説明

汚れ排除方法及び汚れ排除装置

【課題】少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる汚れ排除方法及び汚れ排除装置を提供すること。
【解決手段】汚れ排除方法においては、反応生成物流体Wが存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する。反応生成物流体Wの移送を行う最中に、流路形成部の外壁面に設けた加熱手段2を用いて、流路形成部を断続的に加熱することにより、汚れの付着の予防又は付着した汚れの除去を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応生成物流体が存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面への汚れの付着予防もしくは成長予防又は付着した汚れの除去を行う汚れ排除方法及び汚れ排除装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、化学プラント等においては、化学反応によって生じた反応生成物は冷却等により固体化合物を析出させ、この固体化合物が、反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、汚れとして付着してしまうことがある。
【0003】
この汚れを抑制する方法としては、例えば、特許文献1の送液配管内の汚れ抑制方法がある。この汚れ抑制方法においては、溶液の連続移送を行うプラントにおいて、溶液中の溶質の析出に伴う送液配管内の汚れを、送液ポンプの吐出部に濃度が異なる流体を混合させて熱力学的に汚れの発生を抑制している。
また、例えば、特許文献2の配管内異物付着防止装置においては、配管内を通流する排水等の流体に所定の流れを生起させ、この流れにより配管の内壁面への異物の付着を防止し、かつ付着した異物を除去して配管詰まり等を未然に防止している。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の汚れ抑制方法においては、汚れが付着することを十分に防止する又は付着物を十分に除去することは困難である。一方、特許文献2の配管内異物付着防止装置においては、配管内に回転羽根手段を設ける必要があり、この回転羽根手段に異物が付着してしまうおそれがある。
そのため、簡単な構成により、効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うためには、更なる工夫が必要とされる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−230282号公報
【特許文献2】特開2002−58991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる汚れ排除方法及び汚れ排除装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、反応生成物流体が存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する汚れ排除方法であって、
上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段を用いて、上記流路形成部を断続的に加熱することにより、上記汚れの付着の予防又は上記付着した汚れの除去を行うことを特徴とする汚れ排除方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明の汚れ排除方法は、加熱手段を用いた簡単な構成により、外部からの熱的操作によって、流路形成部の内壁面への汚れの付着予防もしくは成長予防、又は流路形成部の内壁面に付着した汚れの除去を行うものである。
そして、本発明の汚れ排除方法は、反応生成物流体の移送を行っている最中に実行することができる。そのため、汚れを除去するための時間を別途必要とせず、効果的に、汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0009】
また、本発明の汚れ排除方法においては、流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段によって、送液中に流路形成部を断続的に加熱することができる。そのため、特に、流路形成部の内壁面に既に付着してしまった汚れに対しては、熱的ショックを与えることができ、この汚れを効果的に除去することができる。
