説明

波長変換部材、発光装置、照明装置、車両用前照灯および製造方法

【課題】波長変換部材の内部において蛍光体の粒子を均一に分散させる。
【解決手段】発光部5における蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、当該蛍光体の密度は、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、12g/cm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度光源として機能する発光装置の波長変換部材、上記発光装置を備えた照明装置および車両用前照灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光源として発光ダイオード(LED;Light Emitting Diode)や半導体レーザ(LD;Laser Diode)等の半導体発光素子を用い、これらの励起光源から生じた励起光を、蛍光体を含む波長変換部材に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いる発光装置の研究が盛んになってきている。このような波長変換部材に関する技術の例が特許文献1〜2に開示されている。
【0003】
特許文献1の発明では、半導体発光素子から出射された紫外光を集光レンズによって集光し、直径0.5mm以下の小さな点状の蛍光体に照射している。この構成を用いて、小さな領域からの発光に基づく光学設計を行うことにより、光源ユニットの光学設計を簡易に行うことができる。
【0004】
また、特許文献2の発明では、無機蛍光体粉末とガラス粉末とを含む混合物を焼成することにより波長変換部材を形成している。この特許文献2には、ガラス粉末と無機蛍光体粉末との混合割合が、質量比で99.99:0.01〜70:30の範囲にあることが好ましいと記載されている。
【0005】
蛍光体複合部材の発光効率は、ガラス中に分散した蛍光体粒子の種類や含有量、および蛍光体複合部材の厚みによって変化する。蛍光体が多くなりすぎると、焼結しにくくなり、気孔率が大きくなって、励起光が効率良く蛍光体に照射されにくくなったり、蛍光体複合部材の機械的強度が低下しやすくなったりするなどの問題が生じる。一方、少なすぎると、十分に発光させることが難しくなる。従って、酸化物ガラス粉末と無機蛍光体粉末との混合割合は上述の範囲内のものが好ましいと記載されている。
【0006】
また、高輝度光源を実現する場合、その発光部としての波長変換部材は小さくすることが好ましい。そのため、レーザ光を励起光に用いれば、高い光密度で励起できるので、高輝度光源を実現しやすくなる。
【0007】
また、特許文献3には、蛍光体粒子をアルカリ金属、アルカリ土類金属およびZnから選択される1以上を含有するガラス組成物で被覆した被覆蛍光体粒子が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、蛍光体粉末とガラス粉末とを混合し、放電プラズマ焼結法を用いてガラス粉末を溶融させ、その後、冷却することにより蛍光物質成形体を製造する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献5にも、無機蛍光体粉末とガラス粉末を含む混合粉末の焼結体からなる波長変換部材が開示されている。なお、特許文献5の発明は、波長変換部材の表面に励起光波長を含む波長領域の光を選択的に透過させるバンドパスフィルター層を設けることを主たる特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−241142号公報(2004年8月26日公開)
【特許文献2】特開2008−21868号公報(2008年1月31日公開)
【特許文献3】特開2009−13186号公報(2009年1月22日公開)
【特許文献4】特開2009−91546号公報(2009年4月30日公開)
【特許文献5】特開2010−108965号公報(2010年5月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、波長変換部材を小さくすると、そこに含有される蛍光体の総量が減少してしまうため、高光密度のレーザ光のように非常に強い光(ハイパワーの光)で励起すると、励起光の量に対して蛍光体の量が足りなくなって(励起光を吸収し切れず)、励起光の量に対して十分な蛍光が得られなくなることを本発明の発明者は見出した。
【0012】
これを改善するためには、できるだけ多くの蛍光体が波長変換部材に含まれる様にすればよいが、蛍光体量が増えてくると(換言すると蛍光体の濃度が濃くなると)、レーザ光励起による蛍光体の発熱が激しくなり、逆に十分な蛍光が得られなくなったり、波長変換部材の特性(色度・色温度や寿命など)に影響を与え、波長変換部材が劣化したりするという別の問題が発生することも分かってきた。
【0013】
これらの問題を解決するためには、小さい波長変換部材の中に蛍光体を均質に分散させる技術が非常に重要となることを本発明の発明者は見出した。なぜなら、同じ分量の蛍光体であっても、その濃度に局所的な偏りがあると、高濃度の領域での発熱が相対的に大きくなり、その部分から十分な蛍光が得られなくなったり、特性(色度・色温度や寿命など)に影響を与え、劣化したりするからである。すなわち、蛍光体を均一に分散できるほど、小さい波長変換部材の中に分散できる蛍光体の総量を増やすことができる。
【0014】
このように、封止材の中に蛍光体が均一に分散しており、波長変換部材のサイズが小さいということが、レーザ光を用いて高輝度光源を実現するために重要なポイントである。
【0015】
しかし、小さな波長変換部材の内部において蛍光体の粒子を均一に分散させる技術は、これまで実現されていない。
【0016】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、波長変換部材の内部において蛍光体の粒子を均一に分散させる製造方法、および内部において蛍光体の粒子が均一に分散した波長変換部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る波長変換部材は、上記の課題を解決するために、励起光の波長を変換する蛍光体が封止材によって封止されている波長変換部材であって、上記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、上記蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、上記蛍光体の密度は、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、12g/cm以下であることを特徴としている。
【0018】
また、上記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、6.0g/cm以下であることが好ましい。
【0019】
さらに、上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、上記蛍光体の密度は、6.10g/cm以上、6.87g/cm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る製造方法は、波長変換部材の製造方法であって、蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の封止材とを混合し、蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、12g/cm以下の密度の封止材とを混合する混合工程と、上記混合工程にて生成された蛍光体と封止材との混合物を熱処理する熱処理工程とを含むことを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、波長変換部材に励起光が照射されると、波長変換部材に含まれる蛍光体が励起光を蛍光に変換する。この蛍光体を封止材によって封止することで波長変換部材が形成されている。
【0022】
封止材に蛍光体を分散させるときには、封止材に蛍光体を均一に分散させることが好ましい。蛍光体の分布に偏りがあると、蛍光体が密集している部分が過度に発熱することで波長変換部材が劣化する可能性があるからである。
【0023】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、封止材に蛍光体を均一に分散させるためには、両者の密度を適切なものにすることが重要であることを見出した。
【0024】
具体的には、蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、当該蛍光体の密度を、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下とし、封止材の密度を、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下、より好ましくは2.0g/cm以上、6.0g/cm以下とすることにより、封止材に蛍光体を均一に分散させることができる。
【0025】
または、蛍光体の平均粒径が50nm以下(ただし、0より大きい)のとき、当該蛍光体の密度を、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下、より好ましくは6.10g/cm以上、6.87g/cm以下とし、封止材の密度を、2.0g/cm以上、12g/cm以下とすることにより、封止材に蛍光体を均一に分散させることができる。
【0026】
このように封止材および蛍光体の密度を設定することにより、封止材に蛍光体を均一に分散させることができ、その結果、波長変換部材の劣化を抑制し、寿命を延ばすことができる。
【0027】
また、平均粒径が1μm以上、50μm以下である上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体であることが好ましい。
【0028】
酸窒化物蛍光体および窒化物蛍光体は、耐熱性および温度特性に優れた蛍光体であり、高出力かつ高光密度のレーザ光に耐えることを本発明の発明者が実験により確認している。それゆえ、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体を用いることにより、高出力かつ高光密度の発光装置に適用できる波長変換部材を実現できる。
【0029】
ここで、温度特性とは、蛍光体のおかれている周囲の温度を環境温度と呼ぶとすると、例えば室温における蛍光体の特性と、室温とは異なる、ある環境温度における蛍光体の特性とを比較したとき、どれだけ蛍光体の特性が変化するかを表すものである。温度特性が優れているとは、環境温度変化に対して蛍光体の特性値の変化量が少ないことを表し、酸窒化物蛍光体や窒化物蛍光体は、LED用の蛍光体として極めて一般的なYAG:Ce蛍光体に比べて温度特性に優れている。
【0030】
また、上記封止材は、ガラス材であることが好ましい。
【0031】
封止材としてガラス材を用いることにより、波長変換部材の耐熱性を高めることができる。
【0032】
また、上記ガラス材は、低融点ガラスであることが好ましい。
【0033】
上記の構成により、波長変換部材を製造する工程を低温で行うことができ、波長変換部材の製造が容易になる。
【0034】
また、上記低融点ガラスは、マグネシウム、ホウ素、カルシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛およびアンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素を含むことが好ましい。
【0035】
これらの元素を低融点ガラスに含めることにより、当該低融点ガラスの熱伝導率を高めることができる。
【0036】
また、上記低融点ガラスは、SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系のガラスを含むことが好ましい。
【0037】
SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系のガラスの密度は、3g/cm程度であり、波長変換部材に用いる蛍光体は、密度範囲が2.5g/cm以上、4.0g/cm以下である。このようにガラスと蛍光体との密度が近い値であるため、ガラス粒子中に蛍光体粒子をより均一に分散させることが容易になる。
【0038】
また、上記低融点ガラスは、ホウケイ酸塩ガラス、鉛ケイ酸塩ガラス、ゲルマン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスまたはバナジウム酸塩ガラスを含むことが好ましい。
【0039】
上に列挙したガラスは、他のガラス系、例えばリン酸塩ガラスに比べて熱膨張率が低く、波長変換部材の熱による膨張を小さく抑えることができる。
【0040】
それゆえ、波長変換部材の温度上昇により波長変換部材の位置およびサイズが所定のものからずれることを防止することができる。その結果、波長変換部材の位置またはサイズが所定のものからずれることにより所望の方向に十分な光束を取り出すことができなくなってしまう可能性を低減できる。
【0041】
また、上記低融点ガラスは、リン酸塩ガラスを含むことが好ましい。
【0042】
リン酸塩ガラスは、低融点ガラスの中でも特にガラス軟化点が低い(150℃〜300℃)ガラスであるため、低融点ガラスと蛍光体との混合物を熱処理する時の熱処理温度を特に低くすることが可能になる。そのため蛍光体に対するダメージを少なくでき、波長変換部材の製造時の熱によって生じる発光効率の低下を抑制することができる。
【0043】
また、上記波長変換部材と、当該波長変換部材に対して励起光を出射する励起光源とを備える発光装置、および当該発光装置を備える照明装置、車両用前照灯も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
本発明の波長変換部材を発光装置、照明装置または車両用前照灯に適用することにより、これらの装置の寿命を長くすることができ、その信頼性を高めることができる。
【0045】
また、上記励起光源は、発光ダイオードを含むことが好ましい。
【0046】
発光ダイオード(LED)を励起光源として用いることによって、LEDは小型であるので励起光源と波長変換部材とを含む発光装置自体も小型にすることができ、発光装置の応用製品範囲の自由度が高くなる。加えてこの発光装置を用いた製品のデザインの設計の自由度を高めることができる。また、LEDチップは低コストであるため、発光装置の低コスト化もはかることができる。
【0047】
また、上記励起光源は、レーザ光を発するものであることが好ましい。
【0048】
レーザ光を発する光源を用いることで、非常に高いパワー、かつ、非常に高いパワー密度の励起光を得ることができるため、波長変換部材から高輝度かつ高光束の照明光を取り出すことができるようになる。
【0049】
また、上記励起光源は、半導体レーザを含むことが好ましい。
【0050】
励起光源を半導体レーザとすることによって、半導体レーザは小型であるので励起光源と波長変換部材とからなる発光装置自体もより小型にすることができ、発光装置の応用製品範囲の自由度をより高めることができる。また、この発光装置を用いた製品のデザインの設計の自由度をより高めることができる。
【0051】
また、本発明に係る製造方法に含まれる混合工程において、分散媒としての液体を加えて上記蛍光体と上記封止材とを混合することが好ましい。
【0052】
上記の構成により、蛍光体と封止材との密度や粒径に多少の差があっても、分散媒としての液体中に蛍光体および封止材を均一に分散させることができる。その結果、封止材に対して蛍光体を均一に分散させることができる。
【0053】
それゆえ、励起時の蛍光体の発熱が均一化され波長変換部材が局所的に高温になることを抑制でき、波長変換部材の劣化(特性低下)や、封止材の変色、変質などによる劣化を抑制できる。また、局所的に高温になることにより熱膨張差が生じて波長変換部材にクラックが入ることについても抑制できるようになるため、その寿命を延ばすことができる。また、蛍光体および/または封止材が静電気などにより飛散してしまうことに起因する波長変換部材の製造前後での蛍光体と封止材との混合割合の変化を抑制することができる。
【0054】
また、本発明に係る製造方法に含まれる混合工程において、上記蛍光体は酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体であり、上記液体は水であることが好ましい。
【0055】
上記の構成により、用いる蛍光体が酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体のとき、上記液体が水であれば、蛍光体の発光効率を低下させることなく蛍光体粉末と封止材とを均一に攪拌することができる。
【0056】
また、本発明に係る製造方法に含まれる混合工程において、上記蛍光体は硫化物蛍光体であり、上記液体は水を0.5体積%以下含む液体であることが好ましい。
【0057】
用いる蛍光体が硫化物蛍光体のとき、上記液体中に多量に水が含まれていると、蛍光体の発光効率が低下する。上記の構成によれば、上記液体に水がほとんど含まれていないため、蛍光体の発光効率を低下させることなく蛍光体粉末と封止材とを均一に攪拌することができる。
【0058】
また、上記液体の添加量は、上記蛍光体の粒子と上記封止材の粒子との隙間を埋める量であることが好ましい。
【0059】
上記の構成によれば、液体の添加量は、上記蛍光体の粒子と上記封止材の粒子との隙間を埋める量であるため、分散媒としての液体中に蛍光体の粒子と封止材の粒子とを安定的に均一に分散させることができる。その結果、最終的に蛍光体粒子と封止材粒子との混合物に熱処理が施されて波長変換部材が形成されるまでに間に両粒子の分布に偏りが生じることを防止できる。
【0060】
なお、上記「安定的に」とは、波長変換部材の製造工程にかかる時間において、蛍光体粒子および封止材粒子の分布に偏りが生じない状態を意味している。
【発明の効果】
【0061】
本発明に係る波長変換部材は、以上のように、励起光の波長を変換する蛍光体が封止材によって封止されている波長変換部材であって、上記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、上記蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、上記蛍光体の密度は、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、12g/cm以下である構成である。
【0062】
また、本発明に係る製造方法は、蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の封止材とを混合し、蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、12g/cm以下の密度の封止材とを混合する混合工程と、上記混合工程にて生成された蛍光体と封止材との混合物を熱処理する熱処理工程とを含む構成である。
【0063】
それゆえ、ガラス材に蛍光体を均一に分散させることができ、その結果、波長変換部材の劣化を抑制し、寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図2】半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒径と蛍光波長との関係を示すグラフである。
【図3】(a)は、上記ヘッドランプが備える半導体レーザの回路図を模式的に示したものであり、(b)は、上記半導体レーザの基本構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の別の本実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図5】本発明のさらに別の実施形態に係るヘッドランプの概略構成を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレーザダウンライトが設置された天井の断面図である。
【図7】上記レーザダウンライトの断面図である。
【図8】上記レーザダウンライトの設置方法の変更例を示す断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、分散媒の好ましい添加量を説明するための図である。
【図10】3種の温度でのガラスの熱伝導率κを成分酸化物の重量パーセントから計算するための係数fiの具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、本発明の照明装置として、自動車用の走行用前照灯(ハイビーム)の配光特性基準を満たすヘッドランプ(車両用前照灯)1を例に挙げて説明する。
【0066】
<ヘッドランプ1の構成>
まず、本実施形態に係るヘッドランプ1の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るヘッドランプ1の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ1は、半導体レーザ(励起光源)2、非球面レンズ3、導光部4、発光部(波長変換部材)5、反射鏡6および透明板7を備えている。半導体レーザ2、導光部4および発光部5によって発光装置の基本構造が形成されている。
【0067】
(半導体レーザ2)
半導体レーザ2は、励起光を出射する励起光源として機能するものである。この半導体レーザ2は1つでもよいし、複数設けられてもよい。また、半導体レーザ2として、1つのチップに1つの発光点を有するものを用いてもよいし、複数の発光点を有するものを用いてもよい。本実施形態では、1チップに1つの発光点を有する1つの半導体レーザ2を用いている。
【0068】
半導体レーザ2は、例えば、1チップに1つの発光点(1ストライプ)を有し、405nm(青紫色)のレーザ光を発振し、光出力が1.0W、動作電圧が5V、電流が0.7Aのものであり、直径5.6mmのパッケージ(ステム)に封入されているものである。半導体レーザ2が発振するレーザ光は、405nmに限定されず、380nm以上470nm以下の波長範囲にピーク波長を有するレーザ光であればよい。
【0069】
なお、380nmより小さい波長のレーザ光を発振する良質な短波長用の半導体レーザを作製することが可能であれば、あるいは470nm以上の波長で効率よく励起される蛍光体を利用することが可能であれば、350nm以上、1000nm以下の波長範囲のレーザ光を発振するように設計された半導体レーザを用いることも可能である。なぜなら、発光部に利用できる蛍光体は350nm以上、470nm以下で一般的に効率よく励起できるためである。
【0070】
なお、波長が1000nmを超えるレーザ光Lにて可視光領域の蛍光を発生する発光部2を作成することは現状では難しい。
【0071】
半導体レーザ2の光出力は、1W以上20W以下であり、発光部5に照射されるレーザ光の光密度は、0.1W/mm以上50W/mm以下であることが好ましい。この範囲の光出力であれば、車両用のヘッドランプに要求される光束および輝度を実現できるとともに、高出力過ぎるレーザ光によって発光部5が極度に劣化することを防止できる。すなわち、高光束かつ高輝度でありながら、長寿命の光源を実現できる。
【0072】
なお、レーザ光を出射する励起光源として半導体レーザ以外のレーザ光源(固体レーザ)を用いてもよい。また、励起光源として発光ダイオードを用いてもよい。
【0073】
(非球面レンズ3)
非球面レンズ3は、各半導体レーザ2から発振されたレーザ光を、導光部4の一方の端部である光入射面4aに入射させるためのレンズである。例えば、非球面レンズ3として、アルプス電気製のFLKN1 405を用いることができる。上述の機能を有するレンズであれば、非球面レンズ3の形状および材質は特に限定されないが、励起光の波長である405nm近傍の透過率が高く、かつ耐熱性のよい材料であることが好ましい。
【0074】
(導光部4)
導光部4は、半導体レーザ2が発振したレーザ光を集光して発光部5(発光部5のレーザ光照射面)へと導く円錐台状の導光部材であり、非球面レンズ3を介して半導体レーザ2と光学的に結合している。導光部4は、半導体レーザ2が出射したレーザ光を受光する光入射面4a(入射端部)と当該光入射面4aにおいて受光したレーザ光を発光部5へ出射する光出射面4b(出射端部)とを有している。
