説明

治療方法

治療を必要とする患者にmTOR阻害剤を投与することからなる、AMLの治療方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は急性骨髄性白血病の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML)は、時に急性骨髄芽球性白血病、急性骨髄球性白血病および急性非リンパ球性白血病とも呼ばれる。AMLの発病には骨髄における未熟細胞の欠陥が関与するが、その正確な原因はわかっていない。AMLは成人の急性白血病の重要な1タイプである。参考として、他の異なるいくつかの白血病のタイプとしては、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)および慢性リンパ性白血病(CLL)が挙げられる。
【0003】
AMLの症状は健全な血球の不完全な産生から生ずる。具体的には、AML患者の骨髄は過剰量の芽細胞(未熟白血球)を作り、それらの白血病芽細胞(芽球)は顆粒細胞(顆粒球)の正常な産生を生じない。さらに、AML患者の骨髄は正常な赤血球、白血球および血小板を不十分にしか産生しない。
【0004】
AML患者は2段階以上の治療を受けることが多い。「(寛解)導入療法」と呼ばれる第一段階は、白血病細胞を殺し、正常な血液産生を回復させることによる寛解を誘導するために、シタラビン(ara−C、シトシンアラビノシド)のような代謝拮抗薬ならびにダウノルビシン、ドキソルビシンもしくはイダルビシン(ダウノマイシン、アドリアマイシン、イダマイシン)のようなアントラサイクリン薬といった強力な化学療法薬による治療を含む。場合によっては、6−チオグアニン、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(マイロターグ)のような他の医薬、ならびに/またはG−CSFもしくはGM−CSFのようなコロニー刺激因子も使用される。しかし、導入療法に使用される化学療法剤は正常な細胞も殺すため、重篤な副作用および入院を伴うことが多い。
【0005】
導入療法により大部分の白血病細胞の消失と正常な血球産生の回復とに成功したら、追加の化学療法(例えば、高用量ara−Cを数コース)または同種もしくは自家(自己)血液幹細胞移植(骨髄細胞、末梢血細胞または臍帯血細胞の移植を含む)による「強化」療法が開始されることがある。このような移植の前に、患者の白血病細胞と免疫系を破壊するために、移植前化学療法及び/又は放射線療法を行うのが普通である。血液幹細胞移植は、うまくいけば、患者の免疫系と血球産生を回復させる。しかし、追加の化学療法及び/又は放射線は重篤な副作用を生ずることがある。また、移植は、とりわけ、自家移植の場合の再発(再燃)、およびより一般的な同種移植の場合の宿主片対宿主病を始めとする著しい欠点を示すことがある。最近は、導入および強化コースの治療の後に低用量の化学療法を3年以上続けることを含む「(寛解)維持療法」が第三期の療法として導入されるようになった。
【0006】
現在のAMLに対する、有効性の向上または副作用(および移植が実際に困難となること)の発生率および/もしくは重篤度の低下をもたらす新たな選択肢や、さらには補充策が、患者に対して恩恵となることは明らかである。
【0007】
そのため、広範囲の薬剤および薬剤の組み合わせがAMLの可能な治療に対して提案されてきた。残念ながら、実際に被験者で試験すると、ガン治療という不確実で予測できない分野における多くの薬剤候補の運命がそうであったように、多くは期待はずれに終わった。多様な化合物が進行中の検討課題となっているが、それらの安全性および効力は未解決の問題のままである。
【発明の開示】
【0008】
直接的な臨床研究により、mTOR阻害剤が、再発AMLならびに1種もしくは2種以上の他の薬剤もしくは他の治療計画に無反応である場合を含むAMLの治療に実際に有用となりうることを本発明者らはここに見出した。これには、骨髄異形成症候群(MDS)から発症した場合および三染色体(トリソミー)8染色体異常による白血病の場合が含まれる。
【0009】
かくして、本発明は、その治療を必要とする患者におけるAMLの治療方法であって、該患者に治療有効量のmTOR阻害剤を投与することからなる方法を提供する。やはり包含されるのは、AML患者を治療するための薬剤組成物の製造に対するmTOR阻害剤の使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
