説明

水蒸気吸着材を用いた空調システム

【課題】デシカント空調機、吸着式冷凍機を利用した空調システムであって、設備全体を小型化でき、一層の省エネルギー化を図り得る空調システムを提供する。
【解決手段】空調システムは、吸着材を利用したシステムであり、温度および湿度調節された空気を屋内に送風する空調機本体1と、除湿空気を空調機本体1に供給するデシカント空調機2と、空気冷却用の冷水を空調機本体1に供給し且つデシカントローター21冷却用の冷水をデシカント空調機2に供給する吸着式冷凍機3及びチリングユニット4と、これら吸着式冷凍機3及びチリングユニット4の稼働を制御する冷熱源制御装置5とから主に構成される。冷熱源制御装置5は、屋内における所要冷熱量が増大した場合に吸着式冷凍機3に加えてチリングユニット4を稼働させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気吸着材を用いた空調システムに関するものであり、詳しくは、建物に適用する空調システムであって、デシカント空調機、吸着式冷凍機を組み合わせ、一層の省エネルギー化を図るようにした空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度や湿度の調節された空気を屋内に供給する空調技術の分野においては、吸着材の吸着・脱着機能を利用し、太陽熱などの自然エネルギーやコジェネレーションシステム等における低温廃熱を有効活用する吸着式冷凍機やデシカント空調機が種々提案されている。屋内の暖房および加湿を行う場合は、簡単な構造の設備により太陽熱や廃熱、水を直接的に利用できるため、吸着式冷凍機は主に冷熱生成に利用され、デシカント空調機は主に除湿空気の生成に利用される。
【0003】
吸着式冷凍機は、吸着材の吸着・脱着現象に付随して起こる相変化を利用して熱の汲み上げを行う吸着ヒートポンプであり、吸着材によって吸着質を吸着・脱着する吸着器と、吸着器における吸着操作に伴って吸着質の蒸発により冷熱を生成する蒸発器と、吸着器で脱着された吸着質の蒸気を凝縮させて蒸発器に供給する凝縮器とから主に構成される。吸着式冷凍機においては、補助動力を用いることなく、前述の低温廃熱などを回収して吸着材を加熱再生する(特許文献1参照)。
【0004】
デシカント空調機は、水蒸気に対する吸着材の吸着・脱着機能を利用し、例えば、湿潤期に除湿を行う装置であり、除湿すべき空気を送風する一方の送風路および吸着材再生用の空気を送風する他方の送風路と、ハニカム構造体に吸着材を担持させて成り且つ両方の送風路に跨がって配置されたデシカントローターとから主に構成され、デシカントローターを回転させながら吸着材の吸着・脱着を繰り返し、一方の送風路で除湿空気を生成するようになされている。デシカント空調機においては、前述の低温廃熱などを吸着材の再生用脱着熱として利用できる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−205331号公報
【特許文献2】特開2005−201624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吸着式冷凍機は、これを利用し、屋内全ての冷房を年間を通じて賄おうとすると、装置構成および付帯設備が大型化する。また、デシカント空調機は、これを利用し、屋内全ての除湿を年間を通じて賄おうとすると、吸着操作においてデシカントローターを冷却するための大きな冷熱原が必要であり、斯かる冷熱原として吸着式冷凍機を利用しようとすると、更に吸着式冷凍機が大型化する。しかも、吸着式冷凍機やデシカント空調機を併用するには、低質熱エネルギーと言えども、高温、高湿度の時期に限って大量に供給する必要があり、その設備も大掛かりなものとなる。
【0007】
