説明

流体マイクロシステムのコンポーネントにおけるマイクロチャネルの充填

本発明は、ガスを吸収する事ができるプラスチック材料又はエラストマー材料で作製された、流体マイクロシステムのコンポーネント(10)に形成されたマイクロチャネル(12)を充填する方法に関する。本方法は、コンポーネント(10)を脱気し、次いで液体(24)をマイクロチャネル(12)の供給孔(14)に導入することからなり、液体は、マイクロチャネル(12)に含まれるガスの吸収によって生じる吸い込みによりマイクロチャネル(12)に充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体マイクロシステムのコンポーネントにおけるマイクロチャネルを充填することに関し、またこのような充填に適合するコンポーネントに関する。
【0002】
流体マイクロシステムのコンポーネントは通常、プラスチック材料またはエラストマーから作製されており、数十マイクロメートルから数百マイクロメートルの幅および高さを有するマイクロチャネルを含む。特に、このようなコンポーネントを作製するために最も広く用いられている材料のいくつかは疎水性、特にポリジメチルシロキサン(PDMS)であるため、このようなマイクロチャネルに液体を充填することは困難である。
【0003】
また、このようなコンポーネントにおけるマイクロチャネルに挿入される液体に空気またはガスの泡が含まれないようにする必要もある。なぜならば、このような泡によってマイクロチャネル内で液体が流れにくくなったり、流れなくなることさえあるからである。さらに、コンポーネントを形成するプラスチック材料またはエラストマーはガスを吸収しやすく、そのため、例えばマイクロチャネル内の温度上昇や圧力低下の結果として、ガスの泡を脱気し、マイクロチャネルに含まれる液体の中に放出する傾向がある。
【0004】
本発明の主な目的は、これらの問題を解決する、単純で効果的かつ安価な方法を提供することである。
【0005】
本発明は、流体マイクロシステムのコンポーネントにおけるマイクロチャネルを充填する方法を提供し、コンポーネントは、少なくとも部分的に、コンポーネントが接触するガスを吸収するのに適したプラスチック材料またはエラストマーから作製される。この方法の特徴は、真空下でコンポーネントに脱気処理を施すこと、次にコンポーネントを周囲の雰囲気に配置すること、コンポーネントのマイクロチャネルに液体を挿入すること、およびマイクロチャネルに含まれるガスをコンポーネントが吸収する結果吸い込みを可能にすることにより、マイクロチャネルに液体を充填することである。
【0006】
プラスチック材料またはエラストマーから作製され脱気されているコンポーネントは、接触するガスをすぐに再吸収する傾向がある。
【0007】
本発明は、コンポーネントのマイクロチャネルにおいて吸い込みを形成するためにこの現象を活用し、そしてマイクロチャネルに液体を充填するのに利用するのはこの吸い込みである。
【0008】
脱気されたコンポーネントにより再吸収されるガスによって引き起こされる吸い込みは、通常の寸法のマイクロチャネルに液体を充填するのに十分以上のものである。
【0009】
マイクロチャネル自体に挿入される液体が空気またはガスの泡を含む場合、これらの泡がコンポーネントに吸収され、その結果、マイクロチャネルを充填する液体からこのような空気またはガスの泡が取り除かれる。
【0010】
このため、上記の種類のコンポーネントにおけるマイクロチャネルは、自動的に、しかも特に信頼できる方法で充填することができ、先行技術においてこの目的で公知である手段を用いる必要がない。このような手段は、ほとんどの場合、実装するのが容易ではなく、液体中に空気またはガスの泡が存在することによって生じる問題を解決できない。
【0011】
本発明の別の特徴によれば、この方法はさらに、脱気されたコンポーネントを真空下で気密パッケージに封入する工程と、次にパッケージを開けてコンポーネントを使用する工程とからなる。この使用は、コンポーネントのマイクロチャネルに液体を挿入することを含み、コンポーネントを収容しているパッケージを開けてからコンポーネントのマイクロチャネルに液体を導き入れるまでの時間間隔は、所定の値よりも短い。
【0012】
コンポーネントがPDMSタイプのエラストマーから作製されている場合、この所定の期間は約15分〜20分である。
【0013】
約100ミリバール〜200ミリバール(10パスカル(Pa)〜2×10Pa)の圧力で脱気が実施される場合、コンポーネントは所定の最短期間(約1〜2時間)、部分的真空下で脱気される。
【0014】
好ましくは、コンポーネントのマイクロチャネルを充填するために、マイクロチャネルの一方の端部に形成されたフィーダウェルに液体が挿入され、ウェルに挿入された液体が、マイクロチャネルを周囲の雰囲気から隔離する障壁を形成する。
【0015】
