説明

活性度測定装置および活性度測定方法

【課題】染色等の細胞に影響を与える処理を行うことなく細胞の活性度を測定する。
【解決手段】複数の細胞Aを含む細胞A群の位相情報を測定する位相情報測定部9と、該位相情報測定部9により測定された位相情報から各細胞Aの有する特徴量を抽出する特徴量抽出部10と、該特徴量抽出部10により抽出された特徴量に基づいて細胞A群全体の活性度を算出する活性度算出部12とを備える活性度測定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性度測定装置および活性度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞のような測定対象の生存率(バイアビリティ)等の活性度を測定する方法が知られている。この方法は、細胞自体または特定の分子を蛍光物質によって染色しておき、励起光を照射して発生する蛍光の強度を測定するものである(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−198714号公報
【特許文献2】特開2006−230333号公報
【特許文献3】特開2006−314214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の生存率測定方法は、生存率を測定する測定対象である細胞を染色する必要があるため、一度測定に用いた細胞は、他の用途、例えば、移植等に利用することができず、廃棄しなければならないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、染色等の細胞に影響を与える処理を行うことなく細胞の活性度を測定することができる活性度測定装置および活性度測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、複数の細胞を含む細胞群の位相情報を測定する位相情報測定部と、該位相情報測定部により測定された位相情報から各前記細胞の有する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、該特徴量抽出部により抽出された特徴量に基づいて前記細胞群全体の活性度を算出する活性度算出部とを備える活性度測定装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、位相情報測定部によって測定された細胞群の位相情報から、特徴量抽出部によって各細胞の有する特徴量が抽出され、その特徴量に基づいて活性度算出部により細胞群全体の活性度が算出される。
細胞群の位相情報は、細胞群に対して焦点位置をずらした複数の画像に基づいて測定することができる。
【0008】
位相情報は細胞内部の液体の屈折率によって変化する。そして、生細胞は外部の培地と内部の液体とを所定の濃度を保ちながら交換しているため、培地より高い屈折率が維持されているが、死細胞は細胞壁が破れることによって内部の液体が外部に放出されて培地が浸入するために、培地の屈折率に近い屈折率に変化する。したがって、位相情報に基づいて抽出された各細胞の特徴量、例えば、位相値φを任意の屈折率nで除算することによって算出された見かけの最大厚さ寸法等は生細胞か死細胞かによって変化しており、これによって細胞群の活性度を精度よく算出することができる。すなわち、本発明によれば、細胞を蛍光染色する等の物理的な処理を施すことなく、細胞の活性度を測定することができる。
【0009】
上記発明においては、前記特徴量抽出部が、特徴量として前記細胞の最大位相値を抽出してもよい。
このようにすることで、特徴量抽出部によって抽出された最大位相値を用いて、細胞の活性度を簡易に判定することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、全体頻度に対する所定の閾値以上の最大位相値を有する細胞の出現頻度の割合を活性度として算出してもよい。
細胞の有する特徴量は、細胞の大きさや構造等の細胞の個性によってばらつきがあるので、細胞単独では測定誤差が大きいが、細胞群全体においてその分布を示すヒストグラムを生成することで、生細胞と死細胞との割合を求めることができ、活性度を精度よく測定することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、細胞活性度毎に予め計算された少なくとも2つ以上の前記最大位相値の正規分布に基づいて、該正規分布にそれぞれ係数をかけて重畳させたものとヒストグラムとの差分が最小となる各正規分布の前記係数の割合を活性度として算出することとしてもよい。
【0012】
