説明

油圧ショベルのエンジン制御装置

【課題】操作性を損なわずにエンジンの回転数を下げて燃料消費量の低減を図ることができる油圧ショベルのエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】第1目標回転数に応じた第2レギュレーション特性であって、第1レギュレーション特性よりもエンジン出力トルクの低下に対するエンジン回転数の上昇率が小さいレギュレーション特性が設定されており、エンジン出力トルクが第1トルク設定値以上のときには、第2レギュレーション特性に基づいて前記燃料噴射装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、目標回転数とエンジン出力トルクとの関係を規定するレギュレーション特性(レギュレーションライン又はドループラインともいう。)に沿ってエンジンの駆動制御を行う油圧ショベルのエンジン制御装置に関し、特に、操作性を損なわずにエンジンの回転数を下げて燃料消費量の低減を図る油圧ショベルのエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係を規定するエンジントルクカーブをエンジン回転数−エンジン出力トルク特性図で示した場合、ガバナ領域と呼ばれる燃料噴射量調整領域(レギュレーション領域)でのレギュレーション特性は、一般に、燃料ダイヤルで設定される目標回転数のそれぞれにおいて、右下がりに傾斜した一定勾配の1本の直線で表されるものとなっている。
【0003】
無負荷時、エンジン回転数は最高回転数Nmaxにある。エンジン制御装置は、負荷トルクが増大するに応じて燃料噴射量を増大させる。燃料噴射量を増大させることにより、エンジン出力トルクを増大させて、負荷トルクとエンジン出力トルクをバランスさせる。また、このとき、負荷トルクの増大に伴いエンジン回転数はガバナ領域のレギュレーション特性ラインに沿って低下し、負荷トルクが最大燃料噴射量相当のトルクを越えて増大すると全負荷特性の領域となり、負荷トルクが全負荷特性の最大出力トルクを越えるとエンジンストールとなる。
【0004】
以上のように従来のエンジン制御装置における燃料噴射装置においては、ガバナ領域のレギュレーション特性は、エンジン回転数−エンジン出力トルク特性図において右下がりに傾斜した一定勾配の1本の直線で表されるものとなっている。
【0005】
ここで、油圧ショベルでは、ポンプ吸収トルク(負荷トルク)がエンジンの定格トルク以下の場合には、エンジントルクカーブにおけるレギュレーション特性に沿って、エンジン出力トルクとポンプ吸収トルクとのマッチング制御が行われている。
【0006】
エンジン出力トルクとポンプ吸収トルクとのマッチング制御において、操作性を損なわずに燃料消費量の低減を図るため、エンジン出力トルクに応じて、ポンプ容量の切換えと目標回転数の指令値(ガバナ指令値)の切換えを行えるエンジンの制御装置(特許文献1参照)が、本願出願人によって提案されている。また、無負荷時の騒音を抑制でき、作業時には負荷トルクに応じて油圧ポンプからの吐出量を確保できるようにしたエンジンの回転数制御装置(特許文献2参照)が、提案されている。
【0007】
特許文献1に記載された発明では、エンジン出力トルクが低い状態のときには、最大ポンプ容量を増加させるとともに第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行い、エンジン出力トルクが高い状態のときには、最大ポンプ容量を減少させるとともに第1目標回転数に基づいてエンジンの駆動制御を行うことができる。
この発明によって、エンジンの燃費消費量を低減させることができるとともに、必要とされる作業機速度を確保することができる、といった効果を奏する。
【0008】
特許文献2に記載された発明では、無負荷時の騒音を抑制するため、無負荷時にはエンジン回転数を下げている。そして、作業時にはエンジンに加わる負荷トルクに応じて作業
機が必要とするポンプ吐出量を確保するため、ガバナ指令値を連続的に変化させて、エンジン回転数を上昇させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−190506号公報
【特許文献2】特開2001−323827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1におけるエンジンの制御装置では、燃料指令ダイヤルで指示した第1目標回転数からエンジンの駆動制御を開始する代わりに、第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数からエンジンの駆動制御を開始させている。そして、作業による負荷トルクが加わってエンジン出力トルクが大きくなると、第2目標回転数に応じたレギュレーション特性から第1目標回転数に応じたレギュレーション特性に移行させるため、ガバナ指令値を増加させて目標回転数を上昇させている。
【0011】
そして、第1目標回転数に応じたレギュレーション特性に移行させた後は、このレギュレーション特性に従って、エンジン出力トルクを上昇させている。しかし、第1目標回転数に応じたレギュレーション特性で制御されている状態において、急に作業負荷が抜けた場合には、第1目標回転数に応じたレギュレーション特性に沿ってエンジン出力トルクが低下していくため、エンジン回転数が急激に上昇してしまう。このようになると、エンジン回転数がオーバーシュートを起こしてしまい、油圧アクチュエータの作動が必要以上に加速したり、油圧アクチュエータの作動ピストンが必要以上に動いてしまったりする。
【0012】
特許文献2におけるエンジンの回転数制御装置では、無負荷時におけるエンジン回転数を低い回転数領域に保った状態から、エンジンに加わる負荷トルクに応じてガバナ指令値を連続的に変化させることで、エンジン回転数を上昇させている。そして、ガバナ指令値を連続的に変化させることで、ガバナ指令値に対応したレギュレーション特性を燃料ダイヤルで設定したレギュレーション特性に向かって順次移動させている。
