説明

波形等化回路

【課題】付加的な部品を用いることなく、差動信号の伝送における波形劣化を改善することができる波形等化回路を提供する。
【解決手段】
差動信号を出力する送信器10には、第1の差動伝送線路11が接続され、第1の差動伝送線路11には基板21上に設けられた第2の差動伝送線路22A,22Bが接続され、その終端には終端抵抗24が接続されている。第2の差動伝送線路22A,22Bの下側には、同一形状の第3の差動伝送線路23A,23Bが所定の距離をおいて重なるように設けられ、その終端には終端抵抗25及び受信器30が接続されている。第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bは、その形状により第1の差動伝送線路11の減衰特性を補償する特性を持たせることにより、周波数特性が平坦になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形等化回路に関する。
【背景技術】
【0002】
バックプレーン基板上の長い配線や長距離ケーブルを伝搬するアナログ信号は、周波数が高くなるほど減衰が大きくなる。従って、平坦な周波数特性の信号を送信しても、受信端では高域側が減衰して受信される。その理由は、高周波損失、特に、誘電体損と表皮効果にあり、この減衰による特性は、概ね信号の周波数及び線路長に比例して大きくなるため、一般に、「ルートf特性」などと呼ばれている。
【0003】
ディジタル伝送の高速化においても、上記した高周波損失が阻害要因になる。そこで、一般には、非特許文献1に記載されるように、低域遮断特性の受動素子によるイコライザを伝送経路に挿入し、周波数特性の補償を行っている。
【0004】
また、伝送信号の周波数の減衰帯域を設定する第1の抵抗及び第1のコンデンサを並列接続し、第1の抵抗及び第1のコンデンサに上記周波数の減衰帯域の傾きを設定する第2の抵抗を並列接続し、且つ第1の抵抗に他端を接地する第1のコイルを直列接続してなる第1のフィルタと、この第1のフィルタと同一構成を有して第1のフィルタに直列接続された第2のフィルタとを有する等化フィルタを備えた信号送信装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、信号経路に対して直列接続された2つの可変抵抗とコンデンサを並列接続し、可変抵抗の中間接続点とアース間に可変抵抗とインダクタを直列接続したイコライザ回路も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−136028号公報
【特許文献2】特開2003−168944号公報
【非特許文献1】MAXIM社 データシート「MAX3787バックプレーン及びケーブル用1Gbps〜12.5Gbpsパッシブイコライザ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、付加的な部品を用いることなく、差動信号の伝送における波形劣化を改善することができる波形等化回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の波形等化回路を提供する。
【0008】
[1]送信デバイスに接続され、前記送信デバイスからの差動信号を伝送する第1の差動伝送線路と、同一形状を有して同一平面上に平行配置されると共に前記第1の差動伝送線路に接続された一対の導体線路からなる第2の差動伝送線路と、前記第2の差動伝送線路の終端間に接続された終端抵抗と、前記第2の差動伝送線路に電磁結合または静電結合もしくは両方が形成されるように配置されると共に、一端に受信デバイスが接続された一対の導体線路からなる第3の差動伝送線路と、を備えたことを特徴とする波形等化回路。
【0009】
[2]前記第2及び第3の差動伝送線路は、同一基板に設けられていることを特徴とする前記[1]に記載の波形等価回路。
【0010】
[3]前記第2及び第3の差動伝送線路は、空間を介して対向配置された異なるデバイスに分けて設けられていることを特徴とする前記[1]に記載の波形等価回路。
【0011】
[4]前記第2及び第3の差動伝送線路は、前記第1の差動伝送線路の減衰特性と逆特性になるように線路幅、線路長、間隔が設定されていることを特徴とする前記[1]に記載の波形等価回路。
【0012】
[5]前記第3の差動伝送線路は、ケーブルであることを特徴とする前記[1]に記載の波形等価回路。
【0013】
[6]前記第3の差動伝送線路は、線路の途中が長さ方向に分割されており、前記分割間にスイッチが接続され、前記スイッチが前記第1の差動伝送線路の特性に応じで切り替えられることを特徴とする前記[1]に記載の波形等価回路。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の波形等価回路によれば、付加的な部品を用いることなく、差動信号の伝送における波形劣化を改善することができる。
