法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法
【課題】
計測点の座標と法線ベクトルの計測値から被測定物の表面形状を導出し、各軸の制御方法を工夫することによって各計測点での計測時間を短縮し、被測定物の表面形状測定の高速化と高精度化を図ることが可能な法線ベクトル追跡型超精密形状測定装置における駆動軸制御方法を提供する。
【解決手段】
2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除する。
計測点の座標と法線ベクトルの計測値から被測定物の表面形状を導出し、各軸の制御方法を工夫することによって各計測点での計測時間を短縮し、被測定物の表面形状測定の高速化と高精度化を図ることが可能な法線ベクトル追跡型超精密形状測定装置における駆動軸制御方法を提供する。
【解決手段】
2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法に係わり、更に詳しくは被測定物表面における有限数の離散した計測点の座標と法線ベクトルの実測値を用いて被測定物表面の全体形状を測定する法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線自由電子レーザや波長13.5nmの極紫外光を用いたリソグラフィー技術から要請される次世代高精度光学素子の製作には、非球面で形状誤差を1〜0.1nmRMSの精度で自由曲面の形状を計測することが不可欠である。このようなX線光学素子、代表的にはX線用反射ミラーは、10〜500cmのサイズを有し、この反射面全体にわたって前述の形状誤差を達成しなければならない。また、大量に製造される民生用の種々の曲率を持つ非球面ミラー、レンズにも超精密形状測定が求められている。空間波長1mm以下の表面粗さの計測手段として、原子レベルの分解能をもつプローブ顕微鏡があり、現状でも要求精度を満たしているが、一度に計測できる範囲は約50μm四方と非常に狭く、また計測時間も長いので、被測定物全体の形状を計測するには全く不向きである。一方、空間波長1mm以上の形状計測技術は、被測定物に1mmφ程度の細いレーザビームを照射して、得られる反射光のズレを測定して被測定物表面の傾斜角を求める、LTP(Long Trace Profiler)がある。これは、5×10-7radRMSの測定精度(3nmRMS)が得られるが、測定範囲は±5mradに限られて2次元形状測定である。また、点光源干渉法によって、0.3nmRMSの測定精度が得られているが、点光源からの球面波を参照するため、原理上非球面の形状計測が困難である。
【0003】
このような従来の課題を解消する方法として、特許文献1、2に記載されるような超精密形状測定方法が提案されている。この形状計測法の原理は、被測定物表面の法線ベクトルを追跡するために、光の直進性を活用し、光源から出射されたレーザビームがミラーに反射されて、光源の位置にある検出器(4分割フォトダイオード;QPD)の中心に戻るように2軸2組のゴニオメータを、また検出器と被測定物表面間の光路長(L)が一定になるように光軸方向の1軸直進ステージを、QPD出力をフィードバックして追従制御することによって、入反射光が一致する零位法と高速化を実現する。具体的には、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源とQPDを設け、1軸直進ステージで試料系又は光学系を駆動するようにしている。ミラーの任意計測点(座標)の法線ベクトルは、各ゴニオメータのエンコーダの出力から求め、これらの計測データから形状を導出するものである。
【0004】
特許文献1に記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定法では、測定点の座標と法線ベクトルの測定は、2軸1組のゴニオメータに測定点座標の指示を出し、その後、QPDの出力をコンピュータに読み込み、その出力が最小になるようにもう1組の2軸ゴニオメータを制御し、それから4軸のロータリーエンコーダとは別に制御している光路長Lを一定にする直線ステージのリニアエンコーダの出力を5軸同時に読み込んでいる。これまで、2軸2組のゴニオメータと光軸方向の1軸直進ステージをセミクローズドフィードバック制御することによって、形状精度2nmRMS、スロープエラー5×10-7radRMSの形状測定に成功した。しかし、この計測法は、コンピュータを介したセミクローズドフィードバック制御であるため、測定時間が数時間に及び温度変化等の外乱の影響を受けやすい計測法であった。
【0005】
そこで、特許文献2では、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることにより、各計測点座標での法線ベクトルの計測を素早く行うことができ、被測定物の表面形状の測定が短時間で行えるようになり、また大型の被測定物でも精密に形状を測定することができるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3598983号公報
【特許文献2】特開2010−038792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2軸2組のゴニオメータと光軸方向の1軸の直進ステージを追従制御することによる法線ベクトル追跡だけでは、駆動軸制御系応答の限界から、法線ベクトルとその計測点座標のデータが制御系の定常偏差の影響を受けることは避けられない。その結果、法線ベクトルの角度計測において1μrad以上の高精度測定ができず、1nmPV以上の形状測定精度を達成できなかった。しかし、エンコーダとQPDは、応答性が非常に良く、制御系の性能である定常偏差の影響でその出力値が時々刻々と変化しても瞬間瞬間では正確であるとの知見により、本発明を完成させるに至ったのである。
【0008】
つまり、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、計測点の座標と法線ベクトルの計測値から被測定物の表面形状を導出する法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器(QPD)からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とした上で、更にQPD出力を5軸のエンコーダ出力と同時に読み出すことにより、定常偏差に影響されない高精度な形状測定を可能にするとともに、同時に計測時間の短縮化が図れる法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を構成した(請求項1)。
【0010】
ここで、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、本発明は、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を構成した(請求項3)。
【0012】
ここで、前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなることも好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
以上にしてなる本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法は、曲率半径10mm以上から平面までの広範囲の自由曲面を、短時間に形状測定精度1nmPV以上(角度分解能0,1μrad以下)で測定でき、被測定物に対する大きさの制限が少なく、基準面を用いず、非接触で測定することができる等の利点を備えている。
【0014】
具体的には、本発明は、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御することにより、各計測点座標での法線ベクトルの計測を素早く行うことができ、被測定物の表面形状の測定が短時間で行えるようになる上に、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正することにより、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除した精密な形状計測を行うことができる。2軸1組のゴニオメータで常に法線ベクトルを追跡するようにQPDの出力をそのゴニオメータの駆動モータに直接入力し、また光路長Lを一定にする直進ステージにもQPDの出力を直接入力する3軸フルクローズドフィードバック制御を実現して高速化を図り、残り2軸のゴニオメータで計測点を指示して決めるのである。このように、法線ベクトルを追跡しながら同時に5軸のエンコーダの出力とQPD出力とを同時に読み出すことによって、計測時間の短縮化と形状測定精度の向上を図るのである。
【0015】
特に、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることにより、法線ベクトルの追跡を被測定物によらず自立的に素早く行うことができる。
【0016】
また、本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法は、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正したことにより、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除した零位法による精密な形状計測を行うことができる。
【0017】
