説明

油圧配管の振動防止装置及び振動防止方法

【課題】作業機械や建設機械などに配備された油圧配管や油圧ホースなどにおける振動伝達を確実に低減乃至は防止する振動防止装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る油圧配管20の振動防止装置は、油圧ポンプと、この油圧ポンプからの圧油を駆動部に送る油圧配管20と、油圧ポンプ及び油圧配管20を支持する支持部22とを有する油圧駆動機構に備えられ、油圧配管20の湾曲部Rに取り付けられた重錘23を有する振動低減手段24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械や建設機械などの駆動系に設けられた油圧配管や油圧ホースなどにおける振動伝達を低減乃至は防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、油圧ショベル、大型クレーン機などの作業機械や建設機械は、エンジンで油圧ポンプを駆動して作動油タンクから吸引した作動油を、油圧配管や油圧ホースにてコントロールバルブへ導き、当該コントロールバルブで流量乃至は圧力を調整した上で、再び油圧配管やホースを介して油圧シリンダや油圧モータ等のアクチュエータに圧油を供給している。
【0003】
ところが、この油圧配管や油圧ホースは、油圧ポンプや油圧モータで発生する圧力脈動により加振され振動することがある。この振動が配管サポート等の支持部材を通じて、作業機械や建設機械の本体側に伝わり、騒音を発生させたり、乗り心地の悪化、レバー振動による不快感などの問題を発生する。
このような問題に対し幾つかの解決策が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、旋回台上にエンジン、油圧ポンプ、作動油タンク及びコントロールバルブを搭載し、エンジンで油圧ポンプを駆動して、作動油タンクから吸引した作動油をデリバリホースを介してコントロールバルブへ供給していて、前記デリバリホースを弾性材製のクランプ部材に挿通保持して旋回台に対して取り付けている旋回作業機のデリバリホースのクランプ装置であって、前記クランプ部材を取り付けている支持体を、旋回台上に設けられた取り付け部に防振材を介して取り付けている旋回作業機のデリバリホースのクランプ装置を開示する。つまり、特許文献1では、デリバリホースを弾性材製のクランプ部材及び防振材により取付部に取り付けることとしている。
【0005】
特許文献2は、油圧ポンプと、該油圧ポンプに接続される油圧配管と、該油圧配管に生じる脈動を低減するため、基端側が前記油圧ポンプの吐出側または該油圧配管の途中に接続されると共に先端側が閉塞され、圧油の一部が導入される分岐ホースと、該分岐ホースを固定する固定手段と、該固定手段に対して前記分岐ホースを弾性的に支持すべく該固定手段と分岐ホースとの間に設けられた弾性部材とからなる油圧脈動低減装置において、前記弾性部材は、前記分岐ホースの外周側に当接する第1の弾性体と、該第1の弾性体の外側に位置する第2の弾性体とから構成し、該第1,第2の弾性体は互いに弾性定数を異ならしめる構成の油圧脈動低減装置を開示する。
【0006】
特許文献3は、構造体に設置される流体用配管の支持装置において、流体圧脈動によって励振される流体用配管の振動モードの節の位置で、その流体用配管を前記構造体にクランプする流体用配管の支持装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−231693号公報
【特許文献2】特開平8−218426号公報
【特許文献3】特開平11−13940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1〜3の技術を用いることで、作業機械や建設機械などに配備された油圧配管や油圧ホースなどにおける振動伝達の若干の低減化を図ることが可能かもしれないが、確実な振動伝達の防止を実現するには至っていないのが実情である。
特に、特許文献2では、2種類の硬度を持つゴムで油圧配管を支持することで広い周波数にわたって振動低減することを提案している。しかし、この方法でも、より振動低減効果を高めるには、基本的には支持剛性を小さくする必要があり、支持剛性の低下に伴い配管の安定性や圧力により作用する力や外部からの力により、支持部が破損する虞が否めない。
【0009】
また、特許文献3では、あらかじめ複数の取付座を設け、配管の振動モードに応じてクランプ位置を配管振動の腹の位置から節の位置に容易に変更することのできる油圧配管の支持装置を提案しているが、複数の取付座を用意する必要があり、メンテナンスが煩雑になったり、コスト高騰などの問題が生じる。
