説明

水素製造用鉄粒子の製造方法及び水素ガス製造方法

【目的】本発明では、鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起すことにより水素を得て、更に、当該反応後の当該粒子に水素または一酸化炭素を中心とするガスを反応させることにより、再度、鉄粒子に戻して水から水素を繰り返し製造する方法において、鉄粒子の耐久性を高めることを目的とする。
【解決手段】本発明では、鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起すことにより水素を得て、更に、当該反応後の当該粒子に水素および/または一酸化炭素を主成分とするガスを反応させることにより、再度、鉄粒子に戻して水から水素を繰り返し製造する方法において、鉄粒子として、鉄蒸気を冷却することで凝集させた、平均粒子径が1ミクロン以下である金属鉄と酸化鉄を主体とする粒子鉄粒子を使用する。かつ、水を還元して水素を得る反応温度を200〜700℃とすることで水素ガスを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粒子と水の酸化還元反応を利用して、水素を製造する方法及び水素製造用鉄粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新しい種類の工業製品が製造されることや新方式の装置が使用されることにより、水素の使用技術が拡大している。例えば、シリコン製造、アルゴンガス中の酸素除去、各種還元反応に用いるガス用途が拡大している。また、動力源としての燃料電池が実用化され、水素を燃料とする自動車や家庭用電源としての用途が増加している。また、10〜20年後には、家庭用・オフィス用の燃料電池や燃料電池自動車の普及が予測されており、そのための水素ステーションの建設も予想される。
【0003】
このように、水素需要の拡大が見込まれているものの、大量の水素供給の手段については課題が残っている。水素の大量製造方法は種々あり、天然ガスやLPGを改質する方法、コークス炉ガス中の水素を分離する方法、水を電気分解する方法や、光化学反応を利用する方法などがある。これらの方法の水素製造には、発生装置が大型の天然ガスやLPGの供給装置の近くでしか水素製造ができない問題や、コークス炉に隣接した場所でしか水素製造ができない問題があった。水の電気分解等では、製造コストが高い問題があった。また、光化学反応では、コストは安価であるが、製造量が少ない問題があった。
【0004】
一方、製造された水素を輸送する方法は、ガスパイプで輸送する手段、200〜700気圧の高圧ガス容器に入れて輸送する手段、液体水素を断熱容器に入れて輸送する手段、水素貯蔵合金に水素を貯蔵する手段等がある。しかし、これらの方法には以下の問題があった。ガスパイプで輸送する手段では、パイプ施工の費用がかかることから、長距離の輸送が困難であり、数キロメートルから数十キロメートルまでしか経済性がない。200〜700気圧の高圧ガス容器に入れて輸送する手段、液体水素を断熱容器に入れて輸送する手段では、高圧水素ガスや液体水素を製造するために、多額の費用がかかるとともに、輸送時のガス漏れ等の事故の問題が大きい。また、高圧水素ガスや液体水素を貯蔵する際の安全上の問題もある。また、水素貯蔵合金は繰り返し使用された際に、比表面積が小さくなる問題があり、実用化が困難な状況である。
【0005】
そこで上記の問題を解決するために、例えば、特許文献1(特開2002−104801号公報)に記載されているように、微細なアルミニウム粉末を用いた水素の製造方法が考案されている。この方法では、微細な金属粒子に水蒸気を反応させて、水分子内の酸素を金属に反応させることにより、水素ガスと酸化金属を生成させる。反応条件としては、500℃程度の温度に加熱された金属アルミニウム粒子に水蒸気を反応させる。この反応により、水素ガスを製造する。また、この反応で生成した酸化アルミニウムを水素や一酸化炭素で還元することにより、再度、金属アルミニウムの微細な粒子を製造して、これを水素製造に用いる。アルミニウム粉末に替えて鉄粉を使用した場合、以下のように反応する。
【0006】
水素製造反応:3Fe+4H2O → Fe3O4+4H2
鉄還元反応: Fe3O4+4H2 → 3Fe+4H2O
