説明

油圧駆動車両の変速操作装置

【課題】本発明は、油圧駆動車両において、走行を停止する場合に、変速レバーを中立位置に戻す操作だけで確実に停止するようにすることを課題とする。
【解決手段】トラニオン軸97を回動し前進位置・中立位置・後進位置に設定するシフト範囲を切り替える油圧無段変速装置27を備え、該トラニオン軸97は変速操作具Aの操作に油圧シリンダ36等に連係させた油圧駆動車両の変速操作装置において、該トラニオン軸97の変速位置を検出するシフト角センサ106を設け、このシフト角センサ106の検出情報を入力し、変速操作具Aを前進位置又は後進位置から中立位置へ操作した際、前記アクチュエータにトラニオン軸97が中立位置を越えて後進位置又は前進位置の適宜の角度まで行き過ぎて再び中立位置へ戻す動作をさせる中立制御手段NTを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタ等の油圧駆動車両に用いられる油圧無段変速装置付トランスミッションの変速操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧駆動車両では、トランスミッションケース内に油圧無段変速装置とギア変速装置を組み込み、操縦操作席の近傍に設けた変速レバー等で油圧変速装置とギア変速装置を適宜に組み合わせて変速操作して所望の走行速度で走行するようにした構成が、例えば特開2002−250437号公報に記載されている。
【特許文献1】特開2002−250437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の油圧駆動車両の油圧無段変速装置は、油圧無段変速装置のトラニオン軸(変速軸)にリンク機構で連結した作動用油圧シリンダが設けられ、変速レバーの動きで油圧シリンダを動かしてトラニオン軸を回動して変速する構成である。そして、変速レバーを中立停止位置から前進側或いは後進側へ回動角度を大きくすることで変速比を大きくし、変速レバーを中立位置へ戻すことで走行を停止するようになっている。
【0004】
走行を停止する場合には変速レバーを中立位置へ戻すのであるが、単に変速レバーを中立位置へ戻すだけでは、油圧シリンダとトラニオン軸を連係するリンク機構の遊びやトラニオン軸の中立不感域や油圧無段変速装置内部の切換弁の特性によって完全な中立位置に戻り難く、変速レバーが中立でも停止しないことがあり、その場合には、変速レバーを一旦中立から走行方向と逆方向へ操作して再び中立へ戻すような操作が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は、走行を停止する場合に、変速レバーを中立位置に戻す操作だけで確実に停止するようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、トラニオン軸97を回動し前進位置・中立位置・後進位置に設定するシフト範囲を切り替える油圧無段変速装置27を備え、該トラニオン軸97は変速操作具Aの操作に油圧シリンダ36等のアクチュエータに連係させた油圧駆動車両の変速操作装置において、該トラニオン軸97の変速位置を検出するシフト角センサ106を設け、このシフト角センサ(106)の検出情報を入力し、変速操作具Aを前進位置又は後進位置から中立位置へ操作した際、前記アクチュエータにトラニオン軸97が中立位置を越えて後進位置又は前進位置の適宜の角度まで行き過ぎて再び中立へ戻す動作をさせる中立制御手段NTを設けたことを特徴とする油圧駆動車両の変速操作装置とした。
【0007】
この構成で、変速操作具Aを単に中立に戻す操作をするだけで、中立制御手段NTによってトラニオン軸97が確実に中立になり油圧無段変速装置27の変速出力を無くして走行を停止出来る。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、前記中立制御手段NTのトラニオン軸97が中立位置を越えて反対側まで行き過ぎる角度は機体が逆走を開始しない角度以内としたものである。
【0009】