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、作業機械や建設機械などの駆動系に設けられた油圧配管や油圧ホースなどにおける振動伝達を低減乃至は防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る油圧配管の振動防止装置は、油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの圧油を駆動部に送る油圧配管と、前記油圧ポンプ及び油圧配管を支持する支持部とを有する油圧駆動機構に備えられた振動防止装置であって、前記油圧配管の湾曲部に取り付けられた重錘からなる振動防止手段を有することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記振動防止手段の重錘は、油圧配管の湾曲部の端部に取り付けられているとよい。
好ましくは、前記振動防止手段の重錘は、油圧配管の湾曲部を支持する支持部近傍に取り付けられているとよい。
好ましくは、前記振動防止手段は、前記油圧駆動機構が設けられた構造体に前記重錘を連結する介在部材を有しており、前記介在部材が、油圧配管を支持する支持体より剛性の低い弾性体乃至は粘弾性体で構成されているとよい。
【0012】
好ましくは、前記油圧配管が弾性体で構成されているとよい。
また、本発明に係る油圧配管の振動防止方法は、油圧ポンプと、この油圧ポンプからの圧油を駆動部に圧送する油圧配管と、前記油圧ポンプ及び油圧配管を支持する支持部とを有する油圧駆動機構にて、前記油圧配管の湾曲部に対し重錘からなる振動防止手段を取り付けることで、油圧配管に発生する振動を抑制する乃至は油圧配管から伝播する振動を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る振動防止技術によれば、作業機械や建設機械などに配備された油圧配管や油圧ホースなどにおける振動伝達を確実に低減乃至は防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る油圧配管の振動防止装置が適用される作業機械及び建設機械を示した図である。
【図2】油圧配管の振動防止装置の概略を示した図である。
【図3】本願における振動防止効果を検証するためのコンピュータシミュレーションの結果を示した図である。
【図4】油圧配管の振動防止装置の一例を示した図である。
【図5】油圧配管の振動防止装置の別例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1(a)は、本発明が適用可能な油圧ショベル1(作業機械)を示している。この油圧ショベル1では、クローラ式の下部走行体2の上に旋回可能な上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3は、下部走行体2の上に旋回可能に設けられたフレーム体4を有している。このフレーム体4の前部にはアタッチメント5(作業装置)が取り付けられ、フレーム体4の中央部から後部にかけて、キャビン6、機械室7、カウンタウエイト8などが配置されている。
【0016】
アタッチメント5は、上部旋回体3の前部中央に起伏可能に支持されており、フレーム体4に設けられた一対の縦板に回動可能に支持された略く字形状のブーム9と、このブーム9の長手方向に延びてブーム9に回動可能に支持されたアーム10と、このアーム10に回動可能に支持されたバケット11とを有している。
機械室7の内部には、エンジンと、このエンジンで駆動される油圧ポンプとが配設されており、コントロールバルブも設けられている。油圧ポンプで加圧された圧油は、コントロールバルブを経由しブーム9及びアーム10の内部や側方に沿うように配備された油圧配管20を通じて、例えば、バケット11を動かす油圧シリンダ21へと送られる。油圧配管20はブーム9やアーム10などの構造体30に配管サポートなどの支持部22を介して取り付けられている。
【0017】
本発明は、この油圧配管20に発生する振動の伝達を可及的に低減乃至は防止するものであり、油圧配管20(油圧ホースを含む)の湾曲する部分に防振用の重錘23(ウエイト体)を備えたものである。この技術は、図1(b)に示すような大型のクレーン機12における油圧配管20にも適用可能である。
以下、本発明に係る油圧配管20の振動防止装置及び振動防止方法について、詳細に説明する。
【0018】
