説明

油圧制御装置

【課題】 油圧回路の異常を判断することができる油圧制御装置を提供すること。
【解決手段】 クラッチを解放するように制御されている場合に、クラッチが解放していないときには油圧回路に異常が発生していると判断するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報に記載の技術は、ハイブリッド車両において、電動オイルポンプに異常が発生しているときには、エンジンを駆動するものである。
【特許文献1】特開2005−207305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術においては、電動オイルポンプのフェールを電動オイルポンプの回転数や電流値を用いて検出している。そのため電動オイルポンプ自体のフェールの判断を行うことはできるが、油圧回路の他の部分の異常を判断できないという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、油圧回路の異常を判断することができる油圧制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明においては、クラッチを解放するように制御されている場合に、クラッチが解放していないときには油圧回路に異常が発生していると判断するようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、油圧が供給される最下流において油圧回路の異常を検出することができるため、油圧回路全体の異常を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の油圧制御装置を実現する最良の形態を、実施例1に基づいて説明する。
【0008】
[実施例1]
〔駆動系の構成〕
まず、実施例1における車両の駆動系の構成を説明する。
図1は、実施例1の車両の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。このハイブリッド車両の駆動系は、エンジンEと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、駆動モータとして機能するモータジェネレータMGと、メカオイルポンプMOPと、電動オイルポンプEOPと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有している。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0009】
(エンジン)
エンジンEは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0010】
(第1クラッチ)
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装された締結要素であり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧(第1クラッチ圧)により、その締結および解放が制御される。
【0011】
図2および図3は、第1クラッチCL1の軸方向断面を示す。第1クラッチCL1は、手動変速機に用いられるクラッチと同様の乾式クラッチであり、第1クラッチの入力軸INに接続されたフライホイール30と、フライホイール30に接続されたクラッチカバー31と、クラッチカバー31内に収容されたクラッチディスク32、プレッシャプレート33、および皿バネ(ダイヤフラム)34と、クラッチピストン35と、を有している。
【0012】
クラッチディスク32の内周側には振動吸収用のトーションスプリング32aが設けられており、クラッチディスク32の中心軸の位置にはハブ32bが設けられている。ハブ32bは第1クラッチCL1の出力軸OUTにスプライン結合されており、軸方向に摺動可能に設けられている。クラッチピストン35は、リング状のスリーブスリーブシリンダ36内に軸方向に摺動可能に収容されている。
【0013】
図2中、上半分はクラッチ締結時を示し、下半分はクラッチ解放時を示す。クラッチピストン35は、スリーブスリーブシリンダ36内から第1クラッチ圧が抜かれることにより出力軸OUT側にストロークし、これにより第1クラッチCL1が締結する。クラッチ締結状態においては、入力軸IN側に付勢された皿バネ34の外周側がプレッシャプレート33を入力軸IN側に押圧している。プレッシャプレート33は、クラッチディスク32を入力軸IN側に押圧してフライホイール30に押し付け、これによりクラッチディスク32とフライホイール30との間に摩擦力(締結トルク)が発生する。
【0014】
クラッチ締結状態から、スリーブシリンダ36内に第1クラッチ圧が供給されてクラッチピストン35が入力軸IN側にストロークすると、第1クラッチCL1が解放される。すなわち、クラッチピストン35が入力軸IN側にストロークすると、皿バネ34の内周側を入力軸IN側に押圧する。これにより皿バネ34がクラッチカバー31との接触部を支点として弾性変形し、皿バネ34の外周側が出力軸OUT側に変位する。これにより皿バネ34の外周側とフライホイール30との間の軸方向距離が広がって、両者の間に挟まれたクラッチディスク32およびプレッシャプレート33が軸方向に移動可能となる。すなわち、第1クラッチCL1が解放される。
【0015】
上記のように、クラッチ締結状態においては、フライホイールとクラッチディスクとの間の摩擦力により締結トルクが発生し、入力軸INと出力軸OUTとの間でトルク伝達が可能となる。上記摩擦力は、フライホイール30とクラッチディスク32との間の軸方向距離により決定される。よって、締結トルクは、直接的には、クラッチピストン35の位置により決定され、制御される。
【0016】