また、断続的な加熱を行うことにより、加熱手段により加熱する際に必要な熱エネルギーが増大することを抑えることができ、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0010】
それ故、本発明の汚れ排除方法によれば、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0011】
第2の発明は、反応生成物流体が存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する汚れ排除装置であって、
上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段を有しており、
上記加熱手段を用いて上記流路形成部を断続的に加熱することにより、上記汚れの付着の予防又は上記付着した汚れの除去を行うよう構成したことを特徴とする汚れ排除装置にある(請求項9)。
【0012】
本発明の汚れ排除装置は、加熱手段を用いた簡単な構成により、外部からの熱的操作によって、流路形成部の内壁面への汚れの付着予防もしくは成長予防、又は流路形成部の内壁面に付着した汚れの除去を行うものである。
そして、本発明の汚れ排除装置は、反応生成物流体の移送を行っている最中に加熱手段によって、流路形成部を加熱することができる。そのため、汚れを除去するための時間を別途必要とせず、効果的に、汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0013】
また、本発明の汚れ排除装置においても、流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段によって、送液中に流路形成部を断続的に加熱することができる。そのため、特に、流路形成部の内壁面に既に付着してしまった汚れに対しては、熱的ショックを与えることができ、この汚れを効果的に除去することができる。
また、断続的な加熱を行うことにより、加熱手段により加熱する際に必要な熱エネルギーが増大することを抑えることができ、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0014】
それ故、本発明の汚れ排除装置によれば、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上述した第1、第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
第1、第2の発明において、上記流路形成部とは、反応槽、晶析槽等の槽状体(タンク)の内部をも含めた、広い意味での反応生成物流体が流れる部分のことをいう。
また、上記加熱手段は、上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面の複数箇所に分割して設けてあり、該分割した複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることが好ましい(請求項2、10)。
この場合には、複数の加熱手段における熱エネルギーをより少なくすることができ、より効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0016】
また、上記複数の加熱手段の全体において、加熱に使用する熱エネルギーをほぼ一定にした状態で、上記複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることが好ましい(請求項3、11)。
この場合には、複数の加熱手段の加熱に使用する熱エネルギーの総容量の変動幅を小さく維持し、プロセスへの外乱を最小化してより効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0017】
例えば、加熱手段として加熱媒体を流す熱媒配管を用いる場合には、複数の熱媒配管の全体に供給する熱エネルギーをほぼ一定に維持して、複数の熱媒配管同士の間で流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることができる。また、加熱手段として通電により発熱する発熱体を用いる場合には、複数の発熱体の全体に供給する電力をほぼ一定に維持して、複数の発熱体同士の間で流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることができる。
【0018】
