治療を増強するグルカン
本発明は、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞中に導入する方法を提供する。本発明は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象に物質を導入する方法も提供する。経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、化学療法剤、生物学的活性のある薬剤、プラスミド、並びに他の小分子及び化合物が含まれるが、それだけに限定されない。最後に、本発明は、IgMの効果を増強することのできる経口投与されるβ−グルカンを含む組成物、及び前記組成物の様々な使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年7月16日出願の米国特許出願第10/621027号の一部継続出願であり、その内容の全体を本出願に参照として援用する。
【0002】
本出願の全体にわたり、様々な参考文献を引用する。これら刊行物の開示は、本発明が関連する技術水準をより完全に記述するために、その全体を本出願に参照として援用する。
【0003】
本明細書での開示は、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法に関する。本発明の1つの態様は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象に物質を導入する方法を提供する。経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、化学療法剤、生物活性物質、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小型分子及び化合物も用いることができる。本発明の別の態様は、IgM抗体の効果を増強することのできる経口投与されるβ−グルカンを含む組成物である。
【背景技術】
【0004】
サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cervisiae)、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、上記の組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号に記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。
【0005】
β−グルカンは、40年近くの間、マウスにおいて腫瘍治療について試験が行われている1、2。日本では、PSK(カワラタケ(Coriolus vesicolor)由来)、レンチナン、シゾフィランなど、いくつかの形態のキノコ由来のβ−グルカンが、癌の治療のために臨床的に使用されている。日本における無作為化試験では、PSKは、原発性腫瘍を摘出するための胃切除3、4、直腸手術5、6、及び食道切除7の後のいくつかの癌の試験において、生存率をそれほど高くはないが有意に上昇させている。乳癌8、9、及び白血病10では、結果はあまり有望ではなかった。シゾフィランは、手術可能な胃癌11、手術不可能な胃癌12、13、及び子宮頸癌14の患者の生存率を上昇させている。やはり、群間の生存率には統計学的に有意差があったが、この上昇は大きくなかった。β−グルカンは西洋の腫瘍学者には広くは使われていないが、レイシ(Reishi)及びマイタケ15などのβ−グルカンを含む植物性医薬品は、代替/補足的癌療法として米国の癌患者に広く使われている。β−グルカンの治療効果を探索していたこれらの以前の研究には、試験計画の一部として治療用のモノクローナル抗体(MoAb)の同時投与は組み込まれていなかった。ヒトの腫瘍の強力なオプソニンとして働くiC3bを沈着させるには抗体が必要であるという証言が増えている。MoAbを同時投与しないでβ−グルカンを投与する場合に、β−グルカンの腫瘍細胞毒性作用を発揮させるには天然に存在する抗腫瘍抗体の存在が必要であるが、これは患者間で、また実験用マウス間においてさえも非常に変動することがある。
【0006】
癌特異性抗体と組合せたときのβ−グルカンの抗腫瘍作用については、以前に記載されている。以前の研究では、オオムギ又はカラスムギ由来の経口投与したβ−グルカンが、異種移植片モデルにおける抗腫瘍モノクローナル抗体の抗腫瘍活性を大いに増強できることが示されている。「治療を増強するグルカン(Therapy−Enhancing Glucan)」、2002年1月15日出願、国際公開第PCT/US02/01276号;Cheungら、「神経芽細胞種の治療において経口の(1−3),(1−4)−β−グルカンが抗ガングリオシドGD2モノクローナル抗体3F8と相乗作用をする(Oral (1−3),(1−4)−beta−glucan syngergizes with anti−ganglioside GD2 monoclonal antibody 3F8 in the therapy of neuroblastoma)」、Clin Cancer Res.2002年、8巻、1217〜1223頁;Cheung NKら、「経口投与されたβ−グルカンがモノクローナル抗体の抗腫瘍作用を増強する(Orally administered beta−glucans enhance anti−tumor effects of monoclonal antibodies)」、Cancer Immunol Immunother.、2002年、51巻、557〜564頁を参照されたい。第I相の臨床治験は、オオムギのβ−グルカンが転移癌に対する抗体の作用を増強する可能性があるという予想を支持している。以前に述べられたように、(1→3),(1→6)−β−D−グルカンであるレチナンもラミナリンもオオムギのグルカンほど有効ではなかった16。更に、(1→3),(1→4)−β−D−グルカンのなかでも小分子量の製剤及びリケナンも、それほど有効ではなかった。β−グルカンの分子の大きさ及び微細構造が、腫瘍に対する抗体の相乗作用に大きな影響を及ぼすのかもしれない。
【0007】
欧州及び米国では、特にパン酵母に由来するβ−グルカンが、動物用の飼料添加物として、ヒトの栄養補助食品として17、傷の治療に18、また皮膚用クリーム製剤の有効成分として長い間用いられている。β−グルカンの基本的な構造単位は、β(1→3)結合グルコシル単位である。供給源及び分離方法に応じて、β−グルカンは、側鎖に様々な程度の分枝及び結合を有する。側鎖の頻度及びヒンジ構造が、その免疫調節作用を決定する。真菌及びイースト起源のβ−グルカンは、通常水に不溶であるが、酸加水分解により、又はリン酸、硫酸、アミン、カルボキシメチル、などの荷電した基を分子に導入する誘導体化により可溶化することができる19、20。
【0008】
(1→3)−β−D−グルカン単位が基本骨格を形成し、側鎖が(1→6)−β−D−グルカンのヒンジに位置する(1→3)−β−D−グルカン単位により作られる分子構造を有する可溶性グルカンが、パン酵母であるサッカロミセスセレビシエから分離された。高分子量の断片
【化1】
が得られ、腫瘍モデルにおけるモノクローナル抗体との相乗作用について試験された。可溶性のイーストのβ−グルカンの抗腫瘍作用は、以下に詳しく述べるようにヒトの癌に特異的なモノクローナル抗体と組合せると、可溶性のオオムギのβ−グルカンの抗腫瘍作用に匹敵することが見出された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法を提供する。
【0010】
本発明の別の態様は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象に物質を導入する方法である。経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、化学療法剤、生物学的活性のある薬剤、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小型の分子及び化合物も用いることができる。
【0011】
本発明のさらなる態様は、IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、適切な量の炭水化物を含む物質の経口摂取用の組成物を提供する。一実施形態においては、この炭水化物はグルカンである。
【0013】
グルカンを経口投与すると、マクロファージ及び単球に取り込まれ、それらによってこの炭化水素は骨髄及び細網内皮系に運ばれ、そこから適切に加工された形態で好中球を含む骨髄細胞上、及びナチュラルキラー(NK)細胞を含むリンパ細胞上に放出される。この加工されたグルカンは、これらの好中球及びNK細胞上のCR3に結合し、腫瘍特異性抗体の存在下で、腫瘍細胞毒性の点でこれらを活性化する。
【0014】
マクロファージ及び単球は消化管からグルカン(可溶性であろうと、ゲルであろうと、粒子であろうと)を取り入れるので、グルカンは遺伝子治療にとって有効な案内役になる可能性がある。DNA又はプラスミドはタンパク質とは異なり、比較的熱に安定であり、室温又は体温に冷却されるとゲル化する加温で可溶性のオオムギグルカンに容易に組み込むことができる。マウスにこのDNA−グルカン複合体を摂取させると、数日以内に末梢血液の単球及びマクロファージ中にレポーター遺伝子を検出することができる。さらに重要なのは、これらのレポーター遺伝子は、このDNA複合体を摂取した数日後にこれらの細胞中で発現される。これらの発見には、潜在的に生物学的な示唆を含む。グルカン及び同様の炭水化物は、DNA又はプラスミドがヒトの体内に入るための有効な案内役になる可能性がある。経口のグルカンは、マクロファージ/単球の遺伝的欠陥を是正し、又は遺伝子ワクチンを投与するための都合のよい媒体になる可能性がある。
【0015】
このことが、当業者に容易に理解することができると、グルカンのような機能を果たすことのできる他の炭水化物を、同様にして同定し、用いることができるであろう。このような炭水化物に対する1つの容易なスクリーニングは、グルカンを陽性対照として用いて確立することができる。
【0016】
このグルカンには、β(1−3)及びβ(1−4)の混合結合をもつグルカンが含まれるが、それだけに限定されることはなく、またこのグルカンは高分子量である。このグルカンは、β(1−3)及びβ(1−6)結合も有することができる。
【0017】
本発明は、上記の組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法も提供する。前記導入の効率を評価するために、レポーター遺伝子又は他のマーカーを使用することができる。レポーター遺伝子又はマーカーは、分子生物学の分野でよく知られたものである。さらに、本発明は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、その対象に物質を導入する方法を提供する。
【0018】
本発明は、経口投与されるβ−グルカンの有効量と、1種又は複数の化学療法剤とを含む、1種又は複数の物質を経口送達するための組成物を提供する。
【0019】
一実施形態においては、このグルカンは、1,3−1,6又は1,3−1,4の混合結合、或いは1,3−1,6及び1,3−1,4の混合結合の混合を含む。他の実施形態においては、このグルカンは、化学療法剤又は抗癌抗体の効果を増強する。
【0020】
さらなる実施形態においては、このグルカンは、草、植物、キノコ、イースト、オオムギ、真菌、コムギ、又は海草に由来する。このグルカンは高分子量であることがある。このグルカンの分子量は、少なくとも10000ダルトンであることがある。
【0021】
さらなる実施形態においては、この物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、プラスミド、又は化学療法剤である。本明細書で用いられる化学療法剤には、動物の体内で疾患と闘う化学物質、又は様々な形態の癌を治療するために用いられる医薬品が含まれる。
【0022】
本発明は、上記の組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法を提供する。
【0023】
経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小分子及び化合物も、使用することができる。
【0024】
本発明は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象を治療するための方法を提供する。一実施形態において、この方法はさらにこの物質を含む。
【0025】
本発明は、上記の組成物及び遺伝的障害を正すことのできる物質の有効量を対象に投与することを含む、前記遺伝的障害のある対象を治療するための方法を提供する。この物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、プラスミド、並びに他の小分子及び化合物が含まれるが、それだけに限定されない。
【0026】
本発明は、IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0027】
本発明は、抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。サッカロミセスセレビシエ、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、上記の組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号に記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。
【0028】
一実施形態においては、抗体はモノクローナル抗体、又は癌若しくは腫瘍細胞の抗体であり、抗CEA抗体、抗CD20抗体、抗CD25抗体、抗CD22抗体、抗HER2抗体、抗テネイシン抗体、MoAb M195、ダクルジマブ(Dacluzimab)、抗TAG72抗体、R24、ハーセプチン、リツキシマブ、528、IgG、IgM、IgA、C225、エプラツズマブ(Epratuzumab)、及びMoAb3F8が含まれるがそれだけに限定されない。別の実施形態においては、抗体は腫瘍結合抗体である。
