説明

波長変調スペクトロスコピー装置の較正方法

【課題】波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法を提供すること。
【解決手段】サンプル気体内の検体濃度を計測するように構成された波長変調スペクトロスコピー装置を較正する幾つかの方法を開示する。本方法の各々は、それに関する検体濃度の決定を可能とさせるサンプル気体が危険な気体であるか否かによらず比較的安全な気体を用いた較正及び再較正を可能にしている。本発明の一実施形態では、そのサンプル気体に関する第1の傾斜係数及び較正関数を決定すること(この後で、同じまたは異なるサンプル気体に関する第1の傾斜係数及び第2の傾斜係数に基づいて換算係数を決定し、後続の較正(または、再較正)においてこれを使用し較正関数をスケール換算することが可能である)によってサンプル気体特異的な較正を実現している。本発明の別の実施形態では、可変の気体組成及び一定の気体組成における検体濃度の決定を可能とさせるようにサンプル気体に非特異的な較正を実現している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的にはスペクトロスコピーの方法及び装置に関し、またさらに詳細には波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長変調スペクトロスコピー気体分析器の大多数では、レーザー波長を1fで変調するが得られる信号は検体の第2の高調波スペクトルを生成するように第2の高調波(2fで表す)で復調されているような2fと呼ぶ技法を利用している。次いでこの高調波スペクトルの大きさ(例えば、ピークの高さ)を用いて、天然ガス内の水分(水蒸気)の濃度(ただし、これに限らない)などサンプル気体内の検体濃度が決定される。検体濃度のこの決定は、検体濃度と高調波スペクトルの大きさの間の規定の関係に基づいて実施されており、多くの場合に第2高調波スペクトルのピーク高さに依拠している。しかしこの2fピーク高さは、検体濃度だけではなく、圧力、温度及びサンプル気体の組成によっても影響を受ける。このため、これらの分析器に対する較正はサンプル気体に特異的である(すなわち、サンプル気体A(例えば、天然ガス)内である検体の濃度を計測するように較正された分析器ではサンプル気体B(例えば、窒素や空気)内の同じ検体の濃度を正確に計測することが不可能である)。さらに、ある危険な(例えば、毒性の、可燃性の、爆発性の、その他の)サンプル気体内である検体の濃度を決定するように設計された分析器は、製造中に較正しておくか、同じ危険気体を用いて再較正することしかできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6356350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、比較的安全な気体による較正を可能とする一方で様々なサンプル気体内での検体濃度を計測する能力を提供できるような波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
サンプル気体内で検体の濃度を計測するように構成された波長変調スペクトロスコピー装置を較正する幾つかの方法を開示する。本方法の各々は、それに関する検体濃度の決定を可能とさせるサンプル気体が危険な気体であるか否かによらず比較的安全な気体を用いた較正及び再較正を可能にしている。本発明の一実施形態では、そのサンプル気体に関する第1の傾斜係数及び較正関数を決定すること(この後で、同じまたは異なるサンプル気体に関する第1の傾斜係数及び第2の傾斜係数に基づいて換算係数を決定し、後続の較正(または、再較正)においてこれを使用し較正関数をスケール換算することが可能である)によってサンプル気体特異的な較正を実現している。本発明の別の実施形態では、可変の気体組成及び一定の気体組成における検体濃度の決定を可能とさせるようにサンプル気体に非特異的な較正を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】例示的な波長変調スペクトロスコピー装置の高レベル構成要素図である。
【図2】波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法の一実施形態の流れ図である。
【図3】波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法の別の実施形態の流れ図である。
【図4】本発明の一実施形態において算定した空気中の水分の2f波長変調スペクトロスコピーに関する例示の簡略較正マトリックスである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
これらの図面は必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を例証する際にむしろ概して強調がなされている。図面では、同じ部分を示すために様々な図の全体を通じて同じ参照番号を用いている。
【0008】
本発明の一実施形態では、波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法を提供する。図1には、較正を受ける例示的な波長変調スペクトロスコピー装置の高レベル構成要素図を表している。当業者であれば、本発明の較正方法がある特定のスペクトロスコピー装置に限定されることがなく、また広範な波長変調スペクトロスコピー装置で実施可能であることを理解されよう。
【0009】
波長変調スペクトロスコピー装置は、サンプル気体105を通過する単色放射100と、サンプル気体105を透過した放射100の強度を検出する検出器120と、サンプル気体の圧力及び温度のそれぞれを監視している圧力センサ110及び温度センサ115と、変調周波数において放射100を波長変調し前置増幅し高調波スペクトルを生成するように変調周波数の高調波において検出器120からの信号を位相敏感検出によって収集及び復調しかつサンプル気体105に関する計測スペクトル、圧力及び温度に基づいて検体濃度を決定するために利用可能な電子回路125と、を含むことが可能である。波長変調スペクトロスコピー装置の構成が技術的要件及び設計に応じて本明細書に記載した構成と異なる可能性があることは当業者であれば理解されよう。
【0010】
一般に、サンプル気体内の検体濃度を計測するように構成可能な波長変調スペクトロスコピー装置では較正が必要となる。波長変調スペクトロスコピー装置が検体の第n次高調波スペクトルを検出すると仮定すると、第n次高調波スペクトル信号の大きさ
【0011】
【数1】