【0013】
しかし、燃料ダイヤルで設定したレギュレーション特性によるエンジンの駆動制御を行っているときに、急に作業負荷が抜けた場合には、特許文献1の発明と同様に、燃料ダイヤルで設定したレギュレーション特性に沿ってエンジン出力トルクが減少していくため、エンジン回転数が急激に上昇してしまう。
【0014】
また、ガバナ指令値を変化させているときに、負荷変動に応じてエンジン出力トルクが頻繁に変動すると、エンジン出力トルクの変動に対応させるために、ガバナ指令値を頻繁に変動させてしまうことになる。
【0015】
そのうえ、エンジン出力トルクが変動する時点とガバナ指令値が指令される時点と燃料噴射が行われる時点の間にはそれぞれ時間差がある。このため、エンジン出力トルクの頻繁な変動に対応させるために、ガバナ指令値が変動を繰り返すと、ガバナ指令値の変動に応じてエンジンへの燃料噴射が行われても、応答遅れなどの原因によって無駄な燃料噴射が行われてしまうことになる。
【0016】
本願発明は、上述した課題を解決し、操作性を損なわずにエンジンの回転数を下げて燃料消費量の低減を図ることができる油圧ショベルのエンジン制御装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明の課題は、油圧ショベルのエンジン制御装置に係わる第1発明から第6発明により、好適に達成することができる。
【0018】
即ち、本願第1発明における油圧ショベルのエンジン制御装置では、エンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの吐出圧油により駆動される複数の油圧アクチュエータと、前記エンジンのエンジン出力トルクを演算するトルク演算手段と、前記エンジンの第1目標回転数を指令する指令手段と、前記エンジンに供給する燃料を制御する燃料噴射装置と、前記第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数に応じた第1レギュレーション特性に基づいて前記燃料噴射装置を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1目標回転数に応じた第2レギュレーション特性であって、前記第1レギュレーション特性よりもエンジン出力トルクの低下に対するエンジン回転数の上昇率が小さいレギュレーション特性が設定されており、前記エンジン出力トルクが第1トルク設定値以上のときには、前記第2レギュレーション特性に基づいて前記燃料噴射装置を制御することを最も主要な特徴としている。
【0019】
更に、本願第2発明では、前記第1レギュレーション特性と前記第2レギュレーション特性は、エンジン出力トルクが第2トルク設定値のときには、同じエンジン回転数となるように設定されてなることを主要な特徴としている。
【0020】
また、本願第3発明では、前記複数の油圧アクチュエータには旋回モータが含まれており、前記第2トルク設定値は、前記旋回モータを単独かつ定速度で駆動させているときのエンジン出力トルク以上であることを主要な特徴としている。
【0021】
更にまた、本願第4発明では、前記制御手段は、エンジン出力トルクが前記第2トルク設定値以下のときにはアイソクロナス制御に基づいて燃料噴射装置を制御することを主要な特徴としている。
【0022】
また、本願第5発明では、前記制御手段は、前記第2目標回転数を前記第1目標回転数へ所定時間をかけて徐々に増加させる補正手段を更に備え、前記第1レギュレーション特性から前記第2レギュレーション特性への切り替えは、前記補正手段を介して行われることを主要な特徴としている。
【0023】
更に、本願第6発明では、前記複数の油圧アクチュエータには旋回モータとブームシリンダが含まれており、前記第1トルク設定値は、ブームが下がる方向に前記ブームシリンダを駆動させるとともに前記旋回モータを駆動させているときのエンジン出力トルクよりも大きな値であることを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本願第1発明における油圧ショベルのエンジン制御装置では、急に作業負荷が抜けた場合であっても、エンジン回転数がオーバーシュートしてしまうのを防止することができる。また、作業負荷に変動が生じた際に、ガバナ指令値を変動させてエンジンが制御されるのではなく、レギュレーション特性に基づいてエンジンが制御される。従って、応答遅れが減少した安定したエンジン制御となり、無駄な燃料噴射が抑制されて燃料消費量を低減することができる。
【0025】
本願第2発明では、レギュレーション特性を切り替えるときのエンジン回転数の変動幅を小さくすることができる。従って、レギュレーション特性を切り替えるときの油圧アクチュエータに対する操作性が大幅に向上する。
【0026】
本願第3発明では、旋回単独操作のように、旋回起動時は急激にエンジン出力トルクが上昇し、旋回起動後は急激にエンジン出力トルクが減少するような作業において、旋回起動後に定常旋回に移行する際のエンジン回転数の変動幅を小さくすることができる。即ち、旋回起動時の速度変化を抑えることができ、2段加速や息継ぎなどを防ぐことができる。
【0027】
本願第4発明では、操作レバーが中立時における待機状態での目標回転数を下げることができるので、アイドリング時における更なる燃料消費量の低減を図ることができる。
【0028】
本願第5発明では、レギュレーション特性が切り替えられるときに負荷トルクの変動が生じていても、レギュレーション特性間においてガバナ指令値の頻繁な変更が行われるのを防ぐことができ、エンジン回転数が変動するのを抑えることができる。
【0029】