この方法では、爆発しない材料である金属鉄粒子と水を原料として水素を製造することができることから、安全性の高い水素源である利点がある。この利点から、水素供給ステーションで採用するなどのアイディアがある。つまり、水素供給ステーションに金属鉄の微細な粒子を貯蔵して、水素の需要がある際に、この金属鉄粒子と水を反応させる。このように水素供給ステーションでありながら、水素ガスや液体水素を貯蔵しないことから、防爆上の安全性が高い。
【0007】
水素ガス製造用の鉄粒子は微細であることが重要である。従って、このような粒子を製造する手段として、硝酸鉄などの鉄イオンを含む水溶液にて中和沈殿反応により、微細な粒子を製造して、これを高温で酸化して、更に還元する方法で、微細な鉄粒子を製造する。この方法で製造された粒子の粒子径は0.01〜0.2ミクロンと非常に微細である。このことから、この粒子は反応活性が高く、また、水還元速度も大きい利点がある。
【0008】
微細な鉄粒子を用いる水素製造方法は、安全性と経済性において魅力的な技術であるが、下記に示す問題点があった。それは、鉄粒子の製造費用が高いことと、鉄粒子の寿命が短いことであった。この結果、技術的には実施が可能な段階にもかかわらず、実際の事業展開がなされてこなかった。
【0009】
この従来技術による鉄粒子の製造費用については、原料の鉄含有化合物が高価であること、製造工程が複雑なこと、及び、大量生産に不向きであることが原因であった。従来技術では、まず、硝酸鉄や塩化鉄等の水溶性の塩を水に溶かし、これに鉄を不溶解にするイオンを添加することにより、沈殿微粉の鉄化合物を製造する。これは0.01〜0.2ミクロン程度の微粒子である。これを乾燥後に、数百℃の高温で酸化処理すると、微細な酸化鉄粒子ができあがる。これを水素等で還元することにより、0.01〜0.2ミクロン程度の微細な鉄粒子を製造でき、これが水素製造用の微細鉄粒子となる。従って、この微細鉄粒子を製造するために、高価な硝酸鉄や沈殿用の薬剤を使用することから、原料費用が高価であった。また、水溶液溶解、沈殿操作、脱水・乾燥処理を行った後に、酸化処理と還元処理を行うことから、工程が複雑で、そのための費用が高かった。
【0010】
また、従来技術で製造した鉄粒子は鉄の純度が高いことから、反応活性は高いものの、反応温度が600℃または、それ以上と高温であり、反応開始のために粒子を加熱するための装置が大掛かりになることや、加熱エネルギーが多く必要な問題があった。このため、自動車などの移動機器に使用する場合などは、断熱が必要であり、装置が大きくなる欠点もあった。
【0011】
更に、従来技術による鉄粒子の最大の欠点は、繰り返し使用すると、比表面積が減少して、反応活性が低下する問題があった。これは、反応温度が500℃以上、望ましくは600℃以上であることと鉄粒子が微細であることが原因であった。従来技術による鉄粒子は、反応活性を高くする必要があることから、粒子径が0.01〜0.2ミクロンと微細なものであった。この粒子は比表面積が大きく、このような比較的低温であっても、焼結反応が盛んに起きて粒子が合体していき、粗大な粒子となる。この結果、比表面積が小さくなり反応活性が急速に低下する。例えば、ほぼ純粋な0.02ミクロン程度の鉄粒子であれば、数回から10回程度で、反応活性が1/2程度となる。この結果、反応を維持するために必要な温度が上がる、反応速度が低下する、また、単位質量当りの水素発生量が減少する等の問題があった。
【0012】
この問題を解決するために、例えば、特許文献2(WO 2004/002881パンフレット)に記載されているように、鉄粒子に微量の貴金属類などを添加剤として入れる方法がある。添加剤としては、白金、ロジウム、チタン、アルミニウム、ニッケル等があり、特に、ロジウムの効果は大きい。しかし、高価なこれらの金属を添加することにより、鉄粒子の製造費用が大幅に増加することと、ロジウムなどは資源量が少ないなどの問題があった。従って、水素の大量製造には不向きである。また、例えこれらの添加剤を使用しても、反応活性を保てるのは、数十回の繰り返し使用でしかなく、経済的な条件である100〜500回の繰り返し使用はできなかった。
【特許文献1】特開2002−104801号公報
【特許文献2】WO 2004/002881パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上に説明したように、従来技術による水素製造用鉄粒子には、高価であることと、水素製造後に鉄粒子に戻して水から水素を繰り返し製造する方法における耐久回数が少ないことの問題があった。従って、優れた性質を有しているものの、その利点を活かした水素製造を安価に行うことができない問題があった。また、鉄粒子の大量生産も難しく、水素燃料自動車への水素供給などの大量水素供給にも問題があった。かかる問題を解決して、安価な水素製造用鉄粒子を提供する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、これらのような従来技術が有する問題点を解決するためになされた発明であり、その要旨とするところは以下の(1)から(8)に示す通りである。