上記のような要因から、吸着式冷凍機やデシカント空調機は、実際、殆どの建物に適用できず、広く普及していない状況にある。従って、自然エネルギーや廃熱の有効利用を促進し、二酸化炭素を削減する観点からも、設備全体をできる限り小型化し、設備コストの低減を図り、更に安い運転コストで稼働させ得る改良されたシステムが望まれる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、吸着材を利用して建物の空調を行う空調システムであって、設備全体を小型化でき、一層の省エネルギー化を図り得る空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明においては、冷房時に吸着式冷凍機で製造した冷水を低温空気生成用として空調機本体に供給し、また、除湿時に吸着式冷凍機で製造した冷水をデシカントローター冷却用としてデシカント空調機に供給し、低温空気、除湿空気により温度および湿度調節された空気を空調機本体から屋内に送風する。そして、吸着式冷凍機で製造される冷水の冷熱量に対し、空調に必要な冷熱量が大きくなる場合は、吸着式冷凍機とチリングユニットを併用し、デシカント空調機および空調機本体への冷水の供給量を増やすようにした。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、吸着材を利用して建物の空調を行う空調システムであって、温度および湿度調節された空気を屋内に送風する空調機本体と、除湿された空気を前記空調機本体に供給するデシカント空調機と、空気冷却用の冷水を前記空調機本体に供給し且つデシカントローター冷却用の冷水を前記デシカント空調機に供給する吸着式冷凍機およびチリングユニットと、これら吸着式冷凍機およびチリングユニットの稼働を制御する冷熱源制御装置とから主に構成され、当該冷熱源制御装置は、屋内における所要冷熱量が所定冷熱量以下の場合は前記吸着式冷凍機を稼働させ、屋内における所要冷熱量が前記所定冷熱量を超える場合は前記吸着式冷凍機および前記チリングユニットを稼働させる機能を備えていることを特徴とする空調システムに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の空調システムによれば、低温空気および除湿空気が大量に必要な状況において吸着式冷凍機に加えてチリングユニットを稼働させて冷水を製造するため、年間を通して日常的に必要な冷熱量に応じて吸着式冷凍機の仕様を設計でき、設備全体を小型化して設備コストを低減でき、しかも、運転コストも低減できる。そして、本発明によれば、空調機本体、デシカント空調機および吸着式冷凍機において自然エネルギーや廃熱を有効利用できるため、一層の省エネルギー化を図ることができ、二酸化炭素の削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る空調システムの主な装置構成および熱源としての水の循環を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る空調システムの実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の空調システムは、吸着材を利用して建物の空調を行う空調システムであり、図1に示すように、空調機本体1、デシカント空調機2、吸着式冷凍機3、チリングユニット4及び冷熱源制御装置5から主に構成される。本発明は、対象とする建物が特に限定されるものではなく、工場、大小の各種ビル、集合住宅など各種の建物に適用できる。図中の符号9は、空調対象としての工場の作業室を例示したものであるが、以下の説明においては、斯かる作業室を部屋9と言う。なお、以下の装置構成の説明では、送風機、ポンプ、弁類に関する説明を省略する。
【0014】
空調機本体1は、デシカント空調機2、給気路61を介して供給された外気に対し、冷却、加温、除湿または加湿を行い、温度および湿度調節された空調用の空気を上記の部屋9に送風路62を通じて送風する装置であり、別途設けられたコントローラ(図示省略)を使用して制御される。
【0015】