この構成で、変速操作具Aを中立へ戻しただけで、中立制御手段NTで機体の走行を逆走させることなく停止出来る。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、変速操作具Aを前進側或いは後進側或いは走行位置から中立に戻すだけで、中立制御手段NTはアクチュエータを介してトラニオン軸97が中立位置を越えて適宜の角度まで反対側変速位置へ一旦行き過ぎさせてから中立位置に戻す動きをするので、油圧シリンダとトラニオン軸97を連係するリンク機構の遊びやトラニオン軸97の中立不感域や油圧無段変速装置27内部の切換弁の特性によって完全な中立位置に戻り難い不具合を解消して、走行を完全に停止出来る。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の効果に加え、変速操作具Aを中立にした時に逆走するのを防止し確実に停止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1と図2は、油圧駆動車両の実施例であるトラクタの全体を示す図面で、機体の前側にエンジン24を搭載した原動部1を設け、後側に作業者が搭乗して座る操縦席2を設け、前後中間位置にステアリングハンドル3を立設して、底部に前後輪4,5を装着している。
【0013】
ステアリングハンドル3の左右には前後進レバー6とアクセルレバー7を側方へ突設し、フロアステップ8上であってステアリングハンドル3の左側にクラッチペダル9とブレーキペダル10aを、ステアリングハンドル3の右側にアクセルペダル10とブレーキペダル10bを立設している。
【0014】
操縦席2の左側には、一速から八速まで変速する主変速レバー11と、低・中・高の三段に変速する副変速レバー12と、トラクタの後部に装着するロータリ等を駆動するPTO出力軸41(図3参照)の駆動断続を行うPTOクラッチレバー13を立設している。
【0015】
操縦席2の右側には、自動耕深レバー15と作業機の高さを調整するポジションレバー14を立設している。16aはトラクター後部の作業機を右上げするスイッチであり、16bはトラクター後部の作業機を右下げするスイッチである。
【0016】
18はトラクター後部の作業機を自動的に水平制御する自動水平スイッチであり、17はトラクターの後進時に後部の作業機を自動的に上昇させるバックアップスイッチである。
【0017】
原動部1のエンジン出力を前後輪4,5とPTO出力軸41に増減速して伝動するミッションケース23は、フロアステップ8と操縦席2の下側において機体のメインフレームとしても機能し、前ケース19、繋ぎケース20、中間ケース21、後ケース22の4つの中空ケースを一体に連結した構成である。
【0018】
次に、ミッションケース23内の動力伝動機構を図3で説明する。
エンジン24の出力軸回転が前記クラッチペダル9で断続されるメインクラッチ34を介してミッションケース23の入力軸35へ伝動される。この入力軸35の回転は増速ギア25,26で増速されて油圧無段変速装置(以下、「HST」という)27の入力軸28に伝動される。
【0019】
HST27は可変容量型の油圧ポンプ29と固定容量型の油圧モータ31で構成され、油圧ポンプ29の可動斜板30の傾きを変えることで油圧モータ31の回転を変更する。可動斜板30を固着するトラニオン軸97(図6参照)の回動角度は前記主変速レバー11や前後進レバー6の動きを検出して作動するアクチュエータとしての油圧シリンダ36(図4、図5)によって変更されて、油圧モータ31のモータ出力軸33の回転が変速される。油圧ポンプ29に繋がるポンプ出力軸32の回転は入力軸28の回転数と同じである。
【0020】
ポンプ出力軸32の回転は、PTO正逆クラッチ37を経て、PTO第一中間軸38からPTO第二中間軸39へ伝動され、さらにPTO副変速クラッチ40を経て最終的にPTO出力軸41でミッションケース23の外部へ取り出されて、ロータリー等の作業機を駆動する。
【0021】
次に、PTO正逆クラッチ37について説明する。図3のシフトギア43の位置は、中立の位置を示している。
ポンプ出力軸32に連結したクラッチ軸42に固定のギア43aに噛み合うシフトギア43を左側に移動して伝動上手側の逆転ギア44aと噛み合わせると、逆転ギア44aと一対のギア44が走行第一軸51に遊嵌した二連ギア46の一方のギア45に噛み合っているので、クラッチ軸42の動力は、ギア43a、シフトギア43、逆転ギア44a、ギア44を経由して二連ギア46のギア45に伝動される。そして、二連ギア46の他方のギア47からPTOカウンタ軸50aに固定のギア50へ伝動され、ギア50からPTO第一中間軸38に固定のギア48へ伝動される。この伝動系の流れでPTO第一中間軸38が逆転する。
【0022】
また、シフトギア43を伝動下手側の正転ギア49aと噛み合わせると、クラッチ軸42の動力は、ギア43a、シフトギア43を経由して正転ギア49aに伝動される。正転ギア49aはギア49と一体であるので、動力はギア49からPTO第一中間軸38に固定のギア48へ伝動される。この伝動系の流れでPTO第一中間軸38が正転する。