【0015】
請求項2の波形等価回路によれば、配線パターン等により、1枚の基板に構成することができる。
【0016】
請求項3の波形等価回路によれば、空間を介して配設されたデバイス間に差動伝送線路を構築することができる。
【0017】
請求項4の波形等価回路によれば、第1の差動伝送線路の特性を把握することにより、容易に波形等価回路を構成することができる。
【0018】
請求項5の波形等価回路によれば、第3の差動伝送線路に受信側から布線したケーブルを用いることができる。
【0019】
請求項6の波形等価回路によれば、第1の伝送線路の特性に応じた最適な周波数特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
(信号伝送装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【0021】
信号伝送装置100は、送信器(送信デバイス)10と、送信器10に第1の差動伝送線路11を介して接続された伝送線路部20と、伝送線路部20に伝送線路31を介して接続された受信器(受信デバイス)30とを備えて構成されている。
【0022】
送信器10は、例えば、電気信号を差動出力する差動増幅器等を備えて構成されたドライバICからなる。
【0023】
第1の差動伝送線路11は、例えば、ツイストペアケーブルであり、平行2線の伝送線路31に比べて長い線路長を有している。
【0024】
伝送線路部20は、絶縁性を有する基板21と、基板21の表面21aに設けられた第2の差動伝送線路22(22A,22B)と、基板21の裏面21bに設けられた第3の差動伝送線路23(23A,23B)と、第2の差動伝送線路22A,22Bの終端間に接続された終端抵抗24と、第3の差動伝送線路23A,23Bの終端(受信端)間に接続された終端抵抗25とを備えて構成されている。
【0025】
第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bは、4つが同一の長さを有すると共に、銅箔等による帯状の配線パターン(導体線路)からなる。この配線パターンは、例えば、エッチングにより設けることができる。また、第3の差動伝送線路23A,23Bは、第2の差動伝送線路22A,22Bに所定の距離、例えば、25μmを隔てて対向配置され、且つ平行になるように設けられている。尚、図1においては、形状及び配置を分かり易くするため、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bの厚みを誇張して図示している。
【0026】
第3の差動伝送線路23A,23Bは、この第3の差動伝送線路23A,23Bを流れる電流が第2の差動伝送線路22A,22Bに流れる電流と平行になるように、受信器30が接続されている。
【0027】
終端抵抗24,25は、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bの特性インピーダンスと同一のインピーダンスであり、例えば、50Ωの抵抗を用いている。
【0028】
受信器30は、例えば、差動増幅器等を用いて構成され、送信器10からの差動信号を所定のレベルに増幅して出力する。
【0029】
図2は、図1の信号伝送装置の結合線路部の単位長あたりの等価回路である。本波形等価回路は集中定数回路ではなく分布定数系をなしており、単位長あたりの等価回路が連なったものとして記述される。
【0030】
すなわち第2および第3の差動線路4本の線路全てについて、単位長あたりの自己インダクタンス、抵抗、全ての組み合わせの相互インダクタンス、線間容量を定義した梯子モデルとなる。
【0031】
等価回路は、第2の差動伝送線路22Aに含む抵抗41A及びインダクタ43A、第2の差動伝送線路22Bに含む抵抗41B及びインダクタ43B、第3の差動伝送線路23Aに含む抵抗41C及びインダクタ43C、第3の差動伝送線路23Bに含む抵抗41D及びインダクタ43D、第2の差動伝送線路22A,22B間に存在するコンデンサ42A、第2の差動伝送線路22Aと第3の差動伝送線路23A,23Bとの間に存在するコンデンサ42B,42Cと、第2の差動伝送線路22Bと第3の差動伝送線路23A,23Bとの間に存在するコンデンサ42D,42E、第3の差動伝送線路23A,23B間に存在するコンデンサ42Fとをもって表すことができる。各インダクタ43A〜43Dは、他の各インダクタとの間に相互インダクタンスを有している。
【0032】
図2から明らかなように、等価回路は、第2の差動伝送線路22A,22Bと第3の差動伝送線路23A,23B自身及び他の線路との間に存在する抵抗、コンデンサ及びインダクタによって表され、別途追加した部品は存在しない。従って、等価回路の各定数は、第2,第3の差動伝送線路23A,22B,23A,23Bの寸法、形状、基板21の材料、線間距離等によって決定することができる。