【0012】
に対するサンプル内における検体のモル分率として表現される検体濃度Xの関係は一般に次式により記載することができる。
【0013】
【数2】

【0014】
第n次高調波スペクトルの振幅Hn,m(ν,a)に対する検体濃度Xの関係は、高調波スペクトル信号の大きさの最大値と定義され、次式により記載することができる。
【0015】
【数4】

【0016】
上式において、較正傾斜関数C(P,T,γ)は次式のように定義することができ、
【0017】
【数6】

【0018】
Pはサンプル気体の総圧力であり、
Lは吸収経路長であり、
S(T)はスペクトル線強度であり、
Φ(ν)はスペクトル線プロファイル関数であり、
【0019】
【数7】

【0020】
は単色放射の中心周波数であり、
νはスペクトル線遷移周波数[cm−1]であり、
aは波長変調振幅であり、
ωはω=2πfであるような変調周波数(f)に関する角周波数であり、また
bは高調波スペクトルのノイズフロアからの寄与に対応する遮断係数である。ノイズフロアのために、検体濃度Xがゼロに等しい場合であっても、通常はスペクトル振幅Hn,m(ν,a)をゼロに至らせることは不可能であり、このため非ゼロの遮断係数bが必要である。
【0021】
スペクトル線強度S(T)[cm−2/psi]は温度依存的であり、次式で定義することができる。
【0022】
【数12】

【0023】
上式において、
Q(T)は内部分配総和(total internal partition sum)であり、
=1.4387752cmKは第2放射定数であり、また
【0024】
【数15】

【0025】
は下位準位(lower state)エネルギー[cm−1]である。
【0026】
スペクトル線プロファイルを記述するためにVoigt線プロファイル関数を利用すると次式となる。
【0027】
【数16】

【0028】
上式において、補助変数r、w及びyは次式のように定義される。
【0029】
【数17】

【0030】
【数18】

【0031】
【数19】

【0032】
ドプラ線幅(FWHM)は次式のように定義することができる。
【0033】
【数20】

【0034】
圧力拡張線幅(FWHM)は次式のように定義することができる。
【0035】
Δν=γ・P (10)
気体特異的かつ温度依存的とすることが可能な実効圧力拡張係数γは次式のように定義することができる。
【0036】
【数23】