(1)酸素ガスを吹き付けることやアーク熱を利用することなどの方法で溶融鉄を蒸発させて鉄蒸気を得て、これを冷却することで凝集させて得た粒子を捕集することで、平均粒子径が1ミクロン以下、主に0.1〜0.8ミクロン、である金属鉄と酸化鉄を主体とする粒子を得る。この粒子を水素や一酸化炭素により還元して、金属鉄が主体の粒子とする。これを水素製造用鉄粒子として使用する。この粒子を水素製造用の容器に入れて200〜700℃に加熱された状態として、これに水蒸気を通すことにより、金属鉄と水を反応させる。この操作により、水中の化合酸素を鉄に移行させて、水素ガスを製造する。また、この粒子は水素製造反応の際に、酸化鉄となることから、これを還元して、再度水素製造用鉄粒子とする。
(2)溶融鉄を蒸発させた鉄蒸気を得て、これを冷却することで凝集させて得た粒子を捕集することで、平均粒子径が1ミクロン以下の金属鉄と酸化鉄を主体とする粒子をpH8以上の水中で冷却することによって鉄を含有する微細な粒子を製造して、当該粒子を還元して得た鉄粒子を前述(1)記載の水素製造用鉄粒子として用いる。
(3)製鋼用転炉内で溶融鉄に酸素を吹き付けることにより、発生した鉄蒸気を一酸化炭素含有ガス中で冷却して、酸化鉄と金属鉄を主体とする微細な粒子を得て、更に、当該粒子を水冷して水と当該粒子の混合物であるスラリーを得て、当該スラリーを濃縮かつ脱水して分離して得た後に、加工して得た、前述(2)記載の水素製造用鉄粒子である。
(4)鉄含有粒子の反応活性を改善し、かつ、水素製造時の焼結を防止することを主たる目的として、鉄中の不純物元素として、炭素、珪素、マンガン、燐、硫黄の1種類又は組み合わせて、合計で鉄に対して0.05〜2モル%の比率で微量元素として含んでいる(1)乃至(3)のいずれか記載の水素製造用鉄粒子である。この不純物により、水素製造と還元の繰り返し操作の際に起きる比表面積が低下する現象を抑制することができる。この場合の水素製造の温度は、200〜550℃が良い。
(5)鉄中の不純物元素として、クロムを鉄に対して0.3〜6モル%の比率で微量元素として含んでいる前出(1)乃至(4)のいずれか記載の水素製造用鉄粒子である。水素製造と還元の繰り返し操作の際に起きる、焼結による比表面積が低下する現象を抑制することができる。また、前出(4)記載の不純物を含有する鉄粒子においても、水素製造と還元の繰り返し操作の際に起きる比表面積が低下する現象をいっそう抑制することができる。この場合の水素製造の温度は、200〜500℃が良い。
(6)鉄中の不純物元素として、モリブデンを鉄に対して、合計で0.3〜6モル%の比率で微量元素として含んでいる前出(1)乃至(5)のいずれか記載の水素製造用鉄粒子である。水素製造と還元の繰り返し操作の際に起きる、焼結による比表面積が低下する現象を抑制することができる。この場合の水素製造の温度は、300〜450℃が良い。
(7) 本発明の水素ガス製造方法は、(1)乃至(6)のいずれか記載の水素製造用鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起こすことにより水素を得ることを特徴とするものである。
(8) (7)に記載された本発明の水素ガス製造方法は、水を還元する反応の反応温度が200〜700℃であることを特徴とするものである。
(9) また本発明は、水を還元した後の水素製造用鉄粒子が酸化された酸化鉄に水素および/または一酸化炭素を主成分とするガスを反応させ、再度、鉄粒子を主成分とする水素製造用鉄粒子とし、該水素製造用鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起こすことにより水素を製造することを繰り返すことを特徴とする(7)乃至(9)のいずれか記載の水素ガスを繰り返し製造する方法に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いることにより、鉄と水蒸気を反応させて、水素を製造する方法において、反応活性が高いと同時に、水素製造後に鉄粒子に戻して水から水素を繰り返し製造する方法において、耐久性にも勝る鉄粒子を製造することが可能となる。