説明

油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶

【課題】伸縮によって発生した潤滑油の圧力変動を抑制することができる油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶を提供することを目的とする。
【解決手段】上下に伸び、潤滑油が流入する固定管8と、固定管8の軸線上を往復動し、固定管8に流入した潤滑油をクロスヘッドピンに供給する可動管と、を備え、潤滑油の圧力に応じて固定管8または可動管の油路の断面積が変化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶に関し、特に、潤滑油の圧力変動の抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶に搭載されている2サイクルのクロスヘッド型ディーゼル機関1は、図6に示すように、ピストン棒2と、ピストン3と、連節棒(図示せず)と、クロスヘッドピン5と、クロスヘッド11と、テレスコピック管(以下「テレスコ管」という。)6とを備えている。テレスコ管6は、固定管8と、その一端がこの固定管8内に挿入されて固定管8の軸線上を往復動するように上下に可動する可動管9とを備えている。テレスコ管6の可動管9の一端は、クロスヘッド11に接続されている。クロスヘッド11に接続されているテレスコ管6は、クロスヘッド11に接続されているピストン棒2の上部に設けられているピストン3の上下運動にともなって上下に往復動する。
【0003】
テレスコ管6には、固定管8の上端より供給された潤滑油が導かれる。テレスコ管6に導かれた潤滑油は、固定管8から可動管9を経てクロスヘッド11の内部に形成されているクロスヘッド油流路21へと導出される。クロスヘッド油流路21へと導出された潤滑油は、クロスヘッドピン5へと導かれる。クロスヘッドピン5へと導かれた潤滑油は、クロスヘッドピン5内部の軸方向に穿孔されているクロスヘッドピン油流路20内に流入する。クロスヘッドピン油流路20に流入した潤滑油は、ピストン棒2内に形成された冷却油路(図示せず)に供給される。さらに、クロスヘッドピン油流路20に流入した潤滑油の一部は、クロスヘッドピン5と摺動するクロスヘッド軸受(図示せず)とクロスヘッドピン5との間に供給される。
【0004】
クロスヘッドピン5から冷却油路に供給された潤滑油は、ピストン棒2の下端から上端へ導かれる。ピストン棒2の上端に導かれた潤滑油は、ピストン棒2の上方に設けられているピストン3の内部へと導出され、ピストン3を冷却する冷却滑油として用いられる。
クロスヘッドピン5からクロスヘッドピン5とクロスヘッド軸受との間に供給された潤滑油は、クロスヘッド軸受とクロスヘッドピン5との潤滑に用いられる。さらにクロスヘッド軸受とクロスヘッドピン5との潤滑に用いられた潤滑油は、クロスヘッドピン5を下方から指示する連節棒(図示せず)の内部を通じて、連節棒の反対端に接続されるクランク軸(図示せず)のクランクピン(図示せず)と、クランクピンとの間に設けられているクランクピン軸受(図示せず)との間に導かれる。クランクピンと、クランクピン軸受との間に導かれた潤滑油は、クランクピンと、クランクピン軸受との潤滑に用いられる。
【0005】
特許文献1には、テレスコ管をピストン棒の下端に接続することが開示されている。
特許文献2には、クロスヘッドピンの内部に空間を形成してクロスヘッド軸受とクロスヘッドピンとの間における油膜厚さを確保することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3390027号公報
【特許文献2】特開平7−208446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潤滑油が供給されるテレスコ管は、ピストンの上下運動にともなって固定管に対して可動管が上下に往復動する。そのため、可動管の往復動に同期して、テレスコ管の潤滑油流路である内部空間の体積が増減する。テレスコ管が伸長した場合には、テレスコ管の内部空間の体積が増加し潤滑油の圧力が瞬間的に低下する。また、テレスコ管の伸縮とともに潤滑油が上下に移動するため、油柱慣性の影響によって潤滑油の圧力変動が生じる。
【0008】
このように潤滑油が負圧や圧力変動を生じるため、クロスヘッドピンから導出される潤滑油の圧力が不安定になる。さらに、潤滑油の圧力が低下し負圧になった場合には、クロスヘッドピンから供給される潤滑油によってクロスヘッド軸受には、キャビテーション発生が懸念される。したがって、潤滑油の供給が不安定になり、軸受の潤滑不良を引き起こす可能性がある。
【0009】
特許文献1の発明は、クロスヘッド軸受の負荷容量を低下させることなくディーゼル機関の全長を短くすることについて開示されているが、テレスコ管の伸縮により発生した油圧変動の抑制については開示されていない。
