説明

治療方法ならびにサポゲニンおよびその誘導体の使用

【課題】治療方法ならびにサポゲニン、関連化合物およびそれらの誘導体の提供。
【解決手段】本発明は、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、認知的な神経および神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失の治療における、治療方法ならびにステロイドサポゲニン、関連化合物、およびそれらの誘導体の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療方法ならびにサポゲニン、関連化合物およびそれらの誘導体の使用に関する。
【0002】
サポゲニン、関連化合物およびそれらの誘導体の使用は、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、または受容体の機能障害もしくは損失におけるものである。別の態様においては、本発明はそのような治療に使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
認知機能障害は、アルツハイマー病(AD)、アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)、レビー(Lewy)小体型痴呆、および血管型痴呆などの痴呆症状および痴呆症候群の特徴である。より軽度の認知機能障害はまた、軽度認知機能障害(MCI)、老年性記憶障害(AAMI)、自閉症、および神経障害などのある種の非痴呆症状および非痴呆症候群の特徴である。
【0004】
非認知的な神経変性(すなわち、認知機能障害がない場合の神経変性)、非認知的な神経筋変性(すなわち、認知機能障害がない場合の神経筋変性)、および運動−感覚神経変性は、パーキンソン病、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH),デュッセン(Duchenne)型筋ジストロフィー、ベッカー(Becker)型筋ジストロフィー、ブルース型(Bruce’s)筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィー、フューチ型(Fuchs’)ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、角膜変性症、反射性交感神経性萎縮症(RSDSA)、神経血管ジストロフィー、重症筋無力症、Lambert−Eaton病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および多発性硬化症などの症状および症候群の特徴である。
【0005】
受容体の機能障害または損失(特に、ニコチン受容体および/またはムスカリン性アセチルコリン受容体および/またはドーパミン受容体および/またはアドレナリン受容体の機能障害または損失)はまた、上述した症状および症候群のいくつかまたはすべての特徴である。認知的な神経および神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失は、体位性低血圧、慢性疲労症候群、喘息、心不全への罹患性、および神経筋変性などの症状および症候群の特徴である。
【0006】
上述した症状および症候群は、平均余命の延びおよび後天的な病気の抑制によって、人口統計プロファイルが高齢人口へと向かっているすべての社会において深刻かつ増加している問題である。このような障害の管理または予防において、治療または補助となる薬剤が緊急に必要とされている。
【0007】
DE−A−4303214は、ウイルス性の病気の治療におけるサポニンおよびサポゲニンの使用を提案しており、その開示はこの参照によって開示に含まれるものとする。しかしながら、特定のウイルス性の病気のために特定の化合物群を当業者が選択することができるようなデータは記載されていない。
【0008】
WO−A−99/16786は、痴呆の治療におけるサポニンおよびサポゲニンの使用を提案しており、その開示はこの参照によって開示に含まれるものとする。
【0009】
WO−A−99/48482、WO−A−99/48507、WO−A−01/234
06、WO−A−01/23407、WO−A−01/23408は、認知機能障害および類似の症状の治療におけるサポニン、サポゲニン、およびそれらの誘導体の使用に関するもので、それらの開示はこの参照によって開示に含まれるものとする。
【0010】
中国特許出願番号(CN−A−1096031)は、β−アドレナリンおよびM−コリン受容体の双方向制御におけるスピロスタンサポゲニンおよびサルササポゲニンの生理活性を示唆しており、その開示はこの参照によって開示に含まれるものとする。特定の薬理活性は示されていない。しかしながら、「同位体標識された化合物の合成および応用(Synthesis and Applications of Isotopically Labeled Compounds)」,1998年,315〜320頁において、イ(Yi)他は老人性痴呆の治療におけるサルササポゲニンの使用について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第01/49703号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
広範囲の相対的な重症度の範囲において症状の広範囲の組み合わせを呈する、いわゆる「スペクトル」障害が多く存在する。各症状の重症度および症状の特定の組み合わせは、各個人および病気の進行段階によって異なる。例えば、パーキンソン病、重症筋無力症、Lambert−Eaton病、体位性低血圧、および慢性疲労症候群の場合には、認知機能障害は主要な症状ではなく、可能性がある多くの二次的な症状の1つとなりうる。また、これらの症状はウイルス性の病気または痴呆ではない。これらの障害の多くは、いわゆる「スペクトル」障害である。したがって、多くの場合には、認知機能障害(例えば痴呆)のための治療は必要ではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、サポニンを含むある種のサポゲニンおよびそれらの誘導体が、認知的な神経および神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失に対してのみならず、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性に対して驚くべき疾患緩和活性を有し、これにより、症状を有効に予防および回復させるという我々の知見に基づくものである。この知見によって、認知的な機能障害が主要な症状ではない非ウイルス性のスペクトルおよび非スペクトル障害の改善された治療が可能となる。
【0014】
[発明の簡単な説明]
本発明の一態様によれば、(i)非認知的な神経変性、(ii)非認知的な神経筋変性、(iii)運動−感覚神経変性、(iv)認知的な神経および神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失に罹患しているか、あるいは罹患しやすいヒトおよびヒト以外の動物における、前記症状の治療または予防、あるいは治療または予防のための組成物(例えば、医薬組成物、食品、サプリメント食品、および飲料)の調製における(本発明で定義する)活性物質(active agent)の使用が提供される。
【0015】
「活性物質」とは、以下の一般式(I)、(II)、(III)で表される化合物、定義されたXラジカル置換基を少なくとも1つ有する誘導体を参照して以下に定義されるサポゲニン誘導体、以下に定義するそれらの化合物の糖置換誘導体、それらの立体異性体およびラセミ混合物、それらの薬学的に許容しうるプロドラッグおよび塩、ならびにそれらの混合物および組み合わせを意味する。
【0016】
【化5】

【0017】
一般式(I)において、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、またはアルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
、R11、R12、R14、R15、R16、R17、R25、R33は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、またはアルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基である。
【0018】
【化6】

【0019】
一般式(II)において、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30
31、R32、R34は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R11、R12、R14、R15、R16、R17、R25、R33、R35は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基である。
【0020】
【化7】

