治療薬に対する細胞の応答を予測するための方法およびシステム
本発明は、治療薬を用いた治療に対する腫瘍細胞等の細胞の応答を予測するための方法を含む、患者を治療するための方法を提供する。これらの方法は、細胞試料における細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルの測定と、次いで、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、該細胞のネットワークの活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算することとを含む。治療に対する細胞の応答は、次に、計算されたNAS値またはNIS値に基づき予測される。本発明はまた、細胞(例えば、腫瘍細胞)のNAS値またはNIS値の計算と、統計分類アルゴリズムの使用とが組み合わされる、細胞応答の予測方法も含む。ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療への応答性を予測するためのバイオマーカーも提供する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
癌および他の疾患の治療に対する標的治療の開発は、かなり進歩している。このような標的治療は、腫瘍細胞上に特異的にまたは優先的に発現する抗原に結合するモノクローナル抗体、および腫瘍細胞において活発なシグナル伝達経路の個別の構成要素に特異的に干渉する小分子薬剤を含む。例えば、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))は、少なくとも特定の結腸癌および頭頚部癌で発現する上皮成長因子受容体(EGFR(ErbB1、またはHER1としても知られる))を標的とするモノクローナル抗体である。また、例えば、イマチニブ(Gleevec(登録商標))は、特定の慢性骨髄性白血病で発現して発癌性因子として作用し、かつ良性細胞タンパク質の異常変異体であるBCR−Ablチロシンキナーゼを標的とする小分子である。このような標的治療は、一部の患者には効果的であるようだが、応答率は、決して100%ではない。例えば、腫瘍がErbB1(EGFR)を発現することが既知である場合でさえ、セツキシマブの単独療法の平均応答率は、患者の約15〜20%にすぎない。したがって、腫瘍におけるErbB1(セツキシマブ抗体により標的とされる抗原)の単なる発現は、セツキシマブへの応答を保証しない。
【0002】
したがって、標的治療は、非常に望みがあるが、このような治療に対する患者の応答率のばらつきは、このような治療に伴う副作用およびこのような治療の典型的な費用の高さも加わって、どの患者が治療的処置に応答するかを予測し、応答が予測される患者にのみ治療を施すことを含む、患者を治療するための方法が非常に望まれることを示す。採用されているアプローチの1つとしては、治療に対する応答性と相関する遺伝的マーカー(例えば、変異または対立遺伝子)を特定する試みである。このアプローチでは、治療の前に、患者由来の試料を遺伝子型決定して、患者が治療への応答の指標である遺伝的マーカーを持っているかどうかを決定する。採用されている別のアプローチは、治療に対する応答と相関するタンパク質バイオマーカーを特定する試みである。このアプローチでは、治療の前に、患者由来の試料中のタンパク質発現を決定し、患者が、治療への応答の指標である1つ以上のタンパク質バイオマーカーを発現するかどうかを決定する。
【0003】
前述のアプローチは両方とも、「直接的」マーカーアプローチと考えることができ、ここで、直接的に測定されるマーカー(例えば、BCR−AblまたはErbB1)の存在(もしくは不在、または発現レベル)が、治療に対する応答または非応答と相関することが示されている。さらに、これらのアプローチは両方とも、患者から単離された試料において、容易に測定または定量化することができるように、細胞で十分に安定であるマーカーの使用に依存している。試料が患者から単離される時とマーカーが試料において測定される時との間に、かなりの時間差がある可能性を考慮すると、上述のこのような「直接的」マーカーアプローチは、典型的に、試料が従来のプロセスおよび取り扱いを受ける時、経時分解または変化を受けない遺伝的またはタンパク質マーカーの使用を必要とする。特定の治療薬に対する応答を予測する、このような安定した「直接的」マーカーが特定されているが、このようなマーカーが、全ての治療薬において特定され得るかは不明である。
【0004】
腫瘍は、一連のリガンドにより活性化されたシグナル伝達経路により成長が促進され、それらのシグナル伝達経路は、通常、同族の受容体に結合するリガンドにより活性化され、受容体自体並びに下流のキナーゼのリン酸化を誘発し、経路の下流の構成要素のさらなるリン酸化をもたらすと考えられている。これらのキナーゼは、細胞生存および増殖をもたらす。したがって、シグナル伝達経路の活性化は、細胞内構成要素の変更、特にタンパク質のリン酸化をもたらす。腫瘍組織上に発現する受容体のリン酸化の特徴は、特定の腫瘍の進行を促進する主要経路の特定を補助することができる。しかしながら、リンタンパク質は、非常に不安定である可能性があり、組織試料が即時に、かつ迅速に凍結(または場合によっては、ホルマリン固定)されなければ、リン酸化は、術後すぐに消失しうる。さらに、特定の腫瘍試料において1つ以上のリンタンパク質のレベルが、確実に測定できる場合でさえ、任意の特定の治療薬を用いたこのような腫瘍の治療の有効性に関する、任意の特定のリンタンパク質の存在または不在の予測値は、概して不明である。したがって、リンタンパク質の特性は、腫瘍の進行を促進させる経路に関する重要な情報を含有するが、このようなリンタンパク質の特性は、現在、治療的処置に対する応答を予測するためのバイオマーカーとして広く使用されていない。
【0005】
したがって、様々なリンタンパク質のレベルを決定するための、また特定の治療薬に対する個々の腫瘍の応答を予測するためのこのようなレベルおよび他の腫瘍細胞の特徴を使用する新規方法が、癌治療の治療効率および費用効率を向上するために必要である。
【発明の概要】
【0006】
治療薬に対する、細胞、特に腫瘍細胞(例えば、良性腫瘍細胞、または悪性腫瘍細胞)などの新生物細胞および腫瘍細胞ではない悪性細胞等の応答を予測するための方法、並びにそのような腫瘍を有する患者を治療薬で治療するための方法を、本明細書で提供する。
【0007】
一態様において、患者由来の悪性細胞の試料を得ること、試料における細胞の特定の生化学的特徴を決定すること、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与することにより、悪性病変の患者を抗腫瘍性治療薬で治療するための方法を提供する。特定の実施形態において、生化学的特徴は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルであり、さらなる実施形態において、バイオマーカーのレベルは、他のより安定した生化学化合物のレベルを測定し、その後、コンピュータモデル化パラダイムを使用して対象のバイオマーカーのレベルを決定することにより、決定される。治療薬は、バイオマーカーのレベルに基づき選択され、特定の薬剤は、バイオマーカーが特定のレベルを超えた時にのみ投与される。
【0008】
特定の実施形態において、腫瘍細胞を含む腫瘍試料(例えば、生検試料または摘出試料)を得る段階、試料中のリン酸化ErbB3(ホスホ−ErbB3、pErbB3)のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を抗腫瘍性治療薬で治療するための方法を提供する。試料細胞が少なくとも最小レベルのpErbB3を含有することが分かった場合、抗ErbB3治療薬が投与され、試料細胞が少なくとも最小レベルのpErbB3を含有しないと分かった場合、抗ErbB3治療薬でない抗腫瘍性治療薬が投与され、抗ErbB3治療薬は患者に投与されない。好適な抗ErbB3製薬用薬剤は、抗ErbB3抗体である。この方法の特定の実施形態において、試料細胞中のErbB3レベルは、他の、より安定したバイオマーカーのレベルを測定し、シミュレーションにより試料細胞中のpErbB3レベルを決定するネットワーク活性化状態を(実際に経験的に測定された試料細胞中の他のバイオマーカーのレベルに基づき)計算するコンピュータモデルを生成するように計算システムを使用して、コンピュータ化された方法を使用することにより推論的に決定される。
【0009】
このような一実施形態において、腫瘍試料を得る段階、試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法が提供され、ここで、試料において決定されたpErbB3のレベルが、無血清培地(例えばRPMI)で20〜24時間培養した後のACHN腎癌細胞(ATCC番号CRL−1611)の培養物において測定されたpErbB3のレベルの50%以上の場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、ACHN腎癌細胞の培養物において測定されたpErbB3のレベルの50%より低い場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない。
【0010】
特定の態様において、本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法を提供し、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)を含む細胞(例えば腫瘍細胞)の応答を予測するためのものであり、該方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を、計算システムを用いて、入力から計算する段階、および(c)(b)で計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含む。
【0011】
さらなる態様において、細胞に含まれる細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法が提供され、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)1つ以上の測定されたレベルを用いた細胞ネットワーク入力の計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、(ii)(i)で計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を計算して出力することを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた患者を治療することをさらに含むことができる。
【0012】
また、本明細書で、細胞ネットワーク内(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法が提供され、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)入力した測定レベルに統計分類アルゴリズムを適用し、そこから細胞のNASまたはNISを計算することにより細胞ネットワークの計算モデルを計算することと、(ii)計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測することと、を含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0013】
本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法をさらに提供し、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いて、治療に対する細胞の応答を予測するための方法であり、このような方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を、計算システムを用いて計算する段階、(c)計算システムを用いて、統計分類アルゴリズムを適用する段階、および(d)統計分類アルゴリズムの出力の少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含む。
【0014】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法も、本明細書で提供する。特定のこのような方法は、(a)細胞試料において、(i)ヘレグリン(HRG)、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを測定する段階、および(b)(a)で測定されるレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測する段階を含み、対照に対するHRGおよび少なくとも1つの受容体のレベルの上昇は、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。他のこのような方法は、(a)細胞試料において、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、リン酸化ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー、リン酸化ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー、ErbB3/ErbB4ヘテロダイマー、リン酸化ErbB3/ErbB4ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つ以上のレベルを測定する段階、および(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測する段階を含み、ここで、対照に対するErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異は、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0015】
本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法をさらに提供し、該方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものである。特定のこのような方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料においてそのレベルが測定される(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、および(b)測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含み、ここで、対照に対するHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇は、治療薬を用いた治療に対する応答を予測する。他のこのような方法は、(a)細胞試料においてそのレベルが測定される、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を、該計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、および(b)測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成および表示する段階を含み、ここで、対照に対するErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異は、治療薬を用いた治療に対する応答を予測する。
【0016】
他の態様において、本明細書により、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットが提供され、該キットは、(a)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための試験法と、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための説明書とを含む。特定の実施形態において、このようなキットは、(c)治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットの使用説明書をさらに含む。
【0017】
本発明は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための方法をさらに提供し、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、(ii)計算されたレベルが、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する構成要素をバイオマーカーとして特定することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。
【0018】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法もまた、本明細書によって提供され、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するためのものであり、該方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定される細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算システムを用いて計算する段階、および(c)計算されたレベルが、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を、計算システムを用いて特定して、それにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する構成要素をバイオマーカーとして特定する段階を含む。
【0019】
またさらなる態様において、本発明は、命令が実行されると、前述の方法のいずれかを遂行する、コンピュータが実行可能な命令を保存する1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1A〜1Dは、Ab#6抗体を用いた治療による、異種移植片腫瘍成長の阻害を示すグラフである。図1Aは、MALME3M異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Bは、DU145異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Cは、ADRr異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Dは、ACHN異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。
【図2】図2は、Ab#6で治療された時の異種移植片に観察された成長率低減(%)に対して、未治療異種移植片腫瘍(pg/μg総タンパク質)におけるリン酸化ErbB3(pErbB3)の濃度をプロットしたグラフである。
【図3】図3A〜3Eは、異種移植片切開後0、10、30、または60分で凍結されたACHN異種移植片腫瘍試料におけるpErbB3(図3A)およびリン酸化AKT(pAKT)(図3B)のレベル、および異種移植片切開後0、10、30、または60分で凍結されたEKVX異種移植片腫瘍試料におけるErbB1(図3C)、ErbB2(図3D)、およびErbB3(図3E)のレベルを示す棒グラフである。
【図4】図4A〜4Dは、シグナル伝達経路の絵を計算モデルに変換するプロセスの概略図を示す。図4Aは、異なるリガンドおよびErbB受容体を含むErbBシグナル伝達経路の絵を示す。図4Bは、絵に示すタンパク質相互作用を説明する一連の生化学反応を示す。図4Cは、一連の生化学反応から発生する一連の流束を示す。図4Dは、シグナル伝達ネットワークを説明する質量作用動態に基づく、一連の非線形常微分方程式(ODE)を示す。
【図5】図5A〜5Bは、ADRr卵巣癌細胞で、9つの異なる濃度のヘレグリン(HRG)(図5A)またはベータセルリン(図5B)で刺激された細胞における、ホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB1、およびホスホ−AKTの経時レベルを示すグラフである。計算モデルのパラメータは、実験データ(点)を説明するために、シミュレーション結果(実線)について較正された。
【図6】図6は、ErbB3の活性化に重要なマーカーを特定するための局所感度分析の結果を示す棒グラフである。
【図7】図7は、MALME3M、DU145、ADRrおよびACHN細胞株におけるpErbB3の計算されたレベルを示すグラフである。
【図8】図8A〜8Bは、4つの訓練細胞株(MALME3M、DU145、ADRr、およびACHN)から確立されたNASの閾値に基づき、Ab#6処置に対する15の細胞株の応答を予測するためのNAS値の使用を示すグラフである。図8Aは、19の細胞株についてシミュレーションされたpErbB3レベルを、最高から最低pErbB3レベルの順でプロットした棒グラフである。図8Bは、MALME3M未満のNAS値を有する細胞株を非応答株(NR)としてランク付けし、ADRr以上のNAS値を有する細胞株を応答株としてランク付けし、MALME3MとADRrとの間のNAS値を有する細胞株を不確定としてランク付けした、最高から最低NAS値の順に、19の細胞株をランク付けしたグラフである。
【図9】図9A〜9Cは、Ab#6抗体を用いた処置による異種移植片腫瘍成長の阻害を示すグラフである。図9Aは、IGROV1異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図9Bは、OVCAR8異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図9Cは、SKOV3異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。
【図10】図10A〜10Dは、1つのErbB受容体の濃度のログを、1つ以上の他のErbB受容体の濃度のログに対してプロットしたグラフである。受容体値は、細胞株について、Ab#6応答株または非応答株として分類されて示される。図10Aは、ErbB2対ErbB1をプロットする。図10Bは、ErbB3対ErbB1をプロットする。図10Cは、ErbB2対ErbB3をプロットする。図10Dは、ErbB1対ErbB2対ErbB3をプロットする。
【図11】図11は、HRGのログ濃度を、ErbB1のログ濃度に対してプロットしたグラフを示す。グラブにおいて、異種移植片試験で試験された応答細胞株と非応答細胞株は別れている。
【図12】図12A〜12Cは、異種移植片細胞株およびヒト腫瘍試料におけるErbBシグナル伝達経路の異なる構成要素のログ正規化発現レベル(pg/μg、ELISAにより決定)をプロットしたグラフである。図12Aは、ErbB2対ErbB1をプロットする。図12Bは、ErbB4対ErbB3をプロットする。図12Cは、HRG−β1対BTCをプロットする。
【図13】図13A〜13Dは、異種移植片細胞株およびヒト腫瘍試料の定量的免疫組織化学検査(qIHC)の結果を示すグラフである。図13Aは、ErbB1の細胞株標準曲線を示す。図13B、13C、および13Dは、それぞれ、異種移植片細胞株(赤色の棒)およびヒト腫瘍試料(青色の棒)における、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のqIHCスコアをプロットする棒グラフである。
【図14】図14は、8つの細胞株において計算された、積分されたリン酸化ErbB1:3ヘテロダイマーレベル(細胞当りの時間積分されたヘテロダイマー量)を示す、棒グラフであり、それらをAb#6非応答株(MALME3M、BT474、IGROV1、およびADRr)、および応答株(OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN)に分けている。
【図15A】図15Aは、本発明の特定の実施形態の実施中に実施され得る、様々な機能ステップおよび動作を含むフローチャートである。
【図15B】図15Bは、本発明の特定の実施形態の実施中に実施され得る、様々な機能ステップおよび動作を含むフローチャートである。
【図16】図16は、本発明の特定の態様を実施するために使用され得る計算環境の一実施形態である。
【図17】図17A〜Dは、二重特異性抗体H3×B1D2で処置された細胞の阻害曲線のグラフである。図17Aおよび17Bは、それぞれ、OVCAR8細胞におけるpErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。図17Cおよび17Dは、それぞれ、HER2/ErbB2(OVCAR8−HER2細胞)を形質移入されたOVCAR8細胞における、pErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。実線は、計算モデルからのシミュレーションされたデータを表し、一方、丸は、実験的に決定されたデータを表す。シミュレーションされたIC50値(DR50sim)、および実験的に決定されたIC50値(DR50データ)も示す。
【図18】図18A〜Dは、二重特異性抗体H3×B1D2で処置された細胞の阻害曲線のグラフである。図18Aおよび18Bは、それぞれ、ADrR細胞におけるpErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。実線は、計算モデルからシミュレーションされたデータを表し、一方、丸は、実験的に決定されたデータを表す。シミュレーションされたIC50値(DR50sim)、および実験的に決定されたIC50値(DR50データ)も示す。図18Cおよび18Dは、それぞれErbB1RNAiを用いたシミュレーション処置による、ADrR細胞における、pErbB3レベルおよびpAKTレベルのシミュレーションされた阻害曲線を示す。
【図19】図19A〜Cは、H3×B1D2を用いて処置された異種移植片モデルの腫瘍細胞の区画における、インビボで決定された相対成長率(RGR)を、H3×B1D2の不在下の腫瘍細胞の区画における、ErbB2モノマー(図19A)、ErbB2:ErbB2ホモダイマー(図19B)およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図19C)の計算されたレベルに対してプロットしたグラフである。
【図20】図20A〜Bは、H3×B1D2を用いて処置された異種移植片モデルの腫瘍細胞の区画においてインビボで決定された相対成長率(RGR)を、H3×B1D2のシミュレーションされた不在および存在下の腫瘍細胞の区画における、ErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図20A)およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマー(図20B)の計算された相対レベルに対してプロットしたグラフである。
【図21】図21は、実施例11に詳説される、示されるHRG用量における、ErbB2−過剰発現細胞株BT474−M3からの予測される(プロット線)および実際の(データ点)HRG誘発pErbB3およびpAKTシグナル伝達データのグラフ表示を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明は、概して、1つ以上の細胞シグナル伝達経路における1つ以上の要素(例えば、ErbB3)の活性化状態が、1つ以上の要素のレベルの直接的測定を通してではなく、間接的マーカーの使用を通して決定される、方法、システム、およびコンピュータプログラム製品を提供する。このような間接的測定は、シグナル伝達経路における要素の活性化状態を、そのシグナル伝達経路をモデル化するコンピュータシミュレーションを介して決定するために使用することができる。本明細書に提供される方法を使用することにより、この情報は、次いで、治療薬に対する細胞の応答性を予測するため、そして、疾病または疾患(例えば、癌)を有する患者に対する治療処置を選択するために使用することができる。
【0022】
本発明の使用を通して、腫瘍細胞試料の代表的なリン酸化の特徴の決定を達成することができる。これは、患者の試料において、リン酸化細胞タンパク質を、そのようなリンタンパク質のレベルを直接測定する必要なしに、治療薬に対する応答のバイオマーカーとして使用することを可能にし、したがって、リンタンパク質測定に付随する潜在的な問題(例えば、不安定さ、不正確さ)を避けることができる。このようなシミュレーションで決定されたリン酸化の特徴は、抗腫瘍性治療薬に対する細胞の応答性を正確に予測するために使用することができ、したがって、患者の癌を治療するのに効果のない抗癌剤を患者に投与することを避けるために使用することができる。さらに、開示される方法は、細胞ネットワーク内の受容体のホモおよび/もしくはヘテロダイマー、または、細胞ネットワーク内のリン酸化ホモおよび/もしくはヘテロダイマー等の、細胞ネットワーク内の他の不安定な構成要素のレベルのシミュレーションを可能にし、それらの構成要素は治療薬に対する細胞の応答性を予測するために使用され得る。さらにまた、開示される方法は、細胞ネットワーク内の構成要素に対する治療薬の効果のシミュレーションを可能にし、それもまた、治療薬に対する細胞の応答性を予測するために使用され得る。
【0023】
特定の方法において、細胞ネットワーク内の1つ以上の安定した細胞構成要素(細胞表面受容体、リガンド等)のレベルは、細胞試料(例えば、腫瘍生検材料、または摘出腫瘍の細胞)において測定される。これらの測定に基づき、細胞のネットワーク活性化状態(またはNAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、1つ以上のシグナル伝達ネットワークの計算モデル(例えば、機構的計算モデル)を使用して計算される。例えば、NASは、細胞ネットワーク内の(直接的に測定されなかった)リン酸化タンパク質の計算されたレベルを表す数値であり得る。代替的に、NISは、(シミュレーションされた治療薬の不在下の構成要素のレベルと比較した)、シミュレーションされた治療薬の存在下での細胞ネットワーク内の構成要素の計算されたレベルを表す数値であり得る。応答性または非応答性の閾値を表す対照値と計算されたNASまたはNISとを比較することにより、細胞が治療的処置に応答する可能性が高いかどうかを予測することができる。
【0024】
したがって、治療に対する細胞応答性の「間接的」マーカーの使用を開示し、その「間接的」マーカー(例えば、活性化されたシグナル伝達経路内のリン酸化タンパク質またはダイマー)のレベルは、直接的に測定されないが、直接的に測定される他の細胞構成要素のレベルに基づいて計算またはシュミレーションが行われる。この方法は、例えば、NASまたはNISの計算と組み合わせた、統計分類アルゴリズムの使用も含むこともできる。
【0025】
本発明との関連において、また本明細書の実施例の項でさらに記載されるように、ErbBシグナル伝達経路の機構的計算モデルは、ErbB細胞ネットワーク(またはNAS)の活性化の指標として、リン酸化ErbB3(pErbB3)のレベルを計算するために成功裏に使用されており、シミュレーションされたpErbB3レベルは、インビボ異種移植片系における、抗ErbB3抗体であるAb#6を用いた治療に対する腫瘍細胞株の応答性を正確に予測することを示した。加えて、本明細書の実施例の項でさらに記載されるように、ErbBシグナル伝達経路の機構計算モデルはErbB細胞ネットワーク(またはNIS)の阻害の指標として、シミュレーションされた治療薬の存在または不在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマーおよびErbB1/ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルを計算するために成功裏に使用されており、シミュレーションされたErbB2/ErbB3およびErbB1/ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルは、インビボ異種移植片系における、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体であるH3×B1D2を用いた腫瘍細胞株の治療に対する応答性を正確に予測することを示した。
【0026】
本発明がより容易に理解されるように、特定の用語を最初に定義する。
【0027】
本明細書で使用する、「治療薬」という用語は、疾病もしくは疾患の症状の重篤度を低減もしくは阻害する、または疾病もしくは疾患における無症状もしくは症状低減時間の頻度および/もしくは期間を増加する、または疾病もしくは疾患の苦痛による機能障害もしくは身体障害を阻害もしくは防止する、または疾病もしくは疾患の進行を阻害もしくは遅延する、または疾病もしくは疾患の発病を阻害もしくは遅延する、または感染性疾病もしくは疾患における感染を阻害もしくは防止する能力を有する、任意の、そして全ての化合物を包含するものとする。治療薬の例としては、有機小分子、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、組み換え操作された生物製剤、RNAi化合物等物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される、「細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする」治療薬は、治療活性が、細胞ネットワーク内の構成要素の活性に特定の直接的または間接的な影響を有する薬剤に、少なくとも部分的に起因する薬剤を指す。細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬の例としては、ErbB1に特異的に結合し、したがって、ErbB細胞ネットワーク内のErbB1を特異的に標的とするモノクローナル抗体のセツキシマブ、およびErbB1のチロシンキナーゼ(TK)ドメインを特異的に阻害し、したがって、ErbB細胞ネットワーク内のErbB1−TKを特異的に標的とする小分子のゲフィチニブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される、「ネットワーク活性化状態」または「NAS」という用語は、細胞ネットワークの活性のレベルを反映する、またはそれに対応する標識、典型的には数値を指す。NASは、典型的には、細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算される。NASは、例えば、細胞ネットワーク内の1つ以上のリン酸化タンパク質のシミュレーションされたレベルを表すことができる。1つ以上のリンタンパク質レベルが、NASの好適な実施形態であるが(例えば、実施例7にさらに記載されるpErbB3レベル、または実施例10にさらに記載されるpErbB1/ErbB3ヘテロダイマーレベル等のリン酸化ErbBホモダイマーもしくはヘテロダイマーのレベル、またはPI3K等の下流のキナーゼのレベル)、活性化されたシグナル伝達経路内の他の細胞構成要素が、ネットワーク活性の指標(複数を含む)としての役割を果たすことができ、したがって、NASとして使用することができ、これは、受容体の二量体化(ErbB1/ErbB1もしくはErbB2/ErbB2ホモダイマーのレベル、またはErbB1/ErbB2、ErbB1/ErbB3、ErbB1/ErbB4、ErbB2/ErbB3もしくはErbB2/ErbB4ヘテロダイマーのレベル等のホモダイマーおよびヘテロダイマー)、タンパク質の切断、転写因子の活性化、および遺伝子発現の活性化を含むが、これらに限定されない。細胞、例えば、腫瘍細胞のネットワーク活性化状態は、そのシグナル伝達経路に対する細胞の依存性の指標であり、その特定のシグナル伝達経路を標的とする治療薬によって阻害され得る。
【0030】
本明細書で使用される、「ネットワーク阻害状態」または「NIS」という用語は、細胞ネットワークの阻害性のレベルを反映する、またはそれに対応する指標、典型的には数値を指す。NISは、典型的には、細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算される。NISは、例えば、シミュレーションされた治療薬の不在下のシミュレーションされたレベルと比較した(またはそれに対する)、シミュレーションされた治療薬の存在下における細胞ネットワーク内の1つ以上の構成要素のシミュレーションされたレベルを表すことができる。例えば、NISは、シミュレーションされた治療薬の存在下の1つ以上の構成要素のレベルと、シミュレーションされた治療薬の不在下のそれらの1つ以上の構成要素のレベルとの比率であり得る。NISの限定されない例としては、シミュレーションされた治療薬の不在または存在下で計算された1つ以上のホモまたはヘテロダイマーの計算された相対レベル(ErbB2/3およびErbB1/3ヘテロダイマーの相対レベル等)である(すなわち、シミュレーションされた治療薬の不在下のレベルと比較した、シミュレーションされた治療薬の存在下のレベル)。しかしながら、レベルが治療薬により調節されるシグナル伝達経路内の他の細胞構成要素も、ネットワーク阻害の指標としての役割を果たすことができ、したがって、それらのレベルが、NISの指標として使用され得ることを理解されたい。細胞、例えば、腫瘍細胞のNISおよびNASは、細胞のシグナル伝達経路内の構成要素上の治療薬の効果の指標であり、治療薬の効果に対する細胞の応答性を予測することができる。
【0031】
「細胞ネットワークの計算モデル」という用語は、生物学的経路のダイアグラムまたは絵(例えば、癌に関する一連のタンパク質相互作用)を、後続のシミュレーションおよび分析が可能な一連の数式に転換するコンピュータプログラム等のモデルを指す。特定の情報(例えば、リガンドおよび/または受容体タンパク質濃度、速度定数)をそのモデルに入力することができ、次いでそのモデルは、容易に測定できない可能性がある追加情報(例えば、リンタンパク質レベル)をシミュレーションすることができる。細胞ネットワークのネットワーク活性化状態(もしくはNAS)またはネットワーク阻害状態(もしくはNIS)は、本明細書に記載する細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算され得る。
【0032】
本明細書で使用される、「アルゴリズム」という用語は、概して、方法を実行する、もしくは問題を解決するための一連の命令、または手順、または式を指す。「統計分類アルゴリズム」という用語は、分類または予測(例えば、治療薬に対する応答株対非応答株)が行われるように、1つ以上の測定可能なパラメータまたは入力(例えば、組織試料中で測定されたタンパク質レベル)と特定の結果または出力(例えば、治療薬に対する応答性)との間の統計的関係を定義するアルゴリズムを指す。
【0033】
本明細書で使用される、「バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、所与の治療に対する疾病の応答性と相関するものを指す。
【0034】
本明細書で使用される、「直接的バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、所与の治療に対する疾病の応答性と相関し、その存在またはレベルが、細胞中で直接的に測定されて、それによって、所与の治療に対する疾病の応答性を予測するものを指す。
【0035】
本明細書で使用される、「間接的バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、疾病の所与の治療に対する応答性と相関し、その存在またはレベルは、細胞中で直接的に測定されないが、むしろ計算モデルを使用してのシミュレーションによって等の、間接的な手段で決定され、それによって、所与の治療に対する疾病の応答性を予測するものを指す。
【0036】
本明細書で使用される、「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子、または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる結合ドメインを含む、1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質であり、該タンパク質は、免疫特異的に抗原に結合する。認識される免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、並びに多数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、同様に、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンとして分類され、次いでそれらは、それぞれ、免疫グロブリンクラスのIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。典型的な免疫グロブリン構造単位は、それぞれの対が1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する同一の2対のポリペプチド鎖から構成されるテトラマーを含む。「VL」および「VH」とは、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0037】
抗体は、無傷免疫グロブリン並びにその抗原結合断片を含み、それらは様々なペプチダーゼによる消化によって生成されるか、または化学的に、もしくは組み換えDNA技術を使用するかのいずれかで、新規に合成することができる。そのような断片は、例えば、F(ab)2ダイマーおよびFabモノマーを含む。好適な抗体は、単一鎖抗体(単一ポリペプチド鎖として存在する抗体)、より好適には、VHおよびVL鎖が(直接的またはペプチドリンカーを通して)一緒に結合して連続ポリペプチドを形成する、単一鎖Fv抗体(scFv)を含む。(5,132,405および4,956,778)。
【0038】
「免疫特異的」または「免疫特異的に」とは、免疫グロブリン遺伝子、または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる結合ドメインを介して、対象のタンパク質の1つ以上のエピトープに結合するが、混合した抗原分子の集団を含有する試料中の他の分子を実質的に認識せず、結合しない抗体を指す。典型的には、抗体は、表面プラスモン共鳴法または細胞結合実験により測定して、少なくとも50nMのKdで同族の抗原に結合する。このような試験法の使用は、当該分野において知られており、本明細書の実施例13に例示される。
【0039】
「抗ErbB3抗体」とは、ErbB3の外部ドメインに免疫特異的に結合する、単離された抗体である。ErbB3へのこのような結合は、表面プラスモン共鳴法または細胞結合実験により測定して、少なくとも50nMのKdを示す。ErbB3のEGF様リガンド媒介リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体が好ましい。EGF様リガンドは、EGF、TGFα、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮成長因子、ビレグリン、エピゲン、エピレギュリン、およびアンフィレギュリンを含み、典型的には、ErbB1に結合し、ErbB1のErbB3とのヘテロ二量体化を誘発する。
【0040】
本明細書で使用される、「二重特異的」という用語は、2つの抗原結合部位を含み、第1の結合部位が、第1の抗原またはエピトープに親和性を有し、第2の結合部位が、第1の抗原とは異なる第2の抗原またはエピトープに親和性を有するタンパク質を指す。
【0041】
本明細書で使用される、「対象」または「患者」という用語は、治療薬を用いた治療に対する応答が、腫瘍を有する対象または患者等の、本発明の方法を使用して予測され得る疾病または疾患を有する任意のヒトまたはヒト以外の動物を含む。「ヒト以外の動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ等の、哺乳類および非哺乳類を含む。
【0042】
本発明の多くの実施形態は、入力装置、出力装置、プロセッサ、記憶媒体、および他の対応するコンピュータ構成要素等の、様々なコンピュータのハードウェアを含む、特殊用途ならびに汎用コンピュータ等、1つ以上のコンピュータシステムを含む。
【0043】
本発明の多くの実施形態は、そこに格納されるコンピュータにより実行可能な命令またはデータ構造(機構的計算モデル、測定されたタンパク質およびバイオマーカーレベル、分類アルゴリズム、変異状態等、本明細書で定義される命令およびデータを含む)を有し、本明細書に記載され、特許請求されるプロセスを遂行するために特別に構成された、コンピュータ可読記憶媒体も含む。このようなコンピュータ可読記憶媒体は、汎用または特殊用途のコンピュータによりアクセスされ得る任意の使用可能な媒体であり得る。例えば、このようなコンピュータ可読記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、CD−ROM、または他の光学ディスク記憶媒体、磁気ディスク記憶媒体もしくは他の磁気記憶デバイス、またはコンピュータにより実行可能な命令もしくはデータ構造の形態の所望のプログラムコード手段、モジュール、およびソフトウェアを格納するために使用され得、汎用または特殊用途コンピュータによりアクセスされ得る任意の他の媒体を含むことができるが、これらに限定されない。
【0044】
いくつかの場合において、送信媒体も、本発明が、本明細書に記載される1つ以上のプロセスを実施するために実行される、コンピュータにより実行可能な命令を保有する送信媒体を組み込むアプリケーション、システム、および他の実施形態にも及ぶように、コンピュータにより実行可能な命令を保有するために使用され得る。情報が、ネットワークまたは別の通信接続(配線構成、ワイヤレス、または配線構成とワイヤレスとの組み合わせのいずれか)を通して、コンピュータに転送または提供されると、コンピュータは、その接続を、適切に、コンピュータ可読通信媒体とみなす。
【0045】
「コンピュータにより実行可能な命令」、「実行可能な命令」、「モジュール」、および「計算モジュール」という用語は、本明細書内、および特許請求の範囲に引用される、本発明の特定のプロセスを実施するために1つ以上の計算システムの、1つ以上の計算プロセッサおよび処理構成要素によりアクセスおよび実行されるコンピュータコード、データ構造、およびソフトウェアに言及するために、本明細書において互換的に使用されることがある。
【0046】
本開示の、前述に関する追加の態様、および様々な追加の様態は、以下の小節にさらに詳しく説明されるが、これは、制限するものと解釈されるべきではない。
【0047】
I.機構的計算モデル
機構的計算モデルは、タンパク質ネットワーク中の分子相互作用の予測的な数学的描写とみなされ得る。少なくとも特定の実施形態において、治療薬に対する応答を予測するための本明細書に提供される方法は、機構的計算モデルの使用を含む。機構的計算モデルは、生物学的経路のダイアグラムまたは絵(cartoon)(例えば、癌に関する経路等の、シグナル変換経路に沿って生じる一連のタンパク質相互作用)を、後続のシミュレーションおよび分析が可能な一連の数式に転換する。したがって、モデルの構築における第1のステップは、経路に関与する適切なタンパク質および分子を含む、生物学的経路の詳細なダイアグラムまたは絵の描写の作成である。どのタンパク質および分子が含まれるべきか、並びにそれらを接続する生物学的反応に関する、重要な決定が行われなければならない。どのタンパク質および分子が経路に関与するか、またどの生物学的反応がそれらを接続するかに関する、科学的文献の入手可能な情報が、収集され、生物学的経路の絵の描写の作成に使用される。
【0048】
生物学的経路の絵の描写が作成されると、この情報は、経路内のタンパク質−タンパク質相互作用を表示する方程式のシステムに転換され、そのシステムは細胞ネットワークと称される。シグナル伝達ネットワークの生物学的反応ネットワークを描写する計算モデルは、例えば、非線形常微分方程式(ODE)、確率モデル、ブールもしくはファジー理論モデル、またはペトリネットに基づく。これらは、経験的に測定または推定されなければならない2種類のパラメータ、すなわち初期種数(i番目の種についてc0,i)および速度定数(j番目の速度についてkj)を必要とする微分方程式から構成される。計算モデル構築のプロセスの概略図を、図4A〜Dに示すが、これらは、ErbBシグナル伝達経路の絵図(図4A)、この経路の一連の生化学反応および流束への転換(図4Bおよび4C)、および一連の微分方程式でのタンパク質−タンパク質相互作用の描写(図4D)を図示する。
【0049】
計算モデルは、典型的には、例えば、MATLABソフトウェアSimbiology(The MathWorks,Natick,MA)、任意に、MATLAB(SBtoolbox2.org)用のSystems Biology Toolbox2、またはJACOBIANモデリングソフトウェア(Numerica Technology,Cambridge,MA)と併せて使用して、コンピュータスクリプト言語で書かれた一連の実行可能な命令として構築される。しかしながら、本発明の範囲は、MATLABまたはJACOBIANソフトウェアおよびインターフェースで構築されたもの以外の、ソフトウェアおよびインターフェースで構築された計算モデルの開発および使用にも及ぶことを理解されたい。本発明は、第三者供給元によって予め構築され、本発明の他の態様を実施する計算システムにダウンロードされた計算モデルを利用する実施形態にも及ぶ。
【0050】
モデル較正の前に、科学的文献からの情報に基づき、例えば、タンパク質レベル、結合親和性、リガンドのそれらの同族受容体への結合速度定数等の、できるだけ多くのパラメータの値を特定し、計算システムに入力する。科学的文献から入手できないパラメータ値は、実験的に取得され得る。
【0051】
モデルは、訓練を実施する計算システムに入力される、実験的に取得されたデータに対して、その出力を最適化することによって「訓練」される。モデルを実験データに適合させることにより、最適なモデルパラメータのセットを選択する。モデル較正のプロセスは、仮定およびパラメータ推定の修正を含む。モデルを較正するために、リガンドの刺激を下流シグナル伝達事象に転換するための、特に生物学的に重要であるサブセットのタンパク質およびパラメータを最初に特定しなければならない。このプロセスは、感度分析と呼ばれるが、より正確には、これは、経路内のタンパク質濃度および動態パラメータの変化に応答する、基質のリン酸化等の出力の変化を測定する数学的ツールである。j番目の速度定数(kj)の変化に関するi番目の観測可能なci(t)の十分に正規化された感度(sij(t))は、以下の方程式により得られる。
続いてモデル較正を、感度分析で特定されたパラメータおよび初期のタンパク質濃度を変化させることにより、実験データとシミュレーション結果との距離を最小にする局所的および大域的最適化法(限定されないが、遺伝アルゴリズム、シミュレーションされたアニーリング、レーベンバーグ−マルカート(Levenberg−Marquardt)最適化等)を使用して、計算システムにより実施する。計算システムは、較正中、自動的にパラメータを変更するか、または付加的に追加されたユーザ入力にのみ応答して、パラメータを変更するように構成され得る。
【0052】
様々なシグナル伝達経路における数多くの計算モデルが、科学的文献に記載されている(例えば、Kholodenko,B.N.et al.(1999)J.Biol.Chem.274:30169−30181、Schoeberl,B.et al.(2002)Nat.Biotech.20:370−375、Hayakeyama,M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−463、Nielsen,U.B.and Schoeberl,B.(2005)IDrugs 8:822−826、Schoeberl,B.et al.(2006)Conf.Proc.IEEE Eng.Med.Biol.Soc.1:53−54、Schoeberl,B. et al.(2006)IBM J.Res.Dev.50:645、Fitzgerald,J.B.et al.(2006)Nat.Chem.Biol.2:458−466、Kholodenko,B.N.(2007)Nat. Cell.Biol.9:324−330、Birtwistle,M.R.et al.(2007)Molecular Systems Biology 3:144、Hinow,P.et al.(2007)Theoretical Biology and Medical Modelling 4:14を参照のこと)。さらに、計算モデルの構築および使用は、Kholodenko,R.N.(2006)Nature Reviews:Mol Cell.Biol.7:165−176 and Kumar,N.et al.(2006)Drug Discovery Today 11:806−811に概説されている。
【0053】
本明細書に提供される特定の方法で使用される計算モデルの1つは、ErbBシグナル伝達経路のモデルである。ErbBシグナル伝達経路の代表的な計算モデルの構築は、実施例4に詳細に記載される。本明細書で使用される、「ErbBシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのErbBファミリーの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル伝達経路を包含するものとする。ErbBシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、HRG、ベータセルリン(BTC)、上皮成長因子(EGF)、ヘパリン結合上皮成長因子(HB−EGF)、形質転換成長因子α(TGFα)、アンフィレギュリン(AR)、エピゲン(EPG)、およびエピレギュリン(EPR)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含む1つ以上の受容体、並びに(iii)例えば、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)、ホスファチジルイノシトールビスリン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、ホスファターゼおよびテンシン相同体(PTEN)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼアイソザイム1(PDK1)、AKT、RAS、RAF、MEK、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)、およびSRCタンパク質チロシンキナーゼを含む細胞内キナーゼ、ホスファターゼ、および基質を含み得る。
【0054】
本明細書で提供される特定の方法で使用される別の計算モデルは、IGF1Rシグナル伝達経路のモデルである。本明細書で使用される、「IGF1Rシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのインスリン成長因子1ファミリーの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル変換経路を包含するものとする。IGF1Rシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、インスリン成長因子1(IGF1)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、IGF1Rおよびインスリン受容体を含む1つ以上の受容体、(iii)1つ以上のIGF結合タンパク質、および(iv)例えば、インスリン受容体基質2(IRS2)、PI3K、AKT、Bcl−2関連タンパク質BAD、RAS、RAF、MEK、およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を含む細胞内キナーゼおよび基質を含み得る。
【0055】
本明細書で提供される特定の方法で使用されるまた別の計算モデルは、c−Metシグナル伝達経路のモデルである。本明細書で使用される、「c−Metシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのc−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル伝達経路を包含するものとする。c−Metシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、肝細胞成長因子(HGF)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、c−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼを含む1つ以上の受容体、並びに(iii)例えば、PI3K、成長因子受容体結合タンパク質2(GRB2)、Src相同およびコラーゲンタンパク質(SHC)、SRCタンパク質チロシンキナーゼ、およびGAB1足場タンパク質並びにRAS、RAF、MEK、およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を含む細胞内キナーゼおよび基質を含み得る。
【0056】
本明細書で提供される特定の方法で使用されるまた別の計算モデルは、組み合わせでのIGR1RおよびErbB受容体シグナル伝達、ErbB受容体シグナル伝達およびc−Metシグナル伝達もしくはIGF1−R、ErbBおよびc−Metシグナル伝達等の、2つ以上の成長因子シグナル伝達経路の任意の組み合わせを含むモデルである。
【0057】
前述の例は特定的であるが、(例えば、TNF、IL−2、PDGF、FGF、TRAIL、インテグリン、サイトカイン、および実質的に任意の他の経路等の、シグナル伝達経路の)他の計算モデルも、本発明の実施形態に組み込まれ、および利用され得ることを理解されたい。
【0058】
特定の実施形態において、1つ以上の治療薬の存在は、計算モデルでシミュレーションされ得る。治療薬の計算上の表示は、治療薬のその細胞標的への結合を表す、あるいは薬剤のモデル化された細胞経路への効果を表す、質量作用反応の方程式を使用して構築され得る。結合事象、または他の生物学的効果のパラメータは、直接的実験測定により、並びに細胞への治療薬の効果についてのデータと一致させるためにモデルを訓練することにより取得され得る。例えば、抗体薬剤に対して、抗体のその標的抗原への結合のオン率およびオフ率は、標準的方法(BIACoreまたはKinExA技術)により実験的に決定され得、これらのパラメータは、計算モデルに組み込まれ得る。加えて、例えば、二重特異性薬剤に対して、二重特異性分子のそれぞれの標的に別々、または二重特異性分子の両方の標的に結合する二重特異性分子の数の測定としての架橋パラメータを、計算モデルの訓練パラメータとして使用することができる。架橋パラメータは、全体的に観察された結合親和性(標準的なFACS分析により決定)を取得し、標準的なロジスティック結合方程式に適合することにより取得され得る。前述に加え、特定の治療薬に薬理学的に関連があり得、したがって、計算モデルで表示される追加パラメータも、当業者に知られている。
【0059】
治療薬の効果を、計算モデルで表示する際、単一薬剤をモデル化することができ、または複数の薬剤を組み合わせてモデル化して、併用療法の細胞応答への効果をシミュレーションすることができる。例えば、一実施形態において、それぞれが異なる標的抗原に結合する2つの抗体を、計算モデルで表示することができる。別の実施形態において、特定のシグナル伝達経路(例えば、ErbB経路)を標的とする抗体、およびその同じシグナル伝達経路(例えば、ErbB経路)の小分子阻害剤を、計算モデルで同時に表示し、細胞におけるシグナル伝達経路におけるそのような併用療法の効果を評価することができる。
【0060】
II.統計分類アルゴリズム
少なくとも特定の実施形態において、治療薬に対する応答を予測するための、本明細書で提供される方法(例えば、コンピュータを用いて治療薬に対する予測される応答を生成すること)、および悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法は、1つ以上の統計分類アルゴリズムの使用を含む。
【0061】
統計モデルの目的の1つは、例えば、一方では、組織試料中で測定されたタンパク質のレベル、並びに生化学モデルにより計算された活性化レベル(例えば、ネットワーク活性化状態、もしくは「NAS」)または阻害レベル(例えば、ネットワーク阻害状態、もしくは「NIS」)と、他方では、治療薬に対する患者の応答との間の関係を認識することである。したがって、統計分類アルゴリズムは、分類または予測(例えば、治療薬に対する応答株対非応答株)が行われるように、1つ以上の測定可能なパラメータまたは入力(例えば、組織試料中で測定されたタンパク質レベル、計算されたNASまたはNIS値)と特定の結果または出力(例えば、治療薬に対する応答性)との間の統計的関係を定義する。したがって、統計モデルは、応答株と非応答株を分ける閾値を特定することを助け、また定義された閾値周辺の不確定度を定義することも助ける。
【0062】
様々な種類の統計分類システムが、当該分野において説明されており、本発明の方法での使用に適している可能性があり、それらの限定されない例には、主成分分析(PCA)、部分最小二乗回帰(PLSR)、三線PLSR、ファジー論理およびベイズ推論、ランダムフォレスト(RF)、分類および回帰ツリー(C&RT)、増強ツリー、神経ネットワーク(NN)、サポートベクターマシーン(SVM)、一般カイ二乗自動相関検出モデル、相関ツリー、多変量適応的回帰スプライン、機械学習分類器、およびそれらの組わせが含まれる。例えば、PCT国際公開特許第WO2007/109571号を参照のこと。
【0063】
好適な実施形態において、統計分類アルゴリズムを訓練するために、当該分野の用語を使用すると、「機械」または「計算システム」(例えば、コンピュータ)は、「分類器」(統計アルゴリズム)の手段によって、コンピュータに入力された数多くの「訓練」例を検討することにより、タンパク質発現レベルと、実際の患者の応答(例えば、応答するものおよび応答しないもの)を伴うネットワーク活性化状態(NAS)との間の関係を「学習する」。このプロセスは、入力(測定および計算されたタンパク質レベル)および出力(例えば、治療薬に対する応答)の両方が事前に知られている試料の集合があるため、「教師あり学習」として知られる。統計分類アルゴリズムを適用するために不可欠な部分は、有益な特徴(特徴は、任意の測定または計算されたタンパク質レベルまたはタンパク質活性化レベル)、並びにアルゴリズムにより生成されたスコアに対する最適な閾値の決定である。
【0064】
出力が分かっている試料の別個の「試験事例」で、統計分類アルゴリズムを検証することが一般的には好ましいが、分類器には知らされない。予測を既知の結果と比較することにより、性能が測定され得る。試料の数が少ない時には、これを用いることができない場合があり、この要求を克服する確立された技法がある。そのうちの主要なものは、交差検定であり、以下でさらに論ずる。分類器の出力は、所望する場合、分類予測に変換され得るスコアである。概して、分類器の訓練プロセスは、最適な閾値を決定するための方法も含む。
【0065】
予測を行うための能力を試験するために、交差検定における一般的な手順は、「訓練データ」または「訓練(データ)事例」としてデータの一部(試料の分画)を確保しておくことであり、残りのデータは、「試験(データ)事例」と呼ばれる。典型的には、この手順は、何回も繰り返され、訓練および試験のために、毎回、異なるデータの分画を使用する。訓練事例が多いほど、明らかにより有益である(例が多ければ、分類器もより良くなる)が、試験事例も多いほどよい(より多くの予測が検証できれば、将来の予測における信頼度が高くなる)。試料が少ない場合、単一の試料を試験データとして確保しておき、残りの全ての試料を使用して分類器を訓練するように、この手順を改変する。予測は、単一の残された試料で行われる。これは、「1つを残した(leave−one−out)交差検定」(LOOCV)と呼ばれ、当該分野において、十分に確立されている。この手順は、同様に、それぞれの残された試料に対して繰り返される。全ての予測が行われると、性能が評価される。
【0066】
本発明の方法において使用される統計分類アルゴリズムにおいて、様々なパラメータ、または有益な特徴、または情報を、入力データとして使用することができる。このような入力データの非限定的な例には、細胞試料から得られた細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のタンパク質レベル、計算モデルを使用して計算されたネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)、細胞試料中の1つ以上のタンパク質の変異状態、治療に対する応答性が検証される対象の年齢、および治療に対する応答性が検証される対象の性別が含まれる。
【0067】
III.細胞試料中の細胞構成要素のレベルの測定
治療薬を用いた治療に対する予測される応答性を生成し、悪性腫瘍を有する患者を治療するための、本明細書に提供される方法において、手順の1つは、典型的に、細胞試料中の細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定すること、または代替的に、細胞試料から得た測定から取得された、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを計算システムに入力することを含む。例えば、腫瘍試料は、標準的な方法で、腫瘍を有する患者から得ることができ、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルは、腫瘍試料中で測定され得る。
【0068】
入力は、計算システムに手動で入力され得る。入力はまた、いくつかの場合において、コンピュータ化された測定デバイスが計算システムに連結され、本発明の特徴を遂行するために入力を受け取って利用する場合等に、計算システムに自動的に入力またはダウンロードされ得る。この点において、本明細書に記載される、任意の測定情報および任意の状態情報(例えば、変異状態の情報)、並びに任意の他の組織/患者データは、測定および状態情報を自動的に取得してダウンロードするコンピュータ化されたデバイスの使用を通して、本発明の手順を実施するためのデータを使用する1つ以上の他の計算システムに取得され得ることも理解されたい。
【0069】
