説明

油水分離材およびその製造方法

【課題】簡便な操作で油水混合物に含まれる油分と水分とを分離でき、高い油水分離性能を有すると共に、耐久性に優れた油水分離材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】油水分離材10は、表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料1が、透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を含み、その表面には、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、およびエーテル基を有する炭化水素基のいずれかを含む膜化合物を用いて形成された親油性の被膜7で被覆されている。この油水分離材10は、基材表面の表面官能基と反応して結合を形成する反応性基を含む膜化合物を溶媒中に分散させた親油化処理液で表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料1を処理して、その表面に親油性の被膜7を形成する方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水分離材とその製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品製造、繊維処理、機械加工、石油精製等の廃液処理、事故等による河川、海洋等への油の流出による油回収作業、燃料油からの水分の除去等において、油水混合液を油と水とに分離する処理が行われている。従来、油水分離処理には、比重分離等の静置分離、遠心分離、吸着分離等の方法が用いられている。しかし、静置分離は多大な時間を要し、遠心分離は大がかりな装置を必要とし、吸着分離は大量の油水混合液の処理に不向きであるという問題がある。
【0003】
そこで、シリコーン油等を用いて撥水処理をした透液性の素材(中空セラミック粒等)を油水分離材として用い、水および油に対する油水分離材表面の親和性の差を利用して、油水混合液中に分散した水滴を粗大化させ、比重差により速やかに分離させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−15164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーン油で表面を撥水処理した従来の油水分離材には、シリコーン油が溶出して油水分離性能が低下すると共に、自然界で分解されにくいシリコーン化合物で環境を汚染するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、簡便な操作で油水混合物に含まれる油分と水分とを分離でき、高い油水分離性能を有すると共に、環境を汚染せず耐久性にも優れた油水分離材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料が、透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を含む油水分離材であって、
炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、およびエーテル基を有する炭化水素基のいずれかと、前記材料の表面官能基と反応して結合を形成する反応基とを含む膜化合物が、前記表面官能基と前記反応性基との反応により形成された結合を介して表面に固定されることにより形成された親油性の被膜で前記材料の表面が被覆されていることを特徴とする油水分離材を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0008】
油水混合物に含まれる水滴は、3次元網目構造表面で捕集されるが、3次元網目構造内部の表面が撥水親油性を有するため、表面に吸着できず、凝集して径が大きくなり油と分離しやすくなる。このようなメカニズムにより、油水混合物を透過させるだけで速やかに油分と水分とを分離できる。また、親油性の被膜が繊維状または微粒子状の材料の表面に結合しているため、被膜が溶出する等して撥水親油性が低下したり、溶出した膜化合物により環境が汚染されたりするのを防止することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、およびエーテル基を有する炭化水素基のいずれかを含む膜化合物を溶媒中に分散させた親油化処理液で、表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料が透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を処理して、繊維状または微粒子状の材料あるいは含浸樹脂材の表面に前記膜化合物を結合させ、親油性の被膜を形成することを特徴とする油水分離材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
この方法により、低コストかつ容易に高性能の油水分離材を得ることができる。
【0010】
本発明の第1および第2の態様において、前記材料が、セルロース繊維およびガラス繊維のいずれか一方または双方を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の第1および第2の態様において、前記透液性基材が抄造体、不織布および織布のいずれかであってもよい。
これらの多孔質の成形体を透液性基材として用いることにより、油水混合物の処理速度を増大させることができると共に、既存の製造設備を用いて所望の形状および大きさの油水分離材を安価かつ容易に得ることができる。
【0012】
本発明の第1および第2の態様において、前記3次元網目構造の内部に、前記透液性機材の透液性が保持されるように樹脂が含浸されていてもよい。また、この場合において、前記樹脂が含浸硬化された熱硬化性樹脂(親油性の被膜を形成する工程の後、加熱硬化されたものであってもよい。)であることが好ましく、前記樹脂が、繊維状または微粒子状の材料の表面に結合していることが更に好ましい。
透水性基材の3次元網目構造の内部に樹脂を含浸させることにより、油水分離材の熱硬化による成形性および機械的強度を増大させることができる。
【0013】
本発明の第2の態様において、前記透液性基材にあらかじめ樹脂を含浸してもよく、あるいは前記親油性の被膜を形成する工程の後、前記透液性基材に樹脂を含浸してもよい。
【0014】
また、上記のように透液性基材に樹脂を含浸する場合において、前記樹脂が熱硬化性樹脂であってもよい。この場合、熱硬化性樹脂の加熱硬化処理は、親油性の被膜の形成の前後いずれであってもよい。
【0015】
本発明の第1および第2の態様において、前記膜化合物が、下記の式(I)〜(VI)のいずれかで表されるアルコキシシラン化合物、式(I)において、メチレン基の一部がジメチルシリル基またはアリーレン基で置換されたアルコキシシラン化合物、および式(I)〜(V)において、炭化水素基上の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または複数であってもよい。
(I)CH3−(CH2−Si(OA)3
(II)[CH3−(CH2−Si(OA)
