沸騰冷却器
【課題】 蒸気発生量が増加した時でも、沸騰面のドライアウトを防止できる沸騰冷却器を提供すること。
【解決手段】 冷媒槽は、箱状の薄型容器と、この薄型容器の開口面を塞ぐ外壁板2Bとから成り、外形が薄型の直方体に設けられている。外壁板2Bには、押し出し成形によって複数のリブ10が一体に設けられている。但し、各リブ10の長さは、冷媒室の沸騰面の上下幅より若干長く設けられている。また、リブ10によって形成される冷媒通路6aの通路幅dは、ラプラス長さの2倍以下(望ましくは1mm以下)に設定される。これにより、冷媒室の液冷媒がCPUの熱を受けて沸騰気化し、気泡となって各冷媒通路6aを上昇する際に、気泡の外径が通路幅dより大きくなるため、気泡によって液冷媒が持ち上げられて、各冷媒通路6aの液面が上昇する。
【解決手段】 冷媒槽は、箱状の薄型容器と、この薄型容器の開口面を塞ぐ外壁板2Bとから成り、外形が薄型の直方体に設けられている。外壁板2Bには、押し出し成形によって複数のリブ10が一体に設けられている。但し、各リブ10の長さは、冷媒室の沸騰面の上下幅より若干長く設けられている。また、リブ10によって形成される冷媒通路6aの通路幅dは、ラプラス長さの2倍以下(望ましくは1mm以下)に設定される。これにより、冷媒室の液冷媒がCPUの熱を受けて沸騰気化し、気泡となって各冷媒通路6aを上昇する際に、気泡の外径が通路幅dより大きくなるため、気泡によって液冷媒が持ち上げられて、各冷媒通路6aの液面が上昇する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷媒の沸騰及び凝縮作用によって発熱体を冷却する沸騰冷却器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、例えば電子機器等の発熱体を冷却するための沸騰冷却器がある。この沸騰冷却器は、液冷媒を貯留する冷媒槽と、この冷媒槽で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体と熱交換させて放熱する放熱部とで構成され、特にコスト低減の要求等から、高価な冷媒の封入量を減らすために冷媒槽を薄型化したものが公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、冷媒槽を薄型化する程、冷媒槽内の蒸気発生量が増加した時(発熱密度が大きい場合等)に、冷媒槽内の沸騰面における液冷媒の割合が減少して液面が低下し、沸騰面の温度が急上昇する所謂ドライアウトを生じやすくなると言った問題があった。本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、蒸気発生量が増加した時でも、沸騰面のドライアウトを防止できる沸騰冷却器を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】(請求項1の手段)冷媒槽は、少なくとも冷媒室の沸騰面(発熱体の熱を受けて冷媒が沸騰する面)を上下方向に連続して延びる複数の通路部が形成され、この通路部の通路幅がラプラス長さの2倍以下に設定されている。この構成によれば、冷媒室で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気の気泡の大きさが通路部の通路幅より大きくなるため、通路部を気泡が上昇する際に液冷媒を持ち上げる作用を生じる。これにより、蒸気発生量が増加した時でも、液面の低下を抑制でき、冷媒室の沸騰面に液冷媒を供給することが可能である。
【0005】(請求項2の手段)複数の通路部は、上下方向の長さが発熱体の長さと同じ、もしくはそれ以上である。この場合、気泡の上昇に伴って沸騰面の上部まで液冷媒を供給することができるので、沸騰面の上部でもドライアウトすることがない。
【0006】(請求項3の手段)冷媒槽は、一方側の表面または他方側の表面を形成する外壁部を有し、この外壁部の内側面に、隣合う通路部同士の間を区画する複数のリブが一体に設けられている。この構成では、リブによって沸騰面の伝熱面積を拡大でき、且つ冷媒槽の耐圧強度を向上できる。