【0037】
【数24】

【0038】
式(11)において、X及びγはそれぞれ、サンプルの第j次成分のモル分率と第j次成分によるじょう乱による圧力拡張係数(FWHM)である。
【0039】
スペクトル線プロファイルΦ(ν)を記述している式(5)〜(10)は、サンプル気体圧力(P)、温度(T)及び組成の変動がスペクトル線プロファイルΦ(ν)の変化に繋がる可能性があることを示している。
【0040】
図2に示した流れ図に関連して記載した本発明の一実施形態では、波長変調スペクトロスコピー装置を較正するために、式(3)で定義した較正傾斜関数の複数の値を各サンプル気体ごとに、並びに複数のサンプル気体圧力値及び複数のサンプル気体温度値に関して決定することが可能である。これらの較正傾斜関数値は、各サンプル気体ごとにマトリックス形式で表現できるので便利である。この較正処理は、スペクトロスコピー装置の開発段階、製造段階あるいは寿命期間中に実行することが可能である。
【0041】
ステップ210では、サンプル気体内の既知検体濃度(X)の第1の複数の高調波スペクトル(H)を基準圧力Pref及び基準温度Trefにおいて決定することができる。このサンプル気体は比較的安全な気体とすることも危険な気体とすることも可能である。
【0042】
ステップ220では、基準圧力Pref及び基準温度Trefに対応するサンプル気体の傾斜係数C(Pref,Tref,γ)、並びに遮断係数bを、例えば式(2)へのデータの線形当てはめによってステップ210で決定した既知検体濃度(X)の第1の複数の高調波スペクトル(H)に基づいて決定することが可能である。決定したスペクトルに基づいて傾斜係数及び遮断係数値を決定する別の方法も本発明の趣旨及び精神の域内にあることは当業者であれば理解されよう。この段階では実効圧力拡張係数(γ)は未決定のままとすることができる。
【0043】
ステップ230では、サンプル気体内の1つまたは複数の既知検体濃度(X)の第2の複数の高調波スペクトル(H)を様々な気体温度(T)で決定することが可能である。
【0044】
ステップ240では、様々な気体温度(T)に対応するサンプル気体の温度依存定数の複数の値π/(L・S(T))並びに実効圧力拡張係数γの複数の値を、ステップ230で決定した第2の複数の高調波スペクトル(H)及びステップ210で決定した遮断係数bに基づいて次の手順を用いて決定することが可能である。
【0045】
様々な温度におけるドプラ線幅Δνは式(9)に従って計算することが可能である。スペクトル線プロファイル関数Φ(ν)は式(5)により定義されるVoigt線プロファイルによって定義されるものと仮定することができる。シミュレーションと実際の結果の差が最小となりこれによりπ/(L・S(T))とγの真の値に至るまで、π/(L・S(T))とγの値を変更し各計測スペクトルを式(1)に当てはめることができる。一実施形態ではこの目的で標準の非線形最小2乗当てはめルーチンを使用することができる。この当てはめ手順は、様々な温度におけるπ/(L・S(T))及びγの値が決定されるまで反復することが可能である。計測したスペクトルに基づいてこれらの値を決定する別の方法も本発明の趣旨及び精神の域内にあることは当業者であれば理解されよう。
【0046】
その式から明らかなように温度依存定数π/(L・S(T))は少なくとも1つの温度依存変数(例えば、S(T))を有しており、一方その他の変数定数は必ずしも温度依存的ではない(例えば、πは温度依存的ではなくまたLは必ずしも温度依存的でない)。
【0047】
ステップ250では、γ及びTの値を式(12)に当てはめることによって所与の温度に関する圧力拡張係数を計算するための温度依存性指数εが決定される。
【0048】
ステップ255では、指定のレンジ域内で指定のステップサイズの様々な温度に関して式(4)と(12)のそれぞれに従って温度依存定数π/(L・S(T))及び実効圧力拡張係数γが決定される。
【0049】
ステップ260では、式(3)に従ってそのサンプル気体に関する複数の気体温度値及び圧力値における較正傾斜関数C(P,T,γ)を決定することが可能である。較正傾斜関数値はマトリックス形式で保存できるので便利である。図4は、空気中の水分の2f波長変調スペクトロスコピーに関する簡略較正マトリックスを表している。
【0050】
ステップ210〜260は、波長変調スペクトロスコピー装置の製造及び使用に関連することがあり得るサンプル気体のそれぞれについて実行することが可能である。これらは、スペクトロスコピー装置の開発段階で実行可能な工学設計較正を成している。製造段階においてあるいは装置寿命の間においてスペクトロスコピー装置は、再較正中のスペクトロスコピー装置の工学設計較正で使用した装置からの変動を考慮に入れるようにして再較正することが可能である。この再較正手順は、比較的安全なサンプル気体を用いて実行することが可能である。
【0051】
ステップ270では、選択したサンプル気体(例えば、比較的安全な気体)内の既知検体濃度(X)の複数の高調波スペクトル(H)を基準圧力Pref及び基準温度Trefにおいて決定することが可能である。
【0052】
ステップ280では、基準圧力Pref及び基準温度Trefに対応するサンプル気体の傾斜係数C(Pref,Tref,γ)、並びに遮断係数bを、例えば式(2)へのデータの線形当てはめによってステップ270で計測した既知検体濃度(X)の複数の高調波スペクトル(H)に基づいて決定することが可能である。決定したスペクトルに基づいて傾斜係数及び遮断係数値を決定する別の方法も本発明の趣旨及び精神の域内にあることは当業者であれば理解されよう。
【0053】
ステップ290では、ステップ280で決定した傾斜係数値とステップ220で同じサンプル気体に関して工学設計較正の間に決定した傾斜係数値との比として換算係数を決定することが可能である。
【0054】
