説明

油性固形化粧料の製造方法及び油性固形化粧料

【課題】 落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を得ることを可能とする油性固形化粧料の製造方法、及び、それにより得られる油性固形化粧料を提供することを提供すること。
【解決手段】 本発明の油性固形化粧料の製造方法は、(A)デキストリン脂肪酸エステルを3〜20質量%、(B)不揮発性油分を25〜55質量%及び(C)粉体を40〜70質量%含有し、且つ、粉体として平均粒径15〜30μmの球状粉体を10〜70質量%含有し、(D)揮発性油分が5質量%以下である化粧料組成物を、加熱により溶融した状態で所定の容器に充填し、冷却固化する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性固形化粧料の製造方法及びそれにより得られる油性固形化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
アイシャドウ、チークカラー、ファンデーション等のメーキャップ化粧料には、着色顔料やパール顔料などの粉体成分とワックスなどの油性成分とが配合された油性固形化粧料が汎用されている。このような化粧料は、一般に、携帯可能な容器に充填されており、使用時には指や塗布具により肌に塗布される。
【0003】
上記の化粧料には、指や塗布具で容易に取れる移行性を有していることの他に、運搬時の衝撃や使用時に落とされるなどの衝撃を受けた場合に、容器内での片寄りやヒビなどの損傷が発生しにくい強度が求められている。
【0004】
これまでにも、化粧料の配合成分や製造プロセスの検討により、化粧料の移行性と強度とを両立させる試みがなされている。例えば、下記特許文献1には、粉体とデキストリン脂肪酸エステル及び液状炭化水素油とを配合した化粧料基材に溶剤を加えた化粧料組成物を、容器に充填し、その後溶剤を除去することにより固形粉末化粧料を得る方法が開示されている。
【0005】
一方、粉体成分及び油性成分が配合される油性固形化粧料は、その使用感として、肌への塗布時にべたつきが少なく十分なパウダリー感が得られることが望まれている。
【0006】
塗布後の油残り感を低減する技術として、例えば、下記特許文献2には、特定量の揮発性油分を、デキストリン脂肪酸エステル、特定の屈折率を有する油分及び球状粉体とともに配合した透明固形組成物を用いて透明固形化粧料を得る方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−277366号公報
【特許文献2】特開2005−213145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られる固形粉末化粧料は、十分な落下強度を有するものではなかった。
【0009】
一方、特許文献2に記載の方法によれば、揮発性油分の配合量の増加によって油残り感を減少させることができるものの、その場合、化粧料が柔らかくなりすぎて、十分な落下強度が得られず、さらには塗布具などへの取れ(移行性)も不十分となる。
【0010】
上記特許文献1及び2に記載の方法をはじめとする従来の技術では、十分なパウダリー感が得られる油性固形化粧料を、移行性及び落下強度を両立しつつ実現することは、困難であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を得ることを可能とする油性固形化粧料の製造方法、及び、それにより得られる油性固形化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の油性固形化粧料の製造方法は、(A)デキストリン脂肪酸エステルを3〜20質量%、(B)不揮発性油分を25〜55質量%及び(C)粉体を40〜70質量%含有し、且つ、粉体として平均粒径15〜30μmの球状粉体を10〜70質量%含有し、(D)揮発性油分が5質量%以下である化粧料組成物を、加熱により溶融した状態で所定の容器に充填し、冷却固化する工程を備える。なお、各成分の含有量は化粧料組成物全量基準である。
【0013】
本発明の油性固形化粧料の製造方法によれば、上記工程を有することにより、落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を得ることができる。
【0014】
本発明の油性固形化粧料の製造方法において、上記球状粉体が有機球状粉体であることが好ましい。この場合、化粧料の発汗が抑えられ、更に良好なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を容易に得ることが可能となる。