また、本発明の鉄粒子を用いることにより、水素を安価に製造することが可能となり、防爆上安全な水素ステーションを建設できる。また、本発明の鉄粒子を充填した水素発生装置を自動車等の移動体に搭載することにより、燃料電池動力の環境負荷の小さい車両を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明においては、高温の鉄蒸気を冷却凝集した微細な金属鉄及び酸化鉄を主体とする粒子(以降、鉄含有粒子と称する)を製造して、これを水素製造用の鉄粒子として用いる。具体的な方法としては、溶融鉄を局部的に高温にして、鉄を蒸発させる。これを高温のガスとともに回収して、その後に冷却することにより、微細な鉄や酸化鉄を主体とする粒子を製造する。このための方法は幾つかのものがあるが、下記に記載する2の方式による製造方法が経済的である。
【0017】
第一の方法では、高温を得るのに溶融鉄と酸素を使用する。まず、溶融鉄を耐火物製の容器に入れて、この溶融鉄に酸素ジェットを吹き付ける。溶融鉄には炭素が含まれていると良い。溶融鉄に炭素が含まれると、酸素を吹き付けることにより、一酸化炭素を中心とするガスが発生する。この一酸化炭素が高温を作ることで、鉄蒸気を発生させるとともに、鉄蒸気を溶融鉄近傍から排出して鉄含有粒子を回収する装置に送るガスとしても機能する。酸素が衝突した溶融鉄の表面で鉄と炭素が燃焼して、1900℃以上、溶融鉄量が多く、酸素吹付け量も多い場合などの最適な条件では、2200℃程度の高温部が形成され、この高温で鉄蒸気が発生する。炭素をほとんど含まない溶融鉄を原料として使用する場合は、酸素にアルゴンなどの非酸化性ガスを添加して噴き付けると良い。
【0018】
上記の方法で製造した鉄蒸気とガスの混合物を冷却して、鉄含有粒子を得る。上記の方法などで製造した鉄蒸気とガスの混合物を1200〜1500℃まで冷却すると、鉄蒸気は平均で1ミクロン以下の粒子となる。この粒子は、ほぼ球形のものであり、実際の粒子径は0.1〜0.8ミクロンのものが中心である。冷却時のガス雰囲気が還元性である場合(例えば、一酸化炭素を80%以上含んでいる場合や、純度の高いアルゴンガス中の場合)、鉄含有粒子は、金属鉄比率が高くなる。また、冷却時のガス雰囲気が還元性の弱い場合や酸化性の場合は、酸化第一鉄や四三酸化鉄等の酸化鉄が多くなる。この鉄含有粒子を集塵機形式の捕集装置で回収する。捕集装置には、バグフィルター式等の乾式のものとベンチュリースクラッバー式などの湿式のものがある。乾式捕集装置では、捕集した鉄含有粒子を乾燥した状態で回収できることから、後工程での乾燥処理がいらない利点があるが、一方で、回収した鉄粒子が捕集装置内で酸化して過熱状態となる問題が起きやすい。一方で、湿式捕集装置では、回収した鉄含有粒子が濡れる欠点はあるものの、鉄含有粒子の参加問題は発生しづらい利点がある。特に、大量処理には、湿式捕集が向いている。後で述べる製鋼転炉での鉄含有粒子の製造には、湿式捕集機が向いている。
【0019】
本発明の鉄含有粒子を製造する装置の例を図1に示す。図1の装置は、溶融鉄保持装置1、酸素ノズル2、ガス回収ダクト3、水冷装置4、及び、濃縮槽5から構成される。溶融鉄保持装置1には、1200〜1700℃の炭素を含有する溶融鉄6を入れてあり、この溶融鉄6に、酸素ノズル2から酸素ジェットを吹き付けることにより、溶融鉄と鉄中の炭素を酸化させて、一酸化炭素を主体とするガスと鉄蒸気を発生させる。鉄蒸気は、ガス温度が1200〜1500℃以下となった時点で、ガス中で固体鉄に変化して、微細な鉄含有粒子となる。このガスと鉄粒子をガス回収ダクト3で、水冷装置4に導く。ここで、鉄粒子は水中に補修されて、鉄含有粒子を含むスラリーとなる。このスラリーを濃縮槽5で濃縮する。その後に、この濃縮スラリーを脱水して、鉄含有粒子の脱水ケーキを製造して、これを乾燥する。
【0020】
鉄含有粒子を保持する水の条件も重要である。本発明者らは、種々の実験を行った結果、pHが8以上のものが望ましい。酸性水の中では、微細な鉄粒子や酸化鉄粒子は、水中に溶解して鉄イオンとなる。この際に、水素を発生させる。本発明者らが行った実験では、pH7.1の水に質量比で15%の鉄含有粒子を保持したところ、10分後に水素の発生が認められた。この結果、鉄含有粒子の回収率が低下する問題や水素による爆発等の問題が起きた。pH8以上の高pH水で処理する場合は、この現象が起きづらいことから、処理水のpHを高く保つことが望ましい。
【0021】