ステップ295では、ステップ260で工学設計較正の間に決定した較正傾斜関数値の各々にステップ290で決定した換算係数を乗算し、複数の調整済み較正関数値からなる調整済み較正マトリックスを生成することが可能である。この調整済み較正マトリックスとステップ280で決定した遮断係数bによれば、式(2)に従った高調波スペクトルの計測に基づいたサンプル気体内の検体濃度の決定が可能となる。
【0055】
この方式により較正された波長変調スペクトロスコピー装置は、多機能的であると共に、サンプル気体圧力及び温度の指定の範囲内において様々なバックグラウンド気体内の検体濃度を正確に計測することが可能である。さらにこれによれば、製造較正、較正照合及び再較正に関して比較的安全な気体の使用が可能となり、このため法規制の順守が容易になる。較正マトリックスと遮断係数の両方が事前決定されているため、ディジタル信号処理及び検体濃度決定に関してマイクロプロセッサの能力をあまり必要としない。したがって、本発明による較正方法によれば、波長変調スペクトロスコピー装置に関連する較正の問題に対する実行可能で費用対効果のよい解決法が提供される。
【0056】
図3を参照して記載した本発明の別の実施形態では、温度依存定数π/(L・S(T))と遮断係数bの値は較正処理中に選択したサンプル気体(例えば、比較的安全な気体)について事前決定されている。マイクロプロセッサ能力が十分に大きいと仮定すると、検体濃度X及び実効圧力拡張係数γを、温度依存定数π/(L・S(T))の事前決定値並びに較正処理中に決定した遮断係数bを用いてスペクトロスコピー装置によってリアルタイムで同時に決定することが可能である。この方法の利点の1つは、「現実界の」任意のサンプル気体内の検体濃度を算定する際に、比較的安全なサンプル気体を用いて較正処理中に事前決定された温度依存定数π/(L・S(T))並びに遮断係数bの値を使用することが可能であり、これによりサンプル気体組成に関する事前の知見が必要でないことである。この較正方法は、図3の流れ図に示したようなステップ310〜350を含むことができる。
【0057】
ステップ310では、既知検体濃度(X)の第1の複数の高調波スペクトル(H)を比較的安全なサンプル気体に関して基準圧力Pref及び基準温度Trefのおいて決定することが可能である。
【0058】
ステップ320では、基準圧力Pref及び基準温度Trefに対応するサンプル気体の傾斜係数C(Pref,Tref,γ)並びに遮断係数bを、例えば式(2)へのデータの線形当てはめによってステップ310で決定した既知検体濃度(X)の第1の複数の高調波スペクトル(H)に基づいて決定することが可能である。決定したスペクトルに基づいて傾斜係数及び遮断係数値を決定する別の方法も本発明の趣旨及び精神の域内にあることは当業者であれば理解されよう。この段階では実効圧力拡張係数(γ)は未決定のままとすることができる。
【0059】
ステップ330では、温度依存定数π/(L・S(T))並びに既知温度に対応するサンプル気体の実効圧力拡張係数γを、サンプル気体の既知温度及び既知圧力における少なくとも1つの高調波スペクトル(H)並びにステップ320で決定した遮断係数bに基づいて、ステップ240に関連して記載した手順に従って決定することが可能である。一実施形態では、ステップ310のサンプル気体はステップ330のサンプル気体と異ならせることが可能である。ステップ310のサンプル気体がステップ330のサンプル気体と同じである場合、ステップ330で使用される高調波スペクトルをステップ310で決定した複数の高調波スペクトルから選択することが可能であり、またその既知温度を基準温度Trefとすることが可能である。
【0060】
ステップ340では、「現実界の」サンプル気体内の検体の未知の濃度に関する少なくとも1つの高調波スペクトル、並びに「現実界の」サンプル気体の圧力及び温度が計測される。
【0061】
ステップ350では、スペクトロスコピー装置によってこれらの値を式(1)にリアルタイムで当てはめ、π/(L・S(T))及びbの事前決定の値に基づきかつ計測する「現実界の」サンプル気体の高調波スペクトル、圧力及び温度に基づいて「現実界の」サンプル気体内の検体濃度X及び「現実界の」サンプル気体の実効圧力拡張係数γを決定することが可能である。
【0062】
ステップ310〜330はスペクトロスコピー装置の開発及び製造段階で実行することが可能である。ステップ340〜350はスペクトロスコピー装置の寿命期間中に実行することが可能である。
【0063】
この実施形態で必要なのは工学設計または製造段階の最低限の較正だけでありながら、未知の組成をもつサンプル気体において検体濃度の正確なリアルタイムの決定を可能としている。工学設計または製造段階の較正では比較的安全な気体とし得るように選択したサンプル気体を使用することが可能であり、またその較正はサンプル気体特異的ではない。この実施形態に従って製作した波長変調スペクトロスコピー装置は、検体濃度の正確な決定を保証するためのサンプル気体の圧力、温度及び組成に関する任意の変更に対して有効に対応することが可能である。このことは、気体組成が可変であることが多いようなプロセス気体分析に関して特に有益である。
【0064】
別の実施形態では、図3に示した較正方法をサンプル気体の組成が一定であるような用途に利用することが可能である。これらの用途では、スペクトロスコピー装置を以前にそのサンプル気体の計測に初めに利用したときにだけサンプル気体の実効圧力拡張係数γを決定するために中間のマイクロプロセッサを用いることが可能である。サンプル気体内の検体濃度Xは、以前に決定した実効圧力拡張係数γ並びに較正処理中に決定した温度依存定数π/(L・S(T))及び遮断係数bの事前決定値を用いて、スペクトロスコピー装置によってリアルタイムで決定することが可能である。この実施形態は上で検討したのと同じステップ310〜350を使用しているが、「現実界の」サンプル気体の実効圧力拡張係数γを以前に決定すると共にこの実効圧力拡張係数γに部分的に基づいて検体濃度を決定しているのみである。
