説明

注射剤

【課題】原薬を溶解するための加熱処理を必要とせず、室温で簡便に調製でき、製剤調製時における原薬の純度の保持に勝り、高濃度化が可能で、かつ長期安定性の優れた3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン注射剤の提供。
【解決手段】
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを2.5mg/mL乃至5.0mg/mL含有し、溶解補助剤、安定化剤を含むことを特徴とする注射剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、化合物1)を有効成分とし、高濃度においても長期安定性に優れた注射剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物1は脳梗塞急性期に作用することにより、神経症候、日常生活動作障害、機能障害の改善薬として使用されている。最近、化合物1に運動ニューロン疾患に有効であることが報告され、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、原発性側索硬化症(PLS)、先天性多発性関節拘縮症(AMC)などの疾患に対し、症状進行の遅延、あるいは症状緩和に有効であるとされており(特許文献1)、臨床上極めて重要性の高い医薬であることが示唆されている。
【0003】
化合物1は通常1回の臨床投与量は30mgであり、1日2回点滴静注が必要とされている。しかしながら、化合物1は酸化分解され易く、水への溶解度が極めて低いことから、市販されているものは特殊製剤処方(特許文献2)による、1管20mLの大型アンプルであり、これを生理食塩水等で希釈して使用されているのが現状である。上記大型アンプルは医療現場及び流通過程における製品の保管場所の問題があり、また、医療現場における調剤の簡便性の面からも、高濃度化による小容量型の化合物1の注射剤が望まれている。
【0004】
上記問題の解決には、化合物1の溶解性を向上させ、高濃度の当該製剤を調製し、保存安定性の良い小容量製剤の開発が必要となるが、前述のとおり、化合物1の溶解性は極めて低く、また、高濃度水溶液中では酸化分解され易いことから、長期安定性の良い高濃度の製剤化は極めて困難であった。
【0005】
最近、上記問題を解決する手段として、エタノールを溶解補助剤として使用する方法が開発されている(特許文献3、4)。しかしながら、特許文献3の製剤では、安定化剤としてエチレンジアミン、エデト酸カルシウム2ナトリウム、あるいはエデト酸2ナトリウム等のキレート化剤の添加が好ましいとされ、これらキレート化剤は、生体内の必須金属であるカルシウム等をキレート化する為、副作用の可能性が考えられる。また、特許文献4の製剤では、化合物1の注射剤の製造過程で化合物1を加温溶解していることから、溶解時に僅かではあるが分解物の生成することが懸念される。以上のことから、長期保存安定性が高く、製剤調製の簡便性に優れる高濃度注射剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特許第3758164号
【特許文献2】特許第2082773号
【特許文献3】WO2002/092082
【特許文献4】特開2006−257020
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、本発明の課題は上記問題を解決すべく、製造過程において、原薬を溶解するための加熱処理を必要とせず、室温で簡便に調製でき、製剤調製時における原薬の純度の保持に勝り、高濃度化が可能で、かつ長期安定性の優れた化合物1の注射剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、有機アミンを溶解補助剤として使用することにより、高濃度においても長期安定性に優れた化合物1の注射用製剤を製造することに成功し発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)化合物1を2.5mg/mL乃至5.0mg/mL含有し、溶解補助剤、安定化剤 を含むことを特徴とする注射剤。
(2)溶解補助剤が有機アミンである(1)に記載の注射剤。
(3)有機アミンがアルコール性有機アミンである(2)に記載の注射剤。
(4)アルコール性有機アミンが、トリエタノールアミン、トロメタモール又はメグルミ ンである(3)に記載の注射剤。
(5)安定化剤が亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、チオグリセロール及びチオグリコー ル酸並びにそれらの塩から選ばれる(1)から(4)に記載の注射剤。
(6)pHが3.5乃至6.0であることを特徴とする(1)から(5)に記載の注射剤 。
(7)3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する溶液を容器に充 填し、容器内の空間を不活性ガスで置換することを特徴とする(1)から(6)に 記載の注射剤。
(8)容器がガラス製又は樹脂製のアンプル、バイアル、ボトル、シリンジ又はバッグである(7)に記載の注射剤。
等に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、注射剤の製造が簡便かつ容易であることから製剤を安定供給することが可能であり、さらに、高濃度下長期間の保存においても極めて安定な化合物1の注射剤を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、化合物1を水溶解する際、溶解補助剤を用い、さらに、安定化剤並びに必要に応じてpH調節剤及び/又は等張化剤等のその他の添加物を添加してなる注射剤である。
【0011】
本発明の注射剤を製造するに当たっては、通常、まず、精製水に化合物1及びトロメタモール等の溶解補助剤を添加し、室温にて溶解する。さらに、亜硫酸水素ナトリウム等の安定化剤及び塩化ナトリウム等の等張化剤を加え室温にて攪拌溶解し、クエン酸等のpH調節剤で所望のpHに調整後、精製水で全量の調製を行う。この溶液をメンブランフィルターで濾過後適当な容器に充填し、常法の加熱滅菌処理することにより製造することができる。
【0012】
本発明の注射剤に用いられる化合物1の濃度は、2.5mg/mL〜5.0mg/mLであり、2.5〜3.0mg/mLがより好ましい。
【0013】
本発明に使用される溶解補助剤は医薬上許容される有機アミンであれば特に限定されないが、好ましくはアルコール性有機アミンである。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノプロパン−1−オール、ジイソプロパノールアミン、2−オキシ−2−メチルプロピルアミン、1−アミノプロパン−2、3−ジオール、2−アミノプロパン−1、3−ジオール、トリス(オキシメチル)メチルアミン、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1、3−プロパンジオール(トロメタモール)、1、3−ジアミノプロパン−2−オール、1、2−ジアミノプロパン−3−オール、N−(2−オキシエチル)エチレンジアミン、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−D−グルシトール(メグルミン)等が溶解補助剤として挙げられ、トリエタノールアミン、トロメタモール又はメグルミンが好ましく,トロメタモールがより好ましい。これら溶解補助剤は単独で、又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明に供される安定化剤としては、医薬上許容されるものであれば特に限定されず、例えば亜硫酸、ピロ亜硫酸、亜硫酸水素、クエン酸、チオグリコール酸、チオグリセロール、チオリンゴ酸、エデト酸、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール及びこれらの塩等が挙げられ、亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、チオグリセロール及びチオグリコール酸並びにそれらの塩が好ましい。これら安定化剤は単独で、又は複数を組み合わせて供することができる。
【0015】
本発明の注射剤は、上記添加物の他、注射用製剤における通常の添加物一種以上をさらに含んでいてもよい。そのような添加物としては、pH調節剤、等張化剤等が挙げられる。
【0016】
本発明に用いられるpH調節剤としては、通常生理学的に許容されるものであれば特に制限されないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、乳酸、安息香酸等の有機酸、また必要に応じて水酸化ナトリウム、リン酸塩、クエン酸塩等の塩基性物質が挙げられ、塩酸、リン酸、クエン酸が好ましい。又、pH調節剤として、通常一般的に使用される緩衝剤を使用することもできる。これらpH調節剤は、単独で、あるいは適当に組み合わせて使用することもできる。pH調節剤の濃度は、本発明の注射剤がpH3.5〜6.0、好ましくはpH3.7〜5.0となるように設定されれば特に規定されない。
【0017】
等張化剤としては、医薬上許容されるものであれば特に制限されず、塩化ナトリウム、塩化カリウム、果糖、ブドウ糖等が挙げられ、これら等張化剤は単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の注射剤に使用される容器としては、医療用であれば特に限定されないが、通常一般的に使用されるガラス製の容器(ガラス容器)、樹脂製の容器(例えばプラスチック容器)等を使用でき、これら容器は医療用途として許容されるいかなる処理が施されていても良く、そのような処理として、遮光、シリコート処理、サルファー処理、シリコンコーティング等を例示することができる。容器の形態としては、アンプル、バイアル、ボトル、シリンジ、バッグ等が挙げられる。樹脂製の容器の素材としては、軟質、硬質、低密度、高密度を問わず、オレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等)、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート等及びこれらの素材成分を複数組み合わせた共重合体又は混合物等が挙げられる。
【0019】
上記製造過程において、化合物1の酸化分解を防ぐ為に、該容器内のヘッドスペースを窒素ガス等の不活性ガスで置換することにより更に安定性は向上する。また、製造過程で使用する精製水を予め不活性ガスで通気したものを使用したり、不活性ガスの通気中で上記製造過程を行ったりすることもできる。
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0021】
実施例1:50mLの精製水に化合物1を300mg,トロメタモール1000mgを加え、室温にて攪拌する。この溶液に亜硫酸水素ナトリウム200mgを加え,室温にて攪拌溶解し、クエン酸を加えてpH4.0に調整し、全量を精製水で100mLに調製した。この溶液をフィルターで濾過後、10mL用のアンプルに充填し、容器のヘッドスペースを窒素置換後、密閉し、120℃、30分間加熱滅菌処理により注射剤を得た。
【0022】
実施例2:実施例1にてpHを4.0に調整する代わりに、pH3.5に調整し、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0023】
比較例1:実施例1のトロメタモールを除いて、加温し試料を製した。
【0024】
比較例2:実施例1の全量を50mLとし、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0025】
比較例3:実施例1の亜硫酸水素ナトリウムを除いて、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0026】
比較例4:実施例1の容器のヘッドスペースを窒素置換せず、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0027】
比較例5:実施例1にてpHを4.0に調整する代わりに、pH3.0に調整し、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0028】
比較例6:実施例1にてpHを4.0に調整する代わりに,pH7.0に調整し、他は実施例1と同様に試料を製した。
【0029】
【表1】

