説明

水路用のアスファルト被覆波付け鋼板

【課題】低温時にアスファルト混合物にクラックが発生することを抑制できる水路用のアスファルト被覆波付け鋼板を提供する。
【解決手段】湾曲させた波付け鋼板2の内面にアスファルト混合物3を平滑内面が形成されるように被覆した水路用のアスファルト被覆波付け鋼板1において、前記アスファルト混合物3として、骨材は実質的に含まずブローンアスファルトが75±2重量%で残りが充填材であるアスファルト混合材料に、その1m当たり短繊維を2〜6kgを混合させたアスファルト混合物3を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、湾曲させた波付け鋼板の内面に、流水効率を向上させるためにアスファルト混合物を被覆した水路用のアスファルト被覆波付け鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
湾曲させた波付け鋼板を複数枚接続して管状にした波付け鋼板パイプは、種々の用途に用いられているが、例えば排水用や灌漑用等の水路に用いられている。
波付け鋼板パイプを用いた水路では、波付け鋼板の波形の凹凸が、流れ方向に繰り返される態様で形成されているので、その凹凸により流水抵抗が大となる。
そこで、波付け鋼板パイプにおける流水領域に配される波付け鋼板にアスファルトを被覆することで、波形の凹凸のある管内面を平滑にして流水抵抗を低減させることが行われている(特許文献1など)。
特許文献1では、アスファルトとして、ゴム成分を含むアスファルト混合物を用いることで、波付け鋼板の特長である弾力性や可撓性を損なわずに管内面を平滑化し、また、耐摩耗性や耐食性を向上させている。
【0003】
波付け鋼板パイプの流水抵抗を低減させる手段として、アスファルト被覆以外に、波付け鋼板にシートないし平面材を貼り付けて波形凹凸を覆うことで、管内面を平滑にすることも行われている。
特許文献2では、シート状のガラス繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた耐磨耗性ペービングシートを管内面全体にボルト等の締着部品で取り付ける。
特許文献3は耐磨耗性ペービングシートを管内面の下部に限定して取り付けるが、その他の点では特許文献2と概ね同様である。
特許文献4では、亜鉛メッキ鋼板等の平面材を管内面にボルト等の締着部品で取り付ける。
【特許文献1】特開昭51−108319
【特許文献2】特開平7−158775
【特許文献3】特開平8−270840
【特許文献4】特開平7−252818
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波付け鋼板の内面にシートないし平面材を貼り付けて管内面の凹凸を覆う流水抵抗低減方法は、シートや平面材を波付け鋼板に取り付けるためのボルトその他の取付け部品が必要となり、部品点数が多くなるとともに、取付け作業が極めて煩雑である。
これに対して、アスファルト混合物で管内面を被覆したアスファルト被覆波付け鋼板を流水領域に用いた波付け鋼板パイプでは、特別な取付け部品は不要であり、施工が容易である。また、アスファルト混合物自体の耐摩耗性については通常は問題とされない程度であり、また、鋼板(波付け鋼板)を腐食から保護する耐食性に優れているという長所がある。
【0005】
しかし、アスファルト被覆波付け鋼板は、これを寒冷地に施工した場合、内面に被覆したアスファルト混合物にクラックが発生するという問題があった。低温時にアスファルト混合物にクラックが発生するのは、アスファルトが収縮することで内部に引張り力が発生するためであり、この引張り力によりクラックが発生する。
【0006】
ところで、ゴムやエラストマ(熱可塑性エラストマ)を改質材として添加した改質アスファルトは、耐摩耗性や耐流動性が向上するので交通量の多い舗装道路に広く採用されている。
また、この種の改質アスファルトは、低温時の粘弾性特性が向上することで耐寒性も向上するとされ、寒冷地用の舗装道路用アスファルトとしても使用されている。
【0007】
しかし、ゴムやエラストマ添加の改質アスファルトを上記アスファルト被覆波付け鋼板における被覆材として用いた場合、必ずしも耐寒性が向上するとは言えず、やはりアスファルト混合物にクラックが発生するという問題があった。その原因としては、水路用のアスファルト被覆波付け鋼板の被覆材としてのアスファルト混合物には、舗装道路の場合と事情が異なるためと考えられるが、次のような要因が大きく影響していると考えられる。
【0008】
舗装道路用のアスファルト混合物は通常、砕石や砂等の骨材の組成が90重量%前後であってその骨材をバインダとしてのアスファルトで結合させた構造であり、アスファルトの組成はアスファルト混合物全体の通常10%以下である。
