説明

流体デバイス

【課題】熱媒体流路を備えたジャケット方式の温度調整機構でマイクロ流路を温度調整する際に、マイクロ流路を流れる流体に対する伝熱速度を向上することができ、温度制御の応答性を向上させることができる。
【解決手段】流体流路12に複数の液体L1、L2を流通させつつ反応操作又は単位操作を行う際に前記流体の温度調整を行う温度調整機構14を備えた流体デバイス10において、温度調整機構14は、流体流路12の液体L1、L2の流れ方向に沿って形成された熱媒体流路18に所望温度の熱媒体Hを流す機構であって、該熱媒体Hの流れに乱れを発生させる外乱発生手段13を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体デバイスに係り、特に、マイクロな流路幅の流体流路内を流れる流体の温度調整を行う温度調整機構を備えた流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品・試薬、あるいは微細な磁性粒子等の化学物質を製造する化学プロセス分野においては、温度調整機構をもつ反応装置として温調コイルや温調ジャケットを設けた攪拌槽が一般的に用いられている。
【0003】
しかし、化学物質の高純度化、高品質化が要求されている昨今では、攪拌槽のように容量の大きなマクロ的な生産装置では、製造される化学物質の高純度化、高品質化の要求を満たすことが難しくなっている。
【0004】
このような背景から、近年、化学プロセス分野において、マイクロミキサー又はマイクロリアクター等と一般的に呼ばれる流体デバイスが注目されている。この流体デバイスは、微細な流路断面を有する流体流路に複数の流体を流通させながら反応操作や単位操作を行うことで、化学物質を連続製造したり、混合、分離、抽出等の処理を行ったりするものである。例えば、この方法における反応は、攪拌槽等を用いたバッチ式の反応とは異なり、微小空間である流体流路内を連続的に流れる流体の界面において流体中の反応分子同士が出会うことによって反応が起こるため、反応効率が著しく向上すると共に、特に反応生成物が微細粒子である場合には、単分散性に優れた化学物質を製造することができる。かかる流体デバイスによる反応操作又は単位操作では流体流路内を流れる流体を温度調整機構で適切な温度に調整することが通常である。
【0005】
この流体デバイスはサイズそのものが小さいことから、温度調整機構自体のサイズも微小サイズ化せざるを得ない。微小サイズ化が可能な温度調整機構として、流体デバイスに金属を微細配置して電圧を付与することで流体流路を流れる流体の温度調整を行う電気的方式と、流体デバイスに微細な熱媒体流路を形成して熱媒体を流すことで流体流路を流れる流体の温度調整を行うジャケット方式とがある。しかし、金属への電圧付与による温度制御は、流体デバイスを加熱することは可能であるが流体デバイスからの熱を冷却できない。冷却可能な金属としてペルチェ素子を使用することも考えられるが、ペルチェ素子は反対に加熱することができない。また、ペルチェ素子を使用する際には、吸熱と同時に生じる放熱の影響を流体デバイスが受けることがデメリットとして残る。このように、加熱、冷却操作を同時に行うためには最低でも2種の金属を併設する必要があり、デバイスの複雑化、サイズアップを招くため、金属を微細配置する方式では、加熱、冷却のどちらか一方の操作しかできないことが一般的である。このため、金属を微細配置する方式は使用できる反応操作又は単位操作が限定されるという問題がある。このことから、流体デバイスの温度調整機構としては、微細な熱媒体流路(マイクロチャンネル)を備えたジャケット方式が主流になっている。
【0006】
熱媒体を流す熱媒体流路を利用して流体流路を流れる流体と熱交換する装置しては、例えば、特許文献1及び特許文献2のように、温度調整される流体を流す流路の下側に、該流体を温度調整する熱媒体を流す熱媒体流路を形成したものが開示されている。また、特許文献3には、流体流路を流れる流体に大きな温度変化を受けさせることのできる流体デバイスが開示されている。これは、流体デバイスの表面と裏面とに温度の異なる温度調整機構を設けて流体デバイスの厚み方向に温度分布を形成すると共に、流体流路を水平流路(表裏面と平行な流路)と垂直流路(表裏面方向の流路)とを組み合わせることで、流体が垂直流路を流れる際の温度分布を利用して流体に大きな温度を受けることができるようにしたものである。
【特許文献1】特開2005−83676号公報
【特許文献2】特開2005−83674号公報
【特許文献3】特開2004−130219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、流体デバイスに微細な熱媒体流路を備えたジャケット方式の温度調整機構を適用した場合、熱媒体流路を流れる熱媒体は層流を形成するため、乱流形成時の場合に比べて境膜の厚みが厚くなり、伝熱速度を低下させるという問題がある。この結果、熱媒体を温度変化させたときに流体流路を流れる流体の温度が追従する温度応答性が悪くなると共に、熱媒体流路の流路幅方向における中央部と両端部(境膜が形成される流路壁面部)での伝熱速度に分布ができ、この分布が流体流路における温度分布を形成し、反応操作や単位操作の均一性に悪影響を与えるという問題がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2の技術は、微細な熱媒体流路の流路断面積を大きくして流路抵抗を下げるようにしたもので、熱媒体が層流を形成することによる伝熱速度の低下を解消するものでない。また特許文献3は、流体流路の垂直流路部分を流体が通過している間はなだらかな温度勾配を持つことになり、流体に対して迅速な温度変化、例えばステップ状の温度変化を与えることはできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、熱媒体流路を備えたジャケット方式の温度調整機構で流体流路を温度調整する際に、流体流路を流れる流体に対する伝熱速度を向上できるので、温度制御の応答性を向上させることができる流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は前記目的を達成するために、流体流路に複数の流体を流通させつつ反応操作又は単位操作を行う際に前記流体の温度調整を行う温度調整機構を備えた流体デバイスにおいて、前記温度調整機構は、前記流体流路の流体の流れ方向に沿って形成された熱媒体流路に所望温度の熱媒体が流れる機構であって、該熱媒体の層流状態の流れに乱れを発生させる外乱発生手段を有していることを特徴とする流体デバイスを提供する。