空調機本体1は、冷房用の低温空気を製造するための熱交換器12及び14を備えている。熱交換器14は、デシカント空調機2から供給された外気を23℃程度に予冷するコイル型熱交換器である。本発明においては、地下水の熱を有効活用するため、空調機本体1は、地下水を利用した熱交換井の熱交換器(図示省略)で製造される20〜25℃の冷水が空気冷却用として冷却水往路83a及び冷却水復路83bを通じて熱交換器14に循環供給されるように構成されている。また、熱交換器12は、デシカント空調機2から供給され且つ熱交換器14で予冷された外気を更に11〜15℃まで冷却するコイル型熱交換器であり、吸着式冷凍機3及びチリングユニット4で製造された7℃程度の冷水が空気冷却用として冷水往路74及び冷水復路75を通じて循環供給されるように構成されている。
【0016】
更に、空調機本体1は、暖房用の高温空気を製造するための熱交換器13を備えている。熱交換器13は、デシカント空調機2から供給される上記の外気を例えば22〜30℃の温度に加温するコイル型熱交換器である。本発明においては、太陽熱を有効活用するため、熱交換器13は、屋外に設置された太陽熱温水パネル装置(図示省略)で製造される70℃程度の温水が空気加温用として温水往路80a及び温水復路80bを通じて循環供給されるように構成されている。
【0017】
熱交換器13の熱源としては、廃棄される低質熱エネルギーを有効活用する観点から、例えば工場から排出される廃熱を使用することもできる。すなわち、斯かる態様において、空調機本体1は、廃熱を利用して熱交換器(図示省略)で製造された70℃程度の温水が空気加温用として温水往路80a及び温水復路80bを通じて循環供給されるように構成されている。
【0018】
また、空調機本体1には、乾燥期などに加湿空気を製造するため、空調機本体1から送風される空気に対して、水を噴霧または水蒸気を放出する加湿器16が付設されている。水噴霧式の加湿器16は、別途供給された水を噴霧ノズルから直接ミストとして噴霧する加湿器であり、また、水蒸気式の加湿器16は、ボイラーで生成され且つ不純物が除去された蒸気を直接使用する加湿器、もしくは、純水製造機で得られた水を前記の蒸気で更に気化させて使用する加湿器である。
【0019】
上記のデシカント空調機2は、外気を導入して除湿を行い、除湿された空気を空調機本体1に給気路61を通じて供給すると共に、排気路63を通じて部屋9の空気を回収する装置である。デシカント空調機2は、通気用セルが両端面に開口する円柱状のハニカム構造体に吸着材を担持させたデシカントローター21と、除湿すべき空気をデシカントローター21の例えば半円部に通過させる一方の送風路(図において下側の送風路)と、吸着材再生用の空気をデシカントローター21の例えば他の半円部に通過させる他方の送風路(図において上側の送風路)とから主に構成されている。そして、デシカントローター21を回転させながら、一方の送風路に流れる空気を冷却し且つ当該空気から吸着材に水蒸気を吸着させることにより除湿空気を生成し、他方の送風路を流れる昇温された空気により吸着材から水蒸気を脱着することにより吸着材を再生する様になされている。
【0020】
デシカント空調機2は、吸着操作の際にデシカントローター21を冷却するため、上記の一方の送風路(外気の導入路)のデシカントローター21よりも送風方向上流側に熱交換器22及び24を備えている。熱交換器24は、屋外から導入された外気を23℃程度に予冷するコイル型熱交換器であり、前述の空調機本体1の熱交換器14と同様のものである。すなわち、本発明においては、地下水の熱を有効活用するため、デシカント空調機2は、地下水を利用した熱交換井の熱交換器(図示省略)で製造される20〜25℃の冷水がデシカントローター21の冷却用として冷却水往路84a及び冷却水復路84bを通じて熱交換器24に循環供給されるように構成されている。また、熱交換器22は、屋外から導入され且つ熱交換器24で予冷された外気を更に11℃程度まで冷却するコイル型熱交換器であり、吸着式冷凍機3及びチリングユニット4で製造された7℃程度の冷水がデシカントローター21の冷却用として冷水往路73及び冷水復路76を通じて循環供給されるように構成されている。
【0021】