また、上記分割した複数の加熱手段による流路形成部を加熱するタイミングは、種々のタイミングで異ならせることができる。例えば、いずれかの加熱手段から所定の順番で、加熱手段による加熱の開始及び加熱の停止を繰り返すことができる。また、いずれかの加熱手段による加熱の開始及び加熱の停止と、他の加熱手段による加熱の開始及び加熱の停止とは交互に繰り返すこともできる。また、加熱手段をいくつかのグループに分け、いずれかのグループから所定の順番で、加熱の開始及び加熱の停止を繰り返すこともできる。
【0019】
また、上記加熱手段による上記流路形成部の断続的な加熱は、低温側の加熱温度と高温側の加熱温度とに変化させて行い、該高温側の加熱温度は、上記流路形成部の内部における上記反応生成物流体の温度よりも高く、かつ上記固体化合物の融点よりも低い温度に設定することが好ましい(請求項4、12)。
この場合には、加熱手段における熱エネルギーを少なくして、より効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
なお、上記高温側の加熱温度を、固体化合物の融点よりも低い温度に設定して、上記汚れとしての固体化合物の付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる理由は、付着物と付着面との間に付着物の融解が発生し、付着物が剥がれ易くなるためであると考える。
【0020】
また、加熱手段による加熱温度は、低温側の加熱温度として、例えば、加熱手段へ供給する熱エネルギーがほぼゼロの状態(ほとんどない状態)と、高温側の加熱温度として、加熱手段へ供給する熱エネルギーを所定量にした状態との間で変化させることができる。また、加熱手段による加熱温度は、低温側の加熱温度として、例えば、加熱手段へ供給する熱エネルギーを第1の所定量にした状態と、高温側の加熱温度として、この第1の所定量よりも大きな第2の所定量との間で変化させることもできる。
なお、上記高温側の加熱温度とは、断続的な加熱の中で、汚れ排除を行っている間の温度のことをいう。
【0021】
また、上記加熱手段は、加熱媒体を流す熱媒配管、又は通電により発熱する発熱体であることが好ましい(請求項5、13)。
この場合には、加熱手段を容易に構成することができる。
また、加熱手段を熱媒配管としたときには、加熱媒体の流量を変化させることによって、流路形成部を断続的に加熱することができる。一方、加熱手段を発熱体としたときには、通電量を変化させることによって、流路形成部を断続的に加熱することができる。
【0022】
また、例えば、加熱面に熱媒配管を接触させて加熱する場合には、加熱面と熱媒配管との間に、サーモセメント等の伝熱性向上材料を設けることにより伝熱性を向上させることが好ましい。この伝熱性向上材料を設けることにより、見かけの伝熱面積を向上させることもできる。また、熱媒配管同士を並列に配置する間隔は、500mm以下とすることが好ましく、300mm以下とすることがより好ましい。
【0023】
また、上記加熱手段は、反応槽もしくは晶析槽の外壁面、又は反応槽もしくは晶析槽に接続された配管の外壁面に設けてあることが好ましい(請求項6、14)。
この場合には、反応槽もしくは反応管の内壁面、又は反応槽に接続された配管の内壁面における汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を効果的に行うことができる。
また、この場合には、加熱手段を外側から保温材で覆い、加熱手段の外気放熱を防止することが好ましい。
【0024】
また、上記反応生成物流体は、上記固体化合物が析出した晶析スラリーとすることができる(請求項7)。
この場合には、晶析によって生成する固体化合物が、汚れとして流路形成部の内壁面へ付着もしくは成長することを効果的に予防し、又は晶析によって生成する固体化合物が汚れとして付着したときには、効果的にこれを除去することができる。
なお、上記反応生成物流体は、重合反応を行う各種の流体とすることもできる。
【0025】
また、上記反応生成物流体は、アセトンとフェノールを、触媒を介して反応させてビスフェノールAを生成させた流体とすることができる(請求項8)。
この場合には、ビスフェノールA、もしくはビスフェノールAとフェノールとの付加物が、汚れとして流路形成部の内壁面へ付着もしくは成長することを効果的に予防し、又はビスフェノールA、もしくはビスフェノールAとフェノールとの付加物が汚れとして付着したときには、効果的にこれを除去することができる。
また、晶析を行う流体は、上記以外にも、例えば、テレフタル酸、コハク酸、エチレンカーボネート、パラキシレン等とすることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の汚れ排除方法及び汚れ排除装置にかかる実施例1、2につき、図面と共に説明する。
