説明

水薬調剤装置

【課題】より確実に水薬の泡立ちを低減でき得る水薬調剤装置を提供する。
【解決手段】複数の水薬を投薬容器24に吐出することで水薬を調剤する水薬調剤装置は、調剤に必要な水薬を順次投薬容器に吐出する複数の分注ユニット14−1,14−2,・・・,14−Nと、各水薬それぞれの泡立ち易さを示す水薬情報テーブルを記憶する記憶部40と、分注ユニット14等の駆動を制御する制御部46と、を備えている。制御部46は、入力された処方データで調剤指定された複数の水薬の吐出順序を記憶部40に記憶されている各水薬の泡立ち易さに応じて、泡立ち易い水薬ほど吐出順序が後になるように決定する。そして、この決定された吐出順序により水薬の吐出がなされるように分注ユニット14等を駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の水薬を投薬容器に吐出することで水薬を調剤する水薬調剤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、処方箋の指示通りの分量で複数種類の水薬を元薬容器から投薬容器に投入して、水薬の調剤を行う水薬調剤装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、供給ボトルに貯留されている水薬を、供給ノズルの水薬吐出口部から水薬ボトルに供給するための供給ポンプが設けられた水薬供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−320620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした従来の水薬供給装置では、元薬容器から水薬を吐出した際に生じる衝撃などで、当該水薬に泡立ちが発生するという問題があった。かかる泡立ちは、投薬容器に吐出された水薬の体積を過度に増加させることになり、場合によっては、投薬容器から泡の一部が溢れることがあった。また、こうした装置を用いて調剤を行う場合であっても、当該調剤のために投薬容器に吐出される水薬の種類および量については、薬剤師などの有資格者による目視での確認、いわゆる、鑑査が必須となっている。この鑑査時において、水薬量は、通常、投薬容器に投入された水薬の液面レベルで確認されることが多い。しかし、既述したように、水薬が泡立った状態では、液面レベルを的確に把握することは困難であり、ひいては、適切な鑑査が困難という問題もあった。
【0005】
特許文献1には、こうした泡立ちを低減するために、水薬を吐出する供給ノズルを、上下方向軸線に対して傾斜させ、これにより、当該供給ノズルから吐出される水薬が、水薬ボトルの内側面に対して斜めに吐出して当たるようにしている。かかる構成とすることで、吐出された水薬が、水薬ボトル内の水薬液面に勢いよく衝突する水衝現象に伴う水薬のあわ立ちをある程度、低減することができる。
【0006】
ここで、効果的に泡立ちを低減でき得る供給ノズルの傾斜角度は、水薬ボトルの形状などに応じて異なる。しかし、実際に使用される水薬ボトルの形状は、様々である。そのため、特許文献1記載の技術で、常に泡立ちを効果的に低減することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明では、より確実に水薬の泡立ちを低減でき得る水薬調剤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水薬調剤装置は、前記調剤の内容を示す処方箋データの入力を受け付ける入力部と、前記調剤に必要な水薬を順次投薬容器に吐出する吐出手段と、各水薬それぞれの泡立ち易さを示す起泡度情報を記憶する記憶手段と、入力された処方データで調剤指定された複数の水薬の吐出順序を各水薬の泡立ち易さに応じて決定し、当該決定された吐出順序により水薬の吐出がなされるように前記吐出手段を駆動制御する制御手段と、を備える。
【0009】
好適な態様では、前記制御手段は、泡立ち易い水薬ほど吐出順序が後になるように吐出順序を決定する。
【0010】
他の好適な態様では、前記調剤指定された複数の水薬が、賦形剤を含む場合、前記制御手段は、前記賦形剤は、その他の水薬よりも後に吐出されるように吐出順序を決定する。
【0011】
他の好適な態様では、前記制御手段は、前記泡立ち易さに応じて決定された吐出順序での水薬吐出を吐出手段に指示する抑泡モードと、処方データで指示された順序での水薬吐出を吐出手段に指示する通常モードと、に切替可能である。
