説明

活性炭の製造方法および該製造方法により得られた活性炭を用いた電気二重層キャパシタ

【課題】アルカリ賦活剤を用いた賦活処理において、アルカリ賦活剤の使用量を増加させることなく、また、得られる活性炭の比表面積を過剰に高めることなく、細孔径を大径化できる活性炭の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を炉に収容し、炉内を加熱してアルカリ賦活する賦活工程;賦活工程後、炉内に水を供給する水和工程;水を供給した後、炉内を加熱する加熱工程;を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の製造方法に関するものであり、特に得られる活性炭の細孔構造を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性炭は、高い比表面積を有することから、電気二重層キャパシタ用電極材料、あるいは、排水処理、浄水器、排ガス処理のための吸着剤などに利用されている。このような活性炭の製造方法には、水蒸気、炭酸ガスなどの賦活ガスの存在下で炭素原料を加熱するガス賦活;アルカリ金属化合物などの賦活剤と炭素原料を混合して加熱する薬品賦活が知られている。
【0003】
また、活性炭は、その用途に応じて求められる物性が異なるため、所望とする物性を得るために様々な製造方法が提案されている。例えば、平均粒径が20〜500μmであるフェノール樹脂を炭化後賦活し、該賦活物を粉砕する活性炭の製造方法(特許文献1、請求項4、段落[0024]);炭素原料を水蒸気賦活して、細孔直径2.0nm(20Å)以上の比表面積と全比表面積との比が0.30以上であるものを作製し、これをさらにアルカリ賦活する活性炭の製造方法(特許文献2、請求項2、段落[0013]);炭素原料をアルカリ金属水酸化物の存在下に焼成し、アルカリ金属化合物を除去した後さらに水蒸気賦活する活性炭の製造法(特許文献3、請求項7、段落[0009]);アルカリ金属化合物を賦活剤とする炭素材のアルカリ賦活時に発生するアルカリ金属を他の炭素材で捕捉した後に、他の炭素材中のアルカリ金属を水和してアルカリ賦活剤に戻し、これをアルカリ賦活する炭素材の賦活法(特許文献4、請求項1、段落[0007]);などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−203829号公報
【特許文献2】特開平8−119614号公報
【特許文献3】特開2000−40645号公報
【特許文献4】特開2001−19415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に電気二重層キャパシタ用電極材料の用途において、キャパシタの内部抵抗を低減することができる活性炭が要望されている。このような、電気二重層キャパシタの内部抵抗の低減は、活性炭に形成された細孔径を大径化することで達成できる。上記のように活性炭の製造方法が種々提案されており、形成される細孔径を大きくする製造方法も提案されている。しかし、活性炭の細孔径は、その賦活度合いが増すにつれて増大するため、細孔径を増大させると比表面積も増大してしまい、同等の比表面積を維持しつつ細孔径を大径化することは困難であった。また、アルカリ賦活剤を用いた賦活処理の場合には、細孔径を大径化するため、すなわち、賦活度合いを上げるためには、大量のアルカリ賦活剤を必要とし、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アルカリ賦活剤を用いた賦活処理において、アルカリ賦活剤の使用量を増加させることなく、また、得られる活性炭の比表面積を過剰に高めることなく、細孔径を大径化できる活性炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を炉に収容し、炉内を加熱する賦活工程;賦活工程後、炉内に水を供給する水和工程;水を供給した後、炉内を加熱する加熱工程;を含むことを特徴とする。
【0008】
前記水和工程において、賦活工程で使用したアルカリ賦活剤100質量部に対して100質量部〜1000質量部の水を供給することが好ましい。また、前記水和工程において、水を供給する際の炉内温度は賦活処理温度以下が好ましい。前記水和工程において、前記水を水蒸気の状態で供給することが好ましい。前記アルカリ賦活剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムよりなる群から選択される少なくとも1種が好適である。
【0009】
本発明は、前記製造方法により得られた活性炭を含有する電気二重層キャパシタ用電極および該電気二重層キャパシタ用電極を用いた電気二重層キャパシタも包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ賦活剤を用いた賦活処理において、アルカリ賦活剤の使用量を増加させることなく、また、得られる活性炭の比表面積を過剰に高めることなく、細孔径を大径化した活性炭が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】製造例1〜4で得られた活性炭の細孔径分布を示す図である。
【図2】製造例5〜7で得られた活性炭の細孔径分布を示す図である。