次に、コンポーネントは、マイクロチャネルに含まれるガスを吸収するコンポーネントは、空気またはガスの泡を含まない液体をマイクロチャネルに完全に充填することを可能にする。
【0016】
本発明はさらに、ガスを吸収するのに適したプラスチック材料またはエラストマーから少なくとも部分的に作製され、液体が充填される少なくとも1つのマイクロチャネルを含む流体マイクロシステムのコンポーネントを提供する。このコンポーネントは、前もって真空下で脱気されることと、真空下で気密パッケージに封入されることを特徴とする。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、コンポーネントは一方の端部で開いており、他方の端部を通じてマイクロチャネルに連結しているフィーダウェルを含む。
【0018】
フィーダウェルに対向する側のマイクロチャネル端部は閉じていてもよいし、別のフィーダウェルに向かって開いていてもよい。
【0019】
このような状況では、マイクロチャネルの中間部分は、フィーダウェルに連結しているマイクロチャネルの端部の断面よりも大きい断面を有し、それにより、液体混合区域を形成する。
【0020】
本発明の別の特徴によれば、複数のマイクロチャネルを、一方の端部を通じて共通のフィーダウェルに連結することができる。
【0021】
本発明の好ましい態様においては、マイクロチャネルは、マイクロチャネルの底部を形成する適切な支持体に当接するコンポーネントの底面に形成され、フィーダウェルはコンポーネントの上面に向かって開いている。
【0022】
この支持体はガラス、脱気できないプラスチック材料、または任意の適切な材料で作製されるものであってもよく、場合により、コンポーネントとともに一体のアセンブリを構成することができる。
【0023】
本発明は、流体減衰、生物学的サンプルまたは化学的サンプルの分析、不均一系触媒反応、DNAハイブリデーション、粒子凝集など様々な分野で応用できる。
【0024】
添付図面を参照しながら例を挙げて示す以下の説明を参照することで、本発明をより正しく理解することができ、本発明のその他の特徴、詳細、および利点がより明確になる。
【0025】
図1〜図5に図示すコンポーネント10は、少なくとも部分的に、エラストマー、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)から作製されている流体マイクロシステムのコンポーネントであり、コンポーネント10の向かい側の面に向かって開いているフィーダウェル14に一方の端部を通じて連結しているマイクロチャネル12を含む1つの面を有する小さいブロックまたはスラブの形態で存在する。マイクロチャネルの他方の端部は閉じている(開いていない)。
【0026】
本発明によれば、エラストマーコンポーネント10が真空下で脱気され、適切な気密材料から作製されている気密パッケージ16に真空下で封入される。
【0027】
事例を挙げると、パッケージ16は、コンポーネント10が中に配置され、密封されるようにカプセル18によって閉じられるセルを形成する。
【0028】
封入に先立ってコンポーネント10がさらされる脱気は、例えば約1〜2時間、100ミリバール〜200ミリバール(10Pa〜2×10Pa)の圧力における部分真空下で実施される。
【0029】
使用するために、コンポーネント10がそのパッケージ16から取り出され、ガラスまたは適切なプラスチック材料のプレートなど、適切な支持体20の上に配置される。例えば、コンポーネント10は、マイクロチャネル12が形成される面を介して該プレート20の上に配置される。
【0030】
マイクロチャネルは、例えば接合によって支持体20の所定箇所に固定された試薬22を含んでいる。
【0031】
コンポーネント10がPDMSまたは同種のものから作製されている場合、コンポーネントはガラスまたはプラスチック材料から作製されている支持体20に自然に固着する。
【0032】
その後、図3に示すように、液体24がフィーダウェル14の少なくとも一部を充填するように液体24をフィーダウェルに挿入し、次に液体24は、マイクロチャネル12を周囲の雰囲気から隔離する栓を形成する。

【0033】
この例では、当然のことながらコンポーネント10の材料は疎水性を有しており、材料のこの特性とマイクロチャネル12に含まれるガスが、マイクロチャネル12が液体で充填されるのを妨げ、液体が試薬22と接触するのを妨げる。
【0034】
それにもかかわらず、真空下で脱気された後のコンポーネント10は、それと接触するガス、特にマイクロチャネル12を満たすいずれかのガス(通常は空気)を吸収する。この吸収によってマイクロチャネル12内部の圧力が低下し、そのため、フィーダウェル14に含まれる液体が吸い込まれる。脱気されたコンポーネント10の材料のガス吸収能力は、マイクロチャネル12に含まれるガスがすべてコンポーネント10によって吸収でき、図4および図5に図示するように、このガスが、フィーダウェル14に含まれる液体24に順次置き代えられるような程度である。