【0012】
他の好適な態様では、さらに、前記水薬吐出の状況、および、吐出された水薬のリストを示す鑑査画面をユーザに提示する表示手段を有し、前記水薬のリストとして、少なくとも、前記水薬が実際に吐出された吐出順序で並んだリストと、前記水薬が処方データで指示された順序で並んだリストと、が選択可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各水薬の泡立ち易さに応じて決定された吐出順序で水薬を吐出している。これにより、投薬容器の形状に関わらず、より確実に水薬の泡立ちを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態である水薬調剤装置の概略構成図である。
【図2】水薬情報テーブルの一例を示す図である。
【図3】処方データの一例を示す図である。
【図4】吐出順序と泡立ち易さの関係を示すイメージ図である。
【図5】吐出順序の決定処理の流れを示す図である。
【図6】吐出順序の決定処理の流れを示す図である。
【図7】鑑査用画像生成の様子を示すイメージ図である。
【図8】鑑査画面の一例を示す図である。
【図9】水薬リストの表示態様の一例を示す図である。
【図10】水薬リストの他の表示態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である水薬調剤装置の概略構成図である。この水薬調剤装置は、病院や処方箋薬局等の施設に設置されるものであり、調剤を行う薬剤師や医師の支援を行う装置である。
【0016】
この水薬調剤装置は、機構部10および演算処理部12に大別される。機構部10には、複数の分注ユニット14−1,14−2,・・・,14−N(以下、特に区別しない場合は「分注ユニット14」と呼ぶ)が設けられている。この複数の分注ユニット14は、調剤に必要な水薬を順次、投薬容器24に吐出する吐出手段として機能する。そして、各分注ユニット14は、それぞれ基本的に同一の構成を有している。ただし、それぞれの分注ユニット14は、この例では互いに異なる水薬を吐出するものである。複数の分注ユニット14は、直線状、あるいは二次元的、あるいは、円形状に配列される。本実施形態においては、複数の分注ユニット14が固定配置されており、一方において、後に詳述する投薬容器24が搬送され、移動するようになっている。ただし、当然ながら、投薬容器24を固定状態にして、分注ユニット14あるいは当該分注ユニット14が有するノズルを可動させるようにしてもよい。
【0017】
分注ユニット14の構成を説明すると、分注ユニット14は、元薬容器、分注ポンプ、分注ノズル20、電磁弁等を有している。さらに、必要に応じて元薬容器を揺動させて、その内部に収容された水薬を攪拌する機構を設けるようにしてもよい。各分注ユニット14ごとに分注ポジションが定められ、それとは別に、本実施形態においては後に説明する撮像ポジションが定められている。
【0018】
投薬容器24は、昇降台25に載置、保持された状態で、可動ステージ22上に設置される。昇降台25は、適宜、昇降可能な台座である。本実施形態では、投薬容器24の上端高さを、分注ノズル20の先端高さに近接させるべく、投薬容器24のサイズ(高さ)に応じて、この昇降台25を昇降させている。そして、このように投薬容器24の上端を、分注ノズル20の先端に近接させることで、水薬吐出時における当該水薬の飛散や泡立ちを低減することができる。なお、当然ながら、投薬容器24を昇降させるのではなく、分注ノズル20を昇降させることで、両者を近接させるようにしてもよい。
【0019】
可動ステージ22は搬送機構26によって搬送台28上において搬送される。後に説明する制御部46の制御の下、あらかじめ設定された調剤条件に従って投薬容器24の位置決め、投薬(つまり水薬吐出)の実行、撮像、といった一連の工程が繰り返し実行される。ちなみに、投薬容器24が空の状態で初期撮像状態が実行されるようにしてもよい。
【0020】
また、可動ステージ22には、重量センサ(図示せず)が内蔵されており、設置された投薬容器24の重量、ひいては、当該投薬容器24に吐出された水薬重量を計測できるようになっている。この計測値は、制御部46に送られ、分注ユニット14の駆動制御に利用される。なお、本実施形態では、投薬容器24の重量に基づいて吐出水薬量を計測しているが、当然ながら他の方法で吐出水薬量を計測してもよい。例えば、投薬容器24内の液面レベルを計測し、当該液面レベルに基づいて吐出水薬の体積を算出するようにしてもよい。また、分注ユニット14側で吐出した水薬量を計測するようにしてもよい。