また、第二の方法として、溶融鉄や固体の鉄に向けて電極からアークを飛ばして、2000℃以上の温度として鉄を蒸発させて、アルゴンガス等と一緒に飛ばす方法がある。アークを飛ばす法としては、高電圧にしてある炭素電極を鉄に近づける方法とプラズマ電極を用いる方法がある。この方法でも、鉄蒸気をガスで希釈し鉄近傍から排出して鉄粒子を捕集装置に送る。この際の操作等は、第一の方法ほぼ同じである。
【0022】
第一の方法である溶融鉄に酸素ジェットを吹き付けて鉄含有粒子を得る方法に、製鉄業で使用する製鋼転炉を用いることも良い。図2に示す装置を用いて、製鋼転炉から発生する鉄含有粒子を回収する方法を説明する。図2の装置は、酸素ノズル2、製鋼転炉7、非燃焼式ガス回収装置8、湿式集塵装置9、スラリー回収トラフ10、粗粒分離装置11、沈殿槽12、濃縮スラリーポンプ13、及び脱水機14から構成されるものである。製鋼転炉7で、溶融鉄6に酸素ノズル2から酸素ジェットを吹き付けて、溶融鉄中の炭素等を除去する際に、大量に発生する一酸化炭素を主体とする鉄含有粒子を非燃焼式ガス回収装置8で未燃焼のまま回収する。この転炉ガスには、金属鉄を多く含む粒子である、鉄含有粒子が多く含まれる。この粒子は、溶融鉄に酸素が吹き付けられた際に、火点で鉄が蒸発して、これが冷却される際に微細な粒子となる微粒子と酸素に吹き飛ばされて形成する粗粒子がある。微粒子は、粒子径が0.1〜2ミクロンであり、発生時点では金属鉄を多く含むものである。また、一方、溶融鉄が酸素ジェットで吹き飛ばされた粗粒子も転炉ガス中に含まれる。これは、粒子径が30ミクロン〜1mm程度で、発生時点では金属鉄を多く含むものである。湿式集塵装置9で、転炉ガスからこれらの粒子を分離する。湿式集塵装置9では、ガス流速を高くしたスロート部で散水することにより、鉄含有粒子をガスから分離する。散布された水には数質量%の濃度で粒子入り、スラリーとして回収される。
【0023】
このようにして得た粒子を含むスラリーをスラリー回収トラフ10経由して、粗粒分離装置11に送り、ここで1〜5ミクロン以上の粗粒子を分離して、鉄蒸気を凝集させた微粒子である、本発明の目的とする粒子の比率が高いスラリーとする。この後に、スラリーを沈殿槽12で沈殿させ、微粒子が濃縮したスラリーを製造する。ここで沈殿槽12は、スラリーの動きを遅くして、粒子を沈降させる構造であり、一般には、レイキが設置されている円形シックナーが用いられる。ここでは、一般的には、沈殿効率を向上させるために、有機系の凝集剤を添加する。凝集剤としてはノニルフェノール系やポリアクリルアミド系高分子が挙げられる。沈殿槽12の内部では、鉄含有粒子の水中への溶解を防止することが重要である。このためには、水のpHを8以上、望ましくは、9.5以上とする。濃縮スラリーポンプ13の動力で、沈殿槽12で濃縮された鉄含有粒子のスラリーを脱水機14に移す。ここで水分が20〜30質量%程度の脱水ケーキを製造する。この脱水ケーキには、本発明の鉄含有粒子が含まれている。この脱水ケーキを乾燥炉で乾燥して、水分を含まない鉄含有粒子を得る。この方法においては、特別の製造設備を用いなくとも、鉄含有粒子を製造することができることから、非常に経済的な方法である。
【0024】
以上に説明した方法で得た鉄含有粒子は、全部もしくは部分的に酸化鉄であることから、還元処理をする必要がある。そこで、この鉄含有粒子を還元用カラム等に入れて、500℃程度以上に加熱して、水素などの還元ガスを流す。この処理で酸化鉄は還元されて金属鉄となり、水素製造用の鉄粒子となる。この鉄粒子は、粒子径が0.1〜0.8ミクロンのものが多く、比表面積が大きいものである。従って、反応活性が高い特徴を持ち、水素製造用の鉄粒子として良好な性能を持つ。
【0025】
本発明の鉄粒子(以降、単に鉄粒子と称する)を水素製造用の密閉容器21に密に充填して、鉄粒子集合22を形成する。密閉容器21には、加熱器23が付随しており、これで密閉容器21の内部の鉄粒子集合22を加熱する。温度は300〜700℃が良い。水蒸気供給管24から水蒸気を流し込む。この水蒸気は、鉄粒子と反応して、水素となる。この水素は水素排出管25から排出される。この水素を燃料電池の燃料、水素バーナーの燃料、還元用ガス、アンモニア製造などの化学原料として用いる。
【0026】
