説明

水素製造用触媒および水素の製造方法

【課題】 低い反応温度においても高い転化率で効率的に脱水素反応を促進する触媒、及び該触媒を用いる効率の高い水素の製造方法を提供する。
【解決手段】 白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、スズ、レニウム、及びゲルマニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が40〜80Åである、水素を生成する単環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒、及び該水素製造用触媒と単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油とを接触させて水素を発生させる水素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単環芳香族炭化水素の水素化物からなる組成物から高純度水素ガスを効率良く製造することができる触媒及び該触媒を用いる水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題から、新しいエネルギー源として水素が有望視されており、例えば水素を直接燃料として用いる水素自動車、あるいは水素を用いる燃料電池などの開発が進められている。燃料電池は小型でも高い発電効率を有しており、加えて騒音や振動も発生しない、さらに廃熱を利用することができるなどの優れた利点を有している。
【0003】
一方、水素をエネルギー源として利用するに当っては、燃料となる水素を安全にかつ安定的に供給することが欠かせない。圧縮水素、液体水素として直接供給する方法、水素吸蔵合金やカーボンナノチューブなどの水素吸蔵材料を利用して水素を貯蔵、供給する方法、メタノールや炭化水素を水蒸気改質して水素を供給する方法など、種々の方法が提案されている。
【0004】
これらに並ぶ水素の供給方法として、近年、水素吸蔵率が高く、水素吸蔵と水素供給を繰返し行い再利用が可能であるとの理由から、有機ハイドライド(以下、水素化芳香族化合物ともいう。)を用いることが注目されている。例えば、特許文献1には、有機ハイドライドを用いた水素製造について開示されているが、この方法では十分な転化率は得られていなかった。
【0005】
特許文献2には、表面積150m/g以上、細孔容量0.55cm/g以上、平均細孔径が90〜200Åであり、かつ細孔径90〜200Åの範囲の細孔容量が全細孔容量の60%以上を占めるγ−アルミナ担体に酸化亜鉛を担持した担体を600℃以上の高温で10時間以上焼成して結晶構造の大半がスピネル構造となった複合酸化物からなる複合担体に、白金、スズおよび周期律表の第1A族および第2A族からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ性金属が担持され、該アルカリ性金属の担持が前記スズの担持よりも先に行われている触媒を用いて、水素化芳香族化合物を脱水素反応させることにより効率よく水素を製造する方法が示されている。
【0006】
しかしながら、水素化芳香族化合物の脱水素反応は吸熱反応であり、外部よりエネルギーの投入が必要となるため、本反応を利用する水素の製造においては、より低温でかつ高い転化率で脱水素反応が進む方法が望まれている。さらに、本反応を利用して水素ステーション等で水素を大量に製造するためには性能に加えて安価な触媒であることが望まれている。
【特許文献1】特開2001−110437号公報
【特許文献2】特開2004−196638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低い反応温度においても高い転化率で効率的に脱水素反応を促進する触媒、及び該触媒を用いる効率の高い水素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、水素を製造するための原料として用いる水素化芳香族化合物と脱水素反応の触媒の物性の関係に着目して鋭意検討した結果、単環芳香族炭化水素の水素化物を用いて脱水素反応を行うに際して、特定の細孔径、細孔容量を有する触媒を用いることにより水素を効率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示す水素製造用触媒及び該触媒を用いる水素の製造方法に関するものである。
1.白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、スズ(Sn)、レニウム(Re)、及びゲルマニウム(Ge)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が40〜80Åである、水素を生成する単環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒。
2.細孔径40〜80Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.12cm/g以上であり、かつ、全細孔容量の50%以上を占める上記1に記載の水素製造用触媒。
3.多孔質担体がAl及び/又はSiOからなる、上記1又は2に記載の水素製造用触媒。
【0010】
4.単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を上記1〜3のいずれかに記載の触媒と接触させることにより水素を発生させることを特徴とする水素の製造方法。
5.単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が1以上である化合物を20質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
6.単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物のシシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上である化合物を20質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