【0011】
ここで、外乱発生手段とは、熱媒体外部からの熱媒体へのエネルギー付加や異相粒子混入により熱媒体の流れに乱れを発生させることのできる手段をいう。
【0012】
本発明の請求項1によれば、温度調整機構は、流体流路の流体の流れ方向に沿って形成された熱媒体流路に所望温度の熱媒体が流れる機構であって、該熱媒体の層流状態の流れに乱れを発生させる外乱発生手段を有しているので、熱媒体が熱媒体流路を層流状態で流れることにより境膜が厚く形成される場合であっても、外乱発生手段によって境膜を壊すことができるので、境膜を薄くすることができる。これにより、熱媒体流路から流体流路への伝熱速度を向上することができる。従って、本発明の流体デバイスは、流体流路を流れる流体に対する伝熱速度を向上できるので温度制御の応答性を向上させることができる。尚、本発明において流体流路を流れる流体とは液体、気体、固液混相流体、気液混相流体などが含まれる。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記流体流路の流路幅が1mm以下であることを特徴とする。
【0014】
流体流路の流路幅が1mm以下のように熱媒体流路もマイクロな流路で形成せざるをえない場合において、本発明の効果が一層発揮されるからである。
【0015】
請求項3は請求項1又は2において、前記外乱発生手段は、前記熱媒体流路に流入する熱媒体を衝突させる複数本の熱媒体供給管であることを特徴とする。
【0016】
請求項3によれば、複数本の熱媒体供給管から熱媒体を熱媒体流路に供給して熱媒体同士を衝突させるようにしたので、熱媒体に流れの乱れ、例えば渦流が発生する。この渦流により境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができる。
【0017】
請求項4は請求項1〜3のいずれか1において、前記外乱発生手段は、前記熱媒体に低周波振動を付与する低周波振動付与手段であることを特徴とする。
【0018】
請求項4によれば、外乱発生手段として低周波振動付与手段を用い、熱媒体に低周波振動を付与するようにしたので、熱媒体に流れの乱れ、例えば渦流が発生する。この渦流により境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができる。尚、複数本の熱媒体供給管と低周波振動付与手段とを併用してもよい。
【0019】
請求項5は請求項1〜4のいずれか1において、前記外乱発生手段は、前記熱媒体に混在させる微小粒子であることを特徴とする。
【0020】
請求項5によれば、熱媒体中に混在する微小粒子が熱媒体流路の流路壁を擦ることによって、境膜を破壊することができる。また、熱媒体中に混在する微小粒子同士の衝突により、熱媒体に流れの乱れ、例えば渦流が発生する。この渦流によっても境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができる。尚、複数本の熱媒体供給管と低周波振動付与手段と微小粒子とを併用してもよい。
【0021】
請求項6は請求項5において、前記微小粒子の断面積は、前記熱媒体流路の断面積の1/10以下であることを特徴とする。
【0022】
熱媒体に混在させる微小粒子を熱媒体流路の断面積の1/10以下にすることで、微小粒子が熱媒体流路中で自由に動き回って衝突し易くなり、この衝突により熱媒体に乱れを効率的に発生させることができるからである。
【0023】
請求項7は請求項1〜6のいずれか1において、前記外乱発生手段は、前記熱媒体に混在させる微小気泡であることを特徴とする。
【0024】
請求項7によれば、熱媒体中に混在する微小気泡が熱媒体流路の流路壁を擦ることによって、境膜を破壊することができる。また、熱媒体中に混在する微小気泡により、熱媒体に流れの乱れ、例えば渦流が発生する。この渦流によっても境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができる。熱媒体に混在させる微小気泡としては、微小粒子と異なり気泡が消滅すると流れを乱す効果がなくなるので、熱媒体流路に熱媒体を供給する直前に熱媒体にエアを吹き込むことで形成するとよい。尚、複数本の熱媒体供給管と低周波振動付与手段と微小粒子と微小気泡を併用してもよい。
【0025】
請求項8は請求項7において、前記微小気泡の断面積は、前記熱媒体流路の断面積の1/10以下であることを特徴とする。
【0026】
微小気泡が大きすぎると浮上力により直ちに熱媒体流路の上側に浮上して堆積し易く、熱媒体に流れの乱れを発生させる効果が小さくなるからである。
【0027】
請求項9は請求項1〜8のいずれか1において、前記流体デバイスは、前記流体流路が内部に形成され、前記複数の流体を流通させる板状の流体流路プレートと、前記流体流路プレートの上面又は下面に配置され、熱媒体流路が内部に形成された板状の熱媒体流路プレートと、前記流体流路に複数の流体を供給する流体供給手段と、前記熱媒体流路に熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、を備えたことを特徴とする。
【0028】
請求項9は、流体流路を複数の流体が流れる流体デバイスの場合である。請求項9によれば、複数の流体を流す流体流路が内部に形成された板状の流体流路プレートの上面又は下面に、熱媒体流路が内部に形成された板状の熱媒体流路プレートが合わさるように配置される。そして、流体流路には反応操作又は単位操作を行う複数の流体が流体供給手段から供給され、熱媒体流路には流体流路を流れる流体の温度調整を行う熱媒体が熱媒体供給手段から供給される。これにより、熱媒体流路を流れる熱媒体と流体流路を流れる熱媒体とが熱交換されて、流体の温度が調整される。かかる流体デバイスにおいて、外乱発生手段により熱媒体流路を流れる熱媒体に流れの乱れを発生させる。尚、流体供給手段は複数の流体ごとに個々に設けることが好ましい。
【0029】