本願第6発明では、ダウン旋回時のエンジン回転数を下げることができ、燃料消費量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本願発明の実施形態に係わる油圧回路図である。(実施例1)
【図2】エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の一例を示す図である。(実施例1)
【図3】エンジン出力トルクと目標回転数との関係の一例を示す図である。(実施例1)
【図4】コントローラのブロック図である。(実施例)
【図5】エンジン制御の処理を示す制御フロー図である。(実施例)
【図6】エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の一例を示す図である。(実施例1)
【図7】エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の一例を示す図である。(実施例1)
【図8】エンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の一例を示す図である。(実施例1)
【図9】他の実施形態に係わるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の例を示す図である。(実施例2)
【図10】他の実施形態に係わるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の例を示す図である。(実施例3)
【図11】他の実施形態に係わるエンジン回転数とエンジン出力トルクとの関係の例を示す図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0031】
本願発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の油圧ショベルのエンジン制御装置は、油圧ショベルに搭載されるエンジンを制御する制御装置として好適に適用することができるものである。
【0032】
また、本願発明の油圧ショベルのエンジン制御装置は、以下で説明する構成以外にも本願発明の課題を解決することができる構成であれば、それらの構成を採用することができるものである。このため、本願発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0033】
図1は、本願発明の一実施形態に係わる油圧ショベルの油圧回路図である。油圧ショベルは、クローラ式の下部走行体と360度回転可能な上部旋回体を備えている。また、油圧
ショベルは、油圧によって駆動されるブーム、アーム及びバケットを備え、土砂等を掘削及び放土することができる。
【0034】
エンジン2におけるエンジン出力トルクの制御は、エンジン2のシリンダ内に噴射する燃料の量を調整することによって行われる。この燃料の調整は、従来から公知の燃料噴射装置3によって行うことができる。
【0035】
エンジン2の出力軸5には可変容量型油圧ポンプ6(以下、油圧ポンプ6という。)が連結されており、出力軸5が回転することにより油圧ポンプ6が駆動される。油圧ポンプ6の斜板6aの傾転角は、斜板角センサ31で検出され、コントローラ7に入力される。ポンプ制御装置8は、コントローラ7からの制御信号によって、油圧ポンプ6の斜板6aの傾転角を制御する。斜板6aの傾転角が変化することによって、油圧ポンプ6のポンプ容量D(cc/rev)が変化する。
【0036】
操作レバー装置12〜14は、それぞれ操作レバー12a〜14aを有している。操作レバー12a〜14aは、オペレータによって操作される操作部材である。
【0037】
各操作レバー12a〜14aを操作することによって、パイロット油圧ポンプ16から吐出したパイロット圧油を破線で示した配管を介して、各制御弁9〜11のスプールに作用させることができる。そして、各操作レバー12a〜14aにおける操作量及び操作方向に応じて、対応する制御弁9〜11がそれぞれ制御される。この結果、油圧アクチュエータ39〜41に供給される圧油の流量が制御される。
【0038】
各操作レバー装置12〜14における操作量は、圧力センサ27a〜27fによって検出することができる。各圧力センサ27a〜27fは、操作レバー装置12〜14と制御弁9〜11とを接続している各配管にそれぞれ設けられている。
【0039】
各圧力センサ27a〜27fで検出した検出圧は、それぞれa〜fで示すハーネスを介してコントローラ7に入力される。コントローラ7では、入力した各圧力センサ27a〜27fで検出した検出圧により、各操作レバー12a〜14aの操作状態を検出することができる。
【0040】
油圧ポンプ6から吐出された圧油は、油路23a〜23cを通って制御弁9〜11に供給される。各制御弁9〜11は、6ポート3位置に切換えることのできる切換弁として構成されており、各制御弁9〜11から出力される圧油を油圧アクチュエータ39〜41に対して選択的に供給することができる。そして、各制御弁9〜11に対応する油圧アクチュエータをそれぞれ作動させることができる。
【0041】
油圧アクチュエータ39は、下部走行体に対して上部旋回体を旋回させる油圧モータ(旋回モータ)である。油圧アクチュエータ40は、アームを駆動させるアーム用油圧シリンダ(アームシリンダ)である。油圧アクチュエータ41は、ブームを駆動させるブーム用油圧シリンダ(ブームシリンダ)である。また、図示を省略しているが、その他にも、バケット用油圧シリンダ、左走行用油圧モータ、右走行用油圧モータ等が設けられている。
【0042】
操作レバー装置12は、旋回モータとして構成されている油圧アクチュエータ39を操作することができる。操作レバー13は、アーム用油圧シリンダとして構成されている油圧アクチュエータ40を操作することができる。操作レバー装置14は、ブーム用油圧シリンダとして構成されている油圧アクチュエータ41を操作することができる。また、図示を省略しているが、その他にも、バケット用油圧シリンダ、左走行用油圧モータ、右走行用油圧モータ等を操作することができる操作レバー装置が設けられている。
