説明

活性炭シート及びその製造方法

【課題】活性炭の機能を維持した活性炭シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材と、基材に固定された無機酸化物微粒子とを有することを特徴とする活性炭シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性炭シートに関し、活性炭を含む基材の表面に無機酸化物微粒子を固定することにより、活性炭の機能低下を起こすことなく、活性炭固有の表面活性に起因する問題を解決することを可能とした活性炭シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、従来から吸着材などとして様々な用途展開が進められてきている。近年では、クリーンで快適な環境を作るためにVOC(Volatile Organic Com−pound)などの各種有機化合物ガスの処理対策用途や、半導体関連作業場などでの粉塵起因不良対策や、乾燥肌対策としての湿度制御の用途への展開が図られている。
【0003】
また、瞬時停電対策用のバックアップ電源や、ハイブリッド車のエンジンアシストや、エレベーターのエネルギー回生などに使われて始めている電気二重層キャパシターの電極材などにも、活性炭が使われている。
【0004】
しかしながら、活性炭固有の表面活性に起因する不具合の抜本的な解決が為されずに今日までに至っている。活性炭の表面活性に起因して大気中に放置しておくと活性炭が着火したりする場合が多々ある。また、電気二重層キャパシターの分極性電極として活性炭が使用され、静電容量の向上の提案が種々なされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。活性炭を電気二重層キャパシターの電極材に使用した場合には、活性炭は化学反応を伴わないので構造的に劣化しにくいにも関わらず、活性炭の表面活性に起因して電解液の劣化を誘起し経年劣化を引き起こすことがある。
【特許文献1】特開2004−149399号公報
【特許文献2】特開2001−217162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した活性炭固有の表面活性に起因する課題を、活性炭の機能を低下させることなく解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の問題に鑑み鋭意検討した結果、少量の無機酸化物微粒子を活性炭を含有したシートに固定化することで、活性炭固有の表面活性に由来する着火あるいは電解液の劣化などの問題を解決できることを見出した。この少量とは、所定量以下の低い固定量を指し、この低い固定量の範囲内では高い固定量のものより固定による難燃化などの表面処理効果が高く、且つ、活性炭の有している吸着などの性能が低下しないことを見出した。
【0007】
また、用途の例として大気中の水分や不快な臭気成分やガス状有害成分等を高速度で吸着および脱着処理する除湿や空気浄化を行なう装置のハニカム状ロータ部材への用途、あるいは、電気二重層キャパシターの電極材への適用による長寿命化の用途などに好適な活性炭の活性炭シートおよびその製造方法を見出した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明は、繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材に無機酸化物微粒子を固定してなる、活性炭シートを提供するものである。
【0009】
また本発明の第2の発明は、50質量%以上、85質量%以下の繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材に無機酸化物微粒子を固定してなる活性炭シートを提供するものである。
【0010】
さらに、本発明の第3の発明は上記第1の発明において、繊維状もしくは粉末状の活性炭の前記基材中の含有率は、75質量%以上85質量%以下である活性炭シートを提供するものである。
【0011】
さらに、本発明の第4の発明は上記第1から3のいずれかの発明において、無機酸化物微粒子の平均粒子径が、50nm以上300nm以下であり、無機酸化物微粒子は、基材の重量を基準として0.1質量%以上10質量%以下の固定量である活性炭シートを提供するものである。
【0012】
さらにまた、本発明の第5の発明は上記第1から第4の発明のいずれかにおいて、無機酸化物微粒子の表面が、不飽和結合を有するシラン化合物と化学結合してなる活性炭シートを提供するものである。
【0013】