【0023】
PTO副変速クラッチ40は、PTO第一中間軸38に連結したPTO第二中間軸39に小ギア52と中ギア53と大ギア54を固着し、このPTO第二中間軸39と平行に設けたPTO出力軸41に小ギア52に噛み合わせた大クラッチギア55を遊嵌し、中ギア56と小ギア57を形成したシフトギア58をスライド可能に係合している。前記大クラッチギア55の側面にはギアドック55aを形成している。また、中ギア56の側面にもギアドック56aを形成している。
【0024】
シフトギア58を大きく左スライドして、中ギア56のギアドック56aと大クラッチギア55のギアドック55aとを係合すると、PTO1速(低速)でPTO出力軸41が駆動される。また、シフトギア58を左スライドさせて中ギア53と中ギア56とを噛み合わせると、PTO2速(中速)でPTO出力軸41が駆動される。また、シフトギア58を右スライドして、大ギア54と小ギア57とを噛み合わせると、PTO3速(高速)でPTO出力軸41が駆動される。
【0025】
油圧モータ31のモータ出力軸33は、前後輪4,5を駆動しているが、その伝動径路は、次のとおりである。
出力軸33に連結した走行第一軸51に固着のギア59を走行第二軸61に遊嵌したクラッチギア60に噛み合わせ、高・中・低に変速する副変速クラッチ63を介して走行第二軸61を駆動し、後輪5への伝動を行う伝動径路と、走行第二軸61から前輪クラッチ90を介して前輪4を駆動する伝動径路を有する。
【0026】
副変速クラッチ63は、次のとおりに変速する。
クラッチギア60の動力は、PTO第一中間軸38に遊嵌した三連ギア70の大ギア88へ、クラッチギア60と一体のギア64を噛み合わせて三連ギア70を常時回転している。走行第二軸61に固着のギア62に常時噛み合ってスライド可能にした内歯副変速クラッチ63をクラッチギア60と一体のギア65に噛み合わせると、クラッチギア60の回転は、ギア65、内歯副変速クラッチ63とギア62を介して走行第二軸61に伝わり高速で回転する。(副変速高速)
ギア62の伝動下手側にはギア69とギア66が一体で走行第二軸61に遊嵌している。また、ギア68とギア67が一体で、前記ギア69とギア66の中間部分に遊嵌している。前記ギア69は前記PTO第一中間軸38に遊嵌している三連ギア70のギア73に噛み合っており、前記ギア68は前記PTO第一中間軸38に遊嵌している三連ギア70のギア72と噛み合っている。
【0027】
内歯副変速クラッチ63を右側にスライドしてギア67に噛み合わせると、クラッチギア60の回転は、ギア64、ギア88、ギア73、ギア69、ギア66、内歯副変速クラッチ63、ギア62を介して走行第二軸61に伝わり、走行第二軸61を中速で回転する(副変速中速)。
【0028】
内歯副変速クラッチ63をさらに右側にスライドしてギア67に噛み合わせると、クラッチギア60の回転は、ギア64、ギア88、ギア72、ギア68、ギア67、内歯副変速クラッチ63、ギア62を介して走行第二軸61に伝わり、走行第二軸61を低速で回転する(副変速低速)。
【0029】
走行第二軸61の後端部には後輪用デフギア機構74を装着して後輪5を駆動している。また、走行第二軸61に固着のギア71から、PTO第一中間軸38に遊嵌している三連ギア70に対してさらに遊嵌しているギア75と、前輪軸77に固定のギア76を介して前輪軸77へ伝動している。
【0030】
前輪軸77には油圧クラッチ入力軸78を連結し、等速クラッチ79を繋ぐと入力軸78の回転がそのままで油圧クラッチ出力軸84に同速伝動される。また、増速クラッチ80を繋ぐとギア86,83で増速して中継軸81を回転し、さらにギア82,87で油圧クラッチ出力軸84を回転する増速駆動になる。等速クラッチ79と増速クラッチ80を共に繋がない場合は、動力が伝動されないで後輪駆動のみになる。そして、油圧クラッチ出力軸84の回転は、前輪用デフギア機構85を介して前輪4を駆動する。
【0031】
次に、本発明の変速操作具Aである主変速レバー11と前後進レバー6によるHST27の変速機構を説明する。
ミッションケース23を構成する中間ケース21の側面に立設したピン91に変速プレート92を枢支して、この変速プレート92を主変速レバー11にリンク94で連結する。変速プレート92はガイドプレート93に沿って八箇所で軽く係止されて変速段を八段階に感じるようにしている(図4参照)。この変速プレート92の回動位置は、変速センサ95で制御装置96へ送信される。