本明細書で使用される、構成要素の「レベル」という用語は、試料中に存在する構成要素の量または濃度を指す。構成要素のレベルは、任意の様々な周知の技法を使用して測定され得る。レベルは、典型的には、タンパク質レベルを測定することにより決定されるが、代替的に、レベルは、いくつかの場合、mRNAレベルを測定することにより決定され得、次いで、mRNAレベルを予測されるタンパク質レベルに変換することができる。タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)のレベルは、当該分野に周知の1つ以上の技法を使用して測定され得、これらの非限定的な例としては、定量的蛍光活性化細胞選別法(qFACS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA,Luminex)、免疫組織化学検査(IHC)、定量的免疫組織化学検査(qIHC)、近似基準法(フェルスター共鳴エネルギー転移基準法、蛍光タンパク質再構成法(BiFC)、VeraTag(登録商標)、またはDNA−Programmed Chemistry(登録商標)(DPC(登録商標)))、質量分析法、ウエスタン(免疫ブロット)法、および共免疫沈降法が挙げられる。タンパク質レベルは、検出されたタンパク質pg/総タンパク質μgとして表現され得る。
【0070】
タンパク質またはmRNAレベルは、細胞溶解物において決定され得る。細胞溶解物は、例えば、実施例2に詳細に記載されるように調製され得る。さらに、タンパク質レベルを決定するためにELISAを使用する代表的な例は、実施例2および4に詳細に記載され、タンパク質レベルを決定するためにqFACSを使用する代表的な例は、実施例4に詳細に記載され、mRNAレベルを測定し、タンパク質レベルへ変換する代表的な例は、実施例4(HRG−β1について)に詳細に記載される。
【0071】
腫瘍試料は、例えば、新鮮な細胞試料、新鮮な凍結試料、または固定組織試料であり得る。患者の組織試料において、保存された組織ブロックが、新鮮な凍結試料よりも、より簡単にアクセス可能な場合がある。したがって、好適な実施形態においては、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料が使用され、構成要素(例えば、リガンド、受容体)のレベルは、半定量的免疫組織化学検査(IHC)により決定され得る(実施例9でさらに記載される)。半定量的IHC情報を計算モデルへの入力に適した濃度に変換するために、既知の受容体および/またはリガンド発現レベルを伴う細胞プラグまたは異種移植片を含有する対照スライドを、患者の試料と比較することができる。さらに、変換係数を、無次元単位(例えば、タンパク質、またはmRNAの量)で得られた発現レベルを計算モデルに入力できる濃度レベルに変換するために決定することができ、これは、BTCおよびHRG発現レベルについての実施例4にさらに詳細に記載される。
【0072】
リガンドmRNAおよびリガンドタンパク質レベルは、一般的に、適度に相関する。したがって、qRT−PCRは、腫瘍細胞株および異種移植片、並びにFFPEからの細胞溶解物中のmRNA発現レベルを決定するために使用され得る。
【0073】
IV.治療薬に対する応答を予測するための方法
特定の態様において、本発明は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法を提供する。このような方法は、一般的に、以下の予測方法1〜5に示される要素を含む。
【0074】
予測方法1
(a)細胞試料に存在する、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定することにより、細胞ネットワークの該1つ以上の構成要素のレベルの測定値を取得すること;および
(b)(i)測定値と共に入力される細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算することと、
(ii)(i)で計算されたNASまたはNISに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を計算し、出力することと
を含む、コンピュータにより遂行された方法を適用すること。
【0075】
予測方法2
(a)細胞試料中において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定すること;および
(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算することと、
(ii)統計分類アルゴリズムを適用することと、
(iii)前記統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測することと
を含む、コンピュータにより実施された方法を適用すること。
【0076】
予測方法3
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料中で測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取り、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)前記計算システムが、(b)で計算されたNASまたはNISに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する予測される細胞の応答を生成し、その後、出力デバイスで表示する。
【0077】
予測方法4
(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定し、
(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)統計分類アルゴリズムを適用し、
(d)前記統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する。
【0078】
予測方法5
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料中で測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取り、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)前記計算システムが、統計分類アルゴリズムを適用し、
(d)前記計算システムが、前記統計分類アルゴリズムの出力に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示する。
【0079】
上記の方法は、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または該細胞が得られた患者を治療することをさらに含むことができる。
【0080】
様々な態様において、検出された構成要素のレベルは、1つ以上の特定の治療薬の予測される効果を示す役割を果たす。多くの場合、これは、該構成要素が、予め決定されたカットオフレベルまたはカットオフ率より上(またはいくつかの場合においては、下)である基準に合致するレベル(または他の特定の構成要素に対する特定の濃度比)で検出された場合、所与の治療薬は、効果的であると予測され、患者に投与されるが、該構成要素が、予め決定されたカットオフレベルまたはカットオフ率に対する基準に合致しないレベルまたは濃度比で検出された場合、治療薬は、患者に投与されないことを意味する。適切なカットオフレベルは、通常の実践を使用して、および本明細書で記載されるように、設定され得る。
【0081】
細胞の応答を予測するために、典型的にNAS値またはNIS値は、治療薬に対する複数の既知の応答細胞および非応答細胞において計算され、既知の応答細胞および非応答細胞におけるこれらの値は、閾NAS値またはNIS値を設定するために使用され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す(実施例7および10にさらに記載される)。したがって、治療に対する生成されたおよび/または予測される細胞の応答は、(b)で計算されたNASまたはNISを閾NAS値またはNIS値と比較することによって(c)で取得され得、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。
【0082】
統計分類アルゴリズムを適用するために、1つ以上の種類の情報が、アルゴリズムに入力されるか、または計算システムが、該1つ以上の種類の情報をアルゴリズムに組み込む。例えば、この手順は、(i)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベル、(ii)計算されたNASまたはNIS、(iii)細胞試料中の1つ以上の遺伝子の変異状態、(iv)治療薬で治療される対象の年齢、(v)治療薬で治療される対象の性別、(vi)細胞上におけるエストロゲン受容体(ER)の有無、(vii)細胞上におけるプロゲステロン受容体の有無、および(viii)細胞上におけるアンドロゲン受容体の有無から選択される、1つ以上の種類の情報をアルゴリズムに入力することを含むことができる。追加で、または代替的に、統計分類アルゴリズムの適用は、上記の(i)〜(viii)に記述される1つ以上の種類の情報を入力した後、アルゴリズムを計算する計算システムを含むことができる。統計分類アルゴリズムは、入力情報と治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答性との間の統計的関係を定義することから、治療に対する細胞の応答の予測は、統計分類アルゴリズムの出力に基づくことができる。
【0083】
本明細書に提供される予測方法および他の方法において、好適な細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含む。一実施形態において、本方法において測定され、計算システムへ入力される1つ以上の構成要素は、ErbBシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、HRG(HRG−β1、HRG−β2、HRG−α、HRG−3、およびHRG−4を含む)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRが挙げられる。加えて、または代替的に、本方法において測定される1つ以上の構成要素は、ErbBシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4(当該分野において、それぞれ、HER1、HER2、HER3、およびHER4としても知られる)が挙げられる。このような受容体は、(それらが、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーのいずれで生じても)別個の実体として試験されてもよく、特定の実施形態において、各ホモダイマーおよびヘテロダイマーも、異なる別個の構成要素として測定され、計算システムに入力されてもよい。例えば、測定される構成要素は、1、2、3、4、5、もしくは6以上の受容体、リガンド、または両方であってもよく、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、HRG、およびBTC(例えば、ErbB1およびHRG、またはErbB1、ErbB2、およびErbB3)から選択されてもよい。例えば、いくつかの方法において、計算されたNASは、治療薬の不在下のErbB2/ErbB2ホモダイマー、またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。他のこのような方法において、計算されたNISは、治療薬の不在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルと比較した、治療薬の存在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0084】
上記方法の特定の場合において、計算されたNASは、ErbB3シグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする。例えば、計算されるNASは、細胞試料中のpErbB3レベルをシミュレーションし得る。代替的な実施形態において、計算されるNASは、細胞試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションし得る。
【0085】
一実施形態において、治療薬は、抗EGFR(抗ErbB1)抗体を含み、この代表的な例は、抗ErbB1抗体セツキシマブ(Erbitux(登録商標)、ImClone Systems)である。抗ErbB1抗体の他の例としては、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806(Mishima,K.et al.(2001)Cancer Res.61:5349−5354)が挙げられる。別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB2抗体を含み、この代表的な例は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech)である。
【0086】
別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体を含む。好適な実施形態において、抗ErbB3抗体は、MM−121を含み、これは、現在、第I相臨床試験中である。好適な実施形態において、抗ErbB3抗体は、国際公開第WO2008/100624号にさらに記載される、配列番号1および2のそれぞれVHおよびVL配列を有する、Ab#6を含む。別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、配列番号7〜9(VH CDR1、2、3)、および10〜12(VLCDR1、2、3)のそれぞれAb#6 VHおよびVLCDR配列を含む。抗ErbB3抗体の他の例としては、国際公開第WO2008/100624号にさらに記載され、配列番号3および4、5および6、25および26、並びに33および34のそれぞれVHおよびVL配列を有する、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19が挙げられる。別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、Ab#3のVHおよびVLCDR配列(配列番号13〜15および16〜18のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#14のVHおよびVLCDR配列(配列番号19〜21および22〜24のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#17のVHおよびVLCDR配列(配列番号27〜29および30〜32のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#19のVHおよびVLCDR配列(配列番号35〜37および38〜40のそれぞれ)を含む抗体である。
【0087】
抗ErbB3抗体の他の例としては、抗体1B4C3および2D1D12(U3 Pharma AG)(双方とも米国公開第2004/0197332号に記載される)、および米国特許第5,968,511号に記載されている8B8等のモノクローナル抗体(そのヒト化変種を含む)が挙げられる。
【0088】
別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、第2の抗体(例えば、抗ErbB2抗体)に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体(例えば、融合タンパク質)である。このような二重特異性抗体の好適な例は、H3×B1D2であり、そのアミノ酸配列は配列番号41に記述される。この二重特異性抗体において、H3(配列番号:42〜44および45〜47に示される、それぞれVHおよびVLCDRを有する)と称される、ErbB3を結合する単一鎖抗体は、B1D2(配列番号48〜50および51〜53に示される、それぞれVHおよびVLCDRを有する)と称されるErbB2を結合する単一鎖抗体に連結される。二重特異性抗体H3×B1D2の抗体構成要素は、米国特許第7,332,585号および第7,332,580号、並びにPCT出願第PCT/US2006/023479号(国際公開第WO2007/084181号として公開)およびPCT出願第PCT/US2007/024287号(国際公開第WO2008/140493号として公開)にさらに記載されている。
【0089】
また別の実施形態において、治療薬は、2つ以上の抗ErbB3抗体を含み、その抗体はそれぞれ、ErbB3上の異なるエピトープに結合する。好ましくは、治療薬は、3つの抗ErbB3抗体を含み、その抗体のそれぞれは、ErbB3上の異なるエピトープに結合する。
【0090】
別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB4抗体を含む。また別の実施形態において、治療薬は、汎ErbB阻害剤、またはHER二量体化阻害剤を含む。HER二量体化阻害剤の例は、抗体ペルツズマブ(2C4抗体としても知られる)であり、これは、Agus,D.B.et al.(2005)J.Clin.Oncol.23:2534−2543にさらに記載されている。
【0091】
また別の実施形態において、治療薬は、ErbBシグナル伝達経路の1つ以上の小分子阻害剤を含み、その代表的な例としては、AstraZeneca and Tevaから商業的に入手可能なゲフィチニブ(Iressa(登録商標))、およびGlaxoSmithKlineから商業的に入手可能なラパチニブ(Tykerb(登録商標))が挙げられる。ErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤の他の例としては、CI−1033(PD183805;Pfizer)、エルロチニブHCL(OSI−774、Tarceva(登録商標);OSI Pharma)、PKI−166(Novartis)、PD−158780、EKB−569、およびチロホスチンAG1478(4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン)が挙げられる。
【0092】
別の実施形態において、細胞ネットワークは、c−Met(間葉上皮転換因子)シグナル伝達経路を含む。一実施形態において、(a)において測定および/または入力される1つ以上の構成要素は、c−Metシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、肝細胞成長因子(HGF)が挙げられる。加えて、または代替的に、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、c−Metシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、c−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼが挙げられる。
【0093】
上記の点を考慮すると、本明細書で提供される予測方法は、細胞応答の予測、例えば、c−Metシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする治療薬に対するコンピュータで生成された腫瘍応答の予測を可能にする。治療薬は、例えば、c−Metに結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体)を含んでもよい。このような抗cMet抗体の例としては、AV299(AVEO)、AMG102(Amgen)、および5D5(OA−5D5;Genentech)が挙げられる。c−Metシグナル伝達経路を標的とする好適な治療薬は、抗c−Met抗体に連結された抗ErbB1抗体を含む、二重特異性モノクローナル抗体を含む。このような二重特異性抗体の例は、PCT公報公開第WO2005/117973号および第WO2006/091209号にさらに記載されている。別の実施形態において、治療薬は、c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤であり、その例としては、ARQ197(ArQule)およびPHA665752(Christensen,J.G.et al.(2003)Cancer Res.63:7345−7355)が挙げられる。
【0094】
別の実施形態において、細胞ネットワークは、インスリン成長因子1受容体(IGF1R)シグナル伝達経路を含む。一実施形態において、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、IGF1Rシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、インスリン成長因子1(IGF1)が挙げられる。加えて、または代替的に、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、IGF1Rシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、IGF1R受容体が挙げられる。
【0095】
上記の点を考慮すると、本明細書の予測方法は、細胞応答の予測、例えば、IGF1Rシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする治療薬に対するコンピュータで生成された腫瘍応答の予測を可能にする。好適な実施形態において、治療薬は、IGF1Rに結合する抗体であり、その例としては、mAb391(Hailey,J.et al.(2002)Mol.Cancer.Ther.1:1349−1353)、IMC−A12(Imclone Systems,Inc.)、19D12(Schering Plough)、H7C10(Goetsch, L.et al.(2005)Int.J.Cancer 113:316−328)、CP751,871(Pfizer)、SCV/FC(ImmunoGen,Inc.)、およびEM/164(ImmunoGen,Inc.)が挙げられる。好適な実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体に連結された抗IGF1R抗体を含む、二重特異性抗体である。このような二重特異性抗体の例は、PCT公報公開第WO2005/117973号および第WO2006/091209号にさらに記載されている。別の実施形態において、治療薬は、IGF1R(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤)の小分子阻害剤であり、その例としては、NVP−AEW541(Novartis)、NVP−ADW742(Novartis)、NVP−TAE226(Novartis)、BMS−536,924(Bristol−Myers Squibb)、BMS−554,417(Bristol−Myers Squibb)、ピクロポドフィリン(PPP)(Menu,E.et al.(2006)Blood 107:655−660)等のシクロリグナン、およびPQ401(Gable,K.L.et al.(2006)Mol.Cancer Ther.5:1079−1086)が挙げられる。
【0096】
また別の実施形態において、治療薬は、複数の治療薬の組み合わせを含み、該組み合わせは、上述のErbB経路薬剤の少なくとも1つを含む薬剤の組み合わせ等の、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤を含む。例えば、組み合わせ薬剤は、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする2つ以上の薬剤を含むことができる。代替的に、組み合わせ薬剤は、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤と、c−MetまたはIGF1Rシグナル伝達経路等の別のシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤とを含むことができる。
【0097】
様々な他の実施形態において、細胞ネットワークは、c−Metシグナル伝達経路と組み合わせたErbBシグナル伝達経路、またはIGF1Rシグナル伝達経路と組み合わせたErbBシグナル伝達経路等の、2つ以上のシグナル伝達経路の組み合わせを含む。
【0098】
本明細書に提供される予測方法の別の実施形態において、このような方法は、細胞試料において、細胞中の1つ以上の遺伝子の変異状態を決定する手順をさらに含むことができる。好ましくは、KRAS(カーステンラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ)、PI3K、およびPTENから選択される、少なくとも1つの遺伝子の変異状態が決定される。加えて、または代替的に、本方法は、KRAS、PI3K、およびPTENから選択される少なくとも1つの遺伝子の変異状態等の、細胞中の1つ以上の遺伝子の変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取るコンピュータシステムを含むことができる。
【0099】
予測方法の別の実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含み、(a)は、BTCおよびARを測定する、および/またはその測定されたレベルを入力することを含み、本方法はさらに、KRAS遺伝子の変異状態を決定すること、またはその変異状態を入力することを含む。別の実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含み、(a)は、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、BTC、AR、HB−EGF、EGF、TGFα、EPG、およびEPRを測定する、および/またはその測定されたレベルを入力することを含み、本方法はさらに、KRAS遺伝子の変異状態を決定すること、またはその変異状態を入力することを含む。これらの実施形態において好ましくは、(b)において計算されたNASは、ErbBシグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする。別の好適な実施形態において、(b)において計算されたNASは、患者の腫瘍試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。また別の好適な実施形態において、(b)において計算されたNASは、患者の腫瘍試料中のリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0100】
上述の特定の方法内で、治療薬に対する複数の既知の応答細胞および非応答細胞のそれぞれにおいて計算されたNAS値またはNIS値は、閾NAS値またはNIS値を設定するために使用され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。別の方法において、治療に対する細胞の応答は、(b)において計算されたNASまたはNISを、NASまたはNISの閾値と比較することにより予測され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。
【0101】
V.ErbB経路阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカーおよび方法
別の態様において、本発明は、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答性を予測する直接的バイオマーカーを提供する。このようなバイオマーカーは、本明細書で提供される計算モデルを使用して特定することができる。このようなバイオマーカーを特定するための方法は、概して、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定することと、(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、(ii)計算されたレベルが治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を特定することにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するバイオマーカーとしての構成要素を特定することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用することとを含む。
【0102】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための特定の方法は、
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取ることと、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、
(c)前記計算システムが、計算されたレベルにより治療薬を用いた治療に対する細胞の応答が予測される細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、該構成要素を、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーとして特定することと
を含む。
【0103】
例えば、実施例10に図示されるように、計算モデルは、1つ以上のNAS値(細胞ネットワークの活性化の測定として)を取得するために、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の1つ以上の構成要素のレベルを計算するために使用され得、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答とNASとの相関が決定され得る。計算されたレベルが試料を応答株および非応答株に分ける、細胞ネットワークのこれらの構成要素も、特にこれらの構成要素が、直接的手段によって容易に測定可能である時、治療に対する応答を予測するための直接的バイオマーカーとして使用され得る。つまり、本明細書に記載される計算モデル/NASアプローチは、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答性を予測する(計算された)構成要素を特定するために使用され得、次いで、構成要素が特定されると、これらは、応答性を予測するための直接的バイオマーカーとして、直接的に測定され得る。例えば、本明細書に記載される計算モデルは、ErbBシグナル伝達経路のホモダイマーおよびヘテロダイマーのレベルを計算するために使用され、次いで、試料を応答株および非応答株に分けるこれらのダイマーは、腫瘍治療の応答性を予測するための直接的バイオマーカーとして、直接的に測定され得る。
【0104】
さらに、実施例8に記載するように、腫瘍試料中の(i)HRGおよび(ii)少なくとも1つのErbBファミリー受容体(例えば、ErbB1、ErbB2、およびErbB3)のレベルの組み合わせ測定が、抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6)等のErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性に関して、腫瘍を、応答株または非応答株に効率的に分類することが実証されている。さらに、実施例10にさらに記載するように、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベル、またはリン酸化ErbB1/ErB3ヘテロダイマーのレベルは、抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6)等の、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性の直接的マーカーとしての役割を果たすことができる。さらに、実施例12にさらに記載するように、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、およびErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルは、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体(例えば、H3×B1D2)等の、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性に関して、腫瘍を、応答株または非応答株に効率的に分類する。
【0105】
上記のように、本発明は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法を提供する。特定のこのような方法は、
(a)(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを、細胞試料において測定することと、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測し、対照と比較したHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測することとを含む。
【0106】
特定の状況において、HRGおよびErbB1のレベルが測定される。他の場合において、HRGおよびErbB2のレベルが測定されるか、またはHRGおよびErbB3のレベルが測定される。他の状況において、HRG、並びにErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも2つの受容体のレベルが測定されるか、またはHRG、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルが測定される。特定の状況において、予測は、
(i)計算システムが、細胞試料においてそのレベルが測定される(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定レベルを特定する入力を、入力デバイスを通して受け取ることと、
(ii)前記計算システムが、測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示することと
を含む方法を使用して計算的に実施されてもよく、ここで、対照と比較したHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0107】
応答性が予測される好適な治療薬は、抗ErbB3抗体、より好適には、Ab#6(配列番号1および2に示される、それぞれVHおよびVL配列)、または配列番号7〜9(VH CDR1、2、3)および10〜12(VLCDR1、2、3)に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗ErbB3抗体を含む。
【0108】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための他の方法は、
(a)ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上のレベルを、細胞試料において測定することと、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測することと
を含み、ここで、対照と比較したErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0109】
予測は、
(i)計算システムが、細胞試料においてそのレベルが測定される、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を受け取ることと、
(ii)前記計算システムが、測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示することと
を含む方法を使用して、計算的に実施されてもよく、ここで、対照と比較したErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0110】
上記方法の特定の実施形態内において、測定されたレベルは統計分類アルゴリズムに入力され、治療に対する細胞の応答は該アルゴリズムの出力に基づき予測される。さらなるこのような方法において、ネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用した測定レベルに基づき計算され、好ましくは、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答は、NAS値またはNIS値に基づき予測される。
【0111】
特定の実施形態内において、測定されたレベルは、ErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルであり、治療薬は、上述の、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体である。
【0112】
上記方法で使用するための好適な細胞は、上記に列挙されるものを含む、腫瘍細胞である。試料は、腫瘍組織、微細針吸引液、乳頭吸引液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿、またはそこから単離された、脱離または循環腫瘍細胞を含む。
【0113】
上記のように、測定されたレベルは、タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)のレベル、またはmRNAレベルであり、一般的に、上述のように決定することができることは明らかである。
【0114】
上記方法はいずれも、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、(例えば、治療薬についての)治療レジメンを選択することをさらに含み、かつ/または予測される応答に基づき、使用するための治療薬を調製することをさらに含んでもよい。
【0115】
好適な実施形態において、対照と比較したレベルの差異は、レベルの上昇である。上記の方法は、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答性に基づき、該治療薬を用いて、細胞、または該細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0116】
ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよび/またはリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルが測定される実施形態において、好ましくは、応答性が予測される治療薬は、抗ErbB3抗体、より好ましくは、Ab#6(配列番号1および2に示されるそれぞれVHおよびVL配列を有する)、または配列番号7〜9(VHCDR1、2、3)および10〜12(VLCDR1、2、3)に記述される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗ErbB3抗体である。
【0117】
ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルが測定される実施形態において、応答が予測される治療薬は、好ましくは、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体、より好ましくは、二重特異性抗体H3×B1D2(配列番号41に示されるアミノ酸配列)またはB1D2(配列番号48〜50および51〜53)のCDRを含む抗ErbB2抗体に連結された、H3(配列番号42〜44および45〜47)のCDRを含む抗ErbB3抗体を含む二重特異性抗体である。
【0118】
受容体ホモダイマーもしくはヘテロダイマー、またはリン酸化受容体ホモダイマーもしくはヘテロダイマーのレベルは、当該分野において知られている方法を使用して、細胞試料において測定され得る。例えば、このようなホモダイマーまたはヘテロダイマーは、米国特許第7,105,308号、米国特許第7,255,999号、米国公開第20040229380号、および米国公開第20080187948号に記載されるもの等、二量体化検出法を使用して測定され得る。これらの方法は、1つがタグ付けされたプローブで、1つが切断プローブである、対のプローブ(例えば、抗体)を利用し、それぞれのプローブは、ダイマーの1構成要素に特異的に結合する。2つのプローブをダイマーに結合することにより切断を引き起こし、ダイマー複合体を分子タグから解放することにより、ダイマー複合体形成の尺度を提供する。このような試験法は、本明細書において、近似基準法とも称され、その商業的に入手可能な例としては、VeraTag(登録商標)system(Monogram Biosciences)が挙げられる。代替的に、ダイマー内の構成要素の共免疫沈降法、並びにフェルスター共鳴エネルギー転移ベースの方法および蛍光タンパク質再構成法(BiFC)(例えば、Tao,R.H. and Maruyama,I.N.(2008)J.Cell Sci.121:3207−3217にさらに記載される)等の他の近似基準法の使用を含むが、これらに限定されない、当該分野において知られているダイマーレベルを定量化するための他の方法が使用され得る。
【0119】
上記の直接的バイオマーカー法の一実施形態において、(a)で測定されたレベルは、計算システムに格納されている統計分類アルゴリズムに入力され、治療に対する細胞の応答は、アルゴリズムおよび測定されたレベルを使用して、計算システムでのデータの計算および変換に基づくアルゴリズムの出力に基づいて、予測される。別の実施形態において、ネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用して、(a)で測定されるレベルに基づき計算される。治療薬を用いた治療に対する細胞の応答は、計算されたNAS値またはNIS値に少なくとも部分的に基づき予測され得る。
【0120】
様々な実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体、抗ErbB1抗体、抗ErbB2抗体、抗ErbB4抗体、汎ErbB阻害剤、HER二量体化阻害剤、およびErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤の1つ以上の任意の組み合わせを含み、そのそれぞれは、上で説明および例示される。
【0121】
VI.治療における方法の使用
本発明の方法は、疾患に関与する細胞ネットワークの1つ以上の構成要素を標的とする治療薬が使用可能である、広範な疾患における治療の有効性の予測に使用され得る。さらにまた、本発明の方法は、疾患に罹患している対象の治療レジメンの選択に使用され得、該方法は、選択された治療レジメンに従い対象を治療することをさらに含むことができ、これは、対象に1つ以上の治療薬を投与することを含むことができる。疾患の例としては、癌、自己免疫疾患、および炎症性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明の方法は、例えば、治療薬を用いた治療に対する腫瘍の応答を計算的に予測する、すなわち、腫瘍をもつ患者の治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する、予測に特に有用である。予測方法は、当該方法においてモデル化される、シグナル伝達経路に依存する任意の腫瘍で使用され得る。例えば、一実施形態において、方法は、ErbBシグナル伝達経路(例えばErbB3シグナル伝達経路)に依存する腫瘍で使用される。他の実施形態において、方法は、c−MetまたはIGF1Rシグナル伝達経路に依存する腫瘍で使用され得る。好適な実施形態において、腫瘍は、結腸癌腫瘍である。別の好適な実施形態において、腫瘍は、非小細胞肺癌(NSCLC)腫瘍である。別の実施形態において、腫瘍は、固形腫瘍である。別の実施形態において、腫瘍は、明細胞肉腫等の非固形腫瘍である。様々な他の実施形態において、腫瘍は、例えば、肺、結腸、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、頭頚部、甲状腺、および筋肉から選択される組織の腫瘍であり得る。また他の実施形態において、腫瘍は、胃腸腫瘍、胃腫瘍、または口腔/咽頭腫瘍である。
【0123】
予測方法を実施するために、細胞試料、例えば、腫瘍細胞を患者から取得する。例えば、腫瘍の好適な試料は、腫瘍組織の試料である。腫瘍組織試料は、腫瘍の生検、または腫瘍の外科的摘出等の、標準的な方法により取得され得る。腫瘍組織の新鮮な凍結試料が使用され得、または代替的に、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料も、使用に適している。腫瘍からの他の種類の試料も、本方法で使用するために適している可能性があり、該試料は、腫瘍からの細胞、および/または腫瘍により分泌された細胞構成要素を含有する。腫瘍の他の種類の試料の非限定的な例としては、微細針吸引液、乳頭吸引液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿、またはそこから単離された、脱離または循環腫瘍細胞が挙げられる。
【0124】
好適な実施形態において、本発明は、治療薬を用いた治療に対する癌患者の応答を予測する方法を提供し、該方法は、患者の腫瘍が、特定の治療的処置に応答する可能性についての迅速な情報を提供するために、診断検査室によって簡便にかつ迅速に行われ得る。この予測方法において、新鮮な凍結試料またはFFPE保存組織試料等の腫瘍試料が患者から取得され、腫瘍の受容体/リガンドレベルが、半定量的免疫組織化学検査(IHC)を介して測定される。測定に選択される受容体およびリガンドは、治療薬が、どの細胞ネットワークを標的にするかに基づく(例えば、ErbB経路において、以下のリガンド/受容体が測定され得る:HRG、BTC、ErbB1、ErbB2、およびErbB3)。半定量的IHC測定値は、その後、患者の試料と比較するために、既知の受容体およびリガンド発現レベルを用いた細胞プラグまたは異種移植片を含有する対照スライドを使用して、濃度に変換される。特定の状況において、対象の1つ以上の遺伝子(例えば、PI3K、PTEN)の変異状態は、標準的な遺伝子型決定方法を使用して、試料において決定することができる。次に、データセット(リガンドおよび受容体の濃度、決定された場合、遺伝子変異状態)は、対象の細胞ネットワークの計算モデルに入力され、ネットワーク活性化状態(NAS)が計算される。次いで、治療薬に対する応答性の予測が、計算されたNAS値と、応答株および非応答株についてのNAS閾値との比較に基づき行われ得る。タンパク質濃度および変異データの計算モデルへの入力、その後のNASおよび予測される応答の出力のためのウェブベースのアプリケーションの使用は、診断検査室が、治療薬を用いた治療に対する腫瘍の応答の可能性の知識をほぼ即時に取得することを可能にする。
【0125】
本明細書に記載する本発明の予測方法のいずれかにおいて、本方法を使用して、治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答が、予測された後、本方法はさらに、治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の予測される応答に基づき、対象の治療レジメンを選択することを含むことができる。例えば、方法は、治療に対する細胞の計算的に予測される応答に基づき、対象の治療レジメンを表示し、手動または自動的に推奨および/または選択する計算システムをさらに含むことができる。さらにまた、治療レジメンが細胞の予測される応答に基づき推奨または選択されると、本発明の方法は、対象に1つ以上の治療薬を投与することを含むことができる、推奨された、または選択された治療レジメンに従い、対象を治療することをさらに含むことができる。
【0126】
また、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答を予測するためのキットも、本明細書で提供する。このようなキット1つは、(a)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための1つまたは複数の試験法と、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための説明書と、(c)治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットの使用説明書とを含む。追加の実施形態において、キットは、NASまたはNISを計算するための統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含むことができる。
【0127】
細胞ネットワークは、例えば、ErbBシグナル伝達経路、c−Metシグナル伝達経路、またはIGF1Rシグナル伝達経路であり得る。治療薬は、例えば、これらの経路内のいずれかの構成要素を標的とする、上述の治療薬のいずれかであり得る。
【0128】
一実施形態において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための手段は、構成要素、例えば、1つ以上の抗体試薬等の、タンパク質レベルの検出を可能にする1つ以上の試薬である。別の実施形態において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための手段は、構成要素、例えば、1つ以上の核酸試薬(例えば、核酸プローブ、PCRプライマー等)等の、mRNAレベルの検出を可能にする1つ以上の試薬である。細胞構成要素のタンパク質またはmRNAのレベルを検出するこのような試薬は、当業者に周知である。レベルを検出するためのこのような手段は、タンパク質レベルを測定するように構成された計算デバイスも含むことができる。
【0129】
細胞構成要素のタンパク質レベルを検出するために適した試験法は、定量的蛍光活性化細胞選別法(qFACS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA, Luminex)、免疫組織化学検査(IHC)、定量的免疫組織化学検査(qIHC)、質量分析法、およびウエスタン(免疫ブロット)法等の、本明細書に記載されるものを含む。細胞構成要素のmRNAレベルを検出するために適した試験法は、例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法およびノーザンブロット分析を含む。細胞ネットワークの1つ以上の構成要素を検出するための手段は、例えば、構成要素のレベルを評価するために試験法で使用するための緩衝剤または他の試薬も含むことができる。キットは、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための試験法を実施するための説明書(例えば、ラベルまたは添付文書等の印刷された説明書)を含むことができる。
【0130】
好適な実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路であり、キットは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、HRG(including HRG−β1を含む)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRから選択されるErbBシグナル伝達経路の1つ以上の構成要素(例えば、1つ以上の受容体、受容体ホモダイマー、受容体ヘテロダイマー、および受容体リガンド)のレベルを検出するための手段を含む。より好適には、キットは、少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路受容体(例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4)、および少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路試薬(例えば、HRG、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPR)のレベルを検出するための手段を含む。例えば、一実施形態において、キットは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTCのレベルを検出するための手段を含む。別の実施形態において、キットは、ErbB1およびHRGのレベルを検出するための手段を含む。また別の実施形態において、キットは、ErbB1、ErbB2、およびErbB3を検出するための手段を含む。また他の実施形態において、キットは、ErbB2モノマー、ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーを検出するための手段を含む。
【0131】
細胞ネットワークの計算モデルを使用して細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための手段は、例えば、命令が実行されると、細胞のNASまたはNISを計算するための動作をプロセッサに実行させるための実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品であり得る。代替的に、NASまたはNISを計算するための手段は、例えば、細胞中の細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルについての情報をユーザが入力して、細胞のNASまたはNISを計算することができるコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとのインターフェース接続を可能にする構成要素であり得る。このような構成要素は、例えば、インターフェース、ウェブページ、および/またはインターネットベースのサービスにアクセス可能なパスワード、並びに、説明書、例えば、サービスを使用するための印刷された説明書を含むことができる。当該分野において確立され、また本明細書でさらに記載されるコンピュータシステムおよびソフトウェアは、本発明のキットにおける使用に適合し得る。図16で参照される計算デバイスおよび計算構成要素は、計算プロセッサ、測定および入力デバイス、出力デバイス等の、NASまたはNISを計算するための手段も含むことができる。
【0132】
治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットを使用するための説明書は、コンピュータ上の説明書およびコンピュータインターフェース、並びに印刷出版物およびマニュアルを含むことができる。いくつかの状況において、キットは、一緒に梱包される。他の実施形態において、キットの様々な構成要素は、異なる場所で維持される。例えば、構成要素の一部は、1つ以上の遠隔計算システム上に維持、格納、またはホストされ得、ネットワーク接続によってのみ利用可能である。
【0133】
好ましくは、本発明のキットは、腫瘍を有するヒト患者等の、ヒト対象での使用のために設計される。このような状況において、細胞は、典型的には、生検または腫瘍の摘出により患者から得られた細胞である。
【0134】
VII. 治療方法およびキット
悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法を提供する。概して、このような方法は、患者から腫瘍試料(例えば、生検材料または摘出試料)を得ることと、試料中の1つ以上のバイオマーカーのレベルを決定することと、試料中のバイオマーカーのレベルが、例えば、バイオマーカーのレベルが最小レベルを超える等の、予め決定された特性に一致する場合、患者に治療薬を投与することとを含む。このような方法は、任意の固形腫瘍に適用される。適切な腫瘍試料は、一般的に上述の通りである。特定の実施形態において、バイオマーカーは、ErbB受容体タンパク質である。
【0135】
特定の実施形態において、このような方法は、腫瘍試料を得ること、試料中のpErbB3のレベルを試験すること、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与することを含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、無血清培地で約20〜24時間培養した後、ACHN細胞(腎癌細胞、ATCC番号CRL−1611)の培養物において試験されたpErbB3のレベルの25%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%(好ましくは、50%)である、最小レベル以上である場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、最小レベルより低い場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない。ACHN細胞の好適な培養物は、例えば、継代8ACHN細胞等の、9回を超えて継代されなかったものである。このような実施形態のさらなる態様において、バイオマーカーはpErbB3であり、治療薬は抗ErbB3抗体であり、最小レベルは、ACHN異種移植片腫瘍モデルからの腫瘍細胞で観察された40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%のレベルである。またさらなる態様において、最小レベルは、0.064pg/μg総タンパク質、0.08pg/μg総タンパク質、0.096pg/μg総タンパク質、0.122pg/μg総タンパク質、0.128pg/μg総タンパク質、0.144pg/μg総タンパク質、または0.16pg/μg総タンパク質である。
【0136】
前述の実施形態において、試料中のpErbB3のレベルは、特定の態様において、(a)試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも2つの構成要素を測定すること、(b)ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルに入力された(a)で測定されたレベルを使用して、試料中のpErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態(NAS)を計算すること、および(c)そこから試料中のpErbB3のレベルを決定することにより、決定され得る。特定の実施形態において、ErbB3シグナル伝達経路の少なくとも3つ、4つ、5つ、または6つの構成要素のレベルが、(a)で検出される。ErbB3シグナル伝達経路の好適な構成要素は、例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4(およびErbBタンパク質のホモダイマーおよびヘテロダイマー)、HRG(例えば、HRG−β1)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRを含む。これらの構成要素は、タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)として、または適用可能な場合(例えば、総タンパク質レベルが、リン酸化状態に関わらず測定されるが、例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーにおけるリンタンパク質レベルが測定されることがない場合)、タンパク質をコードするmRNAとして試験されてもよい。適切な試験法は、当該分野において周知であり、本明細書に記載されるものを含む。
【0137】
さらなる態様において、pErbB3のレベルを決定するための方法は、NASの計算に使用されるErbB3シグナル伝達経路の計算モデルを生成するために、統計分類アルゴリズムを適用することをさらに含む。さらなる実施形態において、計算されたNASは、試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよび/またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0138】
本発明において使用するための抗ErbB3抗体は、参照により本明細書に援用される国際公開第WO2008/100624号として公開された国際特許出願第PCT/US2008/002119号に開示される抗ErbB3抗体を含むが、これに限定されない。そこに開示された特に好適な抗体は、現在、MM−121として知られ、これは、現在、第I相臨床試験中である。好適な抗ErbB3抗体は、上述の抗ErbB3抗体も含む。本明細書に開示される方法で使用されてもよい別の抗ErbB3抗体は、U3−1287(AMG888)(U3 Pharma AG and Amgen)であり、これは、現在、第I相臨床試験中である。
【0139】
本明細書に記載される治療に適した腫瘍は、一般的に上述の通りである。代表的な腫瘍は、結腸、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される器官である。いくつかの態様において、ErbB3陽性腫瘍、またはErbB2およびErbB3陽性腫瘍(例えば、胸部腫瘍および非小細胞肺癌腫瘍)が好ましい。
【0140】
抗腫瘍性治療薬は、任意の適切な形態で、患者に投与されうる。典型的には、治療薬は、生理学的に受容可能な担体と組み合わせた治療薬を含む、医薬組成物の形態で提供される。所望する場合、他の活性成分または不活性成分も、医薬組成物内に含まれてもよい。
【0141】
本明細書で使用される、「生理学的に受容可能な」という用語は、動物、より具体的にはヒトでの使用において、米連邦または州政府規制機関(例えば、U.S.FDAまたはEMEAA)に承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方に掲載されていることを意味する。「担体」という用語は、抗腫瘍性治療薬と共に製剤化されて投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。生理学的に受容可能な担体は、静脈内投与または他の非経口投与に好適な担体である、水性溶液等の減菌液であり得る。生理食塩水溶液、および水性デキストロース並びにグリセロール溶液は、注入溶液の水性担体の例である。好適な医薬賦形剤は、例えば、澱粉、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、およびエタノールを含む。組成物は、所望する場合、少量の湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、または防腐剤も含有することができる。
【0142】
医薬組成物は、予防的および/もしくは治療的処置のための、経皮手段による投与等の、例えば、非経口、鼻腔内、局所、経口、または局所的投与を含む、任意の適切な手段の投与用に製剤化されてもよい。適切な医薬投与形態および担体の例は、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」,A.R.Gennaro,ed.Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(21sted.,2005)に記載されている。
【0143】
通常、本明細書に提供される方法に使用される医薬組成物は、非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、または皮下注入によって)に投与される。非経口投与において、抗腫瘍性治療薬は、担体に懸濁されるか、溶解されるかのいずれかであり得る。水、緩衝水、生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水等の、減菌水性担体が、一般的には好ましい。加えて、減菌された固定油が、溶剤または懸濁媒体として利用されてもよい。この目的において、合成モノグリセリドまたはジグリセリトを含む、任意の無刺激性固定油が利用されてもよい。加えて、オレイン酸等の脂肪酸は、注入用組成物の調製において有用である。pH調節および緩衝剤、浸透圧調整剤、分散剤、懸濁剤、湿潤剤、界面活性剤、防腐剤、局所麻酔剤、並びに緩衝剤等の医薬的に受容可能な補助物質も、生理学的状態に近づけるために含まれてもよい。
【0144】
好適な一実施形態において、医薬組成物は、患者(例えば、ヒト)への静脈内投与用に製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、減菌された等張水性緩衝剤の溶液である。必要ならば、組成物は、可溶化剤も含んでもよい。成分は、例えば、アンプル等の気密封入容器中の乾燥凍結乾燥粉末、または無水濃縮物等の、単位用量形態で、別個に、または一緒に混合されるかのいずれかで供給されてもよい。組成物が点滴により投与される場合、減菌された医薬品グレードの水または生理食塩水を含む点滴ボトルを用いて投薬され得る。組成物が注入により投与される場合、投与前に材料を混合するように、注入用減菌水または生理食塩水が提供され得る。
【0145】
医薬組成物は、従来の減菌技法により減菌されるか、または減菌濾過されてもよい。減菌水性溶液は、そのまま使用するように梱包されるか、または凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥された調製物は、投与前に減菌水性担体と混合される。水性医薬組成物のpHは、典型的には、3から11の間、より好ましくは、5から9の間、または6から8の間、最も好ましくは、7〜7.5等の7から8の間である。
【0146】
治療薬は、一般的に、患者への単一用量の投与が治療有効量を送達する濃度で、医薬組成物内に存在する。治療有効量は、腫瘍成長の遅延もしくは停止、または好ましくは腫瘍サイズの減少等の、認識できる患者の利益をもたらす量である。治療有効量は、用いられる抗腫瘍性治療薬の活性、患者の年齢、体重、全身状態、性別および食生活、投与時間および経路、排出速度、複合薬等の任意の同時治療、および治療を受ける患者の組織損傷の種類および重篤度を含む、様々な要因により影響される。最適な用量は、当該分野において周知の通常の試験および手順を用いて確立され得る。概して、1日当り、週当り、または2週間に1回、体重1キログラムにつき約1mg〜約100mgの範囲の用量レベルを提供する組成物が好ましい。好適な用量範囲およびレジメンの非限定的な例は、1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、2週間に1回、または3週間に1回投与される2〜50mg/kg(対象の体重)、および1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、または2週間に1回投与される1〜100mg/kgを含む。様々な実施形態において、治療薬は、1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、2週間に1回、または3週間に1回のタイミングで、3.2mg/kg、6mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、または40mg/kgの用量で投与される。さらなる用量範囲は、1〜1000mg/kg、1〜500mg/kg、1〜400mg/kg、1〜300mg/kg、および1〜200mg/kgを含む。適切な投与スケジュールは、3日に1回、5日に1回、7日に1回(すなわち、1週間に1回)、10日に1回、14日に1回(すなわち、2週間に1回)、21日に1回(すなわち、3週間に1回)、28日に1回(すなわち、4週間に1回)、および1ヶ月に1回を含む。