図2に示す如く、油圧ショベル1などの作業機械や建設機械などの駆動系に設けられた油圧配管20は、アタッチメント5の屈曲等の動きに対応するため、必ず湾曲部R(屈曲部、言い換えれば、油圧配管20のコーナ部)を有するものとなっている。湾曲部Rにおける油圧配管20はゴムホースなどの可撓性を有するホースから構成されている。
通常、油圧配管20内に圧力脈動が発生している場合、このような湾曲部Rや断面積が変化する配管部分に変動力が作用し、振動を発生することになる。発生した振動は、当該配管を支持する支持部22(ブラケット、配管サポート)などを通じて、作業機械や建設機械の本体側に伝わり、騒音を発生させたり、乗り心地の悪化、操作レバー振動による不快感などの問題を発生する。
【0019】
本発明は、このように湾曲部Rを有する油圧配管20(特に、油圧ホースのように可撓性を有する油圧配管20)に重錘23を取り付け、この重錘23の慣性力により配管に作用する力を吸収し、作業機械の本体側に伝わる力を低減するものである。すなわち、本発明では、この重錘23が振動低減手段24として作用するものであって、油圧配管20の湾曲部Rに取り付けられた重錘23の振動により発生する慣性力により、配管自体に作用する変動力の一部を打ち消すことで、配管を支持する支持部22を通じて作業機械の本体側へ伝達する振動力を低減させるものである。
【0020】
図3は振動低減手段24の効果確認のため、1/4円弧状の油圧配管20(ゴムホース)に圧力脈動による変動力が作用した際に、支持部22を通じて本体側に伝達する振動の比率(振動伝達率)をシミュレーションにより計算した例である。この図の横軸は発生振動数であり、縦軸はtransfer Ratio(振動伝達率)であって、「本体側に伝わる力/配管に作用する力」で定義される量である。振動伝達率が小さな値であると振動の伝達が抑制され、結果的に本体側へ振動が伝播しないものとなる。
【0021】
CASE1は、振動低減手段24である重錘23が非装着の場合である。CASE2は、2つの重錘23を1/4円弧状の油圧配管20の中央部に取り付けた場合のシミュレーション結果である。このケースでは、250Hz辺りの振動を若干抑制できるものの、他の振動周波数域では振動伝達率の値はCASE1と殆ど変わらず、振動抑制に関しては、重錘23なしの場合(CASE1)とほぼ差はない。
【0022】
一方、図3には、CASE3として、2つの重錘23を1/4円弧状の油圧配管20の管端部から1/4の場所に分割して取り付けた場合、CASE4として、2つ重錘23を油圧配管20の管端部近傍に取り付けた場合のシミュレーション結果が示されている。
CASE3、CASE4ともに、200Hz以上でCASE1の場合よりも振動伝達率は大きく低減している。特に、CASE4では、500Hz以上の広い周波数域において振動伝達率が10dB近く低減している。このことから、重錘23が端部の支持部22に近い位置であって支持部22に接しない状況で取り付けられるほど広い周波数域において振動低減効果が得られることがわかる。油圧音として問題になるのは300Hz以上であることが多いことから、本構成により油圧音低減効果も得られることがわかる。
以上の検証結果を基に、実際の作業機械に振動低減手段24を配備した状況について説明する。
【0023】
図4は油圧配管20の一例で、例えば油圧ショベル1のブーム9やアーム10に代表される構造体30に金属配管31が配管サポートなどの支持部22を介して取り付けられている。2つの金属配管31には円弧状に湾曲したゴムなどの可撓性を有する油圧配管20が管継手32を介して取り付けられている。この配管には油圧ポンプから圧送される作動油が供給されており、配管内部には油圧ポンプにより発生した圧力脈動が生じている。
【0024】
この時、油圧配管20は湾曲しているため、図4に示す油圧配管20の内面且つ油圧配管20に直交する方向に変動分布荷重を受けることとなる。この変動力は支持部22を介して構造体30に伝わり、構造体30が振動することにより大きな油圧音を発生する。
そこで、本実形態では、円弧状の管端部に設置された管継手32に重錘23を取り付けるようにしている。これは、図3でのCASE4に対応する。なお、可撓性を有する配管に重錘23を取り付ける場合、柔軟な可撓部に取り付けるよりは、継手部近傍或いは支持部近傍に取り付けたほうが取り付けやすさ及び慣性力による振動力吸収効率の観点から望ましい。すなわち、振動低減手段24の重錘23は、湾曲状となっている油圧配管20を支持する支持部22近傍に取り付けられるとよい。このとき、重錘23を支持部22に接触させると振動低減効果は生じないため、重錘23は支持部22に接しない状況で取り付ける方が望ましい。