【0011】
7.単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が1以上である化合物を60質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
8.単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上である化合物を60質量%以上含有する、上記4に記載の水素の製造方法。
9.単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、及びターシャリーブチル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の電子供与性置換基である、上記4〜8のいずれかに記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水素製造用触媒を用いることにより、単環芳香族炭化水素の水素化物から、低い反応温度においても転化率と選択率の高い脱水素反応を行うことが可能となり、水素製造におけるエネルギー投入量が節減され、効率的に高純度な水素を製造できるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、脱水素反応に用いる触媒としては、Pt、Ru、Pd、Rh、Sn、Re、及びGeよりなる群から選択される少なくとも1種の金属が担持され、触媒の平均細孔径が40〜80Åの範囲である触媒を用いる。更には、細孔径40〜80Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.12cm/g以上、より好ましくは0.15cm/g以上であり、かつ、全細孔容量の50%以上、より好ましくは60%以上を占めることが好ましい。
平均細孔径が40Å未満の触媒では、反応対象分子である単環芳香族化合物の拡散が困難になり、脱水素反応性が低下する。平均細孔径が80Å以上を超える触媒では、反応対象となる細孔が必要十分以上に大きくなり、決められた大きさの反応器に充填する際に、反応器に含まれる触媒量が少なくなる、即ち触媒のかさ密度が低下して、触媒容量あたりの性能が低下する。
また、反応に有効な細孔径の範囲となる40〜80Åの細孔容量が十分な容量でないと、反応対象物が細孔内に取り込まれる量が少なくなり反応性が低下する。また、細孔径40〜80Åの細孔容量が全容量の50%以下では反応に有効な細孔径サイズの反応場を十分に得ることができず、脱水素反応性を高めることができない。
上記の本発明の効果を確保するために、金属担持率は0.001〜10質量%で担持することが好ましくは、より好ましくは0.01〜5質量%である。0.001質量%未満では十分な脱水素反応が得られず、一方10質量%を超えて担持しても、金属の増量に見合う効果が得られない。
【0014】
また、触媒の担体としてはAlあるいはSiOが好ましい。これらの担体は40〜80Åの範囲に平均細孔径を制御しやすく、かつ反応に有効な細孔径40〜80Åの範囲の細孔の細孔容量を0.12cm/g以上とすることが容易となる。さらには、副反応を促進させる酸点も少なく、かつ担持させる金属粒子を担体表面に安定的に固定させることが可能となる。担体としてAlとSiOは、それぞれ単独で用いてもよいし、適宜に割合で両者を組み合わせて用いてもかまわない。
【0015】
本発明の触媒は、例えば次のようにして製造することができる。原料粉に水及び硝酸を添加して混練する。原料粉としては、ベーマイト粉、無定形のシリカ粉、あるいはシリカアルミナ粉を用いる。あるいは、ベーマイト粉と無定形のシリカ粉を混練してもよい。混練は、一般に触媒調製に用いられている混練機により行うことができる。混練時間は、通常30〜120分である。
得られた混練物を、成形機を用いて、例えば0.5〜5mmの球状、円柱状、円筒状などに成形した後、乾燥する。成形機としては、例えばスクリュー型成形機など、一般に触媒調製に用いられている成形機を用いることができる。乾燥は、通常、常温〜150℃、特には100〜130℃の温度で、例えばオーブン中で乾燥する。次いで、乾燥させた成形物を焼成する。焼成は、350〜800℃で0.5時間以上、好ましくは400〜700℃、更には450〜650℃で0.5〜5時間焼成する。焼成には、例えばロータリーキルンなどの焼成装置を用いることができる。
【0016】
本発明においては、触媒の平均細孔径を40〜80Åとすることが必要であるが、原料粉を混練する際に添加する硝酸の量を制御することにより本発明の特定の平均細孔径を有する触媒を得ることができる。原料粉と添加する水の量に対する硝酸量を多くするほど、細孔径は小さくなる。硝酸量に対して平均細孔径は概略1次式で予想される相関関係を示すので、予め、使用する原料粉を用いて硝酸量と平均細孔径との相関を求め、実際に使用する硝酸濃度を決定する。異なる原料粉を用いる場合は、同様にして硝酸濃度の調整が可能である。
【0017】
上記のようにして得られた担体に、本発明の特定の金属を担持する。金属の担持方法は、特に限定されないが、通常、担体の細孔容量と同量の金属の水溶液をスプレーで担体に吹き付けるポアフィリング法で行う。例えば、Ptを担持する場合、塩化白金酸の水溶液を用いる。担持液を含浸したペレットを、次いで乾燥した後、焼成することにより触媒が得られる。乾燥は、常温〜150℃、更には100〜130℃の温度において、通常、2時間以上、好ましくは2〜10時間、更には4〜8時間乾燥する。焼成は、乾燥空気流通下、450〜700℃、好ましくは500〜600℃で、0.5〜4時間行なう。
【0018】