【0075】
光出射面4bの面積は、光入射面4aの面積よりも小さい。そのため、光入射面4aから入射した各レーザ光は、導光部4の側面に反射しつつ前進することにより収束されて光出射面4bから出射される。
【0076】
導光部4は、石英ガラス、アクリル樹脂その他の透明素材で構成する。また、光入射面4aおよび光出射面4bは、平面形状であっても曲面形状であってもよい。
【0077】
非球面レンズ3および導光部4の結合効率(半導体レーザ2から出射されるレーザ光の強度に対する、導光部4の光出射面4bから出射されるレーザ光の強度の割合)は90%である。このため、半導体レーザ2から出射された12Wのレーザ光は、非球面レンズ3および導光部4を通過すると、光出射面4bから10.8Wのレーザ光として出射される。
【0078】
なお、導光部4は、後述するように角錐台状であってもよく、光ファイバーであってもよく、半導体レーザ2からのレーザ光を発光部5に導くものであればよい。また、導光部4を設けずに、半導体レーザ2からのレーザ光を非球面レンズ3を介して、または直接に発光部5に照射してもよい。半導体レーザ2と発光部5との間の距離が短い場合には、このような構成が可能になる。
【0079】
(発光部5)
発光部5は、導光部4の光出射面4bから出射されたレーザ光を受けて発光するものであり、レーザ光を受けて発光する蛍光体が封止材としてのガラス材(例えば、無機ガラス)の中に分散されたものである。発光部5の構成および製造方法については後述する。
【0080】
この発光部5は、透明板7の内側(光出射面4bが位置する側)の面において、反射鏡6の焦点位置またはその近傍に固定されている。発光部5の位置の固定方法は、この方法に限定されず、反射鏡6から延出する棒状または筒状の部材によって発光部5の位置を固定してもよい。
【0081】
発光部5の形状は、特に限定されず、直方体であっても、円筒状であってもよい。本実施形態では、発光部5は、直径2mm、厚さ1mmの円柱状である。
【0082】
また、発光部5の厚みは1mmでなくともよい。上記厚みは、レーザ光が発光部5において全て白色光に変換されるか、またはレーザ光が発光部5において十分に散乱される厚みであればよい。つまり、蛍光体により励起光が蛍光に変換される、すなわちコヒーレント光がインコヒーレント光に変換される、もしくはコヒーレント光が発光部5を透過する過程で人体に無害な光出力レベルのコヒーレント光に散乱されるだけの厚みを発光部5が有していればよい。
【0083】
ここで必要とされる発光部5の厚みは、発光部5における封止材と蛍光体との割合に従って変化する。発光部5における蛍光体の含有量が多くなれば、レーザ光が白色光に変換される効率が高まるため発光部5の厚みを薄くできる。しかし、発光部5の厚みについては、上述の観点だけではなく、これから説明する事柄についても考慮した厚みにすることが好ましい。発光部5は、レーザ光を拡散する機能を有している。この機能は、発光部5に含まれる蛍光体と封止材との屈折率の差を利用することで実現できる。このために、半導体レーザ2が発振したレーザ光を十分に拡散できる体積(特に厚み)を有するように発光部5を設計する。
【0084】
また、発光部5の拡散機能をさらに高めるため、または発光部5を小型化するために、発光部5に拡散粒子を含ませても良い。拡散粒子として酸化ジルコニウム、ダイヤモンドなどの粒子を用いることができる。これら以外の粒子を用いてもよいが、発光部5の発熱に耐えられる粒子であることが好ましい。
【0085】
発光部5が拡散機能を有しているので、半導体レーザ2から出射されるコヒーレント性が高く発光点サイズの極めて小さなレーザ光を、人体への影響が少ない発光点サイズの大きな光に変換し、照明光として出射できる。
【0086】
(反射鏡6)
反射鏡6は、発光部5が出射したインコヒーレント光(以下、単に「光」と称する)を反射することにより、所定の立体角内を進む光線束を形成するものである。すなわち、反射鏡6は、発光部5からの光を反射することにより、ヘッドランプ1の前方へ進む光線束を形成する。この反射鏡6は、例えば、金属薄膜がその表面に形成された曲面形状(カップ形状)の部材であり、反射した光の進行方向に開口している。
【0087】
(透明板7)
透明板7は、反射鏡6の開口部を覆う透明な樹脂板であり、発光部5を保持している。この透明板7を、発光部5から出射された照明光の大半を透過する材質で形成することが好ましい。なお、透明板7として、樹脂板以外に無機ガラス板等も使用できる。
【0088】
ここで、照明光とは、発光部5にレーザ光が照射されたときに発光部5から放出される光のことを指す。
【0089】
より具体的には、発光部5に照射されたレーザ光が、発光部5に分散している蛍光体によって全て蛍光に変換される場合、発光部5から放出される蛍光そのものを照明光と呼ぶ。この場合には、上記蛍光は、封止材としてのガラス材を導波するか、または蛍光体によって複数回散乱されながらガラス材を導波し、発光部5から発光部5の置かれている外部空間に放出される。このとき、蛍光は巨視的には発光部5全体から放出されているとみなすことができる。
【0090】
また、発光部5に照射されたレーザ光の一部が、発光部5に分散している蛍光体によって蛍光に変換されない場合、蛍光に変換されなかったレーザ光と、蛍光に変換されたレーザ光、すなわち蛍光とが混合された光のことを照明光と呼ぶ。この場合には、レーザ光の一部は、レーザ光そのものの波長を保ったまま発光部5中を蛍光体によって複数回散乱され、拡散されながら導波し、発光部5の外部に放出される。一方、残りのレーザ光は、蛍光体によって波長が変換され蛍光となって封止材としてのガラス材を導波するか、または蛍光体によって散乱されながらガラス材を導波する。この場合、波長変換されなかったレーザ光と蛍光との両者の光が発光部5から発光部5の置かれている外部空間に放出されることになる。
【0091】
この場合も巨視的には発光部5全体から照明光が放出されているとみなすことができる。
【0092】
照明光は、所望の色度および光束になるように設計されており、レーザ光の照射強度や発光部中の蛍光体濃度などのパラメーターにより制御されている。
【0093】
本実施形態の構成のように直径2mmの発光部5にレーザ光を照射することによって、半導体レーザ2から放出されたレーザ光、すなわち、マイクロメータレベルの極めて小さな発光点から放出されたコヒーレント光であるレーザ光の空間コヒーレンシーを発光部5のサイズである直径2mmにまで拡大することができ、コヒーレント光をインコヒーレント化できる。そのため、人体の眼に対して安全性を確保した光源とすることができる。
【0094】
また、励起光を出射する励起光源としてLEDを用いた場合、紫外領域(350nm以上、380nm以下あるいは400nm以下)の励起光を出射する場合には、皮膚や目など人体に影響を与える可能性がある。したがって、透明板7としては、400nm以下の光を遮断できるものが選択されることが好ましい。
【0095】
レーザ光のような小さな発光点を有した光源を使用して安全性を確保した光源を実現させるためには、その発光点サイズを拡大させ、当該レーザ光の大部分を発光部5において蛍光に変換するか、複数回散乱あるいは拡散させる必要がある。
【0096】
なお、ここでは、透明板7は蛍光からなる照明光、または蛍光とレーザ光とからなる照明光を透過させているが、透明板7が透過させる光はこれに限られるわけではない。透明板7を透過してきた光が所望の色度および光束を有していれば透明版7で蛍光からなる照明光、または蛍光とレーザ光とからなる照明光の特定の波長領域を意図的に遮断してもよい。例えば、蛍光とレーザ光とからなる照明光が発光部5から放出されている場合、透明板7はレーザ光の波長領域を遮断し、蛍光の波長領域の大半を透過させる材質で形成されていてもよい。
【0097】
<安全性について>
小さな発光点サイズを有する光源から高いエネルギーを有する光が出射され、当該光が人間の眼に入射した場合、網膜上では、その小さな発光点サイズにまで光源像が絞られるため、結像箇所におけるエネルギー密度が極めて高くなってしまうことがある。例えば、レーザ光源(半導体レーザ)から出射されるレーザ光は、スポットサイズが10μm角よりも小さい場合がある。そのような光源から出射されるレーザ光が、直接眼に入射、あるいはレンズや反射鏡といった光学部材を介したとしても小さな発光点が直接眼に見える形で眼に入射すると、網膜上の結像箇所が損傷してしまうことがある。
【0098】
典型的な高出力の半導体レーザにおける発光点サイズは、例えば1μm×10μmである。すなわち、当該半導体レーザの出射面積は10μm=1.0×10−5mmである。このため、半導体レーザが出射する光が、例えば発光点サイズが1mmの光源と同じエネルギーを有する光であったとしても、半導体レーザの場合の網膜上での結像箇所のエネルギー密度は、発光点サイズが1mmの光源の場合よりも10倍も高くなってしまう。
【0099】
これを回避するためには、発光点サイズをある程度の大きさ(有限のサイズ)(具体的には例えば1mm×1mm以上)に拡大させる必要がある。発光点サイズを拡大させることにより、網膜上での結像サイズを拡大させることができるようになるため、同じエネルギーの光が眼に入射した場合であっても、網膜上のエネルギー密度を低減させることが可能となる。
【0100】
発光点サイズを拡大させるためには、光源そのものの発光点を視認できないようにする必要がある、このため、本実施の形態では、上述のように発光部5に拡散機能を持たせ、半導体レーザ2の発光点サイズを拡大させることにより、人体に対する安全性、特に人間の眼に対する安全性を確保している(アイセーフ化)。
【0101】
<発光部5の構成>
発光部をハイパワーのレーザ光で励起すると、発光部が激しく劣化することを本発明の発明者は見出した。発光部の劣化は、発光部に含まれる蛍光体そのものの劣化とともに、蛍光体を取り囲む封止材の劣化によって主に引き起こされる。例えば、サイアロン蛍光体は、レーザ光が照射されると60〜90%の効率で光を発生させるが、残りは熱となって放出される。この熱によって封止材が劣化すると考えられる。
【0102】
それゆえ、封止材および蛍光体の材質を適切に選択することは、発光部の寿命を延ばす上で非常に重要である。本発明では、このような観点から、発光部5を、封止材としてのガラス材の内部に蛍光体が分散されているものにしている。封止材をガラス材にすることにより、蛍光体を励起させるとき発生する熱によって封止材が著しく劣化することを防止できる。
【0103】
(封止材の組成)
封止材として、無機ガラスなどのガラス材を用いることができ、特に低融点ガラスが好ましい。低融点ガラスとしては、ガラス転移点が600℃以下のものが好ましく、SiO、B、ZnOのいずれか1つを少なくとも含むことが好ましい。SiO、B、またはZnOを加えることにより、低融点ガラスを安定化させながら、ガラス転移点と熱処理温度とを低下させることができ、かつ透明性を保つことができる。
【0104】
ガラス材の組成として、例えば、SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaOを挙げることができる。
【0105】
封止材としてガラス材を用いると、レーザ光が蛍光体に照射され、蛍光体が発熱しても、ガラスは耐熱性が高いので、発光部5の劣化を防ぐことができる。また、封止材としてシリコーン樹脂を用いたときのような、光に長時間照射されることによる樹脂の劣化に起因する封止材の変色が起こりにくい。
【0106】
(蛍光体の組成)
発光部5に含まれる蛍光体は、酸窒化物蛍光体、または窒化物蛍光体、またはIII−V族化合物半導体のナノメータサイズの粒子を用いた半導体ナノ粒子蛍光体であり、青色、緑色および赤色の蛍光体が低融点ガラスに分散されている。
【0107】
半導体レーザ2は、405nm(青紫色)のレーザ光を発振するため、発光部5に当該レーザ光が照射されると白色光が発生する。それゆえ、発光部5は、波長変換部材であるといえる。
【0108】