【0015】
また、上記化粧料組成物が平均粒径35μm〜300μmの板状粉体を5〜60質量%含むことが好ましい。この場合、塗布具への取れを更に向上させることができる。
【0016】
本発明はまた、上記本発明の油性固形化粧料の製造方法によって得られる油性固形化粧料を提供する。本発明の油性固形化粧料によれば、落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を得ることを可能とする油性固形化粧料の製造方法、及び、それにより得られる油性固形化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の油性固形化粧料の製造方法及び油性固形化粧料について詳細に説明する。
【0019】
本発明の油性固形化粧料の製造方法は、(A)デキストリン脂肪酸エステルを3〜20質量%、(B)不揮発性油分を25〜55質量%及び(C)粉体を40〜70質量%含有し、且つ、粉体として平均粒径15〜30μmの球状粉体を10〜70質量%含有し、(D)揮発性油分が5質量%以下である化粧料組成物を、加熱により溶融した状態で所定の容器に充填し、冷却固化する工程を備える。なお、各成分の含有量は化粧料組成物全量基準である。
【0020】
(A)デキストリン脂肪酸エステルとしては、炭素数8〜24、好ましくは炭素数14〜18の直鎖または分岐型の飽和または不飽和脂肪酸と、平均重合度10〜50、好ましくは平均重合度20〜30のデキストリンとのエステル化合物であり油溶性のものが挙げられる。具体的には、パルミチン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、ベヘン酸デキストリン、ヤシ油脂肪酸デキストリン、ラウリン酸デキストリン等が挙げられる。これらは、一種を単独で又は二種以上を併用して化粧料組成物に含有させることができる。また、デキストリン脂肪酸エステルとしては、市販品である「レオパールKL」、「レオパールTL」、「レオパールTT」(以上、千葉製粉社製、商品名)等を用いることができる。
【0021】
化粧料組成物におけるデキストリン脂肪酸エステルの含有量は、3〜20質量%であることが必要である。デキストリン脂肪酸エステルの含有量が、3質量%未満であると、得られる油性固形化粧料の強度、移行性及びパウダリー感を十分なものとすることが困難になり、20質量%を超えると、得られる油性固形化粧料の移行性及びパウダリー感を十分なものとすることが困難になる。本発明においては、塗布具などへの取れ、パウダリー感及び落下強度の点で、化粧料組成物におけるデキストリン脂肪酸エステルの含有量が5〜15質量%であることが好ましい。
【0022】
(B)不揮発性油分としては、常圧における沸点が250℃を越える油分が用いられる。本発明において好適に用いられる不揮発性油分としては、皮膚安全性の高いものであればいずれも使用可能である。例えば、流動パラフィン、スクワラン、ポリブテン等の炭化水素、ヒマシ油、オリーブ油、ホホバ油、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸エチルヘキシル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ラノリン、グリセリルジイソステアレート、トリメチロールプロパントリ2エチルイソステアレート、イソプロピルミリステート、セチル2エチルヘキサノエート、グリセリルトリイソステアレート、2ヘプチルウンデシルパルミテート、トリイソステアリン酸グリセリン、ジイソステアリルマレート、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル等のエステル油、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等の不揮発性シリコーン油、セレシンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等のワックス類が挙げられる。これらは、一種を単独で又は二種以上を併用して化粧料組成物に含有させることができる。
【0023】
加熱による化粧料組成物の充填性、得られる油性固形化粧料の落下強度、塗布具などへの取れ及びパウダリー感を良好にする観点から、不揮発性油分は、25℃での粘度が、100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましい。なお、不揮発性油分を2種以上配合した場合は、それらを混合した油分の25℃での粘度が上記の範囲であることが好ましい。