mTOR阻害剤は、ラパマイシン、または任意の科学的に妥当な検定でラパマイシンの実質的なmTOR阻害活性、すなわちラパマイシンの10%以上のmTOR阻害活性を保有する任意のラパマイシン誘導体でよい。特に興味あるのは、ラパマイシンならびにAP23573(WO03/064383、実施例9)、テムシロリムス(CCI779)、エベロリムス(RAD001)もしくはABT−578などのその誘導体、ならびにラパマイシンのシクロヘキシル環上のヒドロキシル基が別の官能基で置換されている、このようなラパマイシン誘導体の他のものである。例えば、その位置にAP23573はジメチルホスフィンオキシド基を含有し、テムシロリムスはエステル基を含有し、そしてエベロリムスはエーテル基を含有している。
【0011】
本発明の実施に使用するのに必要なmTOR阻害活性を有する、この同じ位置ならびに/または1もしくは2以上の他の位置で修飾されている多くの他のラパマイシン誘導体が知られている。例えば、ある種の他のO−置換ラパマイシン類は、WO94/02136、米国特許第5,258,389号およびWO94/09010(O−アリールおよびO−アルキルラパマイシン)に開示されている;WO92/05179(カルボン酸エステル)、米国特許第5,118,677号(アミドエステル)、米国特許第5,118,678号(カルバメート)、米国特許第5,100,883号(フッ素化エステル)、米国特許第5,151,413号(アセタール)、米国特許第5,120,842号(シリルエーテル)、WO93/11130(メチレンラパマイシンおよび誘導体)、WO94/02136(メトキシ誘導体)、WO94/02385およびWO95/14023(アルケニル誘導体)も参照。ある種のジヒドロもしくは置換ラパマイシン誘導体が、例えば、米国特許第5,256,790号に記載されている。米国特許第6,710,053も参照。別のラパマイシン誘導体はPCT出願PCT/EP96/02441に記載されており、例えば、32−デオキシラパマイシンがその実施例1に、そして16−ペント−2−イニルオキシ−32(S)−ジヒドロラパマイシンがその実施例2および3に(その特許文書の番号系を使用)記載されている。
【0012】
mTOR阻害剤は、治療の(寛解)導入期、導入後(すなわち強化)期および(寛解)維持期を含む患者の任意の治療段階において、単独療法として、或いは好ましくは、手術、放射線または上述したような化学療法[例、シタラビン(ara−C)のような代謝拮抗薬;ダウノルビシン、ドキソルビシンもしくはイダルビシンのようなアントラサイクリン薬;ならびに6−チオグアニン、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(マイロターグ)のような他の医薬ならびに/またはG−CSFもしくはGM−CSFのようなコロニー刺激因子]を含む他の寛解導入、強化および/もしくは寛解維持療法と併用して、投与することができる。
【0013】
一般に、mTOR阻害剤は、0.1〜50mgの用量で週に1回または2回以上投与される。投与は、毎日、毎週(もしくは他の何らかの複数日間隔で)または間欠スケジュールで1回もしくは複数回行うことができる。例えば、1週間基準で(例、月曜日ごと)複数週の間(例、4〜10週間)、1日につき1回または2回以上投与してもよい。或いは、投与を複数日間(例、2〜10日間)毎日行った後、薬剤を投与しない期間(例、1〜30日間)をとり、このサイクルを所定回数(例、4〜10回)繰り返すのでもよい。1例として、mTOR阻害剤を5日間毎日投与した後、9日間投与を中止し、次いで5日間毎日投与し、次いで投与を9日間中止するという順序で、このサイクルを合計4〜10回または無期限で繰り返してもよい。しかし、mTOR阻害剤の投与は、数日以上の長期の薬剤不投与期間をまじえた間欠スケジュールで投与するのではなく、例えば、毎日、隔日、3日目ごと、4日目ごとといった連続したスケジュール、または持続放出型(持効性)の器具もしくは処方により行う方が好ましいことがある。
【0014】
mTOR阻害剤の有効用量は、担当医が決定するが、使用化合物の種類、投与方式、疾病の重篤度、ならびに治療を受ける個人に関係する各種の身体的因子に応じて変動しよう。多くの場合、mTOR阻害剤を0.01〜100mg/kg、好ましくは0.01〜25mg/kg、そしてより好ましくは0.01〜5mg/kgの日用量で投与すると満足すべき結果を得ることができよう。計画される日用量は投与経路により変動すると思われる。すなわち、非経口投与の用量レベルは、経口投与の用量レベルより著しく低く、場合によっては経口投与の用量レベルのほぼ10〜20%となることがよくある。例えば、週に1回または2回以上投与するための典型的なiv(静脈内)用量は2〜50mg、例えば、5〜30mgのmTOR阻害剤を含有しよう。対応する典型的な経口用量は2〜5倍多いmTOR阻害剤を含有することが多い。
【0015】
mTOR阻害剤を併用投与計画の一部として使用する場合、併用する各成分が所望の治療期間中に複数回投与される。併用する成分を、両成分を含有する単一の剤形として、もしくは別個の剤形として同時に投与してもよく、あるいは併用する成分をある治療期間中に異なる時点で投与することもでき、または一方を他方のための前治療として投与してもよい。