【0065】
操作に際してはスペクトロスコピー装置を利用してある気体を初めて計測したときに、サンプル気体に関する少なくとも1つの高調波スペクトル、圧力及び温度が計測され、これらを式(1)に当てはめて、ステップ310〜330で決定したπ/(L・S(T))及びbの較正処理値中の事前決定の値に基づいて検体濃度X及び実効圧力拡張係数γを決定することが可能である。同じサンプル気体に対する後続の計測において検体濃度は、少なくとも1つの計測高調波スペクトル、以前に決定した実効圧力拡張係数γ、並びに較正処理中に事前決定したπ/(L・S(T))及びbの値に基づいて、ステップ350において式(2)に従ってリアルタイムで決定することが可能である。
【0066】
この実施形態で必要なのは、比較的安全な気体とし得る選択したサンプル気体に関する工学設計または製造段階の最低限の較正だけでありながら、未知であるが一定の組成をもつサンプル気体において検体濃度の正確なリアルタイムの決定を可能としている。
【0067】
この記載では、本発明(最適の形態を含む)を開示するため、並びに当業者による本発明の製作及び使用を可能にするために例を使用している。本発明の特許性のある範囲は本特許請求の範囲によって規定していると共に、当業者により行われる別の例を含むことができる。こうした別の例は、本特許請求の範囲の文字表記と異ならない構造要素を有する場合や、本特許請求の範囲の文字表記と実質的に差がない等価的な構造要素を有する場合があるが、本特許請求の範囲の域内にあるように意図したものである。較正方法及び実施形態に関する任意の変形形態が依然として本発明の趣旨及び精神の域内に属することは当業者であれば理解されよう。
【符号の説明】
【0068】
100 単色放射
105 サンプル気体
110 圧力センサ
115 温度センサ
120 検出器
125 電子回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル気体内で検体の濃度を計測するように構成された波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法であって、
第1のサンプル気体の基準圧力及び前記第1のサンプル気体の基準温度に対応する第1の傾斜係数を決定しかつノイズフロアからの寄与を反映している遮断係数を決定するステップであって、前記第1のサンプル気体の前記基準圧力及び前記基準温度における前記検体の既知濃度の第1の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
スペクトル線強度を反映している温度依存定数に関する複数の値を決定しかつ前記第1のサンプル気体の温度の複数の値において実効圧力拡張係数の複数の値を決定するステップであって、前記遮断係数並びに前記第1のサンプル気体の前記複数の温度値における前記検体の1つまたは複数の既知濃度の第2の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
前記第1のサンプル気体に関する前記実効圧力拡張係数の温度依存性指数を決定するステップと、
前記第1のサンプル気体に関する較正関数の複数の値を決定するステップであって、前記温度依存定数の前記複数の値並びに前記温度依存性指数に基づいて算定した複数の実効圧力拡張係数値に基づいている決定ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1のサンプル気体の前記基準圧力及び前記基準温度に対応する第2の傾斜係数を決定しかつノイズフロアからの寄与を反映している第2の遮断係数を決定するステップであって、前記第1のサンプル気体の前記基準圧力及び前記基準温度における前記検体の既知濃度の第3の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
前記第2の傾斜係数と前記第1の傾斜係数の比に基づいて換算係数を決定するステップと、
前記第1のサンプル気体に関する前記較正関数の前記複数の値を前記換算係数だけスケール換算するステップと、
をさら含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が第2のサンプル気体に関して実行されており、前記第2のサンプル気体に関する較正関数の複数の値が決定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のサンプル気体の前記基準圧力及び前記基準温度に対応する第2の傾斜係数を決定しかつノイズフロアからの寄与を反映している第2の遮断係数を決定するステップであって、前記第1のサンプル気体の前記基準圧力及び前記基準温度における前記検体の既知濃度の第3の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
前記第2の傾斜係数と前記第1の傾斜係数の比に基づいて換算係数を決定するステップと、
前記第2のサンプル気体に関する前記較正関数の前記複数の値を前記換算係数だけスケール換算するステップと、
をさら含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のサンプル気体が危険でありかつ前記第1のサンプル気体が比較的安全である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記装置の製造段階中またはこれ以前に実行される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記装置の製造段階中またはこれ以前に実行される請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記装置の製造段階中またはこれ以後に実行される請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記装置の製造段階中またはこれ以後に実行される請求項4に記載の方法。