図3は、第1クラッチCL1の部分断面の拡大図である。クラッチピストン35には、クラッチピストン35の位置、すなわちストローク量(変位量)C1Sを検出するストロークセンサ15(ストローク量検出手段)が設けられている。以下、クラッチピストン35の位置およびストローク量を、同じ符号C1Sを用いて表す。
【0017】
(モータジェネレータ)
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0018】
(第2クラッチ)
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装された締結要素(クラッチ)であり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、その締結および解放が制御される。第2クラッチCL2は、ハイブリッド車両専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の締結要素のうち、いくつかの締結要素を流用している。なお、第2クラッチCL2には、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いているが、他の構成としてもよい。
【0019】
(自動変速機)
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を、車速VSPやアクセル開度AP等に応じて、予め設定されATコントローラ7に記憶された変速マップに従って自動的に切り替える変速機である。自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0020】
(走行モード)
このハイブリッド車両の駆動系は、第1クラッチCL1の締結・解放状態に応じた3つの走行モードを有している。第1の走行モードは、第1クラッチCL1の解放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」)である。第2の走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」)である。
【0021】
第3の走行モードは、第1クラッチCL1は締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC(Wet Start Clutch)走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成する。更に、エンジン停止状態からの発進時にエンジン始動しつつ駆動力を出力可能なモードである。
【0022】
さらに上記HEV走行モードは、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有している。「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RR,RLを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0023】
上記走行発電モードは、定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、発電した電力をバッテリ4の充電のために使用する。また、減速運転時には、制動エネルギーを利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させ、制動エネルギーを回生する。
【0024】
(メカオイルポンプ)
メカオイルポンプMOPは、モータジェネレータMGの出力軸に設けられ、EV走行モードのときにはモータジェネレータMGによって駆動され、HEV走行モードのときにはエンジンEとモータジェネレータMGとによって駆動される。メカオイルポンプMOPが駆動すると、自動変速機AT内のオイルパンに貯留されている油を、オイルストレーナを介して吸入し、自動変速機ATに備えられた図外の油圧コントロールバルブに供給する。
【0025】
(電動オイルポンプ)
電動オイルポンプEOPは、電動モータによって駆動されるオイルポンプであって、EV走行モードまたはアイドルストップ制御時に駆動される。電動オイルポンプEOPが駆動すると、メカオイルポンプMOPと同じく自動変速機AT内のオイルパンに貯留されている油を、オイルストレーナを介して吸入し、自動変速機ATに備えられた図外の油圧コントロールバルブに供給する。
【0026】
〔駆動系の構成〕
次に、実施例1におけるハイブリッド車両の制御系を説明する。ハイブリッド車両の制御系は、後述する各種センサおよびスイッチの他、エンジンコントローラ1、モータコントローラ2、インバータ3、バッテリ4、第1クラッチコントローラ5(クラッチ制御手段)、第1クラッチ油圧ユニット6、ATコントローラ7、第2クラッチ油圧ユニット8、ブレーキコントローラ9、電動オイルポンプコントローラ26、および統合コントローラ10(締結状態判断手段、油圧回路異常判断手段)を有している。
【0027】
第1クラッチ油圧ユニット6および第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに備えられた図外の油圧コントロールバルブ内に設けられている。この第1クラッチ油圧ユニット6および第2クラッチ油圧ユニット8には、油圧コントロールバルブ内で事前に調圧されたライン圧が供給される。
【0028】
なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、電動オイルポンプコントローラ26、統合コントローラ10とは、情報交換が可能なCAN通信線11を介して互いに接続されている。
【0029】
