説明

油脂の保存方法及びプラスチック製容器充填油脂

【課題】プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、長期間保存しても保存期間中に容器内部が陰圧になることを防ぎ、容器の収縮・変形を抑制し、かつ、開栓時の油ハネを抑制し、更に、油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供する。また、上記に加え、開栓後においても油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供する。また、上記保存方法により保存されたプラスチック製容器充填油脂を提供する。
【解決手段】油脂を充填したプラスチック製容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填した後、当該容器を密封することにより油脂を保存する。また、プラスチック製容器は、蓋部と油脂注ぎ口部とを有するキャップを備え、蓋部と油脂注ぎ口部は、容器が開栓されて油脂注ぎ口部から油脂が排出された後に、油脂注ぎ口の蓋部との接触部分に付着した油脂によって蓋部を閉めた時に密閉状態が保たれる構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂の保存方法に関し、特に、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法及びプラスチック製容器充填油脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂の収容容器として、軽量かつ内部が視認できることから、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニール(PVC)等の樹脂材質や、それにフィルムを組み合わせた多層構造のものが多く使用されている。
【0003】
これらのプラスチック製の容器は柔らかく、従来、用いられてきたアルミ等を除く金属製の容器に比較して変形しやすいという特性を有する。
【0004】
変形しやすい容器の変形を防止する方法としては、内部圧力を過剰にして容器の変形を防止する方法があり、窒素等を常圧よりも高い圧力で容器のヘッドスペースに注入する方法が一般に知られている。
【0005】
例えば、飲料が入ったアルミ製のボトル容器は、内部圧力を高くすることによって、容器の変形を防いでいる。
【0006】
また、一部の炭酸飲料は高分子樹脂製のPET容器に収容されており、これも同様に内部圧力を高くすることによって、容器の変形を防止している。
【0007】
しかしながら、内部圧力を高くすることにより容器の変形を防止する方法は、収容容器の形状が過剰な内部圧力に耐えうる構造・デザインであることが必要となり、容器のデザイン上の制限も生じる。
【0008】
また、油脂の収容容器に対して上記方法を用いることを考えた場合、内部圧力を過剰にすると、開栓時に、蓋周辺に付着した油脂が内圧によって吹き飛ばされ、開栓した人や周囲に付着してしまうという課題が存在するため、適当な方法ということはできない。
【0009】
一方、油脂の密閉収容容器においては、開栓時の液ハネを防止するために、一定容量以上のヘッドスペースを確保することとしている。ヘッドスペースが非常に小さい、もしくは無い場合、開栓時に内容物が飛び散ることがあり、開栓した人や周囲に付着してしまうという問題があるほか、油脂は可燃性が高いため、防災上の観点からも問題がある。
【0010】
また、油脂の場合、温度による容積の変化が水よりも大きいため、通常の飲料や水溶性の調味料と比較して、密閉容器に収容したときの容器内圧の変化が激しいので、一定容量以上のヘッドスペースを確保し、ヘッドスペース中の気体によって油脂の圧力変化を緩衝させることで、油の漏出や容器の変形、破損を防いでいる。
【0011】
したがって、油脂を収容する場合、容器のヘッドスペースを一定容量以上確保することは重要である。
【0012】
また、食用油脂については、その食品としてのおいしさを維持することも重要な課題であり、収容方法によって油脂の酸化あるいは劣化による風味の変化を防止することも重要である。
【0013】
そのための方法として、食用油の香気および風味を改善するために、希ガスまたは希ガス混合物または少なくとも1種の希ガスとキャリヤーガスを含有するガス混合物を貯蔵手段のヘッドスペースに導入する方法が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平6−319497号公報(段落0060)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
<開栓前の課題>