また、上記発明においては、前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、該ヒストグラムに現れる極小値以上の最大位相値を有する細胞の出現頻度の割合を活性度として算出してもよい。
このようにすることで、生細胞と死細胞との特徴量が離れた分布を示している場合に、間に極小値が現れるので、これを用いて生細胞と死細胞との割合を求めることができ、活性度を精度よく測定することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記極小値が複数存在する場合に、各極小値となる最大位相値における出現頻度とその両側に隣接する最大位相値における出現頻度との差分の小さい方の値が、前記ヒストグラム内において最大となる最大位相値における出現頻度を、前記活性度の算出のための極小値としてもよい。
【0014】
また、本発明は、複数の細胞を含む細胞群の位相情報を測定する位相情報測定ステップと、該位相情報測定ステップにより測定された位相情報から各前記細胞の有する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、該特徴量抽出ステップにより抽出された特徴量に基づいて前記細胞群全体の活性度を算出する活性度算出ステップとを含む活性度測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、染色等の細胞に影響を与える処理を行うことなく細胞の活性度を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る活性度測定装置を示す模式図である。
【図2】図1の活性度測定装置を用いた本実施形態に係る活性度測定方法を示すフローチャートである。
【図3】図1の活性度測定装置の位相情報測定部により生成された位相分布画像の一例を示す図である。
【図4】図1の活性度測定装置の特徴量抽出部により最大位相値が抽出された位相分布画像の一例を示す図である。
【図5】図1の活性度測定装置のヒストグラム生成部により生成されたヒストグラムであって、所定の閾値を基準として活性度を算出する場合を示す図である。
【図6】図5の変形例であって、発生頻度が最小値となる最大位相差を基準として活性度を算出する場合を示す図である。
【図7】図5の変形例であって、正規分布の合成によって活性度を算出する場合を示す図である。
【図8】(a)図5の方法、(b)図7の方法でそれぞれ活性度を算出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係る活性度測定装置1および活性度測定方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る活性度測定装置は、図1に示されるように、細胞A群を培地Bとともに収容したシャーレ2を搭載するステージ3と、該ステージ3の鉛直下方に配置され、所定の波長の光、例えば、近赤外光を発生する光源4と、該光源4から発せられた近赤外光を鉛直方向に配される光軸Cに沿って細胞群Aに照射する照明光学系5と、細胞群Aを上方に透過した透過光を集光する集光光学系6と、該集光光学系6によって集光された透過光を撮影するCCDのような撮像素子7と、該撮像素子7により取得された画像に基づいて細胞Aの活性度を判定する細胞活性度判定部8とを備えている。
【0018】
ステージ3は、集光光学系6の光軸C方向に移動可能に設けられており、ステージ3を移動させた複数の位置において撮影することにより、1枚のフォーカス画像と2枚のデフォーカス画像とを取得することを可能にしている。なお、ステージ3を固定して集光光学系6を光軸C方向に移動可能に設けてもよい。
【0019】
細胞活性度判定部8は、撮像素子7により取得された1枚のフォーカス画像と2枚のデフォーカス画像とを用いた公知の方法によって、位相情報の2次元的な分布を示す位相分布画像を取得する位相情報測定部9と、取得された位相分布画像に基づいて、該位相分布画像内に含まれる複数の細胞Aの最大位相値を抽出する特徴量抽出部10と、抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム生成部11と、生成されたヒストグラムの中で、予め定められた閾値を超える頻度で出現する最大位相値の割合に基づいて細胞A群の活性度を算出する活性度算出部12とを備えている。
【0020】
このように構成された本実施形態に係る活性度測定装置1を用いた活性度測定方法について以下に説明する。
まず、図2に示されるように、複数の細胞Aを含む細胞A群を収容したシャーレ2をステージ3に載置し、光源4から発生した近赤外光を照明光学系5を介してステージ3上の細胞A群に照射する。細胞A群を透過した透過光を集光光学系6によって集光し、撮像素子7によって撮影する。この場合には、ステージ3を光軸C方向に移動して1枚のフォーカス画像と2枚のデフォーカス画像とを取得する(ステップS1)。