【0021】
一般式(III)において、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R14、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R11、R12、R15、R16、R17、R25は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、かつ、
25の立体配置はβ配向である。
【0022】
Xラジカル置換基を少なくとも1つ有するサポゲニン誘導体、特にステロイドスピロスタンサポゲニン誘導体(ただしこれに限定されない)であって、
Xは以下の群から選択されるサポゲニン誘導体:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、および
アルキル基;ならびに
上記化合物の誘導体であって、3位の炭素原子(すなわち、Rに結合する炭素、または式では示さずに上記に定義されたサポゲニン誘導体における対応する位置)、または式(II)および(III)の場合には、3位の炭素原子、26位の炭素原子(すなわちR34に結合する炭素)、または3位の炭素原子および26位の炭素原子のそれぞれがO糖部分を有し、該糖が単糖、二糖または三糖である。
【0023】
サポゲニン活性物質の糖含有誘導体は、当業界では通常サポニンと呼ばれる。本発明でいう「炭水化物」とは、特にそのような糖類を含む。
【0024】
本発明で使用される活性物質は、好ましくは、非エストロゲンステロイドサポゲニン、サポニン、およびそれらの上述の定義の範囲内の誘導体であり、あらゆる生理学的に許容しうるプロドラッグおよび塩を含む。
【0025】
活性物質は、天然由来物質または非天然由来物質であってもよい。非天然由来の活性物質は、後述するとともに当業界で知られているように、天然由来化合物の側鎖基および/または側鎖原子を修飾することによって好適に調製することができる。
【0026】
また、本発明は、ヒトおよびヒト以外の動物の治療のための対応する方法、および前記治療方法で使用される活性物質を含む組成物を提供する。
【0027】
本発明の活性物質は、必要に応じて、コリンエステラーゼ阻害剤、ドーパミンアゴニスト(例えばL−ドーパ)、COMT阻害剤、MAO−B阻害剤、抗コリン剤、アセチルコリンアゴニスト、セロトニンアゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、GABA受容体アゴニスト、NMDA受容体アゴニスト、β−アドレナリン受容体アゴニスト、ジゴキシン、ドブタミン、抗炎症剤、神経栄養因子、スタチン、アデノシンA2a受容体アンタゴニスト、アルドースレダクターゼ阻害剤、免疫調節剤、カンナビノイドアゴニスト、インターフェロンβ、または3環系抗うつ薬(ただし、これらに限定されるわけではない)から選択される1以上の他の活性物質と共に投与することができる。
【0028】
活性物質は、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、または受容体の機能障害または損失によって特徴づけられる症状および病気に罹患しているか、または罹患しやすいヒトおよびヒト以外の動物に治療的または予防的に投与することができる。そのような症状および病気については後述する。
【0029】
したがって、本発明はまた、前記症状および病気の1以上に罹患しているか、または罹患しやすいヒトおよびヒト以外の動物における治療または予防あるいは治療または予防のための組成物(例えば、医薬組成物、食品、サプリメント食品、および飲料)の調製における(本発明で定義する)活性物質の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、CHO−β2/m3アドレナリン受容体が同時に導入された細胞株における、5日目のm3およびβ2アドレナリン受容体密度に対するエピスミラゲニンアセテートの作用を示す。
【図2】図2は、ラット初代皮質神経細胞における、グルタメート誘発神経変性に対するサルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンの作用を示す。
【図3】図3は、老齢ラットの学習能力および記憶に対するサルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンの作用を示す。
【図4】図4は、ムスカリン受容体の数に対するサルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンの作用を示す。
【図5】図5は、スミラゲニンの経口投与後のSOD−1マウスの生存率プロファイルを示す。
【図6】図6は、サルササポゲニンの経口投与後のpmnマウスの生存率プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[発明の詳細な説明]
[活性物質の例]
以下の活性物質が特に例示される。
【0032】
1.一般式(I)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、またはアルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
、R11、R12、R14、R15、R16、R17、R25、R33は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、またはアルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0033】
2.一般式(I)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、またはアルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
、R12、R15、R16、R17はHであり;
11、R14、R25、R33は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基であるか、または存在しないか、またはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であり;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0034】
3.一般式(I)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33はHであり;
33またはR14はCHであり、
.....は任意の一重結合を表し;
25位のメチル基はR配置またはS配置であり;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0035】
4.一般式(I)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32はHであり;
14およびR33はCHであり;
.....は任意の一重結合を表し;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0036】
5.一般式(II)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R34は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基あるいはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R11、R12、R14、R15、R16、R17、R25、R33、R35は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0037】
6.一般式(II)で表される化合物およびその炭水化物誘導体であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキ
ル基、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R12、R15、R16、R17はHであり;
34はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であり;
11、R14、R25、R33、R35は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基あるいはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0038】
7.一般式(II)で表される化合物およびその炭水化物誘導体であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33はHであり;
14はCHであり;
34はOHまたはOR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であり;
35はHであるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
25位のメチル基はR配置またはS配置であり;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0039】
8.一般式(II)で表される化合物およびその炭水化物誘導体であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33はHであり;
14およびR33はCHであり;
34はOHまたはOR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であり;
35はHであるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0040】
9.一般式(III)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R11、R12、R15、R16、R17、R25は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0041】
10.一般式(III)で表される化合物であって、
、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R14、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R35、R36、R37は、それぞれ独立に、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
、R12、R15、R16、R17は水素原子であり;
34は、H、OH、=O、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基あるいはOR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であるか、または存在せず;
11およびR25は、H、OH、ハロゲン原子、(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、N−、NH−、MeSONH−、アルキル基あるいはOR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)を示すか、または存在せず;
.....は任意の二重結合を表し;
上記の定義に加え、
33またはR14はアルキル基であり、
25の立体配置はβ配向である。
【0042】
11.一般式(III)で表される化合物およびその炭水化物誘導体であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33はHであり;
14はCHであり;
34はOHまたはOR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であり;
35はHであるか、または存在せず;
37はH、OHまたは=Oであり;
36はHまたはOHであり;
.....は任意の一重結合を表し;
25位のメチル基はR配置またはS配置であり;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0043】
12.一般式(III)で表される化合物およびその炭水化物誘導体であって、
、R、R、R、R、R、R、R10、R11、R、R12、R13、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R19、R20はHであり;
14およびR33はCHであり;
34はOHまたはOR(Rはアルキル基、アシル基または炭水化物を示す)であり;
35はHであるか、または存在せず;
37はH、OHまたは=Oであり;
36はHまたはOHであり;
.....は任意の一重結合を表し;
25位のメチル基はR配置またはS配置であり;
25の立体配置はβ配向であり;
上記の定義に加え、
およびR23の少なくとも1つはXラジカルであり、可能性のある残りの置換基はH、OH、=O、OR(Rはアルキル基またはアシル基を示す)であるか、または存在せず;
Xは以下の群から選択される:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、
アルキル基。
【0044】
13.置換サポゲニン、特にステロイドスピロスタンサポゲニン(ただしこれに限定されない)であって、前記サポゲニンの少なくとも1つのOH基が、以下の群から選択されるXで置換されている:
ハロゲン原子、
(Me−S−)、(Me−SO−)、(Me−SO−)、
−、NH−、MeSONH−、および
アルキル基。
【0045】
14.上に定義された置換サポゲニン、特にステロイドスピロスタンサポゲニン(ただしこれに限定されない)であって、Xとして定義されるハロゲン原子がフッ素原子である。
【0046】
15.以下から選択される置換サポゲニン:
(3β−フルオロ−5β,20α,22α,25R−スピロスタン)、(3,3−ジフルオロ−5β,20α,22α,25R−スピロスタン)、(3α−メチルスルホニルアミ
ノ−5β,20α,22α,25R−スピロスタン)、(3α−アジド−5β,20α,22α,25R−スピロスタン)、(3α−アミノ−5β,20α,22α,25R−スピロスタン)、それらの立体異性体およびラセミ混合物、それらの薬学的に許容しうるプロドラッグおよび塩。
【0047】
16.置換サポゲニンであって、上に定義されたように少なくとも1つのXラジカルで置換される親サポゲニンが、サルササポゲニン、エピサルササポゲニン、スミラゲニン、エピスミラゲニン、およびアンズロゲニン(anzurogenin)−Dから選択される。
【0048】
17.一般式(Ia)で表される化合物:
【0049】
【化8】