【0007】(請求項4の手段)複数のリブを有する外壁部は、押し出し材で製作されている。この場合、押し出し材によって容易にリブを形成することができ、例えば切削によってリブを形成する方法、あるいはリブを別体で形成して外壁部に接合する方法等と比較してコストを低く抑えることができる。
【0008】(請求項5の手段)請求項1〜4に記載した沸騰冷却器は、発熱体としてプリント基板に配置されたコンピュータチップ(例えばCPU)を冷却するものである。この場合、放熱部を冷媒槽の他方側の表面上に設けているので、放熱部がプリント基板と干渉することはない。
【0009】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)図2は沸騰冷却器1の斜視図である。本実施例の沸騰冷却器1は、図2に示すように、内部に液冷媒(例えば、水、アルコール、フロロカーボン、フロン等)を貯留する冷媒槽2と、この冷媒槽2で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体(例えば外気)との熱交換によって液化する放熱部3とから構成され、一体ろう付けによって製造される。
【0010】a)冷媒槽2は、箱状の薄型容器2Aと、この薄型容器2Aの開口面を塞ぐ外壁板2Bとから成り、外形が薄型の直方体に設けられている。薄型容器2Aと外壁板2Bは、共に熱伝導性に優れる金属材料(例えばアルミニウム)で構成されている。この冷媒槽2は、図3に示すように、略直立した姿勢で使用され、厚み方向の一方側の表面が発熱体であるCPU4の放熱面に接触して、そのCPU4が設置されているプリント基板5にボルト等によって固定される。
【0011】冷媒槽2の内部には、図4に示すように、冷媒室6、一組のヘッダ接続口7、液戻り通路8、及び冷媒注入部9等が形成されている。冷媒室6は、CPU4の取付け部位に対応して液冷媒を貯留する空間で、外壁板2Bに設けられた複数のリブ10によって溝状に形成されたグルーブ構造G(図1参照)を有している。なお、リブ10の高さ方向の先端面は、薄型容器2Aの内側面に接触して接合されることにより、隣合うリブ10同士の間に冷媒通路6aが形成される。ヘッダ接続口7は、後述のヘッダを組み付けるためのスペースで、冷媒室6の上部両側に設けられ、冷媒槽2の他方側表面2aに開口している。なお、図4に示されている一方のヘッダ接続口7は、冷媒室6(各冷媒通路6a)の上部側に通じており、他方のヘッダ接続口(図示しない)は液戻り通路8を介して冷媒室6(各冷媒通路6a)の下部側に通じている。
【0012】液戻り通路8は、放熱部3で液化した凝縮液を冷媒室6へ戻すための通路で、冷媒室6の片側に隣接して設けられ、他方のヘッダ接続口から下方へ通路状に延びて冷媒室6(各冷媒通路6a)の下部に通じている。冷媒注入部9は、注入パイプ11が接続される接続口であり、一方のヘッダ接続口7の下方に設けられて冷媒室6に連通している。なお、冷媒は、冷媒室6の略上端位置(ヘッダ接続口7より下側)まで注入されている。
【0013】ここで、上記のグルーブ構造Gについて説明する。外壁板2Bは、図5に示すように、押し出し成形によって複数の柱部10Aが一定の間隔を保って一体に設けられ、その後、各柱部10Aの長手方向の両端部を所定の長さだけ削除して前記のリブ10が形成されている。なお、図5(a)は外壁板2Bの斜視図、(b)は外壁板2Bの平面図である。但し、各リブ10の長さは、図1に破線で示す沸騰面の上下幅(本実施例では発熱体の長さと同等)より若干長く設けられている。
【0014】また、リブ10によって形成される冷媒通路6aの通路幅d(図1参照)は、次式で定義されるラプラス長さの2倍以下(望ましくは1mm以下)に設定されている。
ラプラス長さ=√{σ/g(ρ1 −ρ2 )}
σ:液冷媒の表面張力、ρ1 :液冷媒の密度、ρ2 :蒸気冷媒の密度、g:重力加速度なお、冷却器1の作動温度(冷媒温度)が異なると、上記のσ、ρ1 、ρ2 の各値が変動するため、ラプラス長さは、図6に示すように、作動温度が高くなる程、小さく設定される。