上述したように、油脂を収容する場合、容器のヘッドスペースを一定容量以上確保することは重要であるが、上記のとおり密閉容器に収容したときの容器内圧の変化が激しいことに加え、油脂の特徴として自動酸化が進行するため、油脂中に溶存する酸素が消費されると、ヘッドスペースに存在する酸素を油脂中に永続的に取り込み続けるので、ヘッドスペース中の酸素は次第に少なくなり、容器内は陰圧が増し、ヘッドスペースの容積が減少し、容器が収縮する現象が起こりやすい。
【0015】
容器が収縮すると収容油脂の液面が上昇するため、充填直後又は酸化による液面の上昇が起きていないものに比較して、内容量が多く見えたり、容器の形状が異なって見えたりする。これにより、同じ商品であるにもかかわらず、内容量が異なって見えたり、容器の形状が異なって見えたりする商品が店頭に陳列されることとなり、消費者はその商品の製造精度を疑い、商品やその製造企業に対する信頼性が著しく失われる。
【0016】
ヘッドスペースが減少すると、上記のような不都合により、商品価値を損なう要因となることが考えられる。このため、一般的な飲料等に比較して自動酸化が進行しやすい油脂を収容する場合は、ヘッドスペースの容積を維持する技術の開発をする必要性がある。
【0017】
また、プラスチック製容器は、光を透過するものが多く、光による過酸化脂質の生成も起きやすい。光による脂質の酸化は独特の悪い風味を発生させることが多い。このため、光を透過する容器に脂質を収容した場合の保存期間中の風味の劣化を抑制する技術が望まれている。
【0018】
また、容器内が過度な陰圧になると、容器の変形が生じる。更に、容器内の過剰な陰圧は外気の流入を招きやすくなり、結果、酸化の要因となる酸素の侵入を生じさせやすい結果となる。
【0019】
<開栓時の課題>
ヘッドスペースの容積が少なくなり、かつ、容器内が陰圧になった状態の密閉容器は、開栓時に急激に内部に大気が流入し、これが油脂の液面を叩く。また、容器が急激に圧力から開放される振動も加わり、液面が急激に波立ち、開栓部から液が跳ね上がる。跳ね上がった油脂は、容器の外部はもとより手や衣服に付着し、快適性を損なう。更に、容器の外部に付着した油脂は、容器を汚すだけでなく、腐食して異臭を放ったり、かびを発生させることもあり、商品価値を著しく減少させる原因となる。特に、油脂が容器に貼着してあるラベル等との間に付着すると上記問題が顕著となる。
【0020】
<開栓後の課題>
油脂は調理等に日常的に使用するものであり、一度、容器を開栓した後は、1〜2ヶ月以内に使い終えることが一般的である。このことから、一度開栓した後は、日常的にキャップの開閉を行うため、圧力変化による容器の変形等はそれほど大きな問題にはならない。
【0021】
一方、開栓後は未開栓時より早いスピードで酸化が進行し、風味の劣化が生じることからこれを防ぐためには、なるべく外気の流入が起こらない構造のキャップを使用する必要がある。
【0022】
なお、上記特許文献1には、プラスチック製容器を用いた保存方法についての開示はなく、プラスチック製容器における上記種々の課題が一切、認識されていない。また、開栓後の風味の維持についても一切、考慮されていない。
【0023】
従って、本発明の目的は、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、長期間保存しても保存期間中に容器内部が陰圧になることを防ぎ、容器の収縮・変形を抑制し、かつ、開栓時の油ハネを抑制し、更に、油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供することである。また、上記に加え、開栓後においても油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供することである。また、上記保存方法により保存されたプラスチック製容器充填油脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記目的を達成するために、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、油脂を充填した前記容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填した後、前記容器を密封することを特徴とする油脂の保存方法を提供する。
【0025】
本発明は、上記目的を達成するために、油脂を充填したプラスチック製容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填し、前記容器を密封してあることを特徴とするプラスチック製容器充填油脂を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、長期間保存しても保存期間中に容器内部が陰圧になることを防ぎ、容器の収縮・変形を抑制し、かつ、開栓時の油ハネを抑制し、更に、油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供することができる。また、上記に加え、開栓後においても油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法を提供することができる。また、上記保存方法により保存されたプラスチック製容器充填油脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