【0029】
さらに、抗体は補体を活性化することができ、且つ/又は抗体依存性で細胞が介在する細胞毒性を活性化することができる。別の実施形態においては、この抗体はT細胞又はB細胞の機能を調節する。
【0030】
さらなる実施形態においては、この抗体は、表皮成長因子受容体、ガングリオシド、例えばGD3又はGD2に対するものである。
【0031】
さらなる実施形態においては、抗体は、神経芽細胞種、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、エプスタインバー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、網膜芽細胞腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、白血病、扁平上皮癌、前立腺癌、腎細胞癌、移行上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、大腸癌、肝臓癌、胃癌、又は他の消化器系の癌を含む癌に有効である。
【0032】
さらなる実施形態においては、上記の組成物は、製薬上許容される担体中にある。
【0033】
本発明は、上記の組成物を対象に投与することを含む、対象を治療する方法を提供する。
【0034】
本発明は、ワクチンの効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)−β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。一実施形態においては、このワクチンは、癌、又は、細菌、ウイルス、真菌、若しくは寄生虫などの感染性物質に対するものである。
【0035】
本発明は、自然抗体又は感染性物質の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0036】
本発明は、宿主の免疫を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)−β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0037】
本発明は、組織の拒絶反応を予防する薬剤の作用を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。一実施形態においては、この組織は、移植片対宿主疾患における場合と同様に、移植された組織若しくは移植された臓器、又は宿主である。
【0038】
一実施形態においては、上記の組成物のグルカンは高分子量である。グルカンの分子量は、少なくとも10000ダルトンである。別の実施形態においては、グルカンは、オオムギ、カラスムギ、キノコ、海草、真菌、イースト、コムギ、又はコケ由来である。さらなる実施形態においては、このグルカンは熱処理に対して安定である。
【0039】
さらなる実施形態においては、上記の組成物は、3時間煮沸した後も安定である。上記の組成物の有効投与量は、約25mg/kg/日以上、1週間に5日で合計2〜4週間である。
【0040】
本発明は、以下の実験による説明を参照することによりさらに理解されるが、当業者であれば、特定の詳しい実験は例示的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲により定義される本明細書に記載の発明を制限することを意味するものではないことが容易に理解されよう。
【実施例】
【0041】
(実施例I)
抗GD2抗体と組み合わせたオオムギβ−グルカンのステージ4の神経芽細胞腫における第I相試験
合計24名の患者に試験を行った。これらの患者は全員小児又は青少年で、再発又は難治性であるステージ4の骨、骨髄、又は遠位のリンパ節に転移した神経芽細胞腫があり、大きな軟組織塊を有するものもある。β−グルカンの耐容性は、用量制限毒性もなく良好である。骨髄疾患(組織学検査、MIBGスキャン)、軟組織腫瘍(CT)、及び生化学的マーカー(尿中のVMA及びHVA腫瘍マーカー)に対する抗腫瘍反応が記録された。腫瘍反応の一例を、図1A及び1Bに示す。3F8プラスβ−グルカンによる一治療サイクル後の広範囲にわたる転移の完全に近い解像度を示す131I−メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)スキャンである。このような反応は、3F8単独又は3F8をサイトカインと組み合わせて治療した、難治性又は再発性であるステージ4の転移NBの患者では非常識的なことである。現在までに得られている3F8に対する反応率で最もよいものは、3F8とGMCSFとの組合せの第II相治験におけるものであり、33名中7名(21%)の小児がMIBG上の改善を達成した。これとは対照的に、3F8プラスβ−グルカンで62%(21名中13名)の評価可能な患者がMIBG上で改善し、反応率はほぼ3倍となった(χ2検定でp=0.008)。さらに、骨髄疾患のある15名の患者のうち、5名が骨髄の完全な寛解を達成し(30%)、8名が骨髄の疾患安定状態となった。
(図1を参照)
【0042】
(実施例II)
リツキシマブは、補体媒介性で抗体依存性の、細胞が媒介する細胞毒性を活性化し、B細胞リンパ腫に有効である。β−グルカンは、白血球の間で広く発現される受容体であるCR3のレクチンドメインに結合する天然に存在するグルコースポリマーであり、白血球を刺激して、抗体によって活性化されたiC3bに結合させる。オオムギ由来の(1→3),(1→4)−β−D−グルカン(BG)を経口投与すると(1日あたり400μg×29日間)、CD20陽性ヒトリンパ腫の治療で静脈投与された治療量以下の投与量のリツキシマブ(週2回200μg×8用量)と強力な相乗作用を示す。SCIDマウスに異種移植した、樹立した皮下の非ホジキンリンパ腫(NHL)(Daudi及びEBV由来B−NHL)又はホジキン病(Hs445又はRPMI6666)の増殖は、リツキシマブ又はBG単独で治療したマウスに比べて大幅に抑制された。播種性リンパ腫(Daudi及びHs445)のマウスの生存率は大幅に上昇した。治療した動物には、体重の減少又は臨床上の毒性は見られなかった。BGプラスリツキシマブに治療上の効果があり毒性がないということは、その臨床上の有用性をさらに調査することを支持している。
【0043】
(緒言)
キメラの抗CD20抗体リツキシマブは、ますます多くの障害で評価されている。再発及び難治性で濾胞性/低グレードの非ホジキンリンパ腫に対する臨床上の効果が最初に実証された後1、他の悪性及び非悪性のB細胞障害におけるリツキシマブに対する反応が報告されている2。アポトーシス経路の活性化3、サイトカインの生産4、並びに宿主の補体依存性毒性(CDC)及び抗体依存性細胞障害(ADCC)5の誘発を含む、いくつかの作用機序が提唱されている。B細胞障害を有する患者の多くはリツキシマブに反応するが、寛解は一過性であることが多い6。2回目にリツキシマブ治療に反応できかった後では、50%を超えてリンパ腫が再発する7。リツキシマブに対する耐性のメカニズムは未だに明らかではなく、標的抗原の不十分又は喪失8、個々の患者間での薬動力学的変動、FcRの多型性9、補体活性に対する耐性10、又はリンパ腫特有の遺伝子の発現11が含まれる可能性がある。
【0044】
β−グルカンは、グルコースの複雑なポリマーであり、白血球上のCR3受容体のレクチン部位に対する親和性がある12。CR3(CD11b)は、結合したβ−グルカンによって刺激を受けて補体活性化抗体により細胞上に沈着したiC3bフラグメントと結合する。この受容体は内皮を通じて白血球が漏出するのを媒介し、食作用、脱顆粒、及び腫瘍の細胞毒性を刺激する。多くの真菌は、細胞の表面にβ−グルカン又はβ−グルカン様CR3結合リガンドを提示している。このため、iC3bの沈着が起こるとCD11bもレクチン部位も塞がれ、食作用及び呼吸性バーストが誘発される13。対照的に、腫瘍細胞にはそのような分子がなく、iC3bで覆われても通常はCR3を活性化せず白血球を活性化することができない。可溶性形態のβ−グルカンはレクチン部位に結合し、食細胞及びNK細胞を刺激してiC3bで覆われた腫瘍の標的を死滅させる14。
【0045】
可溶性の、オオムギ由来のβ−グルカンである(1→3),(1→4)−D−β−グルカン(BG)は、以前に実験された(1→3),(1→6)−β−グルカンよりも有利であり、特に経口投与で有効であり安全性プロファイルが良好である15。ヒト神経芽細胞腫異種移植片に対するBGと補体結合抗体3F8とのin vivoにおける相乗作用15、16が、最近実証された。リンパ腫に対するBGとリツキシマブとの相乗作用は、ここで報告される。
【0046】
(研究デザイン)
細胞系:
ヒトBurkittリンパ腫細胞系、Daudi、並びにホジキン病(HD)細胞系Hs445及びRPMI6666を、American Type Culture Collection(メリーランド州、Rockville)より購入した。ヒトEBV−BLCLは、以前に記載の方法17を用いて樹立した。
【0047】
マウス:
Fox Chase ICR SCIDマウス(ニューヨーク州、White Plains、Taconic製)を、機関で承認されたガイドライン及びプロトコールのもとで飼育した。
【0048】
腫瘍モデル:
Matrigel(ニュージャージー州、Franklin Lakes、Beckton−Dickinson製)0.1mlに懸濁した5×106個の細胞をマウス側腹内に注射して皮下腫瘍を樹立した。1週間に2から3回腫瘍の寸法を測定し、2つの最大直径の積として腫瘍の大きさを計算した。最大腫瘍寸法が20mmを超えた時にマウスを屠殺した。以前に記載されたようにして18、SCIDマウスで播種性腫瘍モデルを樹立した。簡潔に述べると、通常の生理食塩水100μlに懸濁したDaudi又はHs445細胞5×106個を、SCIDマウスに静脈注射した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又はその体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。
【0049】
治療レジメン:
皮下腫瘍を有するマウスに、腫瘍が樹立した後(直径7〜8mm)治療を開始した。播種性腫瘍のモデルでは、腫瘍細胞を注入した10日後に治療を開始した。治療レジメンあたり少なくとも5匹のマウスの群にリツキシマブ、BG、又はその両方を与え、或いはどちらも与えなかった。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genetech製)200μgを週2回全8投与で静脈注射し、且つBG(ミズーリ州、St Louis、Sigma製)400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。動物は毎週体重を測定し、少なくとも1日1回は臨床上の観察を行った。
【0050】
統計分析:
個々のマウスそれぞれに対し腫瘍の大きさの対数変換値に回帰直線を当てはめることにより、腫瘍の増殖を計算した。調べた観測値について以前に記載されている方法19を用いて、t検定を用いて群間で直線を比較した。Kaplan−Meier分析法を用いて播種性疾患のマウスの生存率を比較し、死亡の割合をFisherの厳密χ2検定により比較した。分析は、STATA7を用いて行った。
【0051】
結果と考察
皮下の異種移植片モデルのすべてにおいて、リツキシマブ及びBGの組合せで治療したマウスの腫瘍増殖に有意の減少が認められた。リツキシマブ単独で治療したマウスでは、腫瘍の増殖は少々減少を示したが、BG単独治療又は非治療のものでは、腫瘍の増殖は衰えなかった(図1A、1B、1C)。組合せ療法で治療したもの以外の腫瘍はすべて、20mmの大きさを超えて増殖し、マウスを屠殺しなければならなかった。組合せ治療を受けたマウスは、治療を中止した後でも腫瘍の抑制は続いた。治療に対しダミー変数を用いた腫瘍増殖速度の多変数線形モデルでは、BGとリツキシマブとの相互作用は陽性で大きく、相乗作用があることを実証している。
【0052】
播種性の異種移植片では、NHL及びHDモデルの両方に対し、生存率の点で組合せ群と対照群との間に有意差があった(ログランク検定で、p<0.005)(図2)。BG及びリツキシマブの組合せで治療した播種性のDaudi及びHs445腫瘍を有するマウスの、それぞれ5匹/38匹及び2匹/8匹が、治療中止後12ヶ月を超えて生存し、疾患が完全に根治したことを示唆していた。対照的に、それぞれの群でリツキシマブ単独を与えたマウスの生存率は0/29匹及び0/8匹であった(生存率15%対0%;χ2=0.01)。大幅な体重の減少、又は他の臨床上明らかな有害作用はなかった。固定して透過性にした末梢血液の白血球内で免疫蛍光法により細胞内からBGを検出することができたという事実から、BGが吸収されていることを推測することができる(データは示さず)。
【0053】
これらの実験では、CD20陽性のリンパ腫のタイプに関係なく、BGとリツキシマブとの相乗作用は高度に有意であった。Daudi異種移植片の反応がHs445に比べて改善したのは、前者の方がCD20の発現が高いことによるのかもしれない(相乗平均蛍光のチャンネルは、Hs445で184であったのに比べ、Daudiでは241であった)。細胞1個を懸濁した免疫蛍光法の実験又は凍結切片の間接的免疫組織化学的実験により、進行した腫瘍でCD20の発現を調べたところ、リツキシマブ、BG単独、又はリツキシマブ+BG処理の群間で有意差は認められず(データは示さず)、リツキシマブ+BGの処理がCD20の喪失とは関連がないことが示唆された。
【0054】