したがって、骨材間に介在するアスファルトが低温時に収縮しても、大部分を占める骨材の線膨張係数は小さいのでアスファルト混合物全体の収縮量は比較的小さい。また、骨材間のアスファルト厚みは小さいのでそのアスファルト部分の収縮量は小さい。このため、アスファルトがクラック発生に及ぼす影響は限られており、通常品質の改質アスファルトでも寒冷地の舗装道路用に多く採用されている。
しかし、水路用のアスファルト被覆波付け鋼板の被覆材に用いるアスファルト混合物の場合は、砕石や砂等の骨材は含まないので、低温時のアスファルトの収縮は概ねアスファルト混合物全体の収縮につながり、アスファルトのクラック発生に及ぼす影響は大きく、前述のように通常品質の改質アスファルトでは低温時のクラック発生を必ずしも防止できない。
なお、改質アスファルトのなかには、特に高品質の改質材を採用したりあるいは改質材含有量を多くする等により、低温時の粘弾性特性を大きく向上させた高品質の改質アスファルトもあり、低温時のクラック発生防止も可能であるが、そのような高品質の改質アスファルトは高価なので、舗装道路と比べてはるかにアスファルト使用量が大である水路用のアスファルト被覆波付け鋼板の被覆材として使用するには、コスト的に実際的でない。
【0009】
また、図2に示すように、アスファルト混合物3は、湾曲した波付け鋼板1の内面側(図2で上側)から見た波形の山部2aにおいて適宜の厚みtの平滑内面をなすように被覆される。水路用アスファルト被覆波付け鋼板の場合、アスファルト混合物3は、概ね均一厚みで施工される舗装道路の場合と異なり、波付け鋼板1の山部2aで薄く谷部2bで厚い不均一厚みとなる。
本発明者らが、寒冷地に設置されたアスファルト被覆波付け鋼板におけるクラック状況を観察したところ、クラックは貼り付けられたアスファルト混合物3の波付け鋼板山部2aの部分(以下場合により、この部分のアスファルト混合物を山部アスファルト3aと呼ぶ)に多く発生していた。
【0010】
上記のように山部アスファルト3a(アスファルト混合物3の波付け鋼板山部2aの部分)にクラックが多く発生するのは、アスファルト混合物が波付け鋼板に貼り付けられているということが大きく影響していると考えられる。その場合の影響要因としては、アスファルト混合物と鋼板の線膨張係数が顕著に異なることが主であるが、アスファルト混合物が貼り付けられている面が波形であるという形状的な要因とも関連する。
【0011】
線膨張係数の要因については、水路用の波付け鋼板の被覆材として通常用いられるアスファルト混合物の線膨張係数は鋼板(波付け鋼板)の線膨張係数に対して約10倍と顕著に大きいので、温度が低下した時にアスファルト混合物が波付け鋼板の波付け方向(図2で左右方向)に収縮しようとしても、波付け鋼板に貼り付けられて拘束されているアスファルト混合物は僅かしか収縮できず、アスファルト混合物に引張り力が発生する。その引張り力が谷部と比べて断面積の小さな山部アスファルト3aに作用することにより、山部アスファルト3aにクラックが発生すると考えられる。
なお、鉄の線膨張係数が約1.2×10−5であるのに対して、例えば、例えば、合成樹脂を5重量%、タルクを5重量%、植物油を5重量%、コルクを15重量%含むアスファルト混合物の線膨張係数は、それについて試験した結果では約1.1×10−4であり、鉄の線膨張係数の約10倍近い。なお、アスファルト自体の線膨張係数は5.9×10−5であるが、充填材の影響で上記アスファルト混合物の線膨張係数は上記の通りであった。
【0012】
また、山部のアスファルト3aにクラックが多く発生することの形状的な要因については、低温時にアスファルト混合物が収縮する際、厚みの薄い山部アスファルト3aには、山部の両側のアスファルト混合物が収縮することで、山部を拡大した図11の矢印のように両側から引張り力が作用し、したがって、厚みが薄く断面積の小さな山部アスファルト3aに引張り力が集中し、その引張り力がやや下向きであることと相まって、山部アスファルト3aの表面側にクラック3bが発生すると考えられる。
すなわち、舗装道路のように概ね均一厚みで施工される場合には、低温時にアスファルト混合物が収縮しても、その収縮は概ね均等に発生するので、特定箇所に引張り力が集中することはなく、改質アスファルトの持つ粘弾性で吸収可能であっても、水路用アスファルト被覆波付け鋼板の場合には、上記の通り、厚みの薄い山部アスファルト3aに大きな引張り力が集中し、かつ、その引張り力がやや下向きであるので、改質アスファルトの持つ粘弾性程度では吸収できず、山部アスファルト3aの表面側にクラックが発生すると考えられる。
【0013】