なお、半導体レーザ2は、450nm(青色)のレーザ光(または、440nm以上490nm以下の波長範囲にピーク波長を有する、いわゆる「青色」近傍のレーザ光)を発振するものでもよく、この場合には、上記蛍光体は、黄色の蛍光体、または緑色の蛍光体と赤色の蛍光体との混合物である。黄色の蛍光体とは、560nm以上590nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。緑色の蛍光体とは、510nm以上560nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。赤色の蛍光体とは、600nm以上680nm以下の波長範囲にピーク波長を有する光を発する蛍光体である。
【0109】
酸窒化物蛍光体の一例として、サイアロン(SiAlON)蛍光体と通称されるものを用いることができる。サイアロン蛍光体とは、窒化ケイ素のシリコン原子の一部がアルミニウム原子に、窒素原子の一部が酸素原子に置換された物質である。窒化ケイ素(Si)にアルミナ(Al)、シリカ(SiO)および希土類元素などを固溶させて作ることができる。
【0110】
酸窒化物蛍光体や窒化物蛍光体は、その他の蛍光体に比べて比較的安定性が高いため、波長変換部材を作製する時にガラス粉末と蛍光体とを混合して熱処理を行ってもガラス中に安定に存在する。そのため、結果として発光効率の高い波長変換部材を得ることができる。
【0111】
蛍光体の別の好適な例としては、III−V族化合物半導体のナノメータサイズの粒子を用いた半導体ナノ粒子蛍光体を例示することができる。
【0112】
半導体ナノ粒子蛍光体の特徴の一つは、同一の化合物半導体(例えば、GaN)を用いても、その粒子径をナノメータのオーダーで変更することにより、量子サイズ効果によって発光色を変化させることができる点である。
【0113】
また、この半導体ナノ粒子蛍光体は、半導体ベースであるので蛍光寿命が短く、励起光のパワーを素早く蛍光として放射できるのでハイパワーの励起光に対して耐性が強いという特徴もある。これは、この半導体ナノ粒子蛍光体の発光寿命が10ナノ秒程度と、希土類を発光中心とする通常の蛍光体材料に比べて5桁も小さいためである。
【0114】
さらに、上述したように、発光寿命が短いため、レーザ光の吸収と蛍光体の発光を素早く繰り返すことができる。その結果、強いレーザ光に対して高効率を保つことができ、蛍光体からの発熱を低減させることができる。
【0115】
よって、発光部5が熱により劣化(変色や変形)するのをより抑制することができる。これにより、光の出力が高い発光素子を光源として用いる場合に、発光装置の寿命が短くなるのをより抑制することができる。
【0116】
(蛍光体および封止材の密度)
<酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体の場合>
発光部5の蛍光体として酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体を用いる場合、すなわち、発光部5の蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下の場合、発光部5に含まれる蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、封止材としてのガラス材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下、より好ましくは2.0g/cm以上、6.0g/cm以下である。
【0117】
発光部5における蛍光体の分布に偏りがあると、蛍光体が密集している部分が過度に発熱することで発光部5が劣化する可能性がある。そのため、封止材に蛍光体を分散させるときには、封止材に蛍光体を均一に分散させることが好ましい。
【0118】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、封止材(特にガラス材)に蛍光体を均一に分散させるためには、両者の密度を適切なものにすることが重要であることを見出した。上述の蛍光体およびガラス材の密度は、両者を均一に混ぜるために好ましい密度の範囲である。
【0119】
2種類以上の複数種類の材質の粒子(すなわち、蛍光体および封止材)を均一に混ぜるために好ましい両者の密度の範囲は相対的なものであり、蛍光体の密度が変化すれば、封止材の密度も必然的に変化する。上述の密度の範囲は、蛍光体の密度の範囲を固定した上で、封止材の密度の好ましい範囲を求めたものである。
【0120】
酸窒化物蛍光体の一例であるSiAlON蛍光体や、窒化物蛍光体の一例であるCASN蛍光体の結晶のもととなっている窒化珪素(SiN)の密度は3.2g/cmであるため、これらSiAlON蛍光体およびCASN蛍光体の密度は、3.2g/cm前後の値となる。この値は、上述の蛍光体の密度範囲に含まれている。
【0121】
一方、LED用の蛍光体としてきわめて一般的なYAG:Ce蛍光体の密度は、4.8g/cm前後である。その他、珪酸塩蛍光体の密度は、4.3g/cm、TAG蛍光体の密度は6g/cm前後である。これらの値は、上述の蛍光体の密度範囲から外れている。
【0122】
つまり、上述の蛍光体の密度範囲は、SiAlON蛍光体やCASN蛍光体などの酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体の密度範囲に相当するものであり、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体を用いた場合には、封止材の密度範囲を上述のものにすることで蛍光体と封止材とを均一に混ぜ合わせることができる。この事実を裏付ける実験例については後述する。
【0123】
<半導体ナノ粒子蛍光体の場合>
また、発光部5の蛍光体として半導体ナノ粒子蛍光体を用いる場合には、例えば、GaN、InN、およびこれらの混晶であるInGaNを蛍光体として用いることができる。半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒径は、一般的に100nm以下である。また、純粋なGaNの密度は6.10g/cm、InNの密度は6.87g/cmである。InGaNの密度に関しては、その混晶比と不純物の含有量とにより、6.0〜7.0g/cm、より好ましくは6.10〜6.87g/cmの範囲で値を取り得る。
【0124】
半導体ナノ粒子蛍光体の好ましい平均粒径は、50nm以下であり、より好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。その理由について、図2を用いて説明する。
【0125】
図2は半導体ナノ粒子蛍光体(GaNおよびInN)の平均粒径と蛍光波長との関係を示すグラフである。図2において、横軸は半導体ナノ粒子蛍光体の粒径を示し、縦軸は半導体ナノ粒子蛍光体のエネルギーレベルを示している。GaNに関する粒径とエネルギーレベルとの関係を実線で示し、InNに関する粒径とエネルギーレベルとの関係を破線で示している。また、青、緑、赤という文字を付した領域は、それぞれ、青色、緑色または赤色に発光するおおよそのエネルギーレベルを示す。青色、緑色および赤色を示す領域と、グラフの曲線との交点における粒径が、当該色に発光する粒径を示している。例えば、InNの場合、その粒径が5nm弱のときに赤色の蛍光を発する。
【0126】
図2に示すように、InNの場合、粒径が2nm以上、5nm以下の範囲において可視光が効率的に発生する。また、GaNでは、可視光を発生させることができないが、GaNとInNとの混晶にすることによって多様な平均粒径の半導体ナノ粒子蛍光体を生成し、当該半導体ナノ粒子蛍光体の粒径を制御することで目的の波長での発光が可能な半導体ナノ粒子蛍光体を得ることができる。
【0127】
可視光を発生する粒径の範囲は、半導体ナノ粒子蛍光体ごとに異なるが、平均すれば、平均粒径が50nm以下の場合に可視光を発生する効率が高く、さらに、10nm以下、5nm以下と平均粒径が小さくなるに従って可視光を発生する効率が高い。
【0128】
それゆえ、半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒径は、50nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。ただし、下限値は0よりも大きい。
【0129】
半導体ナノ粒子蛍光体のような粒径がナノメータのオーダーの蛍光体と、その粒径より100〜10000倍も粒径が大きいガラス粉末とを均一に混ぜる時には、ガラスの密度範囲は酸窒化物蛍光体と混ぜる時に比べて広くても、均一に分散させることができる。それゆえ、発光部5の蛍光体として半導体ナノ粒子蛍光体を用いる場合、すなわち、蛍光体の平均粒径が50nm以下の場合、ガラス材の密度は、2.0g/cm以上、12.0g/cm以下、より好ましくは6.0g/cm以上、11g/cm以下である。
【0130】
この密度範囲は、半導体ナノ粒子蛍光体の密度の範囲を固定した上で、封止材の密度の好ましい範囲を求めたものである。発光部5の蛍光体として半導体ナノ粒子蛍光体を用いた場合には、封止材の密度範囲を上述のものにすることで蛍光体と封止材とを均一に混ぜ合わせることができる。
【0131】
半導体ナノ粒子蛍光体の一例であるGaNの密度は6.1g/cmあり、この値は、上記蛍光体の密度範囲に含まれている。
【0132】
(蛍光体および封止材の粒径)
蛍光体粉末と封止材粉末(特に、ガラス粉末)とを混合した後に熱処理し、発光部5を形成する場合、蛍光体粉末および封止材粉末の平均粒径は近い方が、両者がより均一に混合され易いため好ましい。
【0133】
具体的には、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体の粉末の平均粒径を1μm〜50μmとすると、ガラス粉末の平均粒径は0μmより大きく350μm以下が好ましい。ただし、ガラス粉末の粒径は小さすぎると熱処理した後に泡残りしやすいため、この観点からガラス粉末の平均粒径は、1μm以上350μm以下がより好ましい。
【0134】
また、蛍光体の発光効率を考慮すると、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体の粉末の粒径のより好ましい範囲は、10μm以上40μm以下であり、ガラス粉末の粒径のより好ましい範囲は、蛍光体の粒径の好ましい範囲と同じく10μm以上40μm以下である。
【0135】
また、上述したように半導体ナノ粒子蛍光体の好ましい平均粒径は0より大きく50nm以下である。この半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒径に対応するガラス粉末の好ましい平均粒径は、1μm以上、10μm以下である。ガラス粉末の平均粒径を1μmより小さくすると泡残りが多くなる。また、ガラス粉末の平均粒径を10μmより大きくすると、ガラス粉末と半導体ナノ粒子蛍光体との粒径差が大きくなり過ぎてしまい、ガラス粉末とガラス粉末との間の空隙に半導体ナノ粒子蛍光体が固まって存在し、均一に半導体ナノ粒子蛍光体が分散しにくくなるためである。
【0136】
このように蛍光体および封止材の密度に加え、両者の粉末の平均粒径の差を所定の範囲内のものにすることにより、両者をより均一に混合することができる。
【0137】
なお、大型で特殊な混合装置を用いて混合すれば、蛍光体および封止材の密度または粒径が上述の条件を満たしていない場合でも、両者を均一に混合することは不可能ではない。本発明は、そのような特殊な混合装置または特殊な混合方法を用いなくても容易に両者を均一に混合できる方法およびその製造物としての波長変換部材を提供するものである。
【0138】
(蛍光体および封止材の混合割合)
蛍光体粉末とガラス粉末との混合割合は、質量比で30:70〜50:50の範囲にあることが好ましい。
【0139】
一般に、蛍光体をシリコーン樹脂やガラスなど透明材料で封止した波長変換部材において、透明材料中の蛍光体濃度が低すぎると、十分に発光させることが難しくなる。また、蛍光体濃度が高すぎると、蛍光体に励起光が照射されにくくなる。蛍光体粉末とガラス粉末との混合割合を、質量比で30:70〜50:50の範囲にすることで、十分に蛍光体を発光させることができる。
【0140】
<半導体レーザ2の構造>