請求項10は請求項1〜8のいずれか1において、前記流体デバイスは、前記流体流路が内部に形成され、前記複数の流体を同芯流として流通させる円筒状の流体流路ブロックと、前記流体流路ブロックの外側に配置され、熱媒体流路が内部に形成された円筒状の熱媒体流路ブロックと、前記流体流路に複数の流体を供給する流体供給手段と、前記熱媒体流路に熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、を備えたことを特徴とする。
【0030】
請求項10は、流体流路を複数の流体が同芯状の流体として流れる同芯流型の流体デバイスの場合である。請求項10によれば、複数の流体を同芯流として流す流体流路が内部に形成された円筒状の流体流路ブロックの外側に、熱媒体流路が内部に形成された円筒状の熱媒体流路ブロックが合わさるように配置される。そして、流体流路には反応操作又は単位操作を行う複数の流体が流体供給手段から供給され、熱媒体流路には流体流路を流れる流体の温度調整を行う熱媒体が熱媒体供給手段から供給される。これにより、熱媒体流路を流れる熱媒体と流体流路を流れる熱媒体とが熱交換されて、流体の温度が調整される。かかる同芯流型流体デバイスにおいて、外乱発生手段により熱媒体流路を流れる熱媒体に流れの乱れを発生させる。尚、流体供給手段は複数の流体ごとに設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明の流体デバイスによれば、熱媒体流路を備えたジャケット方式の温度調整機構で流体流路を温度調整する際に、流体流路を流れる流体に対する伝熱速度を向上できるので、温度制御の応答性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、付図面に従って本発明に係る流体デバイスの好ましい実施の形態について詳説する。
【0033】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の流体デバイスの第1の実施の形態の全体構成図であり、薄片流の層流を形成する薄片流型流体デバイス10の一例である。また、流体流路としては、流路幅が1mm以下のマイクロな流路の例で説明すると共に、流体としては、液液反応を行う2種類の液体L1、L2の例で以下に説明する。
【0034】
図1に示すように、薄片状型の流体デバイス10は、主として、流体流路12が内部に形成された板状の流体流路プレート16と、流体流路プレート16の下面に配置され、熱媒体流路18(図2参照)が内部に形成された板状の熱媒体流路プレート20と、流体流路12に液体L1を供給する第1の流体供給手段22と、流体流路12に液体L2を供給する第2の流体供給手段24と、流体流路12を流れる液体体L1、L2の温度調整を行う温度調整機構14と、で構成される。尚、流体流路プレート16と熱媒体流路プレート20とを合わせたものを装置本体15ということにする。
【0035】
図2は流体デバイスの装置本体を説明する説明図である。図2(A)は上面図、図2(B)は図2(A)のa−a線に沿った断面図、図2(C)は底面図である。
【0036】
図2に示すように、装置本体15は、流体流路プレート16と、熱媒体流路プレート20とで構成される。流体流路プレート16は、本体部材26と蓋部材28とで構成され、本体部材26には2種類の液体L1、L2の液液反応を行う流体流路12と該流体流路12に液体L1、L2を合流させる2本の流体供給路30、30とから成るY字型流体流路32が形成される。また、流体流路12の終端位置には液液反応による反応生成液LMを排出させる液体排出口34が形成される。一方、蓋部材28には2本の流体供給路30、30に液体L1、L2を導入する2個の流体導入口36、36が形成され、2個の流体導入口36、36に液体L1、L2を供給する一対の流体供給手段22、24が2本の流体供給管38、38(図1参照)を介してそれぞれ接続される。
【0037】
流体流路12は、流路幅が1mm(1000μm)以下、好ましくは500μm以下、流路深さ1mm以下、好ましくは500μm以下のマイクロチャンネル状の微細流路が好ましい。流体流路12は、径方向断面の形状が四角形状のものが一般的であるが四角形状に限定するものではない。また、流体供給路30、30を2本で構成する場合には、1本の流体供給路30の流路幅は流体流路12の半分になるように設計することが好ましい。例えば、径方向断面が四角形状の流体流路の幅を500μm、深さを200μmとした場合には、1本の流体供給路の幅を250μm、深さを200μmとする。また、流体流路の長さL(図2参照)は、液液反応が終了するに足る長さに設定され、液液反応の種類によって異なる。
【0038】
一方、熱媒体流路プレート20は、本体部材40と底部材42とで構成され、本体部材40には所望温度の熱媒体Hを流す熱媒体流路18が形成される。図2では、熱媒体流路18の長さを流体流路12の長さと同等の直線流路としたが、2本の流体供給路30、30に沿うように熱媒体流路18を延設することにより、流体流路12と同様にY字型熱媒体流路として形成してもよい。また、底部材42には、熱媒体流路18に熱媒体Hを供給する熱媒体供給口44と、熱媒体Hを排出する熱媒体排出口46が形成され、熱媒体供給口44には所望温度の熱媒体Hを循環供給する熱媒体供給手段48(図1参照)の往路配管50が連結され、熱媒体排出口46には復路配管52が連結される(図1参照)。これにより、流体流路12を流れる流体L1、L2の反応温度を調整する温度調整機構14が形成される。そして、本発明における温度調整機構14は、流体流路12の液体L1、L2の流れ方向に沿って形成された熱媒体流路18に所望温度の熱媒体Hを流す機構であって、該熱媒体Hの流れに乱れを発生させる外乱発生手段13を有している。
【0039】
図3は、外乱発生手段13として、熱媒体流路18に流入する熱媒体Hを衝突させる複数本の熱媒体供給管17、17を設けた場合の概念図である。図3に示すように、熱媒体流路18の入口には、2本の熱媒体供給管17、17が略直交する角度αを有して配置され、2本の熱媒体供給管17、17から熱媒体流路18に流入する熱媒体同士が衝突する。これにより、熱媒体流路18を流れる熱媒体Hに流れの乱れ、例えば渦流が発生する。この渦流により熱媒体流路18に流路壁近傍に形成される境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができ、熱媒体流路18から流体流路12への伝熱速度を向上できる。尚、熱媒体供給管17、17の本数は2本に限定されず3本以上でもよい。また、複数本の熱媒体供給管17、17の配置角度も、熱媒体に渦流が発生しやすいような熱媒体同士の衝突角度に適宜設定できる。