本発明者らは、通常品質の改質アスファルトのように単にアスファルト混合物の粘弾性を通常程度に向上させるだけでは有効なクラック防止を実現できないという認識、及び、低温時のアスファルト混合物の収縮により山部アスファルト3aに引張り力が集中して山部アスファルト3aにクラックが発生し易いという知見を基に、クラック発生の少ないと考えられるアスファルト混合物を種々リストアップした。そして、波付け鋼板から切り出した小片に種々のアスファルト混合物を被覆した試験片を多数作製し、それらについてクラック発生状況を調べた。その場合、それらについて零下30℃に冷却した試験片について零下30℃の環境で引張り試験をしてクラック発生状況を調べて、クラック発生が少ないアスファルト混合物を探した。そのなかで、短繊維を一定量混合したアスファルト混合物が、水路用のアスファルト被覆波付け鋼板用のアスファルト混合物として適切であるとともに、クラック発生防止に有効であることが分った。
【0014】
なお、寒冷地に施工されて長期間に渡って使用されているアスファルト被覆波付け鋼板の場合と異なり、試験片を単に冷温環境(零下30℃)に置いただけでは、必ずしも過酷な環境とはならずクラックが発生しないので、クラックが発生する過酷な環境を作り出すために、試験片を零下30℃の環境に置くとともに引張り力を加えたものである。
引張り試験によるクラック発生と低温時のクラック発生との対応については、低温時のクラック発生はアスファルト混合物が収縮することによるクラック発生であり、引張り試験によるクラック発生はアスファルト混合物が伸張することによるクラック発生であるが、発生する内部応力は両者いずれも引張り応力なので、概ね正しい対応関係にあると考えられる。したがって、零下30℃の環境にするとともに引張り荷重を加えた試験結果は、アスファルト混合物を実際に寒冷地で施工して長期間経過した場合の特性が現れると考えられる。
【0015】
本発明はそのような背景のもとに得られたものであり、低温時にアスファルト混合物にクラックが発生することを抑制できる水路用のアスファルト被覆波付け鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する請求項1の発明は、湾曲させた波付け鋼板の内面にアスファルト混合物を平滑内面が形成されるように被覆した水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
前記アスファルト混合物として、骨材は実質的に含まずブローンアスファルトが75±20重量%で残りが充填材であるアスファルト混合材料に、その1m当たり短繊維を2〜6kgを混合(すなわち短繊維を2〜6kg/mを混合)させたアスファルト混合物を用いたことを特徴とする。
【0017】
請求項2は、請求項1の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
アスファルト混合材料における充填材が、ブローンアスファルト1kgに対して、植物油0.02±0.015kg、合成樹脂0.05±0.03kg、タルク0.05±0.03kgを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項3は、請求項1の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
アスファルト混合材料における充填材が、ブローンアスファルト1kgに対して、植物油0.02±0.015kg、合成樹脂0.05±0.03kg、タルク0.05±0.03kg、コルク0.13±0.11kgを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項4は、、請求項1〜3のいずれかの水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
波付け鋼板の内面に被覆したアスファルト混合物の、内面側から見た波形の山部における厚みtが2〜16mmであることを特徴とする。
【0020】
請求項5は、、請求項1〜4のいずれかの水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
短繊維が熱分解温度250℃以上の短繊維であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板の実施例を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の一実施例のアスファルト被覆波付け鋼板1を用いた波付け鋼板パイプ水路4の断面図、図2は図1のA−A断面図である。前記アスファルト被覆波付け鋼板1は、湾曲させた4枚のコルゲートセクション(波付け鋼板)2を周方向にボルト接合により接続して管状にした波付け鋼板パイプ(コルゲート鋼管)5における下部(流水領域)に用いられており、コルゲートセクション2の内面にアスファルト混合物3を被覆した構成である。
【0023】