そして、前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなることにより、ピエゾ駆動する部分の重量が軽くなって応答速度が速くなり、ゴニオメータ制御系の定常偏差を打ち消すようにQPDを平面内で高速移動させて、零位法による精密な形状計測を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】被測定物表面の座標と法線ベクトルを計測する方法の原理図である。
【図2】同じく2軸2組のゴニオメータの角度と法線ベクトル及び位置座標との関係を示す説明図である。
【図3】光学系を構成する光学ヘッドの説明図である。
【図4】本発明の横型の形状測定装置の概念構造を示す斜視図である。
【図5】フルクローズドフィードバック制御のブロック線図である。
【図6】セミクローズドフィードバック制御のブロック線図である。
【図7】(a)はC1軸の位置定常偏差のグラフ、(b)はA1軸の位置定常偏差のグラフである。
【図8】本発明の形状測定装置の5軸同時制御システムのブロック図である。
【図9】R=400mm球面ミラーの二次元形状測定結果を示し、(a)は全体形状のプロファイル、(b)は理想形状との形状誤差を示すグラフ、(c)は繰り返し測定誤差を示すグラフである。
【図10】同じく二次元形状測定結果であり、本発明とGPI(Zygo社)の形状誤差と両者の測定形状の差を示しグラフである。
【図11】R=400mm球面ミラーの三次元形状測定結果を示し、(a)は全体形状のプロファイル、(b)は理想形状との形状誤差を示すグラフ、(c)は繰り返し測定誤差を示すグラフである。
【図12】同じく三次元形状測定結果であり、(a)は当該装置(本発明の形状測定方法)による測定結果、(b)は位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果、(c)は当該装置と位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果の差を示している。
【図13】ゴニオメータ制御系の位置定常偏差を打ち消すように、QPDをピエゾ駆動による平面微動ステージで変位させる実施形態の簡略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の測定方法における法線ベクトルを計測する原理を示し、光の直進性を利用して被測定物1の表面上における各点の法線ベクトルを測定するのである。具体的には、2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸の直進運動(Y軸)とで構成されている。1組のゴニオメータは試料系2を構成し、その可動部に被測定物1を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系3を構成し、その可動部に光源と検出器Dを設けている。光源と検出器Dの動きは一体化している。
【0020】
前記光学系3を構成する光学ヘッド4を図3に基づき説明する。前記光学ヘッド4は、同一基台5の上に各種光学機器をアライメントして配置したものである。横単一モード発振のHe−Neレーザから出射したレーザ光を、オプチカルアイソレータを通過させた後、出射端部を基台5に固定した光ファイバー6で導き、該光ファイバー6の出射端部に対向させて配置したコリメーターレンズ7で集光させて点光源8とした。ここで、法線ベクトル測定の座標系は,検出器9を原点とし、X軸回りをφ、Z軸周りをθと定義した。前記コリメーターレンズ7で集光されたレーザ光は、ビームスプリッター10により90°曲げられ、1/4波長板11を通して集光レンズ12で集光されて被測定物1に所定のビームスポットで入射する。また、1/4波長板11は、偏向面を45°回転させた位置で固定し、直線偏光の光を円偏光に変換する。
【0021】
そして、前記被測定物1の被測定面13で反射したレーザ光は、集光レンズ12を通ってビームスプリッター10を直進し、ハーフミラー14を通り検出器9で受光することによって法線測定を行うのである。一方、ハーフミラー14で分割されたレーザ光は、シリンドリカルレンズ15を通して検出器16で受光され、被測定面13までの距離の変化を測定する。ここで、前記光軸位置検出器9と距離検出器16は、4分割フォトダイオード(QPD)で構成している。検出器9(QPD1)から被測定面13までの距離の変化を測定する検出器16(QPD2)は、光軸をZ軸方向へ配向させて基台5に取り付けている。ビームスプリッター10からのレーザ光は、ハーフミラー14により一方は検出器9へ、他方は検出器16へ1:1で分割される。検出器16側へ分割されたレーザ光は、シリンドリカルレンズ15を通って検出器16上で結像される。シリンドリカルレンズ15とQPD2(検出器16)からなる距離測定原理の詳細は、特許文献1に示されている。
【0022】
本発明における被測定物の表面形状の測定方法は次の通りである。計測中、試料系2の2軸ゴニオメータの回転中心は不動であり、この回転中心のY軸座標Ryは一定の値をとる。更に、計測中、被測定物表面から検出器Dまでの光路長Lが一定になるように、1軸の直進運動を用いて調整する必要がある。先ず、2軸2組(θ,φ)、(α,β)の回転運動により、計測基準点A0の法線ベクトルを計測する。それには、被測定物表面上の計測基準点A0への入射光とその点での反射光とが重なるように調整する。そのとき、その点の法線ベクトルは光線の方向と等しくなる。最初の計測基準点A0を原点(0,0,0)とし、法線ベクトルと一致した光線の方向と、光源の位置調整用座標系であるY軸を一致させ、更に、その軸上に試料系2の回転中心を設定する。そのときの光学系3の位置座標をT0(0,Y0,0)、測定系のZ軸周りとX軸周り、及び試料系2のZ軸周りとX軸周りの角度を(θ,φ)=(0,0)、(α,β)=(0,0)とする。試料系2の回転中心の座標はS0(0,Ry,0)である。そして、光路長Lと、計測基準点A0と回転中心のずれRyを別の測定機を用いて測定する。
【0023】
次の計測点A1(x,z)の法線ベクトルを求めるために、2軸(θ,φ)の回転運動でA1近傍に入射光が来るように調整する。それから、2軸(α,β)の回転運動によって、入射光と反射光を一致させ、QPD(検出器D)を用いた零位法により法線ベクトルを計測する。ここで、第1計測点A1(x,z)の法線ベクトルを計測した際の、光学系3の位置座標をT1(X1,Y1,Z1)=(0,Y0+yo1,0)、光学系3のZ軸周りとX軸周り、および試料系2のZ軸周りとX軸周りの角度を(θ,φ)=(θ1,φ1)、(α,β)=(α1,β1)とする。このときの変位量・変角量(yo1,θ1,φ1,α1,β1)を法線ベクトル計測値とする。計測点における法線ベクトルは光学系3と試料系2の変角量より求まり、更にこの法線ベクトルから被測定物表面の傾きが求まる。また、法線ベクトル計測点の座標は、光学系の変位量・変角量、試料系の変角量、光路長L及び回転中心変位Ryから求まる。
【0024】
つまり、不変の値LとRy、法線ベクトルの計測値(θ,φ,α,β,yo)を用いて以下の数1により被測定物表面上の計測点A(XA,ZA)と、数2により法線ベクトルN(nx,nz)の導出が可能である。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
本測定方法では、多数の計測点座標とその法線ベクトルの計測値を用いて、フーリエ級数で測定面形状を近似し、最小二乗法によって、その点でのスロープ残差を最小にするフーリエ級数展開係数を求めて測定面形状を一意的に決定するのである。ここで、計測点での面のスロープ(傾き)は、法線ベクトルから算出することができる。尚、本測定方法では、実測データを用いてフーリエ級数形式形状関数を特定する前に、本測定方法では理想形状関数を用いて、形状残差とスロープ残差を共に所定の精度以下になるようなフーリエ級数展開の次数nを見出し、計算誤差が所定の範囲内になることを保証している。ここで、ある点の傾きは理想形状関数の一階微分から容易に算出することが可能である。
【0028】
通常、被測定物の表面形状は、球面、円筒面、放物面、楕円体面は勿論、非球面、さらには解析関数で表現できない自由曲面でも光学系の設計においてスプライン関数等によって正確に関数で表され、その理想形状関数に近づけるように超精密に加工されるのである。従って、本測定方法において理想形状関数から導かれる理想データを用いて形状残差とスロープ残差を共に所定の精度以下になるように次数nを決定することは、何ら実用的価値を損なうものではない。そして、フーリエ級数展開の次数nが決まると、二次元形状の場合には少なくともn個の計測点、三次元形状の場合には少なくともn×n個の計測点で、座標と法線ベクトルを計測するのである。こうすることによって、計算誤差が保証された状態で、実測データを用いてフーリエ級数形式形状関数を求めることが可能となる。一般には、フーリエ級数展開を用いて最小二乗法によって任意曲面を近似する場合、座標(形状)の残差を最小にするが、本測定方法では、法線ベクトル形状計測法に合わせて、形状残差とともに、スロープの残差を最小にすることが特徴である。
【0029】
以上説明した形状を導出する一連の手順を形状導出アルゴリズムPと称することにする。2軸2組のゴニオメータから得られる4つの角度データ(θ,φ,α,β)と1軸直進ステージから得られる1つの距離データ(yo)とが、各計測点毎に得られる。つまり、計測点Ai毎に、絶対計測値セット(θi,φi,αi,βi,yoi)が得られる。そして、これらの実測データを用いて形状導出アルゴリズムPによって形状を導出するのである。ここで、特定の光路長Lの値で導出した形状をP(L)と表す。尚、光路長Lは、初期状態において原点と光学系3の回転中心までの距離として、別途測長機を用いて測定しておき、その実測値L0を得るが、被測定物の要求される測定精度より遥かに大きな計測誤差を有している。各計測点で光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを駆動するが、それには検出器16を構成する距離モニター用の4分割フォトダイオード(QPD2)の出力が一定になるようにフィードバック制御する(特許文献2参照)。尚、形状測定装置に組み込み、光路長Lをモニターする機構は他のものでも良い。