【0024】
化粧料組成物における不揮発性油分の含有量は、25〜55質量%であることが必要である。不揮発性油分の含有量が、25質量%未満であると、加熱による化粧料組成物の充填が困難になり、55質量%を超えると、得られる油性固形化粧料の落下強度、塗布具などへの取れ及びパウダリー感を十分なものとすることが困難になる。本発明においては、塗布時のパウダリー感の点で、化粧料組成物における不揮発性油分の含有量が25〜45質量%であることが好ましい。
【0025】
(C)粉体としては、油性固形化粧料の用途に応じて、球状粉体、板状粉体、その他粉体を適宜選択し用いることができる。球状粉体は、無機球状粉体、有機球状粉体のいずれも用いることができる。無機球状粉体としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム等が挙げられる。有機球状粉体としては、例えば、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、オルガノポリシロキサンエラストマー、メチルシロキサン網状重合体、ウレタン樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、塩化ビニリデン−メタクリル酸共重合体、架橋ポリアクリル酸エステル、ポリエチレン、シルク、セルロース等が挙げられる。球状粉体は、上記の粉体の2種以上を複合化して球状にしたものでもあってもよい。また、球状粉体は、無孔質であっても多孔質であってもよい。上記の球状粉体は、一種を単独で又は二種以上を併用して化粧料組成物に含有させることができる。
【0026】
板状粉体としては、例えば、タルク、窒化硼素、セリサイト、天然マイカ、焼成マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、板状アルミナ、板状硫酸バリウム、板状無水ケイ酸、板状酸化チタン、板状酸化亜鉛、板状PMMA、ケイフッ化カリウム焼成物、アルミニウムパウダー、ヘキ開タルク、カオリン、ベントナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ラウロイルリジン、ラウロイルタウリンカルシウム、長鎖アルキルリン酸金属塩粉末、金属石鹸粉末、PTFEパウダー等が挙げられる。これら以外の板状粉体として、さらに、雲母チタン、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆シリカフレーク、酸化チタン被覆アルミナフレーク、酸化チタン・酸化スズ被覆アルミナフレーク、シリカ被覆カッパーフレーク、シリカ被覆ブロンズフレーク、酸化鉄被覆雲母、酸化アルミニウム被覆雲母、酸化亜鉛被覆雲母チタン、酸化亜鉛被覆タルク、酸化鉄被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、有機色素被覆雲母チタン、酸化チタン被覆合成雲母、タルクチタン、球状パール、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔、魚鱗箔ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末のラメ剤等が挙げられる。
【0027】
その他粉体としては、例えば、バーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、ベントナイト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム(焼石膏)、リン酸カルシウム、フッ素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、二酸化チタン、酸化亜鉛などの無機粉末、ポリアミド樹脂粉末、ナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリプロピレン粉末、ポリエステル粉末、ポリメタクリル酸メチル粉末、ポリスチレン粉末、スチレンとアクリル酸の共重合体樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ四弗化エチレン粉末、セルロース粉末などの有機粉末、ベンガラ、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化クロム、群青、紺青、カーボンブラック等の無機着色顔料、赤色104号アルミニウムレーキ、赤色102号アルミニウムレーキ、赤色226号、赤色201号、赤色202号、青色1号アルミニウムレーキ、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、黄色203号バリウムレーキ等の色素およびレーキ色素等が挙げられる。