【0043】
操作レバー12a〜14aを中立位置から操作すると、操作レバー12a〜14aの操作方向及び操作量に応じて、各操作レバー装置12〜14からはパイロット圧が出力される。出力されたパイロット圧は、各制御弁9〜11の左右のパイロットポートのいずれかに加えられることになる。これにより、各制御弁9〜11は、中立位置である(II)位置から左右の(I)位置又は(III)位置に切換えられる。
【0044】
ここで、各制御弁9〜11はそれぞれ同様の構成となっているので、制御弁11の作動を代表して説明することで、制御弁9、10の作動についての説明は省略する。
【0045】
制御弁11が(II)位置から(III)位置に切換えられると、油圧ポンプ6からの吐出圧油は、油圧アクチュエータ41に供給される。このとき、油圧アクチュエータ41のヘッド側に圧油が供給され、油圧アクチュエータ41のピストンを伸長させることができる。そして、油圧アクチュエータ41のロッド側における圧油は、制御弁11を通ってタンク22に排出されることになる。
【0046】
同様に、制御弁11が(I)位置に切換えられると、油圧ポンプ6からの吐出圧油は油圧アクチュエータ41のロッド側に供給され、油圧アクチュエータ41のピストンを縮小させることができる。このとき、油圧アクチュエータ41のヘッド側における圧油は、制御弁11を通ってタンク22に排出されることになる。
【0047】
ところで、操作レバー装置12〜14がいずれもフルストロークまで操作されていなければ、制御弁9〜11はいずれもフルストローク位置まで切換わらない。そのため、油圧アクチュエータの作動に使われなかった余剰油は、タンク戻り回路26を通って、タンク22に還流されることになる。
【0048】
操作レバー装置12〜14のうち少なくともいずれか1つの操作レバー装置がフルストロークまで操作された場合は、制御弁9〜11のうち対応する制御弁はフルストローク位置に切換わる。その場合は、タンク戻り回路26を通ってタンク22に還流される余剰油はない。
【0049】
このとき、タンク戻り回路26に設けた絞り25の前後差圧は、差圧検出センサ29で検出することができる。差圧検出センサ29で検出した前後差圧は、ハーネスgを介してコントローラ7に入力される。そして、絞り25の前後差圧と油圧ポンプ6のポンプ容量との関係を予めポンプ制御特性図としてコントローラ7に設定しておけば、コントローラ7は、差圧検出センサ29で検出した絞り25の前後差圧から、油圧ポンプ6のポンプ容量を演算することができる。
【0050】
そして、演算されたポンプ容量に対する指令値が、ポンプ制御装置8に出力される。ポンプ制御装置8によって、油圧ポンプ6のポンプ容量が指令値に応じたポンプ容量となるように、斜板6aの傾転角が制御される。
【0051】
ここで、作業者が燃料ダイヤル4を操作して、可変に指令できる指令値の中から一つの指令値を選択すると、選択した指令値に対応した目標回転数を設定することができる。即ち、図2に示すように、燃料ダイヤル4で設定した目標回転数N1(第1目標回転数)に応じて、ポンプ吸収トルクとエンジン出力トルクとをマッチングさせるレギュレーション特性Faを設定することができる。即ち、目標回転数N1は、全負荷領域の最大トルク線Rとガバナ領域のレギュレーション特性Faの交点K1におけるエンジン回転数である。
【0052】
エンジン回転数Na´ は、目標回転数をN1に設定した場合における、無負荷時のエンジンの摩擦トルクと油圧系のロストルクとの合計値とエンジン出力トルクとがマッチングする点の回転数である。そして、目標回転数N1が燃料ダイヤル4の操作に応じて設定される
と、エンジントルクカーブの全負荷領域R上のエンジン回転数N1における点と無負荷時の点(エンジン回転数Na´)とを結んだ線がレギュレーション特性Faとして設定されることになる。
【0053】
尚、目標回転数N1に応じて設定されるレギュレーション特性として、レギュレーション特性Faに替えてレギュレーション特性F1を設定した場合は、エンジン回転数N1´が無負荷時の回転数である。また、N2´、Nn´、Nb´も同様に各目標回転数に応じた無負荷時の回転数である。
【0054】
また、燃料ダイヤル4の操作に応じて目標回転数Na´が設定され、目標回転数Na´に応じてレギュレーション特性Faが設定されてもよい。この場合も、第1目標回転数は、全負荷領域Rとレギュレーション特性Faとの交点のエンジン回転数N1となる。
【0055】
本実施形態においては、目標回転数N1が燃料ダイヤル4によって設定されている場合において、エンジン出力トルクが低い状態のときには、目標回転数N1より低い回転数である目標回転数N2(第2目標回転数)において、エンジン2の駆動制御を行わせることができる。このように構成することで、燃料消費量を低減し、騒音を抑制することができる。
【0056】
ここで、燃料ダイヤル4で設定した目標回転数N1よりも低い回転数である目標回転数N2を求め、目標回転数N2に応じたレギュレーション特性F2に沿ってエンジン2の駆動制御を行う場合について説明する。
【0057】
図2では、目標回転数N1に応じたレギュレーション特性をFaとして設定している。また、最大トルク線Rで規定される全負荷領域が、エンジン2が出し得る性能を示している。エンジン2の出力(馬力)が最大になるところは、最大トルク線R上の最大馬力点K1である。即ち、目標回転数N1をエンジンの定格回転数としたときのレギュレーション特性Faと最大トルク線Rとの交点として、最大馬力点K1が設定される。
【0058】
尚、以下の説明では、燃料ダイヤル4で設定した目標回転数N1が、エンジンの定格回転数である場合について説明を行うが、燃料ダイヤル4で設定した目標回転数N1としては、エンジンの定格回転数以下の任意の目標回転数を設定することができる。