次に半導体レーザ2の基本構造について説明する。図3(a)は、半導体レーザ2の回路図を模式的に示したものであり、図3(b)は、半導体レーザ2の基本構造を示す斜視図である。同図に示すように、半導体レーザ2は、カソード電極19、基板18、クラッド層113、活性層111、クラッド層112、アノード電極17がこの順に積層された構成である。
【0141】
基板18は、半導体基板であり、本願のように蛍光体を励起する為の青色〜紫外の励起光を得る為にはGaN、サファイア、SiCを用いることが好ましい。一般的には、半導体レーザ用の基板の他の例として、Si、GeおよびSiC等のIV属半導体、GaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSbおよびAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al、SiO、TiO、CrOおよびCeO等の酸化物絶縁体、並びに、SiNなどの窒化物絶縁体のいずれかの材料が用いられる。
【0142】
アノード電極17は、クラッド層112を介して活性層111に電流を注入するためのものである。
【0143】
カソード電極19は、基板18の下部から、クラッド層113を介して活性層111に電流を注入するためのものである。なお、電流の注入は、アノード電極17・カソード電極19に順方向バイアスをかけて行う。
【0144】
活性層111は、クラッド層113及びクラッド層112で挟まれた構造になっている。
【0145】
また、活性層111およびクラッド層113の材料としては、青色〜紫外の励起光を得る為にはAlInGaNから成る混晶半導体が用いられる。一般に半導体レーザの活性層・クラッド層としては、Al、Ga、In、As、P、N、Sbを主たる組成とする混晶半導体が用いられ、そのような構成としても良い。また、活性層111およびクラッド層113は、Zn、Mg、S、Se、TeおよびZnO等のII−VI属化合物半導体によって構成されていてもよい。
【0146】
また、活性層111は、注入された電流により発光が生じる領域であり、クラッド層112及びクラッド層113との屈折率差により、発光した光が活性層111内に閉じ込められる。
【0147】
さらに、活性層111には、誘導放出によって増幅される光を閉じ込めるために互いに対向して設けられる表側へき開面114・裏側へき開面115が形成されており、この表側へき開面114・裏側へき開面115が鏡の役割を果す。
【0148】
ただし、完全に光を反射する鏡とは異なり、誘導放出によって増幅される光の一部は、活性層111の表側へき開面114・裏側へき開面115(本実施の形態では、便宜上表側へき開面114とする)から出射され、励起光L0となる。なお、活性層111は、多層量子井戸構造を形成していてもよい。
【0149】
なお、表側へき開面114と対向する裏側へき開面115には、レーザ発振のための反射膜(図示せず)が形成されており、表側へき開面114と裏側へき開面115との反射率に差を設けることで、低反射率端面である、例えば、表側へき開面114より励起光L0の大部分が発光点103から照射されるようにすることができる。
【0150】
クラッド層113・クラッド層112は、n型およびp型それぞれのGaAs、GaP、InP、AlAs、GaN、InN、InSb、GaSb、及びAlNに代表されるIII−V属化合物半導体、並びに、ZnTe、ZeSe、ZnSおよびZnO等のII−VI属化合物半導体のいずれの半導体によって構成されていてもよく、順方向バイアスをアノード電極17及びカソード電極19に印加することで活性層111に電流を注入できるようになっている。
【0151】
クラッド層113・クラッド層112および活性層111などの各半導体層との膜形成については、MOCVD(有機金属化学気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法、CVD(化学気相成長)法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。各金属層の膜形成については、真空蒸着法やメッキ法、レーザアブレーション法、スパッタ法などの一般的な成膜手法を用いて構成できる。
【0152】
(発光部5の発光原理)
次に、半導体レーザ2から発振されたレーザ光による蛍光体の発光原理について説明する。
【0153】
まず、半導体レーザ2から発振されたレーザ光が発光部5に含まれる蛍光体に照射されることにより、蛍光体内に存在する電子が低エネルギー状態から高エネルギー状態(励起状態)に励起される。
【0154】
その後、この励起状態は不安定であるため、蛍光体内の電子のエネルギー状態は、一定時間後にもとの低エネルギー状態(基底準位のエネルギー状態または励起準位と基底準位との間の準安定準位のエネルギー状態)に遷移する。
【0155】
このように、高エネルギー状態に励起された電子が、低エネルギー状態に遷移することによって蛍光体が発光する。
【0156】
白色光は、等色の原理を満たす3つの色の混色、または補色の関係を満たす2つの色の混色などで構成でき、この原理・関係に基づき、半導体レーザ2から発振されたレーザ光の色と蛍光体が発する光の色とを、上述のように組み合わせることにより白色光を発生させることができる。
【0157】
<実施例>
次に、蛍光体と封止材とを混合し、発光部5を製造する具体的な方法の一例について説明する。
【0158】
蛍光体粉末には、平均粒径が20μmのCASN:EuとCa‐α‐SiAlON:Ceとを用いた。CASN:EuおよびCa‐α‐SiAlON:Ceの密度は、上述したように3.2g/cm前後である。
【0159】
ガラス粉末には、軟化点が500℃であり、ガラスの組成としてホウ酸を含み、密度が3.18g/cmであり、平均粒径が20μmのガラス(SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO)を用いた。
【0160】
これを、ガラス粉末と蛍光体粉末との混合割合が質量比で(ガラス粉末):(CASN:Eu):(Ca‐α‐SiAlON:Ce)=7:1:2となるように秤量した。さらにこれらの粉末が均一に混ざり合うように混合した(混合工程)。混合は、秤量したガラス粉末と蛍光体とを容器に入れ、揺動させることにより行った。
【0161】
ここで、ガラス粉末の平均粒径および密度と、蛍光体粉末の平均粒径および密度とをほぼ等しくしたのは以下の理由による。すなわち、密度の小さいものと大きいものとを混ぜようとした場合には、両者が上下方向に分離してしまい、均一混合が困難となり、また粒径の小さいものと大きいものとを混ぜようとした場合にも、両者が上下方向に分離してしまい、均一混合は困難であるためである。
【0162】
これらの点を鑑み、ガラス粉末の平均粒径は、0μmより大きく350μm以下が好ましい。さらにより好ましい範囲は、1μm以上、200μm以下である。また、ガラス粉末の密度は、2.0g/cm〜7.0g/cmの範囲が好ましい。さらにより好ましい範囲は、2.0g/cm〜6.0g/cmである。
【0163】
最後に得られた混合粉末を金属金型中に入れ、560℃で0.5時間、熱処理を行い(熱処理工程)、波長変換部材(発光部5)を作製した。
【0164】
熱処理する前に、ガラス粉末と蛍光体粉末とをあらかじめ均一に混合しておくことで、熱処理後に得られる波長変換部材中の蛍光体がガラス中に均一に分散したものを作製することができる。本実施例では、ガラス軟化点付近の温度で熱処理を行っているので、ガラスが完全に溶融することはないため、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂のような封止材と、蛍光体との混合物を熱処理したときにしばしば起こるような蛍光体の沈降は起こらない。また、ガラス軟化点より高温で熱処理し、ガラスが完全に溶融してしまうような温度で熱処理したとしても、ガラス粉末と蛍光体の密度とをほぼ等しくしているので、ガラス粉末溶融時の、ガラスと蛍光体粉末との密度差に起因する蛍光体の沈降は起こりづらく、蛍光体がガラス中に均一に分散した波長変換部材を得ることができる。
【0165】
また、ガラス粉末と蛍光体粉末との熱処理時に有機系バインダーを使用しないので、有機系バインダーの除去不十分に起因する波長変換部材の品質低下を防止することができる。
【0166】
<ヘッドランプ1の効果>
以上のように、ヘッドランプ1の発光部5では、蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、封止材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下、より好ましくは2.0g/cm以上、6.0g/cm以下である。それゆえ、封止材であるガラス中に蛍光体を均一に分散させることができ、励起光の利用効率を高くすることができる。
【0167】
また、蛍光体がガラス中に均一に分散しているため、波長変換部材の局所的な劣化が起こる可能性が少なく、長期信頼性の高い波長変換部材を実現することができる。
【0168】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図4に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0169】
図4は、本実施形態に係るヘッドランプ20の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ20は、ヘッドランプ1とは異なり、ロッドレンズである非球面レンズ31、導光部41、発光部51を備えている。
【0170】
導光部41は、半導体レーザ2が発振したレーザ光を光入射面41aにおいて受光し、光出射面41bから出射することにより当該レーザ光を発光部51へと導く角錐台状の導光部材であり、非球面レンズ31を介して半導体レーザ2と光学的に結合している。導光部41は、導光部4と形状が異なっているだけで、材質については導光部4と同じである。なお、導光部4と同様に導光部41を省略してもよい。
【0171】
発光部51は、縦6.0mm×横2.0mm×奥行き0.5mmの直方体であり、発光部5とは、その形状が異なっている。日本国内で法的に規定されている車両用ヘッドランプの配光パターン(配光分布)は、鉛直方向に狭く、水平方向に広いため、発光部51の形状を、水平方向に対して横長(断面略長方形形状)にすることにより、上記配光パターンを実現しやすくなる。
【0172】
本実施形態では、発光部51は、Ca‐α‐SiAlON:CeとCa‐α‐SiAlON:Euとを蛍光体として用い、SiOとBとZnOとをベースにBaOを添加した低融点ガラスに上記蛍光体を分散させたものである。低融点ガラスにBaOを添加することでガラスの化学的耐久性、非結晶化など安定性を向上させることができる。
【0173】
また、本実施形態では、半導体レーザ2は、1チップ10ストライプ(1チップに10個の発光点)のものであり、発振波長が405nm、光出力が10W、動作電圧が5V、電流が6A、消費電力が30Wであり、直径9mmステムに実装されたものである。図4に示す構成では、このような半導体レーザ2を1個使用しているが、導光部41の光入射面41aの長辺に沿って、複数の半導体レーザ2を配設してもよい。
【0174】
この構成により、1個の半導体レーザ2の光出力が低い場合でも、複数の半導体レーザ2を用いることにより、高出力の励起光源を実現できる。
【0175】
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1および2と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0176】
図5は、本実施形態に係るヘッドランプ30の概略構成を示す図である。同図に示すように、ヘッドランプ30は、ヘッドランプ1とは異なり、20個の半導体レーザ2、20個の非球面レンズ3、導光部42、発光部52、光ファイバー固定具8を備えている。
【0177】
半導体レーザ2は、実施の形態1の半導体レーザ2と同様のものであり、1チップに1つの発光点を有し、光出力が1.0Wのものである。それゆえ、複数の半導体レーザ2から合計20Wの放射束の光が出射される。
【0178】
導光部42は、20本の光ファイバー42aの束であり、20個の半導体レーザ2が発振したレーザ光を、各光ファイバー42aによって発光部52へと導く導光部材である。なお半導体レーザ2、非球面レンズ3、光ファイバー42aの数は一致していればよく、20個に限定されない。