(III)[CH3−(CH2−SiOA
(IV)CH3−(CH2−COO−(CH2−Si(OA)3
(V)CH3−(CH2−O−(CH2−Si(OA)3
(VI)CF3−(CF2−(CH2−Si(OA)3
【0016】
なお、式(I)〜(VI)において、
lは0〜25の整数であり、
mは0〜17の整数であり、
nは0〜16の整数であり、
pは0〜25の整数であり、
qは0〜2の整数であり、
Aはアルキル基を表す。
これらの膜化合物は高い親油性を有するため、高い撥水親油性を有する油水分離材を得ることができる。
【0017】
本発明の第1の態様において、分離材そのもののろ過効率を損なうことなく、目詰まりしにくい油水分離材を提供するためには、前記親油性の被膜が単分子膜であることが好ましい。また、単分子膜は、繊維状または微粒子状の材料、あるいは透液性基材に含浸された樹脂の表面に結合固定されているため、親油性の被膜の脱落による性能低下を低減することができる。
【0018】
本発明の第1の態様において、前記親油性の被膜が、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンから形成されたポリシロキサン分子を含んでいてもよい。
【0019】
この場合、親油性の被膜がポリシロキサン分子を含むことにより、ポリシロキサン分子の網目構造の中に親油性分子が含まれた被膜を形成でき、表面の撥水親油性の膜物質の強度を向上できる。
【0020】
本発明の第1の態様において、前記親油性の被膜が、前記繊維状または微粒子状の材料の表面、あるいは含浸樹脂材表面の官能基との結合を介して該繊維状または微粒子状の材料の表面に固定されたポリシロキサン分子の被膜を介して前記繊維状または微粒子状の材料の表面に形成されていてもよい。
あらかじめ、繊維状または微粒子状の材料の表面にポリシロキサン分子の被膜を形成することにより、最表面の親油性の膜化合物の密度を向上でき、基材表面の撥水親油性を更に増大できる。
【0021】
また、この場合において、前記ポリシロキサン分子の被膜は、アルコキシシリル基と前記表面官能基との反応により形成された結合を介して前記繊維状または微粒子状の材料の表面に固定され、前記膜化合物が前記繊維状または微粒子状の材料の表面官能基と反応して結合を形成する反応性基を含み、前記親油性の被膜が、前記ポリシロキサン分子の被膜を介して結合固定されていることが好ましい。
【0022】
本発明の第1の態様において、前記ポリシロキサン分子が、下記の式(VII)で表されるアルコキシシランおよび/または式(VIII)で表されるアルコキシポリシロキサンの縮合反応により形成されるものであってもよい。
(VII)SiH(OA)4−x
(VIII)(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)
【0023】
なお、式(VII)および(VIII)において、
xは0、1、または2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、または2である。
【0024】
本発明の第2の態様において、前記溶媒が、有機溶媒、或いは界面活性剤および/またはアルコールを含む水であってよい。
特に、溶媒として界面活性剤および/またはアルコールを含む水を用いる場合には、油水分離材の製造時の環境負荷を低減させることができる。
【0025】
本発明の第2の態様において、前記親油化処理液が、上記の式(VII)で表されるアルコキシシランおよび/または式(VIII)で表されるアルコキシポリシロキサンを含んでいてもよい。
【0026】
或いは、前記アルコキシシランおよび/または前記アルコキシポリシロキサンを含む溶液で前記基材を処理して、該基材の表面にポリシロキサン分子の被膜を形成し、次いで前記親油化処理液でポリシロキサン分子の被膜が形成された前記基材を処理して、前記ポリシロキサン分子の被膜上に前記膜化合物の形成する親油性の被膜を形成してもよい。
基材の表面にポリシロキサン分子の被膜を形成することにより、最表面の親油性の膜化合物の密度を向上でき、基材表面の撥水親油性を更に増大させることができる。
【0027】
本発明の第2の態様において、前記親油化処理液が前記界面活性剤を含み、該界面活性剤は下記の式(IX)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩であり、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いて前記膜化合物を分散させてもよい。
【0028】
【化1】

【0029】
なお、式(IX)において、
は炭素数1〜20のアルキル基を表し、
、R、およびRはメチル基またはエチル基を表し、
Xはハロゲンを表す。
上記の式(IX)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩を用い、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いて分散させることにより、膜化合物、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを、水中に効率よく安定に分散させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、ろ過効率を損なうことなく簡便な操作で油水混合物に含まれる油分と水分とを高効率で分離でき、高い油水分離性能を有すると共に、耐久性に優れた油水分離材を提供できる。本発明により提供される油水分離材は、既存の製造設備を用いて、所望の形状および大きさのものを容易に提供できるため、あらゆる用途および装置に適用可能である。また、本発明によると、特別な製造設備を用いることなく、安価かつ簡便に高性能な油水分離材を提供可能な油水分離材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る油水分離材の断面構造を模式的に表した図である。
【図2】同実施の形態に係る油水分離材の表面近傍を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図3】アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを含む親油化処理液を使用して製造される本発明の第2の実施の形態に係る油水分離材の製造工程においてシラノール基を多数含む親油性の被膜が形成された状態を示す説明図である。
【図4】図3に示したシラノール基を多数含む親油性の被膜を熱処理して得られるポリシロキサン分子を含む親油性の被膜が形成された油水分離材の表面近傍を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る油水分離材の表面近傍を分子レベルまで拡大して模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次いで、図面を参照しつつ本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