特許文献2の発明は、クロスヘッド軸受とクロスヘッドピンとの間における油膜厚さを確保することについて開示されているが、テレスコ管の伸縮により発生した油圧変動の抑制については開示されていない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、テレスコ管の伸縮によって発生した潤滑油の圧力変動を抑制することができる油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る油供給管は、上下に伸び、潤滑油が流入する固定管と、該固定管の軸線上を往復動し、該固定管に流入した潤滑油をクロスヘッドピンに供給する可動管と、を備え、潤滑油の圧力に応じて前記固定管または前記可動管の油路の断面積が変化することを特徴とする。
【0012】
可動管が固定管に対して往復動することによって油供給管が伸縮した場合、その伸縮に同期して油供給管の内部空間の体積が増減する。そのため、油供給管が伸長した場合には、油供給管の内部空間が増加し油供給管内の油圧が瞬間的に低下する。また、油供給管の伸縮とともに、油供給管内の潤滑油が移動する。そのため、油柱の慣性の影響によって、油供給管内には油圧変動を生じる。本発明の油供給管は、固定管または可動管の断面積が油圧に応じて変化するため、油供給管の伸縮によって生じる油圧変動に応じて油供給管内の体積を変化させることができる。そのため、油供給管内を通過した潤滑油は、圧力変動が抑制される。したがって、油供給管から安定した圧力の潤滑油を導出することができる。
なお、油供給管としては、後述する発明のように断面を楕円形状とする場合のほかに、ゴム製とする場合や、断面の変形が可能な角管等が挙げられる。
【0013】
本発明に係る油供給管によれば、前記固定管または前記可動管の油路の断面が楕円形状を有し、潤滑油の圧力が所定圧以上の場合には、断面が楕円形状から略円形状に弾性変形することを特徴とする。
【0014】
固定管または可動管の油路内の油圧が所定圧以上になった場合には、油路の断面が楕円形状から略円形状となる。これにより、油路の断面積が増加するので、油供給管内部の体積が増加する。また、油圧が所定圧よりも低下した場合には、油供給管の弾性変形によって油路の断面が略円形状から楕円形状へと戻り、油供給管内部の体積が減少する。急激な油量不足に陥った際にも、油量減少に体積変化が追従し、圧力低下を防止する。したがって、油供給管の構成や配置を変更することなく、油供給管から安定した圧力の潤滑油を導出することができる。
【0015】
また、油路の断面が楕円形状の場合は、油路の断面が四角形状の角管に比べて、油路に作用する油圧の応力集中がない。また、油路の断面が楕円形状の鋼管とすることによって、ゴム製の管に比べて耐久性が向上する。したがって、油供給管のメンテナンス費用を削減することができる。
なお、所定圧とは、油供給管に導かれた潤滑油の圧力であって、圧力変動を許容する限界圧力を意味する。
【0016】
本発明に係るクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンによれば、油供給管が接続され、該油供給管から導出された油が内部に形成された油流路へと導かれるクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンであって、前記油流路の内部には、油圧によって体積が変化する弾性体が設けられていることを特徴とする。
【0017】
クロスヘッドピンの油流路内に圧力変動を生じた潤滑油が流入した場合には、油圧に応じて油流路内に設けられている弾性体の体積弾性率が変化する。弾性体の体積弾性率が変化するので、油流路内の体積が変化する。油流路内の体積が変化するため、急激な油量不足に陥った際にも、油量減少に体積変化が追従し、圧力低下を防止する。したがって、クロスヘッドピンに接続される油供給管の構造や配置を変更することなく、クロスヘッドピンから圧力変動が抑制された潤滑油を導出することができる。また、クロスヘッドピンから導出される潤滑油は、圧力変動が減衰され潤滑油の流量が減少することがないため、補油用のアキュムレータ等を追設する必要がない。
【0018】
本発明に係るクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンによれば、油供給管が接続され、該油供給管から導出された潤滑油が内部に形成された油流路内に導かれるクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンであって、前記油流路内に連通する空気溜まり室が設けられていることを特徴とする。
【0019】