【0059】
いま、何れかの操作レバー12a〜14aが操作されて、レギュレーション特性F2に従ってエンジン2の駆動制御が行われているときに、エンジン出力トルクが予め定めたトルク設定値T2(レギュレーション特性F2上ではA点)以上となると、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性F1側への移動が行われる。即ち、燃料噴射装置3を制御するガバナ指令値を増大させることで、図2に示すレギュレーション特性F2上のA点とレギュレーション特性Fa上のB点とを結ぶ線分上に沿ってエンジン2の駆動制御が行われる。
【0060】
即ち、図3で示すように、エンジンの駆動制御が、第2目標回転数N2に基づいて制御されているときには、検出されたエンジン出力トルクTが、予め定めたトルク設定値T2になるまでは、第2目標回転数N2に基づいた制御が行われる。
【0061】
検出されたエンジン出力トルクTが、トルク設定値T2以上となったときには、図3で示すような予め設定したエンジン出力トルクTと目標回転数Nとの対応関係に基づいて、検出したエンジン出力トルクTに対応した目標回転数Nが求められることになる。そして、エンジン2は、求められた目標回転数Nとなるように駆動制御されることになる。
【0062】
目標回転数Nが、目標回転数N2と燃料ダイヤル4で設定した目標回転数N1との間にあるときには、検出したエンジン出力トルクTに対応した目標回転数Nが常に求められていくこと
になり、求めた目標回転数Nとなるようにエンジン2の駆動制御が行われる。
【0063】
例えば、現時点における検出したエンジン出力トルクTが、エンジン出力トルクTnであるときには、目標回転数Nとしては目標回転数Nnが求められる。そして、エンジン出力トルクTが、エンジン出力トルクTnの状態からエンジン出力トルクTbの状態に変化したことが検出されれば、エンジン出力トルクTbに対応した目標回転数Nbが新たに求められる。そして、エンジン2は、新たに求められた目標回転数Nbとなるように駆動制御が行われる。
【0064】
従来技術では、検出されたエンジン出力トルクTが増大して、所定のエンジン出力トルクT1となったときには、図2に示すように、目標回転数N1に応じたレギュレーション特性F1に従ってエンジン2の駆動制御が行われることになる。そして、レギュレーション特性F1に従ってエンジン2の駆動制御が行われているときには、検出したエンジン出力トルクTが、エンジン出力トルクT1以下となるまでは、レギュレーション特性F1に従ってエンジン2の駆動制御が行われ続けることになる。そして、レギュレーション特性F1に従ってエンジン2の駆動制御を行うことで、エンジントルクカーブ上でエンジン2が出し得る最大馬力点K1を通過させることができる。
【0065】
本実施形態では、勾配の異なる二つ以上のレギュレーション特性を用いている。即ち、図2で示すように、レギュレーション特性F1と同じ勾配のレギュレーション特性F2と、レギュレーション特性F2とは異なる勾配のレギュレーション特性Faと、を用いている。図4に示したレギュレーション特性選択演算部35では、予め設定された二つ以上の異なる勾配のレギュレーション特性から、エンジン出力トルクに応じて必要とするレギュレーション特性を選択する。
【0066】
図2で示すように、レギュレーション特性Faは、レギュレーション特性F1、F2の勾配よりも大きな勾配として構成されている。即ち、レギュレーション特性F1、F2は、勾配が緩やかなレギュレーション特性として構成され、レギュレーション特性Faは、勾配の大きなレギュレーション特性として構成されている。
【0067】
ここで勾配が大きいとは、エンジン出力トルクの低下に対するエンジン回転数の上昇率が小さいことをいい、勾配が小さいとは、エンジン出力トルクの低下に対するエンジン回転数の上昇率が大きいことをいう。
【0068】
図2において、勾配が大きいレギュレーション特性Faは、図2における横軸のX軸となす角がαである。また、勾配が小さいレギュレーション特性F1、F2は、図2における横軸のX軸となす角がβである。従って、図2においては、レギュレーション特性Faは、レギュレーション特性F1、F2よりも勾配が大きい。
【0069】
そして、レギュレーション特性Faとレギュレーション特性F2とは、定常旋回時トルク点C(トルク点C)において交差し、レギュレーション特性Faは、最大馬力点K1を通る特性を有している。
定常旋回とは、上部旋回体の旋回操作が単独で行われているときに、上部旋回体の旋回速度が一定速度となっているときをいう。また、定常旋回時トルクは、定常旋回時のエンジン出力トルクをいう。
【0070】
定常旋回時トルク点Cは、定常旋回時におけるエンジン回転数とエンジン出力トルクT3(第2トルク設定値)とのマッチング点として設定されている。また、レギュレーション特性Faに沿ったエンジン2の駆動制御は、B点よりエンジン出力トルクTが大きくなったときから行われる。即ち、B点は、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性F1側への移行が行われているときに、エンジン出力トルクTがエンジン出力トルクTb以上とな
ったとき、レギュレーション特性Faに従ったエンジンの駆動制御が行われる時点である。
尚、図2に示すように、エンジン出力トルクTb(第1トルク設定値)は、エンジン出力トルクT3(第2トルク設定値)より大きい。
【0071】
レギュレーション特性Faを設けることによって、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性F1まで移行させることなく、レギュレーション特性F1への移行途中であるB点からレギュレーション特性Faに沿った制御を行うことができる。そして、レギュレーション特性Faに沿った制御を行っている途中で、急に作業負荷が抜けた場合であっても、レギュレーション特性Faに沿ってエンジン出力トルクを低下させることができる。