各種センサおよびスイッチは、エンジン回転数センサ12(エンジン回転数検出手段)、レゾルバ13、ストロークセンサ15、アクセル開度センサ16、車速センサ17(車速検出手段)、AT油温センサ7a、車輪速センサ19、ブレーキストロークセンサ20、モータ回転数センサ21、第2クラッチ出力回転数センサ22、ブレーキ油圧センサ24、およびバッテリ電力センサ25を有している。
【0030】
(エンジンコントローラ)
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12が検出したエンジン回転数Neや統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令Te*等の情報に基づき、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。エンジンコントローラ1内には、エンジンEの燃料噴射量やスロットル開度等に基づいてエンジントルクTeを推定するエンジントルク推定部1aが設けられている。エンジン回転数Ne(第1クラッチCL1入力回転数)や推定されたエンジントルクTeの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0031】
(モータコントローラ)
モータコントローラ2は、レゾルバ13が検出したモータジェネレータMGのロータ回転位置、および統合コントローラ10からの目標モータトルク指令Tm*等に基づき、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。モータコントローラ2内には、モータジェネレータMGに流れる電流値に基づいてモータトルクTmを推定するモータトルク推定部2aが設けられている。推定されたモータトルクTmの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0032】
(第1クラッチコントローラ)
第1クラッチコントローラ5は、ストロークセンサ15が検出したストロークセンサ値C1S、および統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令(ストローク目標値C1S*)に基づき、第1クラッチCL1の締結・解放を制御する指令(ストローク目標値C1S*を実現する第1クラッチ圧指令値)を演算し、これを第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。検出したストロークセンサ値C1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0033】
HEV走行モード時には第1クラッチCL1の締結制御を実行し、EV走行モード時には第1クラッチCL1のスタンバイ制御を実行する。
HEV走行モードにおける第1クラッチCL1の締結時には、ストロークセンサ値C1Sに基づくことなく、締結時のストローク目標値C1S*(β)に応じた第1クラッチ圧指令を出力して、クラッチピストン35の実位置をオープン制御する。以下、HEV走行モード時の締結状態におけるクラッチピストン35の位置を締結位置C1S(β)という。締結時のストローク目標値C1S*(β)は、クラッチピストン35の締結目標位置C1S*に相当する。
【0034】
スタンバイ制御は、第1クラッチCL1を完全解放するEV走行モード時において、第1クラッチCL1を(HEV走行モードに切り替わった後)すぐに締結できるぎりぎりの解放状態に待機させる制御である。以下、EV走行モード時の待機状態におけるクラッチピストン35の位置C1Sをスタンバイ位置C1S(α)という。
【0035】
図4は、各走行モードにおける第1クラッチCL1の締結状態、すなわちクラッチピストン35の位置C1Sを示す模式図である。
シフト位置がP、Nレンジであるときや、走行モードがHEVモードであるときに、第1クラッチCL1は完全締結される。DレンジでEV走行モード時にはスタンバイ制御が実行され、第1クラッチCL1はスタンバイ状態に維持される。すなわち、クラッチピストン35は、次のエンジン始動に備えてスタンバイ位置C1S(α)に待機する。なお、クラッチピストン35の位置はクラッチディスク32の位置と同視できるため、図7において、クラッチピストン35をクラッチディスク32として描く。
【0036】
(ATコントローラ)
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16が検出したアクセル開度AP、車速センサ(AT出力回転数センサ)17が検出した車速VSP、AT油温センサ7aが検出したAT油温、および統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令(第2クラッチ締結トルク目標値)等に基づき、第2クラッチCL2の締結・解放を制御する指令を第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセル開度AP、車速VSP、およびAT油温は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10に入力される。
【0037】
(ブレーキコントローラ)
ブレーキコントローラ9は、車輪速センサ19が検出した4輪の各車輪速、ブレーキストロークセンサ20が検出したブレーキストロークBS、および統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づき、回生協調ブレーキ制御を行う。例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから算出される要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように制御する。
【0038】
(電動オイルポンプコントローラ)