コルゲート鋼管5を形成するコルゲートセクション2の一例を示すと図3、図4に示す通りである。このコルゲートセクション2は、有効幅W=1200mmで、有効円弧長Lは例えば2358mm、1572mm、786mmの3種類がある。波形の断面形状は、ピッチPが150mm、深さDが48mmである。板厚tは2.7〜7.0mmである。円形のコルゲート鋼管の場合は通常、適宜の円弧長さのものを4枚〜6枚用いて、直径1250〜4500mm等とされる。
なお、上記のコルゲートセクション2は2型と称されており、図示は省略するが、半円形の両端にフランジを持つ形状でその2枚を上下に向き合わせてフランジ部をボルトで接合して管状とする1型のコルゲートセクションもある。この1型のコルゲートセクションの波形の断面形状は、ピッチPが68mm、深さDが13mmである。
【0024】
アスファルト被覆波付け鋼板1の製造要領を説明すると、まず、湾曲させていないコルゲートセクションに合わせた成形型に、溶融したアスファルト混合物を流し込んで、コルゲートセクションの波形状に対応する所定厚みのアスファルト成形品(アスファルトブロック)を製造する。次いで、このアスファルト成形品を、溶融アスファルトを接着剤として、湾曲させたコルゲートセクション2の内面に貼り付けて、アスファルト被覆波付け鋼板1を得る。なお、アスファルト成形品は充分可撓性を有するので、予め湾曲状に成形しなくても、湾曲したコルゲートセクション2に貼り付けることは容易である。
【0025】
図2は図1の要部のA−A拡大断面図であり、コルゲートセクション2の波形の山部2aにおけるアスファルト混合物3の厚みtは9〜16mmである。
本発明のアスファルト被覆波付け鋼板1で用いるアスファルト混合物は、骨材は実質的に含まずブローンアスファルトが75±20重量%で残りが充填材であるアスファルト混合材料に、アスファルト混合材料の1m当たり短繊維を2〜6kgを混合(すなわち短繊維を2〜6kg/mを混合)させたアスファルト混合物である。
【0026】
混合させる短繊維としては、アスファルト成形品の製造に際して、融解したアスファルトに短繊維を混合させても繊維自体が溶融あるいは劣化しないような高耐熱の樹脂、すなわち、アスファルトの溶融温度220〜230℃を考慮して、熱分解開始温度が250℃以上の樹脂からなる短繊維とする。
さらに、零下30℃の環境においても強度を維持できること、アスファルトとの密着性が良好であること、軽量であること(部材(アスファルト成形品)として重くならないために)、繊維が柔らかいこと(硬い短繊維のためにアスファルト成形品の表面が粗くならないために)等を条件に短繊維を選定する。
そのような短繊維として具体的には、例えば、
アラミド繊維、
ポリアミドイミド繊維、
ポリイミド繊維、
PPS(ポリフェニレンスルフィド)繊維、
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)繊維、
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)繊維、
ノボロイド繊維、
メラミン繊維、
ポリベンズイミダゾール繊維、
ポリアリレート繊維、
PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、
PIPD(ポリピリドビスイミダゾール)繊維、
炭素繊維、
ガラス繊維
等を用いることができる。
【0027】
図5は短繊維を種々の混合量にて混合させたアスファルト混合物、及び、短繊維を含まない従来品アスファルト混合物についての引張り試験結果であり、図6に示すように、コルゲートセクション2から切り出した小片2’にアスファルト混合物3を被覆した試験片7を作製し引張り試験を行った結果を示す荷重−変位曲線である。なお、引張り試験は、各アスファルト混合物につき複数の試験片を作製してそれぞれ引張り試験を行ったが、同じアスファルト混合物についての引張り試験結果はいずれも概ね同じであり、図5の通りである。
試験片7のアスファルト混合物3の両側に、ボルト8を取り付けた係合金具9を埋め込んでおり、両側のボルト8を引張り試験機で引っ張って、伸びδmmと引張り荷重PkNとを測定した。試験片7は零下30℃の冷凍庫に一定時間収納した後取り出し、零下30℃の雰囲気中で引張り試験を行った。
【0028】
試験に用いたアスファルト混合物の組成について説明する。
短繊維を混合させたアスファルト混合物の組成は、ブローンアスファルト70重量%、ゴム成分5重量%、鉱物質微粉末5重量%、植物油5重量%、コルク(増容材)15重量%からなるアスファルト混合材料に、その1m当たりポリアリレートの短繊維をそれぞれ1、2、3、4、4.5、5、6kg混合させたものである(1、2、3、4、4.5、5、6kg/m混合)。図5のグラフでそれぞれA1、A2、A3、A4、A4.5、A5、A6で示す。