【0015】b)放熱部3は、一組のヘッダ12と放熱コア(放熱チューブ13と放熱フィン14)とで構成され、冷媒槽2の他方側表面2a上に組み付けられて、冷却器1の作動時にダクト15(図3参照)を介して外部流体が導入される。なお、放熱部3に導入される外部流体は、図示しない冷却ファンによって図2の下方から上方へ向かって流されるものとする。一組のヘッダ12は、冷媒槽2でCPU4の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気が流入する蒸気側ヘッダ12Aと、放熱コアの各放熱チューブ13で液化した凝縮液が流入する液側ヘッダ12Bであり、それぞれ長手方向の一端部が冷媒槽2の他方側表面2aに開口するヘッダ接続口7より冷媒槽2の内部へ差し込まれ、冷媒槽2に対して略垂直方向に組み付けられている。
【0016】放熱コアは、複数本の放熱チューブ13と、各放熱チューブ13の間に介在される放熱フィン14とで構成される。放熱チューブ13は、熱伝導性に優れる金属材料(例えばアルミニウム)で形成され、放熱フィン14が接触する外表面の幅に対して厚みが薄い偏平管形状に設けられている。各放熱チューブ13は、一端が蒸気側ヘッダ12Aに接続されて、他端が液側ヘッダ12Bに接続され、その蒸気側ヘッダ12Aと液側ヘッダ12Bとの間で互いに一定の間隔を開けて並設されている。放熱フィン14は、熱伝導性に優れる薄い金属板(例えばアルミニウム板)を交互に折り曲げて波状に成形したもので、放熱チューブ13の外表面にろう付けされている。
【0017】次に、本実施例の作動を説明する。冷媒室6に貯留されている液冷媒は、CPU4の熱を受けて沸騰気化し、気泡となって冷媒室6の各冷媒通路6aを上昇する。この時、リブ10によって区画される各冷媒通路6aの通路幅dをラプラス長さの2倍以下に設定しているため、気泡の外径が通路幅dより大きくなる。この結果、冷媒通路6aが気泡によって塞がれるため、冷媒通路6aを気泡が上昇する際に、気泡によって液冷媒が持ち上げられることにより、各冷媒通路6aの液面が上昇する(図7参照)。
【0018】各冷媒通路6aを上昇して冷媒室6から蒸気側ヘッダ12Aへ進入した冷媒蒸気は、蒸気側ヘッダ12Aから各放熱チューブ13へ流れ、放熱チューブ13を流れる際に外部流体によって冷却され、放熱チューブ13の内部で凝縮する。凝縮した冷媒は、液滴となって液側ヘッダ12Bへ押し流され、更に液側ヘッダ12Bより冷媒槽2内の液戻り通路8を通って冷媒室6へ還流する。この作動における冷媒の流れを図4に矢印で示す。
【0019】(第1実施例の効果)本実施例の沸騰冷却器1は、冷媒室6の沸騰面にグルーブ構造Gを設け、そのグルーブ構造Gの通路幅dをラプラス長さの2倍以下としたことにより、各冷媒通路6aを上昇する気泡の大きさが通路幅dより大きくなる。その結果、気泡の上昇に伴って液冷媒が持ち上げられるため、図7に示すように、各冷媒通路6aの液面を各リブ10の略上端まで上昇させることができる。これにより、蒸気発生量が増加した時でも、液面の低下を抑制でき、冷媒室6の沸騰面に液冷媒を供給することができるため、沸騰面のドライアウトを防止できる。また、各冷媒通路6aを形成するリブ10を外壁板2Bと一体に設けているため、冷媒室6の伝熱面積が拡大され、冷却器1の性能向上を図ることができる。更に、リブ10を設けることで、圧力容器である冷媒槽2の耐圧強度を確保することができる。
【0020】なお、本発明のグルーブ構造Gは、各冷媒通路6aが上下方向に連続して形成されていることが重要である。例えば、図8に示すように、各リブ10が上下方向において複数に分割されていると、沸騰面の下部で発生した気泡が冷媒通路6aを上昇する際に、リブ10が途切れた所から気泡が分散するため、液冷媒を沸騰面の上方まで持ち上げることができなくなり、沸騰面の上部でドライアウトする可能性がある。これに対し、本発明では、リブ10が分割されることなく、連続して設けられているため、各冷媒通路6aが上下方向に連続して形成され、上記の効果を得ることができる。