クロスヘッドピンの油流路内に圧力変動を生じた潤滑油が流入した場合には、油流路に連通する空気溜まり室の空気が圧縮される。空気溜まり室の空気が圧縮されることによって、空気溜まり室の体積が変動する。空気溜まり室の体積が変動するため、油流路内の体積も変化する。油流路内の体積が変化するため、クロスヘッドピンからは、圧力変動が抑制された潤滑油が導出される。したがって、クロスヘッドピンに接続される油供給管の構造や配置を変更することなく、圧力変動が抑制された潤滑油をクロスヘッドピンから導出することができる。また、油圧変動を抑制するために、空気が用いられるので弾性体を用いる場合と比較して、繰り返し圧縮による弾性体の劣化が生じない。したがって、油流路内に弾性体を設けた場合と比べて、弾性体のメンテナンスが不要となる。
【0020】
また、本発明に係るクロスヘッド型ディーゼル機関によれば、上記のいずれかに記載の前記油供給管または前記クロスヘッドピンを備えたことを特徴とする。
【0021】
油供給管に導入された潤滑油は、クロスヘッドピンの内部に形成された油通路を通過してディーゼル機関の軸受へと供給される。軸受に供給される潤滑油が油圧変動によって負圧になった場合には、軸受にキャビテーションが生じ軸受が損傷する。本発明によると、油供給管の伸縮による油圧変動を防止することができるため、潤滑油が負圧になることを防止できる。軸受に供給される潤滑油が負圧にならないため、キャビテーションの発生を防止することができる。そのため、軸受の損傷を防止することができる。したがって、ディーゼル機関の健全な運転を維持することができる。
【0022】
また、本発明に係る船舶は、上記に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関を備えたことを特徴とする。
【0023】
ディーゼル機関の健全な運転を維持することができるので、船舶の安定した運航を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、固定管または可動管の断面積が潤滑油の圧力に応じて変化するため、油供給管の伸縮によって生じる潤滑油の圧力変動に応じて油供給管内の体積を変化させることができる。そのため、油供給管内を通過した潤滑油は、圧力変動が抑制される。したがって、油供給管から安定した圧力の潤滑油を導出することができ、軸受部の潤滑を適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るクロスヘッド型ディーゼル機関の概略図である。
【図2】図1に示したクロスヘッド型ディーゼル機関の簡易概略図である。
【図3】図2に示した油供給管のC−C部の油路の断面を示し、(A)は油路に油圧がかかってない場合を示し、(B)は油路に油圧がかかった場合を示している。
【図4】本発明の第2実施形態に係るクロスヘッド型ディーゼル機関の簡易概略図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るクロスヘッド型ディーゼル機関の簡易概略図である。
【図6】従来のクロスヘッド型ディーゼル機関の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下に、本発明の第1実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
図1および図2には、本実施形態に係る船舶が備えているクロスヘッド型ディーゼル機関が示されている。
クロスヘッド型ディーゼル機関1は、ピストン3と、このピストン3に接続されているピストン棒2と、ピストン棒2の下端に設けられているクロスヘッドピン5と、クロスヘッドピン5を介してピストン棒2に接続されている連節棒4と、連節棒の下端に接続されているクランク軸17と、クロスヘッドピン5に潤滑油を供給しているテレスコピック管(油供給管)6とを備えている。
【0027】
クランク軸17は、クランクアーム17aと、クランクジャーナル17bと、クランクピン17cとを備えている。クランクアーム17aの上方には、クランクピン17cが設けられている。クランクアーム17aの下方には、クランクジャーナル17bが設けられている。クランクジャーナル17bとクランクピン17cとは、軸方向に水平に設けられている。また、クランクジャーナル17bとクランクピン17cとは、クランクアーム17aに対して垂直に設けられている。クランクピン17cには、後述する連節棒4が接続されている。
【0028】
ピストン棒2は、上部にピストン3を備えている。ピストン棒2の下端には、クロスヘッド11が設けられている。ピストン棒2の内部には、下方から上方に向かって延在する冷却油路22が穿孔されている。
クロスヘッド11内部には、その外壁から内壁に向かってクロスヘッド油流路21(図2参照)が穿孔されている。
【0029】
ピストン3は、シリンダライナ15の内側を摺動するように配置される。ピストン3は、シリンダライナ15とシリンダカバー16とによって燃焼室を形成している。ピストン3の側壁の外周には、ピストン3に対して同心円状のピストンリング(図2参照)10が設けられている。ピストンリング10(図2参照)は、シリンダライナ15とピストン3の隙間から燃焼ガスがピストン3の下方へと漏洩しないようにシールをしている。
【0030】