【0021】
次に、取得されたフォーカス画像およびデフォーカス画像に基づいて、位相情報測定部9が、位相情報の2次元的な分布を示す位相分布画像を生成する(ステップS2)。そして、特徴量抽出部10が、位相分布画像に基づいて、各細胞Aの有する最大位相値を抽出する(ステップS3)。特徴量抽出部10による最大位相値の抽出は、画像処理により各細胞Aの輪郭形状を抽出するとともに、抽出された各細胞Aの輪郭形状内において位相値が最大となる箇所を探索することにより行われる。
【0022】
この後に、ヒストグラム生成部11が、抽出された各細胞Aの最大位相値の大きさと出現頻度との関係を示すヒストグラムを生成する(ステップS4)。そして、生成されたヒストグラムに基づいて活性度算出部12が細胞A群全体の活性度を算出する(ステップS5)。
【0023】
具体的には、図3に示されるように、ステップS2において位相分布画像が生成され、図4に示されるように、ステップS3において該位相分布画像を処理して各細胞Aの有する最大位相値が抽出される。図中、符号+は、抽出された各細胞Aの最大位相値の位置を示している。
そして、図5に示されるように、ステップS4において、抽出された最大位相値を横軸とし、その出現頻度を縦軸としたヒストグラムが生成される。
【0024】
生細胞は細胞膜内に細胞内液を保有し、外部の培地Bとは異なる屈折率を保持しているので、細胞を通過する近赤外光と細胞以外の場所を通過する近赤外光とでは、屈折率の相違に基づく位相差が発生し、その位相差の分布が位相分布画像として生成される。
死細胞も外部の培地とは異なる屈折率を有しているものの、細胞膜が破壊されることにより、細胞内液が放出され外部の培地が入り込んで培地に近い屈折率になっている。したがって、生細胞とはその位相差が異なっている。
【0025】
このため、生細胞と死細胞とが同じ厚さ寸法を有していても、屈折率の相違により位相分布が異なり、最大厚さ寸法に対応する最大位相値の値も相違してくる。各細胞Aは、その個体差によって最大厚さ寸法が異なるが、その分布は所定の平均値の周囲に正規分布をなして分散している。したがって、多数の細胞Aについて最大位相値の出現頻度を示すヒストグラムを作成することにより、生細胞と死細胞とが混在した細胞A群の最大位相値の分布を得ることができる。
【0026】
細胞内液の屈折率は培地Bの屈折率よりも高いので、生細胞の屈折率は死細胞の屈折率より高く、最大位相値の大きい側に生細胞が分布している。したがって、所定の閾値より大きな最大位相値の出現頻度の割合が多い程、生細胞が多いと考えることができる。
【0027】
そこで、生成されたヒストグラムにおいて、図5に示すように、所定の閾値を超える最大位相値の出現頻度の全データ数に対する割合を求めることにより、細胞Aの活性度を算出することができる。逆に、所定の閾値以下の最大位相値の出現頻度の全データ数に対する割合を求めることにより、細胞Aの死亡率を算出することができる。ここで、所定の閾値は、細胞Aの種類毎に予めデータを採取することにより求めておくことにすればよい。
【0028】
本実施形態に係る活性度測定装置1および活性度測定方法によれば、細胞A群に近赤外光を照射して生成された位相分布画像を用いて細胞Aの活性度を算出するので、従来、染色することによって測定していた細胞Aの活性度を無線色のまま測定することができる。したがって、活性度の測定に使用した細胞Aを廃棄することなくそのまま用いることができ、貴重な細胞Aを無駄にせずに済むという利点がある。
【0029】
なお、本実施形態においては、予めデータを採取して求めておいた閾値を用いて、当該閾値を超える最大位相値を有する細胞Aの割合によって細胞A群の活性度を評価することとしたが、これに代えて、図6に示されるように、ヒストグラムに現れる極小値の最大位相値を基準として活性度を評価することにしてもよい。生細胞と死細胞との間の屈折率の差が大きい場合には、ヒストグラムにおける生細胞と死細胞との分布の間に極小値が現れるので、それを基準として活性度を評価することができる。
【0030】
ヒストグラムの中に複数の極小値が現れる場合には、注目極小値の前のデータとの差分と後のデータとの差分を計算し、差分が小さい方を記録する。同様の処理をヒストグラム内の全データで実施する。得られた差分データ内で値が最大となる極小値を閾値とする。
【0031】
また、生細胞と死細胞のそれぞれの正規分布を予め用意しておき、それらの正規分布にそれぞれ係数をかけたものを合成した分布が、取得されたヒストグラムに近似するように係数を調節し、得られた係数の割合によって活性度を評価することにしてもよい。