また、デシカント空調機2は、脱着操作の際にデシカントローター21を加熱するため、上記の他方の送風路(排気路)のデシカントローター21よりも送風方向上流側に熱交換器23を備えている。熱交換器23は、排気路63を通じて部屋9から排気された空気を60℃程度に加熱するコイル型熱交換器であり、前述の熱交換器13と同様のものである。すなわち、本発明においては、太陽熱を有効活用するため、デシカント空調機2は、屋外に設置された太陽熱温水パネル装置(図示省略)で製造される70℃程度の温水がデシカントローター21の加熱用として温水往路81a及び温水復路81bを通じて熱交換器23に循環供給されるように構成されている。
【0022】
更に、熱交換器23の熱源としては、廃棄される低質熱エネルギーを有効活用する観点から、空調機本体1の熱交換器13と同様に、例えば工場から排出される廃熱を使用してもよい。すなわち、斯かる態様において、デシカント空調機2は、廃熱を利用して熱交換器(図示省略)で製造された70℃程度の温水がデシカントローター21の加熱用として温水往路81a及び温水復路81bを通じて熱交換器23に循環供給されるように構成されている。
【0023】
また、デシカント空調機2は、部屋9から排気される空気の熱の一部を回収し、一層の省エネルギー化を図るため、前述の給気路61及び排気路63の接続部分近傍に顕熱交換器25を備えている。顕熱交換器25は、デシカント空調機2の一方の送風路(図において下側の送風路)と他方の送風路(図において上側の送風路)に跨がって配置され且つ導入する外気と排出する部屋9の空気との間で熱交換するいわゆる熱交換素子である。
【0024】
顕熱交換器25は、それ自体の温度と接触する空気の温度との差により、当該顕熱交換器を通過する空気との間で熱を授受する機器であり、アルミニウム合金などの熱伝導性に優れた材料によって構成され且つ空気との接触面積の大きな構造を備えている。例えば、顕熱交換器25は、アルミニウム合金などから成る平板と波板を積層し且つ上下の波板の溝の方向を交互に直交させ、そして、一方向に並ぶ波板の溝には上記の一方の送風路の空気だけが流れ、他の一方向に並ぶ波板の溝には上記の他方の送風路の空気だけが流れるように流路構成されている。
【0025】
上記の吸着式冷凍機3は、空気冷却用の冷水を空調機本体1に供給し且つデシカントローター21の冷却用の冷水をデシカント空調機2に供給する装置である。吸着式冷凍機3は、いわゆる吸着ヒートポンプであり、吸着熱を放出しつつ吸着材に吸着質を吸着する操作、および、外部の温熱により吸着材から吸着質を脱着する操作を各ずれた周期で繰り返す2基以上の吸着器と、吸着質の蒸発により得られた冷熱を外部へ取り出すと共に、発生した吸着質の蒸気が前記の吸着器に回収される蒸発器と、前記の吸着器で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷熱により凝縮させると共に、凝縮した吸着質を前記の蒸発器に供給する凝縮器とを備えている。
【0026】
吸着式冷凍機3においては、吸着材の吸着操作の際に吸着器を冷却するため、吸着器は、前述のデシカント空調機2の熱交換器24と同様に、地下水の熱で冷却可能に構成されている。すなわち、本発明においては、地下水の熱を有効活用するため、吸着式冷凍機3は、地下水を利用した熱交換井の熱交換器(図示省略)で製造される20〜25℃の冷水が吸着器冷却用として冷却水往路85a及び冷却水復路85bを通じて循環供給されるように構成されている。更に、図示しないが、吸着式冷凍機3においては、脱着された吸着質を凝縮するため、冷却水往路85a及び冷却水復路85bを分岐させることにより、凝縮器が吸着器と同様に地下水の熱で冷却可能に構成されている。
【0027】
更に、吸着式冷凍機3においては、吸着材の吸着操作の際に吸着器を加熱するため、吸着器は、制御弁(図示省略)の切替操作により、冷却水往路85a及び冷却水復路85bを遮断し、かつ、前述のデシカント空調機2の熱交換器23と同様に、太陽熱を活用して吸着器を加熱可能に構成されている。すなわち、本発明において、吸着式冷凍機3は、屋外に設置された太陽熱温水パネル装置(図示省略)で製造された70℃程度の温水が吸着器再生用として温水往路82a及び温水復路82bを通じて吸着器に循環供給されるように構成されている。