他の補体活性モノクローナル抗体とBGとの相乗作用15、16は、以前に実証された。本データは、この観察をリツキシマブにまで拡張している。CDCはリツキシマブの細胞毒性にとって重要なメカニズムであると考えられている。げっ歯類の補体は、ヒトの補体調節タンパク質(mCRP)によって効果的に抑制されることはない。したがって、CDCは、異種移植片モデルにおいて有効な抗腫瘍のメカニズムである可能性がある。しかし実験では、抗体の治療量以下の投与量では、リツキシマブが媒介するADCC及びCDCは、腫瘍細胞を死滅させる作用には十分ではなかった。BGはADCCに対し直接作用がないため20、この相乗作用はiC3bが媒介する腫瘍の細胞毒性の結果であることはほぼ間違いない。リンパ腫の細胞は、CD46、CD55、及びCD59を含むmCRPを発現する10、21。しかし、iC3bが媒介する細胞毒性はCD59の存在による影響を受けず、CD59はMACが媒介する補体の細胞毒性のみに影響を及ぼす22。さらに、ヒトの乳癌腫瘍では、mCRPが存在してもiC3bが沈着することが実証されており23、MACに対する阻害作用とは異なりiC3bが媒介する腫瘍の細胞毒性に対する作用は絶対ではないことが示唆される。
【0055】
この相乗作用がヒトで安全に再現することができれば、iC3bが媒介する細胞毒性は、B細胞の悪性腫瘍を有する患者でリツキシマブの耐性を克服するための有効な戦略になると思われる。T細胞もB細胞もこの相乗作用には必要とされていないため、免疫無防備状態のリンパ腫の患者でもBGは有効に働く可能性がある。さらに、自己免疫障害の患者では、この非毒性の経口治療法によりB細胞の枯渇が増強される可能性がある。その反面、β−グルカンはTNF−α及びIL−6などのサイトカインの放出を亢進することがあり24、リツキシマブの急性毒性もまた、補体の活性化に付随したサイトカインの放出に関係があるため25、BGとリツキシマブとを組み合わせて用いると毒性が上昇する可能性がある。B細胞の障害の治療において、及びその他の癌の抗体に基づいた治療において、リツキシマブ治療の補助剤としてBGを開発する上でその安全性及び効果を明確にするためには、注意深く計画された第I相の実験が必要である。
(参考文献1)
【0056】
(実施例III)
オオムギのβ−グルカン抽出物がIgM抗体と相乗作用をする
ヒト血清由来の天然IgM抗体をi.v.で投与すると、ヒト神経芽細胞腫(NB)細胞に細胞毒性があり、ヌードラットにおける皮下の固形ヒトNB異種移植片の増殖停止をもたらした(1、2)。IgMは腫瘍に取り込まれ、大量の血管周囲の補体を活性化し、24時間後に顆粒球を蓄積させた(3)。転移NBモデルでは、IgM抗体は90%のマウスの腫瘍を排除するのに有効であった(4)。幼児期の間及び(あらゆる年齢の)NB患者の間にはこの抗NBIgM抗体が存在せず、これが12月齢後に優勢になることから、天然IgM抗体がNBに対する免疫学的制御メカニズムとしての役割を果たす可能性があるという仮説が持ち上がっている(5)。3G6は、抗GD2マウスIgMモノクローナル抗体(MoAb)である。ビオチン化3G6をi.v.注射後48時間以内に、皮下のNB異種増殖片では腫瘍細胞の膜が染色されることが示された。3G6は、IgGのMoAbである3F8(149±44、n=7)に比べると蛍光発光の平均は低かったが(53±19蛍光発光チャンネル単位、マウスn=7)、3G6にβ−グルカンを加えたものは皮下のヒトNBに対し有効であり(p<0.05)、用量反応曲線(図4)は3F8のものに匹敵していた。これらの結果は、ヒト天然抗NB IgMを使用したときのものと一致していた(1、2)。これらのデータは、β−グルカンはIgGが誘導するワクチンだけでなく、IgMが誘導するワクチンも増強することができるという考えを支持する。
(参考文献2)
【0057】
(実施例IV)
パン酵母(サッカロミセスセレビシエ)からの(1→3),(1→6)β−グルカンも癌の抗体療法を増強するのに有効である
Matrigel(Sigma製)100μlに懸濁したLAN−1腫瘍細胞(2×106個)を、皮下接種した。腫瘍の寸法をノギスを用いて1週間に2から3回測定し、2つの最長の直行する直径の積として腫瘍の大きさを計算した。腫瘍の直径が0.7から0.8cmに達した時に、4〜5匹のマウスの群での治療実験をすべて開始した。マウスは、抗体(3F8又は3G6)治療(1日あたり200μg)をi.v.(尾部静脈注射により)で週2回×5用量受け、且つ経口のβ−グルカン(1日あたり400μg)の投与を胃内注射で毎日、全14〜18日間受けた(図5及び6を参照)。
【0058】
サッカロミセスセレビシエ、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、先に述べた組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号で記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。可溶性β−1,3/1,6グルカン又はBiotec Pharmacon(ノルウェー)が製造するSBGなどのβ−グルカンも、使用することができる。
【0059】
同様の実験で、皮下リンパ腫モデルを実験した。ここでは細胞5×106個をMatrigel(ニュージャージー州、Franklin Lakes、Becton−Dickinson製)0.1mlに懸濁し、マウスの側腹部に接種した。腫瘍の寸法を1週間に2から3回測定し、2つの最長の直径の積として腫瘍の大きさを計算した。腫瘍の最大寸法が20mmを超えたときに、マウスを屠殺した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)200μgを週2回、全8回静脈注射し、グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは毎週体重測定し、少なくとも1日1回臨床上の観察を行った。腫瘍の反応率、及び完全な寛解を達成したマウスのパーセント値は、オオムギグルカンとイーストグルカンとの間では双璧であった。この一連の皮下腫瘍モデルにより、高分子量の(>10000ダルトン)可溶性のイーストの(1→3),(1→6)β−グルカンは、オオムギの(1→3),(1→4)β−グルカンと同等に強力であることが示された。その上、イーストのグルカンの供給源及び物理的形態は、有意な相違をもたらす可能性がある。
【0060】
転移リンパ腫モデルの実験も行った。上記のようにSCIDマウスに播種性腫瘍のモデルを樹立した(1)。簡潔に述べると、Daudi細胞5×106個を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(i.v.)した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。腫瘍細胞の注射10日後に治療を開始した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)40μgを週2回、全8回静脈注射し、グルカン400μを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは毎週体重測定し、少なくとも1日1回臨床上の観察を行った。(図7を参照)
【0061】
ここでも、オオムギグルカンもイーストグルカンも、リツキサン(Rituxan)と組み合わせると匹敵する効果を示した。オオムギグルカンもイーストグルカンも、単独で使用したときは生存率に対しいかなる作用もなかった(データは示さず)。
(参考文献3)
【0062】
(実施例V)
経口投与されたβ−グルカンが抗腫瘍モノクローナル抗体とともに腫瘍の寛解を媒介する働きをするメカニズム(1)。
野生型(WT)C57B1/6マウスに対し、CR3欠損(CD11b−/−)又はC3欠損(C3−/−)のいずれかのC57B1/6マウスの同系腫瘍(GD2+RMA−S)を用いると、MoAb単独では腫瘍の寛解を誘発しなかったが、i.v.の抗GD2 MoAbと経口のオオムギ又はイーストのβ−グルカンとの組合せでは、WTでは大幅な寛解が誘発されたが、CR3欠損マウスでは誘発されなかった。さらに、i.v.のMoAbと経口のβ−グルカンとの組合せ療法では、WTマウスでは60〜100%で腫瘍なしで生存し、CR3欠損マウスでは生存率は0〜20%にすぎなかった。これらの実験により、特に経口のオオムギのβ−グルカンを抗腫瘍MoAbとともに投与するときには、抗腫瘍作用を表すには白血球のCR3がほぼ絶対的に必要であることが実証された。WTをCR3欠損マウスと比較した治療のプロトコールにより、同様に、経口のβ−グルカン療法には血清C3が必要なことが示された。オオムギのβ−グルカン及びイーストのβ−グルカンを蛍光ラベルし(BG−F及びYG−F)胃内注射によりマウスに与えたところ、β−グルカンのトラフィッキングが起こった。BG−F又はYG−Fを毎日経口投与したところ、3日以内に脾臓及びリンパ節のマクロファージが蛍光ラベルされたβ−グルカンを含むようになった。4日後に骨髄のマクロファージでもYG−F及びBG−Fが観察された。WT対CR3欠損マウスのYG−F及びBG−Fの取込みを比較したところ、摂取されたβ−グルカン−Fを含むマクロファージのパーセント値にも、細胞あたりのβ−グルカン−Fの量にも差は見られなかった。したがって、消化管のマクロファージによるオオムギ及びイーストのβ−グルカンの取込みにはCR3は必要とされず、その代わりにデクチン(Dectin)−1によって媒介される可能性がある(2)。in vitro及び骨髄のマクロファージは、オオムギ及びイーストのβ−グルカンの大分子を、生物学的活性のあるより小型のβ−グルカンの断片に分解することができ、その後この断片を放出する。
【0063】
マクロファージが放出した可溶性のβ−グルカン−Fが本当に骨髄の顆粒球に取り込まれたのか確定するために、10日間YG−F又はBG−Fを与えたWT又はCR3欠損マウスにチオグリコレート培地をi.p.注射し、骨髄顆粒球の辺縁プールを腹腔内に誘発した。WTの顆粒球だけが、マクロファージから放出されたYG−F及びBG−Fを収拾することができた。これらのデータにより、消化管のマクロファージがβ−グルカンを連続的に摂取し、β−グルカンを骨髄に運び、骨髄で可溶性の分解フラグメントが放出され膜のCR3を介して顆粒球に取り込まれることが示唆される。経口でβ−グルカンを投与されたWT及びCR3欠損マウスから腹腔の顆粒球を分離すると、in vitroではWTの顆粒球だけがiC3bで覆われた腫瘍細胞を死滅させることができた。これらの実験が示すのは、骨髄の顆粒球及び組織のマクロファージは、膜のCR3に結合した可溶性のβ−グルカンを消化管マクロファージから獲得し、この結合したβ−グルカンは顆粒球及びマクロファージ両方のCR3を初回抗原刺激して、炎症部位に誘導されるとiC3bで覆われた腫瘍細胞を死滅させることができるようにすることである。
(参考文献4)
【0064】
(実施例VI)
可溶性のβ−グルカンをプラスミドのパイプ役として用いることができる。
DNA、RNA、及びタンパク質を経口的に送達する上の大きな障害は、胃内の環境が酸性でタンパク質分解性であること、並びにGALTによるタンパク質の取込みが限られていることである。パイエル板内のM細胞、及び食細胞は、微粒子を取り込むための優力な媒体であると考えられている。しかし、ナノ粒子も傍細胞メカニズム1、2を介して、及びトランスサイトーシス3によってGALTに接近することができる。どちらの場合でも、細胞上の受容体に対する粘膜付着特性又は親和性のある粒子を用いて、観察される粒子の取込みを向上させることができる。ナノ粒子が粘膜付着性であることを作り上げるために、多くのポリマーが使用されている。その中に、アルギン酸、カラギーナン、及びペクチンがある。これらの材料は、ナノ粒子におけるコアポリマーとして用いることが多かったが、これらのポリマーに対する特異的な受容体は同定されておらず、取込みの効率は最適状態には及ばないままである。デクチン−1は、今ではβ−グルカンの万能な受容体として知られており、単球及び食細胞を含む多くのヒトの組織で見出されている。高分子量のβ−グルカンのゲル化特性により、RNA、DNA、及びタンパク質を包埋することが可能になる。糖類は酸性条件に対する耐性が高いので、酵素、タンパク質、RNA、及びDNAは保護されたままで消化管を通過する。デクチン−1受容体のβ−グルカンに対する高い親和性によって、これらの物質は身体の残りの部分への潜在的な媒体として食細胞中に導入される可能性がある。
【0065】
pEGP−C1ベクター(図8を参照)をBD Bioscience(カリフォルニア州、Palo Alto)から購入し、製造元の指示に従って調製した。pEGFP−C1は、哺乳動物の細胞内でのより明るい蛍光及びより高い発現について最適化された野生型GFP(1−3)の赤方偏移変異体をコードしている。(励起波長最高=488nm、発光波長最高=507nm)。ベクターのバックボーンは、また、SV40T抗原を発現する場合にのみ、哺乳動物の細胞中に複製用のSV40の起源を含んでいる。このカセットの上流の細菌のプロモータは、大腸菌(E.coli)ではカナマイシン耐性を発現する。pEGFP−C1バックボーンは、一重鎖DNAを産生するための、大腸菌及びf1起源における繁殖のための複製のpUC起源も提供する。
【0066】
pEGFP−c1プラスミド50μgをβ−グルカン(〜200000ダルトン)400μgに混合し生理食塩水100μlに加えたものを経口胃管栄養法によりマウスに摂取させ、対照のマウスにはプラスミドを単独で与えた。3日間連続で(1、2、及び3日目)経口で摂取させた。尾部静脈より血液50μlを採取しRBCを溶血させた後FCAS分析により分析し、全単球数中のGFPを発現する細胞数の%を記録した。グルカン群対非グルカン群(1群あたりのマウスのn=4〜9)の緑色細胞の平均%比率を図9に示す。14日間の実験を通して、非グルカン群の緑色単球の%は、バックグラウンドレベルで一定であった。一方、経口胃管栄養法の1日目以降に、循環する緑色単球の%は一貫により高く、8日目頃に最高になった。GFPは通常マウスの単球中には見られないので、緑色細胞が存在したということはGFPタンパク質が発現し、それに続き血液中を循環する単球の中にプラスミドが入ったことに整合する。