【図3】実施例または比較例の活性炭を使用して製造した電気二重層キャパシタを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の活性炭の製造方法は、炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を炉に収容し、炉内を加熱する賦活工程;賦活工程後、炉内に水を供給する水和工程;水を供給した後、炉内を加熱する加熱工程;を含むことを特徴とする。
【0013】
アルカリ賦活処理後に水を供給し加熱することにより、活性炭の比表面積の増大を抑制しつつ、細孔径を大径化できる理由は必ずしも明らかでないが、以下のように考えることができる。すなわち、例えば、アルカリ賦活剤として水酸化カリウムを用いた場合、賦活反応が進むにつれて水酸化カリウムが炭素原料と反応し炭酸カリウムなどの不活性なカリウム化合物が生成する。この不活性なカリウム化合物は、もはや炭素原料を侵食する作用を有しないため、それ以上賦活反応が進まない。しかし、水蒸気を供給することにより、不活性なカリウム化合物が水蒸気と反応し水酸化カリウムに戻り、さらに加熱することで局所的に賦活が進行し、比表面積を維持したまま細孔径が大径化されると考えられる。
【0014】
以下、本発明の活性炭の製造方法について詳しく説明する。
前記賦活工程では、炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を炉に収容し、炉内を加熱して賦活処理する。ここで、「賦活処理」とは、炭素原料の表面に細孔を形成して、比表面積および細孔容積を大きくすることである。
【0015】
前記炭素原料としては、木材、おが屑、ヤシガラ、セルロース系繊維(紙も含む)、合成樹脂(例えば、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル(PAN))、石油ピッチ、コールタールピッチ、メソフェーズピッチおよびこれらの複合物などの炭素質物質;前記炭素質物質の炭化物;石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、石炭ピッチコークス、木炭などの炭化物;が挙げられる。これらの炭素原料は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭素原料としては、石炭ピッチコークス、石炭、石油コークス、石炭コークス、石油ピッチコークス、合成樹脂、合成樹脂とセルロース系繊維との複合物およびこれらの炭化物よりなる群から選択される少なくとも1種が好適である。
【0016】
炭素原料として、前記炭素質物質の炭化物を使用する場合、炭素質物質の炭化処理は、通常、不活性ガス雰囲気下で加熱処理することによりなされる。該炭化処理の温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下である。また、炭化処理時間は、0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1.0時間以上であり、4.0時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下である。
【0017】
前記炭素原料の平均粒子径は10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。なお、炭素原料の平均粒子径の下限は特に限定されるものではないが、平均粒子径が小さすぎると粉体のハンドリングが悪くなる(例えば、作業時に粉体が舞い上がってしまう)傾向がある。そのため、炭素原料の平均粒子径は1μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。なお、平均粒子径とは、水に分散させた試料を、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所製の「SALD(登録商標)−2000」)により測定して、求められる体積基準メディアン径である。
【0018】
前記アルカリ賦活剤としては、アルカリ金属化合物が好ましい。前記アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;などが挙げられる。これらのアルカリ賦活剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水酸化物が好ましく、水酸化カリウムがより好適である。
【0019】
前記炭素原料とアルカリ賦活剤との質量比(アルカリ賦活剤/炭素原料)は、1.0以上が好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上であり、4.5以下が好ましく、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。
【0020】
また、アルカリ賦活剤を添加する際、炭素原料との混合を十分とするために、アルカリ賦活剤を水溶液として使用しても良い。このときの水の使用量は、アルカリ賦活剤の0.05質量倍〜10質量倍が好ましい。なお、アルカリ賦活剤を水溶液として使用する場合には、賦活処理のための加熱を行う前に、アルカリ賦活剤水溶液に由来する水分の突沸防止のため、賦活処理における加熱温度よりも低温での加熱処理を行って、水分を除去しておくことが好ましい。
【0021】