【0035】
液体24自体に空気またはガスの泡が含まれている場合、マイクロチャネル12に液体24を充填する間に、これらの泡はコンポーネント10の材料によって吸収される。
【0036】
図5に示すように、マイクロチャネル12が完全に充填されると、液体24と試薬22との所定の反応を実施するための所望の処理、例えば加熱や温度維持のサイクルなどを長期間または短期間、進行させることが可能である。
【0037】
この処理の間に、パッケージが開けられてから比較的少量のガスを再吸収したコンポーネント10の材料は数時間、空気またはガスの泡をマイクロチャネル12に含まれる液体24の中に放出することがない。このため、所望の反応を容易に実施することが可能になる。
【0038】
通常は、上記のように脱気され真空封入されたコンポーネント10は、パッケージ16が開けられてから15分〜20分以内に使用することが望ましい。この期間には、コンポーネント10の材料によるガス再吸収が、1以上のマイクロチャネルに1種以上の適切な液体を充填するのに十分であるからである。その後、使用中に1以上のマイクロチャネルの中にガスの泡が放出されることなく、コンポーネント10を約5時間〜6時間使用することができる。
【0039】
コンポーネント、コンポーネントの1以上のマイクロチャネル、およびフィーダウェルの配置は任意である。
【0040】
例えば図6に示すように、フィーダウェル14の周囲に星形状に延伸する複数のマイクロチャネル12の端部に一つのフィーダウェル14を連結することができる。
【0041】
図7に示すように、一つのマイクロチャネル12が、その両端を通じて2つのフィーダウェル14に連結することができるし、フィーダウェル14に挿入された液体が混合する区域を形成する大きいサイズの中間区域26を有することができる。
【0042】
当然のことながら、その他の多数の変形配置が可能である。
【0043】
一般的にも従来からも、マイクロチャネル12の寸法は高さおよび幅が数十マイクロメートル(μm)から数百マイクロメートルである。
【0044】
それにもかかわらず、有用であれば、本発明により、上記の寸法よりも小さい高さおよび幅を有し、先行技術で公知の手段によっては液体を充填するのが非常に困難であるようなマイクロチャネルの使用が可能になる。
【0045】
本発明の充填方法により、たとえマイクロチャネルが非常に小さい寸法を有していようと、たとえコンポーネント10の材料が疎水性を有していようと、どのような状況においてもマイクロチャネル12を完全に充填するのが可能になる。
【0046】
図8に示すように、本発明の方法は本質的に、十分な期間、部分的真空に暴露することでコンポーネント10を事前に脱気する工程30を含み、この脱気の後に、気密パッケージに真空封入する工程32が続く。この方法でパッケージされたコンポーネント10は、一定期間保管することができる。
【0047】
使用するために、コンポーネント10のパッケージが開けられ(工程34)、気密パッケージが開けられてから15分〜20分以内に使用しなければならない(工程36)。
【0048】
変形態様においては、当然のことながら、上記の方法でコンポーネント10を脱気し、次に、脱気が終了してから15分〜20分以内に使用することが可能であり、その間に、コンポーネントを気密パッケージに封入しなくても済む。
【0049】
別の変形態様においては、コンポーネント10と支持体20とを含むアセンブリを上記の方法で脱気し、真空下で気密パッケージにアセンブリを封入し、使用に先立って保管できるように、1種以上の試薬22を含む支持体20の上にコンポーネント10を配置または固定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】気密パッケージに真空封入された本発明のコンポーネントの図である。
【図2】パッケージから取り出されて適切な支持体の上に配置されたコンポーネントの断面図である。
【図3】図2に対応する図であり、コンポーネントのマイクロチャネルに液体を充填する最初の工程を示している。
【図4】図2に対応する図であり、コンポーネントのマイクロチャネルに液体を充填する2番目の工程を示している。
【図5】図2に対応する図であり、コンポーネントのマイクロチャネルに液体を充填する3番目工程を示している。
【図6】コンポーネントの変形態様の平面図である。
【図7】コンポーネントの別の変形態様の平面図である。
【図8】本発明の方法の主要工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体マイクロシステムのコンポーネントにおけるマイクロチャネルを充填する方法であって、コンポーネントが、少なくとも部分的に、コンポーネントが接触するガスを吸収するのに適したプラスチック材料またはエラストマーから作製され、方法が真空下でコンポーネント(10)に脱気処理を施すこと、次にコンポーネントを周囲又は外気の雰囲気に配置すること、コンポーネントのマイクロチャネル(12)中に液体(24)を挿入すること、マイクロチャネル(12)に含まれるガスをコンポーネントが吸収する結果吸い込みを可能にすることにより、マイクロチャネル(12)に液体(24)を充填すること、を含む工程から成ることを特徴とする充填方法。