【0050】
式中、Rは水素原子、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルボニル基、スルホ基(HOS)、ホスホノ基((HO)P(O)−)、または単糖、二糖または三糖から選択され、アルキル基は、アリール基、アミノ基、モノまたはジアルキルアミノ基、カルボン酸残基(−COOH)、またはこれらの組み合わせによって任意に置換されている。
【0051】
18.前記1〜17で定義された前記化合物の誘導体であって、3位の炭素原子、または式(II)および(III)の場合には3位の炭素原子、26位の炭素原子または3位の炭素原子および26位の炭素原子のそれぞれがO糖部分を有し、該糖は単糖、二糖または三糖であり、該O糖は例えば、5〜6個の炭素原子を有するモノアルドースまたはケトースであって、好ましくはαまたはβアノマーとして、DまたはL光学異性を有する環状フラノースまたはピラノース型、あるいはそれらのジ−およびトリ−オリゴ糖の組み合わせなどである;アシル化糖残基も「糖」に含まれる;好適な糖の例には、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、ラムノース、キシロース、アラビノース、フコース、キノボース、アピオース、ラクトース、ガラクトース−グルコース、グルコース−アラビノース、フコース−グルコース、ラムノース−グルコース、グルコース−グルコース−グルコース、グルコース−ラムノース、マンノース−グルコース、グルコース−(ラムノース)−グルコース、グルコース−(ラムノース)−ラムノース、グルコース−(グルコース)−グルコース、ガラクトース−(ラムノース)−ガラクトース、およびそれらのアシル化(例えばアセチル化)された誘導体が含まれる。
【0052】
上記化合物の定義において、アルキル基の任意のアミノ置換基、モノ−アルキル−アミノ置換基、およびジ−アルキル−アミノ置換基は、存在する場合には、好ましくはアルキ
ル基のα位に位置する単置換基(mono−substituent)である。
【0053】
アルキル基の任意の−COOH置換基は、存在する場合には、アルキル基の末端または他のいずれかの位置に結合していてもよい。
【0054】
「アルキル基」とは、鎖中に約1〜約20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は鎖中に1〜約12個の炭素原子を有する。「分岐状」とは、直鎖状のアルキル鎖に、メチル基、エチル基またはプロピル基などの低級アルキル基が1以上結合していることを意味する。「低級アルキル基」とは、直鎖状または分岐状であってもよい分子鎖中の約1〜約4個の炭素原子を意味する。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ペンチル基、3−ペンチル基が含まれる。
【0055】
「アリール基」とは、芳香族環または連結した環からなる芳香族系を含むあらゆる基を意味し、好ましくは12個以下の炭素原子を含む。アリール基の例としては、フェニル基が挙げられる。アリール基は、任意に単置換または多置換されていてもよく、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素または臭素)、アルキル基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシル基、アミノ基、ニトロ基、アシルアミノ基、カルボキシル基、およびアルコキシカルボニル基から独立して選択される置換基によって単置換または多置換されていてもよい。
【0056】
「カルボン酸残基」とは、−COOH基を意味する。
【0057】
「アシル基」とは、H−CO−基またはアルキル−CO−基を意味し、前記アルキル基は下記に定義されるとおりである。好ましいアシル基は低級アルキル基を含む。アシル基の例には、ホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、2−メチルプロパノイル基、ブタノイル基、およびパルミトイル基が挙げられる。
【0058】
「任意に置換された」とは、前記基が1以上の置換基によって置換されていてもよいことを意味し、前記置換基は同一でも異なっていてもよく、好ましくは、前記置換基はそれぞれ、置換された親基よりも小さいサイズ(例えば、最大分子寸法の約20%未満)を有する1以上の置換基によって置換されている。好適な置換基には、ハロゲン原子(例えば、塩素または臭素),アルキル基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシル基、アミノ基、アシルアミノ基、アリール基、アロイルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、ヘテロアラルコキシカルボニル基、および任意に置換されたカルバモイル基が含まれ、好ましくは上述のサイズ制限に適合するものである。
【0059】
「薬学的に許容しうる」とは、医学的および獣医学的見地の範囲内において、過度の毒性、炎症、アレルギー反応などが発生することなく、ヒトおよび下等動物の細胞と接触させて使用するのに適していることを意味し、合理的な利点/リスクの比と同様である。「薬学的に許容しうるプロドラッグ」とは、医学的および獣医学的見地の範囲内において、過度の毒性、炎症、アレルギー反応などが発生することなく、ヒトおよび下等動物の組織と接触させて使用するために適していることを意味し、合理的な利点/リスク比と同様であり、可能であれば化合物が双極性イオンの形態であるとともに、目的とする用途に効果的であることを意味する。「プロドラッグ」とは、in vivoにおいて、例えば血液中の加水分解によって上記式で表される親化合物へと速やかに変換される化合物を意味する。代謝的な開裂によって、in vivoで速やかに変換され得る官能基は、カルボキシル基との反応性を有する種類の基を形成する。前記化合物の代謝的に開裂可能な基がin vivoで開裂しやすいため、このような基を有する化合物はプロドラッグとして機
能する。プロドラッグについての解説は以下の文献に記載されている。H.バンドガード(Bundgaard)編,「プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)」,Elsevier,1985、K.ウィダー(Widder)他編,「酵素学における方法(Methods in Enzymology)」,AcademicPress,42,309−396頁,1985年)、クロッッグスガード−ラーセン(Krogsgaard−Larsen)およびH.バンドガード(Bundgaard)編,「ドラック設計およびその発展に関するテキストブック(A Textbook of
Drug Design and Development)」,第5章、「プロドラッグの設計と応用(Design and Applications of Prodrugs)」,113−191頁,1991年、H.バンドガード(Bundgaard),「応用のドラックデリバリー総説(Advanced Drug Delivery
Reviews)」,8,1−38頁,1992年、ジャーナル・オブ・ファーマスーティカル・サイエンセス(Journal of Pharmaceutical Sciences),77,285頁,1988年、N.ナケヤ(Nakeya)他,Chem.Pharm.Bull.,32,692頁,1984年、T.ヒグチ(Higuchi)およびV.ステラ(Stella),「新規なデリバリーシステムとしてのプロドラッグ(Pro−drugs as Novel Delivery Systems)」,A.C.S.シンポジウムシリーズ第14巻、およびエドワード B.ロシュ(Edward B.Roche)編,「ドラッグデザインにおけるバイオリバーシブルなキャリア(Bioreversible Carriers in Drug Design)」,アメリカ薬学会(American Pharmaceutical Association)およびパーガモン出版(Pergamon Press),1987年。これらの内容は、この参照によって開示に含まれるものとする。
【0060】
「薬学的に許容しうる塩」とは、相対的に無毒な、本発明の化合物の無機および有機酸付加塩および塩基付加塩である。これらの塩は、前記化合物の最終的な単離精製時にin
situで調製することができる。特に、酸付加塩は、遊離塩基の形態で精製された化合物を、適当な有機酸または無機酸と反応させ、生成された塩を単離することによって調製することができる。例えば、S.M.バージ(Berge)他「薬剤塩(Pharmaceutical Salt)」,J.Pharm.Sci.,66,1−19頁,1977年を参照されたい。その内容はこの参照によって含まれるものとする。また、塩基付加塩は、酸の形態の精製化合物を、適当な有機塩基または無機塩基と反応させ、生成された塩を単離することによって調製することができる。塩基付加塩は、薬学的に許容しうる金属塩およびアミン塩を含む。適当な酸付加塩の例としては、塩酸、硫酸、リン酸、および硝酸から選択される酸を使用して形成された塩が挙げられる。好適な塩基付加塩の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化アンモニウムから選択される塩基を使用して形成された塩が挙げられる。
【0061】
特に好ましい活性物質は、一般式(Ia)で表される化合物である。
【0062】
式(Ia)で表される化合物のいくつかにおいては、C25位のメチル基がS配置である。本発明のこれらの化合物は、サルササポゲニンおよびエピサルササポゲニンまたはそれらの誘導体である。式(Ia)で表される他の化合物においては、C25位のメチル基はR配置である。本発明のこれらの化合物は、スミラゲニンおよびエピスミラゲニンまたはそれらの誘導体である。
【0063】
上記式(Ia)において、−ORは、例えば、(条件によって排除されない限り)以下から選択することができる:水酸基、カチレート(エトキシカルボニルオキシ)、アセテート、スクシナート、シンナマート、フェルレート、プロピオナート、ブチラート、バレラート、イソバレラート、カプロエート、イソカプロエート、ジエチルアセテート、オク
タノエート、デナノエート、ラウレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、ベンゾエート、フェニルアセテート、フェニルプロピオナート、シンナマート、p−ニトロベンゾイルオキシ、3,5−ジニトロベンゾイルオキシ、p−クロロベンゾイルオキシ、2,4−ジクロロベンゾイルオキシ、p−ブロモベンゾイルオキシ、m−ブロモベンゾイルオキシ、p−メトキシベンゾイルオキシ、フタルイル、グリシナート、アラニナート、バリナート、フェニルアラニナート、イソロイシナート、メチオニナート、アルギニナート、アスパラギネート、アスパルテート、システイナート、グルタマート、ヒスチジナート、リシナート、プロリナート、セリナート、スレオニナート、トリプトファナート、チロシナート、フマラート、またはマレアート。
【0064】
一般式(Ia)で表される化合物およびその薬学的に許容しうる塩は、以下の化合物であることが特に好ましい。
サルササポゲニン、
サルササポゲニンカチレート、
サルササポゲニンアセテート、
サルササポゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニン、
エピサルササポゲニンカチレート、
エピサルササポゲニンアセテート、
エピサルササポゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニン、
スミラゲニンカチレート、
スミラゲニンアセテート、
スミラゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、および
エピスミラゲニン、
エピスミラゲニンカチレート、
エピスミラゲニンアセテート、
エピスミラゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩。
【0065】
一般式(Ia)で表されるサポニン(R=糖)化合物のうち、以下の化合物が特に好ましい。サルササポゲニン、エピサルササポゲニン、スミラゲニン、およびエピスミラゲニンであって、3位の炭素原子がO糖部分を有し、その糖がグルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、ラムノース、キシロース、アラビノース、フコース、キノボース、アピオース、ラクトース、ガラクトース−グルコース、グルコース−アラビノース、フコース−グルコース、ラムノース−グルコース、グルコース−グルコース−グルコース、グルコース−ラムノース、マンノース−グルコース、グルコース−(ラムノース)−グルコース、グルコース−(ラムノース)−ラムノース、グルコース−(グルコース)−グルコース、ガラクトース−(ラムノース)−ガラクトース、およびそれらのアシル化(例えばアセチル化)誘導体から選択される。
【0066】
好適な活性物質のさらなる例には、16,22−エポキシコプロスタン−3β−オール、スミラゲノン、コプロステロール、およびそれらの薬学的に許容しうるプロドラッグおよび塩が含まれる。
【0067】
[組成物および使用]
本発明は、ヒトまたはヒト以外の動物における、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、または(限定されないが、特に、上述した特定の疾患状態と関連する)認知的な神経または神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失を治療または予防する方法であって、(本明細書で定義する)活性物質またはその薬学的に許容しうる塩を、前記ヒトまたはヒト以外の動物に有効な量で投与することを含む方法を可能にしかつ提供する。
【0068】
活性物質は、活性物質とその他の適当な成分を含む組成物の形態にて投与してもよい。組成物は、例えば、医薬組成物(薬物)、食品、サプリメント食品、または飲料であってもよい。そのような組成物は、前記所定の化合物の混合物および/またはそれらの薬学的に許容しうる塩の混合物を含むことができる。
【0069】
本発明の別の態様によれば、ヒトまたはヒト以外の動物における、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、または認知的な神経または神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失に対する活性を有し、かつそれらの治療に使用される組成物であって、前記活性物質である化合物を有効な量で含む組成物が提供される。
【0070】
本発明における「医薬組成物」とは、活性物質と、投与および投与量の形態に応じて、保存剤、フィラー、分解剤、保湿剤、乳化剤、懸濁剤、甘味料、調味料、香料、抗菌剤、抗かび剤、潤滑剤、および調合剤などの薬学的に許容しうるキャリア、希釈剤、補助剤、添加剤、または溶媒とを含む組成物を意味する。
【0071】
本発明における「食品」、「サプリメント食品」、および「飲料」とは、これらの用語の通常の意味を有し、薬学的な調剤に限定されない。
【0072】
活性物質の投与量は、治療または予防の対象となる症状の重症度に応じて大きく変化しうる。適切な投与量の選択は、当業者の能力に委ねられる。活性物質の投与量は、例えば、体重1kgあたり約0.1mg/kg(例えば約0.3mg/kg)より多くすることができ、好ましくは1日1回投与する。通常は、投与量を約1〜約25mg/kgの間(例えば約1〜約10mg/kgの間)にし、好ましくは1日1回投与することができる。
ヒトに使用する場合、投与量は1日あたり約70〜約700mgである。
【0073】
「薬学的に許容しうる投与形式」とは、本発明の化合物または組成物の投与形式を意味し、例えば、リポゾーム調剤を含む、注射のための液体調剤のみならず、錠剤、糖衣錠、粉末、エリキシル剤、シロップ、懸濁液、スプレー、吸入剤、タブレット、トローチ、乳化液、溶液、顆粒、カプセル、および座薬を含む。そのための技術および調合は、レミングトン(Remington),「薬科学(Pharmaceutical Science)」,Mark Publishing Co.,Easton,PA,最新版に一般的に記載されている。
【0074】
ここで、「化合物の特定の群の1つの存在で」とは、それらの化合物の2種以上の混合物が存在することを含む。
【0075】
本発明は、パーキンソン病、脳炎後のパーキンソン病、うつ病、総合失調症、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、およびブルース型筋ジストロフィーを含む筋ジストロフィー、フューチ型ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、角膜ジストロフィー、反射性交感神経性ジストロフィー症候群(RSDSA)、神経血管ジストロフィー、重症筋無力症、Lambert−Eaton症候群、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む運動神経細胞疾患、多発性硬化症、体位性低血圧、発作後または事故後の外傷性の神経変性(例えば、外傷性の頭部傷害または脊髄損傷)、Batten病、コケイン症候群、ダウン症候群、大脳皮質基底核神経節変成症、多系統萎縮症、脳萎縮症、オリーブ橋小脳萎縮症、歯状赤核萎縮症、淡蒼球ルイ体萎縮症、球脊髄萎縮症(spinobulbar atrophy)、視神経炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、注意欠陥障害、感染後脳炎、ポリオ後症候群、Fahr症候群、Joubert症候群、ギラン・バレー症候群、滑脳症、モヤモヤ病、神経細胞移動障害、自閉症候群、ポリグルタミン病、ニーマン・ピック病、進行性多病巣性白質脳障害、偽脳腫瘍、Refsum病、Zellweger症候群、核上性麻痺、Friedreich失調症、脊髄小脳失調2型、レット症候群、シャイ・ドレーガー症候群、結節硬化症、ピック病、慢性疲労症候群、遺伝性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、および分裂ニューロパチーを含む神経障害、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、牛海綿状脳症(BSE)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)、クールー病、およびAlper症候群を含む、プリオンが病因となる神経変性(prion−based neurodegeneration)、Joseph病、急性散在性脳脊髄炎、クモ膜炎、中枢神経の血管障害(vascular lesions of the central nervous system)、神経細胞機能の重度喪失(loss of extremity neuronal function)、シャルコー・マリー・ツース病、心不全への罹患性(susceptibility to heart failure)、喘息、および黄斑変性症のいずれかに罹患しているか、または罹患しやすいヒトまたはヒト以外の動物の患者について、(i)非認知的な神経変性、(ii)非認知的な神経筋変性、(iii)運動−感覚神経変性、または(iv)認知的な神経または神経筋の障害がない場合における受容体の機能障害または損失の治療を提供する。
