説明

泥水シールド掘進機の圧力開放装置

【課題】異常圧力時にチャンバの圧力開放を迅速に行うこと
【解決手段】一端がチャンバと連通し、他端が開放された泥水排水路内32に介装され、チャンバ内の圧力が急激に上昇する異常圧力時に開弁して、チャンバ内の泥水を排出するとともに、異常圧力が消失して、正常圧力に復帰した時に閉弁して、泥水排水路32を閉塞する緊急調圧弁30bである。調圧弁30bは、泥水排水路を開閉する揺動移動自在なゲート46と、駆動部48とを備え、駆動部48は、チャンバ内の圧力を直接受けて上下移動する球体48aを有し、球体48aは、正常圧力時にゲート46を閉弁させて、泥水排水路を閉塞するとともに、異常圧力時にゲート46を上方に揺動移動させて、泥水排水路を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、泥水シールド掘進機の圧力開放装置に関し、特に、掘進機のチャンバ内の圧力が異常に上昇した際の圧力抜き用の圧力開放装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市部およびその近傍で地下トンネルを構築する際に採用される工法として、シールド工法があり、この種の工法の一種として、泥水シールド工法が知られている。
【0003】
泥水シールド工法に用いられるシールド掘進機は、通常、掘進機本体の先端側に回転自在に支持された面板と、面板の背面側に隔壁を設けて隔成されたチャンバと、チャンバに連通する送泥管と排泥管とを備えている。
【0004】
このような泥水シールド掘進機では、面板で掘削した土砂を、チャンバ内に取り込み、チャンバ内に充満されている泥水とともに掘削土砂が、排泥管を介して外部に排出され、チャンバ内は、泥水を循環することにより、常時一定の圧力に保たれて、切羽が維持される。
【0005】
ところで、このように泥水シールド掘進機においては、例えば、何らかの原因で排泥管が詰まった場合などには、チャンバ内の圧力が急激に上昇して、異常圧力状態になることがある。
【0006】
異常圧力状態は、その間放置しておくと、掘進不能になることも予測されるので、従来は、このような異常圧力状態の対応策として、図4に示すような、緊急圧力抜き回路を設けていた。同図に示した緊急圧力抜き回路は、チャンバ1内と連通する経路2に、直列接続された電動弁3と破壊弁4とを備えている。
【0007】
このように構成した緊急圧力抜き回路では、チャンバ1内の圧力が設定圧力以上の異常圧力に上昇すると、破壊弁4が破壊されて、チャンバ1内の泥水を流出させて、チャンバ1内の圧力を下げる。
【0008】
そして、破壊弁4が破壊された後に、設定時間が経過すると、電動弁3が作動して、チャンバ1内から流出する泥水を止めるようになっている。しかしながら、従来のこのような異常圧力状態への対応策には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0009】
すなわち、図4に示した対応策では、泥水が流出し、設定時間後に電動弁3を作動させる構成なので、必要以上に泥水が流出する恐れがあるし、必要以上に泥水が流出すると、チヤンバ1内の圧力が急激に下降する可能性があって、チャンバ1内の圧力が大きく変動して、最悪の場合には、切羽崩壊に繋がるという問題があった。
【0010】
ところで、特許文献1には、異常圧力時に、必要以上に泥水を流出させることがない、圧力開放装置が提案されている。この特許文献1に開示されている圧力開放装置は、チャンバ内に連通する圧力調整用排出管の開口部を、ダイヤフラムで閉塞し、かつ、このダイヤフラムをスプリングで閉塞する方向に付勢した構成を有している。しかしながら、このような構成の圧力開放装置には、以下に説明する技術的な課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭48−78750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
すなわち、特許文献1に開示されている圧力開放装置では、圧力調整用排出管の開口部を、ダイヤフラムで閉塞しているので、チャンバ内の圧力が異常圧力になったときに、ダイヤフラムを付勢しているスプリング対して、その付勢力に抗して、スプリングを縮めて圧力開放を行うことになり、応答の迅速性に問題があった。