電動オイルポンプコントローラ26は、統合コントローラ10からの電動オイルポンプ制御指令に基づき、電動オイルポンプEOPの駆動・停止を制御する指令を演算し、これを電動オイルポンプEOPに出力する。電動オイルポンプEOPは、EV走行モード時または車両停車時におけるアイドルストップ制御時において駆動される。
【0039】
(統合コントローラ)
統合コントローラ10は、主に、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせる機能を有している。統合コントローラ10は、モータ回転数センサ21が検出したモータ回転数Nm、第2クラッチ出力回転数センサ22が検出した第2クラッチ出力回転数N2out、ブレーキ油圧センサ24が検出したブレーキ圧、バッテリ電力センサ25が検出したバッテリ4の使用可能な電力容量(以下、バッテリSOC)、およびCAN通信線11を介して得られた各情報、すなわちエンジン回転数Ne(第1クラッチCL1入力回転数)、ストロークセンサ値C1S、アクセル開度AP、車速VSP、およびブレーキストロークBS等の入力を受ける。
【0040】
〔油圧回路異常判断処理〕
図5は、統合コントローラ10において油圧回路の異常は判断する処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
ステップS1では、電動オイルポンプEOPの駆動フラグがONとなっているか否かを判定し、駆動フラグがONになっている場合にはステップS2へ移行し、OFFとなっている場合にはステップS1の処理を繰り返す。
ステップS2では、第1クラッチCL1の解放指令が出力されているか否かを判定し、解放指令が出力されている場合にはステップS3へ移行し、解放指令が出力されていない場合にはステップS2の処理を繰り返す。
【0042】
ステップS3では、クラッチピストン35のストローク量C1Sがスタンバイ位置C1S(α)以上であるか否かを判定し、ストローク量C1Sが設定値より小さければステップS4へ移行し、ストローク量C1Sが設定値以上であればステップS3の処理を繰り返す。
この設定値は、ストローク量C1Sが設定値より小さければ第1クラッチCL1が締結状態であり、ストローク量C1Sが設定値以上であれば解放およびスタンバイ状態であることは判断できる値に設定する。
【0043】
ステップS4では、車速VSPの変動が設定値より小さいか否かを判定し、車速VSPの変動が設定値以上である場合にはステップS5へ移行し、車速VSPの変動が設定値より小さい場合にはステップS4の処理を繰り返す。
ステップS5では、エンジン回転数Neの変動が設定値より小さいか否かを判定し、エンジン回転数Neの変動が設定値以上である場合にはステップS6へ移行し、車速VSPの変動が設定値より小さい場合にはステップS5の処理を繰り返す。
ステップS6では、油圧回路に異常が発生していると判断して、処理を終了する。
【0044】
〔油圧回路異常判断処理動作〕
電動オイルポンプEOPの駆動許可フラグがONであって、第1クラッチCL1が解放制御されているときには、図5のフローチャートにおいてステップS1→ステップS2→ステップS3へと移行する。
【0045】
HEV走行モード時には、エンジンEが駆動しており、エンジンEは常にアイドル回転以上の回転数で回転しているため、メカオイルポンプMOPによりライン圧以上の油圧を確保することができる。しかし、EV走行モード時には、エンジンEが停止しているため、メカオイルポンプMOPはモータジェネレータMGのみで駆動されることとなる。モータジェネレータMGは車速に応じた回転数で駆動されるため、低車速走行時には回転数が十分でないため、メカオイルポンプMOPによりライン圧以上の油圧を確保することができない。またアイドルストップ時にはエンジンEもモータジェネレータMGも停止しているため、メカオイルポンプMOPを駆動することができないため油圧を発生させることができない。このことは第1クラッチCL1を解放できないことを意味する。
【0046】
そこでEV走行モード時やアイドルストップ時には、統合コントローラ10において電動オイルポンプEOPの駆動許可フラグをONにして、電動オイルポンプコントローラ26によって電動オイルポンプEOPを駆動制御する。メカオイルポンプMOPのみではライン圧以上の油圧を確保できない場合であっても、電動オイルポンプEOPが駆動することによりライン圧以上の油圧を確保することができる。
【0047】
EV走行モード時には、エンジンEは停止し、モータジェネレータMGのみが駆動している。このとき、モータジェネレータMGとエンジンEとが連結していると、エンジンEが負荷となる。そのため、EV走行モード時には第1クラッチCL1を解放している。ステップS2の第1クラッチCL1の解放制御とは、第1クラッチCL1の完全解放制御とスタンバイ制御のことを示している。
【0048】
ステップS3、ステップS4、ステップS5ではそれぞれ第1クラッチCL1が完全解放またはスタンバイ状態であるか否かを判定することにより、ライン圧が確保されている否かを判断している。
ライン圧が確保されていれば、第1クラッチCL1の解放制御が行われているときには、クラッチピストン35は皿バネ34の付勢力に対抗してストロークし、そのストローク量はスタンバイ位置C1S(α)以上となる。一方、ライン圧が確保されていなければ、第1クラッチCL1の解放制御が行われているにも関わらず、クラッチピストン35は皿バネ34の付勢力に対抗してストロークすることができずに、そのストローク量はスタンバイ位置C1S(α)より小さくなる。
【0049】
また、ライン圧が確保されていれば、第1クラッチCL1が解放またはスタンバイ状態であれば、クラッチディスク32とフライホイール30との間隔を十分に確保することができ、エンジンEの負荷はモータジェネレータMG側に伝わらないため、車速変動はほとんど発生しない。一方、ライン圧が確保されていなければ、クラッチディスク32とフライホイール30との間隔を十分に確保することができず、締結と解放と繰り返すこととなる。そのためエンジンEの負荷がモータジェネレータMG側に伝わる状態と伝わらない状態とが繰り返すため車速変動が生じることとなる。