連節棒4は、上端に小端部4aを有している。小端部4aには、クロスヘッドピン5が搭載されている。連節棒4の小端部4aに搭載されているクロスヘッドピン5は、上方からクロスヘッド11によって覆われている。連節棒4の下端には、クランク軸17のクランクピン17cと摺動する大端部4bが設けられている。連節棒4は、上下に移動するピストン3の往復運動をクランク軸17の回転運動に変換する。連節棒4の内部には、小端部4aから下方に向かって延在し大端部4bに連通する連節棒油流路23が設けられている。
【0031】
連節棒4の小端部4aには、下部側クロスヘッド軸受(図示せず)が設けられている。下部側クロスヘッド軸受の表面には油溝(図示せず)が設けられ、供給される潤滑油によって油膜を形成することができるようになっている。さらに、下部側クロスヘッド軸受には、下方に穿孔する油孔(図示せず)が設けられ、連節棒油流路23に連通している。
【0032】
連節棒23の大端部4bには、下方に穿孔する油孔(図示せず)が設けられている。大端部4bには、クランクピン17cが接続されている。大端部4bとクランクピン17cとの間には、上下に2分割されたクランクピン軸受の上部側クランクピン軸受(図示せず)が設けられている。上部側クランクピン軸受には、下方に穿孔する油孔(図示せず)が設けられている。大端部4bに設けられている油孔と、上部側クランクピン軸受に設けられている油孔とは、連通している。
【0033】
クロスヘッドピン5は、略円柱形状をしている。クロスヘッドピン5の内部には、軸方向に延在するクロスヘッドピン油流路20(図2参照)が穿孔されている。クロスヘッドピン油流路20からは、クロスヘッドピン5の上方に延在する第1分岐路24と、下方に延在する第2分岐路25とが穿孔されている。クロスヘッドピン5は、軸方向が水平になるように、クロスヘッド11によって上方から覆われ下方から連節棒4の小端部4aによって支持されている。これらクロスヘッドピン5とクロスヘッド11との間には、上部側クロスヘッド軸受(図示せず)が設けられている。この上部側クロスヘッド軸受と、連節棒4の小端部4aに備えられている下部側クロスヘッド軸受とによって、クロスヘッドピン5は、クロスヘッド11および連節棒4の小端部4aとの間を摺動する。クロスヘッドピン5が摺動することによって、連節棒4がクロスヘッドピン5の軸回りに揺動運動を行うことができるようになっている。
【0034】
テレスコピック管(以下「テレスコ管」という。)6は、弾性変形が可能な固定管8と可動管9とを備えている。可動管9は、固定管8の内部を固定管8の軸線上を往復動するように移動することができる。可動管9の一端は、クロスヘッド11の外壁に接続されている。そのため、ピストン3の上下運動に伴いクロスヘッド11に接続されているテレスコ管6の可動管9が往復動し、テレスコ管6が伸縮する。
【0035】
図3は、図2に示したテレスコ管6の固定管8のC−C部の断面図を示し、(A)は、油路に作用する潤滑油が所定圧以下の場合の固定管8の断面を示し、(B)は、油路に作用する潤滑油が所定圧以上の場合の固定管8の断面を示している。
固定管8は、内部を通過する潤滑油の圧力に応じて断面形状が変化する鋼管となっている。固定管8は、内部を通過する潤滑油の圧力が作用してないときや、潤滑油の圧力が所定圧以下の場合には、図3(A)に示すように、断面が楕円形状となる。固定管8に作用する潤滑油が所定圧以上になった場合には、図3(B)に示すように、固定管8の断面は、潤滑油の圧力によって楕円形状が膨らみ略円形状となる。
なお、所定圧とは、固定管8に導かれる潤滑油の圧力であって、圧力変動を許容する限界圧力を意味する。
【0036】
次に、潤滑油の回路について図2および図3に基づいて説明する。
テレスコ管6の固定管8には、クロスヘッド型ディーゼル機関1の外部からシステム油(潤滑油)が導かれる。
ピストン3が上下運動するのに伴いクロスヘッド11が上下運動する。クロスヘッド11が上下運動することによって、クロスヘッド11の外壁に接続されているテレスコ管6の可動管9が固定管8に対して直線運動する。可動管9が固定管8に対して直線運動することによって、テレスコ管6が伸縮する。テレスコ管6は、伸縮しながらシステム油をクロスヘッド11へと供給する。テレスコ管6の可動管9が固定管8に対して下方へ伸長した場合には、テレスコ管6の内部体積が増加する。テレスコ管6には、所定圧のシステム油が供給されているため、テレスコ管6の可動管9が固定管8に対して下方へ伸長した場合には、瞬間的にシステム油の圧力が低下する。また、テレスコ管6の可動管9が固定管8に対して往復動することによって、テレスコ管6内の油柱が上下に移動するため、油柱慣性の影響によって供給されたシステム油の圧力が変動する。
【0037】
テレスコ管6の伸縮によってシステム油の圧力が所定圧以上になった場合には、固定管8の内壁には、システム油の圧力が固定管8の内側から外側に向かって作用する。そのため、固定管8が膨らみ固定管8の油路の断面形状が略円形状になる。固定管8の断面形状が楕円形状から略円形状になることによって、固定管8の油路の断面積が増加する。固定管8の油路の断面積が増加するので、テレスコ管6内の体積が増加する。