【0067】
より高分子量で(〜350000ダルトン)ゲル化特性のより良好なオオムギのβ−グルカンを用いて、この実験を繰り返した。図10では、同様の動力学が見られ、緑色細胞のパーセントはより高く、それが8日目から11日目まで続いた(1群あたりマウスのn=4)。
【0068】
定量的逆転写PCR分析を用いてGFPmRNAの存在を調べた。pEGFP−c1プラスミド50μgを高分子量のβ−グルカン(〜350000ダルトン)400μgに混合し生理食塩水100μlに加えたものを経口胃管栄養法によりマウスに摂取させ、対照のマウスにはプラスミドを単独で与えた。末梢血液50μlを用いて全RNAを抽出し、逆転写し、以前に記載されている方法の修飾を用いて定量的リアルタイムPCRを行った4。内部標準としてハウスキーピング遺伝子マウスGAPDHを使用する。既知のGFP及びGAPDH標準を用いて、転写レベルを計算する。GFP及びGAPDHに対し個々に転写単位を計算し、結果はGAPDHに対するGFPの比として計算される。図11では、平均RNAレベル(GFP/GAPDH)は、グルカン群対非グルカン群(1群あたりマウスのn=4)の比で表される。GFPmRNAは、10日目まで検出された。
(参考文献5)
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】患者における転移の神経芽細胞腫の治療においてオオムギ(1→3),(1→4)−β−D−グルカンに抗体を加えたもの。多数の化学療法の治療レジメンに対して難治性の転移の神経芽細胞腫を有する患者の治療前及び治療後のMIBGスキャン。患者に、抗GD2抗体3F8の静脈注射(10mg/m2/日)を全10日間、それに加えて同じ期間にわたり経口のオオムギのβ−グルカンを投与した。図1Aは、患者のベースライン時のMIBGスキャンを示す。広範囲の骨転移が、大腿、腓骨、骨盤、肋骨、左肩甲骨、右鎖骨、上腕、頭蓋、及び脊柱に見られる。心臓、肝臓、胃、及び大腸の取込みは生理的である。図1Bに、同じ患者に3F8にグルカンを加えたもので1サイクルの治療を行った2ヵ月後のMIBGスキャンを示す。転移部位は、大幅に改善されている。
【図2】SCIDマウスにおける皮下ヒトリンパ腫異種移植片の治療におけるオオムギの(1→3),(1→4)β−D−グルカンに抗体を加えたもの。樹立された皮下のDaudi(n=9)(図2A)、Hs445(n=5)(図2B)、EBV誘導LCL(n=9)(図2C)、及びRPMI6666(n=10、データは示さず)の異種移植片を有するSCIDマウスに、リツキシマブ200μgを週2回8用量静脈注射したもの(■)、(1→3),(1→4)β−D−グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法で経口投与したもの(△)、又はリツキシマブと(1→3),(1→4)β−D−グルカンとの組合せ(x)、或いは非処置(◆)。腫瘍の増殖パーセントをy軸に、治療開始後の日数をx軸上にプロットした。エラーバーは、SEMを表しており、リツキシマブ単独及び組合せ群にのみ示されている。異種移植片すべてに対して、組合せ治療だけが腫瘍の増殖の減少に関係していた。リツキシマブに加えてβ−グルカンを摂取した群における1日あたりの腫瘍増殖の減少率は、リツキシマブ単独でDaudiに対し2.0%(95%CI 1.3〜2.7%;p<0.0005)であったのに比べ、異種移植片EBV誘導LCLで0.8%(95%CI 0.4〜1.2%;p<=001)、Hs445で2.2%(95%C.I.1.2〜3.2%;p=0.0009)、及びRPMI6666で1.8%(95%CI 1.0〜2.7%;p<0.0002;データは示さず)であった。
【図3】SCIDマウスにおける播種性ヒトリンパ腫異種移植片の治療におけるオオムギの(1→3),(1→4)−β−D−グルカンに抗体を加えたもの。Daudi細胞(図3A)又はHs445細胞5×106個を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(IV)した。リツキシマブ200μgを週2回8用量静脈注射(破線)、(1→3),(1→4)D−β−グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法で経口投与(点線)、又はリツキシマブと(1→3),(1→4)D−β−グルカンとの組合せ(実線)、或いは非処置(太線)で、腫瘍移植10日後にマウスの治療を開始した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。図2A(Daudi)、及び2B(Hs445)に、様々な群に対するKaplan−Maier法の生存曲線を示す。(1→3),(1→4)−D−β−グルカンとリツキシマブとの組合せで治療したマウスは、他の治療群すべてと比較して(Daudiでp<0.0005、及びHs445でp=0.001)、又はリツキシマブ単独と比較して(Daudiでp<0.0005、及びHs445でp=0.01)生存率は有意に上昇した。非治療群、リツキシマブ単独群、BG群、及びリツキシマブ+BG群のマウスの生存率の中間値は、Daudi異種移植片でそれぞれ27、71、43、及び124日、並びにHs445異種移植片でそれぞれ12、16、31、及び243日であった。
【図4】ヒト神経芽細胞種の治療におけるオオムギのβ−グルカンの存在下での3G6(抗GD2IgM抗体)の用量反応曲線を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞を200万個、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3G6群(黒塗り四角)を、週2回、3G6 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で治療した(M及びTh)。3G6+BG群は、週2回、i.v.の3G6 200μgに加えて全14〜18日間毎日経口のβ−グルカン(BG)400μgを胃管栄養法により投与して治療した。3G6は、3つの異なる用量で投与した(白抜き三角は用量あたり8μg、白抜き四角は40μg、白抜き丸は200μg)。BG群(黒塗り丸)は、経口のβ−グルカン400μgを単独で投与した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表し、分かりやすくするために4群のみに描いた。BG単独及び3G6単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、BG+3G6 200μg群は、高度に有意の腫瘍の縮小及び抑制を示し、3G6に用量依存であった(p<0.05)。
【図5】イースト(1→3),(1→6)−β−D−グルカンの存在下で3G6(抗GD2IgM抗体)を用いたヒト神経芽細胞腫の治療を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞200万個を、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3G6群(黒塗り四角)を、3G6 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で全部で週2回合計5用量で治療した(M及びTh)。粒状のイーストグルカン群(黒塗り三角)は、経口の粒状イーストグルカン400ugを単独で投与した。3G6+全イースト微粒子(白抜きひし形)は、ivの3G6 200μgを週2回に加えてイースト粒子400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3G6+可溶性イーストグルカン群は、ivの3G6 200μgを週2回に加えて可溶性イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3G6+粒状イーストグルカン群は、ivの3G6 200μgを週2回に加えて粒状イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表し、分かりやすくするために4群のみに描いた。グルカン単独及び3G6単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、可溶性及び粒状イーストグルカンを3G6群と組み合わせると、高度に有意な腫瘍の縮小及び抑制が示された(p<0.05)。
【図6】オオムギ及びイーストのβ−グルカンの存在下で3F8(抗GD2IgG抗体)を用いたヒト神経芽細胞種の治療を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞200万個を、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3F8群(黒塗りひし形)は、3F8 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で週2回全5用量の治療をした(M及びTh)。オオムギグルカン群(黒塗り四角)は、オオムギグルカンを単独で400μg投与した。3F8+オオムギグルカン群(白抜きひし形)は、ivの3F8 200μgを週2回に加えてオオムギグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3F8+可溶性イーストグルカン群(白抜き四角)は、ivの3F8 200μgを週2回に加えて可溶性イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与し治療した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表している。グルカン単独及び3F8単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、オオムギ及び可溶性イーストグルカンを3F8群と組み合わせたると、高度に有意な腫瘍の縮小及び抑制が示された(p<0.05)。
【図7】リツキサン、及びオオムギ又はイーストのβ−グルカンを用いたSCIDマウスにおける播種性ヒトリンパ腫の治療を示す図である。Daudi細胞5×10e6を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(IV)した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺の開始時、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。腫瘍細胞の注射後10日目に治療を開始した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)40μgを週2回全8投与静脈注射し、グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは、毎週体重を測定し、少なくとも1日1回は臨床上の観察を行った。リツキサンプラスオオムギグルカン、又はリツキサンプラスイースト可溶性グルカンを投与されたマウスは、高度に有意の生存率の延長が見られた(p<0.05)。
【図8】BD Biosciences(カリフォルニア州Palo Alto)より購入したpEGP−C1ベクターを示す図である。
【図9】グルカンが単球への遺伝子トランスファーを促進することを示す図である。
【図10】より高分子量のβ−グルカン及び遺伝子トランスファーを示す図である。
【図11】循環している単球中にGFPmRNAが存在することを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年7月16日出願の米国特許出願第10/621027号の一部継続出願であり、その内容の全体を本出願に参照として援用する。
【0002】
本出願の全体にわたり、様々な参考文献を引用する。これら刊行物の開示は、本発明が関連する技術水準をより完全に記述するために、その全体を本出願に参照として援用する。
【0003】
本明細書での開示は、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法に関する。本発明の1つの態様は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象に物質を導入する方法を提供する。経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、化学療法剤、生物活性物質、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小型分子及び化合物も用いることができる。本発明の別の態様は、IgM抗体の効果を増強することのできる経口投与されるβ−グルカンを含む組成物である。
【背景技術】
【0004】
サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cervisiae)、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、上記の組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号に記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。
【0005】