【0013】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、異常圧力時に、迅速に対応できる泥水シールド掘進機の圧力開放装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、 掘進機本体の先端側に回転自在に支持された面板と、前記面板の背面側に隔壁を設けて隔成されたチャンバと、前記チャンバに連通する送泥管と排泥管とを備えた泥水シールド掘進機において、一端が前記チャンバと連通し、他端が開放された泥水排水路内に介装され、前記チャンバ内の圧力が急激に上昇する異常圧力時に開弁して、前記チャンバ内の泥水を排出するとともに、前記異常圧力が消失して、正常圧力に復帰した時に閉弁して、前記泥水排水路を閉塞する緊急調圧弁を設けた泥水シールド掘進機の圧力開放装置であって、前記緊急調圧弁は、前記泥水排水路内に介装され、前記泥水排水路を開閉する揺動移動自在なゲートと、前記ゲートの駆動部とを備え、前記駆動部は、前記チャンバ内の圧力を直接受けて上下移動する球体を有し、前記球体は、正常圧力時に前記ゲートを閉弁させて、前記泥水排水路を閉塞するとともに、異常圧力時に前記ゲートを上方に揺動移動させて、前記泥水排水路を開放するようにした。
【0015】
このように構成した泥水シールド掘進機の圧力開放装置によれば、一端がチャンバと連通し、他端が開放された泥水排水路内に介装され、チャンバ内の圧力が急激に上昇する異常圧力時に開弁して、チャンバ内の泥水を排出するとともに、異常圧力が消失して、正常圧力に復帰した時に閉弁して、泥水排水路を閉塞する緊急調圧弁を設けているので、異常圧力時に、必要以上に泥水をチャンバ内から流出させることがなくなる。
この場合、 緊急調圧弁は、泥水排水路内に介装され、泥水排水路を開閉する揺動移動自在なゲートと、ゲートの駆動部とを備え、駆動部は、チャンバ内の圧力を直接受けて上下移動する球体を有し、球体は、正常圧力時にゲートを閉弁させて、泥水排水路を閉塞するとともに、異常圧力時にゲートを上方に揺動移動させて、泥水排水路を開放するが、泥水排出路の開閉を行う球体は、チャンバ内の圧力を直接受けて上下移動するので、異常圧力時の応答性が良好になっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる泥水シールド掘進機の圧力開放装置によれば、異常圧力時に、必要以上に泥水を流出させることがなくなり、異常圧力時にも迅速に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる泥水シールド掘進機の圧力開放装置の一実施例を示す装置設置状態の説明図である。
【図2】図1の圧力開放装置の閉弁状態の拡大説明図である。
【図3】図1の圧力開放装置の開弁状態の拡大説明図である。
【図4】従来の圧力開放回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1から図3は、本発明にかかる泥水シールド掘進機の圧力開放装置の一実施例を示している。
【0019】
同図に示した圧力開放装置は、図1にその全体構造の要部を示すの泥水シールド掘進機10に適用されるものであって、図1に示した泥水シールド掘進機10は、中空円筒状の掘進機本体12と、この掘進機本体12の先端側に回転自在に支持された面板14とを有している。
【0020】
掘進機本体12の先端側の内周面には、面板14の背面から所定の間隔を隔てるようにして、隔壁16が設けられていて、面板14の背面側にチャンバ18が隔成されている。
【0021】
チャンバ18には、隔壁16を貫通するようにして設置された送泥管22と排泥管20とが連通設置されている。送泥管22は、地上側に設置される図示省略の作泥プラントから泥水をチャンバ18内に送り込む。
【0022】
排泥管20は、チャンバ18内に充満している掘削土砂の含有泥水Aを、地上側に設置される図示省略の泥水処理施設に排出する。掘進機本体12内には、掘進の進行に伴って、その後方に順次組立られるセグメント24に反力を取って、本体12を前方に前進させるシールドジャッキ26が設置されている。
【0023】
以上のような泥水シールド掘進機10としての基本的な構成は、従来のこの種のマシンと同様であるが、本実施例の泥水シールド掘進機10は、以下に説明する点に顕著な特徴がある。
【0024】
すなわち、本実施例の泥水シールド掘進機10には、緊急調圧弁30bで構成したチャンバ18の圧力開放装置が設けられていることである。図2および図3に本実施例の緊急調圧弁30bの詳細を示している。
【0025】
本実施例の緊急調圧弁30bは、一端がチャンバ18と連通し、他端が開放された泥水排水路32に介装され、チャンバ18内の圧力が急激に上昇する異常圧力(Pan)時に開弁して、チャンバ18内の泥水を排出するとともに、異常圧力(Pan)が消失して、正常圧力(Pn)に復帰した時に閉弁して、泥水排水路32を閉塞する機能を有している。
【0026】
本実施例の緊急調圧弁30bは、泥水排水路32に介装され、泥水排水路32を開閉する揺動移動自在なゲート46と、ゲート46の駆動部48とを備えている。 ゲート46は、泥水排水路32を閉塞できる大きさで、その質量がm2の平板状に形成されていて、その一端が泥水排水路32の内面に揺動自在に枢着されている。
【0027】
駆動部48は、質量がm1の球体48aと、一端が球体48aに連結され他端がゲート46の揺動端に連結されたチェーン48bとを有している。