本発明において、水素を製造するための原料としては、単環芳香族炭化水素の水素化物を含有する油を用いる。単環芳香族炭化水素の水素化物の他に、多環芳香族炭化水素の水素化物、パラフィン系炭化水素などを含んでいても良い。水素ガスの製造効率、副反応の発生などの観点から、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有する油を用いることが好ましく、100質量%含有する油を使用することが望ましい。単環芳香族炭化水素の水素化物は、単一の化合物を用いることもでき、2種以上の化合物からなるものであっても良い。また、単環芳香族炭化水素の水素化物としては、該水素化物のシクロヘキサン環上に炭化水素基の置換基を有するものが好ましく使用でき、シクロヘキサン環上の置換基の数が1以上を有する化合物がより好ましく、更にはシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上を有する化合物が好ましい。
上記の単環芳香族炭化水素の水素化物を含有する油は、シクロヘキサン環上の置換基の数が1以上であるものを少なくとも20質量%以上含有する油が好ましく、更にはシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上であるものを少なくとも20質量%以上含有する油がより好ましい。
【0019】
さらには、単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油において、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が1以上である化合物を60質量%以上含む油がより好ましく使用でき、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上である化合物を60質量%以上含む油を更に好ましく使用できる。
上記の本発明による単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を用いることにより、同じ転化率に達成する反応温度を下げることができる。
【0020】
単環芳香族炭化水素の水素化物は、炭素数6〜14のものが好ましく、7〜14がより好ましく、8〜10がさらに好ましい。
上記水素化物のシクロヘキサン環上の置換基としては、電子供与性の置換基であることが望ましい。電子供与性の置換基を有することにより、脱水素反応における反応性が高くなる。電子供与性置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、あるいはターシャリーブチル基を例示することができる。これらの置換基のうち、メチル基、エチル基が好ましい。なお、単環芳香族炭化水素の水素化物が、複数の置換基を有する場合、複数の置換基は、同一であっても、それぞれ異なるものであってもよい。
【0021】
本発明において、上記組成物中に含まれる置換基の数が1以上の化合物としては、例えば、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、ジプロピルシクロヘキサン、ジイソプロピルシクロヘキサン、ジブチルシクロヘキサン、ジイソブチルシクロヘキサン、ジ−tert−ブチルシクロヘキサン、エチルメチルシクロヘキサン、メチルプロピルシクロヘキサン、ブチルメチルシクロヘキサン、エチルプロピルシクロヘキサン、ブチルエチルシクロヘキサン、ブチルプロピルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、テトラメチルシクロヘキサン、トリエチルシクロヘキサンなどを例示することができる。
【0022】
本発明に用いる水素製造用の単環芳香族炭化水素の水素化物からなる組成物の製造方法は、上記の単環芳香族炭化水素の水素化物を含むものであれば特に限定はされない。例えば、原油から蒸留、水素化脱硫、水素化精製、接触改質、接触分解、溶剤抽出ないし吸着分離などの周知の石油精製プロセスを適宜組み合わせて処理して得たアルキルベンゼン類を水素化することにより得ることができる。アルキルベンゼン類の水素化、すなわち芳香族環の核水添を行う水素化反応には、周知の方法を用いることができる。例えば、水素化触媒の存在下に、反応温度50〜400℃、好ましくは80〜350℃、水素分圧0.1〜10MPa、好ましくは0.3〜2MPaの条件で行えばよい。
【0023】
水素化触媒としては、市販または公知の各種水素化触媒を使用することができ、たとえばニッケル系、貴金属系、金属硫化物系の水素化触媒を用いることができる。単環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応を行う際には貴金属触媒を使用することがあるので、水素化物中には、触媒毒となる硫黄分や窒素分をできるだけ含まないものが好ましく、硫黄分、窒素分はともに1質量ppm以下であることが好ましい。
また、水素製造反応における取り扱いを容易にするため、単環芳香族炭化水素の水素化物は、常温で液体、好ましくは流動点が−30℃以下であるものを選択する。
【0024】
本発明において、単環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応により水素を製造する方法においては、本発明の脱水素反応触媒の存在下、例えば、反応温度100〜450℃、好ましくは200〜400℃、水素分圧0.1〜5MPa、好ましくは0.3〜2MPaの条件で原料である単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油と水素を流通することにより実施される。
単環芳香族炭化水素の水素化物を原料として用いる脱水素反応において、本発明の触媒を用いることにより、低い反応温度でありながら、高い転化率及び選択率を達成することができる。
【0025】
脱水素反応を行った後、単環芳香族炭化水素(未反応の水素化物を含む)を回収し、水素化反応(芳香族環の核水添反応)を行い対応する水素化物とすることにより、水素製造用の原料として繰り返し利用することができる。したがって、水素供給源で単環芳香族炭化水素を水素化して単環芳香族炭化水素の水素化物を製造して、これを水素消費地に輸送して本発明の水素製造用触媒にて脱水素反応を行って水素を製造し、燃料電池等の水素を供給することができる。また、脱水素反応で生じた単環芳香族炭化水素は、上記のように再び水素供給源に輸送され水素化して単環芳香族炭化水素の水素化物を製造する。本発明はこのような水素の供給システムに有用である。