(実施例1)
本例の汚れ排除方法は、反応生成物流体Wが存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する方法である。この汚れ排除方法においては、スラリーが通過する流路形成部の外壁面に設ける加熱手段2を有する汚れ排除装置1を用いる。
そして、汚れ排除方法においては、反応生成物から固体化合物を晶析させたスラリーを移送している最中に、流路形成部の外壁面に設けた加熱手段2を用いて、流路形成部を断続的に加熱することにより、汚れの付着の予防又は付着した汚れの除去を行う。
【0027】
以下に、本例の汚れ排除方法及び汚れ排除装置1につき、図1〜図3と共に詳説する。
図1に示すごとく、本例の加熱手段2は、加熱媒体としてのスチームS(100℃以上の水蒸気)を流すことによって加熱する熱媒配管(蒸気トレス)2によって構成してある。汚れ排除装置1は、コントローラ(制御手段)によって、所定の時間間隔で熱媒配管2にスチームSを流すよう構成してある。
本例の汚れ排除装置1は、反応生成物流体Wが流れる配管30の外壁面に加熱手段2を設けてなり、この加熱手段2を設けた配管30は、晶析槽3に対する接続部分を構成する配管である。本例の加熱手段としての熱媒配管2は、配管30の外周に、軸方向にずらしながら巻き付けてある。本例の熱媒配管2同士の間の配置間隔は100mmとした。
【0028】
同図に示すごとく、晶析槽3の下部は、吸込配管33を介して送液機器としてのポンプ32の吸込口321に接続してあり、ポンプ32の吐出口322は、吐出配管34を介して晶析槽3の下部に接続してある。本例の加熱手段2は、一方のポンプ32Aの吐出口322から晶析槽3に接続される部分の配管30の外周に設けてある。
【0029】
また、晶析槽3には、ポンプ32が2つ設けてあり、一方のポンプ32Aの吐出配管34には、晶析槽3内へ晶析原料を送り込むための受入配管35が接続してあり、他方のポンプ32Bの吐出配管34には、晶析槽3から晶析スラリーを送り出すための送出配管36が接続してある。
また、一方のポンプ32Aの吐出口322に接続した吐出配管34には、熱交換器37等が設けてある。
【0030】
熱交換器37を冷却器として用いると冷却面に急速に汚れが付着することがあるが、この熱交換器37と並列に予備熱交換器38を配設し、熱交換器37と予備熱交換器38とを切り替えて運転及び洗浄を行えば、連続的に運転を行うことが容易である。ただし、この場合においても、配管30の付近において汚れが付着し易い状況が形成され、本例の加熱手段2を設けることが特に有効である。
【0031】
また、本例では、1つの晶析槽3において晶析を行う状態を示した。これに対し、図示は省略するが、晶析槽3を多段に分けて設置し、各晶析槽3において段階を追って晶析させて、最終段の晶析槽3より晶析後の固体化合物を取り出すことができる。この場合には、多段の晶析槽3によって、晶析を連続して行うことができ、プラントの連続運転(継続運転)を行っている最中に、流路形成部の内壁面への汚れの付着予防もしくは成長予防又は付着した汚れの除去を行うことができる。
【0032】
また、図2に示すごとく、本例の加熱手段2による流路形成部の断続的な加熱は、低温側の加熱温度と高温側の加熱温度とに変化させて行う。高温側の加熱温度は、流路形成部の内部における反応生成物流体Wの温度よりも高く、かつ固体化合物の融点よりも低い温度に設定する。なお、加熱手段2により加熱していない時間(低温側の加熱温度)は、放熱等により反応生成物流体Wの温度以下になることがある。
また、本例の汚れ排除装置1は、図1に示すごとく、加熱手段としての熱媒配管2の上流入口部に設けたバルブ21を開閉させて、熱媒配管2へのスチームSの流入、流入の停止を繰り返すことによって、断続的な加熱を行うよう構成してある。
また、本例において、加熱手段2による加熱温度とは、反応生成物流体Wと汚れとの接触面の温度のことをいう。また、汚れの付着予防が目的であるために汚れが存在しない場合には、反応生成物流体Wと流路形成部との接触面の温度のことをいう。
【0033】
本例の反応生成物は、晶析原料から固体化合物を析出させる晶析を行う流体である。本例の反応生成物は、アセトンとフェノールを、触媒を介して反応させ、ビスフェノールAの濃度を25wt%に調整した後、62℃の温度で晶析させて、固体化合物としてのビスフェノールAとフェノールとの付加物を生成する流体である。本例の汚れ排除装置1は、主にビスフェノールAとフェノールとの付加物としてのビスフェノールAが、汚れとして晶析槽3への接続部分の配管30の内壁面へ付着もしくは成長することを予防し、又は晶析槽3への接続部分の配管30の内壁面へ汚れとして付着した固体化合物を除去することができるものである。