β−グルカンは、40年近くの間、マウスにおいて腫瘍治療について試験が行われている1、2。日本では、PSK(カワラタケ(Coriolus vesicolor)由来)、レンチナン、シゾフィランなど、いくつかの形態のキノコ由来のβ−グルカンが、癌の治療のために臨床的に使用されている。日本における無作為化試験では、PSKは、原発性腫瘍を摘出するための胃切除3、4、直腸手術5、6、及び食道切除7の後のいくつかの癌の試験において、生存率をそれほど高くはないが有意に上昇させている。乳癌8、9、及び白血病10では、結果はあまり有望ではなかった。シゾフィランは、手術可能な胃癌11、手術不可能な胃癌12、13、及び子宮頸癌14の患者の生存率を上昇させている。やはり、群間の生存率には統計学的に有意差があったが、この上昇は大きくなかった。β−グルカンは西洋の腫瘍学者には広くは使われていないが、レイシ(Reishi)及びマイタケ15などのβ−グルカンを含む植物性医薬品は、代替/補足的癌療法として米国の癌患者に広く使われている。β−グルカンの治療効果を探索していたこれらの以前の研究には、試験計画の一部として治療用のモノクローナル抗体(MoAb)の同時投与は組み込まれていなかった。ヒトの腫瘍の強力なオプソニンとして働くiC3bを沈着させるには抗体が必要であるという証言が増えている。MoAbを同時投与しないでβ−グルカンを投与する場合に、β−グルカンの腫瘍細胞毒性作用を発揮させるには天然に存在する抗腫瘍抗体の存在が必要であるが、これは患者間で、また実験用マウス間においてさえも非常に変動することがある。
【0006】
癌特異性抗体と組合せたときのβ−グルカンの抗腫瘍作用については、以前に記載されている。以前の研究では、オオムギ又はカラスムギ由来の経口投与したβ−グルカンが、異種移植片モデルにおける抗腫瘍モノクローナル抗体の抗腫瘍活性を大いに増強できることが示されている。「治療を増強するグルカン(Therapy−Enhancing Glucan)」、2002年1月15日出願、国際公開第PCT/US02/01276号;Cheungら、「神経芽細胞種の治療において経口の(1−3),(1−4)−β−グルカンが抗ガングリオシドGD2モノクローナル抗体3F8と相乗作用をする(Oral (1−3),(1−4)−beta−glucan syngergizes with anti−ganglioside GD2 monoclonal antibody 3F8 in the therapy of neuroblastoma)」、Clin Cancer Res.2002年、8巻、1217〜1223頁;Cheung NKら、「経口投与されたβ−グルカンがモノクローナル抗体の抗腫瘍作用を増強する(Orally administered beta−glucans enhance anti−tumor effects of monoclonal antibodies)」、Cancer Immunol Immunother.、2002年、51巻、557〜564頁を参照されたい。第I相の臨床治験は、オオムギのβ−グルカンが転移癌に対する抗体の作用を増強する可能性があるという予想を支持している。以前に述べられたように、(1→3),(1→6)−β−D−グルカンであるレチナンもラミナリンもオオムギのグルカンほど有効ではなかった16。更に、(1→3),(1→4)−β−D−グルカンのなかでも小分子量の製剤及びリケナンも、それほど有効ではなかった。β−グルカンの分子の大きさ及び微細構造が、腫瘍に対する抗体の相乗作用に大きな影響を及ぼすのかもしれない。
【0007】
欧州及び米国では、特にパン酵母に由来するβ−グルカンが、動物用の飼料添加物として、ヒトの栄養補助食品として17、傷の治療に18、また皮膚用クリーム製剤の有効成分として長い間用いられている。β−グルカンの基本的な構造単位は、β(1→3)結合グルコシル単位である。供給源及び分離方法に応じて、β−グルカンは、側鎖に様々な程度の分枝及び結合を有する。側鎖の頻度及びヒンジ構造が、その免疫調節作用を決定する。真菌及びイースト起源のβ−グルカンは、通常水に不溶であるが、酸加水分解により、又はリン酸、硫酸、アミン、カルボキシメチル、などの荷電した基を分子に導入する誘導体化により可溶化することができる19、20。
【0008】
(1→3)−β−D−グルカン単位が基本骨格を形成し、側鎖が(1→6)−β−D−グルカンのヒンジに位置する(1→3)−β−D−グルカン単位により作られる分子構造を有する可溶性グルカンが、パン酵母であるサッカロミセスセレビシエから分離された。高分子量の断片
【化1】
が得られ、腫瘍モデルにおけるモノクローナル抗体との相乗作用について試験された。可溶性のイーストのβ−グルカンの抗腫瘍作用は、以下に詳しく述べるようにヒトの癌に特異的なモノクローナル抗体と組合せると、可溶性のオオムギのβ−グルカンの抗腫瘍作用に匹敵することが見出された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法を提供する。
【0010】
本発明の別の態様は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象に物質を導入する方法である。経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、化学療法剤、生物学的活性のある薬剤、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小型の分子及び化合物も用いることができる。
【0011】
本発明のさらなる態様は、IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与されるβ−グルカンを含む組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、適切な量の炭水化物を含む物質の経口摂取用の組成物を提供する。一実施形態においては、この炭水化物はグルカンである。
【0013】
グルカンを経口投与すると、マクロファージ及び単球に取り込まれ、それらによってこの炭化水素は骨髄及び細網内皮系に運ばれ、そこから適切に加工された形態で好中球を含む骨髄細胞上、及びナチュラルキラー(NK)細胞を含むリンパ細胞上に放出される。この加工されたグルカンは、これらの好中球及びNK細胞上のCR3に結合し、腫瘍特異性抗体の存在下で、腫瘍細胞毒性の点でこれらを活性化する。
【0014】
マクロファージ及び単球は消化管からグルカン(可溶性であろうと、ゲルであろうと、粒子であろうと)を取り入れるので、グルカンは遺伝子治療にとって有効な案内役になる可能性がある。DNA又はプラスミドはタンパク質とは異なり、比較的熱に安定であり、室温又は体温に冷却されるとゲル化する加温で可溶性のオオムギグルカンに容易に組み込むことができる。マウスにこのDNA−グルカン複合体を摂取させると、数日以内に末梢血液の単球及びマクロファージ中にレポーター遺伝子を検出することができる。さらに重要なのは、これらのレポーター遺伝子は、このDNA複合体を摂取した数日後にこれらの細胞中で発現される。これらの発見には、潜在的に生物学的な示唆を含む。グルカン及び同様の炭水化物は、DNA又はプラスミドがヒトの体内に入るための有効な案内役になる可能性がある。経口のグルカンは、マクロファージ/単球の遺伝的欠陥を是正し、又は遺伝子ワクチンを投与するための都合のよい媒体になる可能性がある。
【0015】
このことが、当業者に容易に理解することができると、グルカンのような機能を果たすことのできる他の炭水化物を、同様にして同定し、用いることができるであろう。このような炭水化物に対する1つの容易なスクリーニングは、グルカンを陽性対照として用いて確立することができる。
【0016】
このグルカンには、β(1−3)及びβ(1−4)の混合結合をもつグルカンが含まれるが、それだけに限定されることはなく、またこのグルカンは高分子量である。このグルカンは、β(1−3)及びβ(1−6)結合も有することができる。
【0017】
本発明は、上記の組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法も提供する。前記導入の効率を評価するために、レポーター遺伝子又は他のマーカーを使用することができる。レポーター遺伝子又はマーカーは、分子生物学の分野でよく知られたものである。さらに、本発明は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、その対象に物質を導入する方法を提供する。
【0018】
本発明は、経口投与されるβ−グルカンの有効量と、1種又は複数の化学療法剤とを含む、1種又は複数の物質を経口送達するための組成物を提供する。
【0019】
一実施形態においては、このグルカンは、1,3−1,6又は1,3−1,4の混合結合、或いは1,3−1,6及び1,3−1,4の混合結合の混合を含む。他の実施形態においては、このグルカンは、化学療法剤又は抗癌抗体の効果を増強する。
【0020】
さらなる実施形態においては、このグルカンは、草、植物、キノコ、イースト、オオムギ、真菌、コムギ、又は海草に由来する。このグルカンは高分子量であることがある。このグルカンの分子量は、少なくとも10000ダルトンであることがある。
【0021】
さらなる実施形態においては、この物質は、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、プラスミド、又は化学療法剤である。本明細書で用いられる化学療法剤には、動物の体内で疾患と闘う化学物質、又は様々な形態の癌を治療するために用いられる医薬品が含まれる。
【0022】
本発明は、上記の組成物を細胞に接触させることを含む、物質を前記細胞内に導入する方法を提供する。
【0023】
経口送達できる物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、及びプラスミドが含まれるが、それだけに限定されない。他の小分子及び化合物も、使用することができる。
【0024】
本発明は、上記の組成物の有効量を対象に投与することを含む、対象を治療するための方法を提供する。一実施形態において、この方法はさらにこの物質を含む。
【0025】
本発明は、上記の組成物及び遺伝的障害を正すことのできる物質の有効量を対象に投与することを含む、前記遺伝的障害のある対象を治療するための方法を提供する。この物質には、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、プラスミド、並びに他の小分子及び化合物が含まれるが、それだけに限定されない。
【0026】
本発明は、IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0027】
本発明は、抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。サッカロミセスセレビシエ、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、上記の組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号に記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。
【0028】
一実施形態においては、抗体はモノクローナル抗体、又は癌若しくは腫瘍細胞の抗体であり、抗CEA抗体、抗CD20抗体、抗CD25抗体、抗CD22抗体、抗HER2抗体、抗テネイシン抗体、MoAb M195、ダクルジマブ(Dacluzimab)、抗TAG72抗体、R24、ハーセプチン、リツキシマブ、528、IgG、IgM、IgA、C225、エプラツズマブ(Epratuzumab)、及びMoAb3F8が含まれるがそれだけに限定されない。別の実施形態においては、抗体は腫瘍結合抗体である。
【0029】
さらに、抗体は補体を活性化することができ、且つ/又は抗体依存性で細胞が介在する細胞毒性を活性化することができる。別の実施形態においては、この抗体はT細胞又はB細胞の機能を調節する。
【0030】
さらなる実施形態においては、この抗体は、表皮成長因子受容体、ガングリオシド、例えばGD3又はGD2に対するものである。
【0031】
さらなる実施形態においては、抗体は、神経芽細胞種、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、エプスタインバー関連リンパ腫、ホジキンリンパ腫、網膜芽細胞腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、白血病、扁平上皮癌、前立腺癌、腎細胞癌、移行上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、大腸癌、肝臓癌、胃癌、又は他の消化器系の癌を含む癌に有効である。
【0032】
さらなる実施形態においては、上記の組成物は、製薬上許容される担体中にある。
【0033】
本発明は、上記の組成物を対象に投与することを含む、対象を治療する方法を提供する。
【0034】
本発明は、ワクチンの効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)−β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。一実施形態においては、このワクチンは、癌、又は、細菌、ウイルス、真菌、若しくは寄生虫などの感染性物質に対するものである。
【0035】
本発明は、自然抗体又は感染性物質の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0036】
本発明は、宿主の免疫を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)−β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。
【0037】
本発明は、組織の拒絶反応を予防する薬剤の作用を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)β−グルカンを有効量で含む組成物を提供する。一実施形態においては、この組織は、移植片対宿主疾患における場合と同様に、移植された組織若しくは移植された臓器、又は宿主である。
【0038】
一実施形態においては、上記の組成物のグルカンは高分子量である。グルカンの分子量は、少なくとも10000ダルトンである。別の実施形態においては、グルカンは、オオムギ、カラスムギ、キノコ、海草、真菌、イースト、コムギ、又はコケ由来である。さらなる実施形態においては、このグルカンは熱処理に対して安定である。
【0039】