さらにまた、本発明の第6の発明は、繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材を成形する工程と、基材の表面に、平均粒子径50nm以上、300nm以下の無機酸化物微粒子が分散したスラリーを塗布する工程と、スラリーを塗布した基材シートから加熱乾燥によりスラリーに含まれる溶剤を除去して、無機酸化物微粒子を固定する工程とを有する活性炭シートの製造方法を提供するものである。
【0014】
さらにまた、本発明の第7の発明は上記第6の発明において、無機酸化物微粒子を固定する工程は、活性エネルギー線を照射する工程を含む活性炭シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の無機酸化物微粒子を固定した活性炭シート及びその製造方法によれば、繊維状もしくは粉末状の活性炭を含有してなる基材に、無機酸化物微粒子を固定することで、活性炭の有していた吸湿性能・脱着性能や、活性炭の比表面積に由来するコンデンサー容量などの機能を損なうことなく、難燃化や充放電サイクル寿命低下などの機能を発現させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について詳述する。
【0017】
本発明の各実施形態の活性炭シートの基材は、繊維状もしくは粉末状の活性炭の少なくとも一方を含有するシートであり、用途に応じた配合条件のもとで抄紙、塗工、ロール圧延などの製法により成形される。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の活性炭シート100の断面の一部を拡大した図である。なお、本図は、本実施形態の活性炭シート100の一例を模式的に説明するものであって、厳密な物質の構成を示すものではない。本実施形態の活性炭シート100は、繊維状または粉末状の活性炭1を含む基材4の少なくとも一方の表面に、無機酸化物微粒子2を固定することにより構成されている。図1は、基材4の表・裏の両面および基材4の厚さ方向の空隙部分にも無機酸化物微粒子2が固定されている例で表した。
【0019】
基材4は、繊維状または粉末状の活性炭1と、活性炭1を結着したり、シートとしての強度を付与したり、活性炭の機能を発揮させるための添加剤等から構成されている。本実施形態では活性炭1以外の基材4を構成する成分であるパルプ、繊維、及び、樹脂等をバインダー3と称する。
【0020】
図2は、本発明の実施形態の活性炭シート100の他の形態の断面の一部を模式的に説明するものである。図2においては、基材4の断面厚さ方向は、活性炭1及びバインダー3が緻密に充填されており、無機酸化物微粒子2は、基材4の表・裏の両面に固定されている。
【0021】
上記のように、用途に応じた配合条件のもとで抄紙、塗工、ロール圧延などの製法により形成した基材4に、パンチング等の機械的手段や、レーザー等の光学的手段や、エッチング等の化学的手段により、基材4の表面に多数の開口を設けた多孔シートを基材4とすることもできる。また、粉末状の活性炭1を配合した合成繊維からなる織物や編み物からなるシートを基材4として用いることもできる。
【0022】
繊維状もしくは粉末状の活性炭1は、吸着性あるいは電気二重層電気容量などの機能を有することが好ましい。
【0023】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態の活性炭シートについて以下に詳述する。本実施形態の活性炭シート100は、主に、調湿用のハニカムロータ除湿部材として用いられるものである。
【0024】
本実施形態の活性炭シート100の基材4は、例えば、デシカント除湿の用途の場合には抄紙製法により各種パルプや、合成短繊維(木材パルプ、ポリエチレンパルプ、レーヨンパルプ、ビニロンパルプ、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維など)や、ガラス繊維や、少量のアクリルなどの樹脂バインダーなどからなるバインダー3を、活性炭1とともに配合し、これらがほぼ均一に分布するように混合したスラリーを、抄紙することにより製造される。
【0025】
本実施形態の活性炭シート100における活性炭1は、吸湿性を有することが必要である。抄紙してデシカント用とするには、抄紙原料中に全体の重量を基準として構成成分として50質量%以上の含有率で活性炭1を配合して混合抄紙し基材とすることが好ましく、更に好ましくは基材4中に50質量%以上85質量%以下の含有率で活性炭1を含有すればよい。
【0026】
活性炭1の含有率が50質量%未満である場合は、混抄紙としての強度は十分であるが吸着性能が劣ることとなる。また、活性炭1の含有率が85質量%より多い場合には、活性炭の脱落が生ずるとともに、抄紙された紙質が硬くなるため、後工程のコルゲートハニカム加工時に歯車で形成される凸凹の頂点近傍に亀裂が走りやすくなったりして、コルゲート加工の作業性が著しく低下してしまう。