【0147】
好ましくは、治療薬(例えば、抗ErbB3抗体)は、治療薬の製造者または供給者により提供される処方情報の指示に従い、患者に投与される。
【0148】
悪性腫瘍を有する患者の治療に使用するためのキットもまた提供される。特定のこのようなキットは、典型的に、(a)試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも1つの構成要素のレベルを検出するための少なくとも1つの試験法と、(b)少なくとも1つの試験法から得たデータを用いて入力された、ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルを使用して、pErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態(NAS)を計算するための説明書とを含む。特定の実施形態において、このようなキットは、統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含む。特定の実施形態において、キットは、抗ErbB3抗体も含む。試験法は、典型的には、少なくとも1つのタンパク質構成要素、または少なくとも1つのmRNA構成要素の検出を可能にする、1つ以上の試薬を含む。特定の実施形態において、NASを計算するための説明書は、コンピュータにより命令が実行されると、プロセッサにNASを計算するための動作を実行させるための、実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品の使用を指示することを含み、このような実施形態において、ユーザは、ローカルコンピュータ上でコンピュータプログラムを作動するように指示されるか、またはユーザは、遠隔でコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとインターフェース接続するように指示されてもよい。
【0149】
さらなる実施形態内において、患者の腫瘍生検材料におけるpErbB3レベルが特定の最小値を超える場合には、抗ErbB3抗体が患者に投与され、pErbB3のレベルが特定の最小値を超えない場合には、抗ErbB3抗体が、患者に投与されないことを示す説明書(例えば、添付文書等の、例えばラベル貼付の形態で)と抗ErbB3抗体とを含むキットを提供する。例えば、このような説明書は、試料において決定されたリン酸化ErbB3のレベルが、無血清培地で約20〜24時間培養した後のACHN腎癌細胞(ATCC番号CRL−1611)の培養物において測定されたリン酸化ErbB3のレベルの50%以上の場合には、抗ErbB3抗体が、悪性腫瘍を有する患者に投与され、試料において測定されたリン酸化ErbB3のレベルが、ACHN腎癌細胞の培養物において測定されたリン酸化ErbB3のレベルの50%より低い場合には、抗ErbB3抗体が、悪性腫瘍を有する患者に投与されないことを示してもよい。
【0150】
VIII.計算実施形態
上述のように、および本明細書に提供される開示から容易に明らかであるように、本発明の実施形態の多くは、限定されないが、患者の応答の予測、推奨される治療の生成、バイオマーカーの特定、NAS値またはNIS値の計算、シグナル伝達経路の計算モデルの取得等を含む、上述の様々なプロセスを実施するための1つ以上の計算システムを用いる。
【0151】
図15Aおよび15Bは、本発明の特定の実施形態の実施中に、1つ以上の計算システムにより実行され得る、いくつかのプロセスのフローチャートを図示する。例えば、示すように、計算システムは、腫瘍の細胞ネットワークにおける構成要素の測定されたレベルの入力および腫瘍遺伝子の変異状態を測定および/または受け取るために用いられ得る。計算システムは、例えば、ローカルまたは遠隔のソースから計算モデルを受信、ダウンロード、構築、修正、訓練、および/またはアクセスすることにより取得され得る計算モデルを得るためにも使用され得る。
【0152】
計算モデルが得られると、1つ以上の計算システムは、例えば、細胞中のリン酸化タンパク質、ホモダイマー、および/ヘテロダイマーの関連レベルをシミュレーションすること等により、細胞のNASまたはNISを計算する。計算モデルはまた、計算システムで受け取ったユーザ設定に基づき、細胞ネットワークにおける追加の関連構成要素の特定を通して、予測バイオマーカーを特定するために、計算システムによって使用され得る。
【0153】
計算システムは、特定プロセスの一部として、計算システムにより受け取られ、構築され、および/または修正され得、また治療に対して予測される患者の応答を生成するため、並びに/または推奨される治療を生成および選択するために、NASまたはNISデータ、他のバイオマーカーデータ、および患者のデータとの様々な組み合わせで使用され得る、統計分類アルゴリズムを特定するためにも使用され得る。
【0154】
図15Aおよび15Bのフローチャートに図示される要素は、本発明の計算プロセスを実施するために提案されるある配列または順序を表すが、図15Aおよび15Bに図示するプロセスは、異なる順序を有する配列でも実施され得ることを理解されたい。例えば、推奨される治療は、計算モデルの生成またはNASもしくはNISの計算前に特定され得、これは、計算モデルの構築において使用することができる。同様に、タンパク質レベルの測定は、計算モデルの生成前または後に行なうことができる。
【0155】
本発明の一部として追加のプロセスを実施することができるため、本発明は、フローチャートに図示されるプロセスを含む方法にのみに限定されないことも理解されたい。例えば、本発明は、患者の情報(例えば、年齢、性別、既往歴)を得るため、および推奨される治療の実際の結果を追跡するためのプロセス、並びに他のプロセスも含むことができる。
【0156】
本発明のプロセスを遂行するために使用される計算システムは、異なる場所で、異なる種類の、1つ以上の異なる計算システムを含むことができることも理解されたい。
【0157】
図16は、本発明の特定の態様を実施するために使用され得る計算システムの一例を図示する(例えば、図15Aおよび15Bに図示される少なくともいくつかのプロセス、並びに本明細書全体を通して記載されるものを含む)。図示されるように、計算システムは、様々な入力デバイス、出力デバイス、計算モジュール、処理構成要素、および記憶媒体を含む。入力デバイスは、キーボード、マウスデバイス、タッチパッド、タッチスクリーン、マイクロホン、並びに任意の他の入力デバイスを含むことができる。出力デバイスは、スピーカ、ディスプレイスクリーン、印刷デバイス、スイッチ、並びに他の出力デバイスを含むことができる。計算モジュールは、本明細書に記載される機能を実施するために必要な様々なモジュールを含み、それには、計算モデルを受け取り、構築するためのモジュール、NASまたはNISを計算するためのモジュール、予測バイオマーカーを特定するためのモジュール、構成要素の測定されたレベルを取得、認識、および保存し、変異遺伝子状態を特定し、決定するためのモジュール、統計分類アルゴリズムを特定し、適用するためのモジュール、治療に対して予測される応答を生成するためのモジュール、推奨される治療を生成し、選択するためのモジュール、ユーザおよび1つ以上の他のデバイスとインターフェース接続するための通信モジュール、並びに本明細書に記載される様々な他のプロセスを実施するためのモジュールが含まれる。
【0158】
計算システムは、前述のモジュールを実行するために必要な1つ以上のプロセッサおよび他の処理構成要素、並びに、前述のモジュール並びに様々なデータ構造、計算モデル、および本明細書に記載される他のデータを格納するための記憶媒体も含む。記憶媒体は、計算システムにローカル接続しているように図示されているが、記憶媒体は、計算システムから遠隔に位置するか、または計算システムに部分的にのみローカル接続であってもよいことを理解されたい。例えば、いくつかの場合において、記憶媒体は、複数の異なる計算システム内で共有され、複数の計算システムに位置する格納スペースを含む、分散記憶を表す。記憶媒体は、持続性メモリおよび揮発性メモリの任意の組み合わせも含むことができる。
【0159】
図16は、計算システムが、測定デバイス、遠隔に位置するコンピュータ、遠隔サービス、および遠隔ネットワークを含む、1つ以上の他のデバイスにネットワーク接続可能であることも図示する。いくつかの場合において、1つ以上のこれらの他のデバイスは、本明細書に記載される1つ以上のプロセスを実施するため、いくつかの方法の実行は、複数の分散された計算システムおよびデバイスを含む、分散ネットワーク環境で実施される。
【0160】
前述の点を考慮して、本発明の範囲は、様々な異なる計算構成で実施され得ることを理解されたい。
【実施例】
【0161】
IX.実施例
本発明は、以下の非限定的な実施形態によりさらに説明される。本明細書に参照される米国、国際、または他の特許もしくは特許出願または公開のそれぞれの、および全ての開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0162】
実施例1:Ab#6を用いた異種移植片の有効性試験:訓練データセット
この実施例において、4つの異種移植片モデルが、抗ErbB3抗体Ab#6を用いた処理に対して応答する腫瘍細胞株を特定するために使用された。試験された4つの異種移植片腫瘍モデルは、異なる兆候を表す:MALME3M(メラノーマ癌株;ATCC番号HTB−64)、ADRr(卵巣癌細胞株;NCI−60、Cosmic試料ID番号905987)、ACHN(腎癌細胞株;ATCC番号CRL−1611)、およびDU145(前立腺癌細胞株;ATCC番号HTB−81)。以下にさらに詳細に記載するように、MALME3MおよびADRr異種移植片は、Ab#6を用いた処理に対する応答を示さなかったが、ACHNおよびDU145異種移植片は、Ab#6処理に対する応答を示した。
【0163】
異種移植片腫瘍モデルにおいて、マウス(nu/nuマウス:3〜4週齢の雌のマウス、T細胞欠損;非近交;白色種素性背景;Charles River Labs,Wilmington,MAから購入)の右脇腹に、皮下注入を介して、200μlの3.5×106〜3×108細胞/マウス(細胞株による)を移植した。初期腫瘍成長について、マウスをモニタリングした。腫瘍細胞は、腫瘍量が約200mm3になるまで、数日間成長させた。腫瘍量は、V=(π/6(L×W2)のように計算される。Ab#6抗体を用いて、600μg/注入の用量で、3日ごと(qd3)にマウスを処理する。対照マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で処理する。
【0164】
腫瘍量は、60〜80日間測定される。腫瘍成長における抗体治療の効果の結果(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)は、図1A〜1Dに示すグラフに要約され、これは、Ab#6処理が、DU145およびACHN異種移植片モデルにおいて、腫瘍の成長を阻害し、一方、Ab#6処理は、ADRrおよびMALME3M異種移植片モデルにおいて、腫瘍成長を(PBS対照と比較して)阻害しなかったことを示す。
【0165】
Ab#6に対する腫瘍の応答性の測定として、実験的データを最も良く描写する、指数関数的成長率を決定する。指数関数的成長を説明するために、以下の式を使用する。
V=V0*exp(k*t)
式中、Vは、mm3で表される腫瘍量であり、V0は、ゼロ時点での腫瘍量であり、kは、指数関数的成長率であり、tは、日数での時間である。
【0166】
異なる異種移植片試験に渡る成長低減を比較するために、試験された各細胞株において、成長率低減(GRR)値を計算するが、これは、以下の式を使用して、Ab#6の存在下で観察された成長率を、PBS対照群で観察された成長率と関連付ける。
成長率低減=1−(Ab#6成長率kAb#6)/(PBS成長率kPBS)
【0167】
試験された4つの細胞株のGRR値(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)を以下の表1に要約する。負の成長率低減の場合には、GRR値をゼロとする。
【0168】
(表1)異種移植片試験の訓練セットにおける腫瘍成長率低減の要約
【0169】
4つの異種移植片が示すAb#6処理に対する応答の範囲は、ADRrおよびMALME3M細胞は、Ab#6処理に対して応答を示さず、ACHNは、中程度の応答を有し、DU145細胞は、Ab#6処理に対して最も高い応答を有するという結果を示す。
【0170】
実施例2:腫瘍細胞株溶解物のpErbB3レベルは、異種移植片におけるAb#6応答性と相関する
この実施例において、リン酸化ErbB3(pErbB3)の濃度を、短期薬力学(PD)試験において、実施例1で試験されたMALME3M、ADRr、DU145およびACHNの4つの腫瘍細胞株のそれぞれにおいてインビボで測定した。OvCAR8異種移植片も、この実験に含めた(この異種移植片は、以下に記載する実施例5のAb#6処理に対して応答することが示されている)。
【0171】
MALME3M、ADRr、DU145、OvCAR8、およびACHN細胞を培養物中で成長させ、移植用に採取し(15×15cmプレート、約80%の集密度、細胞の総数=2〜4×108)、移植するまで氷上で維持した。細胞(約2×107細胞/マウス)を20匹のマウスの右脇腹に(皮下注入を介して、200μl細胞/注入/マウス)移植した後、初期腫瘍成長についてモニタリングしながら、マウスを回復させた。腫瘍は、デジタル式カリパス測定(L×W)で測定される。マウスが100mm3を超える腫瘍量に達すると、CO2窒息で安楽死させ、各マウスから腫瘍を摘出し、液体窒素で急速凍結する。生化学分析用に、凍結腫瘍組織試料を−80℃で貯蔵する。腫瘍溶解物中のリン酸化ErbB3量(pErbB3)をR&D Systems Human pErbB3のELISAキット(カタログ#DYC1769)を使用して、ELISAにより決定する。試料調製およびELISAプロトコルは、以下にさらに詳細に記載される。
【0172】
試料調製およびタンパク質抽出のために、最初に、凍結された腫瘍を粉砕し、事前に量られた2mlのVWR Cryotube(VWR International)に移す。粉砕された試料を量り、重量を記録する。試料の重量を計算した後、62mg/mlの最終濃度になるように、好適な量の氷冷溶解緩衝剤を各チューブに添加する。試料を低速で少しの間、ボルテックスにかけ、回転させながら、4℃でインキュベートする。
【0173】
その後、粗腫瘍溶解物をQiagen社のQiashredderに移し、試料のさらなる均質化のために、8分間、12000rpmで遠心分離する。透明な溶解物を新しいチューブに移した後、BCAタンパク質試験のために、各溶解物の少量を取り出す。残りの溶解液は、小分けし、さらなるELISA試験分析用に−80℃で貯蔵する。
【0174】
BCAタンパク質試験キット(Pierce、カタログ#23225)を使用して総タンパク質量を定量化するために、最初に、BCAキットの2mg/mlのBSA標準溶液を使用して、2mg/mlの原液濃度から開始し、ウシ血清アルブミン(BSA)8点標準曲線を調製する。キットの試薬AとB(50:1)を混合し、PBSで3倍および5倍希釈の貯蔵腫瘍溶解物を調製した後、20μlのBSA標準または希釈された腫瘍溶解物試料と160μlの作業試薬(working reagent)とを、96ウェルプレートの各プレートに添加する。プレートを摂氏37度で、20分間インキュベートする。OD562を読み取り、BSA標準曲線を使用して、腫瘍溶解物中の総タンパク質量を計算する。
【0175】
pErbB3のELISAを行うために、キット(R&D Systems DYC1769)により推奨される作業濃度に、異なる捕獲抗体をPBSで希釈する。黒い96ウェルプレート(Nunc Maxisorb)を希釈された捕獲抗体で覆った後、全てのプレートを、一晩、室温(RT)でインキュベートする。その後、Bio Tekプレート洗浄機で、プレートをPBST(PBS+0.05%Tween−20)で3回洗浄し、室温で2時間、200μlの1%BSA含有PBSTで遮断する。
【0176】
標準曲線用の組み換えタンパク質は、キットにより推奨される最高濃度および2倍希釈で、全部で11の点のために調製される。プレートをPBSで3回洗浄し、100μlの腫瘍溶解物を添加した後、室温で2時間インキュベートする。その後、プレートをPBSTで3回洗浄し、PBS/0.1% BSA/0.05% Tween−20の作業濃度に希釈された100μlの一次検出抗体を添加する。プレートをさらに2時間、室温でインキュベートする。最後に、プレートを読み取る前に、100μlの混合されたSuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce、カタログ#37069)を各ウェルに添加する。
【0177】
図2は、Ab#6を用いて処理された時の異種移植片で観察された成長率低減(%、上述の方法またはその多少の変形を使用して得た)に対する、未処理の異種移植片腫瘍(pg/μgでの腫瘍溶解物)中のpErbB3の濃度をプロットしたグラフである。図2は、腫瘍成長率低減と、短期薬力学試験で測定された構成的pErbB3レベルとの間に良好な相関関係があることを示す。Ab#6処理に応答しなかったMALME3MおよびADRr異種移植片は、最低レベルのpErbB3を示したが、Ab#6処理に応答したACHN、OvCAR8、およびDU145異種移植片は、有意に高いレベルのpErbB3を有した。これらの結果は、腫瘍細胞中のpErbB3レベルは、抗ErbB3抗体治療に対する腫瘍細胞の応答性と良く相関することを示す。
【0178】
実施例3:pErbB3およびpAKTレベルは、凍結する時間に従って減少する
この実施例において、腫瘍の凍結からの回復後の時間の経過に従うpErbB3およびpAKTの安定性、並びに腫瘍溶解物中のErbB1、ErbB2、およびErbB3の発現レベルが評価された。
【0179】
未処理ACHNおよびEKVX異種移植片マウスをCO2窒息により安楽死させ、腫瘍を切開し、4つに切り分け、0分、10分、30分、および60分の異なる時間点で液体窒素に入れる。その後、pErbB3およびpAKTレベル、並びにErbB1〜3レベルを、解凍後の各試料において測定する。上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た結果を、図3A〜3Eに示す棒グラフに要約するが、図3Aおよび3Bは、それぞれ、ACHN溶解物中のpErbB3およびpAKTのレベルを示し、図3C、3D、および3Eは、それぞれ、EKVX溶解物中のErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルを示す。
【0180】
図3Aおよび3Bに示すように、10分の試料において、0分の試料と比較して、測定可能なpErbB3およびpAKTレベルの減少が既に存在する。30分の試料において、対照(腫瘍の即時急速凍結、0分試料)と比較して、40%の濃度減少がpErbB3において観察され、対照と比較して、20%の濃度減少がpAKTにおいて観察された。対照的に、EKVXおよびACHN腫瘍細胞溶解物において、ErbB1〜3の総量は一定であり、凍結する時間に影響を受けないようであった(図3C〜3Eを参照)。したがって、腫瘍試料中の観察されたリンタンパク質の不安定さ、および観察された総タンパク質測定値の安定性は、腫瘍細胞溶解物中のレベルを直接的に測定することよりも、ErbB3のリン酸化レベルを計算することが有益であることを示す。この計算されたpErbB3のレベルは、以下に記載される実施例4で構築される機構的計算モデルを使用する、以下の実施例において、ネットワーク活性化状態(NAS)と称される。
【0181】
実施例4:ErbBシグナル伝達経路の機構的計算のモデルの構築および訓練
以下の実施例において、シグナル伝達経路の機構的計算生化学モデルの構築を記載する。ErbBシグナル伝達に関する文献知識に基づき、受容体に結合するリガンド、二量体化、受容体内在化、および分解を説明する全てのタンパク質−タンパク質相互作用、並びにPI3Kカスケードの活性化を導くアダプター分子Gab1の結合を含む、機構的計算モデルを開発した。実現されたErbBシグナル伝達ネットワークの絵を、図4Aに図示する。計算モデルは、質量作用動態を使用する、一連の非線形常微分方程式(ODE)である。図4Bは、シグナル伝達経路からの一連の生化学反応を示し、図4Cは、一連の流束を示す。生化学反応および流束は、図4Dに図示する、一連の非線形ODEに転換される。概して、タンパク質濃度ciの変化の状態は、方程式1に表されるように、タンパク質の産生速度v産生−タンパク質の消費速度v消費に等しい。
以下の実施例におけるAb#6に対する応答性を予測するために使用される計算モデルは、4つの全ての受容体(ErbB1〜4)およびAktシグナル伝達カスケードを含む哺乳類のErbBネットワークからなる。
【0182】
ErbB受容体は、細胞外リガンド結合ドメイン、細胞内チロシンキナーゼドメイン、およびシグナル伝達の足場としての役割を果たす細胞質側末端を有する、1回貫通I型膜貫通受容体である。ErbB1およびErbB4は、リガンド結合およびチロシンキナーゼ活性において、十分に機能的であるが、ErbB2は、いかなる既知のリガンドにも結合せず、代わりに、二量体化の準備ができた増幅器として機能する(Klapper,L.N.et al.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4995−5000)。ErbB3は、無能キナーゼドメインを有し(Guy,P.M.et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:8132−8136)、したがって、触媒活性を欠失するが、代わりに、他のErbB受容体によりリン酸化される時にシグナルを伝達する。13の既知のErbBリガンドのうち、BTCおよびHRGは、最高ErbB3リン酸化レベルを誘発するリガンドとして用いられている。13の既知のErbBリガンドは、(i)EGF、形質転換成長因子α(TGFα)、およびアンフィレギュリン(AR)等のErbB1に特異的に結合するもの、(ii)BTC、HB−EGF、EPG、およびEPRを含むErbB1およびErbB4の両方に結合する二重特異性を示すもの、および(iii)NRG2とも性質を共有する、ErbB3/ErbB4に結合するNRG1(GGF2、SMDF、またはHRGとしても知られる)、およびErbB4のみに結合するNRG3/NRG4の2つのサブグループに分けられるニューレグリン(NRG)の3つのグループに分類され得る。リガンド結合後、受容体は、それらの細胞質側末端の残留物上で二量体化し、トランスリン酸化を受け、これによって、Shc、Grb2、GAP、Sos、およびPI3K等の、SH2含有アダプター分子のドッキング部位を形成する。ErbB1は、その細胞質側末端上に、少なくとも20のチロシンリン酸化部位を有し、そのうちの12は、SH2含有アダプタータンパク質および酵素と組むことが提唱されている(Schulze,W.X.et al.(2005)Mol.Syst. Biol.1:2005−2008)。他のErbB受容体は、同様に、複雑な翻訳後修飾を受ける。Grb2およびPI3K等の受容体関連アダプターは、RASを活性化し、最終的に、ERKおよびAKTを活性化する。AKTは、PI3K−p85のErbB3上の複数部位への直接的結合を介して、RASから独立した様式でも活性化され得る。
【0183】
数多くの計算モデルが発表されているが(例えば、Kholodenko, B.N.et al.(1999)J.Biol.Chem.274:30169−30181、Hatakeyama,M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−463、Resat,H.et al.(2003)Biophys.J.85:730−743、Hendriks,B.S. et al.(2005)J.Biol.Chem.280:6157−6169)、Sasagawa,S.et al.(2005)Nat.Cell.Biol.7:365−373、Birtwistle,M.R.et al.(2007)Molecular Systems Biology3:144を参照)、本明細書で使用される計算モデルは、基礎反応に基づく質量作用の製剤化の厳密さを保持しつつも、より広範であり、4つの全てのErbB受容体、および2つの別個のクラスのリガンド(HRGおよびBTC)を含む。
【0184】
文献に記載されている7つのErbBヘテロおよびホモダイマーは、モデル:ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4において用いた。これらのダイマーの大部分は、リガンド結合により活性化されるが、いくつかは、リガンド依存的様式でリン酸化されたダイマーが、その後、活性ダイマーを生成するために活性化または不活性化されるモノマーのいずれかを用いて、ホモまたはヘテロオリゴマー化するモノマーに分離される、「側面シグナル伝達」(または二次的二量体化)のプロセスを通して生じる。計算モデルは、ADRr細胞株を使用するHRGまたはBTCの存在下で形成されるダイマーの特定を可能にする、設定実験データを用いて訓練された。
【0185】
計算モデルは、測定または予測されなければならない2種類のパラメータである初期種数および速度定数を必要とする、非線形常微分方程式に基づく。モデルの較正前に、できるだけ多くのパラメータの値が、文献情報、例えば、リガンドのそれらの同族受容体への結合定数に基づき特定された。qFACS分析を使用することにより、ErbB受容体の発現レベルが、この出願で使用された全ての細胞株にわたって定量化された。さらに、ELISAを、BTCおよびpErbB3のレベルを定量化するために使用した。さらに、HRG−β1のmRNAレベルを、ZR−75細胞株(ATCC番号CRL−1500)におけるmRNAレベルと比較して決定した。受容体およびリガンド発現レベル(その情報が計算モデルで使用される)を、以下の表2に要約する。これらの発現レベルを取得するための方法は、以下にさらに詳細に記載される。
【0186】
腫瘍細胞株は、国立癌研究所から取得する。全ての細胞株を、10%ウシ胎仔血清(FCS)(Hyclone)、2mM L−グルタミン(Gibco)、および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の完全培地中、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、単層培養物として成長させた。
【0187】
受容体発現レベルは、qFACSによる受容体発現レベルの定量化を可能にする、Quantum Simply Cellularキット816A(Bangs Laboratories)を使用して定量化される。キットは、様々な量のヤギ抗ヒトIgGで標識された一連の4つの小球体個体群、および標識されていない個体群を含有する。ビーズの表面に接合されるIgGは、IgG抗体のFc部分に特異的である。ビーズは、細胞試料とちょうど同じように、そして同じ抗体を用いて染色される。それぞれの小球体の異なる個体群は、既知量の標識されたモノクローナル抗体に結合する。各個体群の蛍光強度に対してその割り当てられた抗体結合能(ABC)値をプロットすることにより、標準ABC曲線が生成され、染色された細胞試料のABCが、Bangs Laboratories(QuickCal v 2.3)により提供されるソフトウェアを使用して容易に決定される。このプログラムは、使用される機器の型、その試料に対する電圧、および使用される蛍光色素を考慮する。
【0188】
BTC発現レベルは、R&D Systems Dy261 DuoSet−ICヒトベータセルリンキットを使用して、ELISAにより測定される。384ウェルプレートは、4μg/ml捕獲抗体で覆われる。50μlの2%BSA/1倍PBS(Tween−20なし)を添加することにより、384ウェルプレートを1時間遮断し、組み換え標準曲線を作製する。プレートを洗浄した後、16μlの細胞溶解物、並びに抗ホスホ−チロシン−HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)検出抗体を添加し、2時間、インキュベートする。最後に、20μlのPico発光基質を添加し、プレートを分光測光的に読み取る。
【0189】
HRG−β1タンパク質発現レベルを測定するための商業的に入手可能な試験法は、検査される細胞株の信頼できるデータを取得するために十分な感度ではなかったため、HRG−β1mRNAレベルは、対象の細胞株について定量化される。RNAは、RNeasyミニプロトコル(QUIAGENの74104 RNEASYキット)を使用して細胞溶解物から単離する。単離されたRNAをcDNAに変換し、Applied Biosystemsの430443 7Tagmanマスターミックスを使用して、定量的PCR(QPCR)のためのマスターミックスを作製した後、QPCRを行い、ZR75−1細胞中のmRNAレベルに対する、HRG−β1mRNA発現を定量化する。QPCRのプライマーは、Applied Biosystemsから購入する。
【0190】
表2に示す異なる細胞株のErbB3リン酸化レベルは、上述の実施例2に記載される方法またはその多少の変形を使用して、R&D(Dyc1769−2 DuoSet−ICヒトホスホ−ErbB3)のpErbB3 ELISAキットを使用して決定する。
【0191】
以下の表2は、上述の方法またはその多少の変形を使用して、異なる細胞株について得られた受容体およびリガンド発現を要約するが、その情報は、ErbBシグナル伝達経路の計算モデルの構築に使用された。列1は、細胞株の名称を示し、列2は、腫瘍の種類を示し、列3〜5は、それぞれ、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の細胞当りの受容体の数を示し、列6は、ZR75細胞中のmRNAレベルと比較した倍数として表されるHRG−β1mRNAレベルを示し、列7および8は、pg/細胞として表される、細胞中に存在するBTCおよびpErbB3の量を示す。
【0192】
(表2)異種移植片実験で使用された細胞株の受容体およびリガンド発現レベルの要約
【0193】
計算モデルの訓練のために、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTのリン酸化が、ADRr細胞におけるBTCまたはHRG刺激の複数の時間点、および9つの異なる濃度でELISAにより測定された、用量−時間マトリックスを含むデータセットが使用された。細胞の刺激のために、96ウェル組織培養プレートに、ウェル当り35,000細胞で、100μlの完全培地に細胞を接種し、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、一晩インキュベートする。その後、細胞を2mM L−グルタミン(Gibco)および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の無血清培地に切り替える。刺激の前に、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、飢餓細胞を20〜24時間、インキュベートする。用量−時間マトリックス試験において、細胞は、0、1、2、3、4、5、7、10、20、30、60、および120分で、リガンド(BTCまたはHRG)を用いて刺激される。各時間経過において、9つの異なる濃度のHRG(0.038nM〜250nM)およびBTC(0〜700nM)で刺激した後、細胞を氷上に置き、冷PBSで洗浄した後、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich,P2714)、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,S6508)、5mMのピロリン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,221368)、50μMのオキソフェニルアルシン(EMD Biosciences,521000)、および10μM bpV(phen)(EMD Biosciences,203695)で補充された30μlの冷M−PER哺乳類タンパク質抽出緩衝液(Thermo Scientific、カタログ#78501)に溶解する。
【0194】
刺激された細胞中のタンパク質リン酸化のレベルをELISAにより測定する。ErbB1(R&D Systems,AF231)、ErbB2(R&D Systems,MAB1129)、ErbB3(R&D Systems,MAB3481)、およびAKT(Upstate,05−591MG)に対する捕獲抗体を、室温で一晩、384ウェル黒色平底ポリスチレン高結合プレート(Corning、カタログ#3708)でインキュベートする。ELISAプレートを、1時間、2%ウシ血清アルブミン(BSA)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で遮断した後、室温で、2時間、2%BSA、0.1%Tween−20、およびPBSで希釈された溶解物と共にインキュベートする。各インキュベーション間において、プレートは、0.05%Tween−20含有PBSで、3回洗浄される。ホスホ−ErbB1、−ErbB2、および−ErbB3を測定するためのELISAは、ホスホ−チロシン西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)連結モノクローナル抗体(R&D Systems,HAM1676)と共に、2時間、インキュベートされる。ホスホ−AKTを測定するELISAを、一級セリン473特異性抗ホスホAKTマウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technologies、カタログ#5102)と共に、2時間、インキュベートした後、ストレプトアビジン−HRP(R&D Systems、カタログ#DY998,)と共に、30分間、インキュベートする。全てのELISAを、SuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce、カタログ#37069)を用いて可視化し、発光計を使用して発光シグナルを測定する。
【0195】
BTCまたはHRGの複数の時間点および9つの異なる濃度でのタンパク質リン酸化のデータセットについての結果(上述に記載の方法、またはその多少の変形を使用して取得された)を、図5A〜5Bに示すが、図5Aは、HRG刺激された細胞についてのホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB3、およびホスホ−AKTのレベルを示し、図5Bは、BTC刺激された細胞についてのホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB3、およびホスホ−AKTのレベルを示す。このデータセットは、シミュレーション結果(線)が、図5A〜5Bに示される実験データ(点)を表すように、ErbBシグナル伝達経路の計算モデルを較正するために使用された。
【0196】
ErbB受容体シグナル伝達ネットワークの計算モデルの開発におけるさらなる情報は、以下に提供される。
【0197】
モデル構造
ErbB受容体シグナル伝達ネットワークモデルは、3つの受容体(ErbB1、ErbB2、ErbB3)、受容体ホスファターゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(受容体に結合するPI3K)、およびPI3K−AKTカスケード(二リン酸ホスファチジルイノシトール、PIP2、ホスホイノシチド依存タンパク質キナーゼ、PDK1、染色体10から欠失されたPTEN、PTEN、セリン、タンパク質キナーゼBとしても知られるスレオニンタンパク質キナーゼ、AKT、タンパク質ホスファターゼ2A、PP2A)の構成要素からなる(以下の表8を参照)。ErbB3およびErbB4(実験的に、ErbB4発現レベルは、細胞株中で検出することが非常に難しいため、モデルに含まれない(以下の表3))に結合するヘレグリン(HRG1−β)と、主にErbB1に結合するベータセルリン(BTC)との2つのErbB受容体リガンドが含まれた(Beerli,R.R.and Hynes,N.E.(1996)J.Biol.Chem.271:6071−6076、Jones,J.T.et al.(1999)FEBS Lett.447:227−231)。以下の表11に全てがリストされる質量作用動態応答は、Matlab Simbiology2.3(Mathworks,MA)を使用して、常微分方程式に変換された。
【0198】
ホモダイマーおよびヘテロダイマーの文献(Hendriks,B.S.et al.(2003)J.Biol.Chem.278:23343−23351、Wang,Z.et al.(1999)Mol.Biol.Cell 10:1621−1636)に記載される、リガンド誘発された二量体化、内在化、再生、および分解が、モデルに含められた。Shankaran,H.et al.(2008)Biochem.Biophys.Res.Commun.371:220−224に発表された相対的スケールを用いて、受容体ダイマー安定性が組み入れられ、ここで、ErbB2またはErbB3とのErbB1の共発現が、細胞表面へのシグナル伝達にバイアスをかけ、シグナル下方制御を遅延し、ErbB1〜3の同時共発現は、大量のErbB2−ErbB3ヘテロダイマーを引き起こす。したがって、ErbB3含有ダイマーは、内在化され、ErbB1ホモダイマーまたはErbB1−ErbB2ヘテロダイマーよりゆっくり分解される。リガンドを含まないダイマーは、任意の下流シグナル伝達を引き起こさず(Yu, X.et al.(2002)Mol.Biol.Cell 13:2547−2557)、細胞表面に留まると考えられたが、構成二量体化も含められた。ErbBリガンドは、異なる親和性で、ErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーに結合するが(Teramura,Y.et al.(2006)EMBO J.25:4215−4222)、予測される動態パラメータの数を減少し、できるだけ簡単なモデルで実験データを説明するために、我々は、リガンドのErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーへの結合親和性が同じになるように制約した。
【0199】
二量体化された受容体は、急速なリン酸化を受け、受容体細胞質側末端上のホスホチロシンへのシグナル伝達アダプターの結合を通して、下流経路を活性化する(Yarden Y.and Sliwkowski,M.X.(2001)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.2:127−137)。ここで、簡易化されたPI3K−AKTカスケードが組み込まれ、それによって、PI3Kは、リガンド結合ヘテロダイマーに直接的に結合し、PIP2を活性化して、それがPDK1およびAKTと共に複合体を形成して、2段階のAKTの二重リン酸化を導く。ErbB3は、PI3K結合のために6つの部位を有するが、他のErbB受容体は、1つしか有さない(Wallasch,C.et al.(1995)EMBO J.14:4267−4275、Soltoff,S.P.et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:3550−3558)。6つのPI3K分子が同時にErbB3に結合することができるかどうかは分からないが、PI3Kは、他の受容体より、ErbB3によって10〜20倍強く活性化される(Fedi,P.et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:492−500)。PI3Kは、他のErbB受容体より、大きな親和性でErbB3に結合するという証拠もある(Jones,R.B.et al.(2006)Nature439:168−174)。我々は、これらの現象をモデルに取り入れ、ErbB3含有ダイマーにおいて、以下の条件を課すことにより、6つの結合部位を含む組み合わせの複雑性を避けた:強化されたPI3K結合速度、PI3Kに対する強化されたPIP2結合速度、およびPIP3の強化された活性化速度。PIP2は、エンドソームに存在せず(Haugh,J.M.(2002)Mol.Interv.2:292−307)、したがって、形質膜結合受容体ダイマーのみが、モデルにおいてPIP2を活性化することが可能である。初期のシミュレーションは、AKT活性を非常にゆっくり加速したため、シミュレーション前にAKTホスファターゼをほぼ完全に不活性にし、負のフィードバックループを組み込み、それによって別の個所で記載される現象であるAKTが自体のホスファターゼを活性化させるようにする必要があった(Camps,M.et al.(1998)Science280:1262−1265)。MAPKカスケードは、単純化するため、およびAKTシグナル伝達が、MAPKカスケードにおいて、種とパラメータに比較的非感受性であるという我々の最近の所見の両方のために無視され(Chen,W.W.et al.(2009)Mol.Syst.Biol.5:239)、したがって、MAPK−PI3Kのクロストークは、AKTシグナル伝達動態を説明するために必要とされない。初期の種の値は、直接的に測定されるか(ErbB受容体、PDK1、AKT)、文献から推測されるか(Birtwistle, M.R.et al.(2007)Mol.Syst.Biol.3:144、Hatakeyama, M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−453)、または速度を制限しない値に設定された。
【0200】
モデル較正
多くの応答速度パラメータは、我々が試験を行った細胞系において未知であり、したがって、推定しなければならなかった(以下の表10を参照)。開始点のバイアスを避けるために、全てのパラメータを初期値に設定した(Aldridge,B.B.et al.(2006)Nat.Cell.Biol.8:1195−1203)。推定されたパラメータの数は、2段階式で予測を実施することにより制限された:第1に、モデルは、実験的に観察されたErbB受容体リン酸化データに対して較正され、第2に、AKTリン酸化に感度が高いパラメータは、実験データに対して最適化された。推定された値は、パラメータが、50および25世代の個体群サイズの遺伝アルゴリズムを使用して、複数のパラメータ実行で制約された場合にのみ承認された(Mathworks,MA)。HRG1−βおよびBTCのリガンド結合速度定数は、既知のKd(Tzahar,E.et al.(1996)Mol.Cell.Biol.16:5276−5287、Singer,E.et al.(2001)J.Biol.Chem.276:44266−44274、Jones,J.T.et al.(1999)FEBS Lett.447:227−231)、および両方のリガンドについての1×105M−1s−1の先の結合速度を近似するための初期用量応答曲線を使用して、別個に推定された。感度分析(Mathworks,MA)を、HRG1−βまたはBTC刺激で、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTリン酸化の活性に強く影響を与えたパラメータを特定するために実施した(以下の表11を参照)。システムが1nMのHRG1−βまたはBTCのいずれかで刺激される間、各パラメータが、別個に変動することを可能とした。各々の種の正規化された感度は、2時間の刺激にわたって積分され、1000という任意の閾値を上回る、正規化され、積分された感度のパラメータを、以下の表11に挙げる。上述のように、試験された細胞株は、検出可能なErbB4をほとんど有さないため、ErbB4リン酸化は、パラメータの推定に含めなかった(以下の表3を参照)。ErbB4応答は、ErbB3応答に従いパラメータ化される。
【0201】
ErbB受容体リン酸化特性は、二量体化、内在化、再生、および分解パラメータに対して感度が高い(酵素反応、ダイマー解離、およびホスファターゼ速度定数は感度が低い)。これらのパラメータは、高密度データセットを使用して適合された。各読み取りは、いずれかのリガンドにより達成された最大活性化に対して正規化され、各リガンドの相対的効力を保存する。ErbB受容体二量体化速度は厳密に制約され、文献の所見と同様のパラメータの関係が観察された:ErbB2は、リガンド結合ErbB1またはErbB3にとって、好適な二量体化パートナーである(ヘレグリン刺激でより顕著である)。利用可能なデータから、再生および内在化の両方の速度を制約することは不可能である、したがって、再生速度は、0.005s−1に設定され、内在化速度のみが適合され、得られた観察は、したがって、(逆に)再生速度に等しく適用される。内在化速度は、別の個所で支持される見解である、HRG1−β結合ダイマーが、BTC結合ホモダイマーおよびヘテロダイマーよりも非常に緩慢な内在化を示すという、リガンドの刺激に基づき変動した(Sorkin,A.and Goh,L.K.(2008)Exp.Cell Res.314:3093−3106)。分解速度も、十分に制約されたが、全てのダイマーにおいて同様であり、個々のダイマーの分解速度が、観察されたデータを説明するために必要ないことを示唆する。リン酸化AKTは、PI3Kカスケード内および受容体レベルで、多くのパラメータに感度が高い(以下の表11を参照)。したがって、我々は、PI3K−AKTカスケード内のモデルパラメータのみに較正を制限し、ErbB受容体特性上で既に訓練したパラメータ値を固定しつつ、AKTリン酸化の時間経過に対して訓練した。
【0202】
モデル訓練後、パラメータの手動調節を、各パラメータへの影響を解釈するため、さらなる改善が可能であるかを決定するため、およびパラメータを生物学的に妥当な値に制限するために実施した。標準化のため、(分解速度で説明された)パラメータの種類にわたって維持される時、パラメータは四捨五入され、類似した値に凝縮された。
【0203】
阻害剤の組み入れ
ErbBネットワーク阻害剤は、既知の作用機構の最も単純な解釈を使用してモデルに含められた(以下の表12を参照):抗ErbB3モノクローナル抗体Ab#6は、リガンド結合を阻害することにより、ErbB3を隔離し、内在化および分解を誘発する:セツキシマブは、ErbB1を隔離して、リガンド結合を阻害し、ラパチニブは、ErbB受容体の活性化を阻害するが、二量体化またはリガンド結合は阻害せず、ペルツズマブは、ErbB2二量体化を遮断する。Ab#6に対して、Kinexaにより測定された速度定数が使用され、他の阻害剤に対しては、文献で報告され(Wood,E.R.et al.(2004)Cancer Res.64:6652−6659、Patel,D.et al.(2007)Anticancer Res.27:3355−3366、Adams,C.W.et al.(2006)Cancer Immunol.Immunother.55:717−727)、以下の表13に挙げられる速度定数が使用された;セツキシマブのパラメータは、Kinexaにより、実験的に確認された。
【0204】
ErbBシグナル伝達経路の計算モデルの開発において使用された様々な追加の情報を、以下の表3〜13に示す。
【0205】
(表3)測定されたErbB受容体発現および検討された細胞株の変異状態
ND - 検出不可
# - qFACSにより測定
* 検討された細胞株の変異状態を決定するために使用されたウェブサイト-http://www.sanger.ac.uk/perl/genetics/CGP/core_line_viewer?action=nci60_list
【0206】
(表4)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB1リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0207】
(表5)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB2リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0208】
(表6)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB3リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0209】
(表7)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのAKTリン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0210】
(表8)計算モデルにおけるゼロ以外の種の初期量
【0211】
(表9)対応するパラメータを伴う質量作用動態を使用した計算モデルに組み入れられた生化学反応の要約
使用された略称の定義
: タンパク質複合体、例えば、受容体に結合されるリガンドを示す
_p タンパク質がリン酸化されることを示す
iy 種が内在化されることを示す
<−> 可逆反応を示す
−> 非可逆反応を示す
【0212】
(表10)値を含むパラメータの説明。パラメータの数字は、パラメータが現れる最初の反応に対応する
【0213】
(表11)ErbB3、ErbB2、ErbB1およびAKTに敏感なパラメータ
【0214】
(表12)Ab#6、セツキシマブ、ペルツズマブ、およびラパチニブの組み入れスキーム
【0215】
(表13)阻害剤のパラメータ値
【0216】
実施例5:pErbB3の活性化を予測するマーカーの選択
この実施例において、pErbB3によって示される、ErbB3の活性化を予測する一連のタンパク質マーカーが、実施例4に記載されるErbBシグナル伝達経路の機構的計算モデルを使用して特定された。
【0217】
ErbB3 リン酸化のレベルが、腫瘍応答速度と相関することを実施例2で示されたので、感度分析を、ErbB3リン酸化のレベルを決定する主要タンパク質を特定するために、訓練された計算モデル上で実施した。
【0218】
この局所感度分析において、細胞は、実質的に、両方がErbBシグナル伝達経路を活性化するリガンドである、0.4nMのHRGまたはBTCのいずれかで、コンピュータシミュレーションにより刺激された。以下の細胞受容体、キナーゼ、および他のタンパク質に関するpErbB3の感度が、決定された:ErbB3、ErbB2、ErbB1、PI3K、PIP2、PTEN、PDK1、PP2A、AKT、RTKpase、およびリガンド(BTCおよびHRG)。
【0219】
局所感度分析は、経路内のタンパク質濃度および動態パラメータにおける変化に応答した、出力の変化を測定する数学的ツールである。j番目の速度定数(kj)の変化に対するi番目の観察可能なci(t)の完全に正規化された感度(sij(t))は、以下の方程式によって得られる。
モデル較正は、次いで、感度分析で特定されたパラメータおよび初期タンパク質濃度を変化させることにより、実験データとシミュレーションデータ結果との間の距離を最小にする局所および大域的最適化法(遺伝アルゴリズム、シミュレーションされたアニーリング、レーベンバーグ−マルカート最適化法)を使用して実施された。
【0220】
局所感度分析の結果を図6の棒グラフに要約する。結果は、以下の5つのタンパク質が、ErbB3の活性化(例えば、pErbB3の形成)を予測する主要な一連のマーカーであることを示した:ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTC。
【0221】
実施例6:pErbB3レベルを計算するための機構的計算モデルの使用
計算モデルを使用して、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTCがpErbB3の予測の主要マーカーとして特定された、実施例5で得られた結果に基づき、異なる細胞株のpErbB3レベルを計算するために、計算モデルへの入力として、表2に示すタンパク質発現レベルの測定値を使用した。
【0222】
計算モデルへのBTCおよびHRG発現レベルの入力は、無次元単位、すなわちpg/μgから濃度[M]への変換を必要とした。従って、変換係数を確立する必要があった。HRG mRNAレベルおよびBTCタンパク質発現レベルをモル濃度に変換する変換係数は、実験的に測定されたpErbB3レベルと予測されたpErbB3レベルとの間の線形範囲で推定された。実験的に測定された値については、構成的ErbB3リン酸化レベル(pg/μg)を、10%のウシ胎仔血清(FBS)中の4つの細胞株(MALME3M、DU145、ADRr、およびACHN)において測定した。これらの実験的に測定された結果を実施例4の表2の列7に示す。リガンド変換係数訓練において、経時的に積分された正規化された予測pErbB3シグナルを、6.1e−005のBTC変換係数および3.1e−013のHRG mRNA変換係数を使用して、10%インビトロFBS中の実験的に測定されたpErbB3に対してプロットした。リガンド変換係数は、細胞株ADRr、MALME3M、ACHN、およびDU145中の予測されたpErbB3と(ELISAにより)測定された構成的pErbB3レベルとの間の線形関係を最適化することにより訓練した。
【0223】
このようにして、HRGおよびBTCによる経路の活性化を、モデルを使用してシミュレーションし、計算されたpErbB3レベルにより示されるネットワーク活性化状態(NAS)が、出力として得られた。この場合において、NASは、HRGおよびBTCによる最初の2時間の刺激に対するモデルでシミュレーションを行った時間積分pErbB3の量として定義された。計算されたpErbB3レベルの結果を図7のグラフに示す。異種移植片モデルで試験された4つの細胞株のうち、ADRr細胞株が最高pErbB3レベルを有する非応答株であったため、ADRr細胞のシミュレーションされたNASは、Ab#6処理に対する応答株と非応答株との間の閾値として初期設定された。
【0224】
実施例7:異種移植片応答を使用したNAS閾値の設定およびNAS閾値に基づく応答性の予測
この実施例において、実施例1に記載する4つの腫瘍細胞株の異種移植片の応答を、実施例6に記載するように計算されたNAS値(正規化された、時間積分pErbB3レベル)と組み合わせて、Ab#6処理に対する応答株およびAb#6処理に対する非応答株のNAS閾値を設定した。
【0225】
より具体的には、ADRr、ACHN、DU145、およびMALME3細胞株(実施例1に記載)について決定された成長率低減(GRR)値は、ADRr細胞中のpErbB3レベルを超えるpErbB3レベルを有する(すなわち、pErbB3 > pErbB3(ADRr))ように「応答株」を設定することにより、分類化訓練の二元結果に変換され、「非応答株」は、ADRr細胞中のpErbB3レベルより低いpErbB3レベルを有する(すなわち、pErbB3<pErbB3(ADRr))ように設定された。これは、モデル予測ではなく、分類化訓練プロセスの一部であったことに留意されたい。
【0226】
4つの細胞株について、実験的に決定されたGRR値を、計算されたNAS値(正規化された、時間積分pErbB3)に対してプロットした。x軸上のGRR値は、応答株(pErbB3>pErbB3(ADRr))と非応答株(pErbB3<pErbB3(ADRr))とに分けられた。NAS訓練データ(実施例4に記載されるように得られた)は、シミュレーションされた応答株(「Sim R」)、シミュレーションされた非応答株(「Sim NR」)、およびシミュレーションされた不確定(「Sim I」)の3つのカテゴリーにネットワーク活性化状態y軸の分類を可能にした。2つの異種移植片細胞株は、20%(DU145,ACHN)以上の成長率低減値により特徴付けされ、これらのうちDU145細胞株が、最も低いネットワーク活性化状態を有した。したがって、シミュレーションされた応答株として細胞株を分類するための閾値は、ADRrレベル以上またはそれに等しいネットワーク活性化状態で設定された。同様に、MALME3細胞株異種移植片は、非応答株(pErbB3<pErbB3(ADRr))であり、したがって、ADRrレベルより低い細胞株のネットワーク活性化状態は、シミュレーションされた非応答株として分類された。これらのADRrおよびDU145閾値の間のネットワーク活性化状態は、シミュレーションされた不確定として分類される。
【0227】
計算されたpErbB3レベルにより示される、ネットワーク活性化状態は、HRG、BTC、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の実験的測定が利用可能である15の細胞株のパネルにおいてシミュレーションされた。15の細胞において計算された積分されたpErbB3レベルは、図8Aに示す棒グラフに、最高のpErbB3レベルから最低の順に、4つの訓練細胞株のレベルと共にプロットされた。これらの15の細胞株について計算されたNAS値は、その後、4つの訓練細胞株であるADRr、ACHN、DU145、およびMALME3Mについて前に決定されたNAS値に対してランク付けされた。合計19の細胞株のNAS結果が、図8Bのグラフに示されるようにランク付けされる。MALME3M細胞株に等しい、またはそれより低いNAS値は、シミュレーションされた非応答株(「Sim NR」)として設定され、MALME3MとDU145細胞株の間のNAS値は、シミュレーションされた不確定(「Sim I」)として設定され、DU145細胞株と等しい、またはそれ以上のNAS値は、シミュレーションされた応答株(「Sim R」)として設定された。したがって、図8Bに図示するように、IGROV1(NCI−60、Cosmic試料ID番号905968)、MDA−MB−361(ATCC番号HTB−27)、SKMEL−5(ATCC番号HTB−70)、MDA−MB−231(ATCC番号HTB−26)、およびT47D(ATCC番号HTB−133)細胞株は、それらの計算されたNAS値が、MALME3Mより低かったため、シミュレーションされた非応答株であると予測された。さらに、ZR75−1(ATCC番号CRL−1500)、HOP92(NCI−60、Cosmic試料ID番号905973)、およびHOP62(NCI−60、Cosmic試料ID番号905972)細胞株は、それらの計算されたNAS値がADRrとDU145の間であったため、シミュレーションされた不確定であると予測された。最後に、SKBR3(ATCC番号HTB−30)、UACC62(NCI−60、Cosmic試料ID番号905976)、EKVX(NCI−60、Cosmic試料ID番号905970)、BT474(ATCC番号HTB−20)、SKOV3(ATCC番号HTB−77)、OVCAR8(国立癌研究所癌治療および診断部から得た)、およびCAKl1(NCI−60、Cosmic試料ID番号905963)細胞株は、それらの計算されたNAS値がADRr以上であったため、シミュレーションされた応答株であると予測された。
【0228】
これらのモデル予測を試験するために、3つの追加のインビボ異種移植片試験を実施した。実施例1に記載するように実施された異種移植片試験で、IGROV1、OVCAR8、およびSKOV3細胞株を使用し、そこではマウスが600μgのAb#6で3日に1回、または対照としてPBSで処理された。時間に対する腫瘍量(mm3)の変化により決定される、異種移植片応答は、図9A〜9Cのグラフに要約される。ここでも、各細胞株における成長率低減(GRR)値は、以下の式を使用して計算された。
成長率低減=1−(Ab#6成長率)/(PBS成長率)
【0229】
試験された4つの細胞株におけるGRR値を以下の表14に要約する。
【0230】
(表14)予測された一連の異種移植片試験における腫瘍成長率低減の要約
【0231】
各細胞株のAb#6に対する応答の予測に関して、異種移植片応答株は、ADRrにおいてシミュレーションされたpErbB3以上のシミュレーションされたpErbB3レベルを有さなければならないという基準に基づき、IGROV1異種移植片は、非応答株として分類され、一方、OVCAR8およびSKOV3は、応答株として分類された。
【0232】
これらのデータは、計算されたNAS値に基づいた予測は、インビボ異種移植片試験における、Ab#6処理に対する3つの試験細胞株の実験的に観察された応答性に正確に対応することを示す。より具体的には、IGROV1細胞株は、その計算されたNAS値に基づき、シミュレーションされた非応答株であると予測され、そのGRR値に基づき、非応答株であると実験的に観察された。同様に、OVCAR8およびSKOV3細胞株は、それらの計算されたNAS値に基づき、シミュレーションされた応答株であると予測され、それらのGRR値に基づき、応答株であると実験的に観察された。
【0233】
したがって、これらの実験は、インビボでのAb#6処理に対する応答性の予測として、計算モデル、および正規化された時間積分pErbB3レベルの計算されたNAS値の有効性を確認した。
【0234】
実施例8:Ab#6応答性の直接的バイオマーカーの特定
この実施例において、Ab#6応答性の直接的バイオマーカーが特定され得るかどうかを決定するために、実施例1に記載される異種移植片試験で検討された4つの細胞株(ADRr、ACHN、DU154、およびMALME3M)、および実施例7に記載される異種移植片試験で検討された3つの細胞株(IGROV1、OVCAR8、およびSKOV3)のデータをさらに検討した。
【0235】
最初に、ErbB1、ErbB2、および ErbB3の受容体濃度が、異種移植片データを応答株および非応答株に効果的に分類するかどうかを検討した。図10A〜10Dのグラフに図示するように(1つの受容体の濃度のログが1つ以上の他の受容体の濃度のログに対してプロットされる)、ErbB1受容体測定値のみが、異種移植片データを応答株および非応答株に分類するように見え、一方、他の受容体のいずれもそのようには見えなかった。
【0236】
次に、1つの受容体濃度(例えば、ErbB1、ErbB3)と組み合わせたHRGの濃度が、異種移植片データを応答株および非応答株に効果的に分類するかどうかを検討した。図11のグラフに図示するように(HRGの濃度のログが、ErbB1の濃度のログに対してプロットされる)、これらの2つの濃度測定値である、HRGおよびErbB受容体の1つは、異種移植片データを応答株および非応答株に正確に分類することができた。より具体的には、3つの非応答株であるMALME3、ADRr、およびIGROV1のデータは、6つの応答株のデータから分離可能であり、これによって、非応答株対応答株の分類を可能にした。
【0237】
したがって、Ab#6応答の直接的バイオマーカーは、ErbB経路受容体(例えば、ErbB1、ErbB3)の1つと組み合わせたHRGとして特定された。
【0238】
以下の表15は、予測をするためにAb#6の直接的バイオマーカーを使用して実施例7で試験された、細胞株の予測された応答株および非応答株を要約する。直接的バイオマーカーを使用して決定された予測は、(実施例7に記載する)NAS値を使用して決定された予測と良く対応する。例えば、ACHN、DU145、OVCAR8、およびSKOV3細胞株は、前に、NAS値を使用して、応答株として特定されており、直接的バイオマーカーを使用しても、応答株であると予測された。同様に、ADRr、MALME3M、およびIGROV1細胞株は、前に、NAS値を使用して、非応答株として特定され、直接的バイオマーカーを使用しても、非応答株であると予測された。
【0239】
(表15)Ab#6の直接的バイオマーカーを使用して予測された応答株および非応答株
【0240】
応答株と非応答株とを分離するためにNASを使用した実施例7の結果を、分離に直接的バイオマーカーを使用した実施例8の結果と比較すると、唯一の不一致は、BT474、MDA−MB−231、およびUACC62細胞株であった。これら2つの個別の分類方法にある程度の違いがあったことは、意外ではない。この場合、不一致の細胞株は、患者分類の状況において、偽陽性は、偽陰性よりも好まれるため、応答株とみなす。
【0241】
実施例9:ELISAおよびqIHCによる異種移植片とヒト腫瘍との間のタンパク質発現レベルの比較
この実施例において、ヒト腫瘍で観察されるタンパク質発現特性と比較した、異種移植片で観察されるタンパク質発現の類似性または差異を評価した。これは、異種移植片で観察されるタンパク質レベルが、ヒト腫瘍で観察されるタンパク質レベルと同等であるかどうかを決定するために行われた。
【0242】
一次実験において、ELISAによってタンパク質レベルを測定する。実質的に実施例2で詳細に記載されるように、ヒト腫瘍試料または異種移植片の急速凍結腫瘍から溶解物を調製し、また、実質的に実施例2に記載されるように、ErbB1−4、HRG−β1、およびBTCのタンパク質レベルをELISAにより分析する。結果(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)が図12A〜12Cのグラフにプロットされている。結果は、異種移植片試料中のタンパク質レベルにおいて得られた値が、異なる組織源のヒト腫瘍試料中のタンパク質レベルにおいて得られた値にほとんど散在されることを示し、異種移植片で観察されたタンパク質レベルは、ヒト腫瘍で観察されたタンパク質レベルと同等であることを示唆する。これらのデータに基づき、異種移植片における応答性の予測について決定されたNAS閾値は、ヒト腫瘍組織試料を使用して応答性を予測するために適用され得ることを主張する。
【0243】
凍結組織試料は、臨床現場では入手することが困難であり得るため、二次実験は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料でのタンパク質定量を可能にする測定技法を使用して実施された。より具体的には、AQUA(登録商標)system(HistoRx,Inc.,New Haven,CT)を使用して、定量的免疫組織化学検査(qIHC)を実施した。免疫蛍光法および代表的なタンパク質発現レベルを有する細胞株パネルを使用して、細胞株標準曲線を作成した。そして、細胞株標準曲線は、腫瘍試料および異種移植片中のタンパク質発現レベルの逆算出を可能にした。結果を図13A〜13Dに示す。図13Aは、ErbB1の細胞株標準曲線を示す。図13B、13C、および13Dは、異種移植片細胞株(赤色の棒)およびヒト腫瘍試料(青色の棒)における、それぞれErbB1、ErbB2、およびErbB3のqIHCスコアをプロットする棒グラフを示す。qIHCの結果は、広範なタンパク質発現レベルにわたる、ヒト腫瘍試料と異種移植片試料との間のタンパク質発現レベルにおける類似性を実証した。これらの結果は、ここでも、異種移植片における応答性の予測について決定されたNAS閾値を、ヒト腫瘍組織試料を使用して応答株を予測するために適用され得る主張を支持する。