【0016】
薬剤、特にラパマイシンおよびその誘導体といったマクロライド類を処方するための各種の材料および方法のいずれを本発明の実施に使用するのに利用してもよい。すなわち、例えば、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムスまたはAP23573のための各種の液状処方組成物(特に非経口投与用のものであるが、経口投与用のものでもよい)のいずれを使用してもよい。経口投与用には固体剤形が好まれることが多く、それにはとりわけ慣用の混合剤、固体分散剤およびナノ粒子が包含され、形態は典型的には錠剤、カプセル、キャプレッツ、ゲルキャップまたは他の慣用の固体もしくは部分的の固体の形態である。このような処方組成物は場合により腸溶性(エンテリック)コーティングを含んでいてもよい。特にシロリムス、テムシロリムスおよびエベロリムス向けに開発された経口処方組成物を含む、この種の経口処方組成物用の数多くの材料および方法が周知である。mTOR阻害剤を処方するための純粋に慣用の材料および方法の使用の典型的な1例は、米国特許出願公開2004/0077677に示されている。慣用の固体分散剤の技術の開示は、例えば、米国特許第6,197,781号に見られるが、この技術の多くの他の開示も以前から入手可能であった。多様な他の方法および材料もラパマイシンおよびその誘導体のようなマクロライド類の分野の研究者には周知である。適当な処方技術のさらなる背景および例については、例えば、WO03/064282を参照。
【0017】
AMLに対する本発明者らの研究は、AP23573の溶液を30分間かけた静脈内輸注として投与することから出発したが、同等の薬剤血中濃度を達成する任意の他の処方および投与経路も使用できる。
【0018】
AP23573はWO03/064383の実施例9に記載されているように合成しうる。次いで、通常の方法を使用して、精製された材料をヒトへの静脈内投与用の薬剤組成物として処方することができる。典型的には、静脈内投与用の薬剤組成物は滅菌等張水性緩衝液中の溶液状態である。必要または所望であれば、組成物は可溶化剤(溶解補助剤)および注射部位の痛みを緩和するための局所麻酔薬を含有しうる。一般に、これらの成分は別個に、または一緒に混合して、1回量の剤形で、例えば、凍結乾燥粉末または無水濃厚液として、活性成分の量を表示したアンプルまたはサシェ(小袋)のような気密密閉容器内に入れて供給される。組成物を輸注により投与する場合には、薬剤用滅菌水もしくは食塩水を入れた輸注ボトルとともに調剤することができる。組成物を注射により投与する場合には、成分を投与前に混合しうるように注射用滅菌水または食塩水のアンプルを用意することができる。
【0019】
例えば、注射用のAP23573の溶液はフォサル(Phosal)50PG(ホスファチジルコリン、プロピレングリコール、モノおよびジグリセライド、エタノール、大豆脂肪酸およびアスコルビルパルミテート)およびポリソルベート80を含有し、0.5〜4%のエタノール、例えば1.5〜2.5%のエタノールを含有する希釈剤溶液中に、0.1〜10mg/ml、例えば1〜3mg/mlの薬剤を含有しうる。別の例として、希釈剤は、注射用蒸留水中にプロピレングリコールUSPおよびポリソルベート80をそれぞれ2〜8%、例えば5〜6%ずつ含有しうる。それぞれ5.2%ずつが場合により良好に作用することを本発明者らは見出した。典型的には、溶液は、例えば、1回または2回以上の滅菌濾過を含む慣用の方法および材料を用いて処理される。
【0020】
この場合、12.5〜25mgの薬剤をQDX5スケジュールで30分間かけた静脈内輸注としてAML患者に投与する。AMLの病的指標の明らかな低下が数週間以内に認められた。
【0021】
当然ながら、本発明の実施においては、実施者は、例えば、mTOR阻害剤の種類、投与経路、処方組成物ならびに投与量レベルおよびスケジュールの選択といった、多くの使用上の選択肢が利用可能であり、それらの全てが本発明および後続の特許請求の範囲の範囲内であると考えられる。実施者にとって有用かもしれない背景情報を提供する特許および他の文献への言及は本明細書において引用されている。それらの引用文献の全内容をここに参考のために援用する。
【0022】
[臨床例]
2期の臨床試験において、18歳以上の進行AML患者24名を、2週間ごとに5日間毎日(QDX5、毎日)の30分間静脈内輸注として12.5mgのAP23573で治療した。この試験に登録された患者の大半は攻撃的な病状を有しており、少なくとも第三系列の治療計画としてAP23573の試験治療を受けた。応答は各サイクル(試験治療は4週間)の最後に評価した。1サイクル目の最後に2名の患者が、赤血球および好中球の「やや有効」な応答を含む血液学的改善(HI)を示した。好中球のHIを示した患者は骨髄の骨髄芽球含有量の低下(ベースラインで36%、1サイクル目の最後で9%、2サイクル目の最後で15%)も示した。6名の患者は1サイクル目の最後に安定(応答も病状進行もない)であった。