【0033】
(信号伝送装置の動作)
次に、信号伝送装置100の動作を説明する。送信器10から送信信号(差動信号)が出力されると、差動信号は、第1の差動伝送線路11を介して第2の差動伝送線路22A,22Bに印加される。
【0034】
第2の差動伝送線路22A,22Bに印加された差動信号は、第2の差動伝送線路22A,22Bの終端に向かって進行し、整合負荷となる終端抵抗24に到達する。
【0035】
同時に、差動信号は、第2の差動伝送線路22A,22Bを伝送する過程で、第3の差動伝送線路23A,23Bとの間の誘導性結合または容量性結合、もしくは誘導性結合および容量性結合の両方により第2の差動伝送線路22A,22Bから第3の差動伝送線路23A,23Bに伝達し、第3の差動伝送線路23A,23Bを伝搬して終端抵抗25により終端されると共に、受信器30に入力する。受信器30に入力した差動信号は、受信器30で増幅された後、図示しない波形整形回路等へ出力される。
【0036】
図3は、図2の等価回路の減衰特性を示す特性図である。図3において、特性aは、第1の差動伝送線路11の減衰量−周波数特性を示し、特性bは、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bの減衰量−周波数特性を示している。そして、特性cは、特性aと特性bを合成した減衰量−周波数特性である。
【0037】
特性aに示すように、第1の差動伝送線路11は周波数fが高くなるにつれて減衰量が徐々に増大する。一方、特性bに示すように、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bは、周波数fが高くなるにつれて第2の差動伝送線路22A,22Bと第3の差動伝送線路23A,23Bとの間の静電結合や電磁結合が大きくなるために減衰量が徐々に減少し、或る周波数fh以上では、ほぼ一定になる。
【0038】
以上のように、特性aと特性bとでは、特性が逆であるため、両者を組み合わせると、数kz帯(fl)から800MHz帯(fh)まで平坦で、且つ、それ以上の周波数域でもほぼ平坦な特性cが得られ、全周波数でほぼ平坦な減衰量の特性を得ることができる。
【0039】
特性bの低周波数域の減衰量は、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bのそれぞれの幅、長さ、ペア線路間の間隔、第2の差動伝送線路22A,22Bと第3の差動伝送線路23A,23Bとの間の距離等を適宜変更することにより、調整することができる。
【0040】
[第2の実施の形態]
(信号伝送装置の構成)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る信号伝送装置を示す断面図である。尚、図4においては、図1に示す第2の差動伝送線路22A,22Bに接続される終端抵抗24と、第3の差動伝送線路23A,23Bに接続される終端抵抗25の図示を省略している。
【0041】
信号伝送装置100は、送信部50と、この送信部50に実装されたパッケージ60と、このパッケージ60に空隙gを持たせて結合されたLSI70とを備えて構成されている。
【0042】
送信部50は、上記送信器10と、送信器10に接続された第4の差動伝送線路51A,51Bと、第4の差動伝送線路51A,51Bの端部に接続された第5の差動伝送線路52A,52Bと、第5の差動伝送線路52A,52Bの端部に接続された第6の差動伝送線路53A,53Bと、これらを実装したセラミック等の材料を用いて構成された基板54と、基板54の表面に設けられた複数の電極パッド55と、を備えて構成されている。尚、送信部50においては、形状及び配置を分かり易くするため、各差動伝送線路の厚みを誇張して図示している。
【0043】
第4の差動伝送線路51A,51B及び第6の差動伝送線路53A,53Bは、基板54内に厚み方向に設けられており、第6の差動伝送線路53A,53Bの終端(上端)は、複数の電極パッド55の内の2つに接続されている。
【0044】
第5の差動伝送線路52A,52Bは、第2の差動伝送線路22A,22Bと同様の形状を有し、第4の差動伝送線路51A,51Bと第6の差動伝送線路53A,53Bに連結させて基板54内に設けられている。
【0045】
パッケージ60は、セラミック等の絶縁体による本体61と、本体61の下面に設けられた複数のはんだボール62と、第6の差動伝送線路53A,53Bに対向させて本体61の下面に設けられた電極パッド63A,63Bと、電極パッド63A,63Bに接続させて本体61の内部に設けられた第7の差動伝送線路64A,64Bと、第7の差動伝送線路64A,64Bの終端に接続されると共に本体61の表面に設けられた図1と同様の第3の差動伝送線路23A,23Bとを備えて構成されている。尚、パッケージ60においては、形状及び配置を分かり易くするため、各差動伝送線路の厚みを誇張して図示している。