【0028】
化粧料組成物における粉体の含有量は、40〜70質量%であることが必要である。粉体の含有量が、40質量%未満であると、得られる油性固形化粧料の落下強度、塗布具などへの取れ及びパウダリー感を十分なものとすることが困難になり、70質量%を超えると、加熱による化粧料組成物の充填が困難になる。本発明においては、塗布具などへの取れの点で、化粧料組成物における粉体の含有量が45〜65質量%であることが好ましい。
【0029】
また、本発明においては、塗布具などへの取れ及びパウダリー感を十分なものにするために、化粧料組成物が(C)粉体として平均粒径15〜30μmの球状粉体を10〜70質量%含有することが必要である。
【0030】
また、本発明においては、上記球状粉体が有機球状粉体であることが好ましい。この場合、化粧料の発汗を抑えられ、更に良好なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を容易に得ることが可能となる。有機球状粉体としては、上述したものを用いることができるが、それらのうち、ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸メチル、ナイロン、メチルシロキサン網状重合体、ウレタン樹脂等の有機球状粉体が安定性の点で好ましい。
【0031】
更に、塗布具などへの取れ、及びパウダリー感の点で、化粧料組成物が(C)粉体として平均粒径35μm〜300μmの板状粉体を5〜60質量%含むことが好ましい。
【0032】
本発明において、化粧料組成物は(D)揮発性油分が5質量%以下であることが必要である。ここでいう揮発性油分とは、常圧における沸点が250℃以下の揮発性油分であり、例えば、イソパラフィン(約225℃)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(175℃)、デカメチルシクロペンタシロキサン(210℃)、ドデカメチルシクロペンタシロキサン(245℃)等のシクロメチコン、沸点が250℃以下の低分子量ジメチコンおよびこれら誘導体等が挙げられる。
【0033】
化粧料組成物における(D)揮発性油分が5質量%を超えると、化粧料組成物の溶融物を容器に充填し冷却固化する方法によって、落下強度及び塗布具などへの取れの双方に優れるとともに肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる油性固形化粧料を得ることが困難となる。化粧料組成物における(D)揮発性油分は、1質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、化粧料組成物が、常圧における沸点が250℃以下である揮発性油分を含まないことが特に好ましい。この場合、上記化粧料組成物が上記の揮発性油分を含む場合に比べて、更に高水準の落下強度を有する油性固形化粧料を得ることが容易となる。
【0035】
化粧料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記以外の成分を配合することができる。例えば、化粧料で通常使用される防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、薬剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合できる。
【0036】
本発明に係る化粧料組成物は、例えば、上記の各成分、及び必要に応じてその他成分を、温度70〜110℃で混合することにより調製することができる。混合は、例えば、ディスパー、ホモミキサー、3本ロール等を用いて行うことができる。また、アトマイザー等で粉砕した粉体を、油分に分散させることによっても調製することができる。
【0037】
本発明においては、上記の化粧料組成物を、加熱により溶融した状態で所定の容器に充填するが、このときの加熱は、固形油分、デキストリン脂肪酸エステルなどのゲル化剤が融解して、化粧料組成物が充填可能な流動性を示すものであればよい。なお、溶融した状態の化粧料組成物は、化粧料組成物の各成分を混合した後にこれを加熱することにより準備してもよく、加熱しながら化粧料組成物の各成分を混合することにより準備してもよい。
【0038】
化粧料組成物を充填する所定の容器としては、例えば、金皿、樹脂皿などの中皿が挙げられる。これらの中皿は、油性固形化粧料が形成された後にそのままコンパクト容器に装着することが可能である。また、コンパクト容器、ジャー容器に直接充填することも可能である。