短繊維を混合させない従来品(図5のB)は、ブローンアスファルト70重量%、ゴム成分5重量%、鉱物質微粉末5重量%、植物油5重量%、コルク(増容材)15重量%からなるアスファルト混合材料である点は共通であるが、アスファルト成形品の製造に際して、コルゲートセクションの面積を持つ綿のメッシュを溶融アスファルトに浸漬して作製したシート(アスファルト系メッシュ)をアスファルト混合物に埋め込んだものである。成形型に溶融アスファルト混合物を流し込む際、通常例えば3層に分けて流し込むが、2層目の後でシートを配置して3層目の流し込みを行って、例えば表面から5mm程度の深さ位置にシートを埋め込んでいる。
【0029】
図5の引張り試験結果(荷重−変位曲線)及び表1の引張り試験結果の評価に示す通り、ポリアリレート繊維の2〜6kg/mにおいて良好な結果が得られた。
すなわち、その範囲でポリアリレート繊維を混合したアスファルト混合物では、引張り強度が従来品と比べて大幅に向上した。
また、引張り試験をすればやはり山部アスファルト3a(アスファルト混合物3の波付け鋼板山部2aの部分)にクラックが発生するが、そのクラック発生態様は、試験片幅方向に直線的に長く延びかつ深い大きなクラックが発生する発生態様ではなく、微細なクラックが分散して発生する発生態様(試験片幅方向の長さが短くかつ浅いクラックが発生す態様(ギザギザ的))であった。大きなクラックでなく微細なクラックが分散して発生することは、クラックが鋼板(波付け鋼板)まで貫通する恐れが少ないので、被覆材としての性能が維持されることになり、寒冷地に適用して好適なものである。
【表1】

【0030】
図5のグラフにおいて、伸びδを伴わずに荷重Pが急降下している箇所はクラックが発生したことを示す(実際にクラックが発生している)。微細なクラックが発生した時の荷重降下量は小さく、大きなクラックが発生した時の荷重降下量は大きい。
小刻みに荷重降下が生じているグラフは、微細なクラックが分散して発生している場合である。
従来品の最大荷重Pが約1.4kNであるのに対して、ポリアリレート繊維4kg/m混合の場合の最大荷重Pは3kN以上であり、ポリアリレート繊維2又は3kg/m混合の場合は2.5kN前後であり、従来品と比べて低温時引張り強度が顕著に増大している。
一方、ポリアリレート繊維1kg/m混合の場合は最大荷重が1.5kN以下であり、低温時の引張り強度が従来品程度で強度アップがなく、短繊維を混合させる意義がない。
従来品の場合に、変位δ=3.6mm付近で荷重が大きく急降下しているが、その箇所は貫通クラックが発生した時である。引張り試験において従来品では、微細なクラックが分散して発生するのでなく、比較的大きなクラックが発生するが、グラフでは小刻みの荷重降下が殆どなく少ない回数で大きな荷重降下が生じていることがその現象を表している。
【0031】
ポリアリレート繊維量が6kg/mを越える場合は、図5には示さなかったが、引張り強度については問題はない。しかし、ポリアリレート繊維が6kg/mを越えると、アスファルト成形品の製造時に、溶融アスファルト混合物の流動性が悪化し、溶融アスファルト混合物を成形型に流し込む作業の作業性が著しく低下する。
また、流動性悪化のため、成形型に流し込んだ溶融アスファルト混合物の表面が円滑に平坦面とならず大きな凹凸が生じる。表面に凹凸があると、流水抵抗が大きくなり、通水性能が低下する。このような理由で、ポリアリレート繊維の混合量は6kg/mを上限としている。
なお、ポリアリレート繊維が5〜6kg/mの場合は、表面にやや凹凸が生じ、またやや流動性に欠けるが、許容範囲内のものである。
【0032】
図5のグラフは短繊維としてポリアリレート繊維を用いた場合のものであるが、ポリアミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維、PPS繊維、PEEK繊維、PTFE繊維の場合について試験した結果も概ね同様であった。
【実施例2】
【0033】
上述の実施例は管状の暗渠に適用したものであるが、開渠にも当然適用可能である。図7に、開渠に適用されたアスファルト被覆波付け鋼板1’を示す。同図において、2’は湾曲させたコルゲートセクションである。これに被覆するアスファルト混合物3は前述のものと同じである。
【実施例3】
【0034】
上述の実施例は波付け鋼板としてコルゲートセクションを用いたものであるが、図8〜図10に示した波付け鋼板パイプ水路14のように、アスファルト被覆波付け鋼板11における波付け鋼板としてライナープレート12を用いることもできる。図示例のアスファルト被覆波付け鋼板11は、4枚のライナープレート12を周方向にボルト接合により接続して管状にした波付け鋼板パイプ(ライナープレート鋼管)15における下部(流水領域)に用いたものである。