本発明により提供される油水分離材は、表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料が、透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材(以下、「基材」と略称する場合がある。)を含んでいる。図2に示すように、油水分離材10において、セルロース繊維1(繊維状または微粒子状の材料の一例)の表面が、デシル基(C1021:炭化水素基であるアルキル基の一例)を含む膜化合物を用いて形成された親油性の被膜7で被覆されている。なお、図2では、有機化学における炭化水素基の簡易表記法にしたがい、デシル基を折れ線で表記し、折れ線部の各頂点および末端は、それぞれ、メチレン基(−CH−)およびメチル基(−CH)を表す(図3、4および5についても同様である)。親油性の被膜7は単分子膜であり、膜物質2を形成する膜化合物の末端のアルコキシシリル基(反応性基の一例)とセルロース繊維1表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介してセルロース繊維1の表面に固定されている。また、図1に示すように、セルロース繊維1は、基材の3次元網目構造の内部に含浸されたフェノール樹脂8(樹脂の一例。図1中斜線で示されている。)で架橋硬化されている。
【0033】
なお、本明細書において、「膜化合物」および「膜物質」という用語は、それぞれ、親油性の被膜7を形成するための出発物質として使用される化合物、および形成された親油性の被膜7の構成成分を呼称するために使用される。
【0034】
油水分離材10は、アルコキシシリル基を含む膜化合物を溶媒中に分散させた親油化処理液で、セルロース繊維が透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を処理し、セルロース繊維1の表面に、アルコキシシリル基とセルロース繊維1表面のヒドロキシル基との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介してセルロース繊維1の表面に固定された膜物質2よりなる親油性の被膜7を形成させる方法により製造される。以下、油水分離材10の製造方法について説明する。
【0035】
基材の形状および寸法については特に制限はなく、用途に応じて、円筒、塊状物、ブロック、シート等の任意の形態を取ることができる。基材を形成するセルロース繊維1の繊維径は、例えば、繊度0.1〜50dtexである。セルロース繊維1の繊維長は、基材が抄造体の場合には、例えば1〜5mm、不織布の場合には、例えば25〜250mmである。スパンボンド法により製造される不織布の場合、エンドレスの長さのものを用いてもよい。また、基材の目付は、強度と重さのバランスから、例えば10g/m〜100g/mとすることが好ましい。セルロース繊維1の繊維径、繊維長、および基材の目付は互いに密接な関係があるため、それぞれを単独かつ一義的に決定することは困難であるが、機械的強度と重さのバランス、油水分離材10に要求される透液性や粒子保持能等に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。
【0036】
抄造体の基材としては、種々の規格のものが容易かつ安価に入手できるセルロースろ紙が好ましく用いられる。基材として用いるろ紙は、平面状(矩形または円形)のものであっても円筒状のものであってもよく、油水分離材10において必要とされる形状に応じて適宜選択される。ろ紙の粒子保持能については、油水分離材10において必要とされる粒子保持能に応じ、適宜選択して用いることができる。なお、親油性の被膜7の厚みは数nmオーダーなので、ろ紙の粒子保持能が保持された油水分離材10が得られる。後述のように、3次元構造の内部に樹脂を含浸させる場合には、所望の粒子保持能よりも若干大きな粒子保持能を有するろ紙を選択すればよい。
【0037】
機械的強度を増大させたり、所定の形状に成形加工するために、基材の3次元網目構造の内部に樹脂を含浸させてもよい。樹脂としては、油水混合物に含まれる油分に溶解や膨潤しない任意の樹脂を用いることができるが、熱処理により硬化、不溶化すると共に機械的強度を増大でき、更にセルロース繊維1のヒドロキシル基と架橋反応を形成できる熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。特に、水酸基を含むフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂を用いる場合、前駆体であるノボラック樹脂やレゾール樹脂を用い、基材の3次元網目構造の内部に含浸させた後、熱処理を行って硬化させてもよい。含浸および硬化を行う順序は、それぞれ、親油性の被膜7の形成の前後のいずれであってもよい。
【0038】
親油化処理液は、膜化合物2を溶媒中に分散させることにより調製される。ここで、「分散」とは、均一な溶液、懸濁液、および乳濁液のいずれかを形成している状態を意味する。使用することができる膜化合物としては、鎖状の親油性の官能基を含み、セルロース繊維1の表面に膜物質2からなる被膜を形成することができ、セルロース繊維1表面のヒドロキシル基との結合を介してセルロース繊維1の表面に固定させるための表面結合基を末端に有している任意の化合物が挙げられる。好ましい表面官能基としては、多くの材料の表面に存在するヒドロキシル基と室温で比較的迅速に反応するアルコキシシリル基が挙げられる。また、単分子膜を形成するためには、親油性の官能基は、自己組織性を有する直鎖状の長鎖アルキル基等が好ましいが、吸収対象となる油の種類に応じて、エステル基またはエーテル基を含む長鎖アルキル基であってもよい。例えば、トリグリセリド等の吸収に用いる油水分離材10については、エステル基を含むアルキル基を含む膜化合物が好適に使用される。
【0039】
好ましい膜化合物は、例えば、下記の式(I)〜(VI)のいずれかで表されるアルコキシシラン化合物、および式(I)〜(V)において、炭化水素基上の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルコキシシラン化合物である。膜化合物は単一のものであってもよいが、上記のアルコキシシラン化合物からなる群より選択される2以上の化合物を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
(I)CH3−(CH2−Si(OA)3
(II)[CH3−(CH2−Si(OA)
(III)[CH3−(CH2−SiOA
(IV)CH3−(CH2−COO−(CH2−Si(OA)3
(V)CH3−(CH2−O−(CH2−Si(OA)3
(VI)CF3−(CF2−(CH2−Si(OA)3
【0040】
なお、式(I)〜(VI)において、
lは0〜25の整数であり、
mは0〜17の整数であり、
nは0〜16の整数であり、
pは0〜25の整数であり、
qは0〜2の整数であり、
Aはアルキル基、より好ましくはメチル基またはエチル基を表す。
【0041】
式(I)において、メチレン基の一部がジメチルシリル基またはアリーレン基で置換されていてもよい。
膜化合物の具体例としては、下記の(1)〜(19)に示す炭化水素基を有する化合物、および下記の(21)〜(34)で示されるフッ化炭素基を有する化合物が挙げられる。なお、「Me」はメチル基を表し、「C」は1,4−フェニレン基を表す。