【0046】
LSI70は、メタル配線層70aと絶縁層70bの2層からなる半導体装置である。メタル配線層70aは、第3の差動伝送線路23A,23Bに対向させて下面に設けられた図1と同様の第2の差動伝送線路22A,22Bと、第2の差動伝送線路22A,22Bと受信器30を接続する第8の差動伝送線路71A,71Bとが設けられている。また、絶縁層70bは、内部に受信器30及び伝送線路31が設けられている。尚、LSI70においては、形状及び配置を分かり易くするため、各差動伝送線路の厚みを誇張して図示している。
【0047】
(信号伝送装置の動作)
次に、第2の実施の形態に係る信号伝送装置100の動作を説明する。送信器10から送信信号(差動信号)が出力されると、差動信号は、第4の差動伝送線路51A,51B及び第5の差動伝送線路52A,52Bを介して電極パッド55に印加される。
【0048】
更に、差動信号は、電極パッド55の内の2つを介し、更に、はんだボール62、電極パッド63A,63B及び第7の差動伝送線路64A,64Bを介して第3の差動伝送線路23A,23Bに到達する。第3の差動伝送線路23A,23Bに印加された差動信号は、その終端に向かって図4の左側へ進行する。
【0049】
同時に、差動信号は、第3の差動伝送線路23A,23Bを伝送する過程で、第2の差動伝送線路22A,22Bとの間の誘導性結合または容量性結合、もしくは誘導性結合と容量性結合の両方により第3の差動伝送線路23A,23Bから第2の差動伝送線路22A,22Bに伝達し、第2の差動伝送線路22A,22Bを伝搬した後、伝送線路31を介して受信器30に入力する。受信器30に入力された差動信号は、受信器30で増幅された後、図示しない波形整形回路等へ出力される。
【0050】
[第3の実施の形態]
(信号伝送装置の構成)
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【0051】
本実施の形態は、第1の実施の形態において、受信器30の接続位置を第3の差動伝送線路23A,23Bの終端から始端に変更すると共に、受信器30の入力端に終端抵抗26を接続したものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0052】
(信号伝送装置の動作)
本実施の形態においては、送信器10から送信信号(差動信号)が出力されると、差動信号は、第1の差動伝送線路11を介して第2の差動伝送線路22A,22Bに印加される。
【0053】
第2の差動伝送線路22A,22Bに印加された差動信号は、その終端に向かって進行し、整合負荷となる終端抵抗24に到達する。
【0054】
同時に、差動信号は、第2の差動伝送線路22A,22Bを伝送する過程で、第3の差動伝送線路23A,23Bとの間の誘導性結合または容量性結合、もしくは誘導性結合と容量性結合の両方により第2の差動伝送線路22A,22Bから第3の差動伝送線路23A,23Bに伝達し、第3の差動伝送線路23A,23Bを伝搬して、その一端に接続された終端抵抗25で終端されると共に第3の差動伝送線路23A,23Bの他端に接続された受信器30に入力する。受信器30に入力した差動信号は、受信器30で増幅された後、図示しない波形整形回路等へ出力される。
【0055】
[第4の実施の形態]
図6は、本発明の第4の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【0056】
本実施の形態は、第1の実施の形態において、第3の差動伝送線路23A,23Bのそれぞれの途中を長さ方向に分割し、その分割箇所にMOS(Metal Oxide Semiconductorスイッチ81A,81Bを接続し、第3の差動伝送線路23A,23Bの線路長を可変できるようにしたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。なお、図6においては、第2の差動伝送線路22A,22Bと第3の差動伝送線路23A,23Bは、第1の実施の形態とは、逆の配置により図示している。
【0057】
MOSスイッチ81A,81Bは、例えば、受信器30のチップ上に設けられている。
【0058】
この構成によれば、ON/OFF信号SsによってMOSスイッチ81A,81Bを選択的に制御することにより第3の差動伝送線路23A,23Bの線路長を選択でき、従って、第2の差動伝送線路22A,22Bと第3の差動伝送線路23A,23Bが電磁界で結合する部分の長さをMOSスイッチ81A,81Bによって容易に変えることができる。
【実施例1】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。図7は、実施例1における第2,第3の差動伝送線路の寸法及び配置を示す図である。また、図8は、送受信のシミュレーション波形を示し、(a)は差動伝送信号の送信波形図、(b)は第1の差動伝送線路の出力端の波形図、(c)は第3の差動伝送線路の出力端の波形図である。尚、図8において、例えば、差動信号Sd1は第2の差動伝送線路22Aに印加され、差動信号Sd2は第2の差動伝送線路22Bに印加されるが、両信号は差動関係にあるため、相互の位相は逆になっている。