【0030】
本測定方法では、光源から出射された計測ビームと被測定物1の表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器Dと被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点を計測し、各計測点毎に、2軸2組のゴニオメータから得られる4つの角度データと1軸直進ステージから得られる1つの距離データとからなる計測値セットを取得する。この計測値(θ,φ,α,β,yo)は、計測基準点A0を原点とし、原点からの変位として取得した計測値を用いるか、あるいは前後の測定点間の差分として取得した計測値を用いる。そして、計測点の数だけの計測値セットから形状導出アルゴリズムPにより形状を導出する。この際に、光路長Lを変数として複数の形状P(L)を導出し、形状変化の収束を利用して真の光路長LCと収束形状P(LC)を算出するのである。
【0031】
次に、本発明に係る法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、駆動軸を制御する方法を図4〜図6に基づいて説明する。前述のように、本測定装置は、光源から出射された計測ビームと被測定物1の表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器Dと被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点を計測するものであり、最初の計測点への光線ベクトルが水平方向を向く横型(図4参照)の形状測定装置を例にして説明する。本実施形態では、最初の計測点への光線ベクトルの方向をY軸にとり、鉛直方向をZ軸にとる座標系となっている。そして、X軸、Y軸、Z軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA軸、B軸、C軸とする。便宜上、光学系3のX軸とZ軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA1軸、C1軸とし、試料系2のX軸とZ軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA2軸、C2軸とする。
【0032】
横型の形状測定装置は、大型の被測定物を変形することなく支持することは困難であるが、安定なC軸を活用でき実績があり、また比較的光路長Lの絶対値が求めやすいといった利点がある。一方、図示しない縦型の形状測定装置は、装置の高さが高くなるが、被測定物の支持が容易である利点がある。何れの型式の装置も、角度分解能が10-7rad以下、測定形状精度が1nmPV、測定点の測定時間が30msec以下を目指している。
【0033】
図4に示すように、横型形状測定装置Mの試料系2は、固定台21の上にC2軸ゴニオメータ22を設置し、該C2軸ゴニオメータ22の可動部上にA2軸ゴニオメータ23を設置し、該A2軸ゴニオメータ23には被測定物1を保持するホルダー24を設けている。尚、前記ホルダー24は、回転対称形の被測定物1を効率良く計測するためにB2軸ゴニオメータに置き換え、該B2軸ゴニオメータの可動部にホルダーを設けることもある。一方、光学系3は、Y軸方向の直進ステージ25のテーブル上にC1軸ゴニオメータ26を設置し、該C1軸ゴニオメータ26の可動部上にA1軸ゴニオメータ27を設け、該A1軸ゴニオメータ27の可動部には光源と検出器D等を搭載した光学ヘッド4を設けている。
【0034】
そして、本発明は、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とするのである。具体的には、光学系3を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器Dからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系2を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とする。
【0035】
具体的には、C1軸ゴニオメータ26、A1軸ゴニオメータ27及び直進ステージ25をフルクローズドフィードバック制御し、C2軸ゴニオメータ22及びA2軸ゴニオメータ23をセミクローズドフィードバック制御する。図5は、フルクローズドフィードバック制御のブロック線図を示し、図6は、セミクローズドフィードバック制御のブロック線図を示している。これらのブロック線図は、一例を示したに過ぎない。
【0036】
フルクローズドフィードバック制御は、典型的なサーボ系の追従制御である。フルクローズドフィードバック制御では、エンコーダの出力ではなく、位置または角度を別のセンサー(ここではQPD)で検出して、その信号をサーボモ−タにフィードバックする制御系である。高速化のために、DSP(Digital Signal Processor)から、サーボアンプを介してサーボモータを動かし、ゴニオメータの軸周りの回転角や、直進ステージの位置をエンコーダで読み取り、DSPにフィードバックするサブループを有する。代表的な被測定物であるミラーの動きに対して、レーザビームが反射し、その動きをQPDによって検出し、電流アンプと差動アンプを介してPID(Proportional Integral Derivative)にフィードバックする典型的なサーボ系のフィードバック制御である。尚、直進ステージ25のフルクローズドフィードバック制御の場合、図5において、サーボモータをリニアモータ、軸周りの回転を直進運動、ロータリーエンコーダをリニアエンコーダに変更する。本制御によって、被測定物であるミラー各点の法線ベクトルを、入反射レーザビームが一致するように追従制御して求める。常に入反射レーザビームが一致しておれば、その点での法線ベクトルを2軸2組のゴニオメータから読み取ることができる。また、1軸の直進ステージで検出器9(QPD1)と被測定物1の被測定面13間を一定にするフルクローズドフィードバック制御を実施すれば、直進軸のリニアエンコーダとゴニオメータのロータリーエンコーダの読みから、検出器9と被測定面13の距離Lと法線ベクトルが分かり、測定点座標が求まる。
【0037】
セミクローズドフィードバック制御は、一般的なCNC(Computerized Numerically Controlled)工作機械等における位置決めに用いられる定値制御である。指示値である座標値や角度をPLC(Power Line Communication)位置決めユニットに入力し、サーボモータの駆動信号に変換して、偏差カウンタでエンコーダの出力との差を演算し、サーボアンプを介してサーボモータを駆動する。サーボアンプも含めてすべてデジタル信号で制御している。サーボモータの軸の動きまたは直進ステージの位置をエンコーダによって検出し、偏差カウンタに出力することによってフィードバック制御して位置決めを行っている。
【0038】
光学系3と試料系2のどちらをフルクローズドフィードバック制御系にするかは、測定対象によって考える必要がある。即ち、光学系3と試料系2のどちらを加減速の多い制御系(フルクローズド制御)にするのが得策かという判断が必要である。本実施形態では、形状測定装置の汎用性を優先して、光学系3をフルクローズド制御系にしている。それにより、被測定物サイズに合わせて試料系ステージが容易に変更できるため、使い勝手が良くなるのである。
【0039】
実際の形状測定装置では、部品の形状精度や組立誤差により、A軸、B軸、C軸が正確に直交しないこともあり、回転中心が偏心する場合もある。また、これらが温度によって変化することもある。このような装置固有の誤差はデータベース化して、実際の計測値を較正することが必要である。これらの較正手法は、精密工作機械や半導体製造装置では確立されている。
【0040】
しかし、精密なゴニオメータとエンコーダを用いて精密制御しても、可動部の慣性質量のために応答に遅れが生じる。一般的に、安定な制御系において、定常状態で目標値と制御量に偏差がある場合、これを定常偏差(あるいはオフセット)という。QPDを用いた零位法による制御の場合、位置定常偏差の影響は法線ベクトルと計測点の計測誤差となって表れ、形状測定の精度に限界を与えることになる。この位置定常偏差が大きければ、目的とする形状測定精度が出せないことになる。QPDから被測定面までの距離Lにもよるが、形状測定精度1nmPVを得るためには、ゴニオメータの角度精度0.1μradが必要である。そこで、本実施形態の形状測定装置の光学系3を構成するC1軸ゴニオメータ26と、A1軸ゴニオメータ27の位置定常偏差を測定した結果を図7に示す。図7(a)は、C1軸ゴニオメータ26の位置定常偏差(約2μradPV)であり、図7(b)は、A1軸ゴニオメータ27の位置定常偏差(約6μradPV)である。どちらも位置定常偏差が数十Hzで変動していることがわかる。
【0041】
一方、本実施形態の形状測定装置における光学系において、QPDの中心から角度にして±20〜30μradだけ偏心した範囲まで検出可能である。QPDの構造から中心に近い方が、精度は高く、レーザ光の変位に対する出力の直線性も良く、少なくとも±数μradの範囲ではレーザ光の位置(角度)を非常に精度よく検出できる。ここで、各軸のエンンコーダ出力とQPD出力は、位置定常偏差の影響で時々刻々変化するが、瞬間瞬間では正しい値を示しているのである。そこで、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除するのである。