例えば、図7に示す例では、(a)に示されるヒストグラムに対し、(b)に示す生細胞の正規分布XをP倍し、死細胞の正規分布YをQ倍することで、(c)に示されるように取得されたヒストグラムの分布に近似する分布が得られた場合に、細胞A群の活性度はP/(P+Q)によって算出することができ、細胞群の死亡率は、Q/(P+Q)によって算出することができる。
【0032】
ここで、本実施形態に係る活性度測定装置1を用いた細胞A群の活性度測定の実施例について説明する。
まず、シャーレ2内に脂肪由来幹細胞Aを培地Bとともに収容したものを6組用意し、3組の脂肪由来幹細胞Aには紫外線刺激を4時間行い、他の3組の脂肪由来幹細胞Aは常温で放置した。
【0033】
各シャーレ2内の脂肪由来幹細胞Aに対して、本実施形態に係る活性度測定装置1を用いて、脂肪由来幹細胞Aの位相分布画像を、視野を変えながら10枚取得した。次いで、各位相分布画像から各細胞Aの最大位相値を抽出した。
最大位相値を横軸、出現頻度を縦軸としてヒストグラムを生成し、予め定めた閾値に基づく方法による細胞死亡率と、正規分布X,Yの係数P,Qを調整する方法による細胞死亡率とを求めた結果、図8(a),(b)に示す通りの結果が得られた。
【0034】
各組の脂肪由来細胞Aに対しては、比較のために従来と同様のNucleoCounterによる細胞死亡率の測定も合わせて行った。
その結果、本実施形態に係る活性度測定装置1を用いたいずれの方法によっても、従来の測定方法と同様の結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0035】
A 細胞
1 活性度測定装置
9 位相情報測定部
10 特徴量抽出部
12 活性度算出部
S2 位相分布画像生成ステップ(位相情報測定ステップ)
S3 最大位相値抽出ステップ(特徴量抽出ステップ)
S5 活性度算出ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞を含む細胞群の位相情報を測定する位相情報測定部と、
該位相情報測定部により測定された位相情報から各前記細胞の有する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
該特徴量抽出部により抽出された特徴量に基づいて前記細胞群全体の活性度を算出する活性度算出部とを備える活性度測定装置。
【請求項2】
前記特徴量抽出部が、特徴量として前記細胞の最大位相値を抽出する請求項1に記載の活性度測定装置。
【請求項3】
前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、全体頻度に対する所定の閾値以上の最大位相値を有する細胞の出現頻度の割合を活性度として算出する請求項2に記載の活性度測定装置。
【請求項4】
前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、細胞活性度毎に予め計算された少なくとも2つ以上の前記最大位相値の正規分布に基づいて、該正規分布にそれぞれ係数をかけて重畳させたものとヒストグラムとの差分が最小となる各正規分布の前記係数の割合を活性度として算出する請求項2に記載の活性度測定装置。
【請求項5】
前記活性度算出部が、前記特徴量抽出部により抽出された最大位相値の出現頻度の分布を示すヒストグラムを生成し、該ヒストグラムに現れる極小値以上の最大位相値を有する細胞の出現頻度の割合を活性度として算出する請求項2に記載の活性度測定装置。
【請求項6】
前記極小値が複数存在する場合に、各極小値となる最大位相値における出現頻度とその両側に隣接する最大位相値における出現頻度との差分の小さい方の値が、前記ヒストグラム内において最大となる最大位相値における出現頻度を、前記活性度の算出のための極小値とする請求項5に記載の活性度測定装置。
【請求項7】
複数の細胞を含む細胞群の位相情報を測定する位相情報測定ステップと、
該位相情報測定ステップにより測定された位相情報から各前記細胞の有する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
該特徴量抽出ステップにより抽出された特徴量に基づいて前記細胞群全体の活性度を算出する活性度算出ステップとを含む活性度測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−276585(P2010−276585A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132391(P2009−132391)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】