ライナープレート12は、図10(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、山部12aと谷部12bとを持つ波形鋼板12cの両側縁を直角に折り曲げてフランジ12dとし、両端部にプレート12eを溶接固定し、ボルト接合用の穴12fをあけ、円弧状に湾曲した構成である。
このライナープレート12の内面側(フランジ12dが形成されている側(図10(ハ)で右側))に、図9に示すようにアスファルト混合物3を被覆してアスファルト被覆波付け鋼板11を得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例のアスファルト被覆波付け鋼板を用いた波付け鋼板パイプ水路の断面図である。
【図2】図1の要部のA−A拡大断面図である。
【図3】上記の波付け鋼板パイプを構成するコルゲートセクションの形状を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は側面図、(ハ)は断面図である。
【図4】上記コルゲートセクションの波形形状を示す要部拡大断面図である。
【図5】コルゲートセクションから切り出した小片に、短繊維の混合量を種々変えたアスファルト混合物を被覆した試験片、及び短繊維を混合しない従来品アスファルト混合物を被覆した試験片についてそれぞれ引張り試験をした結果を示す荷重−変位曲線である。
【図6】図5の結果を得た試験に用いた試験片を説明するもので、(イ)は正面図、(ロ)は平面図である。
【図7】本発明の他の実施例のアスファルト被覆波付け鋼板を用いた水路(開渠)の断面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施例を示すもので、波付け鋼板がライナープレートであるアスファルト被覆波付け鋼板を用いた波付け鋼板パイプ水路の断面図である。
【図9】図8におけるB−B拡大断面図である。
【図10】図8におけるライナープレートの形状を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は側面図、(ハ)は(イ)のC−C断面図である。
【図11】アスファルト被覆波付け鋼板において低温時にアスファルト混合物にクラックが発生するメカニズムを説明する図である。
【符号の説明】
【0036】
1、1’、11 アスファルト被覆波付け鋼板
2、2’ コルゲートセクション(波付け鋼板)
2a 山部
2b 谷部
3 アスファルト混合物
4、14 波付け鋼板パイプ水路
5 波付け鋼板パイプ(コルゲート鋼管)
12 ライナープレート
15 波付け鋼板パイプ(ライナープレート鋼管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲させた波付け鋼板の内面にアスファルト混合物を平滑内面が形成されるように被覆した水路用のアスファルト被覆波付け鋼板において、
前記アスファルト混合物として、骨材は実質的に含まずブローンアスファルトが75±20重量%で残りが充填材であるアスファルト混合材料に、その1m当たり短繊維を2〜6kgを混合させたアスファルト混合物を用いたことを特徴とする水路用のアスファルト被覆波付け鋼板。
【請求項2】
前記アスファルト混合材料における充填材は、ブローンアスファルト1kgに対して、植物油0.02±0.015kg、合成樹脂0.05±0.03kg、タルク0.05±0.03kgを含むことを特徴とする請求項1記載の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板。
【請求項3】
前記アスファルト混合材料における充填材は、ブローンアスファルト1kgに対して、植物油0.02±0.015kg、合成樹脂0.05±0.03kg、タルク0.05±0.03kg、コルク0.13±0.11kgを含むことを特徴とする請求項1記載の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板。
【請求項4】
波付け鋼板の内面に被覆したアスファルト混合物の、内面側から見た波形の山部における厚みtが2〜16mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板。
【請求項5】
前記短繊維が熱分解温度250℃以上の短繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水路用のアスファルト被覆波付け鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−275353(P2009−275353A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124795(P2008−124795)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】