【0244】
実施例10:リン酸化ヘテロダイマーに対する応答性の相関
この実施例において、リン酸化ErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーの積分されたレベルをNAS値として計算して、これらが、Ab#6処理に対する応答性と相関するかどうかを決定する。
【0245】
実施例4に記載されるように作成された同じ計算モデルを使用した。このモデルは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG−β1、およびBTCのレベルに対して実験的に決定された測定値に基づき生成された。実施例4に記載されるように、文献に記載されている7つのErbBヘテロダイマーおよびホモダイマーが、モデルで実現された:ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4。これらのダイマーの大部分は、リガンド結合により活性化されるが、いくつかは、リガンド依存的様式でリン酸化されたダイマーがモノマーに分離し、それが次いで、活性化または不活性化されるモノマーのいずれかとともにホモまたはヘテロオリゴマー化して、活性ダイマーを生成する、「側面シグナル伝達」(または二次的二量体化)のプロセスを通して生じる。計算モデルは、ADRr細胞株を使用するHRGまたはBTCの存在下で形成されるダイマーの特定を可能にする、設定実験データを用いて訓練された。
【0246】
したがって、リン酸化ホモダイマーおよびヘテロダイマーの積分されたレベルは、以下の細胞株におけるネットワーク活性化状態(NAS)の基準として計算された:MALME3M、BT474、IGROV1、ADRr、OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN。図14のグラフに示すように、リン酸化ErbB1/3ヘテロダイマー(pErbB1:3)の計算されたレベルは、8つの細胞株をAb#6非応答株(MALME3M、BT474、IGROV1、ADRr)と応答株(OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN)に分けた。計算されたpErbB1:3レベルに基づくこの分別は、実施例8に記載される直接的バイオマーカーを使用して決定された、予測された非応答株および応答株と全く同じように相関した。計算されたpErbB1:3レベルに基づくこの分別は、実施例7に記載されるNAS値の計算されたpErbB3レベルを使用して決定された、予測された非応答株および応答株とも、ほぼ全く同じように相関し、唯一の差異は、BT474細胞株であり、これは、直接的バイオマーカーと計算されたpErbB1:3レベルの両方を使用して非応答株として特定されたが、計算されたpErbB3レベルを使用して応答株として特定された。
【0247】
ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4ダイマーのレベルも、計算モデルを使用して計算されたが、これらのホモダイマーまたはヘテロダイマーのいずれのレベルも、細胞株をAb#6処理の応答株と非応答株に分けなかった。したがって、ErbB1/3ヘテロダイマーを用いて観察された結果は、検討されたダイマーの中で特有であった。
【0248】
これらの結果は、リン酸化ErbBホモダイマーまたはヘテロダイマーの積分されたレベルが、本発明の予測方法においてNAS値として使用され得ること、より具体的には、pErbB1:3の計算されたレベルが、Ab#6を用いた処理に対する応答性を予測するための好適なNAS値であることを示す。これらの結果は、高レベルのErbB1:3ヘテロダイマーを伴う癌において、Ab#6が特に効果的であり、したがって、総ErbB1:3ヘテロダイマーまたはpErbB1:3ヘテロダイマーレベルの直接的測定も、Ab#6処理の有効性を予測するための直接的バイオマーカーとして使用され得ることを意味すると解釈される。
【0249】
実施例11:ErbBシグナル伝達経路への治療薬の効果の計算モデルの構築および訓練
この実施例において、機構的計算モデルを構築するための実施例4に記載されるアプローチを、ErbBシグナル伝達経路のモデルを構築および訓練するため、さらに特定の治療薬がシグナル伝達経路を阻害する機構の計算表示を開発するために使用した。
【0250】
この実施例に使用された治療薬は、二重特異的抗体のH3×B1D2(配列番号41に示され、さらに米国特許第7,332,585号、米国特許第7,332,580号、および国際公開第WO2007/084187号として公開されたPCT出願PCT/US第2006/023479号、並びに国際公開第WO2008/140493号として公開されたPCT出願PCT/US第2007/024287号に記載されるアミノ酸配列)である。この二重特異性抗体は、抗ErbB2単一鎖抗体に連結された抗ErbB3単一鎖抗体からなる。
【0251】
H3xB1D2薬剤は、ErbB2過剰発現腫瘍を優先的に標的とすることが予測された。したがって、過剰発現されたErbB2の存在下のErbBシグナル伝達ネットワークの計算モデルを、実施例4に記載される方法およびモデルを使用して構築した。モデルは、受容体輸送およびAKTの細胞内シグナル伝達の下流を導き、リン酸化AKT(pAKT)を産生する、HRGとErbB1、ErbB2、およびErbB3受容体との間の相互作用を組み込んだ。含められた相互作用は、実質的に、実施例4のモデルに見られるものと同一であった。実施例4のモデルと異なり、リガンドBTCに関連する反応は、このモデルに含まれなかった。
【0252】
このモデルは、ErbB2過剰発現乳房細胞株BT474−M3(細胞株は、例えば、Drummond et al.(2005)Clin.Cancer Res.11:3392、Park et al.(2002)Clin. Cancer Res.8:1172、Kirpotin et al.(2006)Cancer Res.66:6732に記載される)の実験データに一致するように較正された。モデルの較正は、実施例4のモデルと比較して、パラメータ値における小さなの差のみを生じた。最も有意な差は、ErbB受容体の内在化および分解の速度の減少であった。この変化は、ErbB2過剰発現が、ErbB1等の、他のErbB受容体の内在化/輸送速度を減少させることを示唆する、既知のデータと一致する(例えば、Hendriks et al.(2003)J.Biol.Chem.278:23343−23351、Wang et al.(1999)Mol.Biol.Cell 10:1621−1636、Haslekas et al.(2005)Mol.Biol.Cell16:5832−5842を参照)。
【0253】
モデルの訓練のために、BT474−M3細胞における複数の時間点、および6つの異なる濃度のHRG刺激でのErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTのリン酸化が、ELISAにより測定された用量−時間マトリックスを含むデータセットを使用した。
【0254】
細胞の刺激のために、12ウェル組織培養プレート(96半ウェルELISA用)にウェル当り150,000細胞で1000μlの完全培地を用いた二層ウェルに、または96ウェル組織培養プレート(384ウェルELISA用)にウェル当り20,000細胞で100μlの二層プレートに、細胞を接種した。これらの細胞を、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、一晩、インキュベートした。その後、細胞を2mM L−グルタミン(Gibco)および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の無血清培地に切り替える。刺激の前に、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、飢餓細胞を20〜24時間、インキュベートする。用量−時間マトリックス試験のために、細胞は0、1、2、3、4、5、7、10、20、30、60、および120分で、リガンド(HRG)を用いて刺激される。各時間経過において、6つの異なる濃度のHRG(0.098nM〜100nM)で刺激した後、細胞を氷上に置き、冷PBSで洗浄し、その後、12ウェルプレートには200μlで、そして96ウェルプレートには45μlで、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich,P2714)、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,S6508)、5mMのピロリン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,221368)、50μMのオキソフェニルアルシン(EMD Biosciences,521000)、および10μM bpV(phen)(EMD Biosciences,203695)で補充された、冷M−PER哺乳類タンパク質抽出緩衝液(Thermo Scientific,カタログ#78501)に溶解した。
【0255】
刺激された細胞中のタンパク質リン酸化のレベルは、ELISAにより測定される。ErbB1、ErbB2、およびErbB3は、R&D Systems Duoset ICキット(ErbB1 DYC1095−E、ErbB2 DYC1768−E、ErbB3 DYC1769−E)を使用して測定される。ErbB1(R&D Systems,841402)、ErbB2(R&D Systems,841425)、ErbB3(R&D Systems,841428)、および AKT(Upstate,05−591MG)に対する捕獲抗体を、室温で一晩、黒色平底ポリスチレン高結合プレートの96半ウェルプレート(Greiner,カタログ#82050−046)、または384ウェルプレート(Nunc Cat#40518)でインキュベートする。ELISAプレートを、1時間、2%のウシ血清アルブミン(BSA)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で遮断した後、室温で、2時間、2%BSA、0.1%Tween−20、およびPBSで希釈された溶解物と共にインキュベートする。各インキュベーション間において、プレートは、0.05%Tween−20含有PBSで、3回洗浄される。ホスホ−ErbB1、−ErbB2、および−ErbB3を測定するためのELISAは、2時間、抗ホスホ−チロシン−HRP検出抗体(R&D Systems,841403)と共にインキュベートされる。ホスホ−AKTを測定するELISAを、一級セリン473特異性抗ホスホAKTマウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technologies、カタログ#5102)と共に、2時間、インキュベートした後、ストレプトアビジン−HRP(R&D Systems,カタログ#DY998)と共に、20分間、インキュベートする。全てのELISAを、SuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce,カタログ#37069)を用いて可視化し、発光計を使用して発光シグナルを測定する。
【0256】
図21に示すように、モデルは、実験的に検討されたHRGの全ての用量で、ErbB2過剰発現細胞株BT474−M3におけるHRG誘発pErbB3シグナル伝達データに一致した。加えて、モデルは、約5nM以下のHRG用量で、BT474−M3細胞におけるHRG誘発pAKTシグナル伝達データに一致した。
【0257】
次に、H3×B1D2が、ErbB経路のHRG依存シグナル伝達を阻害する機構の計算表示を開発した。阻害剤の計算表示は、ErbB2およびErbB3への阻害剤の結合、および後続のHRG誘発シグナル伝達の阻害を説明する質量作用反応の方程式を使用して構築された。結合事象のパラメータは、直接的測定(当該分野に広く知られる技法を使用)とH3×B1D2による細胞におけるHRG誘発pErbB3の阻害についてのデータに一致するモデルの計算訓練との組み合わせにより取得された。特に、二重特異性抗体のH3単一鎖アームのErbB3への結合のオン率およびオフ率、並びに二重特異性抗体のB1D2単一鎖アームのErbB2への結合のオン率およびオフ率は、標準的なBIACoreおよびKinExA技術により実験的に決定された。H3×B1D2の計算モデルの反応およびパラメータを表16aおよび16bに表す。
【0258】
(表16a)
**この反応スキームにおいて、遊離(H3×B1D2)量は、一定に維持した。
【0259】
(表16B)
【0260】
ErbBシグナル伝達モデルは、阻害剤モデルと組み合わされ、H3×B1D2によるpErbB3およびpAKTシグナル伝達の阻害についての実験的データを予測するために使用された。実験データは、15pM〜1μMの範囲の濃度のH3×B1D2が血清飢餓培養中に添加されたことを除き、上述と同じ方法を使用して生成された。加えて、阻害データは、5nM HRG刺激後の、10分の溶解時間点を使用して生成された。H3×B1D2の阻害のIC50は、異なる細胞株において大きく変化しなかったが、阻害率は、大きく変化したことを示し、モデルは、実験結果を正確に再現した。阻害率の変化の主な原因は、ErbB2の発現のレベルであった。これは、ErbB2がOVCAR8細胞株に形質移入されて、ErbB2過剰発現細胞株(OVCAR8−HER2と称される)を生成する実験で実証された。H3×B1D2で処理されたOVCAR8細胞のpErbB3およびpAKT阻害曲線を、H3×B1D2で処理されたOVCAR8−HER2細胞の同じ阻害曲線と比較した。図17A〜Dに結果を示すが、図17Aおよび17Bは、H3×B1D2で処理されたOVCAR8における、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示し(実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれか)、図17Cおよび17Dは、H3×B1D2で処理されたOVCAR8−HER2細胞における、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す(実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれか)。実験的に処理された細胞(「DR50データ」)およびシミュレーションされた処理細胞(「DR50sim」)のIC50も示す。データは、高レベルのErbB2発現が、H3×B1D2処理による大きな阻害率をもたらすことを示す。
【0261】
阻害率の調節におけるErbB2の主な役割に加え、ErbB1の予想外の役割が、計算モデルにより明らかになった。ErbB1のこの役割は、ErbB1の下方制御をシミュレーションする、ErbB1 RNAiのADRr細胞への添加の作用を示すシミュレーションにより例示された。ADRr細胞は、低レベルのErbB2のみを発現し、計算モデルおよび実験的に決定されたデータの両方において、H3×B1D2による阻害率の低さを示した。このデータを図18Aおよび18Bに示すが、これは、実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれかのH3×B1D2で処理されたADRr細胞における、それぞれErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す。実験的に処理された細胞(「DR50データ」)およびシミュレーションされた処理細胞(「DR50sim」)のIC50も示す。しかしながら、(RNAi添加のシミュレーションによる)ErbB1発現の下方制御は、ErbB1 RNAiおよびH3×B1D2による処理についてシミュレーションされたADRr細胞において、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す図18Cおよび18Dに示すように、シミュレーションにおいて、大きな阻害率をもたらした。ErbB1 RNAiシミュレーションからの結果は、ErbB1発現がH3×B1D2にとって負の応答バイオマーカーであることを示唆する。
【0262】
要約すると、計算モデルおよび実験データは、インビボにおけるH3×B1D2に対する応答性の負の調節には、(i)不十分な高さのErbB2レベル、および(ii)高ErbB1レベルの2つの機構が存在することを示唆する。逆に、高レベルのErbB2発現と低レベルのErbB1発現は、H3×B1D2に対する応答性の上昇と相関した。
【0263】
実施例12:H3×B1D2を用いた処理に対するインビボ応答性は、計算モデルから予測される応答性と相関する
この実施例において、H3×B1D2処理に対する腫瘍のインビボ応答が、H3×B1D2処理に対する応答性の直接的および間接的バイオマーカーを特定する、ErbB経路における様々な構成要素の計算されたレベルと相関した。
【0264】
H3×B1D2処理に対する腫瘍のインビボ応答を特徴付けるために、腫瘍細胞株のパネルを、実施例1に記載するような異種移植片モデルで試験した。異種移植片腫瘍モデルにおいて、マウス(nu/nuマウス:4〜5週齢の雌のマウス、胸腺欠損、裸、非近交背景;白色種素性、Charles River Labs,Wilmington,MAから購入)の脇腹に、皮下注入を介して、200μlの5×106−2×107細胞/マウス(細胞株による)を移植する。初期腫瘍成長のため、マウスをモニタリングする。腫瘍は、平均腫瘍量が約150〜200mm3になるまで、数日間成長させる。腫瘍量は、V=(π/6(L×W2)のとして計算される。H3×B1D2抗体を用いて、600μg/注入の用量で、3日ごと(qd3)にマウスを処理する。対照マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または野生型HAS(ヒト血清アルブミン)で処理される。腫瘍量は40〜80日間測定される。
【0265】
以下の12の腫瘍細胞株を検討した:ACHN、ADRr、IGROV1、LS180、MIA PaCa2、ZR75−1、MDA−MB−361、ADrR−HER2(HER2を過剰発現するために形質移入されたADrR細胞)、NCI−N87、CALU−3、SKOV−3、およびBT474−M3。計算モデルでこれらの細胞株を使用するために、上述の方法またはその多少の変形を使用して、各細胞株のErbB1、ErbB2、およびErbB3発現レベルを実験的に決定し、その結果を以下の表17に示す。
【0266】
(表17)ErbB受容体レベル
【0267】
インビボ異種移植片実験からの対照および処理データを、以下の式を使用して、指数関数的成長曲線に適合した。
V=Vo*exp(k*t)
式中、Vは腫瘍量であり、V0は時間ゼロでの腫瘍量であり、kは指数関数的成長率であり、tは時間である。腫瘍成長の阻害におけるH3×B1D2の効力は、試験された各細胞株の処理および対照の指数関数的成長率の比率として表された。この比率は、「相対成長率」(RGR)として示され、
RGR=kH3 x B1D2 /k対照
として表される。
【0268】
1の相対成長速度(RGR)は、薬剤が効果を持たないことを意味した。0のRGRは、薬剤が腫瘍の成長を完全に停止させたことを意味した。負のRGRは、薬剤が腫瘍の退縮をもたらしたことを意味した。
【0269】
検討された12の細胞株のうち、BT474−M3のみが負のRGRであった(すなわち、H3×B1D2は、この細胞株においてのみ腫瘍の退縮をもたらした)。IGROV1およびLS180の2つの細胞株は、1を超えるRGR値であり、H3×B1D2がこれらの細胞株の腫瘍成長に効果がなかったことを示唆する。残りの9つの細胞株は、0から1の間のRGR値であり、H3×B1D2がこれらの細胞株の腫瘍成長を部分的に阻害したことを示唆する。
【0270】
各細胞株中のErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定されたレベルに基づき、H3×B1D2阻害剤の不在下の細胞株中のErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよびErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのモデル計算されたレベルに対して、12の細胞株のRGR値をプロットした。図19A〜Cに結果を図示するが、これは、H3×B1D2の不在下の腫瘍細胞のパネルにおける、ErbB2モノマー(図19A)、ErbB2:ErbB2ホモダイマー(図19B)、およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図19C)の計算されたレベルに対してプロットされた、H3×B1D2を用いて処理された異種移植片モデルにおける腫瘍細胞のパネルのインビボで決定された相対成長率(RGR)のグラフを示す。
【0271】
図19の結果は、RGRとErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマー、およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの計算されたレベルとの間に線形関係があることを示す。この観察を考慮すると、ErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの直接的測定は、H3×B1D2応答性の直接的バイオマーカーとして使用され得る。さらに、腫瘍試料におけるErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定は、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルを計算して、H3×B1D2処理に対する腫瘍応答性」を分類するために使用され得る(すなわち、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定されたレベルは、H3×B1D2応答性の間接的バイオマーカーとして使用され得、それらは、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルを計算するために使用される)。したがって、例えば、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの計算されたレベルは、H3×B1D2処理に対する応答性が予測され得る、ネットワーク活性化状態(NAS)値として使用され得る。
【0272】
12の細胞株のRGR値も、H3×B1D2阻害剤のシミュレーションされた不在下および存在下の細胞株におけるErbB2:ErbB2ヘテロダイマーおよびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの計算された相対レベル(例えば、比率)に対してプロットされた。より低い相対レベルは、H3×B1D2が、その種のヘテロダイマーの形成をより強力に阻害することができることを示唆する。結果を図20A〜Bに図示するが、これは、シミュレーションされたH3×B1D2の不在下のヘテロダイマーのシミュレーションされたレベルと比較した、シミュレーションされたH3×B1D2の存在下の腫瘍細胞のパネルにおいて、ErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図20A)および ErbB1:ErbB3ヘテロダイマー(図20B)の計算された相対レベルに対してプロットされた、H3×B1D2を用いて処理された異種移植片モデルにおける腫瘍細胞のパネルについてインビボで決定された相対成長率(RGR)のグラフを示す。
【0273】
図20の結果は、阻害剤がErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーを妨害する能力と腫瘍の相対成長率との間の相関を示す。つまり、計算されたErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルが、シミュレーションされたH3×B1D2阻害剤の存在下で低い(すなわち、阻害剤によるヘテロダイマー妨害が高い)腫瘍細胞(例えば、BT474−M3細胞)は、低いRGR値を示す(腫瘍成長への阻害剤の大きな効果を示唆する)。逆に、計算されたErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルが、シミュレーションされたH3×B1D2阻害剤の存在下で高い(すなわち、阻害剤によるヘテロダイマー妨害が低い)腫瘍細胞(例えば、ACHN細胞)は、高いRGR値を示す(腫瘍成長への阻害剤の効果が小さいことを示唆する)。これらの結果は、シミュレーションされた治療薬の不在下と比較した、シグナル伝達経路の計算モデルにおける治療薬の存在下のシミュレーションは、NISが治療薬に対する腫瘍細胞のインビボの応答の予測因子として使用され得る、ErbB2:ErbB3またはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルに基づく、ネットワーク阻害状態(NIS)の生成を可能にすることを示す。
【0274】
実施例13:結合親和性(KD)の測定
抗ErbB抗体の解離定数は、表面プラスモン共鳴法および細胞結合実験のいずれか、またはその両方の2つの独立した技法を使用して測定され得る。
【0275】
表面プラスモン共鳴法
表面プラスモン共鳴法は、Wassaf et al.(2006)Analytical Biochem.,351:241−253.に記載されるように実施される。好適な実施形態は、検体として組み換えErbBタンパク質、およびリガンドとして抗ErbB抗体を使用するBIACORE3000機器(GE Healthcare)を使用する。KD値は、方程式KD=Kd/Kaに基づき計算される。
【0276】
細胞結合実験
細胞結合実験は、ErbB1結合にはA−431細胞、ErbB2結合にはZR−75−1細胞、またはErbB3結合にはMALME−3M細胞(全てATCCから購入)を使用して実施される。実験は、実質的に、以下にように実施される。
【0277】
細胞は、室温で5分間、2mLのトリプシン−EDTA+2mL RMPI+5mM EDTAを用いて切り離される。完全RPMI(10mL)を直ちにトリプシン処理された細胞に添加し、軽く再懸濁し、5分間、1100rpmで、ベックマン卓上型遠心分離機で遠心沈降させる。1ml当り2×106細胞の濃度で、BD染色緩衝液(PBS+2%FBS+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)に細胞を再懸濁し、50μl(1×105細胞)のアリコートを96ウェルタイタープレートに平板培養する。
【0278】
200nMの抗ErbB抗体含有BD染色緩衝液の150μl溶液を調製し、75μlBD染色緩衝液に2倍系列希釈する。希釈された抗体の濃度は、200nM〜0.4nMの範囲であった。その後、異なるタンパク質希釈液の50μlアリコートを、直接50μl細胞懸濁液に添加し、抗体の100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nM、および0.2nMの最終濃度を得る。
【0279】
96ウェルプレートに小分けされた細胞を、プラットフォーム式振盪器上で、室温で30分間、タンパク質希釈液と共にインキュベートし、300μlのBD染色緩衝液で3回洗浄する。その後、細胞を、プラットフォーム式振盪器上で、低温室で45分間、100μlの二次抗体(例えば、1:750希釈のアレキサン647標識ヤギ抗ヒトIgG含有BD染色緩衝液)と共にインキュベートする。最後に、細胞を2回洗浄し、ペレット化し、250μlのBD染色緩衝液および0.5μg/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁する。FL4チャネルを使用して、10,000個の細胞の分析をFACSCALIBURフローサイトメーターで行う。MFI値および対応する抗ErbB抗体の濃度を、それぞれy軸およびx軸にプロットする。非線形回帰曲線の一部位結合モデルを使用して、GraphPad PRISMソフトウェアを使用して分子のKDを決定する。
【0280】
KD値は、方程式Y=Bmax*X/KD+X(Bmax=飽和での蛍光。X=抗体濃度。Y=結合の程度)に基づき計算される。
【背景技術】
【0001】
癌および他の疾患の治療に対する標的治療の開発は、かなり進歩している。このような標的治療は、腫瘍細胞上に特異的にまたは優先的に発現する抗原に結合するモノクローナル抗体、および腫瘍細胞において活発なシグナル伝達経路の個別の構成要素に特異的に干渉する小分子薬剤を含む。例えば、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))は、少なくとも特定の結腸癌および頭頚部癌で発現する上皮成長因子受容体(EGFR(ErbB1、またはHER1としても知られる))を標的とするモノクローナル抗体である。また、例えば、イマチニブ(Gleevec(登録商標))は、特定の慢性骨髄性白血病で発現して発癌性因子として作用し、かつ良性細胞タンパク質の異常変異体であるBCR−Ablチロシンキナーゼを標的とする小分子である。このような標的治療は、一部の患者には効果的であるようだが、応答率は、決して100%ではない。例えば、腫瘍がErbB1(EGFR)を発現することが既知である場合でさえ、セツキシマブの単独療法の平均応答率は、患者の約15〜20%にすぎない。したがって、腫瘍におけるErbB1(セツキシマブ抗体により標的とされる抗原)の単なる発現は、セツキシマブへの応答を保証しない。
【0002】
したがって、標的治療は、非常に望みがあるが、このような治療に対する患者の応答率のばらつきは、このような治療に伴う副作用およびこのような治療の典型的な費用の高さも加わって、どの患者が治療的処置に応答するかを予測し、応答が予測される患者にのみ治療を施すことを含む、患者を治療するための方法が非常に望まれることを示す。採用されているアプローチの1つとしては、治療に対する応答性と相関する遺伝的マーカー(例えば、変異または対立遺伝子)を特定する試みである。このアプローチでは、治療の前に、患者由来の試料を遺伝子型決定して、患者が治療への応答の指標である遺伝的マーカーを持っているかどうかを決定する。採用されている別のアプローチは、治療に対する応答と相関するタンパク質バイオマーカーを特定する試みである。このアプローチでは、治療の前に、患者由来の試料中のタンパク質発現を決定し、患者が、治療への応答の指標である1つ以上のタンパク質バイオマーカーを発現するかどうかを決定する。
【0003】
前述のアプローチは両方とも、「直接的」マーカーアプローチと考えることができ、ここで、直接的に測定されるマーカー(例えば、BCR−AblまたはErbB1)の存在(もしくは不在、または発現レベル)が、治療に対する応答または非応答と相関することが示されている。さらに、これらのアプローチは両方とも、患者から単離された試料において、容易に測定または定量化することができるように、細胞で十分に安定であるマーカーの使用に依存している。試料が患者から単離される時とマーカーが試料において測定される時との間に、かなりの時間差がある可能性を考慮すると、上述のこのような「直接的」マーカーアプローチは、典型的に、試料が従来のプロセスおよび取り扱いを受ける時、経時分解または変化を受けない遺伝的またはタンパク質マーカーの使用を必要とする。特定の治療薬に対する応答を予測する、このような安定した「直接的」マーカーが特定されているが、このようなマーカーが、全ての治療薬において特定され得るかは不明である。
【0004】
腫瘍は、一連のリガンドにより活性化されたシグナル伝達経路により成長が促進され、それらのシグナル伝達経路は、通常、同族の受容体に結合するリガンドにより活性化され、受容体自体並びに下流のキナーゼのリン酸化を誘発し、経路の下流の構成要素のさらなるリン酸化をもたらすと考えられている。これらのキナーゼは、細胞生存および増殖をもたらす。したがって、シグナル伝達経路の活性化は、細胞内構成要素の変更、特にタンパク質のリン酸化をもたらす。腫瘍組織上に発現する受容体のリン酸化の特徴は、特定の腫瘍の進行を促進する主要経路の特定を補助することができる。しかしながら、リンタンパク質は、非常に不安定である可能性があり、組織試料が即時に、かつ迅速に凍結(または場合によっては、ホルマリン固定)されなければ、リン酸化は、術後すぐに消失しうる。さらに、特定の腫瘍試料において1つ以上のリンタンパク質のレベルが、確実に測定できる場合でさえ、任意の特定の治療薬を用いたこのような腫瘍の治療の有効性に関する、任意の特定のリンタンパク質の存在または不在の予測値は、概して不明である。したがって、リンタンパク質の特性は、腫瘍の進行を促進させる経路に関する重要な情報を含有するが、このようなリンタンパク質の特性は、現在、治療的処置に対する応答を予測するためのバイオマーカーとして広く使用されていない。
【0005】
したがって、様々なリンタンパク質のレベルを決定するための、また特定の治療薬に対する個々の腫瘍の応答を予測するためのこのようなレベルおよび他の腫瘍細胞の特徴を使用する新規方法が、癌治療の治療効率および費用効率を向上するために必要である。
【発明の概要】
【0006】
治療薬に対する、細胞、特に腫瘍細胞(例えば、良性腫瘍細胞、または悪性腫瘍細胞)などの新生物細胞および腫瘍細胞ではない悪性細胞等の応答を予測するための方法、並びにそのような腫瘍を有する患者を治療薬で治療するための方法を、本明細書で提供する。
【0007】
一態様において、患者由来の悪性細胞の試料を得ること、試料における細胞の特定の生化学的特徴を決定すること、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与することにより、悪性病変の患者を抗腫瘍性治療薬で治療するための方法を提供する。特定の実施形態において、生化学的特徴は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベルであり、さらなる実施形態において、バイオマーカーのレベルは、他のより安定した生化学化合物のレベルを測定し、その後、コンピュータモデル化パラダイムを使用して対象のバイオマーカーのレベルを決定することにより、決定される。治療薬は、バイオマーカーのレベルに基づき選択され、特定の薬剤は、バイオマーカーが特定のレベルを超えた時にのみ投与される。
【0008】
特定の実施形態において、腫瘍細胞を含む腫瘍試料(例えば、生検試料または摘出試料)を得る段階、試料中のリン酸化ErbB3(ホスホ−ErbB3、pErbB3)のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を抗腫瘍性治療薬で治療するための方法を提供する。試料細胞が少なくとも最小レベルのpErbB3を含有することが分かった場合、抗ErbB3治療薬が投与され、試料細胞が少なくとも最小レベルのpErbB3を含有しないと分かった場合、抗ErbB3治療薬でない抗腫瘍性治療薬が投与され、抗ErbB3治療薬は患者に投与されない。好適な抗ErbB3製薬用薬剤は、抗ErbB3抗体である。この方法の特定の実施形態において、試料細胞中のErbB3レベルは、他の、より安定したバイオマーカーのレベルを測定し、シミュレーションにより試料細胞中のpErbB3レベルを決定するネットワーク活性化状態を(実際に経験的に測定された試料細胞中の他のバイオマーカーのレベルに基づき)計算するコンピュータモデルを生成するように計算システムを使用して、コンピュータ化された方法を使用することにより推論的に決定される。
【0009】
このような一実施形態において、腫瘍試料を得る段階、試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法が提供され、ここで、試料において決定されたpErbB3のレベルが、無血清培地(例えばRPMI)で20〜24時間培養した後のACHN腎癌細胞(ATCC番号CRL−1611)の培養物において測定されたpErbB3のレベルの50%以上の場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、ACHN腎癌細胞の培養物において測定されたpErbB3のレベルの50%より低い場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない。
【0010】
特定の態様において、本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法を提供し、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)を含む細胞(例えば腫瘍細胞)の応答を予測するためのものであり、該方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を、計算システムを用いて、入力から計算する段階、および(c)(b)で計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含む。
【0011】
さらなる態様において、細胞に含まれる細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法が提供され、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)1つ以上の測定されたレベルを用いた細胞ネットワーク入力の計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、(ii)(i)で計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を計算して出力することを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた患者を治療することをさらに含むことができる。
【0012】
また、本明細書で、細胞ネットワーク内(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法が提供され、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)入力した測定レベルに統計分類アルゴリズムを適用し、そこから細胞のNASまたはNISを計算することにより細胞ネットワークの計算モデルを計算することと、(ii)計算されたNASまたはNISの少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測することと、を含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0013】
本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法をさらに提供し、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いて、治療に対する細胞の応答を予測するための方法であり、このような方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を、計算システムを用いて計算する段階、(c)計算システムを用いて、統計分類アルゴリズムを適用する段階、および(d)統計分類アルゴリズムの出力の少なくとも一部に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含む。
【0014】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法も、本明細書で提供する。特定のこのような方法は、(a)細胞試料において、(i)ヘレグリン(HRG)、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを測定する段階、および(b)(a)で測定されるレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測する段階を含み、対照に対するHRGおよび少なくとも1つの受容体のレベルの上昇は、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。他のこのような方法は、(a)細胞試料において、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、リン酸化ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー、リン酸化ErbB2/ErbB4ヘテロダイマー、ErbB3/ErbB4ヘテロダイマー、リン酸化ErbB3/ErbB4ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つ以上のレベルを測定する段階、および(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測する段階を含み、ここで、対照に対するErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異は、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。特定の実施形態において、このような方法は、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0015】
本発明は、入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法をさらに提供し、該方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものである。特定のこのような方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料においてそのレベルが測定される(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、および(b)測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成し、その後、該出力デバイスで表示する段階を含み、ここで、対照に対するHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇は、治療薬を用いた治療に対する応答を予測する。他のこのような方法は、(a)細胞試料においてそのレベルが測定される、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を、該計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、および(b)測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を、計算システムを用いて生成および表示する段階を含み、ここで、対照に対するErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異は、治療薬を用いた治療に対する応答を予測する。
【0016】
他の態様において、本明細書により、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットが提供され、該キットは、(a)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための試験法と、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための説明書とを含む。特定の実施形態において、このようなキットは、(c)治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットの使用説明書をさらに含む。
【0017】
本発明は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための方法をさらに提供し、該方法は、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、および(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、(ii)計算されたレベルが、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する構成要素をバイオマーカーとして特定することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階を含む。
【0018】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法もまた、本明細書によって提供され、該方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するためのものであり、該方法は、(a)該計算システムの入力デバイスを通して、細胞試料において測定される細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算システムを用いて計算する段階、および(c)計算されたレベルが、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を、計算システムを用いて特定して、それにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する構成要素をバイオマーカーとして特定する段階を含む。
【0019】
またさらなる態様において、本発明は、命令が実行されると、前述の方法のいずれかを遂行する、コンピュータが実行可能な命令を保存する1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1A〜1Dは、Ab#6抗体を用いた治療による、異種移植片腫瘍成長の阻害を示すグラフである。図1Aは、MALME3M異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Bは、DU145異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Cは、ADRr異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図1Dは、ACHN異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。
【図2】図2は、Ab#6で治療された時の異種移植片に観察された成長率低減(%)に対して、未治療異種移植片腫瘍(pg/μg総タンパク質)におけるリン酸化ErbB3(pErbB3)の濃度をプロットしたグラフである。
【図3】図3A〜3Eは、異種移植片切開後0、10、30、または60分で凍結されたACHN異種移植片腫瘍試料におけるpErbB3(図3A)およびリン酸化AKT(pAKT)(図3B)のレベル、および異種移植片切開後0、10、30、または60分で凍結されたEKVX異種移植片腫瘍試料におけるErbB1(図3C)、ErbB2(図3D)、およびErbB3(図3E)のレベルを示す棒グラフである。
【図4】図4A〜4Dは、シグナル伝達経路の絵を計算モデルに変換するプロセスの概略図を示す。図4Aは、異なるリガンドおよびErbB受容体を含むErbBシグナル伝達経路の絵を示す。図4Bは、絵に示すタンパク質相互作用を説明する一連の生化学反応を示す。図4Cは、一連の生化学反応から発生する一連の流束を示す。図4Dは、シグナル伝達ネットワークを説明する質量作用動態に基づく、一連の非線形常微分方程式(ODE)を示す。
【図5】図5A〜5Bは、ADRr卵巣癌細胞で、9つの異なる濃度のヘレグリン(HRG)(図5A)またはベータセルリン(図5B)で刺激された細胞における、ホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB1、およびホスホ−AKTの経時レベルを示すグラフである。計算モデルのパラメータは、実験データ(点)を説明するために、シミュレーション結果(実線)について較正された。
【図6】図6は、ErbB3の活性化に重要なマーカーを特定するための局所感度分析の結果を示す棒グラフである。
【図7】図7は、MALME3M、DU145、ADRrおよびACHN細胞株におけるpErbB3の計算されたレベルを示すグラフである。
【図8】図8A〜8Bは、4つの訓練細胞株(MALME3M、DU145、ADRr、およびACHN)から確立されたNASの閾値に基づき、Ab#6処置に対する15の細胞株の応答を予測するためのNAS値の使用を示すグラフである。図8Aは、19の細胞株についてシミュレーションされたpErbB3レベルを、最高から最低pErbB3レベルの順でプロットした棒グラフである。図8Bは、MALME3M未満のNAS値を有する細胞株を非応答株(NR)としてランク付けし、ADRr以上のNAS値を有する細胞株を応答株としてランク付けし、MALME3MとADRrとの間のNAS値を有する細胞株を不確定としてランク付けした、最高から最低NAS値の順に、19の細胞株をランク付けしたグラフである。
【図9】図9A〜9Cは、Ab#6抗体を用いた処置による異種移植片腫瘍成長の阻害を示すグラフである。図9Aは、IGROV1異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図9Bは、OVCAR8異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。図9Cは、SKOV3異種移植片腫瘍モデルの結果を示す。
【図10】図10A〜10Dは、1つのErbB受容体の濃度のログを、1つ以上の他のErbB受容体の濃度のログに対してプロットしたグラフである。受容体値は、細胞株について、Ab#6応答株または非応答株として分類されて示される。図10Aは、ErbB2対ErbB1をプロットする。図10Bは、ErbB3対ErbB1をプロットする。図10Cは、ErbB2対ErbB3をプロットする。図10Dは、ErbB1対ErbB2対ErbB3をプロットする。
【図11】図11は、HRGのログ濃度を、ErbB1のログ濃度に対してプロットしたグラフを示す。グラブにおいて、異種移植片試験で試験された応答細胞株と非応答細胞株は別れている。
【図12】図12A〜12Cは、異種移植片細胞株およびヒト腫瘍試料におけるErbBシグナル伝達経路の異なる構成要素のログ正規化発現レベル(pg/μg、ELISAにより決定)をプロットしたグラフである。図12Aは、ErbB2対ErbB1をプロットする。図12Bは、ErbB4対ErbB3をプロットする。図12Cは、HRG−β1対BTCをプロットする。
【図13】図13A〜13Dは、異種移植片細胞株およびヒト腫瘍試料の定量的免疫組織化学検査(qIHC)の結果を示すグラフである。図13Aは、ErbB1の細胞株標準曲線を示す。図13B、13C、および13Dは、それぞれ、異種移植片細胞株(赤色の棒)およびヒト腫瘍試料(青色の棒)における、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のqIHCスコアをプロットする棒グラフである。
【図14】図14は、8つの細胞株において計算された、積分されたリン酸化ErbB1:3ヘテロダイマーレベル(細胞当りの時間積分されたヘテロダイマー量)を示す、棒グラフであり、それらをAb#6非応答株(MALME3M、BT474、IGROV1、およびADRr)、および応答株(OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN)に分けている。
【図15A】図15Aは、本発明の特定の実施形態の実施中に実施され得る、様々な機能ステップおよび動作を含むフローチャートである。
【図15B】図15Bは、本発明の特定の実施形態の実施中に実施され得る、様々な機能ステップおよび動作を含むフローチャートである。
【図16】図16は、本発明の特定の態様を実施するために使用され得る計算環境の一実施形態である。
【図17】図17A〜Dは、二重特異性抗体H3×B1D2で処置された細胞の阻害曲線のグラフである。図17Aおよび17Bは、それぞれ、OVCAR8細胞におけるpErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。図17Cおよび17Dは、それぞれ、HER2/ErbB2(OVCAR8−HER2細胞)を形質移入されたOVCAR8細胞における、pErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。実線は、計算モデルからのシミュレーションされたデータを表し、一方、丸は、実験的に決定されたデータを表す。シミュレーションされたIC50値(DR50sim)、および実験的に決定されたIC50値(DR50データ)も示す。
【図18】図18A〜Dは、二重特異性抗体H3×B1D2で処置された細胞の阻害曲線のグラフである。図18Aおよび18Bは、それぞれ、ADrR細胞におけるpErbB3レベルおよびpAKTレベルの阻害曲線を示す。実線は、計算モデルからシミュレーションされたデータを表し、一方、丸は、実験的に決定されたデータを表す。シミュレーションされたIC50値(DR50sim)、および実験的に決定されたIC50値(DR50データ)も示す。図18Cおよび18Dは、それぞれErbB1RNAiを用いたシミュレーション処置による、ADrR細胞における、pErbB3レベルおよびpAKTレベルのシミュレーションされた阻害曲線を示す。
【図19】図19A〜Cは、H3×B1D2を用いて処置された異種移植片モデルの腫瘍細胞の区画における、インビボで決定された相対成長率(RGR)を、H3×B1D2の不在下の腫瘍細胞の区画における、ErbB2モノマー(図19A)、ErbB2:ErbB2ホモダイマー(図19B)およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図19C)の計算されたレベルに対してプロットしたグラフである。
【図20】図20A〜Bは、H3×B1D2を用いて処置された異種移植片モデルの腫瘍細胞の区画においてインビボで決定された相対成長率(RGR)を、H3×B1D2のシミュレーションされた不在および存在下の腫瘍細胞の区画における、ErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図20A)およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマー(図20B)の計算された相対レベルに対してプロットしたグラフである。
【図21】図21は、実施例11に詳説される、示されるHRG用量における、ErbB2−過剰発現細胞株BT474−M3からの予測される(プロット線)および実際の(データ点)HRG誘発pErbB3およびpAKTシグナル伝達データのグラフ表示を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明は、概して、1つ以上の細胞シグナル伝達経路における1つ以上の要素(例えば、ErbB3)の活性化状態が、1つ以上の要素のレベルの直接的測定を通してではなく、間接的マーカーの使用を通して決定される、方法、システム、およびコンピュータプログラム製品を提供する。このような間接的測定は、シグナル伝達経路における要素の活性化状態を、そのシグナル伝達経路をモデル化するコンピュータシミュレーションを介して決定するために使用することができる。本明細書に提供される方法を使用することにより、この情報は、次いで、治療薬に対する細胞の応答性を予測するため、そして、疾病または疾患(例えば、癌)を有する患者に対する治療処置を選択するために使用することができる。
【0022】
本発明の使用を通して、腫瘍細胞試料の代表的なリン酸化の特徴の決定を達成することができる。これは、患者の試料において、リン酸化細胞タンパク質を、そのようなリンタンパク質のレベルを直接測定する必要なしに、治療薬に対する応答のバイオマーカーとして使用することを可能にし、したがって、リンタンパク質測定に付随する潜在的な問題(例えば、不安定さ、不正確さ)を避けることができる。このようなシミュレーションで決定されたリン酸化の特徴は、抗腫瘍性治療薬に対する細胞の応答性を正確に予測するために使用することができ、したがって、患者の癌を治療するのに効果のない抗癌剤を患者に投与することを避けるために使用することができる。さらに、開示される方法は、細胞ネットワーク内の受容体のホモおよび/もしくはヘテロダイマー、または、細胞ネットワーク内のリン酸化ホモおよび/もしくはヘテロダイマー等の、細胞ネットワーク内の他の不安定な構成要素のレベルのシミュレーションを可能にし、それらの構成要素は治療薬に対する細胞の応答性を予測するために使用され得る。さらにまた、開示される方法は、細胞ネットワーク内の構成要素に対する治療薬の効果のシミュレーションを可能にし、それもまた、治療薬に対する細胞の応答性を予測するために使用され得る。
【0023】
特定の方法において、細胞ネットワーク内の1つ以上の安定した細胞構成要素(細胞表面受容体、リガンド等)のレベルは、細胞試料(例えば、腫瘍生検材料、または摘出腫瘍の細胞)において測定される。これらの測定に基づき、細胞のネットワーク活性化状態(またはNAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、1つ以上のシグナル伝達ネットワークの計算モデル(例えば、機構的計算モデル)を使用して計算される。例えば、NASは、細胞ネットワーク内の(直接的に測定されなかった)リン酸化タンパク質の計算されたレベルを表す数値であり得る。代替的に、NISは、(シミュレーションされた治療薬の不在下の構成要素のレベルと比較した)、シミュレーションされた治療薬の存在下での細胞ネットワーク内の構成要素の計算されたレベルを表す数値であり得る。応答性または非応答性の閾値を表す対照値と計算されたNASまたはNISとを比較することにより、細胞が治療的処置に応答する可能性が高いかどうかを予測することができる。
【0024】
したがって、治療に対する細胞応答性の「間接的」マーカーの使用を開示し、その「間接的」マーカー(例えば、活性化されたシグナル伝達経路内のリン酸化タンパク質またはダイマー)のレベルは、直接的に測定されないが、直接的に測定される他の細胞構成要素のレベルに基づいて計算またはシュミレーションが行われる。この方法は、例えば、NASまたはNISの計算と組み合わせた、統計分類アルゴリズムの使用も含むこともできる。
【0025】
本発明との関連において、また本明細書の実施例の項でさらに記載されるように、ErbBシグナル伝達経路の機構的計算モデルは、ErbB細胞ネットワーク(またはNAS)の活性化の指標として、リン酸化ErbB3(pErbB3)のレベルを計算するために成功裏に使用されており、シミュレーションされたpErbB3レベルは、インビボ異種移植片系における、抗ErbB3抗体であるAb#6を用いた治療に対する腫瘍細胞株の応答性を正確に予測することを示した。加えて、本明細書の実施例の項でさらに記載されるように、ErbBシグナル伝達経路の機構計算モデルはErbB細胞ネットワーク(またはNIS)の阻害の指標として、シミュレーションされた治療薬の存在または不在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマーおよびErbB1/ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルを計算するために成功裏に使用されており、シミュレーションされたErbB2/ErbB3およびErbB1/ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルは、インビボ異種移植片系における、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体であるH3×B1D2を用いた腫瘍細胞株の治療に対する応答性を正確に予測することを示した。
【0026】
本発明がより容易に理解されるように、特定の用語を最初に定義する。
【0027】
本明細書で使用する、「治療薬」という用語は、疾病もしくは疾患の症状の重篤度を低減もしくは阻害する、または疾病もしくは疾患における無症状もしくは症状低減時間の頻度および/もしくは期間を増加する、または疾病もしくは疾患の苦痛による機能障害もしくは身体障害を阻害もしくは防止する、または疾病もしくは疾患の進行を阻害もしくは遅延する、または疾病もしくは疾患の発病を阻害もしくは遅延する、または感染性疾病もしくは疾患における感染を阻害もしくは防止する能力を有する、任意の、そして全ての化合物を包含するものとする。治療薬の例としては、有機小分子、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、組み換え操作された生物製剤、RNAi化合物等物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される、「細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする」治療薬は、治療活性が、細胞ネットワーク内の構成要素の活性に特定の直接的または間接的な影響を有する薬剤に、少なくとも部分的に起因する薬剤を指す。細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬の例としては、ErbB1に特異的に結合し、したがって、ErbB細胞ネットワーク内のErbB1を特異的に標的とするモノクローナル抗体のセツキシマブ、およびErbB1のチロシンキナーゼ(TK)ドメインを特異的に阻害し、したがって、ErbB細胞ネットワーク内のErbB1−TKを特異的に標的とする小分子のゲフィチニブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される、「ネットワーク活性化状態」または「NAS」という用語は、細胞ネットワークの活性のレベルを反映する、またはそれに対応する標識、典型的には数値を指す。NASは、典型的には、細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算される。NASは、例えば、細胞ネットワーク内の1つ以上のリン酸化タンパク質のシミュレーションされたレベルを表すことができる。1つ以上のリンタンパク質レベルが、NASの好適な実施形態であるが(例えば、実施例7にさらに記載されるpErbB3レベル、または実施例10にさらに記載されるpErbB1/ErbB3ヘテロダイマーレベル等のリン酸化ErbBホモダイマーもしくはヘテロダイマーのレベル、またはPI3K等の下流のキナーゼのレベル)、活性化されたシグナル伝達経路内の他の細胞構成要素が、ネットワーク活性の指標(複数を含む)としての役割を果たすことができ、したがって、NASとして使用することができ、これは、受容体の二量体化(ErbB1/ErbB1もしくはErbB2/ErbB2ホモダイマーのレベル、またはErbB1/ErbB2、ErbB1/ErbB3、ErbB1/ErbB4、ErbB2/ErbB3もしくはErbB2/ErbB4ヘテロダイマーのレベル等のホモダイマーおよびヘテロダイマー)、タンパク質の切断、転写因子の活性化、および遺伝子発現の活性化を含むが、これらに限定されない。細胞、例えば、腫瘍細胞のネットワーク活性化状態は、そのシグナル伝達経路に対する細胞の依存性の指標であり、その特定のシグナル伝達経路を標的とする治療薬によって阻害され得る。
【0030】
本明細書で使用される、「ネットワーク阻害状態」または「NIS」という用語は、細胞ネットワークの阻害性のレベルを反映する、またはそれに対応する指標、典型的には数値を指す。NISは、典型的には、細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算される。NISは、例えば、シミュレーションされた治療薬の不在下のシミュレーションされたレベルと比較した(またはそれに対する)、シミュレーションされた治療薬の存在下における細胞ネットワーク内の1つ以上の構成要素のシミュレーションされたレベルを表すことができる。例えば、NISは、シミュレーションされた治療薬の存在下の1つ以上の構成要素のレベルと、シミュレーションされた治療薬の不在下のそれらの1つ以上の構成要素のレベルとの比率であり得る。NISの限定されない例としては、シミュレーションされた治療薬の不在または存在下で計算された1つ以上のホモまたはヘテロダイマーの計算された相対レベル(ErbB2/3およびErbB1/3ヘテロダイマーの相対レベル等)である(すなわち、シミュレーションされた治療薬の不在下のレベルと比較した、シミュレーションされた治療薬の存在下のレベル)。しかしながら、レベルが治療薬により調節されるシグナル伝達経路内の他の細胞構成要素も、ネットワーク阻害の指標としての役割を果たすことができ、したがって、それらのレベルが、NISの指標として使用され得ることを理解されたい。細胞、例えば、腫瘍細胞のNISおよびNASは、細胞のシグナル伝達経路内の構成要素上の治療薬の効果の指標であり、治療薬の効果に対する細胞の応答性を予測することができる。
【0031】
「細胞ネットワークの計算モデル」という用語は、生物学的経路のダイアグラムまたは絵(例えば、癌に関する一連のタンパク質相互作用)を、後続のシミュレーションおよび分析が可能な一連の数式に転換するコンピュータプログラム等のモデルを指す。特定の情報(例えば、リガンドおよび/または受容体タンパク質濃度、速度定数)をそのモデルに入力することができ、次いでそのモデルは、容易に測定できない可能性がある追加情報(例えば、リンタンパク質レベル)をシミュレーションすることができる。細胞ネットワークのネットワーク活性化状態(もしくはNAS)またはネットワーク阻害状態(もしくはNIS)は、本明細書に記載する細胞ネットワークの計算モデルを使用して計算され得る。
【0032】
本明細書で使用される、「アルゴリズム」という用語は、概して、方法を実行する、もしくは問題を解決するための一連の命令、または手順、または式を指す。「統計分類アルゴリズム」という用語は、分類または予測(例えば、治療薬に対する応答株対非応答株)が行われるように、1つ以上の測定可能なパラメータまたは入力(例えば、組織試料中で測定されたタンパク質レベル)と特定の結果または出力(例えば、治療薬に対する応答性)との間の統計的関係を定義するアルゴリズムを指す。
【0033】
本明細書で使用される、「バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、所与の治療に対する疾病の応答性と相関するものを指す。
【0034】
本明細書で使用される、「直接的バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、所与の治療に対する疾病の応答性と相関し、その存在またはレベルが、細胞中で直接的に測定されて、それによって、所与の治療に対する疾病の応答性を予測するものを指す。