さらなる実施形態においては、上記の組成物は、3時間煮沸した後も安定である。上記の組成物の有効投与量は、約25mg/kg/日以上、1週間に5日で合計2〜4週間である。
【0040】
本発明は、以下の実験による説明を参照することによりさらに理解されるが、当業者であれば、特定の詳しい実験は例示的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲により定義される本明細書に記載の発明を制限することを意味するものではないことが容易に理解されよう。
【実施例】
【0041】
(実施例I)
抗GD2抗体と組み合わせたオオムギβ−グルカンのステージ4の神経芽細胞腫における第I相試験
合計24名の患者に試験を行った。これらの患者は全員小児又は青少年で、再発又は難治性であるステージ4の骨、骨髄、又は遠位のリンパ節に転移した神経芽細胞腫があり、大きな軟組織塊を有するものもある。β−グルカンの耐容性は、用量制限毒性もなく良好である。骨髄疾患(組織学検査、MIBGスキャン)、軟組織腫瘍(CT)、及び生化学的マーカー(尿中のVMA及びHVA腫瘍マーカー)に対する抗腫瘍反応が記録された。腫瘍反応の一例を、図1A及び1Bに示す。3F8プラスβ−グルカンによる一治療サイクル後の広範囲にわたる転移の完全に近い解像度を示す131I−メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)スキャンである。このような反応は、3F8単独又は3F8をサイトカインと組み合わせて治療した、難治性又は再発性であるステージ4の転移NBの患者では非常識的なことである。現在までに得られている3F8に対する反応率で最もよいものは、3F8とGMCSFとの組合せの第II相治験におけるものであり、33名中7名(21%)の小児がMIBG上の改善を達成した。これとは対照的に、3F8プラスβ−グルカンで62%(21名中13名)の評価可能な患者がMIBG上で改善し、反応率はほぼ3倍となった(χ2検定でp=0.008)。さらに、骨髄疾患のある15名の患者のうち、5名が骨髄の完全な寛解を達成し(30%)、8名が骨髄の疾患安定状態となった。
(図1を参照)
【0042】
(実施例II)
リツキシマブは、補体媒介性で抗体依存性の、細胞が媒介する細胞毒性を活性化し、B細胞リンパ腫に有効である。β−グルカンは、白血球の間で広く発現される受容体であるCR3のレクチンドメインに結合する天然に存在するグルコースポリマーであり、白血球を刺激して、抗体によって活性化されたiC3bに結合させる。オオムギ由来の(1→3),(1→4)−β−D−グルカン(BG)を経口投与すると(1日あたり400μg×29日間)、CD20陽性ヒトリンパ腫の治療で静脈投与された治療量以下の投与量のリツキシマブ(週2回200μg×8用量)と強力な相乗作用を示す。SCIDマウスに異種移植した、樹立した皮下の非ホジキンリンパ腫(NHL)(Daudi及びEBV由来B−NHL)又はホジキン病(Hs445又はRPMI6666)の増殖は、リツキシマブ又はBG単独で治療したマウスに比べて大幅に抑制された。播種性リンパ腫(Daudi及びHs445)のマウスの生存率は大幅に上昇した。治療した動物には、体重の減少又は臨床上の毒性は見られなかった。BGプラスリツキシマブに治療上の効果があり毒性がないということは、その臨床上の有用性をさらに調査することを支持している。
【0043】
(緒言)
キメラの抗CD20抗体リツキシマブは、ますます多くの障害で評価されている。再発及び難治性で濾胞性/低グレードの非ホジキンリンパ腫に対する臨床上の効果が最初に実証された後1、他の悪性及び非悪性のB細胞障害におけるリツキシマブに対する反応が報告されている2。アポトーシス経路の活性化3、サイトカインの生産4、並びに宿主の補体依存性毒性(CDC)及び抗体依存性細胞障害(ADCC)5の誘発を含む、いくつかの作用機序が提唱されている。B細胞障害を有する患者の多くはリツキシマブに反応するが、寛解は一過性であることが多い6。2回目にリツキシマブ治療に反応できかった後では、50%を超えてリンパ腫が再発する7。リツキシマブに対する耐性のメカニズムは未だに明らかではなく、標的抗原の不十分又は喪失8、個々の患者間での薬動力学的変動、FcRの多型性9、補体活性に対する耐性10、又はリンパ腫特有の遺伝子の発現11が含まれる可能性がある。
【0044】
β−グルカンは、グルコースの複雑なポリマーであり、白血球上のCR3受容体のレクチン部位に対する親和性がある12。CR3(CD11b)は、結合したβ−グルカンによって刺激を受けて補体活性化抗体により細胞上に沈着したiC3bフラグメントと結合する。この受容体は内皮を通じて白血球が漏出するのを媒介し、食作用、脱顆粒、及び腫瘍の細胞毒性を刺激する。多くの真菌は、細胞の表面にβ−グルカン又はβ−グルカン様CR3結合リガンドを提示している。このため、iC3bの沈着が起こるとCD11bもレクチン部位も塞がれ、食作用及び呼吸性バーストが誘発される13。対照的に、腫瘍細胞にはそのような分子がなく、iC3bで覆われても通常はCR3を活性化せず白血球を活性化することができない。可溶性形態のβ−グルカンはレクチン部位に結合し、食細胞及びNK細胞を刺激してiC3bで覆われた腫瘍の標的を死滅させる14。
【0045】
可溶性の、オオムギ由来のβ−グルカンである(1→3),(1→4)−D−β−グルカン(BG)は、以前に実験された(1→3),(1→6)−β−グルカンよりも有利であり、特に経口投与で有効であり安全性プロファイルが良好である15。ヒト神経芽細胞腫異種移植片に対するBGと補体結合抗体3F8とのin vivoにおける相乗作用15、16が、最近実証された。リンパ腫に対するBGとリツキシマブとの相乗作用は、ここで報告される。
【0046】
(研究デザイン)
細胞系:
ヒトBurkittリンパ腫細胞系、Daudi、並びにホジキン病(HD)細胞系Hs445及びRPMI6666を、American Type Culture Collection(メリーランド州、Rockville)より購入した。ヒトEBV−BLCLは、以前に記載の方法17を用いて樹立した。
【0047】
マウス:
Fox Chase ICR SCIDマウス(ニューヨーク州、White Plains、Taconic製)を、機関で承認されたガイドライン及びプロトコールのもとで飼育した。
【0048】
腫瘍モデル:
Matrigel(ニュージャージー州、Franklin Lakes、Beckton−Dickinson製)0.1mlに懸濁した5×106個の細胞をマウス側腹内に注射して皮下腫瘍を樹立した。1週間に2から3回腫瘍の寸法を測定し、2つの最大直径の積として腫瘍の大きさを計算した。最大腫瘍寸法が20mmを超えた時にマウスを屠殺した。以前に記載されたようにして18、SCIDマウスで播種性腫瘍モデルを樹立した。簡潔に述べると、通常の生理食塩水100μlに懸濁したDaudi又はHs445細胞5×106個を、SCIDマウスに静脈注射した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又はその体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。
【0049】
治療レジメン:
皮下腫瘍を有するマウスに、腫瘍が樹立した後(直径7〜8mm)治療を開始した。播種性腫瘍のモデルでは、腫瘍細胞を注入した10日後に治療を開始した。治療レジメンあたり少なくとも5匹のマウスの群にリツキシマブ、BG、又はその両方を与え、或いはどちらも与えなかった。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genetech製)200μgを週2回全8投与で静脈注射し、且つBG(ミズーリ州、St Louis、Sigma製)400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。動物は毎週体重を測定し、少なくとも1日1回は臨床上の観察を行った。
【0050】
統計分析:
個々のマウスそれぞれに対し腫瘍の大きさの対数変換値に回帰直線を当てはめることにより、腫瘍の増殖を計算した。調べた観測値について以前に記載されている方法19を用いて、t検定を用いて群間で直線を比較した。Kaplan−Meier分析法を用いて播種性疾患のマウスの生存率を比較し、死亡の割合をFisherの厳密χ2検定により比較した。分析は、STATA7を用いて行った。
【0051】
結果と考察
皮下の異種移植片モデルのすべてにおいて、リツキシマブ及びBGの組合せで治療したマウスの腫瘍増殖に有意の減少が認められた。リツキシマブ単独で治療したマウスでは、腫瘍の増殖は少々減少を示したが、BG単独治療又は非治療のものでは、腫瘍の増殖は衰えなかった(図1A、1B、1C)。組合せ療法で治療したもの以外の腫瘍はすべて、20mmの大きさを超えて増殖し、マウスを屠殺しなければならなかった。組合せ治療を受けたマウスは、治療を中止した後でも腫瘍の抑制は続いた。治療に対しダミー変数を用いた腫瘍増殖速度の多変数線形モデルでは、BGとリツキシマブとの相互作用は陽性で大きく、相乗作用があることを実証している。
【0052】
播種性の異種移植片では、NHL及びHDモデルの両方に対し、生存率の点で組合せ群と対照群との間に有意差があった(ログランク検定で、p<0.005)(図2)。BG及びリツキシマブの組合せで治療した播種性のDaudi及びHs445腫瘍を有するマウスの、それぞれ5匹/38匹及び2匹/8匹が、治療中止後12ヶ月を超えて生存し、疾患が完全に根治したことを示唆していた。対照的に、それぞれの群でリツキシマブ単独を与えたマウスの生存率は0/29匹及び0/8匹であった(生存率15%対0%;χ2=0.01)。大幅な体重の減少、又は他の臨床上明らかな有害作用はなかった。固定して透過性にした末梢血液の白血球内で免疫蛍光法により細胞内からBGを検出することができたという事実から、BGが吸収されていることを推測することができる(データは示さず)。
【0053】
これらの実験では、CD20陽性のリンパ腫のタイプに関係なく、BGとリツキシマブとの相乗作用は高度に有意であった。Daudi異種移植片の反応がHs445に比べて改善したのは、前者の方がCD20の発現が高いことによるのかもしれない(相乗平均蛍光のチャンネルは、Hs445で184であったのに比べ、Daudiでは241であった)。細胞1個を懸濁した免疫蛍光法の実験又は凍結切片の間接的免疫組織化学的実験により、進行した腫瘍でCD20の発現を調べたところ、リツキシマブ、BG単独、又はリツキシマブ+BG処理の群間で有意差は認められず(データは示さず)、リツキシマブ+BGの処理がCD20の喪失とは関連がないことが示唆された。
【0054】
他の補体活性モノクローナル抗体とBGとの相乗作用15、16は、以前に実証された。本データは、この観察をリツキシマブにまで拡張している。CDCはリツキシマブの細胞毒性にとって重要なメカニズムであると考えられている。げっ歯類の補体は、ヒトの補体調節タンパク質(mCRP)によって効果的に抑制されることはない。したがって、CDCは、異種移植片モデルにおいて有効な抗腫瘍のメカニズムである可能性がある。しかし実験では、抗体の治療量以下の投与量では、リツキシマブが媒介するADCC及びCDCは、腫瘍細胞を死滅させる作用には十分ではなかった。BGはADCCに対し直接作用がないため20、この相乗作用はiC3bが媒介する腫瘍の細胞毒性の結果であることはほぼ間違いない。リンパ腫の細胞は、CD46、CD55、及びCD59を含むmCRPを発現する10、21。しかし、iC3bが媒介する細胞毒性はCD59の存在による影響を受けず、CD59はMACが媒介する補体の細胞毒性のみに影響を及ぼす22。さらに、ヒトの乳癌腫瘍では、mCRPが存在してもiC3bが沈着することが実証されており23、MACに対する阻害作用とは異なりiC3bが媒介する腫瘍の細胞毒性に対する作用は絶対ではないことが示唆される。
【0055】
この相乗作用がヒトで安全に再現することができれば、iC3bが媒介する細胞毒性は、B細胞の悪性腫瘍を有する患者でリツキシマブの耐性を克服するための有効な戦略になると思われる。T細胞もB細胞もこの相乗作用には必要とされていないため、免疫無防備状態のリンパ腫の患者でもBGは有効に働く可能性がある。さらに、自己免疫障害の患者では、この非毒性の経口治療法によりB細胞の枯渇が増強される可能性がある。その反面、β−グルカンはTNF−α及びIL−6などのサイトカインの放出を亢進することがあり24、リツキシマブの急性毒性もまた、補体の活性化に付随したサイトカインの放出に関係があるため25、BGとリツキシマブとを組み合わせて用いると毒性が上昇する可能性がある。B細胞の障害の治療において、及びその他の癌の抗体に基づいた治療において、リツキシマブ治療の補助剤としてBGを開発する上でその安全性及び効果を明確にするためには、注意深く計画された第I相の実験が必要である。
(参考文献1)
【0056】
(実施例III)
オオムギのβ−グルカン抽出物がIgM抗体と相乗作用をする
ヒト血清由来の天然IgM抗体をi.v.で投与すると、ヒト神経芽細胞腫(NB)細胞に細胞毒性があり、ヌードラットにおける皮下の固形ヒトNB異種移植片の増殖停止をもたらした(1、2)。IgMは腫瘍に取り込まれ、大量の血管周囲の補体を活性化し、24時間後に顆粒球を蓄積させた(3)。転移NBモデルでは、IgM抗体は90%のマウスの腫瘍を排除するのに有効であった(4)。幼児期の間及び(あらゆる年齢の)NB患者の間にはこの抗NBIgM抗体が存在せず、これが12月齢後に優勢になることから、天然IgM抗体がNBに対する免疫学的制御メカニズムとしての役割を果たす可能性があるという仮説が持ち上がっている(5)。3G6は、抗GD2マウスIgMモノクローナル抗体(MoAb)である。ビオチン化3G6をi.v.注射後48時間以内に、皮下のNB異種増殖片では腫瘍細胞の膜が染色されることが示された。3G6は、IgGのMoAbである3F8(149±44、n=7)に比べると蛍光発光の平均は低かったが(53±19蛍光発光チャンネル単位、マウスn=7)、3G6にβ−グルカンを加えたものは皮下のヒトNBに対し有効であり(p<0.05)、用量反応曲線(図4)は3F8のものに匹敵していた。これらの結果は、ヒト天然抗NB IgMを使用したときのものと一致していた(1、2)。これらのデータは、β−グルカンはIgGが誘導するワクチンだけでなく、IgMが誘導するワクチンも増強することができるという考えを支持する。