【0039】
所定の容器に充填した後の化粧料組成物の冷却固化は、空冷、水冷などによって行うことができる。これにより、容器内に油性固形化粧料が得られる。
【0040】
本発明の油性固形化粧料の製造方法は、冷却固化した化粧料組成物を圧縮成型する工程を更に備えていてもよい。
【0041】
このときの圧縮成型は、例えば、圧力1kgf/cm〜10kgf/cm、10℃〜50℃の条件で行うことができる。
【0042】
本発明の油性固形化粧料の製造方法は、上述した実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、容器に充填された化粧料組成物を、圧縮成型しながら冷却固化し、油性固形化粧料を製造することもできる。
【0043】
本発明の油性固形化粧料は、上述した本発明の油性固形化粧料の製造方法によって得られるものであり、落下強度及び塗布具などへの取れ(移行性)の双方に優れるとともに、肌に塗布したときに十分なパウダリー感を与えることができる。
【0044】
本発明の油性固形化粧料が奏する上記の効果は、上記特定の組成の化粧料組成物を用い、これを加熱溶融した状態で容器に充填し、冷却固化することで、空気の巻き込みや空隙の発生が十分に抑制され、落下強度に優れた化粧料が他の特性を損なうことなく形成されたことによるものと本発明者らは考えている。
【0045】
本発明の油性固形化粧料は、アイシャドウ、チークカラー、ファンデーション、フェースパウダー、化粧下地などの化粧料として好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1〜13及び比較例1〜22)
表1〜3に示す組成の化粧料組成物を調製し、下記製造方法により、アイシャドウのサンプルを作製した。得られたサンプルについて、塗布具への取れ(移行性)、塗布時のパウダリー感、落下強度の各項目について、以下に示す試験方法及び判定基準により評価判定した。また、各化粧料組成物の加熱時における流動性についても評価した。これらの結果を表1〜3に示す。なお、表中の各成分の単位は、特にことわりがない限り、化粧料組成物全量基準での質量%である。
【0048】
【表1】



【0049】
【表2】



【0050】
【表3】



【0051】
<アイシャドウの製造方法(実施例1〜13及び比較例1〜10、12〜22)>
成分(A)〜(D)を表1〜3に示す割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、アイシャドウのサンプルを作製した。
【0052】
<アイシャドウの製造方法(比較例11)>
成分(A)〜(D)を表2に示す割合で、ディスパーを用いて混合した混合物に、更に溶剤としてIPソルベント1620MUを混合物100質量部に対して30質量部の割合で混合し、化粧料組成物を得た。この化粧料組成物を金皿に充填し、温度70℃で5時間加熱して溶剤であるIPソルベント1620MUを除去した。こうして、油性固形化粧料を形成し、アイシャドウのサンプルを作製した。
【0053】
なお、表1〜3に示される各成分は、下記に示すものを使用した。
パルミチン酸デキストリン:「レオパールKL2」(千葉製粉(株)製、商品名)。
(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン:「レオパールTT2」(千葉製粉(株)製、商品名)。
パルミチン酸エチルヘキシル:「サラコスP−8」(日清オイリオグループ(株)製、商品名)。
環状シリコーン:「TSF405」(GE東芝シリコーン社製、商品名、沸点185℃)。
軽質イソパラフィン:「IPソルベント1620MU」(出光興産(株)製、商品名、沸点166℃)。
メタクリル酸メチルクロスポリマー*A:「マツモトマイクロスフェアーM503B」(松本油脂(株)製、商品名、平均粒径20μmの球状粉体)。
メタクリル酸メチルクロスポリマー*B:「テクポリマーMBX−8C」(積水化成品工業(株)製、商品名、平均粒径8μmの球状粉体)。
マイカ:「マイカ2000」(脇田砿業(株)製、商品名、平均粒径27.5μmの板状粉体)。
合成金雲母:「PDM−40L」(トピー工業社製、商品名、平均粒径40μmの板状粉体)。
【0054】
<油性固形化粧料の評価方法>
[塗布具への取れ(移行性)]
実施例1〜13及び比較例1〜22のアイシャドウのサンプルについて、アイシャドウ用の塗布具(チップ)を用いて金皿に形成された油性固形化粧料を取り、そのときの化粧料の塗布具への取れを以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:非常に良く取れる。