【請求項10】
サンプル気体内で検体の濃度を計測するように構成された波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法であって、
ノイズフロアからの寄与を反映している遮断係数を決定するステップであって、第1のサンプル気体の基準圧力及び基準温度における前記検体の既知濃度の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
第2のサンプル気体の既知温度に対応してスペクトル線強度を反映している温度依存定数を決定するステップであって、前記遮断係数並びに前記第2のサンプル気体の既知圧力及び前記既知温度における前記検体の既知濃度の少なくとも1つの高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
第3のサンプル気体内の前記検体の濃度を決定するステップであって、前記遮断係数、前記温度依存定数、前記第3のサンプル気体の圧力、前記第3のサンプル気体の温度、並びに前記第3のサンプル気体内の前記検体の少なくとも1つの高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記遮断係数及び前記温度依存定数を決定する前記ステップは前記装置の製造段階中またはこれ以前に実行される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のサンプル気体及び前記第2のサンプル気体は比較的安全である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のサンプル気体及び前記第2のサンプル気体は同じである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のサンプル気体、前記第2のサンプル気体及び前記第3のサンプル気体は同じである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第3のサンプル気体内の前記検体の前記濃度を決定する前記ステップはリアルタイムで実行される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
サンプル気体内で検体の濃度を計測するように構成された波長変調スペクトロスコピー装置を較正する方法であって、
ノイズフロアからの寄与を反映している遮断係数を決定するステップであって、第1のサンプル気体の基準圧力及び基準温度における前記検体の既知濃度の複数の高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
第2のサンプル気体の既知温度に対応してスペクトル線強度を反映している温度依存定数を決定するステップであって、前記遮断係数並びに前記第2のサンプル気体の既知圧力及び前記既知温度における前記検体の既知濃度の少なくとも1つの高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
第3のサンプル気体の実効圧力拡張係数を決定するステップであって、前記遮断係数、前記温度依存定数、前記第3のサンプル気体の圧力、前記第3のサンプル気体の温度、並びに前記第3のサンプル気体内の前記検体の少なくとも1つの高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
前記第3のサンプル気体内の前記検体の濃度を決定するステップであって、前記遮断係数、前記温度依存定数、前記実効圧力拡張係数、前記第3のサンプル気体の圧力、前記第3のサンプル気体の温度、並びに前記第3のサンプル気体内の前記検体の少なくとも1つの高調波スペクトルに基づいている決定ステップと、
を含む方法。
【請求項17】
前記遮断係数及び前記温度依存定数を決定する前記ステップは前記装置の開発及び製造段階中に実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のサンプル気体及び前記第2のサンプル気体は比較的安全である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のサンプル気体及び前記第2のサンプル気体は同じである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のサンプル気体、前記第2のサンプル気体及び前記第3のサンプル気体は同じである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記第3のサンプル気体の前記実効圧力拡張係数を決定する前記ステップは以前に前記装置が前記第3のサンプルの計測に最初に利用されたときに実行されている、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記第3のサンプル気体内の前記検体の前記濃度を決定する前記ステップはリアルタイムで実行される、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−505404(P2012−505404A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531053(P2011−531053)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/057227
【国際公開番号】WO2010/042300
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(305032494)ジーイー・インフラストラクチャー・センシング・インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】