〔本発明の実施の形態〕
本発明の実施の形態に係る油脂の保存方法は、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、油脂を充填した当該容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填した後、当該容器を密封することを特徴とする。以下、詳細に説明する。
【0028】
(プラスチック製容器)
図1は、本発明の実施の形態において使用可能なプラスチック製容器を例示する正面図である。また、図2(a)は、本発明の実施の形態において好適に使用可能な密閉構造のキャップを例示する斜視図であり、栓を開いた状態を示す。
【0029】
プラスチック製容器1は、キャップ2を備え、油脂3が充填された後、ヘッドスペース4を有する状態で密封されている。プラスチック製容器1は、例えば、収容する油の量が100〜1800g用のものを使用できる。ヘッドスペース4は、開栓時の液ハネを防止することが可能なように一定容量以上を確保する。例えば、収容する油の量(g)に対するヘッドスペース4の容量(ml)の割合が2〜10%となるようにする。
【0030】
プラスチック製容器1は、図1に示されるように、ヘッドスペース4の容器断面径が油脂3の充填された部分の容器断面径よりも小であるであるものが機能的にもデザイン的にも好ましい。いわゆるボトル形状の容器を好適に使用できる。
【0031】
プラスチック製容器1は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニール(PVC)等の樹脂が材料として使用される。また、これにフィルムを組み合わせた多層構造のものとしてもよい。
【0032】
プラスチック容器は、容器の形態を保つために、ブロー成形したプラスチック製容器であることが好ましい。また、廃棄時の容量を減らせるように、押圧等により変形可能であることがより好ましい。
【0033】
(キャップ)
図2(a)に示されるように、キャップ2Aは、蓋部21Aと油脂注ぎ口部22Aを備えており、蓋部21Aと油脂注ぎ口部22Aは、プラスチック製容器1が開栓されて油脂注ぎ口部22Aから油脂3が排出された後に、油脂注ぎ口22Aの蓋部21Aとの接触部分に付着した油脂3によって蓋部21Aを閉めた時に密閉状態が保たれる構造であることが好ましい。これにより、開栓後においても油脂の風味を良好なまま保存することができる。
【0034】
蓋部21Aは、内面に円形状の突起部23Aを有し、当該突起部23Aが蓋部21Aを閉めた時に油脂注ぎ口22Aと接触して、当該接触部分に付着した油脂3によって密閉状態が保たれる構造であることが好ましい。油脂注ぎ口部22Aの一部が浅く欠けた切欠部24Aは、設けても設けなくてもよい。
【0035】
(不活性ガス)
不活性ガスは、プラスチック製容器1のヘッドスペース4内の酸素濃度が5容量%以下になるように充填されることが収容油脂に吸収される酸素量を少しでも抑制する観点から好ましく、4容量%以下がより好ましく、3容量%以下がさらに好ましい。
【0036】
かかる不活性ガスの充填方法としては、容器に油脂を充填して、不活性ガスをノズルから容器内に吹き込みながら打栓し密封する方法、もしくは油脂の充填後に不活性ガスをノズルから容器内に吹き込み、速やかにキャップを打栓し密封する方法が挙げられる。この時、容器に油脂を充填する前に、不活性ガスを吹き込み、空気と不活性ガスを置換しておくことが好ましい。また、充填する油脂は、油脂の最終製造工程において脱臭を行うため、製造工程の直後には酸素ガスを含まないが、製造直後に不活性ガスを溶存させ、さらに、油脂の製造工程以降から充填まで、空気に接触しないことが好ましい。
【0037】
不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス及び炭酸ガスから選ばれる1種以上であることが好ましい。汎用性およびコストの観点から、窒素ガスであることが特に好ましい。
【0038】
プラスチック製容器1の開栓前における油脂3の溶存窒素濃度が4容量%以上であり、溶存酸素濃度が0.2容量%以下であることが油脂の特徴として自動酸化を抑え、ヘッドスペースの容量変化を押える観点から好ましい。より好ましくは、溶存窒素濃度が5容量%以上であり、溶存酸素濃度が0.15容量%以下である。