前記炭素原料とアルカリ賦活剤との混合方法は、特に限定されず、機械的に混合すればよい。前記炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を加熱するために用いられる炉としては、特に限定されるものではないが、例えば、トンネル炉、ロータリーキルン、バッチ炉などが挙げられる。
【0022】
炉内を加熱する際には、不活性ガスを流入させる。不活性ガスの流入量は、炉の容積や炭素原料の仕込み量に応じて適宜調整すればよい。なお、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどを用いることができる。
【0023】
賦活処理を行う際の加熱温度(炉内温度)(以下、「賦活処理温度」と称する場合がある)は600℃以上が好ましく、より好ましくは650℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下である。なお、アルカリ賦活剤には、微量ながら水分が含まれているため、賦活処理温度に到達する前に、アルカリ賦活剤中に含まれる水分を除去しておくことが好ましい。アルカリ賦活剤中の水分を除去するための熱処理条件は、例えば、400℃で30分間程度である。また、賦活処理を行う際の加熱時間は0.1時間以上が好ましく、より好ましくは1.5時間以上であり、3.5時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下である。なお、加熱時の雰囲気は、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0024】
前記水和工程では、炉内に水を供給する。賦活工程後の炉内に水を供給することにより、賦活工程で生成した不活性なアルカリ化合物を水蒸気と反応させて、水酸化物にすることができる。これにより、後述する加熱工程において、賦活炭がさらに侵食され得られる活性炭の平均細孔径をより大径化できる。なお、炉内に水を供給する態様としては、賦活工程を経た賦活炭を炉から取り出すことなく水を供給する方法が最も簡便である。
【0025】
炉内に供給される水は、不活性なアルカリ化合物と反応させることができればよく、液体状で供給してもよいし、気体状(水蒸気)で供給してもよい。賦活炭の細孔内部に存在する不活性なアルカリ化合物と反応させるためには、水蒸気を供給することが好ましい。なお、液体状で供給したとしても、後述する加熱工程において、気体状(水蒸気)となり、賦活炭の細孔内部に存在する不活性なアルカリ化合物と反応させることができると考えられる。また、水蒸気を供給する態様としては、水蒸気を希釈せずに供給する態様;水蒸気を不活性ガスで希釈して供給する態様のいずれも可能である。
【0026】
水を供給する際の炉内温度は、特に限定されず、賦活処理を行った炉内温度のままで水を供給してもよいし、冷却してから水を供給してもよい。なお、炉内温度が低いほど水による不活性なアルカリ化合物の水和効果が高くなり、最終的に得られる活性炭の平均細孔径が大きくなる傾向がある。従って、所望とする平均細孔径に応じて、水蒸気を供給する際の温度を適宜調節すればよい。
【0027】
得られる活性炭の比表面積の増大をより抑制したい場合、水を供給する際の炉内温度は賦活処理温度以下が好ましく、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。水を供給する際の炉内温度を賦活処理温度以下とすることにより、水蒸気賦活が進行せず活性炭の比表面積の増大をより抑制することができる。なお、水を供給する際の炉内温度は室温(15℃)以上が好ましい。炉内温度を室温(15℃)未満にまで下げても、水による不活性なアルカリ化合物の水和効果は飽和となるため経済的でない。
【0028】
水和工程において、炉内に供給する水の量は、賦活工程で使用したアルカリ賦活剤100質量部に対して、100質量部以上が好ましく、より好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上であり、1000質量部以下が好ましく、より好ましくは750質量部以下、さらに好ましくは500質量部以下である。水の供給量が、アルカリ賦活剤100質量部に対して100質量部以上であれば、賦活の進行に伴い生成した不活性なアルカリ化合物の大部分を水酸化物とすることができ、細孔径の大径化効果がより向上する、また1000質量部以下であれば、供給される水の大部分が不活性なアルカリ化合物との反応に寄与するため、より経済的である。
【0029】
前記加熱工程では、水を供給した後、炉内を加熱する。ここで、加熱には、水を供給する際に下げた炉内温度を昇温するために加熱する態様;賦活工程から連続して加熱する態様のいずれも含む。
【0030】
加熱温度(炉内温度)は600℃以上が好ましく、より好ましくは650℃以上であり、950℃以下が好ましく、より好ましくは900℃以下である。また、加熱時間は0.1時間以上が好ましく、より好ましくは1.5時間以上であり、3.5時間以下が好ましく、より好ましくは3.0時間以下である。なお、加熱時の雰囲気は、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0031】
本発明の製造方法には、さらに、洗浄工程、熱処理工程、粉砕工程を含ませてもよい。
【0032】
