガス流量を増加させたり、図9に示したように報知部を駆動することが可能になる。
【0110】
H.第3実施例の水素欠履歴検出装置の構成:
第2実施例では、カソードに対して水素含有ガスを供給すると共にアノードに対して不活性ガスを供給し、カソードを基準としてアノードの電位を掃引して、サイクリックボルタンメトリー特性に基づいて水素欠履歴を取得したが、異なる構成としても良い。以下に、カソードに対して水素含有ガスを供給すると共にアノードに対して酸素含有ガスを供給し、カソードを基準としてアノードの電位を掃引して、酸素種脱離の還元電流の積算電荷を水素欠履歴として取得する構成を、第3実施例として示す。
【0111】
図14は、第3実施例の水素欠履歴検出装置87を用いて、燃料電池15における水素欠履歴を検出する構成の概略を示すブロック図である。第3実施例では、第1および第2実施例と共通する部分には同じ参照番号を付して、詳しい説明を省略する。
【0112】
水素欠履歴検出装置87は、燃料電池15のカソードに対して酸素を含有する酸素含有ガスを供給するための酸素含有ガス供給部と、燃料電池15のアノードに対して酸素を含有する酸素含有ガスを供給するための酸素含有ガス供給部と、を備えている。また、水素欠履歴検出装置87は、第2実施例と同様に、燃料電池15についてサイクリックボルタンメトリーの測定を行なうための電気化学測定部82を備えている。
【0113】
図14に示す本実施例の水素欠履歴検出装置87では、第1実施例と同様に、水素欠履歴検出装置87の一部として、燃料電池システム10の構成要素を用いている。具体的には、燃料電池15に接続される配管のつなぎ替えを行なうと共に配管を適宜引き回すことによって、酸素含有ガス供給部としてコンプレッサ30を用いている。また、水素含有ガス供給部として水素タンク20を用いている。なお、水素欠履歴検出装置85の一部を、車載された燃料電池システム10の構成要素によって構成するのではなく、例えば、水素欠履歴検出装置85の構成要素を、燃料電池システム10と共に予め全て車載することとしても良い。あるいは、水素欠履歴検出装置85の構成要素として、燃料電池システム10の構成要素を用いないこととしても良い。
【0114】
水素欠履歴検出装置87を用いて燃料電池15の水素欠履歴を検出する際には、水素含有ガス供給部によってカソードに水素含有ガスを供給すると共に、酸素含有ガス供給部によってアノードに酸素含有ガスを供給し、電気化学測定部82を用いて、カソードを基準としてアノードの電位を掃引し、サイクリックボルタンメトリーの測定を行なう。制御部50は、サイクリックボルタンメトリーの測定結果に基づいて、酸素種脱離の還元電流の積算電荷を、水素欠履歴として取得する。なお、第2実施例と同様に、水素欠履歴を取得するためにサイクリックボルタンメトリーの測定を行なう際には、個々の単セルごとに電圧の掃引を行なうと共に電流を測定する、あるいは、燃料電池スタック全体に対して電圧の掃引を行なうと共に、個々の単セルごとに電圧および電流の測定を行なうこととすれば良い。
【0115】
サイクリックボルタンメトリー測定を行なう際には、基本的には、(3)−(6)式に示した4つの反応が起こり得る。しかしながら、本実施例のように、アノードに酸素含有ガスを供給する場合には、第2実施例のようにアノードに不活性ガスを供給する場合とは異なり、必ずしも図11に示した4つのピーク波形が観測されるとは限らない。特に、酸化電流である水素イオン脱着波I1と酸素種吸着波I2は、アノードに供給する酸素含有ガス量を極めて少なくしないと得難い。このように供給ガス量を過度に抑制することは、反応の観測条件を不安定にするため、精度良く水素欠履歴を検出するためには、酸素種脱離波I3あるいは水素イオン吸着波I4を用いることがより望ましい。また、サイクリックボルタンメトリー測定の際には、電圧降下と共に、まず酸素種脱離波I3が表われ、その後、水素イオン吸着波I4が出現する。そのため、酸素種脱離波I3を用いることとすれば、水素イオン吸着波I4が出現するまで電圧の掃引を行なう必要が無い。したがって、検出の精度と簡便さの検知から、酸素種脱離波I3を用いて水素欠履歴を求めることが最も望ましく、本実施例では、酸素種脱離の還元電流の積算値を、水素欠履歴として取得している。
【0116】
なお、アノードに供給する酸素含有ガス量が多いと、通常の発電時にカソード上で進行する反応と同様の反応が、アノード触媒上で進行する。このような反応が進行すると、このような反応による波形が重なって出現するため、(5)式の反応に対応する酸素種脱離波I3が、ピーク波形として得られなくなる。そのため、サイクリックボルタンメトリ−測定を行なう際には、酸素種脱離波I3が観測可能になる程度に、充分に酸素含有ガス量を抑制する必要があり、アノードに対する酸素含有ガスの供給を停止した状態で測定を行なっても良い。
【0117】
第2実施例と同様に、(5)式の反応の総量は、酸素種脱離波I3の積算電荷として求めることができる。また、酸素種脱離波I3の積算電荷は、酸素種脱離波I3の面積として表わすことができる。そして、(5)式の反応の積算電荷(ピーク波形の面積)と水素欠履歴との関係を予め調べておけば、サイクリックボルタンメトリー特性から積算電荷(ピーク波形の面積)を求めることにより、第1および第2実施例と同様に、燃料電池15における水素欠履歴の有無や、水素欠履歴が有る場合には、水素欠履歴がどの程度であるかを知ることができる。水素欠履歴の程度に基づいて、例えば、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に既に到達しているか否かを判断することができる。あるいは、(2)式のカーボン酸化反応が進行する状態に到達していない場合には、(2)式のカーボン酸化反応が進行するようになるまでに、今後行なうことができる水素欠運転量(水素欠運転可能時間)を求めることができる。
【0118】
また、(5)式の反応の積算電荷とアノード触媒の表面積との関係を予め調べておけば、求めたサイクリックボルタンメトリー特性に基づいて対応する積算電荷を求めることにより、アノード触媒の表面積を求めることもできる。したがって、水素欠履歴として、酸素種脱離波I3の積算電荷(ピーク波形の面積)を取得する他に、アノード触媒の表面積を取得することとしても良い。