【0027】
本実施形態の活性炭1は、抄紙し易さを考慮して、100μm以下の粒度の粉末、もしくは、直径が100μm以下で長さ30mm以下の短繊維であることが好ましい。抄紙は、パルプと、繊維状もしくは粉末状の活性炭、及び、構造体としての強度を確保する目的で適量のガラス繊維等の補強材を加え、これらの混合物と水とを混合した希釈スラリーを丸網などの抄紙機で漉きあげる。
【0028】
本実施形態の基材4である混抄紙に固定された無機酸化物微粒子2は、吸着する気体に最初に触れるので、難燃性で吸湿性の性質を有することが好ましい。尚、詳細は実施例で示すが、無機酸化物微粒子2の固定量は基材4の重量を基準として、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。10質量%を超えて固定しても難燃性は変わらず、むしろ固定量が増えるにつれて難燃性の程度が低下する。また、0.1質量%より少ない場合は十分な難燃性が得られない。
【0029】
本実施形態に用いる無機酸化物微粒子2としては、二酸化チタン、ゼオライト、珪砂、アルミノケイ酸塩、シリカゲル、珪藻土、二酸化マンガンなどの無機酸化物を用いることができる。特にデシカント除湿用途には吸湿性を示すものが好ましい。
【0030】
本実施形態で用いる無機酸化物微粒子2の粒径は小さいことが好ましく、基材4である活性炭混抄紙への固定が適切に行なえ、ハニカムロータへの加工工程で固定化された無機酸化物微粒子2が容易に脱離や剥離を生じぬよう、平均粒子径としては300nm以下が好ましい。
【0031】
無機酸化物微粒子2の粒径が300nmより大きい粒子径である場合には、基材4への固定が難しくなったり、固定されても脱離し易く耐久性が得ることが難しくなる。また、無機酸化物微粒子2の粒径が50nm未満の平均粒子径である場合には、粒子径が小さ過ぎることによる粒子の活性に起因して、活性炭表面活性を制御できなくなるため、本実施形態で用いる無機酸化物微粒子2の平均粒子径は、50nm以上であることが好ましい。
【0032】
基材4への密着性をより強固とするためには、無機酸化物微粒子2の表面を、不飽和結合を有するシランモノマーで処理し、化学結合させたもの(以下、「シランモノマー被覆無機酸化物微粒子」と呼ぶ)を用いることが好ましい。ここで、不飽和結合としてはビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基などの反応性の官能基であれば良い。
【0033】
本実施形態で用いられるシランモノマーの一例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0034】
本実施形態に用いられる無機酸化物微粒子2またはシランモノマー被覆無機酸化物微粒子2は、メタノールやイソプロピルアルコールなどの溶剤に分散した状態で用いられる。溶剤への分散は、ホモジナイザーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミル、サンドミル、高速回転ミル、ジェットミルなどを用いた粉砕・分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0035】
基材4である活性炭混抄紙への無機酸化物微粒子2の固定化は、無機酸化物微粒子2を分散したスラリーを、基材4である活性炭混抄紙へ塗工し、溶剤を加熱乾燥により蒸発・揮散させて除去すればよい。塗工する方法としては、刷毛塗り、スプレー法、浸漬法、各種コーター法等の公知の手段を用いて行なえばよい。
【0036】
基材4である活性炭混抄紙へのシランモノマー被覆無機酸化物微粒子2の固定化は、シランモノマー被覆無機酸化物微粒子2を分散したスラリーを基材4へ塗工し、溶剤を蒸発・揮散させた後に、放射線や電子線、紫外線などの活性エネルギー線を照射することで、不飽和結合の一部を基材と共有結合させる、所謂グラフト重合による化学結合により、一層強固な固定化を行なうことができる。また、活性エネルギー線に替えてパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合や、熱や光エネルギーを用いたグラフト重合による化学結合による固定化であってもよい。
【0037】
シランモノマー被覆無機酸化物微粒子2は、必要量を、メタノールや、エタノールや、アセトンや、トルエンや、キシレンなどの有機溶剤に溶解したものに、所要量の無機酸化物微粒子を添加し充分に分散することにより得られる。シランモノマーの使用量は、無機酸化物微粒子2の重量に対して0.1質量%以上有れば効果を発現するが、強固に固定するには、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