【0040】
図4は、外乱発生手段13として、熱媒体流路18を流れる熱媒体Hに低周波振動を付与する低周波振動付与手段19を設けた場合の概念図である。図4に示すように、熱媒体流路18に熱媒体Hを供給する2本の配管19A,19A(配管は1本でもよい)に接触して低周波振動付与手段19が設けられ、熱媒体流路18に供給される熱媒体Hに低周波が付与される。これにより、熱熱媒体流路18を層流状態で流れる熱媒体Hの流れに乱れ、例えば渦流が発生する。従って、熱媒体流路18に流路壁近傍に形成される境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができ、熱媒体流路から流体流路への伝熱速度を向上できる。低周波振動の周波数としては、30〜300Hzの範囲が好ましい。
【0041】
図5は、外乱発生手段13として、熱媒体Hに混在させる多数の微小粒子21(又は微小気泡21)を使用した場合である。熱媒体中に混在する微小粒子21(又は微小気泡21)により、熱媒体Hに流れの乱れ、例えば渦流23が発生する。この渦流23により境膜が破壊されるので、境膜を薄くすることができる。また、熱媒体中に混在する微小粒子21(又は微小気泡21)が熱媒体流路18の流路壁を擦ることによっても境膜を破壊することができる。微小粒子21(又は微小気泡21)の断面積は、熱媒体流路18の断面積の1/10以下であることが好ましい。
【0042】
これらの外乱発生手段13は、個々に用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いることもできる。更には、上記の外乱発生手段13に、下記説明する熱媒体流路18の構造を組み合わせることで、熱媒体流路18から流体流路12への伝熱速度を一層向上できる。
【0043】
図6は、熱媒体流路18の構造を説明する図であり、図1のA−A線に沿った断面図である。また、図6は熱媒体流路18の流路幅方向における中央部と両端部(境膜が形成される流路幅方向の壁面部)との流速分布を示したものである。
【0044】
図6に示すように、熱媒体流路18の流路幅W2が流体流路12の流路幅W1よりも広く形成されている。このように、熱媒体流路の流路幅W2を流体流路12の流路幅W1よりも広く形成することで、熱媒体が熱媒体流路18を層流状態で流れることにより境膜が厚く形成される場合であっても、境膜の位置を流体流路12の流路幅W1の外側方向にシフトさせることができる。これにより、熱媒体流路18に形成される境膜の位置を流体流路12との相対的な関係で見た場合には、流路壁近傍の境膜を見かけ上で薄くすることができ、更には無くすことも可能である。この結果、熱媒体流路18から流体流路12への伝熱速度を向上することができる。
【0045】
図7は熱媒体流路18の流路幅方向における伝熱速度分布を、該幅方向における熱媒体の流速分布で見た場合の概念図である。図7(A)の白矢印が流体流路12を流れる液体L1,L2、黒矢印が熱媒体流路18を流れる熱媒体Hとすると、図7(B)の熱媒体Hの流速分布(矢印が長い方が流速が速い)に示すように、液体L1、L2と熱媒体Hとの流れがオーバラップしている部分Cにおける熱媒体Hの流速は大きく、伝熱速度が大きいことを示している。一方、液体L1、L2と熱媒体Hとの流れがオーバラップしていない部分Dの流速は小さく、伝熱速度が小さいことを示している。従って、本発明の温度調整機構14によれば、流体流路12を流れる液体L1、L2の温度調整を熱媒体Hの流速の大きな(伝熱速度が大きな)C部分で行うことができるので、流体流路12を流れる流体L1、L2に対する伝熱速度が大きくなり、温度制御の応答性を向上させることができる。
【0046】
一方、図8は熱媒体流路18の流路幅W2と流体流路12の流路幅W1を同じにしたときの熱媒体流路18の流路幅方向における伝熱速度分布を、該幅方向における熱媒体Hの流速分布で見た場合の概念図である。図8(A)の白矢印が流体流路12を流れる液体L1,L2、黒矢印が熱媒体流路18を流れる熱媒体Hとすると、図5(B)の熱媒体Hの流速分布に示すように、液体L1、L2と熱媒体Hとの流れがオーバラップしている部分Cにおける熱媒体Hの流速は,流路幅方向の中央部では大きいものの、両端部では小さくなり、両端部での伝熱速度が悪くなる。即ち、図8の場合には、熱媒体流路18に形成される境膜の影響を大きく受けて伝熱速度が悪化することになるとともに、流体流路12の流路幅方向において温度分布が発生することになる。
【0047】
流体流路12の流路幅W1に対して熱媒体流路18の流路幅W2をどの程度大きくするのが好適であるかについては、熱媒体流路18の流路幅方向における流速分布を調べることにより求めた。この場合、マイクロチャンネルのような微細な熱媒体流路18の流速分布を実験的に求めることが技術的に困難であるため、本発明では数値流動解析ソフト「アールフロー」((株)アールフロー社製)を使用して速度分布を算出することで求めた。その結果、流体流路12の流路幅をW1とし、熱媒体流路18の流路幅をW2とし、W2−W1をΔWとしたときに、下記(1)式を満足するように形成することにより、流体流路12の流路幅W1の両端位置に対応する熱媒体流路18の熱媒体流速が中央部の熱媒体流速の80%を下回らないようにすることが可能であることが分かった。
【0048】
0.5≦ΔW/W1≦2…(1)
ちなみに、流体流路12の流路幅W1を1mmとした場合には、熱媒体流路18の流路幅W2は1.5mm〜3mmの範囲となる。
【0049】
図9は熱媒体流路18の他の態様であり、熱媒体流路18は、流体流路12を流れる液体L1、L2の流れ方向の上流側から下流側に複数個に設けられ、それぞれの熱媒体流路18A,18Bに異なる温度の熱媒体Hを供給するように構成したものである。このように、流体流路12を流れる液体L1、L2の流れ方向の上流側から下流側に対応させて複数個の熱媒体流路18A,18Bを設けることにより、例えば流体流路12の上流側に位置する熱媒体流路18Aには反応を促進する温度の熱媒体Hを供給し、流体流路12の下流側に位置する熱媒体流路18Bには反応を停止する温度の熱媒体Hを供給することができる。尚、図9では2個の熱媒体流路18A,18Bを設けた例で示したが、3個以上でもよい。