【0028】
また、吸着材の吸着操作の際の熱源としては、廃棄される低質熱エネルギーを有効活用する観点から、デシカント空調機2の熱交換器23と同様に、例えば工場から排出される廃熱を使用してもよい。すなわち、斯かる態様において、吸着式冷凍機3は、廃熱を利用して熱交換器(図示省略)で製造された70℃程度の温水が吸着器の加熱用として温水往路82a及び温水復路82bを通じて吸着器に循環供給されるように構成されている。
【0029】
本発明の空調システムでは、吸着式冷凍機3で得られる冷熱を冷水として取り出し、これを空調機本体1及びデシカント空調機2に供給するようになされている。具体的には、吸着式冷凍機3の蒸発器に設けられた熱交換器から冷水往路71、ヘッダー7a、冷水往路73を通じてデシカント空調機2の熱交換器22に7℃程度の冷水を供給し、冷水復路76、ヘッダー7b、冷水復路77を通じて吸着式冷凍機3の蒸発器の熱交換器に冷水が還流されるように構成されており、また、前記の冷水往路73から分岐する冷水往路74を通じて空調機本体1の熱交換器12に同様の温度の冷水を供給し、冷水復路75を通じて前記の冷水復路76に還流されるように構成されている。
【0030】
因に、前述のデシカント空調機2のデシカントローター21に使用される吸着材、および、上記の吸着式冷凍機3の吸着器に充填される吸着材としては、各種のシリカゲルやゼオライトを使用可能であるが、比較的高い温度条件下で装置が作動するように、低い相対湿度でも吸着質を吸着し、また、装置の小型化が図れるように、吸脱着量が十分に大きく、しかも、低温熱源で再生し得るように、脱着温度が低いものが好ましい。斯かる吸着材としては、例えば、骨格構造にAl及びPを有するアルミノフォスフェート類や骨格構造にAl、P及びFeを有するアルミノフォスフェート類が挙げられる。なお、吸着式冷凍機3においては、通常、吸着質として水が使用される。
【0031】
本発明においては、一時的に生じる大きな冷凍負荷を補うため、上記の吸着式冷凍機3に加え、チリングユニット4が設けられる。チリングユニット4は、吸着式冷凍機3と同様に、空気冷却用の冷水を空調機本体1に供給し且つデシカントローター21の冷却用の冷水をデシカント空調機2に供給する装置である。斯かるチリングユニット4としては、装置の小型化を図るため、空冷式のものが使用される。
【0032】
空冷式のチリングユニット4は、圧縮機によって凝縮器と蒸発器との間で冷媒を循環させる蒸気圧縮冷凍機(ヒートポンプ)を使用し、水と空気との間で熱交換を行って冷水を製造する冷水製造機である。周知の通り、蒸気圧縮冷凍機においては、気体の冷媒を圧縮機で圧縮し、凝縮器で空気との熱交換により冷却、液化し、膨張弁で断熱膨張させ且つ蒸発器で低温で気化させることにより、気化熱によって水を冷却する。圧縮機の駆動源としては、通常は電動機が使用されるが、工場などの大規模な施設では、ガスエンジン、ガスタービンエンジン、蒸気タービンも使用できる。
【0033】
本発明の空調システムでは、チリングユニット4で得られた冷水を空調機本体1及びデシカント空調機2に供給するようになされている。具体的には、チリングユニット4の蒸発器から冷水往路72、ヘッダー7a、冷水往路73を通じてデシカント空調機2の熱交換器22に7℃程度の冷水を供給し、冷水復路76、ヘッダー7b、冷水復路78を通じてチリングユニット4の蒸発器に冷水が還流されるように構成されており、また、前記の冷水往路73から分岐する冷水往路74を通じて空調機本体1の熱交換器12に同様の温度の冷水を供給し、冷水復路75を通じて前記の冷水復路76に還流されるように構成されている。
【0034】
本発明の空調システムにおいては、装置構成をできる限り小型化し且つ効率的に運転して省エネルギー化を図るため、上記の吸着式冷凍機3及びチリングユニット4の稼働を制御する冷熱源制御装置5が備えられている。斯かる冷熱源制御装置5は、予め制御プログラムが書き込まれたコンピュータやプログラマブルコントローラ等の演算手段、機器類の作動を制御する制御回路などから構成されており、屋内における所要冷熱量が所定冷熱量以下の場合は吸着式冷凍機3を稼働させ、屋内における所要冷熱量が前記の所定冷熱量を超える場合は吸着式冷凍機3及びチリングユニット4の両方を稼働させる機能を備えている。