基材4である活性炭混抄紙に、無機酸化物微粒子2またはシランモノマー被覆無機酸化物微粒子2を固定化した活性炭シート100は、除湿用途に合わせた形に加工されて使われる。特に、装置に組み込まれて使われるような除湿用のデシカントの用途などには、段ボールの製法を用いてコルゲート加工し、積層一体化してブロックに賦形したり、捲回一体化してロータにして使われる。
【0039】
本実施形態の活性炭シート100は、難燃性に優れ且つデシカント装置で使用されると、調湿用のハニカムロータ除湿部材として活性炭の除湿性能を阻害せずに優れた性能を発揮する。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の活性炭シートの、主に、電気二重層電極材シートへの用途を例とする実施形態について述べる。
【0041】
本実施形態の活性炭シート100における基材4は、例えば、電気二重層電極材シートの用途の場合には、活性炭1にバインダー樹脂としてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、導電物質としてカーボンブラックや人造黒鉛粉などを少量配合し十分混練してペースト化した後に、圧延成形などによりシート化する。もしくは、活性炭、バインダー樹脂、導電物質に有機溶剤を用いて塗工して有機溶剤を飛ばして基材4と為す製法もある。
【0042】
電気二重層電極材シートへ用いる場合には、活性炭1は、電気二重層コンデンサー電極としての性能に優れている必要がある。電気二重層キャパシターは活性炭などから作られた一対の正極と負極の分極性電極を、電解質イオンを含む溶液中でイオンを通す多孔質のセパレータを介して対向させた構造からなっている。直流電圧を印加すると正(+)側に分極した電極には溶液中の陰イオンが、負(−)側に分極した電極には溶液中の陽イオンが引き寄せられ、これにより電極と溶液の界面に形成された電気二重層を電気エネルギーとして利用するものである。
【0043】
このように、電気二重層コンデンサーは、原理的には化学反応を伴わないためにパワー密度に優れ、充放電のサイクル寿命特性に優れるといわれている。
【0044】
一方、この電気二重層キャパシターに用いられる電解質溶液としては、硫酸、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水系、また非水系としてBF4、PF6、ClO4などのアニオンからなる4級アンモニウム塩や4級ホスホニウム塩を電解質としてジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジブチルエーテル等々のエーテル、あるいはホルムアミド、N−メチルホルムアミド、等々のアミド、あるいは1,2ジメトキシエタン、エチレンカーボネート、γ―ブチルラクトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどの有機溶剤に溶かした溶液として用いることができる。
【0045】
電極間に介在させるイオンを透過させる多孔質セパレータとしては、微孔性のポリエチレンやポリプロピレンのフイルム、これら繊維やガラス繊維からなる不織布等を用いることができる。
【0046】
電気二重層キャパシターに用いられる電解質溶液としては、水系は、水の電解による制約から1V前後の低電圧でしか使えず、3V前後の高い電圧で使える有機系、非水系のほうが製造工程での水分管理が必要なもののエネルギー容量が大きいので、近年は非水系が主流になっている。非水系の有機系電解液は充放電を繰り返すと電極である活性炭表面に存する活性点の作用で徐々に劣化し、充放電サイクル寿命特性が低下し、改良が求められていた。
【0047】
本実施形態の活性炭シートによる電極材は、特に、非水系の有機系電解液の系において長寿命化の効果を発揮するものである。
【0048】
本実施形態の活性炭シート100を圧延して電気二重層電極材とする場合には、前述のような構造体であることから活性炭の配合量が多い程キャパシター容量も大きくなるが、バインダーであるPTFE等と導電材であるカーボンブラック等との混練、ペースト化などの製造上の制約から活性炭の含有率には上限がある。
【0049】
本実施形態の活性炭シート100においては、基材4中の活性炭1の含有率を75質量%以上85質量%以下とすることが好ましい。すなわち、活性炭1の基材4中の含有率が75質量%より少なくなると、電気二重層キャパシターとしての性能が十分とはいえず、また、活性炭1の基材4中の含有率が85質量%を超えると電極材シートが脆くなりシートのハンドリング性が悪化するために製造工程で支障をきたす。
【0050】