【0035】
本明細書で使用される、「間接的バイオマーカー」という用語は、細胞内で、またはそれによって発現される物質(例えば、タンパク質、mRNA、対立遺伝子)で、疾病の所与の治療に対する応答性と相関し、その存在またはレベルは、細胞中で直接的に測定されないが、むしろ計算モデルを使用してのシミュレーションによって等の、間接的な手段で決定され、それによって、所与の治療に対する疾病の応答性を予測するものを指す。
【0036】
本明細書で使用される、「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子、または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる結合ドメインを含む、1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質であり、該タンパク質は、免疫特異的に抗原に結合する。認識される免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、並びに多数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、同様に、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンとして分類され、次いでそれらは、それぞれ、免疫グロブリンクラスのIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。典型的な免疫グロブリン構造単位は、それぞれの対が1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する同一の2対のポリペプチド鎖から構成されるテトラマーを含む。「VL」および「VH」とは、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0037】
抗体は、無傷免疫グロブリン並びにその抗原結合断片を含み、それらは様々なペプチダーゼによる消化によって生成されるか、または化学的に、もしくは組み換えDNA技術を使用するかのいずれかで、新規に合成することができる。そのような断片は、例えば、F(ab)2ダイマーおよびFabモノマーを含む。好適な抗体は、単一鎖抗体(単一ポリペプチド鎖として存在する抗体)、より好適には、VHおよびVL鎖が(直接的またはペプチドリンカーを通して)一緒に結合して連続ポリペプチドを形成する、単一鎖Fv抗体(scFv)を含む。(5,132,405および4,956,778)。
【0038】
「免疫特異的」または「免疫特異的に」とは、免疫グロブリン遺伝子、または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる結合ドメインを介して、対象のタンパク質の1つ以上のエピトープに結合するが、混合した抗原分子の集団を含有する試料中の他の分子を実質的に認識せず、結合しない抗体を指す。典型的には、抗体は、表面プラスモン共鳴法または細胞結合実験により測定して、少なくとも50nMのKdで同族の抗原に結合する。このような試験法の使用は、当該分野において知られており、本明細書の実施例13に例示される。
【0039】
「抗ErbB3抗体」とは、ErbB3の外部ドメインに免疫特異的に結合する、単離された抗体である。ErbB3へのこのような結合は、表面プラスモン共鳴法または細胞結合実験により測定して、少なくとも50nMのKdを示す。ErbB3のEGF様リガンド媒介リン酸化を阻害する抗ErbB3抗体が好ましい。EGF様リガンドは、EGF、TGFα、ベータセルリン、ヘパリン結合上皮成長因子、ビレグリン、エピゲン、エピレギュリン、およびアンフィレギュリンを含み、典型的には、ErbB1に結合し、ErbB1のErbB3とのヘテロ二量体化を誘発する。
【0040】
本明細書で使用される、「二重特異的」という用語は、2つの抗原結合部位を含み、第1の結合部位が、第1の抗原またはエピトープに親和性を有し、第2の結合部位が、第1の抗原とは異なる第2の抗原またはエピトープに親和性を有するタンパク質を指す。
【0041】
本明細書で使用される、「対象」または「患者」という用語は、治療薬を用いた治療に対する応答が、腫瘍を有する対象または患者等の、本発明の方法を使用して予測され得る疾病または疾患を有する任意のヒトまたはヒト以外の動物を含む。「ヒト以外の動物」という用語は、全ての脊椎動物、例えば、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ等の、哺乳類および非哺乳類を含む。
【0042】
本発明の多くの実施形態は、入力装置、出力装置、プロセッサ、記憶媒体、および他の対応するコンピュータ構成要素等の、様々なコンピュータのハードウェアを含む、特殊用途ならびに汎用コンピュータ等、1つ以上のコンピュータシステムを含む。
【0043】
本発明の多くの実施形態は、そこに格納されるコンピュータにより実行可能な命令またはデータ構造(機構的計算モデル、測定されたタンパク質およびバイオマーカーレベル、分類アルゴリズム、変異状態等、本明細書で定義される命令およびデータを含む)を有し、本明細書に記載され、特許請求されるプロセスを遂行するために特別に構成された、コンピュータ可読記憶媒体も含む。このようなコンピュータ可読記憶媒体は、汎用または特殊用途のコンピュータによりアクセスされ得る任意の使用可能な媒体であり得る。例えば、このようなコンピュータ可読記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、CD−ROM、または他の光学ディスク記憶媒体、磁気ディスク記憶媒体もしくは他の磁気記憶デバイス、またはコンピュータにより実行可能な命令もしくはデータ構造の形態の所望のプログラムコード手段、モジュール、およびソフトウェアを格納するために使用され得、汎用または特殊用途コンピュータによりアクセスされ得る任意の他の媒体を含むことができるが、これらに限定されない。
【0044】
いくつかの場合において、送信媒体も、本発明が、本明細書に記載される1つ以上のプロセスを実施するために実行される、コンピュータにより実行可能な命令を保有する送信媒体を組み込むアプリケーション、システム、および他の実施形態にも及ぶように、コンピュータにより実行可能な命令を保有するために使用され得る。情報が、ネットワークまたは別の通信接続(配線構成、ワイヤレス、または配線構成とワイヤレスとの組み合わせのいずれか)を通して、コンピュータに転送または提供されると、コンピュータは、その接続を、適切に、コンピュータ可読通信媒体とみなす。
【0045】
「コンピュータにより実行可能な命令」、「実行可能な命令」、「モジュール」、および「計算モジュール」という用語は、本明細書内、および特許請求の範囲に引用される、本発明の特定のプロセスを実施するために1つ以上の計算システムの、1つ以上の計算プロセッサおよび処理構成要素によりアクセスおよび実行されるコンピュータコード、データ構造、およびソフトウェアに言及するために、本明細書において互換的に使用されることがある。
【0046】
本開示の、前述に関する追加の態様、および様々な追加の様態は、以下の小節にさらに詳しく説明されるが、これは、制限するものと解釈されるべきではない。
【0047】
I.機構的計算モデル
機構的計算モデルは、タンパク質ネットワーク中の分子相互作用の予測的な数学的描写とみなされ得る。少なくとも特定の実施形態において、治療薬に対する応答を予測するための本明細書に提供される方法は、機構的計算モデルの使用を含む。機構的計算モデルは、生物学的経路のダイアグラムまたは絵(cartoon)(例えば、癌に関する経路等の、シグナル変換経路に沿って生じる一連のタンパク質相互作用)を、後続のシミュレーションおよび分析が可能な一連の数式に転換する。したがって、モデルの構築における第1のステップは、経路に関与する適切なタンパク質および分子を含む、生物学的経路の詳細なダイアグラムまたは絵の描写の作成である。どのタンパク質および分子が含まれるべきか、並びにそれらを接続する生物学的反応に関する、重要な決定が行われなければならない。どのタンパク質および分子が経路に関与するか、またどの生物学的反応がそれらを接続するかに関する、科学的文献の入手可能な情報が、収集され、生物学的経路の絵の描写の作成に使用される。
【0048】
生物学的経路の絵の描写が作成されると、この情報は、経路内のタンパク質−タンパク質相互作用を表示する方程式のシステムに転換され、そのシステムは細胞ネットワークと称される。シグナル伝達ネットワークの生物学的反応ネットワークを描写する計算モデルは、例えば、非線形常微分方程式(ODE)、確率モデル、ブールもしくはファジー理論モデル、またはペトリネットに基づく。これらは、経験的に測定または推定されなければならない2種類のパラメータ、すなわち初期種数(i番目の種についてc0,i)および速度定数(j番目の速度についてkj)を必要とする微分方程式から構成される。計算モデル構築のプロセスの概略図を、図4A〜Dに示すが、これらは、ErbBシグナル伝達経路の絵図(図4A)、この経路の一連の生化学反応および流束への転換(図4Bおよび4C)、および一連の微分方程式でのタンパク質−タンパク質相互作用の描写(図4D)を図示する。
【0049】
計算モデルは、典型的には、例えば、MATLABソフトウェアSimbiology(The MathWorks,Natick,MA)、任意に、MATLAB(SBtoolbox2.org)用のSystems Biology Toolbox2、またはJACOBIANモデリングソフトウェア(Numerica Technology,Cambridge,MA)と併せて使用して、コンピュータスクリプト言語で書かれた一連の実行可能な命令として構築される。しかしながら、本発明の範囲は、MATLABまたはJACOBIANソフトウェアおよびインターフェースで構築されたもの以外の、ソフトウェアおよびインターフェースで構築された計算モデルの開発および使用にも及ぶことを理解されたい。本発明は、第三者供給元によって予め構築され、本発明の他の態様を実施する計算システムにダウンロードされた計算モデルを利用する実施形態にも及ぶ。
【0050】
モデル較正の前に、科学的文献からの情報に基づき、例えば、タンパク質レベル、結合親和性、リガンドのそれらの同族受容体への結合速度定数等の、できるだけ多くのパラメータの値を特定し、計算システムに入力する。科学的文献から入手できないパラメータ値は、実験的に取得され得る。
【0051】
モデルは、訓練を実施する計算システムに入力される、実験的に取得されたデータに対して、その出力を最適化することによって「訓練」される。モデルを実験データに適合させることにより、最適なモデルパラメータのセットを選択する。モデル較正のプロセスは、仮定およびパラメータ推定の修正を含む。モデルを較正するために、リガンドの刺激を下流シグナル伝達事象に転換するための、特に生物学的に重要であるサブセットのタンパク質およびパラメータを最初に特定しなければならない。このプロセスは、感度分析と呼ばれるが、より正確には、これは、経路内のタンパク質濃度および動態パラメータの変化に応答する、基質のリン酸化等の出力の変化を測定する数学的ツールである。j番目の速度定数(kj)の変化に関するi番目の観測可能なci(t)の十分に正規化された感度(sij(t))は、以下の方程式により得られる。
続いてモデル較正を、感度分析で特定されたパラメータおよび初期のタンパク質濃度を変化させることにより、実験データとシミュレーション結果との距離を最小にする局所的および大域的最適化法(限定されないが、遺伝アルゴリズム、シミュレーションされたアニーリング、レーベンバーグ−マルカート(Levenberg−Marquardt)最適化等)を使用して、計算システムにより実施する。計算システムは、較正中、自動的にパラメータを変更するか、または付加的に追加されたユーザ入力にのみ応答して、パラメータを変更するように構成され得る。
【0052】
様々なシグナル伝達経路における数多くの計算モデルが、科学的文献に記載されている(例えば、Kholodenko,B.N.et al.(1999)J.Biol.Chem.274:30169−30181、Schoeberl,B.et al.(2002)Nat.Biotech.20:370−375、Hayakeyama,M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−463、Nielsen,U.B.and Schoeberl,B.(2005)IDrugs 8:822−826、Schoeberl,B.et al.(2006)Conf.Proc.IEEE Eng.Med.Biol.Soc.1:53−54、Schoeberl,B. et al.(2006)IBM J.Res.Dev.50:645、Fitzgerald,J.B.et al.(2006)Nat.Chem.Biol.2:458−466、Kholodenko,B.N.(2007)Nat. Cell.Biol.9:324−330、Birtwistle,M.R.et al.(2007)Molecular Systems Biology 3:144、Hinow,P.et al.(2007)Theoretical Biology and Medical Modelling 4:14を参照のこと)。さらに、計算モデルの構築および使用は、Kholodenko,R.N.(2006)Nature Reviews:Mol Cell.Biol.7:165−176 and Kumar,N.et al.(2006)Drug Discovery Today 11:806−811に概説されている。
【0053】
本明細書に提供される特定の方法で使用される計算モデルの1つは、ErbBシグナル伝達経路のモデルである。ErbBシグナル伝達経路の代表的な計算モデルの構築は、実施例4に詳細に記載される。本明細書で使用される、「ErbBシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのErbBファミリーの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル伝達経路を包含するものとする。ErbBシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、HRG、ベータセルリン(BTC)、上皮成長因子(EGF)、ヘパリン結合上皮成長因子(HB−EGF)、形質転換成長因子α(TGFα)、アンフィレギュリン(AR)、エピゲン(EPG)、およびエピレギュリン(EPR)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を含む1つ以上の受容体、並びに(iii)例えば、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)、ホスファチジルイノシトールビスリン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、ホスファターゼおよびテンシン相同体(PTEN)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼアイソザイム1(PDK1)、AKT、RAS、RAF、MEK、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)、およびSRCタンパク質チロシンキナーゼを含む細胞内キナーゼ、ホスファターゼ、および基質を含み得る。
【0054】
本明細書で提供される特定の方法で使用される別の計算モデルは、IGF1Rシグナル伝達経路のモデルである。本明細書で使用される、「IGF1Rシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのインスリン成長因子1ファミリーの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル変換経路を包含するものとする。IGF1Rシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、インスリン成長因子1(IGF1)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、IGF1Rおよびインスリン受容体を含む1つ以上の受容体、(iii)1つ以上のIGF結合タンパク質、および(iv)例えば、インスリン受容体基質2(IRS2)、PI3K、AKT、Bcl−2関連タンパク質BAD、RAS、RAF、MEK、およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を含む細胞内キナーゼおよび基質を含み得る。
【0055】
本明細書で提供される特定の方法で使用されるまた別の計算モデルは、c−Metシグナル伝達経路のモデルである。本明細書で使用される、「c−Metシグナル伝達経路」という用語は、リガンドのc−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼの受容体との相互作用を通して開始されるシグナル伝達経路を包含するものとする。c−Metシグナル伝達経路内の構成要素は、(i)例えば、肝細胞成長因子(HGF)を含む1つ以上のリガンド、(ii)例えば、c−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼを含む1つ以上の受容体、並びに(iii)例えば、PI3K、成長因子受容体結合タンパク質2(GRB2)、Src相同およびコラーゲンタンパク質(SHC)、SRCタンパク質チロシンキナーゼ、およびGAB1足場タンパク質並びにRAS、RAF、MEK、およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を含む細胞内キナーゼおよび基質を含み得る。
【0056】
本明細書で提供される特定の方法で使用されるまた別の計算モデルは、組み合わせでのIGR1RおよびErbB受容体シグナル伝達、ErbB受容体シグナル伝達およびc−Metシグナル伝達もしくはIGF1−R、ErbBおよびc−Metシグナル伝達等の、2つ以上の成長因子シグナル伝達経路の任意の組み合わせを含むモデルである。
【0057】
前述の例は特定的であるが、(例えば、TNF、IL−2、PDGF、FGF、TRAIL、インテグリン、サイトカイン、および実質的に任意の他の経路等の、シグナル伝達経路の)他の計算モデルも、本発明の実施形態に組み込まれ、および利用され得ることを理解されたい。
【0058】
特定の実施形態において、1つ以上の治療薬の存在は、計算モデルでシミュレーションされ得る。治療薬の計算上の表示は、治療薬のその細胞標的への結合を表す、あるいは薬剤のモデル化された細胞経路への効果を表す、質量作用反応の方程式を使用して構築され得る。結合事象、または他の生物学的効果のパラメータは、直接的実験測定により、並びに細胞への治療薬の効果についてのデータと一致させるためにモデルを訓練することにより取得され得る。例えば、抗体薬剤に対して、抗体のその標的抗原への結合のオン率およびオフ率は、標準的方法(BIACoreまたはKinExA技術)により実験的に決定され得、これらのパラメータは、計算モデルに組み込まれ得る。加えて、例えば、二重特異性薬剤に対して、二重特異性分子のそれぞれの標的に別々、または二重特異性分子の両方の標的に結合する二重特異性分子の数の測定としての架橋パラメータを、計算モデルの訓練パラメータとして使用することができる。架橋パラメータは、全体的に観察された結合親和性(標準的なFACS分析により決定)を取得し、標準的なロジスティック結合方程式に適合することにより取得され得る。前述に加え、特定の治療薬に薬理学的に関連があり得、したがって、計算モデルで表示される追加パラメータも、当業者に知られている。
【0059】
治療薬の効果を、計算モデルで表示する際、単一薬剤をモデル化することができ、または複数の薬剤を組み合わせてモデル化して、併用療法の細胞応答への効果をシミュレーションすることができる。例えば、一実施形態において、それぞれが異なる標的抗原に結合する2つの抗体を、計算モデルで表示することができる。別の実施形態において、特定のシグナル伝達経路(例えば、ErbB経路)を標的とする抗体、およびその同じシグナル伝達経路(例えば、ErbB経路)の小分子阻害剤を、計算モデルで同時に表示し、細胞におけるシグナル伝達経路におけるそのような併用療法の効果を評価することができる。
【0060】
II.統計分類アルゴリズム
少なくとも特定の実施形態において、治療薬に対する応答を予測するための、本明細書で提供される方法(例えば、コンピュータを用いて治療薬に対する予測される応答を生成すること)、および悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法は、1つ以上の統計分類アルゴリズムの使用を含む。
【0061】
統計モデルの目的の1つは、例えば、一方では、組織試料中で測定されたタンパク質のレベル、並びに生化学モデルにより計算された活性化レベル(例えば、ネットワーク活性化状態、もしくは「NAS」)または阻害レベル(例えば、ネットワーク阻害状態、もしくは「NIS」)と、他方では、治療薬に対する患者の応答との間の関係を認識することである。したがって、統計分類アルゴリズムは、分類または予測(例えば、治療薬に対する応答株対非応答株)が行われるように、1つ以上の測定可能なパラメータまたは入力(例えば、組織試料中で測定されたタンパク質レベル、計算されたNASまたはNIS値)と特定の結果または出力(例えば、治療薬に対する応答性)との間の統計的関係を定義する。したがって、統計モデルは、応答株と非応答株を分ける閾値を特定することを助け、また定義された閾値周辺の不確定度を定義することも助ける。
【0062】
様々な種類の統計分類システムが、当該分野において説明されており、本発明の方法での使用に適している可能性があり、それらの限定されない例には、主成分分析(PCA)、部分最小二乗回帰(PLSR)、三線PLSR、ファジー論理およびベイズ推論、ランダムフォレスト(RF)、分類および回帰ツリー(C&RT)、増強ツリー、神経ネットワーク(NN)、サポートベクターマシーン(SVM)、一般カイ二乗自動相関検出モデル、相関ツリー、多変量適応的回帰スプライン、機械学習分類器、およびそれらの組わせが含まれる。例えば、PCT国際公開特許第WO2007/109571号を参照のこと。
【0063】
好適な実施形態において、統計分類アルゴリズムを訓練するために、当該分野の用語を使用すると、「機械」または「計算システム」(例えば、コンピュータ)は、「分類器」(統計アルゴリズム)の手段によって、コンピュータに入力された数多くの「訓練」例を検討することにより、タンパク質発現レベルと、実際の患者の応答(例えば、応答するものおよび応答しないもの)を伴うネットワーク活性化状態(NAS)との間の関係を「学習する」。このプロセスは、入力(測定および計算されたタンパク質レベル)および出力(例えば、治療薬に対する応答)の両方が事前に知られている試料の集合があるため、「教師あり学習」として知られる。統計分類アルゴリズムを適用するために不可欠な部分は、有益な特徴(特徴は、任意の測定または計算されたタンパク質レベルまたはタンパク質活性化レベル)、並びにアルゴリズムにより生成されたスコアに対する最適な閾値の決定である。
【0064】
出力が分かっている試料の別個の「試験事例」で、統計分類アルゴリズムを検証することが一般的には好ましいが、分類器には知らされない。予測を既知の結果と比較することにより、性能が測定され得る。試料の数が少ない時には、これを用いることができない場合があり、この要求を克服する確立された技法がある。そのうちの主要なものは、交差検定であり、以下でさらに論ずる。分類器の出力は、所望する場合、分類予測に変換され得るスコアである。概して、分類器の訓練プロセスは、最適な閾値を決定するための方法も含む。
【0065】
予測を行うための能力を試験するために、交差検定における一般的な手順は、「訓練データ」または「訓練(データ)事例」としてデータの一部(試料の分画)を確保しておくことであり、残りのデータは、「試験(データ)事例」と呼ばれる。典型的には、この手順は、何回も繰り返され、訓練および試験のために、毎回、異なるデータの分画を使用する。訓練事例が多いほど、明らかにより有益である(例が多ければ、分類器もより良くなる)が、試験事例も多いほどよい(より多くの予測が検証できれば、将来の予測における信頼度が高くなる)。試料が少ない場合、単一の試料を試験データとして確保しておき、残りの全ての試料を使用して分類器を訓練するように、この手順を改変する。予測は、単一の残された試料で行われる。これは、「1つを残した(leave−one−out)交差検定」(LOOCV)と呼ばれ、当該分野において、十分に確立されている。この手順は、同様に、それぞれの残された試料に対して繰り返される。全ての予測が行われると、性能が評価される。
【0066】
本発明の方法において使用される統計分類アルゴリズムにおいて、様々なパラメータ、または有益な特徴、または情報を、入力データとして使用することができる。このような入力データの非限定的な例には、細胞試料から得られた細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のタンパク質レベル、計算モデルを使用して計算されたネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)、細胞試料中の1つ以上のタンパク質の変異状態、治療に対する応答性が検証される対象の年齢、および治療に対する応答性が検証される対象の性別が含まれる。
【0067】
III.細胞試料中の細胞構成要素のレベルの測定
治療薬を用いた治療に対する予測される応答性を生成し、悪性腫瘍を有する患者を治療するための、本明細書に提供される方法において、手順の1つは、典型的に、細胞試料中の細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定すること、または代替的に、細胞試料から得た測定から取得された、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを計算システムに入力することを含む。例えば、腫瘍試料は、標準的な方法で、腫瘍を有する患者から得ることができ、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルは、腫瘍試料中で測定され得る。
【0068】
入力は、計算システムに手動で入力され得る。入力はまた、いくつかの場合において、コンピュータ化された測定デバイスが計算システムに連結され、本発明の特徴を遂行するために入力を受け取って利用する場合等に、計算システムに自動的に入力またはダウンロードされ得る。この点において、本明細書に記載される、任意の測定情報および任意の状態情報(例えば、変異状態の情報)、並びに任意の他の組織/患者データは、測定および状態情報を自動的に取得してダウンロードするコンピュータ化されたデバイスの使用を通して、本発明の手順を実施するためのデータを使用する1つ以上の他の計算システムに取得され得ることも理解されたい。
【0069】
本明細書で使用される、構成要素の「レベル」という用語は、試料中に存在する構成要素の量または濃度を指す。構成要素のレベルは、任意の様々な周知の技法を使用して測定され得る。レベルは、典型的には、タンパク質レベルを測定することにより決定されるが、代替的に、レベルは、いくつかの場合、mRNAレベルを測定することにより決定され得、次いで、mRNAレベルを予測されるタンパク質レベルに変換することができる。タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)のレベルは、当該分野に周知の1つ以上の技法を使用して測定され得、これらの非限定的な例としては、定量的蛍光活性化細胞選別法(qFACS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA,Luminex)、免疫組織化学検査(IHC)、定量的免疫組織化学検査(qIHC)、近似基準法(フェルスター共鳴エネルギー転移基準法、蛍光タンパク質再構成法(BiFC)、VeraTag(登録商標)、またはDNA−Programmed Chemistry(登録商標)(DPC(登録商標)))、質量分析法、ウエスタン(免疫ブロット)法、および共免疫沈降法が挙げられる。タンパク質レベルは、検出されたタンパク質pg/総タンパク質μgとして表現され得る。
【0070】
タンパク質またはmRNAレベルは、細胞溶解物において決定され得る。細胞溶解物は、例えば、実施例2に詳細に記載されるように調製され得る。さらに、タンパク質レベルを決定するためにELISAを使用する代表的な例は、実施例2および4に詳細に記載され、タンパク質レベルを決定するためにqFACSを使用する代表的な例は、実施例4に詳細に記載され、mRNAレベルを測定し、タンパク質レベルへ変換する代表的な例は、実施例4(HRG−β1について)に詳細に記載される。
【0071】
腫瘍試料は、例えば、新鮮な細胞試料、新鮮な凍結試料、または固定組織試料であり得る。患者の組織試料において、保存された組織ブロックが、新鮮な凍結試料よりも、より簡単にアクセス可能な場合がある。したがって、好適な実施形態においては、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料が使用され、構成要素(例えば、リガンド、受容体)のレベルは、半定量的免疫組織化学検査(IHC)により決定され得る(実施例9でさらに記載される)。半定量的IHC情報を計算モデルへの入力に適した濃度に変換するために、既知の受容体および/またはリガンド発現レベルを伴う細胞プラグまたは異種移植片を含有する対照スライドを、患者の試料と比較することができる。さらに、変換係数を、無次元単位(例えば、タンパク質、またはmRNAの量)で得られた発現レベルを計算モデルに入力できる濃度レベルに変換するために決定することができ、これは、BTCおよびHRG発現レベルについての実施例4にさらに詳細に記載される。
【0072】
リガンドmRNAおよびリガンドタンパク質レベルは、一般的に、適度に相関する。したがって、qRT−PCRは、腫瘍細胞株および異種移植片、並びにFFPEからの細胞溶解物中のmRNA発現レベルを決定するために使用され得る。
【0073】
IV.治療薬に対する応答を予測するための方法
特定の態様において、本発明は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法を提供する。このような方法は、一般的に、以下の予測方法1〜5に示される要素を含む。
【0074】
予測方法1
(a)細胞試料に存在する、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定することにより、細胞ネットワークの該1つ以上の構成要素のレベルの測定値を取得すること;および
(b)(i)測定値と共に入力される細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算することと、
(ii)(i)で計算されたNASまたはNISに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を計算し、出力することと
を含む、コンピュータにより遂行された方法を適用すること。
【0075】
予測方法2
(a)細胞試料中において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定すること;および
(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算することと、
(ii)統計分類アルゴリズムを適用することと、
(iii)前記統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測することと
を含む、コンピュータにより実施された方法を適用すること。
【0076】
予測方法3
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料中で測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取り、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)前記計算システムが、(b)で計算されたNASまたはNISに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する予測される細胞の応答を生成し、その後、出力デバイスで表示する。
【0077】
予測方法4
(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定し、
(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)統計分類アルゴリズムを適用し、
(d)前記統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する。
【0078】
予測方法5
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料中で測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取り、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算し、
(c)前記計算システムが、統計分類アルゴリズムを適用し、
(d)前記計算システムが、前記統計分類アルゴリズムの出力に基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示する。
【0079】
上記の方法は、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、治療薬を用いて、細胞、または該細胞が得られた患者を治療することをさらに含むことができる。
【0080】
様々な態様において、検出された構成要素のレベルは、1つ以上の特定の治療薬の予測される効果を示す役割を果たす。多くの場合、これは、該構成要素が、予め決定されたカットオフレベルまたはカットオフ率より上(またはいくつかの場合においては、下)である基準に合致するレベル(または他の特定の構成要素に対する特定の濃度比)で検出された場合、所与の治療薬は、効果的であると予測され、患者に投与されるが、該構成要素が、予め決定されたカットオフレベルまたはカットオフ率に対する基準に合致しないレベルまたは濃度比で検出された場合、治療薬は、患者に投与されないことを意味する。適切なカットオフレベルは、通常の実践を使用して、および本明細書で記載されるように、設定され得る。
【0081】
細胞の応答を予測するために、典型的にNAS値またはNIS値は、治療薬に対する複数の既知の応答細胞および非応答細胞において計算され、既知の応答細胞および非応答細胞におけるこれらの値は、閾NAS値またはNIS値を設定するために使用され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す(実施例7および10にさらに記載される)。したがって、治療に対する生成されたおよび/または予測される細胞の応答は、(b)で計算されたNASまたはNISを閾NAS値またはNIS値と比較することによって(c)で取得され得、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。
【0082】
統計分類アルゴリズムを適用するために、1つ以上の種類の情報が、アルゴリズムに入力されるか、または計算システムが、該1つ以上の種類の情報をアルゴリズムに組み込む。例えば、この手順は、(i)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベル、(ii)計算されたNASまたはNIS、(iii)細胞試料中の1つ以上の遺伝子の変異状態、(iv)治療薬で治療される対象の年齢、(v)治療薬で治療される対象の性別、(vi)細胞上におけるエストロゲン受容体(ER)の有無、(vii)細胞上におけるプロゲステロン受容体の有無、および(viii)細胞上におけるアンドロゲン受容体の有無から選択される、1つ以上の種類の情報をアルゴリズムに入力することを含むことができる。追加で、または代替的に、統計分類アルゴリズムの適用は、上記の(i)〜(viii)に記述される1つ以上の種類の情報を入力した後、アルゴリズムを計算する計算システムを含むことができる。統計分類アルゴリズムは、入力情報と治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答性との間の統計的関係を定義することから、治療に対する細胞の応答の予測は、統計分類アルゴリズムの出力に基づくことができる。
【0083】
本明細書に提供される予測方法および他の方法において、好適な細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含む。一実施形態において、本方法において測定され、計算システムへ入力される1つ以上の構成要素は、ErbBシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、HRG(HRG−β1、HRG−β2、HRG−α、HRG−3、およびHRG−4を含む)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRが挙げられる。加えて、または代替的に、本方法において測定される1つ以上の構成要素は、ErbBシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4(当該分野において、それぞれ、HER1、HER2、HER3、およびHER4としても知られる)が挙げられる。このような受容体は、(それらが、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーのいずれで生じても)別個の実体として試験されてもよく、特定の実施形態において、各ホモダイマーおよびヘテロダイマーも、異なる別個の構成要素として測定され、計算システムに入力されてもよい。例えば、測定される構成要素は、1、2、3、4、5、もしくは6以上の受容体、リガンド、または両方であってもよく、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、HRG、およびBTC(例えば、ErbB1およびHRG、またはErbB1、ErbB2、およびErbB3)から選択されてもよい。例えば、いくつかの方法において、計算されたNASは、治療薬の不在下のErbB2/ErbB2ホモダイマー、またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。他のこのような方法において、計算されたNISは、治療薬の不在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルと比較した、治療薬の存在下のErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0084】
上記方法の特定の場合において、計算されたNASは、ErbB3シグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする。例えば、計算されるNASは、細胞試料中のpErbB3レベルをシミュレーションし得る。代替的な実施形態において、計算されるNASは、細胞試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションし得る。
【0085】
一実施形態において、治療薬は、抗EGFR(抗ErbB1)抗体を含み、この代表的な例は、抗ErbB1抗体セツキシマブ(Erbitux(登録商標)、ImClone Systems)である。抗ErbB1抗体の他の例としては、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806(Mishima,K.et al.(2001)Cancer Res.61:5349−5354)が挙げられる。別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB2抗体を含み、この代表的な例は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)、Genentech)である。
【0086】
別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体を含む。好適な実施形態において、抗ErbB3抗体は、MM−121を含み、これは、現在、第I相臨床試験中である。好適な実施形態において、抗ErbB3抗体は、国際公開第WO2008/100624号にさらに記載される、配列番号1および2のそれぞれVHおよびVL配列を有する、Ab#6を含む。別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、配列番号7〜9(VH CDR1、2、3)、および10〜12(VLCDR1、2、3)のそれぞれAb#6 VHおよびVLCDR配列を含む。抗ErbB3抗体の他の例としては、国際公開第WO2008/100624号にさらに記載され、配列番号3および4、5および6、25および26、並びに33および34のそれぞれVHおよびVL配列を有する、Ab#3、Ab#14、Ab#17、およびAb#19が挙げられる。別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、Ab#3のVHおよびVLCDR配列(配列番号13〜15および16〜18のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#14のVHおよびVLCDR配列(配列番号19〜21および22〜24のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#17のVHおよびVLCDR配列(配列番号27〜29および30〜32のそれぞれ)を含む抗体、またはAb#19のVHおよびVLCDR配列(配列番号35〜37および38〜40のそれぞれ)を含む抗体である。
【0087】
抗ErbB3抗体の他の例としては、抗体1B4C3および2D1D12(U3 Pharma AG)(双方とも米国公開第2004/0197332号に記載される)、および米国特許第5,968,511号に記載されている8B8等のモノクローナル抗体(そのヒト化変種を含む)が挙げられる。
【0088】
別の実施形態において、抗ErbB3抗体は、第2の抗体(例えば、抗ErbB2抗体)に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体(例えば、融合タンパク質)である。このような二重特異性抗体の好適な例は、H3×B1D2であり、そのアミノ酸配列は配列番号41に記述される。この二重特異性抗体において、H3(配列番号:42〜44および45〜47に示される、それぞれVHおよびVLCDRを有する)と称される、ErbB3を結合する単一鎖抗体は、B1D2(配列番号48〜50および51〜53に示される、それぞれVHおよびVLCDRを有する)と称されるErbB2を結合する単一鎖抗体に連結される。二重特異性抗体H3×B1D2の抗体構成要素は、米国特許第7,332,585号および第7,332,580号、並びにPCT出願第PCT/US2006/023479号(国際公開第WO2007/084181号として公開)およびPCT出願第PCT/US2007/024287号(国際公開第WO2008/140493号として公開)にさらに記載されている。
【0089】
また別の実施形態において、治療薬は、2つ以上の抗ErbB3抗体を含み、その抗体はそれぞれ、ErbB3上の異なるエピトープに結合する。好ましくは、治療薬は、3つの抗ErbB3抗体を含み、その抗体のそれぞれは、ErbB3上の異なるエピトープに結合する。
【0090】
別の実施形態において、治療薬は、抗ErbB4抗体を含む。また別の実施形態において、治療薬は、汎ErbB阻害剤、またはHER二量体化阻害剤を含む。HER二量体化阻害剤の例は、抗体ペルツズマブ(2C4抗体としても知られる)であり、これは、Agus,D.B.et al.(2005)J.Clin.Oncol.23:2534−2543にさらに記載されている。
【0091】
また別の実施形態において、治療薬は、ErbBシグナル伝達経路の1つ以上の小分子阻害剤を含み、その代表的な例としては、AstraZeneca and Tevaから商業的に入手可能なゲフィチニブ(Iressa(登録商標))、およびGlaxoSmithKlineから商業的に入手可能なラパチニブ(Tykerb(登録商標))が挙げられる。ErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤の他の例としては、CI−1033(PD183805;Pfizer)、エルロチニブHCL(OSI−774、Tarceva(登録商標);OSI Pharma)、PKI−166(Novartis)、PD−158780、EKB−569、およびチロホスチンAG1478(4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリン)が挙げられる。
【0092】
別の実施形態において、細胞ネットワークは、c−Met(間葉上皮転換因子)シグナル伝達経路を含む。一実施形態において、(a)において測定および/または入力される1つ以上の構成要素は、c−Metシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、肝細胞成長因子(HGF)が挙げられる。加えて、または代替的に、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、c−Metシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、c−Met受容体タンパク質チロシンキナーゼが挙げられる。
【0093】
上記の点を考慮すると、本明細書で提供される予測方法は、細胞応答の予測、例えば、c−Metシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする治療薬に対するコンピュータで生成された腫瘍応答の予測を可能にする。治療薬は、例えば、c−Metに結合する抗体(例えば、モノクローナル抗体)を含んでもよい。このような抗cMet抗体の例としては、AV299(AVEO)、AMG102(Amgen)、および5D5(OA−5D5;Genentech)が挙げられる。c−Metシグナル伝達経路を標的とする好適な治療薬は、抗c−Met抗体に連結された抗ErbB1抗体を含む、二重特異性モノクローナル抗体を含む。このような二重特異性抗体の例は、PCT公報公開第WO2005/117973号および第WO2006/091209号にさらに記載されている。別の実施形態において、治療薬は、c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤であり、その例としては、ARQ197(ArQule)およびPHA665752(Christensen,J.G.et al.(2003)Cancer Res.63:7345−7355)が挙げられる。
【0094】
別の実施形態において、細胞ネットワークは、インスリン成長因子1受容体(IGF1R)シグナル伝達経路を含む。一実施形態において、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、IGF1Rシグナル伝達経路に関与する1つ以上のリガンドを含むことができる。このようなリガンドの非限定的な例としては、インスリン成長因子1(IGF1)が挙げられる。加えて、または代替的に、(a)において測定される1つ以上の構成要素は、IGF1Rシグナル伝達経路に関与する1つ以上の受容体を含むことができる。このような受容体の非限定的な例としては、IGF1R受容体が挙げられる。
【0095】
上記の点を考慮すると、本明細書の予測方法は、細胞応答の予測、例えば、IGF1Rシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする治療薬に対するコンピュータで生成された腫瘍応答の予測を可能にする。好適な実施形態において、治療薬は、IGF1Rに結合する抗体であり、その例としては、mAb391(Hailey,J.et al.(2002)Mol.Cancer.Ther.1:1349−1353)、IMC−A12(Imclone Systems,Inc.)、19D12(Schering Plough)、H7C10(Goetsch, L.et al.(2005)Int.J.Cancer 113:316−328)、CP751,871(Pfizer)、SCV/FC(ImmunoGen,Inc.)、およびEM/164(ImmunoGen,Inc.)が挙げられる。好適な実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体に連結された抗IGF1R抗体を含む、二重特異性抗体である。このような二重特異性抗体の例は、PCT公報公開第WO2005/117973号および第WO2006/091209号にさらに記載されている。別の実施形態において、治療薬は、IGF1R(例えば、チロシンキナーゼ阻害剤)の小分子阻害剤であり、その例としては、NVP−AEW541(Novartis)、NVP−ADW742(Novartis)、NVP−TAE226(Novartis)、BMS−536,924(Bristol−Myers Squibb)、BMS−554,417(Bristol−Myers Squibb)、ピクロポドフィリン(PPP)(Menu,E.et al.(2006)Blood 107:655−660)等のシクロリグナン、およびPQ401(Gable,K.L.et al.(2006)Mol.Cancer Ther.5:1079−1086)が挙げられる。
【0096】
また別の実施形態において、治療薬は、複数の治療薬の組み合わせを含み、該組み合わせは、上述のErbB経路薬剤の少なくとも1つを含む薬剤の組み合わせ等の、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤を含む。例えば、組み合わせ薬剤は、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする2つ以上の薬剤を含むことができる。代替的に、組み合わせ薬剤は、ErbBシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤と、c−MetまたはIGF1Rシグナル伝達経路等の別のシグナル伝達経路内の構成要素を標的とする、少なくとも1つの薬剤とを含むことができる。
【0097】
様々な他の実施形態において、細胞ネットワークは、c−Metシグナル伝達経路と組み合わせたErbBシグナル伝達経路、またはIGF1Rシグナル伝達経路と組み合わせたErbBシグナル伝達経路等の、2つ以上のシグナル伝達経路の組み合わせを含む。
【0098】
本明細書に提供される予測方法の別の実施形態において、このような方法は、細胞試料において、細胞中の1つ以上の遺伝子の変異状態を決定する手順をさらに含むことができる。好ましくは、KRAS(カーステンラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ)、PI3K、およびPTENから選択される、少なくとも1つの遺伝子の変異状態が決定される。加えて、または代替的に、本方法は、KRAS、PI3K、およびPTENから選択される少なくとも1つの遺伝子の変異状態等の、細胞中の1つ以上の遺伝子の変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取るコンピュータシステムを含むことができる。
【0099】
予測方法の別の実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含み、(a)は、BTCおよびARを測定する、および/またはその測定されたレベルを入力することを含み、本方法はさらに、KRAS遺伝子の変異状態を決定すること、またはその変異状態を入力することを含む。別の実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路を含み、(a)は、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、BTC、AR、HB−EGF、EGF、TGFα、EPG、およびEPRを測定する、および/またはその測定されたレベルを入力することを含み、本方法はさらに、KRAS遺伝子の変異状態を決定すること、またはその変異状態を入力することを含む。これらの実施形態において好ましくは、(b)において計算されたNASは、ErbBシグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする。別の好適な実施形態において、(b)において計算されたNASは、患者の腫瘍試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。また別の好適な実施形態において、(b)において計算されたNASは、患者の腫瘍試料中のリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0100】
上述の特定の方法内で、治療薬に対する複数の既知の応答細胞および非応答細胞のそれぞれにおいて計算されたNAS値またはNIS値は、閾NAS値またはNIS値を設定するために使用され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。別の方法において、治療に対する細胞の応答は、(b)において計算されたNASまたはNISを、NASまたはNISの閾値と比較することにより予測され、治療薬に対する応答性または非応答性を示す。
【0101】
V.ErbB経路阻害剤に対する応答を予測するためのバイオマーカーおよび方法
別の態様において、本発明は、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答性を予測する直接的バイオマーカーを提供する。このようなバイオマーカーは、本明細書で提供される計算モデルを使用して特定することができる。このようなバイオマーカーを特定するための方法は、概して、(a)細胞試料において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定することと、(b)(i)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、(ii)計算されたレベルが治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測する細胞ネットワークの構成要素を特定することにより、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するバイオマーカーとしての構成要素を特定することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用することとを含む。
【0102】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための特定の方法は、
(a)計算システムが、入力デバイスを通して、細胞試料において測定された細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取ることと、
(b)前記計算システムが、細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、
(c)前記計算システムが、計算されたレベルにより治療薬を用いた治療に対する細胞の応答が予測される細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、該構成要素を、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーとして特定することと
を含む。
【0103】
例えば、実施例10に図示されるように、計算モデルは、1つ以上のNAS値(細胞ネットワークの活性化の測定として)を取得するために、細胞ネットワーク(例えば、ErbBシグナル伝達経路)の1つ以上の構成要素のレベルを計算するために使用され得、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答とNASとの相関が決定され得る。計算されたレベルが試料を応答株および非応答株に分ける、細胞ネットワークのこれらの構成要素も、特にこれらの構成要素が、直接的手段によって容易に測定可能である時、治療に対する応答を予測するための直接的バイオマーカーとして使用され得る。つまり、本明細書に記載される計算モデル/NASアプローチは、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答性を予測する(計算された)構成要素を特定するために使用され得、次いで、構成要素が特定されると、これらは、応答性を予測するための直接的バイオマーカーとして、直接的に測定され得る。例えば、本明細書に記載される計算モデルは、ErbBシグナル伝達経路のホモダイマーおよびヘテロダイマーのレベルを計算するために使用され、次いで、試料を応答株および非応答株に分けるこれらのダイマーは、腫瘍治療の応答性を予測するための直接的バイオマーカーとして、直接的に測定され得る。
【0104】
さらに、実施例8に記載するように、腫瘍試料中の(i)HRGおよび(ii)少なくとも1つのErbBファミリー受容体(例えば、ErbB1、ErbB2、およびErbB3)のレベルの組み合わせ測定が、抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6)等のErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性に関して、腫瘍を、応答株または非応答株に効率的に分類することが実証されている。さらに、実施例10にさらに記載するように、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベル、またはリン酸化ErbB1/ErB3ヘテロダイマーのレベルは、抗ErbB3抗体(例えば、Ab#6)等の、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性の直接的マーカーとしての役割を果たすことができる。さらに、実施例12にさらに記載するように、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、およびErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルは、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体(例えば、H3×B1D2)等の、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する応答性に関して、腫瘍を、応答株または非応答株に効率的に分類する。
【0105】
上記のように、本発明は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法を提供する。特定のこのような方法は、
(a)(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを、細胞試料において測定することと、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測し、対照と比較したHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測することとを含む。
【0106】
特定の状況において、HRGおよびErbB1のレベルが測定される。他の場合において、HRGおよびErbB2のレベルが測定されるか、またはHRGおよびErbB3のレベルが測定される。他の状況において、HRG、並びにErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも2つの受容体のレベルが測定されるか、またはHRG、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルが測定される。特定の状況において、予測は、
(i)計算システムが、細胞試料においてそのレベルが測定される(i)HRG、並びに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定レベルを特定する入力を、入力デバイスを通して受け取ることと、
(ii)前記計算システムが、測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示することと
を含む方法を使用して計算的に実施されてもよく、ここで、対照と比較したHRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0107】
応答性が予測される好適な治療薬は、抗ErbB3抗体、より好適には、Ab#6(配列番号1および2に示される、それぞれVHおよびVL配列)、または配列番号7〜9(VH CDR1、2、3)および10〜12(VLCDR1、2、3)に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗ErbB3抗体を含む。
【0108】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための他の方法は、
(a)ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上のレベルを、細胞試料において測定することと、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を、コンピュータを使用して予測することと
を含み、ここで、対照と比較したErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0109】
予測は、
(i)計算システムが、細胞試料においてそのレベルが測定される、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を受け取ることと、
(ii)前記計算システムが、測定されたレベルに基づき、治療薬を用いた治療に対する細胞の予測される応答を生成し、その後、出力デバイスで表示することと
を含む方法を使用して、計算的に実施されてもよく、ここで、対照と比較したErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異が、治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する。
【0110】
上記方法の特定の実施形態内において、測定されたレベルは統計分類アルゴリズムに入力され、治療に対する細胞の応答は該アルゴリズムの出力に基づき予測される。さらなるこのような方法において、ネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用した測定レベルに基づき計算され、好ましくは、治療薬を用いた治療に対する細胞の応答は、NAS値またはNIS値に基づき予測される。
【0111】
特定の実施形態内において、測定されたレベルは、ErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルであり、治療薬は、上述の、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体である。
【0112】
上記方法で使用するための好適な細胞は、上記に列挙されるものを含む、腫瘍細胞である。試料は、腫瘍組織、微細針吸引液、乳頭吸引液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿、またはそこから単離された、脱離または循環腫瘍細胞を含む。
【0113】
上記のように、測定されたレベルは、タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)のレベル、またはmRNAレベルであり、一般的に、上述のように決定することができることは明らかである。
【0114】
上記方法はいずれも、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答に基づき、(例えば、治療薬についての)治療レジメンを選択することをさらに含み、かつ/または予測される応答に基づき、使用するための治療薬を調製することをさらに含んでもよい。
【0115】
好適な実施形態において、対照と比較したレベルの差異は、レベルの上昇である。上記の方法は、必須ではないが、治療薬に対する細胞の予測される応答性に基づき、該治療薬を用いて、細胞、または該細胞が得られた対象を治療することをさらに含むことができる。
【0116】
ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよび/またはリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのレベルが測定される実施形態において、好ましくは、応答性が予測される治療薬は、抗ErbB3抗体、より好ましくは、Ab#6(配列番号1および2に示されるそれぞれVHおよびVL配列を有する)、または配列番号7〜9(VHCDR1、2、3)および10〜12(VLCDR1、2、3)に記述される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗ErbB3抗体である。
【0117】
ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルが測定される実施形態において、応答が予測される治療薬は、好ましくは、抗ErbB3×抗ErbB2二重特異性抗体、より好ましくは、二重特異性抗体H3×B1D2(配列番号41に示されるアミノ酸配列)またはB1D2(配列番号48〜50および51〜53)のCDRを含む抗ErbB2抗体に連結された、H3(配列番号42〜44および45〜47)のCDRを含む抗ErbB3抗体を含む二重特異性抗体である。
【0118】