【0060】
図7に示すように、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bは、同一断面寸法及び同一長(約5mm)であり、その断面寸法は、100(幅)×36(厚み)μmである。第2の差動伝送線路22A,22Bの相互の間隔は100μmであり、この第2の差動伝送線路22A,22Bに対向させ、且つ25μmの距離をもたせて第3の差動伝送線路23A,23Bが配設されている。
【0061】
このような構成の第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bの1線路当たりの奇モードインピーダンスZoddは45.48Ωであり、従って、差動での特性インピーダンスは、第2の差動伝送線路22A,22B及び第3の差動伝送線路23A,23B共に約91Ωとなる。
【0062】
本発明者は、第1の差動伝送線路11として、インピーダンスが100Ω、長さが30mの差動平衡ケーブルを用い、基板21は、誘電率4.4の特性を有するものを用いて、図8(a)に示す2GHzの送信波形によりシミュレーションを実施した。
【0063】
まず、図8(a)に示す矩形波による波形の差動信号Sd1,Sd2を上記差動平衡ケーブルに印加し、該差動平衡ケーブルの終端で波形を観測したところ、図8(b)に示すように、差動信号Sd1,Sd2の波形は訛り、三角波になった。
【0064】
次に、上記差動平衡ケーブルに対し、図1に示すように第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bを配置及び接続して、図8(a)に示す差動信号Sd1,Sd2を差動平衡ケーブルに印加したところ、図8(c)に示すように、ピーク及びボトムで若干の訛りが生じたものの、差動信号Sd1,Sd2は送信波形に近いものとなった。このように、本発明により、受信信号は、対称性のよい台形波に補償できることが分かった。
【実施例2】
【0065】
次に、本発明の実施例2について説明する。図9は、プリント基板上での10Gbps超の超高速伝送を想定した解析結果を示す特性図である。図9は、第2,第3の差動信号線路22A,22B,23A,23Bのそれぞれの長さを75μmから500μmまで変化させたときの送信器10から受信器30への伝達特性を示している。尚、図9において、「S21」は20log(out/in)を示し、1milは25.4μである。
【0066】
解析に際しては、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bは、共に厚さ25μm、線幅50μmとし、第2の差動伝送線路22A,22Bの相互間及び第3の差動伝送線路23A,23Bの相互間の間隔を50μmとした。また、第2の差動信号線路22A,22Bと第3の差動信号線路23A,23Bとの間の距離は、25μmとした。
【0067】
図9の特性aに示すように、第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bの長さ(結合長)が500μmであれば、10GHz以上の周波数域では、伝達損失を生じることなく伝達される。更に、10GHz未満の周波数域は、図3の特性aを補償するように減衰している。
【0068】
解析結果から、伝送する波形のエッジが十分に伝送され、且つ台形波に戻る条件は、信号が伝搬する時間と送信波形の元のエッジの立ち上がり時間とが等しいか、或いは、それ以上であることである。この条件以下の場合、等化後の信号に減衰が生じ、また、上記条件以上では低域の減衰が小さくなる。
【0069】
尚、本発明では、伝送する2値データ“0”及び“1”の連続数があまりに多くなると、伝達されなくなる恐れがある。そこで、例えば、予め8B(8ビット)/10B(10ビット)符号化のような“0”及び“1”の連続する数を制限する符号化を行うのが望ましい。
【0070】
8B/10B符号化は、10ビットの符号空間の中から、“0”と“1”の数が同じになるようなパターンを256個(8ビット分)選び、送信時には8ビットを10ビットに変換し、受信時には10ビットを8ビットに変換する符号化方式である。
【0071】
[他の実施の形態]
尚、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲内で種々な変形が可能である。
【0072】
例えば、第3の差動伝送線路23A,23Bは、配線パターンによるものとしたが、ケーブルであってもよい。
【0073】