本発明の鉄粒子は、粒子径がやや大きく、0.1〜0.8ミクロンのものが多いことと、形状が球であり、周辺粒子との接触部分が少ない特徴がある。このような特徴により、本発明の鉄粒子は焼結が起きづらい。一方、従来技術で製造した鉄粒子である、鉄化合物の水溶液から沈殿物を作り、これを乾燥して還元して得た鉄粒子は、0.01〜0.2ミクロン程度と特に微細であるとともに、粒子形状も球ではない。この粒子は相互に接する部分が多いため、低温でも焼結しやすい。この結果、本発明の鉄粒子は、従来技術によって製造された鉄粒子に比べて、繰り返し使用可能回数が多い特徴がある。従来技術の鉄粒子では、10回程度の繰り返し使用で、反応活性が1/2程度まで低下するが、本発明の鉄粒子では、数十回から100回以上の繰り返し使用が可能となる。このように、本発明を用いることにより、鉄粒子の反応活性が確保できる最低限の比表面積を実現するとともに、粒子径が小さすぎることによる焼結が進んで繰り返し使用可能回数が低下する問題を抑制するという、両者の条件を両立できる。
【0027】
焼結を抑制することにより、繰り返し使用回数を向上するためには、水素製造の反応温度を低下させることと、大きな粒子で高反応活性を実現することが良い。上記の説明で、本発明の鉄粒子が反応活性を高く守ったままで、粒子径を大きくすることで、焼結を防止していることを説明したが、更に、焼結防止を徹底するためには、反応温度を低下させることと、鉄粒子の基礎的な反応活性を高めることにより、粒子径が大きくとも、超微粒子の鉄粒子と同等の反応活性を発現することが必要である。そこで、本発明者らは、鉄含有粒子に微量な不純物を添加することにより、この条件を実現することを狙って実験を行った。添加元素は、マンガン、燐、硫黄、炭素、クロム、モリブデンを選んだ。マンガン、燐、硫黄、炭素が微量づつ入った溶融鉄を使用して、鉄粒子を製造して、この中のこれらの元素の添加率を変えたところ、マンガン、燐、硫黄、炭素の合計の添加モル比率が0.05〜2%の範囲であれば、反応温度が200〜550℃の低温側でも反応が迅速に進むことが判明した。添加モル比率が0.05%以下であれば、焼結抑制効果が発揮されず、また、2%以上であれば、焼結抑制効果はあるものの、反応活性が低下することが認められた。この条件では、焼結が抑制されて、150回以上の繰り返し使用にも耐えられるようになった。また、0.3〜6%のモル比率でクロムを添加した鉄粒子を製造して実験を行ったところ、更に、焼結が抑制された。クロム添加のモル比率が0.3%以下では、この効果が発現せず、また、6%以上では、焼結抑制効果が飽和することから、これ以上の添加は経済的でない。この鉄粒子では、200回以上の繰り返し使用に耐えられるものであった。マンガン、燐、硫黄、炭素が合計で、0.05〜2%のモル比率である鉄粒子にクロムを上記の比率で添加することも効果がある。クロムも溶融鉄中に混合して、この溶融鉄を原料に鉄粒子を製造することが経済的である。
【0028】
また、本発明の粒子にモリブデンを添加すると、反応活性が向上する効果が発見された。モリブデンは、焼結特性を大きく変化させないが、反応活性を向上させる効果がある。この結果、鉄粒子と水の適正な反応温度が300〜450℃程度まで低下した。この様な低温反応が可能となるため、焼結が抑制される。添加のモル比率は0.3〜6%が良い。これも反応活性向上効果が発現する下限値と効果の飽和値から決まる範囲である。モリブデンの添加には、鉄粒子にモリブデン溶液を混合して、これを焼成するなどの方法が良い。
【0029】
以上の操作により、鉄粒子は酸化されて、大部分が酸化第一鉄(FeO)又は三四酸化鉄(Fe)となる。このままでは、再使用ができないため、これを還元することにより、再使用する。このためには、前述した最初の鉄粒子製造方法のように、水素ガスや一酸化炭素ガスで還元処理することにより、再度、金属鉄を多く含む鉄粒子とする。本発明の鉄粒子は、以上に記載した還元・酸化の繰り返し処理を行う際の焼結現象による反応活性の劣化が少ない特徴を持つ。従来技術による鉄粒子は、数回から数十回の使用で反応活性が大幅に低下するのに対して、本発明の鉄粒子は、数十回から200回以上の繰り返し使用に耐えるものである。
(実施例)
本発明によって製造された鉄粒子を用いた水素製造を行った。反応装置は、図3に記載されるものであり、水蒸気を鉄100g当り0.5g/分の速度で供給した際の成績を評価した。この条件で水蒸気の水素への転嫁率が70%以上と、遅滞なく反応が継続する最低温度を反応活性の評価値とした。なお、低温であるものほど活性が高いと評価する。また、反応の最終的進行度を評価するために、第一回の反応での理論水素発生量に対する実際の水素発生量の比を示した。なお、理論発生量は金属鉄から三四酸化鉄までの反応が起きたと仮定した値である。耐久性の評価としては、反応速度が初期値の70%まで低下するまでの、水素製造と還元処理の繰り返し数で低減される、繰り返し使用可能回数で評価した。