【請求項2】
脱気されたコンポーネント(10)を真空下で気密パッケージ(16)に封入する工程と、次にパッケージを開けてコンポーネント(10)を使用する工程とから成り、前記使用する工程は、コンポーネントのマイクロチャネル(12)に液体を挿入することを含み、コンポーネントを収容するパッケージ(16)を開けてからコンポーネントのマイクロチャネル(12)に液体を導き入れるまでの時間間隔が所定の値よりも短いことを特徴とする、請求項1記載の充填方法。
【請求項3】
コンポーネントがPDMSタイプのエラストマーから作製されている場合に、時間間隔が約15分〜20分の範囲であることを特徴とする、請求項2記載の充填方法。
【請求項4】
フィーダウェル(14)に挿入される液体が、周囲の雰囲気からマイクロチャネル(12)を隔離する障壁を形成するように、マイクロチャネル(12)の一方の端部に形成されたフィーダウェル(14)に液体(24)を挿入する工程から成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の充填方法。
【請求項5】
コンポーネント(10)を所定の最短期間、部分的真空下で脱気することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の充填方法。
【請求項6】
約100ミリバール〜200ミリバール(10Pa〜2×10Pa)の圧力で脱気を実施する場合に、脱気時間が約1時間〜2時間であることを特徴とする、請求項5記載の充填方法。
【請求項7】
コンポーネント(10)が脱気され次に真空下で封入される間に、コンポーネント(10)が、支持体(20)の上に配置または固定されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の充填方法。
【請求項8】
液体を充填する少なくとも1つのマイクロチャネル(12)を含む流体マイクロシステムのコンポーネントであって、該コンポーネントは、少なくとも部分的に、ガスを吸収することができるプラスチック材料またはエラストマーから作製され、コンポーネントが前もって真空下で脱気され、真空下で気密パッケージ(16)に封入されることを特徴とするコンポーネント。
【請求項9】
少なくとも1つのフィーダウェル(14)を含み、該フィーダウェルは、その一方の端部が開き、他方の端部がマイクロチャネル(12)に連結していることを特徴とする、請求項8記載のコンポーネント。
【請求項10】
フィーダウェル(14)から離れた側のマイクロチャネル(12)の端部が閉じていることを特徴とする、請求項9記載のコンポーネント。
【請求項11】
フィーダウェル(14)から離れた側のマイクロチャネル(12)の端部が別のフィーダウェル(14)に向けて開いていることを特徴とする、請求項9記載のコンポーネント。
【請求項12】
マイクロチャネルの中間部分(26)が、フィーダウェル(14)に連結しているマイクロチャネルの端部断面よりも大きい断面を有しており、液体混合区域を形成することを特徴とする、請求項11記載のコンポーネント。
【請求項13】
複数のマイクロチャネル(12)が1つの共通のフィーダウェル(14)に連結していることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項記載のコンポーネント。
【請求項14】
マイクロチャネル(12)が、マイクロチャネル(12)の底部を形成する適切な支持体(20)に当接するコンポーネント(10)の底面に形成されており、フィーダウェル(14)がコンポーネント(10)の上面に向けて開いていることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一項記載のコンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−533437(P2008−533437A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551695(P2007−551695)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000010
【国際公開番号】WO2006/077299
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(505040202)ベルタン・テクノロジーズ (9)
【氏名又は名称原語表記】BERTIN TECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】