○:良く取れる。
△:取れにくい。
×1:油性固形化粧料が固すぎて取れない。
×2:油性固形化粧料が柔らかすぎて崩れてしまう。
【0055】
[落下強度]
実施例1〜13及び比較例1〜22のアイシャドウのサンプルについて、金皿に油性固形化粧料が形成された状態のサンプルを、化粧料が露出する面を上向きにして70cmの高さからタイル上に水平落下させた。落下後のサンプルについて、化粧料を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいてサンプルの落下強度を評価した。
◎:落下を10回繰返しても、化粧料に変化が見られない。
○:落下を5回〜10回繰返したときに、化粧料に若干の寄りが見られる。
△:落下を5回〜10回繰返したときに、化粧料に著しい寄り又は化粧料にヒビが見られる。
×:落下を1回〜4回繰返したときに、化粧料に著しい寄り又は化粧料にヒビが見られる。
【0056】
[塗布時のパウダリー感]
化粧品評価専用パネル10名に、サンプルを実際に使用してもらい、「塗布時のパウダリー感」について各自で以下の評価基準に基づいて評点を付してもらった。得られた各パネルの評点を平均し、この平均点と以下の判定基準とに基づいてサンプルの「塗布時のパウダリー感」をそれぞれ4段階で判定した。
【0057】
[評価基準]
評点:表面状態
4 :非常に良好
3 :良好
2 :少しべたつく
1 :かなりべたつく
【0058】
[判定基準]
◎:平均点が3.5点以上。
○:平均点が3.0点以上3.5未満。
△:平均点が2.0点以上3.0未満。
×:平均点が2.0未満。
【0059】
<化粧料組成物の加熱時の流動性>
90℃に加熱した化粧料組成物について、目視により流動性を確認した。60°に傾けたときに組成物が移動する場合を流動性が十分にあると判断し、「○」で示した。60°に傾けても組成物が移動しない場合は、流動性が不十分或いはないと判断し、「×」で示した。
【0060】
表1に示すように、実施例1〜13で調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、得られた油性固形化粧料(アイシャドウ)は、十分な落下強度を有しているとともに、塗布具への取れ、塗布時のパウダリー感にも十分優れていることが分かった。
【0061】
以下、さらに本発明の油性固形化粧料の実施例を示す。なお、実施例14〜18に示される各成分は、下記に示すものを使用した。
パルミチン酸デキストリン*A:「レオパールKL2」(千葉製粉(株)製、商品名)。
パルミチン酸デキストリン*B:「レオパールTL2」(千葉製粉(株)製、商品名)。
(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン:「レオパールTT2」(千葉製粉(株)製、商品名)。
パルミチン酸エチルヘキシル:「サラコスP−8」(日清オイリオグループ(株)製、商品名)。
イソノナン酸イソトリデシル:「サラコス913」(日清オイリオグループ(株)製、商品名)。
フェニルトリメチコン:「KF56A」(信越化学工業社製、商品名)。
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル:「エスカロール557(k)」(アイエスピージャパン社製、商品名)。
オレフィンオリゴマー:「ノムコートHP−30」(日清オイリオグループ(株)製、商品名、沸点350℃以上)。
ホホバ油:「精製ホホバ油」(香栄興業社製、商品名)。
メタクリル酸メチルクロスポリマー*A:「マツモトマイクロスフェアーM503B」(松本油脂(株)製、商品名、平均粒径20μmの球状粉体)。
メタクリル酸メチルクロスポリマー*B:「テクポリマーMBX−8C」(積水化成品工業(株)製、商品名、平均粒径8μmの球状粉体)。
メタクリル酸メチルクロスポリマー*C:「テクポリマーMBP−8C」(積水化成品工業(株)製、商品名、平均粒径8μmの多孔質球状粉体)。
(ビニルジメチコン/メチコンシルセルキオキサン)クロスポリマー:「KSP−102」(信越化学工業社製、商品名、平均粒径30μmの球状粉体)。
ナイロン:「SP500」(東レ社製、商品名、平均粒径8μmの球状粉体)。
メチルパラベン:「メチルパラベン」(みどり化学社製、商品名)。
プロピルパラベン:「プロピルパラベン」(みどり化学社製、商品名)。
天然ビタミンE:「天然ビタミンE」(タマ生化学社製、商品名)。
マイカ*A:「マイカSA−350」(山口雲母工業所製、商品名、平均粒径42μmの板状粉体)。