【0050】
ステップS4の車速変動の設定値は、エンジンEの負荷がモータジェネレータMG側に伝わらない状態のときの車速変動に設定しておけば良い。例えば単位時間当たりの車速の変動量で設定しても良いし、単位時間当たりに所定値以上の変動量があった回数で設定しても良い。
【0051】
また、ライン圧が確保されており、第1クラッチCL1が解放またはスタンバイ状態であれば、クラッチディスク32とフライホイール30との間隔を十分に確保することができ、モータジェネレータMGの駆動力はエンジンE側に伝わらないため、エンジン回転数変動はほとんど発生しない。一方、ライン圧が確保されていなければ、クラッチディスク32とフライホイール30との間隔を十分に確保することができず、締結と解放と繰り返すこととなる。そのためモータジェネレータMGの駆動力がエンジンE側に伝わる状態と伝わらない状態とが繰り返すためエンジン回転数変動が生じることとなる。
【0052】
ステップS5のエンジン回転数変動の設定値は、モータジェネレータMGの駆動力がエンジンE側に伝わらない状態のときのエンジン回転数変動に設定しておけば良い。例えば単位時間当たりの変動量で設定しても良いし、単位時間当たりに所定値以上の変動量があった回数で設定しても良い。
【0053】
ステップS3、ステップS4、ステップS5で第1クラッチCL1が完全解放またはスタンバイ状態であることが否定された場合には、ステップS6において油圧回路に異常が発生していると判断する。油圧回路の異常とは、電動オイルポンプEOPの故障以外に、回路内の亀裂等による油のリーク、油圧コントロールバルブのスティック故障等を含む。
【0054】
〔作用〕
電動オイルポンプEOPの故障は、電動オイルポンプEOPの回転数や電流値を用いて検出することができるが、この検出方法では油圧回路の他の部分の異常を検出することができなかった。
【0055】
そこで実施例1の油圧制御装置では、第1クラッチCL1が解放制御されているにも関わらず、第1クラッチCL1が解放していないときには油圧回路に異常が発生していると判断することとした。
この構成を採用したことにより、油圧が供給される最下流において油圧回路の異常を検出することができるため、油圧回路全体の異常を検出することができる。また車両の挙動に直接影響を与える第1クラッチCL1において油圧回路の異常を検出するため、車両挙動への影響が小さいうちに油圧回路の異常を検出することができる。
【0056】
また、第1クラッチCL1を解放しているEV走行モード時や、アイドルストップ時に油圧回路の異常を検出することができるため、車両挙動への影響が小さいうちに油圧回路の異常を検出することができる。また、油圧回路の異常を検出することが可能となるため、第1クラッチCL1における発熱や第1クラッチCL1の破損を防止することができる。また、油圧回路の異常を検出することが可能となるため、モータジェネレータMGによるエンジンEの引きずりを防止し、消費電力を抑制することができる。
【0057】
更に実施例1の油圧制御装置では、クラッチピストン35のストローク量を検出するストロークセンサ15を用いて、クラッチピストン35のストローク量がスタンバイ位置C1S(α)以上であるときに第1クラッチCL1が解放していると判断するようにした。
【0058】
また実施例1の油圧制御装置では、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ12を用いて、エンジン回転数変動が設定値より小さいときには第1クラッチCL1が解放していると判断するようにした。
【0059】
また実施例1の油圧制御装置では、車速を検出する車速センサ17を用いて、車速変動が設定値より小さいときにはクラッチが解放していると判断するようにした。
この構成を採用したことにより、車両挙動制御において必須のセンサ類を用いて油圧回路の異常を検出することができるため、新たなセンサ等を加えることなく油圧回路の異常を検出することができる。また、ストロークセンサ15、エンジン回転数センサ12、車速センサ17からの信号は常時モニタをしている信号であるため、油圧回路の異常を迅速に検出することができる。
【0060】
〔実施例1の効果〕
以下、実施例1から把握される、本発明の油圧制御装置が有する効果を列挙する。
【0061】
(1)エンジンEと、モータジェネレータMGと、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装され、油圧が供給されることにより解放する第1クラッチCL1と、第1クラッチCL1に油圧を供給するオイルポンプであって、電気によって駆動される電動オイルポンプEOPと、第1クラッチCL1の締結と解放を制御する第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチCL1の締結状態を判断し(ステップS3、ステップS4、ステップS5)、第1クラッチCL1を解放するように制御されている場合に、第1クラッチCL1が解放していないときには油圧回路に異常が発生していると判断する(ステップS6)統合コントローラと、を設けた。
【0062】
よって、油圧が供給される最下流において油圧回路の異常を検出することができるため、油圧回路全体の異常を検出することができる。また車両の挙動に直接影響を与える第1クラッチCL1において油圧回路の異常を検出するため、車両挙動への影響が小さいうちに油圧回路の異常を検出することができる。