(1) CHCHO(CH15Si(OCH
(2) CH(CHSiMe(CH15Si(OCH
(3) CH(CHSiMe(CHSi(OCH
(4) CHCOO(CH15Si(OCH
(5) CH(CHSi(OCH
(6) CH(CHSi(OCH
(7) CH(CHSi(OCH
(8) CHCHO(CH15Si(OC
(9) CH(CHSiMe(CH15Si(OC
(10) CH(CHSiMe(CHSi(OC
(11) CHCOO(CH15Si(OC
(12) CH(CHSi(OC
(13) CH(CHSi(OCH
(14) CH(CHSi(OC
(15) [CH(CHSi(OCH
(16) [CH(CHSiOCH
(17) [CH(CHSi(OC
(18) [CH(CHSiOC
(19) CH(CHSiCH(OCH
【0042】
(21) CFCHO(CH15Si(OCH
(22) CF(CHSiMe(CH15Si(OCH
(23) CF(CF(CHSiMe(CHSi(OCH
(24) CF(CF(CHSiMe(CHSi(OCH
(25) CFCOO(CH15Si(OCH
(26) CF(CF(CHSi(OCH
(27) CF(CF(CHSi(OCH
(28) CFCHO(CH15Si(OC
(29) CF(CHSiMe(CH15Si(OC
(30) CF(CF(CHSiMe(CHSi(OC
(31) CF(CF(CHSiMe(CHSi(OC
(32) CFCOO(CH15Si(OC
(33) CF(CF(CHSi(OC
(34) CF(CF(CHSi(OC
【0043】
ここで、炭化水素基を有するアルコキシシラン化合物とフッ化炭素基を有するアルコキシシラン化合物とを任意の所定の割合で混合して用いると、形成される親油性の被膜7における撥水性と親油性とのバランスを調節できる。それにより、得られる油水分離材10の性質や孔壁と液体との相互作用を調節できるため、単一の基材から種々の特性を有する油水分離材10を製造できる。なお、撥水性および親油性は、膜化合物における炭化水素基またはフッ化炭素基の鎖長によっても調節できる。
【0044】
親油化処理液に含まれる膜化合物の濃度は、好ましくは0.1mol/L〜10mol/Lである。膜化合物の濃度が0.1mol/Lを下回ると、均一な親油性の被膜7を形成することが難しくなり、濃度が10mol/Lを上回ると、ゲル化等が起こりやすくなり、保存安定性が低下する。
【0045】
溶媒としては、膜化合物を溶解または安定に分散させることができる任意の液体を使用することができる。膜化合物は高い疎水性を有するため、溶解させるためには有機溶媒が使用される。しかしながら、油水分離材10の製造時における環境負荷の低減の観点からは、水の使用が好ましい。なお、水をそのまま使用するだけでは、膜化合物を溶解させることも安定に分散させることも困難である。したがって、水を溶媒として使用する場合には、親油化処理液は、水を主体とする溶媒に膜化合物を可溶化または安定に分散可能にするために、界面活性剤および/またはアルコールを含めておく。
【0046】
界面活性剤としては、任意のものを用いることができるが、好ましくは、陽イオン性界面活性剤であるテトラアルキルアンモニウム塩、より具体的には下記の式(IX)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩である。
【0047】
【化2】

【0048】
なお、式(IX)において、
は炭素数1〜20、より好ましくは炭素数12〜16のアルキル基を表し、
、R、およびRはメチル基またはエチル基、より好ましくはメチル基を表し、
Xはハロゲン原子を表す。
【0049】
特に好ましいテトラアルキルアンモニウム塩は、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムCH(CH15N(CHBrである。
【0050】
テトラアルキルアンモニウム塩の濃度は、好ましくは0.1mmol/L〜10mmmol/L、より好ましくは0.5mmol/L〜5mmol/Lである。濃度が0.1mmol/Lを下回ると、膜化合物を十分に可溶化することができず、10mmol/Lを上回ると、親油化処理液のpHが後述する最適範囲外となったり、泡を生じたりするおそれがある。
【0051】
また、アルコールとしては、膜化合物を水中に均一に分散することができる任意のアルコールを用いることができるが、水と相溶性を有し、揮発性の高い、エタノール、プロパノール(1−プロパノールおよび2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール)、エチレングリコールが好ましい。これらのアルコールは単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0052】
水とアルコールの混合比は特に制限されないが、水とアルコールの体積比が、80:20〜95:5であることが好ましい。
【0053】
親油化処理液には、pHを調整するために、酸または塩基を加えてもよい。好ましいpHの範囲は、5〜12である。pHが5を下回ると、密度の高い親油性の被膜7が形成されなくなると共に、親油化処理液の保存安定性が低下する。また、pHが12を上回ると、シロキサン結合のアルカリ加水分解により、形成された親油性の被膜7が破壊されるおそれがある。
【0054】
親油化処理液は、膜化合物と溶媒(好ましくは、界面活性剤および/またはアルコールとを含む水)を、混合して分散させる工程を有する方法により調製される。まず、これらの成分を、所望の組成比となるよう秤量したものを混合する。各成分を添加する順番については特に制限されない。次いで、超音波分散機またはホモジナイザーを用いて混合物を処理すると、アルコキシシリル基の一部が加水分解によりシラノール基に変換され、均一かつ透明な親油化処理液が得られる。処理温度および時間に制限はないが、超音波分散機を用いる場合には、例えば、室温で10分間処理を行う。
【0055】
油水分離材10は、以下の方法を用いて製造することができる。まず、セルロース繊維からなる3次元網目構造を有する透液性基材に親油化処理液を含浸させ、溶媒の大部分が揮発するまで(例えば、大気中、室温で1時間)放置する。セルロース繊維1の表面のヒドロキシル基(図示しない)とアルコキシシリル基との縮合反応により形成された共有結合(シロキサン結合)を介して、膜化合物がセルロース繊維1の表面に結合し、膜物質2を形成する。このようにして、親油性の被膜(単分子膜)7がセルロース繊維1の表面に形成された油水分離材10が得られる(図2)。
【0056】
なお、この場合において、親油化処理液の濃度によっては余分な膜化合物がセルロース繊維1の表面に残ってしまう場合があるが、そのような場合には、溶剤で洗浄除去すればよい。余分な膜化合物が少量であれば、未洗浄のまま放置しておいても、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成したシラノール基により縮合反応が起こり、セルロース繊維1の表面に結合した膜物質による親油性の被膜が形成されるので問題はない。
【0057】