【0042】
図8は、前述の光学系3のフルクローズドフィードバック制御(追従制御)と試料系2のセミクローズドフィードバック制御(定値制御)を含み、更に各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得する機能を付加した形状測定装置の5軸同時制御システムのブロック図である。入反射光の光路が一致する零位法を用いる利点は、QPDの感度差や光路の屈折率分布の影響を避けることができることである。しかし、法線ベクトルを追跡する追従制御の定常偏差が目標精度より大きい場合は、パソコンPC1からのトリガー信号でパソコンPC2に5軸エンコーダの出力を同時に取り込むとともに、QPDの出力も同時に読み込み、計測点の座標と法線ベクトルの計測値を算出する。この場合、完全な零位法にはならないが、定常偏差の影響を全く無視できる。
【0043】
CNC制御盤は、各軸のゴニオメータのモータを駆動する制御信号を生成する。試料系2の制御は、被測定物の理想形状を元に割り出した指示値をCNC制御盤に入力し、A2軸及びC2軸のモータを駆動し、その回転角度をエンコーダで検出し、それをフィードバックして指示値からの偏差が許容値以内になるようにする定値制御である。一方、光学系3の制御は、位置検出用のQPD1の出力が零になるように、パソコンP1でQPD1の出力からA1軸及びC1軸のモータを駆動する制御信号をCNC制御盤に入力するとともに、距離検出用のQPD2の出力が零になるように、パソコンP1でQPD2の出力からY軸のモータを駆動する制御信号をCNC制御盤に入力する追従制御である。しかし、前述のように、QPD1の位置定常偏差のため零にはならない。そこで、パソコンP1からトリガー信号をパソコンPC2に送り、パソコンPC2が各軸のエンコーダの出力とQPD1及びQPD2の出力を同時に読み取る。そして、パソコンPC2で、座標と法線ベクトルを各エンコーダの出力をQPD1及びQPD2の出力で補正する形で正確な計測データとする。各計測点での計測データに基づき、形状導出アルゴリズムPによって被測定物の形状を導出する。
【0044】
本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を用いて、R=400mm球面ミラーを計測した例を図9〜図11に基づいて説明する。先ず、R=400mm球面ミラーの中心を通る直径に沿って二次元形状測定した。図9(a)は、球面ミラーの中心から±10mmの範囲の測定形状を示している。このスケールでは理想形状からのずれが全く分からないので、図9(b)に20回測定における理想形状との形状誤差を球面ミラーの中心を基準として示している。形状誤差は、球面ミラーの中心部においてピーク的に大きくなり、35nmPVである。また、形状誤差は、0.21nmRMSと計測された。尚、球面ミラーの中心部で形状誤差が大きくなるのは、ミラーを回転切削した影響である。図9(c)は、20回測定における繰り返し測定誤差を示し、繰り返し誤差が1nmPV以下、0.14nmRMSであることが分かった。
【0045】
図10は、前記球面ミラーにおける本発明の形状測定方法による2次元形状測定結果と、位相シフトフィゾー干渉計(Zygo社のGPI)による二次元形状測定結果を比較したものである。両者の測定形状の差は、14nmPV、3.14nmRMSであり、本発明の形状測定精度が位相シフトフィゾー干渉計による形状測定結果に近いことが示された。つまり、本発明の形状測定結果は、位相シフトフィゾー干渉計による形状測定結果と14nmPV以内の整合性があることが確認できた。
【0046】
次に、本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を用いて、R=400mm球面ミラーを三次元形状測定した。その結果を図11に示している。図11(a)は、球面ミラーの中心を含む±10mm四方の範囲の測定形状を示している。二次元測定結果と同様に、このスケールでは理想形状からのずれが全く分からないので、図11(b)に理想形状との形状誤差を球面ミラーの中心を基準として示している。形状誤差は、球面ミラーの中心部においてピーク的に大きくなり、40nmPVである。図11(c)には、2回の三次元形状測定を行った場合の繰り返し測定誤差を示し、繰り返し測定誤差は40nmPV、5.90nmRMSであった。形状測定領域のエッジにおいて、形状誤差が周期的に波打っているが、これは形状導出にフーリエ級数を用いたためであり、適切な端部処理により解消できる。図12(a)は当該装置(本発明の形状測定方法)による測定結果、図12(b)は位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果、図12(c)は当該装置と位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果の差を示している。
【0047】
前述の実施形態は、不完全な零位法である。2軸ゴニオメータによる制御系だけでは、位置定常偏差の発生は避けられない。位置定常偏差は数十Hzで変動しており、QPDがその振動に追従して定常偏差を打ち消すことができれば、より完全な零位法による形状測定を実現できる。そこで、図13に示すように、前記光学系3を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージ31を配置し、該平面微動ステージ31の可動部に位置検出用のQPD1(検出器9)を取付け、前記QPD1の出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージ31のピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージ31のピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除する。本実施形態では、前記光学ヘッド4の基台5に、略垂直に平面微動ステージ31を配置した。つまり、前記平面微動ステージ31は、XZピエゾステージであり、X軸とZ軸の位置定常偏差を打ち消すように駆動する。ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージ31は、1kHz以上の応答性を有し、前述の位置定常偏差が零になるように素早くXZ面内でQPD1を変位させる。このとき、QPD1の出力も同時に読み出して、その値が零でなければ、前述の実施形態と同様にQPD1の出力で更に補正することも可能である。
【0048】
本実施形態では、前記光学系3を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPD1からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系2を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることを前提とする。このように、前記平面微動ステージ31の可動部に、前記QPD1のみを搭載することにより、ピエゾ駆動による可動部の慣性質量が小さくなって応答性を保証できる。
【0049】
尚、前記光学ヘッド4が十分に軽量であり、ピエゾ駆動によって数十Hz以上の応答性が得られる場合には、前記平面微動ステージ31の可動部に、前記QPD1及び光源等を含む光学ヘッド4を搭載し、該光学ヘッド4を、位置定常偏差を打ち消すようにピエゾ駆動することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 被測定物、
2 試料系、
3 光学系、
4 光学ヘッド、
5 基台、
6 光ファイバー、
7 コリメーターレンズ、
8 点光源、
9 位置検出器(QPD1)、
10 ビームスプリッター、
11 1/4波長板、
12 集光レンズ、
13 被測定面、
14 ハーフミラー、
15 シリンドリカルレンズ、
16 距離検出器(QPD2)、
21 固定台、
22 C2軸ゴニオメータ、
23 A2軸ゴニオメータ、
24 ホルダー、
25 直進ステージ、
26 C1軸ゴニオメータ、
27 A1軸ゴニオメータ、
31 平面微動ステージ、
M 横型形状測定装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法に係わり、更に詳しくは被測定物表面における有限数の離散した計測点の座標と法線ベクトルの実測値を用いて被測定物表面の全体形状を測定する法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線自由電子レーザや波長13.5nmの極紫外光を用いたリソグラフィー技術から要請される次世代高精度光学素子の製作には、非球面で形状誤差を1〜0.1nmRMSの精度で自由曲面の形状を計測することが不可欠である。このようなX線光学素子、代表的にはX線用反射ミラーは、10〜500cmのサイズを有し、この反射面全体にわたって前述の形状誤差を達成しなければならない。また、大量に製造される民生用の種々の曲率を持つ非球面ミラー、レンズにも超精密形状測定が求められている。空間波長1mm以下の表面粗さの計測手段として、原子レベルの分解能をもつプローブ顕微鏡があり、現状でも要求精度を満たしているが、一度に計測できる範囲は約50μm四方と非常に狭く、また計測時間も長いので、被測定物全体の形状を計測するには全く不向きである。一方、空間波長1mm以上の形状計測技術は、被測定物に1mmφ程度の細いレーザビームを照射して、得られる反射光のズレを測定して被測定物表面の傾斜角を求める、LTP(Long Trace Profiler)がある。これは、5×10-7radRMSの測定精度(3nmRMS)が得られるが、測定範囲は±5mradに限られて2次元形状測定である。また、点光源干渉法によって、0.3nmRMSの測定精度が得られているが、点光源からの球面波を参照するため、原理上非球面の形状計測が困難である。