【0021】(第2実施例)図9はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例では、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第1の例である。なお、上部及び下部の短いグルーブ構造G1 、G2 は、押し出し成形によって外壁板2Bに柱部10A(図5参照)を設けた後、柱部10Aの上部と下部を加工して形成することができる。この場合、上部及び下部の短いグルーブ構造G1 、G2 を設けることで、冷媒室6の伝熱面積を更に拡大でき、且つ耐圧強度を向上できる効果がある。
【0022】(第3実施例)図10はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例は、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第2の例である。上部の短いグルーブ構造G1 は、各リブ10が蒸気流出口である一方のヘッダ接続口7側へ傾斜して設けられ、下部の短いグルーブ構造Gは、液戻り通路8の出口側へ傾斜して設けられている。これにより、長いグルーブ構造Gを上昇した冷媒蒸気が、上部の短いグルーブ構造G1 によって蒸気流出口(一方のヘッダ接続口7)へ効果的に流れることができ、また、放熱部3で液化されて液戻り通路8に流入した凝縮液が下部の短いグルーブ構造G2 によって効果的に長いグルーブ構造Gに供給される。この結果、冷媒槽2の内部で冷媒の循環が促進されて、性能向上を図ることができる。
【0023】(第4実施例)図11はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例は、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第3の例である。この場合、上部及び下部のグルーブ構造G1 、G2 における各リブ10の形状が第3実施例とは異なるが、第3実施例と同様の効果を得ることができる。
【0024】(変形例)本実施例の沸騰冷却器1は、冷媒槽2が直立した姿勢(図2に示す状態)で使用しているが、冷媒槽2を横に倒した状態(但し、放熱部3が冷媒槽2の上方に直立した状態)で使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リブ側から見た外壁板の平面図である(第1実施例)。
【図2】沸騰冷却器の斜視図である。
【図3】沸騰冷却器の使用状態を示す斜視図である。
【図4】沸騰冷却器の内部構造を示す斜視図である。
【図5】外壁板の斜視図(a)と平面図(b)である。
【図6】ラプラス長さと冷却器の作動温度との関係を示すグラフである。
【図7】グルーブ構造の作用を説明する図面である。
【図8】グルーブ構造を短くした場合の作用を説明する図面である。
【図9】リブ側から見た外壁板の平面図である(第2実施例)。
【図10】リブ側から見た外壁板の平面図である(第3実施例)。
【図11】リブ側から見た外壁板の平面図である(第4実施例)。
【符号の説明】
1 沸騰冷却器
2 冷媒槽
2B 外壁板(外壁部)
2a 冷媒槽の他方側の表面
3 放熱部
4 CPU(コンピュータチップ/発熱体)
5 プリント基板
6 冷媒室
6a 冷媒通路
10 リブ
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷媒の沸騰及び凝縮作用によって発熱体を冷却する沸騰冷却器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、例えば電子機器等の発熱体を冷却するための沸騰冷却器がある。この沸騰冷却器は、液冷媒を貯留する冷媒槽と、この冷媒槽で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体と熱交換させて放熱する放熱部とで構成され、特にコスト低減の要求等から、高価な冷媒の封入量を減らすために冷媒槽を薄型化したものが公知である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、冷媒槽を薄型化する程、冷媒槽内の蒸気発生量が増加した時(発熱密度が大きい場合等)に、冷媒槽内の沸騰面における液冷媒の割合が減少して液面が低下し、沸騰面の温度が急上昇する所謂ドライアウトを生じやすくなると言った問題があった。