【0050】
図10は熱媒体流路18の別の態様であり、熱媒体流路18の流路幅W2が、対応する流体流路12の上流側よりも下流側が狭くなる縮流構造に形成したものである。これにより、図10(B)に示すように、熱媒体Hの温度と液体L1、L2の温度の温度差が小さくなる下流側に行くに従って熱媒体Hの流速が速くなる(矢印が長い方が流速が速い)。この結果、流体流路12の上流側から下流側にかけた全流域において伝熱速度の均一化を図ることができる。この縮流構造の熱媒体流路18に上記(1)式を適用する場合には、流路幅が最も大きな上流端位置の流路幅をW2とすることが好ましく、下流端位置でもW2>W1を満足することが好ましい。
【0051】
図11は熱媒体流路18の更に別の態様であり、熱媒体流路18が流体流路12の流路幅方向の両側部と底部を囲むように断面凹形状に形成される。この場合の熱媒体流路18の流路幅W2は流体流路12の底面と平行な部分の長さとする。これにより、熱媒体流路18からの熱を流体流路12の側方からも伝えることができ、境膜により伝熱速度が小さくなりがちな流体流路の両側部の伝熱速度を向上できる。
【0052】
図12及び図13は熱媒体流路18の更に別の態様であり、熱媒体流路18を、流体流路12を流れる液体L1,L2の流れ方向に平行な複数の分割流路18A,18B,18Cに仕切板55で分割し、該分割流路18A,18B,18Cにそれぞれに異なる温度の熱媒体H及び/又は異なる流速の熱媒体Hを供給するように構成したものである。図12は図6で説明した熱媒体流路18を3分割した場合であり、図13は図11で説明した熱媒体流路18を3分割した場合であるが、3分割に限定するものではなく、2分割以上であればよい。このように、熱媒体流路18を複数の分割流路18A,18B,18Cに分割することで、中央部の分割流路18Bよりも両側の分割流路18A,18Cの熱媒体温度を高くしたり、熱媒体流速を速くしたりすることで、熱媒体流路18の流路幅方向における伝熱速度分布が無くなるように、きめ細かな制御を行うことができる。
【0053】
図14は熱媒体流路18の更に別の態様であり、熱媒体流路18を波型形状56に形成したものである。熱媒体流路18が波型形状56とは、流路内壁面が波型形状であることも含む。波型形状56にすることで、熱媒体流路18を流れる熱媒体Hに流体流路に垂直成分をもつ流れが発生し、境膜を破壊するので、熱媒体流路18の内壁面が平滑形状の場合に比べて、境膜の厚みを薄くすることが可能となる。特に、外乱発生手段13として、微小粒子21(又は微小気泡21)を使用した場合には、熱媒体流路101の内壁面に形成された波型形状56に衝突した微小粒子(又は微小気泡21)が不規則な動きをするので、境膜を一層破壊し易くなる。また、微小気泡21の場合には、波型形状56に衝突することで気泡が微泡化し易くなり、破裂するエネルギーによる境膜の破壊も期待できる。
【0054】
かかるマイクロメートルオーダの微細な流体流路12や熱媒体流路18を有する流体デバイス10の装置本体15の製作には微細加工技術が使用され、流体流路プレート16の本体部材26上面に蓋部材28を被せて本体部材26と蓋部材28を接合すると共に、熱媒体流路プレート20の本体部材40に底部材42を被せて本体部材40と底部材42を接合することにより製作される。微細加工技術としては、例えば次のようなものがある。
(1) X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術
(2) EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法
(3) 機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロメートルオーダのドリルを高速回転するマイクロドリル加工等)
(4) Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法
(5) Hot Emboss加工法
(6) 光造形法
(7) レーザー加工法
(8) イオンビーム法
また、流体デバイス10の装置本体15を製作するための材料としては、耐熱、耐圧及び耐溶剤性、加工容易性等の要求に応じ、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、シリコン、及びテフロン等を好適に使用できる。装置本体15の製作においては、流体流路12や熱媒体流路18の製作は勿論重要であるが、蓋部材28や底部材42を本体部材26、40に接合する接合技術も重要である。蓋部材28や底部材42の接合方法は、高温加熱による材料の変質や変形による流体流路12や熱媒体流路18の破壊を伴わず寸法精度を保った精密な方法が望ましく、製作材料との関係から固相接合(例えば、圧接接合や拡散接合等)や液相接合(例えば、溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等)を選択することが好ましい。例えば、材料としてシリコンを使用する場合にシリコン同士を接合するシリコン直接接合や、ガラス同士を接合する融接、シリコンとガラスを接合する陽極接合、金属同士を接合する拡散接合等がある。セラミックスの接合については、金属のようにメカニカルなシール技術以外の接合技術が必要であり、アルミナに対してglass solderなる接合剤をスクリーン印刷で80μmに印刷し、圧力をかけずに440〜500°Cで処理する方法がある。また、研究段階ではあるが、新しい接合技術として、表面活性化接合、水素結合を用いた直接結合、HF(フッ化水素)水溶液を用いた接合等がある。
【0055】