【0076】
したがって、本発明は、上記病気および症状に罹患しているか、または罹患しやすいヒトまたはヒト以外の動物の上記病気および症状を治療または予防するための方法であって、前記活性物質を前記ヒトまたはヒト以外の動物に有効な量で投与することを含む方法、ならびに前記治療または予防のための組成物の調製における前記活性物質の使用を含む。
【0077】
本発明が関連し、上述の従来技術によって可能となるか、または上述の従来技術に開示
された治療に開示されているか、またはそれから明らかである病気状態の範囲内にあるその他のあらゆる症状とともに、パーキンソン病、脳炎後パーキンソン症候群、体位性低血圧、自閉症候群、慢性疲労症候群、重症筋無力症、およびLambert−Eaton病の場合において、本発明は、認知的な機能障害の症状がないか、または治療対象の患者の認知的な機能障害の症状が、非認知的な神経変性、非認知的な神経筋変性、運動−感覚神経変性、または認知的な神経または神経筋の障害がない場合の受容体の機能障害または損失の症状における二次的または付随的なものであるということが条件となる。
【0078】
[本発明における使用のための化合物の調製]
スミラゲニン、エピスミラゲニン、およびサルササポゲニンは商業的に入手可能な材料である。例えば、供給元には、シグマアルドリッチ(Sigma Ardrich)、リサーチプラスインク(Reseach PlusInc.)、およびステラロイズインク(Steraloids Inc.)が含まれる。また、これらの材料の調製方法は文献に記載されている(例えば、エピサルササポゲニンの調製はJACS,5225頁、1959年)に記載されている)。エピサルササポゲニンは、金属水素化物還元剤を使用してサルササポゲニンを還元することによって調製することができる。サルササポゲニンは、ラジス(Lajis)らの他の方法(ステロイド(Steroids),58,387−389頁,1993年)によって調製することができる。
【0079】
また、出発物質として、非置換のサポニンおよびサポゲニンが幅広い植物種において天然に存在しており、特筆すべき植物としては、サルトリイバラ属、アスパラガス、ハナスゲ、イトラン、またはリュウゼツランがある。スミラゲニンまたはサルササポゲニンは、本発明にしたがって使用され、サルトリイバラ属、アスパラガス、ハナスゲ、イトラン、またはリュウゼツランに由来する植物抽出物または乾燥粉末状植物材料の形態をとることができる。
【0080】
活性物質の調製方法は当業者には周知である。例えば、WO−A−02/079221に実施例が示されている(実施例5〜16には、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンスクシナート、エピスミラゲニンカチレート、サルササポゲニングリシナート塩酸塩、サルササポゲニングリシナート塩酸塩、エピスミラゲニングリシナート塩酸塩、エピスミラゲニンL−アラニナート塩酸塩、エピスミラゲニンL−バリナート塩酸塩、エピスミラゲニンL−イソロイシナート塩酸塩、エピスミラゲニンL−フェニルアラニナート塩酸塩、およびエピスミラゲニンL−メチオナート塩酸塩の調製について記載されている)。式(Ia)で表される化合物であって、Rが水素原子であるもの以外は、Rが水素原子である化合物から従来の方法を使用して調製することができる。
【0081】
好ましい反応は求核置換反応であり、3位にOHを有する化合物を、下記式で表される化合物と反応させる。
【0082】
L−R
式中、Rはアルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基またはアリールカルボニル基から選択され、アルキル基はアリール基、アミノ基、モノ−アルキル−アミノ基、ジ−アルキル−アミノ基、カルボン酸残基(−COOH)、またはこれらの組み合わせから任意に置換され、Lは求核置換に適した条件下における脱離基である。
【0083】
L−Rで表される化合物は例えば、カルボン酸、または適切であれば、無水物またはハロゲン化アシル(例えば、塩化アシル)であってもよい。例えば、L−Rで表される化合物において、Rはカチレート(エトキシカルボニル)部位であり、L−Rで表される化合
物は好適には、クロロギ酸エチルである。
【0084】
この反応は、好適には、ピリジンなどの塩基中で行なわれ、任意に、塩酸などの酸存在下で行なわれる。
【0085】
求核置換反応の詳細はよく知られている。例えば、RCラロック(Larock),「総括的な有機変換(Comprehensive Organic,Transformations)」,VCH publishers,1989を参照されたい。
【0086】
ジヒドロサルササポニゲンは、マーカー(Marker)およびローマン(Rohrmann)(1939)、「ステロールLIII;サルササポゲニンの側鎖の構造(Sterols LIII;The structure of the side chain of sarsasapogenin)」、J.Am.Chem.Soc.61、846〜851頁に記載された方法を使用して製造することができる。16,22−エポキシコプロスタン−3β−オールは、シアー(Scheer)らによる、(1955)、「スミラゲニンとサルササポゲニンのC−25異性(The C−25 isomerism of smilagenin and sarsasapogenin)」、 J.Am.Chem.Soc.77、641〜646頁に記載された方法を使用して製造することができる。
【0087】
ここで言及された反応においては、反応性の官能基(例えば、水酸基、カルボキシル基、またはアミノ基)を保護することが必要な場合がある。前記反応において不必要な関与を防ぐために、これらの反応性の官能基は最終生成物に必要とされる。標準的な実務にしたがって、従来の保護基が使用可能である。例えば、TWグリーン(Green)およびPGMワッツ(Wuts),「有機化学における保護基(Protective Groups in Organic Chemistry)」,John Wiley&Sons,1991、およびJFWマクオミー(McOmie),「有機化学における保護基(Protective Groupsin Organic Chemistry)」,Plenum Press,1973を参照されたい。式L−Rで表される化合物中のアミノ置換基であって、Rがアミノ基で置換されているものを保護するためには、アルコキシカルボニル保護基を使用することが好ましい。これにより、アミノ官能基は、乾燥溶媒中にて酸条件下で脱保護されるまでは、合成工程中で、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは、tert−ブトキシカルボニルアミノ基)として存在する。
【0088】
このようにして調製された前記化合物は、従来の手法にて反応混合物から取り出すことができる。例えば、前記反応混合物から溶媒を蒸留留去することにより、あるいは、必要に応じて前記反応混合物から溶媒を蒸留留去した後、得られた残渣を水に加え、次いで、水と混和する溶媒を用いて抽出し、前記抽出物から溶媒を蒸留留去することにより、前記化合物を取り出すことができる。付加的に、希望に応じて、再結晶、再沈殿、または種々のクロマトグラフィー技術(特筆すべきは、カラムクロマトグラフィーまたはプレパラティブ薄層クロマトグラフィー)などの種々の公知の技術を用いて、前記生産物をさらに精製することができる。
【0089】
[活性の原理の検討]
本発明の基礎にある治療用途は、後述する実施例において詳細に記述された多くの新規な観察から生じたものである。本発明の原理を理解するためには、これらの観察について要約し、上記に定義された活性物質の範囲にわたって本発明において請求された治療活性がどのようにして予測されたかを説明することは有益である。
【0090】
スミラゲニン、エピスミラゲニン、サルササポゲニン、およびエピサルササポゲニンは
、in vitroにおいて、アセチルコリン受容体およびアドレナリン受容体を発現する細胞におけるアセチルコリン受容体およびアドレナリン受容体の損失を回復させる。これらの結果は、これらの化合物が正常細胞の受容体損失となるように回復させることを示している(実施例1)。
【0091】
サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびスミラゲニンは、in vitroにおいて、ラット皮質神経細胞にて化学的に誘発された神経変性を防ぐ。これらの結果は、これらの化合物が神経保護的であり、in vitroにおいて神経変性および神経障害を予防することを示している(実施例2)。
【0092】
サルササポゲニン、スミラゲニン、16,22−エポキシコプロスタン−3β−オール、スミラゲノン、スミラゲニングリシナート塩酸塩、およびコプロステロールは、in vitroにおいて、ラット皮質神経細胞にて化学的に誘発された神経変性を回復させる。これらの結果は、これらの化合物がin vitroにおいて感覚神経変性および神経障害を回復させることを示している(実施例3)。
【0093】
スミラゲニンは、神経細胞において化学的に誘発されたアポトーシスを回復させ、このことは、スミラゲニンがin vitroにおいて抗アポトーシスおよび神経保護的であることを示している(実施例4)。
【0094】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、in vitroにおいてラット皮質神経細胞における神経突起成長(神経突起数および神経突起分枝)を増加させ、このことは、スミラゲニンおよびサルササポゲニンが、in vitroにおいて神経栄養作用を有することを示している(実施例5)。
【0095】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、in vitroにおいて、中脳ドーパミン神経細胞における神経毒誘発神経変性(神経毒:1−メチル−4−フェニルピリジニウム(MPP))を予防し、かつ回復させる。これらの結果は、これらの化合物がin vitroにおいて神経変性および神経障害を予防し、かつ回復させることを示している(実施例6および7)。
【0096】
サルササポゲニンとスミラゲニンは、in vitroにおいて、ラットの脊髄運動神経細胞にて化学的に誘発された神経変性を回復させる。これらの結果は、これらの化合物がin vitroにおいて運動神経の神経変性および神経障害を回復させることを示している(実施例8)。
【0097】
サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンは、老齢ラットに対するin vivo認知能力試験における誤応答の数を減少させる。これは、試験化合物を使用して治療した老齢ラットの脳におけるムスカリン性アセチルコリン受容体密度の上昇と相関している。これらの結果は、これらの化合物がin vivoで神経障害を回復させることを示している(実施例9)。
【0098】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、老齢の動物におけるムスカリン性アセチルコリンおよびドーパミン受容体の減少および脳由来成長因子(BDNF)の減少を回復させる。これらの結果は、これらの化合物がin vivoで運動−感覚神経変性および神経障害を回復させることを示している(実施例9)。
【0099】
エピサルササポゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、およびエピスミラゲニンは、神経毒物質(イボテン酸およびアミロイドβ)に暴露し
た若齢ラットのin vivo認知能力試験において、誤応答の数を減少させ、脳内のムスカリン性アセチルコリン受容体密度を上昇させる。これらの結果は、これらの化合物がin vivoで神経障害を回復させることを示している(実施例10)。
【0100】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびシャルコー・マリー・ツース病のモデルマウスの生存率、運動−感覚神経変性、および神経障害を改善させる(実施例11)。
【0101】
すなわち、前記化合物は神経変性のある面の進行を遅らせる、または回復させることが判明した。これらには、細胞体における不利な変化の回復、神経細胞成長(神経突起)の減少の回復、神経栄養(例えば、BDNF、NGF、NT−3、NT4/5)、TGF−スーパーファミリー神経栄養因子(例えば、GDNF)、ニューロキン(neurokin)(例えば、CNTF、LIF)などの神経栄養因子の放出の減少の回復、および神経毒性または死(アポトーシス)の回復が含まれる。前記化合物は、非常に神経保護的で、神経突起成長を促進し、かつ、神経毒性を予防する。また、前記化合物は、コリン作動性およびドーパミン性機能の低下、例えばムスカリン性アセチルコリンおよびドーパミン受容体密度の低下を遅らせるか、または回復させることが判明した。さらに、神経保護および受容体損失回復作用は積極的に調節された作用であり、過去の劣化は継続的な劣化に対して保護されて正常状態または若い状態に向かって回復することが判明した。そのうえ、前記化合物のアポトーシス作用の回復は、細胞寿命の非腫瘍性ドメインにおいて調節されているようであり、組織異常増殖を引き起こさないようであることが判明した。
【0102】
上記データは、総合して考えた場合、本願で上述した病状に対する活性を示すものである。さらに、上記データは癌などの重症な副作用または生命を脅かす副作用がないようであることを示している。活性物質は通常は非エストロゲン的である。
【0103】
上述の従来技術は、本発明の「活性物質」という用語に含まれる関連化学構造および誘導体に対する上述した観察の延長の予測および治療活性の健全な予測の健全な基礎を示すものである。
【0104】
ステロイド分子上の適切な位置(特に3位および/または26位)の糖、エステル、および他の基などが、in vivoの加水分解によって容易に解離しうることは、当該技術および薬理学では周知のことであり、分子のその他の炭素原子でも同様な作用が観察されると予想される。また、本発明で使用される「活性物質」という表現の範囲内の塩、遊離酸、および遊離塩基は、活性物質が存在する体液のpHにしたがってin vivoで互いに容易に変換しうることは、当該技術および薬理学の分野では周知のことである。さらに、様々な形態で側鎖基置換基は、特に側鎖基が分子の全体サイズよりも小さい場合には、構造の薬理活性に実質的に悪影響を与えることなく複雑な炭素骨格に存在することができることは周知のことである。
【0105】
これらの理由から、本願においてなされる有益な薬理活性の請求は妥当なものであり、そして、この請求は、本明細書にて整理され、かつ提示された試験データからの健全で説得力のある予測に基づく。
【0106】
理論に拘泥されるのを望まないことを前提として、活性物質の1つの生理作用は、脳由来成長因子および/または神経成長因子またはその受容体などの神経栄養因子の合成または放出を増加させるか、前記神経栄養因子の分解率を低下させることができることである。成長因子に対するこれらの効果は、細胞質ゾル受容体または核受容体に対する化合物の影響、またはプロモーター領域に対する化合物の結合に起因すると考えられ、最終的な効果は、成長因子に対するmRNAの生産率に直接影響するか、あるいは別の物質因子の生
産の増加という結果として表れる。
【0107】
さらに、前記化合物は受容体を調整するようである。例えば、これらの化合物のうちのいくつかは、脳内でムスカリン性アセチルコリン受容体またはドーパミン受容体の損失を防止または抑制することが明らかになっている。前記化合物は、受容体の数または機能あるいはターンオーバーにおける欠陥を修復することによって機能していると考えられる。
【0108】
非限定的な実施例によって本発明をさらに説明するために、添付図面および以下の実施例を参照する。
【実施例1】
【0109】
[in vitroでの受容体損失の回復]
ムスカリン性アセチルコリン(m)受容体のベクターまたはβ2受容体およびm3受容体のベクターをトランスフェクトさせたCHO細胞におけるm受容体またはCHO細胞におけるβ2受容体およびm3受容体の発現に対する、エピスミラゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンスクシナート、エピスミラゲニンアセテートおよびサルササポゲニンの作用を調べた。
【0110】
結果を下記の表1および図1に示す。m受容体のベクターをトランスフェクトさせたCHO細胞の培養期間にわたって、エピスミラゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンスクシナート、およびサルササポゲニンによる処理はそれぞれ、m受容体数の減少を防いでいる。β2受容体およびm3受容体のベクターをトランスフェクトさせたCHO細胞の培養期間では、m3受容体の密度は変化しなかったが、β2アドレナリン受容体の密度は減少した。エピスミラゲニンアセテートを用いた培養では(図1)、m3受容体の密度はそれほど変化しなかったが、β2アドレナリン受容体の減少は著しく防止された。
【0111】
【表1】