【0003】
このような従来の課題を解消する方法として、特許文献1、2に記載されるような超精密形状測定方法が提案されている。この形状計測法の原理は、被測定物表面の法線ベクトルを追跡するために、光の直進性を活用し、光源から出射されたレーザビームがミラーに反射されて、光源の位置にある検出器(4分割フォトダイオード;QPD)の中心に戻るように2軸2組のゴニオメータを、また検出器と被測定物表面間の光路長(L)が一定になるように光軸方向の1軸直進ステージを、QPD出力をフィードバックして追従制御することによって、入反射光が一致する零位法と高速化を実現する。具体的には、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源とQPDを設け、1軸直進ステージで試料系又は光学系を駆動するようにしている。ミラーの任意計測点(座標)の法線ベクトルは、各ゴニオメータのエンコーダの出力から求め、これらの計測データから形状を導出するものである。
【0004】
特許文献1に記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定法では、測定点の座標と法線ベクトルの測定は、2軸1組のゴニオメータに測定点座標の指示を出し、その後、QPDの出力をコンピュータに読み込み、その出力が最小になるようにもう1組の2軸ゴニオメータを制御し、それから4軸のロータリーエンコーダとは別に制御している光路長Lを一定にする直線ステージのリニアエンコーダの出力を5軸同時に読み込んでいる。これまで、2軸2組のゴニオメータと光軸方向の1軸直進ステージをセミクローズドフィードバック制御することによって、形状精度2nmRMS、スロープエラー5×10-7radRMSの形状測定に成功した。しかし、この計測法は、コンピュータを介したセミクローズドフィードバック制御であるため、測定時間が数時間に及び温度変化等の外乱の影響を受けやすい計測法であった。
【0005】
そこで、特許文献2では、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることにより、各計測点座標での法線ベクトルの計測を素早く行うことができ、被測定物の表面形状の測定が短時間で行えるようになり、また大型の被測定物でも精密に形状を測定することができるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3598983号公報
【特許文献2】特開2010−038792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2軸2組のゴニオメータと光軸方向の1軸の直進ステージを追従制御することによる法線ベクトル追跡だけでは、駆動軸制御系応答の限界から、法線ベクトルとその計測点座標のデータが制御系の定常偏差の影響を受けることは避けられない。その結果、法線ベクトルの角度計測において1μrad以上の高精度測定ができず、1nmPV以上の形状測定精度を達成できなかった。しかし、エンコーダとQPDは、応答性が非常に良く、制御系の性能である定常偏差の影響でその出力値が時々刻々と変化しても瞬間瞬間では正確であるとの知見により、本発明を完成させるに至ったのである。
【0008】
つまり、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、計測点の座標と法線ベクトルの計測値から被測定物の表面形状を導出する法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器(QPD)からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とした上で、更にQPD出力を5軸のエンコーダ出力と同時に読み出すことにより、定常偏差に影響されない高精度な形状測定を可能にするとともに、同時に計測時間の短縮化が図れる法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を構成した(請求項1)。
【0010】
ここで、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、本発明は、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を構成した(請求項3)。
【0012】
ここで、前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなることも好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
以上にしてなる本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法は、曲率半径10mm以上から平面までの広範囲の自由曲面を、短時間に形状測定精度1nmPV以上(角度分解能0,1μrad以下)で測定でき、被測定物に対する大きさの制限が少なく、基準面を用いず、非接触で測定することができる等の利点を備えている。
【0014】
具体的には、本発明は、少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御することにより、各計測点座標での法線ベクトルの計測を素早く行うことができ、被測定物の表面形状の測定が短時間で行えるようになる上に、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正することにより、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除した精密な形状計測を行うことができる。2軸1組のゴニオメータで常に法線ベクトルを追跡するようにQPDの出力をそのゴニオメータの駆動モータに直接入力し、また光路長Lを一定にする直進ステージにもQPDの出力を直接入力する3軸フルクローズドフィードバック制御を実現して高速化を図り、残り2軸のゴニオメータで計測点を指示して決めるのである。このように、法線ベクトルを追跡しながら同時に5軸のエンコーダの出力とQPD出力とを同時に読み出すことによって、計測時間の短縮化と形状測定精度の向上を図るのである。
【0015】
特に、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることにより、法線ベクトルの追跡を被測定物によらず自立的に素早く行うことができる。
【0016】
また、本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法は、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正したことにより、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除した零位法による精密な形状計測を行うことができる。
【0017】
そして、前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなることにより、ピエゾ駆動する部分の重量が軽くなって応答速度が速くなり、ゴニオメータ制御系の定常偏差を打ち消すようにQPDを平面内で高速移動させて、零位法による精密な形状計測を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】被測定物表面の座標と法線ベクトルを計測する方法の原理図である。
【図2】同じく2軸2組のゴニオメータの角度と法線ベクトル及び位置座標との関係を示す説明図である。
【図3】光学系を構成する光学ヘッドの説明図である。
【図4】本発明の横型の形状測定装置の概念構造を示す斜視図である。
【図5】フルクローズドフィードバック制御のブロック線図である。
【図6】セミクローズドフィードバック制御のブロック線図である。
【図7】(a)はC1軸の位置定常偏差のグラフ、(b)はA1軸の位置定常偏差のグラフである。
【図8】本発明の形状測定装置の5軸同時制御システムのブロック図である。
【図9】R=400mm球面ミラーの二次元形状測定結果を示し、(a)は全体形状のプロファイル、(b)は理想形状との形状誤差を示すグラフ、(c)は繰り返し測定誤差を示すグラフである。
【図10】同じく二次元形状測定結果であり、本発明とGPI(Zygo社)の形状誤差と両者の測定形状の差を示しグラフである。
【図11】R=400mm球面ミラーの三次元形状測定結果を示し、(a)は全体形状のプロファイル、(b)は理想形状との形状誤差を示すグラフ、(c)は繰り返し測定誤差を示すグラフである。
【図12】同じく三次元形状測定結果であり、(a)は当該装置(本発明の形状測定方法)による測定結果、(b)は位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果、(c)は当該装置と位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果の差を示している。
【図13】ゴニオメータ制御系の位置定常偏差を打ち消すように、QPDをピエゾ駆動による平面微動ステージで変位させる実施形態の簡略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の測定方法における法線ベクトルを計測する原理を示し、光の直進性を利用して被測定物1の表面上における各点の法線ベクトルを測定するのである。具体的には、2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸の直進運動(Y軸)とで構成されている。1組のゴニオメータは試料系2を構成し、その可動部に被測定物1を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系3を構成し、その可動部に光源と検出器Dを設けている。光源と検出器Dの動きは一体化している。