本発明の流体デバイス10で使用する流体供給手段22、24としては、連続流動方式型のシリンジポンプを好適に使用することができ、熱媒体Hを装置本体15との間に循環させる熱媒体供給手段48としてはマイクロポンプを好適に使用することができる。流体デバイス10の場合、液体L1、L2や熱媒体Hを流体流路12や熱媒体流路18に導入する液体制御技術が必要であり、特にマイクロオーダの微細な流体流路12や熱媒体流路18での液体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質をもつため、マイクロスケールに適した流体制御方式を適用しなくてはならない。連続流動方式は、流体流路12や熱媒体流路18、及これらに至る流路内は全て液体L1、L2又は熱媒体Hで満たされ、外部に用意した流体供給手段22、24、熱媒体供給手段48によって、液体全体を駆動する方式であり、流体流路12や熱媒体流路18に供給する液体L1、L2や熱媒体Hの供給圧力、供給流量を任意に制御することができる。
【0056】
(第2の実施の形態)
図15は、本発明の流体デバイスの第2の実施の形態の全体構成図であり、同芯流の層流を形成する同芯流型流体デバイス100の一例である。また、流体としては、液液反応を行う3種類の液体L1、L2、L3の例で以下に説明する。尚、第2の実施の形態において後記する流体流路111とは、反応流路156と、反応によって生成された反応生成液LMの出液路170の両方を合わせたものを言い、反応流路156と出液路170とを流れる液体L1,L2に温度調整機構300で温度調整できるように構成した。
【0057】
同芯流型流体デバイス100は、主として、流体流路111が内部に形成され、複数の液体L1、L2、L3を同芯流として流通させる円筒状の流体流路ブロックと、流体流路ブロックの外側に配置され、熱媒体流路101が内部に形成された円筒状の熱媒体流路ブロックと、流体流路111に複数の液体L1、L2、L3を供給する流体供給手段と、熱媒体流路101に熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、を備えて構成される。
【0058】
図15に示されるように、同芯流型の流体デバイス100は、全体として略円筒状に形成されており、装置の外殻部を構成する円筒状の円管部122を備えている。ここで、図中における直線Sは装置の軸心を示しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向として以下の説明を行う。この円管部122の先端面には液体L1、L2、L3が反応した後の反応生成液LMの吐出口126が開口し、また円管部122の先端部には吐出口126の外周側に延出するようにリング状のフランジ部128が設けられる。このフランジ部128は反応生成液LMに対して次の処理を行う他の流体デバイス等に送液する配管等に接続される。
【0059】
円管部122の基端面は円板状の蓋板130により閉塞されており、この蓋板130の中心部には円形の嵌挿穴132が穿設されている。円管部122内には、その基端部側から円管部122内へ挿入されるように円筒状の整流部材134が同軸的に設けられており、整流部材134の基端部は蓋板130の嵌挿穴132に嵌挿支持されている。
【0060】
円管部122内には、円管部122内の空間を軸方向に沿って区画する円筒状の第1隔壁部材143及び第2隔壁部材144が多重筒状に設けられ、各隔壁部材143、144の基端面が蓋板130に固着される。これらの隔壁部材143、144は、円管部122及び整流部材134とそれぞれ同軸的に配置されており、円管部122と整流部材134との間の断面円環状の空間を同軸的に3分割するように区画している。この分割の割合は、液体L1、L2、L3の供給量の比に応じて決定される。そして、円管部122の内周面と第1隔壁部材143の外周面との間に複数個(本実施の形態では4個)のスペーサ158が介装されると共に、第1隔壁部材143と第2隔壁部材144との間に複数個(本実施の形態では4個)のスペーサ160が介装される。更に、第2隔壁部材144の内周面と整流部材134の外周面との間にも複数個(本実施の形態では4個)のスペーサ162が介装される。これら複数個のスペーサ158、160、162はそれぞれ矩形プレート状に形成され、その表裏面部が円管部122内における液体L1、L2、L3の流通方向(矢印F方向)と平行になるように支持される。これらのスペーサ158、160、162は、2個の隔壁部材143、144及び整流部材134を円管部122に対して連結固定し、流体供給路150、152、154の径方向(流体の流れ方向に直交する方向)の開口幅W1、W2、W3(図15(A)参照)を設定している。これにより、2個の隔壁部材143、144及び整流部材134がそれぞれ十分な強度で円管部122に連結固定され、液体L1、L2、L3の液圧や重力の影響により所定位置から変移したり、変形したりすることが防止されると共に、開口幅W1、W2、W3が予め設定された寸法に確実に維持される。
【0061】
ここで、第1及び第2の隔壁部材143、144により区画された断面円環状の空間を、外側から順に第1流体供給路150、第2流体供給路152及び第3流体供給路154とされる。また、円管部122の基端面に設けられた蓋板130には、それぞれの流体供給路150、152、154に連通する嵌挿穴が穿設されており、この嵌挿穴に、これら第1〜第3の流体供給路150、152、154に液体L1、L2、L3を供給する流体供給配管138、140、142が接続される。これにより、これらの流体供給配管138、140、142を通して、第1〜第3の流体供給路150、152、154には、流体デバイス100の上流側に設置された3個の流体供給源(図示せず)から加圧状態とされた液体L1、L2及びL3が供給される。
【0062】
また、円管部122内には、隔壁部材143、144よりも先端側であって整流部材134の円錐部137よりも基端部側に流体供給路150、152、154に連通する断面円環状の空間が形成され、この断面円環状の空間は、流体供給路150、152、154からそれぞれ供給された液体L1、L2及びL3が合流して反応を行う反応流路156とされる。
【0063】