(参考文献2)
【0057】
(実施例IV)
パン酵母(サッカロミセスセレビシエ)からの(1→3),(1→6)β−グルカンも癌の抗体療法を増強するのに有効である
Matrigel(Sigma製)100μlに懸濁したLAN−1腫瘍細胞(2×106個)を、皮下接種した。腫瘍の寸法をノギスを用いて1週間に2から3回測定し、2つの最長の直行する直径の積として腫瘍の大きさを計算した。腫瘍の直径が0.7から0.8cmに達した時に、4〜5匹のマウスの群での治療実験をすべて開始した。マウスは、抗体(3F8又は3G6)治療(1日あたり200μg)をi.v.(尾部静脈注射により)で週2回×5用量受け、且つ経口のβ−グルカン(1日あたり400μg)の投与を胃内注射で毎日、全14〜18日間受けた(図5及び6を参照)。
【0058】
サッカロミセスセレビシエ、又は米国特許第5250436号に記載されている変異体のイースト菌株などのイーストの細胞壁に由来するグルカンを、先に述べた組成物に使用することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。β(1−3)及びβ(1−6)結合を有するグルカンは、米国特許第5233491号及び同第4810646号に記載されている方法により調製することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。経口投与に適する可溶性又は水性グルカンは、米国特許第4810646号及び同第5519009号で記載の方法により製造することができ、上記特許はその開示全体を本明細書に参照として援用する。可溶性β−1,3/1,6グルカン又はBiotec Pharmacon(ノルウェー)が製造するSBGなどのβ−グルカンも、使用することができる。
【0059】
同様の実験で、皮下リンパ腫モデルを実験した。ここでは細胞5×106個をMatrigel(ニュージャージー州、Franklin Lakes、Becton−Dickinson製)0.1mlに懸濁し、マウスの側腹部に接種した。腫瘍の寸法を1週間に2から3回測定し、2つの最長の直径の積として腫瘍の大きさを計算した。腫瘍の最大寸法が20mmを超えたときに、マウスを屠殺した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)200μgを週2回、全8回静脈注射し、グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは毎週体重測定し、少なくとも1日1回臨床上の観察を行った。腫瘍の反応率、及び完全な寛解を達成したマウスのパーセント値は、オオムギグルカンとイーストグルカンとの間では双璧であった。この一連の皮下腫瘍モデルにより、高分子量の(>10000ダルトン)可溶性のイーストの(1→3),(1→6)β−グルカンは、オオムギの(1→3),(1→4)β−グルカンと同等に強力であることが示された。その上、イーストのグルカンの供給源及び物理的形態は、有意な相違をもたらす可能性がある。
【0060】
転移リンパ腫モデルの実験も行った。上記のようにSCIDマウスに播種性腫瘍のモデルを樹立した(1)。簡潔に述べると、Daudi細胞5×106個を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(i.v.)した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。腫瘍細胞の注射10日後に治療を開始した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)40μgを週2回、全8回静脈注射し、グルカン400μを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは毎週体重測定し、少なくとも1日1回臨床上の観察を行った。(図7を参照)
【0061】
ここでも、オオムギグルカンもイーストグルカンも、リツキサン(Rituxan)と組み合わせると匹敵する効果を示した。オオムギグルカンもイーストグルカンも、単独で使用したときは生存率に対しいかなる作用もなかった(データは示さず)。
(参考文献3)
【0062】
(実施例V)
経口投与されたβ−グルカンが抗腫瘍モノクローナル抗体とともに腫瘍の寛解を媒介する働きをするメカニズム(1)。
野生型(WT)C57B1/6マウスに対し、CR3欠損(CD11b−/−)又はC3欠損(C3−/−)のいずれかのC57B1/6マウスの同系腫瘍(GD2+RMA−S)を用いると、MoAb単独では腫瘍の寛解を誘発しなかったが、i.v.の抗GD2 MoAbと経口のオオムギ又はイーストのβ−グルカンとの組合せでは、WTでは大幅な寛解が誘発されたが、CR3欠損マウスでは誘発されなかった。さらに、i.v.のMoAbと経口のβ−グルカンとの組合せ療法では、WTマウスでは60〜100%で腫瘍なしで生存し、CR3欠損マウスでは生存率は0〜20%にすぎなかった。これらの実験により、特に経口のオオムギのβ−グルカンを抗腫瘍MoAbとともに投与するときには、抗腫瘍作用を表すには白血球のCR3がほぼ絶対的に必要であることが実証された。WTをCR3欠損マウスと比較した治療のプロトコールにより、同様に、経口のβ−グルカン療法には血清C3が必要なことが示された。オオムギのβ−グルカン及びイーストのβ−グルカンを蛍光ラベルし(BG−F及びYG−F)胃内注射によりマウスに与えたところ、β−グルカンのトラフィッキングが起こった。BG−F又はYG−Fを毎日経口投与したところ、3日以内に脾臓及びリンパ節のマクロファージが蛍光ラベルされたβ−グルカンを含むようになった。4日後に骨髄のマクロファージでもYG−F及びBG−Fが観察された。WT対CR3欠損マウスのYG−F及びBG−Fの取込みを比較したところ、摂取されたβ−グルカン−Fを含むマクロファージのパーセント値にも、細胞あたりのβ−グルカン−Fの量にも差は見られなかった。したがって、消化管のマクロファージによるオオムギ及びイーストのβ−グルカンの取込みにはCR3は必要とされず、その代わりにデクチン(Dectin)−1によって媒介される可能性がある(2)。in vitro及び骨髄のマクロファージは、オオムギ及びイーストのβ−グルカンの大分子を、生物学的活性のあるより小型のβ−グルカンの断片に分解することができ、その後この断片を放出する。
【0063】
マクロファージが放出した可溶性のβ−グルカン−Fが本当に骨髄の顆粒球に取り込まれたのか確定するために、10日間YG−F又はBG−Fを与えたWT又はCR3欠損マウスにチオグリコレート培地をi.p.注射し、骨髄顆粒球の辺縁プールを腹腔内に誘発した。WTの顆粒球だけが、マクロファージから放出されたYG−F及びBG−Fを収拾することができた。これらのデータにより、消化管のマクロファージがβ−グルカンを連続的に摂取し、β−グルカンを骨髄に運び、骨髄で可溶性の分解フラグメントが放出され膜のCR3を介して顆粒球に取り込まれることが示唆される。経口でβ−グルカンを投与されたWT及びCR3欠損マウスから腹腔の顆粒球を分離すると、in vitroではWTの顆粒球だけがiC3bで覆われた腫瘍細胞を死滅させることができた。これらの実験が示すのは、骨髄の顆粒球及び組織のマクロファージは、膜のCR3に結合した可溶性のβ−グルカンを消化管マクロファージから獲得し、この結合したβ−グルカンは顆粒球及びマクロファージ両方のCR3を初回抗原刺激して、炎症部位に誘導されるとiC3bで覆われた腫瘍細胞を死滅させることができるようにすることである。
(参考文献4)
【0064】
(実施例VI)
可溶性のβ−グルカンをプラスミドのパイプ役として用いることができる。
DNA、RNA、及びタンパク質を経口的に送達する上の大きな障害は、胃内の環境が酸性でタンパク質分解性であること、並びにGALTによるタンパク質の取込みが限られていることである。パイエル板内のM細胞、及び食細胞は、微粒子を取り込むための優力な媒体であると考えられている。しかし、ナノ粒子も傍細胞メカニズム1、2を介して、及びトランスサイトーシス3によってGALTに接近することができる。どちらの場合でも、細胞上の受容体に対する粘膜付着特性又は親和性のある粒子を用いて、観察される粒子の取込みを向上させることができる。ナノ粒子が粘膜付着性であることを作り上げるために、多くのポリマーが使用されている。その中に、アルギン酸、カラギーナン、及びペクチンがある。これらの材料は、ナノ粒子におけるコアポリマーとして用いることが多かったが、これらのポリマーに対する特異的な受容体は同定されておらず、取込みの効率は最適状態には及ばないままである。デクチン−1は、今ではβ−グルカンの万能な受容体として知られており、単球及び食細胞を含む多くのヒトの組織で見出されている。高分子量のβ−グルカンのゲル化特性により、RNA、DNA、及びタンパク質を包埋することが可能になる。糖類は酸性条件に対する耐性が高いので、酵素、タンパク質、RNA、及びDNAは保護されたままで消化管を通過する。デクチン−1受容体のβ−グルカンに対する高い親和性によって、これらの物質は身体の残りの部分への潜在的な媒体として食細胞中に導入される可能性がある。
【0065】
pEGP−C1ベクター(図8を参照)をBD Bioscience(カリフォルニア州、Palo Alto)から購入し、製造元の指示に従って調製した。pEGFP−C1は、哺乳動物の細胞内でのより明るい蛍光及びより高い発現について最適化された野生型GFP(1−3)の赤方偏移変異体をコードしている。(励起波長最高=488nm、発光波長最高=507nm)。ベクターのバックボーンは、また、SV40T抗原を発現する場合にのみ、哺乳動物の細胞中に複製用のSV40の起源を含んでいる。このカセットの上流の細菌のプロモータは、大腸菌(E.coli)ではカナマイシン耐性を発現する。pEGFP−C1バックボーンは、一重鎖DNAを産生するための、大腸菌及びf1起源における繁殖のための複製のpUC起源も提供する。
【0066】
pEGFP−c1プラスミド50μgをβ−グルカン(〜200000ダルトン)400μgに混合し生理食塩水100μlに加えたものを経口胃管栄養法によりマウスに摂取させ、対照のマウスにはプラスミドを単独で与えた。3日間連続で(1、2、及び3日目)経口で摂取させた。尾部静脈より血液50μlを採取しRBCを溶血させた後FCAS分析により分析し、全単球数中のGFPを発現する細胞数の%を記録した。グルカン群対非グルカン群(1群あたりのマウスのn=4〜9)の緑色細胞の平均%比率を図9に示す。14日間の実験を通して、非グルカン群の緑色単球の%は、バックグラウンドレベルで一定であった。一方、経口胃管栄養法の1日目以降に、循環する緑色単球の%は一貫により高く、8日目頃に最高になった。GFPは通常マウスの単球中には見られないので、緑色細胞が存在したということはGFPタンパク質が発現し、それに続き血液中を循環する単球の中にプラスミドが入ったことに整合する。
【0067】
より高分子量で(〜350000ダルトン)ゲル化特性のより良好なオオムギのβ−グルカンを用いて、この実験を繰り返した。図10では、同様の動力学が見られ、緑色細胞のパーセントはより高く、それが8日目から11日目まで続いた(1群あたりマウスのn=4)。
【0068】
定量的逆転写PCR分析を用いてGFPmRNAの存在を調べた。pEGFP−c1プラスミド50μgを高分子量のβ−グルカン(〜350000ダルトン)400μgに混合し生理食塩水100μlに加えたものを経口胃管栄養法によりマウスに摂取させ、対照のマウスにはプラスミドを単独で与えた。末梢血液50μlを用いて全RNAを抽出し、逆転写し、以前に記載されている方法の修飾を用いて定量的リアルタイムPCRを行った4。内部標準としてハウスキーピング遺伝子マウスGAPDHを使用する。既知のGFP及びGAPDH標準を用いて、転写レベルを計算する。GFP及びGAPDHに対し個々に転写単位を計算し、結果はGAPDHに対するGFPの比として計算される。図11では、平均RNAレベル(GFP/GAPDH)は、グルカン群対非グルカン群(1群あたりマウスのn=4)の比で表される。GFPmRNAは、10日目まで検出された。
(参考文献5)
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】患者における転移の神経芽細胞腫の治療においてオオムギ(1→3),(1→4)−β−D−グルカンに抗体を加えたもの。多数の化学療法の治療レジメンに対して難治性の転移の神経芽細胞腫を有する患者の治療前及び治療後のMIBGスキャン。患者に、抗GD2抗体3F8の静脈注射(10mg/m2/日)を全10日間、それに加えて同じ期間にわたり経口のオオムギのβ−グルカンを投与した。図1Aは、患者のベースライン時のMIBGスキャンを示す。広範囲の骨転移が、大腿、腓骨、骨盤、肋骨、左肩甲骨、右鎖骨、上腕、頭蓋、及び脊柱に見られる。心臓、肝臓、胃、及び大腸の取込みは生理的である。図1Bに、同じ患者に3F8にグルカンを加えたもので1サイクルの治療を行った2ヵ月後のMIBGスキャンを示す。転移部位は、大幅に改善されている。