洗浄工程は、賦活工程後の活性炭を洗浄し、乾燥させる工程である。賦活工程後の賦活炭の表面には、アルカリ賦活剤として使用した水酸化アルカリ金属などが付着しているので、このような付着物を除去するために賦活炭の洗浄を行う。
【0033】
賦活炭の洗浄としては、水洗、酸洗浄などを挙げることができる。
水洗方法は、特に限定されないが、例えば、賦活炭を水に投入し、必要に応じて撹拌、分散させた後、濾取することにより行うことが好ましい。前記撹拌、分散は、機械的撹拌、気体吹込み、超音波照射によって行うことができるが、加熱煮沸させることによっても行うことができる。水洗時の水温は、30℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。撹拌、分散時間は0.5時間以上が好ましく、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは1.5時間以上である。
【0034】
酸洗浄では、無機酸、有機酸などを含有する洗浄液を用いて賦活炭を洗浄する。なお、洗浄液の溶媒は特に限定されないが、通常は水である。酸洗浄を行うことによって、アルカリ賦活剤として使用した水酸化アルカリ金属などを効率よく除去できる。
【0035】
前記無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸などが挙げられる。これらの無機酸は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。無機酸を使用する場合、洗浄液中の無機酸濃度は、0.5mol/L以上が好ましく、より好ましくは1.0mol/L以上、さらに好ましくは1.5mol/L以上であり、3.5mol/L以下が好ましく、より好ましくは3.0mol/L以下、さらに好ましくは2.5mol/L以下である。無機酸を用いて酸洗浄する場合、例えば、賦活炭と、無機酸を含有する洗浄液とを混合して、50℃〜100℃の温度で、30分間〜120分間撹拌すればよい。
【0036】
前記有機酸としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸などを挙げることができる。これらの有機酸は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記有機酸を含有する洗浄液中の有機酸の濃度は、1vol%以上が好ましく、より好ましくは2vol%以上、さらに好ましくは5vol%以上であり、100vol%以下が好ましく、より好ましくは80vol%以下、さらに好ましくは60vol%以下である。有機酸の濃度を1vol%以上とすることによって、有機酸による金属成分除去効果を得られるが、濃度が高くなりすぎると、製造コストが高くなる。有機酸を用いて酸洗浄する場合、例えば、賦活炭と、有機酸を含有する洗浄液とを混合して、得られた混合物を20℃〜80℃の温度で、1分間〜120分間撹拌すればよい。
【0037】
本発明の製造方法においては、洗浄工程として、酸洗浄と水洗とを行うことが好ましく、より好ましくは酸洗浄を行った後、水洗を複数回行う態様である。洗浄後の賦活炭は、50℃〜120℃で、0.5時間〜2.0時間乾燥させることが好ましい。
【0038】
熱処理工程は、賦活工程後あるいは洗浄工程後の賦活炭を、さらに不活性ガス雰囲気下で熱処理する工程である。賦活炭に熱処理を行うことにより、得られる活性炭の表面の官能基量を調整することができる。
【0039】
前記熱処理としては、賦活工程直後の賦活炭を不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様;賦活工程後の賦活炭を、酸洗浄および/または水洗した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理する態様などを挙げることができる。前記不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウムなどを使用することができる。また、前記熱処理温度は、特に限定されないが、好ましくは400℃以上1000℃以下である。
【0040】
粉砕工程は、活性炭の粒径を調整するための粉砕を行う工程である。活性炭の粉砕方法は、特に限定されるものでなく、ディスクミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いて行えばよい。なお、活性炭の平均粒子径は1μm以上とすることが好ましく、より好ましくは2μm以上であり、15μm以下とすることが好ましく、より好ましくは10μm以下である。平均粒子径が余りに小さいと、電極における集電板と電極材料層との結着性が悪くなり、実用的な結着性を保持するためには電極材料層に要するバインダー量が増加するおそれがある。
【0041】
本発明の製造方法で得られる活性炭の比表面積は1500m2/g以上が好ましく、より好ましくは1700m2/g以上、さらに好ましくは1800m2/g以上であり、3500m2/g以下が好ましく、より好ましくは3200m2/g以下、さらに好ましくは3000m2/g以下である。ここで、本発明において比表面積とは、活性炭の窒素吸着等温線を測定するBET法により求められる値である。
【0042】