【0072】
しかも、エンジン回転数の上昇は、レギュレーション特性F1に沿ってエンジン出力トルクを低下させていくときに比べて、レギュレーション特性Faに沿ってエンジン出力トルクを低下させていくときの方が抑えられた状態となる。即ち、急に作業負荷が抜けた場合、例えば、図6に示すように、レギュレーション特性F1に沿ってエンジン出力トルクが低下していくと、点線R1で示すようにレギュレーション特性F1に従いながらエンジン出力トルクは低下し、エンジン回転数は上昇することになる。これに対して本実施形態では、図6の二点鎖線Raで示すように、レギュレーション特性Faに従いながらエンジン出力トルクは低下し、エンジン回転数は上昇することになる。
【0073】
そのため、図6の二点鎖線Raにおけるエンジン回転数と点線R1におけるエンジン回転数との回転数差は、エンジン出力トルクが低下し始めてから急激に拡大していくことになる。このように、本願発明では、エンジン出力トルクが低下していっても、エンジン回転数が急激に高くなることはない。そのため、本願発明では、エンジン2の吹き上がりを防止することができる。
【0074】
即ち、レギュレーション特性Faに沿った制御を行っている途中で、急に作業負荷が抜けた場合であっても、エンジン回転数がオーバーシュートしてしまうのを防止することができる。
【0075】
次に、コントローラ7の制御について、図4のブロック図を用いて説明する。コントローラ7は、例えば、プログラムメモリやワークメモリとして使用される記憶装置と、プログラムを実行するCPUと、を有するコンピュータにより実現することができる。
【0076】
コントローラ7内のポンプトルク演算部34には、ポンプ圧力センサ28で検出した油圧ポンプ6から吐出したポンプ圧力と、油圧ポンプ6の斜板角を指令する斜板角指令値演算部33で演算した油圧ポンプ6の斜板角と、が入力される。ポンプトルク演算部34では、入力した油圧ポンプ6の斜板角と油圧ポンプ6のポンプ圧力とから、油圧ポンプ6のポンプトルク(エンジン出力トルク)を演算する。
即ち、一般に、油圧ポンプ6のポンプ吐出圧P(ポンプ圧力P)と吐出容量D(ポンプ容量D)とエンジン出力トルクTとの関係は、T=P・D/200πとして表すことができる。
【0077】
ポンプトルク演算部34において演算するポンプトルク(エンジン出力トルク)は、ポンプ圧力センサ28による検出値と斜板角指令値演算部33で演算した指令値とを用いて演算する代わりに、ポンプ圧力センサ28による検出値と斜板角センサ31の検出値とを用いて演算することもできる。
ポンプ圧力の検出値と斜板角センサ31の検出値とを用いて、ポンプトルク演算部34で演算する方法は、図4においてはポンプ圧力の検出値を実線矢印で示し、斜板角センサ31の検出値は点線矢印で示している。
【0078】
斜板角指令値演算部33には、エンジン回転センサ30からの検出値と、タンク戻り回路26
に設けた絞り25の前後差圧を検出するタンク戻り回路絞りの前後差圧検出センサ29からの検出信号と、が入力される。そして、予めポンプ制御特性図として設定した絞り25の前後差圧と油圧ポンプ6のポンプ容量Dとの関係を用いることで、差圧検出センサ29で検出した絞り25の前後差圧から、油圧ポンプ6のポンプ容量Dを求めることもできる。
【0079】
レギュレーション特性選択演算部35では、予め設定された二つ以上の異なるレギュレーション特性の中から、エンジン出力トルクTの値によってレギュレーション特性を選択する。選択したレギュレーション特性をレギュレーション特性指令値36としてエンジン2に対して指令する。即ち、レギュレーション特性選択演算部35では、レギュレーション特性F2に従ったエンジンの駆動制御中にエンジン出力トルクTが、B点で示す第1トルク設定値Tb以上となったとき、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性Faへの移行を行わせるため、レギュレーション特性Faを選択しレギュレーション特性指令値36としてエンジン2に対して指令する。このとき、操作レバーの操作状態に応じてレギュレーション特性を選択してもよい。
【0080】
ガバナ指令値補正演算部37では、燃料ダイヤル値とレギュレーション特性選択演算部35で選択されたレギュレーション特性によって、ガバナ指令値38(目標回転数)を決定し、ガバナ指令値38としてエンジンに対して指令する。
【0081】
本実施形態におけるレギュレーション特性として、図2及び図6に示したエンジントルクカーブを用いて、図5で示した制御フローの説明を行う。この制御フローでは、燃料ダイヤル4において、目標回転数N1としてエンジンの定格回転数が選択され、図6に示すようにレギュレーション特性Fa(第2レギュレーション特性)が設定されたものとする。そして、目標回転数N1より低い回転数である目標回転数N2に応じたレギュレーション特性F2(第1レギュレーション特性)に従って、エンジンの駆動制御が行われているものとする。
【0082】
図5のステップS1において、コントローラ7は、レギュレーション特性、ガバナ指令値38等の初期化を行う。レギュレーション特性、ガバナ指令値38等の初期値が設定されると、ステップS2に移る。
ステップS2では、油圧ポンプ6のポンプ吐出圧P(ポンプ圧力P)と吐出容量D(ポンプ容量D)とエンジン出力トルクTとによる関係、T=P・D/200πを用いて、ポンプ圧力センサ28で検出した油圧ポンプ6の吐出圧Pと斜板角センサ31で検出した油圧ポンプ6の斜板6aの傾転角を用いてエンジン出力トルクTを演算する。
【0083】
ポンプ容量Dとしては、斜板角指令値演算部33で演算された演算結果を利用することもできる。エンジン出力トルクTが演算されると、ステップS3に移る。