【0179】
光ファイバー42aは、中芯のコアを、当該コアよりも屈折率の低いクラッドで覆った2層構造をしている。コアは、レーザ光の吸収損失がほとんどない石英ガラス(酸化ケイ素)を主成分とするものであり、クラッドは、コアよりも屈折率の低い石英ガラスまたは合成樹脂材料を主成分とするものである。
【0180】
例えば、光ファイバー42aは、コアの径が200μm、クラッドの径が240μm、開口数NAが0.22の石英製のものであるが、光ファイバー42aの構造、太さおよび材質は上述のものに限定されず、光ファイバー42aの長軸方向に対して垂直な断面は矩形であってもよい。
【0181】
非球面レンズ3は、半導体レーザ2から発振されたレーザ光を、光ファイバー42aの一方の端部である入射端部に入射させる。
【0182】
半導体レーザ2と非球面レンズ3、および光ファイバー42aの結合効率(半導体レーザ2から出射されるレーザ光の強度に対する、光ファイバー42aの他方の端部である出射端部から出射されるレーザ光の強度の割合)は、80%である。
【0183】
光ファイバー42の出射端部は、光ファイバー固定具8によって束ねられており、直径5mmのビームが発光部52に照射される。このため半導体レーザ2から出射された合計20Wのレーザ光は、非球面レンズおよび光ファイバーと通過すると、光ファイバーの出射端部から16Wのレーザ光として出射される。このときの光密度は、0.8W/mmである。光ファイバー42aの出射端部は、当該出射端部から出射されるレーザ光が発光部52に照射されるように当該発光部52に対して位置決めされている。
【0184】
発光部52は、直径5.2mm、厚さ1mmの円柱形を有している。この発光部52は、PbOを含むSiO−B系の低融点ガラスに、蛍光体としてβ−SiAlON:EuおよびCASN:Euを分散させたものである。
【0185】
ヘッドランプ30では、光ファイバー42aは、可撓性を有しているため、半導体レーザ2と発光部52との相対位置関係を容易に変更できる。また、光ファイバー42aの長さを調整することにより、半導体レーザ2を発光部52から離れた位置に設置することができる。
【0186】
それゆえ、半導体レーザ2を、冷却しやすい位置または交換しやすい位置に設置できるなど、ヘッドランプ30の設計自由度を高めることができる。
【0187】
〔実施の形態4〕
本発明の他の実施形態について図6〜図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1〜3と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0188】
ここでは、本発明の照明装置の一例としてのレーザダウンライト200について説明する。レーザダウンライト200は、家屋、乗物などの構造物の天井に設置される照明装置であり、半導体レーザ2から出射したレーザ光を発光部5に照射することによって発生する蛍光を照明光として用いるものである。
【0189】
なお、レーザダウンライト200と同様の構成を有する照明装置を、構造物の側壁または床に設置してもよく、上記照明装置の設置場所は特に限定されない。
【0190】
図6は、レーザダウンライト200が設置された天井の断面図である。図7は、レーザダウンライト200の断面図である。図6〜図7に示すように、レーザダウンライト200は、天板400に埋設され、照明光を出射する発光ユニット210と、光ファイバー42を介して発光ユニット210へレーザ光を供給するLD光源ユニット220とを含んでいる。LD光源ユニット220は、天井には設置されておらず、ユーザが容易に触れることができる位置(例えば、家屋の側壁)に設置されている。このようにLD光源ユニット220の位置を自由に決定できるのは、LD光源ユニット220と発光ユニット210とが光ファイバー42によって接続されているからである。この光ファイバー42は、天板400と断熱材401との間の隙間に配置されている。
【0191】
(発光ユニット210の構成)
発光ユニット210は、図7に示すように、筐体211、光ファイバー42、発光部5および透光板213を備えている。
【0192】
筐体211には、凹部212が形成されており、この凹部212の底面に発光部5が配置されている。凹部212の表面には、金属薄膜が形成されており、凹部212は反射鏡として機能する。
【0193】
また、筐体211には、光ファイバー42を通すための通路214が形成されており、この通路214を通って光ファイバー42が発光部5まで延びている。光ファイバー42の出射端部5aと発光部5との位置関係は上述したものと同様である。
【0194】
透光板213は、凹部212の開口部をふさぐように配置された透明または半透明の板である。この透光板213は、透明板9と同様の機能を有するものであり、発光部5の蛍光は、透光板213を透して照明光として出射される。透光板213は、筐体211に対して取外し可能であってもよく、省略されてもよい。
【0195】
なお、ダウンライトでは、ヘッドランプの場合とは異なり、理想的な点光源は要求されず、発光点が1つというレベルで十分である。それゆえ、発光部5の形状、大きさおよび配置に関する制約は、ヘッドランプの場合よりも少ない。
【0196】
(LD光源ユニット220の構成)
LD光源ユニット220は、半導体レーザ2、非球面レンズ3および光ファイバー42を備えている。
【0197】
光ファイバー42の一方の端部である入射端部5bは、LD光源ユニット220に接続されており、半導体レーザ2から発振されたレーザ光は、非球面レンズ3を介して光ファイバー42の入射端部5bに入射される。
【0198】
図7に示すLD光源ユニット220の内部には、半導体レーザ2および非球面レンズ3が一対のみ示されているが、発光ユニット210が複数存在する場合には、発光ユニット210からそれぞれ延びる光ファイバー42の束を1つのLD光源ユニット220に導いてもよい。この場合、1つのLD光源ユニット220に複数の半導体レーザ2と非球面レンズ3との対(または、複数の半導体レーザ2と1つのロッド状レンズ32との対)が収納されることになり、LD光源ユニット220は集中電源ボックスとして機能する。
【0199】
(レーザダウンライト200の設置方法の変更例)
図8は、レーザダウンライト200の設置方法の変更例を示す断面図である。同図に示すように、レーザダウンライト200の設置方法の変形例として、天板400には光ファイバー42を通す小さな穴402だけを開け、薄型・軽量の特長を活かしてレーザダウンライト本体(発光ユニット210)を強力な粘着テープ等を使って天板400に貼り付けるということもできる。この場合、レーザダウンライト200の設置に係る制約が小さくなり、また工事費用が大幅に削減できるというメリットがある。
【0200】
〔実施の形態5〕
本発明の他の実施形態について図9に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1〜4と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0201】
本実施の形態では、蛍光体と封止材とを混合する混合方法の別の例について説明する。この混合方法を用いて製造された発光部(波長変換部材)5を、実施の形態1〜4で示した発光装置および照明装置の発光部として適用できる。
【0202】
本実施の形態では、実施の形態1で示した平均粒径および密度を有する蛍光体と封止材とを混合するときに、分散媒として液体を加えて蛍光体と封止材とを混合することにより、蛍光体と封止材とをより均一に分散させる。
【0203】
(分散媒の種類)
分散媒として水または有機溶媒を用いることができるが、蛍光体の種類に応じて、用いる分散媒の種類を変えることが好ましい。
【0204】
具体的には、蛍光体が酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体である場合には、分散媒は水であることが好ましく、純水がより好ましい。水は、引火性がないため取り扱いも容易であり、毒性もなく安全である。また、純水は簡便な装置で市水から精製できるので入手しやすく、不純物を含まないため蛍光体と反応せず、その特性を劣化させないというメリットがある。
【0205】
その理由について説明する。発光部の蛍光体として酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体を用いるとき、これらの混合工程において分散媒として有機溶媒を用いると、熱処理されてできあがった発光部が黒ずんで発光効率が低下してしまうという問題が生じることが分かった。しかし、分散媒として水を用いるとそのような黒ずみがなく、発光効率の低下も見られない。このような問題と解決策とは、本発明の発明者によって見出されたものである。それゆえ、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体と封止材とを混合するときに添加する分散媒は、水であることが好ましい。
【0206】
また、蛍光体が硫化物蛍光体である場合には、分散媒は水を0.5体積%以下含む液体であることが好ましい。
【0207】
その理由について説明する。硫化物蛍光体が水と接触すると、当該蛍光体の発光効率が低下してしまうという問題が生じる。しかし、分散媒として水を含まない媒質(例えば有機溶媒)を用いるとそのような発光効率の低下は見られない。このような問題と解決策とは、本発明の発明者によって見出されたものである。それゆえ、硫化物蛍光体と封止材とを混合するときに添加する分散媒は、水を0.5体積%以下含む液体であることが好ましい。このような液体の例としては、無水エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、MIBK(メチル・イソ・ブチル・ケトン)などが挙げられる。なお、有機溶媒としてよく用いられるアセトンは、引火点が低いため上記の液体に比べて危険性が高いこと、揮発性が高いため、蛍光体と封止材とを混合している過程で揮発し、均一に混合するための効果が得にくいことから好ましくない。
【0208】
なお、硫化物蛍光体の密度は、酸窒化物蛍光体および窒化物蛍光体と同様に2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であることが好ましい。また、硫化物蛍光体は平均粒径が1μm以上、50μm以下であることが好ましい。
【0209】
(分散媒の添加量)
図9(a)〜(c)は、分散媒の好ましい添加量を説明するための図である。蛍光体と封止材とを混合するときに添加する分散媒の量には好ましい範囲が存在する。ここでは、分散媒として水を用い、封止材としてガラスを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0210】
図9(a)は、蛍光体粒子23とガラス粒子24とが容器21の内部において、水22の中に均一に分散している状態を示す図である。容器21は、蛍光体粒子23とガラス粒子24とを混合するときに使用する容器、または両者の混合物を熱処理するときに使用する金型である。
【0211】
図9(a)に示すように、蛍光体粒子23とガラス粒子24とは、それぞれ水22の中に均一に分散されていることが好ましい。このような状態であれば、結果的にガラス粒子24の中に蛍光体粒子23が均一に分散された状態が実現される。
【0212】
水22、蛍光体粒子23およびガラス粒子24の混合物を攪拌すれば、一時的には水22に対して蛍光体粒子23およびガラス粒子24が均一に分散された状態が実現できるが、水22の添加量によって、均一に分散された状態が長時間維持されるか、短時間で分布に偏りが生じてしまうかが決まってしまう傾向がある。
【0213】
具体的には、図9(b)に示すように、蛍光体粒子23およびガラス粒子24に対する水22の相対量が多い場合には、混合物を攪拌してから時間が経つと混合物は容器21の底に沈降する。このとき、蛍光体粒子23およびガラス粒子24のうち、その密度が大きい方が容器21の底側に沈降する。それゆえ、蛍光体粒子23およびガラス粒子24の混合物における両粒子の分布に偏りが生じ、結果的に製造された発光部において封止材中の蛍光体の分布に偏りが生じてしまう。