本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、蒸気発生量が増加した時でも、沸騰面のドライアウトを防止できる沸騰冷却器を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】(請求項1の手段)冷媒槽は、少なくとも冷媒室の沸騰面(発熱体の熱を受けて冷媒が沸騰する面)を上下方向に連続して延びる複数の通路部が形成され、この通路部の通路幅がラプラス長さの2倍以下に設定されている。この構成によれば、冷媒室で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気の気泡の大きさが通路部の通路幅より大きくなるため、通路部を気泡が上昇する際に液冷媒を持ち上げる作用を生じる。これにより、蒸気発生量が増加した時でも、液面の低下を抑制でき、冷媒室の沸騰面に液冷媒を供給することが可能である。
【0005】(請求項2の手段)複数の通路部は、上下方向の長さが発熱体の長さと同じ、もしくはそれ以上である。この場合、気泡の上昇に伴って沸騰面の上部まで液冷媒を供給することができるので、沸騰面の上部でもドライアウトすることがない。
【0006】(請求項3の手段)冷媒槽は、一方側の表面または他方側の表面を形成する外壁部を有し、この外壁部の内側面に、隣合う通路部同士の間を区画する複数のリブが一体に設けられている。この構成では、リブによって沸騰面の伝熱面積を拡大でき、且つ冷媒槽の耐圧強度を向上できる。
【0007】(請求項4の手段)複数のリブを有する外壁部は、押し出し材で製作されている。この場合、押し出し材によって容易にリブを形成することができ、例えば切削によってリブを形成する方法、あるいはリブを別体で形成して外壁部に接合する方法等と比較してコストを低く抑えることができる。
【0008】(請求項5の手段)請求項1〜4に記載した沸騰冷却器は、発熱体としてプリント基板に配置されたコンピュータチップ(例えばCPU)を冷却するものである。この場合、放熱部を冷媒槽の他方側の表面上に設けているので、放熱部がプリント基板と干渉することはない。
【0009】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)図2は沸騰冷却器1の斜視図である。本実施例の沸騰冷却器1は、図2に示すように、内部に液冷媒(例えば、水、アルコール、フロロカーボン、フロン等)を貯留する冷媒槽2と、この冷媒槽2で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体(例えば外気)との熱交換によって液化する放熱部3とから構成され、一体ろう付けによって製造される。
【0010】a)冷媒槽2は、箱状の薄型容器2Aと、この薄型容器2Aの開口面を塞ぐ外壁板2Bとから成り、外形が薄型の直方体に設けられている。薄型容器2Aと外壁板2Bは、共に熱伝導性に優れる金属材料(例えばアルミニウム)で構成されている。この冷媒槽2は、図3に示すように、略直立した姿勢で使用され、厚み方向の一方側の表面が発熱体であるCPU4の放熱面に接触して、そのCPU4が設置されているプリント基板5にボルト等によって固定される。
【0011】冷媒槽2の内部には、図4に示すように、冷媒室6、一組のヘッダ接続口7、液戻り通路8、及び冷媒注入部9等が形成されている。冷媒室6は、CPU4の取付け部位に対応して液冷媒を貯留する空間で、外壁板2Bに設けられた複数のリブ10によって溝状に形成されたグルーブ構造G(図1参照)を有している。なお、リブ10の高さ方向の先端面は、薄型容器2Aの内側面に接触して接合されることにより、隣合うリブ10同士の間に冷媒通路6aが形成される。ヘッダ接続口7は、後述のヘッダを組み付けるためのスペースで、冷媒室6の上部両側に設けられ、冷媒槽2の他方側表面2aに開口している。なお、図4に示されている一方のヘッダ接続口7は、冷媒室6(各冷媒通路6a)の上部側に通じており、他方のヘッダ接続口(図示しない)は液戻り通路8を介して冷媒室6(各冷媒通路6a)の下部側に通じている。