【0026】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、係る実施例によって何ら制限されない。
【0027】
なお、転化率、選択率、反応速度定数は、それぞれ次のように定義する。
(1)転化率
転化率(%)=100−未反応の原料のGC面積百分率
ここで、GC面積百分率はガスクロマトグラムにより検出された全ての有機化合物のピーク面積に対する対応する化合物のピーク面積百分率を指す。なお、原料として供される単環芳香族炭化水素の水素化物は、全ての芳香族炭化水素が水素化されているものとした。
(2)選択率
選択率(%)=生成した脱水素物のGC面積百分率/(100−未反応の原料のGC面積百分率)×100
(3)反応速度定数
反応速度定数(hr−1・(cm)−1
=液空間速度(hr−1)×LN(1/(1−転化率%/100))/触媒容積 (cm)
【0028】
(触媒の調製)
市販のベーマイト原料1000gに水1000gと70質量%硝酸30gを加えて、転動造粒機により球状の担体前駆体を得た。得られた担体前駆体を8時間130℃で乾燥後、600℃で回転型焼成機に乾燥空気を4L/min流通させ焼成を行うことにより担体1を得た。担体1の時の半分の硝酸量、即ち市販ベーマイト原料1000gに水1000gと硝酸15gを加えて、同様に転動造粒による成形と乾燥後に焼成を行い、担体2を得た。このようにして製造した2種類のAl担体(担体1と担体2)それぞれに、塩化白金酸六水和物を用いてPtを0.5質量%となるように含浸法により担持して、130℃で8時間乾燥後、500℃で30分、乾燥空気8L/min流通下で焼成を行い、粉砕、分級することにより粒径0.5〜1.0mmの触媒粒子を得た。得られた触媒を窒素吸着法による細孔径分布測定装置を用いて比表面積はBET法、細孔分布はBJH法により求めた細孔容量の積算値が50%となる時の細孔径を平均細孔径と定義して、細孔物性が異なる2種類の触媒1(実施例)及び触媒2(比較例)を得た。それぞれの触媒の物性を表1に示す。
【0029】
【表1】

【実施例1】
【0030】
上記触媒1を固定床流通式反応装置に10cm充填し、触媒層温度300〜350℃、反応圧力=0.3MPa、液空間速度(LHSV)=3hr−1、水素/オイル比(H/Oil)=3mol/molの条件下でメチルシクロヘキサン(MCHX)を脱水素反応し、トルエン及び水素の生成反応活性を調べた。反応後8時間経過後の安定状態における2時間平均の触媒層温度及び採取した生成油のガスクロ分析による転化率、選択率、及び反応速度定数を求めた。それらの結果を、表2にまとめて示す。
【実施例2】
【0031】
メチルシクロヘキサンの脱水素反応条件を、LHSV=5hr−1、H/Oil=1.5mol/molとした以外は、前記実施例1に記載した手順と全く同じ手順で行い、前記実施例1と同様にして、転化率、選択率、及び反応速度定数を求めた。結果を、実施例1と同様に表2に示す。
【比較例1】
【0032】
触媒2を用いた以外は、前記実施例1と全く同様にしてメチルシクロヘキサンの脱水素反応を実施した。結果を、実施例1と同様に表2に示す。
【比較例2】
【0033】
触媒2を用い、メチルシクロヘキサンの脱水素反応条件をLHSV=5hr−1、H/Oil=1.5mol/molとした以外は、前記比較例1と全く同様にして、メチルシクロヘキサンの脱水素反応を実施した。その結果を、実施例1と同様に表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1及び2で用いた触媒は平均細孔径が72.9Åのものであるが、比較例1及び2の平均細孔径95.7Åの触媒と比較して、容量あたりの触媒性能を表す反応速度定数は、実施例1及び2が対応する比較例1及び2に対して液空間速度が3の時、約16%、及び5の時で約5%、それぞれ高い値となっている。
また、実施例1及び2は、それぞれ対応する比較例1及び2より低い触媒層温度でありながらより高い転化率を得ていることが分かる。
【実施例3】
【0036】
市販キシレン混合物(オルト-キシレン、メタ-キシレン、パラ-キシレンの混合物)を市販のNi触媒で完全水素化し、ジメチルシクロヘキサン混合物(DMCHX)を得た。
流通式反応装置の中に10mLの実施例1と同じ触媒を充填し、ジメチルシクロヘキサン混合物を、反応圧力=0.9MPa、LHSV=1hr−1、H/Oil=3mol/molの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がキシレン:ジメチルシクロヘキサン=97:3(転化率97%)となる触媒層温度を求めたところ、385℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.92容量%であった。
【実施例4】
【0037】
市販1,3,5-トリメチルベンゼンを市販Ni触媒で完全水素化し、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン(TMCHX)を得た。
流通式反応装置の中に10mLの実施例1と同じ触媒を充填し、トリメチルシクロヘキサン混合物を、反応圧力=0.9MPa、LHSV=1hr−1、H/Oil=3mol/molの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がトリメチルベンゼン:トリメチルシクロヘキサン=97:3(転化率97%)となる触媒層温度を求めたところ、365℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.92容量%であった。
【実施例5】
【0038】