【図2】SCIDマウスにおける皮下ヒトリンパ腫異種移植片の治療におけるオオムギの(1→3),(1→4)β−D−グルカンに抗体を加えたもの。樹立された皮下のDaudi(n=9)(図2A)、Hs445(n=5)(図2B)、EBV誘導LCL(n=9)(図2C)、及びRPMI6666(n=10、データは示さず)の異種移植片を有するSCIDマウスに、リツキシマブ200μgを週2回8用量静脈注射したもの(■)、(1→3),(1→4)β−D−グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法で経口投与したもの(△)、又はリツキシマブと(1→3),(1→4)β−D−グルカンとの組合せ(x)、或いは非処置(◆)。腫瘍の増殖パーセントをy軸に、治療開始後の日数をx軸上にプロットした。エラーバーは、SEMを表しており、リツキシマブ単独及び組合せ群にのみ示されている。異種移植片すべてに対して、組合せ治療だけが腫瘍の増殖の減少に関係していた。リツキシマブに加えてβ−グルカンを摂取した群における1日あたりの腫瘍増殖の減少率は、リツキシマブ単独でDaudiに対し2.0%(95%CI 1.3〜2.7%;p<0.0005)であったのに比べ、異種移植片EBV誘導LCLで0.8%(95%CI 0.4〜1.2%;p<=001)、Hs445で2.2%(95%C.I.1.2〜3.2%;p=0.0009)、及びRPMI6666で1.8%(95%CI 1.0〜2.7%;p<0.0002;データは示さず)であった。
【図3】SCIDマウスにおける播種性ヒトリンパ腫異種移植片の治療におけるオオムギの(1→3),(1→4)−β−D−グルカンに抗体を加えたもの。Daudi細胞(図3A)又はHs445細胞5×106個を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(IV)した。リツキシマブ200μgを週2回8用量静脈注射(破線)、(1→3),(1→4)D−β−グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法で経口投与(点線)、又はリツキシマブと(1→3),(1→4)D−β−グルカンとの組合せ(実線)、或いは非処置(太線)で、腫瘍移植10日後にマウスの治療を開始した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺が始まったとき、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。図2A(Daudi)、及び2B(Hs445)に、様々な群に対するKaplan−Maier法の生存曲線を示す。(1→3),(1→4)−D−β−グルカンとリツキシマブとの組合せで治療したマウスは、他の治療群すべてと比較して(Daudiでp<0.0005、及びHs445でp=0.001)、又はリツキシマブ単独と比較して(Daudiでp<0.0005、及びHs445でp=0.01)生存率は有意に上昇した。非治療群、リツキシマブ単独群、BG群、及びリツキシマブ+BG群のマウスの生存率の中間値は、Daudi異種移植片でそれぞれ27、71、43、及び124日、並びにHs445異種移植片でそれぞれ12、16、31、及び243日であった。
【図4】ヒト神経芽細胞種の治療におけるオオムギのβ−グルカンの存在下での3G6(抗GD2IgM抗体)の用量反応曲線を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞を200万個、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3G6群(黒塗り四角)を、週2回、3G6 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で治療した(M及びTh)。3G6+BG群は、週2回、i.v.の3G6 200μgに加えて全14〜18日間毎日経口のβ−グルカン(BG)400μgを胃管栄養法により投与して治療した。3G6は、3つの異なる用量で投与した(白抜き三角は用量あたり8μg、白抜き四角は40μg、白抜き丸は200μg)。BG群(黒塗り丸)は、経口のβ−グルカン400μgを単独で投与した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表し、分かりやすくするために4群のみに描いた。BG単独及び3G6単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、BG+3G6 200μg群は、高度に有意の腫瘍の縮小及び抑制を示し、3G6に用量依存であった(p<0.05)。
【図5】イースト(1→3),(1→6)−β−D−グルカンの存在下で3G6(抗GD2IgM抗体)を用いたヒト神経芽細胞腫の治療を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞200万個を、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3G6群(黒塗り四角)を、3G6 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で全部で週2回合計5用量で治療した(M及びTh)。粒状のイーストグルカン群(黒塗り三角)は、経口の粒状イーストグルカン400ugを単独で投与した。3G6+全イースト微粒子(白抜きひし形)は、ivの3G6 200μgを週2回に加えてイースト粒子400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3G6+可溶性イーストグルカン群は、ivの3G6 200μgを週2回に加えて可溶性イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3G6+粒状イーストグルカン群は、ivの3G6 200μgを週2回に加えて粒状イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表し、分かりやすくするために4群のみに描いた。グルカン単独及び3G6単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、可溶性及び粒状イーストグルカンを3G6群と組み合わせると、高度に有意な腫瘍の縮小及び抑制が示された(p<0.05)。
【図6】オオムギ及びイーストのβ−グルカンの存在下で3F8(抗GD2IgG抗体)を用いたヒト神経芽細胞種の治療を示す図である。LAN1神経芽細胞腫細胞200万個を、無胸腺Balb/cマウスに皮下異種移植した。各群5匹のマウスで治療を開始し、腫瘍移植2週間後に、肉眼で見える腫瘍は直径0.7〜0.8cmに達した。3F8群(黒塗りひし形)は、3F8 200μgを眼窩後方叢による静脈注射で週2回全5用量の治療をした(M及びTh)。オオムギグルカン群(黒塗り四角)は、オオムギグルカンを単独で400μg投与した。3F8+オオムギグルカン群(白抜きひし形)は、ivの3F8 200μgを週2回に加えてオオムギグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与して治療した。3F8+可溶性イーストグルカン群(白抜き四角)は、ivの3F8 200μgを週2回に加えて可溶性イーストグルカン400μgを全14〜18日間毎日胃管栄養法により投与し治療した。治療1日目から腫瘍の大きさを測定し、最大直径の積を治療0日目の大きさのパーセント値として表した。垂直棒は標準誤差を表している。グルカン単独及び3F8単独では、抗腫瘍作用を示さなかったが、オオムギ及び可溶性イーストグルカンを3F8群と組み合わせたると、高度に有意な腫瘍の縮小及び抑制が示された(p<0.05)。
【図7】リツキサン、及びオオムギ又はイーストのβ−グルカンを用いたSCIDマウスにおける播種性ヒトリンパ腫の治療を示す図である。Daudi細胞5×10e6を通常の生理食塩水100μlに懸濁し、SCIDマウスに静脈注射(IV)した。腫瘍は全身に増殖し、腫瘍細胞が脊髄に浸潤するとマウスは麻痺を起こし、後肢麻痺となった。麻痺の開始時、又は動物の体重の10%が失われたとき、マウスを屠殺した。腫瘍細胞の注射後10日目に治療を開始した。リツキシマブ(カリフォルニア州、San Francisco、Genentech製)40μgを週2回全8投与静脈注射し、グルカン400μgを29日間毎日胃管栄養法により経口投与した。マウスは、毎週体重を測定し、少なくとも1日1回は臨床上の観察を行った。リツキサンプラスオオムギグルカン、又はリツキサンプラスイースト可溶性グルカンを投与されたマウスは、高度に有意の生存率の延長が見られた(p<0.05)。
【図8】BD Biosciences(カリフォルニア州Palo Alto)より購入したpEGP−C1ベクターを示す図である。
【図9】グルカンが単球への遺伝子トランスファーを促進することを示す図である。
【図10】より高分子量のβ−グルカン及び遺伝子トランスファーを示す図である。
【図11】循環している単球中にGFPmRNAが存在することを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
適切な量の炭水化物を含む物質の経口摂取用の組成物。
【請求項2】
経口投与されるβ−グルカンの有効量と、1種又は複数の化学療法剤とを含む、1種又は複数の物質を経口送達するための組成物。
【請求項3】
前記炭水化物がグルカンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記グルカンが、1,3−1,6又は1,3−1,4の混合結合、或いは1,3−1,6及び1,3−1,4の両方の混合結合の混合を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記グルカンが、化学療法剤又は抗癌抗体の効果を増強する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記グルカンが、草、植物、キノコ、イースト、オオムギ、真菌、コムギ、又は海草に由来する、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記グルカンが高分子量である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記物質が、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、又はプラスミドである、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
前記物質が化学療法剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)又は(1→3),(1→4)β−グルカンを有効量で含む組成物。
【請求項11】
前記抗体が癌の抗体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体が腫瘍結合抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗体が補体を活性化することができる、請求項12に記載の組成物。
【請求項1】
適切な量の炭水化物を含む物質の経口摂取用の組成物。
【請求項2】
経口投与されるβ−グルカンの有効量と、1種又は複数の化学療法剤とを含む、1種又は複数の物質を経口送達するための組成物。
【請求項3】
前記炭水化物がグルカンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記グルカンが、1,3−1,6又は1,3−1,4の混合結合、或いは1,3−1,6及び1,3−1,4の両方の混合結合の混合を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記グルカンが、化学療法剤又は抗癌抗体の効果を増強する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記グルカンが、草、植物、キノコ、イースト、オオムギ、真菌、コムギ、又は海草に由来する、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記グルカンが高分子量である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記物質が、ペプチド、タンパク質、RNA、DNA、又はプラスミドである、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
前記物質が化学療法剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
IgM抗体の効果を増強することのできる、経口投与される(1→3),(1→6)又は(1→3),(1→4)β−グルカンを有効量で含む組成物。
【請求項11】
前記抗体が癌の抗体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体が腫瘍結合抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗体が補体を活性化することができる、請求項12に記載の組成物。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−531700(P2007−531700A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520398(P2006−520398)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/023099
【国際公開番号】WO2005/018544
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(500516056)スローン − ケッタリング インスティチュート フォー キャンサー リサーチ (14)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/023099
【国際公開番号】WO2005/018544
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(500516056)スローン − ケッタリング インスティチュート フォー キャンサー リサーチ (14)
【Fターム(参考)】
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