【0023】
観察した応答の判断基準は次の通りであった:
・赤血球HIのやや有効な応答:投与前のヘモグロビンが11g/dL未満の患者についてヘモグロビンが1×109g/dLに増大;RBC輸血依存性患者について、輸血必要量の50%の低下。
【0024】
・好中球HIのやや有効な応答:投与前のANC(絶対好中球数)が1.5×109の患者について、少なくとも100%のANC増大、ただし、絶対値の増大は1.5×109以下。
【0025】
・安定な病状/無応答:ベースラインからの著しい変化がない(応答と病状悪化の判断基準のどちらも満たさない)。
・病状悪化:下記の一つ:顆粒球もしくは血小板の最大応答レベルから50%以上の減少率、ヘモグロビン濃度の少なくとも2g/dLの低下、または輸血依存性。
【0026】
QDX5投与による副作用プロファイルは、グレード3またはグレード4の薬物副作用をほとんど伴わない許容されるものであることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その治療を必要とする患者における急性骨髄性白血病(AML)の治療方法であって、該患者に治療有効量のmTOR阻害剤を投与することからなる方法。
【請求項2】
AMLが1種または2種以上の他の治療法に無反応性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
AMLが再発したものである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
mTOR阻害剤がセロリムス(ラパマイシン)、AP23573、テムシロリムス(CCI779)、エベロリムス(RAD001)またはABT−578である、請求項1、2または3記載の方法。
【請求項5】
mTOR阻害剤を0.1〜50mgの用量で週に1回または2回以上投与する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
mTOR阻害剤を週に3〜7回投与する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
mTOR阻害剤を静脈内または経口で投与する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
mTOR阻害剤を、腸溶性コーティングを有する固体剤形で経口投与する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
mTOR阻害剤を寛解導入療法中に投与する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
mTOR阻害剤を強化療法中に投与する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
mTOR阻害剤を寛解維持療法中に投与する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
mTOR阻害剤を他の療法を併用して投与する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
mTOR阻害剤を下記の1種または2種以上の療法と併用して投与する、請求項12記載の方法:代謝拮抗薬、アントラサイクリン薬、6−チオグアニン、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(マイロターグ)、コロニー刺激因子、放射線療法、および幹細胞移植。
【請求項14】
前記の薬が、シタラビン(ara−C)、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、G−CSFおよびGM−CSFから選ばれる、請求項13記載の方法。

【公表番号】特表2008−514721(P2008−514721A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534765(P2007−534765)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/035047
【国際公開番号】WO2006/039414
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(500087659)アリアド ジーン セラピューティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】