【0030】
実施例のA−1からA−4は溶融鉄にプラズマアークを照射して、鉄含有粒子を製造して、これを還元して、水素製造用鉄粒子としたものである。なお、鉄含有粒子の捕集方法は乾式バグフィルターであった。不純物のほとんど入っていない鉄粒子の実施例であるA−1では、水素製造温度600℃とやや高いものの良好な結果が得られた。繰り返し使用可能回数(70%性能)は65回であり、なんとか実用に耐えるものであった。A−2は、A−1の鉄粒子にクロムを1.45モル%添加したものであった。この鉄粒子の水素製造温度は500℃まで低下した。この結果、焼結反応の進行も遅れて、繰り返し使用可能回数が160回に向上した。A−3はA−1の鉄粒子にモリブデンを1.35モル%添加したものであった。この場合も、水素製造温度450℃、繰り返し使用可能回数181回まで改善された。A−4はA−1の鉄粒子にクロムとモリブデンの両方を添加したものであった。この場合も、水素製造温度450℃、繰り返し使用可能回数200回以上まで改善された。
【0031】
実施例のB−1とB−2は溶融鉄に純酸素ジェットを吹付けて、鉄含有粒子を製造して、これを還元して、水素製造用鉄粒子としたものである。なお、鉄含有粒子の捕集方法は湿式であり、処理水のpHは8.8であった。原料の溶融鉄には約3質量%の炭素が含有されていた。B−1の鉄粒子には、合計で0.91モル%の炭素、マンガン、燐、硫黄を含むものであった。この処理では、水素製造温度550℃、繰り返し使用可能回数122回であった。不純物の影響で、繰り返し使用可能回数が改善されていた。B−2はクロムを2.3モル%含むものの実施例である。この場合は、クロム以外の不純物とクロムの影響により、繰り返し使用可能回数200回以上まで改善されていた。
【0032】
実施例のC−1からC−3は製鋼転炉を用いて鉄含有粒子を製造した実施例である。この場合も、溶融鉄に純酸素ジェットを吹付けて、鉄含有粒子を製造して、これを還元して、水素製造用鉄粒子としたものである。なお、鉄含有粒子の捕集方法は、図2に記載される250トン転炉とその付帯装置を用い、処理水のpHは10.1であった。このpH条件では、蒸発した鉄を凝集させて得た鉄含有粒子を捕集する装置での水素の発生が全くなく、製造工程の操業は良好であった。このような大型装置の場合、水のpHが8以上であれば良好な操業はできるが、鉄含有粒子の滞留時間が長い場合などは、pH9.5以上が望ましかった。C−1では、不純物がクロム、モリブデン以外のものであり、これらの不純物の影響により、繰り返し使用可能回数が133回と長かった。C−2の鉄粒子は、C−1の成分に近い鉄粒子にクロムを含有している実施例である。クロムは溶融鉄中に添加して、この溶融鉄中に純酸素ジェットを吹付けて鉄含有粒子を製造した。この鉄粒子は、水素製造温度470℃、繰り返し使用可能回数200回以上であった。また、C−3の鉄粒子は、C−2の鉄粒子にモリブデンを添加した実施例である。この鉄粒子では、水素製造温度450℃、繰り返し使用可能回数200回以上であった。このように、C−2、C−3の鉄粒子では、繰り返し使用可能回数が極めて多く、実用上の耐久性の高い鉄粒子が実現できた。
【0033】
従来技術によって製造された鉄粒子での水素製造の結果を比較例(D−1、D−2)に示した。これらの鉄粒子は、鉄化合物の水溶液で沈殿物を製造して、これを焼成し、更に、還元して得たものである。非常に微粒子であり、反応活性は高かった。D−1の鉄粒子はほぼ純粋な鉄であった。この鉄粒子では、初回は非常に高い水素製造能力を示したが、急速に反応活性が低下して、繰り返し使用可能回数はわずか4回であった。また、D−2の鉄粒子は、繰り返し使用可能回数を改善するために、モリブデンを添加したものであったが、それでも、18回しか耐用性がなかった。このように、従来技術によって製造された鉄粒子は、反応活性が高い長所を持っていたが、耐久性に劣るものであった。なお、従来技術で製造された鉄粒子は、反応活性指数(実水素発生量の理論発生量に対する比率)を有しているが、本発明の鉄粒子もほぼ同等の値を示しており、本発明の鉄粒子は、耐久性の点で非常に優れていると同時に、反応活性の点でも、従来技術の鉄粒子とほぼ同等であった。
【0034】