【0030】
上記試験例の結果から、本発明の注射剤は、長期安定性に優れた注射剤であることが確認された。
【0031】
すなわち、本発明に係る注射剤は、有機アミンを溶解補助剤として用い、安定化剤を添加することにより、高濃度でも室温で簡易に調製でき、長期安定性、製剤の使用性に優れた化合物1含有液剤を提供できることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを2.5mg/mL乃至5.0mg/mL含有し、溶解補助剤、安定化剤を含むことを特徴とする注射剤。
【請求項2】
溶解補助剤が有機アミンである請求項1に記載の注射剤。
【請求項3】
有機アミンがアルコール性有機アミンである請求項2に記載の注射剤。
【請求項4】
アルコール性有機アミンが、トリエタノールアミン、トロメタモール又はメグルミンである請求項3に記載の注射剤。
【請求項5】
安定化剤が亜硫酸、亜硫酸水素、ピロ亜硫酸、チオグリセロール及びチオグリコール酸並びにそれらの塩から選ばれる請求項1から4に記載の注射剤。
【請求項6】
pHが3.5乃至6.0であることを特徴とする請求項1から5に記載の注射剤。
【請求項7】
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する溶液を容器に充填し、容器内の空間を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1から6に記載の注射剤。
【請求項8】
容器がガラス製又は樹脂製のアンプル、バイアル、ボトル、シリンジ又はバッグである請求項7に記載の注射剤。

【公開番号】特開2009−143922(P2009−143922A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318946(P2008−318946)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(592197599)株式会社富士薬品 (10)
【Fターム(参考)】