【0119】
上記のように燃料電池15の水素欠履歴を取得すると、制御部50は、取得した水素欠履歴を記憶する。このように、水素欠履歴を制御部50内に記憶することにより、燃料電池15を用いて通常の発電を次回以降に行なう際に、記憶した水素欠履歴に基づいて、燃料電池15の運転制御を変更することが可能になる。具体的には、例えば、用いる水素欠履歴に応じた基準値を適宜設定することにより、図6あるいは図7に示したように下限電圧値を変更したり、図8に示したように燃料ガス流量を増加させたり、図9に示したように報知部を駆動することが可能になる。
【0120】
なお、サイクリックボルタンメトリー測定を行なって(5)式の反応の積算電荷を水素欠履歴として取得する代わりに、電圧制御を行なって求められる還元電流(電荷)に基づいて水素欠履歴を取得することもできる。すなわち、第3実施例の水素欠履歴検出装置87において、電気化学測定部82を構成要件として有しない構成も可能である。既述したように、カソードに対して水素含有ガスを供給すると共にアノードに対して酸素含有ガスを供給する際に、アノードに供給する酸素含有ガス量が多いと、通常の発電時にカソード上で進行する反応と同様の反応が、アノード触媒上で進行する。そのため、このような反応が進行しないような充分に小さい酸素含有ガス流量を、例えば実験的に、あるいは予想される触媒吸着物の量に基づいて、予め定めておくことができる。このように予め定めた流量の酸素含有ガスをアノードに供給しつつ、燃料電池15の電圧を制御上限に保持し、その後電圧を低下させると、燃料電池15の電流は、触媒吸着物の電荷に応じたピークを示す。すなわち、電流は、一旦上昇して、その後低下する。電圧値を最も低下させた際の電流を基準としたときの、上記ピークとして示される還元電流の積算値(電荷)は、触媒吸着物の量を反映する。そのため、このような積算値を、第3実施例における(5)式の反応の積算電荷と同様に、水素欠履歴として用いることができる。
【0121】
I.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0122】
E1.変形例1:
既述した説明では、燃料電池15は、固体高分子型燃料電池としたが、他種の燃料電池を備える燃料電池システムにおいても、本願発明を同様に適用することができる。アノードに供給される水素量が不足することによりアノードで触媒形態変化が起こり得る燃料電池であれば、本願を適用することにより、第1ないし第3実施例と同様の効果を得ることができる。
【0123】
E2.変形例2:
第1ないし第3実施例では、燃料電池システム10を電気自動車90の駆動用電源として用いたが、異なる構成としても良い。車両以外の移動体の駆動用電源としてもよく、また、燃料電池システムを、定置型電源として用いても良い。いずれの場合であっても、本発明の水素欠履歴検出装置を用いて燃料電池の水素欠履歴を検出することにより、第1ないし第3実施例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0124】
10…燃料電池システム
15…燃料電池
20…水素タンク
22…水素供給流路
24…水素排出流路
25…接続流路
30…コンプレッサ
31…不活性ガスタンク
32…空気供給流路
34…空気排出流路
35…流路切り替え部
40…水素遮断弁
42…可変調圧弁
44…水素循環ポンプ
46…パージ弁
47…流路切り替え部
50…制御部
51…電流センサ
52,53…電圧センサ
56…配線
57…負荷
60…冷媒循環ポンプ
61…ラジエータ
62…冷媒流路
63…冷媒温度センサ
70…単セル
80…水素欠履歴検出装置
81…出力制御部
82…電気化学測定部
85…水素欠履歴検出装置
87…水素欠履歴検出装置
90…電気自動車
92…DC/DCコンバータ
93…駆動インバータ
94…補機
95…駆動モータ
98…出力軸
99…車両駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記燃料電池に接続される負荷を備え、前記発電する際とは逆向きに前記燃料電池から電流を出力させる出力制御部と、
前記酸素含有ガス供給部により前記第1の電極に対して前記酸素含有ガスを供給しつつ、前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給すると共に、前記出力制御部により前記燃料電池から電流を出力させる際の、前記燃料電池における電流−電圧特性を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の水素欠履歴検出装置であって、
前記水素欠履歴取得部は、特定の電流密度に対応する出力電圧の値を、前記水素欠履歴として取得する
水素欠履歴検出装置。
【請求項3】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記不活性ガス供給部により前記第1の電極に対して前記不活性ガスを供給しつつ、前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給すると共に、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、水素イオン吸着の還元電流の積算電荷、あるいは、水素イオン脱着の酸化電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【請求項4】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出装置であって、
前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、
前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する水素含有ガス供給部と、