【0020】
前記光学系3を構成する光学ヘッド4を図3に基づき説明する。前記光学ヘッド4は、同一基台5の上に各種光学機器をアライメントして配置したものである。横単一モード発振のHe−Neレーザから出射したレーザ光を、オプチカルアイソレータを通過させた後、出射端部を基台5に固定した光ファイバー6で導き、該光ファイバー6の出射端部に対向させて配置したコリメーターレンズ7で集光させて点光源8とした。ここで、法線ベクトル測定の座標系は,検出器9を原点とし、X軸回りをφ、Z軸周りをθと定義した。前記コリメーターレンズ7で集光されたレーザ光は、ビームスプリッター10により90°曲げられ、1/4波長板11を通して集光レンズ12で集光されて被測定物1に所定のビームスポットで入射する。また、1/4波長板11は、偏向面を45°回転させた位置で固定し、直線偏光の光を円偏光に変換する。
【0021】
そして、前記被測定物1の被測定面13で反射したレーザ光は、集光レンズ12を通ってビームスプリッター10を直進し、ハーフミラー14を通り検出器9で受光することによって法線測定を行うのである。一方、ハーフミラー14で分割されたレーザ光は、シリンドリカルレンズ15を通して検出器16で受光され、被測定面13までの距離の変化を測定する。ここで、前記光軸位置検出器9と距離検出器16は、4分割フォトダイオード(QPD)で構成している。検出器9(QPD1)から被測定面13までの距離の変化を測定する検出器16(QPD2)は、光軸をZ軸方向へ配向させて基台5に取り付けている。ビームスプリッター10からのレーザ光は、ハーフミラー14により一方は検出器9へ、他方は検出器16へ1:1で分割される。検出器16側へ分割されたレーザ光は、シリンドリカルレンズ15を通って検出器16上で結像される。シリンドリカルレンズ15とQPD2(検出器16)からなる距離測定原理の詳細は、特許文献1に示されている。
【0022】
本発明における被測定物の表面形状の測定方法は次の通りである。計測中、試料系2の2軸ゴニオメータの回転中心は不動であり、この回転中心のY軸座標Ryは一定の値をとる。更に、計測中、被測定物表面から検出器Dまでの光路長Lが一定になるように、1軸の直進運動を用いて調整する必要がある。先ず、2軸2組(θ,φ)、(α,β)の回転運動により、計測基準点A0の法線ベクトルを計測する。それには、被測定物表面上の計測基準点A0への入射光とその点での反射光とが重なるように調整する。そのとき、その点の法線ベクトルは光線の方向と等しくなる。最初の計測基準点A0を原点(0,0,0)とし、法線ベクトルと一致した光線の方向と、光源の位置調整用座標系であるY軸を一致させ、更に、その軸上に試料系2の回転中心を設定する。そのときの光学系3の位置座標をT0(0,Y0,0)、測定系のZ軸周りとX軸周り、及び試料系2のZ軸周りとX軸周りの角度を(θ,φ)=(0,0)、(α,β)=(0,0)とする。試料系2の回転中心の座標はS0(0,Ry,0)である。そして、光路長Lと、計測基準点A0と回転中心のずれRyを別の測定機を用いて測定する。
【0023】
次の計測点A1(x,z)の法線ベクトルを求めるために、2軸(θ,φ)の回転運動でA1近傍に入射光が来るように調整する。それから、2軸(α,β)の回転運動によって、入射光と反射光を一致させ、QPD(検出器D)を用いた零位法により法線ベクトルを計測する。ここで、第1計測点A1(x,z)の法線ベクトルを計測した際の、光学系3の位置座標をT1(X1,Y1,Z1)=(0,Y0+yo1,0)、光学系3のZ軸周りとX軸周り、および試料系2のZ軸周りとX軸周りの角度を(θ,φ)=(θ1,φ1)、(α,β)=(α1,β1)とする。このときの変位量・変角量(yo1,θ1,φ1,α1,β1)を法線ベクトル計測値とする。計測点における法線ベクトルは光学系3と試料系2の変角量より求まり、更にこの法線ベクトルから被測定物表面の傾きが求まる。また、法線ベクトル計測点の座標は、光学系の変位量・変角量、試料系の変角量、光路長L及び回転中心変位Ryから求まる。
【0024】
つまり、不変の値LとRy、法線ベクトルの計測値(θ,φ,α,β,yo)を用いて以下の数1により被測定物表面上の計測点A(XA,ZA)と、数2により法線ベクトルN(nx,nz)の導出が可能である。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
本測定方法では、多数の計測点座標とその法線ベクトルの計測値を用いて、フーリエ級数で測定面形状を近似し、最小二乗法によって、その点でのスロープ残差を最小にするフーリエ級数展開係数を求めて測定面形状を一意的に決定するのである。ここで、計測点での面のスロープ(傾き)は、法線ベクトルから算出することができる。尚、本測定方法では、実測データを用いてフーリエ級数形式形状関数を特定する前に、本測定方法では理想形状関数を用いて、形状残差とスロープ残差を共に所定の精度以下になるようなフーリエ級数展開の次数nを見出し、計算誤差が所定の範囲内になることを保証している。ここで、ある点の傾きは理想形状関数の一階微分から容易に算出することが可能である。
【0028】
通常、被測定物の表面形状は、球面、円筒面、放物面、楕円体面は勿論、非球面、さらには解析関数で表現できない自由曲面でも光学系の設計においてスプライン関数等によって正確に関数で表され、その理想形状関数に近づけるように超精密に加工されるのである。従って、本測定方法において理想形状関数から導かれる理想データを用いて形状残差とスロープ残差を共に所定の精度以下になるように次数nを決定することは、何ら実用的価値を損なうものではない。そして、フーリエ級数展開の次数nが決まると、二次元形状の場合には少なくともn個の計測点、三次元形状の場合には少なくともn×n個の計測点で、座標と法線ベクトルを計測するのである。こうすることによって、計算誤差が保証された状態で、実測データを用いてフーリエ級数形式形状関数を求めることが可能となる。一般には、フーリエ級数展開を用いて最小二乗法によって任意曲面を近似する場合、座標(形状)の残差を最小にするが、本測定方法では、法線ベクトル形状計測法に合わせて、形状残差とともに、スロープの残差を最小にすることが特徴である。
【0029】
以上説明した形状を導出する一連の手順を形状導出アルゴリズムPと称することにする。2軸2組のゴニオメータから得られる4つの角度データ(θ,φ,α,β)と1軸直進ステージから得られる1つの距離データ(yo)とが、各計測点毎に得られる。つまり、計測点Ai毎に、絶対計測値セット(θi,φi,αi,βi,yoi)が得られる。そして、これらの実測データを用いて形状導出アルゴリズムPによって形状を導出するのである。ここで、特定の光路長Lの値で導出した形状をP(L)と表す。尚、光路長Lは、初期状態において原点と光学系3の回転中心までの距離として、別途測長機を用いて測定しておき、その実測値L0を得るが、被測定物の要求される測定精度より遥かに大きな計測誤差を有している。各計測点で光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを駆動するが、それには検出器16を構成する距離モニター用の4分割フォトダイオード(QPD2)の出力が一定になるようにフィードバック制御する(特許文献2参照)。尚、形状測定装置に組み込み、光路長Lをモニターする機構は他のものでも良い。
【0030】
本測定方法では、光源から出射された計測ビームと被測定物1の表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器Dと被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点を計測し、各計測点毎に、2軸2組のゴニオメータから得られる4つの角度データと1軸直進ステージから得られる1つの距離データとからなる計測値セットを取得する。この計測値(θ,φ,α,β,yo)は、計測基準点A0を原点とし、原点からの変位として取得した計測値を用いるか、あるいは前後の測定点間の差分として取得した計測値を用いる。そして、計測点の数だけの計測値セットから形状導出アルゴリズムPにより形状を導出する。この際に、光路長Lを変数として複数の形状P(L)を導出し、形状変化の収束を利用して真の光路長LCと収束形状P(LC)を算出するのである。
【0031】
次に、本発明に係る法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、駆動軸を制御する方法を図4〜図6に基づいて説明する。前述のように、本測定装置は、光源から出射された計測ビームと被測定物1の表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器Dと被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点を計測するものであり、最初の計測点への光線ベクトルが水平方向を向く横型(図4参照)の形状測定装置を例にして説明する。本実施形態では、最初の計測点への光線ベクトルの方向をY軸にとり、鉛直方向をZ軸にとる座標系となっている。そして、X軸、Y軸、Z軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA軸、B軸、C軸とする。便宜上、光学系3のX軸とZ軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA1軸、C1軸とし、試料系2のX軸とZ軸の周りの回転に対する回転軸をそれぞれA2軸、C2軸とする。