受容体ホモダイマーもしくはヘテロダイマー、またはリン酸化受容体ホモダイマーもしくはヘテロダイマーのレベルは、当該分野において知られている方法を使用して、細胞試料において測定され得る。例えば、このようなホモダイマーまたはヘテロダイマーは、米国特許第7,105,308号、米国特許第7,255,999号、米国公開第20040229380号、および米国公開第20080187948号に記載されるもの等、二量体化検出法を使用して測定され得る。これらの方法は、1つがタグ付けされたプローブで、1つが切断プローブである、対のプローブ(例えば、抗体)を利用し、それぞれのプローブは、ダイマーの1構成要素に特異的に結合する。2つのプローブをダイマーに結合することにより切断を引き起こし、ダイマー複合体を分子タグから解放することにより、ダイマー複合体形成の尺度を提供する。このような試験法は、本明細書において、近似基準法とも称され、その商業的に入手可能な例としては、VeraTag(登録商標)system(Monogram Biosciences)が挙げられる。代替的に、ダイマー内の構成要素の共免疫沈降法、並びにフェルスター共鳴エネルギー転移ベースの方法および蛍光タンパク質再構成法(BiFC)(例えば、Tao,R.H. and Maruyama,I.N.(2008)J.Cell Sci.121:3207−3217にさらに記載される)等の他の近似基準法の使用を含むが、これらに限定されない、当該分野において知られているダイマーレベルを定量化するための他の方法が使用され得る。
【0119】
上記の直接的バイオマーカー法の一実施形態において、(a)で測定されたレベルは、計算システムに格納されている統計分類アルゴリズムに入力され、治療に対する細胞の応答は、アルゴリズムおよび測定されたレベルを使用して、計算システムでのデータの計算および変換に基づくアルゴリズムの出力に基づいて、予測される。別の実施形態において、ネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)は、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用して、(a)で測定されるレベルに基づき計算される。治療薬を用いた治療に対する細胞の応答は、計算されたNAS値またはNIS値に少なくとも部分的に基づき予測され得る。
【0120】
様々な実施形態において、治療薬は、抗ErbB3抗体、抗ErbB1抗体、抗ErbB2抗体、抗ErbB4抗体、汎ErbB阻害剤、HER二量体化阻害剤、およびErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤の1つ以上の任意の組み合わせを含み、そのそれぞれは、上で説明および例示される。
【0121】
VI.治療における方法の使用
本発明の方法は、疾患に関与する細胞ネットワークの1つ以上の構成要素を標的とする治療薬が使用可能である、広範な疾患における治療の有効性の予測に使用され得る。さらにまた、本発明の方法は、疾患に罹患している対象の治療レジメンの選択に使用され得、該方法は、選択された治療レジメンに従い対象を治療することをさらに含むことができ、これは、対象に1つ以上の治療薬を投与することを含むことができる。疾患の例としては、癌、自己免疫疾患、および炎症性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明の方法は、例えば、治療薬を用いた治療に対する腫瘍の応答を計算的に予測する、すなわち、腫瘍をもつ患者の治療薬を用いた治療に対する応答性を予測する、予測に特に有用である。予測方法は、当該方法においてモデル化される、シグナル伝達経路に依存する任意の腫瘍で使用され得る。例えば、一実施形態において、方法は、ErbBシグナル伝達経路(例えばErbB3シグナル伝達経路)に依存する腫瘍で使用される。他の実施形態において、方法は、c−MetまたはIGF1Rシグナル伝達経路に依存する腫瘍で使用され得る。好適な実施形態において、腫瘍は、結腸癌腫瘍である。別の好適な実施形態において、腫瘍は、非小細胞肺癌(NSCLC)腫瘍である。別の実施形態において、腫瘍は、固形腫瘍である。別の実施形態において、腫瘍は、明細胞肉腫等の非固形腫瘍である。様々な他の実施形態において、腫瘍は、例えば、肺、結腸、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、頭頚部、甲状腺、および筋肉から選択される組織の腫瘍であり得る。また他の実施形態において、腫瘍は、胃腸腫瘍、胃腫瘍、または口腔/咽頭腫瘍である。
【0123】
予測方法を実施するために、細胞試料、例えば、腫瘍細胞を患者から取得する。例えば、腫瘍の好適な試料は、腫瘍組織の試料である。腫瘍組織試料は、腫瘍の生検、または腫瘍の外科的摘出等の、標準的な方法により取得され得る。腫瘍組織の新鮮な凍結試料が使用され得、または代替的に、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料も、使用に適している。腫瘍からの他の種類の試料も、本方法で使用するために適している可能性があり、該試料は、腫瘍からの細胞、および/または腫瘍により分泌された細胞構成要素を含有する。腫瘍の他の種類の試料の非限定的な例としては、微細針吸引液、乳頭吸引液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿、またはそこから単離された、脱離または循環腫瘍細胞が挙げられる。
【0124】
好適な実施形態において、本発明は、治療薬を用いた治療に対する癌患者の応答を予測する方法を提供し、該方法は、患者の腫瘍が、特定の治療的処置に応答する可能性についての迅速な情報を提供するために、診断検査室によって簡便にかつ迅速に行われ得る。この予測方法において、新鮮な凍結試料またはFFPE保存組織試料等の腫瘍試料が患者から取得され、腫瘍の受容体/リガンドレベルが、半定量的免疫組織化学検査(IHC)を介して測定される。測定に選択される受容体およびリガンドは、治療薬が、どの細胞ネットワークを標的にするかに基づく(例えば、ErbB経路において、以下のリガンド/受容体が測定され得る:HRG、BTC、ErbB1、ErbB2、およびErbB3)。半定量的IHC測定値は、その後、患者の試料と比較するために、既知の受容体およびリガンド発現レベルを用いた細胞プラグまたは異種移植片を含有する対照スライドを使用して、濃度に変換される。特定の状況において、対象の1つ以上の遺伝子(例えば、PI3K、PTEN)の変異状態は、標準的な遺伝子型決定方法を使用して、試料において決定することができる。次に、データセット(リガンドおよび受容体の濃度、決定された場合、遺伝子変異状態)は、対象の細胞ネットワークの計算モデルに入力され、ネットワーク活性化状態(NAS)が計算される。次いで、治療薬に対する応答性の予測が、計算されたNAS値と、応答株および非応答株についてのNAS閾値との比較に基づき行われ得る。タンパク質濃度および変異データの計算モデルへの入力、その後のNASおよび予測される応答の出力のためのウェブベースのアプリケーションの使用は、診断検査室が、治療薬を用いた治療に対する腫瘍の応答の可能性の知識をほぼ即時に取得することを可能にする。
【0125】
本明細書に記載する本発明の予測方法のいずれかにおいて、本方法を使用して、治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答が、予測された後、本方法はさらに、治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の予測される応答に基づき、対象の治療レジメンを選択することを含むことができる。例えば、方法は、治療に対する細胞の計算的に予測される応答に基づき、対象の治療レジメンを表示し、手動または自動的に推奨および/または選択する計算システムをさらに含むことができる。さらにまた、治療レジメンが細胞の予測される応答に基づき推奨または選択されると、本発明の方法は、対象に1つ以上の治療薬を投与することを含むことができる、推奨された、または選択された治療レジメンに従い、対象を治療することをさらに含むことができる。
【0126】
また、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞(例えば、腫瘍細胞)の応答を予測するためのキットも、本明細書で提供する。このようなキット1つは、(a)細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための1つまたは複数の試験法と、(b)細胞ネットワークの計算モデルを使用して、細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための説明書と、(c)治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットの使用説明書とを含む。追加の実施形態において、キットは、NASまたはNISを計算するための統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含むことができる。
【0127】
細胞ネットワークは、例えば、ErbBシグナル伝達経路、c−Metシグナル伝達経路、またはIGF1Rシグナル伝達経路であり得る。治療薬は、例えば、これらの経路内のいずれかの構成要素を標的とする、上述の治療薬のいずれかであり得る。
【0128】
一実施形態において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための手段は、構成要素、例えば、1つ以上の抗体試薬等の、タンパク質レベルの検出を可能にする1つ以上の試薬である。別の実施形態において、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための手段は、構成要素、例えば、1つ以上の核酸試薬(例えば、核酸プローブ、PCRプライマー等)等の、mRNAレベルの検出を可能にする1つ以上の試薬である。細胞構成要素のタンパク質またはmRNAのレベルを検出するこのような試薬は、当業者に周知である。レベルを検出するためのこのような手段は、タンパク質レベルを測定するように構成された計算デバイスも含むことができる。
【0129】
細胞構成要素のタンパク質レベルを検出するために適した試験法は、定量的蛍光活性化細胞選別法(qFACS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA, Luminex)、免疫組織化学検査(IHC)、定量的免疫組織化学検査(qIHC)、質量分析法、およびウエスタン(免疫ブロット)法等の、本明細書に記載されるものを含む。細胞構成要素のmRNAレベルを検出するために適した試験法は、例えば、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)法およびノーザンブロット分析を含む。細胞ネットワークの1つ以上の構成要素を検出するための手段は、例えば、構成要素のレベルを評価するために試験法で使用するための緩衝剤または他の試薬も含むことができる。キットは、細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための試験法を実施するための説明書(例えば、ラベルまたは添付文書等の印刷された説明書)を含むことができる。
【0130】
好適な実施形態において、細胞ネットワークは、ErbBシグナル伝達経路であり、キットは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、HRG(including HRG−β1を含む)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRから選択されるErbBシグナル伝達経路の1つ以上の構成要素(例えば、1つ以上の受容体、受容体ホモダイマー、受容体ヘテロダイマー、および受容体リガンド)のレベルを検出するための手段を含む。より好適には、キットは、少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路受容体(例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4)、および少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路試薬(例えば、HRG、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPR)のレベルを検出するための手段を含む。例えば、一実施形態において、キットは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTCのレベルを検出するための手段を含む。別の実施形態において、キットは、ErbB1およびHRGのレベルを検出するための手段を含む。また別の実施形態において、キットは、ErbB1、ErbB2、およびErbB3を検出するための手段を含む。また他の実施形態において、キットは、ErbB2モノマー、ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーを検出するための手段を含む。
【0131】
細胞ネットワークの計算モデルを使用して細胞のネットワーク活性化状態(NAS)またはネットワーク阻害状態(NIS)を計算するための手段は、例えば、命令が実行されると、細胞のNASまたはNISを計算するための動作をプロセッサに実行させるための実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品であり得る。代替的に、NASまたはNISを計算するための手段は、例えば、細胞中の細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルについての情報をユーザが入力して、細胞のNASまたはNISを計算することができるコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとのインターフェース接続を可能にする構成要素であり得る。このような構成要素は、例えば、インターフェース、ウェブページ、および/またはインターネットベースのサービスにアクセス可能なパスワード、並びに、説明書、例えば、サービスを使用するための印刷された説明書を含むことができる。当該分野において確立され、また本明細書でさらに記載されるコンピュータシステムおよびソフトウェアは、本発明のキットにおける使用に適合し得る。図16で参照される計算デバイスおよび計算構成要素は、計算プロセッサ、測定および入力デバイス、出力デバイス等の、NASまたはNISを計算するための手段も含むことができる。
【0132】
治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットを使用するための説明書は、コンピュータ上の説明書およびコンピュータインターフェース、並びに印刷出版物およびマニュアルを含むことができる。いくつかの状況において、キットは、一緒に梱包される。他の実施形態において、キットの様々な構成要素は、異なる場所で維持される。例えば、構成要素の一部は、1つ以上の遠隔計算システム上に維持、格納、またはホストされ得、ネットワーク接続によってのみ利用可能である。
【0133】
好ましくは、本発明のキットは、腫瘍を有するヒト患者等の、ヒト対象での使用のために設計される。このような状況において、細胞は、典型的には、生検または腫瘍の摘出により患者から得られた細胞である。
【0134】
VII. 治療方法およびキット
悪性腫瘍を有する患者を治療するための方法を提供する。概して、このような方法は、患者から腫瘍試料(例えば、生検材料または摘出試料)を得ることと、試料中の1つ以上のバイオマーカーのレベルを決定することと、試料中のバイオマーカーのレベルが、例えば、バイオマーカーのレベルが最小レベルを超える等の、予め決定された特性に一致する場合、患者に治療薬を投与することとを含む。このような方法は、任意の固形腫瘍に適用される。適切な腫瘍試料は、一般的に上述の通りである。特定の実施形態において、バイオマーカーは、ErbB受容体タンパク質である。
【0135】
特定の実施形態において、このような方法は、腫瘍試料を得ること、試料中のpErbB3のレベルを試験すること、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与することを含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、無血清培地で約20〜24時間培養した後、ACHN細胞(腎癌細胞、ATCC番号CRL−1611)の培養物において試験されたpErbB3のレベルの25%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%(好ましくは、50%)である、最小レベル以上である場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、試料において決定されたpErbB3のレベルが、最小レベルより低い場合、続いて患者に投与される少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない。ACHN細胞の好適な培養物は、例えば、継代8ACHN細胞等の、9回を超えて継代されなかったものである。このような実施形態のさらなる態様において、バイオマーカーはpErbB3であり、治療薬は抗ErbB3抗体であり、最小レベルは、ACHN異種移植片腫瘍モデルからの腫瘍細胞で観察された40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%のレベルである。またさらなる態様において、最小レベルは、0.064pg/μg総タンパク質、0.08pg/μg総タンパク質、0.096pg/μg総タンパク質、0.122pg/μg総タンパク質、0.128pg/μg総タンパク質、0.144pg/μg総タンパク質、または0.16pg/μg総タンパク質である。
【0136】
前述の実施形態において、試料中のpErbB3のレベルは、特定の態様において、(a)試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも2つの構成要素を測定すること、(b)ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルに入力された(a)で測定されたレベルを使用して、試料中のpErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態(NAS)を計算すること、および(c)そこから試料中のpErbB3のレベルを決定することにより、決定され得る。特定の実施形態において、ErbB3シグナル伝達経路の少なくとも3つ、4つ、5つ、または6つの構成要素のレベルが、(a)で検出される。ErbB3シグナル伝達経路の好適な構成要素は、例えば、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4(およびErbBタンパク質のホモダイマーおよびヘテロダイマー)、HRG(例えば、HRG−β1)、BTC、EGF、HB−EGF、TGFα、AR、EPG、およびEPRを含む。これらの構成要素は、タンパク質(例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマー)として、または適用可能な場合(例えば、総タンパク質レベルが、リン酸化状態に関わらず測定されるが、例えば、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーにおけるリンタンパク質レベルが測定されることがない場合)、タンパク質をコードするmRNAとして試験されてもよい。適切な試験法は、当該分野において周知であり、本明細書に記載されるものを含む。
【0137】
さらなる態様において、pErbB3のレベルを決定するための方法は、NASの計算に使用されるErbB3シグナル伝達経路の計算モデルを生成するために、統計分類アルゴリズムを適用することをさらに含む。さらなる実施形態において、計算されたNASは、試料中のリン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマーおよび/またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする。
【0138】
本発明において使用するための抗ErbB3抗体は、参照により本明細書に援用される国際公開第WO2008/100624号として公開された国際特許出願第PCT/US2008/002119号に開示される抗ErbB3抗体を含むが、これに限定されない。そこに開示された特に好適な抗体は、現在、MM−121として知られ、これは、現在、第I相臨床試験中である。好適な抗ErbB3抗体は、上述の抗ErbB3抗体も含む。本明細書に開示される方法で使用されてもよい別の抗ErbB3抗体は、U3−1287(AMG888)(U3 Pharma AG and Amgen)であり、これは、現在、第I相臨床試験中である。
【0139】
本明細書に記載される治療に適した腫瘍は、一般的に上述の通りである。代表的な腫瘍は、結腸、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される器官である。いくつかの態様において、ErbB3陽性腫瘍、またはErbB2およびErbB3陽性腫瘍(例えば、胸部腫瘍および非小細胞肺癌腫瘍)が好ましい。
【0140】
抗腫瘍性治療薬は、任意の適切な形態で、患者に投与されうる。典型的には、治療薬は、生理学的に受容可能な担体と組み合わせた治療薬を含む、医薬組成物の形態で提供される。所望する場合、他の活性成分または不活性成分も、医薬組成物内に含まれてもよい。
【0141】
本明細書で使用される、「生理学的に受容可能な」という用語は、動物、より具体的にはヒトでの使用において、米連邦または州政府規制機関(例えば、U.S.FDAまたはEMEAA)に承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方に掲載されていることを意味する。「担体」という用語は、抗腫瘍性治療薬と共に製剤化されて投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。生理学的に受容可能な担体は、静脈内投与または他の非経口投与に好適な担体である、水性溶液等の減菌液であり得る。生理食塩水溶液、および水性デキストロース並びにグリセロール溶液は、注入溶液の水性担体の例である。好適な医薬賦形剤は、例えば、澱粉、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、およびエタノールを含む。組成物は、所望する場合、少量の湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、または防腐剤も含有することができる。
【0142】
医薬組成物は、予防的および/もしくは治療的処置のための、経皮手段による投与等の、例えば、非経口、鼻腔内、局所、経口、または局所的投与を含む、任意の適切な手段の投与用に製剤化されてもよい。適切な医薬投与形態および担体の例は、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」,A.R.Gennaro,ed.Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(21sted.,2005)に記載されている。
【0143】
通常、本明細書に提供される方法に使用される医薬組成物は、非経口的(例えば、静脈内、筋肉内、または皮下注入によって)に投与される。非経口投与において、抗腫瘍性治療薬は、担体に懸濁されるか、溶解されるかのいずれかであり得る。水、緩衝水、生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水等の、減菌水性担体が、一般的には好ましい。加えて、減菌された固定油が、溶剤または懸濁媒体として利用されてもよい。この目的において、合成モノグリセリドまたはジグリセリトを含む、任意の無刺激性固定油が利用されてもよい。加えて、オレイン酸等の脂肪酸は、注入用組成物の調製において有用である。pH調節および緩衝剤、浸透圧調整剤、分散剤、懸濁剤、湿潤剤、界面活性剤、防腐剤、局所麻酔剤、並びに緩衝剤等の医薬的に受容可能な補助物質も、生理学的状態に近づけるために含まれてもよい。
【0144】
好適な一実施形態において、医薬組成物は、患者(例えば、ヒト)への静脈内投与用に製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、減菌された等張水性緩衝剤の溶液である。必要ならば、組成物は、可溶化剤も含んでもよい。成分は、例えば、アンプル等の気密封入容器中の乾燥凍結乾燥粉末、または無水濃縮物等の、単位用量形態で、別個に、または一緒に混合されるかのいずれかで供給されてもよい。組成物が点滴により投与される場合、減菌された医薬品グレードの水または生理食塩水を含む点滴ボトルを用いて投薬され得る。組成物が注入により投与される場合、投与前に材料を混合するように、注入用減菌水または生理食塩水が提供され得る。
【0145】
医薬組成物は、従来の減菌技法により減菌されるか、または減菌濾過されてもよい。減菌水性溶液は、そのまま使用するように梱包されるか、または凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥された調製物は、投与前に減菌水性担体と混合される。水性医薬組成物のpHは、典型的には、3から11の間、より好ましくは、5から9の間、または6から8の間、最も好ましくは、7〜7.5等の7から8の間である。
【0146】
治療薬は、一般的に、患者への単一用量の投与が治療有効量を送達する濃度で、医薬組成物内に存在する。治療有効量は、腫瘍成長の遅延もしくは停止、または好ましくは腫瘍サイズの減少等の、認識できる患者の利益をもたらす量である。治療有効量は、用いられる抗腫瘍性治療薬の活性、患者の年齢、体重、全身状態、性別および食生活、投与時間および経路、排出速度、複合薬等の任意の同時治療、および治療を受ける患者の組織損傷の種類および重篤度を含む、様々な要因により影響される。最適な用量は、当該分野において周知の通常の試験および手順を用いて確立され得る。概して、1日当り、週当り、または2週間に1回、体重1キログラムにつき約1mg〜約100mgの範囲の用量レベルを提供する組成物が好ましい。好適な用量範囲およびレジメンの非限定的な例は、1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、2週間に1回、または3週間に1回投与される2〜50mg/kg(対象の体重)、および1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、または2週間に1回投与される1〜100mg/kgを含む。様々な実施形態において、治療薬は、1週間に1回、もしくは1週間に2回、もしくは3日に1回、2週間に1回、または3週間に1回のタイミングで、3.2mg/kg、6mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、または40mg/kgの用量で投与される。さらなる用量範囲は、1〜1000mg/kg、1〜500mg/kg、1〜400mg/kg、1〜300mg/kg、および1〜200mg/kgを含む。適切な投与スケジュールは、3日に1回、5日に1回、7日に1回(すなわち、1週間に1回)、10日に1回、14日に1回(すなわち、2週間に1回)、21日に1回(すなわち、3週間に1回)、28日に1回(すなわち、4週間に1回)、および1ヶ月に1回を含む。
【0147】
好ましくは、治療薬(例えば、抗ErbB3抗体)は、治療薬の製造者または供給者により提供される処方情報の指示に従い、患者に投与される。
【0148】
悪性腫瘍を有する患者の治療に使用するためのキットもまた提供される。特定のこのようなキットは、典型的に、(a)試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも1つの構成要素のレベルを検出するための少なくとも1つの試験法と、(b)少なくとも1つの試験法から得たデータを用いて入力された、ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルを使用して、pErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態(NAS)を計算するための説明書とを含む。特定の実施形態において、このようなキットは、統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含む。特定の実施形態において、キットは、抗ErbB3抗体も含む。試験法は、典型的には、少なくとも1つのタンパク質構成要素、または少なくとも1つのmRNA構成要素の検出を可能にする、1つ以上の試薬を含む。特定の実施形態において、NASを計算するための説明書は、コンピュータにより命令が実行されると、プロセッサにNASを計算するための動作を実行させるための、実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品の使用を指示することを含み、このような実施形態において、ユーザは、ローカルコンピュータ上でコンピュータプログラムを作動するように指示されるか、またはユーザは、遠隔でコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとインターフェース接続するように指示されてもよい。
【0149】
さらなる実施形態内において、患者の腫瘍生検材料におけるpErbB3レベルが特定の最小値を超える場合には、抗ErbB3抗体が患者に投与され、pErbB3のレベルが特定の最小値を超えない場合には、抗ErbB3抗体が、患者に投与されないことを示す説明書(例えば、添付文書等の、例えばラベル貼付の形態で)と抗ErbB3抗体とを含むキットを提供する。例えば、このような説明書は、試料において決定されたリン酸化ErbB3のレベルが、無血清培地で約20〜24時間培養した後のACHN腎癌細胞(ATCC番号CRL−1611)の培養物において測定されたリン酸化ErbB3のレベルの50%以上の場合には、抗ErbB3抗体が、悪性腫瘍を有する患者に投与され、試料において測定されたリン酸化ErbB3のレベルが、ACHN腎癌細胞の培養物において測定されたリン酸化ErbB3のレベルの50%より低い場合には、抗ErbB3抗体が、悪性腫瘍を有する患者に投与されないことを示してもよい。
【0150】
VIII.計算実施形態
上述のように、および本明細書に提供される開示から容易に明らかであるように、本発明の実施形態の多くは、限定されないが、患者の応答の予測、推奨される治療の生成、バイオマーカーの特定、NAS値またはNIS値の計算、シグナル伝達経路の計算モデルの取得等を含む、上述の様々なプロセスを実施するための1つ以上の計算システムを用いる。
【0151】
図15Aおよび15Bは、本発明の特定の実施形態の実施中に、1つ以上の計算システムにより実行され得る、いくつかのプロセスのフローチャートを図示する。例えば、示すように、計算システムは、腫瘍の細胞ネットワークにおける構成要素の測定されたレベルの入力および腫瘍遺伝子の変異状態を測定および/または受け取るために用いられ得る。計算システムは、例えば、ローカルまたは遠隔のソースから計算モデルを受信、ダウンロード、構築、修正、訓練、および/またはアクセスすることにより取得され得る計算モデルを得るためにも使用され得る。
【0152】
計算モデルが得られると、1つ以上の計算システムは、例えば、細胞中のリン酸化タンパク質、ホモダイマー、および/ヘテロダイマーの関連レベルをシミュレーションすること等により、細胞のNASまたはNISを計算する。計算モデルはまた、計算システムで受け取ったユーザ設定に基づき、細胞ネットワークにおける追加の関連構成要素の特定を通して、予測バイオマーカーを特定するために、計算システムによって使用され得る。
【0153】
計算システムは、特定プロセスの一部として、計算システムにより受け取られ、構築され、および/または修正され得、また治療に対して予測される患者の応答を生成するため、並びに/または推奨される治療を生成および選択するために、NASまたはNISデータ、他のバイオマーカーデータ、および患者のデータとの様々な組み合わせで使用され得る、統計分類アルゴリズムを特定するためにも使用され得る。
【0154】
図15Aおよび15Bのフローチャートに図示される要素は、本発明の計算プロセスを実施するために提案されるある配列または順序を表すが、図15Aおよび15Bに図示するプロセスは、異なる順序を有する配列でも実施され得ることを理解されたい。例えば、推奨される治療は、計算モデルの生成またはNASもしくはNISの計算前に特定され得、これは、計算モデルの構築において使用することができる。同様に、タンパク質レベルの測定は、計算モデルの生成前または後に行なうことができる。
【0155】
本発明の一部として追加のプロセスを実施することができるため、本発明は、フローチャートに図示されるプロセスを含む方法にのみに限定されないことも理解されたい。例えば、本発明は、患者の情報(例えば、年齢、性別、既往歴)を得るため、および推奨される治療の実際の結果を追跡するためのプロセス、並びに他のプロセスも含むことができる。
【0156】
本発明のプロセスを遂行するために使用される計算システムは、異なる場所で、異なる種類の、1つ以上の異なる計算システムを含むことができることも理解されたい。
【0157】
図16は、本発明の特定の態様を実施するために使用され得る計算システムの一例を図示する(例えば、図15Aおよび15Bに図示される少なくともいくつかのプロセス、並びに本明細書全体を通して記載されるものを含む)。図示されるように、計算システムは、様々な入力デバイス、出力デバイス、計算モジュール、処理構成要素、および記憶媒体を含む。入力デバイスは、キーボード、マウスデバイス、タッチパッド、タッチスクリーン、マイクロホン、並びに任意の他の入力デバイスを含むことができる。出力デバイスは、スピーカ、ディスプレイスクリーン、印刷デバイス、スイッチ、並びに他の出力デバイスを含むことができる。計算モジュールは、本明細書に記載される機能を実施するために必要な様々なモジュールを含み、それには、計算モデルを受け取り、構築するためのモジュール、NASまたはNISを計算するためのモジュール、予測バイオマーカーを特定するためのモジュール、構成要素の測定されたレベルを取得、認識、および保存し、変異遺伝子状態を特定し、決定するためのモジュール、統計分類アルゴリズムを特定し、適用するためのモジュール、治療に対して予測される応答を生成するためのモジュール、推奨される治療を生成し、選択するためのモジュール、ユーザおよび1つ以上の他のデバイスとインターフェース接続するための通信モジュール、並びに本明細書に記載される様々な他のプロセスを実施するためのモジュールが含まれる。
【0158】
計算システムは、前述のモジュールを実行するために必要な1つ以上のプロセッサおよび他の処理構成要素、並びに、前述のモジュール並びに様々なデータ構造、計算モデル、および本明細書に記載される他のデータを格納するための記憶媒体も含む。記憶媒体は、計算システムにローカル接続しているように図示されているが、記憶媒体は、計算システムから遠隔に位置するか、または計算システムに部分的にのみローカル接続であってもよいことを理解されたい。例えば、いくつかの場合において、記憶媒体は、複数の異なる計算システム内で共有され、複数の計算システムに位置する格納スペースを含む、分散記憶を表す。記憶媒体は、持続性メモリおよび揮発性メモリの任意の組み合わせも含むことができる。
【0159】
図16は、計算システムが、測定デバイス、遠隔に位置するコンピュータ、遠隔サービス、および遠隔ネットワークを含む、1つ以上の他のデバイスにネットワーク接続可能であることも図示する。いくつかの場合において、1つ以上のこれらの他のデバイスは、本明細書に記載される1つ以上のプロセスを実施するため、いくつかの方法の実行は、複数の分散された計算システムおよびデバイスを含む、分散ネットワーク環境で実施される。
【0160】
前述の点を考慮して、本発明の範囲は、様々な異なる計算構成で実施され得ることを理解されたい。
【実施例】
【0161】
IX.実施例
本発明は、以下の非限定的な実施形態によりさらに説明される。本明細書に参照される米国、国際、または他の特許もしくは特許出願または公開のそれぞれの、および全ての開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0162】
実施例1:Ab#6を用いた異種移植片の有効性試験:訓練データセット
この実施例において、4つの異種移植片モデルが、抗ErbB3抗体Ab#6を用いた処理に対して応答する腫瘍細胞株を特定するために使用された。試験された4つの異種移植片腫瘍モデルは、異なる兆候を表す:MALME3M(メラノーマ癌株;ATCC番号HTB−64)、ADRr(卵巣癌細胞株;NCI−60、Cosmic試料ID番号905987)、ACHN(腎癌細胞株;ATCC番号CRL−1611)、およびDU145(前立腺癌細胞株;ATCC番号HTB−81)。以下にさらに詳細に記載するように、MALME3MおよびADRr異種移植片は、Ab#6を用いた処理に対する応答を示さなかったが、ACHNおよびDU145異種移植片は、Ab#6処理に対する応答を示した。
【0163】
異種移植片腫瘍モデルにおいて、マウス(nu/nuマウス:3〜4週齢の雌のマウス、T細胞欠損;非近交;白色種素性背景;Charles River Labs,Wilmington,MAから購入)の右脇腹に、皮下注入を介して、200μlの3.5×106〜3×108細胞/マウス(細胞株による)を移植した。初期腫瘍成長について、マウスをモニタリングした。腫瘍細胞は、腫瘍量が約200mm3になるまで、数日間成長させた。腫瘍量は、V=(π/6(L×W2)のように計算される。Ab#6抗体を用いて、600μg/注入の用量で、3日ごと(qd3)にマウスを処理する。対照マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で処理する。
【0164】
腫瘍量は、60〜80日間測定される。腫瘍成長における抗体治療の効果の結果(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)は、図1A〜1Dに示すグラフに要約され、これは、Ab#6処理が、DU145およびACHN異種移植片モデルにおいて、腫瘍の成長を阻害し、一方、Ab#6処理は、ADRrおよびMALME3M異種移植片モデルにおいて、腫瘍成長を(PBS対照と比較して)阻害しなかったことを示す。
【0165】
Ab#6に対する腫瘍の応答性の測定として、実験的データを最も良く描写する、指数関数的成長率を決定する。指数関数的成長を説明するために、以下の式を使用する。
V=V0*exp(k*t)
式中、Vは、mm3で表される腫瘍量であり、V0は、ゼロ時点での腫瘍量であり、kは、指数関数的成長率であり、tは、日数での時間である。
【0166】
異なる異種移植片試験に渡る成長低減を比較するために、試験された各細胞株において、成長率低減(GRR)値を計算するが、これは、以下の式を使用して、Ab#6の存在下で観察された成長率を、PBS対照群で観察された成長率と関連付ける。
成長率低減=1−(Ab#6成長率kAb#6)/(PBS成長率kPBS)
【0167】
試験された4つの細胞株のGRR値(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)を以下の表1に要約する。負の成長率低減の場合には、GRR値をゼロとする。
【0168】
(表1)異種移植片試験の訓練セットにおける腫瘍成長率低減の要約
【0169】
4つの異種移植片が示すAb#6処理に対する応答の範囲は、ADRrおよびMALME3M細胞は、Ab#6処理に対して応答を示さず、ACHNは、中程度の応答を有し、DU145細胞は、Ab#6処理に対して最も高い応答を有するという結果を示す。
【0170】
実施例2:腫瘍細胞株溶解物のpErbB3レベルは、異種移植片におけるAb#6応答性と相関する
この実施例において、リン酸化ErbB3(pErbB3)の濃度を、短期薬力学(PD)試験において、実施例1で試験されたMALME3M、ADRr、DU145およびACHNの4つの腫瘍細胞株のそれぞれにおいてインビボで測定した。OvCAR8異種移植片も、この実験に含めた(この異種移植片は、以下に記載する実施例5のAb#6処理に対して応答することが示されている)。
【0171】
MALME3M、ADRr、DU145、OvCAR8、およびACHN細胞を培養物中で成長させ、移植用に採取し(15×15cmプレート、約80%の集密度、細胞の総数=2〜4×108)、移植するまで氷上で維持した。細胞(約2×107細胞/マウス)を20匹のマウスの右脇腹に(皮下注入を介して、200μl細胞/注入/マウス)移植した後、初期腫瘍成長についてモニタリングしながら、マウスを回復させた。腫瘍は、デジタル式カリパス測定(L×W)で測定される。マウスが100mm3を超える腫瘍量に達すると、CO2窒息で安楽死させ、各マウスから腫瘍を摘出し、液体窒素で急速凍結する。生化学分析用に、凍結腫瘍組織試料を−80℃で貯蔵する。腫瘍溶解物中のリン酸化ErbB3量(pErbB3)をR&D Systems Human pErbB3のELISAキット(カタログ#DYC1769)を使用して、ELISAにより決定する。試料調製およびELISAプロトコルは、以下にさらに詳細に記載される。
【0172】
試料調製およびタンパク質抽出のために、最初に、凍結された腫瘍を粉砕し、事前に量られた2mlのVWR Cryotube(VWR International)に移す。粉砕された試料を量り、重量を記録する。試料の重量を計算した後、62mg/mlの最終濃度になるように、好適な量の氷冷溶解緩衝剤を各チューブに添加する。試料を低速で少しの間、ボルテックスにかけ、回転させながら、4℃でインキュベートする。
【0173】
その後、粗腫瘍溶解物をQiagen社のQiashredderに移し、試料のさらなる均質化のために、8分間、12000rpmで遠心分離する。透明な溶解物を新しいチューブに移した後、BCAタンパク質試験のために、各溶解物の少量を取り出す。残りの溶解液は、小分けし、さらなるELISA試験分析用に−80℃で貯蔵する。
【0174】
BCAタンパク質試験キット(Pierce、カタログ#23225)を使用して総タンパク質量を定量化するために、最初に、BCAキットの2mg/mlのBSA標準溶液を使用して、2mg/mlの原液濃度から開始し、ウシ血清アルブミン(BSA)8点標準曲線を調製する。キットの試薬AとB(50:1)を混合し、PBSで3倍および5倍希釈の貯蔵腫瘍溶解物を調製した後、20μlのBSA標準または希釈された腫瘍溶解物試料と160μlの作業試薬(working reagent)とを、96ウェルプレートの各プレートに添加する。プレートを摂氏37度で、20分間インキュベートする。OD562を読み取り、BSA標準曲線を使用して、腫瘍溶解物中の総タンパク質量を計算する。
【0175】
pErbB3のELISAを行うために、キット(R&D Systems DYC1769)により推奨される作業濃度に、異なる捕獲抗体をPBSで希釈する。黒い96ウェルプレート(Nunc Maxisorb)を希釈された捕獲抗体で覆った後、全てのプレートを、一晩、室温(RT)でインキュベートする。その後、Bio Tekプレート洗浄機で、プレートをPBST(PBS+0.05%Tween−20)で3回洗浄し、室温で2時間、200μlの1%BSA含有PBSTで遮断する。
【0176】
標準曲線用の組み換えタンパク質は、キットにより推奨される最高濃度および2倍希釈で、全部で11の点のために調製される。プレートをPBSで3回洗浄し、100μlの腫瘍溶解物を添加した後、室温で2時間インキュベートする。その後、プレートをPBSTで3回洗浄し、PBS/0.1% BSA/0.05% Tween−20の作業濃度に希釈された100μlの一次検出抗体を添加する。プレートをさらに2時間、室温でインキュベートする。最後に、プレートを読み取る前に、100μlの混合されたSuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce、カタログ#37069)を各ウェルに添加する。
【0177】
図2は、Ab#6を用いて処理された時の異種移植片で観察された成長率低減(%、上述の方法またはその多少の変形を使用して得た)に対する、未処理の異種移植片腫瘍(pg/μgでの腫瘍溶解物)中のpErbB3の濃度をプロットしたグラフである。図2は、腫瘍成長率低減と、短期薬力学試験で測定された構成的pErbB3レベルとの間に良好な相関関係があることを示す。Ab#6処理に応答しなかったMALME3MおよびADRr異種移植片は、最低レベルのpErbB3を示したが、Ab#6処理に応答したACHN、OvCAR8、およびDU145異種移植片は、有意に高いレベルのpErbB3を有した。これらの結果は、腫瘍細胞中のpErbB3レベルは、抗ErbB3抗体治療に対する腫瘍細胞の応答性と良く相関することを示す。
【0178】
実施例3:pErbB3およびpAKTレベルは、凍結する時間に従って減少する
この実施例において、腫瘍の凍結からの回復後の時間の経過に従うpErbB3およびpAKTの安定性、並びに腫瘍溶解物中のErbB1、ErbB2、およびErbB3の発現レベルが評価された。
【0179】
未処理ACHNおよびEKVX異種移植片マウスをCO2窒息により安楽死させ、腫瘍を切開し、4つに切り分け、0分、10分、30分、および60分の異なる時間点で液体窒素に入れる。その後、pErbB3およびpAKTレベル、並びにErbB1〜3レベルを、解凍後の各試料において測定する。上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た結果を、図3A〜3Eに示す棒グラフに要約するが、図3Aおよび3Bは、それぞれ、ACHN溶解物中のpErbB3およびpAKTのレベルを示し、図3C、3D、および3Eは、それぞれ、EKVX溶解物中のErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルを示す。
【0180】
図3Aおよび3Bに示すように、10分の試料において、0分の試料と比較して、測定可能なpErbB3およびpAKTレベルの減少が既に存在する。30分の試料において、対照(腫瘍の即時急速凍結、0分試料)と比較して、40%の濃度減少がpErbB3において観察され、対照と比較して、20%の濃度減少がpAKTにおいて観察された。対照的に、EKVXおよびACHN腫瘍細胞溶解物において、ErbB1〜3の総量は一定であり、凍結する時間に影響を受けないようであった(図3C〜3Eを参照)。したがって、腫瘍試料中の観察されたリンタンパク質の不安定さ、および観察された総タンパク質測定値の安定性は、腫瘍細胞溶解物中のレベルを直接的に測定することよりも、ErbB3のリン酸化レベルを計算することが有益であることを示す。この計算されたpErbB3のレベルは、以下に記載される実施例4で構築される機構的計算モデルを使用する、以下の実施例において、ネットワーク活性化状態(NAS)と称される。
【0181】
実施例4:ErbBシグナル伝達経路の機構的計算のモデルの構築および訓練
以下の実施例において、シグナル伝達経路の機構的計算生化学モデルの構築を記載する。ErbBシグナル伝達に関する文献知識に基づき、受容体に結合するリガンド、二量体化、受容体内在化、および分解を説明する全てのタンパク質−タンパク質相互作用、並びにPI3Kカスケードの活性化を導くアダプター分子Gab1の結合を含む、機構的計算モデルを開発した。実現されたErbBシグナル伝達ネットワークの絵を、図4Aに図示する。計算モデルは、質量作用動態を使用する、一連の非線形常微分方程式(ODE)である。図4Bは、シグナル伝達経路からの一連の生化学反応を示し、図4Cは、一連の流束を示す。生化学反応および流束は、図4Dに図示する、一連の非線形ODEに転換される。概して、タンパク質濃度ciの変化の状態は、方程式1に表されるように、タンパク質の産生速度v産生−タンパク質の消費速度v消費に等しい。
以下の実施例におけるAb#6に対する応答性を予測するために使用される計算モデルは、4つの全ての受容体(ErbB1〜4)およびAktシグナル伝達カスケードを含む哺乳類のErbBネットワークからなる。
【0182】
ErbB受容体は、細胞外リガンド結合ドメイン、細胞内チロシンキナーゼドメイン、およびシグナル伝達の足場としての役割を果たす細胞質側末端を有する、1回貫通I型膜貫通受容体である。ErbB1およびErbB4は、リガンド結合およびチロシンキナーゼ活性において、十分に機能的であるが、ErbB2は、いかなる既知のリガンドにも結合せず、代わりに、二量体化の準備ができた増幅器として機能する(Klapper,L.N.et al.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:4995−5000)。ErbB3は、無能キナーゼドメインを有し(Guy,P.M.et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:8132−8136)、したがって、触媒活性を欠失するが、代わりに、他のErbB受容体によりリン酸化される時にシグナルを伝達する。13の既知のErbBリガンドのうち、BTCおよびHRGは、最高ErbB3リン酸化レベルを誘発するリガンドとして用いられている。13の既知のErbBリガンドは、(i)EGF、形質転換成長因子α(TGFα)、およびアンフィレギュリン(AR)等のErbB1に特異的に結合するもの、(ii)BTC、HB−EGF、EPG、およびEPRを含むErbB1およびErbB4の両方に結合する二重特異性を示すもの、および(iii)NRG2とも性質を共有する、ErbB3/ErbB4に結合するNRG1(GGF2、SMDF、またはHRGとしても知られる)、およびErbB4のみに結合するNRG3/NRG4の2つのサブグループに分けられるニューレグリン(NRG)の3つのグループに分類され得る。リガンド結合後、受容体は、それらの細胞質側末端の残留物上で二量体化し、トランスリン酸化を受け、これによって、Shc、Grb2、GAP、Sos、およびPI3K等の、SH2含有アダプター分子のドッキング部位を形成する。ErbB1は、その細胞質側末端上に、少なくとも20のチロシンリン酸化部位を有し、そのうちの12は、SH2含有アダプタータンパク質および酵素と組むことが提唱されている(Schulze,W.X.et al.(2005)Mol.Syst. Biol.1:2005−2008)。他のErbB受容体は、同様に、複雑な翻訳後修飾を受ける。Grb2およびPI3K等の受容体関連アダプターは、RASを活性化し、最終的に、ERKおよびAKTを活性化する。AKTは、PI3K−p85のErbB3上の複数部位への直接的結合を介して、RASから独立した様式でも活性化され得る。
【0183】
数多くの計算モデルが発表されているが(例えば、Kholodenko, B.N.et al.(1999)J.Biol.Chem.274:30169−30181、Hatakeyama,M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−463、Resat,H.et al.(2003)Biophys.J.85:730−743、Hendriks,B.S. et al.(2005)J.Biol.Chem.280:6157−6169)、Sasagawa,S.et al.(2005)Nat.Cell.Biol.7:365−373、Birtwistle,M.R.et al.(2007)Molecular Systems Biology3:144を参照)、本明細書で使用される計算モデルは、基礎反応に基づく質量作用の製剤化の厳密さを保持しつつも、より広範であり、4つの全てのErbB受容体、および2つの別個のクラスのリガンド(HRGおよびBTC)を含む。
【0184】
文献に記載されている7つのErbBヘテロおよびホモダイマーは、モデル:ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4において用いた。これらのダイマーの大部分は、リガンド結合により活性化されるが、いくつかは、リガンド依存的様式でリン酸化されたダイマーが、その後、活性ダイマーを生成するために活性化または不活性化されるモノマーのいずれかを用いて、ホモまたはヘテロオリゴマー化するモノマーに分離される、「側面シグナル伝達」(または二次的二量体化)のプロセスを通して生じる。計算モデルは、ADRr細胞株を使用するHRGまたはBTCの存在下で形成されるダイマーの特定を可能にする、設定実験データを用いて訓練された。
【0185】
計算モデルは、測定または予測されなければならない2種類のパラメータである初期種数および速度定数を必要とする、非線形常微分方程式に基づく。モデルの較正前に、できるだけ多くのパラメータの値が、文献情報、例えば、リガンドのそれらの同族受容体への結合定数に基づき特定された。qFACS分析を使用することにより、ErbB受容体の発現レベルが、この出願で使用された全ての細胞株にわたって定量化された。さらに、ELISAを、BTCおよびpErbB3のレベルを定量化するために使用した。さらに、HRG−β1のmRNAレベルを、ZR−75細胞株(ATCC番号CRL−1500)におけるmRNAレベルと比較して決定した。受容体およびリガンド発現レベル(その情報が計算モデルで使用される)を、以下の表2に要約する。これらの発現レベルを取得するための方法は、以下にさらに詳細に記載される。
【0186】
腫瘍細胞株は、国立癌研究所から取得する。全ての細胞株を、10%ウシ胎仔血清(FCS)(Hyclone)、2mM L−グルタミン(Gibco)、および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の完全培地中、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、単層培養物として成長させた。
【0187】
受容体発現レベルは、qFACSによる受容体発現レベルの定量化を可能にする、Quantum Simply Cellularキット816A(Bangs Laboratories)を使用して定量化される。キットは、様々な量のヤギ抗ヒトIgGで標識された一連の4つの小球体個体群、および標識されていない個体群を含有する。ビーズの表面に接合されるIgGは、IgG抗体のFc部分に特異的である。ビーズは、細胞試料とちょうど同じように、そして同じ抗体を用いて染色される。それぞれの小球体の異なる個体群は、既知量の標識されたモノクローナル抗体に結合する。各個体群の蛍光強度に対してその割り当てられた抗体結合能(ABC)値をプロットすることにより、標準ABC曲線が生成され、染色された細胞試料のABCが、Bangs Laboratories(QuickCal v 2.3)により提供されるソフトウェアを使用して容易に決定される。このプログラムは、使用される機器の型、その試料に対する電圧、および使用される蛍光色素を考慮する。
【0188】
BTC発現レベルは、R&D Systems Dy261 DuoSet−ICヒトベータセルリンキットを使用して、ELISAにより測定される。384ウェルプレートは、4μg/ml捕獲抗体で覆われる。50μlの2%BSA/1倍PBS(Tween−20なし)を添加することにより、384ウェルプレートを1時間遮断し、組み換え標準曲線を作製する。プレートを洗浄した後、16μlの細胞溶解物、並びに抗ホスホ−チロシン−HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)検出抗体を添加し、2時間、インキュベートする。最後に、20μlのPico発光基質を添加し、プレートを分光測光的に読み取る。
【0189】
HRG−β1タンパク質発現レベルを測定するための商業的に入手可能な試験法は、検査される細胞株の信頼できるデータを取得するために十分な感度ではなかったため、HRG−β1mRNAレベルは、対象の細胞株について定量化される。RNAは、RNeasyミニプロトコル(QUIAGENの74104 RNEASYキット)を使用して細胞溶解物から単離する。単離されたRNAをcDNAに変換し、Applied Biosystemsの430443 7Tagmanマスターミックスを使用して、定量的PCR(QPCR)のためのマスターミックスを作製した後、QPCRを行い、ZR75−1細胞中のmRNAレベルに対する、HRG−β1mRNA発現を定量化する。QPCRのプライマーは、Applied Biosystemsから購入する。
【0190】
表2に示す異なる細胞株のErbB3リン酸化レベルは、上述の実施例2に記載される方法またはその多少の変形を使用して、R&D(Dyc1769−2 DuoSet−ICヒトホスホ−ErbB3)のpErbB3 ELISAキットを使用して決定する。
【0191】
以下の表2は、上述の方法またはその多少の変形を使用して、異なる細胞株について得られた受容体およびリガンド発現を要約するが、その情報は、ErbBシグナル伝達経路の計算モデルの構築に使用された。列1は、細胞株の名称を示し、列2は、腫瘍の種類を示し、列3〜5は、それぞれ、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の細胞当りの受容体の数を示し、列6は、ZR75細胞中のmRNAレベルと比較した倍数として表されるHRG−β1mRNAレベルを示し、列7および8は、pg/細胞として表される、細胞中に存在するBTCおよびpErbB3の量を示す。
【0192】
(表2)異種移植片実験で使用された細胞株の受容体およびリガンド発現レベルの要約
【0193】
計算モデルの訓練のために、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTのリン酸化が、ADRr細胞におけるBTCまたはHRG刺激の複数の時間点、および9つの異なる濃度でELISAにより測定された、用量−時間マトリックスを含むデータセットが使用された。細胞の刺激のために、96ウェル組織培養プレートに、ウェル当り35,000細胞で、100μlの完全培地に細胞を接種し、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、一晩インキュベートする。その後、細胞を2mM L−グルタミン(Gibco)および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の無血清培地に切り替える。刺激の前に、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、飢餓細胞を20〜24時間、インキュベートする。用量−時間マトリックス試験において、細胞は、0、1、2、3、4、5、7、10、20、30、60、および120分で、リガンド(BTCまたはHRG)を用いて刺激される。各時間経過において、9つの異なる濃度のHRG(0.038nM〜250nM)およびBTC(0〜700nM)で刺激した後、細胞を氷上に置き、冷PBSで洗浄した後、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich,P2714)、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,S6508)、5mMのピロリン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,221368)、50μMのオキソフェニルアルシン(EMD Biosciences,521000)、および10μM bpV(phen)(EMD Biosciences,203695)で補充された30μlの冷M−PER哺乳類タンパク質抽出緩衝液(Thermo Scientific、カタログ#78501)に溶解する。
【0194】
刺激された細胞中のタンパク質リン酸化のレベルをELISAにより測定する。ErbB1(R&D Systems,AF231)、ErbB2(R&D Systems,MAB1129)、ErbB3(R&D Systems,MAB3481)、およびAKT(Upstate,05−591MG)に対する捕獲抗体を、室温で一晩、384ウェル黒色平底ポリスチレン高結合プレート(Corning、カタログ#3708)でインキュベートする。ELISAプレートを、1時間、2%ウシ血清アルブミン(BSA)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で遮断した後、室温で、2時間、2%BSA、0.1%Tween−20、およびPBSで希釈された溶解物と共にインキュベートする。各インキュベーション間において、プレートは、0.05%Tween−20含有PBSで、3回洗浄される。ホスホ−ErbB1、−ErbB2、および−ErbB3を測定するためのELISAは、ホスホ−チロシン西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)連結モノクローナル抗体(R&D Systems,HAM1676)と共に、2時間、インキュベートされる。ホスホ−AKTを測定するELISAを、一級セリン473特異性抗ホスホAKTマウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technologies、カタログ#5102)と共に、2時間、インキュベートした後、ストレプトアビジン−HRP(R&D Systems、カタログ#DY998,)と共に、30分間、インキュベートする。全てのELISAを、SuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce、カタログ#37069)を用いて可視化し、発光計を使用して発光シグナルを測定する。
【0195】
BTCまたはHRGの複数の時間点および9つの異なる濃度でのタンパク質リン酸化のデータセットについての結果(上述に記載の方法、またはその多少の変形を使用して取得された)を、図5A〜5Bに示すが、図5Aは、HRG刺激された細胞についてのホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB3、およびホスホ−AKTのレベルを示し、図5Bは、BTC刺激された細胞についてのホスホ−ErbB3、ホスホ−ErbB2、ホスホ−ErbB3、およびホスホ−AKTのレベルを示す。このデータセットは、シミュレーション結果(線)が、図5A〜5Bに示される実験データ(点)を表すように、ErbBシグナル伝達経路の計算モデルを較正するために使用された。
【0196】
ErbB受容体シグナル伝達ネットワークの計算モデルの開発におけるさらなる情報は、以下に提供される。
【0197】
モデル構造
ErbB受容体シグナル伝達ネットワークモデルは、3つの受容体(ErbB1、ErbB2、ErbB3)、受容体ホスファターゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(受容体に結合するPI3K)、およびPI3K−AKTカスケード(二リン酸ホスファチジルイノシトール、PIP2、ホスホイノシチド依存タンパク質キナーゼ、PDK1、染色体10から欠失されたPTEN、PTEN、セリン、タンパク質キナーゼBとしても知られるスレオニンタンパク質キナーゼ、AKT、タンパク質ホスファターゼ2A、PP2A)の構成要素からなる(以下の表8を参照)。ErbB3およびErbB4(実験的に、ErbB4発現レベルは、細胞株中で検出することが非常に難しいため、モデルに含まれない(以下の表3))に結合するヘレグリン(HRG1−β)と、主にErbB1に結合するベータセルリン(BTC)との2つのErbB受容体リガンドが含まれた(Beerli,R.R.and Hynes,N.E.(1996)J.Biol.Chem.271:6071−6076、Jones,J.T.et al.(1999)FEBS Lett.447:227−231)。以下の表11に全てがリストされる質量作用動態応答は、Matlab Simbiology2.3(Mathworks,MA)を使用して、常微分方程式に変換された。
【0198】
ホモダイマーおよびヘテロダイマーの文献(Hendriks,B.S.et al.(2003)J.Biol.Chem.278:23343−23351、Wang,Z.et al.(1999)Mol.Biol.Cell 10:1621−1636)に記載される、リガンド誘発された二量体化、内在化、再生、および分解が、モデルに含められた。Shankaran,H.et al.(2008)Biochem.Biophys.Res.Commun.371:220−224に発表された相対的スケールを用いて、受容体ダイマー安定性が組み入れられ、ここで、ErbB2またはErbB3とのErbB1の共発現が、細胞表面へのシグナル伝達にバイアスをかけ、シグナル下方制御を遅延し、ErbB1〜3の同時共発現は、大量のErbB2−ErbB3ヘテロダイマーを引き起こす。したがって、ErbB3含有ダイマーは、内在化され、ErbB1ホモダイマーまたはErbB1−ErbB2ヘテロダイマーよりゆっくり分解される。リガンドを含まないダイマーは、任意の下流シグナル伝達を引き起こさず(Yu, X.et al.(2002)Mol.Biol.Cell 13:2547−2557)、細胞表面に留まると考えられたが、構成二量体化も含められた。ErbBリガンドは、異なる親和性で、ErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーに結合するが(Teramura,Y.et al.(2006)EMBO J.25:4215−4222)、予測される動態パラメータの数を減少し、できるだけ簡単なモデルで実験データを説明するために、我々は、リガンドのErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーへの結合親和性が同じになるように制約した。
【0199】
二量体化された受容体は、急速なリン酸化を受け、受容体細胞質側末端上のホスホチロシンへのシグナル伝達アダプターの結合を通して、下流経路を活性化する(Yarden Y.and Sliwkowski,M.X.(2001)Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.2:127−137)。ここで、簡易化されたPI3K−AKTカスケードが組み込まれ、それによって、PI3Kは、リガンド結合ヘテロダイマーに直接的に結合し、PIP2を活性化して、それがPDK1およびAKTと共に複合体を形成して、2段階のAKTの二重リン酸化を導く。ErbB3は、PI3K結合のために6つの部位を有するが、他のErbB受容体は、1つしか有さない(Wallasch,C.et al.(1995)EMBO J.14:4267−4275、Soltoff,S.P.et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:3550−3558)。6つのPI3K分子が同時にErbB3に結合することができるかどうかは分からないが、PI3Kは、他の受容体より、ErbB3によって10〜20倍強く活性化される(Fedi,P.et al.(1994)Mol.Cell.Biol.14:492−500)。PI3Kは、他のErbB受容体より、大きな親和性でErbB3に結合するという証拠もある(Jones,R.B.et al.(2006)Nature439:168−174)。我々は、これらの現象をモデルに取り入れ、ErbB3含有ダイマーにおいて、以下の条件を課すことにより、6つの結合部位を含む組み合わせの複雑性を避けた:強化されたPI3K結合速度、PI3Kに対する強化されたPIP2結合速度、およびPIP3の強化された活性化速度。PIP2は、エンドソームに存在せず(Haugh,J.M.(2002)Mol.Interv.2:292−307)、したがって、形質膜結合受容体ダイマーのみが、モデルにおいてPIP2を活性化することが可能である。初期のシミュレーションは、AKT活性を非常にゆっくり加速したため、シミュレーション前にAKTホスファターゼをほぼ完全に不活性にし、負のフィードバックループを組み込み、それによって別の個所で記載される現象であるAKTが自体のホスファターゼを活性化させるようにする必要があった(Camps,M.et al.(1998)Science280:1262−1265)。MAPKカスケードは、単純化するため、およびAKTシグナル伝達が、MAPKカスケードにおいて、種とパラメータに比較的非感受性であるという我々の最近の所見の両方のために無視され(Chen,W.W.et al.(2009)Mol.Syst.Biol.5:239)、したがって、MAPK−PI3Kのクロストークは、AKTシグナル伝達動態を説明するために必要とされない。初期の種の値は、直接的に測定されるか(ErbB受容体、PDK1、AKT)、文献から推測されるか(Birtwistle, M.R.et al.(2007)Mol.Syst.Biol.3:144、Hatakeyama, M.et al.(2003)Biochem.J.373:451−453)、または速度を制限しない値に設定された。