【0021】
撮像ポジションには撮像手段としての撮像装置30が設けられている。この撮像装置30はCCDカメラ等によって構成され、撮像対象となった投薬容器24を水平方向から撮像し、その全体画像を容器像として取得するものである。対象となる投薬容器24をはさんで撮像装置30とは反対側に光源32が設けられている。この光源32は平板状の発光体として構成されてもよいし、一次元あるいは二次元のLEDアレイとして構成されてもよい。このような配置関係により、対象となる投薬容器24の背景を明るくしてそこから生じた光を投薬容器24に透過させ、投薬容器24における液面レベルを明瞭に撮像することが可能となる。もちろん、光源を撮像装置30側に設ける等の他の構成を採用するようにしてもよい。本実施形態においては、撮像ポジションが固定的に定められており、各水薬吐出工程の実行後に投薬容器24が撮像ポジションに位置決められ、その状態で投薬容器24の撮像が行われている。もちろん、投薬容器24と共に撮像手段を搬送するようにしてもよいし、各分注ポジションごとに撮像手段を設けるようにしてもよい。いずれにしても、各水薬の吐出後の状態において投薬容器24が撮像されるように構成するのが望ましい。
【0022】
ちなみに、図示されていない出入りステーション上において空の投薬容器24が可動ステージ22にセットされ、調剤完了後においては当該ポジションにおいて調剤後の投薬容器24が取り出される。投薬容器24がセットされた時点においてキャップが取り外されていることを確認する手段を設けるのが望ましい。そのために、例えば、機械的なセンサあるいは光学的な観察手段などを採用することができる。
【0023】
次に、演算処理部12について説明する。演算処理部12は情報処理装置として構成される。画像メモリ34は撮像装置30によって取得された各容器画像のデータを一時的に記憶する。もちろん、取得された容器画像を直ちに処理して、後に説明する鑑査用画像を成長表示させるようにしてもよい。
【0024】
画面生成部38は、表示部42に表示すべき各種画面、例えば、後述する鑑査画面などを生成する。鑑査画面を生成する場合、画面生成部38は、画像メモリ34において時系列順で格納された各容器画像を取り出して、それぞれの容器画像に対してトリミング処理を適用し、合成対象となる画像部分を切り出す。そして、得られた複数の容器画像すなわち部分画像を水平方向に高さを揃えつつ並べて合成する。さらに、この合成された容器画像を、患者情報や調剤に使用された水薬リストなどを含む表示フレームに埋め込み、鑑査画面を生成する。この鑑査画面は、表示部42に表示される。なお、この鑑査画面の例については後に図8を用いて説明する。
【0025】
記憶部40は、調剤処理に必要な各種データを記憶している部位で、例えば、ハードディスクなどで構成される。この記憶部40に記憶されるデータの一つとして、水薬情報テーブルがある。水薬情報テーブルは、様々な水薬に関する情報を記録したテーブルである。図2は、この水薬情報テーブル48の一例を示す図である。図2に図示するとおり、本実施形態では、各水薬について、当該水薬が搭載されている分注ユニット14の番号や比重などを記憶している。調剤を指示する処方データが入力された場合、制御部46は、この水薬情報テーブル48を参照して、当該調剤に必要な水薬が搭載されている分注ユニット14の番号を把握する。また、制御部46は、この水薬情報テーブル48を参照して、処方データで指示された水薬体積を水薬重量に変換し、調剤制御に利用する。なお、図2において、対応する分注ユニット番号がない水薬(例えば、水薬D、水薬F)は、現在、本水薬調剤装置に搭載されていない水薬を意味している。処方データに、かかる未搭載の水薬が含まれている場合、制御部46は、その旨をユーザに通知し、当該搭載されていない水薬については手作業での調剤を促すなどの処理を行う。
【0026】
さらに、図2から明らかなとおり、この水薬情報テーブル48は、各水薬の起泡度も記憶している。この起泡度は、水薬の泡立ち易さを示すパラメータで、数値が大きいほど泡立ちが生じやすい水薬であり、当該起泡度が記憶されている水薬情報テーブル48は、各水薬それぞれの泡立ち易さを示す起泡度情報に相当する。ここで、各水薬の起泡度は、事前に行われる実験や、各水薬の粘性、表面張力などに基づいて、ユーザが予め求めておき、設定しておく。そして、本実施形態では、水薬の泡立ちを低減するために、この起泡度に応じて、水薬の吐出順序を切り替えるが、これについては後に詳説する。なお、この図2において図示した水薬情報テーブルは、一例であり、少なくとも、各水薬の起泡度が特定できるのであれば、どのような形式のデータであってもよい。