また、第2の差動伝送線路22A,22B及び第3の差動伝送線路23A,23Bは、共に特性が相互に異なる3つ以上とし、差動伝送線路の組み合わせが3つ以上になるようにして、これらを選択するスイッチを第2,第3の差動伝送線路22A,22B,23A,23Bに接続し、第1の伝送線路の特性に応じてスイッチにより第2,第3の差動伝送線路の各々の内の2線路がペアで選択される構成にすれば、最適な周波数特性を得ることができる。
【0074】
更に、受信器30で受信した受信信号のレベルに基づいて差動伝送線路の減衰特性を判別し、上記冗長配線部による周波数特性の制御や、上記スイッチによる周波数特性の制御を行う構成も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】図2は、従来技術による波形等化回路の等価回路図である。
【図3】図3は、図2の等価回路の減衰特性を示す特性図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の形態に係る信号伝送装置を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第3の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第4の実施の形態に係る信号伝送装置を模式的に示した斜視図である。
【図7】図7は、実施例1における第2,第3の差動伝送線路の寸法及び配置を示す図である。
【図8】図8は、送受信のシミュレーション波形を示し、(a)は差動伝送信号の送信波形図、(b)は第1の差動伝送線路の出力端の受信波形図、(c)は第3の差動伝送線路の出力端の波形図である。
【図9】図9は、実施例2に対応し、プリント基板上での10Gbps超の超高速伝送を想定した解析結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0076】
10 送信器
11 第1の差動伝送線路
20 伝送線路部
21 基板
21a 表面
21b 裏面
22A,22B 第2の差動信号線路
23A,23B 第3の差動伝送線路
24,25,26 終端抵抗
30 受信器
31 伝送線路
41A〜41D 抵抗
42A〜42F コンデンサ
43A〜43D インダクタ
50 送信部
51A,51B 第4の差動伝送線路
52 電極パッド
52A,52B 第5の差動伝送線路
53A,53B 第6の差動伝送線路
54 基板
55 電極パッド
60 パッケージ
61 本体
62 はんだボール
63A,63B 電極パッド
64A,64B 第7の差動伝送線路
70 LSI
70a メタル配線層
70b 絶縁層
71A,71B 第8の差動伝送線路
81A,81B MOSスイッチ
100 信号伝送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信デバイスに接続され、前記送信デバイスからの差動信号を伝送する第1の差動伝送線路と、
同一形状を有して同一平面上に平行配置されると共に前記第1の差動伝送線路に接続された一対の導体線路からなる第2の差動伝送線路と、
前記第2の差動伝送線路の終端間に接続された終端抵抗と、
前記第2の差動伝送線路に電磁結合または静電結合もしくは両方が形成されるように配置されると共に、一端に受信デバイスが接続された一対の導体線路からなる第3の差動伝送線路と、
を備えたことを特徴とする波形等化回路。
【請求項2】
前記第2及び第3の差動伝送線路は、同一基板に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の波形等価回路。
【請求項3】
前記第2及び第3の差動伝送線路は、空間を介して対向配置された異なるデバイスに分けて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の波形等価回路。
【請求項4】
前記第2及び第3の差動伝送線路は、前記第1の差動伝送線路の減衰特性と逆特性になるように線路幅、線路長、間隔が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の波形等価回路。
【請求項5】
前記第3の差動伝送線路は、ケーブルであることを特徴とする請求項1に記載の波形等価回路。
【請求項6】
前記第3の差動伝送線路は、線路の途中が長さ方向に分割されており、前記分割間にスイッチが接続され、前記スイッチが前記第1の差動伝送線路の特性に応じで切り替えられることを特徴とする請求項1に記載の波形等価回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−55284(P2009−55284A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219479(P2007−219479)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】