【0032】
HST27は、ミッションケース23を構成する前ケース19の中に配置して設けられている。この前ケース19内で前記可動斜板30に連結したトラニオン軸97を前後進中立位置に保持する中立保持機構98を構成している。(図6参照)
この中立保持機構98は、HST27の上面において、可変ポンプ29と油圧モータ31を内装しているケース66の内部から突出したトラニオン軸97にカムプレート99を固定し、このカムプレート99の周縁カム部にばね筒101によって付勢されたローラ100を押し付けて、カムプレート99の周縁カム部の凹部99aにローラ100が落ち込むと,トラニオン軸97が中立位置に戻るようにしている。図6に示している状態が中立状態である。
【0033】
長孔104aを有するガイドプレート104は、ミッションケース23を構成する前ケース19に固定して設けられている。そして、前ケース19の外部へ貫通したシフト軸102の下側にリンク(プレート)105を固定され、このリンク105には連結ピン114が立設して受けられている。さらに、連結ピン114はガイドプレート104の長孔104aに挿入されていて、長孔104aに沿って動く構成としている。連結ピン114にはリンク(ロッド)103が連結して設けられており、このリンク103は前記カムプレート99に連結している。したがって、シフト軸102を回動すると連結ピン114が長孔104aに沿って移動し、リンク(ロッド)103、カムプレート99を介してトラニオン軸97が回動して変速を行えるようにしている。
【0034】
ガイドプレート104上にはリンク103を受けて戴置している状態なので、滑らかに動くようリンク104の下側を下方へ折り曲げて折曲部104bを構成している。この中立保持機構98は、前ケース19の上側を開口して点検・修理を行うが、ミッションケース23の上側のため、内部のオイルを抜くことなく作業が行えるので、メンテナンスが容易である。
【0035】
シフト軸102の前ケース19から上方へ突出した部分では、前ケース19の側面にブラケット115で取り付けた油圧シリンダ36のロッド110先端とシフト軸102に固着のアーム113を、リンク111、リンク111a、ロッド112で連結している。リンク111とリンク111aは、支点111bを支点として回動し、リンク111aの回動の動きを受けてロッド112が動く構成である。したがって、油圧シリンダ36の作動でシフト軸102が回動し、軸102の回動を受けてトラニオン軸97が回動してHST27を変速する構成である。
【0036】
シフト軸102の回動角度、即ち、トラニオン軸97の回動角を検出するシフト角センサ106をアーム113とロッド112の連結ピン117に係合させている。シフト角センサ106は、シフト軸取付プレート107に取り付けてシフト軸関連部品のサブ組み立て時に組み付けられるようにしている。また、シフト軸取付プレート107にはストッパボルト108,109を設けており、シフト軸102と一緒に回動するプレート102aがストッパボルト108,109に当接することで、シフト軸102の回り過ぎ(オーバーラン)を防ぐようにしている。
【0037】
油圧シリンダ36のロッド110側において、ロッド110の先端には該ロッド110と前記リンク111とを連結するピン110aを設けているが、ロッド110の動き過ぎを規制するストッパ118を設けたブラケット116を前ケース19の側面に取り付けている。そして、前記ピン110aがストッパ118に当接することでロッド110の動き過ぎを規制する。また、図4に示す118aは、ロッド110の縮小側のストッパである。ブラケット115は油圧シリンダ36を前ケース19の壁面へ近づけるために、ブラケット115のシリンダ位置においては凹部を形成して凹ませる構成である。
【0038】
次に、油圧シリンダ36の動作を制御する制御装置96を説明する。
油圧シリンダ36を制御する制御装置96には、図10に示す信号情報が入力し、油圧制御バルブの増速ソレノイド123と減速ソレノイド124へ制御信号が出力する。その入力信号は、前後進レバー6の基部に設けた前後進スイッチ119からの前進或いは後進信号、前記主変速レバー11の変速センサ95からの変速位置信号、前記シフト角センサ106からのトラニオン軸97の回動角信号、クラッチペダル9の踏込みを検出するクラッチペダルスイッチ120からの踏込み信号、エンジン回転数制御スイッチ121のオン・オフ信号、副変速レバー12の副変速検出スイッチ122からの副変速位置信号、ブレーキペダル10a,10bのブレーキペダルセンサ125からのブレーキ踏込み信号,ブレーキ連結スイッチ125aからのオン・オフ信号、ブレーキロックスイッチ125bからのオン・オフ信号である。