図15(B)に示されるように、第1流体供給路150及び第2流体供給路152及び第3流体供給路154の先端部には、それぞれ反応流路156内へ開口する第1流体供給口164及び第2流体供給口166及び第3流体供給口168が形成される。これらの流体供給口164、166、168は、それぞれ軸心Sを中心とする円軌跡に沿って断面円環状に開口し、互いに同心円状となるように配設されている。ここで、開口幅W1、W2、W3は、それぞれ流体供給口164、166、168の開口面積を規定し、この流体供給口164、166、168の開口面積と液体L1、L2、L3の供給量に応じて、流体供給口164、166、168を通して反応流路156内へ導入される液体L1、L2、L3の初期流速が定まる。これらの開口幅W1、W2、W3は、例えば、流体供給口164、166、168を通して反応流路156内へ供給される液体L1、L2、L3の流速が互いに等しくなるように設定される。
【0064】
円管部122内における反応流路156よりも先端側の空間は、反応流路156内で液体L1、L2、L3の反応が行われた反応生成液LMが吐出口126に向かって流れる出液路170とされる。ここで、反応生成液LMが液体L1、L2、L3の反応により生成される場合には、反応流路156内の出口部で液体L1、L2、L3の反応が完了している必要がある。従って、反応流路156の液体L1、L2、L3の流通方向に沿った路長PL(図15(A)参照)は、液体L1、L2、L3の反応が完了する長さに設定する必要がある。尚、流体デバイス100内には、常に、液体L1、L2、L3及びこれらの反応された反応生成液LMが隙間なく充填され、吐出口126側へ流通しているものとする。
【0065】
特に図示しないが、この同芯流型流体デバイス100の場合にも、上記した外乱発生手段13を設けて熱媒体流路101を流れる熱媒体に流れの乱れ、例えば渦流を発生させることで、伝熱速度を向上できる。外乱発生手段13としては、複数本の熱媒体供給管17、低周波振動付与手段19と微小粒子21(又は微小気泡21)、及びこれらの組み合わせを用いることができる。更には、外乱発生手段13に下記説明する熱媒体流路101の構造を組み合わせることで伝熱速度を一層向上させることができる。
【0066】
即ち、図15(A)に示したように、円管部122の外周には、水やオイル等の熱容量が比較的大きな熱媒体Hが流れる円筒状の熱媒体流路101を備えた本体部103が設けられ、本体部103が図示しない熱媒体供給手段に接続される。熱媒体供給手段からは、円管部122内における液体L1、L2、L3の反応温度を制御する熱媒体Hが熱媒体流路101に供給され、再び熱媒体供給手段に循環される。熱媒体流路101に供給する熱媒体Hの温度は、反応温度、又は流体L1、L2、L3の種類等によって適宜設定することが好ましい。この場合、熱媒体流路101は、流体流路111を流れる液体L1、L2、L3の流れ方向の上流側から下流側に複数個(図15では2個)設けられ、それぞれの熱媒体流路101A,101Bに異なる温度T1,T2の熱媒体Hを流すことができる。このように、流体流路111を流れる液体L1、L2、L3の流れ方向の上流側から下流側に対応させて複数個の熱媒体流路101A,101Bを設けることにより、例えば流体流路111の上流側の反応流路156に位置する熱媒体流路101Aには反応を促進する温度(T1)の熱媒体Hを供給し、流体流路111の下流側の出液路170に位置する熱媒体流路101Bには反応を停止する温度(T2)の熱媒体を流すことができる。
【0067】
また、整流部材134内に熱媒体C1を流す流路を形成し、反応流路156の内側から更に温度調整するようにしてもよい。即ち、整流部材134は、外郭部が肉薄状で内部が中空状とされ、整流部材134内には、その基端側から整流部材134の内径よりも小径とされた熱媒体供給管176が挿入されており、熱媒体供給管176は整流部材134の基端側の開口を閉塞する閉塞板(図示せず)及び複数個のスペーサ178により整流部材134と同軸的に支持される。熱媒体供給管176の先端開口177は円錐部137の付け根付近に達しており、その先端面には、整流部材134内に熱媒体C1を供給する供給口180が開口される。かかる供給口180から熱媒体供給管176にも、熱媒体供給手段から所望温度の熱媒体C1が供給され、反応温度が制御される。
【0068】
また、本発明における円筒状の熱媒体流路101は、図15及び図16に示すように、熱媒体流路101の流路径Dが流体流路111の上流側の流路径D1よりも下流側の流路径D2が狭くなる縮流構造に形成されている。これにより、同芯流型の流体デバイス100は、薄片状型の流体デバイス10の場合と同様に、熱媒体Hの温度と液体L1、L2、L3の温度の温度差が小さくなる下流側に行くに従って熱媒体Hの流速が速くなる。従って、流体流路111の上流側から下流側にかけた全流域において伝熱速度の均一化を図ることができる。
【0069】
また、同芯流型の流体デバイス100の場合も、図17に示すように、円筒状の熱媒体流路101が波型形状105であることが好ましい。熱媒体流路101が波型形状105とは、流路内壁面が波型形状であることも含み、例えば流路内壁面(外周面と内周面)のうちの流体流路111に近い内周面側に波型形状105を形成することが好ましい。これにより、内周面近傍を流れる熱媒体Hが流体流路に垂直方向の流速成分をもち、内周面が平滑形状である場合に比べて境膜の厚みを薄くすることができる。この結果、熱媒体Hの流速を上げなくても乱流を発生でき流体流路111への伝熱速度を向上できるので、エネルギーの消費を抑えることができる。波型形状としては例えばコルゲート形状を好適に採用できる。
【0070】
尚、同芯流型の流体デバイス100の製作方法、材質、流体及び熱媒体の供給手段等については薄片流型の流体デバイス10の場合と同様であるので省略する。
【実施例】
【0071】
(試験1…比較例)
先ず、流体流路の流路幅と熱媒体流路の流路幅が同じ場合について試験した。即ち、流路幅300μm、流路深さ200μmの流体流路が形成された流体流路プレートの下面に、流体流路の流路幅と同じ300μmで、流路深さが1000μmの熱媒体流路が形成された熱媒体流路プレートを配置した。そして、流体流路には90°Cの温水を流し、熱媒体流路には氷点下20°C(−20°C)の熱媒体(冷媒)を流しながら流体流路出口での温水の温度を測定した。測定は、直径500μmのK熱伝対を流体流路出口に差し込むことにより行った。流体流路を流れる温水の流量を1mL/分とし、及び熱媒体流路を流れる熱媒体の流量を5mL/分とした。
【0072】
その結果、流体流路入口で90°Cの温水は、流体流路出口で53°Cまで低下した。
【0073】