以上の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の鉄粒子を用いることにより、水素を安価に製造することが可能となり、防爆上安全な水素ステーションを建設でき、また、本発明の鉄粒子を充填した水素発生装置を自動車等の移動体に搭載することにより、燃料電池動力の環境負荷の小さい車両を作ることができるので産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の方法を実施するための溶融鉄を原料として、これを蒸発させることによって、鉄を多く含有する粉体を製造する装置の図である。
【図2】本発明の方法を実施するための転炉ダストから鉄を多く含有する粉体を製造する装置の図である。
【図3】本発明の鉄粒子を使用して、水素を製造する装置の図である。
【符号の説明】
【0038】
1 溶融鉄保持装置
2 酸素ノズル
3 ガス回収ダクト
4 水冷装置
5 濃縮槽
6 溶融鉄
7 製鋼用転炉
8 非燃焼式ガス回収装置
9 湿式集塵装置
10 スラリー回収トラフ
11 粗粒分離装置
12 沈殿槽
13 濃縮スラリーポンプ
14 脱水機
21 密閉容器
22 鉄粒子集合
23 加熱器
24 水蒸気供給管
25 水素排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄蒸気を冷却して凝集させて得た粒子を捕集することで、平均粒子径が1ミクロン以下である酸化鉄と金属鉄の少なくともいずれか一方を含有する粒子を得て、当該粒子を還元することを特徴とする水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項2】
鉄蒸気を冷却して凝集させて得た粒子を捕集することで、平均粒子径が1ミクロン以下の酸化鉄と金属鉄の少なくともいずれか一方を含有する粒子をpH8以上の水中で冷却して、更に、当該粒子を還元することを特徴とする請求項1記載の水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項3】
製鋼用転炉内で溶融鉄に酸素を吹き付けることにより、発生した鉄蒸気を一酸化炭素含有ガス中で冷却して、酸化鉄と金属鉄の少なくともいずれか一方を含有する粒子を得て、更に、当該粒子を水冷して水と当該粒子の混合物であるスラリーを得て、当該スラリーを濃縮かつ脱水して分離して得た後に、加工することを特徴とする請求項2記載の水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項4】
炭素、珪素、マンガン、燐、硫黄の1種類又は組み合わせて、合計で鉄に対して0.05〜2モル%の比率で微量元素として含んでいることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項5】
クロムを鉄に対して0.3〜6モル%の比率で微量元素として含んでいることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項6】
鉄中の不純物元素として、モリブデンを鉄に対して、合計で0.5〜6モル%の比率で微量元素として含んでいることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の水素製造用鉄粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載の水素製造用鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起こすことにより水素を得ることを特徴とする水素ガス製造方法。
【請求項8】
水を還元する反応の反応温度が200〜700℃であることを特徴とする請求項7に記載の水素ガス製造方法。
【請求項9】
水を還元した後の水素製造用鉄粒子が酸化された酸化鉄に水素および/または一酸化炭素を主成分とするガスを反応させ、再度、鉄粒子を主成分とする水素製造用鉄粒子とし、該水素製造用鉄粒子に水を添加して水を還元する反応を起こすことにより水素を製造することを繰り返すことを特徴とする請求項7又は8に記載の水素ガス製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−92099(P2007−92099A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279995(P2005−279995)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(598102351)
【Fターム(参考)】