【0039】
この制御装置96による走行速度制御は、次の如く行っている。
まず、エンジン回転数制御スイッチ121は、旋回走行時の急旋回を防ぐため、このスイッチ121をオンすることで高速直進から旋回に移った場合に旋回速度を安全な速度まで自動的に低下させるが、エンジン24の回転を低下させるのではなく油圧シリンダ36を作動させてトラニオン軸97を速度低下側へ回動するのである。このようにエンジン回転数を一定に保ったままで速度変更が行えることで、他の制御用油圧ポンプの作動圧を低下させることが無いので、トラクタの能力を低下させない。この機能は高速走行時の安全を図れるが、低速で耕耘等の作業を行っている時には、副変速位置スイッチ122が低速になっている条件で旋回速度を逆に速くする制御を行う。これによって作業を効率的に行える。また、この旋回速度を速める制御は別に旋回時高速のスイッチを設けてこのスイッチのオン信号で行うようにしても良い。
【0040】
油圧シリンダ36は、主として前後進レバー6の位置と主変速レバー11の変速位置を目標速度として変速センサ95でその位置を検出して増速ソレノイド123或いは減速ソレノイド124を作動し油圧シリンダ36を作動して、トラニオン軸97を目標速度になるように回動する。
【0041】
このとき、トラニオン軸97が回動するが、このトラニオン軸97の回動の動きは、リンク機構Rの途中に設けているシフト角センサ106で検出を行い、制御装置96はシフト角センサ106からの信号を受信することで、トラニオン軸97の回動量が目標位置になるようにフィードバックしている。即ち、主変速レバー11の動きを検出する変速センサ95は、あくまでも主変速レバー11の位置を制御装置96に送信するのみであり、実際のトラニオン軸97の位置の確認は、シフト角センサ106で行う。
【0042】
そして、現在の速度が変速目標速度とかけ離れている場合(例えば、二速から八速まで増速する場合)には、最初には早く作動して速度を目標速度に近づけ、目標速度の近くになると速度増加率を低くして変速ショックが少なく素早い目標速度への変速が行えるようにしている。
【0043】
また、副変速レバー12を高速から低速に切換えた際に現在の速度が副変速レバー12が設定する低速範囲を超えている場合には、主変速レバー11を増速側にしても逆に低速範囲まで低下するような制御も行う。
【0044】
また、副変速レバー12の位置によって油圧シリンダ36の速度を変えて、例えば、副変速が高速では油圧シリンダ36の作動速度を遅くして変速をゆっくり行い、副変速が低速では油圧シリンダ36の作動速度を速くして変速を速やかに行うようにして変速ショックが少ない状態で変速を素早く行えるようにする。
【0045】
また、高速走行時にクラッチペダル9を踏んで速度が低下した後のクラッチペダル9の踏込み中止による再接続の際に、トラニオン軸97の変速位置を主変速レバー11の目標速度より低下させ、徐々にトラニオン軸97の回動角度を目標速度へ復帰させることでメインクラッチ34の再接続による急増速を防いでいる。
【0046】
また、制御装置96は、後進走行における高・中・低の副変速の速度は、前進走行の約90%にするのが一般的であるが、例えば、副変速が低速時の後進速度を前進速度と同じにしたり、副変速が高速時の後進速度を前進速度の80%にしたりするなど適宜に変速割合を変更出来る制御にしても良い。
【0047】
本発明の中立制御手段NTは、制御装置96による油圧シリンダ36の動作制御である。その制御は、図8に示すフローチャートの如き制御である。
ステップS1で前後進スイッチ119と変速センサ95と副変速スイッチ122等の各データ信号を読込み、ステップS2で主変速レバー11や前後進レバー6の変速操作具Aが中立へ操作されたか、の判定を行い、この判定が「NO」であれば、ステップS8の変速位置に応じたシフト角になるように油圧シリンダ36を作動させ、「YES」であれば、ステップS3でトラニオン軸97を中立方向へ回動するように油圧シリンダ36を作動させる。
【0048】
そして、ステップS4でシフト角が中立よりα角だけ行き過ぎたとの判定に成るまで油圧シリンダ36を作動させ、「YES」となれば、ステップS5でシフト角が中立に戻るように油圧シリンダ36を逆方向へ作動する。その後、ステップS6でシフト角が中立になったことを判定すると、ステップS7で油圧シリンダ36を停止させて中立位置調整が終了する。