【0032】
横型の形状測定装置は、大型の被測定物を変形することなく支持することは困難であるが、安定なC軸を活用でき実績があり、また比較的光路長Lの絶対値が求めやすいといった利点がある。一方、図示しない縦型の形状測定装置は、装置の高さが高くなるが、被測定物の支持が容易である利点がある。何れの型式の装置も、角度分解能が10-7rad以下、測定形状精度が1nmPV、測定点の測定時間が30msec以下を目指している。
【0033】
図4に示すように、横型形状測定装置Mの試料系2は、固定台21の上にC2軸ゴニオメータ22を設置し、該C2軸ゴニオメータ22の可動部上にA2軸ゴニオメータ23を設置し、該A2軸ゴニオメータ23には被測定物1を保持するホルダー24を設けている。尚、前記ホルダー24は、回転対称形の被測定物1を効率良く計測するためにB2軸ゴニオメータに置き換え、該B2軸ゴニオメータの可動部にホルダーを設けることもある。一方、光学系3は、Y軸方向の直進ステージ25のテーブル上にC1軸ゴニオメータ26を設置し、該C1軸ゴニオメータ26の可動部上にA1軸ゴニオメータ27を設け、該A1軸ゴニオメータ27の可動部には光源と検出器D等を搭載した光学ヘッド4を設けている。
【0034】
そして、本発明は、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とするのである。具体的には、光学系3を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、光検出器Dからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系2を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とする。
【0035】
具体的には、C1軸ゴニオメータ26、A1軸ゴニオメータ27及び直進ステージ25をフルクローズドフィードバック制御し、C2軸ゴニオメータ22及びA2軸ゴニオメータ23をセミクローズドフィードバック制御する。図5は、フルクローズドフィードバック制御のブロック線図を示し、図6は、セミクローズドフィードバック制御のブロック線図を示している。これらのブロック線図は、一例を示したに過ぎない。
【0036】
フルクローズドフィードバック制御は、典型的なサーボ系の追従制御である。フルクローズドフィードバック制御では、エンコーダの出力ではなく、位置または角度を別のセンサー(ここではQPD)で検出して、その信号をサーボモ−タにフィードバックする制御系である。高速化のために、DSP(Digital Signal Processor)から、サーボアンプを介してサーボモータを動かし、ゴニオメータの軸周りの回転角や、直進ステージの位置をエンコーダで読み取り、DSPにフィードバックするサブループを有する。代表的な被測定物であるミラーの動きに対して、レーザビームが反射し、その動きをQPDによって検出し、電流アンプと差動アンプを介してPID(Proportional Integral Derivative)にフィードバックする典型的なサーボ系のフィードバック制御である。尚、直進ステージ25のフルクローズドフィードバック制御の場合、図5において、サーボモータをリニアモータ、軸周りの回転を直進運動、ロータリーエンコーダをリニアエンコーダに変更する。本制御によって、被測定物であるミラー各点の法線ベクトルを、入反射レーザビームが一致するように追従制御して求める。常に入反射レーザビームが一致しておれば、その点での法線ベクトルを2軸2組のゴニオメータから読み取ることができる。また、1軸の直進ステージで検出器9(QPD1)と被測定物1の被測定面13間を一定にするフルクローズドフィードバック制御を実施すれば、直進軸のリニアエンコーダとゴニオメータのロータリーエンコーダの読みから、検出器9と被測定面13の距離Lと法線ベクトルが分かり、測定点座標が求まる。
【0037】
セミクローズドフィードバック制御は、一般的なCNC(Computerized Numerically Controlled)工作機械等における位置決めに用いられる定値制御である。指示値である座標値や角度をPLC(Power Line Communication)位置決めユニットに入力し、サーボモータの駆動信号に変換して、偏差カウンタでエンコーダの出力との差を演算し、サーボアンプを介してサーボモータを駆動する。サーボアンプも含めてすべてデジタル信号で制御している。サーボモータの軸の動きまたは直進ステージの位置をエンコーダによって検出し、偏差カウンタに出力することによってフィードバック制御して位置決めを行っている。
【0038】
光学系3と試料系2のどちらをフルクローズドフィードバック制御系にするかは、測定対象によって考える必要がある。即ち、光学系3と試料系2のどちらを加減速の多い制御系(フルクローズド制御)にするのが得策かという判断が必要である。本実施形態では、形状測定装置の汎用性を優先して、光学系3をフルクローズド制御系にしている。それにより、被測定物サイズに合わせて試料系ステージが容易に変更できるため、使い勝手が良くなるのである。
【0039】
実際の形状測定装置では、部品の形状精度や組立誤差により、A軸、B軸、C軸が正確に直交しないこともあり、回転中心が偏心する場合もある。また、これらが温度によって変化することもある。このような装置固有の誤差はデータベース化して、実際の計測値を較正することが必要である。これらの較正手法は、精密工作機械や半導体製造装置では確立されている。
【0040】
しかし、精密なゴニオメータとエンコーダを用いて精密制御しても、可動部の慣性質量のために応答に遅れが生じる。一般的に、安定な制御系において、定常状態で目標値と制御量に偏差がある場合、これを定常偏差(あるいはオフセット)という。QPDを用いた零位法による制御の場合、位置定常偏差の影響は法線ベクトルと計測点の計測誤差となって表れ、形状測定の精度に限界を与えることになる。この位置定常偏差が大きければ、目的とする形状測定精度が出せないことになる。QPDから被測定面までの距離Lにもよるが、形状測定精度1nmPVを得るためには、ゴニオメータの角度精度0.1μradが必要である。そこで、本実施形態の形状測定装置の光学系3を構成するC1軸ゴニオメータ26と、A1軸ゴニオメータ27の位置定常偏差を測定した結果を図7に示す。図7(a)は、C1軸ゴニオメータ26の位置定常偏差(約2μradPV)であり、図7(b)は、A1軸ゴニオメータ27の位置定常偏差(約6μradPV)である。どちらも位置定常偏差が数十Hzで変動していることがわかる。
【0041】
一方、本実施形態の形状測定装置における光学系において、QPDの中心から角度にして±20〜30μradだけ偏心した範囲まで検出可能である。QPDの構造から中心に近い方が、精度は高く、レーザ光の変位に対する出力の直線性も良く、少なくとも±数μradの範囲ではレーザ光の位置(角度)を非常に精度よく検出できる。ここで、各軸のエンンコーダ出力とQPD出力は、位置定常偏差の影響で時々刻々変化するが、瞬間瞬間では正しい値を示しているのである。そこで、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除するのである。
【0042】
図8は、前述の光学系3のフルクローズドフィードバック制御(追従制御)と試料系2のセミクローズドフィードバック制御(定値制御)を含み、更に各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得する機能を付加した形状測定装置の5軸同時制御システムのブロック図である。入反射光の光路が一致する零位法を用いる利点は、QPDの感度差や光路の屈折率分布の影響を避けることができることである。しかし、法線ベクトルを追跡する追従制御の定常偏差が目標精度より大きい場合は、パソコンPC1からのトリガー信号でパソコンPC2に5軸エンコーダの出力を同時に取り込むとともに、QPDの出力も同時に読み込み、計測点の座標と法線ベクトルの計測値を算出する。この場合、完全な零位法にはならないが、定常偏差の影響を全く無視できる。
【0043】
CNC制御盤は、各軸のゴニオメータのモータを駆動する制御信号を生成する。試料系2の制御は、被測定物の理想形状を元に割り出した指示値をCNC制御盤に入力し、A2軸及びC2軸のモータを駆動し、その回転角度をエンコーダで検出し、それをフィードバックして指示値からの偏差が許容値以内になるようにする定値制御である。一方、光学系3の制御は、位置検出用のQPD1の出力が零になるように、パソコンP1でQPD1の出力からA1軸及びC1軸のモータを駆動する制御信号をCNC制御盤に入力するとともに、距離検出用のQPD2の出力が零になるように、パソコンP1でQPD2の出力からY軸のモータを駆動する制御信号をCNC制御盤に入力する追従制御である。しかし、前述のように、QPD1の位置定常偏差のため零にはならない。そこで、パソコンP1からトリガー信号をパソコンPC2に送り、パソコンPC2が各軸のエンコーダの出力とQPD1及びQPD2の出力を同時に読み取る。そして、パソコンPC2で、座標と法線ベクトルを各エンコーダの出力をQPD1及びQPD2の出力で補正する形で正確な計測データとする。各計測点での計測データに基づき、形状導出アルゴリズムPによって被測定物の形状を導出する。
【0044】