ステップS3では、トルク判定を行う。即ち、ステップS2において演算したエンジン出力トルクTが予め設定した第1トルク設定値Tb以上となったか否かの判定を行う。ステップS3において、エンジン出力トルクTが、予め設定した第1トルク設定値Tb以上であると判定されたときには、ステップS4に移り、第1トルク設定値Tbよりも小さいことが判定されたときには、ステップS5に移る。
【0084】
尚、ステップS3の制御が行われる前に、エンジン出力トルクTが予め設定したトルク設定値T2以上となったときには、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性Fa側へ移行する制御が行われるが、これについての説明及びステップの図示は省略している。
【0085】
ステップS4では、レギュレーション特性Faを選択する。即ち、図2におけるB点から最大馬力点K1に向かった駆動制御が行われるように、レギュレーション特性Faに沿ったエンジンの駆動制御が行われるようにする。ステップS4での制御が行われると、ステップ
S6に移る。
【0086】
ステップS3からステップS5に移った場合には、エンジン出力トルクTとしては第1トルク設定値Tbにまで達していないので、レギュレーション特性F2を選択する。ステップS5での制御が行われると、ステップS6に移る。
【0087】
ステップS6では、決定されたレギュレーション特性の勾配に対する指令値であるレギュレーション特性指令値と、ガバナ指令値とをエンジン2に対して指令する。ステップS6の制御が行われると、ステップS2に戻り、ステップS2からの制御が、繰り返されることになる。
【0088】
図6を用いて、説明を追加すると、レギュレーション特性Faに従ったエンジンの駆動制御が行われているときに、急に作業負荷が抜けた場合には、二点鎖線Raで示すようにレギュレーション特性Faに沿ってエンジン出力トルクTを低下させながら、エンジン回転数を上昇させることができる。
【0089】
これに対して、レギュレーション特性F1に従ってエンジンの駆動制御が行われている途中で、急に作業負荷が抜けた場合には、図6の点線R1で示すようにレギュレーション特性F1に従いながらエンジン出力トルクが低下してしまうことになる。そして、エンジン出力トルクの低下に伴いながら、エンジン回転数は急激に高くなり、図6の二点鎖線Raで示す本実施形態の場合よりも高くなってしまう。
【0090】
このように、レギュレーション特性Faに従ったエンジンの駆動制御が行われていると、急に作業負荷が抜けた場合であっても、エンジン回転数がオーバーシュートしてしまうのを防止することができる。
【0091】
また、図7において点線の丸で囲んだように、作業時に最大馬力点K1の付近において負荷変動が生じた場合であっても、レギュレーション特性Faに従ってエンジンの駆動制御を行うことができるので、最大馬力点K1の付近における負荷変動に対しても、安定してエンジン2の駆動制御を行うことができる。
【0092】
更に、図8に示すように、勾配の緩やかなレギュレーション特性F2から勾配の大きなレギュレーション特性Faまで移行させるときの目標回転数の変動幅(図8において、矢印で示している。)は、特許文献1のように第2目標回転数N2に応じたレギュレーション特性F2から第1目標回転数N1に応じたレギュレーション特性F1まで移行させるときの目標回転数の変動幅よりも小さく構成できる。
【0093】
このように、本実施形態では、二つのレギュレーション特性間において移行させるときの目標回転数の変動幅を小さく構成することができるので、レギュレーション特性の切替え時におけるエンジン変動幅を抑えておくことができる。これによって、レギュレーション特性を切り替えるときの油圧アクチュエータに対する操作性を、大幅に向上させることができる。
【0094】
尚、本願発明は、図1で示したコントロールタイプの油圧回路以外にも、ポジティブコントロールタイプの油圧回路、ロードセンシングタイプの油圧回路、オープンセンタタイプの油圧回路に対して、好適に適用することができる。またオープンセンタタイプの油圧回路であっても、オープンセンタタイプの油圧回路におけるネガティブコントロールタイプの油圧回路やポジティブコントロールタイプの油圧回路であっても、好適に適用することができる。
【実施例2】
【0095】
図9を用いて、本願発明に係わる第2の実施形態を説明する。実施例2では、定常旋回時トルク点C(トルク点C)以下におけるエンジンの駆動制御を、アイソクロナス制御とする構成となっている。他の構成は、実施例1における構成と同様の構成となっている。そのため、実施例1における構成と同様の構成についての説明は省略する。
【0096】
図9に示すように、定常旋回時トルク点C以下では、目標回転数を定常旋回時トルク点Cにおける目標回転数Ncとして一定に設定しておくことができる。これにより、操作レバー12a〜14aが全て中立位置にあるときのアイドリング回転数(待機回転数)を下げることができる。即ち、アイドリング時における燃料消費量の低減を図ることができる。
【実施例3】
【0097】
図10を用いて、本願発明に係わる第3の実施形態を説明する。実施例3では、レギュレーション特性をレギュレーション特性F2からレギュレーション特性Faに切替えるときのガバナ指令値を、時間経過に対して変化させる構成となっている。他の構成は、実施例1における構成と同様の構成となっている。そのため、実施例1における構成と同様の構成についての説明は省略する。
【0098】
図10に示すように、レギュレーション特性をレギュレーション特性F2からレギュレーション特性Faに切替えるときに、ガバナ指令値を時間経過に対して変化させることで、レギュレーション特性F2からレギュレーション特性Faへの切替え制御を滑らかに行うことができる。
【0099】