また、第1クラッチCL1を解放しているEV走行モード時や、アイドルストップ時に油圧回路の異常を検出することができるため、車両挙動への影響が小さいうちに油圧回路の異常を検出することができる。また、油圧回路の異常を検出することが可能となるため、第1クラッチCL1における発熱や第1クラッチCL1の破損を防止することができる。また、油圧回路の異常を検出することが可能となるため、モータジェネレータMGによるエンジンEの引きずりを防止し、消費電力を抑制することができる。
【0063】
(2)第1クラッチCL1を解放させるクラッチピストン35のストローク量を検出するストロークセンサ15を設け、統合コントローラ10をストローク量がスタンバイ位置C1S(α)以上であるときに第1クラッチCL1が解放していると判断する(ステップS3,ステップS6)ようにした。
よって、車両挙動制御において必須のストロークセンサ15を用いて油圧回路の異常を検出することができるため、新たなセンサ等を加えることがなくコストを抑制することができる。また、ストロークセンサ15からの信号は常時モニタをしている信号であるため、油圧回路の異常を迅速に検出することができる。
【0064】
(3)エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ12を設け、統合コントローラ10をエンジンの回転数Neの変動が設定値より小さいときには第1クラッチCL1が解放していると判断するようにした(ステップS4,ステップS6)。
よって、車両挙動制御において必須のエンジン回転数センサ12を用いて油圧回路の異常を検出することができるため、新たなセンサ等を加えることがなくコストを抑制することができる。また、エンジン回転数センサ12からの信号は常時モニタをしている信号であるため、油圧回路の異常を迅速に検出することができる。
【0065】
(4)車速を検出する車速センサ17を設け、統合コントローラ10を車速変動が設定値より小さいときには第1クラッチCL1が解放していると判断するようにした(ステップS5,ステップS6)。
よって、車両挙動制御において必須の車速センサ17を用いて油圧回路の異常を検出することができるため、新たなセンサ等を加えることがなくコストを抑制することができる。また、車速センサ17からの信号は常時モニタをしている信号であるため、油圧回路の異常を迅速に検出することができる。
【0066】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0067】
実施例1の油圧制御装置では、統合コントローラ10の制御処理のフローチャート(図5)において、ストローク量(ステップS3)、車速変動(ステップS4)、エンジン回転数変動(ステップS5)を用いて第1クラッチCL1が完全解放またはスタンバイ状態であるか否かの判定を行っているが、いずれか1つまたは2つを用いて判定を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1の車両の制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の第1クラッチの軸方向断面である。
【図3】実施例1の第1クラッチの軸方向断面である。
【図4】実施例1のクラッチピストンの位置を示す模式図である。
【図5】実施例1の統合コントローラにおける制御処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
5 第1クラッチコントローラ
6 第1クラッチ油圧ユニット
10 統合コントローラ
12 エンジン回転数センサ
15 クラッチストロークセンサ
17 車速センサ
35 クラッチピストン
E エンジン
MG モータジェネレータ
EOP 電動オイルポンプ
MOP メカオイルポンプ
CL1 第1クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
駆動モータと、
前記エンジンと前記駆動モータとの間に介装され、油圧が供給されることにより解放するクラッチと、
電動モータにより駆動され、前記クラッチに油圧を供給する電動オイルポンプと、
前記クラッチの締結と解放を制御するクラッチ制御手段と、
前記クラッチの締結状態を判断する締結状態判断手段と、
前記クラッチを解放するように制御されている場合に、前記クラッチが解放していないときには油圧回路に異常が発生していると判断する油圧回路異常判断手段と、
を設けたことを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧制御装置において、
前記クラッチを解放させるクラッチピストンのストローク量を検出するストローク量検出手段を設け、
前記締結状態判断手段は、前記ストローク量が設定値以上であるときに前記クラッチが解放していると判断することを特徴とする油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の油圧制御装置において、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段を設け、
前記締結状態判断手段は、前記エンジンの回転数の変動が設定値より小さいときには前記クラッチが解放していると判断することを特徴とする油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の油圧制御装置において、
前記車速を検出する車速検出手段を設け、
前記締結状態判断手段は、前記車速の変動が設定値より小さいときには前記クラッチが解放していると判断することを特徴とする油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−149651(P2010−149651A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328911(P2008−328911)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】