【0049】
このような中立位置調整の他に、シフト角が中立となったと判断する中立角度を中立に戻す動作の所定時間だけ零角度或いは略零角度にして中立付近で前進側と後進側へ振れるハンチングを起こさせて、その後中立角度を幅のある許容角度にすることでハンチングを収めるようにすることも前記実施例と同様な効果が考えられる。この際に、ハンチングの範囲は機体が前後進しない範囲に収める必要がある。なお、油圧シリンダ36としてロッドが片側にあるタイプを使用する場合には、伸び縮みの移動量を同じにするためにロッド側の油圧流量を少なくする。
【0050】
さらに、制御装置96は、エンジン24の始動時にトラニオン軸97が中立になっていなく副変速が中立になっていなければ、エンジン24を始動できなくしてブザーやランプで警報を鳴らすよう制御している。なお、エンジン24を始動できなくする代わりにブレーキを作用させて機体が動かないようにすることも出来る。
【0051】
制御装置96は、前記の中立位置調整機能の他に、ブレーキペダルセンサ125からブレーキ作用信号がある場合には前後進レバー6を前進或いは後進にするか主変速レバー11を走行変速にしてもトラニオン軸97を中立にして、HST27が変速出力をしないようにしている。
【0052】
図9、10は、左右の後輪5,5をそれぞれ制動する左右ブレーキペダル10a,10bを設け、路上走行時には左右ブレーキペダル10a,10bを一体に連結して使用し、駐車時に連結した左右ブレーキペダル10a,10bを踏込み状態に保持する実施例における制御のフローチャート図である。左右ブレーキペダル10a,10bを連結したことを検出するブレーキ連結スイッチ125aと左右ブレーキペダル10a,10bを踏込み状態に保持したことを検出するブレーキロックスイッチ125bを設けている。
【0053】
図9の制御では、ステップS10で各センサとスイッチ類の読込みを行い、ステップS11でブレーキ連結状態判定を行い、「YES」であれば次にステップS12のブレーキロック状態であるかの判定を行い、これも「YES」であれば、ステップS13でトラニオン軸を中立にする。
【0054】
図10の制御では、ステップS20で各センサとスイッチ類の読込みを行い、ステップS21でブレーキ連結状態判定を行い、「YES」であれば次にステップS22のブレーキペダルを踏込み中かの判定を行い、これも「YES」であれば、ステップS23でトラニオン軸を中立にする。
【0055】
図11は、油圧駆動車両全体の油圧回路図で、作業機の制御と走行の制御に使うメインポンプ140とHST27とパワーステアリング144の作動圧を送るサブポンプ143を有し、前記トラニオン軸97を回動する油圧ポンプ36の制御油圧は、メインポンプ140からリリーフ弁141を通ってそのトラニオン弁142へ供給しているので、圧油の作動圧が安定している。
【0056】
サブポンプ143からの圧油は、パワーステアリング144へ供給された後に、リリー弁145とオイルクーラ146を通って、HST27へ供給している。HST27では、前記の如く油圧ポンプ29と油圧モータ31へ油圧が供給されている。
【0057】
メインポンプ140からの圧油は、メインリリーフ弁151で油圧を調整して走行バルブ147を通して走行クラッチ34を制御すると共に、ブレーキバルブ148を通して左右のブレーキシリンダ149,150を制御し、さらに、分流した圧油が作業機関係の制御へ送られている。
【0058】
その作業機関係の圧油は、分流バルブ152で水平シリンダ154とメイン昇降シリンダ157へ送られている。水平シリンダ154は水平バルブ153で制御され、メイン昇降シリンダ157は電子油圧バルブ155とスローリターン用チェックバルブ156で制御され、圧油がセーフティリリーフバルブ158を通ってミッションケース23内へ戻される。
【0059】
図12は、HST27の改良油圧回路で、油圧ポンプ29と油圧モータ31を正転回路128と逆転回路129で連結し、それぞれの回路128,129に油圧モータ31を回転させない一次中立バルブ131,132を設け、さらに、両回路128,129に通じる二次中立バルブ133を連結している。一次中立バルブ131,132は油圧ポンプ29の圧力が弱い中立近辺でオイルをタンクへ戻して油圧モータ31が回転しないようにして中立域を確保するのであるが、さらに正転回路128の油圧でパイロットされた二次中立バルブ133を設けることで、無駄にタンクへ戻すオイルを少なくして中立域を広げることが出来る。なお、一次中立バルブ131,132と二次中立バルブ133の作動圧を異ならせることで、急速な増速時の変速ショックを低減できる。