【0038】
テレスコ管6の伸縮によってシステム油の圧力が所定圧以下になった場合には、固定管8の油路の断面形状は、固定管8の弾性変形によって略円形状から楕円管形状へと戻る。略円形状に比べて楕円形状の方が面積は、小さく。そのため、固定管8の油路の断面積は、減少する。固定管8の油路の断面積が減少するので、テレスコ管6内の体積が減少する。テレスコ管6内の体積が減少するので、固定管8を通過するシステム油の潤滑油量が低下し、システム油の圧力変動が抑制される。
なお、所定圧とは、テレスコ管6に導かれたシステム油の圧力であって、圧力変動を許容する限界圧力を意味する。
【0039】
圧力変動が抑制された固定管8内のシステム油は、図2に示すように、可動管9を経てクロスヘッド11へと導出される。クロスヘッド11へと導出されたシステム油は、クロスヘッド油流路21からクロスヘッドピン油流路20へと導出される。クロスヘッドピン油流路20へと導出されたシステム油は、第1分岐路24と第2分岐路25との2つに分岐される。
【0040】
第1分岐路24へと導かれたシステム油は、クロスヘッドピン5からピストン棒2の冷却油路22へと供給される。冷却油路22に供給されたシステム油は、ピストン棒2の下方から上方へと導かれる。ピストン棒2の上方に導かれたシステム油は、ピストン棒2の上方に接続されているピストン3の触火面の反対側であるピストン3の内側へと導出される。ピストン3の内側へと導出されたシステム油は、ピストン3を触火面の反対側から冷却する冷却油として用いられる。
【0041】
第2分岐路25へと導かれたシステム油は、クロスヘッドピン5と下部側クロスヘッド軸受との間に導出される。導出されたシステム油は、軸受用の潤滑油としてクロスヘッドピン5と下部側クロスヘッド軸受との間の油膜の形成に用いられる。下部側クロスヘッド軸受に導かれたシステム油は、下部側クロスヘッド軸受の油孔に連通している連節棒油流路23へと導かれる。
【0042】
連節棒油流路23へと導かれたシステム油は、連節棒油流路23から連節棒4の大端部4b(図1参照)へと供給される。図1に示すように、大端部4bに供給されるシステム油は、大端部4bに連通している油孔から上部側クランクピン軸受の油孔へと導出される。上部側のランクピン軸受の油孔へ導かれたシステム油は、軸受用の潤滑油としてクランクピン17cと上部側クランクピン軸受との間に導出される。導出された潤滑油は、クランクピン17cとクランクピン軸受との間の油膜の形成に用いられる。
【0043】
以上の通り、本実施形態に係る油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
テレスコピック管(油供給管)6は、固定管8の断面積が油圧に応じて変化するため、テレスコピック管6の伸縮によって生じる油圧変動に応じてテレスコピック管6内の体積を変化させることができる。そのため、テレスコピック管6内を通過したシステム油(潤滑油)は、圧力変動が抑制される。したがって、テレスコピック管6から安定した圧力のシステム油を導出することができる。
【0044】
固定管8の油路内の油圧が所定圧以上になった場合には、油路の断面が楕円形状から略円形状となる。これにより、油路の断面積が増加するので、テレスコピック管6内部の体積が増加する。また、油圧が所定圧よりも低下した場合には、固定管8の弾性変形によって油路の断面が略円形状から楕円形状へと戻り、テレスコピック管6内部の体積が減少する。急激な油量不足に陥った際にも、油量減少に体積変化が追従し、圧力低下を防止する。したがって、テレスコピック管6の構成や配置を変更することなく、テレスコピック管6から安定した圧力のシステム油を導出することができる。
【0045】
また、固定管8の油路の断面が楕円形状の場合は、油路の断面が四角形状の角管に比べて、油路に作用する油圧の応力集中がない。また、固定管8の油路の断面が楕円形状の鋼管とすることによって、ゴム製の固定管8に比べて耐久性が向上する。したがって、テレスコピック管6のメンテナンス費用を削減することができる。
【0046】
テレスコピック管6の伸縮による油圧変動を防止することができるため、潤滑油(システム油)が負圧になることを防止できる。クロスヘッド軸受に供給される潤滑油が負圧にならないため、キャビテーションの発生を防止することができる。そのため、クロスヘッド軸受の損傷を防止することができる。したがって、クロスヘッド型ディーゼル機関1の健全な運転を維持することができる。
【0047】
クロスヘッド型ディーゼル機関1の健全な運転を維持することができるので、船舶の安定した運航を行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態では、固定管8が弾性変形するとして説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、可動管9であっても良い。