【0035】
本発明において、吸着式冷凍機3とチリングユニット4の稼働基準となる上記の所定冷熱量とは、システム全体の設計冷熱量、換言すれば、設計条件として予め見込まれた必要最大冷熱量を言う。本発明においては、装置の小型化と省エネルギー化のため、上記の所定冷熱量が設計冷熱量の25〜35%、好ましくは30%に設定されている。
【0036】
吸着式冷凍機3とチリングユニット4の稼働基準となる所定冷熱量を上記の値に設定する理由は次の通りである。すなわち、年間を通じて冷房が要求される期間においては、平均的な冷凍負荷に対し、大幅に冷凍負荷が増大する時間が比較的短いため、日常の冷凍能力としては、平均的な冷凍負荷に対応し得るだけの能力があれば足りる。一方、最大の冷凍負荷、例えば平均的な冷凍負荷の3倍の負荷を吸着式冷凍機3だけで処理しようとすると、吸着式冷凍機3及びその附帯設備を日常必要とされる規模の3倍の規模に設計しなければならず、初期の設備費のみならず、日常の運転コストも増大し、しかも、装置の占有面積が極めて大きくなる。
【0037】
そこで、本発明においては、吸着式冷凍機3のバックアップとしてチリングユニット4を配置し、吸着式冷凍機3とチリングユニット4の稼働基準を上記の値に設定することにより、設備規模を最小限に抑え且つ最も効率的な運転を可能にしている。なお、上記の稼働基準は、建物の構造や用途によって具体的な値に違いはあるが、統計的な知見と種々の検討を重ねた結果、一般化できる基準として見出されたものである。
【0038】
吸着式冷凍機3及びチリングユニット4は、これらを循環する冷水の熱量変化を演算することにより、稼働を制御することができる。具体的には、本発明の空調システムにおいては、吸着式冷凍機3及びチリングユニット4から空調機本体1及びデシカント空調機2へ至る冷水往路73に水温検出用の温度センサー52が設けられ、空調機本体1及びデシカント空調機2から吸着式冷凍機3及びチリングユニット4に至る冷水復路76に流量計51及び温度センサー53が設けられている。そして、冷熱源制御装置5は、吸着式冷凍機3又はチリングユニット4と、空調機本体1又はデシカント空調機2との間を往還する冷水、換言すれば、上記の冷水往路73及び冷水復路76の冷水流量、温度差(冷水還温度と冷水往温度の差)に基づいて、屋内における所要冷熱量を演算する機能を備えている。なお、冷熱源制御装置5における上記の演算処理においては、以下のような関係式に基づいて所要冷熱量(必要な冷熱量)を演算する。
【0039】
【数1】

【0040】
本発明の空調システムにおいては、概略、次のように各装置を稼働させて建物の空調を行う。先ず、部屋9の冷房を行う場合は、空調機本体1及びデシカント空調機2を稼働させ、デシカント空調機2で導入した外気を給気路61を通じて空調機本体1に供給し、空調機本体1から送風路62を通じて部屋9に送風する。空調機本体1においては、地下水を熱源と得られた冷水を冷却水往路83a及び冷却水復路83bを通じて空調機本体1の熱交換器14に循環させ、23℃程度の低温空気を生成する。
【0041】
更に、部屋9に対する冷房が不足している場合には、吸着式冷凍機3を稼働させ、当該吸着式冷凍機で製造された冷水を冷水往路71、73、74及び冷水復路75、76、77を通じて空調機本体1の熱交換器12に循環させ、上記の低温空気を更に冷却して11〜23℃の低温空気を生成する。その際、吸着式冷凍機3においては、地下水を熱源と得られた冷水を吸着工程の吸着器ならびに凝縮器に冷却水往路85a及び冷却水復路85bを通じて循環させ、また、太陽熱温水パネル装置で製造された温水または廃熱を利用して製造された温水を脱着工程の吸着器に温水往路82a及び温水復路82bを通じて循環させることにより、蒸発器に設けられた熱交換器で冷水を製造する。
【0042】