【0060】
126は低圧リリーフバルブ、130は高圧リリーフバルブ、127はチェックバルブである。
図13は、HST27の改良油圧回路の別実施例で、二次中立バルブ133が無く、一次中立バルブ131,132を可変絞り切換弁160,161としている。可変絞り切換弁160,161のスプリング側に低圧リリーフバルブ126のチャージ圧をパイロット路62,163で与える。この回路で中立の確保が容易になり、前後進切換時のショックが少なくなる。165は油圧ポンプ29の中立を保持する中立切換弁で、正転回路128と逆転回路129に連結して中立時に両回路128,129の差圧オイルをミッションケース23内へ戻すようになる。図17、18は中立切換弁165で、正転回路128のオイルがチャージ油路166を通ってバルブプレート167を僅かに浮き上がらせてオイルをミッションケース23内へ戻す。
【0061】
図14はHST27の断面図で、図15はその一部の拡大図である。前記二次中立バルブ133は、油圧モータ31のポート134,135の間に設けて収まりが良く、スリーブ139、パイロットスプール136、スプリング138、スプリング受137で構成されている。
【0062】
図16は、トラニオン弁142と油圧シリンダ36の間に電磁バルブ159を設けた油圧回路で、主変速レバー11を前記の中立調整をしたにもかかわらず停止しない場合には各センサ類或いは油圧機器等の故障が考えられるので、この電磁バルブ159を制御装置96で作動させて油圧シリンダ36の前進側と後進側のオイルをミッションケース23へ戻して、トラニオン軸97が中立になるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】油圧駆動車両(トラクタ)の平面図である。
【図2】油圧駆動車両(トラクタ)の側面図である。
【図3】ミッションケース内の動力伝動線図である。
【図4】一部の拡大側面図である。
【図5】一部の拡大側面図である。
【図6】ミッションケース内の一部拡大平面図である。
【図7】制御ブロック図である。
【図8】中立調整の制御フローチャート図である。
【図9】ブレーキ作用時の中立保持制御フローチャート図である。
【図10】ブレーキ作用時の中立保持制御フローチャート図である。
【図11】全体の油圧回路図である。
【図12】HSTの油圧回路図である。
【図13】別実施例のHST油圧回路図である。
【図14】HSTの断面図である。
【図15】HSTの一部拡大断面図である。
【図16】一部の油圧回路図である。
【図17】油圧ポンプの断面図である。
【図18】チャージ油路部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0064】
A 変速操作具(主変速レバー11、前後進レバー6)
27 油圧無段変速装置
36 油圧シリンダ(アクチュエータ)
97 トラニオン軸
106 シフト角センサ
NT 中立制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニオン軸(97)を回動し前進位置・中立位置・後進位置に設定するシフト範囲を切り替える油圧無段変速装置(27)を備え、該トラニオン軸(97)は変速操作具(A)の操作に油圧シリンダ(36)等のアクチュエータに連係させた油圧駆動車両の変速操作装置において、該トラニオン軸(97)の変速位置を検出するシフト角センサ(106)を設け、このシフト角センサ(106)の検出情報を入力し、変速操作具(A)を前進位置又は後進位置から中立位置へ操作した際、前記アクチュエータにトラニオン軸(97)が中立位置を越えて後進位置又は前進位置の適宜の角度まで行き過ぎて再び中立位置へ戻す動作をさせる中立制御手段(NT)を設けたことを特徴とする油圧駆動車両の変速操作装置。
【請求項2】
中立制御手段(NT)のトラニオン軸(97)を中立位置を越えて反対側まで行き過ぎさせる角度は機体が逆走を開始しない角度以内としたことを特徴とする請求項1に記載の油圧駆動車両の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−273249(P2008−273249A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115799(P2007−115799)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】