本発明の製造方法で得られる活性炭の細孔容積は0.5cm3/g以上が好ましく、より好ましくは0.7cm3/g以上であり、2.0cm3/g以下が好ましく、より好ましくは1.6cm3/g以下である。ここで、本発明において全細孔容積とは、相対圧P/P0(P:吸着平衡にある吸着質の気体の圧力、P0:吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧)が0.93までの窒素吸着量を測定するBET法により求められる値である。
【0043】
本発明の製造方法で得られる活性炭の平均細孔径は1.9nm以上が好ましく、より好ましくは2.0nm以上、さらに好ましくは2.1nm以上であり、3.0nm以下が好ましく、より好ましくは2.6nm以下である。ここで、本発明において平均細孔径とは、BJH法により求められる値である。
【0044】
本発明の製造方法により得られる活性炭は、電気二重層キャパシタ用電極材料として用いることができ、当該電極材料を使用して、電気二重層キャパシタ用電極や電気二重層キャパシタを製造することが可能である。本発明の製造方法によれば、活性炭の比表面積の増大を抑制しつつ、細孔径を大径化することができる。すなわち、活性炭の密度の低下を抑制しつつ、電解液中のイオンを吸脱着し易くできる。そのため、本発明の製造方法により得られた活性炭を電気二重層キャパシタに用いれば、電極体積当たりの静電容量を維持しつつ、内部抵抗を低減できる。
【0045】
次に、本発明の電気二重層キャパシタについて説明する。本発明の電気二重層キャパシタは、前記の製造方法により得られた活性炭を電極構成材料に用いたことを特徴とする。
【0046】
電気二重層キャパシタ用電極としては、例えば、活性炭、導電性付与剤およびバインダーを混練し、さらに溶媒を添加してペーストを調製し、このペーストをアルミ箔などの集電板に塗布した後、溶媒を乾燥除去したものが挙げられる。
【0047】
前記電気二重層キャパシタ用電極に使用されるバインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエンゴム、石油ピッチ、フェノール樹脂などを使用できる。また、導電性付与剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを使用できる。
【0048】
電気二重層キャパシタは、一般的には、電極、電解液、およびセパレータを主要構成とし、一対の電極間にセパレータを配置した構造となっている。前記電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの有機溶剤に、アミジン塩を溶解した電解液;過塩素酸の4級アンモニウム塩を溶解した電解液;4級アンモニウムやリチウムなどのアルカリ金属の四フッ化ホウ素塩や六フッ化リン塩を溶解した電解液;4級ホスホニウム塩を溶解した電解液などが挙げられる。また、前記セパレータとしては、例えば、セルロース、ガラス繊維、または、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
1.比表面積、全細孔容積、平均細孔径
活性炭0.2gを150℃にて真空加熱した後、窒素吸着装置(マイクロメリティックス社製、「ASAP−2400」)を用いて、吸着等温線を求め、BET法により比表面積、全細孔容積を算出した。また、活性炭に形成された細孔の形状をシリンダー状と仮定し、細孔径1.0nm〜30nmの範囲における細孔容積と比表面積に基づき、下記式(1)により平均細孔径を算出した。
【0051】
【数1】

【0052】
2.静電容量、内部抵抗
充放電装置(楠本化成社製、「ETAC(登録商標) Ver.4.4」)の充放電端子を電気二重層キャパシタの集電板に接続し、集電板間電圧が2.5Vになるまで40mAの定電流充電を行い、続けて、2.5Vの定電圧で30分間充電を行った。充電後、定電流(放電電流10mA)で電気二重層キャパシタの放電を行った。このとき、集電板間電圧がV1、V2となるまでに要した放電時間t1、t2を測定し、下記式(2)を用いて静電容量を求めた。得られた静電容量を、キャパシタ用電極における電極材料層の総体積で除することにより体積基準静電容量(F/cm3)を求めた。また、下記式(3)を用いて内部抵抗を求めた。なお、静電容量の測定は、25℃および−30℃の温度下で行った。
【0053】
【数2】

【0054】
【数3】


I:10(mA)
t1:電気二重層キャパシタ電圧がV1となるまでに要した放電時間(sec)
t2:電気二重層キャパシタ電圧がV2となるまでに要した放電時間(sec)
V0:2.5(V)
V1:2.0(V)
V2:1.0(V)
【0055】
活性炭の製造
製造例1
炭素原料としてのフェノール樹脂炭化物(フェノール樹脂(住友ベークライト社製)を処理温度700℃で炭化したもの(平均粒子径:5mm〜15mm))25.0gに対して、水酸化カリウム(純度85質量%)73.5g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を添加し、十分に混合した。次いで、混合物を円筒炉(大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで400℃まで加熱し、400℃で30分間保持した後、続いて昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱し賦活処理を行った。