また、部屋9の除湿を行う場合は、デシカント空調機2のデシカントローター21を駆動させると共に、地下水を熱源として得られた上記の冷水をデシカント空調機2の熱交換器24に冷却水往路84a及び冷却水復路84bを通じて循環させることにより、デシカント空調機2に導入された外気を予冷し、更に、吸着式冷凍機3で製造された前述の冷水を熱交換器22に上記の冷水往路73及び冷水復路76を通じて循環させることにより、前記の外気を更に冷却し、そして、デシカントローター21により除湿して例えば部屋9において湿度28〜40%の除湿空気を生成する。また、デシカント空調機2においては、太陽熱温水パネル装置で製造された温水または廃熱を利用して製造された温水を熱交換器23に温水往路81a及び温水復路81bを通じて循環させることにより、デシカントローター21の吸着材を再生する。
【0043】
一方、部屋9の暖房を行う場合は、太陽熱温水パネル装置で製造された温水または廃熱を利用して製造された温水を空調機本体1の熱交換器13に温水往路80a及び温水復路80bを通じて循環させ、デシカント空調機2から供給される空気を加温して例えば22〜30℃の高温空気を生成する。更に、加湿が必要な場合には、空調機本体1において加湿器16を作動させ、空調機本体1から供給される空気を加湿し、例えば部屋9において湿度28〜40%に調節する。なお、デシカント空調機2に設けられた顕熱交換器25により、部屋9の排出空気と外気との間で熱交換し、排出空気の温熱または冷熱の一部を回収することができる。
【0044】
本発明の空調システムにおいては、上記のように、冷房時に吸着式冷凍機3で製造した冷水を低温空気生成用として空調機本体1に供給し、また、除湿時に吸着式冷凍機3で製造した冷水をデシカントローター21の冷却用としてデシカント空調機2に供給し、低温空気、除湿空気により温度および湿度調節された空気を空調機本体1から部屋9に送風する。その際、吸着式冷凍機3で製造される冷水の冷熱量が、空調に必要な冷熱量よりも大きくなる場合は、吸着式冷凍機3に加え、更にチリングユニット4を稼働させることにより、空調機本体1及びデシカント空調機2への冷水の供給量を増やす。
【0045】
具体的には、冷水往路73に設けられた温度センサー52により、空調機本体1又はデシカント空調機2に供給される冷水の温度を検出し、冷水復路76に設けられた流量計51及び温度センサー53により、吸着式冷凍機3に還流される冷水の流量および温度を検出し、冷熱源制御装置5により、現在の冷凍負荷、換言すれば、屋内全体で必要とされる冷熱量を演算する。そして、所要冷熱量が所定冷熱量以下の場合、すなわち、所要冷熱量が設計冷熱量の例えば30%以下の場合は、冷熱源制御装置5の制御により吸着式冷凍機3だけを稼働させ、また、所要冷熱量が所定冷熱量を超える場合、すなわち、所要冷熱量が設計冷熱量の例えば30%を超える場合は、吸着式冷凍機3及びチリングユニット4の両方を稼働させる。これにより、チリングユニット4で冷水を更に製造し、冷水往路74及び冷水復路78を通じ、冷水往路73及び冷水復路76に流れる冷水の流量を増加させることが出来る。
【0046】
上記のように、本発明の空調システムにおいては、低温空気および除湿空気が大量に必要な状況において吸着式冷凍機3に加えてチリングユニット4を稼働させて冷水を製造するため、年間を通して日常的に必要な冷熱量に応じて吸着式冷凍機3の仕様を設計でき、設備全体を小型化して設備コストを低減でき、しかも、運転コストを低減できる。更に、空調機本体1、デシカント空調機2及び吸着式冷凍機3の冷熱源として地下水の熱を利用でき、また、温熱源として太陽熱や廃熱を利用できるため、一層の省エネルギー化を図ることができ、二酸化炭素の削減に寄与できる。
【符号の説明】
【0047】
1 :空調機本体
12 :熱交換器
13 :熱交換器
14 :熱交換器
16 :加湿器
2 :デシカント空調機
21 :デシカントローター
22 :熱交換器
23 :熱交換器
24 :熱交換器
25 :顕熱交換器
3 :吸着式冷凍機
4 :チリングユニット
5 :冷熱源制御装置
51 :流量計
52 :温度センサー
53 :温度センサー