【0112】
このように、本実験は、エピスミラゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンスクシナート、エピスミラゲニンアセテート、およびサルササポゲニンが、経時的な受容体数の減少を防ぐことができ、かつ、受容体レベルが減少した細胞に投与した場合には、受容体数を正常レベルに回復させる傾向があることを示している。
【実施例2】
【0113】
[神経細胞におけるサルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびスミラゲニンの神経保護作用]
本研究の目的は、グルタメートに暴露したラットの初代皮質神経細胞の生存率に対するサルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびスミラゲニンの作用を調べることである。グルタメートは神経変性を誘発することが知られている。
【0114】
ラットの皮質神経細胞を10日間培養した。10日目に、培地を無血清規定培地に交換した。12日目に、グルタメートに暴露する24時間前に、培養細胞を洗浄し、培地を新しい培地と交換した。この新しい培地は、陽性コントロール(β−エストラジオール)、試験化合物(サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびスミラゲニン)、または溶媒コントロール(DMSO,0.25%)、または陰性コントロールとしてのジオスゲニンを含む。
【0115】
13日目に、培養細胞をグルタメートに暴露した。インキュベーション期間後、培養細胞を洗浄し、新たな培地に入れ、関連化合物または溶媒を添加して、グルタメート暴露後24時間における試験化合物の保護作用を評価した。
【0116】
神経細胞の生存率は、サイトトックス(CytoTox)96非放射性キットを使用して、試験化合物またはグルタメートおよび試験化合物による暴露後24時間後に、培地に遊離した乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を測定することによって評価され、450nmでの吸収波長を測定することによって定量された。
【0117】
グルタメートによるラット初代皮質培養細胞の処理では、処理後24時間において皮質神経細胞が著しく変性した。このことは、培地への乳酸デヒドロゲナーゼの遊離の増加によって示された。
【0118】
前記化合物を用いて前処理を24時間行なった初代皮質培養細胞では、グルタメート誘発神経変性が著しく減少した(図2および表2)。
【0119】
【表2】