【0039】
(油脂)
本実施の形態において使用できる油脂の種類は、特に限定されない。例えば、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂およびこれらの混合油脂、エステル交換油脂、水素添加油脂、分別油脂等があげられる。
【0040】
また、L−アスコルビン酸やL−アスコルビン酸誘導体、ビタミンE、トコフェロール類、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質、オリザノール、植物ステロール、ジアシルグリセロール、カテキン類、及びポリフェノール類、茶抽出物などの抗酸化剤や乳化剤などのその他の添加物を添加しても良い。
【0041】
乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。
【0042】
抗酸化剤及び乳化剤から選ばれる1種以上を添加した油脂であることが好ましい。
【0043】
(プラスチック製容器充填油脂)
上記本発明の実施の形態に係る保存方法を実施することにより、当該保存方法により保存されたプラスチック製容器充填油脂を製造することができる。
【0044】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、プラスチック製容器のヘッドスペースに不活性ガスを充填して密封しているため、プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、長期間(1年以上、特に1.5年〜2年以上)保存しても保存期間中に容器内部が過度な陰圧になることを防ぎ、容器の収縮・変形を抑制し、かつ、開栓時の油ハネを抑制し、更に、油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法及びプラスチック製容器充填油脂を提供することができる。
【0045】
また、上記に加え、開栓前の良好な状態を維持できるように密封可能な構造のキャップを使用しているため、開栓後においても油脂の風味を良好なまま保存することができる油脂の保存方法及びプラスチック製容器充填油脂を提供することができる。
【0046】
また、本発明の検討過程において、未開栓時の酸化ダメージは開栓後の酸化スピードに大きく影響し、風味の悪化を加速させることが分かったので、プラスチック製容器のヘッドスペースに不活性ガスを充填して密封することと、密封可能な構造のキャップを使用することを併せて実施することで、開栓前の酸化が抑制され、かつ、開栓後の酸化を抑制することに優れた油脂の保存方法及びプラスチック製容器充填油脂を提供することができる。
【0047】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
図1に示すブロー成形によるプラスチック製容器1(容量400g)を用いて、表1に示すように、図2(a)に示す構造のキャップ2Aと図2(b)に示す構造のキャップ2Bを備えるものをそれぞれ30本用意した(実施例1〜2、比較例1〜2)。プラスチック製容器1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のものを使用した。油脂3は、日清オイリオグループ(株)製の菜種油(ハイオレイック・ローリノレン種、油脂中の溶存ガス濃度:酸素0.11容量%、窒素5.40容量%)400gをプラスチック製容器1に充填した。ヘッドスペース4の容量は30.6mlとした。また、実施例1〜2は、油を充填後、不活性ガス(窒素ガス)を充填して、窒素ガスを容器内に吹き込みながら直ちに打栓して密封した。
【0049】
上記の実施例1及び比較例1について、油脂の種類を日清オイリオグループ(株)製の菜種油(ハイオレイック・ローリノレン種)から、日清オイリオグループ(株)製のべに花油に変えて、実施例3及び比較例3を製造した。
【0050】
図2(a)は、開栓後に密閉構造であるキャップを示す斜視図であり、栓を開いた状態を示す。キャップ2Aは、蓋部21Aと油脂注ぎ口部22Aを備えている。さらに、蓋部21Aには突起部23Aが備えてあり、プラスチック製容器1が開栓されて油脂注ぎ口部22Aから油脂3が排出された後、蓋部21Aを閉めた時に注ぎ口部22Aと突起部23Aが接触する構造となっている。また、油脂注ぎ口部22Aは、一部が浅く欠けた切欠部24Aを有している。切欠部24Aは、注ぎ口の外周部に溜まった油脂が容器内部に戻ることのできる構造ではないが、切欠部が浅い事から、蓋を閉めた際に、突起部23Aが油脂注ぎ口部22Aの切欠部が無い部分まで内側に入り込む構造となり、突起部23Aと注ぎ口部22Aが全体的に接触する。さらに、接触部分に付着した油脂3がシール剤の役割を果たし、より一層密閉状態が高く保たれる構造となっている。
【0051】