61 :給気路
62 :送風路
63 :排気路
71 :冷水往路
72 :冷水往路
73 :冷水往路
74 :冷水往路
80a:温水往路
81a:温水往路
82a:温水往路
83a:冷却水往路
84a:冷却水往路
85a:冷却水往路
9 :部屋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材を利用して建物の空調を行う空調システムであって、温度および湿度調節された空気を屋内に送風する空調機本体と、除湿された空気を前記空調機本体に供給するデシカント空調機と、空気冷却用の冷水を前記空調機本体に供給し且つデシカントローター冷却用の冷水を前記デシカント空調機に供給する吸着式冷凍機およびチリングユニットと、これら吸着式冷凍機およびチリングユニットの稼働を制御する冷熱源制御装置とから主に構成され、当該冷熱源制御装置は、屋内における所要冷熱量が所定冷熱量以下の場合は前記吸着式冷凍機を稼働させ、屋内における所要冷熱量が前記所定冷熱量を超える場合は前記吸着式冷凍機および前記チリングユニットを稼働させる機能を備えていることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
吸着式冷凍機とチリングユニットの稼働基準となる所定冷熱量が、設計冷熱量の25〜35%に設定されている請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
冷熱源制御装置は、吸着式冷凍機またはチリングユニットと、空調機本体またはデシカント空調機との間を往還する冷水の流量、温度差に基づいて、屋内における所要冷熱量を演算する機能を備えている請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
空調機本体は、地下水を利用して熱交換器で製造された冷水が空気冷却用として供給されるように構成されている請求項1〜3の何れかに記載の空調システム。
【請求項5】
空調機本体は、太陽熱温水パネル装置で製造された温水が空気加温用として供給されるように構成されている請求項1〜4の何れかに記載の空調システム。
【請求項6】
空調機本体は、廃熱を利用して熱交換器で製造された温水が空気加温用として供給されるように構成されている請求項1〜4の何れかに記載の空調システム。
【請求項7】
空調機本体には、水を噴霧または水蒸気を放出する加湿器が付設されている請求項1〜6の何れかに記載の空調システム。
【請求項8】
デシカント空調機は、地下水を利用して熱交換器で製造された冷水がデシカントローター冷却用として供給されるように構成されている請求項1〜7の何れかに記載の空調システム。
【請求項9】
デシカント空調機は、太陽熱温水パネル装置で製造された温水がデシカントローター加熱用として供給されるように構成されている請求項1〜8の何れかに記載の空調システム。
【請求項10】
デシカント空調機は、廃熱を利用して熱交換器で製造された温水がデシカントローター加熱用として供給されるように構成されている請求項1〜8の何れかに記載の空調システム。
【請求項11】
吸着式冷凍機は、地下水を利用して熱交換器で製造された冷水が吸着器冷却用として供給されるように構成されている請求項1〜10の何れかに記載の空調システム。
【請求項12】
吸着式冷凍機は、太陽熱温水パネル装置で製造された温水が吸着器再生用として供給されるように構成されている請求項1〜11の何れかに記載の空調システム。
【請求項13】
吸着式冷凍機は、廃熱を利用して熱交換器で製造された温水が吸着器加熱用として供給されるように構成されている請求項1〜11の何れかに記載の空調システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208828(P2011−208828A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74646(P2010−74646)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】