【0056】
次に、炉内温度を室温(25℃)まで冷却した後、水蒸気を200g供給した。水蒸気は、窒素により希釈して混合気体(水蒸気分圧81.6kPa、全圧:101.3kPa)とし、流量1L/分で供給した。
水蒸気を供給した後、再度、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱した。
【0057】
得られた賦活物とカリウム成分の混合物に、水1.6Lと塩酸(濃度:35質量%)0.4Lを加え、100℃で2時間加熱後、賦活物を濾取することにより塩酸洗浄を行った。その後、塩酸洗浄を終えた賦活物に水2Lを加え、100℃に加熱して2時間煮沸した後、賦活物を濾取することにより温水洗浄を行った。同様の操作を繰り返して温水洗浄をさらに1回行った。塩酸洗浄1回と温水洗浄2回を経た賦活物を、110℃で2時間乾燥し、活性炭No.Aを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図1に示した。
【0058】
製造例2
製造例1と同様に賦活処理を行った。次に、炉内温度を400℃まで冷却した後、水蒸気を200g供給した。水蒸気は、窒素により希釈して混合気体(水蒸気分圧81.6kPa、全圧:101.3kPa)とし、流量1L/分で供給した。水蒸気を供給した後、再度、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱した。得られた賦活物の洗浄および乾燥を製造例1と同様に行い、活性炭No.Bを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図1に示した。
【0059】
製造例3
製造例1と同様に賦活処理を行った。次に、炉内温度を700℃まで冷却した後、水蒸気を200g供給した。水蒸気は、窒素により希釈して混合気体(水蒸気分圧81.6kPa、全圧:101.3kPa)とし、流量1L/分で供給した。水蒸気を供給した後、再度、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱した。得られた賦活物の洗浄および乾燥を製造例1と同様に行い、活性炭No.Cを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図1に示した。
【0060】
製造例4
製造例1と同様に賦活処理を行った。次に、炉内温度を下げることなく、水蒸気を200g供給した。水蒸気は、窒素により希釈して混合気体(水蒸気分圧81.6kPa、全圧:101.3kPa)とし、流量1L/分で供給した。水蒸気を供給した後、再度、窒素流通下(1L/分)、850℃で2時間加熱した。得られた賦活物の洗浄および乾燥を製造例1と同様に行い、活性炭No.Dを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図1に示した。
【0061】
製造例5
炭素原料としてのフェノール樹脂炭化物(フェノール樹脂(住友ベークライト社製)を処理温度700℃で炭化したもの(平均粒子径:5mm〜15mm))25.0gに対して、水酸化カリウム(純度85質量%)73.5g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を添加し、十分に混合した。次いで、混合物を円筒炉(大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで400℃まで加熱し、400℃で30分間保持した後、続いて昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱し、賦活処理を行った。得られた賦活物の洗浄および乾燥を製造例1と同様に行い、活性炭No.Eを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図2に示した。
【0062】
製造例6
水酸化カリウム(純度85質量%)の使用量を147.6g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=5.0)に変更したこと以外は、製造例5と同様にして活性炭No.Fを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図2に示した。
【0063】
製造例7
炭素原料としてのフェノール樹脂炭化物(フェノール樹脂(住友ベークライト社製)を処理温度700℃で炭化したもの(平均粒子径:5mm〜15mm))25.0gに対して、水酸化カリウム(純度85質量%)73.5g(水酸化カリウム/炭素原料(質量比)=2.5)を添加し、十分に混合した。次いで、混合物を円筒炉(大阪精工社製)に収容し、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで400℃まで加熱し、400℃で30分間保持した後、続いて昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱し賦活処理を行った。
【0064】
次に、炉内温度を室温(25℃)まで冷却した後、再度、窒素流通下(1L/分)、昇温速度10℃/minで850℃まで加熱し、850℃で2時間加熱した。得られた賦活物の洗浄および乾燥を製造例1と同様に行い、活性炭No.Gを得た。得られた活性炭について評価し、結果を表1および図2に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