【0034】
図3は、横軸にフェノール溶液中のビスフェノールAの濃度(wt%)をとり、縦軸に温度(℃)をとって、フェノールとビスフェノールAとが混在する場合の固液平衡曲線を示すグラフである。同図において、フェノールの分子量は約94であり、ビスフェノールAの分子量は約228であり、ビスフェノールAとフェノールとの付加物の組成(モル比で1:1の組成)は、約70wt%である。また、この付加物の融点は、約100℃である。
同図において、固液平衡曲線よりも上側の領域の温度においては、液体になり、固液平衡曲線よりも下側の領域の温度においては、固体が存在するスラリー状になることを示す。
【0035】
加熱手段としての熱媒配管2による高温側の加熱温度は、流路形成部の内部における反応生成物流体Wの組成(図3の例では。フェノールに対するビスフェノールAの濃度)における固液平衡曲線上の温度よりも高い温度にすることが好ましい。特に、高温側の加熱温度は、ビスフェノールAの種々の濃度において、固液平衡曲線上の温度から10℃高い温度までの範囲内に設定することがより好ましい。
そして、熱媒配管2により、種々の組成の反応生成物流体Wの固液平衡曲線よりも上側の領域の温度まで加熱することにより、流路形成部の内壁面に付着した汚れを効果的に除去することができると考える。
【0036】
本例の汚れ排除方法及び汚れ排除装置1は、加熱手段2を用いた簡単な構成により、反応生成物流体Wに直接触れることなく、外部からの熱的操作によって、配管30の内壁面への汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うものである。
そして、本例の汚れ排除方法は、晶析スラリーの移送を行っている最中に実行することができる。そのため、汚れを除去するための時間を別途必要とせず、効果的に、汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0037】
また、本例の汚れ排除方法においては、配管30の外壁面に設けた加熱手段2によって、配管30を断続的に加熱する。そのため、特に、配管30の内壁面に既に付着してしまった汚れに対しては、熱的ショックを与えることができ、この汚れを効果的に除去することができる。
また、1時間周期の断続的な加熱を行うことにより、加熱手段2により加熱する際に必要な熱エネルギーが増大することを抑えることができ、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0038】
それ故、本例の汚れ排除方法及び汚れ排除装置1によれば、少ない熱エネルギーで効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
【0039】
(実施例2)
本例の汚れ排除装置1は、図4に示すごとく、加熱手段2を、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の外壁面の複数箇所に分割して設け、この分割した複数の加熱手段2による流路形成部の加熱の開始及び加熱の停止を行うタイミングを異ならせるよう構成してある。
本例の加熱手段2は、上記実施例1と同様に、加熱媒体としてのスチームS(100℃以上の水蒸気)を流すことによって流路形成部を加熱する熱媒配管(蒸気トレス)2によって構成してある。本例の熱媒配管2同士の間の配置間隔は200mmとした。
【0040】
同図に示すごとく、本例の熱媒配管2は、晶析槽3の外壁面における軸方向に対して、複数に分割して配設してある。晶析槽3の軸方向に並ぶ複数の熱媒配管2の上流入口部には、それぞれ別々にバルブ21が設けてあり、各バルブ21は、コントローラ(制御手段)によって所定の時間間隔で開閉可能である。
【0041】
本例のコントローラは、いずれかのバルブ21から順番に、所定時間開けて閉める動作を繰り返し、いずれかの熱媒配管2から順番に、晶析槽3の各部分を順番に加熱するよう構成してある。例えば、図4に示すごとく、晶析槽3を軸方向に区切って、上部3A、中間部3B、下部3C、最下部3Dの4つの領域毎に熱媒配管2A〜Dを設けることができる。
【0042】
この場合には、図5に示すごとく、上部の熱媒配管2AへスチームSを供給して晶析槽3の上部3Aの領域を30分間加熱し、次いで、上部の熱媒配管2AへのスチームSの供給を停止すると共に、中間部の熱媒配管2BへスチームSを供給して晶析槽3の中間部3Bの領域を30分間加熱し、次いで、中間部の熱媒配管2BへのスチームSの供給を停止すると共に、下部の熱媒配管2CへスチームSを供給して晶析槽3の下部3Cの領域を30分間加熱し、その後、順次同じローテーションで繰り返し加熱を行うことができる。また、最下部の熱媒配管2DへはスチームSを常時供給して、晶析槽3の最下部3Dの領域を常時加熱することができる。