【0012】液戻り通路8は、放熱部3で液化した凝縮液を冷媒室6へ戻すための通路で、冷媒室6の片側に隣接して設けられ、他方のヘッダ接続口から下方へ通路状に延びて冷媒室6(各冷媒通路6a)の下部に通じている。冷媒注入部9は、注入パイプ11が接続される接続口であり、一方のヘッダ接続口7の下方に設けられて冷媒室6に連通している。なお、冷媒は、冷媒室6の略上端位置(ヘッダ接続口7より下側)まで注入されている。
【0013】ここで、上記のグルーブ構造Gについて説明する。外壁板2Bは、図5に示すように、押し出し成形によって複数の柱部10Aが一定の間隔を保って一体に設けられ、その後、各柱部10Aの長手方向の両端部を所定の長さだけ削除して前記のリブ10が形成されている。なお、図5(a)は外壁板2Bの斜視図、(b)は外壁板2Bの平面図である。但し、各リブ10の長さは、図1に破線で示す沸騰面の上下幅(本実施例では発熱体の長さと同等)より若干長く設けられている。
【0014】また、リブ10によって形成される冷媒通路6aの通路幅d(図1参照)は、次式で定義されるラプラス長さの2倍以下(望ましくは1mm以下)に設定されている。
ラプラス長さ=√{σ/g(ρ1 −ρ2 )}
σ:液冷媒の表面張力、ρ1 :液冷媒の密度、ρ2 :蒸気冷媒の密度、g:重力加速度なお、冷却器1の作動温度(冷媒温度)が異なると、上記のσ、ρ1 、ρ2 の各値が変動するため、ラプラス長さは、図6に示すように、作動温度が高くなる程、小さく設定される。
【0015】b)放熱部3は、一組のヘッダ12と放熱コア(放熱チューブ13と放熱フィン14)とで構成され、冷媒槽2の他方側表面2a上に組み付けられて、冷却器1の作動時にダクト15(図3参照)を介して外部流体が導入される。なお、放熱部3に導入される外部流体は、図示しない冷却ファンによって図2の下方から上方へ向かって流されるものとする。一組のヘッダ12は、冷媒槽2でCPU4の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気が流入する蒸気側ヘッダ12Aと、放熱コアの各放熱チューブ13で液化した凝縮液が流入する液側ヘッダ12Bであり、それぞれ長手方向の一端部が冷媒槽2の他方側表面2aに開口するヘッダ接続口7より冷媒槽2の内部へ差し込まれ、冷媒槽2に対して略垂直方向に組み付けられている。
【0016】放熱コアは、複数本の放熱チューブ13と、各放熱チューブ13の間に介在される放熱フィン14とで構成される。放熱チューブ13は、熱伝導性に優れる金属材料(例えばアルミニウム)で形成され、放熱フィン14が接触する外表面の幅に対して厚みが薄い偏平管形状に設けられている。各放熱チューブ13は、一端が蒸気側ヘッダ12Aに接続されて、他端が液側ヘッダ12Bに接続され、その蒸気側ヘッダ12Aと液側ヘッダ12Bとの間で互いに一定の間隔を開けて並設されている。放熱フィン14は、熱伝導性に優れる薄い金属板(例えばアルミニウム板)を交互に折り曲げて波状に成形したもので、放熱チューブ13の外表面にろう付けされている。
【0017】次に、本実施例の作動を説明する。冷媒室6に貯留されている液冷媒は、CPU4の熱を受けて沸騰気化し、気泡となって冷媒室6の各冷媒通路6aを上昇する。この時、リブ10によって区画される各冷媒通路6aの通路幅dをラプラス長さの2倍以下に設定しているため、気泡の外径が通路幅dより大きくなる。この結果、冷媒通路6aが気泡によって塞がれるため、冷媒通路6aを気泡が上昇する際に、気泡によって液冷媒が持ち上げられることにより、各冷媒通路6aの液面が上昇する(図7参照)。
【0018】各冷媒通路6aを上昇して冷媒室6から蒸気側ヘッダ12Aへ進入した冷媒蒸気は、蒸気側ヘッダ12Aから各放熱チューブ13へ流れ、放熱チューブ13を流れる際に外部流体によって冷却され、放熱チューブ13の内部で凝縮する。凝縮した冷媒は、液滴となって液側ヘッダ12Bへ押し流され、更に液側ヘッダ12Bより冷媒槽2内の液戻り通路8を通って冷媒室6へ還流する。この作動における冷媒の流れを図4に矢印で示す。