マイカ*B:「マイカ2000」(脇田砿業(株)製、商品名、平均粒径27.5μmの板状粉体)。
合成金雲母:「PDM−40L」(トピー工業社製、商品名、平均粒径40μmの板状粉体)。
シリコーン処理セリサイト:「SAセリサイトFSE」(三好化成社製、商品名、平均粒径3.3μm)。
シリコーン処理グンジョウ:「SA群青CB80」(三好化成社製、商品名、平均粒径1.2μm)。
シリコーン処理酸化チタン:「SAチタンCR50」(三好化成社製、商品名、平均粒径0.25μm)。
シリコーン処理雲母チタン:「SAプレステージスパークリングシルバー」(三好化成社製、商品名、平均粒径70μmの板状粉体)。
シリコーン処理黄酸化鉄:「SAイエローLLXLO」(三好化成社製、商品名、針状粉体)。
シリコーン処理ベンガラ:「SAベンガラR516」(三好化成社製、商品名、針状粉体)。
シリコーン処理黒酸化鉄:「SAブラックBL100」(三好化成社製、商品名、平均粒径0.4μm)。
シリコーン処理マイカ:「SAマイカSA−350」(三好化成社製、商品名、平均粒径42μmの板状粉体)。
黄酸化鉄:「イエローLLXLO」(チタン工業社製、商品名、針状粉体)。
赤色226号:大東化成工業社製。
酸化チタン:「チタンCR50」(石原産業、商品名、平均粒径0.25μm)。
雲母チタン:「プレステージダズリングシルバー」(ECKART社製、商品名、平均粒径135μmの板状粉体)。
ベンガラ:「ベンガラR516」(トピー工業社製、商品名、針状粉体)。
【0062】
(実施例14)アイシャドウ
(成分) (配合割合(質量%))
1.パルミチン酸デキストリン*A
2.(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン 3
3.トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 31.9
4.パルミチン酸エチルヘキシル 12
5.メチルパラベン 0.1
6.プロピルパラベン 0.1
7.天然ビタミンE 0.1
8.メタクリル酸メチルクロスポリマー*A 15
9.メタクリル酸メチルクロスポリマー*B
10.メタクリル酸メチルクロスポリマー*C
11.シリコーン処理セリサイト 1.3
12.シリコーン処理グンジョウ 3
13.シリコーン処理酸化チタン 0.5
14.シリコーン処理雲母チタン 20
【0063】
<製法>
成分1〜14を上記の配合割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、アイシャドウのサンプルを作製した。
【0064】
<評価>
得られたアイシャドウのサンプルについて、上記と同様の評価を行ったところ、調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、またサンプルは、「塗布具への取れ(移行性)」、「塗布時のパウダリー感」、「落下強度」のすべてについて「◎」の評価であることが確認された。
【0065】
(実施例15)チーク
(成分) (配合割合(質量%))
1.パルミチン酸デキストリン*A
2.パルミチン酸デキストリン*B
3.イソノナン酸イソトリデシル 44.6
4.メチルパラベン 0.1
5.プロピルパラベン 0.1
6.天然ビタミンE 0.1
7.メタクリル酸メチルクロスポリマー*A 15
8.黄酸化鉄 0.1
9.赤色226号 0.2
10.酸化チタン 1.8
11.マイカ*A 20
12.雲母チタン 10
【0066】
<製法>
成分1〜12を上記の配合割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、チークのサンプルを作製した。
【0067】
<評価>
得られたチークのサンプルについて、上記と同様の評価を行ったところ、調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、またサンプルは、「塗布具への取れ(移行性)」、「塗布時のパウダリー感」、「落下強度」のすべてについて「◎」の評価であることが確認された。
【0068】
(実施例16)半透明フェイスパウダー
(成分) (配合割合(質量%))
1.パルミチン酸デキストリン*A
2.(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン 3
3.フェニルトリメチコン 24.7
4.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 7
5.メチルパラベン 0.1