【0120】
サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびスミラゲニンはいずれも、in vitroにおいてラット初代皮質神経細胞でのグルタメート誘発神経変性に対して著しい神経保護作用を示した。
【実施例3】
【0121】
[神経細胞における、サルササポゲニン、スミラゲニン、16,22−エポキシコプロスタン−3β−オール、スミラゲノン、スミラゲニングリシナート塩酸塩、およびコプロステロールによる神経変性の回復]
上述したように、ラット初代皮質培養細胞をグルタメート(100μM;10分間)に暴露することによって、24時間後に測定した乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性が上昇し、著しい神経変性を示した。グルタメートに暴露した神経細胞と比べて、グルタメート曝露後に17β−エストラジオールで処理した場合にはLDH活性が大きく減少し、著しい神経保護作用を示した。同様に、グルタメートに暴露した神経細胞と比べて、サルササポゲニン、スミラゲニン、16,22−エポキシコプロスタン−3β−オール、スミラゲノン、スミラゲニングリシナート塩酸塩、およびコプロステロールで処理した場合、LDH活性が大きく減少し、著しい神経保護作用を示した(表3)。
【0122】
【表3】

【0123】
結論として、ラット初代皮質神経細胞において、サルササポゲニン、スミラゲニン、16,22−エポキシコプロスタン−3β−オール、スミラゲノン、スミラゲニングリシナート塩酸塩、およびコプロステロールは、グルタメートにより誘発された神経変性を回復させた。このことは、神経変性疾患の治療可能性を示唆している。
【実施例4】
【0124】
[神経細胞におけるスミラゲニンの抗アポトーシス作用]
本研究の目的は、グルタメートに暴露したラット初代皮質培養細胞において、アポトーシスのマーカーであるカスパーゼ−3活性に対するスミラゲニンの抗アポトーシス作用を調べることである。
【0125】
[皮質神経細胞の初代培養]
ラット皮質神経細胞を6日間培養した。6日目に、グルタメート(100μM、10分間)を添加した。次に、培養細胞を洗浄し、培地を、スミラゲニンまたは溶媒コントロール(DMSO,0.25%)を含む新たな培地と6時間交換した。6時間の処理後、カスパーゼ−3活性を測定することにより、アポトーシスを評価した。カスパーゼ−3活性は、比色カスパーゼ−3基質であるアセチル−Asp−Glu−Val−Asp p−ニトロアニリドからのp−ニトロアニリンの分解によって検出された。p−ニトロアニリンは405nMで高い吸光度を有する。さらに、カスパーゼ−3の相対活性は、光学密度として測定した。また、カスパーゼ−3の相対活性はサンプルのタンパク質濃度に標準化し、
光学密度として測定された(デュ(Du)他、J Neurochem.,69,1382−1388,1997;サワダ(Sawada)他、Faseb J.、14、1202−1214、2000)。
【0126】
スミラゲニンは、ラット初代皮質神経細胞において、グルタメート誘発カスパーゼ−3活性の上昇を回復させた。これにより、スミラゲニンの抗アポトーシス作用が示された(表4)。
【0127】
【表4】

【実施例5】
【0128】
神経変性障害は、神経細胞の進行性損失と神経突起(neurite)の減少によって特徴づけられる。神経突起の成長を誘発する物質は、神経細胞間の新たな連結の形成を促進し、かつ、神経変性状態の症状を改善することがある(カッツマン(Katzman)他、Faseb J.、5,278−286、1991)。
【0129】
17β−エストラジオール(0.3、3、30pM)への曝露によって、ラット初代皮質神経細胞における既存の神経突起の長さが著しく増加した(表5)。17β−エストラジオール(3、30pM)への曝露によって、ラット初代皮質神経細胞において神経突起を示す神経細胞の割合が著しく増加した(表6)。スミラゲニンおよびサルササポゲニン(0.3、3、30pM)への曝露によって、ラット初代皮質神経細胞において既存の神経突起の長さが著しく増加し、かつ、ラット初代皮質神経細胞において神経突起を示す神経細胞の割合が著しく増加した(表5および6)。
【0130】
結論として、スミラゲニンおよびサルササポゲニンはin vitroにおける神経栄養作用を有する。
【0131】
【表5】

【0132】
【表6】

【実施例6】
【0133】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、ラット中脳ドーパミン神経細胞において、神経毒である1−メチル−4−フェニルピリジニウム(MPP)への暴露によって引き起こされる神経変性を予防する。これは、in vitroにおけるパーキンソン病のモデルである。
【0134】
神経毒であるMPPは、1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)の代謝産物であり、このMPPによって引き起こされる損傷は、パーキンソン病などの神経変性疾患で観察される黒質線状ドーパミン神経細胞の変性に似ている(Mytinlineou他,Science,225,529−531,1984)。この神経毒によって引き起こされる最も顕著な生化学的変化は、黒質緻密部(substantia nigra pars compacta)および尾状核でのドーパミンおよびその代謝産物のレべルの減少(Burns他,Proc Natl Acad
Sci U.S.A.,80,4546−4550,1983)と、黒質線状シナプトソーム形成におけるドーパミン取込みの減少(Heikkila他,J Neuroch
em.,44,310−313,1985)である。
【0135】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンでドーパミン神経細胞を前処理することによって、MPPのみの場合と比較して、ドーパミン特異性神経毒であるMPP(2μM)への曝露した後の神経細胞死が著しく減少した。神経細胞成長に関わる分子である、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)を陽性コントロールとして使用した。スミラゲニンおよびサルササポゲニンによる前処理によって、MPPのみに暴露した神経細胞と比べて、神経細胞の生存率は大きく増加し、著しい神経保護作用が示された(表7)。
【0136】
【表7】

【0137】
このin vitroにおけるパーキンソン病のモデルでは、スミラゲニンおよびサルササポゲニンによる前処理によって、ドーパミン特異性神経毒であるMPPへ曝露した後の神経細胞変性が著しく防止され、神経保護作用が示された。
【実施例7】
【0138】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、ラット中脳ドーパミン神経細胞において、神経毒である1−メチル−4−フェニルピリジニウム(MPP)への暴露による神経変性を回復させる。これは、in vitroにおけるパーキンソン病のモデルである。
【0139】
スミラゲニンおよびサルササポゲニンでドーパミン神経細胞を処理することによって、MPPのみの場合と比較して、ドーパミン特異性神経毒であるMPP(2μM)への曝露した後の神経細胞死が著しく減少した。神経細胞成長に関わる分子である、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)および脳由来神経栄養因子(BDNF)、および17β−エストラジオールを陽性コントロールとして使用した。スミラゲニンおよびサルササポゲニンによる処理によって、MPPのみに暴露した神経細胞と比べて、神経細胞の生存率は大きく増加した(表8)。
【0140】
【表8】

【0141】
MPPへの曝露によって、ドーパミン神経細胞の数だけでなく、神経突起の割合も著しく減少した。本研究は、スミラゲニンおよびサルササポゲニンが、in vitroにおいて神経細胞の神経突起の数を著しく増加させることを示している(表9)。これらの結果は、これらの化合物が運動神経変性を回復させることを示している。
【0142】
【表9】