【0200】
モデル較正
多くの応答速度パラメータは、我々が試験を行った細胞系において未知であり、したがって、推定しなければならなかった(以下の表10を参照)。開始点のバイアスを避けるために、全てのパラメータを初期値に設定した(Aldridge,B.B.et al.(2006)Nat.Cell.Biol.8:1195−1203)。推定されたパラメータの数は、2段階式で予測を実施することにより制限された:第1に、モデルは、実験的に観察されたErbB受容体リン酸化データに対して較正され、第2に、AKTリン酸化に感度が高いパラメータは、実験データに対して最適化された。推定された値は、パラメータが、50および25世代の個体群サイズの遺伝アルゴリズムを使用して、複数のパラメータ実行で制約された場合にのみ承認された(Mathworks,MA)。HRG1−βおよびBTCのリガンド結合速度定数は、既知のKd(Tzahar,E.et al.(1996)Mol.Cell.Biol.16:5276−5287、Singer,E.et al.(2001)J.Biol.Chem.276:44266−44274、Jones,J.T.et al.(1999)FEBS Lett.447:227−231)、および両方のリガンドについての1×105M−1s−1の先の結合速度を近似するための初期用量応答曲線を使用して、別個に推定された。感度分析(Mathworks,MA)を、HRG1−βまたはBTC刺激で、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTリン酸化の活性に強く影響を与えたパラメータを特定するために実施した(以下の表11を参照)。システムが1nMのHRG1−βまたはBTCのいずれかで刺激される間、各パラメータが、別個に変動することを可能とした。各々の種の正規化された感度は、2時間の刺激にわたって積分され、1000という任意の閾値を上回る、正規化され、積分された感度のパラメータを、以下の表11に挙げる。上述のように、試験された細胞株は、検出可能なErbB4をほとんど有さないため、ErbB4リン酸化は、パラメータの推定に含めなかった(以下の表3を参照)。ErbB4応答は、ErbB3応答に従いパラメータ化される。
【0201】
ErbB受容体リン酸化特性は、二量体化、内在化、再生、および分解パラメータに対して感度が高い(酵素反応、ダイマー解離、およびホスファターゼ速度定数は感度が低い)。これらのパラメータは、高密度データセットを使用して適合された。各読み取りは、いずれかのリガンドにより達成された最大活性化に対して正規化され、各リガンドの相対的効力を保存する。ErbB受容体二量体化速度は厳密に制約され、文献の所見と同様のパラメータの関係が観察された:ErbB2は、リガンド結合ErbB1またはErbB3にとって、好適な二量体化パートナーである(ヘレグリン刺激でより顕著である)。利用可能なデータから、再生および内在化の両方の速度を制約することは不可能である、したがって、再生速度は、0.005s−1に設定され、内在化速度のみが適合され、得られた観察は、したがって、(逆に)再生速度に等しく適用される。内在化速度は、別の個所で支持される見解である、HRG1−β結合ダイマーが、BTC結合ホモダイマーおよびヘテロダイマーよりも非常に緩慢な内在化を示すという、リガンドの刺激に基づき変動した(Sorkin,A.and Goh,L.K.(2008)Exp.Cell Res.314:3093−3106)。分解速度も、十分に制約されたが、全てのダイマーにおいて同様であり、個々のダイマーの分解速度が、観察されたデータを説明するために必要ないことを示唆する。リン酸化AKTは、PI3Kカスケード内および受容体レベルで、多くのパラメータに感度が高い(以下の表11を参照)。したがって、我々は、PI3K−AKTカスケード内のモデルパラメータのみに較正を制限し、ErbB受容体特性上で既に訓練したパラメータ値を固定しつつ、AKTリン酸化の時間経過に対して訓練した。
【0202】
モデル訓練後、パラメータの手動調節を、各パラメータへの影響を解釈するため、さらなる改善が可能であるかを決定するため、およびパラメータを生物学的に妥当な値に制限するために実施した。標準化のため、(分解速度で説明された)パラメータの種類にわたって維持される時、パラメータは四捨五入され、類似した値に凝縮された。
【0203】
阻害剤の組み入れ
ErbBネットワーク阻害剤は、既知の作用機構の最も単純な解釈を使用してモデルに含められた(以下の表12を参照):抗ErbB3モノクローナル抗体Ab#6は、リガンド結合を阻害することにより、ErbB3を隔離し、内在化および分解を誘発する:セツキシマブは、ErbB1を隔離して、リガンド結合を阻害し、ラパチニブは、ErbB受容体の活性化を阻害するが、二量体化またはリガンド結合は阻害せず、ペルツズマブは、ErbB2二量体化を遮断する。Ab#6に対して、Kinexaにより測定された速度定数が使用され、他の阻害剤に対しては、文献で報告され(Wood,E.R.et al.(2004)Cancer Res.64:6652−6659、Patel,D.et al.(2007)Anticancer Res.27:3355−3366、Adams,C.W.et al.(2006)Cancer Immunol.Immunother.55:717−727)、以下の表13に挙げられる速度定数が使用された;セツキシマブのパラメータは、Kinexaにより、実験的に確認された。
【0204】
ErbBシグナル伝達経路の計算モデルの開発において使用された様々な追加の情報を、以下の表3〜13に示す。
【0205】
(表3)測定されたErbB受容体発現および検討された細胞株の変異状態
ND - 検出不可
# - qFACSにより測定
* 検討された細胞株の変異状態を決定するために使用されたウェブサイト-http://www.sanger.ac.uk/perl/genetics/CGP/core_line_viewer?action=nci60_list
【0206】
(表4)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB1リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0207】
(表5)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB2リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0208】
(表6)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのErbB3リン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0209】
(表7)ErbB1結合リガンドおよびHRG1−βのAKTリン酸化用量応答曲線の特徴付け
ND:決定することができなかった
CI:95%信頼区間
【0210】
(表8)計算モデルにおけるゼロ以外の種の初期量
【0211】
(表9)対応するパラメータを伴う質量作用動態を使用した計算モデルに組み入れられた生化学反応の要約
使用された略称の定義
: タンパク質複合体、例えば、受容体に結合されるリガンドを示す
_p タンパク質がリン酸化されることを示す
iy 種が内在化されることを示す
<−> 可逆反応を示す
−> 非可逆反応を示す
【0212】
(表10)値を含むパラメータの説明。パラメータの数字は、パラメータが現れる最初の反応に対応する
【0213】
(表11)ErbB3、ErbB2、ErbB1およびAKTに敏感なパラメータ
【0214】
(表12)Ab#6、セツキシマブ、ペルツズマブ、およびラパチニブの組み入れスキーム
【0215】
(表13)阻害剤のパラメータ値
【0216】
実施例5:pErbB3の活性化を予測するマーカーの選択
この実施例において、pErbB3によって示される、ErbB3の活性化を予測する一連のタンパク質マーカーが、実施例4に記載されるErbBシグナル伝達経路の機構的計算モデルを使用して特定された。
【0217】
ErbB3 リン酸化のレベルが、腫瘍応答速度と相関することを実施例2で示されたので、感度分析を、ErbB3リン酸化のレベルを決定する主要タンパク質を特定するために、訓練された計算モデル上で実施した。
【0218】
この局所感度分析において、細胞は、実質的に、両方がErbBシグナル伝達経路を活性化するリガンドである、0.4nMのHRGまたはBTCのいずれかで、コンピュータシミュレーションにより刺激された。以下の細胞受容体、キナーゼ、および他のタンパク質に関するpErbB3の感度が、決定された:ErbB3、ErbB2、ErbB1、PI3K、PIP2、PTEN、PDK1、PP2A、AKT、RTKpase、およびリガンド(BTCおよびHRG)。
【0219】
局所感度分析は、経路内のタンパク質濃度および動態パラメータにおける変化に応答した、出力の変化を測定する数学的ツールである。j番目の速度定数(kj)の変化に対するi番目の観察可能なci(t)の完全に正規化された感度(sij(t))は、以下の方程式によって得られる。
モデル較正は、次いで、感度分析で特定されたパラメータおよび初期タンパク質濃度を変化させることにより、実験データとシミュレーションデータ結果との間の距離を最小にする局所および大域的最適化法(遺伝アルゴリズム、シミュレーションされたアニーリング、レーベンバーグ−マルカート最適化法)を使用して実施された。
【0220】
局所感度分析の結果を図6の棒グラフに要約する。結果は、以下の5つのタンパク質が、ErbB3の活性化(例えば、pErbB3の形成)を予測する主要な一連のマーカーであることを示した:ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTC。
【0221】
実施例6:pErbB3レベルを計算するための機構的計算モデルの使用
計算モデルを使用して、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG、およびBTCがpErbB3の予測の主要マーカーとして特定された、実施例5で得られた結果に基づき、異なる細胞株のpErbB3レベルを計算するために、計算モデルへの入力として、表2に示すタンパク質発現レベルの測定値を使用した。
【0222】
計算モデルへのBTCおよびHRG発現レベルの入力は、無次元単位、すなわちpg/μgから濃度[M]への変換を必要とした。従って、変換係数を確立する必要があった。HRG mRNAレベルおよびBTCタンパク質発現レベルをモル濃度に変換する変換係数は、実験的に測定されたpErbB3レベルと予測されたpErbB3レベルとの間の線形範囲で推定された。実験的に測定された値については、構成的ErbB3リン酸化レベル(pg/μg)を、10%のウシ胎仔血清(FBS)中の4つの細胞株(MALME3M、DU145、ADRr、およびACHN)において測定した。これらの実験的に測定された結果を実施例4の表2の列7に示す。リガンド変換係数訓練において、経時的に積分された正規化された予測pErbB3シグナルを、6.1e−005のBTC変換係数および3.1e−013のHRG mRNA変換係数を使用して、10%インビトロFBS中の実験的に測定されたpErbB3に対してプロットした。リガンド変換係数は、細胞株ADRr、MALME3M、ACHN、およびDU145中の予測されたpErbB3と(ELISAにより)測定された構成的pErbB3レベルとの間の線形関係を最適化することにより訓練した。
【0223】
このようにして、HRGおよびBTCによる経路の活性化を、モデルを使用してシミュレーションし、計算されたpErbB3レベルにより示されるネットワーク活性化状態(NAS)が、出力として得られた。この場合において、NASは、HRGおよびBTCによる最初の2時間の刺激に対するモデルでシミュレーションを行った時間積分pErbB3の量として定義された。計算されたpErbB3レベルの結果を図7のグラフに示す。異種移植片モデルで試験された4つの細胞株のうち、ADRr細胞株が最高pErbB3レベルを有する非応答株であったため、ADRr細胞のシミュレーションされたNASは、Ab#6処理に対する応答株と非応答株との間の閾値として初期設定された。
【0224】
実施例7:異種移植片応答を使用したNAS閾値の設定およびNAS閾値に基づく応答性の予測
この実施例において、実施例1に記載する4つの腫瘍細胞株の異種移植片の応答を、実施例6に記載するように計算されたNAS値(正規化された、時間積分pErbB3レベル)と組み合わせて、Ab#6処理に対する応答株およびAb#6処理に対する非応答株のNAS閾値を設定した。
【0225】
より具体的には、ADRr、ACHN、DU145、およびMALME3細胞株(実施例1に記載)について決定された成長率低減(GRR)値は、ADRr細胞中のpErbB3レベルを超えるpErbB3レベルを有する(すなわち、pErbB3 > pErbB3(ADRr))ように「応答株」を設定することにより、分類化訓練の二元結果に変換され、「非応答株」は、ADRr細胞中のpErbB3レベルより低いpErbB3レベルを有する(すなわち、pErbB3<pErbB3(ADRr))ように設定された。これは、モデル予測ではなく、分類化訓練プロセスの一部であったことに留意されたい。
【0226】
4つの細胞株について、実験的に決定されたGRR値を、計算されたNAS値(正規化された、時間積分pErbB3)に対してプロットした。x軸上のGRR値は、応答株(pErbB3>pErbB3(ADRr))と非応答株(pErbB3<pErbB3(ADRr))とに分けられた。NAS訓練データ(実施例4に記載されるように得られた)は、シミュレーションされた応答株(「Sim R」)、シミュレーションされた非応答株(「Sim NR」)、およびシミュレーションされた不確定(「Sim I」)の3つのカテゴリーにネットワーク活性化状態y軸の分類を可能にした。2つの異種移植片細胞株は、20%(DU145,ACHN)以上の成長率低減値により特徴付けされ、これらのうちDU145細胞株が、最も低いネットワーク活性化状態を有した。したがって、シミュレーションされた応答株として細胞株を分類するための閾値は、ADRrレベル以上またはそれに等しいネットワーク活性化状態で設定された。同様に、MALME3細胞株異種移植片は、非応答株(pErbB3<pErbB3(ADRr))であり、したがって、ADRrレベルより低い細胞株のネットワーク活性化状態は、シミュレーションされた非応答株として分類された。これらのADRrおよびDU145閾値の間のネットワーク活性化状態は、シミュレーションされた不確定として分類される。
【0227】
計算されたpErbB3レベルにより示される、ネットワーク活性化状態は、HRG、BTC、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の実験的測定が利用可能である15の細胞株のパネルにおいてシミュレーションされた。15の細胞において計算された積分されたpErbB3レベルは、図8Aに示す棒グラフに、最高のpErbB3レベルから最低の順に、4つの訓練細胞株のレベルと共にプロットされた。これらの15の細胞株について計算されたNAS値は、その後、4つの訓練細胞株であるADRr、ACHN、DU145、およびMALME3Mについて前に決定されたNAS値に対してランク付けされた。合計19の細胞株のNAS結果が、図8Bのグラフに示されるようにランク付けされる。MALME3M細胞株に等しい、またはそれより低いNAS値は、シミュレーションされた非応答株(「Sim NR」)として設定され、MALME3MとDU145細胞株の間のNAS値は、シミュレーションされた不確定(「Sim I」)として設定され、DU145細胞株と等しい、またはそれ以上のNAS値は、シミュレーションされた応答株(「Sim R」)として設定された。したがって、図8Bに図示するように、IGROV1(NCI−60、Cosmic試料ID番号905968)、MDA−MB−361(ATCC番号HTB−27)、SKMEL−5(ATCC番号HTB−70)、MDA−MB−231(ATCC番号HTB−26)、およびT47D(ATCC番号HTB−133)細胞株は、それらの計算されたNAS値が、MALME3Mより低かったため、シミュレーションされた非応答株であると予測された。さらに、ZR75−1(ATCC番号CRL−1500)、HOP92(NCI−60、Cosmic試料ID番号905973)、およびHOP62(NCI−60、Cosmic試料ID番号905972)細胞株は、それらの計算されたNAS値がADRrとDU145の間であったため、シミュレーションされた不確定であると予測された。最後に、SKBR3(ATCC番号HTB−30)、UACC62(NCI−60、Cosmic試料ID番号905976)、EKVX(NCI−60、Cosmic試料ID番号905970)、BT474(ATCC番号HTB−20)、SKOV3(ATCC番号HTB−77)、OVCAR8(国立癌研究所癌治療および診断部から得た)、およびCAKl1(NCI−60、Cosmic試料ID番号905963)細胞株は、それらの計算されたNAS値がADRr以上であったため、シミュレーションされた応答株であると予測された。
【0228】
これらのモデル予測を試験するために、3つの追加のインビボ異種移植片試験を実施した。実施例1に記載するように実施された異種移植片試験で、IGROV1、OVCAR8、およびSKOV3細胞株を使用し、そこではマウスが600μgのAb#6で3日に1回、または対照としてPBSで処理された。時間に対する腫瘍量(mm3)の変化により決定される、異種移植片応答は、図9A〜9Cのグラフに要約される。ここでも、各細胞株における成長率低減(GRR)値は、以下の式を使用して計算された。
成長率低減=1−(Ab#6成長率)/(PBS成長率)
【0229】
試験された4つの細胞株におけるGRR値を以下の表14に要約する。
【0230】
(表14)予測された一連の異種移植片試験における腫瘍成長率低減の要約
【0231】
各細胞株のAb#6に対する応答の予測に関して、異種移植片応答株は、ADRrにおいてシミュレーションされたpErbB3以上のシミュレーションされたpErbB3レベルを有さなければならないという基準に基づき、IGROV1異種移植片は、非応答株として分類され、一方、OVCAR8およびSKOV3は、応答株として分類された。
【0232】
これらのデータは、計算されたNAS値に基づいた予測は、インビボ異種移植片試験における、Ab#6処理に対する3つの試験細胞株の実験的に観察された応答性に正確に対応することを示す。より具体的には、IGROV1細胞株は、その計算されたNAS値に基づき、シミュレーションされた非応答株であると予測され、そのGRR値に基づき、非応答株であると実験的に観察された。同様に、OVCAR8およびSKOV3細胞株は、それらの計算されたNAS値に基づき、シミュレーションされた応答株であると予測され、それらのGRR値に基づき、応答株であると実験的に観察された。
【0233】
したがって、これらの実験は、インビボでのAb#6処理に対する応答性の予測として、計算モデル、および正規化された時間積分pErbB3レベルの計算されたNAS値の有効性を確認した。
【0234】
実施例8:Ab#6応答性の直接的バイオマーカーの特定
この実施例において、Ab#6応答性の直接的バイオマーカーが特定され得るかどうかを決定するために、実施例1に記載される異種移植片試験で検討された4つの細胞株(ADRr、ACHN、DU154、およびMALME3M)、および実施例7に記載される異種移植片試験で検討された3つの細胞株(IGROV1、OVCAR8、およびSKOV3)のデータをさらに検討した。
【0235】
最初に、ErbB1、ErbB2、および ErbB3の受容体濃度が、異種移植片データを応答株および非応答株に効果的に分類するかどうかを検討した。図10A〜10Dのグラフに図示するように(1つの受容体の濃度のログが1つ以上の他の受容体の濃度のログに対してプロットされる)、ErbB1受容体測定値のみが、異種移植片データを応答株および非応答株に分類するように見え、一方、他の受容体のいずれもそのようには見えなかった。
【0236】
次に、1つの受容体濃度(例えば、ErbB1、ErbB3)と組み合わせたHRGの濃度が、異種移植片データを応答株および非応答株に効果的に分類するかどうかを検討した。図11のグラフに図示するように(HRGの濃度のログが、ErbB1の濃度のログに対してプロットされる)、これらの2つの濃度測定値である、HRGおよびErbB受容体の1つは、異種移植片データを応答株および非応答株に正確に分類することができた。より具体的には、3つの非応答株であるMALME3、ADRr、およびIGROV1のデータは、6つの応答株のデータから分離可能であり、これによって、非応答株対応答株の分類を可能にした。
【0237】
したがって、Ab#6応答の直接的バイオマーカーは、ErbB経路受容体(例えば、ErbB1、ErbB3)の1つと組み合わせたHRGとして特定された。
【0238】
以下の表15は、予測をするためにAb#6の直接的バイオマーカーを使用して実施例7で試験された、細胞株の予測された応答株および非応答株を要約する。直接的バイオマーカーを使用して決定された予測は、(実施例7に記載する)NAS値を使用して決定された予測と良く対応する。例えば、ACHN、DU145、OVCAR8、およびSKOV3細胞株は、前に、NAS値を使用して、応答株として特定されており、直接的バイオマーカーを使用しても、応答株であると予測された。同様に、ADRr、MALME3M、およびIGROV1細胞株は、前に、NAS値を使用して、非応答株として特定され、直接的バイオマーカーを使用しても、非応答株であると予測された。
【0239】
(表15)Ab#6の直接的バイオマーカーを使用して予測された応答株および非応答株
【0240】
応答株と非応答株とを分離するためにNASを使用した実施例7の結果を、分離に直接的バイオマーカーを使用した実施例8の結果と比較すると、唯一の不一致は、BT474、MDA−MB−231、およびUACC62細胞株であった。これら2つの個別の分類方法にある程度の違いがあったことは、意外ではない。この場合、不一致の細胞株は、患者分類の状況において、偽陽性は、偽陰性よりも好まれるため、応答株とみなす。
【0241】
実施例9:ELISAおよびqIHCによる異種移植片とヒト腫瘍との間のタンパク質発現レベルの比較
この実施例において、ヒト腫瘍で観察されるタンパク質発現特性と比較した、異種移植片で観察されるタンパク質発現の類似性または差異を評価した。これは、異種移植片で観察されるタンパク質レベルが、ヒト腫瘍で観察されるタンパク質レベルと同等であるかどうかを決定するために行われた。
【0242】
一次実験において、ELISAによってタンパク質レベルを測定する。実質的に実施例2で詳細に記載されるように、ヒト腫瘍試料または異種移植片の急速凍結腫瘍から溶解物を調製し、また、実質的に実施例2に記載されるように、ErbB1−4、HRG−β1、およびBTCのタンパク質レベルをELISAにより分析する。結果(上述の方法、またはその多少の変形を使用して得た)が図12A〜12Cのグラフにプロットされている。結果は、異種移植片試料中のタンパク質レベルにおいて得られた値が、異なる組織源のヒト腫瘍試料中のタンパク質レベルにおいて得られた値にほとんど散在されることを示し、異種移植片で観察されたタンパク質レベルは、ヒト腫瘍で観察されたタンパク質レベルと同等であることを示唆する。これらのデータに基づき、異種移植片における応答性の予測について決定されたNAS閾値は、ヒト腫瘍組織試料を使用して応答性を予測するために適用され得ることを主張する。
【0243】
凍結組織試料は、臨床現場では入手することが困難であり得るため、二次実験は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料でのタンパク質定量を可能にする測定技法を使用して実施された。より具体的には、AQUA(登録商標)system(HistoRx,Inc.,New Haven,CT)を使用して、定量的免疫組織化学検査(qIHC)を実施した。免疫蛍光法および代表的なタンパク質発現レベルを有する細胞株パネルを使用して、細胞株標準曲線を作成した。そして、細胞株標準曲線は、腫瘍試料および異種移植片中のタンパク質発現レベルの逆算出を可能にした。結果を図13A〜13Dに示す。図13Aは、ErbB1の細胞株標準曲線を示す。図13B、13C、および13Dは、異種移植片細胞株(赤色の棒)およびヒト腫瘍試料(青色の棒)における、それぞれErbB1、ErbB2、およびErbB3のqIHCスコアをプロットする棒グラフを示す。qIHCの結果は、広範なタンパク質発現レベルにわたる、ヒト腫瘍試料と異種移植片試料との間のタンパク質発現レベルにおける類似性を実証した。これらの結果は、ここでも、異種移植片における応答性の予測について決定されたNAS閾値を、ヒト腫瘍組織試料を使用して応答株を予測するために適用され得る主張を支持する。
【0244】
実施例10:リン酸化ヘテロダイマーに対する応答性の相関
この実施例において、リン酸化ErbBホモダイマーおよびヘテロダイマーの積分されたレベルをNAS値として計算して、これらが、Ab#6処理に対する応答性と相関するかどうかを決定する。
【0245】
実施例4に記載されるように作成された同じ計算モデルを使用した。このモデルは、ErbB1、ErbB2、ErbB3、HRG−β1、およびBTCのレベルに対して実験的に決定された測定値に基づき生成された。実施例4に記載されるように、文献に記載されている7つのErbBヘテロダイマーおよびホモダイマーが、モデルで実現された:ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4。これらのダイマーの大部分は、リガンド結合により活性化されるが、いくつかは、リガンド依存的様式でリン酸化されたダイマーがモノマーに分離し、それが次いで、活性化または不活性化されるモノマーのいずれかとともにホモまたはヘテロオリゴマー化して、活性ダイマーを生成する、「側面シグナル伝達」(または二次的二量体化)のプロセスを通して生じる。計算モデルは、ADRr細胞株を使用するHRGまたはBTCの存在下で形成されるダイマーの特定を可能にする、設定実験データを用いて訓練された。
【0246】
したがって、リン酸化ホモダイマーおよびヘテロダイマーの積分されたレベルは、以下の細胞株におけるネットワーク活性化状態(NAS)の基準として計算された:MALME3M、BT474、IGROV1、ADRr、OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN。図14のグラフに示すように、リン酸化ErbB1/3ヘテロダイマー(pErbB1:3)の計算されたレベルは、8つの細胞株をAb#6非応答株(MALME3M、BT474、IGROV1、ADRr)と応答株(OVCAR8、SKOV3、DU145、およびACHN)に分けた。計算されたpErbB1:3レベルに基づくこの分別は、実施例8に記載される直接的バイオマーカーを使用して決定された、予測された非応答株および応答株と全く同じように相関した。計算されたpErbB1:3レベルに基づくこの分別は、実施例7に記載されるNAS値の計算されたpErbB3レベルを使用して決定された、予測された非応答株および応答株とも、ほぼ全く同じように相関し、唯一の差異は、BT474細胞株であり、これは、直接的バイオマーカーと計算されたpErbB1:3レベルの両方を使用して非応答株として特定されたが、計算されたpErbB3レベルを使用して応答株として特定された。
【0247】
ErbB1/1、ErbB1/2、ErbB1/3、ErbB1/4、ErbB2/2、ErbB2/3、およびErbB2/4ダイマーのレベルも、計算モデルを使用して計算されたが、これらのホモダイマーまたはヘテロダイマーのいずれのレベルも、細胞株をAb#6処理の応答株と非応答株に分けなかった。したがって、ErbB1/3ヘテロダイマーを用いて観察された結果は、検討されたダイマーの中で特有であった。
【0248】
これらの結果は、リン酸化ErbBホモダイマーまたはヘテロダイマーの積分されたレベルが、本発明の予測方法においてNAS値として使用され得ること、より具体的には、pErbB1:3の計算されたレベルが、Ab#6を用いた処理に対する応答性を予測するための好適なNAS値であることを示す。これらの結果は、高レベルのErbB1:3ヘテロダイマーを伴う癌において、Ab#6が特に効果的であり、したがって、総ErbB1:3ヘテロダイマーまたはpErbB1:3ヘテロダイマーレベルの直接的測定も、Ab#6処理の有効性を予測するための直接的バイオマーカーとして使用され得ることを意味すると解釈される。
【0249】
実施例11:ErbBシグナル伝達経路への治療薬の効果の計算モデルの構築および訓練
この実施例において、機構的計算モデルを構築するための実施例4に記載されるアプローチを、ErbBシグナル伝達経路のモデルを構築および訓練するため、さらに特定の治療薬がシグナル伝達経路を阻害する機構の計算表示を開発するために使用した。
【0250】
この実施例に使用された治療薬は、二重特異的抗体のH3×B1D2(配列番号41に示され、さらに米国特許第7,332,585号、米国特許第7,332,580号、および国際公開第WO2007/084187号として公開されたPCT出願PCT/US第2006/023479号、並びに国際公開第WO2008/140493号として公開されたPCT出願PCT/US第2007/024287号に記載されるアミノ酸配列)である。この二重特異性抗体は、抗ErbB2単一鎖抗体に連結された抗ErbB3単一鎖抗体からなる。
【0251】
H3xB1D2薬剤は、ErbB2過剰発現腫瘍を優先的に標的とすることが予測された。したがって、過剰発現されたErbB2の存在下のErbBシグナル伝達ネットワークの計算モデルを、実施例4に記載される方法およびモデルを使用して構築した。モデルは、受容体輸送およびAKTの細胞内シグナル伝達の下流を導き、リン酸化AKT(pAKT)を産生する、HRGとErbB1、ErbB2、およびErbB3受容体との間の相互作用を組み込んだ。含められた相互作用は、実質的に、実施例4のモデルに見られるものと同一であった。実施例4のモデルと異なり、リガンドBTCに関連する反応は、このモデルに含まれなかった。
【0252】
このモデルは、ErbB2過剰発現乳房細胞株BT474−M3(細胞株は、例えば、Drummond et al.(2005)Clin.Cancer Res.11:3392、Park et al.(2002)Clin. Cancer Res.8:1172、Kirpotin et al.(2006)Cancer Res.66:6732に記載される)の実験データに一致するように較正された。モデルの較正は、実施例4のモデルと比較して、パラメータ値における小さなの差のみを生じた。最も有意な差は、ErbB受容体の内在化および分解の速度の減少であった。この変化は、ErbB2過剰発現が、ErbB1等の、他のErbB受容体の内在化/輸送速度を減少させることを示唆する、既知のデータと一致する(例えば、Hendriks et al.(2003)J.Biol.Chem.278:23343−23351、Wang et al.(1999)Mol.Biol.Cell 10:1621−1636、Haslekas et al.(2005)Mol.Biol.Cell16:5832−5842を参照)。
【0253】
モデルの訓練のために、BT474−M3細胞における複数の時間点、および6つの異なる濃度のHRG刺激でのErbB1、ErbB2、ErbB3、およびAKTのリン酸化が、ELISAにより測定された用量−時間マトリックスを含むデータセットを使用した。
【0254】
細胞の刺激のために、12ウェル組織培養プレート(96半ウェルELISA用)にウェル当り150,000細胞で1000μlの完全培地を用いた二層ウェルに、または96ウェル組織培養プレート(384ウェルELISA用)にウェル当り20,000細胞で100μlの二層プレートに、細胞を接種した。これらの細胞を、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、一晩、インキュベートした。その後、細胞を2mM L−グルタミン(Gibco)および単位/mL Pen−Strep(Gibco)で補充されたRPMI−1640培地(Gibco)の無血清培地に切り替える。刺激の前に、5%のCO2、95%空気、および摂氏37度の加湿雰囲気で、飢餓細胞を20〜24時間、インキュベートする。用量−時間マトリックス試験のために、細胞は0、1、2、3、4、5、7、10、20、30、60、および120分で、リガンド(HRG)を用いて刺激される。各時間経過において、6つの異なる濃度のHRG(0.098nM〜100nM)で刺激した後、細胞を氷上に置き、冷PBSで洗浄し、その後、12ウェルプレートには200μlで、そして96ウェルプレートには45μlで、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich,P2714)、1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,S6508)、5mMのピロリン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,221368)、50μMのオキソフェニルアルシン(EMD Biosciences,521000)、および10μM bpV(phen)(EMD Biosciences,203695)で補充された、冷M−PER哺乳類タンパク質抽出緩衝液(Thermo Scientific,カタログ#78501)に溶解した。
【0255】
刺激された細胞中のタンパク質リン酸化のレベルは、ELISAにより測定される。ErbB1、ErbB2、およびErbB3は、R&D Systems Duoset ICキット(ErbB1 DYC1095−E、ErbB2 DYC1768−E、ErbB3 DYC1769−E)を使用して測定される。ErbB1(R&D Systems,841402)、ErbB2(R&D Systems,841425)、ErbB3(R&D Systems,841428)、および AKT(Upstate,05−591MG)に対する捕獲抗体を、室温で一晩、黒色平底ポリスチレン高結合プレートの96半ウェルプレート(Greiner,カタログ#82050−046)、または384ウェルプレート(Nunc Cat#40518)でインキュベートする。ELISAプレートを、1時間、2%のウシ血清アルブミン(BSA)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で遮断した後、室温で、2時間、2%BSA、0.1%Tween−20、およびPBSで希釈された溶解物と共にインキュベートする。各インキュベーション間において、プレートは、0.05%Tween−20含有PBSで、3回洗浄される。ホスホ−ErbB1、−ErbB2、および−ErbB3を測定するためのELISAは、2時間、抗ホスホ−チロシン−HRP検出抗体(R&D Systems,841403)と共にインキュベートされる。ホスホ−AKTを測定するELISAを、一級セリン473特異性抗ホスホAKTマウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technologies、カタログ#5102)と共に、2時間、インキュベートした後、ストレプトアビジン−HRP(R&D Systems,カタログ#DY998)と共に、20分間、インキュベートする。全てのELISAを、SuperSignal ELISA Pico化学発光基質(Pierce,カタログ#37069)を用いて可視化し、発光計を使用して発光シグナルを測定する。
【0256】
図21に示すように、モデルは、実験的に検討されたHRGの全ての用量で、ErbB2過剰発現細胞株BT474−M3におけるHRG誘発pErbB3シグナル伝達データに一致した。加えて、モデルは、約5nM以下のHRG用量で、BT474−M3細胞におけるHRG誘発pAKTシグナル伝達データに一致した。
【0257】
次に、H3×B1D2が、ErbB経路のHRG依存シグナル伝達を阻害する機構の計算表示を開発した。阻害剤の計算表示は、ErbB2およびErbB3への阻害剤の結合、および後続のHRG誘発シグナル伝達の阻害を説明する質量作用反応の方程式を使用して構築された。結合事象のパラメータは、直接的測定(当該分野に広く知られる技法を使用)とH3×B1D2による細胞におけるHRG誘発pErbB3の阻害についてのデータに一致するモデルの計算訓練との組み合わせにより取得された。特に、二重特異性抗体のH3単一鎖アームのErbB3への結合のオン率およびオフ率、並びに二重特異性抗体のB1D2単一鎖アームのErbB2への結合のオン率およびオフ率は、標準的なBIACoreおよびKinExA技術により実験的に決定された。H3×B1D2の計算モデルの反応およびパラメータを表16aおよび16bに表す。
【0258】
(表16a)
**この反応スキームにおいて、遊離(H3×B1D2)量は、一定に維持した。
【0259】
(表16B)
【0260】
ErbBシグナル伝達モデルは、阻害剤モデルと組み合わされ、H3×B1D2によるpErbB3およびpAKTシグナル伝達の阻害についての実験的データを予測するために使用された。実験データは、15pM〜1μMの範囲の濃度のH3×B1D2が血清飢餓培養中に添加されたことを除き、上述と同じ方法を使用して生成された。加えて、阻害データは、5nM HRG刺激後の、10分の溶解時間点を使用して生成された。H3×B1D2の阻害のIC50は、異なる細胞株において大きく変化しなかったが、阻害率は、大きく変化したことを示し、モデルは、実験結果を正確に再現した。阻害率の変化の主な原因は、ErbB2の発現のレベルであった。これは、ErbB2がOVCAR8細胞株に形質移入されて、ErbB2過剰発現細胞株(OVCAR8−HER2と称される)を生成する実験で実証された。H3×B1D2で処理されたOVCAR8細胞のpErbB3およびpAKT阻害曲線を、H3×B1D2で処理されたOVCAR8−HER2細胞の同じ阻害曲線と比較した。図17A〜Dに結果を示すが、図17Aおよび17Bは、H3×B1D2で処理されたOVCAR8における、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示し(実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれか)、図17Cおよび17Dは、H3×B1D2で処理されたOVCAR8−HER2細胞における、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す(実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれか)。実験的に処理された細胞(「DR50データ」)およびシミュレーションされた処理細胞(「DR50sim」)のIC50も示す。データは、高レベルのErbB2発現が、H3×B1D2処理による大きな阻害率をもたらすことを示す。
【0261】
阻害率の調節におけるErbB2の主な役割に加え、ErbB1の予想外の役割が、計算モデルにより明らかになった。ErbB1のこの役割は、ErbB1の下方制御をシミュレーションする、ErbB1 RNAiのADRr細胞への添加の作用を示すシミュレーションにより例示された。ADRr細胞は、低レベルのErbB2のみを発現し、計算モデルおよび実験的に決定されたデータの両方において、H3×B1D2による阻害率の低さを示した。このデータを図18Aおよび18Bに示すが、これは、実験的か、またはモデルでシミュレーションされたかのいずれかのH3×B1D2で処理されたADRr細胞における、それぞれErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す。実験的に処理された細胞(「DR50データ」)およびシミュレーションされた処理細胞(「DR50sim」)のIC50も示す。しかしながら、(RNAi添加のシミュレーションによる)ErbB1発現の下方制御は、ErbB1 RNAiおよびH3×B1D2による処理についてシミュレーションされたADRr細胞において、それぞれpErbB3およびpAKTの阻害曲線を示す図18Cおよび18Dに示すように、シミュレーションにおいて、大きな阻害率をもたらした。ErbB1 RNAiシミュレーションからの結果は、ErbB1発現がH3×B1D2にとって負の応答バイオマーカーであることを示唆する。
【0262】
要約すると、計算モデルおよび実験データは、インビボにおけるH3×B1D2に対する応答性の負の調節には、(i)不十分な高さのErbB2レベル、および(ii)高ErbB1レベルの2つの機構が存在することを示唆する。逆に、高レベルのErbB2発現と低レベルのErbB1発現は、H3×B1D2に対する応答性の上昇と相関した。
【0263】
実施例12:H3×B1D2を用いた処理に対するインビボ応答性は、計算モデルから予測される応答性と相関する
この実施例において、H3×B1D2処理に対する腫瘍のインビボ応答が、H3×B1D2処理に対する応答性の直接的および間接的バイオマーカーを特定する、ErbB経路における様々な構成要素の計算されたレベルと相関した。
【0264】
H3×B1D2処理に対する腫瘍のインビボ応答を特徴付けるために、腫瘍細胞株のパネルを、実施例1に記載するような異種移植片モデルで試験した。異種移植片腫瘍モデルにおいて、マウス(nu/nuマウス:4〜5週齢の雌のマウス、胸腺欠損、裸、非近交背景;白色種素性、Charles River Labs,Wilmington,MAから購入)の脇腹に、皮下注入を介して、200μlの5×106−2×107細胞/マウス(細胞株による)を移植する。初期腫瘍成長のため、マウスをモニタリングする。腫瘍は、平均腫瘍量が約150〜200mm3になるまで、数日間成長させる。腫瘍量は、V=(π/6(L×W2)のとして計算される。H3×B1D2抗体を用いて、600μg/注入の用量で、3日ごと(qd3)にマウスを処理する。対照マウスは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)または野生型HAS(ヒト血清アルブミン)で処理される。腫瘍量は40〜80日間測定される。
【0265】
以下の12の腫瘍細胞株を検討した:ACHN、ADRr、IGROV1、LS180、MIA PaCa2、ZR75−1、MDA−MB−361、ADrR−HER2(HER2を過剰発現するために形質移入されたADrR細胞)、NCI−N87、CALU−3、SKOV−3、およびBT474−M3。計算モデルでこれらの細胞株を使用するために、上述の方法またはその多少の変形を使用して、各細胞株のErbB1、ErbB2、およびErbB3発現レベルを実験的に決定し、その結果を以下の表17に示す。
【0266】
(表17)ErbB受容体レベル
【0267】
インビボ異種移植片実験からの対照および処理データを、以下の式を使用して、指数関数的成長曲線に適合した。
V=Vo*exp(k*t)
式中、Vは腫瘍量であり、V0は時間ゼロでの腫瘍量であり、kは指数関数的成長率であり、tは時間である。腫瘍成長の阻害におけるH3×B1D2の効力は、試験された各細胞株の処理および対照の指数関数的成長率の比率として表された。この比率は、「相対成長率」(RGR)として示され、
RGR=kH3 x B1D2 /k対照
として表される。
【0268】
1の相対成長速度(RGR)は、薬剤が効果を持たないことを意味した。0のRGRは、薬剤が腫瘍の成長を完全に停止させたことを意味した。負のRGRは、薬剤が腫瘍の退縮をもたらしたことを意味した。
【0269】
検討された12の細胞株のうち、BT474−M3のみが負のRGRであった(すなわち、H3×B1D2は、この細胞株においてのみ腫瘍の退縮をもたらした)。IGROV1およびLS180の2つの細胞株は、1を超えるRGR値であり、H3×B1D2がこれらの細胞株の腫瘍成長に効果がなかったことを示唆する。残りの9つの細胞株は、0から1の間のRGR値であり、H3×B1D2がこれらの細胞株の腫瘍成長を部分的に阻害したことを示唆する。
【0270】
各細胞株中のErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定されたレベルに基づき、H3×B1D2阻害剤の不在下の細胞株中のErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよびErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのモデル計算されたレベルに対して、12の細胞株のRGR値をプロットした。図19A〜Cに結果を図示するが、これは、H3×B1D2の不在下の腫瘍細胞のパネルにおける、ErbB2モノマー(図19A)、ErbB2:ErbB2ホモダイマー(図19B)、およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図19C)の計算されたレベルに対してプロットされた、H3×B1D2を用いて処理された異種移植片モデルにおける腫瘍細胞のパネルのインビボで決定された相対成長率(RGR)のグラフを示す。
【0271】
図19の結果は、RGRとErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマー、およびErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの計算されたレベルとの間に線形関係があることを示す。この観察を考慮すると、ErbB2モノマー、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの直接的測定は、H3×B1D2応答性の直接的バイオマーカーとして使用され得る。さらに、腫瘍試料におけるErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定は、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルを計算して、H3×B1D2処理に対する腫瘍応答性」を分類するために使用され得る(すなわち、ErbB1、ErbB2、およびErbB3の測定されたレベルは、H3×B1D2応答性の間接的バイオマーカーとして使用され得、それらは、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルを計算するために使用される)。したがって、例えば、ErbB2:ErbB2ホモダイマーおよび/またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーの計算されたレベルは、H3×B1D2処理に対する応答性が予測され得る、ネットワーク活性化状態(NAS)値として使用され得る。
【0272】
12の細胞株のRGR値も、H3×B1D2阻害剤のシミュレーションされた不在下および存在下の細胞株におけるErbB2:ErbB2ヘテロダイマーおよびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの計算された相対レベル(例えば、比率)に対してプロットされた。より低い相対レベルは、H3×B1D2が、その種のヘテロダイマーの形成をより強力に阻害することができることを示唆する。結果を図20A〜Bに図示するが、これは、シミュレーションされたH3×B1D2の不在下のヘテロダイマーのシミュレーションされたレベルと比較した、シミュレーションされたH3×B1D2の存在下の腫瘍細胞のパネルにおいて、ErbB2:ErbB3ヘテロダイマー(図20A)および ErbB1:ErbB3ヘテロダイマー(図20B)の計算された相対レベルに対してプロットされた、H3×B1D2を用いて処理された異種移植片モデルにおける腫瘍細胞のパネルについてインビボで決定された相対成長率(RGR)のグラフを示す。
【0273】
図20の結果は、阻害剤がErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーを妨害する能力と腫瘍の相対成長率との間の相関を示す。つまり、計算されたErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルが、シミュレーションされたH3×B1D2阻害剤の存在下で低い(すなわち、阻害剤によるヘテロダイマー妨害が高い)腫瘍細胞(例えば、BT474−M3細胞)は、低いRGR値を示す(腫瘍成長への阻害剤の大きな効果を示唆する)。逆に、計算されたErbB2:ErbB3およびErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルが、シミュレーションされたH3×B1D2阻害剤の存在下で高い(すなわち、阻害剤によるヘテロダイマー妨害が低い)腫瘍細胞(例えば、ACHN細胞)は、高いRGR値を示す(腫瘍成長への阻害剤の効果が小さいことを示唆する)。これらの結果は、シミュレーションされた治療薬の不在下と比較した、シグナル伝達経路の計算モデルにおける治療薬の存在下のシミュレーションは、NISが治療薬に対する腫瘍細胞のインビボの応答の予測因子として使用され得る、ErbB2:ErbB3またはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーの相対レベルに基づく、ネットワーク阻害状態(NIS)の生成を可能にすることを示す。
【0274】
実施例13:結合親和性(KD)の測定
抗ErbB抗体の解離定数は、表面プラスモン共鳴法および細胞結合実験のいずれか、またはその両方の2つの独立した技法を使用して測定され得る。
【0275】
表面プラスモン共鳴法
表面プラスモン共鳴法は、Wassaf et al.(2006)Analytical Biochem.,351:241−253.に記載されるように実施される。好適な実施形態は、検体として組み換えErbBタンパク質、およびリガンドとして抗ErbB抗体を使用するBIACORE3000機器(GE Healthcare)を使用する。KD値は、方程式KD=Kd/Kaに基づき計算される。
【0276】
細胞結合実験
細胞結合実験は、ErbB1結合にはA−431細胞、ErbB2結合にはZR−75−1細胞、またはErbB3結合にはMALME−3M細胞(全てATCCから購入)を使用して実施される。実験は、実質的に、以下にように実施される。
【0277】
細胞は、室温で5分間、2mLのトリプシン−EDTA+2mL RMPI+5mM EDTAを用いて切り離される。完全RPMI(10mL)を直ちにトリプシン処理された細胞に添加し、軽く再懸濁し、5分間、1100rpmで、ベックマン卓上型遠心分離機で遠心沈降させる。1ml当り2×106細胞の濃度で、BD染色緩衝液(PBS+2%FBS+0.1%アジ化ナトリウム、Becton Dickinson)に細胞を再懸濁し、50μl(1×105細胞)のアリコートを96ウェルタイタープレートに平板培養する。
【0278】
200nMの抗ErbB抗体含有BD染色緩衝液の150μl溶液を調製し、75μlBD染色緩衝液に2倍系列希釈する。希釈された抗体の濃度は、200nM〜0.4nMの範囲であった。その後、異なるタンパク質希釈液の50μlアリコートを、直接50μl細胞懸濁液に添加し、抗体の100nM、50nM、25nM、12nM、6nM、3nM、1.5nM、0.8nM、0.4nM、および0.2nMの最終濃度を得る。
【0279】
96ウェルプレートに小分けされた細胞を、プラットフォーム式振盪器上で、室温で30分間、タンパク質希釈液と共にインキュベートし、300μlのBD染色緩衝液で3回洗浄する。その後、細胞を、プラットフォーム式振盪器上で、低温室で45分間、100μlの二次抗体(例えば、1:750希釈のアレキサン647標識ヤギ抗ヒトIgG含有BD染色緩衝液)と共にインキュベートする。最後に、細胞を2回洗浄し、ペレット化し、250μlのBD染色緩衝液および0.5μg/mlヨウ化プロピジウムに再懸濁する。FL4チャネルを使用して、10,000個の細胞の分析をFACSCALIBURフローサイトメーターで行う。MFI値および対応する抗ErbB抗体の濃度を、それぞれy軸およびx軸にプロットする。非線形回帰曲線の一部位結合モデルを使用して、GraphPad PRISMソフトウェアを使用して分子のKDを決定する。
【0280】
KD値は、方程式Y=Bmax*X/KD+X(Bmax=飽和での蛍光。X=抗体濃度。Y=結合の程度)に基づき計算される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍試料を得る段階、前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を治療する方法であって、
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、無血清培地中で20〜24時間培養された後のACHN細胞の培養物中で測定されたpErbB3のレベルの50%以上である場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、かつ
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、ACHN細胞の前記培養物中で測定されたpErbB3レベルの50%より低い場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない、方法。
【請求項2】
前記試料中の前記pErbB3のレベルが、
(a)前記試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも2つの構成要素のそれぞれのレベルを測定する段階、
(b)前記ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルに入力される、(a)で測定されたレベルを使用して、前記試料中の前記pErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態を計算する段階、および
(c)そこから前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階
により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レベルが測定される少なくとも1つの構成要素が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、ヘレグリン、ベータセルリン、上皮成長因子、ヘパリン結合上皮成長因子、形質転換成長因子α、アンフィレギュリン、エピゲン(epigen)、およびエピレギュリンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レベルが測定される少なくとも1つの構成要素が、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーであるタンパク質である、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロダイマーが、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質の前記レベルが、定量的蛍光活性化細胞選別法、酵素結合免疫吸着測定法、免疫組織化学検査、定量的免疫組織化学検査、蛍光共鳴エネルギー転移、フェルスター共鳴エネルギー転移、蛍光タンパク質再構成法、質量分析法、免疫ブロット法、または共免疫沈降法により測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
(a)で検出される構成要素の1つが、mRNAである、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ネットワーク活性化状態の計算が、機構的モデルまたは統計分類アルゴリズムを含む前記ErbB3シグナル伝達経路のコンピュータモデルを含む、請求項2〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記計算されたネットワーク活性化状態が、前記試料中のpErbB3、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つのレベルをシミュレーションする、請求項2〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が、結腸、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される器官の悪性腫瘍である、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗ErbB3抗体が、
(i)配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体、
(ii)配列番号3および4に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#3、または配列番号13〜15および16〜18に示される、Ab#3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iii)配列番号5および6に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#14、または配列番号19〜21および22〜24に示される、Ab#14のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iv)配列番号25および26に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#17、または配列番号27〜29および30〜32に示される、Ab#17のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、および
(v)配列番号33および34に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#19、または配列番号35〜37および38〜40に示される、Ab#19のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1〜10うちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗ErbB3抗体が、MM−121を含む、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、該細胞ネットワークを含む細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料中で測定される前記細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの機構的計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて前記入力から計算する段階、および
(c)(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態または前記ネットワーク阻害状態に少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項14】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、該細胞ネットワークを含む細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定される前記細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)統計分類アルゴリズムを含む前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて前記入力から計算する段階、および
(c)(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態または前記ネットワーク阻害状態に少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項15】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)前記細胞の試料において、前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、
(b)(a)で測定されたレベルとともに入力された前記細胞ネットワークの機構的計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算することと、前記機構的計算モデルの出力を利用する統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答を予測することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階
を含む、方法。
【請求項16】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定される細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて計算する段階、および
(c)前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項17】
前記細胞ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
レベルが測定される構成要素の1つが、前記ErbBシグナル伝達経路に関与するErbB受容体リガンドである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ErbB受容体リガンドが、ヘレグリン、ベータセルリン、上皮成長因子、ヘパリン結合上皮成長因子、形質転換成長因子α、アンフィレギュリン、エピゲン、またはエピレギュリンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
レベルが測定される構成要素の1つが、前記ErbBシグナル伝達経路に関与する受容体である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記受容体が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、またはErbB4である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記治療薬が、抗EGFR抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806から選択される抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記治療薬が、抗ErbB2抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記抗ErbB2抗体が、トラスツズマブを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記治療薬が、抗ErbB3抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記抗ErbB3抗体が、
(i)配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体、
(ii)配列番号3および4に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#3、または配列番号13〜15および16〜18に示される、Ab#3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iii)配列番号5および6に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#14、または配列番号19〜21および22〜24に示されるAb#14のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iv)配列番号25および26に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#17、または配列番号27〜29および30〜32に示される、Ab#17のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(v)配列番号33および34に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#19、または配列番号35〜37および38〜40に示される、Ab#19のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(vi)MM−121、ならびに
(vii)U3−1287