混練、ペースト化、圧延を経て得られた基材4には、その表面に前述した方法により無機酸化物微粒子2、またはシランモノマー被覆無機酸化物微粒子2を固定化する。有機系キャパシター電極用途では水分を嫌うために、無機酸化物微粒子2としては吸湿しにくい塩素法で得られる酸化チタン微粒子や、珪砂などを粉砕して得られる微粒子が好適である。
【0051】
本実施形態の無機酸化物微粒子2の平均粒径は50nm以上300nm以下が好ましい。50nm未満だと微粒子の比表面積に由来し活性が高過ぎて好ましくない。また、300nmを超えると基材シート4への固定がしにくくなる。
【0052】
本実施形態の無機酸化物微粒子2の固定量としては、基材4の重量を基準として0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0053】
固定量が、ゼロに近いと活性炭の表面活性を制御できず、固定量が多すぎると制御効果が低減したりほとんどなくなってしまう。
【0054】
シランモノマー被覆無機酸化物微粒子2の基材4への固定化は、シランモノマー被覆無機酸化物微粒子2を分散したスラリーを基材4へ塗工し、溶剤を蒸発・揮散させた後に、放射線や電子線、紫外線などの活性エネルギー線を照射することで、不飽和結合の一部を基材と共有結合させる、所謂グラフト重合による化学結合により、一層強固な固定化を行なうことができる。また、活性エネルギー線に替えてパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合や、熱や光エネルギーを用いたグラフト重合による化学結合による固定化であってもよい。
【0055】
シランモノマー被覆無機酸化物微粒子2は、必要量を、メタノールや、エタノールや、アセトンや、トルエンや、キシレンなどの有機溶剤に溶解したものに、所要量の無機酸化物微粒子2を添加し充分に分散することにより得られる。シランモノマーの使用量は、無機酸化物微粒子2に対して0.1質量%以上有れば効果を発現するが、強固に固定するには、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0056】
このようにして得られた本実施形態の活性炭シート100による電極材を用いた非水系キャパシターは長期充放電サイクル特性に優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0057】
次に、実施例を挙げて本発明の活性炭シートをより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
[第1実施例]
(デシカント除湿ロータ用途とする混抄紙による基材の作製)
基材となる混抄紙の原料として、クラレケミカル(株)製活性炭粉末を用い、抄紙に適するように10μm粒度の粉砕粉として用いた。また、抄紙用繊維原料として、通常のビータなどで処理された木材パルプ(NBKP:針葉樹晒クラフトパルプ)と、抄紙用の有機合成繊維パルプ(ビニロンパルプ)と、日本板硝子(株)製の径が10μm前後のガラス短繊維を使用した。また、抄紙性を確保するために、昭和電工(株)製アクリル樹脂系バインダー用いて、活性炭粉末と抄紙用繊維原料と水を混合したスラリーを大量の水で希釈し、定法により丸網抄紙機により混抄紙からなる基材を漉き上げた。
【0059】
基材の配合組成および基材の特性を表1に示す。なお、表1に示す基材の配合組成は、完成品としての基材における重量比率である。ここで、基材の特性として、引張強度は抄紙方向(長手方向)に15mm幅の短冊サンプルを切り出し、1mm/分の速度で引張った場合の破断強度を測定した。また、15mm幅の短冊サンプルを手で折り曲げて亀裂の発生有無を目視観察することにより、加工性や取り扱い性の評価とした。
【0060】
【表1】

【0061】
全ての配合条件において、米坪120g/mの地合の良い混抄紙からなる基材を得ることができた。基材No.1から4は、後工程の無機酸化物微粒子の固定やコルゲート加工に耐えうると判断されたが、活性炭含有率が85%を超えるNo5では折り曲げ試験により亀裂が発生した。
【0062】
表1に示した米坪120g/mの基材No1からNo4について、無機酸化物微粒子としてシリカゲルを分散したエタノール溶液スラリーに、シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を、無機酸化物微粒子に対して3質量%加えて一晩攪拌し、シリカゲル表面にカップリング剤を縮合反応させてシリカゲル表面と化学結合させた。このスラリーに混抄紙である基材を浸漬し、110℃、10分間乾燥した後、電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射し固定化した。固定化量は浸漬回数によって調整し、固定量0.1質量%、5質量%、10質量%、12質量%の4水準の活性炭シートを得た。