【0028】
球体48aは、泥水排水路32の直径と同じ直径rを有し、排水路32に立設された直立部32aの上端に設けられた拡大部32b内に収容されている。
【0029】
チャンバ18内の土砂含有泥水Aの比重をρとし、泥水排水路32の直径をr(球体48aの直径と同じ)とすると、球体48aに作用している力は、m1−2/3πr3×ρとなる。
【0030】
また、チャンバ18内の泥水圧をP2とすると、泥水排水路32中の圧力は、πr2/4×P2となる。
【0031】
ここで、チャンバ18内の土砂含有泥水Aの圧力が正常圧力(Pn)であれば、(m1−2/3πr3×ρ)≧πr2/4×P2となり、駆動部48の球体48aは、図2に示すように、上方に移動しないので、ゲート46は、揺動移動しない閉弁状態にあって、泥水排水路32を閉塞する。
【0032】
一方、チャンバ18内の土砂含有泥水Aの圧力P2が、異常圧力(Pan)になると、(m1+m2−4/3πr3×ρ2)<πr2/4×P2となって、駆動部48の球体48aが上方に移動して、図3に示すように、ゲート48を上部側に向けて揺動移動させて開弁させ、泥水排水路32を開放する。
【0033】
そして、泥水排水路32が開放されると、チャンバ18内の土砂含有泥水Aが外部に排出され、これによりチャンバ18内の圧力P2が低下し、異常圧力(Pan)以下の正常圧力(Pn)に復帰すると、図2に示す状態になって、ゲート48が泥水排水路32を閉塞する。
【0034】
このように構成した緊急調圧弁30bを用いると、一端がチャンバ18と連通し、他端が開放された泥水排水路32内に介装され、チャンバ18内の圧力が急激に上昇する異常圧力時に開弁して、チャンバ18内の泥水を排出するとともに、異常圧力が消失して、正常圧力に復帰した時に閉弁して、泥水排水路32を閉塞する緊急調圧弁30bを設けているので、異常圧力時に、必要以上に泥水をチャンバ18内から流出させることがなくなる。
【0035】
この場合、 緊急調圧弁30bは、泥水排水路32内に介装され、泥水排水路32を開閉する揺動移動自在なゲート46と、ゲート46の駆動部48とを備え、駆動部48は、チャンバ18内の圧力を直接受けて上下移動する球体48aを有し、球体48aは、正常圧力時にゲート46を閉弁させて、泥水排水路32を閉塞するとともに、異常圧力時にゲート46を上方に揺動移動させて、泥水排水路を32開放するが、泥水排出路32の開閉を行う球体48aは、チャンバ18内の圧力を直接受けて上下移動するので、異常圧力時の応答性が良好になっている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、泥水シールド掘進機のチャンバの異常圧力を迅速に低下させることができるので、シールドトンネルの構築工事に有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 泥水シールド掘進機
12 掘進機本体
14 面板
16 隔壁
18 チャンバ
30b 緊急調圧弁
46 ゲート
48 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機本体の先端側に回転自在に支持された面板と、前記面板の背面側に隔壁を設けて隔成されたチャンバと、前記チャンバに連通する送泥管と排泥管とを備えた泥水シールド掘進機において、
一端が前記チャンバと連通し、他端が開放された泥水排水路内に介装され、前記チャンバ内の圧力が急激に上昇する異常圧力時に開弁して、前記チャンバ内の泥水を排出するとともに、前記異常圧力が消失して、正常圧力に復帰した時に閉弁して、前記泥水排水路を閉塞する緊急調圧弁を設けた泥水シールド掘進機の圧力開放装置であって、
前記緊急調圧弁は、前記泥水排水路内に介装され、前記泥水排水路を開閉する揺動移動自在なゲートと、前記ゲートの駆動部とを備え、
前記駆動部は、前記チャンバ内の圧力を直接受けて上下移動する球体を有し、
前記球体は、正常圧力時に前記ゲートを閉弁させて、前記泥水排水路を閉塞するとともに、異常圧力時に前記ゲートを上方に揺動移動させて、前記泥水排水路を開放することを特徴とする泥水シールド掘進機の圧力開放装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−114854(P2009−114854A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45282(P2009−45282)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【分割の表示】特願2001−117017(P2001−117017)の分割
【原出願日】平成13年4月16日(2001.4.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】