アルコキシシリル基とセルロース繊維1の表面のヒドロキシル基との縮合反応を促進するために、縮合触媒を添加してもよい。縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0058】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0059】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0060】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレートの具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0061】
或いは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間を更に短縮できる。
【0062】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズジアセテートの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用いることができる。
【0063】
或いは、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズジアセテートとの混合物(混合比は1:1)を用いてもよい。
【0064】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0065】
また、用いることができる有機酸としても特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0066】
得られる油水分離材10は、河川、湖沼、海洋、地面、路面および床面に流出した油の回収および除去、内燃機関用の燃料油の水分除去、産業用および家庭用油水分離材等の用途に使用することができる。
【0067】
本発明の第2の実施の形態に係る油水分離材20は、本発明の第1の実施の形態(上述)において、膜化合物と共にアルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを含む親油化処理液を使用することにより得られる。油水分離材20においては、親油性の被膜17は、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンから形成された網目状のポリシロキサン分子の被膜16を含んでいる(図4参照)。
より具体的には、図3に示すように、セルロース繊維11からなる3次元網目構造を有する透液性基材に含まれるセルロース繊維11の表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)とデシル基(C1021:炭化水素基であるアルキル基の一例)を含む膜化合物のアルコキシシリル基の脱アルコール反応により生成されるSiO結合を介して膜化合物がセルロース繊維11の表面に直接形成、または、セルロース繊維11の表面を網目状に被覆するポリシロキサン分子の被膜13、16のヒドロキシル基を介してデシル基を含む膜化合物12が間接的に固定されて形成する親油性の被膜17で被覆されている。
すなわち、膜物質12の被膜は、膜化合物の末端のアルコキシシリル基(反応性基の一例)とセルロース繊維11の表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)と直接、またはポリシロキサン分子13上のシラノール基(Si−OH)14との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介して、セルロース繊維11表面に形成された網目状のポリシロキサン分子膜13に炭素鎖が一部埋もれた形で固定されている。
【0068】
一方、この油水分離材20は、膜化合物、ならびにアルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを溶媒中に混合分散させた親油化処理液で、セルロース繊維11からなる3次元網目構造を有する透液性基材に含まれるセルロース繊維11を処理し、セルロース繊維11の表面に、網目状のポリシロキサン分子13、15および親油性の膜物質12よりなる親油性の被膜17を形成させた後、熱処理する方法により製造される。
以下、油水分離材20の製造方法について説明する。
【0069】
セルロース繊維11として使用することができる材料については、第1の実施の形態に係る油水分離材10の製造に使用することができるセルロース繊維1の場合と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0070】
親油化処理液は、膜化合物およびアルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを溶媒中に混合分散させることにより調製される。膜化合物として使用することができる化合物の具体例、使用することができる溶媒および界面活性剤については、油水分離材10の製造方法と同様であるので、詳しい説明を省略する。
【0071】
油水分離材20の製造に使用される親油化処理液は、得られる油水分離材20の耐久性を向上させるために、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンを含んでいる。アルコキシシランは、式SiH(OA)4−x(式(VII))で表される化合物であり、アルコキシポリシロキサンは、式(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)(式(VIII))で表される化合物である。なお、これらの式において、xは0、1、または2であり、Aは、アルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基を表し、nは、0、1、または2である。
【0072】
上記の式(VII)で表されるアルコキシシランおよび上記の式(VIII)で表されるアルコキシポリシロキサンの具体例としては、以下に示す化合物(41)〜(48)が挙げられる。
(41) Si(OCH
(42) SiH(OCH
(43) SiH(OCH
(44) (CHO)SiOSi(OCH
(45) Si(OC
(46) SiH(OC
(47) SiH(OC
(48) (HO)SiOSi(OC
【0073】
これらは単独で用いてもよく、任意の2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。耐久性に優れた好適な油水分離材20を得るためには、膜化合物と、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンとの組成比(ケイ素原子数の比をいう)が1:10〜1:0であることが好ましく、1:3〜3:1であることがより好ましい。
【0074】
更にまた、膜化合物ならびにアルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンの総濃度は、好ましくは0.1mol/L〜50mol/L、より好ましくは0.1mol/L〜10mol/Lである。総濃度が0.1mol/Lを下回ると、均一な親油性の被膜17を形成することが困難であり、総濃度が50mol/Lを上回ると、ゲル化等が起こりやすくなり、保存安定性が低下する。特に、総濃度が10mol/L〜0.1mol/Lである場合には、親油化処理液のゲル化を防止でき、寿命を1ヶ月程度まで確保できる。