【0063】
得られた活性炭シートの無機酸化物微粒子の密着性は、該シート表面を指で弾き、衝撃により粉の脱落が発生するか否か目視で評価した。全ての活性炭シートで粉落ちは発生せず、良好な密着性を示した。固定化量は、スラリーを基材である混抄紙に塗布後、乾燥して質量を測定し、基材との質量との差分から計算して求めた。
【0064】
吸湿特性はサンプル3gを用いて、80℃にて1時間真空引きしたのち放冷し、雰囲気が20℃、水分15g/kg-DA(乾燥空気)の条件下での吸湿による重量増加率の経時変化を測定する、いわゆるマクベインバランス法により評価した。ここで、重量増加率の基準としては、基材の面積より基材の重量を計算により求めた。得られたシート状吸着剤の特性及び評価結果を表2に示した。
【0065】
難燃性はUL94規格に基づいて行った。すなわち、125×10mmの短冊状サンプルを吊り下げ、最下部の位置をガスバーナーで加熱・着火させ放置し炎の残る残炎時間で評価した。結果を表2に示す。なお、表2には、無機酸化物微粒子の平均粒経および無機酸化物微粒子を固定しない基材のみの評価結果も、比較のために示した。
【0066】
【表2】

【0067】
無機酸化物微粒子を固定していない基材のみ(活性炭シートNo.1−1、4−1)の吸湿特性に比べ、無機酸化物微粒子を固定した基材では、同一の基材に対して吸湿特性が優れている。また、活性炭シート中の活性炭の配合量が50質量%以上となる場合には、さらに十分な吸湿特性を示すこととなる(活性炭シートNo.2−1、2−2、2−3、2−4、3−1、3−2、3−3、4−2、4−3、4−4)。
【0068】
難燃性については、無機酸化物微粒子の粒子径が50nm以上300nm以下で、無機酸化物微粒子の固定量が0.1質量%以上、10質量%以下の場合(活性炭シートNo.2−2、2−3、3−1、3−2、4−2、4−3)には、いずれも難燃性が向上することとなる。
【0069】
[第2実施例]
(電気二重層キャパシター用途とする基材シートの作成)
KOH賦活法で得られた平均粒径20μmの樹脂系活性炭と、三井・デュポンフロロケミカル(株式会社)製PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)と、高導電性カーボンブラックとして三菱化学製ケッチェンブラックを、表3に示した配合条件でロール混和機で十分混錬しPTFEを繊維化することでペーストとし、これを圧延し厚さ0.5mmのシート状の基材とした。
【0070】
基材の配合組成および基材の特性を表3に示す。なお、表3に示す基材の配合組成は、完成品としての基材における重量比率である。
【0071】
【表3】

【0072】
活性炭の含有率が85質量%をこえた、基材No9ではペーストを離型フィルムに挟んで圧延後にシートを離型フィルムから剥がす際に亀裂が発生していた。
【0073】
電気二重層キャパシター用途としての基材No6、7および8を用い、無機酸化物微粒子として酸化チタン微粉を分散したトルエン溶液スラリーに、シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を、無機酸化物微粒子に対して3質量%加えて一晩攪拌し、酸化チタン表面にカップリング剤を縮合反応させて酸化チタン表面と化学結合させた。
【0074】
尚、このスラリーに基材No6、7および8を浸漬し、引き上げて110℃、10分間乾燥した後、電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射し酸化チタンを基材シートに固定化した。固定化量は浸漬の回数によって調整した。
【0075】
このようにして得られた活性炭シート、および、比較用の無機酸化物微粒子を固定化していない各シートから直径20mmの円板を打ち抜き200℃で15時間真空乾燥して分極性電極としての性能を評価用サンプルとした。
【0076】
上記シート状の電極を、高純度アルゴンを循環させているグローブボックス内で、図3のような評価用セルに組み上げて評価した。
【0077】
図3において、11はアルミニウム製の上蓋、12はバイトン(登録商標)製のOリング、13はアルミニウム製の集電板、14は絶縁材でテフロン(登録商標)を用いている。15はアルミニウム製容器、16はアルミニウム製バネ、18は電解質を通すポリプロピレン製の多孔質セパレーターである。17は性能評価用分極性電極サンプルであり、本発明の活性炭シートを電極として用いて電気容量を評価した。
【0078】
電解液には、プロピレンカーボネートを溶媒として(C254NBF4を電解質とした、富山薬品工業株式会社製の商品名LIPASTE−P/EAFIN(1モル/リットル)を使用した。測定温度は室温でおこなった。