また、本実施形態では、固定管8が弾性変形するとして説明したが、固定管8の内部に内管を設けた二重管構造として、その内管の断面形状が楕円形状の弾性変形するものとしても良い。
【0049】
また、本実施形態では、固定管8は、システム油の圧力が作用していない場合、または、所定圧以下の場合には、断面が楕円形状として説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、断面の変形が可能な角管や扁平形状の管であっても良い。この場合、固定管8の油路の断面が楕円形状の場合に比べて、油路に応力集中を生じる。そのため、断面は、楕円形状が好ましい。
【0050】
また、本実施形態では、固定管8は、弾性変形する鋼管として説明したが、ゴム製などの弾性体としても良い。この場合、鋼管に比べて耐久性が劣る恐れがある。
【0051】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について図4に基づいて説明する。本実施形態の油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶の構成および潤滑油の回路は、クロスヘッドピンの構造が第1実施形態と相違し、その他は同様である。したがって、同一の構成および潤滑油の回路については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
テレスコピック管6は、断面形状が略円形状の管路を有する固定管8と、可動管9とを備えている。
クロスヘッドピン5の内部に設けられているクロスヘッドピン油流路20の内壁の上方の軸方向には、ゴム(弾性体)12が設けられている。
【0053】
テレスコピック管6の伸縮によって油圧変動を生じたシステム油(潤滑油)は、テレスコピック管6からクロスヘッド11の内部に設けられているクロスヘッド油流路21へと導かれる。クロスヘッド油流路21に導かれた圧力変動を生じたシステム油は、クロスヘッドピン5の内部に設けられているクロスヘッドピン油流路20へと導出される。
【0054】
圧力変動したシステム油がクロスヘッドピン油流路20に供給されることによって、クロスヘッドピン油流路20内部に設けられているゴム12は、体積弾性率が変化する。ゴム12の体積弾性率が変化するため、クロスヘッドピン油流路20内部の体積が変化する。クロスヘッドピン油流路20内部の体積が変化するので、クロスヘッドピン油流路20内から導出されるシステム油の流量が減って油圧が低下することを防止することができる。
【0055】
以上の通り、本実施形態に係る油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
クロスヘッドピン油流路20内に設けられているゴム(弾性体)12の体積弾性率が変化するので、クロスヘッドピン油流路20内の体積が変化する。クロスヘッドピン油流路20内の体積が変化するため、クロスヘッドピン油流路20内から導出されるシステム油(潤滑油)の流量が減って油圧が低下することを防止することができる。したがって、クロスヘッドピン5に接続されているテレスコピック管(油供給管)6の構造や配置を変更することなく、クロスヘッドピン5から圧力変動が抑制されたシステム油を導出することができる。また、クロスヘッドピン5から導出されるシステム油は、圧力変動が減衰されシステム油の流量が減少することがないため、補油用のアキュムレータ等を追設する必要がない。
【0056】
なお、本実施形態においては、ゴム12を設けるとして説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、弾性体であれば良い。
また、本実施形態においては、ゴム12は、クロスヘッドピン油流路20の内壁の上部に設けるとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、クロスヘッドピン油流路20内であればよく、例えば、クロスヘッドピン油流路20の軸方向であって、システム油の流入口の反対のクロスヘッドピン油流路20の側壁に設けても良い。
【0057】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態について図5に基づいて説明する。本実施形態の油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶の構成および潤滑油の回路は、クロスヘッドピンの構造が第1実施形態と相違し、その他は同様である。したがって、同一の構成および潤滑油の回路については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0058】
テレスコピック管6は、断面が略円形状を有する固定管8と可動管9とを備えている。