【0043】
また、晶析槽3の上部3A、中間部3B、下部3Cを加熱するための熱媒配管2A〜Cの全体に供給する熱エネルギーは、ほぼ一定にし、プロセスへの外乱を最小にしている。そして、このほぼ一定の熱エネルギーを供給する部分を、晶析槽3の上部3A、中間部3B、下部3Cに所定のローテーションで切り替えることにより、複数の熱媒配管2A〜Cの加熱に使用する熱エネルギーの総容量を小さく維持することができる。
【0044】
また、例えば、図6に示すごとく、加熱手段としての熱媒配管2は、晶析槽3に接続された部分の配管30の軸方向の複数箇所に分割して設けることもできる。
本例においては、複数の加熱手段としての熱媒配管2に使用する熱エネルギーをより少なくすることができ、より効果的に汚れの付着予防もしくは成長予防又は除去を行うことができる。
本例においても、その他の構成は上記実施例1と同様であり、上記実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0045】
(確認試験)
本確認試験においては、図7に示すごとく、上記汚れ排除装置1及び汚れ排除方法による汚れの除去効果を、次の汚れ評価熱交換器ユニット4を用い、冷却によるテスト用熱交換器41への結晶付着操作及び加熱によるテスト用熱交換器41からの結晶除去操作を行なって確認した。
テスト用熱交換器41は、外径12.7mmφ、厚み1.2mm、長さ500mmのチューブ411を用いた単管二重管式の熱交換器であり、チューブ411にはSUS316の引抜管を用いた。テスト用熱交換器41のシェル412は、外径34mmφ、厚み3.4mmの配管で製作し、内部に螺旋状バッフル設けた。
【0046】
また、汚れ除去効果の確認をする反応生成物流体Wは、A成分(ビスフェノールA)の濃度が25wt%、B成分(フェノール)の濃度が75wt%であるスラリーWとした。そして、スラリータンク42に貯蓄したスラリーWを、スラリー循環ポンプ43によりテスト用熱交換器41のチューブ411側にフィードし、再加熱器44を経てスラリータンク42に戻し、また、テスト用熱交換器41のシェル412側に、テスト用冷熱媒体Hとしての冷水と熱水とを交互に流した。
【0047】
次に、テスト用熱交換器41における冷却・加熱操作時の汚れ評価方法を示す。
汚れ評価方法としては、テスト用熱交換器41に対するテスト用冷熱媒体Hの入口401と出口402との温度差と、冷熱媒体Hの流量とから求めた熱量Q[kcal/hr]、スラリーWの温度と冷熱媒体Hの温度との対数平均温度差△t[K]、及びテスト用熱交換器41の伝熱面積A[m2]を用いて、総括伝熱係数Uを求めた(U=Q/(A・Δt))。
【0048】
また、総括伝熱係数Uの値は、冷却運転時間経過とともに伝熱面の汚れによる伝熱抵抗の上昇により低下する。そして、Uの逆数は時間経過とともに上昇するため、Uの逆数の初期からの増分を汚れ抵抗Rf[hr・m2・K/kcal]とした。ここで、Rf=1/U−1/U0であり、U0は、運転初期の汚れが付着していない時のUを示す。
そして、冷却運転から加熱運転に切り替えた際の汚れ抵抗減少分ΔRfを、加熱時間(ヒートショック時間)s[hr]で割ったものΔRf/sを、汚れ除去速度[(hr・m2・K/kcal)/hr]として、汚れ除去効果を確認した。
【0049】
なお、熱量Q[kcal/hr]は、冷熱媒体Hの流量Wc[kg/hr]、冷熱媒体Hの比熱C[kcal/(kg・K)]、テスト用熱交換器41に対する冷熱媒体Hの出口402と入口401との温度差ΔTc[K]を用いて、Q=Wc・C・ΔTcから求めた。
また、対数平均温度差△t[K]は、冷熱媒体Hの入口401の温度とスラリーWの出口422の温度との温度差Δt1、冷熱媒体Hの出口402の温度とスラリーWの入口421の温度との温度差Δt2を用いて、Δt=(Δt1−Δt2)/ln(Δt1/Δt2)から求めた。
【0050】
具体的な操作条件としては、毎回テスト前の操作として、まず、各機器及び配管の温度を80℃以上に上げ、汚れ評価熱交換器ユニット4内のサンプルを完全溶解し1時間循環運転した後、系内を徐々に冷却した。85℃からテスト標準温度の62℃までの冷却を45分間で行った後、2時間62℃をキープした。その後、20℃、1.4kg/minの冷水を入口401からテスト用熱交換器41のシェル412側にフィードし、ヒートショックテスト前の冷却運転を開始した。正式には、スタート前からシェル412内の滞留媒体が、上記冷水に完全に置き換わった2分後をヒートショックテストの開始とした。