のうちの少なくとも1つを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗ErbB3抗体が、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む二重特異性抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記二重特異性抗体が、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するH3×B1D2二重特異性抗体か、または、配列番号48〜50および51〜53のB1D2のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体に連結された、配列番号42〜44および45〜47に示されるH3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体を含む二重特異性抗体を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療薬が、それぞれの抗体がErbB3上の異なるエピトープに結合する2つ以上の抗ErbB3抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
前記抗ErbB3抗体が、MM−121である、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記治療薬が、抗ErbB4抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項33】
前記治療薬が、汎ErbB阻害剤またはHER二量体化阻害剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項34】
前記治療薬が、ペルツズマブを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記治療薬が、ゲフィチニブ、ラパチニブ、CI−1033、エルロチニブHCL、PKI−166、PD−158780、EKB−569、および4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリンから選択されるErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞ネットワークが、c−Metシグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記治療薬が、抗c−Metまたは抗HGF抗体を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記治療薬が、AV299、AMG102、および5D5から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記治療薬が、抗ErbB1抗体に連結された抗HGF抗体を含む二重特異性モノクローナル抗体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記治療薬が、c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤が、ARQ197またはPHA665752である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞ネットワークが、インスリン成長因子1受容体(IGF1R)シグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記治療薬が、抗IGF1R抗体を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗IGF1R抗体が、mAb391、IMC−A12、19D12、H7C10、CP751,871、SCV/FC、およびEM/164である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記抗IGF1R抗体が、抗ErbB3抗体に連結された抗IGF1R抗体を含む二重特異性モノクローナル抗体を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記治療薬が、NVP−AEW541、NVP−ADW742、NVP−TAE226、BMS−536、924、BMS−554、417、PQ401、およびシクロリグナンから選択されるIGF1Rシグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1およびヘレグリンである、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1、ErbB2、およびErbB3である、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1、ErbB2、およびErbB3、ヘレグリン、およびベータセルリンである、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記ErbB3シグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする、請求項47〜49のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記細胞の前記試料中のリン酸化されたErbB3レベルをシミュレーションする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記細胞の前記試料中のリン酸化されたErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化されたErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記治療薬の不在下のErbB2:ErbB2ホモダイマー、またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
(b)で計算された前記NISが、前記治療薬の不在下のErbB2:ErbB3ヘテロダイマーまたはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーのレベルと比較した、前記治療薬の存在下のErbB2:ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
KRAS、PI3K、およびPTENから選択される少なくとも1つの遺伝子の変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
レベルが測定される前記構成要素が、ベータセルリンおよびアンフィレギュリンであり、かつ前記方法が、前記KRAS遺伝子の前記変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
レベルが測定される前記1つ以上の構成要素が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ヘレグリン、ベータセルリン、アンフィレギュリン、ヘパリン結合上皮成長因子、上皮成長因子、形質転換成長因子α、エピゲン、およびエピレギュリンから選択され、かつ前記方法が、前記KRAS遺伝子の前記変異状態を決定する段階、または前記KRAS遺伝子の前記変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記ErbBシグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
前記治療薬に対する複数の既知の応答株および非応答株に対して計算されたネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値が、ネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値の閾値を設定するために使用され、これが、前記治療薬に対する応答性または非応答性を示す、請求項50〜58のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
治療に対する前記細胞の前記応答が、(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記ネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値の閾値と比較することにより予測され、これが、前記治療薬に対する応答性または非応答性を示す、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
統計分類アルゴリズムの適用が、
1.(a)で決定された前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベル、
2.(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態、
3.前記細胞の前記試料における1つ以上の遺伝子の前記変異状態、
4.前記治療薬で治療される前記対象の年齢、
5.前記治療薬で治療される前記対象の性別、
6.前記細胞上でのエストロゲン受容体(ER)の有無、
7.前記細胞上でのプロゲステロン受容体の有無、および
8.前記細胞上でのアンドロゲン受容体の有無
から選択される情報のうちの1つ以上の項目を前記アルゴリズムに入力することを含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項62】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)(i)ヘレグリン、ならびに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを、前記細胞の試料において測定する段階、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を、コンピュータを使用して予測する段階であって、対照に対する、HRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項63】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記細胞の試料においてそのレベルが測定された(i)ヘレグリン、ならびに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定されたレベルを特定する入力を、前記計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、
(b)前記測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の予測される応答を、前記計算システムを用いて生成し、その後、前記出力デバイスで表示する段階であって、対照に対する、HRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項64】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB1のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB2のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項66】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB3のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項67】
前記測定されたレベルが、HRG、並びにErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも2つの受容体のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項68】
前記測定されたレベルが、HRG、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項69】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上のレベルを、前記細胞の試料において測定する段階、ならびに
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を、コンピュータを使用して予測する段階であって、対照に対する、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項70】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記細胞の試料において測定された、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を、前記計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、ならびに
(b)前記測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、計算システムを用いて生成および表示する段階であって、対照に対する、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異により、前記治療薬を用いた治療に対する応答が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項71】
前記測定されたレベルが、統計分類アルゴリズムに入力され、かつ治療に対する前記細胞の応答が、前記アルゴリズムの出力に基づき予測される、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態が、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記測定されたレベルに基づき計算される、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項73】
前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答が、前記計算されたネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値に基づき予測される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記治療薬が、抗ErbB3抗体を含む、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項75】
前記抗ErbB3抗体が、配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示されるAb#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体を含む、請求項76に記載の方法。
【請求項76】
前記測定されたレベルが、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、および/またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルであり、かつ前記治療薬が、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体である、請求項69または70に記載の方法。
【請求項77】
前記二重特異性抗体が、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するH3xB1D2二重特異性抗体か、または、配列番号48〜50および51〜53のB1D2のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体に連結された、配列番号42〜44および45〜47に示されるH3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体を含む二重特異性抗体を含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記細胞が、腫瘍細胞である、請求項13〜16、62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項79】
前記腫瘍が、乳癌の腫瘍である、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記腫瘍が、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、結腸、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される組織の腫瘍である、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
前記腫瘍の前記試料が、腫瘍組織、微細針吸引液、乳頭吸引液、または、血液試料、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿から単離された循環腫瘍細胞、もしくはそこから単離された脱離または循環腫瘍細胞から選択される、請求項78に記載の方法。
【請求項82】
前記測定されたレベルが、タンパク質レベルであり、かつ前記タンパク質が、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーである、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
タンパク質レベルが、定量的蛍光活性化細胞選別法、酵素結合免疫吸着測定法、免疫組織化学検査、定量的免疫組織化学検査、蛍光共鳴エネルギー転移、フェルスター共鳴エネルギー転移、蛍光タンパク質再構成法、質量分析法、免疫ブロット法、および共免疫沈降法から選択される1つ以上の方法によって測定される、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記測定されたレベルが、mRNAレベルである、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項85】
治療に対する前記予測された前記細胞の応答に基づき、治療レジメンを選択することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項86】
前記予測された応答に基づき、前記治療薬の投与のための治療レジメンを選択することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記予測された応答に基づき、使用のために前記治療薬を調製することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項88】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットであって、
(a)前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための1つまたは複数の試験法と、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための説明書と
を含む、キット。
【請求項89】
(c)前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を予測するための、前記キットの使用のための説明書をさらに含む、請求項88に記載のキット。
【請求項90】
統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項91】
前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための前記1つまたは複数の試験法が、前記構成要素のタンパク質レベルの検出を可能にする1つ以上の試薬を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項92】
前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための前記試験法が、前記構成要素のmRNAレベルの検出を可能にする1つ以上の試薬を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項93】
前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための前記説明書が、命令が実行されると、プロセッサに、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための動作を実行させるための、実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品を使用するための説明書である、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項94】
前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための前記説明書が、前記細胞における前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の前記レベルを示す情報がユーザにより入力される時に、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとのインターフェース接続のための、前記キットのユーザ用の説明書を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項95】
前記細胞ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路である、請求項88〜94のうちのいずれか1項に記載のキット。
【請求項96】
少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路受容体、および少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路リガンドのレベルを検出するための1つまたは複数の試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項97】
ErbB1、ErbB2、ErbB3、ヘレグリン、およびベータセルリンのレベルを検出するための試験法を含む、請求項96に記載のキット。
【請求項98】
ErbB1およびヘレグリンのレベルを検出するための試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項99】
ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つのレベルを検出するための1つまたは複数の試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項100】
前記細胞が、腫瘍細胞である、請求項88〜99のうちのいずれか1項に記載のキット。
【請求項101】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための方法であって、
(a)前記細胞の試料において、前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、
(b)
(i)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、
(ii)治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答がその計算されたレベルにより予測される前記細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答を予測するバイオマーカーとして、前記構成要素を特定することとを含む、コンピュータにより実施される方法を適用する段階
を含む、方法。
【請求項102】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定された細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを、前記計算システムを用いて計算する段階、ならびに
(c)治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答がその計算されたレベルにより予測される前記細胞ネットワークの構成要素を、前記計算システムにより特定し、かつそれにより、前記治療薬を用いた治療薬に対する前記細胞の応答を予測するバイオマーカーとして、前記構成要素を特定する段階
を含む、方法。
【請求項103】
命令が実行されると、請求項1〜87または101〜102のうちのいずれか1項に記載される方法を実施する、コンピュータが実行可能な命令を格納する1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項104】
腫瘍試料を得る段階、前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を前記患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を治療するための方法であって、
前記試料において決定されたpErbB3の前記レベルが、最小レベル以上である場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、かつ
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、0.064pg/μg総タンパク質、0.08pg/μg総タンパク質、0.096pg/μg総タンパク質、0.122pg/μg総タンパク質、0.128pg/μg総タンパク質、0.144pg/μg総タンパク質、または0.16pg/μg総タンパク質である最小レベルより低い場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない、方法。
【請求項1】
腫瘍試料を得る段階、前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を治療する方法であって、
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、無血清培地中で20〜24時間培養された後のACHN細胞の培養物中で測定されたpErbB3のレベルの50%以上である場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、かつ
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、ACHN細胞の前記培養物中で測定されたpErbB3レベルの50%より低い場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない、方法。
【請求項2】
前記試料中の前記pErbB3のレベルが、
(a)前記試料中のErbB3シグナル伝達経路の少なくとも2つの構成要素のそれぞれのレベルを測定する段階、
(b)前記ErbB3シグナル伝達経路の計算モデルに入力される、(a)で測定されたレベルを使用して、前記試料中の前記pErbB3のレベルをシミュレーションするネットワーク活性化状態を計算する段階、および
(c)そこから前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階
により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レベルが測定される少なくとも1つの構成要素が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ErbB4、ヘレグリン、ベータセルリン、上皮成長因子、ヘパリン結合上皮成長因子、形質転換成長因子α、アンフィレギュリン、エピゲン(epigen)、およびエピレギュリンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レベルが測定される少なくとも1つの構成要素が、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーであるタンパク質である、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロダイマーが、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質の前記レベルが、定量的蛍光活性化細胞選別法、酵素結合免疫吸着測定法、免疫組織化学検査、定量的免疫組織化学検査、蛍光共鳴エネルギー転移、フェルスター共鳴エネルギー転移、蛍光タンパク質再構成法、質量分析法、免疫ブロット法、または共免疫沈降法により測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
(a)で検出される構成要素の1つが、mRNAである、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ネットワーク活性化状態の計算が、機構的モデルまたは統計分類アルゴリズムを含む前記ErbB3シグナル伝達経路のコンピュータモデルを含む、請求項2〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記計算されたネットワーク活性化状態が、前記試料中のpErbB3、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つのレベルをシミュレーションする、請求項2〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が、結腸、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される器官の悪性腫瘍である、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗ErbB3抗体が、
(i)配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体、
(ii)配列番号3および4に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#3、または配列番号13〜15および16〜18に示される、Ab#3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iii)配列番号5および6に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#14、または配列番号19〜21および22〜24に示される、Ab#14のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iv)配列番号25および26に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#17、または配列番号27〜29および30〜32に示される、Ab#17のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、および
(v)配列番号33および34に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#19、または配列番号35〜37および38〜40に示される、Ab#19のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1〜10うちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗ErbB3抗体が、MM−121を含む、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、該細胞ネットワークを含む細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料中で測定される前記細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの機構的計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて前記入力から計算する段階、および
(c)(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態または前記ネットワーク阻害状態に少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項14】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する、該細胞ネットワークを含む細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定される前記細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)統計分類アルゴリズムを含む前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて前記入力から計算する段階、および
(c)(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態または前記ネットワーク阻害状態に少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項15】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)前記細胞の試料において、前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、
(b)(a)で測定されたレベルとともに入力された前記細胞ネットワークの機構的計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算することと、前記機構的計算モデルの出力を利用する統計分類アルゴリズムに少なくとも部分的に基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答を予測することとを含む、コンピュータにより遂行される方法を適用する段階
を含む、方法。
【請求項16】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定される細胞ネットワーク中の1つ以上の構成要素のレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記計算システムを用いて計算する段階、および
(c)前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、前記計算システムを用いて生成し、かつ前記出力デバイスで表示する段階
を含む、方法。
【請求項17】
前記細胞ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
レベルが測定される構成要素の1つが、前記ErbBシグナル伝達経路に関与するErbB受容体リガンドである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ErbB受容体リガンドが、ヘレグリン、ベータセルリン、上皮成長因子、ヘパリン結合上皮成長因子、形質転換成長因子α、アンフィレギュリン、エピゲン、またはエピレギュリンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
レベルが測定される構成要素の1つが、前記ErbBシグナル伝達経路に関与する受容体である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記受容体が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、またはErbB4である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記治療薬が、抗EGFR抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記抗EGFR抗体が、セツキシマブ、マツズマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびmAb806から選択される抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記治療薬が、抗ErbB2抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記抗ErbB2抗体が、トラスツズマブを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記治療薬が、抗ErbB3抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記抗ErbB3抗体が、
(i)配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示される、Ab#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体、
(ii)配列番号3および4に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#3、または配列番号13〜15および16〜18に示される、Ab#3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iii)配列番号5および6に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#14、または配列番号19〜21および22〜24に示されるAb#14のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(iv)配列番号25および26に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#17、または配列番号27〜29および30〜32に示される、Ab#17のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(v)配列番号33および34に示される、それぞれVHおよびVL配列を有するAb#19、または配列番号35〜37および38〜40に示される、Ab#19のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体、
(vi)MM−121、ならびに
(vii)U3−1287
のうちの少なくとも1つを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗ErbB3抗体が、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む二重特異性抗体である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記二重特異性抗体が、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するH3×B1D2二重特異性抗体か、または、配列番号48〜50および51〜53のB1D2のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体に連結された、配列番号42〜44および45〜47に示されるH3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体を含む二重特異性抗体を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療薬が、それぞれの抗体がErbB3上の異なるエピトープに結合する2つ以上の抗ErbB3抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
前記抗ErbB3抗体が、MM−121である、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記治療薬が、抗ErbB4抗体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項33】
前記治療薬が、汎ErbB阻害剤またはHER二量体化阻害剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項34】
前記治療薬が、ペルツズマブを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記治療薬が、ゲフィチニブ、ラパチニブ、CI−1033、エルロチニブHCL、PKI−166、PD−158780、EKB−569、および4−(3−クロロアニリノ)−6,7−ジメトキシキナゾリンから選択されるErbBシグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞ネットワークが、c−Metシグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記治療薬が、抗c−Metまたは抗HGF抗体を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記治療薬が、AV299、AMG102、および5D5から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記治療薬が、抗ErbB1抗体に連結された抗HGF抗体を含む二重特異性モノクローナル抗体を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記治療薬が、c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記c−Metシグナル伝達の小分子阻害剤が、ARQ197またはPHA665752である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞ネットワークが、インスリン成長因子1受容体(IGF1R)シグナル伝達経路を含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記治療薬が、抗IGF1R抗体を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗IGF1R抗体が、mAb391、IMC−A12、19D12、H7C10、CP751,871、SCV/FC、およびEM/164である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記抗IGF1R抗体が、抗ErbB3抗体に連結された抗IGF1R抗体を含む二重特異性モノクローナル抗体を含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記治療薬が、NVP−AEW541、NVP−ADW742、NVP−TAE226、BMS−536、924、BMS−554、417、PQ401、およびシクロリグナンから選択されるIGF1Rシグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1およびヘレグリンである、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1、ErbB2、およびErbB3である、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路を含み、かつレベルが測定される前記構成要素が、ErbB1、ErbB2、およびErbB3、ヘレグリン、およびベータセルリンである、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記ErbB3シグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする、請求項47〜49のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記細胞の前記試料中のリン酸化されたErbB3レベルをシミュレーションする、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記細胞の前記試料中のリン酸化されたErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化されたErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記治療薬の不在下のErbB2:ErbB2ホモダイマー、またはErbB2:ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
(b)で計算された前記NISが、前記治療薬の不在下のErbB2:ErbB3ヘテロダイマーまたはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーのレベルと比較した、前記治療薬の存在下のErbB2:ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1:ErbB3ヘテロダイマーのレベルをシミュレーションする、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
KRAS、PI3K、およびPTENから選択される少なくとも1つの遺伝子の変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項13〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
レベルが測定される前記構成要素が、ベータセルリンおよびアンフィレギュリンであり、かつ前記方法が、前記KRAS遺伝子の前記変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
レベルが測定される前記1つ以上の構成要素が、ErbB1、ErbB2、ErbB3、ヘレグリン、ベータセルリン、アンフィレギュリン、ヘパリン結合上皮成長因子、上皮成長因子、形質転換成長因子α、エピゲン、およびエピレギュリンから選択され、かつ前記方法が、前記KRAS遺伝子の前記変異状態を決定する段階、または前記KRAS遺伝子の前記変異状態を特定する入力を、入力デバイスを通して受け取る計算システムをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態が、前記ErbBシグナル伝達経路における1つ以上のリン酸化タンパク質のレベルをシミュレーションする、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
前記治療薬に対する複数の既知の応答株および非応答株に対して計算されたネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値が、ネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値の閾値を設定するために使用され、これが、前記治療薬に対する応答性または非応答性を示す、請求項50〜58のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
治療に対する前記細胞の前記応答が、(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を、前記ネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値の閾値と比較することにより予測され、これが、前記治療薬に対する応答性または非応答性を示す、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
統計分類アルゴリズムの適用が、
1.(a)で決定された前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベル、
2.(b)で計算された前記ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態、
3.前記細胞の前記試料における1つ以上の遺伝子の前記変異状態、
4.前記治療薬で治療される前記対象の年齢、
5.前記治療薬で治療される前記対象の性別、
6.前記細胞上でのエストロゲン受容体(ER)の有無、
7.前記細胞上でのプロゲステロン受容体の有無、および
8.前記細胞上でのアンドロゲン受容体の有無
から選択される情報のうちの1つ以上の項目を前記アルゴリズムに入力することを含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項62】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)(i)ヘレグリン、ならびに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体のレベルを、前記細胞の試料において測定する段階、
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を、コンピュータを使用して予測する段階であって、対照に対する、HRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項63】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記細胞の試料においてそのレベルが測定された(i)ヘレグリン、ならびに(ii)ErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも1つの受容体の測定されたレベルを特定する入力を、前記計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、
(b)前記測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の予測される応答を、前記計算システムを用いて生成し、その後、前記出力デバイスで表示する段階であって、対照に対する、HRGおよび前記少なくとも1つの受容体のレベルの上昇により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項64】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB1のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB2のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項66】
前記測定されたレベルが、HRGおよびErbB3のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項67】
前記測定されたレベルが、HRG、並びにErbB1、ErbB2、およびErbB3から選択される少なくとも2つの受容体のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項68】
前記測定されたレベルが、HRG、ErbB1、ErbB2、およびErbB3のレベルである、請求項62または63に記載の方法。
【請求項69】
ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するための方法であって、
(a)ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上のレベルを、前記細胞の試料において測定する段階、ならびに
(b)(a)で測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を、コンピュータを使用して予測する段階であって、対照に対する、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異により、前記治療薬を用いた治療に対する応答性が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項70】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、ErbBシグナル伝達経路の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのものであり、
(a)前記細胞の試料において測定された、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、およびリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのうちの1つ以上の測定されたレベルを特定する入力を、前記計算システムの入力デバイスを通して受け取る段階、ならびに
(b)前記測定されたレベルに基づき、前記治療薬を用いた治療に対して予測される前記細胞の応答を、計算システムを用いて生成および表示する段階であって、対照に対する、ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、リン酸化ErbB1/ErbB3ヘテロダイマー、またはリン酸化ErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルにおける差異により、前記治療薬を用いた治療に対する応答が予測される、段階
を含む、方法。
【請求項71】
前記測定されたレベルが、統計分類アルゴリズムに入力され、かつ治療に対する前記細胞の応答が、前記アルゴリズムの出力に基づき予測される、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
ネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態が、ErbB細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記測定されたレベルに基づき計算される、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項73】
前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答が、前記計算されたネットワーク活性化状態値またはネットワーク阻害状態値に基づき予測される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記治療薬が、抗ErbB3抗体を含む、請求項62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項75】
前記抗ErbB3抗体が、配列番号1および2に示される、それぞれ重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)配列を有するAb#6抗体、または配列番号7〜9および10〜12に示されるAb#6のそれぞれVHおよびVLCDR配列を有する抗体を含む、請求項76に記載の方法。
【請求項76】
前記測定されたレベルが、ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、および/またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーのレベルであり、かつ前記治療薬が、抗ErbB2抗体に連結された抗ErbB3抗体を含む、二重特異性抗体である、請求項69または70に記載の方法。
【請求項77】
前記二重特異性抗体が、配列番号41に示されるアミノ酸配列を有するH3xB1D2二重特異性抗体か、または、配列番号48〜50および51〜53のB1D2のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体に連結された、配列番号42〜44および45〜47に示されるH3のそれぞれVHおよびVLCDR配列を含む抗体を含む二重特異性抗体を含む、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記細胞が、腫瘍細胞である、請求項13〜16、62、63、69、および70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項79】
前記腫瘍が、乳癌の腫瘍である、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記腫瘍が、肺、直腸、胆嚢、脳、脊髄、乳房、腎臓、膵臓、胃、結腸、肝臓、骨、皮膚、脾臓、卵巣、精巣、前立腺、および筋肉から選択される組織の腫瘍である、請求項78に記載の方法。
【請求項81】
前記腫瘍の前記試料が、腫瘍組織、微細針吸引液、乳頭吸引液、または、血液試料、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液および尿から単離された循環腫瘍細胞、もしくはそこから単離された脱離または循環腫瘍細胞から選択される、請求項78に記載の方法。
【請求項82】
前記測定されたレベルが、タンパク質レベルであり、かつ前記タンパク質が、モノマー、ホモダイマー、またはヘテロダイマーである、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
タンパク質レベルが、定量的蛍光活性化細胞選別法、酵素結合免疫吸着測定法、免疫組織化学検査、定量的免疫組織化学検査、蛍光共鳴エネルギー転移、フェルスター共鳴エネルギー転移、蛍光タンパク質再構成法、質量分析法、免疫ブロット法、および共免疫沈降法から選択される1つ以上の方法によって測定される、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記測定されたレベルが、mRNAレベルである、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項85】
治療に対する前記予測された前記細胞の応答に基づき、治療レジメンを選択することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項86】
前記予測された応答に基づき、前記治療薬の投与のための治療レジメンを選択することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記予測された応答に基づき、使用のために前記治療薬を調製することをさらに含む、請求項13〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項88】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのキットであって、
(a)前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための1つまたは複数の試験法と、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための説明書と
を含む、キット。
【請求項89】
(c)前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の前記応答を予測するための、前記キットの使用のための説明書をさらに含む、請求項88に記載のキット。
【請求項90】
統計分類アルゴリズムを適用するための説明書をさらに含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項91】
前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための前記1つまたは複数の試験法が、前記構成要素のタンパク質レベルの検出を可能にする1つ以上の試薬を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項92】
前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを検出するための前記試験法が、前記構成要素のmRNAレベルの検出を可能にする1つ以上の試薬を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項93】
前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための前記説明書が、命令が実行されると、プロセッサに、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための動作を実行させるための、実行可能な命令を含有するコンピュータプログラム製品を使用するための説明書である、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項94】
前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するための前記説明書が、前記細胞における前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の前記レベルを示す情報がユーザにより入力される時に、前記細胞のネットワーク活性化状態またはネットワーク阻害状態を計算するコンピュータプログラムを作動させるインターネットベースのサービスとのインターフェース接続のための、前記キットのユーザ用の説明書を含む、請求項88または請求項89に記載のキット。
【請求項95】
前記細胞ネットワークが、ErbBシグナル伝達経路である、請求項88〜94のうちのいずれか1項に記載のキット。
【請求項96】
少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路受容体、および少なくとも1つのErbBシグナル伝達経路リガンドのレベルを検出するための1つまたは複数の試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項97】
ErbB1、ErbB2、ErbB3、ヘレグリン、およびベータセルリンのレベルを検出するための試験法を含む、請求項96に記載のキット。
【請求項98】
ErbB1およびヘレグリンのレベルを検出するための試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項99】
ErbB2モノマー、ErbB2/ErbB2ホモダイマー、ErbB2/ErbB3ヘテロダイマー、またはErbB1/ErbB3ヘテロダイマーのうちの少なくとも1つのレベルを検出するための1つまたは複数の試験法を含む、請求項95に記載のキット。
【請求項100】
前記細胞が、腫瘍細胞である、請求項88〜99のうちのいずれか1項に記載のキット。
【請求項101】
細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するための方法であって、
(a)前記細胞の試料において、前記細胞ネットワークの1つ以上の構成要素のレベルを測定する段階、
(b)
(i)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを計算することと、
(ii)治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答がその計算されたレベルにより予測される前記細胞ネットワークの構成要素を特定し、それにより、前記治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答を予測するバイオマーカーとして、前記構成要素を特定することとを含む、コンピュータにより実施される方法を適用する段階
を含む、方法。
【請求項102】
入力を受け取るように構成された少なくとも1つの入力デバイスと、出力を表示するように構成された少なくとも1つの出力デバイスとを含む計算システムを使用するコンピュータ化された方法であって、前記方法は、細胞ネットワーク内の構成要素を標的とする治療薬を用いた治療に対する細胞の応答を予測するためのバイオマーカーを特定するためのものであり、
(a)前記計算システムの入力デバイスを通して、前記細胞の試料において測定された細胞ネットワークの1つ以上の構成要素の測定されたレベルを特定する入力を受け取る段階、
(b)前記細胞ネットワークの計算モデルを使用して、前記細胞ネットワークの1つ以上の追加の構成要素のレベルを、前記計算システムを用いて計算する段階、ならびに
(c)治療薬を用いた治療に対する前記細胞の応答がその計算されたレベルにより予測される前記細胞ネットワークの構成要素を、前記計算システムにより特定し、かつそれにより、前記治療薬を用いた治療薬に対する前記細胞の応答を予測するバイオマーカーとして、前記構成要素を特定する段階
を含む、方法。
【請求項103】
命令が実行されると、請求項1〜87または101〜102のうちのいずれか1項に記載される方法を実施する、コンピュータが実行可能な命令を格納する1つ以上のコンピュータ可読記憶媒体を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項104】
腫瘍試料を得る段階、前記試料中のpErbB3のレベルを決定する段階、および続いて少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬を前記患者に投与する段階を含む、新生物腫瘍を有する患者を治療するための方法であって、
前記試料において決定されたpErbB3の前記レベルが、最小レベル以上である場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含み、かつ
前記試料中で決定された前記pErbB3のレベルが、0.064pg/μg総タンパク質、0.08pg/μg総タンパク質、0.096pg/μg総タンパク質、0.122pg/μg総タンパク質、0.128pg/μg総タンパク質、0.144pg/μg総タンパク質、または0.16pg/μg総タンパク質である最小レベルより低い場合、続いて患者に投与される前記少なくとも1つの抗腫瘍性治療薬は、抗ErbB3抗体を含まない、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【公表番号】特表2012−500008(P2012−500008A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523216(P2011−523216)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/054051
【国際公開番号】WO2010/019952
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(508044829)メリマック ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/054051
【国際公開番号】WO2010/019952
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(508044829)メリマック ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】
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