【0027】
入力部44は、ユーザからの指示を受け付ける部位で、例えば、キーボードやタッチスクリーンなどを含むことができる。また、この入力部44は、通信インターフェースも含むことができ、遠隔地にある他の情報処理機器から送信された本水薬調剤装置への各種指示を受け取れるようにしてもよい。いずれにしても、調剤に必要な水薬種類とその量(体積)を示す処方データは、当該入力部44を介して、入力される。
【0028】
制御部46は、処方データに従って機構部10の動作制御を行うものである。また、本実施形態において、この制御部46は、投薬容器24に吐出された水薬の泡立ちを低減するために、調剤に必要な水薬の吐出順序の決定も行う。以下、これについて詳説する。
【0029】
既述したとおり、水薬を調剤する際には、処方データで指示された複数の水薬を順次、投薬容器24に吐出する。この吐出の際、投薬容器24内の液面(または容器壁面)へ衝突する際に分注ノズル20から供給される水薬が受ける刺激や、他の水薬が投薬容器24内の液面に衝突することにより当該投薬容器24内の水薬が受ける刺激などにより、水薬が泡立つことがある。かかる泡立ちは、投薬容器24内の液面レベルを曖昧にしたり、あるいは、水薬の体積そのものを変えてしまうため、目視による吐出量(体積)確認を困難にすることがある。ここで、水薬調剤装置を用いた自動調剤においても、薬剤師などの有資格者による目視確認(鑑査)が要求されているが、水薬の泡立ちは、かかる鑑査を困難にする。また、過度の泡立ちは、水薬体積を増加させることになり、場合によっては、投薬容器24から水薬が溢れてしまう場合もあった。
【0030】
そこで、こうした泡立ちを防止するために、従来から、水薬を投薬容器24の内側面に当てるように供給することが提案されている。しかし、かかる方法は、水薬を吐出供給する分注ノズル20の角度を、投薬容器24の形状に応じて調整する必要がある。しかし、調剤量に応じて、適宜、異なる形状、サイズの投薬容器24が選択される現状において、かかる投薬容器24の形状に応じた分注ノズル20の角度調整は困難であった。
【0031】
そこで、本実施形態では、特殊な順序で水薬を吐出し、これにより、投薬容器24の形状に関わらず、水薬の泡立ちを低減するようにしている。具体的には、本実施形態では、記憶部40に記憶された水薬情報テーブル48を参照して、起泡度が高い水薬ほど、吐出順序が後になるような順序で複数の水薬を吐出している。
【0032】
すなわち、従来の水薬調剤装置では、通常、処方データで指定された順序で水薬を吐出していた。例えば、図3に図示するような内容の処方データ49が入力された場合、従来の水薬調剤装置では、薬品A、薬品B、薬品C、・・・、というように、当該処方データ49に記録された水薬リストの順序で水薬の吐出処理を実行していた。しかし、この処方データ49で指定された順序(以下「初期順序」という)は、水薬の泡立ちに関しては何ら考慮されておらず、非常に泡立ちやすい水薬の順序が、前のほうになっている場合も多々あった。
【0033】
ここで、泡立ちやすい水薬の吐出順序が前のほうになっている場合の問題について図4を参照して説明する。図4のうち左側の図面は吐出順序が前のほうの場合、右側の図面は吐出順序が後の方の場合を示すイメージ図である。この図4で示すとおり、吐出順序が前のほうの場合、その時点までに投薬容器24に供給された水薬量は少なくなりがちであるため、分注ノズル20の先端から、投薬容器24内の液面までの距離Hは、大きくなりがちである。この場合、水薬の吐出に伴い、当該吐出される水薬および投薬容器24に貯留されている水薬が受ける刺激は大きくなりがちで、泡立ちが生じ易い。
【0034】
一方、図4の右側に示すように、吐出順序が後のほうになれば、その時点までに投薬容器24に供給された水薬量は多くなりがちであるため、分注ノズル20の先端から、投薬容器24内の液面までの距離Hは、小さくなりがちである。この場合、水薬の吐出に伴い、当該吐出される水薬および投薬容器24に貯留されている水薬が受ける刺激は小さくなりがちで、泡立ちが生じにくくなる。
【0035】