【0019】(第1実施例の効果)本実施例の沸騰冷却器1は、冷媒室6の沸騰面にグルーブ構造Gを設け、そのグルーブ構造Gの通路幅dをラプラス長さの2倍以下としたことにより、各冷媒通路6aを上昇する気泡の大きさが通路幅dより大きくなる。その結果、気泡の上昇に伴って液冷媒が持ち上げられるため、図7に示すように、各冷媒通路6aの液面を各リブ10の略上端まで上昇させることができる。これにより、蒸気発生量が増加した時でも、液面の低下を抑制でき、冷媒室6の沸騰面に液冷媒を供給することができるため、沸騰面のドライアウトを防止できる。また、各冷媒通路6aを形成するリブ10を外壁板2Bと一体に設けているため、冷媒室6の伝熱面積が拡大され、冷却器1の性能向上を図ることができる。更に、リブ10を設けることで、圧力容器である冷媒槽2の耐圧強度を確保することができる。
【0020】なお、本発明のグルーブ構造Gは、各冷媒通路6aが上下方向に連続して形成されていることが重要である。例えば、図8に示すように、各リブ10が上下方向において複数に分割されていると、沸騰面の下部で発生した気泡が冷媒通路6aを上昇する際に、リブ10が途切れた所から気泡が分散するため、液冷媒を沸騰面の上方まで持ち上げることができなくなり、沸騰面の上部でドライアウトする可能性がある。これに対し、本発明では、リブ10が分割されることなく、連続して設けられているため、各冷媒通路6aが上下方向に連続して形成され、上記の効果を得ることができる。
【0021】(第2実施例)図9はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例では、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第1の例である。なお、上部及び下部の短いグルーブ構造G1 、G2 は、押し出し成形によって外壁板2Bに柱部10A(図5参照)を設けた後、柱部10Aの上部と下部を加工して形成することができる。この場合、上部及び下部の短いグルーブ構造G1 、G2 を設けることで、冷媒室6の伝熱面積を更に拡大でき、且つ耐圧強度を向上できる効果がある。
【0022】(第3実施例)図10はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例は、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第2の例である。上部の短いグルーブ構造G1 は、各リブ10が蒸気流出口である一方のヘッダ接続口7側へ傾斜して設けられ、下部の短いグルーブ構造Gは、液戻り通路8の出口側へ傾斜して設けられている。これにより、長いグルーブ構造Gを上昇した冷媒蒸気が、上部の短いグルーブ構造G1 によって蒸気流出口(一方のヘッダ接続口7)へ効果的に流れることができ、また、放熱部3で液化されて液戻り通路8に流入した凝縮液が下部の短いグルーブ構造G2 によって効果的に長いグルーブ構造Gに供給される。この結果、冷媒槽2の内部で冷媒の循環が促進されて、性能向上を図ることができる。
【0023】(第4実施例)図11はリブ10側から見た外壁板2Bの平面図である。本実施例は、冷媒室6の沸騰面に設けられた長いグルーブ構造Gの上部及び下部にも短いグルーブ構造G1 、G2 を設けた場合の第3の例である。この場合、上部及び下部のグルーブ構造G1 、G2 における各リブ10の形状が第3実施例とは異なるが、第3実施例と同様の効果を得ることができる。
【0024】(変形例)本実施例の沸騰冷却器1は、冷媒槽2が直立した姿勢(図2に示す状態)で使用しているが、冷媒槽2を横に倒した状態(但し、放熱部3が冷媒槽2の上方に直立した状態)で使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リブ側から見た外壁板の平面図である(第1実施例)。
【図2】沸騰冷却器の斜視図である。
【図3】沸騰冷却器の使用状態を示す斜視図である。
【図4】沸騰冷却器の内部構造を示す斜視図である。
【図5】外壁板の斜視図(a)と平面図(b)である。
【図6】ラプラス長さと冷却器の作動温度との関係を示すグラフである。
【図7】グルーブ構造の作用を説明する図面である。
【図8】グルーブ構造を短くした場合の作用を説明する図面である。
【図9】リブ側から見た外壁板の平面図である(第2実施例)。
【図10】リブ側から見た外壁板の平面図である(第3実施例)。