【0025】
重錘23の材質については特に問わないが、スペース及び慣性力の発生効率の観点から密度が高く剛体に近いものが良く、金属製が望ましい。コスト・入手性・加工性の観点から鋼製が特に望ましい。また重錘23の質量については大きいほうが効果が大きいが、実用性の観点からは概ね配管の質量と同オーダであることが望ましい。
図5は、図4に記した振動低減手段24の変形例である。
【0026】
この図に示すように、図4で取り付けた重錘23をさらに弾性部材で構成された介在部材33を介して構造体30に支持したものである。
このような構造とすることで、アタッチメント5の動きや油圧配管20(特にゴムホース)の動きに従って重錘23が振れ回るなどの不都合を防ぐことができるようになる。
とはいえ、この介在部材33からも油圧配管20に生じた変動力が構造体30に伝わるため、当該介在部材33はできるだけ剛性が低いほうが望ましく、概ね重錘23の自重に耐えうる程度の剛性、大きくとも支持部22材の剛性よりも小さくする必要がある。介在部材33の材質については、低剛性であれば何でも良いが簡易性から防振ゴムなどが望ましい。介在部材33がシリコンゴムなどの粘弾性体で形成されていてもよい。
【0027】
以上述べたような本発明の油圧配管20の振動防止装置によれば、油圧ショベル1や大型クレーン機12などの作業機械や建設機械などにおいて、油圧配管20に発生する圧力脈動から生じる配管振動が、配管を支持する支持部22を通じて構造物に伝わって発生する振動を効果的に低減することが可能となり、この振動により発生する油圧音や操作レバー振動・乗り心地悪化を低減することが可能となる。
【0028】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0029】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 フレーム体
5 アタッチメント
6 キャビン
7 機械室
8 カウンタウエイト
9 ブーム
10 アーム
11 バケット
12 大型クレーン機
20 油圧配管
21 油圧シリンダ
22 支持部
23 重錘
24 振動低減手段
30 構造体
31 金属配管
32 管継手
33 介在部材
R 湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの圧油を駆動部に送る油圧配管と、前記油圧ポンプ及び油圧配管を支持する支持部とを有する油圧駆動機構に備えられた振動防止装置であって、
前記油圧配管の湾曲部に取り付けられた重錘からなる振動防止手段を有することを特徴とする油圧配管の振動防止装置。
【請求項2】
前記振動防止手段の重錘は、油圧配管の湾曲部の端部に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の油圧配管の振動防止装置。
【請求項3】
前記振動防止手段の重錘は、油圧配管の湾曲部を支持する支持部近傍に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の油圧配管の振動防止装置。
【請求項4】
前記振動防止手段は、前記油圧駆動機構が設けられた構造体に前記重錘を連結する介在部材を有しており、
前記介在部材が、油圧配管を支持する支持体より剛性の低い弾性体乃至は粘弾性体で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油圧配管の振動防止装置。
【請求項5】
前記油圧配管が弾性体で構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油圧配管の振動防止装置。
【請求項6】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの圧油を駆動部に圧送する油圧配管と、前記油圧ポンプ及び油圧配管を支持する支持部とを有する油圧駆動機構にて、前記油圧配管の湾曲部に対し重錘からなる振動防止手段を取り付けることで、油圧配管に発生する振動を抑制する乃至は油圧配管から伝播する振動を抑制することを特徴とする油圧配管の振動防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44099(P2013−44099A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180543(P2011−180543)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】