【0051】
冷却運転の基本条件は、スラリーWの温度62℃、スラリーWの線速1.2m/s、冷水温度20℃、冷水流量1.4kg/minで5時間冷却運転することとした。その後、ヒートショックテストとして、20℃の冷水を76〜90℃の熱水に切り替え、10分間流通させた。テスト時間到達後、熱水を冷水に戻し、安定したところで汚れ除去速度ΔRf/sを求めた。
【0052】
図8は、横軸に汚れ表面温度[℃]をとり、縦軸に汚れ除去速度ΔRf/s[(hr・m2・K/kcal)/hr]をとって、本確認試験において求めた両者の関係を示すグラフである。同図に示すごとく、上記76〜90℃の熱水による汚れ除去速度ΔRf/sは、約0.0020[(hr・m2・K/kcal)/hr]以上となり、汚れ除去効果があることを確認できた。
また、熱水温度76℃のときの汚れ表面温度(スラリーWと汚れの接面温度)を測定したところ、73℃であり、この汚れ表面温度は、スラリーWにおける固液平衡曲線上の温度(72℃)よりも高かった。これにより、上記加熱手段2による流路形成部の加熱温度を、反応生成物流体Wの固液平衡曲線上の温度(72℃)よりも高い温度にすることにより、流路形成部の内壁に付着した汚れを効果的に除去できることがわかった。
【0053】
なお、本確認試験においては、熱水温度を73℃以下とした場合についてもヒートショックテストを行い、図8に、このときに求めた汚れ除去速度ΔRf/s[(hr・m2・K/kcal)/hr]は、ほぼ0となった。また、熱水温度が73℃のときには、汚れ表面温度(スラリーWと汚れの接面温度)は71℃となり、スラリーWにおける固液平衡曲線上の温度(72℃)よりも低かった。これにより、上記加熱手段2による流路形成部の加熱温度を、反応生成物流体W中の固液平衡曲線上の温度(72℃)よりも低い温度にすると、流路形成部の内壁に付着した汚れを除去することは困難であることがわかった。
【0054】
続いて、定期的なヒートショックの繰り返し操作により、長期的に汚れ付着の成長を抑制することを試みた。具体的には、冷却期間としての2時間おきにヒートショック効果が十分に望める熱水温度80℃、汚れ表面温度(スラリーWと汚れの接面温度)76℃の熱処理を10分間行い、これを5サイクル繰り返した。
図9は、横軸に時間[min]をとり、縦軸に汚れ除去速度ΔRf/s[(hr・m2・K/kcal)/hr]をとって、本確認試験において求めた汚れ除去速度Rfの推移を示すグラフである。同図において、汚れは時間とともに成長するものの、ヒートショックにより汚れがほぼ完全に除去される状態が繰り返され、長期的に汚れの成長を制御できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1における、晶析槽及び汚れ排除装置の周辺を示す説明図。
【図2】実施例1における、横軸に時間をとり、縦軸に温度をとって、加熱手段による加熱温度を断続的に変化させる状態を示すグラフ。
【図3】実施例1における、横軸にフェノール溶液中のビスフェノールAの濃度をとり、縦軸に温度をとって、フェノールとビスフェノールAとが混在する場合の固液平衡曲線を示すグラフ。
【図4】実施例2における、晶析槽及び汚れ排除装置の周辺を示す説明図。
【図5】実施例2における、横軸に時間をとり、縦軸に加熱温度をとって、晶析槽の各領域毎に順次加熱を行うことを説明するグラフ。
【図6】実施例2における、他の汚れ排除装置を示す説明図。
【図7】確認試験における、汚れ評価熱交換器ユニットを示す説明図。
【図8】確認試験における、横軸に汚れ表面温度をとり、縦軸に汚れ除去速度をとって、両者の関係を示すグラフ。
【図9】確認試験における、横軸に時間をとり、縦軸に汚れ抵抗をとって、汚れ抑制の推移を示すグラフ。
【符号の説明】
【0056】
1 汚れ排除装置
2 加熱手段(熱媒配管)
3 晶析槽
30 配管
W 反応生成物流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応生成物流体が存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する汚れ排除方法であって、
上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段を用いて、上記流路形成部を断続的に加熱することにより、上記汚れの付着の予防又は上記付着した汚れの除去を行うことを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項2】