本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を用いて、R=400mm球面ミラーを計測した例を図9〜図11に基づいて説明する。先ず、R=400mm球面ミラーの中心を通る直径に沿って二次元形状測定した。図9(a)は、球面ミラーの中心から±10mmの範囲の測定形状を示している。このスケールでは理想形状からのずれが全く分からないので、図9(b)に20回測定における理想形状との形状誤差を球面ミラーの中心を基準として示している。形状誤差は、球面ミラーの中心部においてピーク的に大きくなり、35nmPVである。また、形状誤差は、0.21nmRMSと計測された。尚、球面ミラーの中心部で形状誤差が大きくなるのは、ミラーを回転切削した影響である。図9(c)は、20回測定における繰り返し測定誤差を示し、繰り返し誤差が1nmPV以下、0.14nmRMSであることが分かった。
【0045】
図10は、前記球面ミラーにおける本発明の形状測定方法による2次元形状測定結果と、位相シフトフィゾー干渉計(Zygo社のGPI)による二次元形状測定結果を比較したものである。両者の測定形状の差は、14nmPV、3.14nmRMSであり、本発明の形状測定精度が位相シフトフィゾー干渉計による形状測定結果に近いことが示された。つまり、本発明の形状測定結果は、位相シフトフィゾー干渉計による形状測定結果と14nmPV以内の整合性があることが確認できた。
【0046】
次に、本発明の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法を用いて、R=400mm球面ミラーを三次元形状測定した。その結果を図11に示している。図11(a)は、球面ミラーの中心を含む±10mm四方の範囲の測定形状を示している。二次元測定結果と同様に、このスケールでは理想形状からのずれが全く分からないので、図11(b)に理想形状との形状誤差を球面ミラーの中心を基準として示している。形状誤差は、球面ミラーの中心部においてピーク的に大きくなり、40nmPVである。図11(c)には、2回の三次元形状測定を行った場合の繰り返し測定誤差を示し、繰り返し測定誤差は40nmPV、5.90nmRMSであった。形状測定領域のエッジにおいて、形状誤差が周期的に波打っているが、これは形状導出にフーリエ級数を用いたためであり、適切な端部処理により解消できる。図12(a)は当該装置(本発明の形状測定方法)による測定結果、図12(b)は位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果、図12(c)は当該装置と位相シフト干渉計(Zygo社のGPI)による測定結果の差を示している。
【0047】
前述の実施形態は、不完全な零位法である。2軸ゴニオメータによる制御系だけでは、位置定常偏差の発生は避けられない。位置定常偏差は数十Hzで変動しており、QPDがその振動に追従して定常偏差を打ち消すことができれば、より完全な零位法による形状測定を実現できる。そこで、図13に示すように、前記光学系3を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージ31を配置し、該平面微動ステージ31の可動部に位置検出用のQPD1(検出器9)を取付け、前記QPD1の出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージ31のピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージ31のピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除する。本実施形態では、前記光学ヘッド4の基台5に、略垂直に平面微動ステージ31を配置した。つまり、前記平面微動ステージ31は、XZピエゾステージであり、X軸とZ軸の位置定常偏差を打ち消すように駆動する。ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージ31は、1kHz以上の応答性を有し、前述の位置定常偏差が零になるように素早くXZ面内でQPD1を変位させる。このとき、QPD1の出力も同時に読み出して、その値が零でなければ、前述の実施形態と同様にQPD1の出力で更に補正することも可能である。
【0048】
本実施形態では、前記光学系3を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPD1からの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系2を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とすることを前提とする。このように、前記平面微動ステージ31の可動部に、前記QPD1のみを搭載することにより、ピエゾ駆動による可動部の慣性質量が小さくなって応答性を保証できる。
【0049】
尚、前記光学ヘッド4が十分に軽量であり、ピエゾ駆動によって数十Hz以上の応答性が得られる場合には、前記平面微動ステージ31の可動部に、前記QPD1及び光源等を含む光学ヘッド4を搭載し、該光学ヘッド4を、位置定常偏差を打ち消すようにピエゾ駆動することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 被測定物、
2 試料系、
3 光学系、
4 光学ヘッド、
5 基台、
6 光ファイバー、
7 コリメーターレンズ、
8 点光源、
9 位置検出器(QPD1)、
10 ビームスプリッター、
11 1/4波長板、
12 集光レンズ、
13 被測定面、
14 ハーフミラー、
15 シリンドリカルレンズ、
16 距離検出器(QPD2)、
21 固定台、
22 C2軸ゴニオメータ、
23 A2軸ゴニオメータ、
24 ホルダー、
25 直進ステージ、
26 C1軸ゴニオメータ、
27 A1軸ゴニオメータ、
31 平面微動ステージ、
M 横型形状測定装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項2】
前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とする請求項1記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項3】
少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項4】
前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなる請求項3記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項1】
少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、2軸2組のゴニオメータと1軸の直進ステージの内、2軸1組のゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、残り2軸1組のゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、各軸のエンコーダ出力とQPD出力とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルをQPD出力で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項2】
前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御とする請求項1記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項3】
少なくとも2軸2組のゴニオメータと、その回転中心間の距離を変える1軸直進ステージとで構成し、1組のゴニオメータは試料系を構成し、その可動部に被測定物を保持し、もう1組のゴニオメータは光学系を構成し、その可動部に光源と4分割フォトダイオード(QPD)を用いた零位法による光検出器を設け、光源から出射された計測ビームと被測定物表面で反射された反射ビームが完全に重なるように、2軸2組のゴニオメータを制御するとともに、光検出器と被測定物表面間の光路長Lが一定になるように1軸直進ステージを制御して、被測定物表面の任意計測点の法線ベクトルを計測することから形状を求める法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法において、前記光学系を構成する2軸ゴニオメータと1軸の直進ステージは、QPDからの出力を直接軸駆動モータに入力するフルクローズドフィードバック制御(追従制御)にするとともに、試料系を構成する2軸ゴニオメータはセミクローズドフィードバック制御(定値制御)とし、更に前記光学系を構成する2軸ゴニオメータの可動部に、ピエゾ駆動による二次元平面微動ステージを配置し、該平面微動ステージの可動部に前記QPDを取付け、前記QPDの出力が最小になった時点で各軸のエンコーダ出力と平面微動ステージのピエゾ駆動信号とを同時に取得し、前記エンコーダ出力から導出する計測点座標と法線ベクトルを、平面微動ステージのピエゾ駆動信号で補正して、ゴニオメータ制御系の定常偏差の影響を排除したことを特徴とする法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【請求項4】
前記平面微動ステージの可動部に、前記QPDのみを搭載してなる請求項3記載の法線ベクトル追跡型超精密形状測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−42266(P2012−42266A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182197(P2010−182197)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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