【0075】
油水分離材20の製造に使用される親油化処理液は、膜化合物ならびにアルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンと、溶媒(好ましくは、界面活性剤および/またはアルコールとを含む水)とからなる混合物を、混合して分散させる工程を有する方法により調製される。まず、これらの成分を、所望の組成比となるよう秤量したものを混合する。各成分を添加する順番については特に制限されない。次いで、超音波分散機またはホモジナイザーを用いて混合物を処理すると、アルコキシシリル基の一部が加水分解によりシラノール基に変換され、均一かつ透明な親油化処理液が得られる。処理温度および時間については、上述の油水分離材10の製造に使用する親油化処理液の場合と同様である。また、このようにして得られる親油化処理液によるセルロース繊維11の処理条件についても、第1の実施の形態に係る油水分離材10の製造の場合と同様であるが、このようにして得られる被膜は、図3に示すように、未反応のシラノール基14を含む親油性の被膜15である。このままでも油水分離材として使用可能であるが、親油性および被膜の耐久性を向上させるために、加熱処理を行ってもよい。加熱処理は、例えば、120℃〜200℃で、15分間〜1時間程度行うことが好ましい。加熱処理により、未反応のシラノール基14が脱水反応を起こし、膜物質12および網目状のポリシロキサン分子13を含む親油性の被膜17が形成された油水分離材20が得られる(図4参照)。
【0076】
このようにして得られる油水分離材20は、第1の実施の形態に係る油水分離材10と同様に使用することができる。
【0077】
次いで、図5を参照しながら本発明の第3の実施の形態に係る油水分離材30について説明する。油水分離材30において、親油性の被膜27は、あらかじめ、セルロース繊維21からなる3次元網目構造を有する透液性基材に含まれるセルロース繊維21のヒドロキシル基との結合を介して表面に固定されたポリシロキサン分子23の被膜26と、ポリシロキサン分子23の被膜26の上に形成されたデシル基を含む膜化合物を用いて形成される被膜とからなる2層構造の被膜である。
膜物質22は、膜化合物の末端のアルコキシシリル基と、ポリシロキサン分子23上の図示しないシラノール基(Si−OH)との反応により形成された結合(Si−O−結合)を介してセルロース繊維21の表面を被覆するポリシロキサン分子23の被膜26に固定されている(図5参照)。
【0078】
本実施の形態において、油水分離材30は、まず、第1工程であるアルコキシシランおよび/またはアルコセルロース繊維からなる3次元網目構造を有する透液性基材に含まれるセルロース繊維21を処理して、セルロース繊維21の表面にポリシロキサン分子の被膜26を形成する。次に、第2工程として、親油化処理液で、表面にポリシロキサン分子の被膜26が形成されたセルロース繊維21を処理して、ポリシロキサン分子の被膜26の上に膜物質22の被膜を形成する方法により製造することができる。
各溶液の調製条件(溶媒、濃度等)、セルロース繊維21およびポリシロキサン分子の被膜26との反応の条件(処理条件)については、上述の第1、第2の実施の形態に係る油水分離材10、20の製造方法と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0079】
セルロース繊維21表面の親水性が乏しい(ヒドロキシル基の密度が低い)場合、まずセルロース繊維21の表面に多数のシラノール基を含むポリシロキサン分子の被膜26を形成し、次いでその表面に膜化合物の被膜22を形成することにより最表面の親油性の膜化合物の密度を向上でき、撥水親油性を更に増大させることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の具体的な実施例を説明するが、以下の実施例においては、特に記載していない限り分子組成比はモル比を意味する。また、「%」は重量%を意味する。
【0081】
油水分離ろ紙の製造(1)
膜化合物であるオクタデシルトリメトキシシランCH3(CH217Si(OCH3とテトラメトキシシランSi(OCHとをモル比で3:1になるように秤量し、エタノールに0.01mol/Lとなるように混合して、ホモジナイザーで10分間程度処理すると、エタノール中に含まれる水分により、それぞれのメトキシシリル基(−Si(OCH))の一部が加水分解され、−Si(OH)3基、=Si(OH)基、或いは≡SiOH基に変換された物質を含む親油化処理液を作製した。また、炭素数の異なるブチルトリメトキシシランCH3(CH2Si(OCH3とテトラメトキシシランSi(OCHおよびデシルトリメトキシシランCH3(CH2Si(OCH3とテトラメトキシシランSi(OCHを用いて、同様の手順により親油化処理液を作製した。
【0082】
一方、透液性基材として、任意の粒子保持能(一例として、粒子保持能2.5μmおよび11μmの定性ろ紙を使用した。)を有する汚れのない市販のろ紙を準備する。次に、加熱成形を目的として、熱硬化性のレゾール樹脂(フェノール樹脂)をエタノールで5〜10%に希釈した樹脂液に浸漬し、取り出した後、溶媒を蒸発させてこの樹脂を含浸した(すなわち、セルロース繊維の表面がレゾール樹脂で被われるが、必ずしも完全に被う必要はない。)ろ紙を作製した。
【0083】
つづいて、このようなレゾール樹脂含浸濾紙に、別途調製した膜化合物を含む親油化処理液を空気中(相対湿度57%〜70%)で室温で塗布した後、更に空気中で1時間程度放置した。このとき、この親油化処理液は、多孔質のレゾール樹脂含浸濾紙内部まで浸透し、エタノールは大部分揮発した。また、レゾール樹脂を含浸した濾紙のセルロース繊維表面(多孔質の内部表面も含めて)には、レゾール樹脂由来のヒドロキシル基が多数存在するので、膜化合物に含まれるアルコキシシリル基が加水分解反応により生成したシラノール基(Si−OH)と脱水反応して、レゾール樹脂含浸濾紙のセルロース繊維表面を被ったレゾール樹脂を介してシラノール結合で結合固定されたオクタデシルシリル基を含む被膜が形成される。
なお、セルロース繊維表面がレゾール樹脂で完全に被われていない場合でも、アルコキシシリル基が加水分解反応により生成したシラノール基は、セルロース繊維表面の水酸基と直接反応するので、親油性被膜形成に障害はない。
【0084】
このとき、被膜が完全に硬化してしまう前に、水−エタノール混合溶媒で未反応の余分なオクタデシルトリメトキシシランおよびテトラメトキシシランを洗浄除去(塗布量と、液濃度を適正に調合すれば、必ずしもこの工程の洗浄は行わなくても、ほぼ同様の結果が得られた。)すると、略1nm程度の厚みのオクタデシルシリル基を含む単分子膜がフェノール樹脂含浸濾紙のセルロース繊維表面に化学結合した状態で形成できた。
【0085】
その後、所望のパターンに折り、空気中で120〜200℃の温度で30分程度加熱処理を行うと、未反応のシラノール基(−SiOH)が完全に脱水反応して、ポリシロキサン結合を形成すると共に、レゾール樹脂が硬化して、成形加工され、親油性に優れた被膜で被われた油水分離材を製造できた。