図4に示すように、ガバナ指令値補正演算部37をコントローラ7内に設けておくことにより、ガバナ指令値を時間経過に対して変化させることができる。ガバナ指令値補正演算部37としては、燃料噴射装置へのガバナ指令値を時間経過に対して徐々に変化させる補正手段として機能している。この補正手段としては、指令値に対してモジュレーションを設定する構成、ローパスフィルタを用いる構成などを採用することができる。
【0100】
レギュレーション特性の切替え時にガバナ指令値を時間経過に対して変化させる構成としておくことにより、レギュレーション特性の切り替え時において、負荷トルクの変動が生じていてもレギュレーション特性間での頻繁な切り替えを防ぐことができ、エンジン回転が負荷トルクの変動に応じて変動するのを抑えておくことができる。
【実施例4】
【0101】
図11を用いて、本願発明に係わる第4の実施形態を説明する。実施例4では、第1トルク設定値Tb(図11では、A点として示している。)を、ダウン旋回時の目標回転数とエンジン出力トルクとのマッチング点(図11では、D点として示している。)におけるダウン旋回時トルクよりも大きな値として構成している。他の構成は、実施例1における構成と同様の構成となっている。そのため、実施例1における構成と同様の構成についての説明は省略する。
ダウン旋回とは、旋回操作及びブーム下げ操作の2つの操作を含む操作をいう。また、ダウン旋回時トルクとは、ダウン旋回時におけるエンジン出力トルクをいう。
【0102】
図11に示すように、トルク判定値Tbを、ダウン旋回時トルクよりも大きな値として構成しておくことにより、ダウン旋回時における目標回転数を低く設定することができ、燃料消費量の低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
建設機械に搭載されているエンジンに対するエンジン制御に対して、本願発明の技術思
想を適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
2・・・エンジン、3・・・燃料噴射装置、4・・・燃料ダイヤル(指令手段)、6・・・可変容量型油圧ポンプ、7・・・コントローラ、8・・・ポンプ制御装置、9〜11・・・制御弁、25・・・絞り、29・・・(タンク戻り回路絞りの前後)差圧検出センサ、33・・・斜板角指令値演算部、34・・・ポンプトルク演算部、35・・・レギュレーション特性選択演算部、36・・・レギュレーション特性指令値、37・・・ガバナ指令値補正演算部、38・・・ガバナ指令値、F1、F2、Fa・・・レギュレーション特性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの吐出圧油により駆動される複数の油圧アクチュエータと、
前記エンジンのエンジン出力トルクを演算するトルク演算手段と、
前記エンジンの第1目標回転数を指令する指令手段と、
前記エンジンに供給する燃料を制御する燃料噴射装置と、
前記第1目標回転数よりも低い回転数である第2目標回転数に応じた第1レギュレーション特性に基づいて前記燃料噴射装置を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1目標回転数に応じた第2レギュレーション特性であって、前記第1レギュレーション特性よりもエンジン出力トルクの低下に対するエンジン回転数の上昇率が小さいレギュレーション特性が設定されており、前記エンジン出力トルクが第1トルク設定値以上のときには、前記第2レギュレーション特性に基づいて前記燃料噴射装置を制御することを特徴とする油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項2】
前記第1レギュレーション特性と前記第2レギュレーション特性は、エンジン出力トルクが第2トルク設定値のときには、同じエンジン回転数となるように設定されてなることを特徴とする請求項1記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項3】
前記複数の油圧アクチュエータには旋回モータが含まれており、
前記第2トルク設定値は、前記旋回モータを単独かつ定速度で駆動させているときのエンジン出力トルク以上であることを特徴とする請求項2記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、エンジン出力トルクが前記第2トルク設定値以下のときにはアイソクロナス制御に基づいて燃料噴射装置を制御することを特徴とする請求項3記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2目標回転数を前記第1目標回転数へ所定時間をかけて徐々に増加させる補正手段を更に備え、
前記第1レギュレーション特性から前記第2レギュレーション特性への切り替えは、前記補正手段を介して行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。
【請求項6】
前記複数の油圧アクチュエータには旋回モータとブームシリンダが含まれており、
前記第1トルク設定値は、ブームが下がる方向に前記ブームシリンダを駆動させるとともに前記旋回モータを駆動させているときのエンジン出力トルクよりも大きな値であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油圧ショベルのエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−31763(P2012−31763A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170902(P2010−170902)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】