6.プロピルパラベン 0.1
7.天然ビタミンE 0.1
8.メタクリル酸メチルクロスポリマー*A 40
9.ナイロン 15
10.合成金雲母 5
【0069】
<製法>
成分1〜10を上記の配合割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、半透明フェイスパウダーのサンプルを作製した。
【0070】
<評価>
得られた半透明フェイスパウダーのサンプルについて、上記と同様の評価を行ったところ、調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、またサンプルは、「塗布具への取れ(移行性)」、「塗布時のパウダリー感」、「落下強度」のすべてについて「◎」の評価であることが確認された。
【0071】
(実施例17)ファンデーション
(成分) (配合割合(質量%))
1.パルミチン酸デキストリン*A 10
2.オレフィンオリゴマー 29.7
3.メチルパラベン 0.1
4.プロピルパラベン 0.1
5.天然ビタミンE 0.1
6.(ビニルジメチコン/メチコンシルセルキオキサン)クロスポリマー
40
7.シリコーン処理セリサイト 2.25
8.シリコーン処理酸化チタン 10
9.シリコーン処理黄酸化鉄 2.3
10.シリコーン処理ベンガラ 0.3
11.シリコーン処理黒酸化鉄 0.15
12.シリコーン処理マイカ 5
【0072】
<製法>
成分1〜12を上記の配合割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、半透明フェイスパウダーのサンプルを作製した。
【0073】
<評価>
得られた半透明フェイスパウダーのサンプルについて、上記と同様の評価を行ったところ、調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、またサンプルは、「塗布具への取れ(移行性)」、「塗布時のパウダリー感」、「落下強度」のすべてについて「◎」の評価であることが確認された。
【0074】
(実施例18)化粧下地
(成分) (配合割合(質量%))
1.パルミチン酸デキストリン*A
2.(パルミチン酸/オクタン酸)デキストリン 5
3.ホホバ油 32.7
4.メチルパラベン 0.1
5.プロピルパラベン 0.1
6.天然ビタミンE 0.1
7.(ビニルジメチコン/メチコンシルセルキオキサン)クロスポリマー
20
8.酸化チタン 2
9.黄酸化鉄 0.6
10.ベンガラ 0.1
11.マイカ*B 29.3
12.合成金雲母 5
【0075】
<製法>
成分1〜12を上記の配合割合で、ディスパーを用いて、温度90℃に加熱しながら混合することにより、溶融した状態の化粧料組成物を調製した。続いて、これを金皿に充填した。これを、空冷で冷却して、充填した化粧料組成物を固化することにより油性固形化粧料とし、半透明フェイスパウダーのサンプルを作製した。
【0076】
<評価>
得られた半透明フェイスパウダーのサンプルについて、上記と同様の評価を行ったところ、調製した化粧料組成物は加熱時の流動性(90℃)が十分にあり、またサンプルは、「塗布具への取れ(移行性)」、「塗布時のパウダリー感」、「落下強度」のすべてについて「◎」の評価であることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)デキストリン脂肪酸エステルを3〜20質量%、(B)不揮発性油分を25〜55質量%及び(C)粉体を40〜70質量%含有し、且つ、前記粉体として平均粒径15〜30μmの球状粉体を10〜70質量%含有し、(D)揮発性油分が5質量%以下である化粧料組成物を、加熱により溶融した状態で所定の容器に充填し、冷却固化する工程を備える、油性固形化粧料の製造方法。
【請求項2】
前記球状粉体が有機球状粉体である、請求項1に記載の油性固形化粧料の製造方法。
【請求項3】
前記化粧料組成物が、平均粒径35μm〜300μmの板状粉体を5〜60質量%含む、請求項1又は2に記載の油性固形化粧料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる、油性固形化粧料。


【公開番号】特開2010−70459(P2010−70459A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236482(P2008−236482)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(591147339)株式会社トキワ (141)
【Fターム(参考)】