【0086】
このようにして得られた油水分離材について、油滴の浸透時間、水滴接触角の経時変化を測定した。炭素数の異なる親油性被膜を有する油水分離材の全てについて、時間の経過と共に水滴接触角はなだらかに低下する傾向を示したが、30分以上経過後も高い撥水性が保持されることが確認された。また、油滴の浸透時間は、親油性被膜の炭素数の増大に伴い増加する傾向が見られたと共に、基材として用いたろ紙の孔径が大きいほど減少する傾向が見られた。
【0087】
油水分離ろ紙の製造(2)
エタノールの代わりに、5mmol/Lの臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを含むエタノール水溶液(5%のエタノールを含む)を用いた以外は上記(1)と同様の操作を行い、得られた親油化処理液を用いて油水分離材を製造した。得られた油水分離材は、上記(1)において製造されたものとほぼ同一の特性を有していた。
【0088】
油水分離ろ紙の製造(3)
テトラメトキシシランを含まない以外は、上記(1)と同様の操作を行い、得られた親油化処理液を用いて油水分離材を製造した。得られた油水分離材は、ポリシロキサン分子の網の目構造を有していないが、ほぼ同様の油水分離特性を示した。
【0089】
油水分離ろ紙の製造(4)
上記(1)に記載の親油化処理液の作製と同様の手順により、テトラメトキシシランのエタノール溶液およびオクタデシルトリメトキシシランのエタノール溶液をそれぞれ作製した。上記(1)と同様に調製したレゾール樹脂含浸濾紙を用意し、上で作製したテトラメトキシシランの溶液を室温の空気中(相対湿度57%〜70%)で表面に塗布した後、更に空気中で1時間程度放置した。その後、水−エタノール混合溶媒で未反応の余分なテトラメトキシシランを洗浄除去した。
このようにして得られた、多数のヒドロキシル基を含むシロキサン分子の被膜で被覆されたフェノール樹脂強化ろ紙の表面に、更に、上で作製したオクタデシルトリメトキシシランの溶液を室温の空気中(相対湿度57%〜70%)で表面に塗布した後、空気中で1時間程度放置した。その後、水−エタノール混合溶媒で未反応の余分なオクタデシルトリメトキシシランを洗浄除去した。このようにして、2層構造を有する親油性に優れた被膜で被覆された油水分離材を製造できた。
【0090】
油水分離ろ紙の製造(5)
上記(1)において、エタノールの代わりに、非水系溶媒であるデカンを用いた他は、同様の方法で処理した。この場合、親油化処理液中ではシラノール基は生成されないが、空気中で濾紙表面に塗布後デカンが蒸発してしまうとアルコキシルシリル基が空気中の水分と反応して、シラノール基が生成され、同様のろ紙を製造できた。
【0091】
油水分離ろ紙の製造(6)
膜化合物であるオクタデシルトリメトキシシランCH3(CH217Si(OCH3とペプタデカフルオロデシルトリメトキシシランCF(CF(CHSi(OCHの混合物(モル比8:1)を用いた以外は上記(1)と同様の手順により油水分離材を製造した。
【0092】
このようにして得られた油水分離材について、油滴の浸透時間、水滴接触角の経時変化を測定した。水滴接触角の経時変化は殆ど観測されず、非常に高い撥水性が保持されることが確認された。また、油滴の浸透時間が非常に増大すると共に、2mN/m未満の非常に低い表面エネルギーを有することが確認された。
【0093】
水を超音波分散させた軽油を油水分離材に透過させ、水分除去率を測定した。その結果、粒子保持能2.5μmのろ紙から製造した油水分離材において、95.4%という非常に高い水分除去率が確認できた。
【符号の説明】
【0094】
1、11、21 セルロース繊維
2、12、22 膜物質
13、23 ポリシロキサン分子
14 シラノール基
15 シラノール基を含む親油性の被膜
16、26 ポリシロキサン分子の被膜
7、17、27 親油性の被膜
8 フェノール樹脂
10、20、30 油水分離材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料が、透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を含む油水分離材であって、
炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、エーテル基を有する炭化水素基、フッ化炭素基、エステル基を有するフッ化炭素基、およびエーテル基を有するフッ化炭素基のいずれかと、前記材料の表面官能基と反応して結合を形成する反応基とを含む膜化合物が、前記表面官能基と前記反応性基との反応により形成された結合を介して表面に固定されることにより形成された親油性の被膜で前記材料の表面が被覆されていることを特徴とする油水分離材。
【請求項2】
前記材料が、セルロース繊維およびガラス繊維のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする請求項1記載の油水分離材。
【請求項3】
前記透液性基材が、抄造体、不織布および織布のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の油水分離材。
【請求項4】
前記3次元網目構造の内部に、前記透液性機材の透液性が保持されるように樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の油水分離材。
【請求項5】
前記親油性の被膜が、前記樹脂の表面官能基と前記膜化合物の反応性基との反応により形成された結合を介して前記含浸された樹脂の表面にも固定されていることを特徴とする請求項4記載の油水分離材。
【請求項6】
前記樹脂が、含浸硬化された熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項5記載の油水分離材。
【請求項7】
前記樹脂が、前記繊維状または微粒子状の材料の表面に結合していることを特徴とする請求項5または6記載の油水分離材。
【請求項8】
前記膜化合物が、下記の式(I)〜(VI)のいずれかで表されるアルコキシシラン化合物、式(I)において、メチレン基の一部がジメチルシリル基またはアリーレン基で置換されたアルコキシシラン化合物、および式(I)〜(V)において、炭化水素基上の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または複数であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の油水分離材。
(I)CH3−(CH2−Si(OA)3
(II)[CH3−(CH2−Si(OA)
(III)[CH3−(CH2−SiOA
(IV)CH3−(CH2−COO−(CH2−Si(OA)3
(V)CH3−(CH2−O−(CH2−Si(OA)3
(VI)CF3−(CF2−(CH2−Si(OA)3
なお、式(I)〜(VI)において、
lは0〜25の整数であり、
mは0〜17の整数であり、
nは0〜16の整数であり、
pは0〜25の整数であり、
qは0〜2の整数であり、
Aはアルキル基を表す。
【請求項9】
前記親油性の被膜が単分子膜であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の油水分離材。
【請求項10】