ここで、蒸留水のように起泡度が小さい液体の場合は、多少の刺激を受けても泡立ちにくく、また、泡が生じたとしても、当該泡は比較的短時間で消失する。したがって、起泡度の小さい水薬の場合、吐出順序が前のほうにしたことにより、吐出時に受ける衝撃が大きくなったとしても、特に大きな問題にはならない。
【0036】
一方、高粘度のシロップ剤のように起泡度が高い液体の場合、比較的小さい刺激でも泡立ちやすく、また、一度生じた泡が長時間、残存しやすい。したがって、起泡度の高い水薬の場合、吐出順序を前のほうにすると、多量の泡が発生し、かつ、当該泡が長時間残存するため、目視による液面確認を困難にしたり、場合によっては、投薬容器24から水薬が溢れたりなどといった問題を招くことがある。
【0037】
本実施形態では、こうした吐出順序による泡立ちの違いに着目し、起泡度が高い水薬ほど吐出順序が後になるように、水薬吐出順序を決定している。
【0038】
ただし、1回の調剤処理で用いる複数の水薬の重要度等は必ずしも同じではなく、全ての水薬を同列に取り扱うことが有効でない場合もある。例えば、調剤処理で用いられる水薬の中には、賦形剤と呼ばれる水薬もある。賦形剤は、通常、薬効成分を含まず、調剤水薬の取り扱い性(特に計量性)等を向上させるなどの目的で付加される水薬である。より具体的には、例えば、「14ccの水薬Aと12ccの水薬Bとの調剤薬を1日に3回に分けて服用」という処方がなされた場合を考える。この場合、得られる調剤薬は、14+12=26ccとなる。この26ccの調剤薬を、1日に3回に分けて服用しようとした場合、1回の服用量は、26/3=8.66・・・ccとなり、極めて、計量しづらく、患者にとって不便であると言える。賦形剤は、かかる場合に、1回の服用量を整数値にするために付加される。前述の例では、例えば、14ccの水薬Aと12ccの水薬Bとに、さらに、1ccの賦形剤を付与する。これにより得られる調剤薬は14+12+1=27ccとなり、1回の服用量を9ccという整数値にすることができ、1回の服用量の計量を簡易にすることができる。
【0039】
こうした賦形剤は、通常、医師の処方箋には含まれておらず、当該処方箋を受け取った薬剤師などの判断で追加されることが多く、その他の薬効成分を含む水薬(以下「通常水薬」と呼び、賦形剤と区別する)と同列に扱うことが望ましいとは言い難い。そこで、本実施形態では、賦形剤は、通常水薬よりも吐出順序が後になるようにしている。また、1回の調剤に、複数の賦形剤を用いる場合には、当該複数の賦形剤のうち起泡度が高いものほど吐出順序が後になるようにしている。
【0040】
さらに、薬剤師などの有資格者は、こうした調剤(水薬吐出)の経過を、目視で確認する鑑査を行う。この鑑査(目視の確認)の際には、有資格者は、通常、医師から与えられた処方箋(あるいは、当該処方箋に従って生成された処方データ)を参照しながら、水薬種類や吐出量などの確認をしている。この確認を容易にするためには、処方箋(処方データ)で指示された水薬の順序(初期順序)と、実際に吐出される水薬の順序と、は極力近いことが望ましい。そこで、本実施形態では、起泡度が同じ水薬が複数ある場合には、当該複数の水薬の吐出順序が、初期順序を維持するように吐出順序を決定している。
【0041】
ここで、こうした抑泡のために行う吐出順序の変更の具体例について、図5、図6を参照して説明する。なお、図5、図6において、「順序」の項目のうち括弧の中にある数値は処方データで指示された順序、すなわち、初期順序を示している。
【0042】
いま、図5(a)に図示するような処方データが入力されたとする。なお、この図5(a)では、理解を容易にするために、各水薬の起泡度を記載しているが、本来、処方データには、かかる起泡度は含まれておらず、当該起泡度は、記憶部40に記憶されている水薬情報テーブルと処方データとの比較対照により求められる。
【0043】
したがって、処方データが入力された場合、制御部46は、まず、記憶部40に記憶されている水薬情報テーブルを参照し、処方データに含まれる各水薬の起泡度を求める。続いて、処方データに含まれる複数の水薬の中から賦形剤を抽出する。図示例では、薬品Cと薬品Hが賦形剤として抽出されることになる。このように抽出される賦形剤が複数である場合には、当該複数の賦形剤を、起泡度に基づいて昇順ソート(すなわち、泡立ちやすい水薬ほど順番が後になるようにソート)する。図示例では、薬品Cに比して、薬品Hのほうが起泡度が小さいため、薬品H、薬品Cの順序にソートされる。
【0044】