【実施例8】
【0143】
[脊髄運動神経細胞におけるサルササポゲニンおよびスミラゲニンの神経保護作用]
本研究の目的は、この運動神経変性のモデルにおいて、神経変性を誘発することが知られているグルタメートに暴露したラットの脊髄運動初代神経細胞の生存率に対するサルササポゲニンおよびスミラゲニンの作用を調べることである。17β−エストラジオールおよびBDNFを陽性コントロールとして使用した。
【0144】
[脊髄運動神経細胞の初代培養]
(Martinou他,Neuron,8,737−744,1992)に記載された方法に従ってラットの運動神経細胞を準備した。10日目に培地を取り除き、合成培地において培養細胞を37℃で10分間グルタメート(4μM)に暴露した。グルタメートへの暴露後、培養細胞を37℃でダルベッコ(Dulbecco)修正イーグル(Eagle)培地で洗浄し、次に試験化合物を含む新しい培地に該培養細胞を配置した。48時間後に、脊髄運動神経細胞の変性を、培地に遊離した乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量
を上述のように測定することによって決定した。
【0145】
[結果]
グルタメートへの暴露後、処理後48時間において、ラットの初代脊髄運動神経細胞は著しく変性した。このことは、培地中への乳酸デヒドロゲナーゼの遊離の増加によって示された。
【0146】
サルササポゲニンまたはスミラゲニンを用いて48時間処理されたラット初代脊髄運動神経細胞では、グルタメート誘発神経変性は著しく減少した(表10)。
【0147】
【表10】

【0148】
サルササポゲニンおよびスミラゲニンは、この運動神経変性のin vitroモデルにおいて、ラット脊髄運動神経細胞におけるグルタメート誘発神経変性を回復させた。
【実施例9】
【0149】
人生の後半(ヒトでは40才以降)では、脳の神経細胞の密度が減少する(Selkoe,D J,Sci.Am.267,134−142,1992)。皮質機能の変化は、神経細胞数の減少、神経細胞の接続の減少、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの神経栄養(neurotrophin)の減少(Bothwell,M,Functional interactions of neurotrophins and neurotrophin receptors,Annu.Rev.Neurosci.,18,223−253,1995)、(ムスカリン性およびニコチン性)アセチルコリン受容体密度の減少および/または皮質領域におけるそれらのカップリング機能の低下(Rinne他、Brain Res.,336,19−25,1985;Selkoe,D J,Sci.Am.267,134−142,1992)によるものである場合がある。また、加齢時には、ムスカリン性アセチルコリン受容体結合は、海馬(Narang,N,Mech.Ageing Dev.,78,221−239,1995)、老齢ラットの線状体(Biegon他,Neurobiol.Aging.,10,305−310,1989)、および老齢ヒトの線状体(Rinne他, Brain Res.,336,19−25,1985)で著しく減少する。また、アルツハイマー病では、コリン活性の減少はアミロイドβの沈着に関連付けられる(von der Kammer他,Biochem.Soc.Symp.131−140,2001)。その他の神経変性障害、
例えばパーキンソン病は、特有のドーパミン活性の低下を示す(Drukarch他,Expert.Opin.INVESTIG.Drugs,10,1855−1868,2001)。
【0150】
サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、またはスミラゲニンを、2カ月間または3カ月間にわたって老齢ラット(Sprague−Dawleyラット、20カ月齢)に経口投与すると、加齢過程に特有の変化である学習および記憶能力の障害、ムスカリン性アセチルコリンおよびドーパミン受容体の減少、ならびに神経栄養BDNFの減少が回復する。
【0151】
老齢のSprague−Dawleyラットを4群(1つのコントロール群と、サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、またはスミラゲニン(18mg/kg/日,n=10)を2〜3ヶ月間投与する群)に分けた。投与しない若齢ラットのコントロール群(n=14)も研究に含めた。薬物の日用量を最小限の餌に混ぜ、各ラットに別々に毎朝投与した。
【0152】
Y−迷路(Y−maze)装置を学習および記憶試験に使用した。Y−迷路装置の各アームの床には、必要に応じて、調節された電圧を印加することにより電流を流すための銅棒が配列されている。各アームの長さは45cmで、必要に応じて点灯される15Wのランプを端部に有する。薬物の投与を3ヶ月行なった後、以下のように各ラットを7日間連続して訓練した。各訓練期間において、ラットをY−迷路装置のアームに入れ、その2分後に電流を銅棒に流して、時計回りのアームのランプを点灯させて、非刺激領域を示した。ラットがそのアームへと進む場合には1つの正しい反応として記録され、そうでない場合には1つの誤った反応として記録される。この刺激−反応試験は毎日20回繰り返し、2回の連続する試験の間には5秒間の休憩を挟んだ。学習能力を示すために、7日目における20回の試験後の正しい反応の数を使用した(正しい反応の数が多いほど学習能力が高い)。次に、ラットを30日間休憩させて、もう一度この手順を繰り返した。記憶能力を表すために、30日間の休憩期間後の20回の試験における正しい反応の数を使用した。
【0153】
脳内のムスカリン性アセチルコリン受容体の密度を測定した。組織は以下のように準備した。脳は断頭後すぐに摘出し、ドライアイスで凍らせ、冷凍庫に移した。脳をホモジナイズし、ペレットを最終的に緩衝液中で懸濁させた。
【0154】
ムスカリン性アセチルコリン受容体の密度を測定するために、デュアルサイト競合的リガンド結合アッセイを使用した。
【0155】
結果を図3および図4に示す。Y−迷路実験によって、老齢ラットでは学習能力および記憶能力がともに損なわれていることが明らかになった。サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンを老齢ラットに投与することによって、学習能力および記憶能力が回復した。老齢ラットでは、ムスカリン性アセチルコリン受容体の密度は著しく減少していた。サルササポゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、およびスミラゲニンによって、ムスカリン性アセチルコリン受容体の密度は著しく回復した。
【0156】
若齢ラットのドーパミン(D)1および2受容体密度(それぞれ、157.5±33.2fmol/mgタンパク質;200.6±50.9fmol/mgタンパク質)は、老齢ラット(DおよびDがそれぞれ129.2±36.8fmol/mgタンパク質;153.8±40.5fmol/mgタンパク質)よりも非常に高かった。一方、スミラゲニンおよびサルササポゲニン治療を老齢ラットに3カ月間行なったところ、DおよびD受容体密度が回復した。(スミラゲニン177±10.9fmol/mgタンパク質
;217±45.7fmol/mgタンパク質;サルササポゲニン172.0±44.0fmol/mgタンパク質;206.4±60.5fmol/mgタンパク質)。
【0157】
老齢ラット(1.205±0.219ng/g組織)と比べて、若齢ラットは非常に高いBDNFレべル(1.647±0.277ng/g組織)を示した。一方、スミラゲニンおよびサルササポゲニンによる治療を老齢ラットに3カ月間行なったところ、BDNFレベルが部分的に回復した(1.342±0.07;1.410±0.232ng/g組織)。
【0158】
したがって、これらの化合物は、老齢ラットで起こる神経障害、BDNFレべルの低下、ムスカリン性アセチルコリンおよびドーパミン受容体密度の低下を回復させる。
【実施例10】
【0159】
[神経変性モデルとしてのアルツハイマー病モデル]
神経変性をモデル化するために、アルツハイマー病のin vivoモデルを使用した。このモデルでは、神経毒物質(アミロイドβおよびイボテン酸)をラットの脳内に注入する。その結果、神経損失、受容体損失、および認知機能障害が起こる。従来の研究では、ラットの脳の基底核(nucleus vasalis)にアミロイドβを局所注射することによって、術後2ヶ月までにコリン作動性の機能低下および行動障害が引き起こされる(ジオバンネリ(Giovannneli)他,1995,Neuroscience,66,781−792)。また、アミロイドβを少量のイボテン酸とともにラットの海馬に注入することによって、注入部位に隣接する箇所だけではなく、注入部位から離れている箇所においても、神経膠細胞が浸潤するとともに神経細胞が減少する(モリモト(Morimoto)他,1998年,Neuroscience,84,479−487)。
【0160】
我々の研究では、モリモトの方法(モリモト(Morimoto)他,1998年,Neuroscience,84,479−487)に、いくつかの修正(双方向注入のかわりに一方向注入を用いた)を加えた方法を使用した。3ヶ月齢のSprague−Dawleyラットを各群にランダムに分けた。アミロイドβ1−40およびイボテン酸(ともにシグマ(Sigma)より入手)を定位固定装置(ストールティング(Stoelting)製)によって注入し、座標はAP=−0.5mm(正中線に対して右)、L=−2.8mm(ブレグマから後方)、H=−7.0mm(硬膜の腹側)であった。各ラットへの投与量は、生理食塩水1μl中にアミロイドβ1−40が4μgおよびイボテン酸が1μgとした。注入は20分間で完了し、注射針は10分後に引き抜いた。次に、皮膚を縫合した。
【0161】
8群は以下の通りである:
通常生理食塩水を注入した手術コントロール(コントロール)
モデル(アミロイドβおよびイボテン酸を注入したコントロール)
モデル+エピサルササポゲニンカチレート(18mg/kg/日)
モデル+サルササポゲニンカチレート(18mg/kg/日)
モデル+エピサルササポゲニンエチルスクシナート(18mg/kg/日)(比較例)
モデル+エピサルササポゲニン(18mg/kg/日)
モデル+エピスミラゲニン(18mg/kg/日)
モデル+ジオスゲニン(いわゆる陰性コントロール,18mg/kg/日)
を付した化合物は本発明の化合物である
エピサルササポゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニンエチルスクシナート(比較化合物)、エピサルササポゲニン、エピスミラゲニン、およびジオスゲニン(投与量はすべて18mg/kg/日)は、カルボキシメチルセルロース
のナトリウム塩(CMC−Na)(0.5%)中の安定な懸濁液として、胃管を通して1日1回動物に投与した。コントロールおよびモデル群には、1日1回同量のCMC−Na(0.5%)を投与した。薬物および溶媒は、手術の20日前から2ヶ月間与えた。
【0162】
ムスカリン性アセチルコリン受容体の密度を評価した。脳サンプルはホモジナイズおよび遠心分離し、27000×gで遠心分離のペレットを再度ホモジナイズした後、測定に使用した。H−QNBの濃度は飽和範囲で選択した。インキュベーションおよび分離後、結合部分を液体シンチレーションカウンタで測定した。
【0163】
ステップスルー試験:学習および記憶試験
化合物の学習および記憶に対する作用はステップスルー試験を使用して評価した。60×15×15cmの箱を2つの均等な大きさの部屋に仕切り、一方は銅棒の基盤を有し、使用時に電気的にチャージ(交流40V)される暗室とし、他方は電気的にチャージされない明室とした。2つの部屋の間には、ラットが通過できる開口部(穴)を設けた。実験は、各ラットについて2日間連続して行なった。1日目は訓練用であり、ラットを初めの3分間で箱の中に慣れさせ、次に明室に入れ、ラットが穴へと入ると、暗室の銅棒を5分間チャージした。2日目は試験用であり、5分間の横断回数を記録した。記憶の改善は、横断回数の減少によって示される。
【0164】
神経変性モデル脳のムスカリン性アセチルコリン受容体の密度は、コントロールと比較して著しく低かった。エピサルササポゲニンカチレート、サルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、およびエピスミラゲニンによって、脳のムスカリン性アセチルコリン受容体の密度が著しく増加したのに対し、ジオスゲニンおよびエピサルササポゲニンエチルスクシナートでは、ムスカリン性アセチルコリン受容体の密度に大きな変化はなかった。したがって、この実験は、本発明の化合物が受容体の数を正常化させる機能を有していること、すなわち、受容体のレベルが減少した動物に本発明の化合物を投与すると、本発明の化合物が受容体の数を正常なレベルに回復させる傾向を有することを示唆している。
【0165】
5分間の誤応答数(錯誤数)は、コントロール群と比較して神経変性モデル群のほうが著しく高かったことから、記憶障害であることを示唆している(表11参照)。エピスミラゲニン、エピサルササポゲニンカチレート、エピサルササポゲニン、およびサルササポゲニンカチレートは、誤応答数を著しく減少させたのに対し、ジオスゲニンおよびエピサルササポゲニンエチルスクシナートはいずれも、誤応答数を減少させるために効果的ではなかった。
【0166】
【表11】