【0214】
一方、図9(c)に示すように、蛍光体粒子23およびガラス粒子24に対する水22の相対量が適量の場合には、混合物を攪拌してから時間が経っても、混合物における蛍光体粒子23およびガラス粒子24の分布に偏りが生じることなく、両粒子が均一に分散している状態が維持される。
【0215】
このように、分散媒としての液体の添加量は、当該液体中に蛍光体粒子23とガラス粒子24とが安定的に均一に分散する量であることが好ましい。
【0216】
なお、蛍光体粒子23またはガラス粒子24の密度と、分散媒の密度とが近い場合には、混合物を攪拌した後の状態において、上層側(容器21の底部に近い層とは反対側)に位置する粒子は、分散媒中に浮遊した状態になることがある。この場合でも、分散媒は後の工程で除去されるため、蛍光体粒子23およびガラス粒子24が均一に浮遊していれば、製造された発光部における蛍光体と封止材との分布は均一になる。
【0217】
分散媒において蛍光体粒子23およびガラス粒子24が均一に分布する分散媒の量は、分散媒と、蛍光体粒子および封止材粒子とが粘性を有するゾル状(泥の状態)になるように調整された量である。
【0218】
具体的には、分散媒の好ましい添加量は、蛍光体粒子23とガラス粒子24との隙間(空隙)を埋める量である。蛍光体粒子23とガラス粒子24の直径が同じであり、なおかつ粒子の形状は球であるとき、この2種類の粒子を最密に充填したときの空隙率は26%、充填率は74%である。
【0219】
蛍光体粒子23、ガラス粒子24の密度がともに3g/cmであるとき、この混合物1gを用意し、容器に最密に充填させたとき、
1g÷(3g/cm)cm =0.33cm
が容器中に存在する蛍光体粒子23とガラス粒子24との混合物の体積となる(充填率)。
【0220】
よって、空隙の体積は、
0.33×(26÷74)=0.12cmとなる。
【0221】
以上より、上記隙間を埋める液体の最小値は、蛍光体粒子とガラス粒子との混合物1gに対して0.12mlとなる。
【0222】
より具体的には、分散媒の好ましい添加量は、分散媒、蛍光体粒子23およびガラス粒子24の密度差および平均粒径の差に依存しており、それぞれの組み合わせによって分散媒の適量は異なっている。
【0223】
例えば、分散媒としての純水、蛍光体粒子23およびガラス粒子24の組み合わせにおいての分散媒の適量は、蛍光体粒子23とガラス粒子24の混合粉末1gに対して純水0.5mlである。
【0224】
(分散媒添加の効果)
蛍光体粒子および封止材粒子の混合物に分散媒を添加することにより、平均粒径から外れた粒径を有する粒子も均一に混合することができ、蛍光体粒子と封止材粒子とをより均一に混ぜることができる。すなわち、分散媒により蛍光体粒子および封止材粒子の粒径差を緩衝することができる。
【0225】
また、分散媒を添加することにより、蛍光体粒子および封止材粒子を混合するために用いた容器からその混合物を別の容器(例えば、熱処理用の金型)に移動させるときに、均一な混合状態を維持した状態で移動させることができる。これは、混合物の移動の際に生じる振動が分散媒によって緩衝され、当該振動によって粒径の小さい粒子が下方に沈降することを抑制できるためである。
【0226】
また、分散媒を添加することにより、静電気の発生を防止でき、静電気によって蛍光体粒子または封止材粒子が飛び散ったり、薬さじ、薬包紙、容器等の表面に付着したりすることを防止できる。そのため、蛍光体粒子および封止材粒子のロスを低減できるとともに、発光部中の蛍光体と封止材との比率を厳密に調整する(再現性を高める)ことが容易になる。
【0227】
実際に、分散媒を添加した場合(湿式混合)と添加しない場合(乾式混合)とでは、作製された発光部からの発光の色度再現性が湿式混合の方が良いことが確認されている。これは、乾式混合の場合に失われる蛍光体粒子が湿式混合では失われずに発光部に含まれるためであると考えられる。
【0228】
(発光部の製造例1)
次に、蛍光体粒子および封止材粒子の混合物に分散媒を添加して発光部を製造した具体例について説明する。この例では、発光部5の蛍光体として酸窒化物蛍光体を用いている。
【0229】
まず、蛍光体粉末とガラス粉末との混合割合が質量比で(ガラス粉末):(CASN:Eu):(Ca‐α‐SiAlON:Ce)=7:1:2となるように秤量し、両者を混合した。
【0230】
さらにこの混合粉末1gに対し、分散媒として純水0.5mlを加えた。この混合粉末と純水との混合物を容器に入れ、攪拌した(混合工程)。
【0231】
ここで、溶媒として純水を使用したのは、上述のように発光効率の低下を防止するためである。
【0232】
最終的に得られた混合物を、100℃で1時間静置した後(分散媒揮発工程)、560℃で0.5時間熱処理を行い(熱処理工程)、発光部を作製した。
【0233】
ここで、混合粉末と純水との混合割合、すなわち、蛍光体粒子および封止材粒子の混合物に対する分散媒(水)の相対量は上述したものに限定されない。上記混合割合は、混合粉末と純水とを攪拌して得られた混合物中に混在している粉末が、純水との密度差により浮上または沈降することにより当該粉末の分布に偏りが生じることを防止できるものであればよい。換言すれば、上記分散媒の相対量は、分散媒における蛍光体粒子および封止材粒子の分布が、攪拌してから少なくとも熱処理工程が完了するまでの間、ほぼ一定に維持される量であればよい。
【0234】
上記実施例においては、0.1ml以上、1ml以下の純水を添加することで良好な結果が得られた。
【0235】
また、混合粉末に混ぜる分散媒は、ここでは作業環境の管理のしやすさ、材料コスト、製造コスト等を考慮し、純水としたがこれに限定されない。本発明において利用できる分散媒は、混合粉末との混合時、攪拌時、溶媒揮発工程時および熱処理工程時に混合粉末と反応せず、また、混合粉末の反応触媒として作用しないものであればよい。
【0236】
(発光部の製造例2)
次に、蛍光体粒子および封止材粒子の混合物に分散媒を添加して発光部を製造した具体例の別の例について説明する。この例では、発光部5の蛍光体として硫化物蛍光体を用いている。
【0237】
まず、蛍光体粉末とガラス粉末との混合割合が質量比で(ガラス粉末):(CaS:Eu)=95:5となるように秤量し、混合した。さらにこの混合粉末1gに対し、分散媒として無水エタノール0.6mlを加えた。この混合粉末と無水エタノールとの混合物を容器に入れ、攪拌した(混合工程)。上記無水エタノールとしては、含まれる水分量が0.2%以下であるキシダ化学(株)の特級エタノール(99.5%)を好適に用いることができる。
【0238】
ここで無水エタノールを溶媒として用いたのは、上述のように、硫化物蛍光体は耐水性が低いため分散媒として水を使用すると硫化物蛍光体が劣化し、発光効率が低下してしまうためである。
【0239】
最終的に得られた混合物を、80℃で1時間静置した後(分散媒揮発工程)、560℃で0.5時間熱処理を行い(熱処理工程)、発光部を作製した。
【0240】
ここで、混合粉末と無水エタノールとの混合割合は上述したものに限定されない。上述したように、混合粉末と無水エタノールとを攪拌して最終的に得られた混合物において、混合物中に混在している粉末が無水エタノールとの密度差により浮上または沈降しない程度の無水エタノール量であればよい。
【0241】
上記実施例においては、0.05ml以上、1ml以下の無水エタノールを添加することで良好な結果が得られた。また、混合粉末に混ぜる溶媒はここでは無水エタノールとしたがこれに限定されない。本発明において利用できる分散媒は、混合粉末との混合時、攪拌時、溶媒揮発工程時および熱処理工程時に混合粉末と反応せず、また、混合粉末の反応触媒として作用しないものであればよく、特に上記実施例のように蛍光体として硫化物蛍光体を用いる場合は、含まれる水分量が0.5%以下の溶媒であることが好ましい。
【0242】
(低融点ガラスの具体例)
<SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系ガラス>
上述したように、封止材として、低融点ガラスを用いることが好ましい。この低融点ガラスとしては、例えば、上述したように、SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系のガラスを用いることができる。
【0243】
このSiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系のガラスの密度は、3g/cm程度であり、発光部5に用いる蛍光体(具体的には、酸窒化物蛍光体および窒化物蛍光体)は、密度範囲が2.5g/cm以上、4.0g/cm以下である。このようにガラスと蛍光体との密度が近い値であるため、ガラス粒子中に蛍光体粒子をより均一に分散させることが容易になる。
【0244】
その結果として、蛍光体粒子一個一個からの発熱が均一に封止材としてのガラス中に伝導し、発光部が局所的に高温になることが防止される。そのため、発光部の劣化を抑制し、その寿命を延ばすことができる。さらに、この局所的に高温にならないということは、局所的に発光部が熱膨張しないということにもつながり、発光部において部分部分での熱膨張の差による応力が生じることによるクラックの発生や、発光部の割れを抑制することができる。また、製造時の品質ばらつきが低減するため、生産コストを低減することができる。
【0245】
<ホウケイ酸塩ガラス>
また、上記低融点ガラスとして、ホウケイ酸塩ガラスを用いてもよい。このホウケイ酸塩ガラスの組成は、例えばSiO−B−Al−La−RO−ROである。ここで、ROのRはアルカリ金属であり、ROのRはアルカリ土類金属を表す。アルカリ金属は、Li,Na,Kから選択でき、アルカリ土類金属はMg,Ca,Sr,から選択できる。例えば、アルカリ金属としてNa、アルカリ土類金属としてCaを用いたホウケイ酸塩ガラスを使用できる。
【0246】
ホウケイ酸塩ガラスは、他のガラス系、例えばリン酸塩ガラスに比べて熱膨張率が低い。それゆえ、発光部5の熱による膨張を小さく抑えることができる。
【0247】
ここで、発光点(発光部5)から放出される光を、反射鏡6を用いて所望の方向に反射するとき、反射鏡6の所定の位置(焦点付近)に所定のサイズで発光部5が配置されることは非常に重要である。
【0248】
なぜならば、発光部5の位置が、反射鏡6の焦点から数十μmでもずれると、所望の方向に十分な光束を照射できなくなってしまうためである。微小なサイズの発光点のときほどその位置ずれの影響も大きくなるため、微小な発光部5を用いる場合には、発光部5の位置は非常に重要である。
【0249】
また、発光部5のサイズが例えば熱膨張により所望のサイズから変わってしまったときも、発光点が本来あるべき位置からずれることと同義であり、所望の方向に十分な光束を照射できなくなる可能性がある。
【0250】
これについても、発光部5が微小なサイズであるときほど、そのサイズの変化の影響は大きくなる。
【0251】
これらの理由により、発光部5の温度上昇によりその位置およびサイズが所定のものからずれることを防止することが重要である。
【0252】
封止材としてホウケイ酸塩ガラスを用いることで、発光部5の温度が上昇し、熱膨張することを抑制できるため、発光部5の熱膨張により所望の方向に十分な光束を取り出すことができなくなってしまう可能性を低くすることができる。
【0253】
また、ホウケイ酸塩ガラスは、例えばリン酸塩ガラスに比べて軟化点が高いので、より耐熱性が向上するという利点もある。
【0254】
なお、ホウケイ酸塩ガラスとほぼ同様の効果を奏するガラスとして、鉛ケイ酸塩ガラス(SiO−KO−PbO)、ゲルマン酸塩ガラス(GeO−Al−CaO)、ホウ酸塩ガラス(B−Al−MgO−BaO)、バナジウム酸塩ガラス(V−ZnO−B)を挙げることができる。また、これらのガラスを複数種類組み合わせてもよい。
【0255】
<リン酸塩ガラス>
また、上記低融点ガラスとして、リン酸塩ガラスを用いてもよい。リン酸塩ガラスは、ガラス軟化点が比較的低い(150℃〜300℃)ため、当該ガラス粉末と蛍光体粉末とを混合し、熱処理を施す過程において蛍光体に対するダメージを少なくすることができ、発光部5の製造時に起因する発光効率の低下を抑制することができる。また、耐熱性があまり高くない蛍光体を使用することができるので、蛍光体の選択肢の幅を広げることができる。