なお、この昇順ソートには、公知のソートアルゴリズム、例えば、隣接交換法や、基本選択法などを利用することができるため、当該ソートの手順についての詳説は省略する。なお、簡単に説明すると、隣接交換法は、隣接する要素を比較して当該両要素の関係が規定条件(本実施形態の場合は昇順)に合致していない場合には当該両要素の順番を交換する作業を順次繰り返すアルゴリズムであり、基本選択法は、残存している要素から最小値(または最大値)の要素の探索・抽出を順次繰り返すアルゴリズムである。
【0045】
制御部46は、複数の賦形剤を起泡度に基づいて昇順ソートできれば、この複数の賦形剤を、一番後側の順序にする。すなわち、図5(b)に図示するように、全部で8種類の水薬(通常水薬および賦形剤を含む)を吐出する場合において、薬品H、薬品Cの吐出順序を、それぞれ、7番目、8番目に設定する。
【0046】
また、制御部46は、賦形剤以外の水薬(通常水薬)についても、起泡度に基づいて昇順ソートする。図示例では、通常水薬である薬品A、薬品B、薬品D、薬品E、薬品F、薬品Gが、起泡度に基づいて昇順ソートされる。ここで、起泡度1の薬品は薬品Eだけであり、起泡度2の薬品は薬品Bだけであり、起泡度3の薬品は薬品Gだけである。したがって、この薬品B、E、Gについては、起泡度に応じて、そのままソート(すなわち、薬品E、薬品B、薬品Gの順番にソート)される(図6(a)参照)。
【0047】
一方、起泡度0の薬品は、薬品A、薬品D、薬品Fの三種類ある。このように起泡度が等しい水薬が複数存在する場合、制御部46は、当該起泡度が等しい複数の水薬を初期順序に基づいて昇順ソートする。図示例では、起泡度が0である三つの薬品は、薬品A(初期順序1)、薬品D(初期順序4)、薬品F(初期順序6)という順番にソートされる。そして、最終的に、全ての水薬の吐出順序を、薬品A(起泡度0,初期順序1)、薬品D(起泡度0,初期順序4)、薬品F(起泡度0,初期順序6)、薬品E(起泡度1,初期順序5)、薬品B(起泡度2,初期順序2)、薬品G(起泡度3,初期順序7)、薬品H(起泡度0,初期順序8)、薬品C(起泡度3,初期順序3)という順序に決定する。
【0048】
かかる吐出順序とすることで、起泡度が低めの薬品A,D,F,Eが投薬容器24に吐出・貯留された後に、比較的、起泡度の高い薬品B,Gなどが吐出されることになり、当該薬品B,Gを吐出する分注ノズル20先端から投薬容器24内の液面レベルまでの距離を小さくすることができる。そのため、起泡度の高い薬品B,Gなどを吐出したとしても、当該薬品B,Gが受ける刺激は小さくなり、生じる泡も少なくなる。その結果、鑑査が容易となり、また、投薬容器24からの水薬の溢れなどを防止することができる。また、通常水薬と明らかに、その性質が異なる水薬である賦形剤については、通常水薬の後に吐出されるようにしているため、鑑査を行う有資格者の誤解等を効果的に防止することができる。さらに、起泡度が等しい水薬については、処方データで指定された初期順序を尊重した吐出順序としているため、鑑査のために行う、実際の吐出状況と処方データとの比較を比較的、容易にすることができる。
【0049】
なお、ここで説明した吐出順序の決定方法は、一例であり、少なくとも、起泡度に応じて吐出順序を決定するのであれば、他の決定方法を採用してもよい。例えば、上述の例では、賦形剤を通常水薬よりも後に吐出するようにしているが、通常水薬よりも賦形剤を先に吐出するようにしてもよい。また、上述の例では、起泡度を4段階に分けているが、より少数あるいは多数の段階に分けるようにしてもよい。また、場合によっては、起泡度の低い水薬、起泡度の高い水薬、起泡度の低い水薬のような順序、換言すれば、起泡度の高い水薬が起泡度の低い水薬で挟まれるような順序のほうが泡立ちを防止できる場合もある。かかる効果が確認できた場合には、起泡度の高い水薬が、真ん中に位置するように吐出順序を決定してもよい。
【0050】
いずれにしても、吐出順序が決定されれば、制御部46は、当該吐出順序で水薬が順次吐出されるように機構部10の動作を制御する。ここで、実際に水薬の調剤処理がなされた場合、表示部42には、当該水薬の吐出状況を示す鑑査画面が表示される。この鑑査画面について図7、図8を参照して説明する。
【0051】