流通式反応装置の中に10mLの実施例1と同じ触媒を充填し、市販メチルシクロヘキサン(MCHX)を、反応圧力=0.9MPa、LHSV=1hr−1、H/Oil=3mol/molの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がトルエン:メチルシクロヘキサン=97:3(転化率97%)となる触媒層温度を求めたところ、400℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.96容量%であった。
【実施例6】
【0039】
流通式反応装置の中に10mLの実施例1と同じ触媒を充填し、市販シクロヘキサン(CHX)を、反応圧力=0.9MPa、LHSV=1hr−1、H/Oil=3mol/molの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がベンゼン:シクロヘキサン=97:3(転化率97%)となる触媒層温度を求めたところ、406℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は97.28容量%であった。
【実施例7】
【0040】
モノアルキルベンゼン:ジアルキルベンゼン:トリアルキルベンゼン:テトラアルキルベンゼン:その他=9:15:47:23:6(質量比)の組成からなるアルキルベンゼン混合物から、流通式反応装置に30mLの市販Ni触媒を充填し、2MPa、LHSV=1hr−1、H/Oil=600L/L、反応温度230℃で水素化し、モノアルキルシクロヘキサン:ジアルキルシクロヘキサン:トリアルキルシクロヘキサン:テトラアルキルシクロヘキサン:その他=9:15:47:23:6(質量比)の組成からなるアルキルシクロヘキサンの混合物Aを得た。該混合物Aの性状を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
アルキルシクロヘキサンの混合物Aを、流通式反応装置の中に実施例1と同じ触媒10mLを充填し、反応圧力=0.3MPa、LHSV=2hr−1、H/Oil=525L/Lの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がアルキルベンゼン混合物:アルキルシクロヘキサン混合物=80:20(転化率80%)となる触媒層温度を求めたところ、313℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.96容量%であった。
【実施例8】
【0043】
流通式反応装置の中に実施例1と同じ触媒10mLを充填し、市販メチルシクロヘキサンを、反応圧力=0.3MPa、LHSV=2hr−1、H/Oil=3mol/molの条件下で流した。触媒層温度を徐々に上げていき、生成油の組成がトルエン:メチルシクロヘキサン=80:20(転化率80%)となる触媒層温度を求めたところ、337℃であった。このとき、出口ガスから求めた発生ガスの水素純度は99.98容量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、スズ、レニウム、及びゲルマニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を多孔質担体に担持し、平均細孔径が40〜80Åであることを特徴とする、水素を生成する単環芳香族炭化水素の水素化物の脱水素反応に用いる水素製造用触媒。
【請求項2】
細孔径40〜80Åの範囲の細孔の細孔容量が、0.12cm/g以上であり、かつ、全細孔容量の50%以上を占める請求項1に記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
多孔質担体がAl及び/又はSiOからなる、請求項1又は2に記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油を請求項1〜3のいずれかに記載の触媒と接触させることにより水素を発生させることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項5】
単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が1以上である化合物を20質量%以上含有する、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項6】
単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物のシシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上である化合物を20質量%以上含有する、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項7】
単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が1以上である化合物を60質量%以上含む、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項8】
単環芳香族炭化水素の水素化物を含む油は、単環芳香族炭化水素の水素化物を90質量%以上含有し、かつ単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基の数が2以上である化合物を60質量%以上含む、請求項4に記載の水素の製造方法。
【請求項9】
単環芳香族炭化水素の水素化物のシクロヘキサン環上の置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、及びターシャリーブチル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の電子供与性置換基である請求項4〜8のいずれかに記載の水素の製造方法。


【公開番号】特開2006−102632(P2006−102632A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292628(P2004−292628)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】