前記親油性の被膜が、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンから形成されたポリシロキサン分子を含んでいることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の油水分離材。
【請求項11】
前記親油性の被膜は、前記繊維状または微粒子状の材料の表面官能基との結合を介して該繊維状または微粒子状の材料の表面に固定されたポリシロキサン分子の被膜を介して前記繊維状または微粒子状の材料の表面に形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の油水分離材。
【請求項12】
前記ポリシロキサン分子の被膜は、アルコキシシリル基と前記表面官能基との反応により形成された結合を介して前記繊維状または微粒子状の材料の表面に固定され、前記膜化合物が前記繊維状または微粒子状の材料の表面官能基と反応して結合を形成する反応性基を含み、前記親油性の被膜が、前記ポリシロキサン分子の被膜を介して結合固定されていることを特徴とする請求項11記載の油水分離材。
【請求項13】
前記ポリシロキサン分子が、下記の式(VII)で表されるアルコキシシランおよび/または式(VIII)で表されるアルコキシポリシロキサンの縮合反応により形成されるものであることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項記載の油水分離材。
(VII)SiH(OA)4−x
(VIII)(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)
なお、式(VII)および(VIII)において、
xは0、1、または2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、または2である。
【請求項14】
炭化水素基、エステル基を有する炭化水素基、およびエーテル基を有する炭化水素基のいずれかを含む膜化合物を溶媒中に分散させた親油化処理液で、表面が疎水性を有する繊維状または微粒子状の材料が透液性を有する3次元網目構造を形成した透液性基材を処理して、該繊維状または微粒子状の材料の表面に前記膜化合物を結合させ、親油性の被膜を形成することを特徴とする油水分離材の製造方法。
【請求項15】
前記材料が、セルロース繊維およびガラス繊維のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする請求項14記載の油水分離材の製造方法。
【請求項16】
前記繊維状または微粒子状の材料が、抄造体、不織布、織布のいずれかであることを特徴とする請求項14または15記載の油水分離材の製造方法。
【請求項17】
前記透液性基材に、該透液性機材の透液性が保持される量の樹脂をあらかじめ含浸することを特徴とする請求項14から16のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
【請求項18】
前記親油性の被膜を形成する工程の後、前記透液性基材に、該透液性機材の透液性が保持される量の樹脂を含浸することを特徴とする請求項14から16のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
【請求項19】
前記樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項17または18記載の油水分離材の製造方法。
【請求項20】
前記溶媒が、有機溶媒、或いは界面活性剤および/またはアルコールを含む水であることを特徴とする請求項14から19のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
【請求項21】
前記膜化合物が、下記の式(I)〜(VI)で表されるアルコキシシラン化合物、式(I)において、メチレン基の一部がジメチルシリル基またはアリーレン基で置換されたアルコキシシラン化合物、および式(I)〜(V)において、炭化水素基上の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたアルコキシシラン化合物のいずれかであることを特徴とする請求項14から20のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
(I)CH3−(CH2−Si(OA)3
(II)[CH3−(CH2−Si(OA)
(III)[CH3−(CH2−SiOA
(IV)CH3−(CH2−COO−(CH2−Si(OA)3
(V)CH3−(CH2−O−(CH2−Si(OA)3
(VI)CF3−(CF2−(CH2−Si(OA)3
なお、式(I)〜(VI)において、
lは0〜25の整数であり、
mは0〜17の整数であり、
nは0〜16の整数であり、
pは0〜25の整数であり、
qは0〜2の整数であり、
Aはアルキル基を表す。
【請求項22】
前記親油化処理液が、下記の式(VII)で表されるアルコキシシランおよび/または式(VIII)で表されるアルコキシポリシロキサンを含んでおり、該親油化処理液を用いて形成される前記親油性の被膜が、アルコキシシランおよび/またはアルコキシポリシロキサンから形成された網目状のポリシロキサン分子の被膜を含んでいることを特徴とする請求項14から21のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
(VII)SiH(OA)4−x
(VIII)(AO)Si(OSi(OA)OSi(OA)
なお、式(VII)および(VIII)において、
xは0、1、または2であり、
Aはアルキル基を表し、
nは0、1、または2である。
【請求項23】
前記アルコキシシランおよび/または前記アルコキシポリシロキサンを含む溶液で前記透液性基材を処理して、該透液性基材の表面にポリシロキサン分子の被膜を形成し、次いで前記親油化処理液でポリシロキサン分子の被膜が形成された前記基材を処理して、前記ポリシロキサン分子の被膜の上に前記膜化合物の形成する親油性の被膜を形成することを特徴とする請求項14から21のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
【請求項24】
前記親油化処理液が前記界面活性剤を含み、該界面活性剤は下記の式(IX)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩であり、ホモジナイザーまたは超音波分散機を用いて前記膜化合物を分散させることを特徴とする請求項19から23のいずれか1項記載の油水分離材の製造方法。
【化1】

なお、式(IX)において、
は炭素数1〜20のアルキル基を表し、
、R、およびRはメチル基またはエチル基を表し、
Xはハロゲンを表す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91168(P2012−91168A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214210(P2011−214210)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】