既述したとおり、調剤処理の際には、投薬容器24の位置決め、投薬(つまり水薬吐出)の実行、撮像といった一連の工程が繰り返される。図7の(A),(B),(C)は、この調剤過程において段階的に取得された容器画像52,54,56である。これらの容器画像は容器画像列50を構成するものである。例えば4つの水薬が調剤される場合、4つの容器画像が取得されることになる。さらに、調剤前の空の容器を撮像した画像が取得されてもよい。上述したトリミング処理では、符号58,60,62に示されるように、各容器画像52,54,56から、合成処理で必要となる画像部分が切り出される。本実施形態においては、各容器画像52,54,56において容器イメージにおける側部がたて長のエリアとして切り出されており、少なくとも容器の液面レベルが明瞭に現れるような画像部分が切り出される。そして、(D)に示されるように、実際に吐出された順序に従って切り出された複数の部分画像58,60,62が水平方向に並べられて、それらの合成によりひとつの鑑査用画像64が生成される。その場合において、各部分画像の高さは揃えられており、その結果鑑査用画像64においては段階的に上昇する液面レベルが明瞭に現れる。この鑑査用画像64は、患者の属性情報や調剤に用いられた水薬リストなど含む表示フレーム66内に埋め込まれ、鑑査画面67を構成する。
【0052】
図8は、生成された鑑査画面67の一例を示す図である。この例において、鑑査画面67には鑑査用画像64が含まれている。鑑査用画像64は、1番から9番までの9個の部分画像を水平方向に並べて構成されたものである。この鑑査用画像64上にはグラフィックとしてのスケール68が表示されており、そのスケール68は目盛りに相当する複数のラインによって構成される。また、各部分画像にはそれぞれの段階において注入された水薬の量が数値によって表されており、それに伴い積算量すなわち累計量も数値として表示されている。このとき、本実施形態によれば、泡立ちが効果的に防止されているため、各段階における液面レベルを良好に把握することが可能となる。
【0053】
また、この鑑査画面には、患者の氏名、性別、生年月日、年齢、体重、身長など処方箋に記載された各種の事項、投薬容器サイズといった様々な情報が表示されている。
【0054】
さらに、鑑査用画像64の右側には、当該調剤に用いられた水薬の一覧表である水薬リスト74が表示されている。薬剤師などの有資格者は、この水薬リスト74と鑑査用画像とを比較して、調剤の良否を判断する。
【0055】
ところで、既述したとおり、本実施形態では、起泡度合いに応じて、処方データで指示された順序(初期順序)とは異なる順序で水薬を吐出する。換言すれば、有資格者(鑑査者)が、認識している順序とは異なる順序で水薬を吐出する。したがって、水薬リスト74として、この吐出順序での水薬リスト74のみを表示した場合、有資格者が混乱する恐れがある。一方で、初期順序での水薬リスト74は、実際の吐出順序とは異なるため、実際の吐出順序によって生成された鑑査用画像64との対比が困難である。
【0056】
そこで、本実施形態では、有資格者の希望に応じて、当該鑑査画面67に表示される水薬リスト74の順序を、実際の吐出順序と初期順序とに切り替えできるようにしている。図9は、この水薬リスト74の表示の一例を示す図である。図9の左側に図示するように、水薬リスト74を初期順序で表示した場合、当該水薬リスト74の近傍に「吐出順序表示ボタン」80aを配置する。カーソル操作やタッチスクリーンへのタッチ操作により、この「吐出順序表示ボタン」80aが操作された場合には、図9の右側に図示するように水薬リスト74の順序が吐出順序に変更される。これにより、有資格者は、水薬リスト74と鑑査用画像64との対比を容易に行うことができる。なお、水薬リスト74の順序が吐出順序に変更された場合には、「吐出順序表示ボタン」80aに代えて「初期順序表示ボタン」80bを配置する。そして、当該「初期順序表示ボタン」80bが操作された場合には、再度、図9の左側に図示するような、初期順序での水薬リスト74を表示する。
【0057】
なお、画面サイズに余裕があるのであれば、ボタン操作により水薬リスト74の順序を切り替えるのではなく、図10に図示するように、一つの画面に二つの水薬リスト、すなわち、初期順序での水薬リスト74aおよび吐出順序での水薬リスト74bを表示するようにしてもよい。この場合、カーソル82などにより、一方のリストにおいて一つの水薬(図示例では薬品B)を選択すれば、他方のリストにおいても当該水薬がハイライト表示されるようにしてもよい。