請求項1において、上記加熱手段は、上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面の複数箇所に分割して設けてあり、
該分割した複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項3】
請求項2において、上記複数の加熱手段の全体において、加熱に使用する熱エネルギーをほぼ一定にした状態で、上記複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記加熱手段による上記流路形成部の断続的な加熱は、低温側の加熱温度と高温側の加熱温度とに変化させて行い、
該高温側の加熱温度は、上記流路形成部の内部における上記反応生成物流体の温度よりも高く、かつ上記固体化合物の融点よりも低い温度に設定することを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記加熱手段は、加熱媒体を流す熱媒配管、又は通電により発熱する発熱体であることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記加熱手段は、反応槽もしくは晶析槽の外壁面、又は反応槽もしくは晶析槽に接続された配管の外壁面に設けてあることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記反応生成物流体は、上記固体化合物が析出した晶析スラリーであることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項8】
請求項7において、上記反応生成物流体は、アセトンとフェノールを、触媒を介して反応させてビスフェノールAを生成させた流体であることを特徴とする汚れ排除方法。
【請求項9】
反応生成物流体が存在する反応槽、晶析槽、配管、送液機器、熱交換器、バルブ等の流路形成部の内壁面に、固体化合物が汚れとして付着もしくは成長することを予防する、又は汚れとして付着した固体化合物を除去する汚れ排除装置であって、
上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面に設けた加熱手段を有しており、
上記加熱手段を用いて上記流路形成部を断続的に加熱することにより、上記汚れの付着の予防又は上記付着した汚れの除去を行うよう構成したことを特徴とする汚れ排除装置。
【請求項10】
請求項9において、上記加熱手段は、上記流路形成部の外壁面もしくは内壁面の複数箇所に分割して設けてあり、
該分割した複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせるよう構成したことを特徴とする汚れ排除装置。
【請求項11】
請求項10において、上記複数の加熱手段の全体において、加熱に使用する熱エネルギーをほぼ一定にした状態で、上記複数の加熱手段同士の間で上記流路形成部を加熱するタイミングを異ならせるよう構成したことを特徴とする汚れ排除装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項において、上記加熱手段による上記流路形成部の断続的な加熱は、低温側の加熱温度と高温側の加熱温度とに変化させて行い、
該高温側の加熱温度は、上記流路形成部の内部における上記反応生成物流体の温度よりも高く、かつ上記固体化合物の融点よりも低い温度に設定してあることを特徴とする汚れ排除装置。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項において、上記加熱手段は、加熱媒体を流す熱媒配管、又は通電により発熱する発熱体であることを特徴とする汚れ排除装置。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか一項において、上記加熱手段は、反応槽もしくは晶析槽の外壁面、又は反応槽もしくは晶析槽に接続された配管の外壁面に設けてあることを特徴とする汚れ排除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−11873(P2009−11873A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172900(P2007−172900)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】