【実施例11】
【0167】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経細胞変性、骨萎縮、麻痺症および死を引き起こす進行性・致死性神経変性障害である。この病気の原因は様々だが、Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD−1)遺伝子の突然変異がヒトALSのいくつかの形態の原因である。この病気の動物モデルは、SOD−1遺伝子を過剰発現するSOD−1トランスジェニックマウスおよび進行性運動神経障害(pmn、シャルコー・マリー・ツース病のモデル)マウスである。スミラゲニンおよびサルササポゲニンは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびシャルコー・マリー・ツース病のモデルであるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)マウス(図5)およびpmnマウス(図6)の寿命を延ばし、行動欠陥を改善させる。
【0168】
以上、本発明を限定することなく概括的に説明した。なお、当業者に容易に明らかとなる変形および修正は、本出願および本出願の特許付与後の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性物質として、下記一般式(Ia)で表される化合物、それらのラセミ体の混合物、それらの薬学的に許容される塩、並びに、それらの混合物および組み合わせ、からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含有し、ヒトおよびヒト以外の動物において、罹患しているかまたは罹患しやすい、下記疾患の治療用または予防用の医薬組成物:
【化4】

[式(Ia)中、Rは水素原子、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルボニル基、スルホ基(HOS)、ホスホノ基((HO)P(O)−)、または単糖、二糖若しくは三糖から選択され;アルキルは、アリール基、アミノ基、モノ若しくはジアルキルアミノ基、カルボン酸残基(−COOH)、またはこれらの組み合わせによって任意に置換されている]
疾患は、うつ病、統合失調症、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSH)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、ブルース型筋ジストロフィー、フューチ型ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、角膜ジストロフィー、反射性交感神経性ジストロフィー症候群(RSDSA)、神経血管ジストロフィー、多系統萎縮症、脳萎縮症、オリーブ橋小脳萎縮症、歯状赤核萎縮症、淡蒼球ルイ体萎縮症、球脊髄萎縮症、視神経炎、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、注意欠陥障害、感染後脳炎、ポリオ後症候群、Fahr症候群、Joubert症候群、ギラン・バレー症候群、滑脳症、モヤモヤ病、神経細胞移動障害、ポリグルタミン病、ニーマン・ピック病、進行性多病巣性白質脳障害、偽脳腫瘍、Refsum病、Zellweger症候群、核上性麻痺、Friedreich失調症、脊髄小脳失調2型、レット症候群、シャイ・ドレーガー症候群、結節硬化症、ピック病、遺伝性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、および分裂ニューロパチーを含む神経障害、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、牛海綿状脳症(BSE)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)、クールー病、およびAlper症候群を含む、プリオンが病因となる神経変性、Joseph病、急性散在性脳脊髄炎、クモ膜炎、中枢神経の血管障害、神経細胞機能の重度喪失、心不全への罹患性、並びに、黄斑変性症のいずれかである。
【請求項2】
前記少なくとも1つの化合物が、以下から選択される、請求項1に記載の医薬組成物:サルササポゲニン、
サルササポゲニンカチレート、
サルササポゲニンアセテート、
サルササポゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
サルササポゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニン、
エピサルササポゲニンカチレート、
エピサルササポゲニンアセテート、
エピサルササポゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピサルササポゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニン、
スミラゲニンカチレート、
スミラゲニンアセテート、
スミラゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
スミラゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニン、
エピスミラゲニンカチレート、
エピスミラゲニンアセテート、
エピスミラゲニンスクシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニングリシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンバリナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンフェニルアラニナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンイソロイシナートおよびその薬学的に許容しうる塩、
エピスミラゲニンメチオニナートおよびその薬学的に許容しうる塩;並びに
3位の炭素原子がO糖部分を有し、かつ、その糖がグルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、スクロース、ラムノース、キシロース、アラビノース、フコース、キノボース、アピオース、ラクトース、ガラクトース−グルコース、グルコース−アラビノース、フコース−グルコース、ラムノース−グルコース、グルコース−グルコース−グルコース、グルコース−ラムノース、マンノース−グルコース、グルコース−(ラムノース)−グルコース、グルコース−(ラムノース)−ラムノース、グルコース−(グルコース)−グルコース、ガラクトース−(ラムノース)−ガラクトース、およびそれらのアシル化誘導体から選択される、サルササポゲニン、エピサルササポゲニン、スミラゲニン、およびエピスミラゲニンのサポニン誘導体;並びに
それらの薬学的に許容しうる塩。
【請求項3】
前記少なくとも1つの化合物が、サルササポゲニンおよびスミラゲニンから選択される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの化合物が、少なくとも1つの他の活性物質とともに存在する、請
求項1ないし3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの他の化合物は、コリンエステラーゼ阻害剤、ドーパミンアゴニスト、COMT阻害剤、MAO−B阻害剤、抗コリン剤、アセチルコリンアゴニスト、セロトニンアゴニスト、AMPA受容体アゴニスト、GABA受容体アゴニスト、NMDA受容体アゴニスト、β−アドレナリン受容体アゴニスト、ジゴキシン、ドブタミン、抗炎症剤、神経栄養因子、スタチン、アデノシンA2a受容体アンタゴニスト、アルドースレダクターゼ阻害剤、免疫調節剤、カンナビノイドアゴニスト、インターフェロンβ、および3環系抗うつ薬からなる群より選択される、請求項4に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53163(P2013−53163A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274636(P2012−274636)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2009−245430(P2009−245430)の分割
【原出願日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(500471984)フィトファーム・パブリック・リミテッド・カンパニー (6)
【Fターム(参考)】