前記水素含有ガス供給部により前記第2の電極に対して前記水素含有ガスを供給しつつ、前記酸素含有ガス供給部からの前記酸素含有ガスが前記第1の電極に供給された状態にすると共に、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、酸素種脱離の還元電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する水素欠履歴取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか記載の水素欠履歴検出装置であって、
前記第1の電極は、触媒金属を担持する担体としてカーボン担体を備え、
前記水素欠履歴検出装置は、さらに、
前記水素欠履歴と、前記燃料電池が水素欠乏状態で発電する際の電流密度および前記燃料電池の温度をパラメータとする水素欠可能時間であって、前記燃料電池が、前記第1の電極の触媒金属を担持するカーボンの酸化反応を進行することなく水素欠乏状態で発電することが可能な時間である水素欠可能時間との関係を記憶する記憶部と、
前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記記憶部を参照して、所定の電流密度および所定の燃料電池温度における前記水素欠可能時間を取得する水素欠可能時間取得部と
を備える水素欠履歴検出装置。
【請求項6】
複数の単セルを積層して成る燃料電池を備える燃料電池システムであって、
各々の前記単セルの電圧を検出するセル電圧検出部と、
前記セル電圧検出部が検出した電圧の最低値である最低セル電圧が、予め定めた下限電圧値以下であるときには、前記燃料電池に供給する水素量の不足を解消するための処理を実行する水素不足解消制御部と、
前記最低セル電圧を上昇させるためのセル電圧上昇制御を実行する下限電圧制御部と、
請求項1ないし5いずれか記載の水素欠履歴検出装置から、前記燃料電池に係る水素欠履歴を取得する水素欠履歴取得部と
を備え、
前記水素不足解消制御部は、前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記水素欠乏状態で発電を行なった程度が基準値を越えたときには、前記下限電圧値をより高く補正する下限電圧補正部を備える
燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池を備える燃料電池システムであって、
前記燃料電池のアノードに、水素を含有する燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、
前記燃料ガス供給部による前記燃料電池に対する前記燃料ガスの供給を制御する燃料ガス供給制御部と、
請求項1ないし5いずれか記載の水素欠履歴検出装置から、前記燃料電池に係る水素欠履歴を取得する水素欠履歴取得部と
を備え、
前記燃料ガス供給制御部は、前記水素欠履歴取得部が取得した前記水素欠履歴に基づいて、前記水素欠乏状態で発電を行なった程度が基準値を越えたときには、前記燃料電池が水素欠乏状態で発電する水素欠発電を抑制するように、前記燃料電池に対する前記燃料ガスの供給制御を変更する
燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給制御部は、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの量を増加させる制御変更、および、前記燃料電池に供給する前記燃料ガスの圧力を増加させる制御変更から選択される制御変更によって、前記水素欠発電を抑制する
燃料電池システム。
【請求項9】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出方法であって、
(a)前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する工程と、
(b)前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する工程と、
(c)前記(a)工程および前記(b)工程を実行しつつ、前記発電する際とは逆向きに前記燃料電池から電流を出力させる工程と、
(d)前記(c)工程において前記燃料電池から電流を出力させる際の、前記燃料電池における電流−電圧特性を、前記水素欠履歴として取得する工程と
を備える水素欠履歴検出方法。
【請求項10】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出方法であって、
(a)前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、不活性ガスを供給する工程と、
(b)前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスを供給する工程と、
(c)前記(a)工程および前記(b)工程を実行しつつ、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、水素イオン吸着の還元電流の積算電荷、あるいは、水素イオン脱着の酸化電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する工程と
を備える水素欠履歴検出方法。
【請求項11】
燃料電池において過去に水素欠乏状態で発電を行なった程度を示す水素欠履歴を検出するための水素欠履歴検出方法であって、
(a)前記燃料電池が発電する際にアノードとなる第1の電極に対して、酸素を含有する酸素含有ガスを供給する工程と、
(b)前記燃料電池が発電する際にカソードとなる第2の電極に対して、水素を含有する水素含有ガスが供給された状態にする工程と、
(c)前記(a)工程および前記(b)工程を実行しつつ、前記第2の電極を基準として前記第1の電極の電位を掃引する際の、酸素種脱離の還元電流の積算電荷を、前記水素欠履歴として取得する工程と
を備える水素欠履歴検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−174631(P2012−174631A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38017(P2011−38017)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】