図2(b)は、開栓後に密閉構造でないキャップを示す斜視図であり、栓を開いた状態を示す。キャップ2Bは、蓋部21Bと油脂注ぎ口部22Bを備えている。蓋部21Bと油脂注ぎ口部22Bとは、プラスチック製容器1が開栓されて油脂注ぎ口部22Bから油脂3が排出された後、蓋部21Bを閉めた時に接触しない構造となっている。また、油脂注ぎ口部22Bは、その外周部に油脂が溜まっても油脂が容器内部に戻れる構造とするべく一部が深く欠けた切欠部24Bを有しているため、仮に、蓋部21Bを閉めた時に蓋部21Bと油脂注ぎ口部22Bが接触する構造となっていても接触部分に付着した油脂3によって密閉状態が保たれる構造とはならない。
【0052】
実施例1〜2及び比較例1〜2について、密封時のヘッドスペースの酸素濃度(%)及び平衡時(常温保存開始1日後)のヘッドスペースの酸素濃度(%)、並びに密封時の油脂中の溶存酸素ガス濃度と溶存窒素ガス濃度(vol.%)を以下の方法により測定し、測定結果を表1に示した。なお、平衡時の溶存酸素濃度及び溶存窒素濃度の割合は、ヘッドスペース中の酸素濃度と窒素濃度の割合と同じと想定される。
【0053】
ヘッドスペースの酸素濃度の測定方法:
測定対象となる容器(収容油脂とヘッドスペースから成る)について、蓋部上方から測定対象ガス吸引用チューブに接続された吸引針を差し込み、ここから採取したヘッドスペースガスをセンサー部に送り込み、これを測定した。
測定に用いた機器は、飯島電子工業株式会社製のOXYGEN METER RO−102であり、一度に吸引するガス量は3mlとし、これを3回繰り返し、3回目に吸引したガスを測定に用いた。
【0054】
油脂中の溶存酸素ガス濃度と溶存窒素ガス濃度の測定方法:
油脂の各サンプルを空気に触れないように、サンプリングし、ガスクロマトグラフィー法にて溶存酸素及び溶存窒素ガスを分析した。
[測定条件]
測定機器:(メーカー、型番)島津製作所 GC−14
キャリアーガス:ヘリウム
カラム:Molecular Sieve 5A 、内径3mm×3m、SUSカラム
検出器:TCD
計算方法:2本分の分析を実施し、平均値を算出
なお、標準ガスはサンプル分析前に測定を行い、濃度算出のための補正係数を求めた。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜2及び比較例1〜2について、開栓時の液ハネ、過酸化物価(POV)、及び風味を以下の方法により評価・測定した結果を表2に示す。いずれも開栓前は、24ヶ月相当の保存期間になるまで促進保存試験(60℃、暗所保存)を行った。また、12ヶ月相当保存したものを、開栓し、2ヶ月相当の保存期間になるまで促進保存試験(40℃、暗所保存)を行った。
【0057】
開栓時の液ハネの評価方法:
実施例1〜2及び比較例1〜2を各10本ずつ、プルリングを引き抜くことにより開栓した。この時に、液ハネが生じた割合を液ハネ率とした。また、液ハネ量(容器外部や、通常、手に付着すると考えられる箇所に飛び出した油脂量)を測定し、平均したものを平均液ハネ量とした。各測定値からグラフを作成し、保存時のヘッドスペース容量から液ハネ率および液ハネ量を算出した。
【0058】
過酸化物価(POV)の測定方法:
基準油脂分析法(参2.4 過酸化物価−クロロホルム法−)による。
【0059】
風味の評価方法:
サンプルを口に含み、風味を下記の5段階で評価した。評価は食用油専門パネル10名で行い、平均値を算出した。
5:無味無臭で極めて良好なもの
4:原料特有のにおいがあるが良好なもの
3:戻り臭があるが賞味可能なもの
2:戻り臭が感じられ、食用として限界のもの
1:戻り臭が強く、食用として好ましくないもの
【0060】
【表2】

【0061】
表2より、実施例では比較例に比べて、開栓時の液ハネが著しく改善されることが判る。
【0062】
また、過酸化物価(POV)の測定結果より、実施例では比較例に比べて、酸化劣化しにくく、保存安定性に優れていることが判る。また、開栓後に密封状態が保てたとしても、開栓前の劣化が進んでいると、劣化を抑制できないことが判る(比較例1)。
【0063】
また、風味は、実施例では比較例に比べて、風味の劣化が進まないことが判る。また、開栓後に密閉状態が保てたとしても、開栓前の劣化が進んでいると、劣化を抑制できないことが判る(比較例1)。
【0064】
(保存条件を変化させた場合の評価)
上記の実施例1及び比較例1について、保存条件を20℃、暗所から、40℃、暗所に変えた場合と、20℃、明所(1000luxの蛍光灯照射)に変えた場合の過酸化物価(POV)を測定した。それぞれの保存条件において、(a)4ヶ月相当保存後に開栓した場合、(b)8ヶ月相当保存後に開栓した場合、(c)12ヶ月相当保存後に開栓した場合の過酸化物価(POV)を測定した。測定結果を図3及び図4に示した。図3は、40℃、暗所で保存した場合の測定結果を示すグラフであり、図4は、20℃、明所(1000luxの蛍光灯照射)で保存した場合の測定結果を示すグラフである。