【0256】
リン酸塩ガラスの基本組成は、P−BaO−MgO−ZnOである。屈折率は1.55〜1.72である(特開2004−315324号公報(HOYA)による)。
【0257】
<鉛を含む低融点ガラス>
低融点ガラスに鉛が含まれていると、低融点ガラスの熱伝導率は、含まれていないそれに比べて高くなる。よって、発光部5に励起光が照射されることにより発生した熱を効率良く拡散させ、発光部5が接している他の部材へ熱を効率良く逃がすことができる。そのため、発光部5の温度上昇を抑えることができ、蛍光体の発光効率の低下を抑えることができ、より高光束な照明光を取り出すことができる。
【0258】
また、発光部5の温度上昇が過度な場合は、当該発光部5が劣化することがあるが、上記の構成により発光部5の劣化も防ぐことができる。例えば、低融点ガラスに鉛を含めることにより、発光部5が励起光の熱により溶けることを防止できる。そのため、発光部5から鉛が溶け出す可能性は低くなる。
【0259】
鉛を含む低融点ガラスは透過率が高いため、蛍光体が発した蛍光が発光部5の外部に出射されるときのロスを低減でき、結果としてエネルギー利用効率の高い発光部を実現することができる。この効果は、発光部5を透過した励起光を照明光として利用する場合にも得られる。
【0260】
鉛を含む低融点ガラスの具体例として、B−PbO−SiO系のガラスを用いることができる。このガラスは、例えばB−SiO系のガラスのような鉛を含まないガラスと比べて熱伝導率は10%高くなり、発光部5で発生した熱を、発光部5が接しているほかの部材へより効率良く逃がすことができる。
【0261】
また、B−PbO−SiO系のガラスを使用することで、B−SiO系のガラスよりも透過率を5%高くすることができる。
【0262】
なお、発光部の封止材としての低融点ガラスに鉛を含める場合には、当該発光部を備える照明装置の廃棄時における鉛回収技術、および上記照明装置の使用時における鉛漏れ防止技術を確立することが重要である。
【0263】
<低融点ガラスの熱伝導率を高める元素>
低融点ガラスの熱伝導率を高める効果を奏する元素として、上述の鉛以外にも、マグネシウム、ホウ素、カルシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛およびアンチモンを挙げることができる。また、これらの元素を組み合わせて用いてもよい。すなわち、発光部の封止材としての低融点ガラスに、マグネシウム、ホウ素、カルシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛およびアンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素を含めることにより、当該低融点ガラスの熱伝導率を高めることができる。
【0264】
ガラスの熱伝導率は組成によって異なるが、その組成の割合から熱伝導率κを計算することができる。例えば、下記(1)式によってガラスの熱伝導率κを算出できる。
【0265】
【数1】

【0266】
上記(1)式は、成分酸化物iとその重量パーセントGiからガラスの熱伝導率κを算出するための式である。(1)式における係数fiは、Ratcliffeによる係数である。3種の温度でのガラスの熱伝導率κを成分酸化物の重量パーセントから計算するための係数fiの具体例を図10に示す。
【0267】
(1)式から分かるように、係数fiの値が大きいほど熱伝導率κは高くなる。この係数fiを用いて算出した熱伝導率κの値は、実測値との差が5%以下であると言われている。
【0268】
図10に示すように、ガラスの熱伝導率を向上させることができる酸化物としては、鉛(PbO)のほかに、MgO、B、CaO、Al、Fe、ZnO、Sbを挙げることができる。ガラスの熱伝導率が高くなると、発光部の大きさがより厚みがあったり、大きくなったりしても、発光部が劣化しないように放熱できるようになり、放熱距離を長くすることができる。
【0269】
(その他の変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0270】
また、励起光源として、半導体レーザ以外の固体レーザを用いてもよい。ただし、半導体レーザを用いる方が、励起光源を小型化できるため好ましい。
【0271】
なお、本発明は、以下のようにも表現できる。
【0272】
すなわち、本発明の波長変換部材は、励起光を受けて発光する波長変換部材であって、前記波長変換部材は、蛍光体粉末とガラス粉末の少なくとも2種類の原料から作製され、前記蛍光体は、酸窒化物蛍光体もしくは窒化物蛍光体の中から1種類、もしくは2種類以上選択され、前記蛍光体の平均粒径は例えば1μm〜50μmであり、前記ガラス粉末の平均粒径は0より大きく350μm以下である。
【0273】
本発明の一実施形態によれば、蛍光体は酸窒化物蛍光体もしくは窒化物蛍光体の中から1種類、もしくは2種類以上選択されてもよい。
【0274】
本発明の一実施形態によれば、蛍光体は、ナノメータサイズの粒子を有する半導体ナノ粒子蛍光体を含んでいてもよい。
【0275】
本発明の一実施形態によれば、蛍光体粉末とガラス粉末の混合割合が、質量比で30:70〜50:50の範囲にあってもよい。
【0276】
本発明の一実施形態によれば励起光は半導体レーザにより発せられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0277】
本発明は、高輝度で長寿命な発光装置、照明装置、特に車両用等のヘッドランプに適用することができる。
【符号の説明】
【0278】
1 ヘッドランプ(車両用前照灯)
2 半導体レーザ(励起光源)
5 発光部(波長変換部材)
20 ヘッドランプ(車両用前照灯)
30 ヘッドランプ(車両用前照灯)
51 発光部(波長変換部材)
52 発光部(波長変換部材)
200 レーザダウンライト(照明装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光の波長を変換する蛍光体が封止材によって封止されている波長変換部材であって、
上記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、上記蛍光体の密度は、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、
上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、上記蛍光体の密度は、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下であり、上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、12g/cm以下であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
上記蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、
上記封止材の密度は、2.0g/cm以上、6.0g/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
上記蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、上記蛍光体の密度は、6.10g/cm以上、6.87g/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項4】
平均粒径が1μm以上、50μm以下である上記蛍光体は、酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項5】
上記封止材は、ガラス材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
上記ガラス材は、低融点ガラスであることを特徴とする請求項5に記載の波長変換部材。
【請求項7】
上記低融点ガラスは、マグネシウム、ホウ素、カルシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛およびアンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素を含むことを特徴とする請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項8】
上記低融点ガラスは、SiO−B−CaO−BaO−LiO−NaO系のガラスを含むことを特徴とする請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項9】
上記低融点ガラスは、ホウケイ酸塩ガラス、鉛ケイ酸塩ガラス、ゲルマン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラスまたはバナジウム酸塩ガラスを含むことを特徴とする請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項10】
上記低融点ガラスは、リン酸塩ガラスを含むことを特徴とする請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の波長変換部材と、
上記波長変換部材に対して励起光を出射する励起光源とを備えることを特徴とする発光装置。
【請求項12】
上記励起光源は、発光ダイオードを含むことを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
上記励起光源は、レーザ光を発するものであることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項14】
上記励起光源は、半導体レーザを含むことを特徴とする請求項13に記載の発光装置。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の発光装置を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項16】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の発光装置を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項17】
波長変換部材の製造方法であって、
蛍光体の平均粒径が1μm以上、50μm以下のとき、2.5g/cm以上、4.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の封止材とを混合し、蛍光体の平均粒径が50nm以下のとき、6.0g/cm以上、7.0g/cm以下の密度の蛍光体と、2.0g/cm以上、12g/cm以下の密度の封止材とを混合する混合工程と、
上記混合工程にて生成された蛍光体と封止材との混合物を熱処理する熱処理工程とを含むことを特徴とする製造方法。
【請求項18】
上記混合工程において、分散媒としての液体を加えて上記蛍光体と上記封止材とを混合することを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
上記蛍光体は酸窒化物蛍光体または窒化物蛍光体であり、上記液体は水であることを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
上記蛍光体は硫化物蛍光体であり、上記液体は水を0.5体積%以下含む液体であることを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
上記液体の添加量は、上記蛍光体の粒子と上記封止材の粒子との隙間を埋める量であることを特徴とする請求項18〜20のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−136686(P2012−136686A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142161(P2011−142161)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】