【0058】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態によれば、水薬の起泡度に応じて吐出順序を変更しているため、水薬の泡立ちを効果的に低減することができる。ただし、この泡立ち防止のための吐出順序の変更(すなわち抑泡制御)は、常に行われる必要はない。例えば、ユーザ(薬剤師)によっては、初期順序と異なる順序で吐出されることを嫌うことも予想される。また、最終的に得られる調剤薬量(あるいは起泡度の低い水薬量)に比して、起泡度の高い水薬量が、極めて少ない場合などには、かかる抑泡制御を行わず、初期順序で水薬吐出しても殆ど問題がないことが予想される。
【0059】
そこで、水薬調剤装置の動作モードを適宜、起泡度に応じて決定された吐出順序での水薬吐出を行う抑泡モードと、初期順序での水薬吐出を行う通常モードと、に切り替えできるようにしてもよい。このモードの切り替えは、ユーザの指示によって手動で切り替えられてもよい。また、各種パラメータに基づいて水薬調剤装置側で自動的にモード切り替えするようにしてもよい。すなわち、例えば、入力された処方データに基づいて、最終的に得られる調剤薬量に対する起泡度の高い水薬量の割合を算出し、当該割合が規定の閾値以下の場合には通常モード、当該割合が規定の閾値超過の場合には抑泡モードに自動的に切り替えるようにしてもよい。なお、この自動モード切替を行う場合には、適宜、現在選択されているモードをユーザに提示したり、モード切替の可否をユーザに問い合わせたりすることが望ましい。
【符号の説明】
【0060】
10 機構部、12 演算処理部、14 分注ユニット、20 分注ノズル、22 可動ステージ、24 投薬容器、25 昇降台、26 搬送機構、28 搬送台、30 撮像装置、32 光源、34 画像メモリ、38 画面生成部、40 記憶部、42 表示部、44 入力部、46 制御部、48 水薬情報テーブル、49 処方データ、50 容器画像列、52,54,56 容器画像、58,60,62 部分画像、64 鑑査用画像、66 表示フレーム、67 鑑査画面、68 スケール、74 水薬リスト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水薬を投薬容器に吐出することで水薬を調剤する水薬調剤装置であって、
前記調剤に必要な水薬を順次投薬容器に吐出する吐出手段と、
各水薬それぞれの泡立ち易さを示す起泡度情報を記憶する記憶手段と、
入力された処方データで調剤指定された複数の水薬の吐出順序を各水薬の泡立ち易さに応じて決定し、当該決定された吐出順序により水薬の吐出がなされるように前記吐出手段を駆動制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする水薬調剤装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水薬調剤装置であって、
前記制御手段は、泡立ち易い水薬ほど吐出順序が後になるように吐出順序を決定する、ことを特徴とする水薬調剤装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水薬調剤装置であって、
前記調剤指定された複数の水薬が、賦形剤を含む場合、
前記制御手段は、前記賦形剤は、その他の水薬よりも後に吐出されるように吐出順序を決定する、
ことを特徴とする水薬調剤装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水薬調剤装置であって、
前記制御手段は、前記泡立ち易さに応じて決定された吐出順序での水薬吐出を吐出手段に指示する抑泡モードと、処方データで指示された順序での水薬吐出を吐出手段に指示する通常モードと、に切替可能である、ことを特徴とする水薬調剤装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の水薬調剤装置であって、さらに、
前記水薬吐出の状況、および、吐出された水薬のリストを示す鑑査画面をユーザに提示する表示手段を有し、
前記水薬のリストとして、少なくとも、前記水薬が実際に吐出された吐出順序で並んだリストと、前記水薬が処方データで指示された順序で並んだリストと、が選択可能である、
ことを特徴とする水薬調剤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−254334(P2010−254334A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105536(P2009−105536)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】