【0065】
図3より、高温保存条件下では、実施例では比較例に比べて、保存期間が長くなればなるほど、酸化劣化しにくく、保存安定性に優れ、その効果が顕著となることが判る。また、図4より、光照射保存条件下では、実施例では比較例に比べて、保存期間が短いときから効果が顕著に現われ、酸化劣化しにくく、保存安定性に優れていることが判る。
【0066】
(油脂の種類を変化させた場合の評価)
実施例3及び比較例3を、60℃暗所で12ヶ月相当保存後に開栓した。開栓後、40℃暗所でさらに2ヶ月相当保存を行った場合の過酸化物価(POV)を測定した。測定結果を図5に示した。
【0067】
図5より、べに花油を用いた場合においても、実施例では比較例に比べて、酸化劣化しにくく、保存安定性に優れていることが判る。特に、長期保存開栓後に、その効果が顕著に現われる。
【0068】
(容器収縮・変形の抑制効果の評価)
上記の実施例1及び3、比較例1及び3について、保存条件が60℃、暗所の場合と、40℃、暗所の場合と、20℃、明所(1000luxの蛍光灯照射)の場合のヘッドスペースの容量変化を測定した。ヘッドスペースの容量は、ヘッドスペース中の酸素濃度を測定し、吸収された酸素量から算出した。
【0069】
それぞれの保存条件において、開始時(充填時)、4ヶ月相当保存時、8ヶ月相当保存後、12ヶ月相当保存後のヘッドスペースの容量を測定した。
【0070】
開始時(充填時)の酸素濃度は、順に、実施例1は4.4%、比較例1は4.5%、実施例3は4.0%、比較例3は4.3%であった。
【0071】
測定結果を表3〜5に示す。容器の収縮によるヘッドスペースの容量の減少度合を開始時(充填時)のヘッドスペースの容量を100.0として数値化した。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
【表5】

【0075】
表3〜5より、窒素充填を行った各実施例1は、高温条件や光照射条件下においても、ヘッドスペースの減少率が低く、1年相当の保存を行った場合においても、元の容量に対して、95%以上の容積を保つことがわかった。それに比較して、窒素充填を行わなかった場合(各比較例1)では、ヘッドスペース容量の減少が著しく生じ、4ヶ月〜1年相当の保存を行った場合に80%前後まで容量が減少することがわかった。
【0076】
なお、外観上、容器の収縮によるヘッドスペースの容量の減少がどの程度まで達すると、減少が生じていない場合と比較して、差異や違和感を認識するのかを明らかにするために、以下の通り、実験を行なった。
【0077】
(認識率の実験)
上記実施例1について、日清オイリオグループ(株)製の菜種油(ハイオレイック・ローリノレン種)及び日清オイリオグループ(株)製のべに花油の計2種の供試品を用意した。
【0078】
2種の供試品について、ヘッドスペースの容量が100%(容器未収縮)から70%相当まで容器収縮により減少したものまで、5%刻みで変化したサンプルをそれぞれ作製した。
【0079】
評価方法:各サンプル(100、95、90、85、80、75、70%)をそれぞれ、100%(容器未収縮)のサンプルと並べ、事前の情報を全く与えずに、外観上の違いの有無を11名のパネラーに聞いた。二つのサンプルを比較して液面や容器の形状等、外観上の違いを感じた場合、両者の違いを認識したものと判断した。さらに、認識した割合を認識率として百分率で算出した。
【0080】
図6は、上記で算出したヘッドスペースの容量減少による違いの認識率を示すグラフである。
【0081】
図6より、以下のことが判る。
いずれの油種もヘッドスペース容量が95%であれば外観上の差異は認識されず、90%で、僅かに認識される程度であった。
いずれの油種においてもヘッドスペース容量が85%まで減少すると認識率が著しく上昇し、その後は、ヘッドスペース容量が少なくなるにつれて、認識率も上昇した。
ヘッドスペース容量が75〜70%程度になると、殆どのパネラーに認識されていた。
【0082】
以上の認識率の実験も踏まえて、上記表3〜5を見ると、以下のことが判る。
ヘッドスペースへの窒素充填を行った場合(各実施例1)、ヘッドスペース容量の変化は少なく、1年相当の保存を行っても、95%以上の容量を保つので、認識率の実験結果から、ヘッドスペース容量の減少が生じていないサンプルと比較しても、消費者が違和感を生じることは殆ど無いと考えられる。
一方、ヘッドスペースへの窒素充填を行わなかった場合(各比較例1)、ヘッドスペース容量の減少が生じ、4ヶ月〜1年相当の保存で80%前後まで容量が減少するので、認識率の実験結果から、ヘッドスペース容量の減少が生じていないものと同時に消費者が比較した場合は、その外観の違いに違和感を覚える確率が高いと考えられる。