クロスヘッドピン5の内部に設けられているクロスヘッドピン油流路20の内壁の上方の一部には、クロスヘッドピン油流路20に連通した空気溜まり室13が設けられている。
【0059】
空気溜まり室13は、クロスヘッドピン油流路20に開口している空洞で、空気が充満している。空気溜まり室13の内部には、空気が充満している空間部とクロスヘッドピン油流路20から流入するシステム油(潤滑油)とを隔離するためにベローズ(図示せず)が設けられている。このベローズによって、空気溜まり室13内の空気がシステム油に溶解することが回避される。
【0060】
テレスコピック管6の伸縮によって、圧力変動を生じたシステム油がテレスコピック管からクロスヘッド11内部に設けられているクロスヘッド油流路21へと導かれる。クロスヘッド油流路21に導かれた圧力変動を生じたシステム油は、クロスヘッドピン5のクロスヘッドピン油流路20へと導出される。クロスヘッドピン油流路20に導出されたシステム油は、その圧力変動によってクロスヘッドピン油流路20に設けられている空気溜まり室13内の空気を圧縮する。空気溜まり室13内の空気が圧縮されることによって、空気溜まり室13の体積が変動する。そのため、クロスヘッドピン5から圧力変動が抑制された潤滑油が導出される。
【0061】
以上の通り、本実施形態に係る油供給管、クロスヘッドピン、これを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関およびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
クロスヘッドピン油流路20内に圧力変動を生じたシステム油(潤滑油)が流入した場合には、クロスヘッドピン油流路20に連通する空気溜まり室13の空気が圧縮される。空気溜まり室13の空気が圧縮されることによって、空気溜まり室13の体積が変動する。空気溜まり室13の体積が変動するため、クロスヘッドピン油流路20内の体積も変化する。クロスヘッドピン油流路20内の体積が変化するため、クロスヘッドピン5からは、圧力変動が抑制されたシステム油が導出される。したがって、クロスヘッドピン5に接続されるテレスコピック管(油供給管)6の構造や配置を変更することなく、圧力変動が抑制されたシステム油をクロスヘッドピン5から導出することができる。
【0062】
また、油圧変動を抑制するために、空気が用いられるので弾性体(例えばゴムなど)を用いる場合と比較して、繰り返し圧縮による弾性体の劣化が生じない。したがって、クロスヘッドピン油流路20内に弾性体を設けた場合と比べて、弾性体のメンテナンスが不要となる。
【符号の説明】
【0063】
1 クロスヘッド型ディーゼル機関
5 クロスヘッドピン
6 テレスコピック管(油供給管)
8 固体管
9 可動管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に伸び、潤滑油が流入する固定管と、
該固定管の軸線上を往復動し、該固定管に流入した潤滑油をクロスヘッドピンに供給する可動管と、を備え、
潤滑油の圧力に応じて前記固定管または前記可動管の油路の断面積が変化する油供給管。
【請求項2】
前記固定管または前記可動管の油路の断面が楕円形状を有し、潤滑油の圧力が所定圧以上の場合には、断面が楕円形状から略円形状に弾性変形する請求項1に記載の油供給管。
【請求項3】
油供給管が接続され、該油供給管から導出された油が内部に形成された油流路へと導かれるクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンであって、
前記油流路の内部には、油圧によって体積が変化する弾性体が設けられているクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピン。
【請求項4】
油供給管が接続され、該油供給管から導出された潤滑油が内部に形成された油流路内に導かれるクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピンであって、
前記油流路内に連通する空気溜まり室が設けられているクロスヘッド型ディーゼル機関のクロスヘッドピン。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の油供給管またはクロスヘッドピンを備えたクロスヘッド型ディーゼル機関。
【請求項6】
請求項5に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関を備えた船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−69318(P2011−69318A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222466(P2009−222466)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】