【図11】リブ側から見た外壁板の平面図である(第4実施例)。
【符号の説明】
1 沸騰冷却器
2 冷媒槽
2B 外壁板(外壁部)
2a 冷媒槽の他方側の表面
3 放熱部
4 CPU(コンピュータチップ/発熱体)
5 プリント基板
6 冷媒室
6a 冷媒通路
10 リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】内部に液冷媒を貯留する冷媒室を形成し、この冷媒室を介して対向する二面のうち一方側の表面に発熱体が取り付けられる冷媒槽と、前記冷媒槽の他方側の表面上に設けられ、前記冷媒室で前記発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体と熱交換させて放熱する放熱部とを備えた沸騰冷却器であって、前記冷媒槽は、少なくとも前記冷媒室の沸騰面を上下方向に連続して延びる複数の通路部が形成され、この通路部の通路幅がラプラス長さの2倍以下に設定されていることを特徴とする沸騰冷却器。
【請求項2】前記複数の通路部は、上下方向の長さが前記発熱体の長さと同じ、もしくはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載した沸騰冷却器。
【請求項3】前記冷媒槽は、前記一方側の表面または他方側の表面を形成する外壁部を有し、この外壁部の内側面に、隣合う前記通路部同士の間を区画する複数のリブが一体に設けられていることを特徴とする請求項1及び2に記載した沸騰冷却器。
【請求項4】前記複数のリブを有する前記外壁部は、押し出し材で製作されていることを特徴とする請求項3に記載した沸騰冷却器。
【請求項5】前記発熱体としてプリント基板に設置されたコンピュータチップを冷却することを特徴とする請求項1〜4に記載した沸騰冷却器。
【請求項1】内部に液冷媒を貯留する冷媒室を形成し、この冷媒室を介して対向する二面のうち一方側の表面に発熱体が取り付けられる冷媒槽と、前記冷媒槽の他方側の表面上に設けられ、前記冷媒室で前記発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気を外部流体と熱交換させて放熱する放熱部とを備えた沸騰冷却器であって、前記冷媒槽は、少なくとも前記冷媒室の沸騰面を上下方向に連続して延びる複数の通路部が形成され、この通路部の通路幅がラプラス長さの2倍以下に設定されていることを特徴とする沸騰冷却器。
【請求項2】前記複数の通路部は、上下方向の長さが前記発熱体の長さと同じ、もしくはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載した沸騰冷却器。
【請求項3】前記冷媒槽は、前記一方側の表面または他方側の表面を形成する外壁部を有し、この外壁部の内側面に、隣合う前記通路部同士の間を区画する複数のリブが一体に設けられていることを特徴とする請求項1及び2に記載した沸騰冷却器。
【請求項4】前記複数のリブを有する前記外壁部は、押し出し材で製作されていることを特徴とする請求項3に記載した沸騰冷却器。
【請求項5】前記発熱体としてプリント基板に設置されたコンピュータチップを冷却することを特徴とする請求項1〜4に記載した沸騰冷却器。
【図1】
【図2】
【図4】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図4】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2001−68611(P2001−68611A)
【公開日】平成13年3月16日(2001.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−244460
【出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成13年3月16日(2001.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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