【0083】
(実施例4〜5)
ブロー成形によるプラスチック製容器(容量1000g)の中の空気を窒素ガスで置換した。さらに、日清オイリオグループ(株)製の菜種油(キャノーラ油)を充填し、直ちに窒素ガスをヘッドスペースに注入し、図2(a)に示す構造のキャップ2Aを打栓して、密封した(実施例4)。
【0084】
ブロー成形によるプラスチック製容器(容量1300g)の中の空気を窒素ガスで置換した。さらに、日清オイリオグループ(株)製の菜種油(キャノーラ油)を充填し、直ちに窒素ガスをヘッドスペースに注入し、図2(a)に示す構造のキャップ2Aを打栓して、密封した(実施例5)。
【0085】
実施例4〜5のプラスチック製容器充填油脂を、40℃暗所で1年相当保存したが、容器の変形は認められなかった。その後、開栓したが、油ハネは認められず、さらに常温暗所で2ヶ月保存したが、風味は良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態において使用可能なプラスチック製容器を例示する正面図である。
【図2】(a)は本発明の実施の形態において好適に使用可能な密閉構造のキャップを例示する斜視図であり、(b)は密閉構造でないキャップを示す斜視図である。
【図3】40℃、暗所で保存した場合の測定結果を示すグラフである。
【図4】20℃、明所(1000luxの蛍光灯照射)で保存した場合の測定結果を示すグラフである。
【図5】油脂の種類を変化させた場合の測定結果を示すグラフである。
【図6】ヘッドスペースの容量減少による違いの認識率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製容器を用いた油脂の保存方法であって、油脂を充填した前記容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填した後、前記容器を密封することを特徴とする油脂の保存方法。
【請求項2】
前記不活性ガスは、前記容器のヘッドスペース内の酸素濃度が5容量%以下になるように充填されることを特徴とする請求項1に記載の油脂の保存方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス及び炭酸ガスから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油脂の保存方法。
【請求項4】
前記容器は、ブロー成形したプラスチック製容器であり、前記ヘッドスペースの容器断面径が前記油脂の充填された部分の容器断面径よりも小であるであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂の保存方法。
【請求項5】
前記容器は、蓋部と油脂注ぎ口部とを有するキャップを備えており、前記蓋部と前記油脂注ぎ口部は、前記容器が開栓されて前記油脂注ぎ口部から前記油脂が排出された後に、前記油脂注ぎ口の前記蓋部との接触部分に付着した前記油脂によって前記蓋部を閉めた時に密閉状態が保たれる構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂の保存方法。
【請求項6】
前記容器の開栓前における前記油脂の溶存窒素濃度が4容量%以上であり、溶存酸素濃度が0.2容量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の油脂の保存方法。
【請求項7】
前記油脂は、抗酸化剤及び乳化剤から選ばれる1種以上を添加した油脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の油脂の保存方法。
【請求項8】
油脂を充填したプラスチック製容器のヘッドスペース内に不活性ガスを充填し、前記容器を密封してあることを特徴とするプラスチック製容器充填油脂。
【請求項9】
前記容器は、蓋部と油脂注ぎ口部とを有するキャップを備えており、前記蓋部と前記油脂注ぎ口部は、前記容器が開栓されて前記油脂注ぎ口部から前記油脂が排出された後に、前記油脂注ぎ口の前記蓋部との接触部分に付着した前記油脂によって前記蓋部を閉めた時に密閉状態が保たれる構造であることを特徴とする請求項8に記載のプラスチック製容器充填油脂。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のプラスチック製容器充填油脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−126608(P2010−126608A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301708(P2008−301708)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】