【0079】
充放電特性は、北斗電工株式会社製充放電試験装置HJ−101SM6を使用し、250mA(64mA/cm2)の電流条件で0〜3.0Vの充放電を繰り返し、得られた放電曲線から、電気二重層キャパシターの分極電極の質量当たりの電気容量(F/g)を算出した。耐久性の評価としては、電気容量が安定する2回目の充放電の電気容量を基準として、充放電サイクル200回後の電気容量の割合で評価した。
【0080】
【表4】

【0081】
表4に見られるように、充電2回目の電気容量(F/g)は各シート間で、同一の基材による大差はない。活性炭の含有率が75%未満の基材No6を用いた電極では、充電2回目の初期の容量が小さく(シートNo6−1,6−2)、電気二重層キャパシターとしては不十分である。
【0082】
無機酸化物微粒子の固定がなされていない電極(シートNo7−1、8−1)や、固定化量が0.1質量%未満の電極(シートNo7−2)、固定化量が10質量%を超える電極(シートNo7−7、8−7)や、無機酸化物微粒子の平均粒径が50nm未満の電極(シートNo7−3、8−2)や、300nmを超える電極(シートNo7−6,8−6)と、シートNo7−4、7−5、8−3、8−4、8−5による電極とを比べると、充放電200回目の2回目に対する容量維持率に大きな差が見られ、本発明の活性炭シートによる電極を使うことでサイクル寿命特性に優れた電気二重層キャパシターとなることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態の活性炭シートの断面を部分拡大した模式図である。
【図2】本発明の実施形態の活性炭シートの他の形態の断面を部分拡大した模式図である。
【図3】電気二重層電極の評価装置である。
【符号の説明】
【0084】
100:活性炭シート
1 :活性炭
2 :無機酸化物微粒子
3 :バインダー
4 :基材
11 :アルミニウム製の上蓋
12 :バイトン製Oリング
13 :アルミニウム製の集電板
14 :絶縁材
15 :アルミニウム製の容器
16 :アルミニウム製バネ
17 :性能評価用分極性電極サンプル
18 :電解質を通すポリプロピレン製多孔質セパレータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材と、
前記基材に固定された無機酸化物微粒子と、
を有することを特徴とする活性炭シート。
【請求項2】
前記繊維状もしくは粉末状の活性炭の前記基材中の含有率は、50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の活性炭シート。
【請求項3】
前記繊維状もしくは粉末状の活性炭の前記基材中の含有率は、75質量%以上85質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の活性炭シート。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子は、前記基材の重量を基準として0.1質量%以上10質量%以下の固定量であり、かつ、
前記無機酸化物微粒子の平均粒子径が、50nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の活性炭シート。
【請求項5】
前記無機酸化物微粒子の表面が、不飽和結合を有するシラン化合物と化学結合してなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の活性炭シート。
【請求項6】
繊維状もしくは粉末状の活性炭を含む基材を成形する工程と、
前記基材の表面に、平均粒子径が50nm以上300nm以下の無機酸化物微粒子が分散したスラリーを塗布する工程と、
前記スラリーを塗布した基材から加熱乾燥によりスラリーに含まれる溶剤を除去して、前記無機酸化物微粒子を前記基材に固定する工程と、
を有することを特徴とする活性炭シートの製造方法。
【請求項7】
前記無機酸化物微粒子を前記基材の表面に固定する工程は、
活性エネルギー線を照射する工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の活性炭シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−184718(P2008−184718A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20634(P2007−20634)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(391018341)NBC株式会社 (59)
【Fターム(参考)】