製造例1〜4は、賦活工程後、炉内に水を供給し、加熱処理を行った場合である。これらの製造例では、アルカリ賦活のみを行った製造例5に対して、比表面積を過剰に高めることなく、平均細孔径の大径化が達成されている。これらの製造例1〜4を比較すると、水蒸気投入時の炉内温度が低いほど比表面積の増大を抑制しつつ平均細孔径を大径化できることがわかる。特に、炉内温度を25℃に下げてから水を供給した製造例1では、比表面積はほとんど変化せず、平均細孔径が大幅に大径化されている。製造例6はアルカリ賦活剤の使用量を2倍量に増加させた場合であるが、比表面積が過剰に高められている。製造例7は、賦活工程後、炉内温度を室温まで下げてから、再度加熱した場合であるが、平均細孔径は大径化されていない。
【0067】
電気二重層キャパシタの製造
上記活性炭No.A〜Gを用いて電気二重層キャパシタを製造した。具体的には、活性炭に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末とアセチレンブラックとを、活性炭:PTFE:アセチレンブラック=8:1:1(質量比)になるように混合し、ペースト状になるまで混練した。ついで、ミニブレンダーで粉砕し、500μmのステンレス鋼製篩で篩って粒度を揃えた。次に、直径2.54cm(1インチ)の金型を用い、プレス後の厚みが0.5mmになるように仕込み量を調節し、50.4MPaの圧力でプレス成形して、キャパシタ用電極を作成した。
【0068】
得られたキャパシタ用電極を真空条件下、200℃、1時間の条件で乾燥した後、窒素ガスを流通させたグローブボックス内で電解液(1Mテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液)を電極に真空含浸させた。この電極を使用して図3に示すように電気二重層キャパシタを組み立てた。図3に示す電気二重層キャパシタは、前記電解液を含浸させたセパレータ(Celgard社製、「セルガード(登録商標)#3501」)1を前記キャパシタ用電極2で挟み、電極をOリング3で囲繞した後、さらに集電板としてのアルミニウム板4で挟んで作成した。
【0069】
製造例1〜7で得られた活性炭の評価結果および、これらの活性炭を用いて製造した電気二重層キャパシタについての評価結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【0071】
活性炭No.A〜Dを用いた場合、活性炭No.Eを用いた場合に比べて、得られる電気二重層キャパシタの内部抵抗が25℃においても−30℃においても大幅に低下している。また、これらの活性炭No.A〜Dを用いた場合、静電容量も十分に高い値が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の活性炭の製造方法は、活性炭の製造方法に関するものであり、得られる活性炭の比表面積を過剰に高めることなく、細孔径を大径化できる。
【符号の説明】
【0073】
1:セパレータ、2:キャパシタ用電極、3:Oリング、4:アルミニウム板、5:ポリテトラフルオロエチレン板、6:ステンレス鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原料とアルカリ賦活剤との混合物を炉に収容し、炉内を加熱する賦活工程;
賦活工程後、炉内に水を供給する水和工程;
水を供給した後、炉内を加熱する加熱工程;を含むことを特徴とする活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記水和工程において、賦活工程で使用したアルカリ賦活剤100質量部に対して100質量部〜1000質量部の水を供給する請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
前記水和工程において、水を供給する際の炉内温度が賦活処理温度以下である請求項1または2に記載の活性炭の製造方法。
【請求項4】
前記水和工程において、前記水を水蒸気の状態で供給する請求項1〜3のいずれか一項に記載の活性炭の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ賦活剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の活性炭の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得られた活性炭を含有することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電気二重層キャパシタ用電極を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−46584(P2011−46584A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198856(P2009−198856)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【出願人】(505447766)カーボンテック株式会社 (9)
【Fターム(参考)】