(試験2…本発明の実施例1)
次に、本発明の流体デバイスを使用して同様の試験を行った。即ち、試験1と同じ流体流路プレートの下面に、試験1と同じ熱媒体流路プレートを配置すると共に、外乱発生手段として、熱媒体流路プレートの下面に低周波振動付与手段を設け、熱媒体流路を流れる熱媒体に低周波振動を付与した。低周波振動の周波数は90Hzである。
【0074】
その結果、熱媒体流路を流れる熱媒体に低周波振動を付与したことで、熱媒体の流速が定期的に増加し、低周波振動を付与しない場合の約10倍となった。このことは、レイノルズ数Reも低周波振動を付与しない層流時の約10倍になっていることが推測される。これにより、流体流路入口で90°Cの温水は、流体流路出口で41°Cまで低下させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の薄片流型流体デバイスの全体構成図
【図2】薄片流型流体デバイスにおける装置本体の内部構造を説明する説明図
【図3】外乱発生手段の一態様として複数本の熱媒体供給管を用いた場合の概念図
【図4】外乱発生手段の別態様として低周波振動付与手段を用いた場合の概念図
【図5】外乱発生手段の別態様として微小粒子又は微小気泡を用いた場合の概念図
【図6】薄片流型流体デバイスの熱媒体流路構造を説明する断面図
【図7】薄片流型流体デバイスの熱媒体流路の流速分布を説明する説明図
【図8】従来の薄片流型流体デバイスの熱媒体流路の流速分布を説明する説明図
【図9】熱媒体流路を流体の流れ方向に複数個設けた説明図
【図10】熱媒体流路を縮流構造にした説明図
【図11】熱媒体流路を断面凹形状にした断面図
【図12】熱媒体流路を分割流路にした断面図
【図13】熱媒体流路を分割流路にした別の態様の断面図
【図14】熱媒体流路の内壁面を波型形状にした説明図
【図15】本発明の同芯流型流体デバイスの全体構成図
【図16】熱媒体流路を縮流構造にした説明図
【図17】熱媒体流路の内周面を波型形状にした説明図
【符号の説明】
【0076】
10…薄片流型流体デバイス、12…流体流路、13…外乱発生手段、14…温度調整機構、15…装置本体、16…流体流路プレート、17…複数本の熱媒体供給管、18…熱媒体流路、19…低周波振動付与手段、20…熱媒体流路プレート、21…微小粒子又は微小気泡、26…本体部材、28…蓋部材、30…流体供給路、32…Y字型流体流路、34…液体排出口、36…液体導入口、38…流体供給管、40…本体部材、42…底部材、44…熱媒体供給口、46…熱媒体排出口、48…熱媒体供給手段、50…往路配管、52…復路配管、55…仕切板、100…同芯流型流体デバイス、101…熱媒体流路、103…本体部、122…円管部、126…吐出口、128…フランジ部、130…蓋板、132…嵌挿穴、134…整流部材、138、140、142…流体供給配管、143、144…隔壁部材、150、152、154…流体供給路、156…反応流路、158、160、162…スペーサ、164、166、168…流体供給内、170…出液路、300…温度調整機構、L1,L2,L3…反応溶液である液体、H…熱媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流路に複数の流体を流通させつつ反応操作又は単位操作を行う際に前記流体の温度調整を行う温度調整機構を備えた流体デバイスにおいて、
前記温度調整機構は、前記流体流路の流体の流れ方向に沿って形成された熱媒体流路に所望温度の熱媒体が流れる機構であって、該熱媒体の層流状態の流れに乱れを発生させる外乱発生手段を有していることを特徴とする流体デバイス。
【請求項2】
前記流体流路の流路幅が1mm以下であることを特徴とする請求項1の流体デバイス。
【請求項3】
前記外乱発生手段は、前記熱媒体流路に流入する熱媒体を衝突させる複数本の熱媒体供給管であることを特徴とする請求項1又は2の流体デバイス。
【請求項4】
前記外乱発生手段は、前記熱媒体に低周波振動を付与する低周波振動付与手段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の流体デバイス。
【請求項5】
前記外乱発生手段は、前記熱媒体に混在させる微小粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の流体デバイス。
【請求項6】
前記微小粒子の断面積は、前記熱媒体流路の断面積の1/10以下であることを特徴とする請求項5の流体デバイス。
【請求項7】
前記外乱発生手段は、前記熱媒体に混在させる微小気泡であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1の流体デバイス。
【請求項8】
前記微小気泡の断面積は、前記熱媒体流路の断面積の1/10以下であることを特徴とする請求項7の流体デバイス。
【請求項9】
前記流体デバイスは、
前記流体流路が内部に形成され、前記複数の流体を流通させる板状の流体流路プレートと、
前記流体流路プレートの上面又は下面に配置され、熱媒体流路が内部に形成された板状の熱媒体流路プレートと、
前記流体流路に複数の流体を供給する流体供給手段と、
前記熱媒体流路に熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜8の何れか1の流体デバイス。
【請求項10】
前記流体デバイスは、
前記流体流路が内部に形成され、前記複数の流体を同芯流として流通させる円筒状の流体流路ブロックと、
前記流体流路ブロックの外側に配置され、熱媒体流路が内部に形成された円筒状の熱媒体流路ブロックと、
前記流体流路に複数の流体を供給する流体供給手段と、
前記熱媒体流路に熱媒体を供給する熱媒体供給手段と、を備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1の流体デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−98226(P2007−98226A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288791(P2005−288791)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】